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特許7057153超音波センサ装置及び超音波センサプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】超音波センサ装置及び超音波センサプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/60 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
G01S15/60
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018017241
(22)【出願日】2018-02-02
(65)【公開番号】P2019132800
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】堀内 秀樹
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-004846(JP,A)
【文献】特開2007-170859(JP,A)
【文献】特開2018-009853(JP,A)
【文献】特開平04-102086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 7/52-7/64
G01S 13/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船底に装備された超音波振動子が送受信する超音波ビーム間のドップラ周波数を測定する、又は、測定したドップラ周波数に基づいて、超音波ビームを反射させた目標の速度を測定するドップラ測定部と、
前記ドップラ測定部が測定したドップラ周波数の動揺成分を検出する、又は、前記ドップラ測定部が測定した目標の速度の動揺成分を検出するドップラ動揺検出部と、
前記ドップラ測定部が測定したドップラ周波数に基づいて、前記超音波振動子が装備された船体の速度を測定する、又は、前記ドップラ測定部が測定した目標の速度に基づいて、前記船体の速度を測定する船体速度測定部と、
前記ドップラ動揺検出部が検出したドップラ周波数の動揺成分に基づいて、前記船体の速度の動揺成分を検出する、又は、前記ドップラ動揺検出部が検出した目標の速度の動揺成分に基づいて、前記船体の速度の動揺成分を検出する、又は、前記船体速度測定部が測定した前記船体の速度の動揺成分を検出する船体速度動揺検出部と、
前記船体速度測定部が測定した前記船体の速度から、前記船体速度動揺検出部が検出した前記船体の速度の動揺成分を減算し、前記船体の速度を補正する船体速度補正部と、
を備えることを特徴とする超音波センサ装置。
【請求項2】
前記船体速度動揺検出部は、検出した前記船体の速度の動揺成分から、前記船体の固有振動数に等しい振動数を有する前記船体の速度の動揺成分を抽出し、
前記船体速度補正部は、前記船体速度測定部が測定した前記船体の速度から、前記船体速度動揺検出部が抽出した前記船体の固有振動数に等しい振動数を有する前記船体の速度の動揺成分を減算し、前記船体の速度を補正する
ことを特徴とする、請求項に記載の超音波センサ装置。
【請求項3】
前記船体速度動揺検出部は、抽出した現在の時点までの前記船体の固有振動数に等しい振動数を有する前記船体の速度の動揺成分に基づいて、将来の時点での前記船体の固有振動数に等しい振動数を有する前記船体の速度の動揺成分を予想し、
前記船体速度補正部は、前記船体速度動揺検出部が予想した前記将来の時点での前記船体の固有振動数に等しい振動数を有する前記船体の速度の動揺成分を、前記船体速度測定部が測定する前記将来の時点での前記船体の速度の補正にフィードバックする
ことを特徴とする、請求項に記載の超音波センサ装置。
【請求項4】
船底に装備された超音波振動子が送受信する超音波ビーム間のドップラ周波数を測定する、又は、測定したドップラ周波数に基づいて、超音波ビームを反射させた目標の速度を測定するドップラ測定部と、
前記ドップラ測定部が測定したドップラ周波数の動揺成分を検出する、又は、前記ドップラ測定部が測定した目標の速度の動揺成分を検出するドップラ動揺検出部と、
前記ドップラ測定部が測定したドップラ周波数に基づいて、前記超音波振動子が装備された船体の速度を測定する、又は、前記ドップラ測定部が測定した目標の速度に基づいて、前記船体の速度を測定する船体速度測定部と、
前記船体速度測定部が測定した前記船体の速度から、海洋波の帯域幅内の振動数を有する前記船体の速度の動揺成分を除去し、前記船体の速度を補正する船体速度補正部と、
を備えることを特徴とする超音波センサ装置。
【請求項5】
