(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20220412BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
F16J15/10 C
F16J15/10 T
(21)【出願番号】P 2018074460
(22)【出願日】2018-04-09
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000209599
【氏名又は名称】株式会社タンケンシールセーコウ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】永田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】石川 久
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-178560(JP,U)
【文献】実開昭63-132173(JP,U)
【文献】特開昭59-009367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
F16J 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定された回転環と該回転軸が貫通する本体に連結された静止環との間の摺動接触によって、前記回転軸の周囲をシールするメカニカルシールであって、
前記回転環および静止環の一方を、前記回転環および静止環の他方に向けて付勢する付勢装置と、
前記付勢装置によって付勢されている回転環または静止環側部材と、前記本体側または前記回転軸側の部材との間を封止する封止部と、を備え、
前記封止部が、メインシールリングと、該メインシールリングの機内側に該メインシールリングと並列的に配置されたダストカットシールリングとを有し、
前記メインシールリングは、前記付勢装置によって付勢されている回転環または静止環側部材に形成され、該メインシールリングの線径より大きな軸線方向長さを有するメインシールリング溝に収容され、
前記ダストカットシールリングは、前記メインシールリング溝に隣接して配置され該ダストカットシールリングの線径と略等しい軸線方向長さを有するダストカットシールリング溝に収容されている、
ことを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】
前記ダストカットシールリング溝と前記メインシールリング溝とは第1の壁で区切られ、該第1の壁は前記回転軸側または前記本体側の部材との間に第1の間隙を形成し、
前記ダストカットシールリング溝は、前記第1の壁と軸線方向反対側が第2の壁で区切られ、該第2の壁は前記回転軸側または前記本体側の部材との間に前記第1の間隙より大きく且つ前記ダストカットシールリングの線径より小さな第2間隙を形成している、
請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記ダストカットシールリングは、前記メインシールリングより小さな締代を有している、
請求項1または2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記メインシールリングと前記ダストカットシールリングの間にグリスが充填されている、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関し、詳細には、回転軸周りの封止に使用されるメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ等の回転軸回りを封止するメカニカルシールが知られている。メカニカルシールでは、回転軸側に固定された回転側の回転環と、ポンプ本体等の静止側に固定された静止側の静止環とを摺動接触させてシールを行っている。
【0003】
このようなメカニカルシールは、雨水ポンプ、河川水ポンプ等の泥、スラリー等の微粒子を多量に含む流体を取扱うポンプに使用される場合がある。このようなポンプで使用されるメカニカルシールでは、ポンプが取扱う水の中の泥等の微粒子が、メカニカルシール内の2次シール(作動用シールリング)等の作動部分に付着し易い。そして、ポンプの性質上、運転頻度が非常に少ないため、作動部分に付着した泥等の微粒子が乾燥固着し、メカニカルシールの性能低下を引き起こすという問題が発生していた。
【0004】
このような問題に対処するため、作動用シールリング近傍へのスラリーの侵入を防止すべく、2次シール用のシールリングの機内側に、柔軟で弾力性がある環状の軟質目詰材(ショア硬度3~30)を配置した構成が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成では、環状の軟質目詰材によって2次シール用のシールリング近傍へのスラリーの侵入を抑制することができるが、目詰材の硬度が制約されるため設計の自由度が低く、さらに、逆圧が発生した場合に、2次シール用のシールリングが機内側に移動し、部分的に締代が変わり、漏洩が生じる可能性がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、設計の自由度が高く、逆圧が発生した場合にも漏洩が生じ難いメカニカルシールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好ましい態様によれば、
