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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】スルホニウム塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/41 20060101AFI20220412BHJP
   C07C 381/12 20060101ALI20220412BHJP
   C07C 65/05 20060101ALI20220412BHJP
   C07C 53/21 20060101ALI20220412BHJP
   C07C 309/04 20060101ALI20220412BHJP
   C07C 303/32 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C07C51/41
C07C381/12
C07C65/05
C07C53/21
C07C309/04
C07C303/32
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018125808
(22)【出願日】2018-07-02
(65)【公開番号】P2020002115
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000106139
【氏名又は名称】サンアプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118061
【弁理士】
【氏名又は名称】林 博史
(72)【発明者】
【氏名】中村 友治
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 智幸
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 祐作
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/018332(WO,A1)
【文献】特開2017-072691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表させるスルホニウム塩(A)をルイス酸(B)と反応させた後、スルホン酸またはカルボン酸のアルカリ金属塩(C)と反応させることを特徴とする、下記一般式(2)で表されるスルホニウム塩(D)の製造方法。
【化1】
[式(1)、(2)中、Ar1、Ar2およびAr3はそれぞれに、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Xはスルホン酸またはカルボン酸のアニオン残基を表す。]
【請求項2】
スルホニウム塩(A)およびスルホニウム塩(D)のAr1、Ar2およびAr3の置換基の一つが、アリールチオ基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ルイス酸(B)が塩化アルミニウムである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
スルホニウム塩(A)をルイス酸(B)と反応させた後、水を投入した反応混合物から有機溶剤に可溶な成分を抽出する工程を含む、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホニウム塩の製造方法に関する。さらに詳しくは、半導体のパターン形成に用いる化学増幅型レジスト用のクエンチャーとして好適なスルホニウム塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光あるいは電子線などの活性エネルギー線照射によって酸を発生する光カチオン重合開始剤あるいはレジスト用光酸発生剤としては、ヨードニウム、スルホニウムなどのオニウムあるいは遷移金属錯体をカチオン成分とする塩が知られている。これらの塩のカチオン成分のうち、活性エネルギー線照射による酸発生効率が高く、レジスト組成物での貯蔵安定性が良いという観点から、スルホニウム、特にアリール基を有するスルホニウムを含むものが賞用されている。
【0003】
一方、半導体の製造に代表される微細加工の分野におけるリソグラフィー工程に用いられるレジスト材料には、上記光酸発生剤と例えば、カルボン酸のtert-ブチルエステル基、又はフェノールのtert-ブチルカーボネート基を有する重合体のほかに、クエンチャーが含まれることがある。このクエンチャーは、露光により発生した酸をトラップし拡散を制御することで露光部と未露光部のコントラストを向上させる役割があり、塩基性の含窒素有機化合物、あるいはスルホニウム塩やヨードニウム塩のような光分解性塩基などが挙げられる。光分解性塩基はスルホン酸やカルボン酸等の弱酸アニオン残基を有するため、光や放射線の未露光部では発生した強酸と塩交換することで強酸の拡散を抑制する一方、光や放射線の露光部では該化合物は分解するため上記のクエンチャー能が低下し、感度低下を起こしにくい機能を有し、レジストパターンのラフネス等の特性向上に効果を発揮する。
【0004】
これらスルホン酸やカルボン酸等の弱酸アニオン残基を有するスルホニウム塩等の合成法としては、有機金属化合物とスルホキシドをルイス酸として有機ケイ素化合物存在下で反応させた後、カルボン酸またはその塩と反応させる方法(特許文献1)、アリールハライドとスルホキシドをルイス酸存在下で反応させた後、カルボン酸またはその塩と反応させる方法(特許文献2)、カルボン酸エステル部位を有するジアリールスルフィドとヨードニウム塩とを反応させてスルホニウム塩を得た後、塩基でエステルを分解する方法(特許文献3)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-315430号公報
