(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】渦電流式ダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 9/26 20060101AFI20220412BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20220412BHJP
F16F 7/10 20060101ALI20220412BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20220412BHJP
F16F 15/03 20060101ALI20220412BHJP
E04H 9/02 20060101ALN20220412BHJP
【FI】
F16F9/26
F16F15/023 A
F16F7/10
F16F9/32 J
F16F15/03 Z
E04H9/02 311
(21)【出願番号】P 2018186735
(22)【出願日】2018-10-01
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100105119
【氏名又は名称】新井 孝治
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】今西 憲治
(72)【発明者】
【氏名】野上 裕
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】増井 亮介
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-133625(JP,A)
【文献】特公平5-86496(JP,B2)
【文献】特開平10-89406(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106948638(CN,A)
【文献】特開2017-122463(JP,A)
【文献】特開2019-19969(JP,A)
【文献】特開2019-32007(JP,A)
【文献】特開2020-37959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/03
F16F 15/023
F16F 7/10
F16F 9/00- 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられ、振動エネルギを減衰する渦電流式ダンパであって、
軸線方向に互いに区画され、作動流体が充填された第1ピストン室及び第2ピストン室を有し、前記第1部位に連結されるシリンダと、
互いに一体に連結された第1ピストン及び第2ピストンを有し、前記第2部位に連結される連設ピストンと、を備え、
前記第1及び第2ピストンはそれぞれ、前記第1及び第2ピストン室に軸線方向に摺動自在に設けられ、前記第1ピストンは、前記第1ピストン室を第1流体室と第2流体室とから成る2つの流体室に区画し、前記第2ピストンは、前記第2ピストン室を第3流体室と第4流体室とから成る2つの流体室に区画し、
前記第1ピストンをバイパスし、前記第1及び第2流体室に連通する第1連通路と、
前記第2ピストンをバイパスし、前記第3及び第4流体室に連通する第2連通路と、
前記第1連通路に設けられ、当該第1連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する第1圧力モータと、
前記第2連通路に設けられ、当該第2連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する第2圧力モータと、
前記第1圧力モータによって回転駆動される第1ロータと、
当該第1ロータに対向し、前記第2圧力モータによって前記第1ロータと反対方向に回転駆動される第2ロータと、をさらに備え、
前記第1及び第2ロータの一方のロータは、導電部材で構成されており、
前記第1及び第2ロータの他方に設けられ、磁界内を回転する前記一方のロータに、当該一方のロータの回転と反対方向の、渦電流によるローレンツ力を作用させるように構成された複数の永久磁石をさらに備えることを特徴とする渦電流式ダンパ。
【請求項2】
構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられ、振動エネルギを減衰する渦電流式ダンパであって、
軸線方向に互いに区画され、作動流体が充填された第1ピストン室及び第2ピストン室を有し、前記第1部位に連結されるシリンダと、
互いに一体に連結された第1ピストン及び第2ピストンを有し、前記第2部位に連結される連設ピストンと、を備え、
前記第1及び第2ピストンはそれぞれ、前記第1及び第2ピストン室に軸線方向に摺動自在に設けられ、前記第1ピストンは、前記第1ピストン室を前記第2ピストン室と反対側の第1流体室と前記第2ピストン室側の第2流体室とから成る2つの流体室に区画し、前記第2ピストンは、前記第2ピストン室を前記第1ピストン室側の第3流体室と前記第1ピストン室と反対側の第4流体室とから成る2つの流体室に区画し、
前記第1及び第3流体室に連通する第1連通路と、
前記第2及び第4流体室に連通する第2連通路と、
一端部が前記第1及び第3流体室の少なくとも一方に連通し、他端部が前記第2及び第4流体室の少なくとも一方に連通する合流連通路と、
当該合流連通路に設けられ、当該合流連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する圧力モータと、
当該圧力モータによって回転駆動されるロータと、
