(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】超音波探傷方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/265 20060101AFI20220412BHJP
G01N 29/07 20060101ALI20220412BHJP
G01N 29/38 20060101ALI20220412BHJP
G01N 29/48 20060101ALI20220412BHJP
G21C 17/003 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
G01N29/265
G01N29/07
G01N29/38
G01N29/48
G21C17/003 100
(21)【出願番号】P 2018075151
(22)【出願日】2018-04-10
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成重 将史
(72)【発明者】
【氏名】大島 佑己
(72)【発明者】
【氏名】三木 将裕
(72)【発明者】
【氏名】大谷 健一
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-191078(JP,A)
【文献】特開2001-027628(JP,A)
【文献】特開2016-206043(JP,A)
【文献】特開2004-077234(JP,A)
【文献】特開昭63-018263(JP,A)
【文献】特開2014-206518(JP,A)
【文献】特開2016-045169(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0283612(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01B 17/00-17/08
G21C 17/00-17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器の胴体のフランジの上面に配置された拡散型の斜角探触子を用いて、
前記フランジのボルト穴のねじ谷底を起点とした欠陥が生じているかどうかを検査する超音波探傷方法であって、
前記斜角探触子は、中心軸の屈折角が
前記ボルト穴のフランク角より小さくなるように設定された拡散型の超音波ビームを送信しており、
前記斜角探触子を
前記ボルト穴の半径方向に移動して、前記斜角探触子からの超音波ビームの中心軸が到達する
前記フランジのねじ谷底側の部分の
軸方向位置を変更する第1の手順と、
前記斜角探触子からの超音波ビームの中心軸が到達する
前記フランジのねじ谷底側の部分の
軸方向位置に応じて、その部分に欠陥が生じていると想定した場合に前記欠陥で反射されて前記斜角探触子で受信される超音波の伝播時間を演算し、この超音波の伝播時間に対応するゲートを設定する第2の手順と、
前記斜角探触子で受信された超音波の振幅の経時変化を、
前記ボルト穴の半径方向における前記斜角探触子の位置に応じて変動する前記ゲートと共に表示する第3の手順とを有することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探傷方法において、
前記斜角探触子で受信された超音波が欠陥で反射されたものかどうかを判断するための振幅の閾値を、前記超音波の伝播時間の増大に応じて減少するように設定する第4の手順を更に有し、
前記第3の手順は、前記斜角探触子で受信された超音波の振幅の経時変化を、前記ゲート及び前記振幅の閾値と共に表示することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波探傷方法において、
前記超音波ビームの中心軸の屈折角は、30度未満となるように設定されたことを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項4】
原子炉圧力容器の胴体のフランジの上面に配置された拡散型の斜角探触子を用いて、
前記フランジのボルト穴のねじ谷底を起点とした欠陥が生じているかどうかを検査する超音波探傷装置であって、
前記斜角探触子は、中心軸の屈折角が
