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特許7057072インクジェット塗工紙用共重合体ラテックス及び該共重合体ラテックス含有組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】インクジェット塗工紙用共重合体ラテックス及び該共重合体ラテックス含有組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 236/04 20060101AFI20220412BHJP
   C08F 220/04 20060101ALI20220412BHJP
   C08F 222/02 20060101ALI20220412BHJP
   C08F 212/00 20060101ALI20220412BHJP
   C08F 220/42 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C08F236/04
C08F220/04
C08F222/02
C08F212/00
C08F220/42
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017129506
(22)【出願日】2017-06-30
(65)【公開番号】P2019011434
(43)【公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 由吏江
(72)【発明者】
【氏名】葉柴 博行
(72)【発明者】
【氏名】中森 弘
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-008896(JP,A)
【文献】特開2003-312141(JP,A)
【文献】特開2012-092485(JP,A)
【文献】特開平03-227302(JP,A)
【文献】特開平03-227303(JP,A)
【文献】特開平03-227304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
B41M 5/00- 5/03
B41M 5/04- 5/10
B41M 5/50
B41M 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族共役ジエン系単量体に由来する構造単位5~30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位0.1~10重量%、及びその他の構造単位60~94.9重量%を含むインクジェット塗工紙用共重合体ラテックスであって、その他の構造単位として、アルケニル芳香族系単量体に由来する構造単位と、シアン化ビニル系単量体に由来する構造単位と、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体に由来する構造単位とを含み、ゲル含有量が80重量%以上、平均粒子径が120nm以上300nm以下、アニオン性乳化剤及び/又はノニオン性乳化剤の含有量が共重合体ラテックス(固形分)100重量部に対して0.1重量部以上1重量部以下、及び下記方法により作成したラテックスフィルムIのイオン交換水に対する接触角Iが40°以下であり、下記方法により作成したラテックスフィルムIIのイオン交換水に対する接触角IIが60°以上であり、かつ、ラテックスフィルムIとラテックスフィルムIIのイオン交換水に対する接触角の差が30°以上であることを特徴とするインクジェット塗工紙用共重合体ラテックス。
( ラテックスフィルムIの作成方法)
PETフィルム上に#8wire-barを用いて共重合体ラテックス(固形分48%)を塗布し、200℃に設定した熱風循環式オーブンで1分間乾燥させた後取り出す。
(ラテックスフィルムIIの作成方法)
PETフィルム上に#8wire-barを用いて共重合体ラテックス(固形分48%)を塗布し、120℃に設定した熱風循環式オーブンで1分間乾燥させた後取り出す。
【請求項2】
共重合体ラテックスの最低造膜温度(MFT)が50℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット塗工紙用共重合体ラテックス。
【請求項3】
共重合体ラテックス(固形分)に含まれるアニオン性乳化剤含有量が0.1重量%以上であることを特徴とする請求項1~2の何れか一項に記載のインクジェット塗工紙用共重合体ラテックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット塗工紙用共重合体ラテックス及び該共重合体ラテックス含有組成物に関するものである。詳しくは、水性インク用インクジェット塗工紙にバインダーとして使用される共重合体ラテックスであり、インクジェット塗工紙の水性インク吸収性に優れた共重合体ラテックス及び該共重合体ラテックを含有してなるインクジェット塗工紙用塗工組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、塗工紙は、その印刷効果が高い等の理由から、非常に数多くの印刷物に利用されている。季刊、月刊紙等の定期刊行物の中にも、全ての頁に塗工紙が使用される場合もかなり増えている。特に、メールオーダービジネスにおけるダイレクトメールや商品カタログ等の個人向け情報発信おいては、オンデマンド印刷が主流になりつつあり、具体的には電子写真方式やインクジェット方式などのオンデマンド印刷が活用されている。
一般的なオフセット印刷紙用塗工組成物は、クレーや炭酸カルシウムなどの白色顔料を水に分散した顔料分散液、顔料同士および顔料を原紙に接着固定するためのバインダー、およびその他の添加剤によって構成される水性塗料が利用され、バインダーとしてはスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスに代表されるような合成エマルションバインダーやデンプン、カゼインに代表されるような天然バインダーが使用される。
