(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】金属汚染評価方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
H01L21/66 M
(21)【出願番号】P 2017246190
(22)【出願日】2017-12-22
【審査請求日】2020-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】荒木 延恵
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 健
(72)【発明者】
【氏名】石原 知幸
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/119614(WO,A1)
【文献】特開2013-084840(JP,A)
【文献】特開2013-105914(JP,A)
【文献】特開2014-058414(JP,A)
【文献】特開2004-189584(JP,A)
【文献】特開2017-103275(JP,A)
【文献】特開2010-177494(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0054017(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
C30B 15/00
H01L 21/26
H01L 21/322
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速熱処理装置におけるシリコンウェーハへの金属汚染量を測定する金属汚染評価方法であって、
チョクラルスキー法により1.0mm/min以下の引き上げ速度で育成し、酸素濃度が1.3×10
18/cm
3以下のシリコン単結晶を得るステップと、
前記シリコン単結晶のヘッドから中央側へ40mmとテイルから中央側へ40mmを除く領域からシリコンウェーハを切り出すステップと、
酸化性ガス下で1100℃以上シリコン融点以下の温度で1乃至60sec保持した後、5乃至150℃/secの速度で降温処理し、前記シリコンウェーハ上に膜厚2nm以上の酸化膜を形成し、炉内部材からの汚染物質を前記シリコンウェーハに熱転写させるステップと、
汚染物質が転写された前記シリコンウェーハに対しライフタイム測定するステップと、を備えることを特徴とする金属汚染評価方法。
【請求項2】
前記汚染物質が転写された前記シリコンウェーハに対しライフタイム測定するステップにおいて、
前記シリコンウェーハに対しコロナチャージをパシベーションとして用いた後、ライフタイム測定することを特徴とする
請求項1に記載された金属汚染評価方法。
【請求項3】
前記汚染物質が転写された前記シリコンウェーハに対しライフタイム測定するステップにおいて、
μPCD装置を用いてライフタイム測定することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載された金属汚染評価方法。
【請求項4】
前記チョクラルスキー法により1.0mm/min以下の引き上げ速度で育成し、酸素濃度が1.3×10
18/cm
3以下のシリコン単結晶を得るステップにおいて、
ドーパント濃度を5×10
14atoms/cm
3以下とすることを特徴とする請求項1乃至
請求項3のいずれかに記載された金属汚染評価方法。
【請求項5】
前記汚染物質が転写された前記シリコンウェーハに対しライフタイム測定するステップの後、
金属不純物の濃度をyとし、ライフタイム値をxとすると、下記式のxに前記測定したライフタイム値を代入し、金属不純物の濃度yを求めるステップを備えることを特徴とする請求項1乃至
請求項4のいずれかに記載された金属汚染評価方法。
[数2]
y=-4E+07・x+2E+11
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属汚染評価方法に関し、特に、シリコンウェーハを高速加熱処理する高速熱処理装置(RTP装置)において、炉内の金属汚染を精度良く評価することのできる金属汚染評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハの製造過程、或いはデバイスの製造工程において、ウェーハが金属不純物などで汚染されると、製品性能に悪影響が生じる。そのため、金属汚染を低減することは、極めて重要な課題である。
【0003】
