(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】認知症の予防又は改善用剤及びそれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K  35/747       20150101AFI20220412BHJP        
   A61K  31/736       20060101ALI20220412BHJP        
   A61P  25/28        20060101ALI20220412BHJP        
   A61P  25/16        20060101ALI20220412BHJP        
   A61P  43/00        20060101ALI20220412BHJP        
   A23L  33/135       20160101ALI20220412BHJP        
   A23K  10/16        20160101ALI20220412BHJP        
   A23K  20/163       20160101ALI20220412BHJP        
【FI】
A61K35/747 
A61K31/736 
A61P25/28 
A61P25/16 
A61P43/00 121 
A23L33/135 
A23K10/16 
A23K20/163 
(21)【出願番号】P 2021562610
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2020044054
(87)【国際公開番号】W WO2021111981
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019218217
 
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513198216
【氏名又は名称】株式会社ライフ・クオリティ研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113402
【氏名又は名称】前  直美
(72)【発明者】
【氏名】永田  勝太郎
【審査官】大島  彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/066681(WO,A1)    
【文献】国際公開第2017/179225(WO,A1)    
【文献】BULACIOS, G.A. et al.,Selection of lactic acid bacterial strains able to modulate the host central nervous system,Biocell,2019年11月07日,Vol. 43, Suppl. 5,p. 116. Abstract Number: MI-P33
【文献】NAKAMURA, Sadako et al.,Daily Feeding of Fructooligosaccharide or Glucomannan Delays Onset of Senescence in SAMP8 Mice,Gastroenterol. Res. Pract.,2014年06月02日,Vol. 2014, Article ID 303184,p. 1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、A23L、A23K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
  乳酸菌ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシーズ・ラクティスKLAB-4
株を有効成分として含有し、グルコマンナンをさらに含有する又はグルコマンナンと併用される、認知症の予防又は改善用剤。
【請求項2】
  重量比で、乳酸菌1部に対してグルコマンナン0.1~2部を含有する又は併用される、請求項1記載の認知症の予防又は改善用剤。
【請求項3】
  前記乳酸菌が、死菌である、請求項1又は2記載の認知症の予防又は改善用剤。
【請求項4】
  前記乳酸菌が、粉末である、請求項1~3のいずれか1項記載の認知症の予防又は改善用剤。
【請求項5】
  請求項1~4のいずれか1項記載の認知症の予防又は改善用剤を含む、認知症の予防又は改善用組成物。
【請求項6】
  請求項1~4のいずれか1項記載の認知症の予防又は改善用剤を含む、認知症の予防又は改善用医薬品組成物。
【請求項7】
  請求項1~4のいずれか1項記載の認知症の予防又は改善用剤を含む、認知症の予防又は改善用飲食品組成物。
【請求項8】
  請求項1~4のいずれか1項記載の認知症の予防又は改善用剤を含む、認知症の予防又は改善用動物用飼料又は動物用医薬品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、認知症を予防、治療又は改善するための剤及び組成物に関し、さらに具体的には、乳酸菌及び/又は乳酸菌由来成分を有効成分とする認知症の予防、治療又は改善用剤及びそれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
  認知症とは、物忘れや認知機能の低下が起こり、日常生活に支障をきたしている状態をいう。物忘れや認知機能の低下は、脳の神経細胞が障害を受けて死滅し、正常な神経細胞の数が減少していくことで起こる。認知症を発症すると、行動面・心理面の変化が生じる。
【0003】
  認知症は、正常な脳神経細胞の数が減少する原因に応じて、大きく二つに分けられる。その一方は、脳の神経細胞の変性・脱落が変化することによって発症する変性性認知症である。変性性認知症には、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、認知症を伴うパーキンソン病、前頭側頭型認知症などが含まれる。他方は、なんらかの外傷や病気を原因として発症する二次性認知症である。二次性認知症には、脳血管性認知症、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、自発性低血糖症などが含まれる。これらの中で、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症及び脳血管性認知症が三大認知症であり、その合計は、認知症全体の八割前後を占めていると考えられている。
【0004】
  認知症であるか否かの診断方法には、米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)をはじめとして、多種の方法が知られている。それらの診断方法の中で、アルツハイマー型認知症に関しては、米国アルツハイマー協会によって示された「10の症状」の有無に基づく診断方法が、理解しやすく、国際的に用いられている。当該「10の症状」を表1に示す。
【0005】
【0006】
  ところで、我が国においては、認知症、特にアルツハイマー型認知症の治療薬として、従来は、コリンエステラーゼ阻害剤のみが認可されていた。その作用機序は、アルツハイマー型認知症の脳内ではアセチルコリンの分泌不足からアセチルコリンの減少が生じていることに鑑み、コリンエステラーゼ阻害剤によって、脳内アセチルコリンの分解を阻害するというものであった(非特許文献1)。
【0007】
  その後、中等度及び高度のアルツハイマー型認知症の進行を抑制する薬剤として、N-メチル-D-アスパラギン酸(N-methyl-D-aspartate;NMDA)受容体に対する拮抗剤が認可された(非特許文献1)。その作用機序は次のとおりである。アルツハイマー型認知症では、グルタミン酸受容体のサブタイプであるNMDA受容体が過剰に活性化しており、その活性化によってシナプティックノイズが増大しているため、伝達シグナルがノイズに隠れ、情報が伝わりにくくなっていると考えられている。よって、NMDA受容体に対する拮抗剤により、NMDA受容体の活性を低下させるのである。
【0008】
  しかし、これまでに我が国で認可されている上記の薬剤によって、認知症からの回復や進行の停止が十分になされているとはいえない。また、上記薬剤には、肝機能障害、悪心や下痢などの消化器系障害、めまい、不整脈などの副作用が生じることがある。したがって、より有効で且つ副作用の少ない、認知症の予防、治療又は改善用剤が望まれている。
【0009】
  近年、健康の維持及び改善において機能性乳酸菌が注目されており、多数の菌株が単離され、それらの有用性が検討されている。ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシーズ・ラクティス  KLAB-4株(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis KLAB-4)は、発酵乳から分離された菌株であり、ラクトバチルス属デルブリッキー種亜種ラクティスに属する新規な乳酸菌として、独立行政法人製品評価技術基盤機構(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託されている(受託番号NITE  BP-394;原寄託日2007年8月9日の国内寄託株をブダペスト条約に基づく国際寄託へ移管(2008年9月22日))。この乳酸菌は、優れた抗アレルギー機能を有し、さらに抗自己免疫疾患機能、糖尿病改善機能及び低血糖改善機能を有することが知られている(特許文献1及び3、非特許文献2)。
【0010】
  また、特許文献2には、キムチから分離された乳酸菌である、ラクトバチルス・ペントーサス変種プランタルムC29及びラクトバチルス・カルバタスC3が、老化及び認知症の予防及び/又は治療活性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
               【文献】特許第5554994号公報
               【文献】特許第6009080号公報
               【文献】特許第6747724号公報
             
