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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】高流量ガス送気装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20220412BHJP
   A61M 16/06 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
A61M16/00 315
A61M16/06 C
A61M16/00 305B
A61M16/00 305C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018026571
(22)【出願日】2018-02-19
(65)【公開番号】P2019141195
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000138060
【氏名又は名称】株式会社メトラン
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】新田 一福
【審査官】菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-122077(JP,A)
【文献】特開2015-080699(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0199606(US,A1)
【文献】特開平06-197968(JP,A)
【文献】特開2009-050347(JP,A)
【文献】特開2006-061354(JP,A)
【文献】国際公開第2008/091164(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の鼻部近傍に装着される鼻カニュラと、
前記鼻カニュラに酸素を供給する酸素供給路と、
前記鼻カニュラに空気を供給する空気供給路と、
前記空気供給路に空気を送気する空気用送風機と、
前記酸素供給路に酸素を送気する酸素用送風機と、
前記使用者の呼吸を検出する呼吸検出部と、
前記呼吸に同調させて、前記酸素の流量を調整するように前記酸素用送風機を制御する酸素制御部と、
を備え
前記酸素と前記空気は、前記鼻カニュラ近傍に配設される異なる噴出口から噴出され、前記使用者に送気されることを特徴とする高流量ガス送気装置。
【請求項2】
前記空気を高流量で供給するように前記空気用送風機の制御をおこなう空気制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項3】
前記呼吸検出部は、前記使用者の筋電位を測定する筋電位測定部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項4】
前記酸素制御部は、前記使用者が呼気を吐き出す呼気時間領域において、前記酸素の流量を減少させる酸素供給減少期間を有するように前記酸素用送風機の制御をおこなうことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項5】
前記空気制御部は、前記使用者が呼気を吐き出す呼気時間領域において、前記空気の流量を減少させる空気供給減少期間を有するように前記空気用送風機の制御をおこなうことを特徴とする請求項に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項6】
前記空気と前記酸素が混合された混合ガスの流量は、10~60L/分であることを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか一項に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項7】
前記混合ガスは、酸素濃度が21~100%であることを特徴とする請求項6に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項8】
前記酸素を噴出する酸素噴出口は、前記空気を噴出する空気噴出口よりも下流側に位置することを特徴とする請求項1から請求項7に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項9】
前記呼吸検出部は、近赤外光を用いて前記使用者の動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメータを有し、前記酸素制御部は測定された前記動脈血酸素飽和度に基づいて前記酸素の流量を制御することを特徴とする請求項1から請求項のうちのいずれか一項に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項10】
