(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】表面弾性波デバイス用のハイブリッド構造
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20220412BHJP
H03H 3/08 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
(21)【出願番号】P 2018563171
(86)(22)【出願日】2017-05-30
(86)【国際出願番号】 FR2017051339
(87)【国際公開番号】W WO2017207911
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-04-16
(32)【優先日】2016-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507088071
【氏名又は名称】ソイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルセル ブルーカート
【審査官】橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-005106(JP,A)
【文献】特開2012-109399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/25
H03H 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効圧電層(10)であり、当該有効圧電層(10)の熱膨張係数より低い熱膨張係数を有する支持基板(20)上に配置された第1の自由面(1)および第2の面(2)を有する有効圧電層(10)を含む、表面弾性波デバイス用のハイブリッド構造(100)であって、前記ハイブリッド構造(100)は、有効圧電層(10)が、少なくとも部分的に1nmから500nmの最大サイズを有するナノキャビティ(31)の領域(30)を含み、前記領域(30)が、50nmから3μmの機能的厚さを有することを特徴とする、ハイブリッド構造(100)。
【請求項2】
ナノキャビティ(31)の前記領域(30)は、前記有効圧電層(10)の前記第2の面(2)から50nmを超える距離に位置する、請求項1又は2に記載の表面弾性波デバイス用のハイブリッド構造(100)。
【請求項3】
ナノキャビティ(31)の前記領域(30)は、前記有効圧電層(2)の前記第2の面(2)に平行な平面内に延在する、請求項1乃至2のいずれか一項に記載の表面弾性波デバイス用のハイブリッド構造(100)。
【請求項4】
前記支持基板(20)は、シリコン、ガラス、シリカ、サファイア、アルミナ、窒化アルミニウム、および炭化ケイ素の中から選択された材料を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表面弾性波デバイス用のハイブリッド構造(100)。
【請求項5】
前記有効圧電層(10)は、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、石英および酸化亜鉛(ZnO)の中から選択された圧電材料を含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表面弾性波デバイス用のハイブリッド構造(100)。
【請求項6】
前記有効圧電層(10)の前記第2の面(2)と前記支持基板との間に配置された中間層(40)を含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の表面弾性波デバイス用のハイブリッド構造(100)。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のハイブリッド構造(100)を備える表面弾性波デバイス(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面弾性波デバイスの分野に関する。本発明は特に、表面弾性波デバイスの製造に適するハイブリッド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
表面弾性波(SAW)デバイスのような音響共振器構造は、圧電基板内に設置された1つまたは複数のインターデジタルトランスデューサを使用して電気信号を音波に変換し、またその逆の変換も行う。そのようなSAWデバイスまたは共振器は、フィルタリング用途にしばしば使用される。高周波(RF)SAW技術は、高絶縁性および低挿入損失などの高性能を有する。このため、無線通信アプリケーションでのRFデュプレクサに広く使用されている。それにもかかわらず、バルク弾性波(BAW)デュプレクサに関してより競争力があるためには、RF SAWデバイスの性能を改善する必要があり、特に、それらの周波数応答が温度に対して安定であることが必要とされる。
