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特許7057271正極活物質、正極、アルカリ蓄電池および正極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】正極活物質、正極、アルカリ蓄電池および正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/52 20100101AFI20220412BHJP
   H01M 10/30 20060101ALN20220412BHJP
【FI】
H01M4/52
H01M10/30 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018235187
(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公開番号】P2019204764
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】P 2018096963
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】穂積 正人
(72)【発明者】
【氏名】奥村 素宜
(72)【発明者】
【氏名】菊池 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】畑 未来夫
(72)【発明者】
【氏名】安田 太樹
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-91964(JP,A)
【文献】特開2017-143039(JP,A)
【文献】特開2012-91955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
C01G53/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池用の正極活物質であって、
複合粒子を含み、
前記複合粒子はコア粒子および被覆層を含み、
前記コア粒子はニッケル複合水酸化物を含み、
前記ニッケル複合水酸化物は下記式(I):
Nix1Zn1-x1-y1Coy1(OH)2 …(I)
(ただし式中、x1およびy1は、0.90≦x1<1.00、0≦y1≦0.01、0<1-x1-y1を満たす)
により表され、
前記被覆層は前記コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆しており、
前記被覆層はコバルト化合物を含み、
軟X線を用いた全電子収量法により測定されるX線吸収微細構造において、コバルトのL3吸収端が780.5eV以上の領域にピークトップを有する、
正極活物質。
【請求項2】
アルカリ蓄電池用の正極活物質であって、
複合粒子を含み、
前記複合粒子はコア粒子および被覆層を含み、
前記コア粒子はニッケル複合水酸化物を含み、
前記ニッケル複合水酸化物は下記式(II):
Nix2Mg1-x2-y2Coy2(OH)2 …(II)
(ただし式中、x2およびy2は、0.90≦x2<1.00、0≦y2≦0.01、0<1-x2-y2を満たす)
により表され、
前記被覆層は前記コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆しており、
前記被覆層はコバルト化合物を含み、
軟X線を用いた全電子収量法により測定されるX線吸収微細構造において、コバルトのL3吸収端が780.7eV以上の領域にピークトップを有する、
正極活物質。
【請求項3】
前記被覆層に含まれるコバルトの質量は前記複合粒子全体の質量に対して1.6質量%以上5.0質量%以下である、
請求項1または請求項2に記載の正極活物質。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の前記正極活物質を少なくとも含む、
正極。
【請求項5】
請求項4に記載の前記正極を少なくとも含む、
アルカリ蓄電池。
【請求項6】
アルカリ蓄電池用の正極活物質の製造方法であって、
コア粒子を準備すること、
前記コア粒子の表面の少なくとも一部にコバルト水酸化物を晶析させることにより、前記コア粒子および被覆層を含む複合粒子を調製すること、
水酸化ナトリウムの共存下、前記複合粒子を加熱することにより、前記コバルト水酸化物を酸化し、コバルト化合物を生成すること、
および
前記コバルト化合物の生成後、前記複合粒子を水洗し、乾燥することにより、正極活物質を製造すること、
を少なくとも含み、
前記複合粒子の加熱時、前記コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比が2.27以上3.08以下となるように、前記複合粒子および水酸化ナトリウムが混合され、
前記被覆層に含まれるコバルトの質量が前記複合粒子全体の質量に対して1.6質量%以上5.0質量%以下となるように、前記コバルト化合物が生成される、
正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記コア粒子はニッケル複合水酸化物を含み、
前記ニッケル複合水酸化物は下記式(I):
Nix1Zn1-x1-y1Coy1(OH)2 …(I)
(ただし式中、x1およびy1は、0.90≦x1<1.00、0≦y1≦0.01、0<1-x1-y1を満たす)
により表され、
軟X線を用いた全電子収量法により測定される前記正極活物質のX線吸収微細構造において、コバルトのL3吸収端が780.5eV以上の領域にピークトップを有するように、前記コバルト化合物が生成される、
請求項6に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記コア粒子はニッケル複合水酸化物を含み、
前記ニッケル複合水酸化物は下記式(II):
Nix2Mg1-x2-y2Coy2(OH)2 …(II)
(ただし式中、x2およびy2は、0.90≦x2<1.00、0≦y2≦0.01、0<1-x2-y2を満たす)
により表され、
軟X線を用いた全電子収量法により測定される前記正極活物質のX線吸収微細構造において、コバルトのL3吸収端が780.7eV以上の領域にピークトップを有するように、前記コバルト化合物が生成される、
請求項6に記載の正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は正極活物質、正極、アルカリ蓄電池および正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平1-200555号公報(特許文献1)は、水酸化ニッケル粒子をコバルト化合物で被覆することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-200555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルカリ蓄電池の正極活物質として水酸化ニッケル〔Ni(OH)2〕粒子が使用されている。水酸化ニッケル粒子は電子伝導性が低い。水酸化ニッケル粒子の電子伝導性を補うために、水酸化ニッケル粒子の表面をコバルト(Co)化合物で被覆する技術が知られている。
