(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】気象レーダ偽像判定装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/95 20060101AFI20220412BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20220412BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20220412BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
G01S13/95
G01S7/02 216
G01W1/00 C
H01Q3/26 Z
(21)【出願番号】P 2018039691
(22)【出願日】2018-03-06
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】柏柳 太郎
(72)【発明者】
【氏名】諸富 和臣
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-045132(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0002329(US,A1)
【文献】特開平08-201506(JP,A)
【文献】米国特許第06087976(US,A)
【文献】特開昭63-166305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95,
G01W 1/00,
H01Q 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーム方向の電子走査を行ない、受信電力を送信ゲイン及び受信ゲインで規格化して反射因子を算出するフェーズドアレイ気象レーダにおいて、
所定の仰角より高い仰角において、同一のビーム方向及び同一のレンジビンにおいて
、第1の受信ビームが形成されているときにおける第1の反射因子と、メインローブ幅が
前記第1の受信ビームより広くサイドローブレベルが
前記第1の受信ビームより低い第2の受信ビームが形成されているときにおける第2の反射因子と、を算出する反射因子算出部と、
前記所定の仰角より高い仰角において、前記同一のビーム方向及び前記同一のレンジビンにおいて、前記第1の反射因子から前記第2の反射因子を減算した結果が所定の閾値以上であるときに、前記第1の反射因子及び前記第2の反射因子が
雲の偽像によるものであると判定する偽像判定部と、
を備えることを特徴とする気象レーダ偽像判定装置。
【請求項2】
前記偽像判定部は、
前記所定の仰角より高い仰角において、前記同一のビーム方向及び前記同一のレンジビンにおいて、前記第1の反射因子から前記第2の反射因子を減算した結果が前記所定の閾値未満であるときに、前記第1の反射因子及び前記第2の反射因子が
雲の実像によるものであると判定し、前記第1の反射因子を正規の反射因子として採用する
ことを特徴とする、請求項1に記載の気象レーダ偽像判定装置。
【請求項3】
前記反射因子算出部は、
前記所定の仰角より低い仰角において、前記第2の反射因子を算出せず前記第1の反射因子のみ算出し、前記偽像判定部は、前記所定の仰角より低い仰角において、前記第1の反射因子を正規の反射因子として採用する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の気象レーダ偽像判定装置。
【請求項4】
ビーム方向の電子走査を行ない、受信電力を送信ゲイン及び受信ゲインで規格化して反射因子を算出するフェーズドアレイ気象レーダにおいて、
所定の仰角より高い仰角において、同一のビーム方向及び同一のレンジビンにおいて
、第1の受信ビームが形成されているときにおける第1の反射因子と、メインローブ幅が
前記第1の受信ビームより広くサイドローブレベルが
前記第1の受信ビームより低い第2の受信ビームが形成されているときにおける第2の反射因子と、を算出する反射因子算出ステップと、
前記所定の仰角より高い仰角において、前記同一のビーム方向及び前記同一のレンジビンにおいて、前記第1の反射因子から前記第2の反射因子を減算した結果が所定の閾値以上であるときに、前記第1の反射因子及び前記第2の反射因子が
雲の偽像によるものであると判定する偽像判定ステップと、
を順にコンピュータに実行させるための気象レーダ偽像判定プログラム。
【請求項5】
ビーム方向の電子走査を行ない、受信電力を送信ゲイン及び受信ゲインで規格化して反射因子を算出するフェーズドアレイ気象レーダにおいて、