当該ロータに対向する回転不能のステータと、をさらに備え、
前記ロータ及び前記ステータの一方は、導電部材で構成されており、
前記ロータ及び前記ステータの他方に設けられ、磁界内を回転する前記ロータに、当該ロータの回転と反対方向の、渦電流によるローレンツ力を作用させるように構成された複数の永久磁石をさらに備えることを特徴とする渦電流式ダンパ。
【請求項3】
前記ロータは、不動のケーシングに回転自在に収容され、
前記ステータは、前記ケーシング内に軸線方向に摺動自在に設けられた第3ピストンを有し、
両端部において前記合流連通路と並列に接続され、前記合流連通路内の作動流体の圧力を前記第3ピストンの背面側に導入する圧力導入路と、
前記ケーシング内に設けられ、前記第3ピストンを背面側に付勢するセットばねと、をさらに備えることを特徴とする、請求項2に記載の渦電流式ダンパ。
【請求項4】
前記圧力導入路の前記合流連通路との接続部にそれぞれ設けられ、前記合流連通路内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、当該合流連通路内の作動流体の圧力を前記圧力導入路に導入する一対の開閉弁をさらに備えることを特徴とする、請求項3に記載の渦電流式ダンパ。
【請求項5】
前記圧力導入路は、前記一対の開閉弁をそれぞれバイパスし、前記合流連通路に連通する一対の連通部を有し、
当該一対の連通部にそれぞれ配置されるとともに、手動によって開弁され、前記圧力導入路内の圧力を前記合流連通路側に逃がすことによって、前記第3ピストンを初期状態に復帰させるための一対の復帰弁をさらに備えることを特徴とする、請求項4に記載の渦電流式ダンパ。
【請求項6】
前記第1及び第2ピストンの各々には、当該各ピストンで区画された2つの流体室の一方における作動流体の圧力が所定圧力に達したとき、及び2つの流体室の他方における作動流体の圧力が所定圧力に達したときに、それぞれ開弁し、2つの流体室を互いに連通させる一対のリリーフ弁が設けられていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の渦電流式ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に設けられ、その振動を抑制するためのダンパに関し、特に永久磁石による渦電流を利用した渦電流式ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のダンパとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このダンパは、ボールねじ式のものであり、地震時などに相対変位する支持体及び被支持体にそれぞれ連結された主筒及び副筒と、主筒に回転自在に支持されたねじ軸と、副筒に回転不能に支持されるとともに、ねじ軸に螺合するボールナットを備える。また、ねじ軸の外周側に固定されたヒステリシス材(強磁性体)と、主筒の内周面に設けられ、ヒステリシス材に対向する複数の永久磁石を備えている。
【0003】
このダンパでは、地震時などに支持体と被支持体が相対変位すると、その相対変位がねじ軸の回転運動に変換され、ねじ軸と一体のヒステリシス材が、対向する複数の永久磁石の磁界内を回転する際のヒステリシス損失によって、振動エネルギが減衰され、振動が抑制される。また、特許文献1には、ねじ軸にヨーク材をさらに設け、主筒の内周面に、ヨーク材に対向する環状の第2永久磁石をさらに設けることが開示されており、この構成により、ねじ軸の回転に伴ってヨーク材に発生する渦電流損失によって、振動エネルギがさらに減衰される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した渦電流損失による減衰効果は、ヨーク材と永久磁石との相対回転速度が大きいほど、より大きい。これに対し、上記の従来のダンパは、構造物の直線運動(相対変位)から回転運動への変換を、ボールナットとねじ軸との機械的な噛合いにより行うボールねじ式のものであり、回転増幅率(回転量/相対変位)がねじ軸のリード長によって定まるため、得られる相対回転速度には限界がある。このため、上述した渦電流損失による減衰効果を十分に得ようとすると、多量の永久磁石を用いることが必要になる。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、少量の永久磁石を用いながら、渦電流による高い減衰効果を発揮させることによって、良好な振動抑制効果を得ることができる渦電流式ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられ、振動エネルギを減衰する渦電流式ダンパであって、軸線方向に互いに区画され、作動流体が充填された第1ピストン室及び第2ピストン室を有し、第1部位に連結されるシリンダと、互いに一体に連結された第1ピストン及び第2ピストンを有し、第2部位に連結される連設ピストンと、を備え、第1及び第2ピストンはそれぞれ、第1及び第2ピストン室に軸線方向に摺動自在に設けられ、第1ピストンは、第1ピストン室を第1流体室と第2流体室とから成る2つの流体室に区画し、第2ピストンは、第2ピストン室を第3流体室と第4流体室とから成る2つの流体室に区画し、第1ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通する第1連通路と、第2ピストンをバイパスし、第3及び第4流体室に連通する第2連通路と、第1連通路に設けられ、第1連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する第1圧力モータと、第2連通路に設けられ、第2連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する第2圧力モータと、第1圧力モータによって回転駆動される第1ロータと、第1ロータに対向し、第2圧力モータによって第1ロータと反対方向に回転駆動される第2ロータと、をさらに備え、第1及び第2ロータの一方のロータは、導電部材で構成されており、第1及び第2ロータの他方に設けられ、磁界内を回転する一方のロータに、一方のロータの回転と反対方向の、渦電流によるローレンツ力を作用させるように構成された複数の永久磁石をさらに備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の渦電流式ダンパは、構造物を含む系内の第1及び第2部位の間に設けられる。