一方、インクジェット方式に用いる塗工組成物(以下、インクジェット塗工紙用塗工組成物と呼ぶ)は、水吸収性に優れるシリカなどの多孔性顔料を水に分散した顔料分散液、顔料同士および顔料を原紙に接着固定するためのバインダー、水性インキを紙表面に定着させるためのカチオン性定着剤やその他の添加剤によって構成されるが、バインダーとしては保護コロイド性や親水性に優れたポリビニルアルコールが使用されることが一般的である。そして、オフセット印刷紙用塗工組成物では一般的な合成エマルションバインダーであるスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスなどは水性インクの吸収性が劣るために使用が制限される傾向にある。
【0003】
一方、インクジェット塗工紙用塗工組成物において使用されるポリビニルアルコールは、合成エマルションバインダーに比べて塗工層の表面強度が劣る傾向にある。
【0004】
また、インクジェット印刷は、インクの極少滴を飛翔させてインクジェット用紙に付着、定着させ文字や画像を形成するものであり、塗工紙の表面を形成する塗工層への水性インクの吸収性、保持性及び定着性が、文字の滲みや画像の鮮明性に影響する。更に、水性インクの吸収性は印刷後の表面のインクの乾燥にも影響するため印刷作業性にも大きな影響を及ぼすことが知られている。そのため、文字が滲まず、鮮明な画像が得られ、かつ、印刷作業性の良好なインクジェット塗工紙が要求されている。前述の点を改良するため、例えば特開2001-219646号公報(特許文献1)では、インクジェット用記録媒体のインク受容層におけるインクの吸収容量とインク受容層のインクに対する接触角を規定することが記載されている。また、WO2003/008198号公報(特許文献2)では、インクジェット記録シートの表面の純水に対する接触角が90°以上で、且つインクに対する接触角が30°以下に規定することが記載されている。しかしながら、インクジェット印刷適性と塗工層の表面強度のバランスについては未だ不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-219646号公報
【0006】
【文献】WO2003/008198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インクジェット塗工紙において水性インク吸収性の悪さから使用に制限のあった合成エマルションバインダーにおいて、インクジェット塗工紙用塗工組成物に使用しても塗工層への水性インク吸収性及び塗工層の表面強度に優れ、さらに、塗工組成物の安定性に優れる共重合体ラテックス及び該共重合体ラテックス含有組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の通りである。
[1] 脂肪族共役ジエン系単量体に由来する構造単位5~30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位0.1~10重量%、及びその他の構造単位60~94.9重量%を含むインクジェット塗工紙用共重合体ラテックスであって、下記方法により作成したラテックスフィルムIのイオン交換水に対する接触角Iが40°以下であり、下記方法により作成したラテックスフィルムIIのイオン交換水に対する接触角IIが60°以上であり、かつ、ラテックスフィルムIとラテックスフィルムIIのイオン交換水に対する接触角の差が30°以上であることを特徴とするインクジェット塗工紙用共重合体ラテックス。
(ラテックスフィルムIの作成方法)
PETフィルム上に#8wire-barを用いて共重合体ラテックス(固形分48%)を塗布し、200℃に設定した熱風循環式オーブンで1分間乾燥させた後取り出す。
(ラテックスフィルムIIの作成方法)
PETフィルム上に#8wire-barを用いて共重合体ラテックス(固形分48%)を塗布し、120℃に設定した熱風循環式オーブンで1分間乾燥させた後取り出す。
[2]共重合体ラテックスの最低造膜温度(MFT)が50℃以上であることを特徴とする上記[1]に記載のインクジェット塗工紙用共重合体ラテックス。
[3]ゲル含有量が80重量%以上であることを特徴とする上記[1]~[2]の何れかに記載のインクジェット塗工紙用共重合体ラテックス。
[4]平均粒子径が120nm以上であることを特徴とする上記[1]~[3]の何れかに記載のインクジェット塗工紙用共重合体ラテックス。
[5]共重合体ラテックス(固形分)に含まれるアニオン性乳化剤含有量が0.1重量%以上であることを特徴とする上記[1]~[4]の何れかに記載のインクジェット塗工紙用共重合体ラテックス。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインクジェット塗工紙用共重合体ラテックスを用いることで、水性インク吸収性に優れることから文字が滲まず、鮮明な画像が得られ、表面強度に優れたインクジェット塗工紙が得られる。さらに、本発明のインクジェット塗工紙用共重合体ラテックスを用いた塗工組成物は、凝集物量が少ないものが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明の共重合体ラテックスは、脂肪族共役ジエン系単量体に由来する構造単位、エチレン系不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位、及びその他の構造単位を含むものである。
【0011】
脂肪族共役ジエン系単量体に由来する構造単位とは、脂肪族共役ジエン系単量体が重合して形成される構造単位である。脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に1,3-ブタジエンの使用が好ましい。
