(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】開放循環冷却水系の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/50 20060101AFI20220412BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220412BHJP
A01N 41/06 20060101ALI20220412BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20220412BHJP
A01N 43/80 20060101ALI20220412BHJP
A01N 35/02 20060101ALI20220412BHJP
A01N 43/40 20060101ALI20220412BHJP
A01N 33/12 20060101ALI20220412BHJP
A01N 33/20 20060101ALI20220412BHJP
A01N 59/00 20060101ALI20220412BHJP
A01P 13/00 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C02F1/50 532D
A01P3/00
A01N41/06 B
A01N25/02
A01N43/80 102
A01N35/02
A01N43/40 101K
A01N33/12 101
A01N33/20 101
A01N59/00 C
A01P13/00
C02F1/50 510C
C02F1/50 510D
C02F1/50 520K
C02F1/50 531L
C02F1/50 531P
C02F1/50 532C
C02F1/50 532E
C02F1/50 532H
C02F1/50 532J
C02F1/50 532Z
C02F1/50 540B
C02F1/50 550L
C02F1/50 560Z
(21)【出願番号】P 2017197859
(22)【出願日】2017-10-11
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】特許業務法人 日峯国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093816
【氏名又は名称】中川 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅代
(72)【発明者】
【氏名】神澤 啓
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-036108(JP,A)
【文献】特開2013-158669(JP,A)
【文献】特開2013-158670(JP,A)
【文献】特開2013-202484(JP,A)
【文献】特開2015-186774(JP,A)
【文献】特開2006-22097(JP,A)
【文献】特開2013-198869(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0132405(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
A01N 1/00 - 65/48
A01P 1/00 - 23/00
C01B 7/00 - 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放循環冷却水系の冷却水に対して、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、
臭化ナトリウム、および、臭化カリウムから選択される少なくとも1種の臭素化合物
と、を含有する薬液
を添加することにより前記冷却水中の結合残留塩素濃度を所定の範囲に維持する塩素濃度維持処理を24時間に1時間以上行い、かつ、
前記冷却水に対して有機系殺菌剤
を添加する殺菌剤添加処理を30日間に1回以上行う
開放循環冷却水系の処理方法であって、
前記酸化性物質の前記薬液中での含有量が0.5質量%以上、20質量%以下であり、
前記臭素化合物の前記薬液中での濃度が、前記酸化性物質の前記薬液中での濃度を1としたときに、質量比で0.1以上10以下であり、かつ、
前記有機系殺菌剤が、
イソチアゾリン系化合物として5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンとを含む殺菌剤、
グルタルアルデヒドを含む殺菌剤、
1,4-ビス[3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイドを含む殺菌剤、
ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]を含む殺菌剤、
ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの反応によって得られる水溶性陽イオン重合体を含む殺菌剤、および、
2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールを含む殺菌剤
から選択される少なくとも1種の有機系殺菌剤であることを特徴とする開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項2】
前記
塩素濃度維持処理が、前記冷却水中の酸化力を、結合残留塩素濃度として0.1mg/L以上100mg/L以下の範囲に維持する処理であることを特徴とする請求項1に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項3】
前記
塩素濃度維持処理を常時行うことを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項4】
前記
殺菌剤添加処理を、2日間ないし30日間に1回行うことを特徴とする請求項1ないし
請求項3のいずれか1項に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項5】
前記
殺菌剤添加処理が、
前記イソチアゾリン系化合物
を含む殺菌剤を、当該イソチアゾリン系化合物の濃度
が0.1mg/L以上100mg/L以下となるように
