(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】空気浄化器
(51)【国際特許分類】
A61L 9/20 20060101AFI20220412BHJP
F24F 8/20 20210101ALI20220412BHJP
F24F 8/80 20210101ALI20220412BHJP
F24F 8/167 20210101ALN20220412BHJP
【FI】
A61L9/20
F24F8/20
F24F8/80 300
F24F8/167
(21)【出願番号】P 2021121169
(22)【出願日】2021-07-26
【審査請求日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2021080312
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311009044
【氏名又は名称】株式会社トータルアシスト
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 正信
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-162898(JP,A)
【文献】特開2009-028473(JP,A)
【文献】登録実用新案第3018044(JP,U)
【文献】実開平03-078025(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/22
F24F 8/00- 8/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気路と,
前記通気路内に配置され病原体を不活性化する抗生機能部と,
前記通気路内に空気を通過させる送風ファンと,
前記通気路を通過する空気の前記通気路内での滞在時間を調整する滞在時間調整部とを有し,
前記滞在時間調整部は,
前記送風ファンの風力を調整する風力調整部であるとともに,
前記通気路内での空気の滞在時間が長い滞留状態と滞在時間が短い通気状態とを反復的に切り替える操作を行うものである空気浄化器であって,
前記通気路および前記抗生機能部を複数組有し,
前記滞在時間調整部は,
各前記通気路に対して個別に空気の滞在時間を調整できるものであり,
各前記通気路のうちの一部のものを前記滞留状態とし,他の前記通気路を前記通気状態となるようにするとともに,前記滞留状態とされる前記通気路を順次変更していくサイクル制御を行うものである空気浄化器。
【請求項2】
通気路と,
前記通気路内に配置され病原体を不活性化する抗生機能部と,
前記通気路における空気の通過を邪魔する通気抵抗部材と,
前記通気路を通過する空気の前記通気路内での滞在時間を調整する滞在時間調整部とを有し,
前記滞在時間調整部は,
前記通気抵抗部材の通気抵抗を変更する開閉操作部であるとともに,
前記通気路内での空気の滞在時間が長い滞留状態と滞在時間が短い通気状態とを反復的に切り替える操作を行うものである空気浄化器であって,
前記通気路および前記抗生機能部を複数組有し,
前記滞在時間調整部は,
各前記通気路に対して個別に空気の滞在時間を調整できるものであり,
各前記通気路のうちの一部のものを前記滞留状態とし,他の前記通気路を前記通気状態となるようにするとともに,前記滞留状態とされる前記通気路を順次変更していくサイクル制御を行うものである空気浄化器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の空気浄化器であって,
前記滞在時間調整部は,
前記通気路および前記抗生機能部を複数の群に分け,