地震時などに振動エネルギが構造物に入力され、第1及び第2部位の間に相対変位が発生すると、相対変位の大きさ及び方向に応じて、連設ピストンがシリンダに対して移動し、連設ピストンの第1及び第2ピストンが、シリンダの第1及び第2ピストン室内をそれぞれ摺動する。
【0009】
この第1ピストンの移動に伴い、第1又は第2流体室内の作動流体が第1ピストンで押し出され、第1連通路に流入し、この第1連通路内の作動流体の流動が、第1圧力モータにより回転運動に変換されることによって、第1ロータが回転駆動される。同様に、第2ピストンの移動に伴い、第3又は第4流体室内の作動流体が第2ピストンで押し出され、第2連通路に流入し、この第2連通路内の作動流体の流動が、第2圧力モータにより回転運動に変換されることによって、第2ロータが回転駆動される。以上により、第1及び第2ロータの回転による回転慣性質量効果(慣性力)が発揮されるとともに、作動流体が第1及び第2連通路を流動する際の粘性抵抗による粘性減衰効果(粘性力)が発揮される。
【0010】
またこの場合、第1及び第2ロータのうちの、導電部材で構成された一方のロータが、他方のロータに設けられた複数の永久磁石の磁界内を回転する。これにより、一方のロータに渦電流(誘導電流)が発生すると同時に、この渦電流と永久磁石の磁界との相互作用により、一方のロータの回転と反対方向のローレンツ力が発生し、一方のロータに抵抗力(制動力)として作用することによって、渦電流(ローレンツ力)による減衰効果(減衰力)が発揮される。
【0011】
さらに、本発明の渦電流式ダンパによれば、第1及び第2ロータが互いに反対方向に回転駆動されるので、永久磁石と導電部材の間の相対回転速度が大きくなる。これにより、少量の永久磁石を用いながら、渦電流による高い減衰効果を発揮させることができ、良好な振動抑制効果を得ることができる。
【0012】
また、前記目的を達成するために、請求項2に係る発明は、構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられ、振動エネルギを減衰する渦電流式ダンパであって、軸線方向に互いに区画され、作動流体が充填された第1ピストン室及び第2ピストン室を有し、第1部位に連結されるシリンダと、互いに一体に連結された第1ピストン及び第2ピストンを有し、第2部位に連結される連設ピストンと、を備え、第1及び第2ピストンはそれぞれ、第1及び第2ピストン室に軸線方向に摺動自在に設けられ、第1ピストンは、第1ピストン室を第2ピストン室と反対側の第1流体室と第2ピストン室側の第2流体室とから成る2つの流体室に区画し、第2ピストンは、第2ピストン室を第1ピストン室側の第3流体室と第1ピストン室と反対側の第4流体室とから成る2つの流体室に区画し、第1及び第3流体室に連通する第1連通路と、第2及び第4流体室に連通する第2連通路と、一端部が第1及び第3流体室の少なくとも一方に連通し、他端部が第2及び第4流体室の少なくとも一方に連通する合流連通路と、合流連通路に設けられ、合流連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する圧力モータと、圧力モータによって回転駆動されるロータと、ロータに対向する回転不能のステータと、をさらに備え、ロータ及びステータの一方は、導電部材で構成されており、ロータ及びステータの他方に設けられ、磁界内を回転するロータに、ロータの回転と反対方向の、渦電流によるローレンツ力を作用させるように構成された複数の永久磁石をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の渦電流式ダンパは、請求項1のダンパと同様、構造物を含む系内の第1及び第2部位の間に設けられる。地震時などに第1及び第2部位の間に相対変位が発生すると、相対変位の大きさ及び方向に応じて、連設ピストンの第1及び第2ピストンが、それぞれシリンダの第1及び第2ピストン室内を摺動する。
【0014】
この場合、例えば、第1ピストンが第1ピストン室の第1流体室側に移動し、第2ピストンが第2ピストン室の第3流体室側に移動したときには、第1ピストンで押し出された作動流体と第2ピストンで押し出された作動流体が、合流した状態で、合流連通路に一端部から流入する。その結果、第1ピストンによる押出し量と第2ピストンによる押出し量とを合わせた流量の作動流体が、圧力モータに流入する。
【0015】
これにより、圧力モータ及びロータが増速され、ロータ及びステータの一方を構成する導電部材と他方に設けられた永久磁石との間の相対回転速度が大きくなる。したがって、少量の永久磁石を用いながら、渦電流による高い減衰効果を発揮させることができ、良好な振動抑制効果を得ることができる。
【0016】
