(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】異常状態判定システム
(51)【国際特許分類】
G01D 5/244 20060101AFI20220412BHJP
G01D 5/12 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
G01D5/244 F
G01D5/244 K
G01D5/12 K
(21)【出願番号】P 2018149507
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】石本 茂
(72)【発明者】
【氏名】樋原 功一
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-133989(JP,A)
【文献】特開2007-322197(JP,A)
【文献】特開2014-215114(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0307645(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00-5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサから出力された信号に基づく検出信号を用いて異常状態を判定する異常状態判定部と、
所定の条件を満たすとき、前記異常状態判定部に入力する前の段階で、前記検出信号の強度を調整する制御処理を行う特定処理部と、
を備え
、
前記センサから周期的に変動する信号が出力され、
前記特定処理部が、前記周期的に変動する信号に基づく検出信号の値が所定の範囲を超えたとき、前記検出信号の強度を調整する制御処理を行い、
前記センサが、磁気パターンを有するスケールに対して所定間隔を隔てて配置された磁気センサであり、前記センサ及び前記スケールの間の相対的移動により、前記センサが正弦波及び余弦波の信号を出力し、
前記特定処理部が、前記検出信号における正弦波及び余弦波によるリサージュ円の半径を算出し、前記半径が前記所定の範囲を超えたとき、前記検出信号の強度を調整する制御処理を行うことを特徴とする異常状態判定システム。
【請求項2】
前記検出信号の更新タイミングごとに、前記特定処理部が、前記半径が前記所定の範囲を超えるか否か判断することを特徴とする請求項
1に記載の異常状態判定システム。
【請求項3】
前記異常状態判定部が、複数の前記更新タイミングにおいて、前記検出信号の値が閾値を超えたとき、異常状態が発生したと判断することを特徴とする請求項
2に記載の異常状態判定システム。
【請求項4】
前記閾値が、信号の流れにおいて前記異常状態判定部及び前記特定処理部の上流側に配置されたAD変換器の入力許容値により定まることを特徴とする請求項
3に記載の異常状態判定システム。
【請求項5】
請求項1から
4の何れか1項に記載の異常状態判定システム及びセンサと、
前記検出信号を用いて測定値を定める測定部と、
前記検出信号の強度を補正するための補正量算出部と、
を備えたことを特徴とする測定装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の測定装置が備えられた工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサを用いた測定における異常状態を判定する異常状態判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
測定装置では、センサの異常を適確に検出してアラームを発することが重要である。しかし、センサが置かれた環境によっては、異常が発生したか否かの判定において誤判定が生じる可能性がある。この課題に対応するため、例えば、自動車の取り付けられた温度センサにおいて、環境変化に起因する誤判定を防止した温度センサ異常診断装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の温度センサ異常診断装置では、外気温センサまたは吸気温センサの運転開始時の検出値と、運転開始後、所定時間経過後の検出値との差分値によって、異常診断をキャンセルするか、または異常診断のための閾値を補正するようになっている。これにより、自動車の運転開始時における誤判定を防止している。
【0005】