群ごとに異なる前記滞在時間により別々に前記サイクル制御を行うものである空気浄化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は,通過する空気を浄化する空気浄化器に関する。特に,ウィルス等の病原体の不活性化を行うようにした空気浄化器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通過する空気を浄化する機能を有する従来の機器として,特許文献1に記載されている「空気清浄機」を挙げることができる。同文献の空気清浄機では,筐体の内部に種々のフィルターを設けている。空気中に存在する粉塵等の微小な異物は,フィルターに捕捉される。ウィルス等の病原体も同様にフィルターに捕捉されると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の技術には,次のような問題点があった。フィルターの詰まりが発生して通気性が低下しやすいのである。フィルターが詰まっている状態で空気清浄機を作動させても,空気を浄化する機能はあまり発揮されない。フィルターとして目の粗いものを使用すれば詰まりは発生しにくいが,それでは病原体のようなごく微小なものはほとんど捕捉できない。このためそのフィルターに紫外線照射等を行っても,病原体の不活性化の効果はあまり期待できないのが現実である。
【0005】
本開示技術は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,通過する空気中に含まれる病原体を確実に不活性化させることができる空気浄化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示技術の一態様における空気浄化器は,通気路と,通気路内に配置され病原体を不活性化する抗生機能部と,通気路を通過する空気の通気路内での滞在時間を調整する滞在時間調整部とを有している。この態様における空気浄化器では,滞在時間調整部により空気の通気路内での滞在時間を調整して,滞在時間が長い状態と短い状態とを取ることができる。滞在時間が長い状態とは,通気路内で空気が滞留している状態であるといえる。この状態では,通気路内で滞留している空気に対して,抗生機能部による病原体の不活性化の作用が働く。これにより,通気路内で滞留している空気における病原体の濃度が低下する。滞在時間調整部の調整を変更して滞在時間が短い状態とすると,病原体濃度が低下した空気を通気路から排出することができる。これにより,空気浄化器が設置されている室内の空気を,活性な病原体が少ない状態とすることができる。
【0007】
上記態様の空気浄化器では,通気路内に空気を通過させる送風ファンを有し,滞在時間調整部は,送風ファンの風力を調整する風力調整部であることが望ましい。送風ファンの風力を強い状態とすると空気の滞在時間が短い状態となり,風力が弱い状態とすると空気の滞在時間が長い状態となる。
【0008】
上記態様の空気浄化器ではあるいは,通気路における空気の通過を邪魔する通気抵抗部材を有し,滞在時間調整部は,通気抵抗部材の通気抵抗を変更する開閉操作部であることとしてもよい。通気抵抗部材の通気抵抗が小さい状態とすると空気の滞在時間が短い状態となり,通気抵抗が大きい状態とすると空気の滞在時間が長い状態となる。
【0009】
送風ファンもしくは通気抵抗部材を有する態様の空気浄化器ではさらに,滞在時間調整部は,通気路内での空気の滞在時間が長い滞留状態と滞在時間が短い通気状態とを反復的に切り替える操作を行う。この切り替え運転を継続することで,空気浄化器が設置されている室内の空気を,活性な病原体が少ない状態に維持することができる。
【0010】
反復切り替えを行う態様の空気浄化器ではさらに,通気路および抗生機能部を複数組有し,滞在時間調整部は,各通気路に対して個別に空気の滞在時間を調整できるものであり,各通気路のうちの一部のものを滞留状態とし,他の通気路を通気状態となるようにするとともに,滞留状態とされる通気路を順次変更していくサイクル制御を行うものである。通気路および抗生機能部の組数次第で大容量対応も可能であり,常時いずれかの通気路が通気状態となるようにすることもできる。
【0011】
サイクル制御を行う態様の空気浄化器ではさらに,滞在時間調整部は,通気路および抗生機能部を複数の群に分け,群ごとに異なる滞在時間により別々にサイクル制御を行うこととすることも好ましい。このようにすることで,多種類の病原体にも柔軟に対応することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示技術によれば,通過する空気中に含まれる病原体を確実に不活性化させることができる空気浄化器が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の基本形態に係る空気浄化器の構成図である。