圧力モータを通過した作動流体は、合流連通路の他端部から流出し、第1ピストン室の第2流体室及び第2ピストン室の第4流体室に戻される。また、上記とは逆に、第1及び第2ピストンが第2及び第4流体室側に移動する場合には、作動流体が上記と逆方向に流れ、同様の動作が得られる。
【0017】
また、本発明のダンパでは、上述した渦電流による減衰効果(減衰力)に加えて、ロータの回転による回転慣性質量効果(慣性力)が発揮されるとともに、作動流体が第1及び第2連通路や合流連通路などを流動する際の粘性抵抗による粘性減衰効果(粘性力)が発揮される。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の渦電流式ダンパにおいて、ロータは、不動のケーシングに回転自在に収容され、ステータは、ケーシング内に軸線方向に摺動自在に設けられた第3ピストンを有し、両端部において合流連通路と並列に接続され、合流連通路内の作動流体の圧力を第3ピストンの背面側に導入する圧力導入路と、ケーシング内に設けられ、第3ピストンを背面側に付勢するセットばねと、をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、ロータは、不動のケーシングに回転自在に収容され、ステータとしての第3ピストンは、ケーシング内に軸線方向に摺動自在に設けられており、ロータが第3ピストンに対して回転することによって、渦電流による減衰効果が発揮される。また、合流連通路内の作動流体の圧力が、圧力導入路を介して第3ピストンの背面側に導入される。これにより、第3ピストンは、背面側に導入された圧力とセットばねのばね力が釣り合う位置に移動し、第3ピストンとロータとの距離、すなわち永久磁石と導電部材との相対距離が変化することによって、渦電流による減衰効果が変化する。
【0020】
合流連通路がシリンダの流体室に連通しているため、合流連通路内の圧力はシリンダ内の作動流体の圧力を反映し、シリンダ内の作動流体の圧力は、ダンパの軸力(ダンパに作用する軸方向の荷重)を反映する。したがって、この構成によれば、渦電流による減衰効果を、シリンダ内の作動流体の圧力(ダンパの軸力)に応じてパッシブに可変制御することができる。
【0021】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の渦電流式ダンパにおいて、圧力導入路の合流連通路との接続部にそれぞれ設けられ、合流連通路内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、合流連通路内の作動流体の圧力を圧力導入路に導入する一対の開閉弁をさらに備えることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、合流連通路内の作動流体の圧力が第1所定圧に達するまでは、一対の開閉弁が開弁しないことで、合流連通路内の作動流体の圧力は第3ピストンの背面側に導入されず、渦電流による減衰効果は変更されない。一方、合流連通路内の作動流体の圧力が第1所定圧に達すると、対応する開閉弁が開弁する。これにより、作動流体の圧力が第3ピストンの背面側に導入され、第3ピストンがセットばねを圧縮しながらロータ側に移動することによって、永久磁石と導電部材との相対距離が短くなり、渦電流による減衰効果が大きくなる。このように、合流連通路内の作動流体の圧力が第1所定圧以上に増大したときに、開閉弁が開弁することで、渦電流による減衰効果を強化することができる。
【0023】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の渦電流式ダンパにおいて、圧力導入路は、一対の開閉弁をそれぞれバイパスし、合流連通路に連通する一対の連通部を有し、一対の連通部にそれぞれ配置されるとともに、手動によって開弁され、圧力導入路内の圧力を合流連通路側に逃がすことによって、第3ピストンを初期状態に復帰させるための一対の復帰弁をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
開閉弁が前述したように作動した後には、第3ピストンの背面側の圧力は、圧縮されたセットばねのばね力の分だけ、合流連通路内の圧力よりも高い状態で残留している。この構成によれば、開閉弁の作動後に一対の復帰弁を手動で開弁すると、圧力導入路内の高圧の圧力が、復帰弁を介して、合流連通路側に逃がされる。これにより、第3ピストンは、セットばねのばね力によって移動し、初期状態に復帰する。このように、開閉弁が作動した後、一対の復帰弁を開弁するだけで、第3ピストンを初期状態に容易に復帰させることができる。
【0025】
請求項6に係る発明は、請求項1から5のいずれかに記載の渦電流式ダンパにおいて、第1及び第2ピストンの各々には、各ピストンで区画された2つの流体室の一方における作動流体の圧力が所定圧力に達したとき、及び2つの流体室の他方における作動流体の圧力が所定圧力に達したときに、それぞれ開弁し、2つの流体室を互いに連通させる一対のリリーフ弁が設けられていることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、第1及び第2ピストンの各々に一対のリリーフ弁が設けられている。これらのリリーフ弁は、各ピストンによって区画された2つの流体室の一方における作動流体の圧力又は他方における作動流体の圧力が、所定圧力に達したときに開弁する。これにより、2つの流体室が互いに連通し、上昇した一方の流体室内の圧力が他方の流体室に逃がされる。その結果、流体室圧力の過大化が防止され、回転慣性質量ダンパの制振力(減衰力+慣性力+粘性力の合力)が頭打ちになることにより、シリンダ及びピストンに作用する軸力を適切に制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態によるダンパを示す縦断面図である。