しかし、誤判定を防止するため、異常診断をキャンセルした場合には、温度センサの異常診断が全くできない状態になるため、診断装置としての信頼性が損なわれる。一方、誤判定を防止するため、異常状態の判定条件である閾値を補正する場合には、例えば、閾値が装置の構成部材の規格等で定まっている場合には、異常状態の判定条件を変更できないので、この温度センサ異常診断装置を適用できないことになる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、センサを用いた測定における異常状態を判定する判定条件を変更できない場合であっても、誤判定を防止可能な信頼性の高い異常状態判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の1つの実施態様に係る異常状態判定システムは、
センサから出力された信号に基づく検出信号を用いて異常状態を判定する異常状態判定部と、
所定の条件を満たすとき、前記異常状態判定部に入力する前の段階で、前記検出信号の強度を調整する制御処理を行う特定処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
上記の実施態様によれば、センサを用いた測定における異常状態を判定する判定条件を変更できない場合であっても、誤判定を防止可能な信頼性の高い異常状態判定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本発明の1つの実施形態に係る異常状態判定システムを含む測定装置の概要を示すブロック線図である。
【
図1B】本発明のその他の実施形態に係る異常状態判定システムを含む測定装置の概要を示すブロック線図である。
【
図2A】特定処理部により検出信号の強度を調整する制御処理を行う前の状態を示すリサージュ図形である。
【
図2B】特定処理部により検出信号の強度を調整する制御処理を行った後の状態を示すリサージュ図形である。
【
図3】特定処理部により制御される補正量算出部の回路の一例を示す回路図である。
【
図4】特定処理部及び補正量算出部の回路のその他の例を示す回路図である。
【
図5】異常状態判定システムを含む測定装置を備えた工作機械の一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態や実施例を説明する。なお、以下の説明は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。
各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態や実施例に分けて示す場合があるが、異なる実施形態や実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。後述の実施形態や実施例では、前述と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態や実施例ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。
【0011】
(本発明の1つの実施形態に係る異常状態判定システム)
はじめに、
図1を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る異常状態判定システムを含む測定装置の説明を行う。
図1は、本発明の1つの実施形態に係る異常状態判定システムを含む測定装置の概要を示すブロック線図である。
【0012】
本実施形態に係る測定装置2は、センサ10、出力調整部60、AD変換器70、検出信号補正部80、測定部20、補正量算出部30、異常状態判定部40及び特定処理部50を備える。異常判定部40及び特定処理部50により、本実施形態に係る異常状態判定システム100が構成される(
図1Aの二点鎖線参照)。
センサ10として、位置センサ、加速度センサ、振動センサ、荷重センサ、温度センサをはじめとする任意のセンサを採用することができる。
センサ10から出力されたアナログ信号は、出力調整部60で増幅され、AD変換器70で直流に変換されて検出信号となる。そして、検出信号が、検出信号補正部80によりオフセット量等が補正され、測定部20、補正量算出部30、異常状態判定部40及び特定処理部50にそれぞれ入力する。
【0013】
測定部20は、センサ10からの信号に基づいて、具体的には検出信号を用いて、センサの種類に応じた測定値を定め、測定データを出力する。
補正量算出部30は、検出信号に基づき、出力調整部60で増幅される検出信号の強度が適性範囲に入るように、出力調整部60におけるゲインを補正するためのゲイン補正係数を算出して、出力調整部60へ送信する。更に、補正量算出部30は、検出信号における初期位置からのオフセット量を補正するオフセット補正係数を算出して、検出信号補正部80へ送信する。なお、センサ10から位相差を有する信号が出力される場合には、補正量算出部30は、検出信号における位相差を補正する位相差補正係数を算出して、検出信号補正部80へ送信する。