【
図2】抗生機能部の内部を示す断面図(その1)である。
【
図3】抗生機能部の内部を示す断面図(その2)である。
【
図4】抗生機能部の内部を示す断面図(その3)である。
【
図5】抗生機能部の内部を示す断面図(その4)である。
【
図6】第1の基本形態の変形例に係る空気浄化器の構成図である。
【
図7】第2の基本形態に係る空気浄化器の構成図である。
【
図8】
図7の空気浄化器の使用状況を示す模式図である。
【
図10】
図9の空気浄化器の動作例のタイミングチャートである。
【
図11】群ごとにサイクル制御を行う変形例を示す構成図である。
【
図12】
図1の空気浄化器の変形例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,本開示技術を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。まず,基本的な形態を説明する。第1の基本形態に係る空気浄化器1は,
図1に示すように構成されている。
図1の空気浄化器1は,管状部材2を有している。管状部材2は中空であり内部を空気が通過できるようになっている。空気浄化器1では,管状部材2の内部空間を通気路として使用する。管状部材2の入り口には送風ファン3が取り付けられており,管状部材2の内部には抗生機能部4が内蔵されている。送風ファン3は制御部5により操作されるようになっている。つまり制御部5は,送風ファン3の風力を調整する風力調整部である。
【0015】
抗生機能部4は,空気中に含まれるウィルスや細菌等の病原体を不活性化する機能を有する部分である。抗生機能部4の方式には多種類あるが,ここでは例として滅菌板方式であることとする。抗生機能部4では
図2の断面図に示すように,管状部材2の内部に滅菌板40が設けられている。
図2の構成例では,複数枚の滅菌板40が水平に設置されている。滅菌板40の少なくとも上側の表面は滅菌面41とされている。滅菌面41は,薬剤が塗布されている面であり,病原体を不活性化するものである。滅菌板40の表面を滅菌面41とするために塗布する薬剤としては例えば,酸化チタン・銀・水酸化燐灰石系のもの(登録商標「セラミダ」を配合したもの等),アンモニウム塩系のもの(商品名「GlossWell」等)を挙げることができる。
【0016】
上記構成の空気浄化器1では,送風ファン3による送風を実行している状態と停止している状態とを反復的に切り替える。この送風ファン3の動作の制御は,制御部5により行われる。送風ファン3による送風を実行している状態では,空気が,管状部材2の入り口から内部空間に流入し,出口を通って出ていく。この状態は通気状態である。
【0017】
送風ファン3による送風を停止している状態では,管状部材2の内部で空気が静止しており,いわば滞留状態である。このとき静止している空気中では,浮遊している病原体が重力の作用により降下していく。降下した病原体は滅菌面41に着地する。着地した病原体は滅菌面41の作用により不活性化される。送風停止時間が長い程,空気中に浮遊し続けている病原体の個数が少なくなる。また,滅菌板40同士の上下方向の間隔(
図2中の「D」)が狭いほど,浮遊している病原体が滅菌面41に着地するのに要する時間が短い。これより間隔Dが狭いほど,短い送風停止時間でも病原体不活性化の効果が現れやすい。滅菌面41上で一旦不活性化された病原体は,その後に送風ファン3による送風を再開して滅菌面41から離脱したとしても不活性なままである。
【0018】
