(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】アルカリ土類炭酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
C01F11/18 A
C01F11/18 Z
(21)【出願番号】P 2019214693
(22)【出願日】2019-11-27
(62)【分割の表示】P 2017509596の分割
【原出願日】2015-04-28
【審査請求日】2019-12-25
(32)【優先日】2014-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516324869
【氏名又は名称】リクシヴィア・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】LIXIVIA, INC.
【住所又は居所原語表記】824 E HALEY STREET, SANTA BARBARA, CALIFORNIA 93103, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ワイアスタ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】コモン,ザッカリー・ジェイ・エイ
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-523615(JP,A)
【文献】特表2015-506413(JP,A)
【文献】特開昭51-109281(JP,A)
【文献】国際公開第2014/007331(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程、
第1の容器にアルカリ土類を含む原材料を導入する工程、
前記原材料をアミン含有浸出剤と接触させて第1の反応混合物を生成させる工程であって、ここで、前記浸出剤は前記原材料中の抽出に利用可能な前記アルカリ土類と相対比較して準化学量論的な量で供される、工程、
第1の分離ユニットに前記第1の反応混合物を移し、抽出された原材料を含む第1の生成物流、及び溶媒和されたアルカリ土類を含む第2の生成物流を生成させる工程、
第2の容器に前記第2の生成物流を移す工程、
前記溶媒和されたアルカリ土類を第2の容器中で二酸化炭素と接触させてアルカリ土類炭酸塩及び再生された浸出剤を含むスラリーを生成する工程であって、
ここで、前記二酸化炭素の添加はpHのモニタリングにより制御され、前記アルカリ土類炭酸塩はpH7未満で生成される、工程、
前記スラリーを第2の分離ユニットに移し、前記アルカリ土類炭酸塩を含む第3の生成物流及び再生された浸出剤を含む第4の生成物流を生成させる工程、及び、
前記第4の生成物流の少なくとも一部分を前記第1の分離ユニットに移す工程、を含むアルカリ土類炭酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記第1の生成物流の少なくとも一部分を前記第1の容器に移して返還する工程を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第4の生成物流の少なくとも一部分を前記第1の容器に移す工程を更に含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ土類炭酸塩を前記第2の分離ユニット中にある間に洗浄する工程を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の分離ユニットが、濾過、沈降、遠心分離及び磁気分離からなる群から選択される分離方法を使用する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
連続方式で実施される請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2014年4月28日に出願された米国暫定出願61/985,036号の優先権を主張する。この暫定出願及び全ての他の参照外部題材は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野は湿式製錬であり、特にアルカリ土類元素の抽出又は回収に関する。
【背景技術】
【0003】
以下の説明は本発明を理解する際に有用であると考えられる情報を包含している。それは、本明細書において提示した情報の何れもここで特許請求した発明の先行技術であるか、それに関連すること、或いは、特定的又は非明示的に参照した如何なる出版物も従来技術であることを受け入れるものではない。
【0004】
本明細書に示した全ての出版物は各々の個々の出版物又は特許出願が特定的及び個々に参照により本明細書に組み込まれることが示されている場合と同等程度に参照により本明細書に組み込まれる。組み込まれた参考文献中の用語の定義及び使用が本明細書に提示した用語の定義と矛盾又は相反する場合は、本明細書に提示したその用語の定義を適用し、参考文献中のその用語の定義は適用しない。
【0005】
鉱くずのような低収率供給源から商業的に価値のある金属(例えばカルシウム)を効率的及び費用効果的に回収する必要が以前よりある。
【0006】
歴史的にアルカリ土類元素を回収することは特に望ましいこととなっている。ベリリウム族としても知られているアルカリ土類元素は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及びラジウム(Ra)を包含し、これらの存在度の範囲は様々である。これらの商業的に重要な金属の用途もまた広範囲であり、電子部品におけるドーパント、構造材料として、及び食品及び医薬品の製造における使用を包含する。
【0007】
アルカリ土類族のメンバーの一つであるカルシウムを石灰岩のような鉱物から単離する方法は古来より知られている。典型的なプロセスにおいては、石灰岩又は同様の鉱物供給源を焼成又は他の方法で燃焼することにより酸化カルシウム(CaO)、又は、生石灰を生成する。この材料は水と反応して水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、又は、消石灰を形成する。この水酸化カルシウムを次に水に懸濁させて溶存二酸化炭素(CO2)と反応させることにより炭酸カルシウム(CaCO3)を形成することができ、これは様々な用途がある。この族の元素の他のメンバーを単離するために使用されているアプローチは高温又は強酸を用いた不溶性の水酸化物及び酸化物の生成を含む場合が多い。しかしながらこのようなアプローチはアルカリ土類元素の他の供給源(例えば鉄鋼スラグ)には適しておらず、アルカリ土類元素の混合物に容易に適用するには選択性が不十分である。
【0008】
湿式製錬は鉱物、原鉱及びその他の供給源から金属を単離するためにも使用できる。このような方法において、原鉱は典型的には粉砕及び/又は粒状化することにより表面積を増大させた後に所望の金属の可溶性塩を形成できる溶液(浸出剤としても知られている)に曝露される。適切な浸出剤は可溶化を介して所望の金属を抽出し、抽出残渣は残存させる。浸出剤溶液の収集の後、様々な手段、例えば電着及び/又は溶液からの沈殿により溶液から金属を回収できる。
【0009】
しかしながら従来の湿式製錬法には幾つかの問題がある。所望の金属又は金属類の効率的で選択的な抽出を可能とする浸出剤の同定は一部の金属類の単離においてそれを採用する場合の多大な技術的障壁となっている。同様に、浸出剤成分の購入及び取り扱いの出費、それらの使用及び廃棄に伴う汚染の問題、及びそのような技術を現在の生産プラントに適用することの困難のために、そのような方法の広範な採用は限定されている。
【0010】
このような問題の解決が試みられている。特許文献1:米国特許公開2004/0228783号(Harris等)は、他の金属のその酸化物からの回収のために使用される高度に酸性の浸出剤の成分としてのマグネシウム塩(塩酸に添加)の使用、及び過酸化物による処理による使用済み浸出剤からの酸化マグネシウムの回収を記載している。しかしながらこのように高度に酸性及び酸化の条件は、その利用を制限する多くの生産及び潜在的な環境上の有害性をもたらす。特許文献2:米国特許5,939,034号(Virnig等)に記載されたアプローチにおいては、金属をアンモニア性チオ硫酸塩溶液中に可溶化し、グアニジル又は第四級アミン化合物を含有する非混和性の有機相中に抽出する。次に金属を電気めっきにより有機相から回収する。しかしながら悪臭の問題及び有害な二酸化硫黄を形成する傾向がこの化合物の利用を制限している。
【0011】
同様のアプローチが特許文献3:米国特許6,951,960号(Perraud)に開示されており、ここでは塩化アミンを含有する有機相中に水相から金属を抽出する。次に有機相から金属塩化物を抽出する塩化物非含有の水相に有機相を接触させる。次に水性の塩酸への曝露により有機相中でアミンを再生する。しかしながらアルカリ土類元素(例えばカルシウム)への適用は不明であり、開示された方法は高価で潜在的に毒性である有機溶媒の使用を必然的に包含する。
【0012】
関連のアプローチにおいて、特許文献4:欧州特許公開1309392号(シンガポール国立大学)は、膜系の方法を開示しており、この場合、銅をまずアンモニア又は有機アミンと複合体化させる。銅アンモニア複合体を多孔性膜の細孔内部に含有された有機相中に捕獲し、膜の反対側に保持された抽出剤に銅を移行させる。しかしながらこのようなアプローチは複雑な機材の使用を必要とし、膜の利用可能な表面積により処理の容量が必然的に限定される。
【0013】
CO2を捕獲するための方法を、アルカリ土類金属を回収するために使用できるが、それが行えることはこれまで認識されていなかった。非特許文献1:Kodama等(Energy33(2008)、776-784)は塩化アンモニウム(NH4Cl)と組み合わせてケイ酸カルシウム(2CaO・SiO2)を使用することによるCO2捕獲のための方法を開示している。この反応により可溶性の塩化カルシウム(CaCl2)が形成され、これをアルカリ条件下に二酸化炭素(CO2)と反応させることにより不溶性の炭酸カルシウム(CaCO3)が形成され、塩化物イオン(Cl-)が放出される。
【0014】
Kodama等はCO2捕獲のためにカルシウムの清浄な形態を使用しているが、この化学過程における他のアルカリ土類元素の使用に関しては言及していない。このことは、使用したNH4Clの高比率(約20%)が開示されたプロセスにおいて消失し、アンモニア蒸気を捕獲するために追加的機材の使用が必要となることを記載しているKodama等の開示から、納得することができる。この消失は多大なプロセス非効率性をもたらし、環境問題をもたらす。特許文献5:日本国特開2005-097072号(Katsunori及びTateaki)は同様のCO2捕獲方法を開示しており、この場合、塩化アンモニウム(NH4Cl)をアンモニアガス(NH3)及び塩酸(HCl)中に解離させ、このHClを利用して塩化カルシウム(CaCl2)を生成させ、これをCO2捕獲のために水酸化アンモニウム(NH4OH)と混合する。
【0015】