前記ドップラ動揺検出部が検出したドップラ周波数の動揺成分に基づいて、水平面内に対する前記超音波振動子が装備された船体の動揺成分を検出する、又は、前記ドップラ動揺検出部が検出した目標の速度の動揺成分に基づいて、水平面内に対する前記船体の動揺成分を検出する船体動揺検出部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の超音波センサ装置。
【請求項6】
船底に装備された超音波振動子が送受信する超音波ビーム間のドップラ周波数を測定する、又は、測定したドップラ周波数に基づいて、超音波ビームを反射させた目標の速度を測定するドップラ測定ステップと、
前記ドップラ測定ステップで測定したドップラ周波数の動揺成分を検出する、又は、前記ドップラ測定ステップで測定した目標の速度の動揺成分を検出するドップラ動揺検出ステップと、
前記ドップラ測定ステップで測定したドップラ周波数に基づいて、前記超音波振動子が装備された船体の速度を測定する、又は、前記ドップラ測定ステップで測定した目標の速度に基づいて、前記船体の速度を測定する船体速度測定ステップと、
前記ドップラ動揺検出ステップで検出したドップラ周波数の動揺成分に基づいて、前記船体の速度の動揺成分を検出する、又は、前記ドップラ動揺検出ステップで検出した目標の速度の動揺成分に基づいて、前記船体の速度の動揺成分を検出する、又は、前記船体速度測定ステップで測定した前記船体の速度の動揺成分を検出する船体速度動揺検出ステップと、
前記船体速度測定ステップで測定した前記船体の速度から、前記船体速度動揺検出ステップで検出した前記船体の速度の動揺成分を減算し、前記船体の速度を補正する船体速度補正ステップと、
を順にコンピュータに実行させるための超音波センサプログラム。
【請求項7】
船底に装備された超音波振動子が送受信する超音波ビーム間のドップラ周波数を測定する、又は、測定したドップラ周波数に基づいて、超音波ビームを反射させた目標の速度を測定するドップラ測定ステップと、
前記ドップラ測定ステップで測定したドップラ周波数の動揺成分を検出する、又は、前記ドップラ測定ステップで測定した目標の速度の動揺成分を検出するドップラ動揺検出ステップと、
前記ドップラ測定ステップで測定したドップラ周波数に基づいて、前記超音波振動子が装備された船体の速度を測定する、又は、前記ドップラ測定ステップで測定した目標の速度に基づいて、前記船体の速度を測定する船体速度測定ステップと、
前記船体速度測定ステップで測定した前記船体の速度から、海洋波の帯域幅内の振動数を有する前記船体の速度の動揺成分を除去し、前記船体の速度を補正する船体速度補正ステップと、
を順にコンピュータに実行させるための超音波センサプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、船体が動揺したとしても、船速、潮流、魚群又は深度等の測定精度を向上する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波センサ技術を用いて、水中の目標を高い精度で検出することができる(例えば、特許文献1を参照。)。例えば、プランクトン等からの反射信号のドップラーシフトに基づいて、船体の対水速度や潮流の速度を検出することができる。そして、魚群や海底からの反射信号の伝搬遅延時間に基づいて、魚群や深度を探知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-166698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年は、超音波センサ精度が向上している。すると、従来では問題とならなかった船体の動揺ひいては超音波ビームの動揺に起因して、プランクトン等からの反射信号のドップラーシフトの動揺ひいては船体の対水速度や潮流の速度の動揺が、本来はないはずであるが近年は検出されるようになった。そして、従来では問題とならなかった船体の動揺ひいては超音波ビームの動揺に起因して、魚群や海底からの反射信号の伝搬遅延時間の動揺ひいては魚群や深度の波打ちが、本来はないはずであるが近年は検出されるようになった。
【0005】
