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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】車載器および運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20220412BHJP
   B60R 99/00 20090101ALI20220412BHJP
   G07C 5/00 20060101ALI20220412BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
G08G1/00 D
B60R99/00
G07C5/00 Z
G08G1/16 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017143405
(22)【出願日】2017-07-25
(65)【公開番号】P2019028482
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大石 啓之
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕一
(72)【発明者】
【氏名】青地 剛宙
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 広行
【審査官】白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-009250(JP,A)
【文献】特開2015-114834(JP,A)
【文献】特開2013-017024(JP,A)
【文献】特開2014-044691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00
G08G 1/16
G07C 5/00
B60R 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された1つ以上の車載カメラが出力する映像の信号を入力して処理する画像処理部と、
前記車両の加速度が閾値を超えたことに基づいて前記車両の異常を検知する異常検知部と、
前記異常検知部が異常を検知したことをトリガとして、少なくとも所定時間だけ前記車載カメラの画像データを記録媒体に記録する画像記録部と、
前記車両の加速度と比較される前記閾値を変更する閾値変更部と、
を備え、
前記閾値変更部は、前記車両が後方に走行しているときにおいて前記車両の後方の映像に基づいて当該車両に接近する移動体を検知した場合には、前進時よりも前記閾値を引き下げる処理を行い、前記車両の後方の映像に基づいて当該車両に接近する移動体を検知しない場合には、前記処理を行わない、
ことを特徴とする車載器。
【請求項2】
前記画像処理部は、前記車載カメラが出力する映像のフレームの中で、予め定めた1つ以上の検知枠の範囲内に限定して画像認識を行う、
ことを特徴とする請求項1記載の車載器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車載器と、
前記車両が後方に走行している状態で、前記車載カメラが出力する映像に基づいて当該車両に接近する移動体を検知した場合に警報を出力する警報出力部と、
を備えたことを特徴とする運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリガに応じて画像を記録する車載器および運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両に搭載される一般的なドライブレコーダのような車載器は、自車両上で非常に大きい加速度を検出するとトリガが発生し、このトリガに従って、車載カメラで撮影した映像等のデータを一定時間分だけ所定の記録媒体に保存する。
【0003】
一方、特許文献1のドライビングレコーダは、路面状況が悪い道路、作為的に凹凸が形成してある道路、坂道の走行などの場合に誤動作を防止するための技術を示している。すなわち、トリガを発生するための閾値を、車両の運転状況に応じてシフトさせることを示している。具体的には、閾値シフト判断情報取得手段が、動き情報取得手段、ブレーキ情報取得手段、環境情報取得手段、生体情報取得手段を備えている。また、動き情報取得手段は、速度センサ、加速度センサ、加加速度センサの少なくとも1つからの情報を動き情報として取得する。
【0004】