以上のように、本実施形態では、検出信号の強度を補正するゲインの補正については、アナログ信号の段階で補正を行い、オフセット、位相差の補正については、デジタル信号の段階で行う。ゲインやオフセット等の補正のため、補正量算出部30から出力調整部60または検出信号補正部80へ送信するフィードバック信号を点線の矢印で示す。
【0014】
異常状態判定システム100を構成する異常状態判定部40は、センサ10から出力された信号に基づく検出信号を用いて異常状態を判定し、異常状態が発生したと判定したときにはアラーム信号を出力する制御処理を行う。
異常状態判定システム100を構成する特定処理部50は、所定の条件を満たすとき、異常状態判定部40に入力する前の段階で、検出信号の強度を調整する制御処理を行う。ここでいう「調整する」とは、検出信号の強度が所定に範囲内に入るように、強度を弱めるまたは強めることを意味する。検出信号の強度を調整する制御処理は、検出信号にフィルタリングを施したりマスクをかけることにより実現することもできるし、後述するように、出力調整部60におけるゲインを調整することにより実現することもできる。
【0015】
「異常状態」とは、センサ10を用いた測定装置2において、短絡、断線、構成部材の損傷等により計測を停止すべき状態を意味する。また、「所定の条件を満たす」とは、実際に「異常状態」は生じてはいないにも関わらず、外乱、環境的要因等により、検出信号が非常に大きな(または小さな)値を示して、異常状態判定部40が異常状態と判定する状況となる場合を意味する。「所定の条件を満たす」場合には、後述するように、補正量算出部30からのフィードバック信号により出力調整部60におけるゲインの補正を行うインターバルより短い間隔で、検出信号が大きく変動して、異常状態判定部40が異常状態と判定する場合も含まれる。
【0016】
異常状態の判定において誤判定が生じる可能性がある場合、異常状態を判定する条件自体を変更するのが一般的である。しかし、異常状態の判定値が、例えば、装置の構成部材の入力許容値等により定まっている場合には、異常状態を判定する条件を変更することはできない。
図1Aに示す場合で言えば、異常状態の判定値がAD変換器70の入力許容値により定まる場合を例示できる。
【0017】
本実施形態では、誤判定が生じる可能性がある場合、特定処理部50が、異常状態判定部40に入力する前の段階で、検出信号の強度を調整する制御処理を行うので、判定の条件が変更できない場合であっても確実に誤判定を防止することできる。
【0018】
具体例としては、異常状態判定部40が、検出信号及び所定の閾値を比較して、検出信号の値が閾値より大きい(または小さい)場合に、異常事態が発生したと判定する制御処理を挙げることができる。
このとき、特定処理部50が、所定の条件を満たすとき、検出信号の強度が所定の範囲内に入るように、出力調整部60における増幅のゲインを小さくまたは大きくするためのフィードバック信号を、出力調整部60へ送信することが挙げられる(
図1の点線矢印参照)。なお、特定処理部50から出力調整部60へフィードバック信号を送信する場合だけでなく、特定処理部50により補正量算出部30を制御して(
図1の一点鎖線の矢印参照)、出力調整部60における増幅のゲインが小さくなるように、補正量算出部30から出力調整部60へフィードバック信号を送信させる場合もあり得る。
【0019】
補正量算出部30や特定処理部50から出力するフィードバック信号は、電気的な回路により生成される場合も、所定のアルゴリズムに基づくソフトウエアにより生成される場合もあり得る。なお、短絡、断線、構成部材の損傷等により異常状態が発生した場合には、特定処理部50により検出信号の強度を調整したとしても、依然として、検出信号は、異常状態判定部40が異常と判定するに十分な強度を有しているので、確実に異常状態を検出することができる。
以上のように、本実施形態では、センサ10を用いた測定における異常状態を判定する判定条件を変更できない場合であっても、誤判定を防止可能な信頼性の高い異常状態判定システム100を提供することができる。
【0020】
上記の異常状態判定システム100及びセンサ10と、検出信号を用いて測定値を定める測定部20と、検出信号の強度を補正するための補正量算出部30とを備えた測定装置2においても、同様な効果を奏することができる。
【0021】
(本発明の1つの実施形態に係る異常状態判定システム)
次に、
図1Bを参照しながら、本発明のその他の実施形態に係る異常状態判定システムを説明する。