【非特許文献】
【0012】
               【文献】「アルツハイマー型認知症治療薬について」、中村祐、老年期認知症研究会誌、Vol.19、No.7、2013
               【文献】「乳酸菌の健康機能」、立垣愛郎、全人的医療  17(1)、8-19(2018)
             
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
  本発明は、安全性及び有効性が高く、副作用が少なく、長期連用の可能な認知症の予防又は改善用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
  本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の乳酸菌が、優れた認知症の予防又は改善作用を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0015】
  本発明によれば、
〔1〕  乳酸菌ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシーズ・ラクティス又はその乳酸菌由来成分を有効成分とする認知症の予防又は改善用剤;
〔2〕  前記乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシーズ・ラクティスKLAB-4株(NITE  BP-394)及びその変異体からなる群から選択される乳酸菌を含む、前記〔1〕記載の認知症の予防又は改善用剤;
〔3〕  水溶性食物繊維成分をさらに含有する、又は水溶性食物繊維成分と併用される、前記〔1〕又は〔2〕記載の認知症の予防又は改善用剤;
〔4〕  前記水溶性食物繊維成分が、グルコマンナン、ペクチン、グアーガム、アルギン酸、ポリデキストロース、βグルカン、フルクタン、イヌリン、レバン、グラミナン、アラビアガム、マルチトール、サイリウム、難消化性オリゴ糖、難消化性デキストリン、アガロース、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、フコイダン、ポルフィラン、ラミナラン、海藻、及び寒天からなる群から選択される、前記〔3〕記載の認知症の予防又は改善用剤;
〔5〕  前記水溶性食物繊維成分が、グルコマンナンである、前記〔4〕記載の認知症の予防又は改善用剤;
〔6〕  前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の認知症の予防又は改善用剤を含む、組成物;
〔7〕  前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の認知症の予防又は改善用剤を含む、医薬品組成物;
〔8〕  前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の認知症の予防又は改善用剤を含む、飲食品組成物;
〔9〕  前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の認知症の予防又は改善用剤を含む、動物用飼料又は動物用医薬品組成物;及び
〔10〕  前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の認知症の予防又は改善用剤、あるいは前記〔6〕~〔9〕のいずれか1項記載の組成物を、対象に投与することを含む、認知症の予防又は改善方法;
が提供される。
【0016】
  認知症は、変性性認知症、特にアルツハイマー型認知症であることができる。認知症の予防又は改善用剤は、認知症の改善剤であることができる。
【発明の効果】
【0017】
  本発明の認知症の予防又は改善用剤及びそれを含む組成物は、認知症を有効に改善することができる。本発明の、認知症の改善用剤及びそれを含む組成物は、安全性が高い乳酸菌又はその乳酸菌由来成分を有効成分とするため、長期的に投与又は摂取しても、副作用の心配がなく安全性が高い。また、水溶性食物繊維成分、例えばグルコマンナンもまた、人間にとって長年の食経験がある有益成分であり、安全性が高い。したがって、本発明の認知症の改善用剤及びそれを含む組成物は、予防的に使用することも可能であり、治療に使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
            【
図1】
図1は、各群の被験者について、試験開始直前と試験終了直後の各々において数えた、認知症の「10の症状」の中の当てはまるものの数の平均値の変化を示すグラフである。「**」は、試験開始直前の数に対して試験終了直後の数が、危険率1%(p<0.01)で有意に減少していることを示している。
 
