(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】コンクリート型枠パネル
(51)【国際特許分類】
E04G 17/065 20060101AFI20220412BHJP
E04B 2/86 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
E04G17/065 A
E04B2/86 601B
E04B2/86 601M
(21)【出願番号】P 2021575897
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009224
(87)【国際公開番号】W WO2021187226
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2020048998
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520097375
【氏名又は名称】西尾 満彦
(74)【代理人】
【識別番号】100101708
【氏名又は名称】中井 信宏
(72)【発明者】
【氏名】柳原 実典
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特許第3560767(JP,B2)
【文献】特許第5438394(JP,B2)
【文献】特許第4627721(JP,B2)
【文献】実開平6-028099(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 17/065
E04G 9/06
E04B 2/86
E02D 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製薄板を屈曲させて片側面に開口する断面凹凸状のリブ部を複数並列に形成し、前記リブ部の凹側底面にセパレーターを挿通するためのセパレーター開口部を所定の間隔に複数形成してなるコンクリート型枠パネルにおいて、
前記セパレーター開口部をコ字型の四角形状又は平行四辺形状に起立可能な舌片部として形成するとともに、当該舌片部を前記リブ部の凹側底面に連接する基部側を折り目としてリブの凹側底面に対して表面側へ垂直に起立させた場合に、当該舌片部の起立部分の先端縁面と前記リブ部の凸側平坦面とが面一の位置関係になるように形成してなり、前記舌片部を起立させて形成される開口部にセパレーターの雄ねじ側を挿通し、当該雄ねじに締結具の雌ねじを螺合させると、前記舌片部の先端縁面と前記リブ部の凸側平坦面との両面が締結具のフランジ部と接合するように構成したことを特徴とするコンクリート型枠パネル。
【請求項2】
前記舌片部の上端部側に、舌片部をコンクリート型枠パネル表面手前に起立させるための工具が挿入できる半円状の孔を設けことを特徴とする請求項1に記載のコンクリート型枠パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築・土木工事に使用されるコンクリート躯体を作るためのコンクリート型枠パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や南洋森林材保護の観点から、南洋材を使ったコンクリートパネル(以下コンパネという)の代替材として合成樹脂製のコンクリート型枠や繰り返し使用できる厚鋼板型枠や一度だけ使用できる薄鋼板型枠パネルなどが開発されている。
【0003】
しかし、合成樹脂製のコンクリート型枠は数十回使わないと採算が合わないにもかかわらず、施工中や搬送時に角部や端部に衝撃が加わると破損してしまい修正も出来なくて使えなくなるほか、紫外線による劣化が起こり素材強度の低下が生じやすく、工事現場では露天になるため、どうしても紫外線の影響を受けてしまうため、経済的に利益がでる回数まで使用することが難しく、コスト面でコンパネを超えることが出来なかった。また、厚鋼板型枠の場合、何度も繰り返し使用できるが、大規模な現場で重機が使用できるスペースの余裕ある現場でないと施工ができず、詳細な設計変更などにも対応ができず、施工性の面でコンパネを超えることができなかった。
【0004】
そこで、上記代替材としては、コンクリートの打設・硬化後に解体撤去されることなく地中に埋没するため、解体の手間や資材の撤去、さらに建築現場からの運搬が省け、工期の短縮及び人件費、運搬費用の削減を図ることができるという点にメリットがある 製の型枠パネルが一層注目されてきており、型枠パネルの形状や構造について、新しい特性を発揮する各種型枠パネルが提案されている(特許文献1,2,3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3560767号公報