また、特許文献2はドライブレコーダにおいて画像記録のトリガを適切に行うための技術を示している。具体的には、ステレオカメラを利用すると共に、車両近傍の所定範囲を対象領域とし、全域に亘ってほぼ路面を計測することができる場合は衝突危険性が少ないと判定してトリガを掛けず、歩行者や駐車車両が存在し、また先行(停車)車両が存在する場合には、衝突危険性が高いと判定してトリガを掛ける。
【0005】
また、特許文献3は、ドライブレコーダにおいて、ユーザの操作を必要とすることなく撮影した画像を記憶し、かつ機密情報の保護を図るための技術を示している。具体的には、制限有無判断部が、検出した車両の位置からカメラでの撮影が制限される制限領域にあるか判断する。ここで、制限領域は、企業の敷地内などの特別な領域を意味している。上限加速度変更部は、車両が制限領域にあると判断されたとき、閾値を上限加速度から制限時上限加速度へ変更する。
【0006】
また、特許文献4は、ドライブレコーダにおいて、加速度が閾値を超えるイベントが発生した場合に、イベントの種類を識別するための技術を示している。具体的には、検出した加速度の変化量が加速側か減速側かを識別したり、アクセル変化量を識別することにより、イベントの種類を特定することを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-11815号公報
【文献】特開2010-224798号公報
【文献】特開2011-232858号公報
【文献】特開2012-164131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的なドライブレコーダの場合には、自車両上で検出した加速度の大きさを所定の閾値と比較し、加速度が閾値を超えた場合にトリガを出力する。つまり、交通事故の発生や急ブレーキ操作時などの重要な事象に対してトリガを発生し、このトリガに同期して画像を自動的に記録(保存)するための動作を行う。
【0009】
したがって、自車両が実際に何らかの障害物と接触したり衝突した場合であっても、検出される加速度が比較的小さい場合には、画像を記録するためのトリガを出力することができない。具体例としては、自車両が後方に向かってバックで走行するような場合には、比較的低速で走行することになるので、自車両が障害物と接触したり衝突した場合であっても、検出される加速度が比較的小さい。そのため、バックで走行する場合には事故が発生しても重要な画像を記録できない。
【0010】
一方、加速度の大きさを判定するための閾値を小さくすると、比較的小さい加速度に対してもトリガが出力されるので、バックで走行する場合であっても、重要な画像を記録することが可能になる。しかし、閾値を小さくすると、加速度のノイズに反応してトリガが発生しやすくなる。例えば、路面の凹凸や自車両の車体の振動に起因して検出される加速度のノイズに反応してトリガが発生し、利用価値のないゴミ画像が記録されることになる。また、ゴミ画像を記録すると、データの上書きによって重要な画像が消えてしまう可能性が生じる。更に、運転操作や事故原因を分析する際に、ゴミ画像を含む大量のデータの中から重要な画像を抽出する作業が難しくなる。
【0011】
したがって、例えば特許文献1の技術を採用し、閾値を状況に応じてシフトすることが想定される。しかし、特許文献1の技術を採用した場合であっても、自車両がバックで走行する場合に重要な画像を確実に記録できるとは限らないし、バック以外の走行状態においてゴミ画像の記録を確実に防止できるとも限らない。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、自車両がバックするときの障害物との干渉などの重要な画像の記録を可能にすると共に、利用価値の低い画像の記録を抑制することが可能な車載器および運転支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車載器および運転支援装置は、下記(1)~()を特徴としている。
(1) 車両に搭載された1つ以上の車載カメラが出力する映像の信号を入力して処理する画像処理部と、
前記車両の加速度が閾値を超えたことに基づいて前記車両の異常を検知する異常検知部と、
前記異常検知部が異常を検知したことをトリガとして、少なくとも所定時間だけ前記車載カメラの画像データを記録媒体に記録する画像記録部と、
前記車両の加速度と比較される前記閾値を変更する閾値変更部と、
を備え、
前記閾値変更部は、前記車両が後方に走行しているときにおいて前記車両の後方の映像に基づいて当該車両に接近する移動体を検知した場合には、前進時よりも前記閾値を引き下げる処理を行い、前記車両の後方の映像に基づいて当該車両に接近する移動体を検知しない場合には、前記処理を行わない、
