(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】アルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20220412BHJP
H01G 9/052 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
H01G9/00 290A
H01G9/052 509
(21)【出願番号】P 2018049199
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2020-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕太
(72)【発明者】
【氏名】片野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】平 敏文
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和也
(72)【発明者】
【氏名】曾根 慎也
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-347681(JP,A)
【文献】特開2014-057000(JP,A)
【文献】特開平02-216811(JP,A)
【文献】特開平11-054381(JP,A)
【文献】特開2000-003835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質層を備えたアルミニウム電極を温度が80℃以上の第1水和処理液に浸漬して前記アルミニウム電極に水和皮膜を形成する第1水和処理工程と、
前記第1水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を温度が150℃以上、かつ350℃以下の雰囲気中で加熱する脱水工程と、
前記脱水工程の後、前記アルミニウム電極を温度が80℃以上の第2水和処理液に浸漬する第2水和処理工程と、
前記第2水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を化成する化成工程と、
を有し、
前記第1水和処理液および前記第2水和処理液のうち、少なくとも一方の水和処理液は、水に水和抑制剤が配合されており、
前記水和抑制剤は、炭素数が3以上の糖、または炭素数が3以上の糖アルコールであることを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項2】
前記化成工程では、前記アルミニウム電極を400V以上の化成電圧で化成を行うことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項3】
前記化成工程では、前記アルミニウム電極を600V以上の化成電圧で化成を行うことを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム電極は、芯材にアルミニウム粉体の焼結層からなる前記多孔質層が1層当たり200μm以上、かつ50000μm以下の厚さで積層された多孔性アルミニウム電極であることを特徴とする請求項1から3までの何れか一項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項5】
前記第1水和処理液および前記第2水和処理液は、pHが5.0以上、かつ9.0以下であることを特徴とする請求項1から4までの何れか一項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項6】
前記水和抑制剤は、リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フコース、フクロース、ラムノース、セドヘプツロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、ラクチトール、マルチトール、ニゲロース、ラフィノース、マルトトリオース、メレジトース、スタキオース、アカルボース、およびアミロースのうちのいずれかであることを特徴とする請求項
1から5までの何れか一項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項7】
多孔質層を備えたアルミニウム電極を温度が80℃以上の第1水和処理液に浸漬して前記アルミニウム電極に水和皮膜を形成する第1水和処理工程と、
前記第1水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を温度が150℃以上、かつ350℃以下の雰囲気中で加熱する脱水工程と、
前記脱水工程の後、前記アルミニウム電極を温度が80℃以上の第2水和処理液に浸漬する第2水和処理工程と、
前記第2水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を化成する化成工程と、
を有し、
前記脱水工程では、前記アルミニウム電極の厚さ方向から前記アルミニウム電極に対して第1部材によってプレスしながら加熱することを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項8】
前記脱水工程を行う際、前記第1部材を150℃以上、かつ350℃以下の温度に加熱しておくことを特徴とする請求項
7に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項9】