【文献】特許第5438394号公報
【文献】特許第4627721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2にて提案されている薄鋼板型枠パネルでは、効率よく組み立てられるように型枠パネルの形状や構造に改良が行われているが、昨今のコストダウンが求められる中、素材使用量を少なくし製品コストを下げる為に締結具のフランジの径を小さくしたものが流通してきており、この種の締結具を使用すると、型枠パネルの溝形状の両端に合わなくなり締結具を締め付けると溝に食い込んで型枠パネルが変形したり、斜めになったりで固定不良、寸法不良が起こるという問題が生じるようになっていた。
【0007】
このように、最近流通しているフランジ径の小さい締結具を使用すると、安定してセパレーターネジ部と型枠パネルと締結具の固定ができなくなり、これ以上型枠パネル溝幅の寸法を小さくすることも難しいため、特許文献2に記載の通常の木製合板型枠では必要のない新たなスペーサー部品を取り付けて安定して固定する技術が提供されているが、スペーサーの材料コストが負担増となるとともに、スペーサー部品の取り付け作業及び解体時の回収作業などの工程が増えることになり、施工費自体のコストが全体的にアップするという問題が生じており、かかる薄鋼板型枠パネルが普及する阻害要因ともなっていた。
また特許文献3によるコンクリート型枠パネルにおいてはセパレーター挿通孔の形状がC字状、コ字状、H字状、X字状、Y字状、Z字状になっており一対でセパレーターを挟持する特徴を持っているが舌片先端形状が締結具でセパレーターのネジ部に安定して締め付けることが考慮されていない為、専用の押止具を使用しなければならない。
【0008】
そこで本発明は、型枠パネルの溝幅を狭くしなくても既成の締結具が使用でき、且つ、専用のスペーサー又は押止具を使用せずに施工を行うことができ、工期の短縮及び人件費、運搬費用の削減を図ることができるという従来のメリットに加えて施工費全体のコスト低減を図ることができるコンクリート型枠パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成した。すなわち、本発明に係る請求項1に記載のコンクリート型枠パネルは、金属製薄板を屈曲させて片側面に開口する断面凹凸状のリブ部を複数並列に形成し、前記リブ部の凹部底面にセパレーターを挿通するためのセパレーター開口部を所定の間隔に複数形成してなるコンクリート型枠パネルにおいて、前記セパレーター開口部をコ字型の四角形状又は平行四辺形状に起立可能な舌片部として形成するとともに、当該舌片部を前記リブ部の凹側底面に連接する基部側を折り目としてリブ部の凹側底面に対して表面側へ垂直に起立させた場合に、当該舌片部の起立部分の先端縁面と前記リブ部の凸側平坦面とが面一の位置関係になるように形成してなり、前記舌片部を起立させて形成される開口部にセパレーターの雄ねじ側を挿通し、当該雄ねじに締結具の雌ねじ側を螺合させると、前記舌片部の先端縁面と前記リブ部の凸側平坦面との両面が締結具のフランジ部と接合するように構成したことを特徴としている。
【0010】
また、請求項2に記載のコンクリート型枠パネルは、前記舌片部の上端部側に、舌片部をコンクリート型枠パネル表面手前に起立させるための工具が挿入できる半円状の孔を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載のコンクリート型枠パネルによれば、セパレーター開口部をコ字型の四角形状又は平行四辺形状に起立可能な舌片部として形成するとともに、当該舌片部を前記リブ部の凹側底面に連接する基部側を折り目としてリブ底面に対して垂直に起立させた場合に、当該舌片部の起立部分の先端縁面と前記リブ部の凸側の平坦面とが面一の位置関係になるように形成されているので、セパレーターをセパレーター開口部に挿通すると、舌片部がリブ部の凹部底面に対して垂直に起き上がり、舌片部の起立部分の先端縁面と前記リブ部の凸側の平坦面とが面一の位置関係になるように起立する。そこで、セパレーターの雄ねじに締結具の雌ねじを螺合すると、セパレーターの雄ねじ側の端部は舌片部上に載置した状態であり、舌片部の先端縁面と前記リブ部の凸側平坦面との両面が締結具のフランジ部と接合した状態のままで締結具のねじ込む力が作用することになる。この時、螺合する回転方向に摩擦力も作用して舌片部上のセパレーター自体がセパレーター孔部の隅部へ移動して締結力が働くことになり、フランジと舌片部の先端縁面と前記リブ部の凸側平坦面との接合面に、開口部の隅部におけるセパレーター軸部との当接面も加えた多面接合部位でセパレーターへの締結力を作用させることになり、セパレーターをコンクリート型枠パネルに強固に固定することができるようになる。