【0003】
SAWデバイスの動作周波数は温度依存性があり、言い換えれば、温度係数周波数(TCF)は、使用される圧電基板の比較的高い熱膨張係数(CTE)に一般に起因するトランスデューサのくし形電極間隔の変動に部分的に依存し、さらに、圧電基板の膨張または収縮は表面弾性波の加速または減速を伴うので、TCFは熱速度係数に依存する。熱係数周波数(TCF)を最小にする上での可能な目標は、特に音波が伝播しようとしている表面領域において、圧電基板の膨張/収縮を最小にすることである。
【0004】
非特許文献1は、SAWデバイスの周波数応答における温度依存性を克服するための現在のアプローチの概要を示している。
【0005】
1つの手法は、例えばシリコン基板上に圧電層を塗布することによってハイブリッド基板を使用することにある。シリコンの低CTEは、圧電層の温度に基づく膨張/収縮を制限するのに役立つ。タンタル酸リチウム(LiTaO3)の圧電層の場合、先に引用した論文は、LiTaO3の厚さとシリコン基板の厚さとの間の比10が熱係数周波数(TCF)の十分な改善を可能にすることを示す。この手法の欠点の1つは、ハイブリッド基板上に製造された共振器の周波数特性に悪影響を及ぼす擬似音波(非特許文献2において「擬似音響モード」と呼ばれる)の存在によるものである。これらの擬似共振は、特に、下層にある界面、したがって特にLiTaO3とシリコンとの間の界面での(主にLiTaO3層の表面領域内を伝搬する)主音波のスプリアス反射と関連している。これらのスプリアス共振を低減するための1つの解決策は、LiTaO3の層の厚さを増加することであり、これはまた、TCFの改善を維持するためにSi基板の厚さを増加させることも含む。この場合、ハイブリッド基板の全体の厚さは、特に携帯電話市場をターゲットにするために、最終部品の厚さを減少する必要性ともはや両立しない。K.橋本らによって提案された別の解決策は、LiTaO3層上の音波の反射を低減するために、(基板との接合界面において)LiTaO3層の下面を粗面化することからなる。この粗面化は、非常に滑らかな結合表面を必要とする直接接合方法がハイブリッド基板を製造するために使用されるときに管理される必要があるという1つの困難さである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】K.Hashimoto、M.Kadotaら、「Recent Development of Temperature Compensated SAW Devices」、IEEE Ultrason.Symp.79~86頁、2011年
【文献】B.P.Abbottら、Proc 2005 IEEE International Ultrasonics Symposium「Characterization of bonded wafer for RF filters with reduced TCF」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の1つの目的は、従来技術の解決策に対する代替的解決策を提供することである。本発明の1つの目的は、特に、前記スプリアス音波の低減および/または除去を可能にするハイブリッド構造を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、有効圧電層であり、当該有効圧電層の熱膨張係数より低い熱膨張係数を有する支持基板上に配置された第1の自由面および第2の面を有する有効圧電層を含む、表面弾性波デバイス用のハイブリッド構造であって、前記ハイブリッド構造は、有効圧電層が、少なくとも部分的に1nmから500nmの最大サイズを有するナノキャビティの領域を含み、前記領域が、50nmから3μmの機能的厚さを有することを特徴とする、ハイブリッド構造に関する。
【0009】
ナノキャビティの領域は、その領域まで有効層の厚さを伝播する音波を拡散させるのに適しており、その領域は、一般にハイブリッド構造の1つまたは複数の界面で発生し、SAWデバイスの周波数特性に悪影響を及ぼす音波のスプリアス反射を低減またはさらには排除する。
【0010】
さらに、ナノキャビティの領域は有効層の厚さ内に形成され、第2の面の粗さに影響を及ぼさず、これは支持基板上の有効層の結合の信頼性を促進し向上させる。
【0011】
個別にまたは組み合わせて採用される本発明の有利な特徴によれば、
・ナノキャビティの領域は、有効層の第1の面より第2の面に近い、
・ナノキャビティの領域は、有効層の第2の面から50nmを超える距離に位置し、
・ナノキャビティは、ナノキャビティの領域における容積の10%から20%を占め