この課題に対し、例えば特許文献1(特開2013-84840号公報)、特許文献2(特開2009-302337号公報)には、高抵抗のシリコンウェーハを熱処理炉において処理することによって金属汚染を該シリコンウェーハに転写し、その後SPV法(表面光起電力法)によるFe-B濃度検出や、μPCD法(マイクロ波光導電減衰法)によるライフタイム測定によって金属不純物の検出を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-84840号公報
【文献】特開2009-302337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、炉内における金属不純物の影響を確認するためには、特許文献1、2に開示されるように、熱処理においてシリコンウェーハ中に十分に金属不純物が拡散するように所定の温度で時間をかける必要がある。
しかしながら、特に熱処理炉が高速熱処理装置(RTP装置)である場合には、金属汚染ではなく、空孔起因によるライフタイムの低下が生じるため、金属不純物の汚染を正しく評価することが困難となっていた。
【0006】
また、ライフタイムの測定では表面再結合によるライフタイムの低下が起こる。その低下を抑制するには表面に保護膜としてのパシベーション膜を形成することが必要である。具体的なパシベーション手法としては、主に熱酸化やHF(フッ酸)パシベーション手法が知られている。熱酸化は、加熱によりシリコン酸化膜(熱酸化膜)をシリコン表面に形成し、良好なSi-SiO2界面を導入することにより表面パシベーション効果を得るものである。また、HFパシベーション手法は、HF(フッ酸)水溶液を用いたケミカルパシベーションである。
【0007】
しかしながら、前記熱酸化による手法では、熱酸化膜を形成する熱処理炉からの汚染が考えられるため、目的とするRTP装置の汚染管理には使用できないという課題があった。
また、HFパシベーションにあっては、熱履歴を与えることはないが、表面再結合速度が20~40cm/sであることから、長いライフタイムを得ることが難しく、汚染管理としては感度の点で問題があった。
【0008】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、高速熱処理装置におけるシリコンウェーハへの金属汚染量を高精度に測定し評価することのできる金属汚染評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る金属汚染評価方法は、高速熱処理装置におけるシリコンウェーハへの金属汚染量を測定する金属汚染評価方法であって、チョクラルスキー法により1.0mm/min以下の引き上げ速度で育成し、酸素濃度が1.3×1018/cm3以下のシリコン単結晶を得るステップと、前記シリコン単結晶のヘッドから中央側へ40mmとテイルから中央側へ40mmを除く領域からシリコンウェーハを切り出すステップと、酸化性ガス下で1100℃以上シリコン融点以下の温度で1乃至60sec保持した後、5乃至150℃/secの速度で降温処理し、前記シリコンウェーハ上に膜厚2nm以上の酸化膜を形成し、炉内部材からの汚染物質を前記シリコンウェーハに熱転写させるステップと、汚染物質が転写された前記シリコンウェーハに対しライフタイム測定するステップと、を備えることに特徴を有する。
【0010】
ここで、前記汚染物質が転写された前記シリコンウェーハに対しライフタイム測定するステップにおいて、前記シリコンウェーハに対しコロナチャージをパシベーションとして用いた後、ライフタイム測定することが望ましい。
【0011】
また、前記汚染物質が転写された前記シリコンウェーハに対しライフタイム測定するステップにおいて、μPCD装置を用いてライフタイム測定することが望ましい。
また、前記チョクラルスキー法により1.0mm/min以下の引き上げ速度で育成し、酸素濃度が1.3×1018/cm3以下のシリコン単結晶を得るステップにおいて、ドーパント濃度を5×1014atoms/cm3以下とすることが望ましい。
また、前記汚染物質が転写された前記シリコンウェーハに対しライフタイム測定するステップの後、金属不純物の濃度をyとし、ライフタイム値をxとすると、下記式のxに前記測定したライフタイム値を代入し、金属不純物の濃度yを求めるステップを備えることが望ましい。
[数2]
y=-4E+07・x+2E+11
【0012】
このような方法によれば、ウェーハ内部の酸素や格子欠陥による空孔型起因のライフタイム低下を減らし、金属不純物によるライフタイム低下の影響を精度良く評価することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高速熱処理装置におけるシリコンウェーハへの金属汚染量を高精度に測定し評価することのできる金属汚染評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係る金属汚染評価方法の工程を示すフローである。
【
図2】