【
図3】
図1のダンパを制振建物に適用した例を概略的に示す図である。
【
図4】本発明の第2実施形態によるダンパを示す縦断面図である。
【
図5】
図4のダンパの第1変形例を示す縦断面図である。
【
図6】
図4のダンパの第2変形例を示す縦断面図である。
【
図7】
図4のダンパの第3変形例を示す断面図である。
【
図8】
図4のダンパの第4変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
図1は、第1実施形態によるダンパ1を示す。このダンパ1は、後述する永久磁石による渦電流により減衰効果を発揮させる渦電流式のものであり、シリンダ2と、シリンダ2内に設けられた2連ピストン3と、シリンダ2に接続された第1連通路4及び第2連通路5を備えている。
【0029】
シリンダ2は、円筒状の周壁2aと、周壁2aの軸線方向の両端部に設けられた円板状の第1端壁2b及び第2端壁2cと、中央の区画壁2dを一体に有する。これらの周壁2a、第1端壁2b及び区画壁2dによって、第1ピストン室2eが画成され、周壁2a、第2端壁2c及び区画壁2dによって、第2ピストン室2fが画成されている。第1及び第2ピストン室2e、2fの断面積及び軸線方向の長さは、互いに同じである。
【0030】
また、第1及び第2ピストン室2e、2fと第1及び第2連通路4、5には、作動流体HFが充填されている。作動流体HFは、適度な粘性を有する作動油などで構成されている。シリンダ2の第1端壁2b側の端部には、自在継手を介して、第1取付具FL1が設けられている。
【0031】
2連ピストン3は、第1ピストン3a、連結ロッド3b、第2ピストン3c及びピストンロッド3dを、この順で同軸状に一体に連結したものである。第1及び第2ピストン3a、3cは、第1及び第2ピストン室2e、2fにそれぞれ収容されており、それらの外周面はシールを介して周壁2aの内周面に液密に接している。また、第1及び第2ピストン3a、3cの受圧面積及び軸線方向の長さは、互いに同じである。
【0032】
この構成により、第1及び第2ピストン3a、3cは軸線方向に移動自在であるとともに、第1ピストン3aは、第1ピストン室2eを第1端壁2b側の第1流体室C1と中央側の第2流体室C2に区画し、第2ピストン3cは、第2ピストン室2fを中央側の第3流体室C3と第2端壁2c側の第4流体室C4に区画している。また、連結ロッド3bは区画壁2dの中心の孔に、ピストンロッド3dは第2端壁2cの中心の孔に、それぞれシールを介して液密に挿入されており、ピストンロッド3dの外端部には、自在継手を介して、第2取付具FL2が設けられている。
【0033】
また、第1ピストン3aには、軸線方向に貫通する複数の第1連通孔3e及び第2連通孔3f(それぞれ1つのみ図示)が形成されている。第1連通孔3eには第1リリーフ弁11が、第2連通孔3fには第2リリーフ弁12が、それぞれ設けられている。
【0034】
第1リリーフ弁11は、常閉弁として構成され、弁体と、これを閉弁方向に付勢するばねを有し、第2流体室C2内の作動流体HFの圧力が、設定圧である所定圧力に達するまでは、第1連通孔3eを閉鎖し、所定圧力に達したときに、第1連通孔3eを開放する。これにより、第2流体室C2内の作動流体HFの圧力が、第1連通孔3eを介して第1流体室C1側に逃がされ、所定圧力以下に制限される。
【0035】
第2リリーフ弁12は、第1リリーフ弁11と同様に構成され、第1流体室C1内の作動流体HFの圧力が所定圧力に達するまでは、第2連通孔3fを閉鎖し、所定圧力に達したときに、第2連通孔3fを開放する。これにより、第1流体室C1内の圧力が、第2連通孔3fを介して第2流体室C2側に逃がされ、所定圧力以下に制限される。
【0036】
同様に、第2ピストン3cにおいても、第1及び第2連通孔3e、3fが形成され、第1及び第2リリーフ弁11、12が設けられており、それにより、第3及び第4流体室C3、C4内の作動流体HFの圧力が、所定圧力以下に制限される。
【0037】
第1連通路4は、第1ピストン3aをバイパスし、第1ピストン室2eの軸線方向の両端部において、第1及び第2流体室C1、C2に連通している。同様に、第2連通路5は、第2ピストン3cをバイパスし、第2ピストン室2fの軸線方向の両端部において、第3及び第4流体室C3、C4に連通している。
【0038】
また、ダンパ1は、第1連通路4に設けられた第1歯車モータM1と、第2連通路5に設けられた第2歯車モータM2と、第1歯車モータM1の出力軸23に連結されたケーシング24と、ケーシング24に収容された複数の永久磁石25と、第2歯車モータM2の出力軸26に連結されたフライホイール27を備えている。
【0039】
第1及び第2歯車モータM1、M2はそれぞれ、第1及び第2連通路4、5内の作動流体HFの流動を回転運動に変換し、出力軸23、26から出力するものであり、歯車(図示せず)を有する内接式又は外接式の構成を有する。第1及び第2歯車モータM1、M2は、第1及び第2連通路4、5の互いに近い部位に配置されている。また、出力軸23、26は、水平に延び、互いに同軸状に対向するとともに、互いに反対方向に回転するように構成されている。
【0040】
ケーシング24は、例えば鋼材などの強磁性体で構成され、周壁24aと左右の円板状の端壁24b、24bとから成る短円筒状に形成されており、第1歯車モータM1の出力軸23に同軸状に一体に設けられている。複数の永久磁石25は、ケーシング24の左右の端壁24b、24bの各内面に設けられている。