多孔質層を備えたアルミニウム電極を温度が80℃以上の第1水和処理液に浸漬して前記アルミニウム電極に水和皮膜を形成する第1水和処理工程と、
前記第1水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を温度が150℃以上、かつ350℃以下の雰囲気中で加熱する脱水工程と、
前記脱水工程の後、前記アルミニウム電極を温度が80℃以上の第2水和処理液に浸漬する第2水和処理工程と、
前記第2水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を化成する化成工程と、
を有し、
前記化成工程では、複数回の化成処理を行い、
前記複数回の化成処理のいずれかの間において、前記アルミニウム電極の厚さ方向から前記アルミニウム電極に対して第2部材によってプレスしながら加熱する熱プレス工程を行うことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項10】
前記熱プレス工程を行う際、前記第2部材を350℃以上、かつ600℃以下の温度に加熱しておくことを特徴とする請求項
9に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電極を化成するアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中高圧用のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法としては、化成工程を行う前にアルミニウム箔を純水中でボイルする水和処理工程(純水ボイル工程)を行うことが知られている。水和処理工程を行うことにより、化成後の静電容量を高めることができる。これは水和皮膜中の擬ベーマイト等が脱水して化成皮膜に変換される場合、結晶性の高い化成皮膜が得られるためである。通常の水和処理工程のみによって水和皮膜を得る場合、ボイル時間を長くすることで水和皮膜の量と厚さが増大し、それに伴って擬ベーマイトの量も増加する。従って、結晶性が高く静電容量の高い化成皮膜を得るためには水和処理工程で形成する結晶性の高い擬ベーマイト量を多くする必要があり、そのためにはボイル時間を長くする必要がある。
【0003】
しかしながら、ボイル時間を長くして水和皮膜の厚さや量を増大させると、アルミニウム電極の多孔質部分が水和皮膜で目詰まりしてしまう。水和皮膜で目詰まりが発生した場合、その後に化成を行う際に、目詰まり部分に電解液が浸透しないため、化成皮膜が適正に形成されず化成皮膜の耐水和性が低下する。また、目詰まり部分では表面積が低下するため、静電容量が低下する。特に、多孔質層の厚みが400μm以上である場合、ボイルによって多孔質部分の目詰まりが生じやすいため、静電容量を高くするためにボイル時間を長くすると、化成皮膜の耐水和性が悪化し、静電容量も低下してしまうという問題点がある。
【0004】
一方、水和処理工程の後に水和皮膜表面に、マロン酸やフマル酸等の有機酸を付着させる工程を含む電解コンデンサ用アルミニウム電極の製造方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、化成工程においてリン酸系化成液を用いた際に水和皮膜が溶解することを有機酸によって抑制するための技術であり、水和処理工程で形成される水和皮膜中の擬ベーマイト量を増大させる技術ではない。それ故、特許文献1に記載の技術を用いても、結晶性が高く静電容量の高い化成皮膜を得るためにはボイル時間を長くして結晶性の高い擬ベーマイト量を多くする必要があり、目詰まりの発生を抑制することができない。
【0007】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、水和皮膜を厚く形成しなくても結晶性の高い擬ベーマイト量を増大させることにより、静電容量を高めることができるアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るアルミニウム電解コンデンサ用陽極箔の製造
方法は、多孔質層を備えたアルミニウム電極を温度が80℃以上の第1水和処理液に浸漬して前記アルミニウム電極に水和皮膜を形成する第1水和処理工程と、前記第1水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を温度が150℃以上、かつ350℃以下の雰囲気中で加熱する脱水工程と、前記脱水工程の後、前記アルミニウム電極を温度が80℃以上の第2水和処理液に浸漬する第2水和処理工程と、前記第2水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を化成する化成工程と、を有し、前記第1水和処理液および前記第2水和処理液のうち、少なくとも一方の水和処理液は、水に水和抑制剤が配合されており、前記水和抑制剤は、炭素数が3以上の糖、または炭素数が3以上の糖アルコールであることを特徴とする。
【0009】