            【
図2】
図2は、各群における、試験開始直前に対する試験終了直後の(すなわち、カプセル剤の服用前に対する服用後の)、認知症の症状の数の変化率(%)を示すグラフである。「**」は、P群の変化率に対してM群の変化率(%)が危険率1%(p<0.01)で有意に大きいことを、「※※」は、L群の変化率に対してM群の変化率(%)が危険率1%(p<0.01)で有意に大きいことを、それぞれ示している。
 
          
【発明を実施するための形態】
【0019】
  本発明の認知症の予防又は改善用剤は、乳酸菌ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシーズ・ラクティス又はその乳酸菌由来成分を有効成分とする。したがって、本発明の剤は、乳酸菌ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシーズ・ラクティス又はその乳酸菌由来成分のみからなることができ、他の有効成分を含むこともできる。
【0020】
<乳酸菌>
  本発明において使用される乳酸菌ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシーズ・ラクティスは、発酵乳又はチーズなどの発酵食品などから単離することができ、あるいは、単離された菌株を入手して使用することもできる。本発明において使用される乳酸菌としては、ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシーズ・ラクティス  KLAB-4株(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis KLAB-4、以下「KLAB-4株」ともいう)及びその変異体からなる群から選択される乳酸菌を含むことが望ましい。
【0021】
  KLAB-4株は、特許文献1(特許第5554994号公報)に詳細に記載されている菌株である。この菌株は、その16s  rRNA遺伝子の5'末端の塩基より544番目の塩基までの配列が、ラクトバチルス属デルブリッキー種亜種ラクティス標準株と90%以上の相同性を有することが確認されたため、ラクトバチルス属デルブリッキー種亜種ラクティスと同定された。
【0022】
  本発明における使用に関して好ましい乳酸菌は、KLAB-4株だけでなく、その変異体であってもよい。このような変異体は、特に限定されず、自然突然変異によるもの、放射線や突然変異誘導物質への曝露などの公知の方法で人為的に突然変異を誘導させて得られたものなどであることができる。変異体は、KLAB-4乳酸菌と比較して同等の特性(特に、認知症の予防又は改善作用)を有するものであれば、本発明において使用することができる。
【0023】
  乳酸菌ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシーズ・ラクティス、例えばKLAB-4株又はその変異体は、公知の一般的な培地及び方法により培養することができる。これらの乳酸菌は、これらの菌が生育可能な培地、例えば、MRS培地を用い、一般的な培養条件下で、通常使用される発酵ジャー、試験管、ボトル、フラスコ等の容器で通常の乳酸菌培養を行うことにより、培養することができる。
【0024】
  本発明において使用される乳酸菌は、生菌であってもよく、死菌であってもよい。生菌とは、生きている菌体を指し、死菌とは、加熱、加圧、薬物などによる処理で殺菌された菌体を指す。
【0025】
  さらに、乳酸菌から得られる乳酸菌由来成分も、同等の機能を有する限り、菌体と同様に本発明において使用することができる。乳酸菌由来成分とは、菌体の部分又は成分、あるいはそれらのいずれかを含むものをいい、例えば、乳酸菌に磨砕、破砕、抽出、分画、乾燥、加熱、凍結、冷却、濃縮、希釈などの処理の少なくとも一つを施して得られる菌体処理物などをいう。乳酸菌由来成分は、液体、ペースト、粉末、顆粒など、いずれの形態であってもよい。菌体から何らかの成分を抽出した後の残渣を使用してもよく、例えば、熱水抽出後の残渣を使用してもよい。
【0026】
  KLAB-4株乳酸菌粉末は、商品名「乳酸菌LAB4」(株式会社カネカ製)として市販されているので、これを使用してもよい。
【0027】
<水溶性食物繊維成分>
  本発明の認知症の予防又は改善用剤には、上記のとおりの乳酸菌又は乳酸菌由来成分に加えて、水溶性食物繊維成分を含ませることができる。このような成分をさらに含むことにより、本発明の剤の効果が増強されることが見出された。
【0028】
  水溶性食物繊維成分とは、水溶性食物繊維、又はそれを含む食品/医薬品もしくは食品/医薬品素材をいう。水溶性食物繊維成分の具体例としては、例えば、グルコマンナン、ペクチン、グアーガム、アルギン酸、ポリデキストロース、βグルカン、フルクタン、イヌリン、レバン、グラミナン、アラビアガム、マルチトール、サイリウム、難消化性オリゴ糖、難消化性デキストリン、アガロース、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、フコイダン、ポルフィラン、ラミナラン、ならびに海藻及び寒天などの、天然又は合成の水溶性食物繊維又は水溶性食物繊維含有材料が挙げられる。
【0029】
  水溶性食物繊維成分は、本発明の剤に含有させておいてもよく、投与又は摂取時に乳酸菌又は乳酸菌由来成分と一緒にしてもよい。あるいは、それぞれを含有する別々の調製物として投与又は摂取することもでき、その場合、両方を同時に、又は時間的に前後して投与又は摂取してもよい。言い換えれば、本発明の剤又は組成物は、乳酸菌又は乳酸菌由来成分と、水溶性食物繊維成分とを同一の組成物中に含む場合だけでなく、別々の剤又は組成物として、同時又は前後して投与又は摂取してもよい。例えば、カプセルに封入された形態の本発明の剤を、水溶性食物繊維成分を含む飲料で服用させることができる。
【0030】
  本発明の剤に水溶性食物繊維成分を含有させる場合又は本発明の剤と水溶性食物繊維成分とを併用する場合、その割合(重量比)は、特に限定されないが、例えば乳酸菌又は乳酸菌由来成分1部に対し、水溶性食物繊維成分0.1~2部程度が好ましい。
【0031】
  水溶性食物繊維成分によって乳酸菌の効果が増強される作用機序は不明であり、本発明は、特定の作用機序に拘束されるものではない。例えば、グルコマンナンは、親水性が高く、グルコマンナンの重量に対して約100倍の重量の水を吸収することができるため、グルコマンナンは胃内で吸水することにより約100倍に体積が増加して、胃粘膜に薄い膜が張られた状態となると考えられる。したがって、一つの可能性として、水溶性食物繊維成分が存在することにより乳酸菌の吸収を調節することができると考えられる。