図2に示すように、永久磁石25は、端壁24bの外周部に周方向に等間隔に配置されるとともに、それらの磁極の向きは、隣り合う各2つの間で交互に異なるように設定されている。
【0041】
第2歯車モータM2の出力軸26は、一方の端壁24bの中心の孔を介して、ケーシング24内に延び、フライホイール27は、出力軸26の内端部に同軸状に一体に連結されている。この構成と、上述したように出力軸23、26が互いに反対方向に回転することから、ケーシング24とフライホイール27は、常時、互いに反対方向に回転駆動される。フライホイール27は、導電部材、例えば鋼材などで構成されており、左右の複数の永久磁石25の間に配置され、それらに対向している。
【0042】
図3は、以上の構成のダンパ1を制振建物に適用した例を示す。この例では、建物である構造物Bの上下の梁BU、BL及び左右の柱PL、PRで構成される門型フレームに、V型ブレースBRが設けられている。ダンパ1は、下梁BL及び左柱PLの角部とV型ブレースBRとの間に、第1及び第2取付具FL1、FL2を介して、水平に取り付けられている。なお、構造物Bへのダンパ1の連結方法として、他の適当な方法を採用してもよいことはもちろんである。
【0043】
次に、上述した構成のダンパ1の動作について説明する。構造物Bの振動が発生していないときには、ダンパ1は、
図1に示す初期状態にあり、第1及び第2ピストン3a、3cは、第1及び第2ピストン室2e、2fの軸線方向の中心である中立位置に位置している。
【0044】
この初期状態から、地震時などに構造物Bが振動するのに伴い、上梁BUと下梁BLの間に水平方向の相対変位が発生すると、第1及び第2ピストン3a、3cを有する2連ピストン3が、相対変位に応じた方向及びストロークで軸線方向に一体に移動する。これに伴い、第1及び第2ピストン室2e、2f内の作動流体HFがそれぞれ、第1及び第2ピストン3a、3cで押し出され、第1及び第2連通路4、5に流入する。
【0045】
例えば、2連ピストン3が
図1の左方に移動する場合には、矢印で示すように、第1ピストン室2e内の作動流体HFは、第1流体室C1から第1連通路4に流入し、第2ピストン室2f内の作動流体HFは、第3流体室C3から第2連通路5に流入する。なお、この場合、第1及び第2ピストン3a、3cの受圧面積及び移動量が互いに同じであるため、第1及び第2連通路4、5内の作動流体HFの流量は、互いに等しい。
【0046】
そして、第1連通路4内の作動流体HFの流動が、第1歯車モータM1で回転運動に変換されることで、ケーシング24が回転駆動されるとともに、第2連通路5内の作動流体HFの流動が、第2歯車モータM2で回転運動に変換されることで、フライホイール27が、ケーシング24と反対方向に回転駆動される。このようなケーシング24及びフライホイール27の回転によって、回転慣性質量効果(慣性力)が発揮される。また、作動流HFが第1及び第2連通路4、5を流動する際の粘性抵抗によって、粘性減衰効果(粘性力)が発揮される。
【0047】
また、ケーシング24とフライホイール27が相対的に回転することによって、導電部材で構成されたフライホイール27が、ケーシング24に設けられた複数の永久磁石25の磁界内を回転する。これにより、フライホイール27に渦電流(誘導電流)が発生すると同時に、この渦電流と永久磁石25の磁界との相互作用によって、フライホイール27にその回転と反対方向のローレンツ力が発生し、抵抗力(制動力)として作用することによって、減衰効果(減衰力)が発揮される。
【0048】
また、このダンパ1によれば、ケーシング24とフライホイール27が互いに反対方向に回転駆動される。このため、ケーシング24に設けられた永久磁石25と、フライホイール27を構成する導電部材との相対回転速度が大きくなる。これにより、少量の永久磁石を用いながら、渦電流(ローレンツ力)による高い減衰効果を発揮させることができ、良好な振動抑制効果を得ることができる。
【0049】
次に、
図4を参照しながら、本発明の第2実施形態によるダンパ31について説明する。同図において、第1実施形態と同じ又は同等の構成要素については、同じ符号を付している。このダンパ31は、第1実施形態のダンパ1と比較し、歯車モータが1つであることや、連通路の構成の変更によって、歯車モータに流入する作動流体HFの流量を増大させるようにした点が異なるものである。以下、第1実施形態と異なる部分を中心として、説明を行う。
【0050】
ダンパ31は、第1及び第2連通路32、33と合流連通路34を備えており、合流連通路34に歯車モータMが設けられている。第1連通路32は、シリンダ2の第1流体室C1の第1ピストン3aと反対側の端部と、第3流体室C3の第2ピストン3cと反対側の端部に連通している。第2連通路33は、第2流体室C2の第1ピストン3aと反対側の端部と、第4流体室C4の第2ピストン3cと反対側の端部に連通している。また、合流連通路34は、第1実施形態の第2連通路5と同様、第2ピストン3cをバイパスし、第2ピストン室2fの軸線方向の両端部において、第3及び第4流体室C3、C4に連通している。
【0051】
歯車モータMは、第1実施形態の第1及び第2歯車モータM1、M2と同様、歯車(図示せず)を有する内接式又は外接式のものである。歯車モータMは、合流連通路34の中央に配置されており、合流連通路34内の作動流体HFの流動を回転運動に変換し、出力軸26から出力する。出力軸26は、歯車モータMの本体から鉛直下方に延びており、出力軸26の下端部に、導電部材で構成されたフライホイール27が同軸状に一体に連結されている。フライホイール27は、ケーシング24内に回転自在に収容されている。
【0052】