、前記冷却水に添加する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし
請求項4のいずれか1項に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項6】
前記
殺菌剤添加処理が、
前記グルタルアルデヒド
を含む殺菌剤を、当該グルタルアルデヒドの濃度
が1mg/L以上1000mg/L以下となるように
、前記冷却水に添加する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし
請求項5のいずれか1項に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項7】
前記
殺菌剤添加処理が、
前記1,4-ビス[3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイドを含む殺菌剤を、当該1,4-ビス[3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイドの濃度
が0.1mg/L以上500mg/L以下となるように
、前記冷却水に添加する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし
請求項6のいずれか1項に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項8】
前記
殺菌剤添加処理が、
前記ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]を
含む殺菌剤を、有効成分
である前記ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]の濃度
が0.1mg/L以上500mg/L以下となるように
、前記冷却水に添加する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし
請求項7のいずれか1項に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項9】
前記
殺菌剤添加処理が、
前記ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの反応によって得られる水溶性陽イオン重合体
を含む殺菌剤を、
当該水溶性陽イオン重合体の濃度
が0.1mg/L以上500mg/L以下となるように
、前記冷却水に添加する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし
請求項8のいずれか1項に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項10】
前記
殺菌剤添加処理が、
前記2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール
を含む殺菌剤を、当該2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールの濃度
が0.1mg/L以上1000mg/L以下となるように
、前記冷却水に添加する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし
請求項9のいずれか1項に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルムの発生を防止するとともに、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができ、しかも薬剤耐性を持った藻類、特に粒状緑藻の繁殖を長期間に亘り抑制する開放循環冷却水系の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系などの循環水系において、バイオフィルムは機器や水系周辺の汚染原因となるとともに、冷却水系においては熱交換効率低下の原因になり、その抑制のために様々な技術的提案が行われている。
【0003】
このような技術のうち、本出願人も特許文献1において水系水におけるスライム抑制方法を提案している。この方法はハロゲン系酸化物を含む薬剤を添加する技術であり、水系の金属材質に対する腐食を防止しながら極めて効果的にバイオフィルムの抑制が可能となる。このように、ハロゲン系酸化物は細菌類の殺菌、バイオフィルの成長抑制には極めて有効である。
【0004】
ここで、開放循環冷却水系では、バイオフィルムの抑制の他に、レジオネラ属菌に対する殺菌効果が求められる。
【0005】
上記のようなハロゲン系酸化物は、実験室での試験ではレジオネラ属菌に対して優れた殺菌作用を示すが、実際の開放循環冷却水系をハロゲン系酸化物で処理してみると、レジオネラ属菌に対して十分な殺菌、抑制効果が得られない場合が多い。驚くべきことに、遊離残留塩素濃度として2mg/Lを維持してもレジオネラ属菌を殺菌できない水系も存在する。
【0006】
一方、有機系の各種の殺菌剤は、レジオネラ属菌の殺菌処理に古くから使われており、高濃度で添加したり、連続的に水系に添加したりすることにより、レジオネラ属菌を効果的に殺菌、抑制することができるとされている。しかし、このような有機系の殺菌剤は、バイオフィルムに対する殺菌、剥離効果が弱いので、間欠的な処理で一時的に水中に浮遊しているレジオネラ属菌が不検出になった場合でも、水系内にバイオフィルムが残存し、これがレジオネラ属菌繁殖の温床となって、比較的短期間でレジオネラ属菌が水中に検出されるようになる。
【0007】
また、ハロゲン系酸化物と比較して有機系の殺菌剤は耐性菌が繁殖しやすく、さらに、有機系の殺菌剤に対して耐性を持った藻類、特に粒状緑藻が繁殖しやすいという欠点がある。
【0008】
このため、本出願人は特許文献2~5で提案した、開放循環冷却水系の冷却水に対して、ハロゲン系酸化物による処理を24時間に1時間以上行い、かつ、有機系殺菌剤による処理を30日間に1回以上行う開放循環冷却水系の処理方法によりこれら問題の解決を図った。
【0009】
なお、粒状緑藻とは、クロレラやスフェロキスチスのような球形の細胞を有する緑藻類を云う。このような球状形態の緑藻類は強い薬剤耐性を有する傾向にあり、上記のような従来の処理方法で処理を行っている水系でしばしば繁殖して問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-160505号公報