ことを特徴とする車載器。
【0014】
上記(1)の構成の車載器によれば、自車両が後方に走行しているときには、閾値を前進時よりも引き下げて、異常に対する検出感度を高めることができる。したがって、自車両が低速でバック走行している状態で障害物との干渉などが発生した場合であっても、その異常を検出し画像を記録することが可能になる。また、自車両が前進している時には、閾値を引き下げることがないので、加速度等のノイズに反応してゴミ画像を記録するのを避けることができる。
【0016】
更に、上記()の構成の車載器によれば、検出感度を高める条件を、自車両が後方に向かって走行し、且つ障害物を検知した場合のみに限定することができる。したがって、例えば障害物が存在しない見通しのよい場所では、自車両が後方に向かって走行する場合であっても閾値を引き下げることがなく、加速度等のノイズに反応してゴミ画像を記録するのを避けることができる。
【0018】
更に、上記()の構成の車載器によれば、検出感度を高める条件を、自車両が後方に向かって走行し、且つ自車両に接近する移動体を検知した場合のみに限定することができる。したがって、自車両と移動体との干渉や衝突の可能性がある場合以外は、自車両が後方に向かって走行する場合であっても閾値を引き下げることがなく、加速度等のノイズに反応してゴミ画像を記録するのを避けることができる。
【0019】
) 前記画像処理部は、前記車載カメラが出力する映像のフレームの中で、予め定めた1つ以上の検知枠の範囲内に限定して画像認識を行う、
上記(1)記載の車載器。
【0020】
上記()の構成の車載器によれば、画像認識を行う際に、データ処理の範囲を検知枠の範囲内に限定できるので、認識に必要な所要時間を短縮することが可能であり、障害物等を認識する際の遅延の発生を抑制できる。
【0021】
) 上記(1)又は(2)に記載の車載器と、
前記車両が後方に走行している状態で、前記車載カメラが出力する映像に基づいて当該車両に接近する移動体を検知した場合に警報を出力する警報出力部と、
を備えた運転支援装置。
【0022】
上記()の構成の運転支援装置によれば、自車両が後方に向かって走行し、且つ自車両に接近する移動体を検知した場合に警報を出力するので、運転手に対して注意喚起することが可能であり、安全運転を支援できる。すなわち、移動体との衝突の画像を記録するだけでなく、その衝突を回避するための支援を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の車載器および運転支援装置によれば、自車両がバックするときの障害物との干渉などの重要な画像の記録を可能にすると共に、利用価値の低い画像の記録を抑制することが可能になる。
【0024】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の実施の形態における運行管理システムの構成例を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施の形態におけるデジタルタコグラフの特徴的な機能に関する動作例を示すフローチャートである。
図3図3は、自車両がバック走行する状態で得られる後方映像の画像フレームとその中に割り当てられる各検知枠との関係の具体例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に関する具体的な実施の形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
<システムの構成および動作の概要>
本発明の実施の形態における運行管理システム5の構成例を図1に示す。
【0027】
図1に示した運行管理システム5は、トラック運送会社やバス会社等の事業者の設備として導入される。この運行管理システム5は、トラックやバス等の各車両の運行状況を管理するものであり、各車両に車載器として搭載された運行記録装置(以下、デジタルタコグラフという)10と、各事業者の事務所等に設置される事務所PC30とで構成されている。デジタルタコグラフ10と、事務所PC30との間は、ネットワーク70を介して通信できるように接続される。
【0028】
事務所PC30は、事務所に設置された汎用のコンピュータ装置で構成され、車両の運行状況を管理する。ネットワーク70は、デジタルタコグラフ10と広域通信を行う無線基地局8や事務所PC30が接続されるインターネット等のパケット通信網であり、デジタルタコグラフ10と事務所PC30と間で行われるデータ通信を中継する。デジタルタコグラフ10と無線基地局8との間の通信は、LTE(Long Term Evolution)/4G(4th Generation)等のモバイル通信網(携帯回線網)で行われてもよいし、無線LAN(Local Area Network)で行われてもよい。