【0005】
本開示の目的は、高い導電性を有し得る正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本開示の作用メカニズムは推定を含んでいる。作用メカニズムの正否により特許請求の範囲が限定されるべきではない。
【0007】
〔1〕正極活物質はアルカリ蓄電池用である。正極活物質は複合粒子を含む。複合粒子はコア粒子および被覆層を含む。コア粒子はニッケル複合水酸化物を含む。
ニッケル複合水酸化物は下記式(I):
Nix1Zn1-x1-y1Coy1(OH)2 …(I)
(ただし式中、x1およびy1は、0.90≦x1<1.00、0≦y1≦0.01、0<1-x1-y1を満たす)
により表される。
被覆層はコア粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。被覆層はコバルト化合物を含む。軟X線を用いた全電子収量法により測定されるX線吸収微細構造において、コバルトのL3吸収端が780.5eV以上の領域にピークトップを有する。
【0008】
上記〔1〕に記載の正極活物質は高い電子伝導性を有し得る。上記〔1〕に記載の正極活物質において高い電子伝導性が発現するメカニズムの詳細は現状において明らかではない。しかし上記〔1〕に記載の正極活物質では、X線吸収微細構造(x-ray absorption fine structure,XAFS)に従来と異なる特徴が見出されている。すなわちCoのL3吸収端が780.5eV以上の領域にピークトップを有する。
【0009】
L殻によるX線吸収スペクトルには3つの吸収端が存在する。すなわちL1吸収端、L2吸収端およびL3吸収端が存在する。L1吸収端は2s軌道に対応すると考えられる。L2吸収端は2p1/2軌道に対応すると考えられる。L3吸収端は2p3/2軌道に対応すると考えられる。
【0010】
CoのL3吸収端(以下「Co L3-edge」とも記される)のピークトップの位置は、コバルト化合物におけるCoの酸化状態等に関する情報を示していると考えられる。通常、ニッケル複合水酸化物が上記式(I)の組成を有する場合、Co L3-edgeは780.5eV未満の領域(例えば780.4eV程度)にピークトップを有している。上記〔1〕に記載の正極活物質では、Co L3-edgeのピークトップが高エネルギー側にシフトしている。上記〔1〕に記載の正極活物質では、従来と異なるコバルト化合物によってコア粒子が被覆されているため、高い電子伝導性が発現していると考えられる。
【0011】
〔2〕正極活物質はアルカリ蓄電池用である。正極活物質は複合粒子を含む。複合粒子はコア粒子および被覆層を含む。コア粒子はニッケル複合水酸化物を含む。
ニッケル複合水酸化物は下記式(II):
Nix2Mg1-x2-y2Coy2(OH)2 …(II)
(ただし式中、x2およびy2は、0.90≦x2<1.00、0≦y2≦0.01、0<1-x2-y2を満たす)
により表される。
被覆層はコア粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。被覆層はコバルト化合物を含む。軟X線を用いた全電子収量法により測定されるX線吸収微細構造において、コバルトのL3吸収端が780.7eV以上の領域にピークトップを有する。
【0012】
上記〔2〕に記載の正極活物質も高い電子伝導性を有し得る。通常、ニッケル複合水酸化物が上記式(II)の組成を有する場合、Co L3-edgeは780.7eV未満の領域(例えば780.6eV程度)にピークトップを有している。上記〔2〕に記載の正極活物質では、Co L3-edgeのピークトップが高エネルギー側にシフトしている。上記〔2〕に記載の正極活物質では、従来と異なるコバルト化合物によってコア粒子が被覆されているため、高い電子伝導性が発現していると考えられる。
【0013】
〔3〕被覆層に含まれるコバルトの質量は複合粒子全体の質量に対して2質量%以上4質量%以下であってもよい。
【0014】
Co L3-edgeのピークシフトは、複数の因子が複合的に作用した結果として起こると考えられる。複合粒子全体の質量に対する、被覆層に含まれるCoの質量の比率(以下「被覆層のCo含量」とも記される)は、Co L3-edgeにピークシフトを生じさせる因子のひとつであり得る。被覆層のCo含量が2質量%以上4質量%以下であることにより、Coの酸化状態等に変化が生じ、Co L3-edgeのピークトップが高エネルギー側にシフトしやすくなる可能性がある。
【0015】
被覆層に含まれるコバルトの質量は複合粒子全体の質量に対して1.6質量%以上5.0質量%以下であってもよい。
【0016】
〔4〕正極は上記〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の正極活物質を少なくとも含む。
【0017】
〔5〕アルカリ蓄電池は上記〔4〕に記載の正極を少なくとも含む。アルカリ蓄電池は例えばハイレート特性に優れることが期待される。正極活物質が高い電子伝導性を有するためと考えられる。
【0018】
〔6〕正極活物質の製造方法は、アルカリ蓄電池用の正極活物質の製造方法である。正極活物質の製造方法は以下の(a)~(d)を少なくとも含む。
(a)コア粒子を準備する。
(b)コア粒子の表面の少なくとも一部にコバルト水酸化物を晶析させることにより、コア粒子および被覆層を含む複合粒子を調製する。
(c)水酸化ナトリウムの共存下、複合粒子を加熱することにより、コバルト水酸化物を酸化し、コバルト化合物を生成する。
(d)コバルト化合物の生成後、複合粒子を水洗し、乾燥することにより、正極活物質を製造する。
複合粒子の加熱時、コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比が1.5以上2.5以下となるように、複合粒子および水酸化ナトリウムが混合される。
被覆層に含まれるコバルトの質量が複合粒子全体の質量に対して2質量%以上4質量%以下となるように、コバルト化合物が生成される。
【0019】
コバルト水酸化物の酸化条件は、Co L3-edgeにピークシフトを生じさせる因子のひとつであり得る。複合粒子の加熱時、コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比が1.5以上2.5以下であることにより、Coの酸化状態等に変化が生じ、Co L3-edgeのピークトップが高エネルギー側にシフトしやすくなる可能性がある。
【0020】
また被覆層のCo含量が2質量%以上4質量%以下であることにより、Coの酸化状態等に変化が生じ、Co L3-edgeのピークトップが高エネルギー側にシフトしやすくなる可能性がある。
【0021】
複合粒子の加熱時、コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比が2.27以上3.08以下となるように、複合粒子および水酸化ナトリウムが混合されてもよい。被覆層に含まれるコバルトの質量が複合粒子全体の質量に対して1.6質量%以上5.0質量%以下となるように、コバルト化合物が生成されてもよい。