【文献】特開2012-36108号公報
【文献】特開2013-158669号公報
【文献】特開2013-158670号公報
【文献】特開2013-202484号公報
【文献】特表2003-503323公報
【文献】特表平11-506139号公報
【文献】特開平2-138103号公報
【文献】特開平5-331002号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】中原俊隆編、「レジオネラ症防止指針」、第4版(編集・発行者:中原俊隆、発行所:、公益財団法人日本建築衛生管理教育センター、平成29年7月発行)、p.32~38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題を解決する、すなわち、バイオフィルムの発生を防止するとともに、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができ、しかも薬剤耐性を持った藻類、特に粒状緑藻の繁殖を長期間に亘り抑制する開放循環冷却水系の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記課題を解決するために、開放循環冷却水系の冷却水に対して、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭化ナトリウム、および、臭化カリウムから選択される少なくとも1種の臭素化合物と、を含有する薬液を添加することにより前記冷却水中の結合残留塩素濃度を所定の範囲に維持する塩素濃度維持処理を24時間に1時間以上行い、かつ、前記冷却水に対して有機系殺菌剤を添加する殺菌剤添加処理を30日間に1回以上行う開放循環冷却水系の処理方法であって、
前記酸化性物質の前記薬液中での含有量が0.5質量%以上、20質量%以下であり、
前記臭素化合物の前記薬液中での濃度が、前記酸化性物質の前記薬液中での濃度を1としたときに、質量比で0.1以上10以下であり、かつ、
前記有機系殺菌剤が、
イソチアゾリン系化合物として5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンとを含む殺菌剤、
グルタルアルデヒドを含む殺菌剤、
1,4-ビス[3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイドを含む殺菌剤、
ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]を含む殺菌剤、
ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの反応によって得られる水溶性陽イオン重合体を含む殺菌剤、および、
2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールを含む殺菌剤
から選択される少なくとも1種の有機系殺菌剤であることを特徴とする
【0014】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記構成に加え、前記塩素濃度維持処理が、前記冷却水中の酸化力を、結合残留塩素濃度として0.1mg/L以上100mg/L以下の範囲に維持する処理である構成とすることができる。
【0017】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記の構成に加え、前記塩素濃度維持処理を常時行う構成とすることができる。
【0018】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記構成に加え、前記殺菌剤添加処理を、2日間ないし30日間に1回行う構成とすることができる。
【0019】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記構成に加え、前記殺菌剤添加処理が、前記イソチアゾリン系化合物を含む殺菌剤を、当該イソチアゾリン系化合物の濃度が0.1mg/L以上100mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む構成とすることができる。
【0020】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記構成に加え、前記殺菌剤添加処理が、前記グルタルアルデヒドを含む殺菌剤を、当該グルタルアルデヒドの濃度が1mg/L以上1000mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む構成とすることができる。
【0021】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記構成に加え、前記殺菌剤添加処理が、前記1,4-ビス[3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイドを含む殺菌剤を、当該1,4-ビス[3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイドの濃度が0.1mg/L以上500mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む構成とすることができる。
【0023】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記構成に加え、前記殺菌剤添加処理が、前記ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]を含む殺菌剤を、有効成分である前記ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]の濃度が0.1mg/L以上500mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む構成とすることができる。
【0024】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記構成に加え、前記殺菌剤添加処理が、前記ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの反応によって得られる水溶性陽イオン重合体を含む殺菌剤を、当該水溶性陽イオン重合体の濃度が0.1mg/L以上500mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む構成とすることができる。