【0012】
このように、締結具のフランジとコンクリート型枠パネルとの当接面を増やしてセパレーターの固定を強固に行うことができるので、従来のようなスペーサーを使用しなくても固定作業を行うことができる。このように別設の部品数を低減することでコストダウンも図れ、組み立て作業自体の作業効率も向上することができる。
【0013】
また、舌片部を型枠の表側に起こすには、裏側から舌片部を押して開けなければならず、型枠パネルが立て込んでくると、裏側からは手が届かなくて舌片部を開けることができなくなるが。請求項2に記載のように、舌片部の上端部に半円状の起立用の孔部を設けることにより、先端が細くなった起立用工具を当該孔部に差し込んで立ち上げ操作をすれば、容易に起立させることができ、さらに作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例のコンクリート型枠パネルの構成を示す正面図である。
【
図3】舌片部を表側と裏側に起こした状態を示す斜視図である。
【
図4】工具を使用して舌片部を表側に起こした状態を示す斜視図である。
【
図5】実施例のコンクリート型枠パネルにセパレーターを挿通する場合の状態を示す斜視図である。
【
図6】セパレーターに締結具を固定した状態を示す断面図である。
【
図7】コンクリート打設した後の効果を説明するための断面図である。
【
図8】本発明に係るコンクリート型枠パネルを用いて組立てた状態を示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、実施例のコンクリート型枠パネル1の構成を示す正面図であり、コンクリート型枠パネル1は、高耐食性溶融めっき鋼板及び金属製板材を加工成型したものであり、断面を溝状にした上下方向のリブ部101が一定の間隔で複数設けられている。また、各リブ部101の凹部底面には、一定の間隔でリブ部101の凹部底面の幅方向とほぼ同じ長さの寸法を有するコ字型の舌片部102の切り込みが複数形成されている。
図2は、係る舌片部102の形成状態を明確に示す当該部位の拡大図である。
【0016】
図3は、コンクリート型枠パネル1の使用態様を示す斜視図であり、上記した舌片部102を表側にも裏側にも折り曲げることができる状態を示している。従来の一般的な鋼板製型枠パネルでは、鋼板とコンクリートの接合力が弱く内装材外装材を鋼板製型枠パネル表面に取り付けた場合、容易に躯体コンクリートと剥離するため、構造物躯体の基礎部分にしか使用できなかったものである。この点、本発明のコンクリート型枠パネル1では、コ字型に形成される舌片部102を裏側に折り曲げることができるようにし、後述するように、コンクリートが硬化した後に、裏側に折り曲げた舌片部102が喰い込んだ楔状態になってコンクリート構造物躯体と当該コンクリート型枠パネル1とが密接に固着されるようになっている。
【0017】
図4は、
図3で示す舌片部102を拡大して示す斜視図であり、同図に示すように、舌片部102中心上側に半丸もしくは四角形のガイド孔105が形成されており、表側から先端が細くなった起立用工具4(所謂シノやセパ回し等)を差し込んで手前に折り曲げることで、後述するセパレーター2挿入用の開口部106を容易に形成できるようになっている。
【0018】
図5(a)は、コンクリート型枠パネル1にセパレーター2を挿通する場合の状態を示す斜視図であり、舌片部102を押圧すると、セパレーター2の端部のネジ部201を挿通するための開口部106を形成することができる。同図において、セパレーター2は、金属製の棒状体であり、その両端部には締結具3と螺合するための雄ネジ部201、座金202が形成されている(片端のみを図示)。舌片部102をリブ部101の凹側底面に連接する基部側を折り目としてリブ部101の凹側底面に対して垂直に起立させた場合に、舌片部102は、その起立部分の先端縁面104とリブ部の凸側平坦面103とが面一の位置関係になるように形成されている。
【0019】