空気中に浮遊している病原体の平均的な降下速度は,飛沫状のものと飛沫状でない核のみのものとで異なり,飛沫状の場合で300~800mm/秒,核状の場合で0.6~15mm/秒程度と言われている。一般的には,間隔Dが10~20mm程度であれば,浮遊している病原体のうち大多数のものについて,着地に要する時間は30秒以下である。60秒程度の送風停止時間で,空気中に残留している病原体の個数が,もともとの個数の0.1%以下に低減する。これより,制御部5による送風ファン3の間欠動作制御における1回の停止時間を60~180秒程度とすることが考えられる。ターゲットとする病原体の種類が決まっている場合には,その病原体の性質に応じて1回の停止時間を設定すればよい。新種の病原体が登場した場合でも,その新種の病原体の性質が明らかになればそれをターゲットとする設定が可能になる。
【0019】
一方,1回の送風時間は,基本的には送風ファン3の風力と管状部材2の内部容積(より厳密にいえば抗生機能部4の部分の有効容積)との関係で決定すればよい。送風ファンの風力をP[m3/分],管状部材2の内部容積をV[m3]とすれば,管状部材2内の空気を送風ファンの送風により全部入れ替えるのに要する時間T[分]は,「V/P」で与えられる。例えば,風力Pが1[m3/分]で内部容積Vが1[m3]であったとすれば時間Tは1[分]である。風力Pが同じで内部容積Vが2倍であれば時間Tも2倍である。このように風力Pと内部容積Vとから計算される時間Tが,1回の送風時間の目安となる。
【0020】
ただし,1回の送風時間の設定はさほど厳密でなくてもよい。前述のようにして設定した「V/P」に相当する時間よりも長い時間であっても,ある程度の効果はある。1回の送風時間が長いと,特にその終期に至っては,排出する空気中の病原体の個数が元の空気中における個数とあまり大きくは変わらない状況となる。しかしそれでも,滅菌面41に捕捉される病原体が存在する以上,トータルとしてはその分,室内の空気中の病原体数は減少していることになるからである。よって,室内の空気に新たに病原体が入ってこない状況であれば,空気浄化器1の動作を反復していくことで,室内の空気中の病原体数を漸減させていくことができる。室内の空気に新たに病原体がある程度入ってくる状況であっても,空気浄化器1の動作を反復していれば,空気浄化器1を使用しない場合よりは室内の空気中の病原体数を削減することができる。
【0021】
空気浄化器1における抗生機能部4の構成は,
図2に示したものには限られない。例えば
図3に示すように,滅菌板40を設ける替わりに管状部材2の内面そのものを滅菌面41としたものであってもよい。このようなものでは,送風停止時間を
図2のものより長く取る必要はあるものの,送風と停止との反復切り替えにより,
図2のものと同様の機能を奏することができる。
図3のものでは,管状部材2の内面全体を滅菌面41としてもよいし,下側となる範囲のみを滅菌面41としてもよい。
【0022】
下側となる範囲のみを滅菌面41とする場合には,管状部材2の断面を非円形にする,あるいは管状部材2の外面に表示を付ける等により,外部からでも上下が分かるようにしておくとよい。
図2に示した構成の場合でも同様に,外部からでも上下が分かるようになっているとよりよい。
【0023】
抗生機能部4の構成についてのさらに別の例を示す。
図4に示すのは,滅菌面41によるのではなく紫外線の殺菌作用を利用する例である。
図4の構成例の抗生機能部4では,管状部材2の内部に紫外線ランプ42を設けている。この構成例では,紫外線ランプ42から発射される紫外線により,管状部材2内の病原体を不活性化する。紫外線による活性化は空気中を浮遊している病原体に対しても直接に作用するので,
図2や
図3の構成例の場合のように病原体の降下による着地を考慮する必要は必ずしもない。
【0024】
しかしそれでも,
図4の構成例の場合でも送風ファン3についてはやはり,送風状態と停止状態との反復切り替えを行う。管状部材2内のすべての病原体が,紫外線ランプ42による照射をオンした瞬間に不活性化される訳ではないからである。送風を停止させた状態である程度の時間にわたり照射を行うことで活性な病原体の個数を有意に減少させることができる。
図4の構成例の場合でも,1回の停止時間を30~60秒程度とすることが望ましい。
【0025】