回転軸に固定された回転環と該回転軸が貫通する本体に固定された静止環との間の摺動接触によって、前記回転軸の周囲をシールするメカニカルシールであって、
前記回転環および静止環の一方を、前記回転環および静止環の他方に向けて付勢する付勢装置と、
前記付勢装置によって付勢されている回転環または静止環側部材と、前記本体側または前記回転軸側の部材との間を封止する封止部と、を備え、
前記封止部が、メインシールリングと、該メインシールリングの機内側に該メインシールリングと並列的に配置されたダストカットシールリングとを有し、
前記メインシールリングは、前記付勢装置によって付勢されている回転環または静止環側部材に形成され、該メインシールリングの線径より大きな軸線方向長さを有するメインシールリング溝に収容され、
前記ダストカットシールリングは、前記メインシールリング溝に隣接して配置され該ダストカットシールリングの線径と略等しい軸線方向長さを有するダストカットシールリング溝に収容されている、
ことを特徴とするメカニカルシールが提供される。
【0009】
このような構成によれば、機内側に負圧となる逆圧状態においても、ダストカットシールリングが機内側に移動することが抑制され、漏洩が生じ難くなる。
【0010】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記ダストカットシールリング溝と前記メインシールリング溝とは第1の壁で区切られ、該第1の壁は前記回転軸側または前記本体側の部材との間に第1の間隙を形成し、
前記ダストカットシールリング溝は、前記第1の壁と軸線方向反対側が第2の壁で区切られ、該第2の壁は前記回転軸側または前記本体側の部材との間に前記第1の間隙より大きく且つ前記ダストカットシールリングの線径より小さな第2間隙を形成している。
【0011】
このような構成によれば、機内側が負圧となる逆圧状態においても、ダストカットシールリングが機内側に外れることが防止され、メカニカルシールの安定性が高まる。
【0012】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記ダストカットシールリングは、前記メインシールリングより小さな締代を有している。
【0013】
このような構成によれば、ダストカットシールリングは圧力をシールすることはできないが、スラリーがメインシールリング側に侵入することを防止できる。
又、ダストカットシールリングの締め代を小さくすることにより、ダストカットシールリングが、回転環または静止環側部材に対して押しつけられた際の軸線方向接触長さが短くなるため、泥等の噛込み長さも短くなる。この結果、ダストカットシールリングの軸線方向移動時に噛込みの影響が、低減され、ダストカットシールリングの追従性が確保される。
【0014】
このような構成によれば、入手し易い材料でメカニカルシールを構成することが可能となり、コストが低減される。
【0015】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記メインシールリングと前記ダストカットシールリングの間にグリスが充填されている。
【0016】
このような構成によれば、グリスによって、メインシールリングの潤滑性を向上させられメインシールリングの追従性が確保される。また、万が一ダストカットシールリングよりスラリーが侵入した場合でもグリスがスラリーを捕らえるので、メインシールリングにスラリーが固着しにくくなる。
【発明の効果】
【0017】
このような構成によれば、設計の自由度が高く、逆圧が発生した場合にも漏洩が生じ難いメカニカルシールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態のメカニカルシールが回転軸に取付けられた状態の断面図である。
【
図2】
図1のメカニカルシールの封止部を拡大した断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態のメカニカルシールが回転軸に取付けられた状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に沿って、本発明の第1実施形態のメカニカルシールを説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態のメカニカルシール1が回転軸Sに取付けられた状態を示す断面図である。
【0021】
