(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】液体培地におけるプロセスパラメータを検出するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20220412BHJP
G01N 21/03 20060101ALI20220412BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220412BHJP
C12M 1/02 20060101ALI20220412BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N21/03 Z
C12Q1/02
C12M1/02 A
C12M1/34 B
(21)【出願番号】P 2019511940
(86)(22)【出願日】2017-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2017070774
(87)【国際公開番号】W WO2018041634
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】102016116377.5
(32)【優先日】2016-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506329971
【氏名又は名称】ライニシュ-ヴェストフェーリシェ・テヒニシェ・ホーホシューレ・(エルヴェーテーハー)・アーヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(72)【発明者】
【氏名】ビュクス・ヨッヘン
(72)【発明者】
【氏名】ラドナー・トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ワンドレイ・ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】パケ-デュラン・オリヴァー
(72)【発明者】
【氏名】ヒッツマン・ベルント
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-530270(JP,A)
【文献】特開2010-185719(JP,A)
【文献】特表2003-522578(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0115648(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第10214517(DE,A1)
【文献】Jong Il Rhee,Application of principal component analysis and self-organizing map to the analysis of 2D fluorescence spectra and the monitoring of fermentation processes,Biotechnology and Bioprocess Engineering,2006年,Vol.11,pp.432-441,URL:https://link.springer.com/article/10.1007/BF02932311
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
G01J 3/00-3/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、全てのマイクロリアクターにおける培養が終了するまで、継続してオービタルシェーカーを用いて攪拌される少なくとも一つのマイクロタイタープレートの複数のマイクロリアクター内の液体培地において、二次元蛍光分光法を用いてプロセスパラメータを特定するための方法であって、液体培地の二次元蛍光スペクトルは、培養中に、マイクロタイタープレートの撹拌運動から切り離された少なくとも一つの測定装置を用いて、以下のステップにより撮影され、すなわち、
1.1 単色励起光であって、当該単色励起光の励起波長がステップ式に変化させられる単色励起光を生じさせるステップと、
1.2 励起光をマイクロリアクターのうちの一つにおける液体培地に異なる励起波長で順番に導入するステップと、
1.3 放射スペクトルをマイクロリアクター内の液体培地から光学素子へと伝送し、光学素子は個々の励起波長について放射スペクトルを異なる波長に分解し、感光センサを備えるセンサマトリックス上に展開された状態で結像させ
、これにより個々の波長に関してセンサマトリックス上にバンドが生成されるステップと、
1.4 センサマトリックスを用いて、個々の放射スペクトルについて異なる波長の強度を検出することにより、二次元蛍光スペクトルを撮影するステップと、
1.5 ステップ1.1からステップ1.4を用いて、少なくとも一つのマイクロタイタープレートのさらなるマイクロリアクター内の液体培地の二次元蛍光スペクトルを撮影するステップとによって、
撮影される、方法。
【請求項2】
