(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】微細藻類培養装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220412BHJP
C12M 1/08 20060101ALI20220412BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12M1/08
C12N1/12 A
(21)【出願番号】P 2018015206
(22)【出願日】2018-01-31
【審査請求日】2020-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】門倉 伸行
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-511854(JP,A)
【文献】国際公開第02/099031(WO,A1)
【文献】特開平08-322553(JP,A)
【文献】特開2014-054240(JP,A)
【文献】特開平08-323328(JP,A)
【文献】特開2007-222804(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103289886(CN,A)
【文献】国際公開第2016/128361(WO,A1)
【文献】特表2014-516550(JP,A)
【文献】特開平05-184348(JP,A)
【文献】特開2018-011523(JP,A)
【文献】特開昭53-091182(JP,A)
【文献】特開2007-282629(JP,A)
【文献】特開2004-166679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成を行う微細藻類
を培養する微細藻類培養装置であって
、
両端側にそれぞれ蓋部が設けられた筒体と、前記筒体の側面の前記設置面側とは反対側に形成された開口部とを備え
、前記側面が設置面に当接するように配置される収納容器と、
空気または空気と二酸化炭素を含む気体を供給する気体供給手段と、
前記蓋部のうちの一方の蓋部側から前記収納容器の中央部に前記筒体の軸方向に沿って延長する、前記中央部側に前記気体を噴出する噴出口を備えた第1の噴出管と、
前記蓋部のうちの他方の蓋部側から前記収納容器の中央部に前記筒体の軸方向に沿って延長する、前記中央部側に前記気体を噴出する噴出口を備えた第2の噴出管と、
前記第1及び第2の噴出管にそれぞれ前記気体を供給する第1及び第2の供給管と、
を備え、
前記第1及び第2の噴出管は、
前記第1の噴出管の噴出口と前記第2の噴出管の噴出口とが前記筒体の軸方向に互いに対向するように、前記収納容器内に収納された培養液中に設置されていることを特徴とする微細藻類培養装置。
【請求項2】
前記収納容器が、既成の缶の側面を、前記缶の軸方向に平行な面で切断して得られた開口部を有する容器であることを特徴とする請求項
1に記載の微細藻類培養装置。
【請求項3】
前記収納容器を移動させる移動手段を設けたことを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載の微細藻類培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成によりオイルを生産する微細藻類を培養するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな再生可能エネルギーの一つとして、微細藻類を産生するオイル生産などの「バイオマス」の活用が注目されている。微細藻類は、一般的には水中に存在する顕微鏡サイズの藻で、その多くは植物と同様に、太陽光を利用して二酸化炭素を固定し、炭水化物を合成する光合成を行い、代謝物としてオイルを産生する。
微細藻類の培養施設としては、微細藻類を含んだ培養液を収納する長円形状の循環水路を成す培養池と流路内の培養液を攪拌するための攪拌装置を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、微細藻類を大量培養するためには、開放型の大規模培養施設が必要となるが、従来の数百m2~数千m2規模の微細藻類培養施設は、施設の安全性や安定性のため、コンクリート製の培養池が必要であった。