【0025】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記構成に加え、前記殺菌剤添加処理が、前記2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールを含む殺菌剤を、当該2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールの濃度が0.1mg/L以上1000mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む構成とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法によれば、開放循環冷却水系の冷却水に対して、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭化ナトリウム、および、臭化カリウムから選択される少なくとも1種の臭素化合物と、を含有する薬液を添加することにより前記冷却水中の結合残留塩素濃度を所定の範囲に維持する塩素濃度維持処理を24時間に1時間以上行い、かつ、前記冷却水に対して有機系殺菌剤を添加する殺菌剤添加処理を30日間に1回以上行う開放循環冷却水系の処理方法であって、
前記酸化性物質の前記薬液中での含有量が0.5質量%以上、20質量%以下であり、
前記臭素化合物の前記薬液中での濃度が、前記酸化性物質の前記薬液中での濃度を1としたときに、質量比で0.1以上10以下であり、かつ、
前記有機系殺菌剤が、
イソチアゾリン系化合物として5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンとを含む殺菌剤、
グルタルアルデヒドを含む殺菌剤、
1,4-ビス[3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイドを含む殺菌剤、
ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]を含む殺菌剤、
ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの反応によって得られる水溶性陽イオン重合体を含む殺菌剤、および、
2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールを含む殺菌剤から選択される少なくとも1種の有機系殺菌剤である構成により、バイオフィルムの発生を防止するとともに、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができ、しかも薬剤耐性を持った藻類、特に粒状緑藻の繁殖を長期間に亘り抑制することが可能となる。加えて、レジオネラ属菌繁殖の温床として知られるアメーバ類の生育を効果的に抑制することが可能となる。
さらに、上記構成のうち、前記臭素化合物の前記薬液中での濃度が、前記酸化性物質の前記薬液中での濃度を1としたときに、質量比で0.1以上10以下である構成により、上記効果を確実に得ながら、薬液が安定し、長期間保管しても析出物等の発生を防ぐことが可能となる。
加えて、上記構成のうち、臭素化合物が臭化ナトリウム、および、臭化カリウムから選択される少なくとも1種である構成により、薬液の保存安定性をさらに向上させることが可能となる。
【0027】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法では、上記構成に加え、前記塩素濃度維持処理が、冷却水中の酸化力を、結合残留塩素濃度として0.1mg/L以上100mg/L以下の範囲に維持する処理である構成により、上記効果を確実に得ながら、水系の機器の腐食を効果的に防止することができる。
【0030】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法では、上記の構成に加え、塩素濃度維持を常時行うことにより、より効果的に粒状緑藻の繁殖を抑制することが可能となる。
【0031】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法では、上記構成に加え、殺菌剤添加処理を、2日間ないし30日間に1回行う構成とすることにより、本発明の効果をより高いものとすることができる。
【0032】
また、本発明の開放循環冷却水系の処理方法では、上記構成に加え、殺菌剤添加処理として以下の(a)~(f)の処理のうち少なくとも1つを行うことにより、上記本発明の効果をさらに高めることができる。
【0033】
(a)前記イソチアゾリン系化合物を含む殺菌剤を、当該イソチアゾリン系化合物の濃度が0.1mg/L以上100mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む処理。
【0034】
(b)前記グルタルアルデヒドを含む殺菌剤を、当該グルタルアルデヒドの濃度が1mg/L以上1000mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む処理。
【0035】
(c)前記1,4-ビス[3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイドを含む殺菌剤を、当該1,4-ビス[3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイドの濃度が0.1mg/L以上500mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む処理。
【0037】
(d)前記ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]を含む殺菌剤を、有効成分である前記ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]の濃度が0.1mg/L以上500mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む処理。
【0038】