【文献】特開2009-84219号公報
【文献】特開2017-202993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1、2または3で開示されている方法はすべてスルホニウム化反応を経由するため、得られるスルホニウム塩の構造が限定される。具体的には、置換基としてハロゲン原子やアルキル基等を有するトリフェニルスルホニウム、および分子内で塩を形成するスルホニウムのみである。
【0007】
そこで本発明は、スルホニウムの構造に制限なく、特にアリールチオ基を有するトリアリールスルホニウムで、スルホン酸やカルボン酸等の弱酸アニオン残基を有する、クエンチャーとして有用なスルホニウム塩の簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表させるスルホニウム塩(A)をルイス酸(B)と反応させた後、有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)と反応させることを特徴とする、下記一般式(2)で表されるスルホニウム塩(D)の製造方法である。
【0009】
【化1】
【0010】
[式(1)、(2)中、Ar1、Ar2およびAr3はそれぞれに、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Xは有機酸または無機酸のアニオン残基を表す。]
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スルホン酸やカルボン酸等の弱酸アニオン残基を有するスルホニウム塩を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<スルホニウム塩(A)>
本発明において、スルホニウム塩(A)は上記一般式(1)で表される。
【0013】
式(1)中、Ar1、Ar2およびAr3はそれぞれに、置換基を有していてもよいアリール基を表す。
【0014】
アリール基とは、炭素数6~30の単環式芳香族炭化水素または縮合多環式芳香族炭化水素、および炭素数4~30の単環式複素環化合物または縮合多環式複素環化合物の骨格をもつ基である。
【0015】
アリール基の炭素数6~30の単環式芳香族炭化水素または縮合多環式芳香族炭化水素としては、例えばベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ベンズアントラセン、アントラキノン、フルオレン、ナフトキノンなどが挙げられる。
【0016】
アリール基の炭素数4~30の単環式複素環化合物または縮合多環式複素環化合物としては、例えばチオフェン、フラン、ピロール、オキサゾール、チアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、カルバゾール、アクリジン、フェノチアジン、フェナジン、キサンテン、チアントレン、フェノキサジン、フェノキサチイン、クロマン、イソクロマン、ジベンゾチオフェン、キサントン、チオキサントン、ジベンゾフランなどが挙げられる。
【0017】
上記アリール基の置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールチオカルボニル基、アシロキシ基、アリールチオ基、アルキルチオ基、アリール基、複素環式炭化水素基、アリールオキシ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキレンオキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基及びハロゲン原子が挙げられ、1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0018】
アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-オクチル、n-デシル、n-ドデシル、n-テトラデシル、n-ヘキサデシル及びn-オクタデシルなど炭素数1~18の直鎖アルキル基、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、イソヘキシル及びイソオクタデシルなど炭素数1~18の分岐アルキル基、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及び4-デシルシクロヘキシルなど炭素数3~18のシクロアルキル基、またはトリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、ノナフルオロブチルなど炭素数1~4の直鎖または分岐のフルオロアルキル基などが挙げられる。
【0019】
アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、ヘキシルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ及びオクタデシルオキシなど炭素数1~18の直鎖または分岐のアルコキシ基が挙げられる。
【0020】
アルキルカルボニル基としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、2-メチルプロピオニル、ヘプタノイル、2-メチルブタノイル、3-メチルブタノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル及びオクタデカノイルなど炭素数2~18の直鎖または分岐のアルキルカルボニル基が挙げられる。
【0021】
アリールカルボニル基としては、ベンゾイル、ナフトイルなど炭素数7~11のアリールカルボニル基が挙げられる。
【0022】
アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec-ブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、オクチロキシカルボニル、テトラデシルオキシカルボニル及びオクタデシロキシカルボニルなど炭素数2~19の直鎖または分岐のアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0023】
アリールオキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル、ナフトキシカルボニルなど炭素数7~11のアリールオキシカルボニル基が挙げられる。
【0024】
アリールチオカルボニル基としては、フェニルチオカルボニル、ナフトキシチオカルボニルなど炭素数7~11のアリールチオカルボニル基が挙げられる。
【0025】
アシロキシ基としては、アセトキシ、エチルカルボニルオキシ、プロピルカルボニルオキシ、イソプロピルカルボニルオキシ、ブチルカルボニルオキシ、イソブチルカルボニルオキシ、sec-ブチルカルボニルオキシ、tert-ブチルカルボニルオキシ、オクチルカルボニルオキシ、テトラデシルカルボニルオキシ及びオクタデシルカルボニルオキシなど炭素数2~19の直鎖または分岐のアシロキシ基が挙げられる。
【0026】
アリールチオ基としては、フェニルチオ、2-メチルフェニルチオ、3-メチルフェニルチオ、4-メチルフェニルチオ、2-クロロフェニルチオ、3-クロロフェニルチオ、4-クロロフェニルチオ、2-ブロモフェニルチオ、3-ブロモフェニルチオ、4-ブロモフェニルチオ、2-フルオロフェニルチオ、3-フルオロフェニルチオ、4-フルオロフェニルチオ、2-ヒドロキシフェニルチオ、4-ヒドロキシフェニルチオ、2-メトキシフェニルチオ、4-メトキシフェニルチオ、1-ナフチルチオ、2-ナフチルチオ、4-[4-(フェニルチオ)ベンゾイル]フェニルチオ、4-[4-(フェニルチオ)フェノキシ]フェニルチオ、4-[4-(フェニルチオ)フェニル]フェニルチオ、4-(フェニルチオ)フェニルチオ、4-ベンゾイルフェニルチオ、4-ベンゾイル-2-クロロフェニルチオ、4-ベンゾイル-3-クロロフェニルチオ、4-ベンゾイル-3-メチルチオフェニルチオ、4-ベンゾイル-2-メチルチオフェニルチオ、4-(4-メチルチオベンゾイル)フェニルチオ、4-(2-メチルチオベンゾイル)フェニルチオ、4-(p-メチルベンゾイル)フェニルチオ、4-(p-エチルベンゾイル)フェニルチオ4-(p-イソプロピルベンゾイル)フェニルチオ及び4-(p-tert-ブチルベンゾイル)フェニルチオなど炭素数6~20のアリールチオ基が挙げられる。
【0027】
アルキルチオ基としては、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチルチオ、sec-ブチルチオ、tert-ブチルチオ、ペンチルチオ、イソペンチルチオ、ネオペンチルチオ、tert-ペンチルチオ、オクチルチオ、デシルチオ、ドデシルチオ及びイソオクタデシルチオなど炭素数1~18の直鎖または分岐のアルキルチオ基が挙げられる。
【0028】
アリールオキシ基としては、フェノキシ、ナフチルオキシなど炭素数6~10のアリールオキシ基が挙げられる。
【0029】
アルキルスルフィニル基としては、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、プロピルスルフィニル、イソプロピルスルフィニル、ブチルスルフィニル、イソブチルスルフィニル、sec-ブチルスルフィニル、tert-ブチルスルフィニル、ペンチルスルフィニル、イソペンチルスルフィニル、ネオペンチルスルフィニル、tert-ペンチルスルフィニル、オクチルスルフィニル及びイソオクタデシルスルフィニルなど炭素数1~18の直鎖または分岐のアルキルスルフィニル基が挙げられる。
【0030】
アリールスルフィニル基としては、フェニルスルフィニル、トリルスルフィニル及びナフチルスルフィニルなど炭素数6~10のアリールスルフィニル基が挙げられる。
【0031】
アルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、イソブチルスルホニル、sec-ブチルスルホニル、tert-ブチルスルホニル、ペンチルスルホニル、イソペンチルスルホニル、ネオペンチルスルホニル、tert-ペンチルスルホニル、オクチルスルホニル及びオクタデシルスルホニルなど炭素数1~18の直鎖または分岐のアルキルスルホニル基が挙げられる。
【0032】
アリールスルホニル基としては、フェニルスルホニル、トリルスルホニル(トシル基)及びナフチルスルホニルなど炭素数6~10のアリールスルホニル基が挙げられる。
【0033】
アルキレンオキシ基は、下記一般式(3)で示される。
【0034】
【化2】
【0035】
式中、Qは水素原子またはメチル基を表し、kは1~5の整数を表す。
【0036】
これら置換基のうち、合成の容易さの観点から、アルキル基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールチオカルボニル基、アシロキシ基、アリールチオ基、アルキルチオ基、アリール基、複素環式炭化水素基、アリールオキシ基、アリールスルフィニル基、アリールスルホニル基、フッ素原子及び塩素原子が好ましく、さらに好ましくはアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アリールチオカルボニル基、アリールチオ基、アリール基、複素環式炭化水素基、アリールオキシ基、アリールスルフィニル基、アリールスルホニル基である。
特に好ましくは、Ar1、Ar2およびAr3の置換基の一つが、アリールチオ基である。
【0037】
一般式(1)で示されるスルホニウム塩(A)のカチオンのうち、具体的な例を下記に示す。
【0038】
【化3】
【0039】
【化4】
【0040】
【化5】
【0041】
【化6】
【0042】