【0012】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位とは、エチレン系不飽和カルボン酸単量体が重合して形成される構造単位である。エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの1塩基酸または2塩基酸(無水物)を挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0013】
その他の構造単位に対応する単量体としては、アルケニル芳香族系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド系単量体などが挙げられる。
【0014】
アルケニル芳香族系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチル-α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本実施形態においては、工業的に容易に製造され、入手の容易性及びコストの観点から、特にスチレンの使用が好ましい。
【0015】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどの単量体が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本実施形態においては、工業的に容易に製造され、入手の容易性及びコストの観点から、特にアクリロニトリル又はメタクリロニトリルの使用が好ましい。
【0016】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2-エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本実施形態においては、工業的に容易に製造され、入手の容易性及びコストの観点から、特にメチルメタクリレートの使用が好ましい。
【0017】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β-ヒドロキシエチルアクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ-(エチレングリコール)マレエート、ジ-(エチレングリコール)イタコネート、2-ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2-ヒドロキシエチル)マレエート、2-ヒドロキシエチルメチルフマレート等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
不飽和カルボン酸アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N―メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
上記単量体の他にも、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0020】
本発明の共重合体ラテックスを構成する構造単単位は、脂肪族共役ジエン系単量体に由来する構造単位5~30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位0.1~10重量%、及びその他の構造単位60~94.9重量%を含むものである。
【0021】
脂肪族共役ジエン系単量体に由来する構造単位は、5~30重量%含有することが必要である。5重量%未満では塗工層の表面強度が劣る傾向にあり、30重量%を超えると共重合体ラテックスの成膜性が良くなり その結果として塗工層への水性インク吸収性が劣る傾向にある。好ましくは7~27重量%である。
【0022】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位は、0.1~10重量%含有することが必要である。0.1重量%未満では親水性が劣る傾向にあり、10重量%を超えると塗工組成物として混和した際のカチオン定着剤との混和安定性が劣る傾向にある。好ましくは0.2~6重量%である。
【0023】
その他の構造単位は、60~94.9重量%含有することが必要である。60重量%未満だと水性インク吸収性や塗工組成物として混和した際のカチオン定着剤との混和安定性に劣る傾向にあり、94.9重量%を超えると塗工層の表面強度が劣る傾向にある。好ましくは67~92.8重量%である。
【0024】
本発明の共重合体ラテックスは、例えば乳化重合法により得ることができる。
【0025】
乳化重合を行う際には、上記単量体の他、乳化剤(界面活性剤)、重合開始剤、更に必
要に応じて、連鎖移動剤、還元剤等を配合することができる。
【0026】
乳化剤(界面活性剤)としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、非イオン性乳化剤の硫酸エステル塩等のアニオン性乳化剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性乳化剤を1種又は2種以上併用して使用することができる。中でも、アニオン性乳化剤を共重合体ラテックス(固形分)に対して0.1重量%以上含有することが好ましく、0.3重量%以上含有することがさらに好ましい。0.1重量%以上含有することで水性インク吸収性が良好になる傾向にある。上限値については、3.0重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以下であることがさらに好ましい。3.0重量%を超えると、共重合体ラテックスが泡立つ傾向にあり、また、塗工層の表面強度も劣る傾向にある。
【0027】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤;クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドなどの油溶性重合開始剤が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、及びt-ブチルハイドロパーオキサイドから選択することが好ましい。重合開始剤の配合量は特に制限されないが、単量体組成、重合反応系のpH、他の添加剤などの組み合わせを考慮して適宜調整される。