本発明では、第1水和処理工程の後、アルミニウム電極を温度が150℃以上、かつ350℃以下の雰囲気中で加熱する脱水工程を行い、その後、第2水和処理工程を行う。このため、このため、約100℃で脱離する付着水の割合が減少し、350℃以上で脱離する結晶水の割合が増加するので、水和皮膜を厚く形成しなくても結晶性の高い擬ベーマイト量を増大させることができるので、化成皮膜の結晶性を高めることができる。従って、静電容量を高めることができる。また、水和皮膜を厚く形成しなくてもよいので、多孔質層の目詰まりを抑制することができる。それ故、目詰まりに起因する化成皮膜の耐水和性の低下や、目詰まりに起因する静電容量の低下を抑制することができる。また、本発明では、前記第1水和処理液および前記第2水和処理液のうち、少なくとも一方の水和処理液は、水に水和抑制剤が配合されている態様を採用する。かかる態様によれば、水和処理液が水和抑制剤を含むため、沸騰純水にアルミニウム電極を浸漬する純水ボイルと違って、水和反応の進行速度を適度に低下させることができる。従って、過剰な水和皮膜により多孔質層が目詰まりすることを抑制することができる。また、水和反応の気泡の発生速度が低いので、多孔質層の奥での水和反応が進行しにくくなるという事態が発生しにくい。さらに、本発明では、前記水和抑制剤は、炭素数が3以上の有機系の水和抑制剤である態様を採用する。水和抑制剤としては、ホウ酸やその塩等を含む無機系の水和抑制剤や、無機系の水和抑制剤を用いることができるが、有機系の水和抑制剤の方が無機系の水和抑制剤水和抑制の効果が大きい。従って、本発明においては、前記水和抑制剤は、炭素数が3以上の有機系の水和抑制剤であることが好ましい。本発明では、前記水和抑制剤は、炭素数が3以上の糖、または炭素数が3以上の糖アルコールである態様を採用する。
【0010】
本発明は、前記化成工程において、前記アルミニウム電極を400V以上の化成電圧で化成を行う場合に適用すると特に効果的である。また、本発明は、前記化成工程において、前記アルミニウム電極を600V以上の化成電圧で化成を行う場合に適用すると、より効果的である。化成電圧が高い場合、水和皮膜を厚く形成する必要があるので、多孔質層の目詰まりが発生しやすいので、化成電圧が400V以上、さらには600V以上の場合に本発明を適用すると、より効果的である。
【0011】
本発明において、前記アルミニウム電極は、芯材にアルミニウム粉体の焼結層からなる前記多孔質層が1層当たり200μm以上、かつ50000μm以下の厚さで積層された多孔性アルミニウム電極である態様を採用することができる。かかる構成のアルミニウム電極では、化成電圧が400V以上である場合でも、アルミニウム電極としてエッチング箔を用いた場合より、高い静電容量を得ることができる。また、多孔質層の表面は、エッチング箔の表面に比べて、沸騰純水との反応性が高いため、表面の目詰まりが生じやすいので、本発明を適用すると、効果的である。
【0012】
本発明において、前記第1水和処理液および前記第2水和処理液は、pHが5.0以上、かつ9.0以下である態様を採用することができる。
【0015】
本発明において、前記水和抑制剤は、例えば、リブロース、キシルロース、リボース、
アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フコース、フクロース、ラムノース、セドヘプツロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、ラクチトール、マルチトール、ニゲロース、ラフィノース、マルトトリオース、メレジトース、スタキオース、アカルボース、およびアミロースのうちのいずれかである。
【0017】
次に、本発明の別の態様は、多孔質層を備えたアルミニウム電極を温度が80℃以上の第1水和処理液に浸漬して前記アルミニウム電極に水和皮膜を形成する第1水和処理工程と、前記第1水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を温度が150℃以上、かつ350℃以下の雰囲気中で加熱する脱水工程と、前記脱水工程の後、前記アルミニウム電極を温度が80℃以上の第2水和処理液に浸漬する第2水和処理工程と、前記第2水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を化成する化成工程と、を有し、前記脱水工程では、前記アルミニウム電極の厚さ方向から前記アルミニウム電極に対して第1部材によってプレスしながら加熱することを特徴とする。かかる態様によれば、脱水工程でアルミニウム電極が反る等の事態が発生することを抑制することができる。この場合、前記脱水工程を行う際、前記第1部材を150℃以上、かつ350℃以下の温度に加熱しておくことが好ましい。かかる態様によれば、アルミニウム電極を効率よく加熱することができる。
【0018】
また、本発明の別の態様は、多孔質層を備えたアルミニウム電極を温度が80℃以上の第1水和処理液に浸漬して前記アルミニウム電極に水和皮膜を形成する第1水和処理工程と、前記第1水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を温度が150℃以上、かつ350℃以下の雰囲気中で加熱する脱水工程と、前記脱水工程の後、前記アルミニウム電極を温度が80℃以上の第2水和処理液に浸漬する第2水和処理工程と、前記第2水和処理工程の後、前記アルミニウム電極を化成する化成工程と、を有し、前記化成工程では、複数回の化成処理を行い、前記複数回の化成処理のいずれかの間において、前記アルミニウム電極の厚さ方向から前記アルミニウム電極に対して第2部材によってプレスしながら加熱する熱プレス工程を行うことを特徴とする。かかる態様によれば、化成工程でアルミニウム電極が反る等の事態が発生することを抑制することができる。この場合、前記熱プレス工程を行う際、前記第2部材を350℃以上、かつ600℃以下の温度に加熱しておくことが好ましい。かかる態様によれば、アルミニウム電極を効率よく加熱することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、第1水和処理工程の後、アルミニウム電極を温度が150℃以上、かつ350℃以下の雰囲気中で加熱する脱水工程を行い、その後、第2水和処理工程を行う。このため、水和皮膜を厚く形成しなくても結晶性の高い擬ベーマイト量を増大させることができるので、化成皮膜の結晶性を高めることができる。従って、静電容量を高めることができる。また、水和皮膜を厚く形成しなくてもよいので、多孔質層の目詰まりを抑制することができる。それ故、目詰まりに起因する化成皮膜の耐水和性の低下や、目詰まりに起因する静電容量の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明を適用したアルミニウム電極の断面構造を示す説明図である。