【0032】
<その他の成分>
  本発明の認知症の予防又は改善用剤は、上記のとおりの乳酸菌又は乳酸菌由来成分を唯一の必須成分とするが、水溶性食物繊維成分のような他の有効成分を含有又は併用することができる。本発明の認知症の予防又は改善用剤を含む組成物は、本発明の剤に加えて、一以上の他の成分を含む。
【0033】
  本発明の組成物は、医薬品組成物、飲食品組成物、動物用飼料組成物又は動物用医薬品組成物などであることができ、それらの具体的な形態は、特に限定されない。例えば、本発明の組成物を医薬品として用いる場合は、その形態又は剤型として、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、ドリンク剤、シロップ剤、注射剤、輸液、点鼻剤、点眼剤、座薬、貼付剤、噴霧剤などが挙げられる。本発明の組成物を飲食品組成物として用いる場合は、各種の食品原材料又は成分と共に一般食品の形態にしてもよく、また、カプセル剤又は錠剤などの形態のサプリメントなどの機能性食品とすることもできる。
【0034】
  本発明の組成物に含まれる任意の成分は、組成物の性質、形態、製造方法などに応じて適宜選択することができ、製薬、食品、化粧品などの業界で公知の種々の成分や添加剤であることができる。本発明の組成物が含んでいてもよい添加剤としては、薬剤学的に許容される、又は製薬、食品、化粧品などの業界で日常的に使用されている、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、流動性促進剤、着色剤、溶剤、増粘剤、分散剤、pH調整剤、保湿剤、安定化剤、保存料、香料などを挙げることができる。
【0035】
  これらの添加剤は、所望の剤型などに応じて、適宜選択される。例えば、本発明の医薬品組成物又は飲食品組成物などの組成物が、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの形態である場合には、用いる賦形剤としては、乳糖、蔗糖、グルコース、ソルビトール、ラクチトールなどの単糖又は二糖類、コーンスターチ、ポテトスターチのような澱粉類、結晶セルロース、無機物としては軽質シリカゲル、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、二酸化ケイ素などがある。また、必要に応じ、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、酸化防止剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、防湿剤、着色料、香料などを適宜使用することができる。
【0036】
  結合剤としては、例えば、澱粉、デキストリン、アラビアガム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩、メチルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0037】
  崩壊剤としては、澱粉類、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩、ポリビニルピロリドンなどがある。
【0038】
  界面活性剤としては、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステルなどが、滑沢剤としては、タルク、ロウ、蔗糖脂肪酸エステル、水素添加植物油、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどが、流動性促進剤としては、無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどが、それぞれ挙げられる。
【0039】
  本発明の組成物を動物用飼料又は動物用医薬品組成物として用いる場合も、上記と同様であり、各種飼料原材料又は薬剤学的に許容される成分を使用して、飼料、サプリメント、医薬などの所望の形態又は剤型にすることができる。
【0040】
  本発明の剤又は組成物は、単独で投与又は使用してもよく、他の薬剤と併用してもよい。また、本発明の剤又は組成物を他の薬剤と併用する場合は、両者を同時に用いてもよく、前後して用いてもよい。
【0041】
  本発明の認知症の予防又は改善用剤、あるいは組成物の投与(又は摂取もしくは適用)経路は、例えば、経口、経皮、経腸、直腸内経路などから適宜選択することができる。認知症の予防又は改善に有効な本発明の剤又は組成物の1日当たりの投与(又は摂取もしくは適用)量は、その製剤形態、投与などの方法や経路、対象者の年齢及び体重、疾患の重症度などによって異なるが、たとえば経口経路の場合、ヒトでは、一般的には、有効成分の乳酸菌又は乳酸菌由来成分量として約0.1mg~約1000mg/kg体重/日、好ましくは約1mg~約500mg/kg体重/日、最も好ましくは約2mg~約300mg/kg体重/日を、一度に又は分割して、投与又は摂取することができる。投与又は摂取のタイミングは、特に限定されず、例えば、食事と同時、食直後、食直前、睡眠前などであることができる。
【0042】
  本発明の剤又は組成物は、非常に安全性が高いので、患者だけでなく健常者に与えることもできる。また、本発明の剤又は組成物は、対象、具体的にはヒト及びヒト以外の動物、好ましくは哺乳類に同様に投与(又は摂取もしくは適用)することができる。ヒト以外の動物の例としては、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジなどの家畜、及びイヌ、ネコなどのコンパニオン動物が挙げられる。投与量については上記と同様の量を基準として、動物の特性に応じて調整することができる。例えば、小動物の場合、乳酸菌又は乳酸菌由来成分量として、約0.01~約1000mg/kg体重/日、より好ましくは約0.1~約30mg/kg体重/日に相当する投与又は摂取量になるよう調整して与えることができる。
【0043】
  本発明の剤又は組成物により、認知症が改善されたか否かは、投与又は摂取の前と後、又は投与又は摂取中もしくは後などの異なる時点において、前の時点と比較して後の時点において症状が変化したか否かを調べることにより、評価することができる。例えば、投与開始前と、一定期間(例えば、6ヶ月)の投与後に、米国アルツハイマー協会によって示された「10の症状」の有無によって認知症の程度を診断することにより、評価することができる。
【実施例】
【0044】
  以下に例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
               1.カプセル剤の製造
               