前記呼吸検出部は、前記鼻カニュラ近傍における酸素濃度を測定する酸素濃度測定部を有し、前記酸素制御部は測定された前記酸素濃度に基づいて前記酸素の流量を制御することを特徴とする請求項1から請求項のうちのいずれか一項に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項11】
前記呼吸検出部は、前記鼻カニュラ近傍における二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度測定部を有し、前記酸素制御部は測定された前記二酸化炭素濃度に基づいて前記酸素の流量を制御することを特徴とする請求項1から請求項10のうちのいずれか一項に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項12】
前記使用者に送気される前記空気及び/又は前記酸素を加温及び加湿する加温加湿器を備えることを特徴とする請求項1から請求項11のうちのいずれか一項に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項13】
前記呼吸検出部は、前記鼻カニュラ近傍における湿度を測定する湿度測定部を有し、湿度制御部は測定された前記湿度に基づいて前記加温加湿器を制御することを特徴とする請求項12に記載の高流量ガス送気装置。
【請求項14】
前記酸素は、高濃度酸素を前記空気から生成する酸素濃縮器から供給されることを特徴とする請求項1から請求項13のうちのいずれか一項に記載の高流量ガス送気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者に対して高流量のガスを送気する高流量ガス送気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自発呼吸が困難になった患者に対して人工的に呼吸を補助する人工呼吸療法がおこなわれている。その中でも例えば昏睡状態の患者で、体内への酸素の取り込みや二酸化炭素の排出が不十分な場合には、気管内チューブを用いて確実に気道の確保を行う気管挿管と、人工呼吸器を組み合わせた治療が施される。しかし気管挿管は、肺炎等を発症させる危険性が高く、特に医療技術のレベルが必ずしも高くない発展途上国においては、安全にとりおこなうことが困難な治療法である。
【0003】
近年、気管挿管の代替療法として、鼻カニュラを用いて高濃度の酸素を含むガスを鼻部から供給するハイフローセラピーを用いる手法が広まっている(例えば特許文献1参照)。またCOPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:慢性閉塞性肺疾患)を発症している患者に対しても、このハイフローセラピーは有効である。
【0004】
図6は、ハイフローセラピーに従来から用いられている高流量ガス送気装置201の説明図である。高流量ガス送気装置201は、空気と酸素の混合ガスの流量や酸素濃度を定めるフロージェネレータ209と、送気される混合ガスを加温加湿し、呼吸回路205における結露防止のためのヒーター211の制御をおこなう加温加湿器220と、鼻孔を通して使用者Pへ混合ガスを供給する鼻カニュラ207を備える。フロージェネレータ209には、高濃度の酸素ガスが供給される配管と、高圧の圧縮空気が供給される配管が接続される。使用者は鼻部に鼻カニュラ207を装着し、鼻カニュラ207から高流量の空気と酸素の混合ガスが常時噴射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6005631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしハイフローセラピーを行う際には、空気と高濃度の酸素の送気ガスとして乳幼児の場合であっても10L/分の流量、成人であれば60L/分の流量が常時必要である。高濃度の酸素を大量に供給するためには、酸素ガスが常時供給可能な配管に接続することや、大容量の酸素ガスボンベを用いることが必須となる。そのような設備は病院内でなければ設置され得ず、在宅でこの治療を行うことは難しい。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、大がかりな設備無しにハイフローセラピーが可能な高流量ガス送気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、空気は常時高流量で提供し、主に吸気の期間中に使用者の呼吸に同調させて、酸素を高流量で供給することとする。
