(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】塗布具
(51)【国際特許分類】
B43K 8/04 20060101AFI20220412BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
B43K8/04
B43K8/02 110
B43K8/02 100
(21)【出願番号】P 2018005059
(22)【出願日】2018-01-16
【審査請求日】2020-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2017150193
(32)【優先日】2017-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】安永 雅博
(72)【発明者】
【氏名】行藤 友弘
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】実公昭56-031411(JP,Y2)
【文献】特開2001-063280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 8/04
B43K 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒部と、前記軸筒部内に収容される塗布液吸蔵体と、塗布液を塗布するための塗布体とを有し、前記塗布液吸蔵体に含浸させた塗布液を前記塗布体へ供給する塗布具であって、
前記軸筒部は、前記塗布液吸蔵体を収容する収容空間を有し、
前記収容空間と外部を連通する空気流通路が形成されており、
前記空気流通路は、前記収容空間に面する開口部分を有しており、
前記開口部分の少なくとも一部は、前記塗布液吸蔵体と前記軸筒部の長手方向で重なる位置に形成されて前記塗布液吸蔵体と対向しており、
前記開口部分のうちで前記塗布液吸蔵体と対向する部分を対向開口面としたとき、前記塗布液吸蔵体と前記対向開口面の距離が1.5mm以上6.0mm以下であることを特徴とする塗布具。
【請求項2】
前記軸筒部は、本体筒部と内側小筒部を有し、
前記本体筒部の内部に前記収容空間が形成され、
前記内側小筒部の少なくとも一部は、前記収容空間の内部に位置しており、
前記塗布体は、前記軸筒部の前端側に保持され、一部が前記内側小筒部の内側に位置し、より後側の一部が前記内側小筒部の内部から前記塗布液吸蔵体に突出し、後端側の部分が前記塗布液吸蔵体と接触するものであり、
前記空気流通路は、前記軸筒部の外部から前記内側小筒部の内部空間を経て、前記収容空間と連なるように形成され、その一部が、前記内側小筒部と前記塗布体の間に形成される隙間部分となっており、
前記内側小筒部の後端部分に前記対向開口面が位置することを特徴とする請求項1に記載の塗布具。
【請求項3】
前記本体筒部には、突起状部が形成されており、
前記突起状部は、前記内側小筒部よりも前記軸筒部の横断面の広がり方向で外側となる位置に配されており、
前記突起状部の後端面は、前記内側小筒部の後端面と同一平面上に位置する、又は、前記内側小筒部の後端面よりも後方に位置するものであり、且つ、前記塗布液吸蔵体よりも前方に位置しており、さらに前記軸筒部の長手方向で前記塗布液吸蔵体と重なる位置にあることを特徴とする請求項2に記載の塗布具。
【請求項4】
前記塗布体は、前記軸筒部の前端側に保持されるものであり、
前記軸筒部の内部には、前記塗布液吸蔵体よりも前方側となる位置に前記塗布液を貯留可能な塗布液貯留部が形成され、
前記塗布液貯留部は、仕切壁部によって区画された複数の小貯留空間を有し、
前記仕切壁部は、後端側よりの一部に液流通孔部が形成されており、
前記液流通孔部は、隣接する2つの前記小貯留空間を連通しており、
それぞれの前記小貯留空間は、個別に所定量の前記塗布液を貯留可能であり、
一の前記小貯留空間に所定量以上の前記塗布液が流入することで、一の前記小貯留空間と隣接する他の前記小貯留空間に対し、一の前記小貯留空間から前記液流通孔部を介して前記塗布液が流入することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塗布具。
【請求項5】
前記軸筒部は、本体筒部と内側小筒部を有し、
前記本体筒部の内部では、前記本体筒部の内周面と前記内側小筒部の外周面とが前記軸筒部の横断面の広がり方向で離間しており、
前記塗布液貯留部は、前記本体筒部の内周面と前記内側小筒部の外周面の間に形成され、前記仕切壁部は、少なくとも前端側の部分が前記本体筒部の内周面と前記内側小筒部の外周面のそれぞれと連続していることを特徴とする請求項4に記載の塗布具。
【請求項6】
前記本体筒部の内周面と前記内側小筒部の外周面の間に形成される空間を前後方向で分断する分断壁部を有しており、
前記分断壁部は、前記小貯留空間の前方側を閉塞して底部分を形成するものであり、
前記本体筒部と、前記内側小筒部と、前記仕切壁部と、前記分断壁部が一体成形されていることを特徴とする請求項5に記載の塗布具。
【請求項7】
軸筒部と、前記軸筒部内に収容される塗布液吸蔵体と、塗布液を塗布するための塗布体とを有し、前記塗布液吸蔵体に含浸させた塗布液を前記塗布体へ供給する塗布具であって、
前記塗布液吸蔵体は、円筒状の外郭部材の内部に繊維収束体を収容して形成されており、
前記軸筒部は、前記塗布液吸蔵体を収容する収容空間を有し、
前記収容空間と外部を連通する空気流通路が形成されており、
前記空気流通路は、前記収容空間に面する開口部分を有しており、
前記開口部分の少なくとも一部は、前記塗布液吸蔵体と前記軸筒部の長手方向で重なる位置に形成されて前記塗布液吸蔵体と対向しており、
前記開口部分のうちで前記塗布液吸蔵体と対向する部分を対向開口面としたときの記塗布液吸蔵体と前記対向開口面の距離をX1とし、前記塗布液吸蔵体の直径をX2としたとき、下記式(1)の関係をみたすことを特徴とする塗布具。
1.5×(X2/6.1)≦X1≦6.0×(X2/6.1)・・・・(1)
【請求項8】
前記軸筒部は、本体筒部と内側小筒部を有し、
前記塗布体は、一部が前記内側小筒部の内部に位置するものであり、
前記空気流通路は、前記軸筒部の外部から前記内側小筒部の内部空間を経て、前記収容空間と連なるように形成され、その一部が、前記内側小筒部と前記塗布体の間に形成される隙間部分となっており、
前記隙間部分の前記軸筒部の径方向長さが0.04mmより大きく0.5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗布具。
【請求項9】
前記本体筒部の内周面と前記内側小筒部の外周面の間に形成される空間を前後方向で分断する分断壁部を有しており、
前記分断壁部は、前記収容空間の前方側を閉塞することを特徴とする請求項8に記載の塗布具。
【請求項10】
前記軸筒部の内部には、前記塗布液吸蔵体よりも前方側となる位置に前記塗布液を貯留可能な塗布液貯留部が形成され、
前記塗布液貯留部は、仕切壁部によって区画された複数の小貯留空間を有し、
前記分断壁部は、前記小貯留空間の前方側を閉塞して底部分を形成するものであり、
前記本体筒部と、前記内側小筒部と、前記仕切壁部と、前記分断壁部が一体成形されていることを特徴とする請求項9に記載の塗布具。
【請求項11】
前記内側小筒部の内孔は、断面形状が略円形となる孔であり、
前記塗布体は、前記内側小筒部の内側に位置する筒内配置部を有しており、前記筒内配置部の断面形状が略円形となる形状であることを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載の塗布具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布液吸蔵体に含浸させた塗布液を塗布体に供給する塗布具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マーキングペン等のように、インキ(塗布液)を含浸させたインキ吸蔵体(塗布液吸蔵体)を本体軸筒に内蔵させ、インキをインキ吸蔵体から塗布体に供給する構造の塗布具が広く知られている。このような塗布具として、例えば、特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
特許文献1に開示された筆記具は、軸筒と、ペン体(塗布体)を保持するペン先ホルダとを別途形成し、ペン先ホルダを軸筒の先端部に装着する構造となっている。具体的には、軸筒の先端部に筒状の突出部が形成されており、この突出部に対してペン先ホルダを挿入することで、ペン先ホルダを軸筒に取り付けられている。