  乳酸菌ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシーズ・ラクティスとして、KLAB-4乳酸菌粉末(商品名「乳酸菌LAB4」(株式会社カネカ製))を、水溶性食物繊維成分としてグルコマンナン(商品名「レオレックスRS」(清水化学株式会社製))を使用し、以下の3種のカプセル剤を製造した。
【0046】
  製造例1:
  1カプセル当たり、乳酸菌粉末100mg、グルコマンナン粉末50mg、結晶セルロース粉末17.5mg、ステアリン酸カルシウム粉末2mg、二酸化ケイ素粉末0.5mgを混合、撹拌して均一にした後、市販のカプセル(商品名「ブタゼラチンクリア3号」(クオリカプス株式会社製))に充填した。
  製造例2:
  1カプセル当たり、乳酸菌粉末100mg、乳糖50mg、結晶セルロース粉末17.5mg、ステアリン酸カルシウム粉末2mg、二酸化ケイ素粉末0.5mgを混合、撹拌して均一にした後、製造例1で使用したものと同じ市販のカプセルに充填した。
  比較例:
  乳酸菌粉末及びグルコマンナン粉末の代わりに、乳糖150mgを含む以外は製造例1と同じカプセル剤を製造した。
【0047】
  これら3種のカプセル剤は、外見、味、匂いともに差がなく、区別がつかないものであった。
【0048】
               2.認知症に対する効果の試験
               
