(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】血管痙縮の治療
(51)【国際特許分類】
A61F 2/90 20130101AFI20220412BHJP
【FI】
A61F2/90
(21)【出願番号】P 2018562307
(86)(22)【出願日】2017-06-01
(86)【国際出願番号】 EP2017063302
(87)【国際公開番号】W WO2017207689
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-06-01
(31)【優先権主張番号】102016110199.0
(32)【優先日】2016-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518177995
【氏名又は名称】フェムトス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】femtos GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】リービッヒ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】モンシュタット,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンケス,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ハンネス,ラルフ
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-005343(JP,A)
【文献】特表2015-504735(JP,A)
【文献】特開2010-264261(JP,A)
【文献】特表2012-532687(JP,A)
【文献】特表2006-521881(JP,A)
【文献】特表2012-510352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管痙縮の治療に使用するためのデバイスであって、人又は動物体の血管内への挿入用のステント構造体(2)を備え、
該ステント構造体(2)は、血管の内壁と接触する拡張状態と、マイクロカテーテル内に位置するステント構造体を血管内で移動させることができる収縮状態とをとり、該ステント構造体(2)は、その近位端でデリバリー補助手段(3)と接続しており、
前記ステント構造体(2)は、近位セクション(7)、中央セクション(8)、及び遠位セクション(9)を有し、前記近位セクション(7)は、ステント構造体(2)がデリバリー補助手段(3)に接続する近位端を包含し、拡張したステント構造体(2)は、前記近位端を除いてその全長にわたり本質的に一定の半径方向力を及ぼし、
拡張したステント構造体(2)が半径方向外側に及ぼす力は5N/mと8N/mの間であり、
前記ステント構造体(2)は、デリバリー補助手段(3)によって血管痙縮が生じている部位に移動され、そこで拡張し、1~10分間その部位に放置され、その後に血管から取り除かれる、デバイス。
【請求項2】
前記ステント構造体(2)は、相互連結した個々の支柱、又はメッシュ構造を形成する個々のワイヤからなる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記ステント構造体(2)は、自己拡張型デザインであり、マイクロカテーテルから解放されるとすぐにその拡張状態を自動的にとる、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記ステント構造体(2)は、個々の支柱又はワイヤの間に位置する開口部を備え、該開口部は、拡張状態で0.1mmと6mmの間の範囲の内接円径を有する、請求項2又は3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記支柱又はワイヤは、本質的に長方形断面の場合30μmと300μmの間の高さ及び幅を有し、円形断面の場合30μmと300μmの間の範囲の直径を有する、請求項2~4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
