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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】ワイヤレス給電システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/60 20160101AFI20220412BHJP
   H02J 50/20 20160101ALI20220412BHJP
   H02J 50/90 20160101ALI20220412BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
H02J50/60
H02J50/20
H02J50/90
H04R3/00 320
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017128993
(22)【出願日】2017-06-30
(65)【公開番号】P2019013100
(43)【公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-04-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】道関 隆国
(72)【発明者】
【氏名】田中 亜実
(72)【発明者】
【氏名】西川 久
(72)【発明者】
【氏名】西橋 毅
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-197734(JP,A)
【文献】特開2006-025412(JP,A)
【文献】特開2005-286801(JP,A)
【文献】特開2002-290138(JP,A)
【文献】特表2015-537497(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0066334(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0077764(US,A1)
【文献】特開2016-021832(JP,A)
【文献】特表2019-506826(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103633706(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/60
H02J 50/20
H02J 50/90
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体から離れて設置される装置であって、前記人体に装着されたウェアラブル機器へ電磁波によってワイヤレス電力伝送をする電力伝送器が設けられた前記装置と、
前記電力伝送器が設けられた前記装置に設けられた距離センサと、
前記距離センサによって測定された距離に応じて、前記電力伝送器から伝送される電磁波の強度を、前記ウェアラブル機器を装着した前記人体に不要な生体作用を及ぼさない程度に調整するコントローラと、を備え、
前記ウェアラブル機器は、前記電力伝送器からの電磁波によってワイヤレス給電されるものであって、前記人体に不要な生体作用を及ぼさない程度以下の電磁波強度で給電されて動作可能な機器であり、
前記電力伝送器は、前記電力伝送器から放射される前記電磁波が特定の方向への指向性を有するよう構成され、
前記距離センサは、前記特定の方向にいる前記人体までの距離測定のための超音波、電波、又は光を、前記特定の方向に出射し、距離測定の対象物からの超音波、電波、又は光の反射を受信し、その反射に基づいて、前記特定の方向における前記対象物と前記電力伝送器と間の距離を測定するように前記装置において前記電力伝送器の近傍に設けられている
ワイヤレス給電システム。
【請求項2】
前記電力伝送器を備える前記装置は、前記電力伝送器を備えるマイクロフォンである
請求項1に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項3】
前記マイクロフォンは、前記特定の方向への集音指向性を有する
請求項2に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項4】
前記電力伝送器は、前記電磁波を放射するアンテナと、前記アンテナから放射された前記電磁波を前記特定の方向へ反射するグランド体と、を備える
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項5】
前記アンテナは、モノポールアンテナである
請求項4に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項6】
前記モノポールアンテナは、前記グランド体から立設され、先端が側方へ向くように屈曲している