所定の仰角より高い仰角において、同一のビーム方向及び同一のレンジビンにおいて
、第1の受信ビームが形成されているときにおける第1の反射因子と、メインローブ幅が
前記第1の受信ビームより広くサイドローブレベルが
前記第1の受信ビームより低い第2の受信ビームが形成されているときにおける第2の反射因子と、を算出する反射因子算出ステップと、
前記所定の仰角より高い仰角において、前記同一のビーム方向及び前記同一のレンジビンにおいて、前記第1の反射因子から前記第2の反射因子を減算した結果が所定の閾値以上であるときに、前記第1の反射因子及び前記第2の反射因子が
雲の偽像によるものであると判定する偽像判定ステップと、
を順に備えることを特徴とする気象レーダ偽像判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおける、反射因子が偽像によるものか実像によるものであるかを判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
仰角方向の電子走査を行なうことにより、仰角方向の高速スキャンを行なうことができる、フェーズドアレイ気象レーダが知られている。ここで、送受信アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を適応的に制御して、送受信ビームの仰角方向の指向性を適応的に調整する、アダプティブビームフォーミングが知られている(例えば、特許文献1等を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
気象レーダの表示画像を
図1に示す。ここで、約20km~25kmのレンジ及び約0°~20°の仰角において、積乱雲が表示されている。しかし、約23kmのレンジ及び約20°~45°の仰角において、積乱雲の上層部による実像が表示されているのか、受信ビームのサイドローブによる偽像が表示されているのか、明確ではない。
【0005】
そこで、受信ビームの仰角方向の指向性を適応的に調整して、受信ビームのサイドローブによる偽像を低減する、アダプティブビームフォーミングが考えられる。しかし、受信アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を適応的に制御すると、計算量が大きくなる。そして、受信ビームのサイドローブレベルを低くすると、受信ビームのメインローブ幅が広くなり、受信ビームのゲインが小さくなり、観測精度が低くなる。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおいて、計算量を大きくせず受信ビームのサイドローブによる偽像を低減し、観測精度を低くせず積乱雲等による実像を表示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、メインローブ幅がより狭くサイドローブレベルがより高い第1の受信ビームが形成されているときにおける第1の反射因子と、メインローブ幅がより広くサイドローブレベルがより低い第2の受信ビームが形成されているときにおける第2の反射因子と、を算出する。そして、第1の反射因子から第2の反射因子を減算した結果が大きいときに、第1の反射因子及び第2の反射因子が偽像によるものであると判定する。一方で、第1の反射因子から第2の反射因子を減算した結果が小さいときに、第1の反射因子及び第2の反射因子が実像によるものであると判定する。
【0008】
具体的には、本開示は、ビーム方向の電子走査を行ない、受信電力を送信ゲイン及び受信ゲインで規格化して反射因子を算出するフェーズドアレイ気象レーダにおいて、同一のビーム方向及び同一のレンジビンにおいて、メインローブ幅がより狭くサイドローブレベルがより高い第1の受信ビームが形成されているときにおける第1の反射因子と、メインローブ幅がより広くサイドローブレベルがより低い第2の受信ビームが形成されているときにおける第2の反射因子と、を算出する反射因子算出部と、前記同一のビーム方向及び前記同一のレンジビンにおいて、前記第1の反射因子から前記第2の反射因子を減算した結果が所定の閾値以上であるときに、前記第1の反射因子及び前記第2の反射因子が偽像によるものであると判定する偽像判定部と、を備えることを特徴とする気象レーダ偽像判定装置である。
【0009】