紫外線の照射は,送風停止状態のときにのみ行えば十分である。その場合,紫外線ランプ42のオンオフは,送風ファン3のオンオフとは逆向きになる。このため制御部5で紫外線ランプ42のオンオフをも制御することとすればよい。ただし,紫外線ランプ42をオンしっぱなしにしても特に弊害はない。その場合には紫外線ランプ42を制御部5の制御下に置く必要はない。
【0026】
紫外線を光触媒とともに用いる場合の紫外線と光触媒との接触効率を上げることもできる。その場合には,光触媒板を
図2中の滅菌板40のように多段に配置し,各段間に紫外線ランプ42を配置する。この場合,光触媒が紫外線の照射を受けることで病原体を分解して不活性化することとなる。よってこの場合には
図2のものと同様に病原体は,空気中での降下による光触媒板への着地を経て不活性化されることとなる。
【0027】
図5に示すのは,
図2と似ているが,滅菌板40の替わりに電熱板43を配置したものである。電熱板43の少なくとも上側の表面は電熱面44とされている。電熱面44は,電熱線が張られている面であり,通電状態ではそのジュール熱により病原体を不活性化するものである。
図5の構成例のものにおける電熱板43同士の上下方向の間隔Dについては,
図2の構成例における間隔Dと同様に考えればよい。
図5の構成例のものでも,送風状態と停止状態との反復切り替えを行う。
【0028】
電熱面44の通電は,送風停止状態のときにのみ行えば十分である。ただし,電熱面44を通電しっぱなしにしても特に弊害はない。送風停止状態のときにのみ電熱面44を通電するためには,
図4の構成例の場合の紫外線ランプ42と同様に制御部5の制御下に置けばよい。電熱面44の通電電流は,温度が100℃程度となる程度でよい。それより高い温度としてもよい。例えばアイロンの高温に相当する200℃とか,さらに高い400℃や1000℃であっても,周辺の構造物の耐熱性さえあればかまわない。1回の通電時間(送風停止時間)は1分程度でよい。
【0029】
電熱面44の構成は,通常の電熱線によるものの他,ラバーヒーターあるいはセラミックスヒーターによるものであってもよい。電熱面44を用いる場合の抗生機能部4でも,
図3のような断面構造が可能である。抗生機能部4の方式には上記以外にも,ミスト噴霧方式,電気吸着方式などいろいろある。2以上の方式を併用した抗生機能部4としてもよい。
【0030】
上記のように構成された空気浄化器1では,抗生機能部4の不活性化機能と,送風ファン3の反復動作とにより,優れた空気浄化効果を奏する。送風停止状態の期間においては,管状部材2内で空気が滞留している。この期間に抗生機能部4の機能により,滞留している空気中の病原体の個数が大幅に減少する。こうして浄化された空気が,送風状態の期間に管状部材2の出口から出ていく。これにより,空気浄化器1が置かれている部屋の空気が浄化される。送風状態を前述の時間Tの程度続けていると,入り口から管状部材2に流入した空気がそのまま出口から出ていくに等しい状況となるので,そうなったら,あるいはそうなる前に,再び送風停止状態に移行する。これを反復することで,室内の空気を,病原体が少ない清浄な状態に維持する。
【0031】
つまり送風停止状態は,管状部材2内における空気の滞在時間が非常に長い状態である。これに対して送風状態は,送風停止状態と比較して空気の滞在時間が短い状態である。送風ファン3の風力を調整する制御部5は,管状部材2内における空気の滞在時間を調整する滞在時間調整部であるともいえる。
【0032】
上記の空気浄化器1では,管状部材2の内径が大きいほど,空気の流量を大きく取ることができる。空気浄化器1を設置する部屋の広さに応じて管状部材2の内径を選ぶことができる。抗生機能部4が
図2または
図5のものであり,かつ管状部材2の内径が大きい場合でも,滅菌板40または電熱板43の枚数を多くすることで,間隔Dを適切な値に設定することができる。また,管状部材2の長さが長いほど,管状部材2の内部容積が大きい。管状部材2の長さに応じて抗生機能部4の長さも長くしておくことで,1回の送風期間で排出できる清浄な空気の量を多くすることができる。
【0033】