【
図2】
図1に示すアルミニウム電極の表面を電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
【
図3】本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法を示す説明図である。
【
図5】本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法において、脱水工程で行う熱プレス工程の説明図である。
【
図6】
図5に示す熱プレス工程の具体例1の説明図である。
【
図7】
図5に示す熱プレス工程の具体例2の説明図である。
【
図8】
図3に示す脱水工程の温度と静電容量との関係を示す説明図である。
【
図10】水和皮膜のXRDの分析結果を示す説明図である。
【
図11】水和皮膜を電子顕微鏡で観察したときの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明では、アルミニウム電解コンデンサ用電極を製造するにあたって、アルミニウム電極の表面に化成を行ってアルミニウム電解コンデンサ用電極を製造する。以下の説明では、アルミニウム電極として、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層がアルミニウム芯材の両面に積層された多孔性アルミニウム電極を用い、かかる多孔性アルミニウム電極に化成を行う場合を中心に説明する。以下、アルミニウム電極の構成を説明した後、化成方法を説明する。
【0022】
(アルミニウム電極の構成)
図1は、本発明を適用したアルミニウム電極の断面構造を示す説明図であり、
図1(a)、(b)は、アルミニウム電極の断面を電子顕微鏡により120倍に拡大して撮影した写真、およびアルミニウム電極の芯材付近を電子顕微鏡により600倍に拡大して撮影した写真である。
図2は、
図1に示すアルミニウム電極の表面を電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。なお、
図2には、多孔性アルミニウム電極の表面を1000倍で拡大した写真と、3000倍で拡大した写真とを示してある。
【0023】
図1および
図2に示すアルミニウム電極10は多孔質層30を有しており、多孔質層30は、アルミニウム粉体を焼結してなる焼結層、あるいはエッチング層である。本形態において、アルミニウム電極10は、アルミニウム芯材20からなる芯部に、アルミニウム粉体を焼結してなる焼結層が多孔質層30として積層されている。本形態において、アルミニウム電極10は、アルミニウム芯材20の両面に多孔質層30を有している。
【0024】
アルミニウム芯材20は、厚さが10μm以上、かつ、50μm以下である。
図1には、厚さが約30μmのアルミニウム芯材20を用いたアルミニウム電極10が示されている。一層当たり(片面当たり)の多孔質層30の厚さは、例えば、200μm以上、かつ50000μm以下である。
図1には、厚さが30μmのアルミニウム芯材20の両面に、厚さが約350μmの多孔質層30が形成されたアルミニウム電極10が示されている。多孔質層30の厚さは、厚い程、静電容量が増大するので、厚い方が好ましい。従って、多孔質層30の厚さは、1層当たり、300μm以上であることが好ましい。一方で、多孔質層30の厚さが厚いと、製造工程での破断が発生しやすくなる。従って多孔質層30の厚さは、一層当たり、2000μm以下である事が好ましい。多孔質層30はアルミニウム芯材20の片面だけに形成してもよいし、両面に形成してもよい。多孔質層30を両面に形成する場合には、アルミニウム芯材20を挟んで多孔質層30を対称に配置することが好ましい。また、多孔質層30を両面に形成する場合、片面の多孔質層30の厚さはアルミニウム芯材20の厚さも含めたアルミニウム電極10全体の厚みの1/3以上であることが好ましい。
【0025】
アルミニウム芯材20は、鉄含有量が1000質量ppm未満、かつ、珪素含有量が10重量ppm以上、かつ5000重量ppm以下であることが好ましい。多孔質層30は、例えば、鉄含有量が1000質量ppm未満、かつ、珪素含有量が10重量ppm以上、かつ3000重量ppm以下のアルミニウム粉体を焼結してなる層であり、アルミニウム粉体は、互いに空隙35を維持しながら焼結されている。また、アルミニウム芯材20および多孔質層30は、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、チタン、バナジウム、ガリウム、ニッケル、ホウ素、およびジルコニウムの1種又は2種以上を含む場合には、これらの元素の含有量が各々100重量ppm以下であって、残部が不可避金属およびアルミニウムである。
【0026】