励起光の導入と放射スペクトルの伝送は、個々のマイクロリアクターの下面の励起光および放射スペクトルを透過する面を介して行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
励起光は、光源の入射光から異なる波長を分光するための自動周波数調整式モノクロメータを用いて生じさせられることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
励起光をモノクロメータから液体培地に伝送することと、放射スペクトルを液体培地から光学素子に伝送することは、光学カップラーを含む光線ガイドシステムを用いて行われ、光学カップラーは、励起光を液体培地に導入し且つ放射スペクトルを光線ガイドシステムに入射するために、液体培地を含むマイクロリアクターに対して配向されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
二次元蛍光スペクトルを撮影する間、光学カップラーは移動されず、それにより撹拌されているマイクロリアクターが光学カップラーに対して移動することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
光学カップラーは、二次元蛍光スペクトルの撮影に続いて、位置決めユニットにより、マイクロタイタープレートのマイクロリアクター間で移動されることを特徴とする請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
オービタルシェーカーの撹拌直径は、蛍光スペクトルの撮影の間に励起光がマイクロリアクターのうちの一のマイクロリアクターの液体培地のみに導入され、当該液体培地の放射スペクトルが光学カップラーのみに導入されるように調整されることを特徴とする請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
異なるマイクロリアクター内の液体培地の二次元蛍光スペクトルは、複数の測定装置を用いて同時に撮影されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
複数の測定装置の光学カップラーは、共通の位置決めユニットを用いて、マイクロタイタープレートのマイクロリアクター同士の間で移動可能であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
オービタルシェーカーの撹拌直径は、オービタルシェーカーが一回転する間に、複数のマイクロリアクターが次々と測定装置の光学カップラーの上を回るように調整され、撮影された蛍光スペクトルは、光学カップラーの上を回って行くマイクロリアクターに対応付けされることを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
励起光の導入は、オービタルシェーカーの位置に応じて閉ざされることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
オービタルシェーカーの位置は、位置センサを用いて特定されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
放射スペクトルにおける励起波長は遮蔽されることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
光学素子の位置を意図に従って変化させることにより、放射スペクトルの領域であって、その波長が励起波長よりも小さいか、励起波長と等しい放射スペクトルの領域
において、光線は、センサマトリックス
からそらされることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
励起波長は、光学素子とセンサマトリックスとの間で移動可能な絞りを用いて遮蔽されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
励起光は液体培地に導入される前に平行化されるか、集束され、および/または放射スペクトルは集束されることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
液体培地に入射する励起光の後方散乱は、測定装置の別個の感光センサを用いて検出されることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
励起光および放射スペクトルは、光線ガイドシステムにおいて別個の光ファイバーを介して、あるいは励起光と放射スペクトルに対して別個のファイバーを備える一つのY型光ファイバーを介して伝送されることを特徴とする請求項4から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
光線ガイドシステムにおいて、
- 励起光は半透明の鏡により偏向され、一つだけのファイバーを備える光ファイバーを介して液体培地に導入され、
- 放射スペクトルは光ファイバーおよび半透明の鏡を通過して、光学素子に伝送されることを特徴とする請求項4から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