特許文献6:国際公開2012/055750号(Omya Development AG)は炭酸カルシウム(CaCO3)を精製するための方法を開示しており、ここでは非純粋のCaCO3を焼成により非純粋の酸化カルシウム(CaO)に変換する。得られたCaOを塩化アンモニウム(NH4Cl)で処理することにより塩化カルシウム(CaCl2)を生成し、これをその後、高純度の二酸化炭素(CO2)と反応させることによりCaCO3とNH4Clを生成し、ここでCaCO3は種結晶を使用した結晶化により溶液から除去する。しかしながらこのようなプロセスから生じる場合があるアンモニアガスを捕獲又は含有するための手段を有さないため、開示された方法を工業規模に適応できるかどうか不明である。種結晶への依存も同様に工業的使用を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】米国特許公開2004/0228783号
【文献】米国特許5,939,034号
【文献】米国特許6,951,960号
【文献】欧州特許公開1309392号
【文献】日本国特開2005-097072号
【文献】国際公開2012/055750号
【非特許文献】
【0017】
【文献】Energy33(2008)、776-784
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
即ち、金属水酸化物を形成する物質種の簡素で経済的な単離を可能とする湿式製錬方法がなお必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明の概要
本発明の要件は、アミン系浸出剤を準化学量論的な量で利用することにより原材料又は廃棄物からアルカリ土類を回収する、高効率半連続的湿式製錬システム、方法、及び組成物を提供する。容易に収集された不溶性の塩として所望の金属を沈殿させるプロセスにおいて浸出剤は再生され、そして再生された浸出剤は循環プロセスの後の反復回における使用のためにリサイクルされるか、連続プロセスにおいては反応器に返還される。
【0020】
本発明の概念の一つの実施形態は、アルカリ土類を包含する多段抽出可能な材料を有する原材料を容器又は反応器中でアミン含有浸出剤と混合することによりアルカリ土類炭酸塩を生成するための方法である。浸出剤は原材料中に存在するアルカリ土類と相対比較して準化学量論的な量において提供される。次にこの混合物を二酸化炭素と混合することにより、比較的不溶性(即ち溶解度10g/L未満)の沈殿されたアルカリ土類炭酸塩の塩、抽出された原材料、及び再生された浸出剤を包含する母液を包含するスラリーを形成する。抽出された原材料はプロセシングされない原材料と相対比較して残存する抽出可能な材料が濃縮されている。スラリーを分離ユニットで処理することによりアルカリ土類炭酸塩、抽出された原材料及び母液を相互に分離する。適切な分離ユニットは濾過、沈降、遠心分離、磁気分離又はこれらの組み合わせを利用できる。抽出された原材料を更に処理することにより残存する抽出可能な原材料を回収する。母液は容器又は反応器に返還され、再生された浸出剤として浸出剤を回収し、それを再使用する。一部の実施形態においては、アルカリ土類炭酸塩を収集し、洗浄することによりさらに処理する。このようなプロセスを、連続方式、半バッチ方式において、又は、バッチ毎に実施することができる。
すなわち、本発明の概念の一つの実施形態は、下記工程、
容器に第1の抽出可能な材料及び第2の抽出可能な材料を含む一次原材料を導入する工程であって、ここで、前記第1の抽出可能な材料はアルカリ土類を含む、工程、
前記一次原材料をアミン含有浸出剤と接触させて反応混合物を生成させる工程であって、ここで、前記浸出剤は前記アルカリ土類と相対比較して準化学量論的な量で供される、工程、
容器中で、前記反応混合物を二酸化炭素と接触させてスラリーを形成する工程であって、ここで、前記スラリーは抽出された原材料及びアルカリ土類炭酸塩沈殿物を含み、そして前記抽出された原材料は前記一次原材料と相対比較して前記第2の抽出可能な材料が濃縮されている、工程、
前記スラリーを分離ユニットに移し、前記抽出された原材料を含む第1の生成物流、前記アルカリ土類炭酸塩沈殿物を含む第2の生成物流、及び母液を含む第3の生成物流を生成させる工程、
前記第1の生成物流を収集し、前記抽出された原材料を処理して前記第2の抽出可能な材料を抽出する工程、及び、
前記第3の生成物流の少なくとも一部分を容器に返還する工程であって、ここで、前記母液は再生されたアミン含有浸出剤を含む、工程、
を含むアルカリ土類炭酸塩の製造方法に関し、好ましくは、前記分離ユニットが、濾過、沈降、遠心分離及び磁気分離からなる群から選択される分離方法を使用するものであり、好ましくは前記第2の生成物流を収集し、前記アルカリ土類炭酸塩を洗浄する工程を更に含むものであり、好ましくは連続方式で実施されるものに関する。
【0021】
本発明の概念の別の実施形態は、原材料のアルカリ土類含有量と相対比較して準化学量論的な量の浸出剤を用いながら、第1の容器中で原材料と浸出剤を混合することにより原材料からアルカリ土類(炭酸塩の塩の形態として)を単離するための方法である。この混合物を分離ユニットに移し、ここで、抽出された原材料を浸出剤により溶媒和されているアルカリ土類から分離する。溶媒和されたアルカリ土類を第2の容器中で二酸化炭素で処理することにより不溶性のアルカリ土類炭酸塩の塩及び再生された浸出剤の混合物が形成される。この混合物を第2の分離ユニットに移し、ここでアルカリ土類炭酸塩の塩を再生された浸出剤から分離する。次に再生された浸出剤の一部又は全てが第1の分離ユニットに返還される。一部の実施形態においては、再生された浸出剤の一部も第1の容器に返還される。分離ユニットの何れか又は双方は濾過、沈降、遠心分離、及び/又は磁気分離を利用することによりそれぞれの混合物の成分を分別することができる。このようなプロセスを、連続方式、半バッチ方式において、又は、バッチ毎に実施することができる。
すなわち、本発明の概念の別の実施形態は、下記工程、
第1の容器にアルカリ土類を含む原材料を導入する工程、前記原材料をアミン含有浸出剤と接触させて第1の反応混合物を生成させる工程であって、ここで、前記浸出剤は前記アルカリ土類と相対比較して準化学量論的な量で供される、工程、
第1の分離ユニットに前記第1の反応混合物を移し、抽出された原材料を含む第1の生成物流、及び溶媒和されたアルカリ土類を含む第2の生成物流を生成させる工程、
第2の容器に前記第2の生成物流を移す工程、
前記溶媒和されたアルカリ土類を第2の容器中で二酸化炭素と接触させてアルカリ土類炭酸塩及び再生された浸出剤を含むスラリーを生成する工程、
前記スラリーを第2の分離ユニットに移し、前記アルカリ土類炭酸塩を含む第3の生成物流及び再生された浸出剤を含む第4の生成物流を生成させる工程、及び、
前記第4の生成物流の少なくとも一部分を前記第1の分離ユニットに移す工程、
を含むアルカリ土類炭酸塩の製造方法に関し、好ましくは前記第1の生成物流の少なくとも一部分を前記第1の容器に移して返還する工程を更に含むものであり、好ましくは前記第4の生成物流の少なくとも一部分を前記第1の容器に移す工程を更に含むものであり、好ましくはアルカリ土類炭酸塩を前記第2の分離ユニット中にある間に洗浄する工程を更に含むものであり、好ましくは前記第2の分離ユニットが、濾過、沈降、遠心分離及び磁気分離からなる群から選択される分離方法を使用するものであり、好ましくは連続方式で実施されるものに関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の概念の方法を模式的に示しており、ここでアルカリ土類元素は再生され再使用される浸出剤を用いて試料から回収される。次に追加的な抽出可能な材料が、抽出可能な材料において相対的に濃縮された抽出された原材料から回収される。
【
図2】本発明の概念の別の方法を模式的に示しており、ここでアルカリ土類元素は再生され再使用される浸出剤を用いて試料から回収される。次に追加的な抽出可能な材料が、抽出可能な材料において相対的に濃縮された抽出された原材料から回収される。
【
図3】本発明の概念の別の方法を模式的に示しており、ここでアルカリ土類元素は再生され再使用される浸出剤を用いて試料から回収される。再生された浸出剤の少なくとも一部分は反応容器ではなくプロセスの分離ユニットに返還される。
【
図4】本発明の概念の別の実施形態を模式的に示しており、ここでは様々なアルカリ土類元素が逐次的態様において回収される。
【
図6A】
図6A~6Dは、本発明の概念の方法の特定のプロセス工程の結果を示す。
図6Aは有機アミン浸出剤を用いて低等級の供給源からアルカリ土類元素を抽出する場合のpHの経時変化を示す。
【
図6B】
図6A~6Dは、本発明の概念の方法の特定のプロセス工程の結果を示す。
図6Bは異なる有機アミン浸出剤を用いて低等級の供給源からアルカリ土類元素を抽出する場合のpHの経時変化を示す。
【
図6C】
図6A~6Dは、本発明の概念の方法の特定のプロセス工程の結果を示す。
図6Cは沈殿剤の使用を介して抽出されたアルカリ土類元素を回収する場合のpHの経時変化を示す。
【
図6D】
図6A~6Dは、本発明の概念の方法の特定のプロセス工程の結果を示す。
図6Dは本発明の概念のシステム、方法及び組成物の沈殿炭酸カルシウム生成物の顕微鏡写真である。炭酸塩生成物の比較的低い密度に寄与している開放構造が注目される。
【
図7A】
図7A~7Bは、アルカリ土類の回収の1工程及び2工程の方法から得られた例示される結果を示す。
図7Aは二種の異なる鉄鋼スラグからの炭酸カルシウムの形態でのカルシウムの回収を示す。
【
図7B】
図7A~7Bは、アルカリ土類の回収の1工程及び2工程の方法から得られた例示される結果を示す。
図7Bは1工程プロセスと従来技術の2工程プロセスを比較した、それぞれ鉄鋼スラグの粒径の関数としての二種の異なる鉄鋼スラグからの炭酸カルシウムの収率の増大を示す。
【
図8】原材料の粒径の関数としての本発明の概念の単工程方法から得られた様々な生成物の分布を示す。
【
図9】原材料中で使用可能なカルシウムに対するアミン浸出剤の様々な比における炭酸カルシウムの形態でのカルシウムの収率を示す。
【
図10】原材料中で使用可能なカルシウムに対するアミン浸出剤の様々な比における本発明の概念の方法の複合抽出沈殿工程から得られた様々な生成物の分布を示す。
【
図11】従来の2工程方法の間のpHモニタリングの例示される結果を示す。
【
図12A】
図12A~12Bは、本発明の概念の方法の複合抽出沈殿工程のpHモニタリングの例示される結果を示す。
図12Aは原材料の懸濁(1)、浸出剤の添加(2)、CO
2の初回添加(3)、CO
2の中止(4)、CO
2の二回目添加(5)、及び終了(6)におけるpH変化を示す。
【
図12B】
図12A~12Bは、本発明の概念の方法の複合抽出沈殿工程のpHモニタリングの例示される結果を示す。
図12Bは様々な浸出剤、アルカリ土類の比において様々な原材料供給源を用いた場合の、CO
2添加の間のpH変化の詳細を示す。
【
図13】典型的な従来技術の方法による炭酸カルシウム1トンを生成するために必要とされる鉄鋼スラグ原材料の量の増大を、本発明の概念の方法により必要とされる量と相対比較しながら示す。
【
図15】2工程及び1工程のプロセスにおいて使用される実験条件を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
本発明者等は、有機アミンを包含する浸出剤の使用を介して、アルカリ土類族のメンバーのようなアルカリ土類元素(即ちアルカリ土類金属)の回収のための湿式製錬方法を発見した。本発明者等はそのようなアミン系浸出剤が二酸化炭素を用いて再生できると判定した。意外にもこの再生は、原材料からのアルカリ土類の抽出、及び、例えば炭酸塩の形態の抽出されたアルカリ土類の沈殿を、同じ反応器中で本質的に同時に行えるようにし、その際、生成した炭酸塩及び抽出された原材料の物理的特性の差により、単純な物理的手段による分離が可能となる。