請求項5に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項7】
前記コントローラは、前記人体と前記電力伝送器との間の距離が所定値よりも大きい場合又は前記人体を検出できない場合には、前記電力伝送器から伝送される電磁波の強度を所定値以下に調整するか、又は、前記電力伝送器からのワイヤレス電力伝送を停止させる
請求項1~6のいずれか1項に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項8】
人体から離れて設置される装置であって、前記人体に装着されたウェアラブル機器へ電磁波によってワイヤレス電力伝送をする電力伝送器が設けられた前記装置と、
前記電力伝送器が設けられた前記装置に設けられた、前記人体までの距離測定のための距離センサと、
前記距離センサによって測定された距離に応じて、前記電力伝送器から伝送される電磁波の強度を、前記ウェアラブル機器を装着した前記人体に不要な生体作用を及ぼさない程度に調整するコントローラと、を備え、
前記ウェアラブル機器は、前記電力伝送器からの電磁波によってワイヤレス給電されるものであって、前記人体に不要な生体作用を及ぼさない程度以下の電磁波強度で給電されて動作可能な機器であり、
前記電力伝送器が設けられた前記装置に設けられ、前記人体が前記電力伝送器に近接するのを防止するように前記電力伝送器及び前記距離センサを覆うカバーを更に備える
ワイヤレス給電システム。
【請求項9】
前記カバーは、前記人体と前記電力伝送器との間の距離が、前記電力伝送器から伝送される電磁波の強度が調整される設定範囲の下限値未満にならないよう設けられている
請求項8に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項10】
前記カバーは、前記人体と前記電力伝送器との間の距離が、前記距離センサの測定範囲における下限値未満にならないように設けられている
請求項8又は9に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項11】
人体から離れて設置されるワイヤレス給電システムであって、
複数の方向に電磁波を放射して、前記人体に装着されたウェアラブル機器へ電磁波によってワイヤレス電力伝送をする電力伝送器と、
複数の方向において距離を測定する距離センサと、
前記距離センサによって測定された複数の方向における距離に応じて、前記電力伝送器から伝送される電磁波の方向毎の強度を、電磁波によってワイヤレス給電されるウェアラブル機器を装着した人体に不要な生体作用を及ぼさない程度に調整するコントローラと、を備え、
前記ウェアラブル機器は、前記電力伝送器からの電磁波によってワイヤレス給電されるものであって、前記人体に不要な生体作用を及ぼさない程度以下の電磁波強度で給電されて動作可能な機器であり、
前記電力伝送器は、前記電力伝送器から放射される前記電磁波が前記複数の方向それぞれへの指向性を有するよう構成され、
前記距離センサは、前記人体までの距離測定のための超音波、電波、又は光を、前記複数の方向それぞれへ出射し、前記複数の方向それぞれにおいて、距離測定の対象物からの前記超音波、前記電波、又は前記光の反射を受信し、その反射に基づいて、前記複数の方向それぞれにおける前記対象物と前記電力伝送器との間の距離を測定するように前記電力伝送器の近傍に設けられている
ワイヤレス給電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤレス給電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電波防護指針を遵守しつつ、開空間無線電力配電方式で、大電力を必要とするアクチュエータなどの無線機器に電力を供給する無線電力配電システムを開示している。
【0003】
特許文献1に記載のシステムは、室内空間に人が存在すれば、人体に影響を与えるおそれのない小電力の波動を室内空間に送信し、室内空間に人が存在しなければ、大電力の波動を室内空間に送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-233430号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1に記載のシステムは、人体に影響を与えることを回避しつつ、人体とは異なる位置にある無線機器に電力を供給するものにすぎない。すなわち、特許文献1のシステムは、人体を避けて、大電力を伝送するという発想である。
【0006】
一方、本開示は、特許文献1の発想とは逆に、ウェアラブル機器を装着した人体に向けて、積極的に電力を伝送するという新規な着想に基づくものである。
【0007】