ステント構造体(2)の中心に、近位端及び/又は遠位端において支柱又はワイヤが配置されていない、請求項2~5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
ステント構造体(2)の中心に、近位端及び/又は遠位端において支柱又はワイヤが配置されている、請求項2~5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記ステント構造体(2)の内側に抗血栓形成性コーティングが施されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記ステント構造体(2)の外側に血管弛緩を促進するコーティングが施されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記ステント構造体(2)は、全体又は部分的に、X線不透過コーティングを備える、請求項1~9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記近位セクション(7)及び遠位セクション(9)における支柱又はワイヤは、中央セクション(8)におけるよりも大きな断面を有する、請求項
2~10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記近位セクション(7)及び遠位セクション(9)における支柱又はワイヤの密度は、中央セクション(8)におけるよりも高い、請求項
2~11のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人又は動物体の血管内への挿入用のステント構造体を備えたデバイスであって、前記ステント構造体は、血管の内壁と接触する拡張状態と、マイクロカテーテル内に位置するステント構造体を血管内で移動させることができる収縮状態とをとり、ステント構造体は好ましくはその近位端でデリバリー補助手段と接続している、デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
血管内人工器官、いわゆるステントは、血管狭窄の治療によく用いられ、血管内腔を広げた状態に維持する目的でその狭窄位置に永久的に埋め込まれる。典型的には、ステントは管状構造を有し、間に開口部を有する支柱(braces)からなる表面を形成するようにレーザ切断により作製されるか、或いはそれらはワイヤの編み込みからなる。ステントをそれらが拡張される留置部位までカテーテルによって動かすことができる:形状記憶材料でできている自己拡張型ステントの場合には、拡張及び血管内壁との接触が自動的に生じる。或いは、ステントは、ステントを圧着させたバルーンの助けを借りて、或いは他の機械的方法によって拡張され得る。最終的な留置の後、ステントのみが標的部位に残る;カテーテル、ガイド又はプッシャワイヤ、及び他の補助手段は血管系から除かれる。
【0003】
基本的に類似するデザインのインプラントが、動脈瘤の閉塞にも用いられ、動脈瘤のネック(根元部分)の前に留置される。しかしながら、そのような分流器は、狭窄の解消のためのステントよりも高い表面密度を有する。分流器の例は特許文献1に記載されている。
【0004】
血管の痙攣性収縮は血管痙縮として知られている。血管痙縮は、最早血液が下流血管に供給されない(虚血の)危険を伴い、それによって潅流を絶たれる組織の壊死につながり得る。特に、脳領域の血管痙縮が、クモ膜下出血の数日後に生じ得る。これに関して、血管痙縮は、動脈瘤の破裂及び/又はそれからの出血の後に或いは手術の結果として生じるこの領域における卒中或いはさらには死亡の主な理由の1つである。
【0005】