【0009】
(1)本発明は、使用者の鼻部近傍に装着される鼻カニュラと、前記鼻カニュラに酸素を供給する酸素供給路と、前記鼻カニュラに空気を供給する空気供給路と、前記空気供給路に空気を送気する空気用送風機と、前記酸素供給路に酸素を送気する酸素用送風機と、前記使用者の呼吸を検出する呼吸検出部と、前記呼吸に同調させて、前記酸素の流量を調整するように前記酸素用送風機を制御する酸素制御部と、前記使用者の呼吸を検出する呼吸検出部と、前記呼吸に同調させて、前記酸素の流量を制御する酸素制御部とを備えることを特徴とする高流量ガス送気装置を提供する。
【0010】
呼吸器官内の気体を撹拌して効率良く換気をするためには、送気するガスの流量は高流量を維持しなければならない。しかし高流量の酸素を常時送気するためには、酸素配管や大型の酸素ボンベなどの大がかりな設備が必要になる。上記(1)に記載の発明によれば、呼吸検出部によって使用者の呼吸を検出して、必要なときに高流量の酸素を供給するように酸素の流量を制御する酸素制御部を備えるので、少ない酸素容量で長時間のハイフローセラピーが可能な高流量ガス送気装置が実現するという優れた効果を奏する。
【0011】
(2)本発明は、前記空気を高流量で供給するように前記空気用送風機の制御をおこなう空気制御部を備えることを特徴とする上記(1)に記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0012】
上記(2)に記載の発明によれば、前記空気を高流量で供給するように前記空気用送風機の制御をおこなう空気制御部を備えるので、ハイフローセラピーを常時行うことができるという優れた効果を奏する。
【0013】
(3)本発明は、前記呼吸検出部は、前記使用者の筋電位を測定する筋電位測定部を有することを特徴とする上記(1)又は上記(2)に記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0014】
上記(3)に記載の発明によれば、呼吸検出部が有する筋電位測定部で呼吸筋の動きを検出できるので、使用者の呼吸を検出でき、呼吸に合わせて酸素の供給を制御でき、供給する酸素を節約できるという優れた効果を奏する。
【0015】
(4)本発明は、前記酸素制御部は、前記使用者が呼気を吐き出す呼気時間領域において、前記酸素の流量を減少させる酸素供給減少期間を有するように前記酸素送風機を制御することを特徴とする上記(1)乃至上記(3)のうちのいずれかに記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0016】
上記(4)に記載の発明によれば、使用者が息を吐き出す呼気時間領域の際に、酸素の流量を減少させることができるので、供給する酸素の総量を減らすことができ、大量の酸素を必要としないですむようになるという優れた効果を奏する。
【0017】
(5)本発明は、前記空気制御部は、前記使用者が呼気を吐き出す前記呼気時間領域において、前記空気の流量を減少させる空気供給減少期間を有するように前記空気送風機を制御することを特徴とする上記(1)乃至上記(4)のうちのいずれかに記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0018】
鼻カニュラからガスが高い圧力で噴出されている状態では、鼻カニュラから供給される送気ガスの湿度、二酸化炭素濃度、酸素濃度等を計測することが難しい。上記(5)に記載の発明によれば、使用者が呼気を吐き出している呼気時間領域において、空気の流量を減少させる空気供給減少期間を有するように空気送風機を制御できるので上記の計測が可能になり、その計測結果をフィードバックして酸素の流量や空気の流量を制御することにより、より適切な内容のガスを送気できるという優れた効果を奏する。
【0019】
(6)本発明は、前記空気と前記酸素が混合された混合ガスの流量は、10~60L/分であることを特徴とする上記(1)乃至上記(5)のうちのいずれかに記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0020】
ハイフローセラピーを行う際には、乳幼児の場合であっても10L/分の流量、成人であれば60L/分の流量が常時必要である。上記(6)に記載の発明によれば、高流量のガスを送気することができるので乳幼児から成人までハイフローセラピーをおこなうことができるという優れた効果を奏する。
【0021】
(7)本発明は、前記混合ガスは、酸素濃度が21~100%であることを特徴とする上記(6)に記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0022】
