(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】筆記具用洗浄液
(51)【国際特許分類】
C11D 17/08 20060101AFI20220412BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20220412BHJP
C11D 1/02 20060101ALI20220412BHJP
C11D 3/30 20060101ALI20220412BHJP
B43K 13/02 20060101ALN20220412BHJP
【FI】
C11D17/08
B08B3/08 Z
C11D1/02
C11D3/30
B43K13/02
(21)【出願番号】P 2018162673
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】菅井 洋典
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-263022(JP,A)
【文献】特開平03-151295(JP,A)
【文献】特開平10-058890(JP,A)
【文献】特開2017-196590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
B41J2/
B41F15/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の洗浄液であって、界面活性剤と、塩基性成分と、水を含んでなり、かつ、pHが10以下であることを特徴とする、筆記具用洗浄液。
【請求項2】
前記界面活性剤が、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤であることを特徴とする、請求項1に記載の筆記具用洗浄液。
【請求項3】
前記界面活性剤が、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、硫酸エステル型界面活性剤、リン酸エステル型界面活性剤からなる群から選択される1種以上のアニオン系界面活性剤であることを特徴とする、請求項1または2に記載の筆記具用洗浄液。
【請求項4】
前記塩基性成分が、水溶性のアミン化合物であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の筆記具用洗浄液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用洗浄液に関する。さらに詳しくは、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の、くし溝ならびにペン先洗浄用の筆記具用洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、万年筆や製図用ペンなどの、インキカートリッジやコンバーター(筆記具の首軸に接続して、インキ瓶から直接インキを吸入することができるインキタンク)を接続して使用する筆記具はよく知られている。
このような万年筆や製図用ペンは、筆記によりインキカートリッジ内部やコンバーター内部のインキが無くなった場合には、新たにインキが充填されたインキカートリッジに交換したり、ペン先からコンバーター内にインキを吸入することにより、筆記具本体を廃棄せずに使用し続けることができる。
【0003】
前記のような筆記具では、長期間使用せずに放置しておくと、インキ中の水分が徐々に蒸発し、筆記具のくし溝やペン先に、染料や顔料などのインキの成分が固まり詰まってしまう場合がある。
したがって、長期間使用しなくなる前、あるいは長期間放置した後に再び使用する際には、筆記具のくし溝やペン先を水やぬるま湯で洗浄することが行われている。
また、例えば黒いインキのインキカートリッジを装着して使用していた筆記具に、黒いインキに替えてあらたに赤いインキのインキカートリッジを装着して使用する場合には、黒いインキと赤いインキとが筆記具の内部で混ざって筆跡が濁ることを防止するため、あるいは種類の異なるインキが混ざることによる凝固を防止するために、筆記具のくし溝やペン先に残った黒いインキを水やぬるま湯で洗浄することも行われている。
【0004】
耐水性や耐光性に優れ、良好な発色を示す優れた筆跡を得るために、着色剤や樹脂などを含む筆記具用インキ組成物においては、インキ中に樹脂成分が含有されているために、一旦インキが乾固してしまうと、筆記具のくし溝やペン先を水やぬるま湯に浸漬しただけでは乾固したインキを取り除くことが極めて困難であるため、浸漬した状態でさらに超音波をかける洗浄方法(例えば特許文献1および2)があったが、洗浄する際の装置が大がかりになり、特に、着色剤として顔料を用いたインキ組成物(顔料インキ)を使用した筆記具を洗浄する場合には、インキが乾燥すると、筆記具のくし溝やペン先に強く乾固しやすくなる問題があった。