また、本開示は、ビーム方向の電子走査を行ない、受信電力を送信ゲイン及び受信ゲインで規格化して反射因子を算出するフェーズドアレイ気象レーダにおいて、同一のビーム方向及び同一のレンジビンにおいて、メインローブ幅がより狭くサイドローブレベルがより高い第1の受信ビームが形成されているときにおける第1の反射因子と、メインローブ幅がより広くサイドローブレベルがより低い第2の受信ビームが形成されているときにおける第2の反射因子と、を算出する反射因子算出ステップと、前記同一のビーム方向及び前記同一のレンジビンにおいて、前記第1の反射因子から前記第2の反射因子を減算した結果が所定の閾値以上であるときに、前記第1の反射因子及び前記第2の反射因子が偽像によるものであると判定する偽像判定ステップと、を順にコンピュータに実行させるための気象レーダ偽像判定プログラムである。
【0010】
また、本開示は、ビーム方向の電子走査を行ない、受信電力を送信ゲイン及び受信ゲインで規格化して反射因子を算出するフェーズドアレイ気象レーダにおいて、同一のビーム方向及び同一のレンジビンにおいて、メインローブ幅がより狭くサイドローブレベルがより高い第1の受信ビームが形成されているときにおける第1の反射因子と、メインローブ幅がより広くサイドローブレベルがより低い第2の受信ビームが形成されているときにおける第2の反射因子と、を算出する反射因子算出ステップと、前記同一のビーム方向及び前記同一のレンジビンにおいて、前記第1の反射因子から前記第2の反射因子を減算した結果が所定の閾値以上であるときに、前記第1の反射因子及び前記第2の反射因子が偽像によるものであると判定する偽像判定ステップと、を順に備えることを特徴とする気象レーダ偽像判定方法である。
【0011】
この構成によれば、少なくとも2種類の受信ビームを形成するのみでよいため、計算量を大きくせず受信ビームのサイドローブによる偽像を低減することができる。
【0012】
また、本開示は、前記偽像判定部は、前記同一のビーム方向及び前記同一のレンジビンにおいて、前記第1の反射因子から前記第2の反射因子を減算した結果が前記所定の閾値未満であるときに、前記第1の反射因子及び前記第2の反射因子が実像によるものであると判定し、前記第1の反射因子を正規の反射因子として採用することを特徴とする気象レーダ偽像判定装置である。
【0013】
この構成によれば、メインローブ幅がより狭い受信ビームを形成して反射因子を算出するため、観測精度を低くせず積乱雲等による実像を表示することができる。
【0014】
また、本開示は、前記反射因子算出部は、所定の仰角より低い仰角において、前記第2の反射因子を算出せず前記第1の反射因子のみ算出し、前記偽像判定部は、前記所定の仰角より低い仰角において、前記第1の反射因子を正規の反射因子として採用することを特徴とする気象レーダ偽像判定装置である。
【0015】
この構成によれば、積乱雲等が発達しやすい低仰角側において、受信ビームのサイドローブによる偽像が表示されにくいことを利用して、計算量を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本開示によれば、ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおいて、計算量を大きくせず受信ビームのサイドローブによる偽像を低減し、観測精度を低くせず積乱雲等による実像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本開示の気象レーダ装置の構成を示す図である。
【
図3】本開示の偽像判定の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】本開示の偽像と判定する場合の処理を示す図である。
【
図5】本開示の実像と判定する場合の処理を示す図である。
【
図6】本開示の送受信ビームの形成方法を示す図である。
【
図7】本開示の送受信ビームの形成方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0019】
本開示の気象レーダ装置の構成を
図2に示す。本開示の偽像判定の処理手順を
図3に示す。気象レーダ装置Mは、送信ビーム形成装置1、受信ビーム形成装置2、送受信ビーム制御装置3及び偽像判定装置4を備える。偽像判定装置4は、反射因子算出部41及び偽像判定部42を備える。汎用のコンピュータに偽像判定プログラムをインストールすることにより、そのコンピュータを偽像判定装置4として機能させることができる。
【0020】
送信ビーム形成装置1及び受信ビーム形成装置2は、フェーズドアレイアンテナであるが、
図6及び
図7と関連して後に詳述する。送受信ビーム制御装置3は、送受信ビームの仰角方向の指向性を調整するが、
図3から
図5までと関連して後に詳述する。
【0021】