【化7】
【0043】
<ルイス酸(B)>
ルイス酸(B)としては、例えば、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)等が挙げられ、反応性、生成物の抽出の容易さの観点から塩化アルミニウムが好ましい。
【0044】
<有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)>
有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)の有機酸としては、メタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸等のフッ素化アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、メチルエチル酢酸、トリメチル酢酸、カプロン酸、イソカプロン酸、ジエチル酢酸、2,2-ジメチル酪酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、2-エチルヘキサン酸、n-ウンデシレン酸、ラウリン酸、n-トリデシレン酸、ミリスチン酸、n-ペンタデシレン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、n-ノナデシレン酸、アラキジン酸、n-ヘンアイコ酸等の飽和脂肪族カルボン酸、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸等のフッ素化飽和脂肪族カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ビニル酢酸、メタクリル酸、2-ペンテン酸、3-ペンテン酸、アリル酢酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、3-メチルクロトン酸、2-ヘキセン酸、3-ヘキセン酸、4-ヘキセン酸、5-ヘキセン酸、2-メチル-2-ペンテン酸、3-メチル-2-ペンテン酸、4-メチル-2-ペンテン酸、4-メチル-2-ペンテン酸、4-メチル-3-ペンテン酸、2-エチルクロトン酸、2-へプテン酸、2-オクテン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレステアリン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪族カルボン酸、シクロプロパンカルボン酸、シクロブタンカルボン酸、シクロブテンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロペンテンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロヘキセンカルボン酸、シクロヘプタンカルボン酸、シクロヘプテンカルボン酸等の脂環式カルボン酸、安息香酸、3-メチル安息香酸、4-メチル安息香酸、3-エチル安息香酸、4-エチル安息香酸、サリチル酸、4-ヒドロキシ安息香酸、2-メトキシ安息香酸、3-メトキシ安息香酸、4-メトキシ安息香酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。
【0045】
無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸等が挙げられる。
【0046】
上記有機酸および無機酸のうち、クエンチャーとしての適応性、すなわち酸強度とスルホニウム塩の溶剤に対する溶解性の観点から、スルホン酸およびカルボン酸が好ましく、アルキルスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-エチルヘキサン酸、ヘプタフルオロ酪酸およびサリチル酸が特に好ましい。
【0047】
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、上記酸との塩の入手の容易さの観点から、ナトリウムまたはカリウムが好ましい。
【0048】
本発明の製造方法において、スルホニウム塩(A)とルイス酸(B)のモル比は、通常スルホニウム塩(A)1モルに対し、ルイス酸(B)1~10モル、好ましくは2~5モルである。1モルのスルホニウム塩(A)に対してルイス酸(B)が1モル未満では、次の塩交換反応の収率が低くなり、10モルを超えると必要以上にルイス酸(B)を使用することになり、多量の酸性廃水が発生して操作が煩雑になり、コスト高となる。
【0049】
本発明の製造方法において、スルホニウム塩(A)と有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)のモル比は、通常スルホニウム塩(A)1モルに対し、有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)1~5モル、好ましくは1.1~2モルである。1モルのスルホニウム塩(A)に対して有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)が1モル未満では、目的の塩交換反応の収率が低くなり、5モルを超えると必要以上に有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)を使用することになり、コスト高となる。
【0050】
本発明の製造方法において、ルイス酸(B)は必須の成分である。通常スルホニウム塩の複分解では、より強酸の共役塩基に相当するアニオンへのアニオン交換反応が進行する。すなわち、本発明のスルホニウム塩(A)のアニオンはヘキサフルオロホスフェートであるため、これよりも弱い酸であるカルボン酸やスルホン酸のアニオン残基へのアニオン交換反応は通常進行しない。しかし、本発明のルイス酸(B)をスルホニウム塩(A)とまず反応させることでアニオンであるヘキサフルオロホスフェートが分解し、ルイス酸由来の錯イオンまたはハロゲン化物イオンをアニオンとするスルホニウム塩が中間体として生成するため、次工程の有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)との反応により目的のアニオンへの交換反応が可能となる。したがって、ルイス酸(B)の存在なしでは、本発明の製造方法は成立しない。