【0004】
ここで、ペン先ホルダには通気溝が設けられており、突出部の中空部分と連続している。その一方で、突出部におけるインキ吸蔵体側の端部には、突出部の中空部分と、突出部の外周面の径方向外側に隣接する空間とを連通する溝を設けている。
すなわち、特許文献1の筆記具には、通気溝と、突出部の中空部分と、突出部の溝を経て、軸筒の内部空間に連なる一連の空気流路が形成されている。
【0005】
また、特許文献1の筆記具では、塗布液吸蔵体が尾栓によって先端側へ押圧されており、その先端側端面が突出部の端面に押し付けられた状態となっている。すなわち、突出部において溝部分が形成される部分に対し、塗布液吸蔵体の端面が当接した状態となっている。
【0006】
さらに、この筆記具では、突出部の径方向外側に隣接する位置に、リブで仕切られた空間を形成しており、飛び出したインキを収容する構造としている。つまり、飛び出したインキを収容することで、インキの外部への漏れ出しを防止する構造としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した特許文献1の筆記具は、筆記具外部へのインキの漏れ出しや筆記不良を防止するという観点からさらなる改良の余地があった。
すなわち、特許文献1の筆記具は、塗布液吸蔵体が突出部に押し付けられていることで、塗布液吸蔵体から漏れ出したインキがリブで区切られた空間に流入せず、突出部に形成された溝から空気流路に侵入してしまうという問題があった。
すなわち、空気流路を経てインキが外部に流出したり、空気流路がインキで閉塞されて筆記不良が生じたりするというという問題があった。
【0009】
さらには、特許文献1の筆記具は、インキを収容するための空間がリブで仕切られているため、いずれか一の空間に対してインキが大量に流入し、この一の空間からインキが溢れてしまうと、そのままインキが外部に漏れ出しまう場合があった。
つまり、リブで仕切られた小さな空間にインキを収容するため、必然的にインキの貯留可能量(漏れ出しを確実に防止可能な状態とする貯留量)が少なくなってしまうという問題があった。
【0010】
この問題を解決する方法として、例えば、リブを形成せずにインキを収容する空間を広くするという方法も考えられるが、筆記具の強度が低下して壊れやすくなるので、好ましくない。
【0011】
そこで本発明は、外部へのインキ漏れをより確実に防止可能であり安定的に使用可能な塗布具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、本発明者がさまざまな塗布具を試作して検討した結果、空気流路と連なる部分と塗布液吸蔵体とを一定以上離間させることで、塗布液が漏れにくくなることが判明した。すなわち、微細な隙間では空気流路へのインキの流入が阻止できず、一定以上(1.5mm以上)の距離を確保することで、空気流路にインキが流入し難くなることを見出した。
しかしながら、空気流路と連なる部分と塗布液吸蔵体の間隔を大きくしすぎてしまうと、塗布液吸蔵体が短くなりすぎてしまい、塗布具におけるインキの収納量が少なくなってしまうという問題がある。この場合、塗布液吸蔵体を頻繁に交換したり、塗布具を買い替えたりする必要が生じ、使用者にインキ切れが早い塗布具であるという印象を与えてしまうおそれがある。そこで、本発明者らが様々な人を対象として官能試験を繰り返した結果、空気流路と連なる部分と塗布液吸蔵体の距離が一定の長さ(6.0mm)を越えたとき、多くの人がインキ切れの早い塗布具であると感じることが判明した。
【0013】
かかる知見に基づいて提供される請求項1に記載の発明は、軸筒部と、前記軸筒部内に収容される塗布液吸蔵体と、塗布液を塗布するための塗布体とを有し、前記塗布液吸蔵体に含浸させた塗布液を前記塗布体へ供給する塗布具であって、前記軸筒部は、前記塗布液吸蔵体を収容する収容空間を有し、前記収容空間と外部を連通する空気流通路が形成されており、前記空気流通路は、前記収容空間に面する開口部分を有しており、前記開口部分の少なくとも一部は、前記塗布液吸蔵体と前記軸筒部の長手方向で重なる位置に形成されて前記塗布液吸蔵体と対向しており、前記開口部分のうちで前記塗布液吸蔵体と対向する部分を対向開口面としたとき、前記塗布液吸蔵体と前記対向開口面の距離が1.5mm以上6.0mm以下であることを特徴とする塗布具である。
【0014】
本発明の塗布具によると、インキ漏れをより確実に防止可能であり、塗布液吸蔵体のインキの収納量を十分な量にすることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記軸筒部は、本体筒部と内側小筒部を有し、前記本体筒部の内部に前記収容空間が形成され、前記内側小筒部の少なくとも一部は、前記収容空間の内部に位置しており、前記塗布体は、前記軸筒部の前端側に保持され、一部が前記内側小筒部の内側に位置し、より後側の一部が前記内側小筒部の内部から前記塗布液吸蔵体に突出し、後端側の部分が前記塗布液吸蔵体と接触するものであり、前記空気流通路は、前記軸筒部の外部から前記内側小筒部の内部空間を経て、前記収容空間と連なるように形成され、その一部が、前記内側小筒部と前記塗布体の間に形成される隙間部分となっており、前記内側小筒部の後端部分に前記対向開口面が位置することを特徴とする請求項1に記載の塗布具である。
【0016】
本発明の塗布具は、塗布体と内側小筒部の間に形成される細い隙間部分に空気流通路を形成した場合であっても、インキ漏れをより確実に防止可能であるため、好ましい。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記本体筒部には、突起状部が形成されており、前記突起状部は、前記内側小筒部よりも前記軸筒部の横断面の広がり方向で外側となる位置に配されており、前記突起状部の後端面は、前記内側小筒部の後端面と同一平面上に位置する、又は、前記内側小筒部の後端面よりも後方に位置するものであり、且つ、前記塗布液吸蔵体よりも前方に位置しており、さらに前記軸筒部の長手方向で前記塗布液吸蔵体と重なる位置にあることを特徴とする請求項2に記載の塗布具である。
【0018】
かかる構成によると、なんらかの理由により、塗布液吸蔵体が塗布体側(前方側)へずれてしまっても、塗布液吸蔵体が内側小筒部の後端面や突起状部の後端面に当接することで、塗布液吸蔵体のより前方側への移動が阻止される。すなわち、塗布液吸蔵体の大きなずれを防止可能であり、内側小筒部の後端部分が塗布液吸蔵体に深く入り込んでしまうことを阻止できるので、より空気流通路を閉塞され難くすることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、前記塗布体は、前記軸筒部の前端側に保持されるものであり、前記軸筒部の内部には、前記塗布液吸蔵体よりも前方側となる位置に前記塗布液を貯留可能な塗布液貯留部が形成され、前記塗布液貯留部は、仕切壁部によって区画された複数の小貯留空間を有し、前記仕切壁部は、後端側よりの一部に液流通孔部が形成されており、前記液流通孔部は、隣接する2つの前記小貯留空間を連通しており、それぞれの前記小貯留空間は、個別に所定量の前記塗布液を貯留可能であり、一の前記小貯留空間に所定量以上の前記塗布液が流入することで、一の前記小貯留空間と隣接する他の前記小貯留空間に対し、一の前記小貯留空間から前記液流通孔部を介して前記塗布液が流入することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塗布具である。
【0020】
かかる構成では、2つの小貯留空間の間に位置する仕切壁部に液流通孔部を形成しており、一の小貯留空間に大量にインキ(塗布液)が流入したとき、この一の小貯留空間から隣接する他の小貯留空間にインキが流入する。
すなわち、一の小貯留空間に流入するインキが少量である場合は、一の小貯留空間に塗布液を貯留し、多量である場合は、複数の小貯留空間にインキを貯留する構造となっている。このため、多量の塗布液が流入した場合であってもインキの漏れ出しを確実に防止可能な状態を維持しつつインキの貯留が可能となっている。
【0021】
請求項5に記載の発明は、前記軸筒部は、本体筒部と内側小筒部を有し、前記本体筒部の内部では、前記本体筒部の内周面と前記内側小筒部の外周面とが前記軸筒部の横断面の広がり方向で離間しており、前記塗布液貯留部は、前記本体筒部の内周面と前記内側小筒部の外周面の間に形成され、前記仕切壁部は、少なくとも前端側の部分が前記本体筒部の内周面と前記内側小筒部の外周面のそれぞれと連続していることを特徴とする請求項4に記載の塗布具である。