【0024】
以下の考察の全体にわたり、浸出剤に関して多くの参照を行う。浸出剤は水性又は他の溶媒の混合物中の無機又は有機の固体から金属又は金属イオンを選択的に抽出する能力を有する化学成分であると理解しなければならない。同様に、沈殿剤は、そのような抽出された金属又は金属イオンを包含する沈殿物を形成する能力を有する化学成分であると理解しなければならない。
【0025】
以下の考察は本発明の要件の多くの例示的実施形態を示す。各実施形態は本発明の要素の単一の組み合わせを示しているが、本発明の要件は開示した要素の全ての可能な組み合わせを含むとみなされる。即ち、一つの実施形態が要素A、B及びCを含み、第2の実施形態が要素B及びDを含む場合、本発明の要件は、明示的に開示していない場合であっても、A、B、C又はDの他の残りの組み合わせを包含するともみなされる。
【0026】
一部の実施形態においては、本発明の特定の実施形態を記載し、特許請求するために使用される、成分の量、濃度のような特性、反応条件等を表現する数は、場合により「約」という用語により修飾されると理解しなければならない。従って、一部の実施形態においては、記載された説明及び添付の請求項に示した数パラメーターは特定の実施形態により得られると考えられる所望の特性に応じて変動し得る近似値である。一部の実施形態においては、数パラメーターは報告された有効数字の数に鑑み、そして通常の四捨五入法を適用することにより解釈しなければならない。本発明の一部の実施形態の広範な範囲を示す数の範囲及びパラメーターは近似値であるが、特定の例において示す数値は現実的である限り精密に報告する。本発明の一部の実施形態に示した数値は、それらのそれぞれの試験計測において観察される標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含む場合がある。同様に、文脈に矛盾がない限り、本明細書に示す全ての範囲はそれらの終点を包含するものと解釈しなければならず、そしてオープンエンドの範囲は商業上現実的な値のみを包含すると解釈しなければならない。同様に、数値の全リストは、文脈に矛盾がない限り中間の値を包含すると考えなければならない。
【0027】
本明細書及び後に記載する請求項全体を通して、「ある(“a”、“an”)」、「その(“the”)」の意味は文脈に明らかに別様に示さない限り、複数も包含する。更に、本明細書の説明において使用する場合、「中(“in”)」の意味は文脈に明らかに別様に示さない限り「中(“in”)」及び「上(“on”)」を包含する。
【0028】
本明細書の値の範囲の叙述は、範囲内に属する各々の別個の値を個々に指す簡略法として機能することを単に意図している。特段の記載が無い限り、範囲を伴った各個々の値はそれらが個々に本明細書に叙述されているがごとく明細書中に組み込まれる。本明細書に記載した全ての方法は特段の記載が無い限り、又は文脈により別様に明らかに否定されない限り、何れかの適切な順番で実施することができる。本明細書の特定の実施形態に関して与えられる全ての例、又は例示的言語表現(例えば「のような(“such as”)」)は本発明をより理解しやすくすることを意図するのみであり、別様に請求される本発明の範囲を限定するものではない。明細書中の言語表現は本発明の実施のために必須な何れの特許請求の範囲非記載の要素も指すものと解釈してはならない。
【0029】
本発明のプロセスの実施形態は、水和して式1に示す形態の浸出剤と反応するAE(OH)x又は他の水和された物質種を形成することができる、アルカリ土類(AE)水酸化物形成物質種の一つ以上の形態を含有する材料の何れかの供給源とともに使用するための化合物1において示される一般的組成の化合物の少なくとも一つを包含できる。或いは、アルカリ土類元素は水との反応により水酸化物を形成できる酸化物、例えば酸化カルシウム(CaO)とすることができる。そのような水和された形態は自然界から得られた状態において材料中に存在する場合があり、或いは、処理により(例えば塩基による処理や水和を介するか、又は酸化により)導入されることができ、そして安定であるか一過性であることができる。所望のアルカリ土類の選択的抽出は抽出プロセスで使用される有機アミン系浸出剤よりも強い塩基性を有する金属水酸化物の存在に基づくことができる。
【0030】
本発明の概念の有機アミンは化合物1に示す一般式を有し、式中、Nは窒素、Hは水素、R1からR3は有機性(即ち炭素含有)の基又はHであり、そしてXは対イオン(即ち対アニオン)である。
【0031】
[化1]
Ny,R1,R2,R3,H-Xz
化合物1
【0032】
適切な対イオンは負電荷の作用をもたらす原子又は分子の何れかの形態又は組み合わせであることができる。対イオンは、ハロゲン化物(例えばフッ化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物)、鉱酸由来のアニオン(例えば、硝酸イオン、リン酸イオン、重硫酸イオン、硫酸イオン、ケイ酸イオン)、有機酸由来のアニオン(例えば炭酸イオン、クエン酸イオン、リンゴ酸イオン、酢酸イオン、チオ酢酸イオン、プロピオン酸イオン及び乳酸イオン)、有機分子又は生体分子(例えば酸性のタンパク質又はペプチド、アミノ酸、核酸及び脂肪酸)、及び他の物質(例えば両性イオン及び塩基性合成重合体)であることができる。例えば、塩酸モノエタノールアミン(MEA・HCl,HOC2H4NH3Cl)は以下の通り、即ち、一つの窒素原子(N1)が一つの炭素原子(R1=C2H5O)と三つの水素原子(R2、R3及びH)に結合し、一つの塩化物対イオン(X1=Cl-)が存在することで、化合物1に合致する。化合物1に示す一般式を有する化合物は、広範な酸性度を有することができ、本発明の概念の有機アミンは、それがアルカリ土類金属の塩又は酸化物の混合物を含有する試料からアルカリ土類金属の塩又は酸化物の一種以上と選択的に反応することができるように、その酸性度に基づいて選択することができる。そのような化合物は水又は他の適切な溶媒に溶解した場合、(例えば)効果的に、適切な試料(例えば鉄鋼スラグ)中の水酸化カルシウムの形態で存在するアルカリ土類元素カルシウムを抽出することができる。式1は浸出剤として有機アミンカチオン(OA-H+)/対イオン(Cl-)複合体(OA-H+/Cl-)を用いながらマトリックスから不溶性アルカリ土類(AE)塩(この場合は水酸化物塩)を抽出する場合の一次化学反応を示している。OA-H+/Cl-複合体は水中で解離してOA-H+とCl-になることに注意しなければならない。
【0033】
[化2]
AE(OH)2(固体) + 2OA-H+(液体) + 2Cl-(液体) → AECl2(液体) + 2OA(液体) + 2H2O
式1
【0034】
対イオン(Cl-)は有機アミンカチオン(OA-H+)からアルカリ土類塩に移行して可溶性のアルカリ土類/対イオン複合体(AECl2)、非荷電の有機アミン(OA)及び水を形成する。可溶化されると、アルカリ土類/対イオン複合体は何れかの適切な手段により溶液から回収できる。例えば、アルカリ土類カチオン/対イオン複合体と反応して不溶性のアルカリ土類塩(AESC)を形成する酸の形態(例えばH2SC)の第2の対イオン(SC)の添加を用いることにより、式2に示す通り、抽出されたアルカリ土類を上澄みから沈殿させ、対イオンを放出することにより有機アミンカチオン/対イオンのペアを再生することができる。
【0035】
[化3]
AECl2(液体) + 2OA(液体) + H2SC → AESC塩(固体) + 2OA+(液体) + 2Cl-
式2
【0036】
適切な第2の対イオンの例は多価のカチオン、例えば炭酸イオン(CO2として供給できる)、硫酸イオン、亜硫酸イオン、クロム酸イオン、亜塩素酸イオン及びリン酸水素イオンを包含する。
【0037】
或いは、pH変化、温度変化又は蒸発を用いることにより可溶化されたアルカリ土類を沈殿させることができる。一部の実施形態においては、アルカリ土類元素は電着プロセス、例えば電解採取又は電解製錬を用いて回収できる。本発明の概念の他の実施形態においては、可溶化されたアルカリ土類元素はイオン交換により、例えば適切な媒体とともに固定床反応器又は流動床反応器を用いながら、回収できる。
【0038】
本発明の概念の好ましい実施形態においては、アルカリ土類元素は、以下に示す通り浸出剤を有利に再生する二酸化炭素(CO2)とのアルカリ土類/浸出剤混合物の反応を介した沈殿により回収される。当然ながら、アルカリ土類元素を回収するプロセスは選択的であり、そのような選択性は後に記載する単一の供給源から複数のアルカリ土類元素を回収する際に利用できる。
【0039】
有機アミンカチオン/対イオン複合体は非荷電の有機アミンから、例えば式3に示すように対イオン(H-Cl)の酸形態を用いながら生成され、OA-H+/Cl-浸出剤を再生させることができる。
【0040】
[化4]
OA(液体) + H-Cl(液体) → OA-H+(液体) + Cl-
式3
【0041】
本発明の概念の一部の実施形態においては、式3に記載した反応はアルカリ土類元素の供給源への非荷電の有機アミンの導入の後に実施することができ、その場合、浸出剤は対イオンの酸形態の添加により後に生成する。これにより反応を開始する前に浸出剤前駆体にアルカリ土類供給源を十分に混合することが可能となり、好都合である。
【0042】
アルカリ土類元素の(例えばカルシウム含有物、又は鉄鋼スラグ、及び他の材料からの)抽出のために適切な有機アミンは約7又は約8から約14のpKaを有することができ、プロトン化されたアンモニウム塩を包含できる(即ち第四級ではない)。浸出剤中に使用するために適切な有機アミンの例は、弱塩基、例えばアンモニア、窒素含有有機化合物(例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノプロパン、トリエチルアミン、ジメチルアミン及びトリメチルアミン)、低分子量生体分子(例えばグルコサミン、アミノ糖、テトラエチレンペンタミン、アミノ酸、ポリエチレンイミン、スペルミジン、スペルミン、プトレシン、カダベリン、ヘキサメチレンジアミン、テトラエチルメチレンジアミン、ポリエチレンアミン、カチン、イソプロピルアミン及びカチオン性脂質)、生体分子重合体(例えばキトサン、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリアルギニン、カチオン性タンパク質又はペプチド)、及び他のもの(例えば樹状ポリアミン、ポリカチオン性の重合体又はオリゴマー材料、及びカチオン性脂質様材料)又はこれらの組み合わせを包含する。本発明の概念の一部の実施形態においては、有機アミンはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン又はトリエタノールアミンであることができ、これらはカチオン形態においては硝酸、臭素、塩素又は酢酸アニオンと対になることができる。本発明の概念の他の実施形態においては、有機アミンはリジン又はグリシンであることができ、これはカチオン形態においては塩素又は酢酸アニオンと対になることができる。本発明の概念の好ましい実施形態においては、有機アミンはモノエタノールアミンであり、これはカチオン形態では塩素アニオンと対になることができる。
【0043】