【0022】
〔7〕上記〔6〕に記載の正極活物質の製造方法において、コア粒子はニッケル複合水酸化物を含んでもよい。
ニッケル複合水酸化物は下記式(I):
Nix1Zn1-x1-y1Coy1(OH)2 …(I)
(ただし式中、x1およびy1は、0.90≦x1<1.00、0≦y1≦0.01、0<1-x1-y1を満たす)
により表されてもよい。
軟X線を用いた全電子収量法により測定される正極活物質のX線吸収微細構造において、コバルトのL3吸収端が780.5eV以上の領域にピークトップを有するように、コバルト化合物が生成されてもよい。
【0023】
〔8〕上記〔6〕に記載の正極活物質の製造方法において、コア粒子はニッケル複合水酸化物を含んでもよい。
ニッケル複合水酸化物は下記式(II):
Nix2Mg1-x2-y2Coy2(OH)2 …(II)
(ただし式中、x2およびy2は、0.90≦x2<1.00、0≦y2≦0.01、0<1-x2-y2を満たす)
により表されてもよい。
軟X線を用いた全電子収量法により測定される正極活物質のX線吸収微細構造において、コバルトのL3吸収端が780.7eV以上の領域にピークトップを有するように、コバルト化合物が生成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は本実施形態の正極活物質を説明するための断面概念図である。
図2図2は本実施形態の正極活物質の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図3図3は本実施形態のアルカリ蓄電池の構成の一例を示す概略図である。
図4図4は実施例1および比較例1のCo L3-edgeである。
図5図5は実施例2および比較例2のCo L3-edgeである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本開示の実施形態(本明細書では「本実施形態」と記される)が説明される。ただし以下の説明は特許請求の範囲を限定するものではない。
【0026】
<正極活物質>
図1は本実施形態の正極活物質を説明するための断面概念図である。
本実施形態の正極活物質はアルカリ蓄電池用である。正極活物質は複合粒子5を含む。正極活物質は典型的には複数個の複合粒子5からなる。すなわち正極活物質は粒子の集合体(粉体)である。
【0027】
正極活物質のd50は特に限定されるべきではない。正極活物質は例えば1μm以上30μm以下のd50を有してもよい。本明細書の「d50」はレーザ回折散乱法によって測定される粒度分布において微粒側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%になる粒径を示す。
【0028】
正極活物質のBET比表面積は特に限定されるべきではない。正極活物質は例えば9m2/g以上のBET比表面積を有してもよい。本明細書の「BET比表面積」は、窒素ガス吸着法により測定される等温吸着曲線に基づき、BET多点法により算出される値を示す。BET比表面積の上限は特に限定されるべきではない。正極活物質は例えば50m2/g以下のBET比表面積を有してもよい。
【0029】
《複合粒子》
複合粒子5はコアシェル構造を有する。すなわち複合粒子5はコア粒子1および被覆層2を含む。複合粒子5の粒子形状は特に限定されるべきではない。複合粒子5は例えば球状、楕円球状、板状、棒状等であってもよい。
【0030】
《コア粒子》
コア粒子1は複合粒子5のコアである。コア粒子1の粒子形状は特に限定されるべきではない。コア粒子1は例えば球状、楕円球状、板状、棒状等であってもよい。コア粒子1は例えば1μm以上30μm以下のd50を有してもよい。
【0031】
コア粒子1はニッケル複合水酸化物を含む。ニッケル複合水酸化物は放電状態である。ニッケル複合水酸化物は充電により例えばオキシ水酸化物等に変化すると考えられる。本明細書の「ニッケル複合水酸化物」は、ニッケル(Ni)イオン、Niイオン以外の金属イオン、および水酸化物イオン(OH-)を含む化合物を示す。コア粒子1はその全域に亘って均一な組成を有してもよい。コア粒子1はその内部で局所的に組成が変化していてもよい。例えばコア粒子1の一部に、Ni(OH)2、水酸化亜鉛〔Zn(OH)2〕、水酸化マグネシウム〔Mg(OH)2〕、水酸化コバルト〔Co(OH)2〕等が含まれていてもよい。コア粒子1は製造時に不可避的に混入する元素を微量に含んでいてもよい。
【0032】
ニッケル複合水酸化物の組成は、Co L3-edgeにピークシフトを生じさせる因子のひとつであり得る。ニッケル複合水酸化物の組成の影響により、その表面に形成されるコバルト化合物において、Coの酸化状態等に変化が生じ、Co L3-edgeのピークトップが高エネルギー側にシフトしやすくなる可能性がある。
【0033】
ニッケル複合水酸化物は例えば下記式(I):
Nix1Zn1-x1-y1Coy1(OH)2 …(I)
(ただし式中、x1およびy1は、0.90≦x1<1.00、0≦y1≦0.01、0<1-x1-y1を満たす。)
により表されてもよい。
【0034】
上記式(I)で表される組成においては、Co L3-edgeに例えば0.1eV以上のピークシフトが生じ得る。
【0035】
ニッケル複合水酸化物は例えば下記式(II):
Nix2Mg1-x2-y2Coy2(OH)2 …(II)
(ただし式中、x2およびy2は、0.90≦x2<1.00、0≦y2≦0.01、0<1-x2-y2を満たす。)
により表されてもよい。
【0036】
上記式(II)で表される組成においては、Co L3-edgeに例えば0.1eV以上のピークシフトが生じ得る。
【0037】
上記式(I)および(II)に示されるように、本実施形態のニッケル複合水酸化物においてCoは任意成分である。ニッケル複合水酸化物はCoを実質的に含んでいなくてもよい。上記式(I)のニッケル複合水酸化物がCoを含む場合は、Ni、ZnおよびCoの合計に対するCoのモル比は0.01以下である。上記式(II)のニッケル複合水酸化物がCoを含む場合は、Ni、MgおよびCoの合計に対するCoのモル比は0.01以下である。上記式(I)および(II)において、x1、y1、x2およびy2は小数第2位まで有効である。小数第3位は四捨五入される。例えばx1が0.908であるとき、x1は0.91と解される。例えばx1が0.903であるとき、x1は0.90と解される。
【0038】
コア粒子1の結晶構造もCo L3-edgeにピークシフトを生じさせる因子のひとつであり得る。正極活物質(複合粒子5)のX線回折(x-ray diffraction,XRD)には、コア粒子1の結晶構造が反映されると考えられる。本実施形態の正極活物質は、例えばXRDにおいて101面に対応するピークの半値全幅(full width at half maximum,FWHM)が0.9度以上であってもよい。
【0039】
《被覆層》