【0022】
かかる構成によると、仕切壁部が本体筒部の内周面と内側小筒部の外周面の双方と一体のリブとして機能するので、塗布具のさらなる強度向上を図ることができる。
【0023】
請求項6に記載の発明は、前記本体筒部の内周面と前記内側小筒部の外周面の間に形成される空間を前後方向で分断する分断壁部を有しており、前記分断壁部は、前記小貯留空間の前方側を閉塞して底部分を形成するものであり、前記本体筒部と、前記内側小筒部と、前記仕切壁部と、前記分断壁部が一体成形されていることを特徴とする請求項5に記載の塗布具である。
【0024】
かかる構成によると、本体筒部と、内側小筒部と、仕切壁部と、分断壁部が一体成形することでインキ漏れを発生し難くすることが可能であり、塗布具の製造を比較的簡易化できる。
【0025】
請求項7に記載の発明は、軸筒部と、前記軸筒部内に収容される塗布液吸蔵体と、塗布液を塗布するための塗布体とを有し、前記塗布液吸蔵体に含浸させた塗布液を前記塗布体へ供給する塗布具であって、前記塗布液吸蔵体は、円筒状の外郭部材の内部に繊維収束体を収容して形成されており、前記軸筒部は、前記塗布液吸蔵体を収容する収容空間を有し、前記収容空間と外部を連通する空気流通路が形成されており、前記空気流通路は、前記収容空間に面する開口部分を有しており、前記開口部分の少なくとも一部は、前記塗布液吸蔵体と前記軸筒部の長手方向で重なる位置に形成されて前記塗布液吸蔵体と対向しており、前記開口部分のうちで前記塗布液吸蔵体と対向する部分を対向開口面としたときの記塗布液吸蔵体と前記対向開口面の距離をX1とし、前記塗布液吸蔵体の直径をX2としたとき、下記式(1)の関係をみたすことを特徴とする塗布具である。
1.5×(X2/6.1)≦X1≦6.0×(X2/6.1)・・・・(1)
【0026】
この塗布具においても、インキ漏れをより確実に防止可能であり、塗布液吸蔵体のインキの収納量を十分な量にすることができる。
【0027】
請求項8に記載の発明は、前記軸筒部は、本体筒部と内側小筒部を有し、前記塗布体は、一部が前記内側小筒部の内部に位置するものであり、前記空気流通路は、前記軸筒部の外部から前記内側小筒部の内部空間を経て、前記収容空間と連なるように形成され、その一部が、前記内側小筒部と前記塗布体の間に形成される隙間部分となっており、前記隙間部分の前記軸筒部の径方向長さが0.04mmより大きく0.5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗布具である。
【0028】
かかる構成によると、塗布体と内側小筒部の間に形成される細い隙間部分に空気流通路を形成した場合であっても、インキ漏れをより確実に防止可能となる。
【0029】
上記した発明は、前記本体筒部の内周面と前記内側小筒部の外周面の間に形成される空間を前後方向で分断する分断壁部を有しており、前記分断壁部は、前記収容空間の前方側を閉塞することが好ましい(請求項9)。
【0030】
請求項10に記載の発明は、前記軸筒部の内部には、前記塗布液吸蔵体よりも前方側となる位置に前記塗布液を貯留可能な塗布液貯留部が形成され、前記塗布液貯留部は、仕切壁部によって区画された複数の小貯留空間を有し、前記分断壁部は、前記小貯留空間の前方側を閉塞して底部分を形成するものであり、前記本体筒部と、前記内側小筒部と、前記仕切壁部と、前記分断壁部が一体成形されていることを特徴とする請求項9に記載の塗布具である。
【0031】
かかる構成では、漏れ出たインクを小貯留空間に貯留可能であり、インキの漏れ出しをより確実に防止できる。
【0032】
上記した発明は、前記内側小筒部の内孔は、断面形状が略円形となる孔であり、前記塗布体は、前記内側小筒部の内側に位置する筒内配置部を有しており、前記筒内配置部の断面形状が略円形となる形状であることが好ましい(請求項11)。
なお、ここでいう「略円形」とは、完全な円形の他、外周部分に実質的に無視できる程度の微細な凹凸がある場合も含む実質的な円形とする。また、以下における「略」の記載も同様とし、縁部分に僅かな突起や窪み(欠落部分)があるものを含むものとする。
【0033】
上記した本発明に関する発明は、軸筒部と、前記軸筒部内に収容される塗布液吸蔵体と、塗布液を塗布するための塗布体とを有し、前記塗布液吸蔵体に含浸させた塗布液を前記塗布体へ供給する塗布具であって、前記軸筒部は、本体筒部と内側小筒部を有し、且つ、内部に前記塗布液吸蔵体を収容する収容空間を有しており、前記収容空間と外部を連通する空気流通路が形成されており、前記塗布体は、一部が前記内側小筒部の内部に位置するものであり、前記空気流通路は、前記軸筒部の外部から前記内側小筒部の内部空間を経て、前記収容空間と連なるように形成され、その一部が、前記内側小筒部と前記塗布体の間に形成される隙間部分となっており、前記隙間部分の前記軸筒部の径方向長さが0.04mmより大きく0.5mm以下であることを特徴とする塗布具である。
【0034】
上記した本発明に関する発明は、軸筒部と、前記軸筒部内に収容される塗布液吸蔵体と、塗布液を塗布するための塗布体とを有し、前記塗布液吸蔵体に含浸させた塗布液を前記塗布体へ供給する塗布具であって、前記軸筒部は、本体筒部と内側小筒部を有し、且つ、内部に前記塗布液吸蔵体を収容する収容空間を有しており、前記内側小筒部の内孔は、断面形状が略円形となる孔であり、前記塗布体は、前記内側小筒部の内側に位置する筒内配置部を有し、前記筒内配置部の断面形状が略円形となるものであり、前記収容空間と外部を連通する空気流通路が形成されており、前記空気流通路は、前記軸筒部の外部から前記内側小筒部の内部空間を経て、前記収容空間と連なるように形成され、その一部が、前記内側小筒部と前記筒内配置部の間に形成される隙間部分となっており、
前記内側小筒部の内孔径と前記筒内配置部の断面径の差が0.08mmより大きく1mm以下であることを特徴とする塗布具である。
【0035】
上記した本発明に関する発明は、軸筒部と、前記軸筒部内に収容される塗布液吸蔵体と、塗布液を塗布するための塗布体とを有し、前記塗布液吸蔵体に含浸させた塗布液を前記塗布体へ供給する塗布具であって、前記軸筒部は、本体筒部と内側小筒部を有し、且つ、内部に前記塗布液吸蔵体を収容する収容空間を有しており、前記塗布体は、前記内側小筒部の内側に位置する筒内配置部を有し、前記収容空間と外部を連通する空気流通路が形成されており、前記空気流通路は、前記軸筒部の外部から前記内側小筒部の内部空間を経て、前記収容空間と連なるように形成され、その一部が、前記筒内配置部と前記筒内配置部の間に形成される隙間部分となっており、前記内側小筒部の内孔の断面形状を含むことが可能な最小包含円を第一最小包含円とし、前記筒内配置部の断面形状を含むことが可能な最小包含円を第二最小包含円としたとき、前記第一最小包含円の直径長さと前記第二最小包含円の直径長さの差が0.08mmより大きく1mm以下であることを特徴とする塗布具である。
【0036】
これらの塗布具もまた、塗布体と内側小筒部の間に形成される細い隙間部分に空気流通路を形成した場合であっても、インキ漏れをより確実に防止可能となる。
【0037】
上記した本発明に関する発明は、軸筒部と、前記軸筒部内に収容される塗布液吸蔵体と、塗布液を塗布するための塗布体とを有し、前記塗布液吸蔵体に含浸させた塗布液を前端側に位置する前記塗布体へ供給する塗布具であって、前記軸筒部の内部には、前記塗布液吸蔵体よりも前方側となる位置に前記塗布液を貯留可能な塗布液貯留部が形成され、前記塗布液貯留部は、仕切壁部によって区画された複数の小貯留空間を有し、前記仕切壁部は、後端側よりの一部に液流通孔部が形成されており、前記液流通孔部は、隣接する2つの前記小貯留空間を連通しており、それぞれの前記小貯留空間は、個別に所定量の前記塗布液を貯留可能であり、一の前記小貯留空間に所定量以上の前記塗布液が流入することで、一の前記小貯留空間と隣接する他の前記小貯留空間に対し、一の前記小貯留空間から前記液流通孔部を介して前記塗布液が流入することを特徴とする塗布具である。
【0038】
この塗布具においても、多量の塗布液が流入した場合であってもインキの漏れ出しを確実に防止可能な状態を維持しつつインキの貯留が可能となる。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、外部へのインキ漏れをより確実に防止可能な塗布具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の実施形態に係る塗布具を示す断面図であり、一部を拡大して示す。