また、筆記具のくし溝やペン先を、水やぬるま湯ではなく筆記具専用の洗浄液に浸漬して、乾固したインキを洗浄すること(例えば非特許文献1)が行われているが、出願人が調査したところ、当該専用の洗浄液は、高濃度の原液を水で10倍に希釈して使用するところ、原液でpH12以上、実際に筆記具を洗浄する濃度でもpH11以上と、強いアルカリ性を有しており、安全性において十分と言えるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
実開昭56-76092号公報
特開2001-96974号公報
【非特許文献】
【0006】
プラチナ万年筆株式会社、“顔料インク・染料インク共用万年筆専用インククリーナーセット取扱説明書”、[online]、[2018年7月7日検索]、インターネット<URL:http://www.platinum-pen.co.jp/ink_cleaner_top_spec.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のような従来の問題を解決するもので、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具のくし溝ならびにペン先を効率よく洗浄することができ、安全性に優れた、くし溝ならびにペン先洗浄用の筆記具用洗浄液(以下、単に「洗浄液」と表すことがある)を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
「1.くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の洗浄液であって、界面活性剤と、塩基性成分と、水を含んでなり、かつ、pHが10以下であることを特徴とする、筆記具用洗浄液。
2.前記界面活性剤が、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤であることを特徴とする、前記1項に記載の筆記具用洗浄液。
3.前記界面活性剤が、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、硫酸エステル型界面活性剤、リン酸エステル型界面活性剤からなる群から選択される1種以上のアニオン系界面活性剤であることを特徴とする、前記1項または2項に記載の筆記具用洗浄液。
4.前記塩基性成分が、水溶性のアミン化合物であることを特徴とする、前記1項ないし3項のいずれかに記載の筆記具用洗浄液。」である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具のくし溝ならびにペン先を効率よく洗浄することができ、安全性に優れた筆記具用洗浄液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準であり、含有量とは、インキ組成物の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0011】
<筆記具用洗浄液>
本発明の筆記具用洗浄液は、界面活性剤と塩基性成分と水を含んでなり、かつ、pHが10以下であることを特徴とする。
くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の、細いくし溝や精密なペン先の内部に乾固したインキを洗浄するため、後述するようにその表面張力は低いことが好ましいが、筆記具用洗浄液の洗浄能力を維持しつつpHを下げるためには、たとえばエタノールなどのアルコールを添加して筆記具用洗浄液の表面張力を下げるだけでは足りず、界面活性剤と塩基性成分とを含有することによって、20℃環境下のpHが10以下でかつ高い洗浄能力を有する安全性に優れた筆記具用洗浄液を得ることができる。
これは、理由は定かではないが下記のように推測する。
界面活性剤のはたらきにより、筆記具用洗浄液の表面張力が下がって、筆記具のくし溝やペン先へのぬれ性が向上すると共に、乾固したインキ中に含まれる着色剤や樹脂が、洗浄液への溶解後に界面活性剤により当該洗浄液中に効率的に分散され、また洗浄液中に分散された着色剤や樹脂がくし溝やペン先に再付着することが防止されるため、塩基性成分の含有量が少なくても高い洗浄能力を発揮するものと推測する。
【0012】
筆記具用洗浄液を用いた筆記具の洗浄方法としては、筆記具からキャップ、軸、ならびにインキカートリッジなどのインキ貯蔵部を取り外して首軸の状態とした後に、当該首軸を洗浄液中に浸漬する方法や、洗浄液を、スポイトなどを用いてくし溝に流す方法や、インキタンクとして用いるコンバーターを利用して、洗浄液を、インキを補充するようにペン先から吸入して洗浄する方法などが挙げられる。