アルミニウム粉体の形状は、特に限定されず、略球状、不定形状、鱗片状、短繊維状等のいずれも好適に使用できる。特に、アルミニウム粉体間の空隙を維持するために、略球状粒子からなる粉体が好ましい。本形態におけるアルミニウム粉体の平均粒径は1μm以上、かつ10μm以下である。このため、表面積を効果的に拡大することができる。ここで、アルミニウム粉体の平均粒径が1μm未満では、アルミニウム粉体間の間隙が狭すぎて電極等として機能しない無効部分が増大する一方、アルミニウム粉体の平均粒径が10μmを超えると、アルミニウム粉体間の間隙が広すぎて表面積の拡大が不十分である。すなわち、アルミニウム粉体の平均粒径が1μm未満では、皮膜耐電圧が400V以上の化成皮膜を形成した際、アルミニウム粉体間の空隙35が埋没し静電容量が低下する。一方、平均粒径が10μmを超えると空隙35が大きくなりすぎ、静電容量の大幅な向上が望めない。従って、アルミニウム電極10に皮膜耐電圧が400V以上の厚い化成皮膜を形成する場合、多孔質層30に用いたアルミニウム粉体の平均粒径は1μm以上、かつ10μm以下、好ましくは、2μm以上、かつ10μm未満である。なお、本形態におけるアルミニウム粉体の平均粒径は、レーザー回折法により粒度分布を体積基準で測定した。また、焼結後の前記粉末の平均粒径は、前記焼結体の断面を、走査型電子顕微鏡によって観察することによって測定する。例えば、焼結後の前記粉末は、一部が溶融又は粉末同士が繋がった状態となっているが、略円形状を有する部分は近似的に粒子状とみなせる。個数基準の粒度分布から体積基準の粒度分布を計算し、平均粒径を求めた。なお、上記で求められる焼結前の平均粒径と焼結後の平均粒径はほぼ同じである。
【0027】
本形態において、アルミニウム電極10をアルミニウム電解コンデンサの陽極として用いる際、多孔質層30には化成皮膜が形成される。その際、アルミニウム芯材20において、多孔質層30から露出している部分がある場合、アルミニウム芯材20にも化成皮膜が形成される。
【0028】
(アルミニウム電解コンデンサの構成)
本形態の化成済みのアルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極)を用いてアルミニウム電解コンデンサを製造するには、例えば、化成済みのアルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介在させて積層してコンデンサ素子を形成する。次に、コンデンサ素子を電解液(ペースト)に含浸する。しかる後には、電解液を含んだコンデンサ素子を外装ケースに収納し、封口体でケースを封口する。
【0029】
また、電解液に代えて固体電解質を用いる場合、化成済みのアルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極箔の表面に固体電解質層を形成した後、固体電解質層の表面に陰極層を形成し、しかる後に、樹脂等により外装する。その際、陽極に電気的接続する陽極端子と陰極層に電気的接続する陰極端子とを設ける。この場合、陽極箔が複数枚積層されることがある。
【0030】
アルミニウム電極10としては、棒状のアルミニウム芯材20の表面に多孔質層30が積層された構造が採用される場合もある。かかるアルミニウム電極10を用いてアルミニウム電解コンデンサを製造するには、例えば、化成済みのアルミニウム電極10(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極の表面に固体電解質層を形成した後、固体電解質層の表面に陰極層を形成し、しかる後に、樹脂等により外装する。その際、陽極に電気的接続する陽極端子と陰極層に電気的接続する陰極端子とを設ける。
【0031】
(アルミニウム電極10の製造方法)
図3は、本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法を示す説明図である。
図4は、
図3に示す脱水工程ST2の説明図である。
【0032】
本発明に係るアルミニウム電解コンデンサ用陽極箔の製造方法では、
図3に示すように、第1水和処理工程ST1において、多孔質層を備えたアルミニウム電極10を温度が80℃以上の第1水和処理液に浸漬してアルミニウム電極10に水和皮膜を形成する。
【0033】
次に、脱水工程ST2において、アルミニウム電極10を温度が150℃以上、かつ350℃以下の雰囲気中で加熱する。脱水工程ST2では、例えば、
図4に示すように、アルミニウム電極10を熱処理炉100内で加熱する。熱処理炉内の雰囲気は、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、水蒸気雰囲気のいずれであってもよい。
【0034】
次に、
図3に示す第2水和処理工程ST3において、アルミニウム電極10を温度が80℃以上の第2水和処理液に浸漬してアルミニウム電極10に水和皮膜を形成する。
【0035】
次に、化成工程ST10において、アルミニウム電極10を化成する。本形態では、アルミニウム電極を400V以上、さらには600V以上の化成電圧で化成する。
【0036】
本形態において、第1水和処理液および第2水和処理液は、pHが5.0以上、かつ9.0以下である。本形態では第1水和処理液および第2水和処理液として、80℃以上の温度まで加熱した純水を用いる。また、第1水和処理液および第2水和処理液の一方または双方として、純水に水和抑制剤が配合された処理水を用い、かかる処理水を80℃以上の温度まで加熱して用いてもよい。
【0037】
水和抑制剤としては、ホウ酸やその塩等を含む無機系の水和抑制剤や、無機系の水和抑制剤を用いることができる。但し、有機系の水和抑制剤の方が無機系の水和抑制剤水和抑制の効果が大きいため、本形態では、炭素数が3以上の有機系の水和抑制剤を用いることが好ましい。