通常、血管痙縮は、薬物療法、特にカルシウムチャネル遮断薬により治療され、或いは、血中のNOレベルを高める薬剤が用いられる。カルシウムチャネル遮断薬の例はニモジピンであり、それは血管痙縮を防止する目的でクモ膜下出血の後によく用いられる。しかしながら、薬物療法に基づく治療は、重要な副作用に関連し、さらには、費用がかかりかつ時間もかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、他の方法で血管痙縮を治療することを可能にする手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、人又は動物体の血管内への挿入用のステント構造体を備えたデバイスであって、前記ステント構造体は、血管の内壁と接触する拡張状態と、マイクロカテーテル内に位置するステント構造体を血管内で移動させることができる収縮状態とをとり、ステント構造体は好ましくはその近位端でデリバリー補助手段(又はデリバリーワイヤ)と接続し、該デバイスは血管痙縮の治療に用いられる、デバイスを提案する本発明により達成される。
【0009】
驚くことに、ステント様構造体が血管痙縮の治療につながることが明らかになった。上述したステントの狭窄又は動脈瘤の治療への適用可能性とは異なり、ステント構造体は、血管内に永久的に残存することは意図されておらず、すなわち、ステント構造体は埋め込まれないで一時的に所定位置に留置されるだけであり、数分後に取り除かれる。従って、ステント構造体とデリバリー補助手段との間の分離又は切断点は必要とされない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1b】
図1aの本発明のデバイスを展開図として示す
【
図2】ステント構造体に沿った半径方向力レベルを示す
【
図3】ステント構造体により発揮される半径方向力の決定のための測定装置
【発明を実施するための形態】
【0011】
ステント構造体は、好ましくは自己拡張型デザインであり、マイクロカテーテルからの展開後にその拡張状態を自動的にとることができる。これを達成するために、形状記憶特性を有する材料からできているステント構造体が好都合であり、特に、ニチノールの商品名で知られているニッケル-チタン合金の使用がその価値を証明している。しかしながら、形状記憶特性を有するポリマー、又は他の合金も考えられる。
【0012】
本発明により提案されるデバイスは、特に神経血管分野で用いられ得るが、心血管又は末梢領域でも使用され得る。
【0013】
典型的には、デリバリー補助手段(又はデリバリーワイヤ)は、ガイドワイヤとしても知られているプッシャワイヤである。そのようなプッシャワイヤは、血管系内に永久的に残存することが意図されているインプラントの留置と同様に用いられるが、そのようなインプラントの留置の場合にはプッシャワイヤは切断点を介してインプラントに接続し、その切断点は、機械的、熱的又は電解的な分離のために設計され得る。本発明によると、デバイスは、血管痙縮が生じている部位であってステント構造体の拡張が行われる部位に、一時的に移動されるだけである。デリバリー補助手段は、好ましくはステンレス鋼、ニチノール又はコバルト-クロム合金で作られている。
【0014】
デリバリー補助手段又はプッシャワイヤは、好ましくは、ステント構造体の近位端に半径方向外側に取り付けられている。すなわち、デリバリー補助手段とステント構造体との間の接続は、ステント構造体の中心ではなく、血管の内壁又はその近くに偏心性に配置される。この態様では、血流は軽度にしか妨げられない。その上、デリバリー補助手段の偏心配置は、マイクロカテーテル内へのデバイスの引き戻しを容易にする。
【0015】
デリバリー補助手段は、いくつかの位置でステント構造体に取り付けられていてもよく、好ましくはステント構造体の近位端に取り付けられている。ステント構造体上にいくつかの接続点を配置すると、この場合には血管の中心内に延在する追加の支柱又はワイヤのせいでわずかに高い血流障害をもたらす。その反面、これは、デリバリー補助手段に向かって終結し従って最早血管の内壁と完全には接触せずその結果内壁に有意な半径方向力を及ぼさないステント構造体の近位端が、より短く維持されることを可能にする。いくつかの位置でステント構造体に接続するデリバリー補助手段は通常、より中心的な構造(配置)を有する。
【0016】
通常、マイクロカテーテル内部に配置された本発明のデバイスを、留置部位、すなわち血管痙縮が発生している位置に向かって移動させて治療を実施する。それに続き、マイクロカテーテルを近位方向に引っ込めて、ステント構造体を展開させ、そこでステント構造体は拡張し、血管の内壁に接触し、こうして血管痙縮に対処する。ステント構造体を、短時間、典型的には1~10分間、留置部位に放置する。その後、マイクロカテーテルを再び遠位方向に移動させてステント構造体を収容し、その後にデバイスと一緒にマイクロカテーテルを引っ込める。治療を連続的に数日繰り返してもよい。