本発明の筆記具用洗浄液は、20℃環境下のpHが10以下であるため、前記の各手順において、仮に使用者の手や衣服などに洗浄液が付着した場合でも、安全性に優れる。
筆記具用洗浄液の20℃環境下のpHは、pH7~pH10が好ましく、pH8~pH10がより好ましい。
また、筆記具用洗浄液のpHについては、後述する高濃度の原液でのpHを測定しても良く、当該原液を水などで希釈した時の洗浄液のpHを測定してもよい。
特に、筆記具のくし溝ならびにペン先の洗浄時におけるpHを測定することがよい。
本発明において、pH値は、市販のpHメーター(たとえば、IM-40S型pHメーター/東亜ディーケーケー株式会社製)によって、20℃環境下において測定される。
【0013】
本発明の筆記具用洗浄液は、20℃環境下のpHが10以下であれば、筆記具の洗浄に適した濃度で販売してもよく、水で希釈することにより筆記具の洗浄に適した濃度となる高濃度の原液で販売してもよい。
高濃度の原液で販売することにより、容器が小さく収納に場所をとらないことや、輸送コストを削減できること、使用後のゴミを削減できること、などの利点がある。
本発明の筆記具用洗浄液は、高濃度の原液でも20℃環境下のpHが10以下のため、仮に使用者の手や衣服などに高濃度の原液が付着した場合でも、安全性に優れる。
【0014】
前述した筆記具の洗浄方法により、くし溝やペン先に乾固したインキを取り除いた後は、一般的に洗浄液を水で洗い流す手順、すなわち「すすぎ」が行われるが、当該すすぎが不十分だと、筆記具のくし溝やペン先に洗浄液が残り、この状態のまま、筆記具の首軸に新たなインキが充填されたインキカートリッジを装着したり、筆記具の首軸にコンバーターを装着し、ペン先からコンバーター内に新たなインキを吸入すると、筆記具のくし溝やペン先に残った洗浄液が新たなインキ中に混入する場合がある。
このとき、従来の筆記具用洗浄液では、洗浄液がpH11以上という強いアルカリ性を有しているために、インキ中に含まれる染料などの着色剤が析出するおそれや、インキが変色するおそれがある。
しかしながら、本発明の筆記具用洗浄液は、筆記具洗浄時における20℃環境下のpHが10以下と弱アルカリ性のため、仮にすすぎが不十分で、筆記具のくし溝やペン先に洗浄液が残った場合であっても、筆記具に新たに入れるインキに悪影響を及ぼすことがない。
【0015】
本発明の筆記具用洗浄液は、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の、細いくし溝や精密なペン先の内部に乾固したインキを洗浄するため、筆記具用洗浄液の20℃環境下の表面張力は50mN/m以下が好ましく、45mN/m以下がより好ましく、また20mN/m以上であると、筆記具のくし溝やペン先に洗浄液が残った場合であっても、筆記具に新たに入れるインキへの影響が出にくいため、20~45mN/mが好ましい。
表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求めることができる。
【0016】
<界面活性剤>
本発明の筆記具用洗浄液は、界面活性剤を含有する。
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などを挙げることができる。
これらの界面活性剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【0017】
前述した筆記具の洗浄方法により、くし溝やペン先に乾固したインキを取り除いた後は、筆記具から洗浄液を水で洗い流す手順、すなわち「すすぎ」が一般的に行われるが、当該すすぎが不十分だと、筆記具のくし溝やペン先に洗浄液が残り、さらにこの状態のまま、筆記具の首軸に新たなインキが充填されたインキカートリッジを装着したり、筆記具の首軸にコンバーターを装着し、ペン先からコンバーター内に新たなインキを吸入すると、筆記具のくし溝やペン先に残った洗浄液が新たなインキ中に混入する場合がある。
このとき、洗浄液中の界面活性剤がアニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤であれば、新たなインキの表面張力を大きく低下させることがないために、新たなインキがくし溝で保持されることにより、ペン先からのインキのボタ落ちが生じず、また紙面において筆跡が滲むことがないので、好ましい。
【0018】
筆記具の首軸を洗浄液に浸漬し、筆記具のくし溝やペン先に乾固したインキを溶解した後に、インキ中に含まれる着色剤や樹脂を洗浄液中に分散する能力が高く、くし溝やペン先への再付着を防ぐことから、アニオン系界面活性剤がさらに好ましく用いられる。