(e)前記ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの反応によって得られる水溶性陽イオン重合体を含む殺菌剤を、当該水溶性陽イオン重合体の濃度が0.1mg/L以上500mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む処理。
【0039】
(f)前記2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールを含む殺菌剤を、当該2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールの濃度が0.1mg/L以上1000mg/L以下となるように、前記冷却水に添加する工程を含む処理。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に本発明の開放循環冷却水系の処理方法について説明する。
<酸化性物質>
本発明では酸化性物質としてクロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種を用いる。ここでクロラミンTは、IUPAC名がNークロロー4ーメチルベンゼンスルホンアミドであり、クロラミンBは、IUPAC名がNークロロベンゼンスルホンアミドのことである。これらは通常、ナトリウム塩の水和物として市販されているが、水に溶けて酸化力を示し、藻類抑制効果が得られるものであれば、塩の種類を問わず本発明に含まれる。このような塩として、ナトリウム塩の他に、リチウム塩、カリウム塩等が挙げられる。クロラミンT、および、クロラミンBは、水中で結合残留塩素として酸化力を示す。市販のクロラミンT、および、クロラミンBを水系に添加した場合、いずれも固形分としての水系への添加濃度に対して約4分の1の濃度の結合塩素が水中に検出されるようになる。すなわち、酸化力の消費、分解を無視した場合、クロラミンTやクロラミンBの4mg/L(リットル)水溶液の示す結合残留塩素濃度は1mg/Lである。
【0041】
本発明において、酸化性物質としてクロラミンTやクロラミンBを用いることで、次亜塩素酸ナトリウム等と比較して薬液の貯蔵安定性が格段に向上する。好ましい酸化性物質は、入手しやすさの点でクロラミンTである。
【0042】
<臭素化合物>
本発明で用いる臭素化合物としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、および、臭化アンモニウム等が挙げられる。これらのうち、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウムを用いることが貯蔵安定性の点で好ましく、臭化カリウムを用いると特に貯蔵安定性に優れた製剤が可能となる。
【0043】
<薬液>
本発明で用いるクロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種とを含有する薬液において、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質の含有量は、通常は概略0.5質量%以上、20質量%以下程度であるが、1質量%以上15質量%以下とするのが、薬液が安定で、長期間放置しても析出物等が発生しない点で好ましい。
【0044】
また、上記薬液において、臭素化合物の濃度をクロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質の薬液中での濃度を1としたときに、質量比で0.1以上10以下とすると、本発明の効果を確実なものとしながら、薬液が安定し、長期間保管しても析出物等が発生しない点で好ましい。好ましい範囲は0.2以上5以下の範囲である。
【0045】
また、上記薬液は、製造の容易性や酸化性物質の安定性を確保するためにpHを9.5以上とするのが好ましい。より好ましいpHは10以上であり、さらに好ましい範囲は11.5以上、13.5未満である。組成物のpH調整に用いるpH調整剤としては、一般的なアルカリ剤が使用でき、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が好適に使用される。
【0046】
<薬液による処理>
本発明のでは、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種とを含有する薬液による処理、すなわち、この薬液の開放循環冷却水系の冷却水への添加を、24時間に1時間以上行う。
【0047】
なお、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種と、を含有する薬液による処理ではなく、酸化性物質と臭化化合物とを別々に冷却水に添加した場合、本発明の効果を十分に得ることができない。
【0048】
開放循環冷却水系の冷却水に対する、上記薬液による処理は、レジオネラ属菌繁殖の温床となる水系内のバイオフィルムを効果的に抑制し、薬剤耐性を持った藻類、特に粒状緑藻の繁殖を有効に抑えるためには、24時間に少なくとも1時間以上行う必要があり、24時間に1時間未満の処理であると、本発明の効果を十分に得られないおそれが生じる。なお、この処理は常時行うことがより好ましい。
【0049】
上記の処理を24時間に1時間、あるいはそれよりも長く、間欠的に処理を行う場合には冷却水中の酸化力を結合残留塩素濃度として0.1mg/L以上100mg/L以下の範囲に維持するように、また、常時、連続的に処理を行う場合には冷却水中の酸化力を結合残留塩素濃度として0.1mg/L以上10mg/L以下の範囲に維持するように、添加量を調整することが好ましい。より好ましい維持濃度は、結合残留塩素濃度として、間欠処理の場合は0.5mg/L以上10mg/L以下の範囲、連続処理の場合は0.1mg/L以上2mg/L以下の範囲である。なお、結合残留塩素の測定は、JIS K0101 28、1998に準拠した方法で実施する。また、JIS K0101 28 1998に記載の方法と同様の測定結果が得られる方法であれば、結合残留塩素濃度測定電極や、その他の測定機器を用いて測定しても構わない。
【0050】
<有機系殺菌剤による処理>
本発明の開放循環冷却水系の処理方法では、上記の酸化性有機系殺菌剤と臭化化合物とを含有する薬液による処理に加えて、冷却水に対する有機系殺菌剤による処理を30日間に1回以上行う。有機系殺菌剤による処理が30日間に1回未満であると本発明の効果が十分に得られないおそれが生じる。なお、有機系殺菌剤による処理は2日間ないし30日間に1回行うことが好ましい。