図1Bは、本発明のその他の実施形態に係る異常状態判定システムを含む測定装置の概要を示すブロック線図である。
【0022】
本実施形態では、センサ10’が上記の
図1Aに示す1つの実施形態と異なる。
図1Bに示すセンサ10’は、磁気パターンを有するスケール12に対して所定間隔を隔てて配置された磁気センサである。センサ10’は、2つのMRセンサを有し、スケール12は、ピッチλでNS極が交互に配置された磁性パターンを有する。
MRセンサは基板上にパターニングされた薄膜センサであり、スケール12と一定の間隔を保って相対移動するときに、スケール12からの漏洩磁場の大きさに応じて抵抗値が変化して信号を出力する。高調波成分等の歪み成分を打ち消すため、2つのMRセンサはλ/6だけ離れて配置され、センサ10は、90度位相がずれた正弦波及び余弦波を出力する。
【0023】
測定部20は、正弦波及び余弦波に基づく検出信号において、ピーク値に達した時点で、磁性パターンのN極またはS極の位置に達したことが把握できる。よって、測定部20は、ピーク値に達した回数に基づいて、スケール12の基準位置からの距離を正確に定めることができる。
【0024】
また、周期的に変動する正弦波及び余弦波では、ピーク値に達した時点で初めて振幅を把握できるので、補正量算出部30は、正弦波及び余弦波のピーク値に達した時点で出力調整部60にゲイン補正係数を送信して、出力調整部60におけるゲインの補正ができる。同様に、ピーク値に達した時点で初めて原点からのオフセット量が把握できるので、補正量算出部30は、正弦波及び余弦波のピーク値に達した時点で検出信号補正部80にオフセット補正係数を送信して、検出信号におけるオフセットの補正ができる。更に、ピーク値に達した時点で初めて正弦波及び余弦波の位相差を正確に把握できるので、補正量算出部30は、正弦波及び余弦波のピーク値に達した時点で検出信号補正部80に位相差補正係数を送信して、検出信号における位相差の補正ができる。
【0025】
センサ10’以外の部分については、
図1Bに示す実施形態は、
図1Aに示す実施形態と同様なので、他の各構成部の詳細な説明は省略する。
【0026】
<リサージュ図形>
次に、
図2A及び
図2Bを参照しながら、センサ10及びスケール12の間の相対的移動により、センサ10が正弦波及び余弦波の信号を出力するとき、特定処理部50が検出信号の強度を調整する制御処理を行う場合を説明する。
図2Aは、特定処理部により検出信号の強度を調整する制御処理を行う前の状態を示すリサージュ図形である。
図2Bは、特定処理部により検出信号の強度を調整する制御処理を行った後の状態を示すリサージュ図形である。
【0027】
ここで、リサージュ図形とは、互いに直交する二つの単振動を順序対として得られる点の軌跡が描く平面図形である。
図2A及び
図2Bでは、縦軸に正弦(Sin)、横軸を余弦(Cos)にとっている。位相が90度ずれた正弦及び余弦では、リサージュ図形は円となる、
【0028】
上記のように、正弦波及び余弦波ではピーク値に達した時点で初めて振幅を求めることができるので、補正量算出部30は、周期的に変動する信号のピーク値に基づいて、検出信号の強度を補正する。
図2A、2Bで示せば、補正量算出部30は、時計回りに進む正弦波及び余弦波が縦軸及び横軸に達した時点で検出信号の強度を補正できるが、その間の段階では、検出信号の強度を補正できない。
図2A、2Bにおいて、点線の放射状に延びる直線で検出信号の更新タイミングを示すが、ピーク値に達する前の更新タイミングでは、補正量算出部30は検出信号の強度を補正できない。
【0029】
例えば、センサ10及びスケール12が設置された部材が振動する場合、センサ10及びスケール12の間の間隔が変動する。よって、センサ10及びスケール12が実際に相対的に移動していない状態でも、センサから大きな(振動の方向によってはキャンセルされて小さな)信号が出力される可能性がある。特に、正弦波及び余弦波の信号がピーク値からピーク値に達する間の非常に短いタイミングで、センサ10から大きな(または小さな)信号が出力される可能性がある。
【0030】
その場合には、補正量算出部30は、検出信号の強度を補正することができないので、異常状態判定部40が、異常状態が発生したと判定する可能性がある。つまり、上記の「所定の条件を満たす」場合であり、異常状態の判定において誤判定が生じる可能性がある。
【0031】
一方、本実施形態に係る特定処理部50ではリサージュ図形を用いるため、検出信号の任意の更新タイミングで、リサージュ円(円形のリサージュ図形)の半径を算出することができる。検出信号の任意の更新タイミングにおける正弦波の値をA、余弦波の値をBとし、リサージュ円の半径をRとすれば、R=SQR(A2+B2)で算出できる。