本実施形態のメカニカルシール1は、回転軸を有するポンプ等の回転機器の回転軸Sと、回転軸Sが貫通して延びる回転機器のケーシング壁2との間を密封するシールである。尚、メカニカルシール1の各構成要素の材質等は、基本的に従来技術のメカニカルシールの構成要素の材質と同一あるいは類似のものである。
【0022】
本実施形態のメカニカルシール1は、回転軸Sを有するポンプ等の回転機器のケーシング壁2に連結固定された略円筒状の静止側カバー(グランドカバー)4を備えている。静止側カバー4の径方向内方側には、大気側方向に延びる円筒状のシートバックメタル6が、ボルト7等の固定手段により固定されている。シートバックメタル6の軸線方向大気側先端には、摺動面を構成する円環状の静止環8が、ボルト10、フェース押さえ11等の固定手段により取付けられている。
【0023】
一方、回転軸Sの大気側部分の外周には、円筒状のスリーブ(カラー)12が固定されている。このスリーブ12の軸線方向機内側先端には、シールリング14を介して、円環状の回転環16が、ボルト18等の固定手段により連結固定されている。静止環8と回転環16とは先端面が摺動接触し、摺動接触面(シール面)を形成するように構成されている。静止環8および回転環16は、従来技術のメカニカルシールと同様にカーボン等の材質で構成されている。
【0024】
本実施態様のメカニカルシール1では、シートバックメタル6が、図示しないバネ等の付勢手段により、シートバックメタル6を介して、回転環16に向けて軸線方向外方(大気側方向)方向に付勢されている。その結果、シートバックメタル6の軸線方向大気側先端に取付けられている静止環8が、この付勢手段によって、回転環16に向けて付勢されていることになる。
【0025】
上述したように、メカニカルシール1では、付勢手段によって回転環16方向に付勢されている静止環8に連結された部材であるシートバックメタル6と、メカニカルシール1の本体である静止側カバー(グランドカバー)4との間に、Oリング20、22等を含む封止部24が形成されている。
【0026】
図2は封止部24を拡大した断面図である。
図1および
図2に示されているように、封止部24は、メインOリング(シールリング)20と、メインOリング(シールリング)20の機内側にメインシールリング20と並列的に配置されたダストカットOリング(シールリング)22とを有している。
【0027】
メインOリング(シールリング)20は、メインOリング溝26に収容され、ダストカットOリング(シールリング)22は、メインOリング溝26の機内側に配置されたダストカットOリング溝28に収容されている。
【0028】
メインOリング溝26は、メインOリング20の線径より大きな軸線方向長さと、メインOリング20の線径より僅かに浅い深さを有する矩形断面の環状溝である。
このため、メインOリング20は、メインOリング溝26内で軸線方向に移動可能とされている。
【0029】
また、ダストカットOリング溝28は、ダストカットOリング22の線径より僅かに大きな軸線方向長さと、ダストカットOリング22の断面直径より僅かに浅い深さを有する矩形断面の環状溝である。
この結果、ダストカットOリングは、ダストカットOリング溝28内で軸線方向に移動可能となる。
【0030】
メインOリング溝26およびダストカットOリング溝28は、シートバックメタル6の外周面に、シートバックメタル6の軸線と直交する方向即ち周方向に延びるように形成され、径方向の延びる第1の周壁30で区切られている。
【0031】
ダストカットOリング溝28は、第1の周壁30と軸線方向反対側(機内側)が第2の周壁32で画定されている。
【0032】
第1の周壁30の先端(径方向外方端)と静止側カバー4との間には、第1の間隙G1が形成されている。
本実施形態では、間隙G1は、0.25~0.35mm程度に設定されている。
【0033】
また、第2の周壁32の先端(径方向外方端)と静止側カバー4との間には、第2の間隙G2が形成されている。第2の間隙G2は、第1の間隙G1より大きく、且つダストカットOリング22の線径より小さな寸法を有している。
【0034】
本実施態様のメカニカルシール1では、メインOリング20およびダストカットOリング22は、フッ素ゴムで形成されているが、他の材料で構成されたOリングでもよい。また、断面形状がV字状のリング、あるいはX字状のリング等の他のシールリングを使用することもできる。
【0035】
本実施態様のメカニカルシール1では、ダストカットOリング22は、メインOリングより小さな線径を有している。具体的には、本実施態様のメカニカルシール1では、ダストカットOリング22の線径は、1.5~9.0mm程度が好ましく、2.5~7.0mm程度がさらに好ましい。
【0036】
本実施形態では、メインOリング20の線径は、1.5~9.0mm、好ましくは5.5~9.0mmである。
また、ダストカットOリング22の線径は、メインOリング20の線径と、等しいか、あるいは、その1/6程度までに設定されている。即ち、ダストカットOリングの線径は、メインOリング20の線径の1/6~1に設定されている。