旧来の装置では,空気を常時通過させつつ,不織布等のフィルターで空気中の病原体を捕捉しようとするものが多かった。しかしながらそのようなものでは,実際には病原体の不活性化の効果があまり得られなかった。その理由は次のようなことである。病原体の中でもウィルスは300nm以下の非常に微細なものである。このため,通常の空気清浄機に使用される程度のフィルターでは捕捉できない。仮に捕捉されたとしても,通常のフィルターには病原体を不活性化させる作用はないので,その後離脱すれば活性なまま排出されていくことになる。
【0034】
非常に目の細かいフィルターであればある程度ウィルスを捕捉できる能力はあると考えられる。しかしながら実際の空気中には,ウィルスより大きい他のものも浮遊している。粉塵,花粉,細菌等である。よって,ウィルスよりも先にこれらの大サイズの粒子がフィルターに捕捉されることになる。このため,「発明が解決しようとする課題」の欄に記したように目詰まりが発生して通気性が悪くなってしまう。
【0035】
これに対して本形態の空気浄化器1では,確実に病原体の個数を著しく減少させた空気のみを管状部材2の出口から排出することができる。フィルターによる捕捉を利用する訳ではないからである。紫外線と光触媒との併用方式を用いる場合でも,本形態では光触媒をフィルターとして利用する訳ではないので,詰まりの問題は生じない。
【0036】
本形態の空気浄化器1を室内で利用することにより,さらに次のような利点がある。本形態の空気浄化器1は,流入する空気の量と排出する空気の量が同じであるため,室内の気圧には影響を与えない。このため,空調機の負荷を増大させることはない。むしろ,空気浄化器1の利用により換気の必要性は減るので,空調機の負荷を低減させる要因となる。抗生機能部4が電熱方式の場合には発熱するのでその分空調機の負荷要因とはなるが,暖房期であればそれも問題とならない。また,室内に医療用の陰圧テントがある場合でも,本形態の空気浄化器1が陰圧テントからの空気の漏出を誘引するようなことはない。
【0037】
第1の基本形態の空気浄化器1の全体構成についての変形例を説明する。空気浄化器1においては,送風ファン3の位置は,
図1に示したものには限られない。送風ファン3を管状部材2の入り口に置く替わりに
図6に示すように出口に置いてもよい。入り口と出口との両方に送風ファン3を置いてもよい。送風ファン3を管状部材2の途中の箇所に置いてもよい。その場合,抗生機能部4を,送風ファン3の上流側と下流側とのどちらに置いても,また両方に置いてもよい。
【0038】
次に,
図7に示す第2の基本形態の空気浄化器6について述べる。
図7の空気浄化器6は,
図1の空気浄化器1において送風ファン3を取り除き,替わりに開閉弁7を管状部材2の入り口および出口に取り付けたものである。開閉弁7はいずれも,制御部5の制御下にある。つまり制御部5は開閉操作部である。開閉弁7を入り口と出口とのいずれか一方のみとしてもよい。開閉弁7を管状部材2の途中の箇所に置いてもよい。その場合,抗生機能部4を,開閉弁7の上流側と下流側とのどちらに置いても,また両方に置いてもよい。管状部材2および抗生機能部4については第1の基本形態の空気浄化器1の説明で述べたものと違いはない。
【0039】
図7の空気浄化器6は,
図1の空気浄化器1と異なり,それ自身は管状部材2中に積極的に気流を起こさせる機能を有していない。開閉弁7は,管状部材2における空気の通過を邪魔する通気抵抗部材である。開閉弁7においては,閉状態は通気抵抗が大きい滞留状態であり,開状態は通気抵抗が小さい通気状態である。つまり制御部5は,開閉弁7を開閉いずれの状態にするかによって管状部材2内の空気の滞在時間を調整する滞在時間調整部でもある。
図7の空気浄化器6は,
図8に示すように,他の機器8とともに用いられることを想定したものである。他の機器8は,例えば空調機器のように排気口9を有する機器であり,既存のものでもよい。
【0040】
図8の配置では,空気浄化器6の入り口が他の機器8の排気口9に向けられている。この配置は,空気浄化器6の開閉弁7をいずれも開にすると,排気口9から排出される空気が空気浄化器6の管状部材2の中を通ることとなる配置である。開閉弁7を閉じると,排気口9からの空気が管状部材2に入らず,管状部材2の空気は滞留状態となる。つまり,開閉弁7の開状態が