、
・ナノキャビティは、ほぼ球形または多面体形であり、
・ナノキャビティの領域は、有効層の第2の面に平行な平面内に延在し、
・ナノキャビティの領域は、有効層の第2の面に平行な平面において連続しており、
・ナノキャビティの領域は、有効層の第2の面に平行な平面において不連続であり、
・支持基板は、シリコン、ガラス、シリカ、サファイア、アルミナ、窒化アルミニウ
ム、および炭化ケイ素の中から選択された材料を含み、
・有効層は、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3
)、石英および酸化亜鉛(ZnO)の中から選択された圧電材料を含み、
・ハイブリッド構造は、有効層の第2の面と支持基板との間に配置された中間層を含
む。
・本発明はまた、上記のハイブリッド構造を備える表面弾性波デバイスにも関する。
音波の周波数は、有益には700MHzと3GHzの間にある。
・本発明は最後に、表面弾性波デバイス用のハイブリッド構造を製造する方法であっ
て、
a)第1の面と第2の面とを有する有効圧電層を設けるステップと、
b)有効層の熱膨張係数よりも低い熱膨張係数を有する支持基板を準備するステップと
、
c)支持基板上に有効層の第2面を結合するステップとを含む。
【0012】
本方法は、ガス種を有効層に導入してナノキャビティの領域を形成するステップを含むことを特徴とする。
【0013】
個別にまたは組み合わせて採用される本発明の有利な特徴によれば、
・ ステップa)で提供される有効層は、圧電ドナー基板内に含まれ、
・ 製造方法は、結合ステップの後で、ドナー基板を有効層を形成するため有効な厚さまで薄くするステップd)を含み、
・ ガス種導入ステップは、水素、ヘリウム、アルゴン、および他の希ガスの中から選択されたイオンの少なくとも1回の注入を含み、
・ 製造方法は、ガス種導入ステップの後に熱処理ステップを含み、
・ 有効層へのガス種の導入は、結合ステップの前に有効層の第2の面上で行われ、
・ 有効層へのガス種の導入は、結合ステップの後で有効層の第1の面上で行われ、
・ 有効層へのガス種の導入は、マスクを適用することによって局所的に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照する詳細な説明からより明らかになるであろう。添付の図面において、
【0015】
【
図1】
図1は、本発明によるハイブリッド構造を示す。
【
図2】
図2(a)から
図2(e)は、本発明によるハイブリッド構造の断面図(2a)および上面図(2(b)から2(e))である。
【
図3】
図3は、本発明によるハイブリッド構造を示す。
【
図4】
図4は、本発明による表面弾性波デバイスを示す。
【
図5】
図5(a)から
図5(e)は、第1の実施形態によるハイブリッド構造を製造する方法を示す。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、第2の実施形態によるハイブリッド構造を製造する方法を示す。
【
図7】
図7(a)から
図7(c)は、第3の実施形態によるハイブリッド構造を製造する方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
説明部分においては、図中の同じ参照番号を同じタイプの要素に使用することができる。
【0017】
図面は、明瞭にするために縮尺通りではない概略図である。特に、Z軸による層の厚さは、X軸およびY軸による横方向寸法に対して縮尺通りではない。同様に、ナノキャビティの寸法は、本発明の要素の層の厚さまたは他の横方向寸法に対して縮尺通りではない。
【0018】
本発明は、支持基板20上に配置された第1の自由面1および第2の面2を有する有効圧電層10を含む表面弾性波デバイス用のハイブリッド構造100に関する。有効層10は通常、ハイブリッド構造100に作製されるSAWデバイスのタイプにより1μmから50μmの有効な厚さを有する。有効層10は、有益には、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、石英および酸化亜鉛(ZnO)から選択される圧電材料を含む。
【0019】
ハイブリッド構造100の支持基板20は、少なくとも異方性材料の場合には結晶軸に沿って、有効層10の熱膨張係数よりも低い熱膨張係数を有する。それは、ケイ素、ガラス、シリカ、サファイア、アルミナ、窒化アルミニウムおよび炭化ケイ素の中から選択される材料を含み得る。
【0020】
明らかに、この材料のリストは網羅的なものではなく、他の基板または有効圧電層は用途の種類および必要とされる特性に従って選択されてもよい。
【0021】
ハイブリッド構造100はまた、
図1に示すように、有効層10内にナノキャビティ31の領域30を含む。
【0022】