【
図2】
図1の軸筒部の前端側部分を示す断面図である。
【
図3】
図1の軸筒部の前端側部分を示す斜視図である。
【
図4】
図1の軸筒部の前端側部分を示す断面斜視図である。
【
図5】
図1の軸筒部の前端側部分を示す一部破断斜視図である。
【
図7】
図1の塗布具のインキ貯留部を模式的に示す説明図である。
【
図8】
図1の塗布具のインキ貯留部にインキが流入していく様子を模式的に示す説明図であり、(a)~(c)の順に流入していく。
【
図9】
図1とは異なる実施形態の塗布具を示す断面図であり、一部を拡大して示す。
【
図10】
図9の塗布具における軸筒部の前端側部分を示す図であり、(a)は断面図、(b)は一部破断斜視図である。
【
図11】
図1の塗布具の一部を示す拡大して示す説明図であり、一部をさらに拡大して示す。
【
図12】上記した各実施形態とは異なる実施形態に係る塗布具を示す図であって、(a)は内筒部周辺を模式的に示す説明図であり、(b)は内筒部周辺を示す断面図であり、(c)は(b)の一部分を拡大して示す説明図である。
【
図13】上記した各実施形態とは異なる実施形態に係る塗布具を示す図であって、(a)は内筒部周辺を模式的に示す説明図であり、(b)は内筒部周辺を示す断面図であり、(c)は(b)の一部分を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下さらに、本発明の各実施形態について説明する。なお、以下の説明において「前後」の関係は、特に断りのない限り、長手方向の一端側であるペン先側を前側、対となる他端側を後側として説明する。
【0042】
本発明の実施形態に係る塗布具1は、
図1で示されるように、軸筒部2、ペン先部材3(塗布体)、インキ吸蔵体4(塗布液吸蔵体)、尾栓5を備えた構造となっている。
この塗布具1は、軸筒部2の内部にインキ吸蔵体4が内蔵されており、軸筒部2の内外に亘って延びるペン先部材3がインキ吸蔵体4と接触する構造となっている。そして、ペン先部材3が、毛細管現象によってインキ吸蔵体4に含浸されたインキ(塗布液)を吸い込むものとなっており、インキを吸い込んだペン先部材3を紙等の塗布対象物に接触させることで、インキを塗布するものとなっている。
【0043】
軸筒部2は、長手方向の両端部分のそれぞれが開放された筒状部材であり、適宜の樹脂を原料として形成された樹脂成型体となっている。
この軸筒部2は、本体筒部10と、ペン先部材3を保持するための取付用筒部11(内側小筒部)とを有しており、これらが一体となっている。
【0044】
本体筒部10は、軸筒部2の大部分を占める部分であり、概形が略円筒状であって、ペン軸を形成する部分である。
この本体筒部10の内部空間(収容空間)は、
図1で示されるように、インキ吸蔵体4を収容可能な空間となっている。そして、インキ吸蔵体4を収納した状態では、本体筒部10の内周面とインキ吸蔵体4の間に空隙が形成されるものとなっている。
【0045】
取付用筒部11は、概形が本体筒部10よりも径の小さい略円筒状であり、一部が本体筒部10の内部に位置し、他の一部が本体筒部10の前端側開口部分から外部に突出する部分である。
【0046】
取付用筒部11のうちで本体筒部10の内部に位置する部分は、周方向の全周に亘って本体筒部10の内周面から離れた位置に配されている。そして、取付用筒部11の外周面の一部と、本体筒部10の内周面の一部を繋ぐように連結板部15(分断壁部)が形成されている。
【0047】
この連結板部15は、
図3で示されるように、本体筒部10及び取付用筒部11の周方向に沿って延びており、円環状に連続する板状部分となっている。
つまり、
図2で示されるように、本体筒部10の内周面と取付用筒部11の外周面の間に位置する空間が、連結板部15によって軸筒部2の長手方向で分断されている。
【0048】
取付用筒部11は、大別して、連結板部15が位置する部分から前端までの部分である前側筒部11aと、連結板部15の後端面よりも後方側に位置する内筒部11bとに区画される筒状部分となっている。
【0049】
前側筒部11aは、内筒部11bと比べて内径が大きくなっている。そして、この前側筒部11aの後端側部分では、内孔の径が後方に向かうにつれて狭径となっている。
このため、前側筒部11aの内孔の大部分と内筒部11bの内孔の間には、ゆるやかな段差が形成されている。つまり、取付用筒部11の内部では、前端側に位置する比較的径が大きい部分と、後端側に位置する比較的径の小さい部分とが、ゆるやかな段差を介して連続している。
【0050】
ここで、取付用筒部11の内周面には、連通溝17が形成されている。この連通溝17は、
図3で示されるように、複数(本実施形態では6つ)形成されており、平面視(視線方向を軸筒部2の長手方向とした平面視)で、回転対称となる位置にそれぞれ形成されている。なお、これらの連通溝17のうち、2つの連通溝17は、前端側欠落部18と連続している。
【0051】
前端側欠落部18は、前側筒部11aの前端部分の一部を欠落させた部分である。すなわち、前側筒部11aの前端から後方へ向かって窪んだ部分であり、且つ、前側筒部11aの側壁面を貫通する部分である。
本実施形態では、2つの前端側欠落部18が前側筒部11aの径方向で離れた位置にそれぞれ形成されており、いずれも前側筒部11aの径方向における内側部分が連通溝17の前端部分と連続している。そして、これらの前端側欠落部18は、連通溝17と共に一連の溝状部分を形成している。
【0052】
連通溝17は、
図4で示されるように、取付用筒部11の内周面に形成され、周囲よりも取付用筒部11の径方向外側へ窪んだ溝状部分となっている。これらの連通溝17は、前側筒部11aの前端から内筒部11bの前端よりもやや後方となる位置までの間で、取付用筒部11の長手方向(前後方向)に沿って延びている。
【0053】
内筒部11bは、その後端側部分に欠落部20が形成されている。
欠落部20は、内筒部11bの後端部分の一部を欠落させて形成される部分であり、内筒部11bの後端から前方へ向かって延びると共に、内筒部11bの側壁面を貫通する部分である。言い換えると、欠落部20は、内筒部11bの外周面から内周面までを貫通し、内筒部11bの径方向外側に隣接する空間と、内筒部11bの内部空間を連通している。
【0054】
この欠落部20は、
図5で示されるように、複数(本実施形態では4つ)形成されており、それぞれが内筒部11bの周方向で間隔を空けて並列している。より詳細には、2つの欠落部20が、軸筒部2の径方向で離間対向する位置にそれぞれ形成されている。そして、他の2つの欠落部20は、軸筒部2の径方向であり、上記した2つの欠落部20の対向方向と直交する方向で離間対向する位置にそれぞれ形成されている。
すなわち、複数の欠落部20が、平面視(視線方向を軸筒部2の長手方向とした平面視)で回転対称となるようにそれぞれ形成されている。
【0055】
ここで、本体筒部10の内部空間には、第一リブ部23(
図2等参照)が形成されている。
さらに、本体筒部10の内部空間には、軸筒部2の外部へのインキの漏出を防止すべく、インキ吸蔵体4から漏れ出たインキを貯留するインキ貯留部25(塗布液貯留部)が形成されている。
【0056】
第一リブ部23は、本体筒部10の強度を向上させる強度向上用の補強リブとして機能すると共に、インキ吸蔵体4を規定位置に配置するためのガイドとしても機能する。
この第一リブ部23は、
図2、
図4で示されるように、本体筒部10の内周面と一体に形成され、同内周面から径方向内側へ突出する突起状部分である。
第一リブ部23の突出端面のうち、後端側に位置する部分には、
図4で示されるように、後端側に向かうにつれて本体筒部10の径方向外側へ向かう傾斜面が形成されている。言い換えると、第一リブ部23の後端側部分は、後端側へ向かうにつれて突出長さが短くなるように形成されている。
つまり、この第一リブ部23の前端側の大部分は、断面形状が四角形状で本体筒部10の長手方向に延びた形状となっている。そして、後端側の一部は、後端側へ向かうにつれて断面積が小さくなるように延びている。
【0057】
そして、この第一リブ部23は複数設けられており、本体筒部10の周方向で間隔を空けて並列するように配されている。