図2は、本発明に係る金属汚染評価方法において用いるシリコンウェーハを切り出す単結晶部位の領域を示す単結晶の側面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る金属汚染評価方法の実施例1の結果を示す分布図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る金属汚染評価方法の実施例2の結果を示す分布図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る金属汚染評価方法の実施例3の結果を示す分布図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る金属汚染評価方法の実施例4及び比較例1、2の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明に係る金属汚染評価方法の実施例5及び比較例3の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明に係る金属汚染評価方法の実施例6の結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、本発明に係る金属汚染評価方法の実施例7~11の結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、演算式により得られたライフタイム値とFe濃度との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る金属汚染評価方法について説明する。
本発明の金属汚染評価方法にあっては、高速熱処理装置(以下、RTP装置とも呼ぶ)における金属汚染を評価するための方法である。具体的には、所定の育成条件により引き上げられたシリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出し、RTP装置において所定の温度の酸化性雰囲気下で熱処理することによりウェーハ上にRTO(急速熱酸化)膜を形成する。
そして、RTP装置を構成する部材からの汚染物質をウェーハへ熱転写させ、このウェーハに対しコロナチャージを用いたパシベーション処理を行う。このようにして得られたウェーハのライフタイムを測定することによって、炉内の金属汚染検出を行う。
【0016】
より具体的には、
図1に示すフローのようになる。
先ずは金属汚染評価用のシリコンウェーハを切り出すためのシリコン単結晶を育成する(
図1のステップS1)。
即ち、前記単結晶は、チョクラルスキー法により、酸素濃度が1.3×10
18atoms/cm
3(oldASTM)以下、ドーパント濃度5×10
14atoms/cm
3以下、引上げ速度が1mm/min以下の条件で引き上げられる。
【0017】
尚、ドーパント濃度が5×1014atoms/cm3以下の場合、即ち基板抵抗が高いと、ライフタイム評価において、多数キャリアのウェーハ表面での再結合影響が表れやすくなるため、ライフタイムの真値が得られにくくなる。しかしながら、本発明の金属汚染評価方法にあっては、表面再結合の影響が小さいため、ドーパント濃度が5×1014atoms/cm3以下であっても、精度良く金属汚染を評価することができる。
【0018】
そして、
図2に示すように、引き上げられた単結晶インゴット10において、低温での熱履歴を長く受ける直胴部10bのヘッドショルダー10a側から中央側に40mmの位置10b1まで、及びテールコーン10c側から中央側に40mmの位置10b2までを除く領域(使用する領域)からシリコンウェーハを切り出す(
図1のステップS2)。
この領域外が適用できない理由は、該領域外では結晶中の熱がインゴットの上下から放熱され(結晶が冷え易い)、V濃度(ベーカンシー(空孔)濃度)が高いまま空孔型欠陥の形成温度帯に入るため、結果として空孔型欠陥の濃度が高くなりライフタイムが低下するためである。
【0019】
また、前記結晶部位の制限以外にも、上記のような酸素濃度、引上げ速度等の制限は、ライフタイム低下を引き起こす空孔型欠陥の形成影響による。空孔型欠陥の実体は明らかになっていないが、形態としては、VO、VO2(V:ベーカンシー(空孔)、O:酸素)などの複合体であると考えられる。また、このような空孔型欠陥の形成温度帯は、結晶の冷却過程において1000℃~800℃付近であると考えられる。
【0020】
また、チョクラルスキー結晶の固液界面において熱平衡濃度で結晶中に取り込まれたV(空孔)とI(格子間Si)は、結晶の冷却過程において、対消滅して濃度低下していく。空孔型欠陥起因のライフタイム低下を回避するためには、V濃度を下げる必要があるが、引上げ速度が1mm/minを超える場合、V濃度が高いまま空孔型欠陥の形成温度帯に入るため、結果として空孔型欠陥の濃度が高くなりライフタイムが低下する。