図1の場合の送風状態に相当し,開閉弁7の閉状態が
図1の場合の送風停止状態に相当する。このため,開閉弁7の開状態期間と閉状態期間とを,適度な頻度で反復して切り替えることで,
図1の空気浄化器1と同様の空気浄化機能を奏するものである。あるいは
図8の配置に替えて,サーキュレーター等の空気を吸引する機器に対して管状部材2の出口を向けるように空気浄化器6を置く配置としてもよい。
【0041】
続いて,応用形態の空気浄化器を説明する。
図9に示すのは,複数の
図1の空気浄化器1を組み合わせてなる空気浄化器10である。空気浄化器10では,複数の空気浄化器1がマニホールド11に取り付けられている。この構成では,空気はまずマニホールド11に流入し,そこで各空気浄化器1に分配されて流入していくことになる。複数の空気浄化器1はいずれも,制御部5の制御下にある。制御部5は,各空気浄化器1の制御部5を個別に制御するものである。
【0042】
図9の空気浄化器10では,例えば
図10に示すようにして,各空気浄化器1を順繰りに切り替え操作する運転を行うことができる。つまり,各空気浄化器1のうちの一部のものを送風停止状態(滞留状態)とし,他の空気浄化器1を送風状態(通気状態)となるようにするとともに,送風停止状態とされる空気浄化器1を順次変更していくのである。むろんこの動作も制御部5の制御による。これをサイクル制御という。
【0043】
このようにすることで,個々の空気浄化器1は間欠運転をしていても,空気浄化器10の全体としては常時浄化済みの空気を排出することができる。この仕組みにより,個々の空気浄化器1において,1回の送風停止時間を1回の送風時間よりも長い設定とすることもできる。1回の送風停止時間を長くすることで,抗生機能部4による病原体の不活性化作用をより確実にすることができる。
図9,
図10はむろん一例であり,空気浄化器1の総数も,同時にオンされる空気浄化器1の個数も任意である。空気浄化器1の配置も任意であり,
図9のように各空気浄化器1が平行であるものに限らず,放射状であってもよい。
図1の空気浄化器1に替えて
図7の空気浄化器6を用いてもよい。また,複数の
図7の空気浄化器6と1つの送風ファン3とを有する構成とすることもできる。
【0044】
図11に示すのは,群ごとにサイクル制御を行う構成例である。この例では,10個の空気浄化器1を,A群,B群,C群,D群の4つの群に分けている。各群にそれぞれ,複数の空気浄化器1が属している。これにより,各群で別々にサイクル制御を行うことができる。この動作も制御部5の制御による。具体的には例えば,次のようにすることが考えられる。
【0045】
(A群)対象:第1の種類のウィルス(耐性6秒),第2の種類のウィルス(耐性8秒) 送風停止時間:10秒
(B群)対象:第3の種類のウィルス(耐性10秒)
送風停止時間:15秒
(C群)対象:菌類(耐性20秒)
送風停止時間:20秒
(D群)対象:第4の種類のウィルス(耐性30秒)
送風停止時間:30秒
【0046】
このように群ごとに空気の滞在時間を別々とすることで,多種類の病原体への対応もできる。各群では,対象として想定する病原体の種類に応じて,その耐性時間(大多数の病原体が空気浄化器1内で不活性化するのに要する時間)と同じかややそれより長い程度に滞在時間を設定すればよい。送風時間は,空気浄化器1の容量や送風ファン3の風量に応じて適宜設定すればよい。新種あるいは変異種の病原体が出現した場合でも,その新たな種類の病原体の耐性時間が判明すればそれに応じて滞在時間を設定することで対応できる。群の数や群の中の空気浄化器1の数は任意である。
図11に示したように,群によって空気浄化器1の数が異なっていてもよい。
【0047】
以上詳細に説明したように本実施の形態に係る空気浄化器1,6は,管状部材2の内部に抗生機能部4を設けるとともに,送風ファン3または開閉弁7により,送風状態と送風停止状態とを取ることができるように構成されている。この構成で,送風状態と送風停止状態とを反復的に切り替えるようにしている。これにより,送風停止状態で管状部材2内の空気を病原体が少ない清浄な状態にし,送風状態でその清浄な空気を排出するとともに新たに浄化前の空気を管状部材2内に取り込む。