被覆層2は複合粒子5のシェルである。被覆層2は電子伝導性を有する。被覆層2はコア粒子1の表面の少なくとも一部を被覆している。被覆層2は実質的にコア粒子1の表面全体を被覆していてもよい。被覆層2はコア粒子1の表面の一部を被覆していてもよい。被覆層2がコア粒子1の表面の少なくとも一部を被覆している限り、コア粒子1のみの場合よりも電子伝導性は向上すると考えられる。
【0040】
被覆層2はコバルト化合物を含む。被覆層2は実質的にコバルト化合物のみから形成されていてもよい。被覆層2はその全域に亘って均一な組成を有してもよい。被覆層2はその内部で局所的に組成が変化していてもよい。例えば被覆層2の一部にニッケル化合物、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、ナトリウム化合物等が含まれていてもよい。
【0041】
コバルト化合物は典型的にはコバルト酸化物であると考えられる。ただしニッケル複合水酸化物が上記式(I)により表される場合において、Co L3-edgeが780.5eV以上の領域にピークトップを有する限り、コバルト化合物はコバルト酸化物に限定されるべきではない。またニッケル複合水酸化物が上記式(II)により表される場合において、Co L3-edgeが780.7eV以上の領域にピークトップを有する限り、コバルト化合物はコバルト酸化物に限定されるべきではない。コバルト化合物は、例えばCo以外の金属と、Coとを含む複合酸化物であってもよい。コバルト化合物は例えばオキシ水酸化物等であってもよい。
【0042】
被覆層2のCo含量は、Co L3-edgeにピークシフトを生じさせる因子のひとつであり得る。被覆層2のCo含量は2質量%以上4質量%以下であってもよい。これにより、Coの酸化状態等に変化が生じ、Co L3-edgeのピークトップが高エネルギー側にシフトしやすくなる可能性がある。被覆層2のCo含量は、複合粒子5全体の質量に対する被覆層2に含まれるCoの質量の比率である。被覆層2に含まれるCoの質量は、複合粒子5全体に含まれるCoの質量から、コア粒子1に含まれるCoの質量が差し引かれることにより算出される。複合粒子5全体に含まれるCoの質量、コア粒子1に含まれるCoの質量は、例えばICP発光分光分析法(inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy,ICP-AES)により測定され得る。被覆層2のCo含量は少なくとも3回測定される。少なくとも3回の算術平均が採用される。
【0043】
被覆層2のCo含量は例えば1.6質量%以上5.0質量%以下であってもよい。被覆層2のCo含量は例えば2.8質量%以上であってもよい。被覆層2のCo含量は例えば4.2質量%以上であってもよい。被覆層2のCo含量は例えば4.4質量%以上であってもよい。
【0044】
《XAFS》
本実施形態では、ニッケル複合水酸化物が上記式(I)により表される場合(ニッケル複合水酸化物にZnが添加されている場合)、軟X線を用いた全電子収量法により測定される正極活物質のXAFSにおいて、Co L3-edgeが780.5eV以上の領域にピークトップを有する。Co L3-edgeは例えば780.5eV以上783eV以下の領域にピークトップを有してもよい。Co L3-edgeは例えば780.5eV以上782eV以下の領域にピークトップを有してもよい。Co L3-edgeは例えば780.5eV以上781eV以下の領域にピークトップを有してもよい。
【0045】
本実施形態では、ニッケル複合水酸化物が上記式(II)により表される場合(ニッケル複合水酸化物にMgが添加されている場合)、軟X線を用いた全電子収量法により測定される正極活物質のXAFSにおいて、Co L3-edgeが780.7eV以上の領域にピークトップを有する。Co L3-edgeは例えば780.7eV以上783eV以下の領域にピークトップを有してもよい。Co L3-edgeは例えば780.7eV以上782eV以下の領域にピークトップを有してもよい。Co L3-edgeは例えば780.7eV以上781eV以下の領域にピークトップを有してもよい。
【0046】
本実施形態のXAFS測定が可能な施設としては、例えば立命館大学SRセンターのビームライン「BL-11」等が考えられる。これと同等の施設で測定が行われてもよい。正極活物質の粉体が導電性テープ(例えばカーボンテープ等)の表面に保持されることにより、測定試料が準備される。測定試料は試料ステージにセットされる。
【0047】
XAFS測定は全電子収量(total electron yield,TEY)法によって行われる。測定のエネルギー範囲は、Co L3-edgeのピークトップが確認できる範囲とされる。測定のエネルギー範囲は、例えば760eV以上860eV以下であってもよい。TEY法によるX線吸収スペクトルは、複合粒子5の表面近傍の情報を示すと考えられる。すなわちTEY法によるX線吸収スペクトルは、主に被覆層2の情報を示すと考えられる。X線吸収スペクトルからバックグラウンドが除去される。バックグランドは、X線吸収分光法のデータ処理用ソフトウエア「Demeter」により除去される。「Demeter」と同様の機能を有するソフトウエアが使用されてもよい。バックグラウンドの除去後、Co L3-edgeのピークトップの位置が確認される。
【0048】
ピークトップの位置(eV)は小数第1位まで有効である。小数第2位は四捨五入される。例えば780.67eVは780.7eVと解される。例えば780.63eVは780.6eVと解される。
【0049】
《粉体の体積抵抗率》
本実施形態の正極活物質は高い電子伝導性を有し得る。電子伝導性の指標として、粉体の体積抵抗率が考えられる。ニッケル複合水酸化物が上記式(I)により表される場合(ニッケル複合水酸化物にZnが添加されている場合)、本実施形態の正極活物質の粉体は4.9Ω・cm以下の体積抵抗率を有し得る。
【0050】
本実施形態の正極活物質の粉体は例えば7.6Ω・cm以下の体積抵抗率を有してもよい。本実施形態の正極活物質の粉体は例えば6.1Ω・cm以下の体積抵抗率を有してもよい。本実施形態の正極活物質の粉体は例えば2.7Ω・cm以下の体積抵抗率を有してもよい。本実施形態の正極活物質の粉体は例えば1.8Ω・cm以下の体積抵抗率を有してもよい。本実施形態の正極活物質の粉体は例えば1.6Ω・cm以下の体積抵抗率を有してもよい。
【0051】
ニッケル複合水酸化物が上記式(II)により表される場合(ニッケル複合水酸化物にMgが添加されている場合)、本実施形態の正極活物質の粉体は6.5Ω・cm以下の体積抵抗率を有し得る。
【0052】
体積抵抗率の下限値は特に限定されるべきではない。本実施形態の正極活物質の粉体は例えば0.1Ω・cm以上の体積抵抗率を有してもよい。本実施形態の正極活物質の粉体は例えば1Ω・cm以上の体積抵抗率を有してもよい。
【0053】
粉体の体積抵抗率は「粉体抵抗」とも称されている。粉体の体積抵抗率は、例えば粉体抵抗測定システム(型式「MCP-PD51型」、三菱ケミカルアナリテック社製)および抵抗率計(型式「MCP-T610」、三菱ケミカルアナリテック社製)等により測定され得る。これらの装置と同等の装置が使用されてもよい。プローブは四探針プローブである。電極間隔は3mmである。電極半径は0.7mmである。