本開示の一つの側面は、電磁波によってワイヤレス電力伝送をする電力伝送器と、電磁波によってワイヤレス給電されるウェアラブル機器を装着した人体と前記電力伝送器との間の距離を測定する距離センサと、前記人体と前記電力伝送器との間の距離に応じて、前記電力伝送器から伝送される電磁波の強度を、前記ウェアラブル機器を装着した前記人体に不要な生体作用を及ぼさない程度に調整するコントローラと、を備え、前記ウェアラブル機器は、前記人体に不要な生体作用を及ぼさない程度以下の電磁波強度で給電可能な機器であり、前記電力伝送器は、前記ウェアラブル機器を装着した前記人体に不要な生体作用を及ぼさずに、前記人体に装着された前記ウェアラブル機器に対してワイヤレス給電するワイヤレス給電システムである。
【0008】
本開示の他の側面は、複数の方向に電磁波を放射して、ワイヤレス電力伝送をする電力伝送器と、複数の方向において、人体と前記電力伝送器との間の距離を測定する距離センサと、前記距離センサによって測定された複数の方向における距離に応じて、前記電力伝送器から伝送される電磁波の方向毎の強度を、電磁波によってワイヤレス給電されるウェアラブル機器を装着した人体に不要な生体作用を及ぼさない程度に調整するコントローラと、を備え、前記ウェアラブル機器は、前記人体に不要な生体作用を及ぼさない程度以下の電磁波強度で給電可能な機器であり、前記電力伝送器は、前記ウェアラブル機器を装着した前記人体に不要な生体作用を及ぼさずに、前記人体に装着された前記ウェアラブル機器に対してワイヤレス給電するワイヤレス給電システムである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ワイヤレス給電システムの回路図である。
図2図2は、距離センサから距離センサ測定対象物までの距離と、距離センサの出力値と、の関係を示すグラフである。
図3A図3Aは、テーブルの例を示す図である。
図3B図3Cは、距離センサ出力値と送電電力設定値との関係を示すグラフである。
図3C図3Cは、受電電力と距離との関係を示すグラフである。
図4A図4Aは、ワイヤレス給電システムを備えるマイクロフォンの斜視図である。
図4B図4Bは、ワイヤレス給電システムを備えるマイクロフォンの断面図である。
図5A図5Aは、ワイヤレス給電システムの変形例を示す回路図である。
図5B図5Bは、ワイヤレス給電システムの変形例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1.ワイヤレス給電システムの概要]
【0011】
(1)実施形態に係るワイヤレス給電システムは、電磁波によってワイヤレス電力伝送をする電力伝送器を備える。ワイヤレス電力伝送とは、非接触で電力を伝送する方式である。電力伝送器は、電力伝送のため、電磁波を放射する。電磁波の周波数は、特に限定されないが、例えば、300MHzから3THzの範囲内の周波数である。300MHzから3THzの周波数は、マイクロ波と呼ばれる。
【0012】
実施形態に係るワイヤレス給電システムは、距離センサを備える。距離センサは、電磁波によってワイヤレス給電されるウェアラブル機器を装着した人体と、前記電力伝送器と、の間の距離を測定する。距離センサは、例えば、超音波、電波、又は光を出射し、距離測定の対象物からの反射に基づいて、距離を測定するものである。距離測定方式は、三角測量方式であってもよいし、出射した光等が反射して戻るまでの時間で距離を求める方式であってもよい。また、距離センサは、例えば、人体と電力伝送器とが撮影された画像から、人体と電力伝送器との間の距離を計算するものであってもよい。このように、距離の測定方式は、特に限定されるものではなく、距離が測定できればどのような方式であってもよい。
【0013】
人体と電力伝送器との間の距離は、人体に装着されたウェアラブル機器と電力伝送器との間の距離として測定されてもよい。距離センサは、電力伝送器の近傍に設けられていてもよいし、電力伝送器とは離れて設けられていてもよい。距離センサは、人体に設けられていてもよいし、人体の近傍に設けられていてもよいし、人体から離れて設けられていてもよい。距離センサは、人体及び電力伝送器のいずれかも離れた位置に設けられていてもよい。
【0014】
距離センサが、超音波、電波、又は光等の送信素子と、超音波、電波、又は光等を受信素子と、を有する場合、送信素子及び受信素子のいずれか一方が、人体(又はウェアラブル機器)側に設けられ、他方が電力伝送器側に設けられていてもよい。
【0015】
ウェアラブル機器は、人体に装着される装置をいう。ウェアラブル機器は、ワイヤレス給電された電力によって動作するものであればよく、その種類は特に限定されない。ウェアラブル機器は、人体の外部に装着されてもよいし、人体の内部に装着されてもよい。ウェアラブル機器は、人体のどの部位に装着されていてもよく、例えば、手、足、胴体、頭部のいずれであってもよい。
【0016】