  本研究は、(公財)国際全人医療研究所の倫理委員会の承認のうえで、十分なインフォームド・コンセントを得て実施した(2017年)。
【0049】
<被験者>
  被験者は、専門医により認知症と診断され、未治療の患者33名(男性17名、女性16名)であった。これらを、封筒法によって、プラセボ(P)群、乳酸菌群(L)群、及び乳酸菌+グルコマンナン(M)群の3群に分けた。
【0050】
  各群の被験者の年齢及び性別に統計学的有意差はなかった。各群を構成する被験者の内訳を、表2に示す。
【0051】
【0052】
<試験方法>
  二重盲検法を採用した。P群、L群、又はM群に、それぞれ、上記のとおりの比較例、製造例2、又は製造例1のカプセルを、1日3カプセル(1回1カプセル)の量で食直後に服用させた。投与期間は、6カ月であった。
【0053】
  試験開始直前と試験終了直後に、各被験者について、米国アルツハイマー協会によって示された「10の症状」の中で、当てはまるものの数を数えた。
【0054】
<試験結果>
(1)各群の被験者における認知症の症状の数の変化
  各群の被験者について、試験開始直前と試験終了直後の各々において数えた、認知症の「10の症状」の中の当てはまるものの数の平均値の変化を、
図1に示す。なお、統計数字は、平均値±標準偏差で表現し、MAC版の統計ソフトSSMCにより解析した。
 
【0055】
  図1から明らかなように、L群及びP群では、試験開始直前と試験終了直後における認知症の症状の数に有意差はないものの、L群において症状の数が減少する傾向が見られた。M群については、試験開始直前に比べて試験終了直後には、危険率1%で、認知症の症状の数が有意に減少した。
 
【0056】
(2)カプセル剤の服用前後における、認知症の症状の数の変化率(%)
  認知症の症状の数の変化率(%)を、式:〔(服用後の症状の数-服用前の症状の数)/服用前の症状の数〕×100で算出した。結果を
図2に示す。
 
【0057】
  図2から明らかなように、P群とL群との間には、試験前後における認知症の症状の数の変化に有意差はないものの、L群において症状の数が減少する傾向が見られた。P群とM群との間には、試験前後における認知症の症状の数の変化に、危険率1%で有意差があった。また、L群とM群との間にも、試験前後における認知症の症状の数の変化に、危険率1%で有意差があった。M群は、試験前に対する試験後の、認知症の症状の数の変化率(低下率)(%)が最も大きかった。
 
【0058】
(3)副作用
  副作用は、軟便がL群に1例、M群に1例観られたのみであった。
<安全性の検討>
  被験者すべてについて、試験開始直前と試験終了直後に採血を行い、血算(赤血球、白血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板)、Alb、GOT、GPT、LDH、AlP、γ-GTP、アミラーゼ、BUN、クレアチニン、血糖値及びヘモグロビンA1cを測定した。また、試験開始直前と試験終了直後に採尿を行い、蛋白、糖及びウロビリノーゲンを測定した。すべての患者において、試験開始直前と試験終了直後のいずれにおいても、異常値は認められなかった。
【0059】
<結論>
  上記の結果より、本発明の剤及び組成物は、認知症の改善に有効であると考えられた。また、本発明の剤及び組成物は、いずれも安全であり、それらの内容物は、安全な素材であると考えられた。
【0060】
  この出願は、2019年12月2日出願の日本特許出願、特願2019-218217に基づくものであり、特願2019-218217の明細書及び特許請求の範囲に記載された内容は、すべてこの出願明細書に包含される。