まず、所定の角度θThより高い仰角θAでの処理手順を説明する(ステップS1においてYES)。積乱雲等が発達しにくい高仰角側において、受信ビームのサイドローブによる偽像が表示されやすいことを考慮して、以下のような処理手順を実行する。
【0022】
送受信ビーム制御装置3は、メインローブ幅がより狭くサイドローブレベルがより高い第1の受信ビームを形成するように、受信ビーム形成装置2を制御する。そして、反射因子算出部41は、仰角θ
A及びあるレンジビンにおいて、第1の受信ビームが形成されているときにおける第1の反射因子Z
1(θ
A)を算出する(ステップS2)。具体的には、反射因子算出部41は、受信電力P
1(θ
A)を送信ゲインG
Tx及び受信ゲインG
Rx1で規格化して、第1の反射因子Z
1(θ
A)を算出する(数1を参照、Cは比例係数。)。
【数1】
【0023】
送受信ビーム制御装置3は、メインローブ幅がより広くサイドローブレベルがより低い第2の受信ビームを形成するように、受信ビーム形成装置2を制御する。そして、反射因子算出部41は、仰角θ
A及び同一のレンジビンにおいて、第2の受信ビームが形成されているときにおける第2の反射因子Z
2(θ
A)を算出する(ステップS3)。具体的には、反射因子算出部41は、受信電力P
2(θ
A)を送信ゲインG
Tx及び受信ゲインG
Rx2で規格化して、第2の反射因子Z
2(θ
A)を算出する(数2を参照、Cは比例係数。)。
【数2】
【0024】
本開示の偽像と判定する場合の処理を
図4に示す(ステップS4においてYES、ステップS5及びステップS6)。
図4では、受信ビームのメインローブの仰角θ
Aより低い、受信ビームのサイドローブの仰角θ
Sにおいては、積乱雲等が分布している。一方で、受信ビームのメインローブの仰角θ
Aにおいては、積乱雲等が分布していない。
【0025】
よって、第1、2の反射因子Z1(θA)、Z2(θA)は、第1、2の受信ビームのサイドローブ(仰角θS)による寄与のみ含んでおり、第1、2の受信ビームのメインローブ(仰角θA)による寄与を含んでいない。ここで、第1の受信ビームのサイドローブレベルは、第2の受信ビームのサイドローブレベルより高いため、第1の受信ビームのサイドローブによる寄与は、第2の受信ビームのサイドローブによる寄与より大きくなる。
【0026】
そこで、偽像判定部42は、仰角θA及び同一のレンジビンにおいて、第1の反射因子Z1(θA)から第2の反射因子Z2(θA)を減算した結果Z1(θA)-Z2(θA)が所定の閾値ZTh以上であると判定する(ステップS4においてYES)。そして、偽像判定部42は、仰角θA及び同一のレンジビンにおいて、第1の反射因子Z1(θA)及び第2の反射因子Z2(θA)が偽像によるものであると判定する(ステップS5)。
【0027】
ここで、第1の受信ビームの平均的なサイドローブレベルが、第2の受信ビームの平均的なサイドローブレベルより、ZS[dBZ]だけ高いことを考慮したうえで、所定の閾値ZTh[dBZ]をZS[dBZ]より小さく設定すればよい。
【0028】
さらに、偽像判定部42は、反射因子Z(θA)を無効に設定するか、信号がないとみなせる小さな値又は第2の反射因子Z2(θA)を正規の反射因子Z(θA)として採用する(ステップS6)。
【0029】
このように、少なくとも2種類の受信ビームを形成するのみでよいため、計算量を大きくせず受信ビームのサイドローブによる偽像を低減することができる。
【0030】
本開示の実像と判定する場合の処理を
図5に示す(ステップS4においてNO、ステップS7及びステップS8)。
図5では、受信ビームのメインローブの仰角θ
Aより低い、受信ビームのサイドローブの仰角θ
Sにおいては、積乱雲等が分布している。そして、受信ビームのメインローブの仰角θ
Aにおいても、積乱雲等が分布している。
【0031】
よって、第1、2の反射因子Z1(θA)、Z2(θA)は、第1、2の受信ビームのサイドローブ(仰角θS)による寄与を含むのみならず、第1、2の受信ビームのメインローブ(仰角θA)による寄与を含んでいる。ここで、第1の受信ビームのメインローブレベルは、第2の受信ビームのメインローブレベルより高いものの、第1の受信ビームのメインローブによる寄与は、第2の受信ビームのメインローブによる寄与とほぼ等しくなる。なぜならば、第1、2の反射因子Z1(θA)、Z2(θA)は、受信電力P1(θA)、P2(θA)を送信ゲインGTx及び受信ゲインGRx1、GRx2で規格化したものだからである。
【0032】