【0017】
用語「近位」及び「遠位」は、デバイスを挿入したときに担当医の方を向く部分を近位と称し、担当医から離れる方の部分を遠位と称すると理解されるべきである。典型的には、従って、デバイスは、マイクロカテーテルの助けを借りて遠位方向に前に進められる。用語「軸」は、近位から遠位に延在するデバイスの縦軸(長軸)を指すが、一方用語「半径」は、縦軸に対して垂直に延在するレベル/平面を意味する。
【0018】
本発明により提案されるデバイスを用いて行われる治療は、同時に、例えばニモジピンを用いるなど、薬物療法に基づく治療を伴っていてもよい。これは、特に、血管痙縮が生じた部位で動脈内に適用され得る。
【0019】
基本的に、ステント構造体は、個々の相互連結したストリングス(strings)又は支柱(braces)からなり得る。そのようなステント構造体は、それ自体公知の方法でレーザ切断技術により製造することができる。加えて、電解研磨によりステント構造体を加工してそれをより滑らかに及び丸くし、それによって損傷を少なくすることが好都合であると考えられる。これによって、細菌又は他の不純物が構造体に付着し得る危険性を低減することもできる。
【0020】
或いは、ステント構造体は、編み込み形状の個々のワイヤからなるメッシュ様構造であってもよい。この場合、ワイヤは、典型的には、縦軸に沿って螺旋状に延び、交差する対向ワイヤが交点で互いの上下に延び、ワイヤの間に作られるハニカム様開口部をもたらす。好ましくは、ワイヤの総数は8と64との間の範囲である。メッシュ構造を形成するワイヤとして、金属でできた個々のワイヤを用いてよいが、ストランド、すなわち、好ましくは互いの周りに撚り合わせた、フィラメントを形成するように配列された小径のいくつかのワイヤを提供することも可能である。
【0021】
特にレーザ切断技術により製造された相互連結したストリングス又は支柱を含むステント構造体の、ワイヤからなるメッシュ構造を超える利点は、拡張過程中に支柱のステント構造体がメッシュ構造よりも縦収縮する傾向が少ないことである。ステント構造体は縦収縮中に周囲の血管壁に付加的応力をもたらすため、縦収縮は最小限に保つべきである。特に血管痙縮は血管に作用する刺激によって引き起こされるため、あらゆる付加的応力が血管痙縮の治療で回避されなけれなならない。
【0022】
相互連結した支柱のステント構造体はさらに、匹敵する構成、支柱/ワイヤ密度、及び支柱/ワイヤ厚さのそのようなステント構造体により発揮される半径方向力が、ワイヤからなるメッシュ構造の半径方向力よりも高い点でも利点をもたらす。交点で支柱が互いに永久的にくっ付いているのに対して、メッシュ構造におけるワイヤは、原則として互いの上下に延在するだけである。
【0023】
支柱又はワイヤは、円形、楕円形、正方形又は長方形の断面を有していてよく、正方形又は長方形の断面の場合には、エッジを丸めるのが好ましい。
【0024】
個々の支柱又はワイヤ間でステント構造体内に形成される開口部は、0.1と6mmとの間の範囲の内接円径を有するべきであり、ここで、内接円径を受けて、開口部内に配置され得る最大可能な円の直径であることが理解されるべきである。上記のデータは、拡張状態、すなわち外的制約に曝されていないときにステント構造体がとる状態にある、ステント構造体に適用する。
【0025】
比較的粗目のステント構造体になる、≧1mmの内接円径を有する開口部が好ましい。なぜなら、そのような構造は血管痙縮の治療に適した大きさの半径方向力を及ぼすことができるからである。例えば、拡張状態で3mmと5mmとの間の直径を有するステント構造体の開口部/セルは、2mmと4.5mmの間の範囲の内接円径を有し得る。
【0026】
ステント構造体において提供される開口部は、全面的にクローズドであるべきであり、すなわち、途切れることなく支柱又はワイヤにより完全に囲まれ又は包囲されているべきである(いわゆるクローズドセルデザイン)。なぜなら、それによって、治療が完了したときに、カテーテルを前に進めることによりステント構造体をマイクロカテーテル内に入れるのを容易にするからである。
【0027】