【0029】
デジタルタコグラフ10は、車両に搭載され、出入庫時刻、走行距離、走行時間、走行速度、速度オーバー、エンジン回転数オーバー、急発進、急加速、急減速等の運行データを記録する。
【0030】
また、本実施形態のデジタルタコグラフ10は、上記の機能以外に、ドライブレコーダの機能および運転支援機能も搭載している。すなわち、デジタルタコグラフ10を搭載した車両の衝突等の異常な状況を検知した場合に、トリガ信号を出力し、このトリガに同期して画像を含むデータを一定時間だけ自動的に記録し保存することができる。また、例えば自車両がバック走行する際に、接近する移動体を検知するとその警報を出力して運転を支援することができる。
【0031】
図1に示したデジタルタコグラフ10は、ハードウェアとして、CPU(マイクロコンピュータ)11、速度I/F(インタフェース)12A、エンジン回転I/F12B、外部入力I/F13、センサ入力I/F14、GPS受信部15、カメラI/F16、不揮発メモリ26A、揮発メモリ26B、記録部17、カードI/F18、音声I/F19、RTC(時計IC)21、SW入力部22、通信部24、表示部27、およびアナログ入力I/F29を内蔵している。
【0032】
CPU11は、予め組み込まれたプログラムに従い、デジタルタコグラフ10の各部を統括的に制御する。不揮発メモリ26Aは、CPU11によって実行される動作プログラムや、CPU11が参照する定数データやテーブルなどを予め保持している。不揮発メモリ26Aは、データの書き換えが可能なメモリであり、保持しているデータは必要に応じて更新できる。
【0033】
記録部17は、運行データや映像等のデータを記録する。カードI/F18には、乗務員が所持するメモリカード65が挿抜自在に接続される。CPU11は、カードI/F18に接続されたメモリカード65に対し運行データ、映像等のデータを書き込む。音声I/F19には、内蔵のスピーカ20が接続される。スピーカ20は、警報等の音声を発する。
【0034】
RTC21(計時部)は、現在時刻を計時する。SW入力部22には、出庫ボタン、入庫ボタン等の各種ボタンのON/OFF信号が入力される。表示部27は、LCD(liquid crystal display)で構成され、通信や動作の状態の他、警報等を表示する。
【0035】
速度I/F12Aには、車両の速度を検出する車速センサ51が接続され、車速センサ51からの速度パルスが入力される。車速センサ51は、デジタルタコグラフ10にオプションとして設けられてもよいし、デジタルタコグラフ10とは別の装置として設けられてもよい。エンジン回転I/F12Bには、エンジン回転数センサ(図示せず)からの回転パルスが入力される。
【0036】
外部入力I/F13の入力には、車両のブレーキのオンオフを表すブレーキ信号や、自動変速機の変速状態(前進/後退の区別を含む)を表す変速信号が、外部機器(図示せず)から印加される。
【0037】
センサ入力I/F14には、加速度(G値)を検知する(衝撃を感知する)加速度センサ(Gセンサ)28が接続され、Gセンサ28からの信号が入力される。Gセンサとしては、加速度による機械的な変位を、振動として読み取る方式や光学的に読み取る方式を有するものが挙げられるが、特に限定されない。また、Gセンサは、車両前方からの衝撃を感知する(減速Gを検知する)他、左右方向からの衝撃を感知しても(横Gを検知しても)よいし、車両後方からの衝撃を感知しても(加速Gを検知しても)よい。Gセンサは、これらの加速度を検知可能なように、1つもしくは複数のセンサで構成される。
【0038】
アナログ入力I/F29には、エンジン温度(冷却水温)を検知する温度センサ(図示せず)、燃料量を検知する燃料量センサ(図示せず)等の信号が入力される。CPU11は、これらのI/Fを介して入力される情報を基に、各種の運転状態を検出する。
【0039】
GPS受信部15は、GPSアンテナ15aに接続され、GPS(Global Positioning System)衛星から送信される信号の電波を受信し、現在位置(GPS位置情報)の情報を計算して取得する。
【0040】
カメラI/F16の入力には、複数の車載カメラ23、23Bが接続されている。本実施形態では、一方の車載カメラ23は自車両の進行方向前方の道路等の情景を撮影できる向きで固定した状態で車室内に設置されている。したがって、車載カメラ23が撮影する映像の中には、自車両の前方に存在する先行車両、走行中の走行レーン境界を表す白線、路面上の交通規制の標示(制限速度など)が現れる。また、他方の車載カメラ23は、自車両の後方の道路等の情景を撮影できる向きで固定した状態で車室内に設置されている。