そのような有機アミンは純度において約50%から約100%の範囲となることができる。例えば、本発明の概念の有機アミンは約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、約99%、又は約100%の純度を有することができる。本発明の概念の好ましい実施形態においては、有機アミンは約90%から約100%の純度で供給される。当然ながら、有機アミンはアルカリ土類族の異なるメンバーと、及び夾雑質種とのその相互作用能力において異なる場合があり、そのような選択性は後述するように複数のアルカリ土類の回収において利用できる。
【0044】
本発明者等は更に、両性イオン種を適切な浸出剤中で使用することができること、及び、そのような両性イオン種は同じか異なる分子種の二つのメンバーとカチオン/対イオンの対を形成することができることも意図している。例には、アミン含有酸(例えばアミノ酸及び3-アミノプロパン酸)、キレート形成剤(例えばエチレンジアミン四酢酸及びその塩、エチレングリコール四酢酸及びその塩、ジエチレントリアミン五酢酸及びその塩、及び1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸及びその塩)、及びその他(例えばベタイン、イリド、及びポリアミノカルボン酸)が包含される。
【0045】
浸出剤中で使用するための有機アミンは最小限の環境への影響を有するように選択することができる。グリシンのような生物学的に誘導された有機アミンの使用は持続可能な慣行であり、本発明の概念のプロセスをより環境調和型のものとする有益な作用を有する。更に、当然ながらモノエタノールアミンのような一部の有機アミンはプロセシング中に揮発する傾向が極めて低い。本発明の概念の一部の実施形態においては、有機アミンは低揮発性の有機アミンであることができる(即ち、プロセス条件下においてアンモニアの約1%以下の蒸気圧を有する)。本発明の概念の好ましい実施形態においては、有機アミンは非揮発性の有機アミンであることができる(即ち、プロセス条件下においてアンモニアの約0.1%以下の蒸気圧を有する)。そのような低揮発性及び非揮発性の有機アミンの捕獲及び制御は比較的小さいエネルギーを必要とし、簡素な機材を利用することができる。これにより、そのような低揮発性及び非揮発性の有機アミンが大気中に散逸する可能性が低減され、その使用の環境への影響を有利に低減する。
【0046】
本発明の概念の適用の例は、塩化アンモニウム含有浸出剤を用いた不溶性水酸化カルシウムの単離である。カルシウムの塩基性形態を含有する如何なる供給源も本発明の概念のプロセスにおける使用に適している場合があり、例えば鉄鋼スラグ、フライアッシュ、セメントキルンダスト、灰、シェールアッシュ、アセチレン触媒廃棄物、ドライム、石灰、低等級石灰及び水酸化カルシウムが挙げられる。本発明の概念の一部の実施形態においては、カルシウム供給源は高レベルの汚染を伴った単位質量あたり高カルシウム含有量に基づいて選択でき、例えば低等級の石灰又はドロマイト質石灰が挙げられる。本発明の概念の他の実施形態において、カルシウムは石灰、例えば低等級石灰から回収できる。式4は塩化アンモニウム含有浸出剤に水酸化カルシウム(Ca(OH)2)含有鉄鋼スラグを接触させた場合に起こる反応を示している。
【0047】
[化5]
Ca(OH)2(固体) + 2NH4+(液体) + 2Cl-(液体) → CaCl2(液体) + 2NH3(液体) + 2H2O
式4
【0048】
カルシウムは非荷電のアンモニア(NH3)及び水の発生を伴いながら可溶性の塩化カルシウム(CaCl2)としてスラグから抽出される。
【0049】
可溶性のアルカリ土類塩、例えば塩化カルシウム及び式4の可溶性アンモニア(又は反応が金属酸化物/水酸化物に限定されている場合は可溶性アンモニウムイオン)は例えば濾過により不溶性の固体残存物から容易に分離できる。分離後は、標的プロセスが少量のアンモニア又は塩化アンモニウムに耐容である場合には、可溶性の水性画分をそのまま使用できる。或いは、必要に応じて溶液を更に処理できる。本発明の概念の好ましい実施形態においては、浸出剤を再生し、アルカリ土類カルシウムを式5に示す通り二酸化炭素(CO2)の添加により不溶性の塩として回収する。当然ながら水性のCO2はイオン化された炭酸の形態であることができる(即ち2H+プラスCO32-)。
【0050】
[化6]
CaCl2(固体)+2NH3(液体)+CO2(液体)+H2O → CaCO3(液体)+2NH3(液体)++2Cl-(液体)
式5
【0051】
当然ながら本発明の概念のシステム、方法及び組成物は他の夾雑物、例えば他のアルカリ土類元素を含有する原鉱から所望のアルカリ土類元素(例えばカルシウム)を選択的に抽出及び/又は製錬するためにも使用できる。本明細書に記載した浸出剤を用いることにより、当業者であればアルカリ土類元素に関連する様々な程度の塩基度を利用し、選択的抽出を達成するための相当する酸性度の浸出剤を選択できる。
【0052】
上記の通り、多くの場合において低揮発性及び/又は非揮発性の浸出剤を使用することが望ましい。本発明の概念のそのようなプロセスの例は、塩酸モノエタノールアミンのような非揮発性の有機アミンを用いながら他の商業上有用で抽出可能な材料を包含する原材料からカルシウム(Ca)及び/又は他のアルカリ土類を抽出することである。
図1はそのようなプロセスの一例を模式的に示す。アルカリ土類及び他の抽出可能な材料を含有する原材料を浸出剤と、そして二酸化炭素と、反応容器100中で接触させる。溶媒も包含することができる。使用する溶媒は大量のカルシウム塩の溶媒和を支援することができる何れのプロトン性又は高度に極性の溶媒であってもよい。適切な溶媒の例は、水、グリセロール及び水とグリセロールの混合物を包含する。得られた反応混合物は、再生された浸出剤を含む溶媒系中に懸濁した、抽出された原材料及び不溶性のアルカリ土類炭酸塩(例えば炭酸カルシウム)のスラリーである。スラリーを分離機130に移し、ここで抽出された原材料40、アルカリ土類炭酸塩150及び再生された浸出剤160を含有する三つの生成物流を生成する。意外にも、出願人等は、このようなプロセスで生成したアルカリ土類炭酸塩の特徴的なサイズ及び/又は密度は精巧な分離方法又は機材を使用することなく抽出された原材料からの容易な分離を可能とすることを発見した。
【0053】
広範な種類の分離機及び分離様式を使用できる。典型的には、分離は沈降によるか、又は遠心分離により行われるが、濾過及び磁気分離も考えられる。適切な濾過手法はベッドフィルター、メッシュフィルター、バッグフィルター、ベルトフィルター及びフィルタープレスの使用を包含する。本発明の概念の好ましい実施形態においては、分離機130は連続分離を支援し、ハイドロサイクロンを包含できる。
【0054】
上記の通り、浸出剤は抽出及び沈殿のプロセスの間に再生される。これにより有利なことに浸出剤化合物の準化学量論的な量の使用が可能となり、本発明の概念の方法を実施する費用が低減され、潜在的な環境影響も低減される。分離機130による反応容器100中で生成したスラリーからの固体の分離によりそのような再生された浸出剤160の生成物流がもたらされる。これは再使用のために反応容器100に返還できる。このような再使用により本発明の概念の方法を実施する費用が更に低減され、浸出剤廃棄物を本質的に消失させることができる。
【0055】
アルカリ土類の抽出の後、抽出された原材料は残存する抽出可能な材料が濃縮されている(供給された原材料と相対比較して)。この濃縮は抽出された原材料からの回収を実現可能なものとすることができ、ここで、そのような回収は供給された状態の原材料からは商業的に実現不可能である。示される通り、抽出された原材料140は更に処理160されてそのような二次的な抽出可能な材料170を抽出する。
【0056】
本発明の概念の他の実施形態においては、アルカリ土類担持原材料との浸出剤の反応により生成したスラリーの成分の分離、不溶性のアルカリ土類炭酸塩の生成、及び浸出剤の再生は、
図2に示す通り二つ以上の濾過工程を用いながら実施できる。
図2はそのようなプロセスの一例を模式的に示す。アルカリ土類及び他の抽出可能な材料を含有する原材料を浸出剤と、そして二酸化炭素と、反応容器200中で接触させる。溶媒も包含することができる。使用する溶媒は大量のカルシウム塩の溶媒和を支援することができる何れのプロトン性又は高度に極性の溶媒であってもよい。適切な溶媒の例は、水、グリセロール及び水とグリセロールの混合物を包含する。得られた反応混合物は、再生された浸出剤を含む溶媒系中に懸濁した、抽出された原材料及び不溶性のアルカリ土類炭酸塩の塩(例えば炭酸カルシウム)のスラリーである。スラリーを第1の分離機210、次いで第2の分離機230に移し、ここで抽出された原材料240、アルカリ土類炭酸塩250及び再生された浸出剤260を含有する三つの生成物流を生成する。一部の実施形態においては一つ以上の追加的な分離機220を分離機210と分離機230の間に挿入する。同じか又は異なる分離方法及び/又は技術を用いることができる複数の分離機の使用により、様々なスラリー成分のより完全な分離が可能となり、より高等級のアルカリ土類炭酸塩の生成物が得られる。意外にも、出願人等は、このようなプロセスで生成したアルカリ土類炭酸塩の特徴的なサイズ及び/又は密度は、精巧な分離方法又は機材を使用することなく抽出された原材料からの容易な分離を可能とすることを発見した。
【0057】
広範な種類の分離機及び分離様式を使用できる。典型的には、分離は沈降によるか、又は遠心分離により行われるが、濾過及び磁気分離も考えられる。適切な濾過手法はベッドフィルター、メッシュフィルター、バッグフィルター、ベルトフィルター及びフィルタープレスの使用を包含する。上記の通り、複数の分離機を使用する場合、そのような分離機は同じか同様の分離方法を使用することができ、或いは、異なる分離方法を逐次的方式において利用できる。本発明の概念の好ましい実施形態においては、複数の分離機を使用する場合、分離機の少なくとも一つが連続分離を支援し、液体サイクロンを包含できる。
【0058】
上記の通り、浸出剤は抽出及び沈殿のプロセスの間に再生される。これにより有利にも浸出剤化合物の準化学量論的な量の使用が可能となり、本発明の概念の方法を実施する費用が低減され、潜在的な環境影響も低減される。反応容器200中で生成したスラリーからの固体の分離によりそのような再生された浸出剤260の生成物流がもたらされる。これは再使用のために反応容器200に返還できる。このような再使用により本発明の概念の方法を実施する費用が更に低減され、浸出剤廃棄物を本質的に消失させることができる。
【0059】
アルカリ土類の抽出の後、抽出された原材料は残存する抽出可能な材料中に濃縮されている(供給された原材料と相対比較して)。この濃縮は抽出された原材料からの回収を実現可能なものとすることができ、ここで、そのような回収は供給された状態の原材料からは商業的に実現不可能である。示される通り、抽出された原材料240は更に処理260されてそのような二次的な抽出可能な材料270を抽出する。
【0060】
当然ながら
図1及び
図2に模式的に示したプロセスは連続方式で実施できる。例えば、原材料、浸出剤及び二酸化炭素を反応容器に供給することにより原材料からのアルカリ土類の抽出及びスラリーの一部としてのアルカリ土類炭酸塩の沈殿を開始できる。追加的な原材料及び二酸化炭素は、反応容器からスラリーが移動されるに従って反応容器に連続的に供給され、処理プロセシングされることができ、その際、再生された浸出剤は反応容器に返還されることにより抽出及び沈殿の反応が継続する。一部の実施形態においては、追加的な浸出剤はプロセシングの間の損失を補填するためにも添加することができる。或いは、
図1及び
