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特許7057160香料を含まない野菜搾汁液含有飲料における劣化の抑制方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】香料を含まない野菜搾汁液含有飲料における劣化の抑制方法。
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/44 20060101AFI20220412BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
A23L2/44 101
A23L2/02 C
A23L2/00 P
A23L2/02 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018037349
(22)【出願日】2018-03-02
(65)【公開番号】P2019149964
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-01-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 香料不使用の 新・「充実野菜」
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 大奨
(72)【発明者】
【氏名】佐塚 皓二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-119265(JP,A)
【文献】特開2002-078469(JP,A)
【文献】特開昭54-032650(JP,A)
【文献】特開平08-000215(JP,A)
【文献】特開2017-006134(JP,A)
【文献】特開2001-157567(JP,A)
【文献】特開平08-023940(JP,A)
【文献】特表2009-534328(JP,A)
【文献】米国特許第05248515(US,A)
【文献】新感覚!すっきり飲める100%野菜ジュース誕生!!「野菜生活100 Refresh!」777gPETボトル 新発売,ニュースリリース,2009年01月08日,URL:https://www.kagome.co.jp/company/news/2009/000332.html
【文献】プロトシアニジンの抗酸化機能および疾病予防機能とその利用,日本油化学会誌,1999年,Vol.48, No.10,pp.1087-1096
【文献】りんごポリフェノールの抗酸化作用,大阪教育大学附属天王寺中学校 自由研究,vol.47,2017年,pp.73-78
【文献】国内産及び北米産リンゴ果肉の酵素的褐変における速度論的研究,愛知江南短期大学 紀要,35,2006年,1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/44
A23L 2/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
青リンゴ濃縮液を有効成分とする、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料の光及び/又は熱による劣化抑制剤。
【請求項2】
前記青リンゴ濃縮液の力価が100fold又はそれ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の劣化抑制剤
【請求項3】
青リンゴ濃縮液を配合することを特徴とする、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料の光及び/又は熱による劣化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴ濃縮液を含有する組成物であって、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料に配合されるものであることを特徴とする組成物、及び該組成物を含有する野菜搾汁液含有飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者における近年の健康志向の高まりから、天然に由来する原料をより多く摂取することにより健康を増進しようとする動向がみられる。天然に由来する原料の種類は多岐に亘るものの、なかでも野菜類についてはその傾向が強い。
【0003】