実施形態に係るワイヤレス給電システムは、コントローラを備える。コントローラは、例えば、コンピュータプログラムを実行するコンピュータによって構成される。コントローラは、ハードウェアロジックで動作するものであってもよい。
【0017】
コントローラは、電力伝送器から伝送される電磁波の強度を調整する。電力伝送器は、人体に装着されたウェアラブル機器へ電磁波を放射するが、電磁波の強度は、人体と電力伝送器との間の距離に応じて、ウェアラブル機器を装着した人体に不要な生体作用を及ぼさない程度に調整される。したがって、人体へ向けて電磁波を照射しても、人体に不要な生体作用を及ぼすことを防止できる。なお、電力伝送器から伝送される電磁波の強度は、例えば、送電電力の大きさ[W]にて表される。電力伝送器から伝送される電磁波は、電磁波の伝搬距離の2乗に比例して減衰する。したがって、例えば、伝搬中に減衰して人体に到達した電磁波が、人体に不要な生体作用に及ぼさない程度の大きさになるように送電電力を調整することで、電磁波の人体への影響を避けることができる。
【0018】
「人体に不要な生体作用を及ぼさない程度」とは、電磁波防護のための規制・基準によって、人体への安全性が認められている範囲をいう。「人体に不要な生体作用を及ぼさない程度」における人体は、例えば、健常者の人体である。「人体に不要な生体作用を及ぼさない程度」における人体は、ペースメーカ使用者など特殊な状況に置かれている人の人体を含まない。
【0019】
電磁波防護のための規制・基準は、国・地域ごとに設けられているが、実施形態に係るワイヤレス給電システムが、使用される国・地域又は使用が想定される国・地域における規制・基準が適用される。
【0020】
例えば、日本では、総務省(旧郵政省)が、電波の人体への影響に関して、平成2年6月25日に電気通信技術審議会から諮問第38号「電波利用における人体の防護指針」(昭和63年6月27日諮問)について答申を受けている。この答申では、人体に影響を及ぼさない電波の強さの指針値等(電波防護指針)が示されている。電波防護指針は、電波利用において人体が電磁界にさらされるとき、その電磁界が人体に不要な生体作用を及ぼさない安全な状況であるために推奨される指針である。なお、電波防護指針は、10kHzから300GHzまでの周波数の電波を対象とする。
【0021】
電波防護指針における管理指針は、管理指針を防護指針の主旨が生かされ電磁環境が管理されている状況を対象とする条件Pと、防護指針及び電波利用の状況が認識されていない状況を対象とする条件Gとに区分されている。条件Gに該当する場合の電磁界強度(6分間平均値)の指針値は、例えば周波数1.5GHz-300GHzにおいて、電界強度の実効値が61.4[V/m]である。
【0022】
実施形態において、ウェアラブル機器は、人体に不要な生体作用を及ぼさない程度以下の電磁波強度で給電可能な機器である。したがって、人体に不要な生体作用を及ぼさない程度以下の小さな電力が電力伝送器から伝送されても、ウェアラブル機器は給電を受けて、動作可能である。
【0023】
実施形態において、電力伝送器は、ウェアラブル機器を装着した人体に不要な生体作用を及ぼさずに、人体に装着されたウェアラブル機器に対してワイヤレス給電する。
【0024】
(2)距離センサは、電力伝送器の近傍に配置されているのが好ましい。距離センサは、電力伝送器による電磁波の放射方向における距離を測定するように設けられているのが好ましい。距離センサが、電力伝送器による電磁波の放射方向における距離を測定することで、そのように測定された距離を、人体と電力伝送器との間の距離として扱うことができ、距離の測定精度が高まる。
【0025】
(3)電力伝送器は、人の近傍で使用される装置に設けられているのが好ましい。この場合、電力伝送器を人の近傍に設置できるため、送電電力を小さくすることができる。なお、距離センサも、人の近傍で使用される装置に設けることができる。人の近傍で使用される装置は、例えば、マイクロフォン、スピーカー、ディスプレイ、照明、スマートフォン、タブレット、コンピュータ、又はその他の電気・電子機器である。人の近傍で使用される装置は、機械的な装置であってもよいし、家具のように人が使用する道具であってもよい。なお、電力伝送装置及び距離センサの少なくともいずれか一方は、壁、天井、床、窓等の建物や車両の構成材に取り付けられていてもよい。
【0026】
(4)人の近傍で使用される装置は、マイクロフォンであるのが好ましい。マイクロフォンの使用者は、マイクロフォンに近づいて発生するため、マイクロフォンに電力伝送器が設けられていると、電力伝送器を人に近い配置にすることができる。なお、マイクロフォンは、例えば、手持ち式のハンドマイクであってもよいし、マイクスタンドに支持されたマイクであってもよい。
【0027】