そこで、加速度センサを船体に装備し、船体の動揺を検出し、様々な測定値の動揺を除去することが考えられていた。しかし、超音波センサシステムを船体に装備するのみならず、加速度センサも船体に装備する必要があるため、コストが高くなりメンテナンスが必要であるという課題があった。そして、船体の動揺の測定値を加速度センサから超音波センサシステムへと通知する必要があるため、船体の動揺の測定値を超音波センサシステムに瞬時にフィードバックすることが困難であるという課題もあった。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、船体が動揺したとしても、船速、潮流、魚群又は深度等の測定精度を向上するにあたり、コストを低くしてメンテナンスを軽減するとともに、船体の動揺の影響を様々な測定値から瞬時に除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、超音波センサ装置が検出したドップラ周波数又は船体の速度の動揺成分を、水平面内に対する船体の動揺によるものと判断することにより、船体の速度を補正することとした、又は、水平面内に対する船体の動揺を検出することとした。
【0008】
具体的には、本開示は、船底に装備された超音波振動子が送受信する超音波ビーム間のドップラ周波数を測定する、又は、測定したドップラ周波数に基づいて、超音波ビームを反射させた目標の速度を測定するドップラ測定部と、前記ドップラ測定部が測定したドップラ周波数の動揺成分を検出する、又は、前記ドップラ測定部が測定した目標の速度の動揺成分を検出するドップラ動揺検出部と、を備えることを特徴とする超音波センサ装置である。
【0009】
また、本開示は、船底に装備された超音波振動子が送受信する超音波ビーム間のドップラ周波数を測定する、又は、測定したドップラ周波数に基づいて、超音波ビームを反射させた目標の速度を測定するドップラ測定ステップと、前記ドップラ測定ステップで測定したドップラ周波数の動揺成分を検出する、又は、前記ドップラ測定ステップで測定した目標の速度の動揺成分を検出するドップラ動揺検出ステップと、を順にコンピュータに実行させるための超音波センサプログラムである。
【0010】
これらの構成によれば、超音波センサ装置が検出したドップラ周波数の動揺成分を、水平面内に対する船体の動揺によるものと判断することができる。
【0011】
また、本開示は、前記ドップラ測定部が測定したドップラ周波数に基づいて、前記超音波振動子が装備された船体の速度を測定する、又は、前記ドップラ測定部が測定した目標の速度に基づいて、前記船体の速度を測定する船体速度測定部と、前記ドップラ動揺検出部が検出したドップラ周波数の動揺成分に基づいて、前記船体の速度の動揺成分を検出する、又は、前記ドップラ動揺検出部が検出した目標の速度の動揺成分に基づいて、前記船体の速度の動揺成分を検出する、又は、前記船体速度測定部が測定した前記船体の速度の動揺成分を検出する船体速度動揺検出部と、前記船体速度測定部が測定した前記船体の速度から、前記船体速度動揺検出部が検出した前記船体の速度の動揺成分を減算し、前記船体の速度を補正する船体速度補正部と、をさらに備えることを特徴とする超音波センサ装置である。
【0012】
この構成によれば、超音波センサシステムを船体に装備するのみでよいため、コストを低くしてメンテナンスを軽減することができる。そして、船体の速度の動揺成分を超音波センサシステム内で検出するのみでよいため、船体の動揺の影響を船体の速度の測定値から瞬時に減算することができ、船速、潮流、魚群又は深度等の測定精度を向上することができる。
【0013】
また、本開示は、前記船体速度動揺検出部は、検出した前記船体の速度の動揺成分から、前記船体の固有振動数に等しい振動数を有する前記船体の速度の動揺成分を抽出し、前記船体速度補正部は、前記船体速度測定部が測定した前記船体の速度から、前記船体速度動揺検出部が抽出した前記船体の固有振動数に等しい振動数を有する前記船体の速度の動揺成分を減算し、前記船体の速度を補正することを特徴とする超音波センサ装置である。
【0014】
海洋波の振動数の帯域幅は広いものの、特に大型の船体については、船体の動揺成分は船体の固有振動数に等しい振動数に支配される。この構成によれば、特に大型の船体について、船体の動揺の影響を船体の速度の測定値から瞬時に減算することができる。
【0015】
また、本開示は、前記船体速度動揺検出部は、抽出した現在の時点までの前記船体の固有振動数に等しい振動数を有する前記船体の速度の動揺成分に基づいて、将来の時点での前記船体の固有振動数に等しい振動数を有する前記船体の速度の動揺成分を予想し、前記船体速度補正部は、前記船体速度動揺検出部が予想した前記将来の時点での前記船体の固有振動数に等しい振動数を有する前記船体の速度の動揺成分を、前記船体速度測定部が測定する前記将来の時点での前記船体の速度の補正にフィードバックすることを特徴とする超音波センサ装置である。
【0016】
中型の船体については、大型の船体と比べて、船体の固有振動数は速くなる。この構成によれば、特に中型の船体について、将来の時点での船体の動揺の影響の予測値を、将来の時点での船体の速度の測定値に瞬時にフィードバックすることができる。
【0017】