しかしながら、天然に由来するかかる原料には味覚や嗅覚の面でクセがあるものが多く、かかる原料を用いた飲食品は継続的に摂取しがたいものが多い。「良薬口に苦し」という諺はあるものの、同様の効果を奏するものであれば、味覚や嗅覚の面でかかるクセは極力小さいものであるのが好ましいのは言うまでもない。
【0004】
特許文献1は、野菜・果物汁に脂肪酸のグリセリンジエステルを添加することにより苦味・臭気を低減する方法を開示している。また、特許文献2は、スクラロースを有効成分とする野菜の青臭さのマスキング剤を開示している。さらに、特許文献3は、野菜果汁飲料に発酵乳を添加することにより野菜由来成分の臭気を抑制する方法を開示している。
【0005】
しかし、特許文献1乃至2は、天然ではない原料を使用するものであるから、天然に由来する原料をより多く摂取しようとする健康志向に沿った製品開発には利用することができない。また、特許文献3は、発酵乳を使用するものであるから、健康志向に沿った製品開発には利用することができるものの、完成品は発酵乳を含有することになるため、製品設計の範囲がどうしても限定されたものになってしまう。
【0006】
【文献】特開平7-51034
【文献】特開2015-130893
【文献】特開2009-284825
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、リンゴ濃縮液を含有する組成物であって、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料に配合されるものであることを特徴とする組成物、及び該組成物を含有する野菜搾汁液含有飲料を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料にリンゴ濃縮液を配合することにより、該野菜搾汁液含有飲料における光及び/又は熱による劣化が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
青リンゴ濃縮液を有効成分とする、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料の光及び/又は熱による劣化抑制剤。
] 前記青リンゴ濃縮液の力価が100fold又はそれ以上であることを特徴とする、[1]に記載の劣化抑制剤
青リンゴ濃縮液を配合することを特徴とする、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料の光及び/又は熱による劣化抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料であって、光及び/又は熱による劣化抑制が抑制された野菜搾汁液含有飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施態様を以下に詳説するが、本発明の技術的範囲を逸脱しない限りにおいて、本発明は下記の態様に限定されるものではない。
【0012】
(野菜搾汁液含有飲料)
本発明において野菜搾汁液含有飲料とは、少なくとも野菜搾汁液を含有する飲料をいう。かかる野菜の種類は、搾汁可能な野菜を用いたものであれば特に種類は限定されない。搾汁可能な野菜としては、例えばニンジン、トマト、ナス、カボチャ、ピーマン、ゴーヤ、ナーベラ、トウガン、オクラ、トウガラシ、トウモロコシ、キュウリ等の果菜類、ニンジン、ゴボウ、タマネギ、タケノコ、レンコン、カブ、ダイコン、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ニンニク、ショウガ等の根菜類、モロヘイヤ、アスパラガス、セロリ、ケール、チンゲンサイ、ホウレンソウ、コマツナ、キャベツ、レタス、ハクサイ、ブロッコリー、カリフラワー、ミツバ、パセリ、ネギ、シュンギク、ニラ等の葉茎類等を挙げることができるがニンジンが特に好ましい。また、上記野菜のいずれか1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合割合は適宜調整することができる。
【0013】
また、野菜搾汁液の原料としては、煮る、焼く、温める、蒸す等の加熱処理や、十分な水洗い、水にさらす、薬品処理する等の非加熱処理を搾汁前後に施すなどして得られた野菜汁を用いることができる。さらに、前記野菜汁を特定の樹脂に通液するなどして野菜汁に含まれる特定の成分を除去した野菜汁も原料として用いることができる。また、これらの工程で得られた野菜汁を単独で用いることができるが、2種以上を適宜用いることもできる。
【0014】