【0051】
この有機系殺菌剤による処理で用いる有機系殺菌剤としては、レジオネラ属菌に対する殺菌効果に優れた薬剤を使用することが好ましい。特に、次に示す(a)~(f)の有機系殺菌剤の少なくとも1種を、それぞれ示した添加濃度で添加すると、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種と、を含有する薬液による処理と併用することで、少ない添加量で確実にバイオフィルムの発生を抑制し、レジオネラ属菌を殺菌、抑制し、かつ、薬剤耐性を持った藻類、特に粒状緑藻の繁殖を抑制することができる。
【0052】
(a)5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、および、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンから選択される少なくとも1種のイソチアゾリン系化合物。
【0053】
このチアゾリン系化合物を、開放循環冷却水系の保有水量に対する添加濃度が0.1mg/L以上100mg/L以下となるように冷却水に添加することが好ましい。より好ましい添加濃度範囲は1mg/L以上20mg/L以下である。
【0054】
(b)有機系殺菌剤による処理が、グルタルアルデヒド、および、o-フタルアルデヒドから選択される少なくとも1種のアルデヒド類。
【0055】
このアルデヒド類を、開放循環冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、有効成分濃度として1mg/L以上1000mg/L以下となるように冷却水に添加することが好ましい。より好ましい添加濃度範囲は20mg/L以上500mg/L以下である。
【0056】
(c)下記一般式(1)で示される化合物。
【化3】
(ただし、上記一般式(1)において、R
1およびR
4は、炭素数1~4の直鎖若しくは分岐の同一または異なるアルキレン基であり、R
2およびR
5は、水素原子、同一または異なるハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基であり、R
3は、炭素数2~12の直鎖若しくは分岐のアルキレン基であり、R
6は、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、Z
-は、水中で解離可能な陰イオンである。)
【0057】
上記一般式(1)で示される化合物の、開放循環冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、有効成分濃度として0.1mg/L以上500mg/L以下となるように冷却水に添加することが好ましい。より好ましい添加濃度範囲は0.5mg/L以上100mg/L以下である。
【0058】
なお、上記一般式(1)で示される化合物として、1,4-ビス[3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイドを用いることで本発明の効果をさらに高いものとすることができるので好ましい。
【0059】
(d)ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]。
【0060】
ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]は、開放循環冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、有効成分濃度として0.1mg/L以上500mg/L以下となるように冷却水に添加することが好ましい。より好ましい添加濃度範囲は1mg/L以上200mg/L以下である。
【0061】
(e)ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの反応によって得られる水溶性陽イオン重合体。ここで、ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの反応によって得られる水溶性陽イオン重合体とは、具体的には下記化学式(2)で表される構成単位を有する化合物である。
【0062】
【0063】
この水溶性陽イオン重合体を、開放循環冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、有効成分濃度として0.1mg/L以上500mg/L以下となるように冷却水に添加することが好ましい。より好ましい添加濃度範囲は1mg/L以上200mg/L以下である。
【0064】
ここで、ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの反応によって得られる水溶性陽イオン重合体は、特許文献8や特許文献9で微生物の増殖阻止用組成物や藻類防除剤として提案されている物質である。
【0065】
(f)2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノールおよび2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールから選択される少なくとも1種のブロモニトロアルコール系化合物。
【0066】
このブロモニトロアルコール系化合物を、開放循環冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、有効成分濃度として0.1mg/L以上1000mg/L以下となるように冷却水に添加することが好ましい。より好ましい添加濃度範囲は0.2mg/L以上500mg/L以下である。
【0067】
<その他の併用可能成分>
本発明の開放循環冷却水系の処理方法では、本発明の効果が妨げられない範囲で、さらにその特性を改良するなどの目的で、従来から水処理用途で使用されているクロラミンT、および、クロラミンB以外の酸化性物質、公知の有機系殺菌剤、防食剤、スケール防止剤を適宜併用することができ、その場合も本発明に含まれる。
【0068】
《酸化性物質》