また、本開示は、前記ドップラ測定部が測定したドップラ周波数に基づいて、前記超音波振動子が装備された船体の速度を測定する、又は、前記ドップラ測定部が測定した目標の速度に基づいて、前記船体の速度を測定する船体速度測定部と、前記船体速度測定部が測定した前記船体の速度から、海洋波の帯域幅内の振動数を有する前記船体の速度の動揺成分を除去し、前記船体の速度を補正する船体速度補正部と、をさらに備えることを特徴とする超音波センサ装置である。
【0018】
この構成によれば、超音波センサシステムを船体に装備するのみでよいため、コストを低くしてメンテナンスを軽減することができる。そして、船体の速度の動揺成分を超音波センサシステム内で除去するのみでよいため、船体の動揺の影響を船体の速度の測定値から瞬時に除去することができ、船速、潮流、魚群又は深度等の測定精度を向上することができる。
【0019】
海洋波の振動数の帯域幅は広いところ、特に小型の船体については、船体の動揺成分は海洋波の帯域幅内の振動数に支配される。この構成によれば、特に小型の船体について、船体の動揺の影響を船体の速度の測定値から瞬時に除去することができる。
【0020】
また、本開示は、前記ドップラ動揺検出部が検出したドップラ周波数の動揺成分に基づいて、水平面内に対する前記超音波振動子が装備された船体の動揺成分を検出する、又は、前記ドップラ動揺検出部が検出した目標の速度の動揺成分に基づいて、水平面内に対する前記船体の動揺成分を検出する船体動揺検出部、をさらに備えることを特徴とする超音波センサ装置である。
【0021】
この構成によれば、超音波センサシステムを船体に装備するのみでよいため、コストを低くしてメンテナンスを軽減することができる。そして、ドップラ周波数の動揺成分を超音波センサシステム内で検出するのみでよいため、船体の動揺の影響を様々な測定値から瞬時に除去することができ、船速、潮流、魚群又は深度等の測定精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本開示は、船体が動揺したとしても、船速、潮流、魚群又は深度等の測定精度を向上するにあたり、コストを低くしてメンテナンスを軽減するとともに、船体の動揺の影響を様々な測定値から瞬時に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の超音波センサシステムの構成を示す図である。
図2】本開示の船体速度の測定方法を示す図である。
図3】本開示の超音波センサ装置の構成を示す図である。
図4】本開示の超音波センサ装置の処理を示す図である。
図5】本開示の第1の船体速度の補正方法を示す図である。
図6】本開示の第2の船体速度の補正方法を示す図である。
図7】本開示の船体動揺の検出方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0025】
本開示の超音波センサシステムの構成を図1に示す。超音波センサシステムは、超音波振動子1及び超音波センサ装置2から構成される。超音波振動子1は、船体Sの船底に装備され、超音波ビームを送受信する。超音波センサ装置2は、船体Sの操舵室に装備され、送受信された超音波ビーム間のドップラ周波数に基づいて、超音波ビームを反射させたプランクトンP及び海底B等の目標の相対速度を測定し、船体Sの速度を測定する。
【0026】
本開示の船体速度の測定方法を図2に示す。各回の送受信では、超音波振動子1は、照射パルスを前後方向へと送信し、反射パルスを前後方向から受信する。複数回の送受信では、超音波振動子1は、照射パルスの前後方向への送信及び反射パルスの前後方向からの受信を、所定周期で繰り返す。その結果、超音波センサ装置2は、前方方向及び後方方向でのドップラ周波数の差分に基づいて、船体Sの速度の測定値の時系列を取得する。
【0027】
近年は、超音波センサ精度が向上している。すると、従来では問題とならなかった船体Sの動揺ひいては超音波ビームの動揺に起因して、プランクトンP及び海底B等の目標からの反射信号のドップラーシフトの動揺ひいてはプランクトンP及び海底B等の目標の相対速度の動揺が、本来はないはずであるが近年は検出されるようになった。つまり、船体Sの速度はほぼ一定であるはずが、船体Sの速度の動揺が測定される。そこで、超音波センサ装置2が検出した船体Sの速度の動揺成分を、水平面内に対する船体Sの動揺によるものと判断することにより、船体Sの速度を補正することとした。
【0028】
本開示の超音波センサ装置の構成を図3に示す。超音波センサ装置2は、ドップラ測定部21、ドップラ動揺検出部22、船体速度測定部23、船体速度動揺検出部24、船体速度補正部25、船体速度補正部26及び船体動揺検出部27から構成される。本開示の超音波センサ装置の処理を図4に示す。超音波センサ装置2は、図4の各ステップを順にコンピュータに実行させるための超音波センサプログラムをインストールされる。