本発明における野菜搾汁液の配合量は、適宜調整することができるが、野菜搾汁液の配合量を飲料全体に対して30~100重量%、好ましくは40~100重量%、より好ましくは45~100重量%、さらに好ましくは50~100重量%、最も好ましくは50~90重量%とするのが好ましい。
また、使用する野菜の種類は1種類でもよいが、2種以上の野菜から得た搾汁液を混合して用いてよい。複数種類の野菜を配合した場合には、その全体に占める各種野菜の割合は適宜調整することができる。
【0015】
(ニンジン搾汁液)
本発明においてニンジン搾汁液とは、ニンジンを破砕若しくは磨砕して搾汁若しくは裏ごしをしたもの、又はこれを濃縮したものを希釈して搾汁の状態に戻したものをいう。例えば、日本農林規格に規定されているニンジンジュースや、ニンジンピューレ、ニンジンペースト等のニンジン加工品を希釈等してニンジン搾汁液として用いてもよい。このようにニンジンの態様は限定されない。なお、ニンジンは1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0016】
(緑葉野菜搾汁液)
本発明において緑葉野菜としては、ケール、大麦若葉、小麦若葉、明日葉、クワ若葉、ホウレンソウ、モロヘイヤ、メキャベツ、ケールなどが挙げられ、好ましくは大麦若葉、ホウレンソウ、モロヘイヤ、メキャベツ、ケール、特に好ましくは大麦若葉が挙げられる。
なお、本発明における緑葉野菜搾汁液には、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明における緑葉野菜搾汁液は、これらの原料は、これら各種野菜の搾汁液をそのまま使用しても良いが、好ましくは葉部や茎部等の可食部をそのまま乾燥後、ミル及び臼等の機械的手法により粉末化したものや、同様に葉部や茎部等の可食部を搾汁して、濃縮化あるいは乾燥粉末化して得られたペースト状のものや搾汁乾燥粉末などを水等の溶媒に溶解させて用いることができる。
【0017】
(果汁)
本発明における野菜搾汁液含有飲料は、野菜搾汁液の他に1種又は2種以上の果汁を含有してもよい(野菜果汁混合飲料)。
本発明において用いることができる果実としては、例えば柑橘類果実(オレンジ、温州ミカン、レモン、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、ユズ、タンジェリン、テンプルオレンジ、タンジェロ、カラマンシー等)、リンゴ、ブドウ、モモ、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、カシス、ブルーベリー、アセロラ、プルーン、パパイヤ、パッションフルーツ、ウメ、ナシ、アンズ、ライチ、メロン、西洋ナシ、スモモ類等が挙げられるが、本発明品の主要野菜原料であるニンジンとの相性を考慮すると、リンゴ、赤ブドウ、白ブドウ、マンゴー、カシス、ブルーベリー等が好ましい。
【0018】
本発明における野菜搾汁液含有飲料では、野菜や果実由来の各種色素成分を利用して色彩鮮やかにすることにより、商品価値をより一層向上させることができる。関与成分としては、例えば赤色に関与するリコペン、黄色に関与するカロテノイド類(例えば、β-カロテン、β-クリプトキサンチン等)、緑色に関与するクロロフィル、紫色に関与するアントシアニン等が挙げられる。これらの成分は野菜及び/又は果実由来の成分をそのまま利用する方法と、関与成分の抽出物や濃縮物を用いて別途添加する方法とがあり、いずれか又は両方を用いることができるが、自然な呈味性を保持するためには野菜及び/又は果実由来の成分をそのまま利用するのが好ましい。
【0019】
本発明においてプロビタミン(provitamin)Aとは、ビタミンAの前駆体を指す。プロビタミンとは、生体内に入ると化学的な変化を受けてビタミンに変化しうる天然化合物のことをいう。プロビタミンAの具体的な例としては、例えばα-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、β-クリプトキサンチン、エキネノン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を適宜割合にて用いることができる。
【0020】
プロビタミンAの測定は公知方法で行うことができる(例えば、「五訂 日本食品標準成分表 分析マニュアルの解説」(財団法人日本食品分析センター(編)、中央法規出版)を参照)。測定方法としては、例えば高速液体クロマトグラフィーにて行うことができる。この場合、標準品には市販品でもよく、例えばα-カロテン標準品(Sigma社製)やβ-カロテン標準品(Merck社製)を用いることができる。また測定機については、例えばLC-10AS(島津製作所製)を用いることができ、検出器については、例えばSPD-10AV(島津製作所製)を用いることができる。