これにより、検出信号の任意の更新タイミングでの振幅に相当する値が算出できる。
【0032】
図2A、2Bでは、縦軸、横軸で仕切られた領域のうち、右上の領域において、正弦波及び余弦波のリサージュ円が時計回りに進むところを示す。
図2Aに示すように、振動等により検出信号の強度が大きくなり、異常状態判定部40が、入力した検出信号の値が所定の閾値より大きい(または小さい)と判別して、異常状態であると判定する可能性がある。
ここで、異常状態判定部40が異常状態であると判定する1つの態様として、電子ノイズ等を考慮して、N回(N:2以上の整数)の検出信号の更新タイミングにおいて、検出信号の値が閾値よりより大きい(または小さい)と判別した場合に、異常状態だと判定することを例示できる。
【0033】
本実施形態では、正弦波及び余弦波によるリサージュ円の半径が、所定の上限値より大きくなるとき、または所定の下限値より小さくなるときに、目標値(ここでは中央値)との差分値を算出して、差分値に応じた(例えば、差分値に比例した)出力調整部60におけるゲインの補正を行う。例えば、半径及び上限値の差分値が大きい場合には、より大きくゲインを減少させる補正を行う。なお、ここで用いるフィードバック制御では、比例制御、積分制御、微分制御、それらの任意の組み合わせ等、既知の任意の手法を採用することができる。
このような制御処理により、
図2Bに示すように、正弦波及び余弦波によるリサージュ円の半径を、上限値及び下限値の間の領域に収まるようにすることができる。
【0034】
上記のように、異常状態判定部40は、検出信号の複数の更新タイミングにおいて、検出信号の値が閾値よりより大きい(または小さい)場合に異常状態だと判定する。よって、一度、大きな検出信号の値が異常状態判定部40に入力されたとしても、上記の制御処理により、次の更新タイミングでは、検出信号の値が閾値で規定された範囲内に収まるので、異常状態判定部40が異常状態であると判定することを防ぐことができる。
なお、リサージュ円の半径を用いる場合、振幅は求められるが、出力調整部60における初期位置からのオフセット量は求められない。しかし、オフセット量は、異常状態であるか否か判定するための閾値に比べて小さな値であり、異常状態判定部40における判定の影響を及ぼすことはない。
【0035】
以上のように、本実施形態では、センサ10が、磁気パターンを有するスケール12に対して所定間隔を隔てて配置された磁気センサであり、センサ10及びスケール12の間の相対的移動により、センサ10が正弦波及び余弦波の信号を出力する。このとき、特定処理部50が、検出信号における正弦波及び余弦波によるリサージュ円の半径を算出し、この半径が所定の範囲を超えたとき、検出信号の強度を調整する制御処理を行う。
【0036】
振動等により、センサ10及びスケール12の間の間隔が変動して、センサ10及びスケール12が相対的に移動していない場合でも、異常状態判定部40に強い(または弱い)検出信号が入力さたり、正弦波及び余弦波のピーク値に達する前に、非常に短いタイミングで異常状態判定部40に強い(または弱い)検出信号が入力される場合がある。そのような場合であっても、本実施形態では、速やかに検出信号の強度を弱めて(または強めて)、適確に誤判定防止制御を行うことができる。
【0037】
特に、本実施形態では、検出信号の更新タイミングごとに、特定処理部50が、リサージュ円の半径の値と所定の値の比較を行う。これにより、リサージュ円の半径が所定の範囲を超えたとき、速やかに検出信号の強度を調整することができる。
【0038】
このとき、異常状態判定部40が、複数の更新タイミングにおいて、検出信号の値が閾値を超えたときに異常状態が発生したと判定するようになっていれば、特定処理部50の検出信号の強度を調整する制御により、異常状態判定部40が誤判定を行うことを確実に防止することができる。
【0039】
特に、異常状態の判定に用いる閾値が、信号の流れにおいて異常状態判定部40及び特定処理部50の上流側に配置されたAD変換器70の入力許容値により定まる場合には、有効に誤判定を防止することができる。
【0040】
なお、センサ10から正弦波及び余弦波が出力される場合に限定されるものではなく、センサ10から周期的に変動するその他の任意の信号が出力される場合も同様である。
補正量算出部30により、周期的に変動する信号の変曲点での値に基づいて、検出信号の強度が補正される。この場合には、周期的に変動する信号の変曲点から変曲点へ達する間で短い間隔で強度の大きな検出信号が入力される場合、補正量算出部30は、検出信号の強度を補正することができない。よって、異常状態判定部40が、異常状態が発生したと判定する可能性がある。