図2に示したプロセスは一連のバッチ法により実施することができ、その場合、個々の原材料塊は逐次的にプロセスを通過する。他の実施形態においては、本発明の概念のプロセスは半バッチ(半連続方式)で実施でき、例えばその場合、原材料は一連の個々の量として反応容器に供給され、反応により生成したスラリーは連続状態の分離に移動される。
【0061】
本発明の概念のプロセスの別の実施形態を
図3に模式的に示す。アルカリ土類を含有する原材料を反応容器300中で浸出剤と混合し、抽出された原材料、及び、溶媒和されたアルカリ土類を含有する溶液を生成する。この混合物を第1の分離機310に移し、ここで溶媒和したアルカリ土類の流れを生じさせ、これを第2の反応容器320に移す。一部の実施形態においては、抽出された原材料を第1の分離機310中にある間に更に抽出する。他の実施形態において、抽出された原材料は第1の反応容器300に戻され、更に抽出される。そのような実施形態は低品質の原材料からの所望のアルカリ土類の抽出効率及び/又は収量を向上させ、一方でプロセスの柔軟性に順応している。二酸化炭素を第2の反応容器320中の溶媒和されたアルカリ土類に導入し、不溶性のアルカリ土類炭酸塩を生成し、浸出剤を再生する。
【0062】
第2の反応容器320から生じた混合物を第2の分離機330に移し、ここで再生された浸出剤350A、350Bをアルカリ土類炭酸塩340から分離する。再生された浸出剤350Aを第2の分離機330から第1の反応容器330に戻して再使用することができる。一部の実施形態においては再生された浸出剤350Bの一部又は全てを第1の分離機310に移し、ここではそれは追加的な浸出剤を用いることなくプロセシングされた原材料からのアルカリ土類の連続的抽出を有利に支援する。
【0063】
本発明の概念の一部の実施形態においては、洗浄工程(例えば水流洗浄)を第2の分離機330中にある間に不溶性アルカリ土類炭酸塩に適用することができる。これにより廃棄物流360が生じ、これを収集することにより浸出剤種を取り戻すことができる。このような洗浄工程により、プロセシング方法に簡便に統合された工程においてより高品質な付加価値を有するアルカリ土類炭酸塩を提供できる。
【0064】
当然ながら
図3に模式的に示したプロセスは連続方式で実施することができる。例えば、原材料及び浸出液を第1の反応容器に供給して原材料からのアルカリ土類の抽出を開始できる。追加的な原材料を第1の反応容器に連続的に供給でき、二酸化炭素は第2の反応容器に連続的に供給でき、その際それらの各々の反応混合物は処理され、再生された浸出剤は第1の反応容器及び/又は第1の分離機に返還され、抽出及び沈殿の反応を継続する。一部の実施形態においては、追加的な浸出剤は処理の間の損失を補填するためにも添加することができる。或いは、
図1及び
図2に示したプロセスは一連のバッチ法により実施することができ、その場合、個々の原材料塊は逐次的にプロセスを通過する。他の実施形態においては、本発明の概念のプロセスは半バッチ(半連続方式)で実施でき、例えばその場合、原材料は一連の個々の量として反応容器に供給され、反応により生成したスラリーは連続状態の分離に供される。
【0065】
アルカリ土類は上記のプロセスにおいては沈殿により溶液から回収されるが、当然ながら他の回収方法も適している。本発明の概念の一部の実施形態においては、アルカリ土類カチオンは例えば電着又はイオン交換により沈殿を行うことなく上澄みから回収できる。
【0066】
このような反応のためのプロセス最適化は生成物形成の速度を制御する手段を設けることにより簡素化される。反応条件は反応に使用できる表面積を調節することにより最適化できる。カルシウム含有原材料の粒径は例えば粉砕、ミリング又はシフティングにより浸出剤に曝露する前に低減できる。本発明の概念の一部の実施形態においては、粒径は約0.05mmから約1mmの範囲とすることができる。本発明の概念の他の実施形態において、粒径は約0.05から約0.25mmであることができる。好ましい実施形態において、粒径は約0.05mmから約0.125mmであることができる。
【0067】
溶液のアルカリ土類含有量も調節することにより効率的な抽出を行うことができる。本発明の概念の一部の実施形態においては、アルカリ土類含有量は、アルカリ土類の質量比(例えば水に対するCaOとして)が約0.02から約0.5の範囲とすることができるように制御する。他の実施形態においては、アルカリ土類の質量比は約0.05から約0.25の範囲とすることができる。本発明のプロセスの好ましい実施形態においては、アルカリ土類の質量比は約0.1から約0.15の範囲とすることができる。
【0068】
抽出プロセスは対イオンの酸形態の添加により開始できる。例えば塩酸(HCl)はモノエタノールアミンとの有機酸カチオン/対イオン対を生成させ、浸出剤溶液として活性である塩酸モノエタノールアミン(MEA+Cl-)を形成する。塩酸モノエタノールアミン(MEA・HCl、HOC2H4NH3Cl)は以下の通り化合物1に合致、即ち、一つの窒素原子(N1)が一つの炭素原子(R1=C2H5O)及び三つの水素原子(R2、R3及びH)に結合し、一つの塩化物対イオン(X1=Cl-)が存在する。抽出プロセスは有機アミンカチオン/対イオン対との反応により形成されたアルカリ土類塩の溶媒和を支援するために適切な何れかの温度で実施できる。本発明の概念の一部の実施形態においては、抽出は約0℃から約120℃の温度範囲で実施できる。本発明の概念の他の実施形態においては、抽出は約20℃から約100℃の温度範囲で実施できる。本発明の概念の好ましい実施形態においては、抽出は約20℃から約70℃の温度範囲で実施でき、温度制御機材の必要性が有利に低減される。
【0069】
原材料からアルカリ土類を抽出するプロセスの間、攪拌しながら反応を行うことにより、反応の速度論的動態を向上させることができる。一部の実施形態においては攪拌子の速度は約100rpmから約2000rpmの範囲とすることができ;本発明の概念の他の実施形態においては、攪拌子の速度は約200rpmから約500rpmの範囲とすることができる。式6はそのような抽出における重要な化学反応を示している(本例においては夾雑物を含有する鉄鋼スラグからのカルシウム)。留意すべきはMEA・HClは水中では解離してモノエタノールアンモニウムカチオン(HOC2H4NH3+(MEAH+))及び塩化物アニオン(Cl-)となることである。反応生成物は可溶性のCaCl2及び非荷電のモノエタノールアミン(MEA)を包含する。
【0070】
[化7]
Ca(OH)2(s)+2HOC2H4NH3+(液体)+2Cl-(液体)→CaCl2(液体)+2HOC2H4NH2(溶液)+2H2O(l)
式6
【0071】
抽出プロセスは処理すべき材料の量及び質により決定される何れかの適切な長さの時間、実施することができる。本発明の概念の一部の実施形態において、抽出は0.5時間から24時間実施できる。他の実施形態においては、抽出は約30分間実施できる。本発明の概念の好ましい実施形態においては、抽出は約15分間実施できる。浸出剤中に使用される有機アミン種に一部依存して、抽出プロセス中の溶液のpHを変えることができ、例えば、試料からアルカリ土類元素が抽出されるに従って上昇させる。本発明の概念の一部の実施形態においては、抽出開始時の溶液のpHは約6から約13の範囲とすることができる。本発明の概念の他の実施形態において、抽出工程の終了時のpHは約10から約12の範囲とすることができる。
【0072】
浸出剤による原材料の抽出により、最終生成物中では望ましくない不溶性材料(例えば抽出された原材料)が残存する。上記の通り、これらは、沈降、遠心分離及び濾過を包含する様々な手段により除去できる。例えば、不溶性材料は、フィルターケーキを生成するフィルタープレス中等で、濾過により除去できる。プロセスの効率を高めるためには、そのような濾過から生じたフィルターケーキを洗浄することにより更に抽出されたアルカリ土類を除去できる。一部の実施形態においては、フィルターケーキの湿潤量の約十倍の洗浄容量でフィルターケーキを処理できる。本発明のプロセスの好ましい実施形態においては、より少ない容量を使用でき、例えばフィルターケーキの湿潤量の約5倍、又はフィルターケーキの湿潤量の約3倍とすることができる。
【0073】
未反応夾雑物から得られた可溶性画分又は上澄みの分離の後、可溶化されたアルカリ土類元素を、例えば二酸化炭素(CO2)のような沈殿剤の添加により回収できる。沈殿剤はアルカリ土類元素との不溶性塩を形成する作用を有する。意外にも、本発明者等はアルカリ土類塩化物(例えばCaCl2)のCO2沈殿が酸性pH(即ちpH<7)において効率的に進行できることを発見した。CO2の添加はまた、190及び式7に示す通り有機アミンカチオン/対イオン対を生成し、これにより浸出剤を再生する。
【0074】
[化8]
CaCl2(液体)+2HOC2H4NH2(液体)+2H2O(l)+CO2 → CaCO3(固体)+HOC2H4NH3+(液体)+Cl-
式7
【0075】
このような沈殿反応は沈殿剤(例えばCO2)の溶解性を支援し、沈殿塩の不溶性を維持するために適切な何れかの温度において実施できる。本発明の概念の一部の実施形態においては、沈殿反応は約4℃から約100℃で実施できる。他の実施形態においては、沈殿反応は約20℃から約80℃で実施できる。本発明の概念の好ましい実施形態においては、沈殿反応は約40℃から約80℃で実施できる。
【0076】
当然ながら本発明の概念の方法は高度に精製された二酸化炭素の使用を必要としない。供給されるCO2ガスの濃度は約0.1%から約100%の範囲とすることができる。本発明の概念の一部の実施形態においては、CO2ガスの濃度は約10%から約100%の範囲とすることができる。これにより比較的低い品質又は濃度のCO2供給源、例えば排ガス又は他の廃棄物ガス類の利用が可能となる。CO2含有ガスは適切な時間、例えば約3時間から約4時間以内に、存在するカルシウムの本質的に全てをCaCO3に変換するために適切な何れかの速度で適用できる。適切な流量は1L/時/モルアルカリ土類から約100L/時/モルアルカリ土類の範囲とすることができる。本発明の概念の好ましい実施形態においては、CO2含有ガスの流量は約10L/時/モルCaから約20L/時/モルCaとすることができる。溶液のpHは沈殿反応中変化させることができる。
【0077】
ワーキング溶液のpHは溶媒和したアルカリ土類の沈殿の間、変化させることができる。本発明の概念の一部の実施形態においては、溶液の開始時pHは約9から約12の範囲とすることができ、沈殿の終了時には約6から約8の範囲とすることができる。有利には、このpHシフトをモニタリングすることにより沈殿反応の進行の指標とすることができる。意外にも、本発明者等はこのプロセスにおけるアルカリ土類塩化物(例えばCaCl2)のCO2沈殿が酸性pH(即ちpH<7)において効率的に進行できることを発見した。沈殿反応は適切な終点に達するまで実施できる。例えば、一部の実施形態においては、反応のpHが少なくとも約15分間、特定の設定値(例えば約8のpH)未満であり続けるまで実施できる。
【0078】
当然ながら浸出剤を選択することによりアルカリ土類の選択的抽出が可能となる。例えば塩酸モノエタノールアミンを使用すれば、式8及び式9に示す通り、供給源材料中の望ましくない金属(ME)又は金属酸化物/水酸化物(MEOx)とは反応しないため、多くの原材料からのカルシウムの選択的抽出が促進される。
【0079】
[化9]
ME(s) + HOC2H4NH3+(液体) → 反応せず
式8
【0080】
[化10]
MEOx(s) + HOC2H4NH3+(液体) → 反応せず