【0021】
本発明におけるプロビタミンAとしては、野菜及び/又は果実の搾汁液や抽出物由来でもよいが、これらをさらに濃縮した濃縮液や濃縮物、あるいは合成により得られるものを使用してもよい。いずれの場合においても、本発明におけるプロビタミンAは公知の方法で取得することができる。本発明における野菜飲料には、プロビタミンAを1000~8000μg/100g、好ましくは1100~4500μg/100g、より好ましくは1100~4000μg/100g、さらに好ましくは1100~2500μg/100g、最も好ましくは1500~2000μg/100gである。
【0022】
本発明の野菜搾汁液含有飲料には、さらに食物繊維を添加することができる。食物繊維は、植物性、藻類性、菌類性食物の細胞壁を構成する成分であって、化学的には多糖類であることが多い。食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維とに大別されるが、本発明の野菜飲料として許容可能なものであればいずれの食物繊維を用いて良い。具体的に水溶性食物繊維とは、ペクチン、グアーガム、アガロース、グルコマンナン、ポリデキストロース、アルギン酸ナトリウムなどを用いることができ、不溶性食物繊維としては、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサンなどが挙げられる。本発明の野菜飲料においては、上記食物繊維から選ばれる1種又は2種以上を0.01~0.7重量%、好ましくは0.05~0.55重量%、さらに好ましくは0.1~0.5重量%、もっとも好ましくは0.2~0.4重量%含有するのがよい。さらに、食物繊維の種類としてはペクチンが好ましい。
【0023】
(pH)
本発明における野菜搾汁液含有飲料のpHは、3.5~4.5であるのが好ましく、3.6~4.4であるのがより好ましく、3.7~4.3であるのがさらに好ましく、3.8~4.2であるのが最も好ましい。
【0024】
(容器)
本発明における野菜搾汁液含有飲料は、容器詰めしたものであってよい(容器詰野菜搾汁液含有飲料)。また、本発明に用いる容器としては、金属缶(スチール缶、アルミニウム缶など)、PETボトル、紙容器、壜等であってよく、これら容器の形状や色彩は問わないが、市場性や簡便性を考慮すると、金属缶、PETボトル、紙容器を用いるのが好ましい。
【0025】
(リンゴ濃縮液)
本発明においてリンゴ濃縮液とは、リンゴ搾汁液を濃縮、冷却及び濃縮したものをいう。リンゴ搾汁液は、上述の野菜搾汁液を得るのに用いた方法又はこれに準じる方法により得ることができる。また、リンゴ濃縮液は、上記で得られたリンゴ搾汁液に濃縮処理をして得たものをいうが、濃縮処理については公知の方法を利用することができる。
【0026】
なお、本発明において、リンゴ濃縮液を含有する組成物の配合割合は、その力価により変動するものの、リンゴ濃縮液の力価が150~250foldである場合、野菜搾汁液含有飲料の重量全体に対して0.1~5.0%であるのが好ましく、0.3~3.0%であるのがより好ましく、0.6~2.5%であるのがさらに好ましく、1.0~2.0%であるのが最も好ましい。
【0027】
(力価)
本発明において力価とは、濃縮液の濃縮倍数をいう。濃縮液の濃縮倍数は、foldでもって表されるが、例えば「10 fold」とは「10倍濃縮」を意味する。
本発明における組成物の力価は、100 fold又はそれ以上であるのが好ましく、100~500foldであるのがより好ましく、150~300foldであるのがさらに好ましく、200~250foldであるのが最も好ましい。
上述のとおり、本発明における力価は濃縮液の濃縮倍数を意味するものであるから、濃縮液の製造にあたって濃縮度合いを調整することにより適宜調整することができる。また、濃縮液を製造するための濃縮方法は、公知の方法を適宜用いることができる。
【0028】
(劣化)
本発明において「光劣化」とは、光が照射される環境下に一定期間放置された飲料が、その色調や香味において劣化することをいう。また、本発明において「熱劣化」とは、加熱環境下に一定期間放置された飲料が、その色調や香味において劣化することをいう。いずれの劣化も、飲料が過酷な環境下におかれた場合に生じるものであって品質面では好ましいものではない。