ここで、本体筒部10から尾栓5を取り外し、インキ吸蔵体4を後方側から挿入して前方側へ移動させていく場合について説明する。このとき、仮にインキ吸蔵体4が規定位置から本体筒部10の径方向外側へ位置ずれしていた場合、インキ吸蔵体4を前方側へ移動させていくことで、インキ吸蔵体4の前端側部分が第一リブ部23の後端側の傾斜面と接触する。この状態で、インキ吸蔵体4を前方へ押し込むことで、インキ吸蔵体4の前端側部分は、傾斜面に沿って本体筒部10の径方向中心側へと移動する。このように、第一リブ部23がインキ吸蔵体4の導入ガイドとして機能することで、本体筒部10の内部に収納するインキ吸蔵体4の位置ずれを防止できる。
【0058】
インキ貯留部25は、第1貯留部25a乃至第4貯留部25dからなる複数の貯留部(小貯留空間)によって構成されている。それぞれの貯留部は、一体に形成された本体筒部10の内周面と、内筒部11bの外周面と、連結板部15の後端面と、仕切壁部30(仕切壁部であり突起状部)とで囲まれた空間である。
つまり、インキ貯留部25は、内筒部11bの径方向外側に隣接する空間であり、内筒部11bの周方向で連続する空間を仕切壁部30で複数(4つ)に区画することで形成されている。
【0059】
仕切壁部30は、本体筒部10の内周面及び連結板部15の後端面と一体に形成され、連結板部15の後端面から後方側へ向かって延びる突起状の部分である。
【0060】
仕切壁部30は、断面形状が略「凸」字状で本体筒部10の長手方向(
図6の奥行き方向)に延びる部分となっている。本実施形態では、複数(4つ)の仕切壁部30が平面視(視線方向を軸筒部2の長手方向とした平面視)において回転対称となる位置にそれぞれ形成されている。
【0061】
すなわち、仕切壁部30は、本体筒部10の内周面側に位置する基端側部30aと、この基端側部30aよりも本体筒部10の径方向内側に位置する先端側部30bとが一体に形成された突起状部分となっている。そして、先端側部30bのうちで内筒部11bと隣接する部分には、
図5で示されるように、後端から前方側へ延びる(
図5では上端から下方側へ延びる)液連通溝部31(液流通孔部)が形成されている。
【0062】
基端側部30aは、断面形状が略四角形状で本体筒部10の長手方向(
図6の奥行き方向)に延びる部分である。
先端側部30bは、基端側部30aの突出端(本体筒部10の径方向における内側端部)からさらに突出する部分である。そして、断面形状が四角形状で本体筒部10の長手方向(
図6の奥行き方向)に延びており、幅方向の長さが基端側部30aよりも短くなっている。
なお、ここでいう「幅方向の長さ」とは、前後方向(本体筒部10の延び方向)及び先端側部30bの突出方向と直交する方向の長さである。すなわち、本体筒部10の径方向と直交する方向で離間する2つの側壁面間の距離となっている。
【0063】
したがって、仕切壁部30の両側壁面のそれぞれでは、基端側部30aと先端側部30bの境界部分に段差が形成されている。
【0064】
さらに、先端側部30bは、
図5で示されるように、後端側(
図5では上端側)の一部が欠落部20の外側に位置した状態となっている。
なお、ここでいう「欠落部20の外側」とは、内筒部11bの径方向における外側であり、言い換えると、内筒部11b(本体筒部10、取付用筒部11)の横断面の広がり方向における外側である。そして、内筒部11bの周方向における欠落部20の長さは、その外側に位置する先端側部30bの同方向における長さよりも長くなっている。
【0065】
ここで、上記したように、仕切壁部30の内筒部11bと隣接する部分には、液連通溝部31が形成されている。そして、液連通溝部31は、略直方体状の空間を形成する溝状部分であり、仕切壁部30を幅方向(厚さ方向)に貫通している。すなわち、仕切壁部30の両側壁面のうちの一方から他方までを貫通して延びている。
【0066】
液連通溝部31は、仕切壁部30の後端から前方(
図5では上端から下方)へ向かって延びており、前後方向における中心よりもやや後方側の位置まで延びている。
このことから、先端側部30bの後端側の一部を除いた大部分は、内筒部11bの側壁面と連続して一体となっている。つまり、仕切壁部30の前端側部分は、本体筒部10の内周面と、内筒部11bの外周面と、連結板部15の後端面のそれぞれと連続しており、3面に跨るように形成されている。
【0067】
言い換えると、仕切壁部30の前側部分(
図5では下側部分)は、本体筒部10の内周面と内筒部11bの外周面の間で延びており、これらを連結している。このことから、仕切壁部30を挟んで両側に位置する空間(貯留部)は、前側部分同士(
図5では下側部分同士)が分断された状態となっている。
これに対し、仕切壁部30の後側部分(
図5では上側部分)では、本体筒部10の内周面と、内筒部11bよりも本体筒部10の径方向で外側に離れた位置の間で延びている。このことから、仕切壁部30を挟んで両側に位置する2つの空間(貯留部)の後側部分同士(
図5では上側部分同士)は、大部分が分断された状態となっており、他の一部が連通した状態となっている。
【0068】
また、本体筒部10の内部空間には、第二のリブ部である補助当接リブ部33(突起状部)が形成されている。
補助当接リブ部33もまた、
図5、
図6で示されるように、本体筒部10の内周面及び連結板部15の後端面と一体に形成されており、連結板部15の後端面から後方側へ向かって延びている。
【0069】
このとき、補助当接リブ部33は、断面形状が略四角形状で本体筒部10の長手方向(
図6の奥行き方向)に延びる部分となっている。本実施形態では、複数(4つ)の補助当接リブ部33が平面視(視線方向を軸筒部2の長手方向とした平面視)において回転対称となる位置にそれぞれ形成されている。
そして、補助当接リブ部33のうち、本体筒部10の径方向で最も内側に位置する部分は、内筒部11bの外周面と離間した位置にある。すなわち、補助当接リブ部33と内筒部11bの外周面の間には空間が形成されている。
【0070】
そして、仕切壁部30と補助当接リブ部33は、それぞれが本体筒部10の周方向で間隔を空けて並列するように配されており、第一リブ部23もまた、上記したように、本体筒部10の周方向で間隔を空けて並列するように配されている。そして、第一リブ部23は、本体筒部10の周方向において、仕切壁部30と補助当接リブ部33の間に位置する部分に配されている。
つまり、本体筒部10の周方向において、仕切壁部30、第一リブ部23、補助当接リブ部33、第一リブ部23、仕切壁部30・・・の順となるように間隔を空けて並列している。
【0071】
より詳細には、基端側部30aと、補助当接リブ部33とが、本体筒部10の周方向で環状に間隔を空けて並列し、その内側(本体筒部10の径方向における内側)で、先端側部30bが同方向(本体筒部10の周方向)で環状に間隔を空けて並列している。
なお、「本体筒部10の径方向における内側」とは、本体筒部10の横断面の広がり方向における内側でもある。
そして、先端側部30bのうち、2つの先端側部30bは、本体筒部10の径方向で離れた位置にそれぞれ形成されており、この2つの先端側部30bの離間方向とは直交する方向で離れた位置のそれぞれに、他の2つの先端側部30bが形成されている。
つまり、2つの先端側部30bの離間方向と、他の2つの先端側部30bの離間方向は、いずれも本体筒部10の径方向であり、互いに直交する方向となっている。
【0072】
ここで、内筒部11bの後端面と、仕切壁部30の後端面と、補助当接リブ部33の後端面は、いずれも同一平面上(本体筒部10の長手方向と直交する仮想平面上)に位置する面となっている。すなわち、内筒部11b、仕切壁部30、補助当接リブ部33は、いずれも連結板部15の後端面から後方へ突出するように形成されており、前後方向の長さが同一となっている。
【0073】
ペン先部材3は、
図1で示されるように、前端側に位置するペン先形成部3aと、後端側に位置する後方軸部3bとに区画される部材である。そして、ペン先形成部3aは、大部分において後方軸部3bよりも径が大きい部分となっている。
このペン先部材3は、繊維束の熱融着加工体、繊維束の樹脂加工体、フェルトの樹脂加工体といった適宜の繊維束を接合した素材で形成されている。そして、軸筒部2に取り付けられた状態では、ペン先形成部3aの前端側部分が、前側筒部11aの前端よりも前方に位置して外部に露出する部分となる。そして、後方軸部3bの後端側の一部は、内筒部11bの後端よりも後方側に位置し、インキ吸蔵体4の中綿36(詳しくは後述する)に差し込まれた状態となる。つまり、ペン先部材3の後方側部分は、内筒部11bの内側から後方側へ突出し、インキ吸蔵体4に接触した状態となっている。