【0051】
本発明の製造方法において、スルホニウム塩(A)と有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)のモル比は、通常スルホニウム塩(A)1モルに対し、有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)1~5モル、好ましくは1.1~2モルである。1モルのスルホニウム塩(A)に対して有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)が1モル未満では、目的の塩交換反応の収率が低くなり、5モルを超えると必要以上に有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)を使用することになり、コスト高となる。
【0052】
本発明の製造方法において、スルホニウム塩(A)とルイス酸(B)の反応は、必要により、溶媒の存在下で行ってもよい。その場合に用いる溶媒としてはスルホニウム塩(A)を溶解させることができるものであれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素系有機溶剤、およびアセトニトリル等の極性有機溶剤が挙げられる。これらの溶媒は、1種のものを使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。これらの溶媒のうち好ましいのは、エーテル類、ケトン類、塩素系有機溶剤であり、特に好ましいのは、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルムである。
【0053】
溶媒の使用量は、通常スルホニウム塩(A)の割合が1~50重量%となる量であり、好ましくは5~20重量%である。
【0054】
本発明の製造方法において、反応温度はスルホニウム塩(A)とルイス酸(B)との反応では-30℃~10℃、好ましくは-20℃~0℃であり、有機酸または無機酸のアルカリ金属塩(C)との反応では0℃~60℃、好ましくは10℃~30℃である。
【0055】
本発明の製造方法において、スルホニウム塩(A)とルイス酸(B)の反応後は反応液を水に投入し、過剰のルイス酸(B)を分解させて反応を停止するのが好ましい。反応中間生成物は有機溶剤に可溶であるので、さらにジエチルエーテル、クロロホルム等の有機溶剤を投入することで反応中間生成物を抽出することができる。
【0056】
トリアリールスルホニウムの置換基としてハロゲン原子やアルキル基等を有する場合(特許文献5または6)、反応中間生成物の水への溶解性が高いため、有機溶剤による抽出が困難となり、収率が極端に低下する。一方、本発明の製造方法におけるスルホニウム塩(A)の場合、有機溶剤による抽出が可能であるため、ルイス酸(B)由来の反応副生物を分離することができ、次工程の塩交換反応が容易に進行し、所望のスルホニウム塩(D)を収率良く回収することができる。
【0057】
得られたスルホニウム塩(D)は、必要によりメタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、またはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類などの1種または2種以上の混合溶剤で洗浄するか、あるいはこれらの溶剤の1種または2種以上の混合溶剤で再結晶させるか、または上記溶剤洗浄と再結晶の操作を任意に組み合わせて行い、純度を向上させることができる。
【実施例
【0058】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0059】
<製造例1>
<(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート[中間体(1)]の製造方法>
ヘキサフルオロリン酸カリウム4.3部、アセトニトリル10部、ジフェニルスルフィド3.6部、ジフェニルスルホキシド4.1部及び無水酢酸5.9部を均一に混合した後、濃硫酸2.3部を室温で滴下した。40℃で1時間撹拌後、室温まで冷却し、水20部を加えて10分撹拌したところに、酢酸エチル20部を加えて有機層を抽出した。この有機層を20%水酸化ナトリウム水溶液、さらに水で3回洗浄した後、エバポレーターで溶剤を留去することにより、(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート[中間体(1)]を9.7部得た。
【0060】
<製造例2>
<[4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル]-4-ビフェニリルフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート[中間体(2)]の製造方法>
4-(フェニルチオ)ビフェニル2.0部、アセトニトリル8.0部、硫酸0.37部及び30%過酸化水素水0.43部を均一混合し、65℃で3時間反応させた。反応液を室温まで冷却後、水に投入して固体を析出させ、ろ過により回収することで、白色固体の4-(フェニルスルフィニル)ビフェニルを55%と4-(フェニルチオ)ビフェニルを45%含む混合物を得た。