クロラミンT、および、クロラミンB以外の酸化性物質としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜臭素酸ナトリウム等の次亜ハロゲン酸塩、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、トリクロロイソシアヌル酸等のハロゲン化イソシアヌル酸、1-ブロモ-3-クロロ-5,5-ジメチルヒダントイン、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン、1,3-ジクロロ-5,5-ジメチルヒダントイン、1,3-ジクロロ-5,5-エチルメチルヒダントイン、および、1,3-ジクロロ-5,5-ジエチルヒダントイン等のハロゲン化ヒダントイン、安定化次亜ハロゲン酸塩等を挙げることができる。
【0069】
安定化次亜ハロゲン酸塩としては、特許文献6や特許文献7に開示されているように、次亜塩素酸塩とスルファミン酸塩とから得られる安定化次亜塩素酸塩、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム等から1種以上選ばれる臭素イオン源、次亜塩素酸塩、および、スルファミン酸塩から得られる安定化次亜臭素酸塩を用いることができる。
【0070】
また、アンモニウムイオンが存在している水に次亜ハロゲン酸塩を添加してクロラミン類を生成したり、スルファミン酸またはその塩が存在している水に次亜ハロゲン酸塩を添加したりして、安定化次亜ハロゲン酸塩を生成してもよい。
【0071】
《有機系殺菌剤》
有機系殺菌剤として用いることができる薬剤は上記した(a)~(f)の有機系殺菌剤に特に限定されず、たとえば、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、ジンクピリチオン、4,5-ジクロロ-1,2-ジチオラン-3-オン、メチレンビスチオシアネート、N-デシル-N-イソノニル-N,N-ジメチルアンモニウムクロライド、N,N'-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)、トリn-ブチル-n-ヘキサデシルホスホニウムクロライド、トリn-ブチル-n-ドデシルホスホニウムクロライド、テトラキス(ヒドロキシメチルホスホニウム)硫酸塩、N,N-ビス(3-アミノプロピル)ドデシルアミンなどが挙げられ、これらから1種以上選択して用いることができ、また上記(a)~(f)の有機系殺菌剤と併用してもよい。
【0072】
《防食剤(アゾール系化合物)》
本発明の開放循環冷却水系の処理方法で併用可能な防食剤としては、アゾール系化合物が好適である。アゾール系化合物としては、たとえば、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、テトラゾールなどの単環式アゾール系化合物、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、メルカプトメチルベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、インダゾール、プリン、イミダゾチアゾール、ピラゾロオキサゾールなどの縮合多環式アゾール系化合物などや、さらにアゾール系化合物の中で塩を形成する化合物にあってはそれらの塩などを挙げることができる。これらのアゾール系化合物は、1種のみを併用しても、2種以上を組み合わせて併用しても構わない。好ましいアゾール系化合物は、酸化性物質の分解抑制効果が高い点で、ベンゾトリアゾールあるいはトリルトリアゾールである。
【0073】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法で併用可能なアゾール系化合物以外の防食剤としては、たとえば、リン酸またはその塩、ピロリン酸、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸等の重合リン酸またはその塩、亜鉛塩、モリブデン酸またはその塩、タングステン酸またはその塩、グルコン酸、クエン酸、酒石酸、フィチン酸、號珀酸、乳酸等の有機カルボン酸またはその塩等を挙げることができる。
【0074】
《スケール防止剤》
本発明の開放循環冷却水系の処理方法で併用可能なスケール防止剤としては、たとえば、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸やこれらの水溶性塩などのホスホン酸類、アクリル酸系、マレイン酸系、メタクリル酸系、スルホン酸系、イタコン酸系、または、イソブチレン系の各重合体やこれらの共重合体等のポリマー類、アクリル酸系重合体の次亜リン酸付加物等のホスフィノカルボン酸類、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のアミノカルボン酸系化合物等を挙げることができる。この中で、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸またはその水溶性塩、マレイン酸、アクリル酸アルキル、ビニルアセテートの三元共重合体、ポリアクリル酸の次亜リン酸付加物、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体の次亜リン酸付加物から選択される少なくとも1種のスケール防止剤を用いると、併用したスケール防止剤による酸化性物質の分解がほとんどないので好ましい。
【0075】
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。
【0076】
当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の開放循環冷却水系の処理方法を適宜改変することができる。このような改変によってもなお、本発明の開放循環冷却水系の処理方法の構成を具備する限り、もちろん、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例】
【0077】
以下に、本発明の開放循環冷却水系の処理方法の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0078】
<冷却塔模擬試験装置による評価1>
冷却塔模擬試験装置(日の当たる屋外に設置(但し上部水槽以外には直接日光が当たらないように黒幕で覆いをした)、保有水量:60L、冷却水:ポンプにより循環し、電熱ヒーターで水温を35℃に調節)8台を用い、表1に示す薬液と殺菌剤とを用いて試験を実施した。なお、表1中、クロラミンTはN-クロロ-4-メチルベンゼンスルホンアミドナトリウム水和物、クロラミンBはN-クロロベンゼンスルホンアミドナトリウム水和物である(以下、同じ)。