【0074】
インキ吸蔵体4は、
図1で示されるように、外郭部材35の内部に、インキを含浸させた中綿36を詰め込んで形成される部材である。
【0075】
外郭部材35は、外形が円筒状となる樹脂製の部材であり、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の適宜な樹脂を原料とするものである。
中綿36は、インキが含浸される繊維収束体である。特に限定されるものではないが、中綿36には、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等の合成繊維、綿、麻、パルプ等の植物繊維、羊毛、生糸等動物繊維等を好適に採用可能となっている。
【0076】
ここで、特に限定されるものではないが、本実施形態のインキ吸蔵体4は、外郭部材35と中綿36を熱融着させて形成している。すなわち、外郭部材35の内周面と、中綿36のうちでインキ吸蔵体4の径方向外側に位置する一部とが熱融着された状態となっている。
【0077】
さらに、特に限定されるものではないが、インキ吸蔵体4の径は、3.0mm以上20.0mm以下とすることが可能であり、好ましくは6.0mm以上15.0mm以下とすることである。さらに好ましくは、6.1mm程度とすることであり、本実施形態では6.1mmとしている。
なお、ここでいう「程度」とは、数パーセントの誤差(公差)を含むものとし、以下の記載においても同様とする。また、インキ吸蔵体4の径を大きくした場合、軸筒部2等の他の部分もまた、それに応じて適宜大きくしてもよい。
【0078】
尾栓5は、軸筒部2(本体筒部10)の後端側に装着可能であり、装着することで、本体筒部10の後端側に位置する開放部分を閉塞する部材である。
【0079】
ここで、本実施形態の塗布具1は、前端側部分に外部と内部空間を連通する一連の空気流通路38が形成されている。
具体的に説明すると、ペン先部材3は、ペン先形成部3aの後側部分が前側筒部11aに内嵌されることで、軸筒部2に保持される部材となっている。このとき、前側筒部11aの内側では、前側筒部11aの内周面のうちで連通溝17(
図3参照)が形成されていない部分と、ペン先形成部3aの外周面が密着した状態となっている。
【0080】
さらに、上記したように、内筒部11bの内側では、内筒部11bの内周面と後方軸部3bの外周面の間に空隙が形成されている。すなわち、後方軸部3bの前側部分は、周方向の全周に亘って内筒部11bの内周面から内側に離れた位置に配されている。このことから、後方軸部3bと内筒部11bの間に、内筒部11bの周方向で連続しつつ内筒部11bの長手方向に沿って延びる空間が形成されることとなる。
【0081】
ここで、前端側欠落部18(
図3参照)は、上記したように、一部の連通溝17と連続して一連の溝状部分を形成している。
したがって、空気流通路38は、前端側欠落部18と連通溝17によって形成される一連の溝状部分や、連通溝17によって形成される溝状部分と、内筒部11bの内側の空隙とが連続して形成される一連の流路となっている。
【0082】
このように本実施形態の塗布具1は、ペン先部材3とペン先部材3を保持する取付用筒部11の間に、ペン先部材3の長手方向に沿って延びる空気流通路38が形成されている。そして、この空気流通路38は、内筒部11bの後端部分と、欠落部20を介して本体筒部10の内部空間と連続している。
【0083】
つまり、空気流通路38は、取付用筒部11の前端近傍から本体筒部10の内部空間まで延びており、内部空間との境界部分に位置する開口面を介して本体筒部10の内部空間と連続している。
すなわち、このような開口面として、
図6で示されるように、内筒部11bの後端部分に位置する後端側開口面38a(開口部分、対向開口面)と、内筒部11bの外周面に形成される側方側開口面38b(開口部分)とが空気流通路38の流路端に位置している。
【0084】
後端側開口面38aは、内筒部11bの後端面と同一平面上となる位置であり、且つ、内筒部11bの横断面の広がり方向においてペン先部材3の外側に隣接する位置に形成された開口面となっている。
側方側開口面38bは、欠落部20と本体筒部10の内部空間の境界部分に位置する開口面であり、欠落部20のうちで内筒部11bの横断面の広がり方向において外側端部に位置する部分となっている。
すなわち、空気流通路38は、複数箇所で本体筒部10の内部空間と連続しており、本体筒部10の内部空間に面する開口を複数有している。
【0085】
ここで、本実施形態の塗布具1は、内筒部11bの後端部分に位置する空気流通路38の開口面(後端側開口面38a)から後方側に離れた位置に、インキ吸蔵体4(中綿36)の前端部分が位置する構造となっている。言い換えると、空気流通路38の開口面は、インキ吸蔵体4の中綿36と軸筒部2の長手方向で重なる位置に形成されており、これらが離間対向した状態となっている。
【0086】
したがって、内筒部11bの後端部分に位置する空気流通路38の開口面とインキ吸蔵体4の間に空間が形成されている。そして、この空間の前後方向の長さであり、空気流通路38の開口面からインキ吸蔵体4までの距離L1が1.5mm以上6.0mm以下となっている。
この距離L1は、より好ましくは、1.8mm以上4.0mm以下であり、さらに好ましくは2.0mm以上2.5mm以下である。また、本実施形態では、この距離L1を2.0mm程度としている。
【0087】
このように、インキ吸蔵体4を空気流通路38の開口面から十分離れた位置に配することで、空気流通路38の開口面を中綿36と軸筒部2の長手方向で重なる位置に配しても、インキの流入をより抑制することが可能となっている。
【0088】
また、上記したように、内筒部11bの後端面と、仕切壁部30の後端面と、補助当接リブ部33の後端面とがいずれも同一平面上に位置しており、これらがインキ吸蔵体4(中綿36)よりも前方に位置している。言い換えると、これらの面のそれぞれが軸筒部2の長手方向において中綿36と重なる位置であり、中綿36よりも前方となる位置に配されている。
このことから、落下時の衝撃等の理由により、中綿36が前方へずれてしまっても、これらが中綿36の広範囲に亘る部分に接触するので、中綿36のそれ以上の前方への移動を阻止(又は抑制)できる。このことから、内筒部11bの後端側部分、すなわち、欠落部20が形成されている部分が中綿36に埋め込まれたような状態となるようなことがなく、空気流通路38の閉塞をより確実に阻止できる。
【0089】
また、上記したように、本実施形態の塗布具1には、内筒部11bと隣接する位置にインキ貯留部25が形成されている(
図7等参照)。
そして、インキ貯留部25を構成する4つの貯留部(第1貯留部25a乃至第4貯留部25d)のそれぞれが個別にインキを貯留可能である一方で、一の貯留部に偏って大量にインキが流入した場合には、隣接する貯留部と共にインキを貯留する構造となっている。
【0090】
すなわち、
図8で示されるように、いずれか一の貯留部(
図8では第1貯留部25a)にインキが流入していくと、一の貯留部に貯留されたインキの量が増加していく。そして、一の貯留部において貯留されたインキが液連通溝部31に到達すると、液連通溝部31から隣接する他の貯留部(
図8では第2貯留部25b及び第4貯留部25d)にインキが流入する。
【0091】
ここで、液連通溝部31は、
図7で示されるように、仕切壁部30の後端から前方(
図7の上端から下方)へ延びており、液連通溝部31の前端部分が欠落部20の前端よりも前方に離れた位置に配されている。
すなわち、仕切壁部30では、後端面(
図7では上端)の大部分が欠落部20の前端よりも後方に位置しているが、液連通溝部31が形成された部分においては、後端面(液連通溝部31の前端面)が欠落部20の前端よりもさらに前方に位置している。
このとき、欠落部20の前端から液連通溝部31の前端までの長さは、予め実験等で定められる十分に長い長さであり、インキが液連通溝部31を通過するとき(
図8参照)、インキが欠落部20に流入しない長さとなっている。
【0092】
したがって、いずれかの一の貯留部に対してインキが大量に流入したとしても、欠落部20から十分に離れた位置で他の貯留部にインキが流入するので、一の貯留部から内筒部11bの内部へのインキの流入を阻止できる。
【0093】