しかしながら、開放型の模培養施設では、規模が小さいものであっても、生産コストが高いという問題点があった。
また、農作放棄地及び農耕不適格地等において藻類の培養施設を設置する場合には、施設が固定されていると、培養実施後に農業を再開することが困難となる。すなわち、施設を撤去して農地転用する上で弊害が出てしまうことから、農地法との関係において、そのような施設の設置が認められない可能性がある。
また、施設の設置が認められた場合でも、農地転用する際には、施設の移動や解体作業に多大の時間と費用がかかってしまうといった問題点があった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、作製が容易で製作コストを大幅に低減できる収納容器を備えるとともに、農地転用する際の移動や解体作業が容易な簡易型の微細藻類培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光合成を行う微細藻類を培養する微細藻類培養装置であって、両端側にそれぞれ蓋部が設けられた筒体と、前記筒体の側面の前記設置面側とは反対側に形成された開口部とを備え、前記側面が設置面に当接するように配置される収納容器と、空気または空気と二酸化炭素を含む気体を供給する気体供給手段と、前記蓋部のうちの一方の蓋部側から前記収納容器の中央部に前記筒体の軸方向に沿って延長する、前記中央部側に前記気体を噴出する噴出口を備えた第1の噴出管と、前記蓋部のうちの他方の蓋部側から前記収納容器の中央部に前記筒体の軸方向に沿って延長する、前記中央部側に前記気体を噴出する噴出口を備えた第2の噴出管と、前記第1及び第2の噴出管にそれぞれ前記気体を供給する第1及び第2の供給管と、を備え、前記第1及び第2の噴出管は、前記第1の噴出管の噴出口と前記第2の噴出管の噴出口とが前記筒体の軸方向に互いに対向するように、前記収納容器内に収納された培養液中に設置されていることを特徴とする。なお、「培養液」は、光合成を行う微細藻類を含んだ培養液を指す。
本発明の収納容器は、筒体の側面に開口部を設けただけの簡単な構成なので、作製が容易で製作コストを大幅に低減できるだけでなく、移動が簡単なことから農地転用する上で弊害が出にくいため、農地法を回避できる可能性が高いという利点を有する。
また、本発明は、空気または空気と二酸化炭素を含む気体を供給する気体供給手段と、前記収納容器内に収納された前記培養液中に設置されて、前記気体を噴出する噴出口を備えた噴出管と、前記気体供給手段に接続されて前記噴出管に前記気体を供給する供給管とを備えることで、培養液中の気体溶解速度を高めることができるようにしたので、藻の培養を更に促進させることができる。
【0007】
また、前記噴出管を、前記蓋部のうちの一方の蓋部側から前記収納容器の中央部に前記筒体の軸方向に沿って延長する、前記中央部側に前記気体を噴出する噴出口を備えた第1の噴出管と、前記蓋部のうちの他方の蓋部側から前記収納容器の中央部に前記筒体の軸方向に沿って延長する、前記中央部側に前記気体を噴出する噴出口を備えた第2の噴出管とから構成するとともに、前記第1及び第2の噴出管を、前記第1の噴出管の噴出口と前記第2の噴出管の噴出口とが前記筒体の軸方向に互いに対向するように、前記収納容器内に収納された培養液中に設置したので、培養液中の気体溶解速度を効果的に高めることができる。
また、ドラム缶などの既成の缶の側面を、前記缶の軸方向に平行な面で切断して形成した容器を培養液の収納容器としたので、収納容器の作製が容易であるだけでなく、製作コストを大幅に低減することができる。
また、前記収納容器を移動させる移動手段を設けたので、微細藻類培養装置の設置箇所を農地転用する際にも、装置を容易に移動させることができる。
【0008】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態1に係る微細藻類培養装置を示す図である。
【
図2】移動手段を備えた微細藻類培養装置の一例を示す図である。
【
図3】本発明による微細藻類培養装置の他の例を示す図である。
【
図4】本発明による収納容器の他の例を示す図である。
【
図5】本実施の形態2に係る微細藻類培養装置を示す図である。
【
図6】気体の噴出方法と培養液の移動速度との関係を示す図である。
【
図7】従来の気体の噴出方法と培養液の移動速度の測定領域とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態1に係る微細藻類培養装置1を示す図で、微細藻類培養装置1は、収納容器2と、気体供給手段3と、供給管4と、噴出管5とを備える。