【0079】
【0080】
<試験およびその結果>
表2に示す薬注条件で2ヶ月間、それぞれの模擬試験装置1~8の運転を行った。ここで、表2中、「CL」は試験期間中の冷却水中の結合残留塩素の維持濃度(mg/L)であり、本試験では薬液による処理を常時実施した。また、模擬試験装置8では薬液5aと薬液5bとを予め混合することなく、同質量の薬液をそれぞれ直接冷却水に添加した。なお、表2中、「殺菌剤の添加濃度」は各殺菌剤の有効成分の保有水量に対する添加濃度を示す。また、藻類の発生状況を観察するための白色の不織布を、それぞれの試験装置の上部水槽に設置したのち試験を開始した。
【0081】
結果を表2に併せて記載する。表2中、「バイオフィルムの発生」は冷却塔の充填材へのバイオフィルムの付着状況を試験終了時に目視観察した結果を、「レジオネラ属菌数」は試験終了直前に採取した冷却水100mL中のレジオネラ属菌の数を、そして「藻類の発生」は上部水槽に設置した白色の不織布の試験終了時の状態を示し、粒状緑藻等の藻の付着のない場合を「-」、藻の付着がわずかにあった場合には「±」、藻が付着した場合には「+」~「+++++」(「+」の数が多いほど付着した藻の量が多い)として、それぞれ示す。なお、結合残留塩素濃度はJIS K0101 28、1998に、レジオネラ属菌の検査は非特許文献1に記載の培養法に、それぞれ準拠して行った。
【0082】
【0083】
表2より、本発明に該当する冷却塔模擬試験装置1~6での試験では、バイオフィルム、レジオネラ属菌、および、藻類に対する抑制効果が十分に発揮されていることが、一方、クロラミンTやクロラミンBと臭素化合物とを含有する薬液ではなく、酸化性物質として安定化次亜塩素酸ナトリウム製剤を添加した冷却塔模擬試験装置7での試験では、レジオネラ属菌の生育も藻類の発生も十分に抑制することができないことが、クロラミンTと臭素化合物を別々に添加した冷却塔模擬試験装置8での試験では、バイオフィルムやレジオネラ属菌に対する抑制効果は十分得られるものの藻類の抑制が不十分であることが理解される。なお、顕微鏡による観察により、装置7および装置8で発生した藻類は粒状緑藻であることが確認された。
【0084】
なお、殺菌剤1の代わりに2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンを3質量%含有する水溶液、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンを5質量%含有する水溶液、o-フタルアルデヒドを5質量%含有する水溶液、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノールを10質量%含有する水溶液をそれぞれ使用した以外は、表2の装置1と同一条件で試験を行ったところ、いずれの条件でもバイオフィルム、レジオネラ属菌、藻類の全ての生育を抑制することを確認した。
【0085】
<冷却塔模擬試験装置による評価2>
上記の冷却塔模擬試験装置による評価1と同様に、ただし、薬注条件を表3に示すようにして試験を行った。ここで、表3中、「薬液による処理時間」は、1日24時間当たりの薬液の添加時間を示し、「殺菌剤の添加頻度」の「2回/週」は、毎週月曜日と木曜日に殺菌剤を添加したことを示している。試験結果を表3に併せて記載する。
【0086】
【0087】
表3により、本発明に該当する冷却塔模擬試験装置1~6での試験では薬液および殺菌剤の添加濃度や頻度を変更しても、本発明の範囲内であればバイオフィルム、レジオネラ属菌、および、藻類に対する抑制効果が十分に発揮されていることが理解される。一方、クロラミンTと臭素化合物を事前に混合せずに別々に添加した冷却塔模擬試験装置7、8での試験では藻類に対する抑制効果が不十分となる。なお、顕微鏡による観察により、装置7および装置8で発生した藻類は粒状緑藻であることが確認された。
【0088】
このような効果の違いが生じる原因は定かではないが、クロラミンTあるいはクロラミンBと臭素化合物とを事前混合することで、クロラミンTやクロラミンBの少なくとも一部がブロム化してN-ブロム-4-メチルベンゼンスルホンアミドやN-ブロムベンゼンスルホンアミドが生成し、この物質が反応前のクロラミンTやクロラミンBと比較して粒状緑藻の生育抑制に対して格段に優れた効果を発揮するためであると推定する。事前混合せずに冷却水に別々に添加した場合、クロラミンTやクロラミンBがブロム化するよりも早く微生物と反応してしまうため、所望の効果が得られないものと本発明者等は考える。
【0089】
<実機冷却水系での検討>
茨城県の某工場内の冷却塔設備(冷凍能力500RT、保有水量10m3、日の当たる場所に設置)2台にて、4月中旬~9月中旬の5ヶ月間、表1に示した薬液1と殺菌剤1との併用処理(処理1)と、薬液5aと薬液5bとを事前混合することなく冷却水に添加する処理と殺菌剤1との併用処理(処理2)との効果の比較試験を行った。期間中、冷却水中の結合残留塩素濃度は両者とも0.1~0.5mg/Lの範囲に維持され、殺菌剤1は保有水量に対する添加濃度が有効成分濃度として2mg/Lとなるように1週間に1回添加された。
【0090】
結果、5ヶ月経過後においても、両者とも冷却塔充填材へのバイオフィルムの付着は認められず、レジオネラ属菌も期間中全て不検出(10個/100mL未満)を維持したが、処理1では冷却塔上部水槽での藻類の発生も認められず、冷却水中のアメーバ数も10個/100mL未満を維持したのに対し、処理2では4ヶ月目から上部水槽に粒状緑藻が観察されるようになり、アメーバ数も5ヶ月目には10個/100mLを上回る数が検出されるようになった。
【0091】
以上のように、開放循環冷却水系の冷却水に対して、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種と、を含有する薬液による処理と有機系殺菌剤による処理とを適切な条件で併用することで、酸化性物質と臭素化合物を別々に冷却水に添加した場合と比較して藻類、特に粒状緑藻の発生を効果的に抑制することが可能となり、トータルとして、バイオフィルムの発生、レジオネラ属菌の繁殖、および藻類の繁殖の全てを抑制し、冷却水系を良好な状態に長期間保つことができるのである。