アニオン系界面活性剤を用いることにより、筆記具用洗浄液の洗浄能力を維持しつつ塩基性成分の含有量をより少なくしてpHを下げることができるため、より安全性に優れた筆記具用洗浄液を得ることができる。
アニオン系界面活性剤としては、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、硫酸エステル型界面活性剤、リン酸エステル型界面活性剤などを挙げることができる。
中でも、着色剤や樹脂との親和性が高く、くし溝やペン先から着色剤や樹脂を効率よくひきはがすスルホン酸基やリン酸基を分子中に含むスルホン酸型界面活性剤やリン酸エステル型界面活性剤が好ましく、さらに、着色剤や樹脂との親和性が高いリン酸基を分子中に含むリン酸エステル型界面活性剤がより好ましい。
【0019】
特に、着色剤として顔料を用いたインキ組成物(顔料インキ)を使用した筆記具を洗浄する場合、前記アニオン系界面活性剤は顔料インキ中に含まれる顔料や顔料分散剤に対して親和性が高いため、好ましい。
顔料インキの顔料分散剤としては、酸性樹脂、塩基性樹脂、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤などがあるが、前記アニオン系界面活性剤は、特にアクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、フェノール樹脂などの酸性樹脂を用いたインキを使用した筆記具に対して洗浄効果が得られやすい。
そのため、前記アニオン系界面活性剤を用いた本発明の筆記具洗浄液は、顔料インキを使用した筆記具の洗浄液に好ましく用いられる。
【0020】
本発明で用いられる前記リン酸エステル型界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステルあるいはその誘導体などが挙げられ、前記リン酸エステル型界面活性剤のアルキル基は、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、オクチルフェノール系、直鎖アルコール系などが挙げられる。
【0021】
前記リン酸エステル型界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬株式会社)やフォスファノールシリーズ(東邦化学工業株式会社)などを挙げることができる。
スチレン化フェノール系のリン酸エステル型界面活性剤としては、プライサーフAL(酸価:70~95、HLB:5.6)が挙げられ、直鎖アルコール系のリン酸エステル型界面活性剤の中のラウリルアルコール系としては、プライサーフA208B(酸価:160~185、HLB:6.6)が挙げられ、トリデシルアルコール系としては、プライサーフA212C(酸価:100~120、HLB:9.4)、プライサーフA215C(酸価:80~95、HLB:11.5)が挙げられ、オクチルアルコール系としては、プライサーフA208F(酸価:165~195、HLB:8.7)が挙げられる。
また、ステアリルアルコール系としては、フォスファノールRB410(酸価:80~90、HLB:8.6)が挙げられる。
これらのリン酸エステル型界面活性剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【0022】
前記リン酸エステル型界面活性剤の酸価については、筆記具のくし溝ならびにペン先の洗浄能力や、洗浄液中の塩基性成分への影響を考慮して、200(mgKOH/g)以下とすることが好ましく、より考慮すれば、酸価は30~200(mgKOH/g)が好ましく、さらに、酸価は50~100(mgKOH/g)が好ましい。
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
前記リン酸エステル型界面活性剤のHLB値については、水への溶解性や洗浄能力を考慮して、HLB値4~17が好ましく、より考慮すれば、5~13が好ましい。
なお、本発明において、リン酸エステル系界面活性剤のHLB値とは、川上法から算出される値であり、下記式によって算出される。
HLB=7+11.7log(Mw/Mo)、(Mw;親水基の分子量、Mo;親油基の分子量)
【0023】
本発明の筆記具用洗浄液における、前記界面活性剤の含有量は、筆記具用洗浄液の総質量を基準として、0.01~10%が好ましく、0.01%~5%が好ましく、0.05%~1%であることがより好ましい。
界面活性剤は、添加量が少なすぎると本発明が本来の目的とする効果を十分に発揮することができない場合があり、逆に10%を超えて添加しても、水への溶解性が劣りやすく前記効果の向上は認められにくいので、これ以上の添加を要しない。