収納容器2は、内部に微細藻類を含んだ培養液(以下、培養液Lという)を収納するもので、側面21が設置面Gに当接するように配置される、両端側にそれぞれ蓋部22A,22Bが設けられた筒体20と、筒体20に側面21に形成された開口部23とを備える。
収納容器2の開口部23は、筒体20の側面21の設置面G側とは反対側を筒体20の軸方向に平行な面で切断することで形成される。
また、本例では、ドラム缶などの既成の缶の側面を、上下の蓋とともに、缶の軸方向に平行な面で切断して開口部を形成したものを収納容器2とした。
これにより、収納容器2の作製が容易であるだけでなく、製作コストを大幅に低減することができる。
気体供給手段3は、空気または空気と二酸化炭素を含む気体Qを、供給管4及び噴出管5を介して、収納容器2内に収納された培養液L中に供給する。
供給管4は、気体供給手段3に接続されて噴出管5に気体Qを供給する。
噴出管5は、収納容器2内に収納された培養液L中に設置されて、気体供給手段3から供給管4を介して送られてきた気体Qを噴出口5nから培養液中に噴出させる。
本例では、
図1に示すように、噴出管5として、筒体20の軸方向に延長する管に、筒体20の軸方向に所定の間隔を隔てて複数の噴出口5nを設けた。
ここで、開口部23側から収納容器2の底部24側に向かう方向を下方、底部24側から開口部23側に向かう方向を上方とすると、複数の噴出口5nは、全て、気体Qを、下方、すなわち、微細藻類のある方向に噴出するように形成されている。
これにより、培養液L中の気体溶解速度を高めて、微細藻類の培養を効果的に促進させることができるとともに、収納容器2の底部24に微細藻類が堆積することを抑制することができる。
また、本例の収納容器2は、ドラム缶などの既成の缶を加工して得られたものなので、微細藻類培養装置1の設置箇所を農地転用する際には、例えば、気体供給手段3、供給管4、及び、噴出管5を取り外し、収納容器2内の培養液Lや培養した藻類を回収すれば、収納容器2は軽量なので、一人もしくは二人程度の作業員により、容易に別の箇所に移動させることができる。
【0011】
なお、前記実施の形態1では、作業員が収納容器2を移動させたが、
図2(a),(b)に示すように、収納容器2を支持部材6で支持するとともに、支持部材6の下面に車輪7を取付けて、収納容器2を移動可能としてもよい。
具体的には、支持部材6としては、収納容器2の底部24を支持する板状の基台61と、基台61に立設されて収納容器2をその側面21側から支持する側板62とを備えた断面がコの字状の部材を用いるとともに、基台61の下面に4個の車輪7を設けるようにすればよい。なお、培養時には、収納容器2が動かないようにする必要があるので、車輪7に図示しないストッパーを設けたり、支持部材6を、ジャッキなどで地面から持ち上げるようにすればよい。これにより、収納容器2内の培養液Lや培養した藻類を回収することなく、収納容器2を移動させることができる。
また、地面に、車輪7を走行させるためのレールを敷いておけば、収納容器2の移動が更に容易になる。
【0012】
また、前記実施の形態1では、噴出口5nを噴出管5の下方に設けたが、
図3に示すように、噴出口5nを噴出管5の上方に設け、気体Qを、上方、すなわち、開口部23側に噴出するようにしてもよい。これにより、培養液Lの液面を揺動させるることができるので、培養液L中の気体溶解速度を効果的に高めることができる。
また、前記実施の形態1では、収納容器2として、筒体20の側面21と蓋部22A,22Bとを、ともに、筒体20の軸方向に平行な面で切断して開口部23を形成した物を用いたが、
図4(a)に示すように、管体80の側面81を切断して開口部83を形成したものの両端部に蓋部82A,82Bを接合した形態の収納容器8を用いてもよい。あるいは、
図4(b)に示すように、管体90の側面91の一部だけを切断して開口部93を形成したものを収納容器9としてもよい。この場合には、管体90の両端部に、蓋部92A.92Bを取付けることはいうまでもない。
また、前記実施の形態1では、収納容器2として、円筒状の缶の側面に開口部を設けたものを用いたが、収納容器2はこれに限るものではなく、断面が多角形状の缶の側面に開口部を設けたものであってもよい。
【0013】
実施の形態2.