ケーシング24は、鋼材などの強磁性体で構成され、周壁24aと上下の円板状の端壁24b、24bとから成る短円筒状に形成されており、下側の端壁24bを介してシリンダ2に固定されている。
【0053】
複数の永久磁石25は、ケーシング24の上下の端壁24b、24bの各内面に設けられており、図示しないが、端壁24bの外周部に周方向に等間隔に配置されるとともに、それらの磁極の向きは、隣り合う各2つの間で交互に異なるように設定されている。
【0054】
次に、上述した構成のダンパ31の動作について説明する。構造物Bの振動が発生していないときには、ダンパ31は、
図4に示す初期状態にあり、第1及び第2ピストン3a、3cは、第1及び第2ピストン室2e、2fの中心である中立位置に位置している。
【0055】
この初期状態から、地震時などにおける構造物Bの振動に伴い、上梁BUと下梁BLの間に水平方向の相対変位が発生すると、第1及び第2ピストン3a、3cを有する2連ピストン3が、相対変位に応じて軸線方向に一体に移動する。これにより、例えば、2連ピストン3が
図4の左方に移動する場合には、矢印で示すように、第1及び第2ピストン室2e、2f内の作動流体HFは、第1及び第2ピストン3a、3cにより、互いに同じ流量で左方に押し出される。
【0056】
この場合、第1ピストン3aで押し出された作動流体HFは、第1流体室C1から第1連通路32を通って、第2ピストン室2fの第3流体室C3に流入し、第2ピストン3cで押し出された作動流体HFと合流した後、合流連通路34に流入する。その結果、第1ピストン3aによる押出し量と第2ピストン3cによる押出し量とを合わせた流量の作動流体HFが、歯車モータMに流入することによって、歯車モータMが増速される。
【0057】
より具体的には、本例では、第1及び第2ピストン3a、3cの受圧面積及び移動量が互いに等しいため、両ピストン3a、3cによる作動流体HFの押出し量もまた、互いに等しい。したがって、それぞれの押出し量をQfとすると、歯車モータMに流入する流量はその2倍の2Qfになる。また、歯車モータMの回転量は、流入する作動流体HFの流量に比例するので、歯車モータMは倍速される。歯車モータMを通過した流量2Qfの作動流体HFは第4流体室C4に戻され、そのうちの流量Qf分の作動流体HFが、第2連通路33を介して第2流体室C2に流入する。
【0058】
また、上記のように歯車モータMが増速され、それと一体のフライホイール27が増速される結果、ケーシング24に設けられた永久磁石25との相対回転速度が増大する。したがって、第1実施形態と同様、少量の永久磁石を用いながら、渦電流(ローレンツ力)による高い減衰効果を発揮させ、良好な振動抑制効果を得ることができる。
【0059】
次に、
図5を参照しながら、第2実施形態の第1変形例によるダンパ41について説明する。同図において、
図4の第2実施形態と同じ又は同等の構成要素については、同じ符号を付している。このダンパ41は、第2実施形態のダンパ31に対し、渦電流による減衰効果を可変とするための可変減衰機構42を付加したものである。
【0060】
このダンパ41では、合流連通路34は、シリンダ2に比較的近い位置に配置されており、合流連通路34に歯車モータMが設けられている。歯車モータMの出力軸26は鉛直上方に延び、その上端部に、導電部材で構成されたフライホイール27が同軸状に一体に連結されている。フライホイール27は、ケーシング24に収容されている。
【0061】
また、ケーシング24内には、フライホイール27の上側及び下側に可動板43、43が設けられている。各可動板43は、鋼材などの強磁性体から成る円板で構成されており、その内面に、複数の永久磁石25が第2実施形態と同様に配置されている。また、可動板43、43は、ケーシング24内に上下方向に摺動自在かつ液密に設けられており、それらの間には、可動板43、43を初期位置側(外方)に付勢する複数のセットばね44が配置されている。
【0062】
さらに、合流連通路34と並列に、上下の圧力導入路45、45が設けられている。これらの圧力導入路45、45は、互いに並列に設けられ、それぞれ合流連通路34の両端部に連通するとともに、上下の可動板43、43の背面側に通されている。以上の構成により、シリンダ2の第3及び第4流体室C3、C4内の作動流体HFの圧力が、圧力導入路45、45を介して可動板43、43の背面側に導入される。また、これらの可動板43、セットばね44及び圧力導入路45によって、可変減衰機構42が構成されている。
【0063】
このダンパ41では、前述した第2実施形態のダンパ31の動作が同様に得られる。これに加えて、ダンパ41では、シリンダ2の第3及び第4流体室C3、C4内の作動流体HFの圧力が、圧力導入路45、45を介して可動板43、43の背面側に導入される。これにより、可動板43は、背面側に導入された圧力とセットばね44のばね力が釣り合う位置に移動し、可動板43とフライホイール27との距離、可動板43に設けられた永久磁石25と、フライホイール27を構成する導電部材との相対距離(隙間の大きさ)が変化する。したがって、渦電流による減衰効果を、作動流体HFの圧力に応じてパッシブに変更(可変制御)することができる。
【0064】
例えば、第3又は第4流体室C3、C4内の作動流体HFの圧力が増大したときには、可動板43、43がケーシング24の中央側に近づくように移動する結果、永久磁石25とフライホイール27との相対距離が減少することによって、より大きな渦電流による減衰効果を得ることができる。
【0065】
次に、
図6を参照しながら、第2実施形態の第2変形例によるダンパ51について説明する。同図において、
図4の第2実施形態及び