ナノキャビティ31は、好ましくは、実質的に球形、多面体形または楕円形の形状を有する。この形状は、それが多方向反射を促進し、したがって音波の有効層10の厚さ内への伝播を促進し、有効層10と支持基板との間の界面などの平面表面での反射を防止するという点で有益である。ナノキャビティ31は、空であっても、ガスを含有していても、あるいはガスの混合物さえ含有していてもよい。
【0023】
ナノキャビティ31は典型的には1nmから500nmの最大サイズを有し、最大サイズは、例えば、それが球形である場合にはナノキャビティの直径であり、それがわずかに楕円形である場合には最大直径であると理解される。領域30内のナノキャビティ31の密度は、それらが前記領域30の体積の10%から20%を占めるのが好ましいようなものである。ナノキャビティ31のサイズおよび密度は、音波拡散効率に影響を及ぼし得る。したがって、ナノキャビティ31のサイズおよび密度パラメータは、ハイブリッド構造100に作製されるべきデバイス内を伝播する音波の周波数に従って調整されることができる。
【0024】
ナノキャビティ31の領域30は、有益には、
図1のZ軸に沿って、50nmから3ミクロンのいわゆる機能的厚さeを有する。機能的厚さeは、有益には、SAWデバイスに使用される音響信号の波長λと等しいかまたは実質的に小さくなるように選択される、例えば、λとλ/8の間に含まれる。他方、ナノキャビティの最大平均直径は、音響波の波長λ以下、典型的にはλ/10とλとの間に含まれるように選択されることが好ましい。この構成は、音波とナノキャビティ31の領域30との間の相互作用を促進する。特に、ハイブリッド構造の界面から通常反射する音波部分は、領域30によって有益に拡散され、その結果、スプリアス効果の原因となる音波の反射成分を強く制限し、さらには排除する。
【0025】
ナノキャビティ31の領域30は、好ましくは、有効層10の第2の面2の近傍にある。特に、その領域は、第2の面2から50nm程度の距離に配置されてもよい。その領域は、あるいは、数nmから有効な厚さの約30%の間の距離に配置されてもよい。例えば、10ミクロンの有効な厚さを有する有効層10の場合、領域30は、第2の面2から50nmから3ミクロンの距離に位置し得る。
【0026】
ナノキャビティの領域30は、有効層10の第2の面2に平行な平面内に有益に延在する。その領域は、有効層10内で連続的あってもよい、すなわちハイブリッド構造100全体にわたって存在し得る。この構成は、SAWデバイスをハイブリッド構造100上に位置決めするための十分な範囲を与える。
【0027】
代替として、
図2(a)に示すように、ナノキャビティ31の領域30は不連続とあり、有効層10のある領域において局所的に存在するだけとすることができる。非限定的な例として、上から見たときに、ナノキャビティ31の領域30は、ストリップパターン(
図2(b))、円形パターン(
図2(c))、円形パターンを補足する領域(
図2(d))、さらには正方形パターン(
図2(e))の形状をとることができる。ナノキャビティの領域30を含む領域の平面(x、y)内の寸法は、1から10ミクロンの間に含まれることが好ましい。
【0028】
ナノキャビティ31の領域30の不連続性は、長波長(約5ミクロン以上)を有する音波の場合に有益さを提供することができ、実際、ナノキャビティ31よりも大きな周期を有するより大きなパターンの存在は、音波と不連続領域30との相互作用を促進し、したがって波の拡散を改善することができる。
【0029】
別の実施形態によれば、ナノキャビティの局所領域30はSAWデバイスの電極が作製される領域にのみ存在することができ、音波は前記電極間を伝播する。
【0030】
本発明によるハイブリッド構造100は同様に、有効層10の第2の面2と支持基板20との間に配置された中間層40を含むことができる(
図3)。この中間層40は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、非晶質または多結晶シリコンなどの中から選択された材料で形成されている。中間層40は、ハイブリッド構造100に製造される将来のSAWデバイスにおける機能(電気絶縁、電荷キャリアの捕捉など)を有することができる。また、中間層は、特に結合界面の結合エネルギーを強化するために、有効層10と支持基板20との間の結合を容易にするために使用されることもできる。
【0031】
本発明によるハイブリッド構造100は、表面弾性波デバイス200の製造に適しており、その簡略図を
図4に示す。このようなデバイス200は特に、第1の面1に配置された金属電極50を含む。デバイス200の動作中に、1つまたは複数の音波が電極50間を伝播される。
【0032】