前記実施の形態1では、1本の噴出管5に複数の噴出口5nを設けて気体Qを培養液L中に噴出させたが、
図5(a)に示すような、収納容器2の底部24側に設置されて、筒体20の軸方向に延長する2本の噴出管51,52を用いて、培養液L中の2箇所から気体Qを培養液L中に噴出させる形態としてもよい。
第1の噴出管51は、一方側の蓋部22A側から収納容器2の中央に延長する、中央部側に噴出口51nを有する管で、噴出口51nとは反対側の端部が、気体供給手段3に接続された供給管41に接続されて、気体供給手段3から供給された気体Qを、一方側の蓋部22A側から他方側の蓋部22B側に向かう方向に噴出する。
第2の噴出管52は、他方側の蓋部22B側から収納容器2の中央に延長する、中央部側に噴出口52nを有する管で、噴出口52nとは反対側の端部が、気体供給手段3に接続された供給管42に接続されて、気体供給手段3から供給された気体Q’を、他方側の蓋部22B側から一方側の蓋部22A側に向かう方向に噴出する。
このような構成を採ることにより、噴出口51nから噴出された気体Qと噴出口52nから噴出された気体Q’とは、収納容器2の中央部にて衝突するので、培養液Lを効果的に攪拌させることができる。その結果、培養液L中の気体溶解速度を高めて、微細藻類の培養を効果的に促進させることができる。
【0014】
また、
図5(b)に示すように、収納容器2の底部24側に噴出口53n,54nを備え、収納容器2の開口部23側から底部24側に延長する2本の噴出管53,54とを用いてもよい。このとき、同図に示すように、2本の供給管43,44を接続した形態としてもよい。2本の噴出管53,54は、例えば、収納容器2を軸方向に3分割したときの分割面に設置することが好ましいが、収納容器2を軸方向に2分割したときの各領域の中心に設置するなどしてもよい。要は、2本の噴出管53,54が、離れすぎず、かつ、近づき過ぎないようにすればよい。
このような構成を採ることにより、2つの噴出口53nから、噴出された気体Qと噴出口54nから噴出された気体Q’とは、ともに、微細藻類のある方向に噴出するので、収納容器2の底部24に微細藻類が堆積することを抑制することができるとともに、培養液L中の気体溶解速度を高めて、微細藻類の培養を効果的に促進させることができる。
【0015】
[実験例]
図6(a)~(c)は、気体の導入方法と収納容器2内の培養液Lの移動速度との関係を示す図で、
図7に示す従来の一般的な噴出方法における移動速度と、本発明による噴出方法における移動速度との差を濃淡で表している。白に近いほど本発明による噴出方法における移動速度が早く、黒に近いほど従来の噴出方法における移動速度が早い。
従来の噴出方法では、
図7に示すように、供給管45に接続されて、収納容器2の底部24側に気体Qを噴出する噴出口55nを有する1本の噴出管55を収納容器2の中央に配置している。
なお、移動速度の測定は、
図7の太枠で囲った、収納容器2の左下の、0.09(m)×0.76(m)の領域内で行った。
(a)図は、
図1に示した、筒体の軸方向に延長する管に、所定の間隔を隔てて複数の上向きの噴出口を有する噴出管を用いた場合の移動速度v
1と、従来の噴出方法における移動速度v
0との速度差(v
1-v
0)の分布を示す図で、(b)図は、
図5(a)に示した、収納容器の軸方向に気体を噴出する、互いに対向する2本の噴出管を用いた場合の移動速度v
2と移動速度v
0との速度差(v
2-v
0)の分布を示す図、(c)図は、
図5(b)に示した、収納容器の底部側に気体を噴出する噴出口を有する2本の噴出管を用いた場合の移動速度v
3と移動速度v
0との速度差(v
3-v
0)の分布を示す図である。
図6(a)~(c)では、いずれも、白い部分が多いので、本発明による気体の導入方法は、従来例に比較して、培養液Lの移動速度が速いことがわかる。
したがって、実験結果から、本発明を用いれば、収納容器内は十分攪拌され、培養液L内の気体溶解速度を高めることができるので、微細藻類の培養を効果的に促進させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0016】
1 微細藻類培養装置、2 収納容器、3 気体供給手段、4 供給管、
5 噴出管、5n 噴出口、
20 筒体、21 筒体の側面、22A,22B 蓋部、23 開口部、
G 設置面、L 培養液、Q 気体。