【0054】
正極活物質の粉体が試料室に充填される。粉体の充填量は例えば3gである。試料室の半径は例えば10mmである。粉体に荷重が加えられる。粉体に20kNの荷重が加えられた状態で体積抵抗率が測定される。測定開始レンジは0Ωである。印加電圧リミッタは10Vである。体積抵抗率は少なくとも3回測定される。少なくとも3回の算術平均が採用される。
【0055】
<正極活物質の製造方法>
図2は本実施形態の正極活物質の製造方法の概略を示すフローチャートである。
本実施形態の正極活物質の製造方法は「(a)コア粒子の準備」、「(b)晶析」、「(c)酸化」および「(d)水洗、乾燥」を少なくとも含む。
【0056】
《(a)コア粒子の準備》
本実施形態の正極活物質の製造方法は、コア粒子1を準備することを含む。コア粒子1はニッケル複合水酸化物を含む。市販のニッケル複合水酸化物粒子が購入されることにより、コア粒子1が準備されてもよい。コア粒子1が合成されることにより、コア粒子1が準備されてもよい。コア粒子1は例えば次の方法により合成され得る。
【0057】
例えば硫酸ニッケル、硫酸亜鉛および硫酸コバルトが水に溶解されることにより、原料液が調製されてもよい。硫酸ニッケル、硫酸亜鉛および硫酸コバルトは、例えばニッケル、亜鉛およびコバルトのモル比が「Ni:Zn:Co=x1:(1-x1-y1):y1」となるように混合されてもよい。x1およびy1は、例えば0.90≦x1<1.00、0≦y1≦0.01、0<1-x1-y1を満たしてもよい。
【0058】
例えば硫酸ニッケル、硫酸マグネシウムおよび硫酸コバルトが水に溶解されることにより、原料液が調製されてもよい。硫酸ニッケル、硫酸マグネシウムおよび硫酸コバルトは、例えばニッケル、マグネシウムおよびコバルトのモル比が「Ni:Mg:Co=x2:(1-x2-y2):y2」となるように混合されてもよい。x2およびy2は、例えば0.90≦x2<1.00、0≦y2≦0.01、0<1-x2-y2を満たしてもよい。
【0059】
なお原料液に硫酸コバルトが含まれない場合、例えば被覆層2の形成過程において、Coの一部がコア粒子1(ニッケル複合水酸化物)に拡散することにより、ニッケル複合水酸化物にCoが含まれることがあり得る。
【0060】
反応槽が準備される。反応槽は攪拌機、ヒータおよび温度コントローラ等を備えていてもよい。反応槽において、水、硫酸アンモニウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液が混合されることにより、第1アルカリ水溶液が調製される。第1アルカリ水溶液の温度は例えば40℃程度に調整される。第1アルカリ水溶液のアンモニア濃度は例えば12.5g/L程度に調整される。第1アルカリ水溶液のpH(40℃での測定値)は例えば12~13の範囲内に調整される。
【0061】
攪拌機により反応槽内の第1アルカリ水溶液が攪拌されながら、原料液が第1アルカリ水溶液に滴下される。原料液の滴下中、反応液の温度、反応液のアンモニア濃度、および反応液のpHが大きく変化しないように、加熱、硫酸アンモニウム水溶液の追加および水酸化ナトリウム水溶液の追加が適宜行われる。反応液の温度は例えば40±1℃となるように調整される。反応液のアンモニア濃度は例えば12.5±1g/Lとなるように調整される。反応液のpHは例えば12.5±0.5となるように調整される。
【0062】
以上よりコア粒子1が生成される。コア粒子1は、例えばオーバーフロー管等を通じて回収される。回収後、コア粒子1に対して、水洗、脱水および乾燥等の各処理が施されてもよい。
【0063】
《(b)晶析》
本実施形態の正極活物質の製造方法は、コア粒子1の表面の少なくとも一部にコバルト水酸化物を晶析させることにより、コア粒子1および被覆層2を含む複合粒子5を調製することを含む。
【0064】
被覆層2は例えば中和晶析により形成され得る。反応槽が準備される。反応槽は攪拌機、ヒータおよび温度コントローラ等を備えていてもよい。反応槽において、水、硫酸アンモニウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液が混合されることにより、第2アルカリ水溶液が調製される。第2アルカリ水溶液の温度は例えば45℃程度に調整される。第2アルカリ水溶液のアンモニア濃度は例えば12.5g/L程度に調整される。第2アルカリ水溶液のpH(40℃での測定値)は例えば9.7~10.7の範囲内に調整される。
【0065】
上記で調製されたコア粒子1が第2アルカリ水溶液に投入される。コア粒子1の投入後、第2アルカリ水溶液が攪拌されながら、コバルト塩水溶液が滴下される。コバルト塩は例えば硫酸コバルト等であってもよい。コバルト塩水溶液の濃度は例えば90g/L程度であってもよい。
【0066】
コバルト塩水溶液の滴下中、反応液の温度および反応液のpHが大きく変化しないように、加熱および水酸化ナトリウム水溶液の追加が適宜行われる。反応液の温度は例えば45℃±1℃となるように調整される。反応液のpHは例えば10.2±0.5となるように調整される。
【0067】
硫酸コバルトの滴下量は、最終生成物(被覆層2の酸化後)において、被覆層のCo含量が2質量%以上4質量%以下となるように調整される。
【0068】
被覆層のCo含量は例えば1.6質量%以上5.0質量%以下とされてもよい。被覆層2のCo含量は例えば2.8質量%以上とされてもよい。被覆層2のCo含量は例えば4.2質量%以上とされてもよい。被覆層2のCo含量は例えば4.4質量%以上とされてもよい。
【0069】
以上より、コア粒子1の表面の少なくとも一部にコバルト水酸化物が晶析する。すなわちコア粒子1および被覆層2を含む複合粒子5が調製される。この段階での被覆層2はコバルト水酸化物を含む。コバルト水酸化物はコバルト化合物の前駆体である。コバルト水酸化物は、コバルト(Co)イオンおよび水酸化物イオン(OH-)を含む化合物を示す。コバルト水酸化物は例えばCo(OH)2、Co(OH)3等であり得る。複合粒子5が回収され、乾燥される。
【0070】
《(c)酸化》
本実施形態の正極活物質の製造方法は、水酸化ナトリウムの共存下、複合粒子5を加熱することにより、コバルト水酸化物を酸化し、コバルト化合物を生成することを含む。
【0071】
水酸化ナトリウム水溶液が準備される。水酸化ナトリウム水溶液の濃度は例えば48質量%程度である。複合粒子5の粉体が乾式で攪拌される。複合粒子5の粉体が攪拌されながら、複合粒子5の粉体に水酸化ナトリウム水溶液が滴下される。すなわち複合粒子5および水酸化ナトリウムが混合される。複合粒子5と水酸化ナトリウムとの混合比は、コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比が1.5以上2.5以下となるように調整される。
【0072】
コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比は例えば2.27以上3.08以下とされてもよい。コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比は例えば3.05以下とされてもよい。コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比は例えば3.05以上とされてもよい。
【0073】
複合粒子5および水酸化ナトリウム水溶液の混合物が例えば120℃で1時間程度加熱されることにより、コバルト水酸化物(被覆層2)が酸化され、コバルト化合物が生成される。
【0074】
《(d)水洗、乾燥》
本実施形態の正極活物質の製造方法は、コバルト化合物の生成後、複合粒子5を水洗し、乾燥することにより、正極活物質を製造することを含む。
【0075】
コバルト化合物の生成後、複合粒子5に対して水洗、脱水および乾燥の各処理が施される。これにより本実施形態の正極活物質が製造される。正極活物質(最終生成物)において、被覆層2はコバルト化合物を含む。
【0076】
本実施形態では、ニッケル複合水酸化物が上記式(I)により表される場合(ニッケル複合水酸化物にZnが添加されている場合)、正極活物質のXAFSにおいてCo L3-edgeが780.5eV以上の領域にピークトップを有するように、コバルト化合物が生成され得る。
【0077】
本実施形態では、ニッケル複合水酸化物が上記式(II)により表される場合(ニッケル複合水酸化物にMgが添加されている場合)、正極活物質のXAFSにおいてCo L3-edgeが780.7eV以上の領域にピークトップを有するように、コバルト化合物が生成され得る。
【0078】
<アルカリ蓄電池>
図3は本実施形態のアルカリ蓄電池の構成の一例を示す概略図である。
電池100はアルカリ蓄電池である。アルカリ蓄電池は本実施形態の正極活物質を含む限り、特に限定されるべきではない。アルカリ蓄電池は、例えばニッケル水素電池、ニッケル亜鉛電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル鉄電池等であってもよい。本明細書では一例としてニッケル水素電池が説明される。
【0079】
《外装材》
電池100は外装材90を含む。外装材90は、例えば金属材料、高分子材料等により形成され得る。外装材90は円筒形である。ただし外装材90は角形であってもよい。外装材90は、正極10、セパレータ30、負極20およびアルカリ水溶液を収納している。すなわち電池100は正極10を少なくとも含む。
【0080】
《正極》
正極10はシート状である。正極10は本実施形態の正極活物質を少なくとも含む。前述のように本実施形態の正極活物質は高い電子伝導性を有し得る。そのため電池100は例えばハイレート特性に優れることが期待される。正極10は正極活物質の他、例えば正極集電体、バインダ等をさらに含んでもよい。
【0081】
正極集電体は例えば金属多孔体であってもよい。すなわち正極10は例えばNi多孔体の空隙に正極活物質およびバインダ等が充填されることにより形成されていてもよい。Ni多孔体としては例えば住友電工社製の「セルメット(登録商標)」等が挙げられる。
【0082】
正極集電体は例えば金属箔であってもよい。すなわち正極10は例えばNi箔の表面に正極活物質およびバインダが塗着されることにより形成されていてもよい。金属箔は例えばNiメッキ鋼箔等であってもよい。金属箔は例えば5μm以上50μm以下の厚さを有してもよい。
【0083】
ハイレート用途においては、正極10が薄くかつ大面積であることが望ましい。正極集電体が金属多孔体である場合、正極10において正極活物質の体積比率を高く維持しつつ、正極10を薄くすることが困難であると考えられる。すなわちハイレート特性と容量との両立が困難であると考えられる。
【0084】
正極集電体が金属箔であることにより、ハイレート特性と容量との両立が期待される。しかし正極集電体が金属箔である場合、正極集電体が金属多孔体である場合に比して、正極10の電気抵抗が高くなりやすい。金属多孔体では三次元的に集電が行われる一方、金属箔では二次元的(平面的)に集電が行われるためと考えられる。前述のように本実施形態の正極活物質は高い電子伝導性を有し得る。本実施形態の正極活物質は、正極集電体として金属箔を含む正極10に好適であると考えられる。
【0085】
なお本実施形態の電池100はハイレート用途に限定されるべきではない。本実施形態の電池100はあらゆる用途に適用され得る。
【0086】
バインダは正極活物質(複合粒子5)同士を結合する。バインダは正極活物質と正極集電体とを結合する。バインダは特に限定されるべきではない。バインダは例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等であってもよい。1種のバインダが単独で使用されてもよい。2種以上のバインダが組み合わされて使用されてもよい。
【0087】
《負極》
負極20はシート状である。負極20は負極活物質を少なくとも含む。負極20は負極集電体、バインダ等をさらに含んでもよい。負極集電体は例えば穿孔鋼板等であってもよい。穿孔鋼板には例えばNiメッキ等が施されていてもよい。
【0088】
負極20は例えば負極集電体の表面に負極活物質およびバインダ等が塗着されることにより形成されていてもよい。バインダは、例えば正極10のバインダとして例示された材料であってもよい。
【0089】
負極活物質は水素吸蔵合金である。水素吸蔵合金はプロチウム(原子状水素)を可逆的に吸蔵放出する。水素吸蔵合金は特に限定されるべきではない。水素吸蔵合金は例えばAB5型合金等であってもよい。AB5型合金は、例えばLaNi5、MmNi5(「Mm」はミッシュメタルを示す)等であってもよい。1種の水素吸蔵合金が単独で使用されてもよい。2種以上の水素吸蔵合金が組み合わされて使用されてもよい。
【0090】
《セパレータ》
セパレータ30は正極10および負極20の間に配置されている。セパレータ30は電気絶縁性である。セパレータ30は多孔質シートである。セパレータ30は例えば50μm以上150μm以下の厚さを有してもよい。セパレータ30は例えばポリオレフィン製の不織布、ポリアミド製の不織布等であってもよい。
【0091】
《アルカリ水溶液》
アルカリ水溶液は電解液である。アルカリ水溶液は正極10、負極20およびセパレータ30に含浸されている。アルカリ水溶液は水およびアルカリ金属水酸化物を含む。アルカリ水溶液は、例えば1mоl/L以上20mоl/L以下のアルカリ金属水酸化物を含んでもよい。アルカリ金属水酸化物は例えば水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)等であってもよい。1種のアルカリ金属水酸化物が単独で使用されてもよい。2種以上のアルカリ金属水酸化物が組み合わされて使用されてもよい。
【実施例
【0092】
以下本開示の実施例が説明される。ただし以下の説明は特許請求の範囲を限定するものではない。
【0093】
<実施例1>
《(a)コア粒子の準備》
硫酸ニッケルおよび硫酸亜鉛が水に溶解されることにより、原料液が調製された。原料液において、ニッケルおよび亜鉛のモル比は「Ni:Zn=0.96:0.04」である。