前記ボルト穴のフランク角より小さくなるように設定された拡散型の超音波ビームを送信しており、
前記斜角探触子を
前記ボルト穴の半径方向に移動して、前記斜角探触子からの超音波ビームの中心軸が到達する
前記フランジのねじ谷底側の部分の
軸方向位置を変更する探触子移動装置と、
前記斜角探触子からの超音波ビームの中心軸が到達する
前記フランジのねじ谷底側の部分の
軸方向位置に応じて、その部分に欠陥が生じていると想定した場合に前記欠陥で反射されて前記斜角探触子で受信される超音波の伝播時間を演算し、この超音波の伝播時間に対応するゲートを設定する情報処理装置と、
前記斜角探触子で受信された超音波の振幅の経時変化を、
前記ボルト穴の半径方向における前記斜角探触子の位置に応じて変動する前記ゲートと共に表示する表示装置とを備えたことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波探傷装置において、
前記情報処理装置は、前記斜角探触子で受信された超音波が欠陥で反射されたものかどうかを判断するための振幅の閾値を、前記超音波の伝播時間の増大に応じて減少するように設定し、
前記表示装置は、前記斜角探触子で受信された超音波の振幅の経時変化を、前記ゲート及び前記振幅の閾値と共に表示することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項6】
請求項4に記載の超音波探傷装置において、
前記超音波ビームの中心軸の屈折角は、30度未満となるように設定されたことを特徴とする超音波探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体のねじ部の軸方向一方側の端面に配置された拡散型の斜角探触子を用いて、被検体のねじ谷底側の部分に欠陥が生じているかどうかを検査するのに好適な超音波探傷方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
第1の従来技術として、ボルトの端面に配置された拡散型の斜角探触子を用いて、ボルトのねじ山に欠陥(詳細には、割れ等の不連続部)が生じているかどうかを検査する超音波探傷方法がある(例えば特許文献1の
図2等を参照)。
【0003】
この方法では、斜角探触子は、ボルトの軸方向に対して斜めに拡散型の超音波ビームを送信しており、超音波ビームの中心軸の屈折角がボルトのフランク角(言い換えれば、ねじ山の中心線とねじ山の傾斜面との間の角度)と同じになるように設定されている。そして、ボルトのねじ山に欠陥が生じていなければ、フランク(言い換えれば、ねじ山の傾斜面)で反射された超音波が斜角探触子で受信される。一方、ボルトのねじ山に欠陥が生じていれば、フランクからの反射波が斜角探触子で受信されないか、若しくは、その振幅が小さくなる。したがって、フランクからの反射波の有無、若しくは、その振幅の大きさにより、欠陥が生じているかどうかを判断する。
【0004】
第2の従来技術として、ボルトの端面に配置された集束型の斜角探触子を用いて、ボルトに欠陥が生じているかどうかを検査する超音波探傷方法がある(例えば特許文献1の
図4等を参照)。
【0005】
この方法では、斜角探触子は、ボルトの軸方向に対して斜めに集束型の超音波ビーム(言い換えれば、ビーム進行方向に沿ってビーム幅が縮小するもの)を送信しており、超音波ビームの中心軸の屈折角がボルトのフランク角より小さくなるように設定されている。そして、ボルトに欠陥が生じていれば、欠陥で反射された超音波が斜角探触子で受信される。一方、ボルトに欠陥が生じていなければ、欠陥からの反射波が斜角探触子で受信されない。したがって、欠陥からの反射波の有無により、欠陥が生じているかどうかを判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子力発電所では、定期検査時に、原子炉圧力容器の胴体から上蓋を取外して、胴体内の燃料棒の交換等の作業を行うと共に、種々の部位の検査を行う。その検査の一つとして、胴体のフランジのボルト穴の周辺部の検査がある。
【0008】