培養中にマイクロリアクターの一つから、ピペッティングロボットを用いて異なる時点において、自動的に液体培地の試料が取り出され、これらの試料が特定のプロセスパラメータに関してオフラインで分析されるか、或いは、ピペッティングロボットを用いて異なる時点において、液体培地に物質および/または液体が自動的に添加されるか、の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
オフラインで分析された試料のプロセスパラメータと、異なる試料取り出し時点において撮影された二次元蛍光スペクトルは、計量化学的モデルを作成するために用いられることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
- 複数のマイクロリアクターにおいて、液体培地の培養は一致した条件下で進行し、
- 前記液体培地のそれぞれにおいて、二次元蛍光スペクトルは時間をずらして撮影され、
- 前記複数のマイクロリアクターにおいてそれぞれ時間をずらして撮影された二次元蛍光スペクトルは統合され、それにより前記マイクロリアクターから得られる蛍光スペクトルが一つの時間ベクトルにわたって検出されることを特徴とする請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
複数のマイクロリアクターにおいて、一致した条件下で液体培地における培養が進行し、検出すべきプロセスパラメータの初期値は、マイクロリアクター内の液体培地において異なっており、撮影された二次元蛍光スペクトルに対して異なる初期値が及ぼす影響は、計量化学的モデルを開発するために用いられることを特徴とする請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
複数のマイクロリアクターにおいて、一致した条件下で液体培地における培養が進行し、異なる時点で前記マイクロリアクターのそれぞれの液体培地に、物質および/または液体が添加され、当該物質または液体は液体培地において検出すべきプロセスパラメータを規定どおりに変更し、撮影された二次元蛍光スペクトルに対する規定どおりの変更が及ぼす影響は、計量化学的モデルを開発するために用いられることを特徴とする請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
- 液体培地の一つにおけるプロセスパラメータの変化の基礎となる関数関係は機構的数学的モデルによって記述され、
- 培養の開始時に、数学的モデルのためのモデルパラメータが想定され、
- 数学的モデルに基づいて算出されたプロセスパラメータは、当該液体培地の培養中の異なる時点において撮影された二次元蛍光スペクトルと比較され、
- その比較に応じてモデルパラメータが修正される、
ことを特徴とする請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
計量化学的モデルを用い、少なくとも一つのプロセスパラメータが、液体培地について撮影された二次元蛍光スペクトルに基づいて算出されることを特徴とする請求項21から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
攪拌されるマイクロタイタープレートの複数のマイクロリアクター内の液体培地において、二次元蛍光分光法を用いてプロセスパラメータを検出するための装置であって、
- オービタルシェーカーと接続されたマイクロリアクタープラットフォームであって、当該マイクロリアクタープラットフォーム上に、複数のマイクロリアクターを備える少なくとも一つのマイクロタイタープレートが設けられているマイクロリアクタープラットフォームと、
- 光源と、
- 光源の入射光から異なる波長を分光するための自動周波数調整式モノクロメータであって、単色励起光を生じさせるように構成されており、当該単色励起光の励起波長はステップ式に変化させられる自動周波数調整式モノクロメータと、
- 光学カップラーを含むとともに、励起光をモノクロメータから液体培地に伝送し、放射スペクトルを液体培地から光学素子に伝送するように構成されている光線ガイドシステムであって、
- 光学カップラーは励起光を液体培地に導入し、放射スペクトルを光線ガイドシステムに入射するために、マイクロリアクターの電磁線を透過する部分に対して配向されており、
- 光学素子は、個々の励起波長について、放射スペクトルを異なる波長に分解し、展開する、
光線ガイドシステムと、
- 感光センサを備えるセンサマトリックスであって、光学素子が展開された放射スペクトルをセンサマトリックス上に結像させ
、これにより個々の波長に関してセンサマトリックス上にバンドが生成されるように設けられているセンサマトリックスであり、
- センサマトリックスは、個々の放射スペクトルについて、異なる波長の強度を検出することにより、二次元蛍光スペクトルを撮影するように構成されている、
センサマトリックスと、
を含む装置。
【請求項28】
光学カップラーは、位置決めユニットにより、マイクロタイタープレートのマイクロリアクター同士の間を移動可能であることを特徴とする請求項27に記載の装置。
【請求項29】
請求項27または28に記載の装置であって、