【0028】
連鎖移動剤としては、例えば、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、及びn-ステアリルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、及びジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、及びテトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム系化合物;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、及びスチレン化フェノールなどのフェノール系化合物;アリルアルコールなどのアリル化合物;ジクロルメタン、ジブロモメタン、及び四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素化合物;α-ベンジルオキシスチレン、α-ベンジルオキシアクリロニトリル、及びα-ベンジルオキシアクリルアミドなどのビニルエーテル;トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、及びα-メチルスチレンダイマーなどの連鎖移動剤が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤の配合量は、他の添加剤などの組み合わせを考慮して適宜調整することができる。
【0029】
還元剤としては、例えば、デキストロース、及びサッカロースなどの還元糖類;ジメチルアニリン、及びトリエタノールアミンなどのアミン類;L-アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、及びクエン酸などのカルボン酸類及びその塩;亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、及びベンズアルデヒドスルホン酸塩などが挙げられる。特にL-アスコルビン酸、及びエリソルビン酸から選択することが好ましい。還元剤の配合量は、他の添加剤などの組み合わせを考慮して適宜調整することができる。
【0030】
また、上記乳化重合には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4-メチルシクロヘキセン、1-メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素化合物を使用することができる。特に、沸点が適度に低く、重合終了後に水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすいシクロヘキセンやトルエンが、本発明の目的とは異なるものの、環境問題の観点から好適である。
【0031】
さらには、必要に応じて酸素補足剤、キレート剤、分散剤等の公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらは種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。更には消泡剤、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらも種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。
また、本発明の共重合体ラテックスは、その使用目的に応じて他のラテックスと適宜適量ブレンドすることもできる。
【0032】
乳化重合時の温度は、安全性に配慮した槽内圧力及び生産性の観点から、30~100℃の範囲に設定することが好ましく、40~85℃の範囲に設定することがより好ましい。
【0033】
乳化重合時の単量体成分ならびにその他の成分を添加する方法としては、例えば、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法、及びパワーフィード方法が挙げられる。中でも、連続添加方法(以下、「連添」という場合もある)を採用することが好ましい。さらに、連添を複数回行ってもよい。
【0034】
乳化重合の反応時間については、例えば、生産性の観点から、1~15時間とすることが好ましく、2~10時間とすることがより好ましい。
【0035】
また、乳化重合は、ポリマー転化率が97%を超えたことを確認して反応を終了させることが好ましい。こうして、共重体ラテックスが得られる。なお、ポリマー転化率は、固形分量から算出、又は重合槽を冷却した熱量から算出できる。
【0036】
得られた共重合体ラテックスは、分散安定性の観点から、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどにより、pHが5~9.5に調整されることが好ましく、5.5~8.5に調整されることがより好ましい。
【0037】
また、得られた共重合体ラテックスは、加熱減圧蒸留等の方法により、未反応単量体及び他の低沸点化合物が除去されていることが好ましい。
【0038】
本発明の共重合体ラテックスは、下記方法により作成したラテックスフィルムIのイオン交換水に対する接触角Iが40°以下である必要がある。接触角Iが40°を超えると水性インク吸収性が劣る傾向にある。好ましくは、30°以下である。
(ラテックスフィルムIの作成方法)
PETフィルム上に#8wire-barを用いて共重合体ラテックス(固形分48%)を塗布し、200℃に設定した熱風循環式オーブンで1分間乾燥させた後取り出す。
【0039】