【0029】
本開示の超音波センサ装置の処理は、第1の船体速度の補正処理、第2の船体速度の補正処理及び船体動揺の検出処理を含む。以下では、これらの処理をこの順序で説明する。
【0030】
まず、本開示の第1の船体速度の補正方法を図5に示す。ドップラ測定部21は、超音波振動子1が送受信する超音波ビーム間のドップラ周波数を測定する、又は、測定したドップラ周波数に基づいて、超音波ビームを反射させたプランクトンP及び海底B等の目標の相対速度を測定する(ステップS1)。そして、ドップラ動揺検出部22は、ドップラ測定部21が測定したドップラ周波数の動揺成分を検出する、又は、ドップラ測定部21が測定したプランクトンP及び海底B等の目標の相対速度の動揺成分を検出する(ステップS2)。例えば、ドップラ動揺検出部22は、ドップラ周波数又は目標の相対速度から、動揺の1~数周期内でのドップラ周波数又は目標の相対速度の平均値を減算し、ドップラ周波数又は目標の相対速度の動揺成分を検出する。
【0031】
船体速度測定部23は、ドップラ測定部21が測定したドップラ周波数に基づいて、船体Sの速度を測定する、又は、ドップラ測定部21が測定したプランクトンP及び海底B等の目標の相対速度に基づいて、船体Sの速度を測定する(ステップS3)。そして、船体速度動揺検出部24は、ドップラ動揺検出部22が検出したドップラ周波数の動揺成分に基づいて、船体Sの速度の動揺成分を検出する、又は、ドップラ動揺検出部22が検出したプランクトンP及び海底B等の目標の相対速度の動揺成分に基づいて、船体Sの速度の動揺成分を検出する、又は、船体速度測定部23が測定した船体Sの速度の動揺成分を検出する(ステップS4)。例えば、船体速度動揺検出部24は、船体Sの速度から、動揺の1~数周期内での船体Sの速度の平均値を減算し、船体Sの速度の動揺成分を検出する。
【0032】
船体速度補正部25は、船体速度測定部23が測定した船体Sの速度から、船体速度動揺検出部24が検出した船体Sの速度の動揺成分を減算し、船体Sの速度を補正する(ステップS5)。なお、船体速度補正部25の具体的な処理内容については、後述する。
【0033】
このように、超音波センサシステムを船体Sに装備するのみでよいため、コストを低くしてメンテナンスを軽減することができる。そして、船体Sの速度の動揺成分を超音波センサシステム内で検出するのみでよいため、船体Sの動揺の影響を船体Sの速度の測定値から瞬時に減算することができ、船速、潮流、魚群又は深度等の測定精度を向上することができる。
【0034】
ここで、海洋波の振動数の帯域幅は広いものの、特に大型の船体Sについては、船体Sの動揺成分は、船体Sの固有振動数に等しい振動数に支配される。
【0035】
そこで、船体速度動揺検出部24は、検出した船体Sの速度の動揺成分から、船体Sの固有振動数に等しい振動数を有する船体Sの速度の動揺成分を抽出する(ステップS4)。そして、船体速度補正部25は、船体速度測定部23が測定した船体Sの速度から、船体速度動揺検出部24が抽出した船体Sの固有振動数に等しい振動数を有する船体Sの速度の動揺成分を減算し、船体Sの速度を補正する(ステップS5)。
【0036】
このように、特に大型の船体Sについて、船体Sの動揺の影響を船体Sの速度の測定値から瞬時に減算することができる。なお、船体Sの固有振動数は、船体Sの寸法及び質量等に応じて、航行に先立って事前に計算又は測定されてもよく、船体Sの速度の動揺成分に基づいて、航行中であっても事後に測定されてもよい。
【0037】
そして、中型の船体Sについては、大型の船体Sと比べて、船体Sの固有振動数は速くなる。すると、船体Sの動揺の影響を船体Sの速度の測定値から瞬時に減算しにくい。
【0038】
そこで、船体速度動揺検出部24は、抽出した現在の時点までの船体Sの固有振動数に等しい振動数を有する船体Sの速度の動揺成分に基づいて、将来の時点での船体Sの固有振動数に等しい振動数を有する船体Sの速度の動揺成分を予想する(ステップS4)。そして、船体速度補正部25は、船体速度動揺検出部24が予想した将来の時点での船体Sの固有振動数に等しい振動数を有する船体Sの速度の動揺成分を、船体速度測定部23が測定する将来の時点での船体Sの速度の補正にフィードバックする(ステップS5)。
【0039】
このように、特に中型の船体Sについて、将来の時点での船体Sの動揺の影響の予測値を、将来の時点での船体Sの速度の測定値に瞬時にフィードバックすることができる。
【0040】
次に、本開示の第2の船体速度の補正方法を図6に示す。図4のステップS1~S3については、本開示の第1の船体速度の補正方法と同様に実行される。
【0041】