【0094】
反応槽が準備された。反応槽は攪拌機、ヒータおよび温度コントローラを備える。反応槽において、水、硫酸アンモニウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液が混合されることにより、第1アルカリ水溶液が調製された。第1アルカリ水溶液の温度は40℃に調整された。第1アルカリ水溶液のアンモニア濃度は12.5g/Lである。第1アルカリ水溶液のpHは12~13(40℃での測定値)の範囲内となるように調整された。
【0095】
攪拌機により反応槽内のアルカリ水溶液が攪拌されながら、原料液が第1アルカリ水溶液に滴下された。原料液の滴下中、反応液の温度は40℃に調整されていた。原料液の滴下中、反応液のアンモニア濃度が12.5g/L程度を維持するように、反応液に硫酸アンモニウム水溶液が適宜追加された。また原料液の滴下中、反応液のpHが12~13の範囲から外れないように、水酸化ナトリウム水溶液が適宜追加された。これによりコア粒子が生成された。
【0096】
コア粒子はニッケル複合水酸化物を含むと考えられる。ニッケル複合水酸化物の組成はNi0.96Zn0.04(OH)2であると考えられる。オーバーフロー管を通して、コア粒子が回収された。コア粒子に対して、水洗、脱水および乾燥の各処理が施された。
【0097】
《(b)晶析》
反応槽が準備された。反応槽は攪拌機、ヒータおよび温度コントローラを備える。反応槽において、水、硫酸アンモニウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液が混合されることにより、第2アルカリ水溶液が調製された。第2アルカリ水溶液の温度は45℃に調整された。第2アルカリ水溶液のアンモニア濃度は12.5g/Lである。第2アルカリ水溶液のpHは9.7~10.7(40℃での測定値)の範囲内となるように調整された。
【0098】
硫酸コバルト水溶液が準備された。硫酸コバルト水溶液の濃度は90g/Lである。コア粒子が第2アルカリ水溶液に投入された。攪拌機により反応槽内の第2アルカリ水溶液が攪拌されながら、硫酸コバルト水溶液が第2アルカリ水溶液に滴下された。硫酸コバルト水溶液の滴下中、反応液の温度は45℃程度に調整されていた。さらに硫酸コバルト水溶液の滴下中、反応液のpHが9.7~10.7の範囲から外れないように、水酸化ナトリウム水溶液が適宜追加された。硫酸コバルトの滴下量は、最終生成物(被覆層の酸化後)において、被覆層のCo含量が2.8質量%となるように調整された。
【0099】
以上よりコア粒子の表面の少なくとも一部にコバルト水酸化物が晶析した。すなわちコア粒子および被覆層を含む複合粒子が調製された。被覆層は実質的にコア粒子の表面全体を被覆していると考えられる。この段階での被覆層はコバルト水酸化物を含む。複合粒子が回収され、乾燥された。
【0100】
《(c)酸化》
水酸化ナトリウム水溶液が準備された。水酸化ナトリウム水溶液の濃度は48質量%である。複合粒子の粉体が乾式で攪拌された。複合粒子の粉体が攪拌されながら、複合粒子の粉体に水酸化ナトリウム水溶液が滴下された。すなわち複合粒子および水酸化ナトリウムが混合された。複合粒子と水酸化ナトリウムとの混合比は、コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比が2.27となるように調整された。
【0101】
複合粒子および水酸化ナトリウム水溶液の混合物が120℃で1時間加熱されることにより、コバルト水酸化物が酸化され、コバルト化合物が生成された。
【0102】
《(d)水洗、乾燥》
コバルト化合物の生成後、複合粒子に対して水洗、脱水および乾燥の各処理が施された。以上より実施例1に係る正極活物質が製造された。正極活物質(最終生成物)において、被覆層はコバルト化合物を含む。
【0103】
<比較例1>
《(a)コア粒子の準備》
実施例1と同様にコア粒子が準備された。
【0104】
《(b)晶析》
最終生成物(被覆層の酸化後)において、被覆層のCo含量が4.4質量%となるように、硫酸コバルトの滴下量が調整されることを除いては、実施例1と同様に、コア粒子および被覆層を含む複合粒子が調製された。
【0105】
《(c)酸化》
コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.95となるように、複合粒子および水酸化ナトリウムが混合されることを除いては、実施例1と同様に、コバルト化合物が生成された。
【0106】
《(d)水洗、乾燥》
コバルト化合物の生成後、複合粒子に対して水洗、脱水および乾燥の各処理が施された。以上より比較例1に係る正極活物質が製造された。
【0107】
<実施例2>
《(a)コア粒子の準備》
硫酸ニッケルおよび硫酸マグネシウムが水に溶解されることにより、原料液が調製された。原料液において、ニッケルおよびマグネシウムのモル比は「Ni:Mg=0.96:0.04」である。
【0108】
反応槽が準備された。反応槽は攪拌機、ヒータおよび温度コントローラを備える。反応槽において、水、硫酸アンモニウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液が混合されることにより、第1アルカリ水溶液が調製された。第1アルカリ水溶液の温度は40℃に調整された。第1アルカリ水溶液のアンモニア濃度は12.5g/Lである。第1アルカリ水溶液のpHは12~13(40℃での測定値)の範囲内となるように調整された。
【0109】
攪拌機により反応槽内のアルカリ水溶液が攪拌されながら、原料液が第1アルカリ水溶液に滴下された。原料液の滴下中、反応液の温度は40℃に調整されていた。原料液の滴下中、反応液のアンモニア濃度が12.5g/L程度を維持するように、反応液に硫酸アンモニウム水溶液が適宜追加された。また原料液の滴下中、反応液のpHが12~13の範囲から外れないように、水酸化ナトリウム水溶液が適宜追加された。これによりコア粒子が生成された。
【0110】
コア粒子はニッケル複合水酸化物を含むと考えられる。ニッケル複合水酸化物の組成はNi0.96Mg0.04(OH)2であると考えられる。オーバーフロー管を通して、コア粒子が回収された。コア粒子に対して、水洗、脱水および乾燥の各処理が施された。
【0111】
《(b)晶析》
反応槽が準備された。反応槽は攪拌機、ヒータおよび温度コントローラを備える。反応槽において、水、硫酸アンモニウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液が混合されることにより、第2アルカリ水溶液が調製された。第2アルカリ水溶液の温度は45℃に調整された。第2アルカリ水溶液のアンモニア濃度は12.5g/Lである。第2アルカリ水溶液のpHは9.7~10.7(40℃での測定値)の範囲内となるように調整された。
【0112】