詳しく説明すると、例えば、胴体のフランジの上面に配置された垂直探触子を用いて、胴体のフランジのねじ谷底側の部分(言い換えれば、ボルト穴の半径方向外側の部分)に欠陥が生じているかどうかを検査する。垂直探触子は、ボルト穴の軸方向に対して平行に超音波ビームを送信する。そして、胴体のフランジのねじ谷底側の部分に欠陥が生じていれば、欠陥で反射された超音波が垂直探触子で受信される。一方、胴体のフランジのねじ谷底側の部分に欠陥が生じていなければ、欠陥からの反射波が垂直探触子で受信されない。したがって、欠陥からの反射波の有無により、欠陥が生じているかどうかを判断する。
【0009】
ここで、胴体のフランジの上面の凹凸を回避する等の理由から、上述した垂直探触子に代えて、拡散型の斜角探触子を用いたい場合がある。この斜角探触子は、ボルトの軸方向に対して斜めに拡散型の超音波ビーム(言い換えれば、ビーム進行方向に沿ってビーム幅が拡大するもの)を送信する。この場合、胴体のフランジのねじ谷底側の部分に欠陥が生じていれば、欠陥で反射された超音波が斜角探触子で受信される。しかし、集束型の斜角探触子を用いる場合とは異なり、ボルト穴のフランクで反射された超音波も斜角探触子で受信される。そのため、フランクからの反射波と識別して、欠陥からの反射波を特定する必要がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、拡散型の斜角探触子を用いるものの、被検体のねじ谷底側の部分に生じた欠陥からの反射波を特定することができる超音波探傷方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、代表的な本発明は、原子炉圧力容器の胴体のフランジの上面に配置された拡散型の斜角探触子を用いて、前記フランジのボルト穴のねじ谷底を起点とした欠陥が生じているかどうかを検査する超音波探傷方法であって、前記斜角探触子は、中心軸の屈折角が前記ボルト穴のフランク角より小さくなるように設定された拡散型の超音波ビームを送信しており、前記斜角探触子を前記ボルト穴の半径方向に移動して、前記斜角探触子からの超音波ビームの中心軸が到達する前記フランジのねじ谷底側の部分の軸方向位置を変更する第1の手順と、前記斜角探触子からの超音波ビームの中心軸が到達する前記フランジのねじ谷底側の部分の軸方向位置に応じて、その部分に欠陥が生じていると想定した場合に前記欠陥で反射されて前記斜角探触子で受信される超音波の伝播時間を演算し、この超音波の伝播時間に対応するゲートを設定する第2の手順と、前記斜角探触子で受信された超音波の振幅の経時変化を、前記ボルト穴の半径方向における前記斜角探触子の位置に応じて変動する前記ゲートと共に表示する第3の手順とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、拡散型の斜角探触子を用いるものの、被検体のねじ谷底側の部分に生じた欠陥からの反射波を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態における超音波探傷装置の構成を表すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態の検査対象である原子炉圧力容器の胴体のフランジのボルト穴の周辺部の構造を表す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態における探触子移動装置の構造を表す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態における探触子移動装置の構造を表す上面図である。
【
図5】本発明の一実施形態における斜角探触子から送信された超音波ビームの具体例を表す断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態における表示装置の表示画面の具体例を表す図である。
【
図9】本発明の一実施形態における超音波探傷方法の手順を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、本実施形態における超音波探傷装置の構成を表すブロック図である。
図2は、本実施形態の検査対象である原子炉圧力容器の胴体のフランジのボルト穴の周辺部の構造を表す断面図である。
図3及び
図4は、本実施形態における探触子移動装置の構造を表す断面図及び上面図である。
図5は、本発明の一実施形態における斜角探触子から送信された超音波ビームの具体例を表す断面図である。