さらに、下記方法により作成したラテックスフィルムIIのイオン交換水に対する接触角IIが60°以上であり、ラテックスフィルムIとラテックスフィルムIIのイオン交換水に対する接触角の差が30°以上である必要がある。接触角の差が30°未満であるとラテックスフィルムの成膜性が良くなり その結果として塗工層への水性インク吸収性が劣る傾向にある。好ましくは、35°以上である。
(ラテックスフィルムIIの作成方法)
PETフィルム上に#8wire-barを用いて共重合体ラテックス(固形分48%)を塗布し、120℃に設定した熱風循環式オーブンで1分間乾燥させた後取り出す。
【0040】
本発明で規定する接触角は、共重合体ラテックスの組成、平均粒子径、ゲル含有量、エチレン系不飽和カルボン酸単量体の量や添加方法、及び使用する乳化剤の種類や量などによって調整することできる。例えば、乳化剤量を増やすと接触角IとIIは低くなる傾向にあり、共重合体ラテックスの平均粒子径やゲル含有量を低くすると接触角IIは低くなる傾向にある。
【0041】
本発明の共重合体ラテックスは、平均粒子径が120nm以上であることが好ましい。平均粒子径が120nm未満ではラテックスの分散安定性が劣る傾向にある。また、ラテックスフィルムの成膜性にも影響を及ぼし、平均粒子径が120nm未満では成膜性が良くなるため、水性インク吸収性が低下する傾向にある。上限値については、400nm以下であることが好ましいく、300nm以下であることがさらに好ましい。400nmを超えると塗工層の表面強度が劣る傾向にある。
【0042】
本発明の共重合体ラテックスは、ゲル含有量が80重量%以上であることが好ましい。ゲル含有量が80重量%未満では塗工層の表面強度と水性インク吸収性が低下する傾向にある。共重合体ラテックスのゲル含有量は、例えば、後述する実施例の方法により測定される。
【0043】
本発明の共重合体ラテックスは、最低造膜温度(MFT)が50℃以上であることが好ましい。MFTが50℃未満では塗工層の表面強度は向上するものの水性インク吸収性が低下する傾向にある。上限値については、90℃以下であることが好ましい。90℃を超えると塗工層の表面強度が劣る傾向にある。共重合体ラテックスのMFTは、JIS K6828-2に準じて測定される。
【0044】
本発明の共重合体ラテックスを含有するインクジェット塗工紙用塗工組成物は、一般的にシリカを顔料として使用するものであるが、その他の顔料として、例えば、炭酸カルシウム、カオリンクレー、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、サチンホワイトなどの無機顔料、あるいはポリスチレンラテックスのような有機顔料をそれぞれ単独または混合して使用することもできる。
また、塗工組成物中の共重合体ラテックスの含有量は顔料100重量部(固形分)に対して3~300重量部(固形分)を使用することが好ましい。共重合体ラテックスの含有量が3重量部以下では顔料を充分に接着できず好ましくなく、300重量部を超えると塗工層の通気性や水性インク吸収性が低下して好ましくない。
【0045】
また、必要に応じてポリビニルアルコール、あるいは、澱粉、カチオン化澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の変性澱粉などの天然バインダー、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性合成バインダーなどを使用しても差し支えない。更に、ポリ酢酸ビニルラテックス、アクリル系ラテックスなどの合成ラテックス等を本発明の共重合体ラテックスと併用してもよい。
また、ポリビニルアルコールの架橋剤としてホウ酸等の使用も可能である。
【0046】
インクジェット塗工紙用塗工組成物を調整する際には、カチオン性定着剤を添加する事ができ、カチオン性定着剤としてはポリアミン、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミン等のカチオン性ポリマーや第4級アンモニウム塩等の公知の定着剤が使用できる。
【0047】
更に、塗工組成物を原紙へ塗布する方法には、公知の技術、例えばエアナイフコーター、カーテンコーター、ブレードコーター、ロールコーター、バーコーターなどのいずれの塗工機を使用しても差し支えない。
【実施例
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0049】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
温度40℃、湿度85%の雰囲気にてラテックスフィルムを作成する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量しXgとする。これを400mlのトルエンに入れ48時間含浸させる。その後、これを秤量済みの300メッシュのステンレス金網でろ過し、その後トルエンを蒸発乾燥させ、その乾燥後重量からメッシュ重量を減じて、試料の乾燥後重量を秤量しYgとする。
ゲル含有量(%)=Y/X×100
【0050】
共重合体ラテックスの平均粒子径の測定
共重合体ラテックスの平均粒子径は、動的光散乱法により測定した。尚、測定に際しては、FPAR-1000(大塚電子製)を使用した。
【0051】
共重合体ラテックスの接触角の測定
PETフィルム上に#8wire-bar(R.D.SPECIALTIES社製)を用いて共重合体ラテックスを塗布し、熱風循環式オーブン中で各々、下記I、IIの方法でラテックスフィルムを作成し、23℃、50%RHの環境下に24時間以上静置後、23℃、50%RHの条件下で測定を実施した。TAPPI T558&ASTM D-5725に準拠したFibro社製1100DATを用いて、接触角を測定した。4μlのイオン交換水を滴下し、2秒後の接触角を測定した。
(ラテックスフィルムIの作成方法)
PETフィルム上に#8wire-barを用いて共重合体ラテックス(固形分48%)を塗布し、200℃に設定した熱風循環式オーブンで1分間乾燥させた後取り出す。