得られた4-(フェニルスルフィニル)ビフェニルを55%と4-(フェニルチオ)ビフェニルを45%含む混合物2.0部、4-(フェニルチオ)ビフェニル0.24部、無水酢酸1.2部、トリフルオロメタンスルホン酸0.72部、アセトニトリル6.5部を均一混合し、60℃で2時間反応させた。反応液を室温まで冷却後、水30部中に投入し、ジクロロメタン30部で抽出し、水層のpHが中性になるまで水で洗浄した。ジクロロメタン層をトルエン30部次いでヘキサン30部で洗浄した後、10%ヘキサフルオロリン酸カリウム水溶液8.4部を投入して1時間撹拌し、水で3回洗浄した。エバポレーターで溶剤を留去することにより、[4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル]-4-ビフェニリルフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート[中間体(2)]2.6部を得た。
【0061】
<実施例1>
<サリチル酸(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウム(1)]の製造方法>
【0062】
【化8】
【0063】
製造例1で得られた(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート[中間体(1)]5.0部をクロロホルム46部に溶解させ、0℃に冷却した後、塩化アルミニウム5.2部を投入して撹拌した。1時間後、反応混合液を水52部に投入し、さらに30分撹拌した後、静置して水層を除去した。有機層を水で5回撹拌洗浄した後、5%サリチル酸ナトリウム水溶液32.5部を投入して1時間撹拌し、静置後水層を除去した。有機層を水で5回撹拌洗浄した後、エバポレーターで溶剤を留去することで、褐色の粘調物を得た。引き続き、tert-ブチルメチルエーテルで溶剤洗浄することで表題の化合物(1)4.4部を得た。生成物は1H-NMRにて同定した。
【0064】
<実施例2>
<ヘプタフルオロブタン酸(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウム(2)の製造方法>
【0065】
【化9】
【0066】
実施例1において、5%サリチル酸ナトリウム水溶液32.5部を5%ヘプタフルオロブタン酸ナトリウム水溶液48.0部としたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、表題の化合物(2)5.1部を得た。生成物は1H-NMRにて同定した。また19F-NMRにより、3F;t、2F;m及び2F;tのシグナルを確認した。
【0067】
<実施例3>
<ヘキサンスルホン酸酸(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウム(3)の製造方法>
【0068】
【化10】
【0069】
実施例1において、5%サリチル酸ナトリウム水溶液32.5部を5%ヘキサンスルホン酸ナトリウム水溶液38.2部としたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、表題の化合物(3)4.6部を得た。生成物は1H-NMRにて同定した。
【0070】
<実施例4>
<サリチル酸[4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル]-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム(4)の製造方法>
【0071】
【化11】
【0072】
製造例2で得られた[4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル]-4-ビフェニリルフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート[中間体(2)]5.0部をクロロホルム36部に溶解させ、0℃に冷却した後、塩化アルミニウム4.0部を投入して撹拌した。1時間後、反応混合液を水40部に投入し、さらに30分撹拌した後、静置して水層を除去した。有機層を水で5回撹拌洗浄した後、5%サリチル酸ナトリウム水溶液25.1部を投入して1時間撹拌し、静置後水層を除去した。有機層を水で5回撹拌洗浄した後、エバポレーターで溶剤を留去することで、褐色の粘調物を得た。引き続き、tert-ブチルメチルエーテルで溶剤洗浄することで表題の化合物(4)4.4部を得た。生成物は1H-NMRにて同定した。
【0073】
<実施例5>
<ヘプタフルオロブタン酸[4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル]-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム(5)の製造方法>
【0074】
【化12】
【0075】
実施例4において、5%サリチル酸ナトリウム水溶液25.1部を5%ヘプタフルオロブタン酸ナトリウム水溶液37.1部としたこと以外は、実施例4と同様な操作を行い、表題の化合物(5)を得た。生成物は1H-NMRにて同定した。また19F-NMRにより、3F;t、2F;m及び2F;tのシグナルを確認した。
【0076】
<実施例6>
<ヘキサンスルホン酸[4-(4-ビフェニリルチオ)フェニル]-4-ビフェニリルフェニルスルホニウム(6)の製造方法>
【0077】
【化13】
【0078】
実施例4において、5%サリチル酸ナトリウム水溶液25.1部を5%ヘキサンスルホン酸ナトリウム水溶液29.5部としたこと以外は、実施例4と同様な操作を行い、表題の化合物(6)を得た。生成物は1H-NMRにて同定した。
【産業上の利用可能性】
【0079】
上記の通り、本発明の製造方法によれば、スルホン酸やカルボン酸等のアニオン残基を有するスルホニウム塩を、簡便に合成することができる。このスルホニウム塩は光あるいは電子線などの活性エネルギー線照射によってスルホン酸やカルボン酸等、酸強度の低い酸を発生するため、クエンチャーとして有用である。