式9
【0081】
上記の通り、可溶性のアルカリ土類塩及び浸出剤は抽出された原材料から容易に分離できる。分離後、標的プロセスが夾雑物としての浸出剤に耐えることができる限り、可溶性アルカリ土類塩を利用する標的プロセスにおいて、可溶性画分をそのまま使用できる。
【0082】
本発明の概念の一部の実施形態においては、式6に示す通り、エンドユーザーにより必要とされる所望の濃度にまでアルカリ土類カチオン/対イオン複合体を含有する溶液を濃縮又は希釈する。或いは、そのような溶液を煮沸又は完全に蒸発させることにより、混合物をどの程度徹底的に乾燥させるかに応じて、アルカリ土類元素カチオン/対イオンの塩及び/又はその様々な水和物を得ることができる。残存する非荷電の有機アミンはまた、このプロセスにより除去され、そして場合により捕獲されて再使用に供される場合がある。乾燥アルカリ土類元素の塩化物を更に処理し、熱酸化、シュウ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は他の沈殿剤のような薬剤を用いた沈殿を介して酸化物とする場合がある。
【0083】
当然ながら化合物1の形態の多くの考えられる浸出剤が存在し、そして同様に多くのアルカリ土類元素供給源が存在する。提示した例は特定のアルカリ土類元素(カルシウム)の一つの特定の供給源(鉄鋼スラグ)による2種の有機アミン浸出剤(即ち塩化アンモニウム及び塩酸モノエタノールアミン(別名モノエタノールアンモニウムクロリド)の作用を記載しているが、本発明の概念のプロセスの他の例は有機アミンカチオン/対イオン対、例えば、酢酸アンモニウム、モノエタノールアンモニウムアセテート、硝酸アンモニウム又はモノエタノールアンモニウムニトレートを利用できる。或いは、アミノ酸グリシン(又はその塩)又はポリ-L-リジンの臭化水素酸塩のような生物学的に誘導された浸出剤も使用できる。
【0084】
同様に、例は鉄鋼スラグの使用を記載しているが、他の供給源(例えば方解石、苦灰石(ドロマイト)、石膏、斜長石、角閃石、輝石及び柘榴石(ガーネット))も適している。或いは、本発明の概念のシステム、方法及び組成物は、農業廃棄物、消費者廃棄物、工業廃棄物、スクラップ又は製造プロセスから生じる他の過剰な材料、又は他の使用済み供給源からアルカリ土類元素を回収するために利用できる。
【0085】
多くのアルカリ土類元素が水酸化物を形成でき、これらの大部分は極めて限定された水溶性を有する。これらの水酸化物はまた様々な程度の塩基性を有する。様々な鉱物供給源から生成される水酸化カルシウムを例では引用しているが、水中で適切な塩基を形成する多くの他のアルカリ土類元素が存在する。本発明の概念のシステム及び方法における使用に適切な水酸化物の形態の他の元素の例は、ベリリウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムを包含する。このような塩は様々な塩基性度を有し、それを様々な酸性度を有する有機アミン系浸出剤と組み合わせることにより選択的回収が可能となる。
【0086】
また留意すべきは、本発明の概念のシステム、方法及び組成物は一つの特定の浸出剤又はアニオンのセットで抽出される一つのアルカリ土類種に限定されない点である。複数のアルカリ土類種を様々な有機アミン系浸出剤及び様々なアニオン(又は酸)とともに逐次的又は並行して使用することにより金属の特定の混合物を抽出したり、又は金属塩の特定の混合物を生成することができる。
【0087】
本発明の概念の好ましい実施形態においては、アルカリ土類カチオンは沈殿剤(例えば二酸化炭素)の添加により回収され、容易に回収される不溶性アルカリ土類塩を生成する。上記では二酸化炭素を使用したが、本発明の概念の方法は他の沈殿剤も利用できる。そのような沈殿剤は、アルカリ土類元素の不溶性の塩を形成し、一方で有機アミンカチオン、例えばCO2又は炭酸、クロム酸又は硫酸を再生するために適切なH+供与種であることができる。本発明の概念の好ましい実施形態においては、沈殿剤(Pr)はCO2又は炭酸である。意外にも、本発明者等は、この沈殿を7未満のpHで実施できることを発見した。そのような実施形態において、沈殿工程は、約6から約7のpHで実施できる。好ましい実施形態においては、沈殿工程は約6.7のpHで実施できる。次に上澄み250中に残存する非荷電の有機アミンをこのプロセス中で再生270し、反応の次の反復回において使用できる浸出剤220の部分を形成できる有機アミンカチオンを形成することができる。この浸出剤のリサイクルは、プロセスの複数循環を介して消費量を大きく低減し、環境への影響及び出費を有利に低減する。
【0088】
本発明の概念の別の実施形態は、試料又は原材料からの二種以上のアルカリ土類元素の回収を可能にする。そのようなプロセスの例を
図4に示す。このような方法400において、試料又は原材料410は、第1の有機アミンカチオン/対イオン対及び第2の有機アミンカチオン/対イオン対を包含する浸出剤420と接触させられる。この混合物430は処理された試料450及び第1の上澄み440をもたらす。この第1の上澄みは第1のアルカリ土類元素カチオン/対イオン対、第2のアルカリ土類元素カチオン/対イオン対、第1の非荷電有機アミン及び第2の非荷電有機アミンを包含できる。第1のアルカリ土類カチオンは、沈殿、電気めっき又はイオン交換を包含する何れかの適切な選択手段により第1の上澄み440から回収できる。本発明の概念の好ましい実施形態においては、第1のアルカリ土類元素は、第1のアルカリ土類元素(又はカチオン)の不溶性の塩を、この不溶性の第1のアルカリ土類塩及び第2の上澄み460の混合物中で選択的に形成する第1の沈殿剤(Pr1)を加えることにより回収できる。この混合物460の成分を分別(例えば沈降、濾過及び/又は遠心分離による)することにより、第1の不溶性アルカリ土類塩465及び第2の上澄み470(これは更に処理できる)が得られる。例えばマグネシウム及びカルシウムの混合物を含有する試料においては、第1の沈殿剤(P1)としてのクロム酸の添加による反応のこの工程においてカルシウムを回収し、比較的不溶性のクロム酸カルシウム(CaCrO
4)を形成することができ、比較的可溶性のクロム酸マグネシウム(MgCrO
4)は溶液中に残存する。
【0089】
当然ながら、このようなプロセスにおいて、
図1及び
図2に示す通り、沈殿剤(例えば二酸化炭素)は、試料又は原材料を第1の浸出剤と接触させることと同時又は本質的に同時に添加できる。そのような実施形態において、混合物430は第1の不溶性アルカリ土類塩を包含する場合もある。そのような混合物は、沈降、濾過及び遠心分離を含む様々な手段により、処理された試料又は原材料410、第1の不溶性アルカリ土類塩465、及び第2の上澄み470に分別できる。次に第2の上澄み470を以下に記載する通り処理できる。処理された試料又は原材料450は、浸出剤によるアルカリ土類の抽出の後には他の材料に関して濃縮されており、これを処理492することにより、他の商業的に価値のある金属又は他の材料495を回収することができる。そのような処理492は異なる浸出剤による処理、電着、溶錬及び/又は他のプロセスを包含できる。
【0090】
第2の上澄み470からの第2のアルカリ土類カチオンの回収はまた、再生された浸出剤490ももたらす。第2のアルカリ土類カチオンは、沈殿、電着又はイオン交換のような何れかの適切な手段により第2の上澄み470から回収できる。本発明の概念の一部の実施形態においては、第2のアルカリ土類元素は、第2のアルカリ土類元素の不溶性の塩の混合物480を形成する第2の沈殿剤(Pr2)を添加することにより回収でき、そして浸出剤の再生を完了することができる。例えば、マグネシウム及びカルシウムの混合物を含有する試料中、マグネシウムは、第2の沈殿剤(P2)としてのCO2又は炭酸の添加によるクロム酸処理から生じた上澄みからの反応工程において回収でき、これにより比較的不溶性の炭酸カルシウム(CaCO3)が形成される。再生された浸出剤490は次にプロセスの次の反復回においてリサイクルできる。同様に、一部の実施形態においては、再生された浸出剤は、中間分離工程(例えば工程430及び/又は工程460)に返還することができ、これにより所望のアルカリ土類の追加的な抽出及び可溶化を行うことができる。
【0091】
本発明の概念の一部の実施形態においては、第1の有機アミン及び第2の有機アミン(及びそれら各々のカチオン)は異なる酸性度及び/又はアルカリ土類元素に対する特異性を有する異なる分子種であることができる。本発明の概念の他の実施形態においては、第1の有機アミン及び第2の有機アミンは同じ分子種であることができ、第1のアルカリ土類元素と第2のアルカリ土類元素の間の選択性は上澄みからのそれらの回収のために用いられる方法によりもたらされる。例えば、異なる沈殿剤種の利用、同じ沈殿剤種の異なる条件下(例えば、濃度、温度、pH又はこれらの組み合わせ)での利用、異なる選択性を有するイオン交換媒体の利用、又はこれらのアプローチの組み合わせを用いることにより、試料のアルカリ土類元素の選択的回収を行うことができる。当然ながら、
図2及び
図3に記載のプロセスにおいて説明する通り、繰り返される反復回を通した浸出剤の再生及び再使用は有利に、有機アミンの必要量を低減し、これは、このような作業の環境への影響を制限すると同時に材料のかなりの節約を可能にする。
【0092】
カルシウムに適切な原料の特定の例は鉄鋼スラグである。典型的な鉄鋼スラグの組成を
図5に示す。示されている通り、鉄鋼スラグは水への曝露により水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)となる酸化カルシウム(CaO)を包含する様々な金属酸化物の複雑な混合物である。典型的には、鉄鋼スラグ(又は別のカルシウム供給源)は処理の前に約125μm未満まで粉砕される。これにより反応に使用できる表面積が大きく増大し、一方で迅速に沈降する材料が提供される。例示される抽出プロセスでは、水及び浸出剤を1%から約50%の範囲とすることができる適切な比で混合する。粉砕されたスラグ及び水性の浸出剤を混合し、次にカルシウムカチオン/対イオン対が形成されるのに十分な時間、撹拌又は振とうする。この混合時間は、約1分から約12時間まで変動できる。好ましい実施形態においては、この混合時間は約10分間である。カルシウムの枯渇した固体残存物を除去し、液体画分又は上澄みを、二酸化炭素(又は等価物、例えば炭酸)の添加により処理し、炭酸カルシウム(CaCO
3)を沈殿させる。このプロセスはまた、浸出剤を再生する。或いは、一部の実施形態においては、粉砕された鉄鋼スラグと浸出剤との混合物に二酸化炭素を添加することにより、再生された浸出剤、高密度の抽出された鉄鋼スラグ粒子、及び比較的低密度の沈殿した炭酸カルシウムの混合スラリーを形成できる。このような方法で調製されたCaCO
3は、洗浄、希釈してスラリーとし、又は他の適切な方法により更に処理することができ、一方、再生された浸出剤は再使用のためにリサイクルされる。
【0093】
本発明の概念のシステム、方法及び組成物によるカルシウムの回収の例を
図6A~
図6Dに示す。
図6Aは、有機アミン浸出剤としてモノエタノールアミン-HCl(MEACL)を用いて低等級の石灰からカルシウムを抽出する際の経時的なpHの変化を示す。この反応においては、低等級石灰5グラムを、浸出剤のカルシウムに対するモル比2.1:1で浸出剤を含有する水50グラムと混合し、その間400rpmで攪拌した。この例においては、反応が終了まで進行することを確実にするために過剰量の浸出剤を使用した。以下に示す通り、そのような抽出は準化学量論的な量の浸出剤を使用して効率的に実施できる。反応は23分間進行させた。