また、電力伝送器が設けられる装置は、マイクロフォンのように人に向けて使用される装置であるのが好ましい。人に向けて使用される装置において人に向けられる方向に合わせて電力伝送器による電波の放射方向を設定しておくことで、電波を確実に人体方向へ放射させることができる。なお、人に向けて使用される装置としては、例えば、照明、スピーカー、ディスプレイ、スマートフォン、タブレットなどがある。
【0028】
(5)マイクロフォンは、特定の方向への集音指向性を有するのが好ましい。電力伝送器は、前記特定の方向へ電磁波を放射するよう設けられているのが好ましい。マイクロフォンが集音のために指向する方向は、一般に、人がいる方向であるから、マイクロフォンが集音のために指向する特定の方向へ電磁波を放射することで、人体(特に、人体の頭部)へ装着されたウェアラブル機器への電力伝送効率が高まる。
【0029】
距離センサは、前記マイクロフォンに設けられ、前記特定の方向における距離を測定するように設けられているのが好ましい。この場合、人体(特に、人体の頭部)までの距離を精度よく測定することができる。
【0030】
(6)電力伝送器は、人体に対抗するように配置されるグランド体と、グランド体から立設され、先端が側方へ向くように屈曲したモノポールアンテナと、を備えるのが好ましい。モノポールアンテナを利用することで、例えば、ダイポールアンテナと比べて、アンテナサイズを小さくすることができる。モノポールアンテナは、ポール状のアンテナ素子の径外方向に電波を放射するが、屈曲させておくことで、人体と反対方向に放射された電波を、グランド体によって反射させ、人体に向かわせることができる。この結果、電力伝送効率が高まる。
【0031】
(7)コントローラは、人体と電力伝送器との間の距離が所定値よりも大きい場合又は人体を検出できない場合には、電力伝送器から伝送される電磁波の強度を所定値以下に調整するか、又は、電力伝送器からのワイヤレス電力伝送を停止させるのが好ましい。この場合、無駄な電力伝送を防止できる。
【0032】
(8)ワイヤレス給電システムは、人体が前記電力伝送器に近接するのを防止する近接防止体を更に備えることができる。この場合、人体が電力伝送器に近づきすぎるのを防止できる。
【0033】
(9)近接防止体は、人体と電力伝送器との間の距離が、電力伝送器から伝送される電磁波の強度が調整される設定範囲の下限値未満にならないよう設けることができる。この場合、人体と電力伝送器との間の距離が、設定範囲の下限値未満になることを、近接防止体によって防止できる。
【0034】
(10)近接防止体は、人体と電力伝送器との間の距離が、距離センサの測定範囲における下限値未満にならないように設けることができる。この場合、人体と電力伝送器との間の距離が、距離センサの測定範囲の下限値未満になることを、近接防止体によって防止できる。
【0035】
(11)他の実施形態に係るワイヤレス伝送システムは、複数の方向に電磁波を放射して、ワイヤレス電力伝送をする電力伝送器と、複数の方向において、人体と前記電力伝送器との間の距離を測定する距離センサと、前記距離センサによって測定された複数の方向における距離に応じて、前記電力伝送器から伝送される電磁波の方向毎の強度を、電磁波によってワイヤレス給電されるウェアラブル機器を装着した人体に不要な生体作用を及ぼさない程度に調整するコントローラと、を備える。前記ウェアラブル機器は、前記人体に不要な生体作用を及ぼさない程度以下の電磁波強度で給電可能な機器である。前記電力伝送器は、前記ウェアラブル機器を装着した前記人体に不要な生体作用を及ぼさずに、前記人体に装着された前記ウェアラブル機器に対してワイヤレス給電する。この場合、方向に応じて、電力伝送器から伝送される電磁波の強度が調整される。
【0036】
[2.ワイヤレス給電システムの例]
【0037】
図1に示すワイヤレス給電システム10は、人体Hに装着されたウェアラブル機器70に対し、マイクロ波によってワイヤレス給電する。実施形態において、ウェアラブル機器70は、mW級のウェアラブル機器である。mW級のウェアラブル機器とは、1mW以上1W未満の受電電力で動作する機器である。mW級のウェラブル機器は、100mW以下の受電電力で動作する機器であってもよい。100mW以下の受電電力で動作する機器は、例えば、LEDである。LEDには、100mW以下の電力でも動作(点灯)することができるものがある。また、時計などの多くのウェアラブル機器は、100mW以下の電力で動作することができる。mW級のウェラブル機器は、10mW以下の受電電力で動作する機器であってもよい。多くの半導体集積回路は、そのような低電力でも動作可能である。
【0038】
ワイヤレス給電システム10は、ワイヤレス電力伝送器20を備える。以下では、ワイヤレス電力伝送器20を、単に、伝送器20という。伝送器20は、マイクロ波(例えば、2.45GHzの周波数)を送信する。伝送器20は、比較的、小電力の伝送用である。伝送器20の送電電力は、例えば、50dBmW(100W)以下であり、より好ましくは、45dBmW以下であり、さらに好ましくは、40dBmW(10W)以下である。送電電力が小さいため、伝送器20を、人体Hの近傍に設置することが可能である。