そこで、偽像判定部42は、仰角θA及び同一のレンジビンにおいて、第1の反射因子Z1(θA)から第2の反射因子Z2(θA)を減算した結果Z1(θA)-Z2(θA)が所定の閾値ZTh未満であると判定する(ステップS4においてNO)。そして、偽像判定部42は、仰角θA及び同一のレンジビンにおいて、第1の反射因子Z1(θA)及び第2の反射因子Z2(θA)が実像によるものであると判定する(ステップS7)。
【0033】
ここで、所定の閾値ZTh[dBZ]を0[dBZ]より大きく設定すればよい。或いは、第1の受信ビームのメインローブ幅の全体に渡り、積乱雲等が分布しているが、第2の受信ビームのメインローブ幅の一部のみに、積乱雲等が分布している場合を考慮したうえで、所定の閾値ZTh[dBZ]を~3[dBZ]より大きく設定すればよい。
【0034】
さらに、偽像判定部42は、第1の反射因子Z1(θA)を正規の反射因子Z(θA)として採用する(ステップS8)。
【0035】
このように、メインローブ幅がより狭い受信ビームを形成して反射因子を算出するため、観測精度を低くせず積乱雲等による実像を表示することができる。
【0036】
次に、所定の角度θThより低い仰角θAでの処理手順を説明する(ステップS1においてNO)。積乱雲等が発達しやすい低仰角側において、受信ビームのサイドローブによる偽像が表示されにくいことを考慮して、以下のような処理手順を実行する。
【0037】
送受信ビーム制御装置3は、メインローブ幅がより狭くサイドローブレベルがより高い第1の受信ビームを形成するように、受信ビーム形成装置2を制御する。そして、反射因子算出部41は、仰角θ
A及びあるレンジビンにおいて、第1の受信ビームが形成されているときにおける第1の反射因子Z
1(θ
A)を算出する(ステップS9)。具体的には、反射因子算出部41は、受信電力P
1(θ
A)を送信ゲインG
Tx及び受信ゲインG
Rx1で規格化して、第1の反射因子Z
1(θ
A)を算出する(数3を参照、Cは比例係数。)。
【数3】
【0038】
そして、偽像判定部42は、第1の反射因子Z1(θA)を正規の反射因子Z(θA)として採用する(ステップS10)。
【0039】
このように、積乱雲等が発達しやすい低仰角側において、受信ビームのサイドローブによる偽像が表示されにくいことを利用して、計算量を小さくすることができる。
【0040】
本開示の送受信ビームの形成方法を
図6及び
図7に示す。送受信ビーム制御装置3は、一の送信ビームのビーム幅に含まれる複数の受信ビームを一の送信ビームと同時に形成するように、送信ビーム形成装置1及び受信ビーム形成装置2を制御する。
【0041】
送信ビーム形成装置1は、仰角方向のビーム幅がより広い送信ビームで、電波を雨雲等の物標へと照射するために、発振器11、複数の送信アンテナ素子14、及び、各送信アンテナ素子14についての各移相器12及び各増幅器13から構成される。
【0042】
受信ビーム形成装置2は、仰角方向のビーム幅がより狭い受信ビームで、雨雲等の物標から反射又は散乱された電波を受信するために、複数の受信アンテナ素子21、各受信アンテナ素子21についての各増幅器22、各移相器23、及び、各移相器23からの出力を合成する合成器24から構成される。また、複数の受信ビームを一の送信ビーム内に同時に形成するために、各々の受信ビームについて複数の受信アンテナ素子21を共用したうえで、各々の受信ビームについて各々の受信ビーム形成装置2を搭載している。
【0043】
本開示のフェーズドアレイ気象レーダでは、送信ビームの仰角方向のビーム幅(
図6及び
図7では、約10°)を広くするとともに、受信ビームの仰角方向のビーム幅(
図6及び
図7では、約1°)を狭くすることにより、複数の受信ビームを一の送信ビーム内に同時に形成する。そして、送信ビームの仰角方向及び複数の受信ビームの仰角方向を、約10°だけ同時に移動させることにより、仰角方向の高速スキャンを行なう。
【0044】
実施形態では、仰角方向について、本開示の発明を適用している。変形例として、仰角方向のみならず、方位角方向についても、本開示の発明を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本開示の気象レーダ偽像判定装置、プログラム及び方法は、計算量を大きくせず受信ビームのサイドローブによる偽像を低減し、観測精度を低くせず積乱雲等による実像を表示することができる。
【符号の説明】
【0046】
M:気象レーダ装置
1:送信ビーム形成装置
2:受信ビーム形成装置
3:送受信ビーム制御装置
4:偽像判定装置
11:発振器
12:移相器
13:増幅器
14:送信アンテナ素子
21:受信アンテナ素子
22:増幅器
23:移相器
24:合成器
41:反射因子算出部
42:偽像判定部