【0041】
車載カメラ23、23Bは、例えば魚眼レンズを通して撮像される撮像面に例えば30万画素、100万画素、200万画素が配置されたイメージセンサを有する。イメージセンサは、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサやCCD(電荷結合素子)センサなど公知のセンサで構成されている。
【0042】
車載カメラ23、23Bがそれぞれ出力する映像の信号は、カメラI/F16の内部回路によって画素毎の階調や色を表すデジタル信号に変換され、フレーム毎の画像データとしてカメラI/F16から出力される。
【0043】
各車載カメラ23、23Bで撮影された映像(画像データ)は、記録部17の動作により時系列データとして記録されるが、所定時間分だけ記録されるように繰り返し上書きされる。この所定時間は、例えば事故発生時、事故の状況が分かるように、事故発生前後の数秒間(例えば、2秒、4秒、10秒等)に相当する時間である。カメラ23、23Bで撮像される画像は、静止画データの集合として記録してもよいし、動画のデータとして記録してもよい。事故発生前後の映像は、メモリカード65に保存され、更に事務所PC30の表示部33に表示される。
【0044】
また、本実施形態のデジタルタコグラフ10は、例えば以下に示す(1)~(4)のような運転支援機能を搭載している。
(1)自車両と先行車両との車間距離が近すぎる場合に警報を出力する機能。
(2)自車両が走行中の走行レーンの範囲を逸脱した場合に警報を出力する機能。
(3)自車両の走行速度が路面標示の制限速度を超えた場合に速度超過の警報を出力する機能。
(4)自車両の後退時などの状況において周囲の障害物等の存在を運転者に知らせる機能。
【0045】
上記(1)~(4)の各機能を実現するためには、各車載カメラ23、23Bで撮影された映像の画像データを処理して、所定の画像認識を行う必要がある。すなわち、画像認識により先行車両の位置及び距離を特定したり、走行レーン境界の白線と自車両との相対位置を検出したり、路面標示の制限速度を検出したり、様々な障害物を検出することが必要になる。画像認識は、一例として、前回撮影された映像と今回撮影された映像から、形状特徴の移動量と移動方向を抽出することにより行われる。
【0046】
上記のような画像認識は、CPU11が組み込まれたプログラムに従って所定の認識アルゴリズムを実行することにより実現できる。しかし、処理対象の画像のデータ量が多い場合には、画像認識に要するCPU11の負荷が非常に大きくなるので、リアルタイムでの処理が困難になり、検出の遅延が発生する可能性がある。特に、複数の車載カメラ23、23Bの映像を同時に処理したり、複数の認識対象を同時に検出するような場合には、遅延の発生が懸念される。そこで、本実施形態においては、画像認識を実行する際に、後述するように検知枠を設けて処理対象のデータ範囲を限定する。
【0047】
通信部24は、広域通信を行い、携帯回線網(モバイル通信網)を介して無線基地局8に接続されると、無線基地局8と繋がるインターネット等のネットワーク70を介して、事務所PC30と通信を行う。電源部25は、イグニッションスイッチのオン等によりデジタルタコグラフ10の各部に電力を供給する。
【0048】
一方、事務所PC30は、汎用のオペレーティングシステムで動作するPC(パーソナルコンピュータ)により構成されている。事務所PC30は、運行管理装置として機能し、CPU31、通信部32、表示部33、記憶部34、カードI/F35、操作部36、出力部37、音声I/F38及び外部I/F48を有する。
【0049】
CPU31は、事務所PC30の各部を統括的に制御する。通信部32は、ネットワーク70を介してデジタルタコグラフ10と通信可能である。また、通信部32は、ネットワーク70に接続された各種のデータベース(図示せず)とも接続可能であり、必要なデータを取得可能である。
【0050】
表示部33は、運行管理画面の他、事故映像やハザードマップ等を表示する。記憶部34は、デジタルタコグラフ10から受信した映像を表示したり車両の位置情報を地図上に表示するためのシステム解析ソフトウェア等、各種プログラムを保持している。
【0051】