上記(7)に記載の発明によれば、高流量の酸素を投与し続けることで、鼻咽頭に貯留された二酸化炭素の濃度の高い呼気ガスを外に排出することができる。また上気道も酸素濃度の高いガスで満たすことで一回肺胞換気量を増やすことができるため、呼吸効率が上がり酸素化が改善されるという優れた効果を奏する。
【0023】
(8)本発明は、前記酸素と前記空気は、前記鼻カニュラ近傍に配設される異なる噴出口から噴出され、前記使用者に送気されることを特徴とする上記(1)乃至上記(7)のうちのいずれかに記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0024】
上記(8)に記載の発明によれば、鼻部に接触させる鼻カニュラ近傍に、酸素を供給する酸素噴出口があるので、使用者に供給する酸素濃度を急速に増大させることができるという優れた効果を奏する。
【0025】
(9)本発明は、前記酸素を噴出する酸素噴出口は、前記空気を噴出する空気噴出口よりも下流側に位置することを特徴とする上記(8)に記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0026】
鼻カニュラは大気に開放された系なので、使用者の鼻腔内に効率的に高流量のガスを送気することは簡単ではない。上記(9)に記載の発明によれば、酸素噴出口が、空気噴出口よりも下流側に位置するので、酸素をジェット流で噴出するとその周辺の圧力が下がって空気を取り込むので、指向性を持った酸素と空気の混合ガス流が実現でき、効率よく鼻腔内にガスが送気し得るという優れた効果を奏する。
【0027】
(10)本発明は、前記呼吸検出部は、近赤外光を用いて前記使用者の動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメータを有し、前記酸素制御部は測定された前記動脈血酸素飽和度に基づいて前記酸素の流量を制御することを特徴とする上記(1)乃至上記(9)のうちのいずれかに記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0028】
上記(10)に記載の発明によれば、使用者の動脈血酸素飽和度が低下傾向にある場合に、酸素流量を増加させるといった制御が可能になり、使用者のQOL(Quolity Of Life)を改善することができるという優れた効果を奏する。
【0029】
(11)本発明は、前記呼吸検出部は、前記鼻カニュラ近傍における酸素濃度を測定する酸素濃度測定部を有し、前記酸素制御部は測定された前記酸素濃度に基づいて前記酸素の流量を制御することを特徴とする上記(1)乃至上記(10)のうちのいずれかに記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0030】
上記(11)に記載の発明によれば、呼吸検出部が鼻カニュラ近傍における酸素濃度を測定する酸素濃度測定部を備えるので、鼻部へ送気するガスにおける酸素濃度をモニタリングすることが可能になり、より適切な換気が可能になるという優れた効果を奏する。
【0031】
(12)本発明は、前記呼吸検出部は、前記鼻カニュラ近傍における二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度測定部を有し、前記酸素制御部は測定された前記二酸化炭素濃度に基づいて前記酸素の流量を制御することを特徴とする上記(1)乃至上記(11)のうちのいずれかに記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0032】
上記(12)に記載の発明によれば、呼気に含まれる二酸化炭素の濃度を測定することができ、その二酸化炭素濃度に基づいて酸素の流量を制御することができるので、二酸化炭素の濃度が増大したならば、酸素流量を増大させる制御が可能になり、より適切な換気が可能になるという優れた効果を奏する。
【0033】
(13)本発明は、前記使用者に送気される前記空気及び/又は前記酸素を加温及び加湿する加温加湿器を備えることを特徴とする上記(1)乃至上記(12)のうちのいずれかに記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0034】
呼吸補助のために、使用者の呼吸器にガスを送気する場合、送気されるガスが乾燥をしていると粘膜に障害を与える可能性がある。上記(13)に記載の発明によれば、送気されるガスに水分を与え上述した障害を未然に防ぐことが可能になるという優れた効果を奏する。
【0035】