【0041】
そのような場合であっても、周期的に変動する信号に基づく検出信号の値が所定の範囲を超えたとき、特定処理部50が、例えば、リサージュ図形を用いて、検出信号の強度を調整する制御処理を行うことができる。これにより、適確に誤判定を防止することができる。
つまり、センサ10から周期的に変動する信号が出力され、特定処理部50が、周期的に変動する信号に基づく検出信号の値が所定の範囲を超えたとき、検出信号の強度を調整する制御処理を行う。
このようにすることで、センサ10から周期的に変動する信号が出力される場合においても、確実に誤判定が生じるのを防ぐことができる。
【0042】
なお、
図1Aを用いて1つの実施形態で説明したように、センサ10から周期的に変動する信号を出力する場合に限られず、センサ10からその他の任意の態様の信号が出力される場合が含まれる。本実施形態に係る異常状態判定システム100は、少なくとも、センサ10から出力された信号に基づく検出信号を用いて異常状態を判定する異常状態判定部40と、所定の条件を満たすとき、異常状態判定部40に入力する前の段階で、検出信号の強度を調整する制御処理を行う特定処理部50と、を備えていれば、センサを用いた測定における異常状態を判定する判定条件を変更できない場合であっても、誤判定を防止可能な信頼性の高い異常状態判定システムを提供することができる。
【0043】
(補正量算出部及び特定処理部の回路の一例)
次に、
図3を参照しながら、上記の実施形態を実現する補正量算出部30及び特定処理部50の具体的な回路の一例について説明する。
図3は、特定処理部により制御される補正量算出部の回路の一例を示す回路図である。
図3に示す補正量算出部30は、正弦波及び余弦波のそれぞれにおいて、ゲインの補正を行うためのゲイン補正係数を定める回路、及びオフセットを補正するためのオフセット補正係数を定める回路を有する。更に、正弦波及び余弦波の位相差を補正するための位相差補正係数を定める回路を有する。
【0044】
はじめに、正弦波におけるゲイン補正係数を定める回路について説明する。正弦波のピーク値に基づく振幅データが更新されると、振幅の目標値との差分値がとられ、差分値に振幅補正ループゲインが乗じられて、正弦波におけるゲイン補正係数が生成される。このゲイン補正係数が出力調整部60側へ送信される。振幅データが更新されるタイミングは、正弦波がピーク値に達するタイミングなので、検出信号の更新タイミングに比べて、かなり間隔のあいたインターバルとなる。
【0045】
この回路において、所定の条件を満たす場合(異常状態判定部40が誤判断を行う可能性がある場合)には、正弦波のピーク値に基づく振幅データが更新される前のタイミングであっても、特定処理部50が補正量算出部30を制御して、検出信号の出力を所定の値まで調整するようなゲイン補正係数を生成して、そのゲイン補正係数が出力調整部60へ送信される。
余弦波のゲインの補正を行う回路についても、上記の正弦波のゲインの補正を行う回路と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0046】
次に、正弦波におけるオフセット補正係数を定める回路について説明する。正弦波のピーク値に基づくオフセットデータが更新されると、オフセット量にオフセット補正ループゲインが乗じられて、正弦波におけるオフセット補正係数が生成される。このオフセット補正係数が検出信号補正部80へ送信される。なお、オフセットの補正では、目標値がゼロ位置なので、差分値をとることはなく、オフセット量がゼロになるように補正を行う。上記と同様に、振幅データが更新されるタイミングは、正弦波がピーク値に達するタイミングなので、検出信号の更新タイミングに比べて、かなり間隔のあいたインターバルとなる。
余弦波におけるオフセットの補正を行う回路についても、上記の正弦波におけるオフセットの補正を行う回路と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0047】
次に、正弦波及び余弦波の間の位相差を補正するための位相差補正係数を定める回路について説明する。正弦波及び余弦波のピーク値に基づく位相差データが更新されると、位相差に位相差補正ループゲインが乗じられて、正弦波及び余弦波の間の位相差補正係数が生成される。この位相差補正係数が検出信号補正部80へ送信される。上記と同様に、位相差データが更新されるタイミングは、正弦波及び余弦波がピーク値に達するタイミングなので、検出信号の更新タイミングに比べて、かなり間隔のあいたインターバルとなる。
【0048】
(補正量算出部及び特定処理部の回路のその他の例)