同図(a)に示すように、セパレーター2及び締結具3をコンクリート型枠パネル1に固定しようとする場合、コンクリート型枠パネル1の裏側、すなわちセパレーター2の側がコンクリートを充填する側となり、締結具3の側が表側となる。セパレーター2の雄ねじ部201に締結具3の雌ねじを螺合していくと、セパレーター2の雄ねじ201側の軸部は舌片部102上に載置した状態であり、かつ、舌片部102の先端縁面104とリブ部101の凸側平坦面103との両面が締結具3のフランジ301と接合した状態のままで締結具3のねじ込む力が作用することになる。
【0020】
この時、同図(b)に示すように、螺合する回転方向に摩擦力も作用して舌片部102上のセパレーター2自体がセパレーター開口部106の隅部107へ移動し、この状態で締結力が働くことになり、フランジ301の接合面と隅部107との当接面との多面でセパレーター2への締結力を作用させることになるので、セパレーター2をコンクリート型枠パネル1に強固に固定することができるようになる。舌片部102の形状を平行四辺形状にすれば、同図(c)に示すように、開口部106にセパレーター2を挿入すると、舌片部102の起立基部面が傾斜しているので、セパレーター2の軸部は自重で直ちに隅部107へ誘導されることになり、この隅部107での当接部位で締結力が螺合直後から分散しない形で作用することになり、より速やかに締結力が作用してセパレーター2を固定することができる。
【0021】
図6は、上記したように、セパレーター2に締結具3を螺合させて、コンクリート型枠パネル1に固定させた状態を示す拡大断面図であり、舌片部102の先端縁面104とリブ部101の凸側平坦面103との両面が締結具3のフランジ301と接合した状態で固着されることを示している。このように、本発明に係るコンクリート型枠パネル1を使用すれば、従来のようなスペーサーを不要にしてセパレーター2を固定することができる。したがって、別揃えの部品を低減できることにより、施工費全体のコスト低減を図ることができるようになる。
【0022】
図7は、前述したように、従来の一般的な鋼板製型枠パネルを使用した場合、パネルとコンクリートとの接合力が弱いという問題を解決するために、本発明のパネルを使用した場合に、当該問題を解決できることを説明する断面図である。上記したセパレーター2を固定する箇所とは別の任意の数箇所で、舌片部102を裏側、すなわちコンクリート打設側に折り曲げておく場合を示している。このように裏側に起立させたまま、コンクリート型枠パネル1を組み立てた後に、コンクリート打設をして硬化させれば、当該舌片部102がアンカーのように残留してコンクリート型枠パネル1とコンクリート躯体8とが強固に固着することになる。舌片部102の先端縁面104側を鋼板厚より例えば0.1から3mm程度寸法が大きくしておくことで、このアンカー効果を一層高めることができる。
【0023】
このようにして、コンクリート型枠パネル1がコンクリート躯体8から剥離しづらくなると、例えば、従来、構造物躯体の基礎部分にしか使用できなかったコンクリート型枠パネル1に対してパネルの表面側に内装材や外装材を取り付けた場合、これらの部材の荷重が付加されても充分に耐性が向上するので、基礎部分ではない上部のコンクリート構造物を仕上げる場合にも使用することができ、さらに利用範囲を広げることができるようになる。
【0024】
図8は、本発明に係るコンクリート型枠パネル1を使用して組立てた場合の状態を示す外観斜視図であり、捨コンクリート又は床部スラブコンクリート上に引かれた墨出しライン5に合わせてランナー6を設置し、コンクリート釘で固定した後に、ランナー6上に一対のコンクリート型枠パネル1を対向させて建て込み、セパレーター2に締結具3によってコンクリート型枠パネル1を固設した後、鋼管7等を取り付けて組立てた状態を示している。組み立て後に、コンクリート型枠パネル1の裏側の空間にコンクリートを打設し、コンクリートが硬化した後に、締結具3と鋼管7を解体することでコンクリート躯体8が完成する。このコンクリート型枠パネル1は捨て型枠なので解体せずにコンクリートの表面に残されたままになる。以上の組み立ては、従来通りである。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係るコンクリート型枠パネルは、コンクリート躯体の基礎部分だけでなくコンクリート構造物、建築土木全般の型枠工事に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 コンクリート型枠パネル
101 リブ部
102 舌片部
103 凸側平坦面
104 舌片部の先端縁面
105 ガイド孔
2 セパレーター
201 雄ネジ部
202 座金
3 締結具
301 フランジ
4 切り起こし用工具
5 墨出しライン
6 ランナー
7 鋼管
8 コンクリート躯体