(14)本発明は、前記呼吸検出部は、前記鼻カニュラ近傍における湿度を測定する湿度測定部を有し、湿度制御部は測定された前記湿度に基づいて前記加温加湿器を制御することを特徴とする上記(13)に記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0036】
上記(14)に記載の発明によれば、鼻カニュラ近傍における湿度を測定することができ、測定された湿度に基づいて加温加湿器を制御することができるので、適切な湿度を有するガスを送気することができるという優れた効果を奏する。
【0037】
(15)本発明は、前記酸素は、高濃度酸素を前記空気から生成する酸素濃縮器から供給されることを特徴とする上記(1)乃至上記(14)のうちのいずれかに記載の高流量ガス送気装置を提供する。
【0038】
上記(15)に記載の発明によれば、酸素ガスが常時供給可能な配管に接続することや、大容量の酸素ボンベを用意すること無しに、高濃度酸素を用いたハイフローセラピーを行い得る高流量ガス送気装置を実現できるという優れた効果を奏する。
【発明の効果】
【0039】
本発明の請求項1~15記載の高流量ガス送気装置によれば、必要なときだけ高流量の酸素を供給するように制御することができるので、少ない酸素容量で長時間のハイフローセラピーが可能な高流量ガス送気装置を実現できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置の説明図である。
図2】高流量ガス送気装置の構成図である。
図3】(A)本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置が有する鼻カニュラの斜視図である。(B)鼻カニュラにおける酸素噴出口と空気噴出口の位置関係を説明する説明図である。
図4】(A)使用者の呼吸と酸素供給の関係を説明するタイミングチャートである。(B)使用者の呼吸と空気供給の関係を説明するタイミングチャートである。
図5】(A)変形実施例における鼻カニュラ挿入部の断面図である。(B)変形実施例における鼻カニュラの斜視図である。
図6】ハイフローセラピーに従来から用いられている高流量ガス送気装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0042】
図1図5は発明を実施する形態の一例であって、図中、同一の符号を付した部分は同一物を表わす。なお、各図において一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。そして、部材の大きさ、形状、厚みなどを適宜誇張して表現する。
【0043】
図1は、本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1の説明図である。高流量ガス送気装置1は、装置本体3と、装置本体3に接続されて使用者Pにガスを送気するための呼吸回路5を備える。装置本体3には吸気口10が設けられ、空気を吸い込む。また呼吸回路5の端部には鼻カニュラ7を有し、鼻カニュラ7から使用者Pへ、高流量の空気と酸素の混合ガスが送気される。また呼吸回路5は、呼吸回路5内部における結露防止用のヒーター9を備える。呼吸回路5中で結露した水分が液体のまま、高速で鼻部を通して呼吸器官に到達することは、粘膜にとっては障害の原因になり得る。結露防止用のヒーター9を設けることで、このような障害を未然に防ぐことができる。
【0044】
図2は、高流量ガス送気装置1の構成図である。実線は気体の流れを表し、破線は制御信号線等を表す。高流量ガス送気装置1は、高濃度酸素を空気から生成する酸素濃縮器15と、酸素を送気する酸素用送風機20と、酸素用送風機20から使用者Pに送気される酸素の流量を制御する酸素制御部25を備える。また高流量ガス送気装置1は、空気を吸い込んで送気する空気用送風機30と、空気用送風機30から使用者Pに送気される空気の流量を制御する空気制御部35を備える。具体的には、酸素制御部25は、呼吸検出部45で検出された使用者Pの呼吸に合わせて、使用者Pに送気する酸素の流量を制御する。また空気制御部35は、空気を高流量で供給するよう空気用送風機30の制御をおこなう。
【0045】
すなわち高流量ガス送気装置1は、使用者Pの鼻部近傍に装着される鼻カニュラ7と、鼻カニュラ7に酸素を供給する酸素供給路(図示省略)と、鼻カニュラ7に空気を供給する空気供給路(図示省略)と、空気供給路に空気を送気する空気用送風機30と、使用者Pの呼吸を検出する呼吸検出部45と、呼吸検出部45で検出される呼吸に同調させて、酸素の流量を制御する酸素制御部25とを備える。また高流量ガス送気装置1は、空気の流量を制御する空気制御部35をさらに備える。
【0046】