次に、
図4を参照しながら、上記の実施形態を実現する補正量算出部30及び特定処理部50の回路のその他の例について説明する。
図4は、特定処理部及び補正量算出部の回路のその他の例を示す回路図である。
図4に示す補正量算出部30は、
図3に示す補正量算出部とほぼ同様であり、正弦波及び余弦波のそれぞれにおいて、ゲインの補正を行うための回路、及びオフセットを補正するための回路を有する。また、正弦波及び余弦波の位相差を補正するための位相差補正係数を定める回路を有する。補正量算出部30に関する更なる詳細な説明は省略する。
【0049】
図4に示す例では、特定処理部50を構成する回路が、補正量算出部30の正弦波及び余弦波のゲインの補正を行う回路に接続されている。
特定処理部50では、検出信号の更新タイミングに対応して、リサージュ円の半径が更新されると、この半径及び目標値の間の差分値が求められ、差分値に半径補正ループゲインが乗じられて、半径補正係数が生成される。これと同時に、更新されたリサージュ円の半径と、半径上限データ及び半径下限データとが比較される。
【0050】
もし、更新されたリサージュ円の半径が半径上限データより大きい場合、またはリサージュ円の半径が下限データより小さい場合、閉となっているORゲートPが開となる。これにより、閉となっていたANDゲートQが開となり、検出信号の強度を調整するためのゲインの補正係数が、それぞれ、正弦波の回路及び余弦波の回路に送信され、そこから出力調整部60へ送信される。つまり。生成された半径補正係数が、正弦波及び余弦波のそれぞれについて、振幅を小さくするゲイン補正データとしてフィードバックされる。
このとき、補正量算出部30側の開となっていたNANDゲートR及びNANDゲートSが閉となり、補正量算出部30から出力調整部60へゲインの補正係数を送信できなくなる。
【0051】
以上のように、この回路では、通常、補正量算出部30及び出力調整部60の間が開であり、特定処理部50及び出力調整部60の間が閉であって、補正量算出部30から出力調整部60へゲイン補正係数が送信される。しかし、検出信号に基づくリサージュ円の半径が上限値及び下限値の間の領域を超えた場合には、補正量算出部30及び出力調整部60の間が開から閉になり、特定処理部50及び出力調整部60の間が閉から開になって、特定処理部50から出力調整部60へ検出信号の強度を調整するためのゲイン補正係数が送信される。
以上のような回路により、異常状態の判定における誤判定を確実に防止することができる。
【0052】
(異常状態判定システムを含む測定装置が取り付けられた工作機械)
次に、
図5を参照しながら、上記の実施形態、回路の実施例に示す異常状態判定システム100を含む測定装置2を備えた工作機械の説明を行う。
図5は、異常状態判定システムを含む測定装置を備えた工作機械の一例を模式的に示す斜視図である。
図5に示す工作機械200では、フレーム210側にスケール12が取り付けられ、加工テーブル220側にセンサ10が取り付けられている。そして、ケーブルにより、測定部、補正量算出部、異常判定部、特定処理部等を有する制御装置に接続されている。これにより、加工テーブル220のフレーム210に対する位置を正確に測定することができる。
【0053】
工作機械200では、例えば、粗加工時に大きな振動が発生するので、センサ10及びスケール12の間の間隔が変動して、センサ10及びスケール12が相対的に移動していない場合でも強い(振動の方向によってはキャンセルされて弱い)検出信号が入力されたり、周期的に変動する信号のピーク値に達する前に、非常に短いタイミングで強い(または弱い)検出信号が入力される場合がある。そのような場合であっても、上記の異常状態判定システム100により、速やかに検出信号の強度を弱めて(または強めて)、適確に誤判定防止制御を行うことができる。
【0054】
なお、異常状態判定システム100の制御処理により、大きな振動を伴う粗加工時においても、測定装置2による測定を継続することができるが、測定結果には、センサ10及びスケール12の間の間隔の変動の影響が含まれる可能性はある。しかし、粗加工時において必要な計測精度を考慮すると、この影響は実用上問題が生じないといえる。
【0055】
本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0056】
2 測定装置
10、10’センサ
12 スケール
20 測定部
30 補正量算出部
40 異常判定部
50 特定処理部
60 出力調整部
70 AD変換器
80 検出信号補正部
100 異常状態判定システム
200 工作機械
210 フレーム
220 加工テーブル