【0039】
伝送器20は、例えば、発振器21と、アンプ22,23と、アンテナ24と、を備える。実施形態において、アンプ22,23は、プリアンプ22と、パワーアンプ23と、を備える。パワーアンプ23の出力は、アンテナ24に接続されている。アンテナ24は、電力伝送のための電波を放射する。なお、図示の例では、電波の周波数は、2.45GHzとする。
【0040】
ワイヤレス給電システム10は、コントローラ40を備える。コントローラ40は、デジタルアナログコンバータ60を介して、プリアンプ22に接続されている。コントローラ40は、プリアンプ22のバイアス電圧を制御することで、アンテナ24から放射される電波の送電電力を調整する。なお、コントローラ40は、パワーアンプ23のバイアス電圧を制御することで、送電電力を調整してもよい。
【0041】
コントローラ40は、プロセッサ41とメモリ42とを備えるコンピュータを有する。プロセッサ41は、メモリ42に格納されたコンピュータプログラム44を実行する。コンピュータプログラ44は、コンピュータをコントローラ40として機能させるためのものである。
【0042】
ワイヤレス給電システム10は、距離センサ30を備える。図示の距離センサ30は、光学的に距離を測定する。距離センサ30は、距離の測定対象である人体Hへ向けて光を照射する光源31と、人体Hから反射した光を受光する受光素子32と、を備える。受光素子は、距離センサ30と人体Hまでの距離Dに応じた出力値を出力する。出力値は、アナログデジタルコンバータ50を介して、コントローラ40に与えられる。
【0043】
実施形態において、距離センサ30が測定した人体Hまでの距離Dが、人体Hと伝送器20との間の距離にほぼ等しくなるように、距離センサ30は、伝送器20の近傍に設置されている。したがって、コントローラ40は、距離センサ30が測定した距離Dを、人体Hと伝送器20との距離として扱うことができる。なお、距離センサ30と伝送器20とが異なる位置にある場合には、距離センサ30と伝送器20との間の距離と距離センサ30が測定した人体までの距離Dとから、人体Hと伝送器20との間の距離を求めればよい。
【0044】
図2は、実際の測定距離Dに応じた距離センサ40の出力の大きさを示している。実施形態において、距離センサ40の出力は、距離Dが大きくなるほど小さくなる。したがって、距離センサ40の出力に基づいて、距離Dを求めることができる。ただし、距離センサ40には、測定範囲があり、測定範囲における下限値D1よりも小さい範囲(測定範囲外)E2においては、距離センサ40からの出力値は、信頼できない。したがって、実際の距離Dが下限値D1よりも小さいときにおける距離センサ40の出力から距離Dを求めようとしても、正しい距離は得られない。なお、下限値D1は、例えば、5cmである。
【0045】
コントローラ40のメモリ42には、テーブル43が格納されている。コントローラ43は、距離センサ出力(距離D)に基づきテーブル43を参照し、伝送器20の送電電力を、距離センサ出力(距離D)に応じて決定する。図3Aは、テーブル43の例を示している。テーブル43には、距離センサの出力値が0.5[V](距離Dが60cm程度に相当)から3.0[V](距離Dが7cm程度に相当)までの範囲において、対応する送電電力設定値(アンプ22のバイアス電圧)が設定されている。テーブル43では、距離Dが大きいほど、送信設定電力設定値が大きくなって、送電電力が大きくなり、距離Dが小さいほど、送電電力設定値が小さくなって、送電電力が小さくなる。
【0046】
実施形態においては、コントローラ40は、距離センサ出力(距離D)が、テーブル43に設定された設定範囲E1(3.0[V](7cm程度)~0.5[V](60cm程度))外にあるときには、送電電力を0にする(伝送器20からの伝送を停止)。なお、コントローラ40は、距離Dが、設定範囲外E2,E3にあるときには、送電電力を比較的小さい所定値以下に調整してもよい。設定範囲E1の下限D2を下回る範囲E2では、送電電力を0又は比較的小さくすることで、人体への影響を抑えることができる。一方、距離Dが大きくなると、電力の減衰が大きくなり、ウェアラブル機器70による受電が困難になる。したがって、設定範囲E1の上限D3を上回る範囲E3でも、送電電力を0又は比較的小さくすることで、無駄な送電を防止できる。
【0047】
図3Bに示すように、コントローラ40は、設定範囲E1内においては、距離センサ出力が示す距離Dに応じて、送電電力を、例えば、18dBmから38dBm程度の範囲内で調整する。送電電力の調整範囲は、例えば、10dBm(10mW)から50dBm(100W)の範囲であってもよい。送電電力の調整範囲の下限は、15dBmであってもよいし、20dBmであってもよい。送電電力の調整範囲の上限は、45dBmであってもよいし、40dBmであってもよい。