図6は、
図5中部分VIの拡大断面図であり、
図7は、
図5中部分VIIの拡大断面図である。
図8は、本実施形態における表示装置の表示画面の具体例を表す図である。
【0016】
原子炉圧力容器の胴体のフランジ1(被検体)は、全体を図示しないものの、円環状の構造をなしており、周方向に配列された複数のボルト穴2(雌ねじ部)を有している。胴体のフランジ1には、複数のボルト穴2にそれぞれ取付けられた複数のスタッドボルト(図示せず)を介して、上蓋(図示せず)が取付けられる。そのため、ボルト穴2のねじ谷底に応力が発生して、ねじ谷底を起点とした欠陥(詳細には、割れ等の不連続部)が生じる可能性がある。
【0017】
そのため、本実施形態では、胴体のフランジ1のねじ谷底側の部分(言い換えれば、ボルト穴2の半径方向外側の部分)を検査対象とする。なお、検査は、上蓋及びスタッドボルトが取外された状態で行われる。また、胴体のフランジ1の上面におけるボルト穴2の近傍には段差(図示せず)があるため、本実施形態では、拡散型の斜角探触子3を採用する。
【0018】
本実施形態の超音波探傷装置は、斜角探触子3と、斜角探触子3を移動する探触子移動装置4と、斜角探触子3による超音波の送受信を制御する超音波探傷器5と、情報処理装置6と、入力装置7と、表示装置8と、記憶装置9とを備えている。なお、情報処理装置6は、コンピュータ等で構成され、入力装置7は、キーボード等で構成されている。表示装置8は、ディスプレイ等で構成され、記憶装置9は、ハードディスク等で構成されている。
【0019】
超音波探傷器5は、図示しないものの、パルサ及びレシーバ等を有している。超音波探傷器5のパルサは、斜角探触子3に駆動信号(電気信号)を出力する。斜角探触子3は、超音波探傷器5のパルサからの駆動信号に応じて胴体のフランジ1の内部に超音波ビーム10(詳細は後述)を送信する。また、斜角探触子3は、胴体のフランジ1の内部で反射された超音波を受信し、受信した超音波を波形信号(電気信号)に変換して超音波探傷器5のレシーバに出力する。超音波探傷器5のレシーバは、斜角探触子3からの波形信号に対し所定の処理(詳細には、アナログ信号からデジタル信号への変換処理等)を行い、表示装置8へ出力する。
【0020】
斜角探触子3は、胴体のフランジ1の上面(言い換えれば、ボルト穴2の軸方向一方側の端面)に配置されている。また、斜角探触子3は、ボルト穴2の軸方向(
図5中上下方向)に対して斜めに拡散型の超音波ビーム10(
図5中二点鎖線で囲まれた部分で示すように、ビーム進行方向に沿ってビーム幅が拡大するもの)を送信するものであり、超音波ビーム10の中心軸11の屈折角θがボルト穴2のフランク角αより小さくなるように設定されている。具体的には、例えばボルト穴2のフランク角αが30度であるため、超音波ビーム10の中心軸11の屈折角θが30度未満となるように設定されている。なお、本実施形態では、屈折角θが15度に設定されている。
【0021】
例えば
図6で示すように、斜角探触子3からの超音波ビーム10の中心軸11が到達する胴体のフランジ1のねじ谷底側の部分に、微小な欠陥12(
図6では便宜上、誇張して示す)が生じている場合、屈折角θ(但し、θ<α)の方向に伝播した超音波が欠陥12で反射(散乱)され、その反射波が斜角探触子3で受信される。また、屈折角θの方向に伝播した超音波がフランク13Aで反射されても、屈折角θとフランク角αの差異によって鏡面反射とならないため、その反射波が斜角探触子3で受信されない(若しくは、その振幅が小さくなる)。その一方で、
図7で示すように、屈折角θ’(但し、θ’=α)の方向に伝播した超音波がフランク13Bで鏡面反射され、その反射波が斜角探触子3で受信される。
【0022】
探触子移動装置4は、手動で斜角探触子3を移動する治具として構成されている。詳しく説明すると、探触子移動装置4は、胴体のフランジ1のボルト穴2に螺合するベース14と、ベース14に対してボルト穴2の軸まわりに回転可能に設けられた支持部15と、支持部15に対してボルト穴2の径方向にスライド可能に設けられた第1アーム16と、第1アーム16に対してボルト穴2の軸方向にスライド可能に設けられた第2アーム17と、第2アーム17に設けられ、斜角探触子を保持するホルダ18とを備えている。