図5の第1変形例と同じ又は同等の構成要素については、同じ符号を付している。このダンパ51は、第1変形例のダンパ41に、一対の開閉弁52、52と一対の復帰弁53、53を付加したものである。
【0066】
一対の開閉弁52、52は、合流連通路34の両端部との圧力導入路45の接続部分にそれぞれ配置されている。各開閉弁52は、常閉弁として構成されており、圧力導入路45を開閉する弁体と、弁体を閉弁方向に付勢するばね(いずれも図示せず)を有する。第3流体室C3側の開閉弁52は、第3流体室C3内の作動流体HFの圧力が設定圧である第1所定圧に達するまで、閉弁状態に維持され、第1所定圧に達したときに開弁する。同様に、第4流体室C4側の開閉弁52は、第4流体室C4内の作動流体HFの圧力が第1所定圧に達するまで、閉弁状態に維持され、第1所定圧に達したときに開弁する。
【0067】
以上のように開閉弁52が開弁すると、第3又は第4流体室C3、C4内の作動流体HFの圧力が、開閉弁52及び圧力導入路45を介して可動板43の背面側に導入され、可動板43がセットばね44を圧縮しながら移動することによって、永久磁石25と導電部材との相対距離が短くなり、渦電流による減衰効果が大きくなる。このように、第3又は第4流体室C3、C4内の作動流体HFの圧力が第1所定圧以上に増大したときに、開閉弁52が開弁することで、渦電流による減衰効果を強化することができる。
【0068】
一対の復帰弁53、53は、地震時などに作動した可動板43、43を初期状態に復帰させるためのものであり、各開閉弁52をバイパスする連通部52aに設けられている。各復帰弁53は、例えば手動で操作されるねじ式のものであり、ねじが締め付けられた状態では連通部52aを閉鎖し、ねじが緩められたときに連通部52aを開放するように構成されている。
【0069】
また、開閉弁52が上述したように作動した後には、圧力導入路45内の圧力は、圧縮されたセットばね44のばね力の分だけ、第3又は第4流体室C3、C4内の圧力よりも高い状態で残留している。このため、開閉弁52の作動後に復帰弁53、53を手動で開弁すると、圧力導入路45内の高圧の圧力が、復帰弁53、53を介して、第3及び第4流体室C3、C4側にそれぞれ逃がされる。これにより、可動板43、43は、セットばね44の付勢力によって初期位置に復帰する。このように、復帰弁53を開弁するだけで、可動板43を初期状態に容易に復帰させることができる。
【0070】
なお、本発明は、説明した実施形態及び変形例に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。まず、実施形態では、圧力モータとして、歯車モータを用いているが、連通路内の作動流体HFの流動を回転運動に変換することが可能である限り、他の形式の圧力モータ、例えばピストンモータやベーンモータ、ねじモータなどを用いてもよいことは、もちろんである。また、複数の永久磁石25の数や配置については、実施形態で説明したものの他、適宜、増減及び変更することが可能である。
【0071】
また、第1及び第2実施形態では、ケーシング24を強磁性体+複数の永久磁石25で構成し、フライホイール27を導電部材で構成しているが、この関係を逆にし、ケーシング24を導電部材で構成し、フライホイール27を強磁性体+複数の永久磁石25で構成してもよい。
【0072】
さらに、第1及び第2実施形態では、複数の永久磁石25を、ケーシング24の端壁24b、24bにそれぞれ、計2列で設けているが、一方の端壁24bのみに1列で設けてもよい。また、第1及び第2変形例では、フライホイール27の上下に可動板43、43を配置しているが、その一方のみを移動自在とし、他方を固定としてもよい。
【0073】
また、第2実施形態では、合流連通路34は、シリンダ2の第3及び第4流体室C3、C4に連通しているが、
図7に示すように、第1及び第4流体室C1、C4に連通してもよく、あるいは、図示しないが、第1及び第2流体室C1、C2や、第2及び第3流体室C2、C3に連通してもよい。あるいは、
図8に示すように、合流連通路34の一端部及び他端部が、第1及び第2連通路32、33にそれぞれ連通するようにしてもよい。
【0074】
さらに、第2実施形態では、連設ピストンは、第1及び第2ピストン3a、3cを有する2連ピストン3であるが、ピストンの数は3つ以上でもよい。また、これまでに示した実施形態では、第1及び第2ピストン室2e、2fの断面積、並びに第1及び第2ピストン3a、3cの受圧面積は、互いに同じに設定されているが、これらを異ならせてもよいことはもちろんである。
【0075】
また、実施形態は、ダンパ1などを構造物Bの制震装置として用いた例であるが、免震装置として用いてもよい。その他、ダンパの細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 第1実施形態のダンパ
2 シリンダ
2e 第1ピストン室
2f 第2ピストン室
3 2連ピストン(連設ピストン)
3a 第1ピストン
3c 第2ピストン
4 第1連通路
5 第2連通路
11 第1リリーフ弁(リリーフ弁)
12 第2リリーフ弁(リリーフ弁)
31 第2実施形態のダンパ
32 第1連通路
33 第2連通路
34 合流連通路
41 第1変形例のダンパ
43 可動板(第3ピストン)
44 セットばね
45 圧力導入路
51 第2変形例のダンパ
52 開閉弁
53 復帰弁
B 構造物
HF 作動流体
C1 第1流体室
C2 第2流体室
C3 第3流体室
C4 第4流体室
M1 第1歯車モータ(第1圧力モータ)
M2 第2歯車モータ(第2圧力モータ)
M 歯車モータ(圧力モータ)