鼻カニュラ7から供給される、空気と酸素が混合された混合ガスの流量は、10~60L/分である。また混合ガスにおける酸素濃度は21~100%である。
【0047】
高流量ガス送気装置1は、使用者Pに送気される空気及び/又は酸素を加温及び加湿する加温加湿器40を備える。具体的には、酸素と空気は、それぞれ加温加湿器40で、例えば37℃に加温され、さらに加湿されて相対湿度100%にされる。酸素は呼吸回路5に設けられた酸素供給路(図示省略)を通じて鼻カニュラ7に送気される。また空気も呼吸回路5に設けられた空気供給路(図示省略)を通じて鼻カニュラ7に送気される。使用者Pは鼻カニュラ7を装着することで、鼻部から酸素と空気の混合ガスを供給される。
【0048】
呼吸検出部45は、使用者Pの胸部に筋電位を測定する筋電位測定部を有することが好ましい。筋電位を測定することで、使用者Pの呼吸が呼気状態なのか、吸気状態なのか等を識別することができるからである。
【0049】
呼吸検出部45は、鼻カニュラ7近傍における酸素濃度を測定する酸素濃度測定部(図示省略)を有し、酸素制御部25は測定された酸素濃度に基づいて酸素の流量を調整するように酸素用送風機を制御することが好ましい。
【0050】
呼吸検出部45は、鼻カニュラ7近傍における二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度測定部(図示省略)を有し、酸素制御部25は測定された二酸化炭素濃度に基づいて酸素の流量を調整するように酸素用送風機20を制御することが好ましい。
【0051】
なお二酸化炭素濃度に基づいて、空気の流量を調整するように空気用送風機30の制御を空気制御部35がおこなってもよい。
【0052】
呼吸検出部45は、近赤外光を用いて使用者Pの動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメータ(図示省略)を有し、酸素制御部25は、測定された動脈血酸素飽和度に基づいて酸素の流量を調整するように酸素用送風機20を制御することが好ましい。
【0053】
なお動脈血酸素飽和度に基づいて、空気の流量を調整するように空気用送風機30の制御を空気制御部35がおこなってもよい。
【0054】
呼吸検出部45は、鼻カニュラ7近傍における湿度を測定する湿度測定部(図示省略)を有し、湿度制御部(図示省略)は測定された湿度に基づいて加温加湿器を制御することが好ましい。
【0055】
酸素制御部25、空気制御部35、湿度制御部(図示省略)はCPU、RAMおよびROMなどから構成され、各種制御を実行する。CPUはいわゆる中央演算処理装置であり、各種プログラムが実行されて様々な機能を実現する。RAMはCPUの作業領域、記憶領域として使用され、ROMはCPUで実行されるオペレーティングシステムやプログラムを記憶する。
【0056】
なお酸素濃縮器15は、空気中の酸素と窒素を分離するPSA(Pressure Swing Adsorption)方式が好ましい。
【0057】
図3(A)は、本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1が有する鼻カニュラ7の斜視図である。呼吸回路5(図2参照)から接続される酸素供給路50と空気供給路55はハウジング70を通して鼻孔に挿入される挿入部67まで延設される。
【0058】
酸素と空気は、鼻カニュラ7近傍に配設される異なる噴出口から噴出される。具体的には、挿入部67の端部には、空気噴出口65と酸素噴出口60が設けられ、それぞれ鼻孔へ空気と酸素を供給する。
【0059】
鼻部に接触させる鼻カニュラ7近傍に、酸素を供給する酸素噴出口60があるので、使用者に供給する酸素濃度を急速に増大させることができるという優れた効果を奏する。
【0060】
図3(B)は、鼻カニュラ7における酸素噴出口60と空気噴出口65の位置関係を説明する説明図である。酸素を噴出する酸素噴出口60は、空気を噴出する空気噴出口65よりも下流側に位置する。
【0061】
鼻カニュラ7は大気に開放された系なので、使用者の鼻腔内に効率よく高流量のガスを送気することは簡単ではない。このような配置にすれば、酸素噴出口60が、空気噴出口65よりも下流側に位置するので、酸素をジェット流で噴出するとその周辺の圧力が下がって空気を取り込み、指向性を持った酸素と空気の混合ガス流が実現でき、効率よく鼻腔内にガスが送気し得るという優れた効果を奏する。
【0062】