- 複数の測定装置を有し、当該測定装置は光源と、自動周波数調整式モノクロメータと、光線ガイドシステムと、光学素子およびセンサマトリックスと、を有し、
- 異なるマイクロリアクター内の液体培地の二次元蛍光スペクトルは、複数の測定装置を用いて同時に検出されることを特徴とする装置。
【請求項30】
複数の測定装置の光学カップラーは、共通の位置決めユニットを用いて、マイクロタイタープレートのマイクロリアクター同士の間で移動可能であることを特徴とする請求項29に記載の装置。
【請求項31】
請求項27から30のいずれか一項に記載の装置であって、励起光の光路内に設けられたシャッターを有し、当該シャッターはオービタルシェーカーの位置に応じて励起光を閉ざすように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項32】
オービタルシェーカーにオービタルシェーカーの位置を検出するための位置センサが設けられており、制御部は、位置センサの検出された位置信号を処理するとともに、シャッターを用いて位置信号に応じて励起光を遮るように構成されていることを特徴とする請求項31に記載の装置。
【請求項33】
光学素子とセンサマトリックスとの間に、励起波長を遮蔽するための移動可能な絞りが設けられていることを特徴とする請求項27から32のいずれか一項に記載の装置。
【請求項34】
カップラーに、励起光を平行化するか、あるいは集束するためのレンズが設けられていることを特徴とする請求項27から33のいずれか一項に記載の装置。
【請求項35】
請求項27から34のいずれか一項に記載の装置であって、液体培地に入射する励起光の後方散乱を検出するように構成されている感光センサを有していることを特徴とする装置。
【請求項36】
光線ガイドシステムは、別個の光ファイバー、あるいは別個のファイバーを備える一つのY型光ファイバーを有していることを特徴とする請求項27から35のいずれか一項に記載の装置。
【請求項37】
光線ガイドシステムは光学素子として、半透明の鏡と、単独のファイバーを備える光ファイバーとを有しており、光学素子は、励起光が半透明の鏡により偏向され、光ファイバーを介して微生物の液体培地に導入され、放射スペクトルが、光ファイバーおよび半透明の鏡を通過して光学素子に伝送されるように互いに配置されていることを特徴とする請求項27から35のいずれか一項に記載の装置。
【請求項38】
請求項27から37のいずれか一項に記載の装置であって、培養中の異なる時点において、一のマイクロリアクターから自動的に微生物の液体培地の試料を取り出すために、あるいは物質および/または液体を添加するように構成されているピペッティングロボットを含むことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも、全てのマイクロリアクターにおける反応が終了するまで継続してオービタルシェーカーにより攪拌される少なくとも一つのマイクロタイタープレートの複数のマイクロリアクター内の液体培地において、二次元蛍光分光法を用いてプロセスパラメータを検出するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも、全てのマイクロリアクターにおける反応が終了するまで継続してオービタルシェーカーにより攪拌されるマイクロタイタープレートの複数のマイクロリアクター内の微生物培地におけるプロセスパラメータを検出するための方法及び装置は、特許文献1から知られている。既知の方法は特に、全てのマイクロリアクターにおける反応が終了するまで中断されること無く攪拌される微生物培地においてプロセスパラメータを自動的に検出するのに適している。プロセスパラメータとして例えば、蛍光タンパク質又はアミノ酸の蛍光および後方散乱光が、バイオマス濃度を表す大きさとして検知される。
【0003】
特許文献2から知られている方法を実施するための装置は、オービタルシェーカーに接続されたマイクロリアクタープラットフォームを有し、マイクロリアクタープラットフォーム上に、透明な底部を備えるマイクロタイタープレートが設けられており、マイクロタイタープレートは全てのマイクロリアクターにおける反応が終了するまで、継続してオービタル方式で攪拌される。プロセスパラメータの検出は、センサー光学系を用いて行われ、センサー光学系は、感光センサと、光源と、少なくとも一つの光ファイバーを含む。光ファイバーの一端部は、XY位置決めユニットを用いてマイクロタイタープレートの下側をマイクロリアクターからマイクロリアクターへと移動させられる。好ましくはY型に形成されている光ファイバーの端部に光源の光が入射される一方、Y型光ファイバーの他方のファイバー束には光センサが取り付けられている。光ファイバーは、プロセスパラメータが検出される間は動かされないので、撹拌されているマイクロリアクターが光ファイバーに対して移動することになる。マイクロリアクターと、測定のために定置された光ファイバーとの間に生じる相対移動は、電磁線がマイクロリアクターのそれぞれ一つにだけ導入され、電磁線(励起光)が導入されたことで当該マイクロリアクターから放出される放射線(放射)が専らセンサー光学系の光センサーによって検出される限りは問題が無い。導入される電磁線は、特定の励起波長で導入される。したがって既知の方法で検出できるのは、導入された電磁線に対する蛍光活性または後方散乱を示す物質のプロセスパラメータのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】欧州特許第1730494号明細書