また、酸素濃度が高いと空孔型欠陥の形成を助長するため、酸素濃度は1.3×1018atoms/cm3(oldASTM)以下が望ましい。
【0021】
次いで、RTP装置により前記シリコンウェーハに対し、酸化性雰囲気下、1100℃以上シリコン融点以下で、1~60sec保持する。その後、5~150℃/secで降温処理を行い、シリコンウェーハ上に膜厚2nm以上の酸化膜(RTO膜)を形成する(
図1のステップS3)。
【0022】
このRTP処理装置にあっては、より高い温度で使用することにより装置を構成する部材に存在する金属不純物の外方拡散を促進する。それにより炉内金属不純物をウェーハへ十分に転写することができる。
尚、一般的にウェーハ内の酸素や空孔がRTP処理によって電気的に活性状態となるため、それがライフタイムを低下させる要因となる。しかしながら、前記ステップS1の条件により得られたシリコンウェーハによれば、酸素や空孔が略無いため空孔型起因のライフタイムの低下を抑制し、金属不純物に従うライフタイム低下のみを測定することができる。
【0023】
そして、前記シリコンウェーハをコロナチャージのパシベーションとして用いたμPCD法によりライフタイム測定する(
図1のステップS4)。
前記コロナチャージ処理においては、大気中で電荷を発生、制御する。このコロナチャージ処理により、シリコンウェーハ表面の電荷状態を制御して均一にすることができる。
【0024】
μPCD測定装置としては、例えばコベルコ科研社製LTA-2200EPを用い、レーザ波長904nm、キャリア注入量5×1013/cm3、4mmピッチでライフタイム測定する。このμPCD法にあっては、シリコンウェーハに対しレーザ光をパルス照射することによって過剰キャリアが生成され、それが再結合により消滅して元の平衡状態に戻っていく。このときの過剰キャリア密度の変化は、光照射領域の抵抗率の指数関数的な変化となり、反射マイクロ波のパワーもそれに伴い変化する。光パルスの照射前と照射直後の反射マイクロ波パワーの差が抵抗率の差、即ちキャリア密度の差に対応し、その時間変化からライフタイムが求められる。
【0025】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、酸素濃度が1.3×1018atoms/cm3(oldASTM)以下、引上げ速度が1mm/min以下の条件により育成されたシリコン単結晶から切り出されたウェーハを用い、1100℃以上融点以下の高温下におけるRTP処理を酸化性雰囲気で実施することによりRTO膜を形成し、RTP装置部材からの汚染物質をウェーハへ熱転写させ、このウェーハをコロナチャージパシベーション処理してμPCD法によりライフタイム測定するものである。
これにより、ウェーハ内部の酸素や格子欠陥による空孔型起因のライフタイム低下を減らし、金属不純物によるライフタイム低下の影響を評価することができる。
また、本発明の方法によれば、ドーパント濃度に関わらず精度良い測定が可能であるため、多数キャリアのウェーハ表面での再結合の影響が表れるドーパント濃度5×1014atoms/cm3以下の場合にも有効である。
【0026】
尚、前記実施の形態においては、パシベーションにコロナチャージを用いたが、本発明の金属汚染評価方法にあっては、それに限定されるものではなく、他のパシベーション手法を行うシリコンウェーハに対しても適用することができる。
また、ライフタイム測定においては、μPCD装置を用いたが、本発明にあっては、それに限定されるものではなく、他の手法によりライフタイム測定してもよい。
【実施例】
【0027】
本発明に係る金属汚染評価方法について、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施の形態に基づき以下の実験を行った。
【0028】
(実験1)
実験1では、育成条件の異なるウェーハを用い、本実施の形態に示したライフタイム測定を行った。
実施例1では、酸素濃度0.8×1018atoms/cm3、ドーパント(ボロン)濃度7.8×1014atoms/cm3、引上速度0.6mm/minの条件で育成したPタイプ、抵抗17Ω・cmウェーハを用いた。
【0029】
実施例2では、酸素濃度0.8×1018atoms/cm3、ドーパント(ボロン)濃度3.7×1014atoms/cm3、引上速度1.5mm/minの条件で育成したPタイプ、抵抗36Ω・cmウェーハを用いた。
実施例3では、酸素濃度0.9×1018atoms/cm3、ドーパント(リン)濃度3.0×1013atoms/cm3、引上速度1.5mm/minの条件で育成したNタイプ、抵抗142Ω・cmのウェーハを用いた。
【0030】