図4(A)は、使用者の呼吸と酸素供給の関係を説明するタイミングチャートである。横軸は時間であり、縦軸は実線で表される酸素流量75については流量である。また縦軸は、破線で表される呼吸80については、例えば呼吸検出部45が有する筋電位測定部が測定する呼吸筋の筋電位であり、具体的には図4(A)では、正の値の時が呼気を表すとする。本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1は、具体的には使用者Pの鼻部近傍に装着される鼻カニュラ7(図1参照)と、鼻カニュラ7に酸素を供給する酸素供給路50(図3(A)参照)と、鼻カニュラ7に空気を供給する空気供給路55(図3(A)参照)と、空気供給路55に空気を送気する空気用送風機30と、酸素供給路50に酸素を送気する酸素用送風機20と、使用者Pの呼吸タイミングを検出する呼吸検出部45(図2参照)と、使用者Pの呼吸タイミングに同調させて、酸素の流量を調整するように酸素用送風機を制御する酸素制御部25(図2参照)とを備える。
【0063】
吸気時間領域90では酸素供給路50から供給される酸素流量75は増加して、酸素濃度は例えば21%以上の値となり、呼気時間領域95における酸素供給減少期間93では酸素流量75は減少する。具体的には、高流量ガス送気装置1では、酸素制御部25(図2参照)は、使用者Pが呼気を吐き出す呼気時間領域95のうちの酸素供給減少期間93において、前記酸素の流量を減少させるように酸素用送風機20を制御する。
【0064】
呼吸器官内の気体を撹拌して効率良く換気をするためには、送気するガスの流量は高流量を維持しなければならない。しかし高流量の酸素を常時送気するためには、酸素配管や大型の酸素ボンベなどの大がかりな設備が必要になる。本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、呼吸検出部45によって使用者Pの呼吸を検出して、必要なときに高流量の酸素を供給するように酸素の流量を制御する酸素制御部25を備えるので、少ない酸素容量で長時間のハイフローセラピーが可能な高流量ガス送気装置1が実現するという優れた効果を奏する。
【0065】
図4(B)は、使用者Pの呼吸と空気供給の関係を説明するタイミングチャートである。横軸は時間であり、縦軸は実線で表される空気流量85については流量である。また縦軸は、破線で表される呼吸80については、例えば呼吸検出部45が有する筋電位測定部が測定する呼吸筋の筋電位であり、正の値の時が呼気を表すとする。
【0066】
吸気時間領域90の全体と、呼気時間領域95の大部分の時間領域において、空気の供給は、略一定に高流量でおこなわれ、使用者が呼気を吐き出す呼気時間領域95のうちの空気供給減少期間100において、空気供給路55から供給される空気の流量を減少させるように空気制御部35が空気用送風機30を制御する。
【0067】
鼻カニュラ7からガスが高い圧力で噴出されている状態では、鼻カニュラ7から供給される送気ガスの湿度、二酸化炭素濃度、酸素濃度等を計測することが難しい。本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、使用者Pが呼気を吐き出している呼気時間領域95において、空気供給減少期間100の間、空気の流量を減少させることができるので、上記の計測が可能になり、その計測結果に基づいて酸素用送風機20や空気用送風機30や加温加湿器40をフィードバック制御することで酸素の流量や空気の流量を調整し、適切な内容のガスを送気できるという優れた効果を奏する。
【0068】
本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、呼吸検出部45が有する筋電位測定部で呼吸筋の動きを検出できるので、使用者Pの呼吸を検出でき、呼吸に合わせて酸素の供給を制御でき、供給する酸素を節約できるという優れた効果を奏する。
【0069】
本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、使用者Pが息を吐き出す呼気時間領域95の際に、酸素の流量を減少させる酸素供給減少期間93を有するので、供給する酸素の総量を減らすことができ、大量の酸素を必要としないですむようになるという優れた効果を奏する。
【0070】
ハイフローセラピーを行う際には、乳幼児の場合であっても10L/分の流量、成人であれば60L/分の流量が常時必要である。本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、高流量のガスを送気することができるので乳幼児から成人までハイフローセラピーをおこなうことができるという優れた効果を奏する。
【0071】
本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、高流量の酸素を投与し続けることで、鼻咽頭に貯留された二酸化炭素の濃度の高い呼気ガスを外に排出することができる。また上気道も酸素濃度の高いガスで満たすことで一回肺胞換気量を増やすことができるため、呼吸効率が上がり酸素化が改善されるという優れた効果を奏する。