さらには、適切な大きさの半径方向力のために、比較的大きな断面又は直径を有する支柱又はワイヤを用いること、すなわち比較的重厚な(massive)支柱/ワイヤを用いることが得策であると考えられる。本質的に長方形の断面の支柱又はワイヤが用いられる場合、30μmと300μmとの間の高さ及び幅の支柱/ワイヤを提供することが有利であることが分かっており、エッジが丸められた長方形の断面も本質的に長方形と見なされる。円形断面の場合、直径は30μmと300μmとの間の範囲であるべきである。
【0028】
普通、ステント構造体は近位端で開いたデザインである。遠位端でも、ステント構造体は開いていてよいが、閉じたデザインもとり得る。両端で開いているステント構造体は、下流の血管及びそれらが血液を供給する組織の供給不足を防ぐことができるように、血流が極力妨げられないという利点をもたらす。一方、遠位端に閉じた構造を提供するとより非外傷性である。開いた構造への言及は、ステント構造体の各端部に支柱又はワイヤがなく、支柱/ワイヤがステント構造体の外周にわたり配置されるのみであることを意味する。しかしながら、閉じた端部の場合、支柱又はワイヤはステント構造体の中心にも存在する。しかしながら、支柱又はワイヤの間にまだ開口部はあるため、閉じた遠位端でさえ完全には不浸透性ではなく、まだ各開口部を通る血流を可能とする。
【0029】
構造体はある期間の間血管内に留まり、その間、発生した血管痙縮のせいで既に収縮している血管内で形成され得る血栓の防止が不可欠であるため、抗血栓形成性コーティング(antithrombogeneous coating)をステント構造体の内側に塗布するのが好都合であると考えられる。ステント構造体の外側を、血管弛緩を促進する物質、例えばニモジピンなどのカルシウムチャネル遮断薬でコーティングすることが好都合となり得る。
【0030】
特にステント構造体の内側に塗布された抗血栓形成性コーティング、及び特にステント構造体の外側に塗布された血管弛緩性コーティングが有益でかつ役立つとはいえ、そのような抗血栓形成性又は血管弛緩性コーティングを、ステント構造体全体に塗布してもよく、或いは支柱/ワイヤのあらゆる面に各コーティングを施してよい。この場合、各コーティングをステント構造体の内側又は外側のみに塗布することに限られない。
【0031】
概して、全ての関連コーティングは、ステント構造体のある部分又は長さの一部のみを被覆していてよいことに留意すべきである。コーティングは、特に、血管の内壁と接触するステント構造体の領域、すなわち本質的にステント構造体の円筒部分で特に重要である。
【0032】
拡張したステント構造体が血管内壁に対して半径方向外側に及ぼす力は、2と16N/mとの間、好ましくは5と8N/mとの間の範囲であるべきである。この場合に特定される半径方向力は、長さ単位当たり半径方向に発揮される力を意味し、すなわち、相対半径方向力であるとみなされるべきである。この場合、血管の内壁と接触し、従って血管内壁に力を及ぼすことができるステント構造体の部分(有効長さ)のみが考慮されるべきである。有効長さのために、ステント構造体は、ステント構造体の周囲に配置されたエンベロープの最低でも50%をカバーしなければならない。これに対して、絶対半径方向力は、ステント構造体全体に適用される値を意味する。
【0033】
発揮される半径方向力(外方向に向かって作用し続ける力(chronic outward force)、COF)は、以下に説明するように、V-ブロック試験により決定される。
【0034】
Vブロック試験装置は、90°のV溝がそれぞれ研削され及びその後滑らかに研磨された、2つのポリメタクリル酸メチル(PMMA)ブロックからなる。これらのVブロックを、接触したときに正方形断面の空洞がブロック間に作られるように、一方を他方の上に置く。Vブロックの一方はしっかりと固定され、他方には力センサが備えられる。
【0035】
COFは、自己拡張した状態のステント構造体が、血管に、又は試験中Vブロックに、及ぼす力を意味する。半径方向力の測定のために、運搬ホース又はマイクロカテーテル内にあるステント構造体をVブロック間の中心に置く。これに続き、運搬ホース/マイクロカテーテルを引っ込めてステント構造体を解放させる。その自己拡張特性により、構造体は広がり、それによって生じる半径方向力を、Vブロックの一方に接続された力センサにより測定し、さらに評価することができる。異なる長さのステント構造体の比較を可能にするために、相対半径方向力を以下のように計算する:
【数1】
【0036】
好都合な実施形態によると、拡張状態のステント構造体によってその全長にわたり発揮される半径方向力は本質的に一定であり、すなわち、近位並びに遠位セクションにおいて、その半径方向力は中央セクションの半径方向力と一致する。しかしながら、通常の均一にデザインされたステントでは、近位及び遠位セクションで実際に有効である半径方向力は、殆どの場合に中央セクションにおけるよりも弱い。従って、典型的には、支柱又はワイヤが最早完全には血管内壁と接触していないステント構造体の近位端は、半径方向力が関係する限りでは考慮しないで、拡張状態において半径方向力がその有効長さにわたり本質的に一定であるステント構造体を作製するために、近位及び遠位セクションで作用する半径方向力を意図的に高めることが好都合である。従って、近位端は、最早有効長さの一部を形成せずかつそこで支柱/ワイヤがデリバリー補助手段の方に延びる、近位方向の最も遠くに位置するステント構造体の部分と見られる。この近位端の典型的な長さは合計で8~10mmになり、これは、ステント構造体の全長が、ステント構造体の有効長さよりもこの分だけおおよそ長いことを意味する。
【0037】
近位及び遠位セクションにおける半径方向力を高めるために、支柱又はワイヤは、中央セクションにおけるよりもここでより大きい断面を有するようにデザインされ得る。従って、支柱/ワイヤはより重厚にされ、それによって、中央セクションにおいてより高い半径方向力を発揮するステント構造体の固有の傾向を完全に又はある程度補う。
【0038】
代わりに又は加えて、支柱又はワイヤの密度を、中央セクションにおけるよりも近位セクションでより高くなるように配置してもよい。このステップは、通常のステントで近位又は遠位に向かって低減することが見られる半径方向力の低下を完全に又はある程度補うことができる。
【0039】
別の可能性は、ステント構造体の生成表面にわたり螺旋状に、或いはステント構造体の生成表面に沿って縦方向に、ステント構造体に溝(slot)を設けることである。この方法では、半径方向力の性質に影響を及ぼすために、個々の支柱又はワイヤは溝にわたり延在し得る。
【0040】
典型的には、拡張状態でのステント構造体の直径は、2mmと8mmとの間の範囲であり、好ましくは4mmと6mmとの間の範囲である。拡張状態でのステンレス構造体の全長は、一般に、合計で5~50mmであり、好ましくは10mmと45mmの間にあり、さらに好ましくは20mmと40mmの間である。有効長さ、すなわち実際に血管の内壁に半径方向力を及ぼす拡張状態でのステント構造体の長さは、殆どの場合、おおよそ8~10mm程度短い。
【0041】
有意義なことに、デバイスは、1又はいくつかのX線不透過マーカーを備え、担当医が治療を視認することを可能にする。X線不透過マーカーは、例えば、白金、パラジウム、白金-イリジウム、タンタル、金、タングステン、又はX線を通さない他の金属からなり得る。例えば、X線不透過コイルを、様々な地点でデバイスに配置してよい。別の選択肢として、ステント構造体、及び特にステント構造体の支柱又はワイヤは、X線不透過材料からなるコーティング、例えば金コーティングを備えていてよく、それは例えば1μmと6μmの間の厚さを有し得る。X線不透過材料からなるコーティングは、ステント構造体全体に適用される必要はない:しかしながら、主にステント構造体の円筒部分にある、血管内壁と接触するステント構造体の領域で、特に有意義である。それでも尚、X線不透過コーティングを適用する場合でさえ、1又はいくつかのX線不透過マーカーを、デバイス、特にステント構造体の遠位端に、配置することが好都合であると考えられる。
【0042】