カードI/F35には、メモリカード65が挿抜自在に装着される。カードI/F35は、デジタルタコグラフ10によって計測され、メモリカード65に記憶された運行データを入力する。操作部36は、キーボードやマウス等を有し、事務所の管理者の操作を受け付ける。出力部37は、各種データを出力する。音声I/F38には、マイク41及びスピーカ42が接続される。事務所の管理者は、マイク41及びスピーカ42を用いて音声通話を行うことも可能であり、車両の事故が発生した場合、救急や警察等への連絡を行う。
【0052】
外部I/F48には、外部記憶装置(ストレージメモリ)54が接続される。外部記憶装置54は、事故地点データベース(DB)55、運行データDB56、ハザードマップDB57を保持する。事故地点データベース(DB)55には、デジタルタコグラフ10から送信される、事故発生時の車両のGPS位置情報(緯度,経度)が登録される。運行データDB56には、運行データとして、出入庫時刻、速度、走行距離等の他、急加減速、急ハンドル、速度オーバー、エンジン回転数オーバー等が記録される。ハザードマップDB57には、過去に事故が発生した地点(事故地点)を表すマークが地図に重畳して記述された地図データが登録される。なお、このハザードマップには、天災等の災害が想定される地域や避難場所等が記述されてもよい。
【0053】
CPU31は、ハザードマップDB57から指定された地域(例えば、事故地点を含む地域)のハザードマップを読み出して表示部33に表示する際、事故地点DB55に登録された事故地点のデータを取得し、ハザードマップ上にこれらの事故地点を表すマークを重畳し、新たなハザードマップを生成する。事務所の管理者は、最新の事故地点を地図(ハザードマップ)上で即座に視認できる。
【0054】
<特徴的な機能の説明>
本発明の実施の形態におけるデジタルタコグラフ10の特徴的な機能の動作例を図2に示す。すなわち、図2に示した動作をデジタルタコグラフ10のCPU11が実行することにより、ドライブレコーダ機能が画像等のデータを保存するためのトリガを適切な状況で出力することができる。また、自車両がバック走行する場合に、接近する移動体を検知すると、その警報を出力して運転を支援することができる。図2の動作について以下に説明する。
【0055】
ステップS11では、CPU11は、トリガを発生すべき衝突等の異常な状況か否かを識別するための加速度(G値)の閾値Tg(変数)に、予め定めた定数TgHを割り当てる。つまり、閾値Tgを初期化する。定数TgHは、自車両の通常の走行状態(前進状態)における衝突の発生や、急ブレーキ操作に起因する大きな加速度の発生を判定するのに適した値である。
【0056】
ステップS12では、CPU11は、自車両がバックで走行しているか否かを識別する。具体的には、自動変速機の変速状態を表す情報を取得して前進/後退の違いを区別すると共に、車速センサ51からの速度パルスの信号を監視することにより、自車両が走行状態か否かを区別する。自車両がバックで走行している場合はS13に進み、それ以外の場合はS19に進む。
【0057】
ステップS13では、CPU11は、画像フレーム中に割り当てる検知枠の数、位置、大きさなどをバック走行時に適した状態に定める。この検知枠(複数)は、車載カメラ23、23Bの各映像について画像データの画像認識を実行する際の処理対象の範囲を表し、処理の負荷を削減するために役立つ。
【0058】
ステップS14では、CPU11は、各車載カメラ23、23Bの撮影した映像に相当する各フレームの画像データに対して所定の画像認識処理を実行する。但し、処理対象の画像データは、S13で決定した各検知枠の範囲内のみに限定する。この画像認識処理により、例えば後方の映像に映る路面上の白線、道路の境界、移動体などの障害物等を認識することができる。
【0059】
ステップS14の結果として後方の画像内で移動体を検知した場合には、CPU11の処理はS15からS16に進み、移動体を検知してなければS21に進む。また、S14で移動体を検知した場合には、その状態をCPU11が更に監視して、当該移動体が自車両に接近しているか否かをS16で識別する。例えば、移動体の画像内でのサイズが大きくなる方向に変化している場合や、移動体の横方向の位置が自車両の側方から自車両の後方に向かって移動しているような場合には、これを自車両に接近する移動体とみなす。接近する移動体を検知した場合はCPU11の処理はS17に進み、接近する移動体でなければS21に進む。
【0060】
ステップS17では、CPU11は安全運転を支援するための警報を出力する。すなわち、接近する移動体に対して自車両が接触したり衝突するのを防止するために、警報音を出力したり、例えば「後方に注意して下さい」のような音声出力を行う。これにより、運転者に対して注意を喚起し、安全運転を支援することができる。