実施例1~3において、RTP処理条件は同じく、1350℃×30sec処理後、600℃まで降温レート120℃/secで処理し、RTO膜を形成した。
また、いずれもμPCD測定装置(コベルコ科研社製LTA-2200EP)を用いて、レーザ波長904nm、キャリア注入量5×1013/cm3、4mmピッチでライフタイム測定した。
【0031】
実施例1~3のライフタイム測定結果を
図3、4、5にそれぞれ示す。
図3、4、5は、ウェーハ面内におけるライフタイム値を色で区分けした分布図である。
実施例1の結果、ライフタイム平均値は1280μsecとなり、
図3に示されるように、局所汚染や外周の汚染が認められた。これは、RTP処理時に、ウェーハ裏面の外周部をSiCリングで保持するため、そこからの汚染と考えられた。即ち、実施例1の条件のウェーハを用いた場合、金属汚染分布を精度良く把握できることが確認できた。
【0032】
また、実施例2、3の結果、ライフタイム平均値は、ともに1080μsecとなり、
図4、5にそれぞれ示されるように、空孔型欠陥起因のライフタイム低下が認められた。この空孔型欠陥起因のライフタイム低下は、ウェーハ全面で影響があるが、中心部ほど影響が大きい。これは、実施例2,3とも引上速度が1.5mm/minであり速すぎることが原因であると考えられた。
【0033】
(実験2)
実験2では、パシベーション方法の異なる実施例4(RTO膜+コロナチャージ)、比較例1(熱酸化膜)、比較例2(HFパシベーション)について、抵抗率に対するライフタイム測定値と、表面再結合速度との関係について検証した。
図6のグラフに、実施例4、比較例1、2の結果を示す。
図6のグラフにおいて、縦軸はライフタイム値、横軸はPタイプウェーハの抵抗値である。また、図中に表面再結合速度S=5cm/s、10cm/s、20cm/s、40cm/sの曲線を示す。
また、表面再結合速度は、熱酸化ではS=20cm/s、HFパシベーションではS=20~40cm/s程度となった。それに対し実施例4では、表面再結合速度S=0cm/sに近い真のバルク値に近い長いライフタイム値を得ることができた。
【0034】
(実験3)
実験3では、ライフタイム値とFe-B濃度との相関について検証した。
実施例5では、p型ウェーハ(酸素濃度0.8×1018atoms/cm3、ドーパント濃度7.8×1014atoms/cm3、引上速度0.6mm/min)を用い、本実施の形態に従いRTO膜形成、コロナチャージパシベーションを行ってライフタイム測定し、SPV法によりFe-B濃度を求めた。
比較例3として、同条件で切り出したp型ウェーハを、HFパシベーションを行ってライフタイム測定し、SPV法によりFe-B濃度を求めた。
【0035】
実施例5及び比較例3の結果を
図7のグラフに示す。
図7のグラフにおいて、縦軸はライフタイム値、横軸はFe-B濃度である。
図7のグラフに示すように、実施例5では、ライフタイム値とFe-B濃度との間に強い相関が見られた。一方、比較例3では、長いライフタイム値が得られないため、弱い相関となった。
【0036】
(実験4)
実験4では、実験3とは使用するウェーハ条件を変えて、ライフタイム値とFe-B濃度との相関について検証した。
実施例6では、p型ウェーハ(酸素濃度0.8×1018atoms/cm3、ドーパント(ボロン)濃度3.7×1014atoms/cm3、引上速度1.5mm/min)を用い、本実施の形態に従いRTO膜形成、コロナチャージパシベーションを行ってライフタイム測定し、SPV法によりFe-B濃度を求めた。
【0037】
実施例6の結果を
図8のグラフに示す。
図8のグラフにおいて、縦軸はライフタイム値、横軸はFe-B濃度である。
図8のグラフに示すように、実施例6では、ライフタイム値とFe-B濃度との間に相関は見られなかった。また、酸素、空孔起因のライフタイム低下となり、これは、単結晶引上速度が1.5mm/
minと速すぎるためと考えられた。
【0038】
(実験5)
実験5では、熱処理温度の違いによりウェーハに転写される金属汚染量の差を本発明によるライフタイム測定により検出可能か検証した。
本実験では、n型ウェーハ(酸素濃度1.2×1018atoms/cm3、ドーパント(リン)濃度1×1014atoms/cm3、引上速度0.5mm/min)を用いた。RTP装置において、実施例7では1100℃×30sec、実施例8では1150℃×30sec、実施例9では1200℃×30sec、実施例10では1250℃×30sec、実施例11では1275℃×30secで熱処理を行い、RTO膜を形成した。その後、コロナチャージパシベーションを行い、μPCD装置によりライフタイム測定を行った。
【0039】
実施例7~11の結果を