ハイブリッド構造100のナノキャビティ31の領域30は、有効層10の厚さ内を伝播する音波を前記領域30まで拡散させるのに適しており、その領域は一般に、ハイブリッド構造100の1つまたは複数の界面で発生し、SAWデバイス200の周波数特性に悪影響を及ぼす音波のスプリアス反射を低減またはさらには排除する。本発明によるハイブリッド構造100は、700MHzから3GHzの音波周波数を使用するSAWデバイス200の製造に特に適している。
【0033】
本発明はさらに、第1の面1と第2の面2とを有する有効圧電層10を設ける第1のステップを含む、表面弾性波デバイス200用のハイブリッド構造100の製造方法に関する。本製造方法は同様に、有効層10の熱膨張係数よりも低い熱膨張係数を有する支持基板20を提供するステップを含む。本製造方法はまた、支持基板20上に有効層10の第2の面2を結合するステップを含む。それ自体既知の通り、分子接着による結合、接着剤による結合、またはハイブリッド構造の製造に適した任意の他の種類の結合を含む、異なる結合技術を実施し得る。中間層40は、有効層10の第2の面2上、または支持基板20の結合されるべき面上、またはその両方のいずれかに、結合前に追加されることが可能である。この中間層40は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、さらには多結晶シリコンで形成されており、数ナノメートルから数ミクロンの厚さを有する。中間層40は、熱酸化または窒化処理、化学析出(PECVD、LPCVDなど)などのような、従来技術において知られている様々な技術により製造されることが可能である。
【0034】
本発明による製造方法はまた、有効層10にガス種を導入してナノキャビティ31の領域30を形成するステップを含む。このステップは、有効層10を支持基板上に結合するステップの前後に実行されることができる。ガス種導入ステップは、水素、ヘリウム、アルゴンおよび他の希ガスの中から選択されたイオンの少なくとも1回の注入を有益的に含む。有効層10にナノキャビティ31を形成することができる他のガスを使用することは明らかに可能である。
【0035】
当業者には一般的に知られているように、注入エネルギーは、ナノキャビティ31の領域30について求められる深さの関数として選択される。注入イオンの量は、ナノキャビティ31が領域30内の容積の10%から20%を占めることを有益的に可能にするサイズおよび密度を有するナノキャビティ31を有効層10の材料に形成可能にする範囲から選択される。注入イオンの量は同様に、有効層10の面1、2のいずれか一方に変形または他の損傷を生じさせる可能性がある量よりも少ない量が選択される。
【0036】
ナノキャビティ31の領域30の選択された機能的厚さによれば、注入プロファイルを広げ、それにより前記機能的厚さを広げるために、活性層(10)内に異なる注入エネルギーで、または1回の注入によって生成される実質的なガウス分布とは異なる特定の分布を形成することを目的として、1回または複数回のイオン注入ステップが行われ得る。
【0037】
一代替形態によれば、ガス種導入ステップは、有効層10内で局所的に実行されることができる。この目的のために、注入される有効層10の面上に堆積されるマスキング層であり、領域30を形成することが求められ、領域30が形成されなければならない領域を露出させる領域を保護するマスキング層を使用することが一般的である。したがって、
図2(a)から
図2(e)に示すようなハイブリッド構造100を得ることが可能である。
【0038】
製造方法は、有益的には、ガス種の導入に続く熱処理ステップを含むことができ、少なくとも部分的にガスを有効層10から除去し、特に材料中にナノキャビティ31を形成および/または安定化することを可能にする。この熱処理は、例えば、数分から数時間の範囲の期間中に200℃から900℃の温度で実施され得る。熱処理温度は、有効層10の圧電材料のキュリー温度より低くなるように選択されることが好ましい。
【0039】
製造方法の具体的な実施形態が、
図5、6、および7を参照して説明される。
【0040】
本発明の第1の実施形態によれば、方法の第1のステップは、有効層10を含む、圧電材料製のドナー基板11を提供することからなる(
図5(a))。ドナー基板11は、第1の面1’および第2の面1’を含む。例えば、ドナー基板はタンタル酸リチウム(LiTaO
3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、石英および酸化亜鉛(ZnO)の中から選択される圧電材料からなり得る。
【0041】
ドナー基板11の熱膨張率よりも低い熱膨張率を有する支持基板20は、方法の第2のステップにおいて提供される(
図5(b))。上記のように、ドナー基板は、例えば、ケイ素、ガラス、シリカ、サファイア、アルミナ、窒化アルミニウムおよび炭化ケイ素の中から選択される材料を含み得る。