【0048】
同じ送電電力のときに、距離Dが小さくなると、人体H(ウェアラブル機器70)の位置での受電電力は大きくなり、電波防護指針において、人体に不要な生体作用を及ぼさない安全な電界強度である61.4[V/m]を上回るおそれがある。一方、距離Dが大きくなると、距離Dの2乗に反比例して受電電力が小さくなるため、人体への影響がないとしても、ウェアラブル機器70が動作するために必要な電力が得られないおそれがある。
【0049】
そこで、コントローラ40は、距離Dが大きくなるほど送電電力を大きくし、距離Dが小さくなるほど送電電力を小さくすべく、距離Dに応じて送電電力を決定する。決定される送電電力は、距離Dによる電波強度の減衰を考慮して、人体Hにおいて、不要な生体作用を及ぼさない安全な電界強度となり、かつ、ウェアラブル機器70が動作するために必要な受電電力となる大きさである。
【0050】
図3Bは、図3Aのテーブル43に従って調整される送電電力の大きさを示している。設定範囲E1内においては、距離Dが小さくなるほど、送電電力を弱くして、人体に与える影響を抑え、距離Dが大きくなるほど、送電電力を大きくする。ただし、距離Dが、設定範囲E1の上限(所定値)D3よりも大きくなった場合は、送電電力が0になる。また、距離Dが、設定範囲E1の下限D2よりも小さくなった場合も、送電電力が0になる。
【0051】
図3Cは、伝送器20からの送電電力を、伝送器20から距離Dの位置においてダイポールアンテナで受電した電力値を示している。図3において”with power control”が、テーブル43に従って送電電力が調整された場合を示し、”without power control”が、送信電力を調整しなかった場合を示している。”without power control”の場合、距離Dが小さくなると、受電電力が大きくなるのに対して、”with power control”の場合、距離にかかわらず受電電力は、3dBmである。電波防護指針に規定する電磁界強度の指針値61.4[V/m]は、ダイポールアンテナで受電した場合の電力にして、約3dBmに相当する。このように、送電電力を調整することにより、防護指針によって人体に不要な生体作用を及ぼさない程度とされているレベルまで受電電力を抑えることができている。
【0052】
なお、コントローラ40は、テーブル43を利用することなく、距離センサ出力から送電電力を算出するための計算式に基づいて、送電電力を決定してもよい。
【0053】
図4A及び図4Bは、ワイヤレス給電システム10を備えたマイクロフォン100を示している。マイクロフォン100は、人に向けて使用される装置であるとともに、人の近傍に設置される装置であるため、効率的に電力を伝送することができる。
【0054】
図示のマイクロフォン100は、ハンドマイクであり、手持ち部分となるマイク本体の上部に設けられた集音ヘッド110を備える。集音ヘッド110は、マイク本体の長手方向Lに長い楕円体形状である。図4Bには、マイクロフォン100において、マイク本体の長手方向沿った方向Lを示している。以下では、この方向Lに沿って、集音ヘッド110側の向きを上方といい、その反対側の向きを下方という。
【0055】
マイクロフォン100は、上方が人に向けられるため、上方を中心とした集音指向性を有する。集音ヘッド110は、上方への指向性を有する集音ユニット120を備える。集音ユニット120は、音を電気信号に変換するための素子を有する。
【0056】
集音ヘッド110は、その内部に、板状のグランド体112を有する。グランド体112は、その一面が、上方を向いており、人体Hに対抗する。なお、集音ユニット120は、集音ヘッド110内において、グランド体112よりも下方に設けられている。
【0057】
集音ヘッド110内には、グランド体112から上方へ立設されたモノポールアンテナ24を備える。アンテナ24は、その長手方向中途部において、側方に向くように屈曲している。ここで、側方とは、方向Lに対して完全に直交する方向である必要はなく、方向Lに対して完全に直交する方向に対してやや上方の向きや、やや下方の向きを含む。モノポールアンテナ24から放射された電波は、上方に向かうものM1以外に、下方にむかうものM2もあるが、下方へ向かう電波M2は、グランド体112によって、上方へ反射させることができる。したがって、伝送器20から放射される電波は、上方への指向性を有し、上方の人体Hへ効率的に電力を伝送できる。また、モノポールアンテナ24を屈曲させることで、集音ヘッド110の大型化を抑制しつつ、集音ヘッド110内にアンテナ24を収納させることができる。
【0058】