本発明のデバイスの他に、本発明は、血管痙縮の治療のための方法であって、その目的のために上記の種類のデバイスが用いられる方法にも関する。その方法は、ステント構造体を、デリバリー補助手段によって血管痙縮部位に誘導し、さらにそこで拡張させるように提供し、その拡張は通常デバイスを収容するマイクロカテーテルを引っ込めることによって達成され、その引込めは近位方向に行われる。血管痙縮が生じている部位で、ステント構造体は、数分間、好ましくは1分と10分との間の期間、留まる。その後、ステント構造体は血管から除かれる。この目的のために、再度ステント構造体を受け入れるようにマイクロカテーテルを遠位方向に押し進め、ステント構造体をマイクロカテーテル内に収容することができる。それによって、マイクロカテーテル及びデバイスを、血管系から引込めて取り除く準備ができる。記載のアプローチを連続して数日繰り返して、血管痙縮の治療を続けることが望ましい。
【0043】
デバイスに関してなされた任意の及び全ての記載は、同様に方法にも適用すべきであり、逆も同じである。
【0044】
添付の図面により本発明のさらなる説明を提供する;
図1aは本発明により提案されるデバイスの側面図である;
図1bは
図1aの本発明のデバイスを展開図として示す;
図2はステント構造体に沿った半径方向力レベルを示す;
図3はステント構造体により発揮される半径方向力の決定のための測定装置を示す;
図4はステント構造体の有効長さの決定を説明する;
図5はステント構造体の好ましい実施形態の側面図である。
【0045】
図1aでは、本発明のデバイス1を側面図の形で例示する。デバイスは、ステント構造体2、及びプッシャワイヤの形態のデリバリー補助手段3を備える。この例では、ステント構造体2はレーザ切断により作られ、その全体で連続ハニカム構造を形成する支柱を含む。デリバリー補助手段3は偏心性に取り付けられており、すなわち、ステント構造体2の近位端に末梢で接続される。
【0046】
図1bでは、
図1aのデバイス1を展開図として示し、すなわち、
図1aに示される本質的に円筒状のステント構造体2を縦軸方向に沿って切開し、平面になるように開いた場合に現れるであろう仮定の状況を表す。ここでは、デリバリー補助手段3の短い部分のみが示されている。
【0047】
図2では、ステント構造体2に沿った半径方向力(COF)の特徴を好ましい実施形態に基づき示す。近位端でのみ、より低い半径方向力が周囲の血管内壁に作用し、それ以外ではステント構造体2全体にわたり半径方向力は一定である。近位端で生じる半径方向力の低下は、この位置でステント構造体2がデリバリー補助手段3における単一点で終結し、ステント構造体2が血管の内壁を円周方向に完全にはカバーできないせいである。
【0048】
Vブロック試験により半径方向力を決定するための装置を、ステント構造体2に関して
図3に示す。半径方向力を決定するための装置は、2つのVブロック4を備え、それぞれに90°のV溝が設けられている。そのVブロック4の一方を他方の上に配置すると、正方形断面の空洞が作られる。下側のVブロック4はしっかりと固定され、上側のVブロック4は半径方向力の測定のための力センサを備える。
【0049】
試験目的のために、運搬ホース又はマイクロカテーテル内に収容されたステント構造体2がまずVブロック4の間の正方形の空洞内に置かれる。その後、自己拡張型ステント構造体2が拡張可能となり従ってVブロック4の表面に接触するように、ホース/マイクロカテーテルを引っ込める。ステント構造体2が及ぼす力は、破線矢印により表され、Vブロック4を介して力センサに伝達され、最終的に評価される。
【0050】
既に述べたように、相対半径方向力変数、すなわちステント構造体2の有効長さ5に対する絶対半径方向力、を用いて異なる長さのステント構造体2を比較することを可能にする、
図4に例示するように、有効長さ5の決定のために、ステント構造体を、円形断面を有する透明チューブ6の中に引き入れる。有効長さ5は、ステント構造体2が少なくとも円周の50%をカバーする長さである。特に、構造体がデリバリー補助手段に向かって終結するステント構造体2の近位端は、最早有効長さ5の部分を形成しないことに注意すべきである。
【0051】
図5では、本発明のステント構造体2の好ましい実施形態を側面図として最後に例示し、ステント構造体2は、近位セクション7、中央セクション8、及び遠位セクション9で構成されている。図は、有効長さ5に限定して示されており、近位端もデリバリー補助手段も示されていない。
図1に示されるもの以外で、これはメッシュ構造を形成する個々のワイヤからなるステント構造体2である。