【0023】
上述した構造により、探触子移動装置4は、斜角探触子3をボルト穴2の軸方向に移動して、斜角探触子3と胴体のフランジ1の上面の接触状態を調整することが可能である。また、斜角探触子3をボルト穴2の周方向に移動して、斜角探触子3からの超音波ビーム10の中心軸11が到達するねじ谷底側部分の周方向位置を変更することが可能である。また、斜角探触子3をボルト穴2の半径方向に移動して、斜角探触子3からの超音波ビーム10の中心軸11が到達するねじ谷底側部分の軸方向位置を変更することが可能である。なお、斜角探触子3の位置は、例えば支持部15、第1アーム16、及び第2アーム17に記された目盛り等により、検査者が把握できるようになっている。
【0024】
情報処理装置6は、機能的構成として、伝播時間演算部20、ゲート設定部21、閾値テーブル記憶部22、及び閾値設定部23を有している。情報処理装置6は、上述した斜角探触子3の位置や超音波ビーム10の中心軸11の屈折角θが、入力装置7によって入力されている。
【0025】
情報処理装置6の伝播時間演算部20は、斜角探触子3の半径方向位置r(詳細には、
図5で示すように、ボルト穴2の半径方向におけるボルト穴2のねじ谷底から斜角探触子3の中心までの距離)と超音波ビーム10の中心軸11の屈折角θに基づき、超音波ビーム10の中心軸11が到達するねじ谷底側部分の位置を演算し、その部分に欠陥が生じていると想定した場合に欠陥で反射されて斜角探触子3で受信される超音波の伝播時間tを演算する。すなわち、下記の式(1)を用いて、超音波の伝播時間tを演算する。式(1)中のcは、胴体のフランジ1の音速である。
t=2×r/(c×sinθ) ・・・(1)
【0026】
情報処理装置6のゲート設定部21は、伝播時間演算部20で演算された超音波の伝播時間tに対応するゲート(詳細には、斜角探触子3の送信タイミングに伝播時間tが加算された受信タイミングを基準として、時間幅を有するもの)を設定する。
【0027】
情報処理装置6の閾値テーブル記憶部22は、予め取得された超音波の伝播時間tと超音波の振幅の閾値との関係を示す閾値テーブルを記憶している。この閾値テーブルは、複数の模擬欠陥を有する試験体を用いた試験にて得られたデータに対し、内挿処理を施したものである。情報処理装置6の閾値設定部23は、閾値テーブル記憶部22で記憶された閾値テーブルを用いて、伝播時間演算部20で演算された超音波の伝播時間tに対応する超音波の振幅の閾値を設定する。すなわち、超音波の伝播時間tの増大に応じて振幅の閾値を減少するように設定する。この振幅の閾値は、斜角探触子3で受信された超音波が欠陥で反射されたものかどうかを判断するためのものである。
【0028】
表示装置8は、斜角探触子3で受信された超音波の振幅の経時変化を、超音波探傷器5から取得する。また、情報処理装置6で設定されたゲート及び振幅の閾値を、斜角探触子3の位置と共に、情報処理装置6から取得する。そして、斜角探触子3の位置毎に、例えば
図8で示すように、斜角探触子3で受信された超音波の振幅の経時変化を、マーカ24(
図8中破線)と共に表示する。マーカ24の横方向の長さは、ゲートを示し、マーカ24の縦方向の位置は、振幅の閾値を示している。
【0029】
図8の表示画面では、
図6の欠陥12からの反射波25と、
図7のフランク13Bからの反射波26が現れている。反射波25は、マーカ24で示されたゲート内に現れ、且つ、その振幅がマーカ24で示された閾値を超えている。これにより、作業者は、反射波25が欠陥からの反射波であると特定することができる。なお、ゲート及び振幅の閾値は、上述のように設定されるため、それらを示すマーカ24は、斜角探触子3の半径方向位置に応じて変動する。
【0030】
記憶装置9は、斜角探触子3の位置、斜角探触子3で受信された超音波の振幅の経時変化、ゲート、及び振幅の閾値を関連付けて記憶する。
【0031】
次に、本実施形態の超音波探傷方法を説明する。
図9は、本実施形態における超音波探傷方法の手順を表すフローチャートである。
【0032】