図6Bは同様の試験の結果を示しており、ここでは有機アミン浸出剤としてグリシンを使用して低等級石灰からカルシウムを抽出する際にpHを経時的にモニタリングした。当然ながらアミノ酸グリシンは生物学的供給源から有利に誘導することができ、その両性イオン的性質により、グリシンはそれ自身の対イオンとして機能できる。この反応においては、低等級石灰5グラムを、浸出剤のカルシウムに対するモル比2.1:1で浸出剤を含有する水50グラムと混合し、その間400rpmで攪拌した。反応時間は24分間進行させた。
図6Cは沈殿剤、この例ではCO
2を用いて抽出したカルシウムの回収の結果を示す。この例においては、浸出剤としてモノエタノールアミン-HClを用いて低等級石灰から抽出されたカルシウムを通してCO
2を灌流させた場合のpHをモニタリングした。22℃の温度にて分当たり20mLで100%CO
2を溶液に還流しながら反応を11分間実施し、その間400rpmで攪拌した。
【0094】
本発明の概念のシステム、方法及び組成物を用いたカルシウムの抽出で得られた例示的生成物の顕微鏡写真を
図6Dに示す。反応は10グラムの低等級(約50%CaO含有量)の石灰を用いて実施し、これを水100g中のモノエタノールアミン-HCl19.7グラムで処理し、30分間400rpmで攪拌した。固体残存物を濾過により除去し、15分間pHが8未満となるまで60℃の温度で20mL/分の流量において100%CO
2で濾液を灌流した。沈殿炭酸カルシウム(PCC)の収率は86%であった。
【0095】
有利なことに、本発明の概念の方法を用いて操作されたプラントの効率は極めて高くなることができる。鉄鋼スラグからのカルシウムの単離に適用した本発明の概念のプロセスの典型的な反復回に関する物質収支試験においては、生成した97.8%炭酸カルシウム4301kgに対して僅か7.22kgの浸出剤の損失となる。そのような反応で使用される浸出剤の99.9%超が前の反復回からリサイクルされる。同様に、石灰からのカルシウム単離の物質収支試験において、典型的な反復回に、生成した99.8%純粋な炭酸カルシウム4301kgに対して僅か9.39kgの浸出剤の損失となる。そのような反応で使用される浸出剤の99.85%超が前の反復回からリサイクルされる。
【0096】
意外にも、本発明の概念のシステム及び方法は従来技術のプロセスで利用されていた浸出剤の僅か1フラクションを用いながら原材料からアルカリ土類を効率的に抽出できる。本質的には、抽出-沈殿サイクルはサイクル中に再生された浸出剤の少量(例えば準化学量論量)を利用して連続的に反復される。このようにして、アミン含有浸出剤種は擬似触媒として作用する。
【0097】
例示される単工程プロセス(例えば
図1及び
図2に記載)においては、アルカリ土類炭酸塩が原材料及び/又は抽出された原材料(一般的に粒子として供給される)の存在下に沈殿され、所望のアルカリ土類炭酸塩の効率的な回収又は分別は、得られる混合物中の粒状物質種の間の判別に依存する場合がある。本発明の概念の好ましい実施形態においては、プロセスにより生成するアルカリ土類炭酸塩の粒子及び原材料及び/又は抽出された原材料の粒子の物理的サイズ、沈降速度、密度、及び/又は磁気的特性がそのような分離を可能とする程度に十分区別可能であるように、反応条件及び原材料を選択する。例えば、本発明の概念の一部の実施形態においては、プロセスの条件はアルカリ土類炭酸塩沈殿物を形成する粒子が0.1μmから10μmのサイズを有することができるように選択する。分離のために沈降又は傾瀉(デカンテーション)を利用するプロセスにおいては、生成物のアルカリ土類沈殿物は、直径50μmから500μmの範囲の大きさであることができる、抽出された原材料の沈降速度よりも実質的に低値(即ち50%以下)の沈降速度を有することができる。例えば、100μmから500μmのサイズ範囲(平均直径230μm)を有する鉄鋼スラグ及び抽出された鉄鋼スラグは、15μmの平均直径を有する生成物炭酸カルシウム沈殿物粒子よりも約130倍急速に沈降することがわかった。当然ながら一部の原材料については、原材料、抽出された原材料、及び生成物アルカリ土類沈殿物の密度は同様である場合があり、その場合、分離挙動は、大部分は粒径により決定される場合がある。好ましい実施形態においては、アルカリ土類炭酸塩沈殿物の直径は250nmから10μmの範囲とすることができる。そのようなアルカリ土類炭酸塩生成物の平均のサイズ及びサイズ分布は例えば反応機内の攪拌速度及び/又はCO
2添加速度を調節することにより制御できる。広範な粒径が原材料に許容され、所与のプロセスに対する最適な粒径は原材料の摩砕(ミリング)又は粉砕及び収率(粒径が大きいほど収率が低下する)の経済的影響により決定してよい。好ましい実施形態においては、原材料の平均粒径は200μmである。単工程プロセスのための適切な操作温度は上記の2工程プロセスのものと同様である。本発明の概念の好ましい実施形態においては、単工程プロセスは約60℃で実施する。
【0098】
上記のプロセスにおいて説明したとおり、沈殿したアルカリ土類炭酸塩と抽出された原材料の分離は分離機中で実施する。上記のプロセスにおいて言及した分離機は液体から固体を分別するための広範な種類のプロセス及び/又は物理的現象を利用できる。同様に、適切な分離機はプロセスの要件に適合するように固定容量又はバッチ式において、又は連続的に分別操作を実施できる。例えば、適切な分離機は、重力沈降、傾瀉又は沈砂のような単純な分画方法を用いることができる。或いは、適切な分離機は、例えばプレスフィルター、ロータリー圧力フィルター、及び/又は真空ベルトフィルターを用いて濾過を実施できる。他の実施形態において、分離機は、遠心力を、例えば遠心分離又はハイドロサイクロンを介して使用できる。更に他の実施形態において、分離機は磁性作用(例えば磁石又は電磁石により与えられる)を利用することにより磁気的に応答する(即ち磁性、反磁性及び/又は常磁性の)材料、例えば処理された鉄鋼スラグ粒子を、磁場に応答しない他の材料から分離することができる。
【0099】
当然ながら遠心分離技術は有利なことに連続分離を可能とし、そして上記の抽出及び沈殿反応の同時実施により生成した粒状混合物に由来する、より大型及び/又はより緻密な原材料残存物粒子から炭酸塩沈殿物のミクロンスケールの粒子を分別するように設計構成されることができる。本発明の概念の好ましい実施形態においては、アルカリ土類炭酸塩生成プロセスは、浸出剤種を含有する溶液を供給された反応器に、原材料及び二酸化炭素供給源を連続方式で供給するように設計構成することができ、その際、懸濁した粒子を含有する液体流は、抽出された原材料からアルカリ土類炭酸塩を分別し浸出剤種を含有する溶液を反応器に返還する分離機に方向付けられる。或いは、原材料、二酸化炭素供給源、又は両方は拍動的又は間欠的な方式で反応器に供給できる。
【0100】
本発明の概念の別の実施形態は上記の単工程方法を実施するように設計構成されたシステムである。本発明の概念の一部の実施形態においては、このようなシステムは、操作の必要性及び/又は材料の入手性に適応するために、操作の連続様式と間欠様式との間で切り替え可能となる。そのようなシステムは反応エンクロージャを包含でき、その場合、原材料、浸出剤溶液及び沈殿剤(例えばCO
2含有ガス)を相互に接触させる。このような反応エンクロージャは、反応の進行に関連するデータを提供する一つ以上のセンサを包含できる。例えば、反応エンクロージャは、
図6A及び
図6Bに示す通り反応の過程において変化する反応混合物のpHを測定するための装置を包含できる。その他の適切なセンサは、イオン選択的電極、濃度計、分光光度計、比濁計、及びコールター原理に基づく粒子測定装置を包含する。そのようなセンサは、データをコントローラに提供でき、そこで次に、反応エンクロージャへの原材料、浸出剤種及び/又は沈殿剤の導入の速度を制御することにより反応の速度を調節できる。反応エンクロージャは分離機と連絡している。本発明の概念の一部の実施形態においては、そのような反応エンクロージャ(又はその一部)は分離機として機能できる。例えば、反応エンクロージャは傾瀉において使用するように設計構成されるか、又はそのように設計構成された部分を有することができる(例えば垂直方向のシリンダー又はコーンとして設計構成されている)。他の実施形態において、分離装置は反応エンクロージャの内部に、又はそれと連絡している流体中に配置されることができる。例えば、反応エンクロージャはフィルター装置(例えばフィルタープレス)又は遠心力による分離機(例えば遠心分離機又はハイドロサイクロン)と流体連絡することができる。このような分離装置は、抽出された、及び/又は未反応の原材料から、そして反応混合物の液相からの、沈殿したアルカリ土類塩の分離を可能とする。
【0101】
本発明の概念のシステムは、非連続又は連続の様式で操作されるように設計構成できる。非連続様式で操作する場合、ある量の原材料、ある量の浸出剤種、及びある量の沈殿剤を反応エンクロージャに供し、上記の反応を進行させる。これらの反応体の少なくとも一つ(例えば原材料及び/又は浸出剤種)を単一塊として反応エンクロージャに添加する。これにより、抽出された原材料から分離可能な沈殿剤及び浸出剤種を包含する溶液相を含有するアルカリ土類の形成がもたらされる。反応終了時、反応生成物を分離し、反応サイクルの反復においてプロセスを反復する。連続様式で操作する場合、原材料、浸出剤及び沈殿剤(例えばCO2含有ガス)は本質的に連続的に(即ち連続的に、又は、少量の区別可能な容量の連続シリーズとして)反応エンクロージャに添加され、本質的に連続的に(即ち連続的に、又は、少量の区別可能な容量の連続シリーズとして)分離される平衡反応混合物を生成する。当然ながらそのような実施形態においては、浸出剤種の添加は、分離プロセスから生じた再生された浸出剤の反応エンクロージャへの返還も含めたものとなる。
【0102】
意外にも、本発明者等は、このような単工程プロセス(浸出剤を用いたアルカリ土類の抽出をアルカリ土類の沈殿及び浸出剤種の再生と組み合わせる方法で、その例は
図1及び
図2に示す)が、2工程又は分別プロセス(浸出剤を用いたアルカリ土類の抽出をアルカリ土類の沈殿及び浸出剤種の再生と切り離した方法で、その例は
図3に示す)よりも、原材料からのアルカリ土類、例えばカルシウムの抽出のためにより効率的でありえることができることを発見した。これを説明する実施例を以下に記載する。
【実施例】
【0103】
原材料及び方法
二つの塩基性酸素溶鉱炉(BOF)スラグをこれらの実験における抽出可能なカルシウムの酸化物/水酸化物の原材料供給源として利用した。一つの試料はカナダのU.S.Steel Lake Erie Worksより入手した粉鉱よりなるものであり、もう一つはフィンランドのRuukki Metals Raahe Worksのスラグリサイクルプラントで発生した不良材料流に由来する試料であった。XRFで分析したこれらのスラグの組成を
図14の表に示す。材料は屋外に保管されていたため、抽出前に900℃で3時間焼成することにより環境要因により既に炭酸化されている可能性のある全ての材料を減少させた。
【0104】
U.S.Steelのスラグは直接篩にかけることにより所望のサイズの画分とし、Ruukkiのスラグはまず摩砕してより小さい粒径とした後、篩にかけて最終的に所望のサイズの画分とした。実験においてはスラグの特定の量を、磁気攪拌子を有する被覆ビーカー中の既知の濃度の塩化アンモニウム浸出剤溶液のある量と混合した。溶液のpHはOmega PHH-SD1のpH計を用いて記録した。