【0061】
次のステップS18では、CPU11は、加速度の閾値Tg(変数)に、予め定めた定数TgLを割り当てる。つまり、閾値Tgの値を通常の定数TgHから、バック走行時の定数TgLに切り替える。定数TgLは、バック時の非常にゆっくりとした走行速度の環境下においても、僅かな衝突や急ブレーキ操作に起因して検出される加速度を、異常として判定できる程度の小さい値であり、定数TgHの値よりも十分に小さい値である。
【0062】
ステップS19では、CPU11は、画像フレーム中に割り当てる検知枠の数、位置、大きさなどをバック以外の走行時に適した状態に定める。つまり、S19ではS13とは異なる状態で検知枠が割り当てられる。これにより、画像認識の範囲および処理の負荷を走行状態に応じて最適化することが可能である。
【0063】
ステップS20では、CPU11は、各車載カメラ23、23Bの撮影した映像に相当する各フレームの画像データに対して所定の画像認識処理を実行する。但し、処理対象の画像データは、S19で決定した各検知枠の範囲内のみに限定する。この画像認識処理により、例えば前方の映像に映る路面上の白線、先行車両、路面上の制限速度標示などを認識することができる。
【0064】
したがって、図2には示してないがS20の認識結果を利用することにより、例えば次に示す(1)~(3)の警報を出力し、安全運転を支援することが可能である。
(1)自車両と先行車両との車間距離が近すぎる場合の警報。
(2)自車両が走行中の走行レーンの範囲を逸脱した場合の警報。
(3)自車両の走行速度が路面標示の制限速度を超えた場合の警報。
【0065】
ステップS21では、CPU11は、Gセンサ28の出力信号をセンサ入力I/F14を経由して取り込み、最新の加速度検出値Vgを取得する。
【0066】
ステップS22では、CPU11は、S21で取得した加速度検出値Vgを、閾値Tgと比較する。そして「Vg>Tg」の条件を満たす場合、つまり衝突や急ブレーキ操作に起因する異常な加速度を検知した場合は次のS23に進み、前記条件を満たさない場合はS11に戻る。
【0067】
ステップS23では、CPU11は、画像保存用のトリガ信号を出力する。デジタルタコグラフ10のドライブレコーダ機能は、S23で出力されるトリガ信号に同期して、そのタイミングの前後所定時間以内に撮影された車載カメラ23、23Bの画像データをメモリカード65に保存する。
【0068】
なお、図2に示した動作においては、2種類の定数TgH、TgLのいずれかを選択して閾値Tgを決定しているが、3種類以上の定数の中から選択するように変更してもよい。また、例えば計算を行い何らかのパラメータに応じて閾値Tgが連続的に変化するように調整してもよい。
【0069】
<検知枠の具体例>
自車両がバック走行する状態で得られる後方映像の画像フレーム100Aとその中に割り当てられる各検知枠との関係の具体例を図3に示す。
【0070】
図3に示した画像フレーム100Aにおいては、このフレーム内の互いに異なる位置に、7つの互いに独立した矩形の検知枠F11、F12、F13、F14、F15、F16、F17が割り当ててある。
【0071】
すなわち、自車両が後退する場合には、図3に示した各検知枠F11~F17のように、後方の映像における様々な箇所、つまり自車両後方周辺と進行方向先にそれぞれ注目することにより、画像フレームの全体を監視しなくても、後退時における安全を十分に確保できる。
【0072】
なお、車載カメラ23が撮影した前方の映像を処理する場合には、図3に示した後方の映像とは異なる状態で検知枠の数、位置、大きさなどが割り当てられる。また、後方の映像の画像フレームに対して割り当てる検知枠の組合せについては、自車両の状態が「前進」、「停車」、「後退」のいずれであるかに応じて、自動的に切り替わる。
【0073】
CPU11が図2のS14又はS20で前方および後方の映像を画像認識する際には、図3に示した画像フレーム100A等において、矩形の検知枠の内側の領域だけが処理対象になる。したがって、画像フレーム100Aの全体の領域を処理対象とする場合と比べて、CPU11の負荷が大幅に低減され、処理の所要時間が短縮される。
【0074】
<デジタルタコグラフ10の利点>
図1に示したデジタルタコグラフ10は、図2に示した動作を実行することにより、画像記録用のトリガを発生するための閾値Tgを自動的に適切な値に変更することができる。すなわち、自車両がバック走行する場合に、後方の映像の中で接近する移動体が検知されると閾値Tgが定数TgHからTgLに切り替わるので、加速度Vgに対する感度が高くなる。
【0075】