【0037】
本実施態様のメカニカルシール1では、ダストカットOリング22は、メインOリング20より小さな締め代を有している。具体的には、ダストカットOリング22の締め代は、1~5%程度が好ましく、1.5~4%程度がさらに好ましい。
【0038】
本実施形態のメカニカルシール1では、メインOリング20の締め代は、7.0~16%程度が好ましく、より好ましいのは7.5~9.0%程度である。
また、メインOリング20の締め代とダストカットOリング22の締め代の比率は、1/13~1/5程度が好ましい。
【0039】
さらに、本実施形態のメカニカルシール1では、メインOリング20とダストカットOリング22の間の空間にシリコングリスが充填されている。
本実施形態のメカニカルシール1では、シリコングリスは、メインOリング溝26とダストカットOリング溝28と、メインOリング溝26およびダストカットOリング溝28の間の間隙G1とに充填されている。
【0040】
本実施態様のメカニカルシール1では、機内側のシールであるダストカットOリング22によって、処理水中の泥等の微粒子がメインOリング20側に流入することが阻止される。したがって、メインOリング20近傍に泥等が付着固化することが防止され、メインOリング20の軸線方向への移動が阻害されることがなくなり、メインOリング20近傍における泥等の固化に起因する漏洩が抑制される。
【0041】
次に、本発明の第2の実施形態のメカニカルシール50について説明する。第2の実施形態のメカニカルシール50は、回転軸Sを有するポンプ等の回転機器の回転軸Sと、回転軸が貫通して延びる回転機器のケーシング壁52との間を密封するシールであり、2つの摺動面が設けられている所謂ダブルシールである。尚、メカニカルシール50の各構成要素の材質等も、従来技術のメカニカルシールの構成要素の材質を同一あるいは類似のものである。
【0042】
第1の実施形態のメカニカルシール1と同様に、本実施形態のメカニカルシール50も、回転軸Sを有するポンプ等の回転機器のケーシング壁52に連結固定された略円筒状の静止側カバー54を備えている。静止側カバー54の径方向内方側には、Oリング56を介して、円環状の第1静止環58が取付けられている。
【0043】
回転軸Sの外周には、円筒状のスリーブ60が固定されている。このスリーブ60の外周面の軸線方向機内側端部には、2つのOリング62、64等を含む封止部66を有する円環状の第1回転環68が連結固定されている。
【0044】
第1回転環68の軸線方向機内側端は、第1静止環58の軸線方向大気側端面と当接し、メカニカルシール50の第1のシール面(摺動接触面)を形成するように構成されている。
【0045】
また、スリーブ60の軸線方向大気側の位置には、Oリング70を介して、円環状の第2の回転環72が連結固定されている。
【0046】
一方、静止側カバー54の径方向内方側の第1静止環58の軸線方向大気側の位置には、円環状の第2静止環74が配置されている。第2静止環74は、円筒状のケーシング76を介して静止側カバー54に連結され、中央の空間部を回転軸Sが貫通して延びるように配置されている。
【0047】
第2回転環72の軸線方向大気側端面は、第2静止環74の軸線方向機内側端面と当接し、メカニカルシール50の第2のシール面(摺動接触面)を形成するように構成されている。
【0048】
本実施態様のメカニカルシール50では、第1回転環68および第2回転環72が、スプリング78によって、第1静止環58と第2静止環74に向けて機内方向および大気方向に、それぞれ付勢されるように構成されている。
【0049】
封止部66を構成する2つのOリング62、64は、大気側のメインOリング62と機内側のダストカットOリング64であり、第1の実施形態のメカニカルシール1と同様にそれぞれが、メインOリング溝80およびダストカットOリング溝82に収容されている。
【0050】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で種々の変更又は変形が可能である。
【0051】
上記実施形態では、メインシールリングおよびダストカットシールリングとして使用されるリングが、いずれもOリング(メインOリング20、ダストカットOリング22)であったが、メインシールリングおよびダストカットシールリングとしてOリング以外のシールリングを使用してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1、50:メカニカルシールシール
2、52:ケーシング壁
4、54:静止側カバー(グランドカバー)
6:シートバックメタル
8:静止環
12:円筒状のスリーブ(カラー)
14:シールリング
16:回転環
20:メインOリング(シールリング)
22:ダストカットOリング(シールリング)
24:封止部
26:メインOリング溝
28:ダストカットOリング溝
30:第1の周壁
32:第2の周壁