ここで、海洋波の振動数の帯域幅は広いところ、特に小型の船体Sについては、船体Sの動揺成分は、海洋波の帯域幅内の振動数に支配される。
【0042】
そこで、船体速度補正部26は、船体速度測定部23が測定した船体Sの速度から、海洋波の帯域幅内の振動数を有する船体Sの速度の動揺成分を除去し、船体Sの速度を補正する(ステップS6)。例えば、船体速度補正部26は、ローパスフィルタである。
【0043】
このように、超音波センサシステムを船体Sに装備するのみでよいため、コストを低くしてメンテナンスを軽減することができる。そして、船体Sの速度の動揺成分を超音波センサシステム内で除去するのみでよいため、船体Sの動揺の影響を船体Sの速度の測定値から瞬時に除去することができ、船速、潮流、魚群又は深度等の測定精度を向上することができる。
【0044】
そして、特に小型の船体Sについて、船体Sの動揺の影響を船体Sの速度の測定値から瞬時に除去することができる。なお、船体速度補正部26がローパスフィルタであるときには、ローパスフィルタの通過帯域幅は、船舶Sの速度変化の帯域幅を含むように、かつ、帯域通過の処理速度を上げるように、広めに設定されることが望ましい。
【0045】
次に、本開示の船体動揺の検出方法を図7に示す。図4のステップS1~S4については、本開示の第1の船体速度の補正方法と同様に実行される。
【0046】
船体動揺検出部27は、ドップラ動揺検出部22が検出したドップラ周波数の動揺成分に基づいて、水平面内に対する船体Sの動揺成分を検出する。或いは、船体動揺検出部27は、ドップラ動揺検出部22が検出したプランクトンP及び海底B等の目標の相対速度の動揺成分に基づいて、水平面内に対する船体Sの動揺成分を検出する。或いは、船体動揺検出部27は、船体速度動揺検出部24が検出した船体Sの速度の動揺成分に基づいて、水平面内に対する船体Sの動揺成分を検出する(ステップS7)。
【0047】
例えば、船体動揺検出部27は、ドップラ周波数又は目標若しくは船体Sの速度から、動揺の1~数周期内でのドップラ周波数又は目標若しくは船体Sの速度の平均値を減算し、ドップラ周波数又は目標若しくは船体Sの速度の動揺成分を検出し、水平面内に対する船体Sの動揺成分に変数変換する。或いは、船体動揺検出部27は、ドップラ周波数又は目標若しくは船体Sの速度にハイパスフィルタ処理(船体Sの固有振動数及び海洋波の帯域幅内の振動数を通過させる。)を実行し、ドップラ周波数又は目標若しくは船体Sの速度の動揺成分を抽出し、水平面内に対する船体Sの動揺成分に変数変換する。
【0048】
そして、船体動揺検出部27は、水平面内に対する船体Sの動揺成分の情報を、測深装置、魚群探知装置、スキャニング装置又は潮流測定装置等に出力する。
【0049】
このように、超音波センサシステムを船体Sに装備するのみでよいため、コストを低くしてメンテナンスを軽減することができる。そして、ドップラ周波数の動揺成分を超音波センサシステム内で検出するのみでよいため、船体Sの動揺の影響を様々な測定値から瞬時に除去することができ、船速、潮流、魚群又は深度等の測定精度を向上することができる。
【0050】
つまり、プランクトンP及び海底B等からの反射信号のドップラーシフトの動揺が除去され、潮流の速度の動揺が除去される。そして、魚群や海底Bからの反射信号の伝搬遅延時間の動揺が除去され、魚群や深度の波打ちが除去される。
【0051】
本開示では、超音波振動子1が、照射パルスを前後方向へと送信し、反射パルスを前後方向から受信することにより、超音波センサ装置2は、船体Sの前後方向の動揺(ピッチング)の影響を様々な測定値から除去している。変形例として、超音波振動子1が、照射パルスを左右方向へと送信し、反射パルスを左右方向から受信することにより、超音波センサ装置2は、船体Sの左右方向の動揺(ローリング)の影響を様々な測定値から除去してもよい。なお、本開示では、船体Sの前後方向の速度の真値は、数ノット又は数十ノットであり、一方、変形例では、船体Sの左右方向の速度の真値は、ほぼ0ノットである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示の超音波センサ装置及び超音波センサプログラムは、船体の対水速度や潮流の速度を高い精度で検出することができ、魚群や深度を高い精度で探知することができる。
【符号の説明】
【0053】
S:船体
P:プランクトン
B:海底
1:超音波振動子
2:超音波センサ装置
21:ドップラ測定部
22:ドップラ動揺検出部
23:船体速度測定部
24:船体速度動揺検出部
25:船体速度補正部
26:船体速度補正部
27:船体動揺検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7