本発明におけるリンゴ濃縮液を含有する組成物は、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料に配合されるものであるが、該組成物を添加した野菜搾汁液含有飲料は、香料を添加した従来型の野菜搾汁液含有飲料と比較して、光劣化及び/又は熱劣化に対して同等又はそれ以上の効果を奏する点で特長的である。
【0029】
(香味付与)
本発明において「香味付与」とは、野菜搾汁液含有飲料に化学香料を添加しないことにより生じる香味不足を補完することをいう。ここで、化学香料とは化学的変化を経ることにより得られる香料を意味するが、化学的変化によらない操作(物理的変化を含む)により得られる香料は、ここでいう香料に含まれない。
一般的に、化学香料は飲食品等において不足する香味を補完するために用いられる。このため、化学香料を飲食品等に使用しない場合、その分の香味は低下する傾向にある。不足した香味を補うために原料の配合割合をその分高める方法も考えられるが、原料費の上昇に繋がるばかりでなく、予想に反して所望の効果が得られない場合もある。
消費者は、飲食品については美味しさを第一に求めるものの、同時に安全性を求める傾向にある。このような動きと相俟って、消費者のなかには、化学的原料を極力忌避しようとする動向もみられる。本発明における香味付与剤は、かかる要請を満たそうとするものであり、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料であっても、本発明における香味付与剤を用いることにより、化学香料を使用した製品と同等の香味を有する野菜搾汁液含有飲料を提供するものである。
【0030】
(マスキング)
また、化学香料は、飲食品等において必ずしも好ましくない臭気を抑制(マスキング)することを目的に用いられることもある。このため、化学香料を飲食品等に使用しない場合、その分の臭気が目立つ傾向にある。かかる臭気を抑制(マスキング)するために原料の配合割合をその分高める方法も考えられるが、原料費の上昇に繋がるばかりでなく、予想に反して所望の効果が得られない場合もある。
消費者は、飲食品については美味しさを第一に求めるものの、同時に安全性を求める傾向にある。このような動きと相俟って、消費者のなかには、化学的原料を極力忌避しようとする動向もみられる。本発明におけるマスキング剤は、かかる要請を満たそうとするものであり、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料であっても、本発明におけるマスキング剤を用いることにより、化学香料を使用した製品と同等の臭気を抑制(マスキング)する効果を有する野菜搾汁液含有飲料を提供するものである。
【実施例
【0031】
本発明につき実施例を用いて以下に詳説するが、本発明は以下に記載の実施例により限定されるものではない。
【0032】
<試験1:リンゴ濃縮液の調製>
赤リンゴ果実を粉砕・搾汁して得た赤リンゴ果実搾汁液(赤リンゴ搾汁液)を煮沸し、これにより生じた蒸気を回収し、冷却して濃縮することにより、赤リンゴ果実搾汁液濃縮液(赤リンゴ濃縮液)を得た。なお、得られた赤リンゴ濃縮液の力価は、150fold,250fold,3000fold,5000foldとなるように調製した。
また、赤リンゴに代えて青リンゴを用いる以外は同一の方法により、青リンゴ果実搾汁液濃縮液(青リンゴ濃縮液)を得た。
【0033】
<試験2:野菜果汁混合飲料における劣化試験1>
ニンジン搾汁液60%、リンゴ果汁35%、ブドウ5%からなる野菜汁及び果汁の混合飲料(野菜果汁混合飲料)を調整し、試験1にて取得した赤リンゴ濃縮液又は青リンゴ濃縮液を野菜果汁混合飲料に対して所定量配合し、リンゴ濃縮液が野菜果汁混合飲料における光及び熱に起因する劣化に対して抑制効果があるか調べた。
リンゴ濃縮液を添加しない野菜果汁混合飲料をコントロール(C)とし、赤リンゴ濃縮液であって力価(fold)を夫々150fold,250fold,3000fold,5000foldに調整したものを野菜果汁混合飲料に所定量配合したものを用意した(サンプル1~4)。そして、サンプル1~4を各々2つに分けて、一つを光照射による経時試験(光照射試験)に、もう一つを加熱による経時試験(熱劣化試験)にそれぞれ供した。
また、赤リンゴ濃縮液に代えて青リンゴ濃縮液を使用する以外は、全く同様の手法により、青リンゴ濃縮液を用いたサンプルも用意した(サンプル5~8)。
【0034】
(光照射試験)