図9の棒グラフに示す。このグラフから明らかなように、熱処理温度の違いにより、ウェーハに転写される金属汚染量の差をライフタイム測定により検出できることを確認した。
【0040】
また、実施例7~11の結果に基づき、ライフタイム値とFe-B濃度との相関を下記の式(1)~式(3)を用いて求めた。
【0041】
【0042】
尚、式(1)において、計算されるライフタイム値をτとすると、τbはバルクライフタイム、τsは表面再結合ライフタイムである。
また、バルクライフタイムτbを求める式(2)は、ショックレーリードホールの演算式を用いた。ここで、n0とp0は平衡時の電子とホールのキャリア濃度、ΔnとΔpは注入されたキャリア濃度、νthはキャリアの熱速度、niは真性キャリア濃度、Eiは真性エネルギー準位、σnとσpは不純物の電子とホールに対する捕獲断面積、Ntは不純物キャリア濃度、Etは不純物エネルギー準位、kはボルツマン定数、Tは温度である。
【0043】
不純物はFeと仮定し、準位(Et)を0.4eV、捕獲断面積σnを3.6×10-15cm2と仮定した。また、ウェーハのドーパント(リン)濃度n0は1×1014atoms/cm3、温度(T)は300Kと仮定した。平衡状態におけるキャリア濃度は、次式p0・n0=ni
2で表されることから、p0が決定する。注入キャリアΔnとΔpは、μPCD装置によるライフタイム測定をスタンダードモードでおこなった場合、904nmのレーザを使用して5×1013/cm2が注入されることから、これをウェーハ厚さ(t=775μm)で割った値となる。
【0044】
Sは表面再結合速度である。表面再結合ライフタイムτsを求める式(3)において、表面再結合ライフタイムの表裏面への拡散項(τdiff)と表裏面での再結合の項(τsr)で現される。Dは少数キャリアの拡散係数、tはウェーハ厚さ、表面再結合速度Sを6cm/secと仮定した。
【0045】
上記式(1)~(3)を用いて得られた結果(計算値)を
図10のグラフに示す。
図10において、縦軸(y軸)はFe濃度(atoms/cm
3)、横軸(x軸)はライフタイム(μsec)である。
このグラフから、金属不純物であるFeの濃度(y軸)とライフタイム値(x軸)との間には、下記相関式(4)が得られた。
【0046】
[数2]
y=-4E+07・x+2E+11 ・・・・(4)
【0047】
即ち、本発明に係る金属汚染評価方法によりライフタイムの実測値を得ることにより、Fe汚染濃度を高精度に得ることができることを確認した。
【0048】
(実験6)
実験6では、本発明に係る金属汚染評価方法に用いるシリコンウェーハを切り出す単結晶の育成条件について、更に検証した。具体的には、好適な引上速度の範囲と酸素濃度の範囲について検証した。
本実験では、実施例12~26について、単結晶引上速度と酸素濃度の条件を表1に示すように設定し、RTO膜形成、コロナチャージパシベーションを行い、μPCD装置によるライフタイム測定を行った。
【0049】
実施例12~26において、Pタイプ36Ω・cm、ドーパント濃度ボロン3.7×1014/cm3、ウェーハを切り出す結晶部位を全長1000mm以上の結晶の中央部、RTP装置の条件は酸素雰囲気下で1350℃×30sec、600℃までの降温速度120℃/sとした。
また、ドーパント濃度から推定されるライフタイム理論値(τSRHと呼ぶ)を3800μsecとし、各条件での実施例から得られたウェーハ面内のライフタイム平均値(ライフタイム面内平均値)が、τSRHの50%(1900μsec)未満の場合に不合格(表1中の判定×)とし、50%以上の場合に合格(表1中の判定○)とした。
【0050】
【0051】
表1に示すように、引き上げ速度は1.0mm/min以下、酸素濃度は1.3×1018/cm3以下の場合に良い結果が得られた。
【0052】
(実験7)
実験7では、単結晶からウェーハを切り出す位置を特定するために実施例27~35において切り出し位置の条件を設定し、実験6と同様にライフタイム面内平均値について評価を行った。表2に実施例27~35の条件及び実験結果を示す。引上速度は0.6mm/min、酸素濃度は1.2×1018/cm3とし、その他の条件は実験6と同じである。
【0053】
【0054】
表2に示すように、結晶部位は、単結晶インゴッドのヘッドから40mmとテイルから40mmを除く領域から切り出したウェーハにおいて良好な結果が得られた。
【0055】
以上の実施例の結果より、シリコン単結晶の引上速度が1.0mm/min以下、酸素濃度が1.3×1018/cm3以下、ウェーハを切り出す結晶部位がヘッドから40mmとテイルから40mmを除く領域の場合に空孔型起因のライフタイム低下を抑制し、金属汚染によるライフタイム測定により金属汚染量を精度良く評価出来ることを確認した。
【符号の説明】
【0056】
10 単結晶インゴッド