距離センサ30は、集音ヘッド110内において、上方にある人体との距離を測定するように設けられている。図4Aに示すように、グランド体112には、距離センサ30のための2つの貫通孔112a,112bが形成されている。一方の貫通孔112aは、光源31から照射された光が上方へ透過するためのものであり、他方の貫通孔112bは、上方の人体Hにおいて反射した光が受光素子32に到達するためのものである。光源31及び受光素子32を、グランド体112よりも下方に設けることで、電波の放射への影響を抑えることができる。
【0059】
集音ヘッド110の少なくともグランド体112よりも上方側は、誘電体であって、光透過性の材料からなるカバー111によって覆われている。カバー111は、例えば、透明又は半透明の樹脂製である。カバー111が誘電体であることで、電波の放射への影響を回避でき、透明又は半透明であることで、距離センサ30からの光及び反射光の透過を許容することができる。なお、カバー111は、音の通過を容易にするため、貫通孔を有していてもよい。カバー111は、その上端111aが、距離センサ30から、間隔D2又はD2よりも大きい位置になるように形成されている。このため、人体Hは、マイクロフォン100に接触するまで近接しても、方向Lにおいて、距離センサ30との距離がD2以下になることはない。このように、カバー111は、人体Hが距離センサ30に近接するのを防止する近接防止体になっている。
【0060】
距離D2は、距離センサ30の測定範囲の下限D1よりも大きいため、距離D2の位置にあるカバー(近接防止体)111により、人体Hと伝送器20との間の距離が、距離センサ30の測定範囲の下限D1未満となることが防止される。距離Dが、距離センサ30の測定範囲の下限D1未満になると、距離センサ30の出力は信頼できなくなるが、実施形態によれば、信頼できない値が距離センサ30から出力されるのを防止できる。
【0061】
また、距離D2は、送電電力の強度が調整される設定範囲E1の下限値でもあるため、距離D2の位置(又は距離D2よりも大きい位置)にあるカバー(近接防止体)111により、距離センサ30から出力される距離Dが、設定範囲E1の下限値D2未満になることが防止される。
【0062】
図4A及び図4Bに示すマイクロフォン100を、人の声の集音のために設置すると、必然的に、集音ヘッド110の上方は、人体(特に、頭部)Hに向けられるため、集音ヘッド110内に設けられた伝送器20は、人体の頭部に装着されたウェアラブル機器への電力伝送を効率的に行える。また、集音ヘッド111内に設けられた距離センサ30は、人体の頭部までの距離を測定することができる。
【0063】
[3.ワイヤレス給電システムの変形例]
【0064】
図5A及び図5Bは、ワイヤレス給電システム10の変形例を示している。変形例に係るワイヤレス給電システム10において、電力伝送器20は、複数の方向X1,X2,Y1,Y2に向けられた複数のアンテナ24a、24b、24c、24dを備える。各アンテナ24a,24b,24c,24dは、それぞれ、Y1,X2,Y2,X1方向への指向性を有し、各方向Y1,X2,Y2,X1へ電波を放射することができる。
【0065】
変形例に係るワイヤレス給電システム10において、距離センサは、Y1,X2,Y2,X1方向それぞれの方向において、人体Hとの間の距離Dを測定する複数のセンサ素子30a,30b,20c,30dを備える。
【0066】
図5Bに示すように、コントローラ40には、各センサ素子30a,30b,20c,30dが与えられる。コントローラ40は、センサ素子出力に基づき、人体Hが存在する方位と距離Dとを特定する。コントローラ40は、プリアンプ22a,22b,22c,22dを制御して、送信される電波の電力(振幅)を調整し、必要であれば、電波の位相も調整することで、各アンテナ24a,24b,24c,24dから放射される電波の指向性及び送電電力を調整する。コントローラ40は、人体Hが存在する方位と距離Dとに基づいた制御を行うことにより、電波の放射方向及び送電電力を、人体Hが存在する方位と距離Dとに応じた適切なものにすることができる。
【0067】
すなわち、変形例に係るワイヤレス給電システム10も、ウェアラブル機器を装着した人体Hに不要な生体作用を及ぼさずに、人体Hに装着されたウェアラブル機器70に対してワイヤレス給電することができる。
【0068】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 ワイヤレス給電システム
20 ワイヤレス電力伝送器
21 発振器
22 プリアンプ
23 パワーアンプ
24 アンテナ
30 距離センサ
31 光源
32 受光素子
40 コントローラ
41 プロセッサ
42 メモリ
43 テーブル
44 プログラム
50 ADC
60 DAZC
100 マイクロフォン
110 集音ヘッド
111 カバー
112 グランド体
112a 貫通孔
112b 貫通孔
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B