【0042】
結合ステップの前に、
図5(c)に示すように、ガス種の導入ステップがドナー基板11の第2の面上で行われる。したがって、それは埋込み領域を作製し、その厚さおよび深さは、イオン注入のエネルギーおよび量、ならびにドナー基板11の性質に依存する。この埋込み領域は、ナノキャビティ31の領域30を形成する。注入が完全に第2の面2上で行われるか局所的に行われるかに応じて、領域30は第2の面2に平行な平面内で連続的または不連続的のいずれかとなる。
【0043】
ナノキャビティ31は、注入直後に存在するか、または後続の熱処理ステップによって形成され安定化される。この熱処理ステップはまた、本実施形態では、結合前にドナー基板11のガスの全部または一部を外側に拡散させるという利点を有し、これは特に接合界面での脱ガスを防ぐことができ、機械的強度および/または品質を低下させる可能性が高い。
【0044】
次いで、ドナー基板11の第2の面2を支持基板20上に結合するステップが行われる(
図5(d))。分子接着による結合は、表面を結合するために材料の追加を必要としないという点で有利な技術である。しかしながら、それは高品質の結合を製造するために良好な表面状態(良好な平坦度、低い粗さ、優れた清浄度)を必要とする。本発明によるナノキャビティ31の領域30の形成は、第2の面2の品質を低下させず、ガス種導入ステップは、埋め込み領域が結合される第2の面2に変形または損傷を生じさせないように定義される。
【0045】
接合界面を強化するために、接合ハイブリッド構造101は有益に熱処理を実施される。ドナー基板11と支持基板20の材料は、非常に異なる熱膨張係数を有することに留意されたい。したがって、適用される熱処理は、接合構造101が破壊または損傷を受けるであろう温度よりも低い温度に維持されなければならない。温度範囲は典型的には、数十度から500℃の間に含まれるであろう。
【0046】
本発明のこの第1の実施形態による製造方法はまた、いわゆる有効な厚さの有効層10を得て第1の自由面1(
図5(e))を形成するように、その第1の面1’によってドナー基板11を薄くするステップを含む。この有効な厚さは、ハイブリッド構造100に製造されることになる弾性波デバイスの種類に依存する。
【0047】
薄化ステップは、既知の研削、化学機械研磨(CMP)および/または化学エッチング(湿式または乾式)技術に基づくことができる。これらの方法は、例えば数ミクロンから数十ミクロン、そして最大で数百ミクロンの厚い有効層を形成するのに特に適している。薄い有効層10、すなわち典型的には2ミクロン未満の厚さを有する有効層を形成するために、Smart Cut(商標)法を含む他の層転写法が実施されてもよい。これは、第2の面2に対して有効な厚さよりも小さくない深さに脆化埋込み層を形成するための水素および/またはヘリウムの軽イオンのドナー基板11への注入に基づく。この注入ステップは、結合ステップの前であって、ナノキャビティ31の領域30の形成の前または後に実施されることができる。
【0048】
支持基板20上に結合した後、分離ステップによって、脆化した埋め込み層においてドナー基板11から薄い表面層(有効層10)を分離することが可能になる。熱処理および/または化学エッチングもしくは研磨による薄化を含み得る仕上げステップは、最終的に必要な結晶質および表面品質を有効層10に提供する。この方法は、薄い有効層の製造に特によく適している。
【0049】
本発明の第2の実施形態によれば、有効層10にガス種を導入するステップは結合ステップの後に実施される。支持基板20上に配置された有効層10を含むハイブリッド構造100’は、ガス種導入ステップを実施されて、ナノキャビティ31の領域30を形成する(
図6(a))。注入の場合、イオンのエネルギーは、領域30が第2の面2に近い,有効層10の下3分の1に形成されるように有益に選択される。
【0050】
領域30のナノキャビティ31を形成および/または安定化させるために、熱処理が実施され得る。この熱処理は、
図6(b)に示すハイブリッド構造100を構成する材料の熱膨張係数の差を考慮に入れなければならない。
【0051】
本発明の第3の実施形態によれば、方法の第1の供給ステップ中に、有効層10の第1の面1が一時的基板60上に配置される(
図7(a))。それはSmart Cut法によって有益に転写され、したがってその第2の面2上に断片化された埋め込み層の残留物を含む。
【0052】
中間層40は、支持基板20上への結合前に、有効層10の第2の面2上に堆積させることが好ましい(
図7(b))。
【0053】
次に、一時的基板60を、機械的または化学的に薄くすることによって、あるいは有効層10の第1の面1と一時的基板60との間の界面で除去することによって除去される。