【0072】
本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、鼻部に接触させる鼻カニュラ7近傍に、酸素を供給する酸素噴出口60があるので、使用者に供給する酸素濃度を急速に増大させることができるという優れた効果を奏する。
【0073】
本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、使用者の動脈血酸素飽和度が低下傾向にある場合に、酸素流量を増加させるといった制御が可能になり、使用者のQOL(Quolity Of Life)を改善することができるという優れた効果を奏する。
【0074】
本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、呼吸検出部45が鼻カニュラ7近傍における酸素濃度を測定する酸素濃度測定部を備えるので、鼻部へ送気するガスにおける酸素濃度をモニタリングすることが可能になり、より適切な換気が可能になるという優れた効果を奏する。
【0075】
本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、呼気に含まれる二酸化炭素の濃度を測定することができ、その二酸化炭素濃度に基づいて酸素の流量を制御することができるので、二酸化炭素の濃度が増大したならば、酸素流量を増大させる制御が可能になり、より適切な換気が可能になるという優れた効果を奏する。
【0076】
呼吸補助のために、使用者Pの呼吸器にガスを送気する場合、送気されるガスが乾燥をしていると粘膜に障害を与える可能性がある。本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、送気されるガスに水分を与え上述した障害を未然に防ぐことが可能になるという優れた効果を奏する。
【0077】
本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、鼻カニュラ7近傍における湿度を測定することができ、測定された湿度に基づいて加温加湿器40を制御することができるので、適切な湿度を有するガスを送気することができるという優れた効果を奏する。
【0078】
本発明の実施形態に係る高流量ガス送気装置1によれば、酸素ガスが常時供給可能な配管に接続することや、大容量の酸素ボンベを用意すること無しに、高濃度酸素を用いたハイフローセラピーを行い得る高流量ガス送気装置を実現できるという優れた効果を奏する。
【0079】
尚、本発明の高流量ガス送気装置1は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0080】
例えば、鼻カニュラ7の挿入部67の形状については、様々な形状が考えられる。図5(A)は、鼻カニュラ7の挿入部67についての変形実施例の断面図である。酸素噴出口60と空気噴出口65は一体成型されている。
【0081】
また、図5(B)は、別の変形実施例に係る鼻カニュラ7の斜視図である。本変形実施例では、酸素供給路50と空気供給路55は、ハウジング70よりも上流で合流し、呼吸回路5としてハウジング70に、空気と酸素の混合ガスを供給する。そしてハウジング70には、鼻カニュラ7近傍気体の内容を分析するためのガス検出路110が接続される。ガス検出路110には、酸素濃度測定部、二酸化炭素濃度測定部、湿度測定部、温度計等が接続され、それらの測定結果に基づいて酸素用送風機20、空気用送風機30、加温加湿器40等がフィードバック制御されることで、より適切な混合ガスを送気することが可能になる。ガス検出路110は、ハウジング70内部よりも低圧に制御されることが好ましい。
【符号の説明】
【0082】
1 高流量ガス送気装置
3 装置本体
5 呼吸回路
7 鼻カニュラ
9 ヒーター
10 吸気口
15 酸素濃縮器
20 酸素用送風機
25 酸素制御部
30 空気用送風機
35 空気制御部
40 加温加湿器
45 呼吸検出部
50 酸素供給路
55 空気供給路
60 酸素噴出口
65 空気噴出口
67 挿入部
70 ハウジング
75 酸素流量
80 呼吸
85 空気流量
90 吸気時間領域
93 酸素供給減少期間
95 呼気時間領域
100 空気供給減少期間
105 混合ガス噴出口
110 ガス検出路
201 高流量ガス送気装置
205 呼吸回路
207 鼻カニュラ
209 フロージェネレータ
211 ヒーター
220 加温加湿器
P 使用者
図1
図2
図3
図4
図5
図6