また、一の貯留部から他の貯留部にインキが流入するとき、液連通溝部31が形成された部分からのみインキが流入する。すなわち、軸筒部2の径方向で延びる仕切壁部30の全域を乗り越えるように流入するのではなく、一部分の比較的前側よりの位置からインキが流入する。このことから、強度増強のためのリブとしても機能する仕切壁部30を不必要に小さく(前後方向の長さを短く)する必要がなく好ましい。
【0094】
さらに、本実施形態では、液連通溝部31が内筒部11bよりの位置に形成されている。このことから、仮に仕切壁部30の後端面のうちで、液連通溝部31が形成されていない部分にインキが落下し、内筒部11b側へ向かって流れても、液連通溝部31へ到達して前方側へ流れることとなる。つまり、インキが内筒部11bの欠落部20まで到達せず、欠落部20に流れ込むことがない。
【0095】
ここで、インキ貯留部25は、軸筒部2の横断面の広がり方向において内筒部11bよりも外側に位置している。そして、内筒部11bは、同方向においてペン先部材3の外側に位置している(
図1等参照)。
このことから、インキ貯留部25が、インキ吸蔵体4のうちでペン先部材3が差し込まれた部分よりも軸筒部2の横断面の広がり方向で外側に位置する部分と、軸筒部2の長手方向で離間対向している。
【0096】
ところで、塗布具1の内部でインキ吸蔵体4から前方へインキが漏れる際、外郭部材35と中綿36の境界となる部分は、比較的インキが流出し易い部分となっている。
つまり、本実施形態のインキ貯留部25は、比較的インキが流出し易い部分と軸筒部2の長手方向で重なる位置に形成されている。
【0097】
上記した実施形態では、仕切壁部30の後端面(液連通溝部31が形成されていない部分の後端面)と、補助当接リブ部33の後端面のそれぞれを内筒部11bの後端面と同一平面上とする例について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限るものではなく、これらの少なくとも一方の後端面が内筒部11bの後端面よりも後方に位置する構造であってもよい。例えば、
図9、
図10で示されるように、補助当接リブ部133の後端面が内筒部11bの後端面よりも後方に位置する軸筒部102を採用してもよい。
【0098】
すなわち、この軸筒部102では、補助当接リブ部133の前後方向の長さが、仕切壁部30、内筒部11bの前後方向の長さよりも長くなっている。
【0099】
この軸筒部102を採用した塗布具101では、インキ吸蔵体4が内筒部11bの後方に位置した状態で、インキ吸蔵体4の前端部分と補助当接リブ部133とが当接する(
図9参照)。より詳細には、インキ吸蔵体4の外郭部材35と、その径方向内側に隣接する中綿36に対し補助当接リブ部133が接触した状態となる。このような構造によると、インキ吸蔵体4を規定位置から前方へずれ難い構造とすることができる。
【0100】
上記した実施形態では、仕切壁部30の後端面から前方へ延びる溝状(切り欠き状)の液連通溝部31を内筒部11bよりの位置に形成した例を示したが、本発明はこれに限るものではない。
例えば、液連通溝部31に替わって、仕切壁部を貫通する貫通孔を設けてもよい。しかしながら、軸筒部の成形を容易化するという観点から、上端から後方へ延びる溝状部分や窪み部分を形成することが好ましい。また、液連通溝部31を形成する位置は、内筒部11bと隣接する位置に限らず、内筒部11bから軸筒部の横断面の広がり方向における外側に離れた位置に形成してもよく、例えば、本体筒部の内周面と隣接する位置であっても構わない。
【0101】
上記した実施形態では、インキ吸蔵体4の径を6.1mm程度とした例について説明した。このインキ吸蔵体4の径は、上記したように、6.1mm程度とすることが好ましいもののさらに大きくすることも可能である。
ここで、外郭部材35の厚さ(外周面から内周面までの長さ)を変更せず、外郭部材35の径を大きくしてインキ吸蔵体4を大きくした場合について考える。
この場合、外郭部材の内部空間の体積が大きくなり、収容される中綿36の量が多くなる。このことから、インキの収容量を大きくすることができる。その一方で、中綿36の全体量に占める熱融着された部分の割合が小さくなってしまい、中綿36が前方へずれてしまう際にずれが大きくなり易い。
【0102】
以上のことから、インキ吸蔵体の径を大きくするとき、それに応じて空気流通路の開口面からインキ吸蔵体までの距離L1を大きくすることが好ましい。
例えば、上記した例では、インキ吸蔵体4の径を6.1mm程度とし、距離L1を2.0mm程度としたが、インキ吸蔵体4の径を15.0mm程度としたとき、距離L1を3.0mm程度としてもよい。
すなわち、距離L1をX1とし、インキ吸蔵体の直径をX2としたとき、下記式(1)の関係をみたすように大きくすることが好ましい。
1.5×(X2/6.1)≦X1≦6.0×(X2/6.1)・・・・(1)
なお、距離L1のさらに好ましい値もまた、上記式(1)に応じて可変する。
【0103】
続いて、上記した実施形態の塗布具1に形成される空気流通路38の詳細な構造について説明する。
【0104】
塗布具1では、上記したように、ペン先部材3の外周面と隣接する位置に、軸筒部2(ペン先部材3)の長手方向に延びる空気流通路38が形成されている。そして、内筒部11bと後方軸部3bの間に形成される隙間部分が、この空気流通路38の一部を形成している。
ここで、インキ漏れをより確実に防止するという観点から、
図11で示されるように、軸筒部2の径方向における隙間部分の長さ(最大長さ)L2が、0.04mmより大きく0.5mm以下となることが好ましい。より詳細には、隙間部分の長さL2は、0.45以上0.5mm以下であることがより好ましく、0.05mm以上0.5mm以下となることがさらに好ましい。なお、本実施形態では0.05mmとしている。
言い換えると、内筒部11bの内径L3と、後方軸部3bの径方向長さL4の差が、0.08mmより大きく1mm以下であることが好ましい。より詳細には、このL3とL4の差は、0.09mm以上1mm以下であることがより好ましく、0.1mm以上1mm以下となることがさらに好ましい。なお本実施形態では1mmとしている。
また、ここでいう「後方軸部3bの径方向長さ」とは、内筒部11bの内側に位置する部分(以下、筒内配置部とも称す)の直径である。
【0105】
具体的に説明すると、この隙間部分が狭すぎる(長さL2が短すぎる)場合、後方軸部3bから滲み出たインキがこの隙間部分を閉塞してしまい、その結果、空気流通路38が閉塞されてしまう場合がある。そして、空気流通路38が閉塞されてしまうと、上記したように筆記不良が生じたり、空気流通路38を閉塞していたインキがペン先側に漏れ出したりする場合がある。
しかしながら、この隙間部分を必要以上に大きくしてしまうと、上記したインキ貯留部25の容積が必然的に狭くなり、インキ貯留部25に多くのインキを貯留できなくなるので、インキ貯留部25の貯留量を一定以上確保するという観点から好ましくない。
そこで、本実施形態の塗布具1では、隙間部分の長さL2を上記した範囲とすることで、空気流通路38の閉塞を防止し、且つ、インキ貯留部25の十分な貯留量を確保している。
【0106】
より詳細には、軸筒部2のうちで内側にインキ貯留部25が形成される部分の最大径をL5としたとき、隙間部分の長さL2は、L5の2パーセントより大きく25パーセント以下となる長さであることが好ましい。より詳細には、2.25パーセント以上25パーセント以下で好ましく、2.5パーセント以上25パーセント以下となることがさらに好ましい。
同様に、内筒部11bの内径L3と、後方軸部3bの筒内配置部の径方向長さ(直径)L4の差は、L5の4パーセント以上50パーセント以下となる長さであることが好ましい。より詳細には、4.5パーセント以上50パーセント以下がより好ましく、5パーセント以上50パーセント以下であることがさらに好ましい。
【0107】
なお、上記した実施形態では、略円筒状の内筒部11bの例を示したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、内筒部は、外形が略多角形筒状や略楕円筒状となる筒状体としてもよい。すなわち、内孔の平面視形状(断面形状)が略多角形状や略楕円状となるように形成してもよい。したがって、
図12で示されるように、内孔の断面形状が略多角形状となるように形成した内筒部211bを採用してもよい。
【0108】