【0038】
有機系の水和抑制剤としては、例えば、炭素数が3以上の糖、または炭素数が3以上の糖アルコールを有機系の水和抑制剤として用いることができる。かかる有機系の水和抑制剤は、例えば、リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フコース、フクロース、ラムノース、セドヘプツロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、ラクチトール、マルチトール、ニゲロース、ラフィノース、マルトトリオース、メレジトース、スタキオース、アカルボース、およびアミロースのうちのいずれかである。
【0040】
図3に示す化成工程ST10では、電源電圧が化成電圧Vfまで到達する定電流化成工程ST11を行った後、電源電圧を化成電圧Vfに保持した定電圧化成工程ST12を行う。
【0041】
定電流化成工程ST11では、化成を中断して、リン酸イオンを含む水溶液中にアルミ
ニウム電極を浸漬するリン酸浸漬工程を1回以上行うことが好ましい。リン酸浸漬工程では、60℃で測定した比抵抗が0.1Ωm以上、かつ5Ωm以下であるリン酸水溶液を40℃以上、かつ80℃以下の液温にしてアルミニウム電極を3分間以上、かつ30分間以下の時間、浸漬する。リン酸浸漬工程によれば、化成工程で析出した水酸化アルミニウムを効率よく取り除くことができるとともに、その後の水酸化アルミニウムの生成を抑制することができる。従って、多孔質層の空隙の内部に化成液が残留することを抑えられる。また、リン酸浸漬工程によって、化成皮膜内にリン酸イオンを取り込むことができるので、沸騰水や酸性溶液への浸漬に対する耐久性を向上することができる等、化成皮膜の安定性を効果的に向上することができる。
【0042】
定電圧化成工程ST12では、複数回の化成処理を行い、化成処理と化成処理との間に熱処理(熱デポラリゼーション処理)、あるいはリン酸浸漬(液中デポラリゼーション)を行う。
図3には、定電圧化成工程ST12の途中に2回の熱処理(熱デポラリゼーション処理ST32)と、2回のリン酸浸漬(液中デポラリゼーション処理ST31)を行う場合を示してある。熱デポラリゼーション処理ST32では、例えば、
図4に示す脱水工程ST2と同様、アルミニウム電極10を熱処理炉100内で加熱する。その際の処理温度は、例えば、350℃以上、かつ600℃以下であり、処理時間は2分以上、かつ10分以下である。熱処理炉100内の雰囲気は、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、水蒸気雰囲気のいずれであってもよい。液中デポラリゼーション処理ST31では、例えば、20質量%以上、かつ30質量%以下のリン酸の水溶液中において、液温が60℃以上、かつ70℃以下の条件で皮膜耐電圧に応じて5分以上、かつ15分以下、アルミニウム電極10を浸漬する。なお、液中デポラリゼーション処理では、アルミニウム電極10に電圧を印加しない。
【0043】
また、
図3に示す化成工程ST10では、例えば、アジピン酸アンモニウムを純水に溶解させた水溶液(第1化成液)と、ホウ酸およびホウ酸アンモニウムを純水に溶解させた水溶液(第2化成液)とを用いる。
【0044】
より具体的には、化成工程ST10において、定電流化成工程ST11で、まず、第1化成液中で電源電圧がVaとなるまで化成を行った後、アルミニウム電極10を水洗し、リン酸浸漬工程ST21において、アルミニウム電極10をリン酸水溶液中に5分間浸漬する。次に、アルミニウム電極10に水洗を行う。次に、定電流化成工程ST11で、第1化成液中で電源電圧がVbとなるまで化成を行った後、アルミニウム電極10を水洗し、リン酸浸漬工程ST21において、アルミニウム電極10をリン酸水溶液中に5分間浸漬する。次に、アルミニウム電極10を水洗する。次に、第1化成液中で電源電圧がVcとなるまで化成を行った後、アルミニウム電極10を水洗し、次に、第2化成液中で電源電圧がVf(化成電圧)となるまで化成を行う。次に、電源電圧がVfの条件で、第2化成液中でアルミニウム電極10に定電圧化成工程ST12を行う。
【0045】
なお、
図4に示す方法に代えて、定電流化成工程ST11では第1化成液を用い、定電圧化成工程ST12では第2化成液を用いてもよい。
【0046】
(熱プレス工程の説明)
図5は、本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法において、脱水工程ST2で行う熱プレス工程の説明図である。
図6は、
図5に示す熱プレス工程の具体例1の説明図である。
図7は、
図5に示す熱プレス工程の具体例2の説明図である。
【0047】
図3を参照して説明した製造方法において、脱水工程ST2では、
図5に圧力Pで示すように、熱処理炉100内でアルミニウム電極10の厚さ方向からアルミニウム電極10をプレスしながら加熱してもよい。かかる熱プレス工程によれば、脱水工程ST2でアル
ミニウム電極10が反る等の事態が発生することを抑制することができる。すなわち、第1水和処理工程ST1を行った後に脱水工程ST2を行った際、アルミニウム電極10が反ってしまい、寸法精度が悪化する場合があるが、脱水工程ST2で熱プレス工程を行えば、アルミニウム電極10の反りを抑制することができる。従って、アルミニウム電極10を所定の寸法に切断した後、アルミニウム電極10に化成を行う場合には、アルミニウム電極10の寸法精度を高く維持することが可能となる。