まず、ステップS101にて、作業者は、入力装置7を操作して、斜角探触子3の半径方向位置rを情報処理装置6に入力する。ステップS102に進み、情報処理装置6の伝播時間演算部20は、斜角探触子3の半径方向位置rと超音波ビーム10の中心軸11の屈折角θに基づき、超音波の伝播時間tを演算する。そして、情報処理装置6のゲート設定部21は、超音波の伝播時間tに対応するゲートを設定する。その後、ステップS103に進み、情報処理装置6の閾値設定部23は、伝播時間演算部20で演算された超音波の伝播時間tに対応する超音波の振幅の閾値を設定する。
【0033】
そして、ステップS104に進み、作業者は、探触子移動装置4を操作して、斜角探触子3を周方向に走査する。このとき、斜角探触子3は、超音波探傷器5からの駆動信号に応じて、胴体のフランジ1の内部に超音波ビームを送信する。また、斜角探触子3は、胴体のフランジ1の内部で反射された超音波を受信し、受信した超音波を波形信号に変換して超音波探傷器5へ出力する。超音波探傷器5は、斜角探触子3からの波形信号に対し所定の処理を行い、表示装置8へ出力する。
【0034】
そして、ステップS105に進み、表示装置8は、斜角探触子3の周方向位置毎に、例えば
図8で示すように、斜角探触子3で受信された超音波の振幅の経時変化を、マーカ24と共に表示する。その後、探傷が完了していなければ、ステップS106の判定がNOとなってステップS107に移り、斜角探触子3の半径方向位置を変更する。そして、上述したステップS101~S105を行う。
【0035】
図8の表示画面では、超音波ビーム10の中心軸11の屈折角θとフランク角αの差異によって超音波の伝播時間が異なるため、欠陥12からの反射波25とフランク13Bからの反射波26を分離することができる。そして、作業者は、マーカ24で示されたゲート内に反射波が存在するかどうかを確認し、ゲート内に反射波が存在すれば、その振幅がマーカ24で示された閾値を超えているかどうかを確認し、振幅が閾値を超えていれば、超音波ビーム10の中心軸11が到達するねじ谷底側の部分の位置に生じた欠陥12からの反射波と特定することができる。
【0036】
したがって、本実施形態においては、拡散型の斜角探触子3を用いるものの、胴体のフランジ1のねじ谷底側の部分に生じた欠陥からの反射波を特定することができる。
【0037】
なお、上記一実施形態において、情報処理装置6は、ゲート及び振幅の閾値を設定し、表示装置8は、斜角探触子3で受信された超音波の経時変化を、ゲート及び振幅の閾値を示すマーカ24と共に表示する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。例えば、情報処理装置は、ゲート及び振幅の閾値のうちのゲートのみを設定し、表示装置は、斜角探触子で受信された超音波の経時変化を、ゲートのみを示すマーカと共に表示してもよい。
【0038】
また、上記一実施形態において、探触子移動装置4は、手動で探触子を移動するように構成された場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。例えば、探触子移動装置は、電動で探触子を移動するように構成されてもよい。
【0039】
また、上記一実施形態において、情報処理装置6は、斜角探触子3の位置が入力装置7によって入力された場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。例えば、斜角探触子3の位置を検出するセンサを設け、情報処理装置6は、斜角探触子3の位置がセンサによって入力されてもよい。
【0040】
なお、以上においては、本発明の適用対象として、被検体の雌ねじ部の軸方向一方側の端面に配置された拡散形の斜角探触子を用いて、被検体のねじ谷底側の部分(言い換えれば、雌ねじ部の半径方向外側の部分)に欠陥が生じているかどうかを検査する場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、被検体の雄ねじ部の軸方向一方側の端面に配置された拡散形の斜角探触子を用いて、被検体のねじ谷底側の部分(言い換えれば、雄ねじ部の半径方向内側の部分)に欠陥が生じているかどうかを検査する場合に、本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 胴体のフランジ
2 ボルト穴
3 斜角探触子
4 探触子移動装置
6 情報処理装置
8 表示装置
10 超音波ビーム
11 中心軸
24 マーカ