図7(c)は、得られたハイブリッド構造100を示し、Smart Cut法中に形成された断片化埋込み層の残留物は、この実施形態では、有効層10の第2面2の近くにナノキャビティ31の領域30を作製することを可能にする。
【0054】
この第3の実施形態は、ハイブリッド構造100の材料の熱膨張係数(CTE)が、Smart Cut法を直接適用して薄い有効層10を支持基板20上に転写することを困難にする場合に有益である。この場合、有効層10は最初に一時的基板60(有効層10と同じCTE、または有効層10と支持基板20のCTEの中間のCTEを有することができる)上に形成され、次に支持基板20上に転写される。次に、Smart Cut法に必要な軽イオンの注入を使用して、ナノキャビティ31の領域30を形成し、任意の追加のステップを回避する。しかしながら、この第3の実施形態では、注入パラメータはSmart Cut法によって最初に決定されるので、領域30の機能的厚さおよびナノキャビティ31の特性(寸法、密度など)にはほとんど自由度がない。
【0055】
(実施例1)
LiNbO3からなるドナー基板11の第2の面2に、180keVのエネルギーと3.5×1016He/cm2の線量を有するヘリウムイオンが注入される。注入ステップ中のドナー基板11の汚染を制限するために、注入前に、例えばSiO2からなる保護層を第2の面2上に有益に堆積させる。
【0056】
そのような注入は典型的には、第2の面2から350nm程度の距離で、700nm程度の機能的厚さを有するナノキャビティ31の領域30を形成する。
【0057】
保護層は化学エッチングによって除去される。
【0058】
700℃で2時間の熱処理を行い、ナノキャビティ31を安定化させ、ドナー基板11からヘリウムの全部または一部を除去する。
【0059】
例えば、それぞれ350μmおよび625μmの厚さを有するシリコンで形成されたドナー基板11および支持基板20は、その後、分子接着によって結合前に洗浄シーケンスを経て、結合ハイブリッド構造101を形成する。ドナー基板11の面2は非常に高品質であり、直接接合に適合し、領域30を形成するためのガスの注入は表面の変形または損傷を生じない。
【0060】
有効な厚さ20μmの有効層10が得られるまで、ドナー基板11の第1の面1’に研削と研磨の連続ステップが実施される。このようにして、本発明によるハイブリッド構造100が形成される。
【0061】
この構造は、特に有効層10の第1の面1上のくし形金属電極50の形成を含む表面弾性波デバイス200の製造に適している。本発明によるナノキャビティ31の領域30の存在は、有効層10と支持基板20との間の界面における音波のスプリアス反射を減衰させるか、さらには排除することが可能であり、前記界面に向かって伝搬する音波は、多方向に反射され、したがって領域30を形成する複数のナノキャビティ31によって拡散される。
【0062】
(実施例2)
LiTaO
3からなるドナー基板11の第2の面2上にマスキング層が形成され、その結果、マスキング領域および露出領域が得られる。露出領域は、例えば、
図2(c)で上方から見たように図示される通り、マスキング領域によって互いに分離された円形ブロックを形成する。露光領域は5μmの直径を有し、2つの隣接する露光領域間の間隔も5μmである。
【0063】
次に、ドナー基板11は、第2の面2上に、ヘリウムイオンが、140keV、160keV、180keV、および各エネルギーレベルに対して2.1016He/cm2の照射量のエネルギーレベルで連続的に注入される。
【0064】
マスキング層は化学エッチングによって除去される。
【0065】
ナノキャビティ31を安定化させ、ドナー基板11からガスの全部または一部を除去するために、580℃で2時間の熱処理が行われる。
【0066】
次いで、ドナー基板11とシリコン製の支持基板20とを分子接着によって結合する前に洗浄シーケンスを経て、結合ハイブリッド構造101を形成する。ドナー基板11の面2は、直接結合に適合する程非常に高品質であり、領域30を形成するためのガスの注入は、いかなる表面変形や損傷も生じない。
【0067】
有効な厚さ20ミクロンの有効層10が得られるまで、ドナー基板11の第1の面1’に研削と研磨の連続ステップが実施される。このようにして、本発明によるハイブリッド構造100が形成される。
【0068】
この構造は、特に有効層10の第1の面1上のくし形金属電極50の形成を含む表面弾性波デバイス200の製造に適している。本発明によるナノキャビティ31の領域30の存在は、有効層10と支持基板20との間の界面における音波のスプリアス反射を減衰させるか、さらには排除することが可能である。前記界面に向かって伝搬する音波は、多方向に反射され、したがって領域30を形成する複数のナノキャビティ31によって拡散される。