(ラテックスフィルムIIの作成方法)
PETフィルム上に#8wire-barを用いて共重合体ラテックス(固形分48%)を塗布し、120℃に設定した熱風循環式オーブンで1分間乾燥させた後取り出す。
【0052】
塗工層への水性インク吸収性の評価
インクジェットプリンター(キヤノン株式会社製 MX-883)を用い各塗工紙試料に網点模様を印刷し、刷り上がった図柄のインキの滲み具合を肉眼で判定し、5級(優)から1級(劣)まで相対的に目視評価した。
【0053】
塗工紙の表面強度の評価
塗工層の表面にセロハンテープ(ニチバン株式会社製 セロテープ(登録商標)CT405AP)を貼り付けゆっくりと剥がした際のセロハンテープへの塗工層の付着の程度を肉眼で判定し、5級(優)から1級(劣)まで相対的に目視評価した。
【0054】
塗工組成物のカチオン定着剤との混和安定性の評価
インクジェット塗工紙用の塗工組成物の凝集物量を測定する事で指標とした。
塗工組成物200gを試料として採取し、200メッシュのステンレス金網でろ過した。金網上に残った凝集物を乾燥した後、重量を測定し、試料(固形分換算)に対する割合を求め、凝集物発生率とした。その発生率を下記の4段階で評価した。
◎ : 0.01% 未満 (非常に良い)
○ : 0.01~ 0.05% 未満(良い)
△ : 0.05~ 0.1% 未満 (やや劣る)
× : 0.1% 以上 (劣る)
【0055】
共重合体ラテックス(A、J)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水100部、過硫酸カリウム0.9部を仕込み、十分攪拌した後、表1に示す各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を開始し、最終重合転化率が97%を越えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpHを8に調整し、減圧蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスA、Jを得た。
共重合体ラテックス(B~I)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水95部、過硫酸カリウム1.2部を仕込み、十分攪拌した後、表1に示す1段目の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を開始した。重合転化率が70%を越えた時点で、次いで2段目の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を行い、最終転化率が97%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpHを8に調整し、減圧蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスB~Iを得た。
【0056】
塗工組成物の作製と評価
下記に示した配合処方に従って共重合体ラテックスA~Jを用い、インクジェット塗工紙用塗工組成物を作製した。カチオン性定着剤はポリエチレンイミンを使用した。
塗工組成物の配合処方
コロイダルシリカ(平均一次粒径20nm)100部
カチオン性定着剤(固形分) 3部
共重合体ラテックス(固形分) 30部
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
固形分濃度 9%
【0057】
塗工紙の作製と評価
塗工原紙(坪量55g/m2)に、上記の塗工組成物を片面あたりの塗工量が固形分で15g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗工し、150℃で3分間乾燥することでインクジェット塗工紙を得た。得られたインクジェット塗工紙を各試験に供して評価し、その結果を表1に示した。
【0058】
表1中の各成分は下記の略語にて示す。
(単量体)
BDE:ブタジエン
STY:スチレン
MMA:メチルメタクリレート
ACN:アクリロニトリル
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート
IA:イタコン酸
FA:フマル酸
AA:アクリル酸
(他の化合物)
EML1:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製、エマルゲン 109P)(ノニオン性乳化剤)
EML2:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王株式会社製、ネオペレックス G-15)(アニオン性乳化剤)
CHX:シクロヘキセン(炭化水素化合物)
α-MSD:α-メチルスチレンダイマー(連鎖移動剤)
TDM:t-ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すとおり、本発明による共重合体ラテックスA~Fはいずれも得られたインクジェット塗工紙の水性インク吸収性及び表面強度に優れ、さらに、塗工組成物の安定性に優れるものであった。
【0061】
比較例1は、脂肪族共役ジエン系単量体に由来する構造単位が30重量%を超えるため、水性インク吸収性が劣るものであった。
比較例2と3は、接触角の規定を満たさないため、水性インク吸収性が劣るものであった。
比較例4は、エチレン系不飽和カルボン酸単量体が10重量%を超え、混和安定性が劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
上記のとおり、本発明のインクジェット塗工紙用共重合体ラテックスは、塗工組成物とした際の混和安定性に優れ、さらに、塗工層への水性インク吸収性に優れることから文字が滲まず、鮮明な画像が得られ、表面強度に優れたインクジェット塗工紙が得られる。そのため、インクジェット塗工紙用塗工組成物のバインダー成分として好適に使用できる。