【0105】
2種のプロセス試験を実施し、2工程プロセスは従来技術に記載の通り実施し、伝統的プロセスを介して入手できる抽出可能なカルシウムを推定する手立てとした。この目的のために、塩化アンモニウム浸出剤溶液はモル過剰量で供し(
図15参照)、これにより化学量論的な限界が生じないようにした。原材料をまず30分間NH
4Cl溶液と混合した。抽出された原材料の残存分を濾過により除去した後、45分間二酸化炭素ガスで濾液をバブリングした。得られた炭酸塩を溶液から濾取し、固体を80℃で一夜乾燥した後に重力分析により抽出可能なカルシウムの量を測定した。
【0106】
本発明の概念の1工程プロセスでは、原材料をまず水に懸濁し、pHを安定させた。この後、準化学量論量の塩化アンモニウム塩(上記の単工程プロセスから回収された抽出可能なカルシウムの量の結果から決定)を懸濁液に添加し、溶液のpHが8.00に低下するまで反応器に二酸化炭素ガスを供給し、その後30分間CO2の流動を停止し、pHを上昇させ、安定化させた。カルシウムの完全な沈降を確保するために、流動CO2ガスを再開し、その間pHの低下をモニタリングした。CO2ガス流動はpHが8.00に到達した後10分間継続した。実験はガス流が無い状態で終了し、更に7分間pHの上昇を記録した。これらの時間の長さは、異なる実験の間の比較ができるように上記の単工程プロセスに基づいて選択し、更に最適化できる。最終反応混合物の成分は傾瀉とその後の濾過により分離した。より軽量のカルシウム豊富画分をまず反応容器からフィルターに傾瀉し、高重量のスラグ残留物粒子は容器底面に残存させ、別途濾過した。計量の前に試料を80℃で一夜乾燥した。
【0107】
物質収支計算において、観察された質量の増加は全て捕獲された二酸化炭素に起因すると推定された。生成した炭酸カルシウムの量はこの推定に基づいて計算した。得られた画分はSEM/EDXで分析することによりそれらの組成及び粒子の構造を特性化した。選択液体試料をICP-OESで分析した。
【0108】
このシリーズの実験条件を
図15に要約する。懸濁液のスラグ/液体の比は100g/Lであり、温度及び圧力は周囲と等しく、75mL/分の純粋CO
2ガスの流速を用いた。
【0109】
結果
異なるスラグ粒径画分からのカルシウムの抽出及び炭酸塩沈殿(実験1~16)を、1工程及び2工程の方法の両方により検討した。
図7Aによれば、最も大きいスラグ粒子(500から1000μm)について、比較したプロセス代替の収率は同等であった。1工程及び2工程のプロセスの両方について原材料粒径が減少するに従って収率は上昇したが、単工程プロセスの収率の上昇は両方の原材料について2工程プロセスの場合より劇的に高値であった。意外にも、
図7Bに示す通り、小さい<53μmスラグ粒子を用いた1工程プロセスにおいては、炭酸塩収率は従来技術の2工程プロセスと比較してほぼ3倍となっていた(即ち2工程プロセスの収率の超過分がほぼ200%増大を示した)。中間的な粒径の場合、炭酸塩生成の増大は100~150%であった。U.S.SteelのスラグとRuukkiのスラグは同様の傾向を示し、ある臨界的な粒径が存在し、それを超えると両方のプロセスは同様の炭酸塩収率をもたらすことが示唆された。
【0110】
興味深いことに、粒径53~250μmを有するU.S.Steelのスラグは炭酸塩収率においてプラトー状態を示した。粒径が53μmより低値となると収率は増大した。スラグ形成中、カルシウムは小型粒子において濃縮することが知られている。即ち、U.S. Steelのスラグのサイズ画分は組成において相違している場合があり、篩分プロセスがこれらの異なる粒子組成物の分別をもたらしたと考えられる。Ruukkiのスラグ試料はより大きい粒子から摩砕された後に篩にかけられて粒径画分となっているため、Ruukkiのスラグの異なる画分は一貫した組成を有していると考えられ、粒径の影響をより直接的に示したと考えられる。
【0111】
図8はU.S. Steelのスラグ(即ち、実験6~10)に適用された1工程プロセスにより生成した分離された画分の質量を示す。より低密度の「炭酸塩混合物」画分の質量はスラグの粒径が減少するに従って増大している。その理由は炭酸カルシウムの回収量の増大のみならず、より小型のスラグ残存物粒子は傾瀉法では炭酸塩粒子からそれほど効率的に分離されないためである。このことは特に<53μmのスラグ粒子の場合に当てはまり、「残存物」(即ち、抽出された原材料)の質量が減少し、抽出されたスラグ粒子が生成した炭酸カルシウムの場合と同じ沈降特性を有する可能性があることを示唆している。
【0112】
実験1~19においては、塩化アンモニウムと反応性酸化カルシウムのモル比は、粒径の影響に関係する抽出可能なカルシウムの量の変化に部分的には起因して変動した。以前の研究は、選択された濃度がスキーム1に定義した化学量論的な限界を超過しているとすれば、2工程プロセスにおいてはアンモニウム塩の溶液の濃度はカルシウムの収率に有意に影響しないことを示している。しかしながら、1.5Mより高値のアンモニウム塩濃度では、カルシウム抽出への選択性が減衰し、質量に基づいた収率の計算に影響する場合があるFe及びMnのような他の元素の抽出が起こる。
【0113】
これに基づき、1工程カルシウム炭酸化プロセスの収率は浸出剤の化学量論には大きく依存しないことが予測された。これを確認するために、一定のスラグ粒径(106から500μm)において浸出剤のモル量を変動させながら、一連の実験(実験21から26)を実施した。
【0114】
図9及び
図10は、アンモニウム塩浸出剤と反応性カルシウムの間のモル比は、実質的に準化学量論的な量の浸出剤物質種を使用した場合であっても、1工程プロセスの間は、特定の最小値を越えて得られる炭酸塩収率に対して有意な作用を有さないことを示している。極めて低値(0~0.01モルNH
4Cl/モルCaO)においてのみ、即ち溶媒としてほぼ純粋な蒸留水の場合に、炭酸カルシウムの収率が低下した。意外にも、1工程実験で得られた炭酸塩の収率は、高い浸出剤濃度を利用した2工程実験の場合(0.10から0.17g/g)よりも、浸出剤非存在下においてなお高値(0.25g/g)であることが明らかである。理論に制約されないが、本発明者等は、原材料スラグ粒子内部の炭酸塩の形成が粒子の構造を破壊するように作用し、これにより、より多くのアルカリ土類が露出し、追加的な溶媒和及びその後の炭酸化に供されると推論した。
【0115】
図11はRuukkiのスラグを用いた2工程実験11~13における記録されたpH値を示す。スラグ残留物は30分後に溶液から濾過したが、抽出及び炭酸化を一つのグラフに組み合わせてある。アンモニウム/カルシウムの比の変動はpHレベルに影響し、より小型の粒子(より接触しやすいカルシウムを含有すると推定される)の場合、抽出中にほぼ10.5のpHに到達したが、これに比べ大型の粒子では9.7であった。炭酸化の間のpHの低下のためには、小型粒子の場合により長時間を要する。
【0116】
1工程反応の間の典型的なpHの変化を
図12Aに示し、ここでは手順における異なる工程を、数字を付した矢印で示してある。工程1において、スラグ原材料を水に添加して懸濁液を作製する。アミン含有浸出剤(例えばNH
4Cl)を工程2において添加し、CO
2ガスの初回適用は工程3において行う。留意すべきは、原材料懸濁液は強塩基性であり、CO
2を適用するとpHは急速に低下する点である。CO
2の適用は工程4で停止し、工程5で再開する。工程6は反応の終了を指す。様々な実験の間でのpH計測の相違は僅かであり、大量の反応性原材料は全ての時間においてより大きいpH変動をもたらすことが観察された。単工程プロセスにおけるCO
2の適用の間のpH変動のより詳細な検討を
図12Bに示し、これは異なる浸出剤比において、そして異なる原材料の供給源を用いて実施した反応における一回目の二酸化炭素供給期間の間のpH変化の比較を示している。低い(0.01モルNH
4Cl/モルCaO)塩化アンモニウム濃度においては、pHは、U.S. Steelのスラグの同じサイズの画分について、相対的に高値(0.2モルNH
4Cl/モルCaO)の場合よりも、更に緩徐な速度で変動している。Ruukkiのスラグを用いた場合、pHの低下は単調であるのに対し、U.S.スラグはpHの上昇をもたらし、それはガス供給開始後3~5分に起こっており、二相性の反応を示していると考えられる。
【0117】
1工程鉄鋼スラグ炭酸化プロセスは2工程のアプローチと比較して多くの利点を有している。浸出剤をより少量使用するため、アンモニウム塩溶液の回収及びリサイクルを行わない場合でも化学的費用は顕著に低減され、より簡素なプロセスのセットアップも可能となる。更に、プロセスのより高い効率により、処理することが必要な原材料の量が減少する。
図13(1工程及び2工程の方法による炭酸カルシウム1トンの生産のためにプロセシングするべきスラグ量の差を示す)に示されるとおり、従来技術の2工程プロセスは、炭酸塩生成物1トンを製造するために、1工程プロセスで必要とされる量よりも3.1から4.5トン多い鉄鋼スラグを必要とする。その理由は本質的には、まずスラグがより広範にプロセシングされ利用されるため、廃棄物の取り扱いのための残存物がより少量残されるためである。更に、伝統的な2工程プロセスと比較した場合、スラグのトン当たり140kgまでのより多いCO
2が単工程プロセスによるプロセシングにおいて捕獲される(スラグの粒径による)。そのため、気象変化軽減可能性が顕著に増大する。最後に、生成物が鉄鋼生産において利用される炭酸カルシウムである場合、より多くのカルシウムを鉄鋼プラントでリサイクルでき、これにより未使用のカルシウム原材料の必要性が低減される。
【0118】
当然ながら、上記の方法、システム及び組成物はカルシウム以外のアルカリ土類元素、例えばベリリウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムの処理にも等しく適用できる。同様に、二酸化炭素以外の沈殿剤化合物も、それらがアルカリ土類元素との反応において適切な沈殿物を発生させる限り、本発明の概念の方法、システム及び組成物中において使用できる。適切な沈殿剤化合物の例は硫酸塩、リン酸塩及びクロム酸塩を包含する。当然ながら、上記のプロセスの複数の反復回を逐次的に、又は一連として、適切な沈殿剤化合物とともに適用することにより、単一の供給源材料から一連の不溶性アルカリ土類塩を発生させることができ、そして、不溶性アルカリ土類塩のそのようなシリーズの個々のメンバーは異なるアルカリ土類元素の組成を有することができる。
【0119】
当業者の知る通り、すでに記載したもの以外の多くの変形例が本明細書に記載した本発明の概念から逸脱することなく可能となる。従って、本発明の要件は添付請求項の精神を除き、限定されるものではない。更に、明細書及び請求項の両方を解釈するにあたり、全ての用語は文脈と矛盾のない最も広範で可能な態様において解釈されなければならない。特に、「含む(“comprises”)」及び「含んでいる(“comprising”)」という用語は非排他的態様において要素、成分又は工程を指しているものと解釈しなければならず、言及された要素、成分又は工程は明示的に言及されていない他の要素、成分又は工程と共に存在、利用、又は組み合わせてよいことを示している。明細書の請求項がA、B、C・・・及びNよりなる群から選択される何らかの少なくとも一つを指す場合、その文章はAプラスNやBプラスN等ではなく、グループのただ一つの要素を必要としていると解釈しなければならない。