この場合もまた、内筒部211bの内周面と後方軸部3bの間に隙間部分が形成される構造となっている。そして、この隙間部分は、軸筒部202の径方向における最大長さL6が、上記したL2と同様の範囲となっている。
このとき、平面視において、内筒部211bの内孔部分を含むことが可能な仮想円のうちで面積が最小となる円C1(最小包含円C1)の径L7と、後方軸部3bの筒内配置部の径方向長さ(直径)L8の差が、上記したL3とL4の差と同様の範囲となっている。
言い換えると、内孔部分の断面形状を含むことが可能な最小包含円C1の径L7と、筒内配置部の断面径L8(筒内配置部の断面形状を含むことが可能な最小円の直径)の差が、上記したL3とL4の差と同様の範囲となっている。
【0109】
また、上記した実施形態では、後方軸部3bの筒内配置部の断面形状が円形となる例を示したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、筒内配置部の断面形状は、略多角形状や略楕円形としてもよい。
【0110】
例えば、
図13で示されるように、筒内配置部の断面形状を多角形状(四角形状)とした後方軸部303bを採用してもよい。この場合、上記と同様に、内孔の平面視形状が多角形状となるように形成した内筒部311bを採用してもよい。
【0111】
この場合もまた、この隙間部分の最大長さ(軸筒部302の径方向における最大長さ)L9が、上記したL2と同様の範囲となっている。
さらに、平面視において、内筒部311bの内孔部分を含む最小包含円C2の径方向長さ(直径)L10と、後方軸部303bを含む最小包含円C3の径方向長さ(直径)L11との差が、上記したL3とL4の差と同様の範囲となっている。言い換えると、内孔部分の断面形状を含むことが可能な最小包含円C2の径L10と、筒内配置部の断面形状を含むことが可能な最小包含円C3の径L11の差が、上記したL3とL4の差と同様の範囲となっている。
【0112】
つまり、各実施形態では、内筒部の内径又は平面視で内筒部の内孔部分を含む最小包含円の径のいずれか一方と、筒内配置部の断面径又は平面視で筒内配置部を含む最小包含円の径のいずれか一方の差が、上記したL3とL4の差と同様の範囲となっている。
【0113】
続いて、上記した実施形態に係る塗布具1を形成する際に行った実験と、その結果について説明する。
【0114】
(実験1)
上記した塗布具1に準じる塗布具を300本作成し、内100本を第1群に属するものとし、他の100本を第2群に属するものとし、残りの100本を第3群に属するものとした。
第1群に属する塗布具は、後方軸部の筒内配置部に相当する部分の径方向長さが1.74mm~1.85mmとなるものとした。
第2群に属する塗布具は、後方軸部の筒内配置部に相当する部分の径方向長さが1.95mm~2.01mmとなるものとした。
第3群に属する塗布具は、後方軸部の筒内配置部に相当する部分の径方向長さが2.01mm~2.09mmとなるものとした。
これら300本の塗布具は、後方軸部を除いた他の部分の構造を実質的に同一とし、同一のインキを使用した。また、内筒部に相当する部分の内径を2.1mmプラスマイナス0.05mmとした。
【0115】
そして、これら300本の塗布具に対してインキ漏れの有無を確認するための試験を行った。具体的には、ペン先側を下方に向け、雰囲気温度が70度となる恒温層内で15時間(1晩)放置した後、インキの漏れの有無を確認した。
【0116】
試験後、第1群に属する塗布具から無作為に20本を抽出してインキの漏れを確認した。同様に、第2群に属する塗布具から無作為に30本を抽出してインキの漏れを確認し、第3群に属する塗布具から無作為に30本を抽出してインキの漏れを確認した。
その結果、
図14のグラフで示される結果が得られた。
【0117】
すなわち、第1群に属する塗布具では、インキの漏れが確認されなかった。
また、第2群に属する塗布具では、7本でインキの漏れが確認され、他の23本でインキの漏れが確認されなかった。
さらに、第3群に属する塗布具では、全ての塗布具でインキの漏れが確認された。
また、筒内配置部に相当する部分の径方向長さが一定以上長くなると(内筒部と後方軸部の間の隙間が一定以上狭くなると)、インキの漏れが発生することが確認された。このとき、インキの漏れが確認された塗布具の中で、筒内配置部に相当する部分の径方向長さが最小のものは、同部分の長さが1.95mmとなるものであることが判明した。
【0118】
そこで、本発明者は、上記実験1の結果と経験則から、筒内配置部に相当する部分の径方向長さを1.7mmとして交差の範囲をプラスマイナス0.2mmとすることで、インキの漏れが発生しない状態になるものと推察した。すなわち、このような構造とすることで、内筒部と筒内配置部の間に形成される隙間部分が十分に小さくなり、インキの漏れを防止できるものと考えた。
そして、この推察を確認すべく、下記の実験2を行った。
【0119】
(実験2)
上記した塗布具1に準じる塗布具を100本作成し、筒内配置部に相当する部分の径方向長さを1.7プラスマイナス0.2mmとした。また、上記と同様に、後方軸部を除いた他の部分の構造を実質的に同一とし、同一のインキを使用した。また、内筒部に相当する部分の内径を2.1mmプラスマイナス0.05mmとした。
そして、上記と同様のインキ漏れの有無を確認するための試験を行った。
【0120】
この実験2の結果、全ての塗布具でインキ漏れが確認されなかった。
また、これらの塗布具から無作為に所定数の塗布具を抽出し、内筒部と後方軸部の間に形成される隙間部分の長さ(上記実施形態のL2に相当する長さ)をそれぞれ測定したところ、その最小値が0.05mmであった。
【0121】
ここで、本発明者は、上記実験2の結果と経験則から、内筒部と後方軸部の間に形成される隙間部分の長さを0.05mm以上とすることで、インキの漏れが発生しない状態になるものと考えた。そして、この考えを検証すべく、下記の実験3及び実験4を実施した。
【0122】
(実験3)
上記した塗布具1に準じる塗布具を100本作成し、筒内配置部に相当する部分の径方向長さを1.9プラスマイナス0.2mmとした。すなわち、上記実験1の結果を受け、一部にインキ漏れが生じ、一部にインキ漏れが生じないことが予測される複数の塗布具を作成した。この実験3においても、上記と同様に、後方軸部を除いた他の部分の構造を実質的に同一とし、同一のインキを使用した。また、内筒部に相当する部分の内径を2.1mmプラスマイナス0.05mmとした。
そして、上記と同様のインキ漏れの有無を確認するための試験を行った。
【0123】
そして、無作為に複数本抽出したインキ漏れが確認されなかった塗布具について、内筒部と後方軸部の間に形成される隙間部分の長さ(上記実施形態のL2に相当する長さ)を測定したところ、その全てが0.05mm以上の長さであった。
【0124】
(実験4)
上記した塗布具1に準じる塗布具を90本作成し、上記と同様のインキ漏れの有無を確認するための試験を行った。
そして、内筒部と後方軸部の間に形成される隙間部分の長さ(上記実施形態のL2に相当する長さ)が異なる塗布具について、それぞれインキ漏れの有無を確認した。
【0125】
この結果、内筒部と後方軸部の間に形成される隙間部分の長さが0.00mm~0.04mmとなる塗布具では、全ての塗布具でインキ漏れが確認された。
対して、同隙間部分の長さが0.05mm~0.07mmとなる塗布具では、全ての塗布具でインキ漏れが確認されず、さらに同隙間部分の長さが0.11mm~0.17mmとなる塗布具でもまたインキ漏れが確認されなかった。
【0126】
以上の実験から、軸筒部2の径方向における隙間部分の長さ(上記したL2の長さ)が、0.04mmより大きい場合、インキ漏れが発生しないことが確認された。また、この結果と経験則から、インキ貯留部の容積を十分に確保すべく、L2の長さを0.04mmより大きく0.5mm以下とすることが好ましいことが判明した。
【符号の説明】
【0127】
1 塗布具
2 軸筒部
3 ペン先部材(塗布体)
4 インキ吸蔵体(塗布液吸蔵体)
10 本体筒部
11 取付用筒部(内側小筒部)
15 連結板部(分断壁部)
25 インキ貯留部(塗布液貯留部)
25a 第1貯留部(小貯留空間)
25b 第2貯留部(小貯留空間)
25c 第3貯留部(小貯留空間)
25d 第4貯留部(小貯留空間)
30 仕切壁部(仕切壁部、突起状部)
31 液連通溝部(液流通孔部)
33 補助当接リブ部(突起状部)
38 空気流通路
38a 後端側開口面(開口部分、対向開口面)
38b 側方側開口面(開口部分)