硫酸コバルト水溶液が準備された。硫酸コバルト水溶液の濃度は90g/Lである。コア粒子が第2アルカリ水溶液に投入された。攪拌機により反応槽内の第2アルカリ水溶液が攪拌されながら、硫酸コバルト水溶液が第2アルカリ水溶液に滴下された。硫酸コバルト水溶液の滴下中、反応液の温度は45℃程度に調整されていた。さらに硫酸コバルト水溶液の滴下中、反応液のpHが9.7~10.7の範囲から外れないように、水酸化ナトリウム水溶液が適宜追加された。硫酸コバルトの滴下量は、最終生成物(被覆層の酸化後)において、被覆層のCo含量が2.8質量%となるように調整された。
【0113】
以上よりコア粒子の表面の少なくとも一部にコバルト水酸化物が晶析した。すなわちコア粒子および被覆層を含む複合粒子が調製された。被覆層は実質的にコア粒子の表面全体を被覆していると考えられる。この段階での被覆層はコバルト水酸化物を含む。複合粒子が回収され、乾燥された。
【0114】
《(c)酸化》
水酸化ナトリウム水溶液が準備された。水酸化ナトリウム水溶液の濃度は48質量%である。複合粒子の粉体が乾式で攪拌された。複合粒子の粉体が攪拌されながら、複合粒子の粉体に水酸化ナトリウム水溶液が滴下された。すなわち複合粒子および水酸化ナトリウムが混合された。複合粒子と水酸化ナトリウムとの混合比は、コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比が2.27となるように調整された。
【0115】
複合粒子および水酸化ナトリウム水溶液の混合物が120℃で1時間加熱されることにより、コバルト水酸化物が酸化され、コバルト化合物が生成された。
【0116】
《(d)水洗、乾燥》
コバルト化合物の生成後、複合粒子に対して水洗、脱水および乾燥の各処理が施された。以上より実施例2に係る正極活物質が製造された。正極活物質(最終生成物)において、被覆層はコバルト化合物を含む。
【0117】
<比較例2>
《(a)コア粒子の準備》
実施例2と同様にコア粒子が準備された。
【0118】
《(b)晶析》
最終生成物(被覆層の酸化後)において、被覆層のCo含量が4.4質量%となるように、硫酸コバルトの滴下量が調整されることを除いては、実施例2と同様に、コア粒子および被覆層を含む複合粒子が調製された。
【0119】
《(c)酸化》
コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比が1.00となるように、複合粒子および水酸化ナトリウムが混合されることを除いては、実施例2と同様に、コバルト化合物が生成された。
【0120】
《(d)水洗、乾燥》
コバルト化合物の生成後、複合粒子に対して水洗、脱水および乾燥の各処理が施された。以上より比較例2に係る正極活物質が製造された。
【0121】
<評価>
《XAFS》
立命館大学SRセンターのビームライン「BL-11」において、実施例1、比較例1、実施例2および比較例2のXAFSが測定された。以下に測定条件が示される。
【0122】
単色器:回折格子 600GHE
照射サイズ:1×1mm
吸収端 測定範囲:Co L3-edge(760~840eV)
測定方法:TEY法
測定時間:約20分
【0123】
得られたX線吸収スペクトルからバックグラウンドが除去された。バックグラウンドは「Demeter」により除去された。バックグラウンドの除去後、Co L3-edgeのピークトップの位置が確認された。結果は下記表1に示される。
【0124】
《粉体の体積抵抗率》
前述の方法により粉体の体積抵抗率が測定された。結果は下記表1に示される。測定には粉体抵抗測定システム(型式「MCP-PD51型」、三菱ケミカルアナリテック社製)および抵抗率計(型式「MCP-T610」、三菱ケミカルアナリテック社製)が使用された。
【0125】
【表1】
【0126】
<結果1>
上記表1に示されるように、実施例1は比較例1に対してワンオーダー程度低い体積抵抗率を示した。すなわち実施例1は比較例1に比して高い電子伝導性を示した。
【0127】
図4は実施例1および比較例1のCo L3-edgeである。
実施例1は比較例1に比してCo L3-edgeのピークトップが高エネルギー側にシフトしている。実施例1の被覆層2に含まれるコバルト化合物と、比較例1の被覆層2に含まれるコバルト化合物とでは、例えばコバルトの酸化数等が異なっていると考えられる。
【0128】
上記表1に示されるように、実施例2は比較例2に対してワンオーダー程度低い体積抵抗率を示した。すなわち実施例2は比較例2に比して高い電子伝導性を示した。
【0129】
図5は実施例2および比較例2のCo L3-edgeである。
実施例2は比較例2に比してCo L3-edgeのピークトップが高エネルギー側にシフトしている。実施例2の被覆層2に含まれるコバルト化合物と、比較例2の被覆層2に含まれるコバルト化合物とでは、例えばコバルトの酸化数等が異なっていると考えられる。
【0130】
<実施例3~7>
下記表2に示されるように、被覆層のCo含量および酸化条件が変更されることを除いては、実施例1と同様に、正極活物質が製造された。実施例1と同様に、正極活物質のXAFSおよび体積抵抗率が測定された。結果は下記表2に示される。
【0131】
【表2】
【0132】
<結果2>
実施例1(表1)および実施例3~5(表2)において、コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比が一定(2.27)であるとき、被覆層のCo含量が多くなる程、体積抵抗率が低下する傾向がみられる。
【0133】
実施例5~7(表2)において、被覆層のCo含量を増加させつつ、コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比を大きくすることにより、体積抵抗率がさらに低下する傾向がみられる。
【0134】
以上の結果から、被覆層のCo含量は例えば1.6質量%以上であってもよい。被覆層のCo含量は例えば2.0質量%以上であってもよい。被覆層のCo含量は例えば2.8質量%以上であってもよい。被覆層のCo含量は例えば4.2質量%以上であってもよい。被覆層のCo含量は例えば4.4質量%以上であってもよい。被覆層のCo含量は例えば5.0質量%以下であってもよい。
【0135】
コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比は、例えば2.27以上であってもよい。コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比は、例えば3.05以上であってもよい。コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比は、例えば3.08以下であってもよい。コバルト水酸化物に対する水酸化ナトリウムのモル比は、例えば3.05以下であってもよい。
【0136】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。特許請求の範囲の記載によって確定される技術的範囲は、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0137】
1 コア粒子、2 被覆層、5 複合粒子、10 正極、20 負極、30 セパレータ、90 外装材、100 電池(アルカリ蓄電池)。
図1
図2
図3
図4
図5