【0024】
<塩基性成分>
本発明の筆記具用洗浄液は、塩基性成分を含有する。
塩基性成分としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどに代表される水溶性のアミン化合物などの有機塩基性化合物、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの無機塩類、乳酸およびクエン酸などが挙げられる。
これらの塩基性成分は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【0025】
塩基性成分のうち、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどに代表される水溶性のアミン化合物は、界面活性剤との親和性がよく、長期保存安定性に優れた筆記具洗浄液になることから好ましく、さらに、トリエタノールアミンがより好ましい。
【0026】
本発明の筆記具用洗浄液における、前記塩基性成分の含有量は、筆記具用洗浄液の総質量を基準として、0.01~50%が好ましく、0.1~15%が好ましく、0.1%~5%が好ましく、筆記具のくし溝ならびにペン先の洗浄の効率性と筆記具用洗浄液のpHの上昇の両方を考慮すると、0.5%~5%であることが好ましい。
塩基性成分は、添加量が少なすぎると本発明が本来の目的とする効果を十分に発揮することができない場合があり、逆に添加量が多すぎると、洗浄液のpHが高くなりすぎて安全性に懸念が生じてしまう場合がある。
【0027】
<水>
本発明の筆記具用洗浄液は、水を含有する。
水としては、特に制限はなく、たとえば、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水などを用いることができる。
【0028】
また、本発明の筆記具用洗浄液は、洗浄液としての物性や機能を向上させる目的で、防腐剤、防錆剤などの各種添加剤を含んでなることが好ましい。
【0029】
防腐剤としては、フェノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
これらの防腐剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【0030】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。
これらの防錆剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【0031】
また、本発明の筆記具用洗浄液は、水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。
水溶性有機溶剤としては、(i)エチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール、または3-メトキシ-3-メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる 。
これらの水溶性有機溶剤は、1種または2種以上の混合物として使用してもよい。
【実施例】
【0032】
<実施例1>
・リン酸エステル型アニオン系界面活性剤 1.0質量%
(第一工業製薬株式会社製、商品名:プライサーフAL)
・トリエタノールアミン 3.0質量%
・防腐剤 0.2質量%
(ロンザジャパン株式会社製、商品名:プロキセルXL-2)
・防錆剤 0.1質量%
(ベンゾトリアゾール)
・イオン交換水 95.7質量%
イオン交換水にリン酸エステル型アニオン系界面活性剤、トリエタノールアミン、防腐剤、防錆剤を添加し、プロペラ攪拌により混合して、筆記具用洗浄液を得た。
また、得られた筆記具用洗浄液のpH値を、IM-40S型pHメーター(20℃環境下、東亜ディーケーケー株式会社製)により測定したところ、pH値は8.9であった。
なお、得られた筆記具用洗浄液の表面張力を、表面張力計測器(20℃環境下、白金プレート、垂直平板法、協和界面科学株式会社製)により測定したところ、表面張力は42.5mN/mであった。
【0033】
<実施例2~実施例14、比較例1~比較例5>
実施例2~実施例14、および比較例1~比較例5は、筆記具用洗浄液に含まれる成分の種類や配合量を表1~2において表される組成に変更した以外は、実施例1と同じ方法で筆記具用洗浄液を得た。
【0034】
実施例1~14、比較例1~5で得られた筆記具用洗浄液について、下記の要領により評価を行い、結果を(表1~2)に示した。
株式会社パイロットコーポレーション製万年筆(商品名:カクノ)の、ペン先及びくし溝を具備した首軸に、下記の筆記具用水性顔料インキ組成物を0.2ml充填したポリエチレン製の万年筆用インキカートリッジを装着し、インキがペン先に到達するまで待った。