光照射試験においては、10000ルクスの光照射を25℃で2週間経過後(光2W)、暗所にて5℃で同期間保管した基準品との比較にて実施した。
【0035】
(熱劣化試験)
また、熱劣化試験においては、45℃で暗所にて1ヶ月間経過後(45℃1ヶ月)、暗所にて5℃で同期間保管した基準品との比較にて実施した。
【0036】
訓練されたパネラー7人が所定の試験期間が終了したサンプルを官能評価した。なお、各評価方法は、官能では5℃保管品(基準品)と比較し、香味の変化を数値化して評価した。下記の減点評価法条件に基づいて実施し、各パネラーの平均値を採用した。
±0点:変化無し(5℃保管品と同レベル)
-1点:香味の変化が若干認められる
-2点:香味の変化が認められる

なお、総合評価としては、光照射試験(光劣化)と熱劣化試験(熱劣化)のいずれか又は両方において、各サンプルがコントロール(C)と比較して、両方が優れている場合には○、いずれか一方が優れている又は同等の場合には△、いずれも劣っている場合には×を付した。
【0037】
【表1】
【0038】
(考察)
光照射試験の結果、光照射試験後のサンプル1,2ではセロハンのような劣化臭が特に感じられ、サンプル7,8でもセロハンのような劣化臭がやや感じられた。これに対して、サンプル3,4,5,6は、コントロールと比較して良好であり、劣化抑制の効果が認められた。
一方、熱劣化試験の結果、熱劣化試験後のサンプルは、いずれもコントロールと同等程度の劣化であり、本発明におけるリンゴ濃縮液を含有する組成物が製品の劣化を促すような効果は認められなかった。
【0039】
<試験3:野菜果汁混合飲料における劣化試験2>
ニンジン搾汁液60%、リンゴ果汁35%、オレンジ5%からなる野菜汁及び果汁の混合飲料(野菜果汁混合飲料)を調整し、試験1にて取得した赤リンゴ濃縮液又は青リンゴ濃縮液を野菜果汁混合飲料に対して所定量配合し、リンゴ濃縮液が野菜果汁混合飲料に対して光及び熱に起因する劣化対してこれらを抑制する効果があるか調べた。
リンゴ濃縮液を添加しない野菜果汁混合飲料をコントロール(C)とし、青リンゴ濃縮液であって力価(fold)を250foldに調整したものと、赤リンゴ濃縮液であって力価(fold)を5000foldに調整したものとを野菜果汁混合飲料に所定量配合したものを用意し、光照射試験及び熱劣化試験に供した。
光照射試験においては、25℃・10000ルクスの光照射を2週間、各サンプルに対して継続的に実施した。また、熱劣化試験においては、45℃で暗所にて1ヶ月間、保管することにより実施した。
【0040】
【表2】
【0041】
(考察)
光照射試験の結果、光照射試験後のサンプル12~18では、コントロールと比較して良好であった。一方、熱劣化試験の結果、熱劣化試験後のサンプル12~18では、コントロールと比較して良好であった。
この結果から、リンゴ濃縮液を含有する組成物として青リンゴ濃縮液を単独で用いるのが特に好適であるが、配合割合等によっては、青リンゴ濃縮液と赤リンゴ濃縮液とを併用しても好適であることがわかった。
【0042】
<試験4:緑色系の野菜果汁混合飲料における劣化試験1>
ホウレンソウ搾汁液30%、モヤシ搾汁液30%、リンゴ果汁40%からなる緑色系の野菜汁及び果汁の混合飲料(野菜果汁混合飲料)を調整し、試験2におけるニンジン搾汁液を含有する野菜果汁混合飲料に代えて試験に供する以外は同様の方法でもって、リンゴ濃縮液が野菜果汁混合飲料に対して光及び熱に起因する劣化対してこれらを抑制する効果があるか調べた。
【0043】
【表3】
【0044】
(考察)
光照射試験の結果、光照射試験後のサンプル3~6,9,10は、コントロール(香料有り)と比較して同等又は劣化が進んでいた。一方、熱劣化試験の結果、熱劣化試験後のサンプル4~6,9,10は、コントロール(香料有り)と比較して同等又は劣化が進んでいた。
この結果から、リンゴ濃縮液を含有する組成物として青リンゴ濃縮液を単独で用いるのが特に好適であるが、配合割合等によっては、赤リンゴ濃縮液を用いても好適であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、リンゴ濃縮液を含有する組成物であって、香料を含まない野菜搾汁液含有飲料に配合されるものであることを特徴とする組成物、及び該組成物を含有する野菜搾汁液含有飲料を提供することを目的とする。
香料を含まない野菜搾汁液含有飲料にリンゴ濃縮液を配合することにより、香料を含む野菜搾汁液含有飲料と比較して同等又はそれ以上の程度で光劣化や熱劣化を抑制することができる。