【0048】
図5に示す熱プレス工程を行うにあたっては、例えば、
図6に示すように、2つの板状の部材110(第1部材)の間にアルミニウム電極10を配置し、2つの部材110の少なくとも一方からアルミニウム電極10に圧力Pを印加する方法を採用することができる。その際、2つの部材110を用いて脱水工程ST2を行う際、部材110を150℃以上、かつ350℃以下の温度に加熱しておけば、アルミニウム電極10を効率よく加熱することができる。
【0049】
また、
図7に示すように、2つのローラ状の部材120(第1部材)の間にアルミニウム電極10を通過させてもよい。ここで、2つの部材120は各々、駆動ローラ125によって互いに逆向きに回転する。2つの部材120を用いて脱水工程ST2を行う際、部材110を150℃以上、かつ350℃以下の温度に加熱しておけば、アルミニウム電極10を効率よく加熱することができる。
【0050】
また、
図3を参照して説明した熱デポラリゼーション処理ST32でも、
図5に示す脱水工程ST2と同様、アルミニウム電極10の厚さ方向からアルミニウム電極10をプレスしながら加熱することが好ましい。かかる熱プレス工程によれば、熱デポラリゼーション処理ST32でアルミニウム電極10が反る等の事態が発生することを抑制することができる。すなわち、化成工程ST10や熱デポラリゼーション処理ST32を行った際、アルミニウム電極10が反ってしまうことがあるが、熱プレス工程を行えば、アルミニウム電極10の反りを抑制することができる。
【0051】
熱デポラリゼーション処理ST32において、
図5に示す熱プレス工程を行うにあたっても、脱水工程ST2と同様、例えば、
図6に示すように、2つの板状の部材110(第2部材)の間にアルミニウム電極10を配置し、2つの部材110の少なくとも一方からアルミニウム電極10に圧力Pを印加する。2つの部材110を用いて熱デポラリゼーション処理ST32を行う場合、部材110を350℃以上、かつ600℃以下の温度に加熱しておけば、アルミニウム電極10を効率よく加熱することができる。
【0052】
また、
図7に示すように、2つのローラ状の部材120(第2部材)の間にアルミニウム電極10を通過させてもよい。ここで、2つの部材120は各々、駆動ローラ125によって互いに逆向きに回転する。2つの部材120を用いて熱デポラリゼーション処理ST32を行う際、部材110を350℃以上、かつ600℃以下の温度に加熱しておけば、アルミニウム電極10を効率よく加熱することができる。
【0053】
(分析結果等)
図8は、
図3に示す脱水工程ST2の温度と静電容量との関係を示す説明図である。
図9は、水和皮膜の熱分析結果を示す説明図である。
図10は、水和皮膜のXRDの分析結果を示す説明図であり、結晶性の擬ベーマイトに相当するピークに○を付してある。
図11は、水和皮膜を電子顕微鏡で観察したときの説明図である。
図8~
図11に示す分析等では、水和皮膜を600μmの厚さに形成したものを試料して用いた。また、
図9および
図10では、本発明に係る方法(脱水工程ST2あり)で形成した水和皮膜の分析結果を実線L11、12で示し、従来の方法(脱水工程ST2なし)で形成した水和皮膜の分析結果を破線L21、22で示してある。また、
図11(a)には、従来の方法で形成した
水和皮膜の観察結果を示し、
図11(b)には、本発明に係る方法で形成した水和皮膜の観察結果を示してある。
【0054】
図3に示す脱水工程ST2における温度を変化させた場合、800Vで化成を行ったときの静電容量は、
図8に示すように変化する。
図8から分かるように、脱水工程ST2における温度を150℃以上、かつ350℃以下に設定すれば、従来の水和処理工程(脱水工程ST2なし)を行った場合に比して静電容量を高めることができる。
【0055】
その理由は、
図9および
図10から分かるように、本発明に係る方法で形成した水和皮膜では、結晶性の高い擬ベーマイト量が多いため、と考えられる。すなわち、
図9に示す分析結果によれば、本発明に係る方法で形成した水和皮膜では、結晶水が多いことが分かり、
図10に示す分析結果によれば、結晶性の高い擬ベーマイト量の多いことが分かる。
【0056】
また、
図11に示す観察結果では、発明に係る方法で形成した水和皮膜によれば、多孔質層において、目詰まりが発生せず、孔の奥まで空洞が残っていることが分かる。
【0057】
なお、脱水工程ST2の温度が100℃以上、かつ370℃以下であれば、擬ベーマイトの結晶性が高まるが、
図8に示す結果に基づいて、脱水工程ST2における温度を150℃以上、かつ350℃以下に設定する。
【0058】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法では、第1水和処理工程ST1の後、アルミニウム電極を温度が150℃以上、かつ350℃以下の雰囲気中で加熱する脱水工程ST2を行い、その後、第2水和処理工程ST3を行う。このため、水和皮膜を厚く形成しなくても結晶性の高い擬ベーマイト量を増大させることができるので、化成皮膜の結晶性を高めることができる。従って、静電容量を高めることができる。また、水和皮膜を厚く形成しなくてもよいので、多孔質層の目詰まりを抑制することができる。それ故、目詰まりに起因する化成皮膜の耐水和性の低下や、目詰まりに起因する静電容量の低下を抑制することができる。
【0059】