この首軸を50℃環境下において24時間放置してインキを蒸発させ、ペン先ならびにくし溝の内部でインキが乾固した状態の首軸を得た。
この首軸から万年筆用インキカートリッジを取り外し、首軸を20℃環境下において50mlの筆記具用洗浄液に浸漬した状態で24時間放置した。
次に、首軸をイオン交換水で洗浄し、くし溝に残留したイオン交換水をろ紙で吸い取った後に、ペン先ならびにくし溝の内部に乾固したインキが残留しているか否かを目視で評価した。
さらに、首軸に、0.9mlの筆記具用水性顔料インキ組成物を充填したポリエチレン製の万年筆用インキカートリッジを装着し、再筆記性能を評価した。
【0035】
<筆記具用水性顔料インキ組成物>
・顔料分散体(アクリル樹脂分散) 23.5質量%
(富士色素株式会社製、商品名:FUJI SP BLACK 8049)
・保湿剤 1.0質量%
(グリセリン)
・pH調整剤 0.5質量%
(トリエタノールアミン)
・防腐剤 0.2質量%
(ロンザジャパン株式会社製、商品名:プロキセルXL-2)
・イオン交換水 残部
イオン交換水に保湿剤、pH調整剤、防腐剤を添加し、プロペラ撹拌により混合してベース液を得た。その後、当該ベース液に顔料分散体を添加し、プロペラ撹拌により混合して、筆記具用水性顔料インキ組成物を得た。
【0036】
【0037】
【0038】
<ペン先の洗浄性>
◎:ペン先にインキ汚れが、全く残っていなかった。
○:ペン先にインキ汚れが、ごく僅かに残っていた。
◇:ペン先にインキ汚れが、少し残っていた。
△:ペン先にインキ汚れが、中程度残っていた。
×:ペン先にインキ汚れが、多く残っていた。
<くし溝の洗浄性>
◎:くし溝にインキ汚れが、全く残っていなかった。
○:くし溝にインキ汚れが、ごく僅かに残っていた。
◇:くし溝にインキ汚れが、少し残っていた。
△:くし溝にインキ汚れが、中程度残っていた。
×:くし溝にインキ汚れが、多く残っていた。
<再筆記性能>
◎:初筆より、かすれなく良好な筆跡が得られた。
〇:復帰したまでの文字数が、0文字より多く、3文字未満であった。
◇:復帰したまでの文字数が、3文字より多く、6文字未満であった。
△:復帰したまでの文字数が、6文字以上、10文字未満であった。
×:10文字以上筆記しても筆跡が得られなかった。
【0039】
表1~2により、実施例1~実施例14の筆記具用洗浄液は、比較例1~比較例5の筆記具用洗浄液と比較して、ペン先ならびにくし溝の内部で顔料インキが乾固した場合でも洗浄効果が高く、ペン先だけでなく、くし溝の洗浄にも優れた効果を発揮すると共に、再筆記性にも影響がないことがわかった。
また、実施例1~実施例14の筆記具用洗浄液は、筆記具洗浄時におけるpHが10以下であり、安全性にも優れていることがわかった。
一方、比較例1の筆記具用洗浄液は、ペン先については洗浄効果が高いものの、くし溝についてはほとんど洗浄効果が得られず、再筆記した際にも筆跡への影響が見られ、また筆記具洗浄時におけるpHが12.5と強いアルカリ性を有しており、安全性において十分と言えるものではなかった。
比較例1の筆記具用洗浄液にエタノールを添加した比較例2の筆記具洗浄液は、エタノールの添加により表面張力が71.9mN/mから41.0mN/mに低下したにもかかわらず、くし溝についてはほとんど洗浄効果が得られず、再筆記した際にも筆跡への影響が見られ、また筆記具洗浄時におけるpHが12.5と強いアルカリ性を有しており、安全性において十分と言えるものではなかった。
比較例3の筆記具用洗浄液は、筆記具洗浄時のpHが各実施例のpHと同等の8.2であり、表面張力が38.4mN/mと低いにもかかわらず、ペン先、くし溝共にほとんど洗浄効果が得られず、再筆記した際にも筆跡への影響が見られた。
比較例4の筆記具用洗浄液は、ペン先については十分な洗浄効果が得られたものの、くし溝についてはほとんど洗浄効果が得られず、再筆記した際にも筆跡への影響が見られた。
比較例4の筆記具用洗浄液にエタノールを添加した比較例5の筆記具洗浄液は、エタノールの添加により表面張力が67.0mN/mから41.0mN/mに低下したにもかかわらず、くし溝についてはほとんど洗浄効果が得られず、再筆記した際にも筆跡への影響が見られた。
以上の結果から明らかなように、本発明の筆記具用洗浄液は、洗浄液として優れていることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の筆記具用洗浄液は、万年筆、ボールペン、マーキングペン(サインペン)、筆ペン、カリグラフィー用のペン、製図用のペンなどの、くし溝をインキ流量調節機構として配設した筆記具の洗浄液として好適に用いることができる。