図2に示す有効長さ5全体にわたる半径方向力の均一性を達成するために、メッシュ構造の密度は、中央セクション8と比較して、近位セクション7及び遠位セクション9の両方において高められている。それによって、均一に作られたステント構造体2で頻繁に見られる近位及び遠位領域における半径方向力の低下が、より高い密度のワイヤ配置を提供することによって補われる。
最後に、本発明の好ましい実施態様を項分け記載する。
[実施態様1]
人又は動物体の血管内への挿入用のステント構造体(2)を備えたデバイスであって、前記ステント構造体(2)は、血管の内壁と接触する拡張状態と、マイクロカテーテル内に位置するステント構造体を血管内で移動させることができる収縮状態とをとり、前記ステント構造体(2)は、好ましくはその近位端でデリバリー補助手段(3)と接続しており、該デバイス(1)は血管痙縮の治療に用いることができる、デバイス。
[実施形態2]
前記ステント構造体(2)は、個々の相互連結した支柱、又はメッシュ構造を形成する個々のワイヤからなる、実施形態1に記載のデバイス。
[実施形態3]
前記ステント構造体(2)は、自己拡張型デザインであり、マイクロカテーテルから解放されるとすぐにその拡張状態を自動的にとる、実施形態1又は2に記載のデバイス。
[実施形態4]
前記ステント構造体(2)は、個々の支柱又はワイヤの間に位置する開口部を備え、該開口部は、拡張状態で0.1と6mmとの間の範囲の内接円径を有する、実施形態2又は3に記載のデバイス。
[実施形態5]
前記支柱又はワイヤは、本質的に長方形断面の場合30μmと300μmとの間の高さ及び幅を有し、円形断面の場合30μmと300μmとの間の範囲の直径を有する、実施形態2から4のいずれかに記載のデバイス。
[実施形態6]
ステント構造体(2)の中心に、近位端及び/又は遠位端において支柱又はワイヤが配置されていない、実施形態2から5のいずれかに記載のデバイス。
[実施形態7]
ステント構造体(2)の中心に、近位端及び/又は遠位端において支柱又はワイヤが配置されている、実施形態2から6のいずれかに記載のデバイス。
[実施形態8]
前記ステント構造体(2)の内側に抗血栓形成性コーティングが施されている、実施形態1から7のいずれかに記載のデバイス。
[実施形態9]
前記ステント構造体(2)の外側に血管弛緩を促進するコーティングが施されている、実施形態1から8のいずれかに記載のデバイス。
[実施形態10]
前記ステント構造体(2)は、全体又は部分的に、X線不透過コーティング、特に金コーティングを備える、実施形態1から9のいずれかに記載のデバイス。
[実施形態11]
拡張したステント構造体(2)が半径方向外側に及ぼす力は、合計2と16N/mとの間、好ましくは5と8N/mとの間である、実施形態1から10のいずれかに記載のデバイス。
[実施形態12]
前記ステント構造体(2)は、近位セクション(7)、中央セクション(8)、及び遠位セクション(9)を有し、前記近位セクション(7)は、前記ステント構造体(2)がデリバリー補助手段(3)に接続する近位端を包含し、拡張したステント構造体(2)が、前記近位端を除いて、その全長にわたり本質的に一定の半径方向力を及ぼす、実施形態1から11のいずれかに記載のデバイス。
[実施形態13]
前記近位セクション(7)及び遠位セクション(9)における支柱又はワイヤは、中央セクション(8)におけるよりも大きな断面を有する、実施形態12に記載のデバイス。
[実施形態14]
前記近位セクション(7)及び遠位セクション(9)における支柱又はワイヤの密度は、中央セクション(8)におけるよりも高い、実施形態12又は13に記載のデバイス。
[実施形態15]
血管痙縮を治療する方法であって、実施形態1から14のいずれかに記載のデバイス(1)のステント構造体(2)が、デリバリー補助手段(3)によって、血管痙縮が生じている部位に移動され、そこで拡張し、1~10分間その部位に放置され、最後に血管から取り除かれる、方法。
[実施形態16]
前記デバイス(1)による血管痙縮の治療が連続して数日繰り返される、実施形態15に記載の方法。
【符号の説明】
【0052】
1 デバイス
2 ステント構造体
3 デリバリー補助手段
4 Vブロック
5 有効長さ
6 透明チューブ
7 近位セクション
8 中央セクション
9 遠位セクション