【0048】
かくして,通過する空気中に含まれる病原体を,フィルターにより捕捉するのではなく確実に不活性化させることができる空気浄化器1,6が実現されている。送風状態と送風停止状態との反復により,空気浄化器1,6が設置されている部屋の中の空気中の病原体濃度を下げることができる。複数の空気浄化器1,6の組み合わせにより,浄化済みの空気を常時排出するようにすることもできる。
【0049】
本実施の形態に係る空気浄化器1,6,10を用いることにより,室内を空気の流れがある状態に維持できるという効果もある。室内に空気の流れがあることにより,病原体の効果が室内で起こってテーブルや人体に病原体が付着することを抑制できることになる。このことは,特に,商業施設等であってなおかつ真夏・真冬の,外気との換気すら避けたい状況では本形態の空気浄化器1,6,10が非常に有利であることを意味する。空調機の運転負荷を増すことなく病原体を削減できるからである。
【0050】
また,フィルターによる異物の捕捉を前提とする通常の空気清浄機と比較しても本形態の空気浄化器1,6,10は有利である。フィルターでは病原体が捕捉されることが仮にあっても捕捉された病原体が不活化される訳ではなく,暫くして活性なままの病原体が離脱していくことが避けられないからである。
【0051】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本開示技術を何ら限定するものではない。したがって本開示技術は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。前記形態中にもある程度の変形例を示したがそれ以外にも例えば,
図12に示すように管状部材2の出入り口を中腹部分より狭くしてもよい(
図7型のものでも同様)。また,空気浄化器1,6の管状部材2として,図示した直線状のものに限らず途中で湾曲しているものが考えられる。管状部材2の途中に分岐箇所あるいは合流箇所があってもよい。分岐箇所,合流箇所がある場合それらは,抗生機能部4より上流でも下流でもよい。ただし,抗生機能部4を通らずに入り口から出口に至る経路はないことが望ましい。管状部材2に送風ファン3と開閉弁7との両方を設けた空気浄化器であってもよい。
【0052】
空気浄化器6の開閉弁7は,全開状態および全閉状態に限らず中間開度の状態が可能なものであってもよい。その場合の空気浄化器6における送風停止状態は,開閉弁7を必ずしも全閉状態にした状態でなくてもよい。送風状態における弁開度よりも小さい弁開度であって,空気が管状部材2を通過するのに要する時間が抗生機能部4で空気を浄化するのに必要な時間よりも長ければよい。空気浄化器1の送風ファン3についても同様に,送風停止状態でもごく低速で送風ファン3が回っていることとしてもよい。
【0053】
応用形態の空気浄化器10については,空気浄化器1と空気浄化器6とが混在した組合わせのものであってもよい。各空気浄化器1または空気浄化器6における抗生機能部4の種類が違っていてもよい。管状部材2の長さ,送風停止状態と送風状態との切り替え周期が各空気浄化器1または空気浄化器6によって違っていてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 空気浄化器 10 空気浄化器
2 管状部材 40 滅菌板
3 送風ファン 41 滅菌板
4 抗生機能部 42 紫外線ランプ
5 制御部 43 電熱板
6 空気浄化器 44 電熱面
7 開閉弁
【要約】
【課題】通過する空気中に含まれる病原体を確実に不活性化させることができる空気浄化器を提供すること。
【解決手段】本開示技術に係る空気浄化器1は,通気路2と,通気路2内に配置され病原体を不活性化する抗生機能部4と,通気路2を通過する空気の通気路2内での滞在時間を調整する滞在時間調整部5とを有して構成されている。さらに,通気路2内に空気を通過させる送風ファン3あるいは通気路2における空気の通過を邪魔する通気抵抗部材を有することができる。
【選択図】
図1