また、本発明は、化成工程ST10において、アルミニウム電極を400V以上の化成電圧で化成を行う場合、さらには、アルミニウム電極を600V以上の化成電圧で化成を行う場合に適用すると、より効果的である。化成電圧が高い場合、水和皮膜を厚く形成する必要があるので、多孔質層の目詰まりが発生しやすい。従って、化成電圧が400V以上、さらには600V以上の場合に本発明を適用すると、より効果的である。また、アルミニウム電極として、芯材にアルミニウム粉体の焼結層からなる多孔質層が1層当たり200μm以上、かつ50000μm以下の厚さで積層された多孔性アルミニウム電極では、化成電圧が400V以上である場合でも、アルミニウム電極としてエッチング箔を用いた場合より、高い静電容量を得ることができる。一方、多孔質層の表面は、エッチング箔の表面に比べて、沸騰純水との反応性が高いため、表面の目詰まりが生じやすいので、本発明を適用すると、効果的である。
【0060】
また、第1水和処理液および第2水和処理液に水和抑制剤を配合した場合、沸騰純水にアルミニウム電極を浸漬する純水ボイルと違って、水和反応の進行速度を適度に低下させることができる。従って、過剰な水和皮膜により多孔質層が目詰まりすることを抑制することができる。また、水和反応の気泡の発生速度が低いので、多孔質層の奥での水和反応が進行しにくくなるという事態が発生しにくい。
【0061】
(実施例)
30μmの厚さのアルミニウム箔(芯材)に対して、表1に記載の厚みに平均粒径5μ
mのアルミニウム粉末を焼結して多孔質層30を形成したアルミニウム電極10(多孔性アルミニウム電極)、90℃に加熱した純水(第1水和処理液および第2水和処理液)、化成液(第1化成液および第2化成液)、およびリン酸水溶液を準備する。第1化成液は、0.1g/Lのアジピン酸アンモニウム水溶液であり、液温は60℃である。第2化成液は、80g/Lホウ酸+0.1g/Lホウ酸アンモニウムの水溶液であり、液温は90℃である。リン酸水溶液は、液温が50℃で、50℃で測定した比抵抗が0.2Ωmである。
【0062】
次に、アルミニウム電極10に対して表1に示す条件で、第1水和処理工程ST1、脱水工程ST2、第2水和処理工程ST3を行った後、化成工程ST10を行う。
【0063】
【0064】
化成工程ST10において、定電流化成工程ST11で、まず、第1化成液中で電源電圧が200Vとなるまで化成を行った後、アルミニウム電極10を水洗し、リン酸浸漬工程ST21において、アルミニウム電極10をリン酸水溶液中に5分間浸漬する。次に、アルミニウム電極10に水洗を行う。次に、定電流化成工程ST11で、第1化成液中で電源電圧が450Vとなるまで化成を行った後、アルミニウム電極10を水洗し、リン酸浸漬工程ST21において、アルミニウム電極10をリン酸水溶液中に5分間浸漬する。次に、アルミニウム電極10を水洗する。次に、第1化成液中で電源電圧が600Vとなるまで化成を行った後、アルミニウム電極10を水洗し、次に、第2化成液中で電源電圧が800V(化成電圧)となるまで化成を行う。次に、電源電圧が800Vの条件で、第2化成液中でアルミニウム電極10に定電圧化成工程ST12を180分間、定電圧化成
を行う。その間、2回の熱処理と2回のリン酸浸漬を行う。実施例1から実施例5のうち、実施例2では、脱水工程ST2、および熱デポラリゼーション処理ST32の際、
図5、
図6および
図7を参照して説明した熱プレス工程を行った。
【0065】
このように条件で製造したアルミニウム電極に対して、皮膜耐電圧、単位体積当たりの静電容量、および耐水和性を測定した結果を表2に示す。皮膜耐電圧、単位体積当たりの静電容量、単位体積当たりの漏れ電流は各々、JEITA規格に準じて行った。耐水和試験は、JEITA規格を参考にしたが、測定時の電流密度は40mA/cm3とした。
【0066】
【0067】
比較例1では、通常の水和処理工程(純水ボイルのみ)を前処理として行った場合であるので、静電容量が十分でない。比較例2は、通常の水和処理工程(純水ボイルのみ)を前処理として行っており、ボイル時間が比較例2よりも長いため、アルミニウム電極の多孔質部分に目詰まりが生じた。このため、静電容量が低く、耐水和性が悪い。
【0068】
比較例3では、第1水和処理工程ST1の後に、脱水工程ST2、および第2水和処理工程ST3を行ったが、脱水工程ST2の温度が低い。このため、擬ベーマイトの結晶化が不十分となり、十分な効果が得られない。
【0069】
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、および実施例5のいずれにおいても、第1水和処理工程ST1の後に、脱水工程ST2、および第2水和処理工程ST3を行い、脱水工程ST2の温度が150℃以上、かつ350℃以下の範囲である。従って、静電容量が高く、耐水和性がよい。また、実施例2については、脱水工程ST2の際、熱プレス工程を行ったため、アルミニウム電極10の平滑性に優れている。
【0070】
(他の実施の形態)
上記実施の形態では、アルミニウム粉体の焼結層からなる多孔質層がアルミニウム芯材に積層された多孔性アルミニウム電極を用いる場合を例示したが、エッチング箔をアルミ
ニウム電極として用いる場合に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…アルミニウム電極、20…アルミニウム芯材、30…多孔質層、35…空隙、100…熱処理炉、110,120…部材、125…駆動ローラ、ST1…第1水和処理工程、ST2…脱水工程、ST3…第2水和処理工程、ST10…化成工程、ST11…定電流化成工程、ST12…定電圧化成工程、ST21…リン酸浸漬工程、ST31…液中デポラリゼーション処理、ST32…熱デポラリゼーション処理