したがって、非常にゆっくりとした速度でバック走行している場合であっても、僅かな衝突や急ブレーキ操作に起因する加速度に反応して、S23でトリガが発生する。つまり、一般的なドライブレコーダでは記録されないような走行状態であっても、運転者がヒヤリ、ハットと感じる危険な状況において、重要な画像を確実に保存することが可能になる。また、運転支援機能としてS17で警報が出力されるので、トリガが発生する前に衝突や急ブレーキ操作を回避することも可能になる。
【0076】
また、閾値Tgが定数TgLに切り替わった後であっても、バック走行が終了するか又は接近する移動体が非検知の状態になると、S11で閾値Tgが定数TgHに自動的に戻るので、加速度Vgに対する感度が低い状態になる。したがって、自車両が通常の速度で前進している時に、路面の凹凸や車体の振動に起因する加速度のノイズに反応してトリガが発生することがなくなり、ドライブレコーダ機能がゴミ画像を保存するのを避けることができる。
【0077】
なお、上述のデジタルタコグラフ10においてはGセンサ28の出力する加速度信号に基づいて画像記録用のトリガを生成する場合を想定しているが、Gセンサ28以外のセンサを利用してトリガを生成してもよい。
【0078】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る車載器および運転支援装置の特徴をそれぞれ以下[1]~[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 車両に搭載された1つ以上の車載カメラ(23、23B)が出力する映像の信号を入力して処理する画像処理部(CPU11、S14、S20)と、
前記車両における物理的な異常の有無を識別する異常検知部(CPU11、S21~S23)と、
前記異常検知部が異常を検知したことをトリガとして、少なくとも所定時間だけ前記車載カメラの画像データを記録媒体に記録する画像記録部(記録部17)と、
前記異常検知部が異常の有無を識別するための閾値(Tg)を変更する閾値変更部(CPU11、S11~S18)と、
を備え、
前記閾値変更部は、前記車両が後方に走行しているときには、前進時よりも前記閾値を引き下げる、
ことを特徴とする車載器(デジタルタコグラフ10)。
【0079】
[2] 前記閾値変更部は、前記車両が後方に走行している状態で、且つ前記車両の後方の映像に基づいて障害物を検知した場合に、前記閾値を前進時よりも引き下げる(S18)、
ことを特徴とする上記[1]に記載の車載器。
【0080】
[3] 前記閾値変更部は、前記車両が後方に走行している状態で、且つ前記車両の後方の映像に基づいて当該車両に接近する移動体を検知した場合に、前記閾値を前進時よりも引き下げる(S18)、
ことを特徴とする上記[2]に記載の車載器。
【0081】
[4] 前記画像処理部は、前記車載カメラが出力する映像のフレーム(画像フレーム100A)の中で、予め定めた1つ以上の検知枠(F11~F17)の範囲内に限定して画像認識を行う(S14、S20)、
ことを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の車載器。
【0082】
[5] 上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の車載器と、
前記車両が後方に走行している状態で、前記車載カメラが出力する映像に基づいて当該車両に接近する移動体を検知した場合に警報を出力する警報出力部(CPU11、S17)と、
を備えたことを特徴とする運転支援装置(デジタルタコグラフ10)。
【符号の説明】
【0083】
5 運行管理システム
8 無線基地局
10 デジタルタコグラフ
11、31 CPU
12A 速度I/F
12B エンジン回転I/F
13 外部入力I/F
14 センサ入力I/F
15 GPS受信部
15a GPSアンテナ
16 カメラI/F
17 記録部
18 カードI/F
19 音声I/F
20、42 スピーカ
21 RTC
22 SW入力部
23 車載カメラ
24、32 通信部
25 電源部
26A 不揮発メモリ
26B 揮発メモリ
27 表示部
28 Gセンサ
29 アナログ入力I/F
30 事務所PC
33 表示部
34 記憶部
35 カードI/F
36 操作部
37 出力部
38 音声I/F
41 マイク
48 外部I/F
51 車速センサ
54 外部記憶装置
55 事故地点DB
56 運行データDB
57 ハザードマップDB
65 メモリカード
70 ネットワーク
100A 画像フレーム
F11,F12,F13,F14,F15,F16,F17 検知枠
図1
図2
図3