【文献】欧州特許第1730494号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術を前提として、それ自体が蛍光活性を有していない物質のプロセスパラメータも検出できる方法を創出することを課題とする。当該方法はまた、比較的少ないコストと短い時間で液体培地の生理学的状態および物質移動速度の特定を可能にすべきものである。最終的に当該方法を実施するための装置が示されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題の解決は、撹拌されているマイクロタイタープレートのマイクロリアクター内の、特に異なる多数の液体培地において、二次元蛍光スペクトルを撮影するという考え方に基づいている。
【0007】
上記の課題は、請求項1の特徴を備える方法と、請求項27の特徴を備える装置により、個々に解決される。
【0008】
従来の蛍光分光器を用いると、個々の二次元蛍光スペクトルの撮影には、励起光の波長領域が250nmから730nmの場合、10nmの励起ステップ幅で25分までの時間がかかる。
【0009】
48個のマイクロリアクター(ウェル)を含むマイクロタイタープレートでは、個々のマイクロリアクターについて、20.2時間ごとに一回しか測定、すなわち二次元蛍光スペクトルの検出を行えないと想定される。マイクロタイタープレートにおける並行式培養をオンラインで監視するには、この時間間隔は明らかに長すぎる。
【0010】
本発明に係る方法および当該方法を実施するための装置を用いると、励起範囲が250nmから730nmで、励起ステップ幅が10nmのとき、完全な二次元蛍光スペクトルの撮影は、マイクロリアクターごとに24秒にまで減らすことができる。したがって本発明を用いると、48個のマイクロリアクターを含むマイクロタイタープレートを30分で完全に測定することができる。
【0011】
以下の表において、48ウェルマイクロタイタープレートおよび96ウェルマイクロタイタープレートのための二次元蛍光スペクトルに対して必要とされる撮影時間を、従来技術と本願発明との間で比較対照する。
【0012】
【0013】
本発明の有利な構成では、自動周波数調整式モノクロメータを用いて、光源の入射光から異なる波長を分光させるために、励起波長がステップ式に変化させられる単色励起光が生成される。励起光を個々のマイクロリアクターへ伝送および導入すること、および放射スペクトルをマイクロリアクターから光学素子へ伝送することは、光線ガイドシステムを用いて行われる。光線ガイドシステムは光学カップラーと、少なくとも一つの光ファイバー、および場合により例えば半透明の鏡のようなさらなる光学素子を含む。励起光をマイクロリアクターの液体培地に導入するとともに、放射スペクトルを液体培地から光線ガイドシステムに入射するように構成されている光学カップラーは、例えば、マイクロリアクターに合わせられた(位置・姿勢が調整された)一つまたは複数の光ファイバーの端部によって形成することができる。代替的にレンズまたはレンズアセンブリが、光学カップラーを形成してもよい。二次元蛍光スペクトルを撮影する間、カップラーは移動されないので、光学カップラーに対してマイクロリアクターが移動することになる。二次元蛍光スペクトルが検出された後、光学カップラーは他のマイクロリアクターへと移動される。撹拌している間の規則的な液体循環を確保するために、マイクロリアクターは好ましくは流れを大きく乱すものがないか、あるいは円形断面を有している。
【0014】
並行して行われる培養の数を増やすために、マイクロリアクタープラットフォーム上に複数のマイクロタイタープレートを固定することができ、全てのマイクロタイタープレートのマイクロリアクターは、測定装置を用いて遂次的に測定することができる。測定装置のカップラーは、XY位置決めユニットを用いて、単独のマイクロタイタープレートの下でマイクロリアクターからマイクロリアクターへと移動されるだけでなく、複数のマイクロタイタープレートの下で移動される。例えば48個のマイクロリアクターを備える4個のマイクロタイタープレートが、マイクロリアクタープラットフォーム上に固定されると、全体で192の並行して行われる培養を実施することができる。
【0015】
しかしながら同一のマイクロリアクターの二つの測定の間の時間間隔は、並行して行われる培養の数と共に増大する。したがって測定頻度を高めるために、本発明の一態様では、複数の測定装置が設けられ、これら複数の測定装置は、異なるマイクロリアクターにおいて二次元蛍光スペクトルを同時に撮影することを可能にする。複数の測定装置の光学カップラーが、位置決めユニットにより、マイクロタイタープレートのマイクロリアクター同士の間を移動させられるとき、異なるマイクロリアクターに一斉に到着し、マイクロタイタープレートの下において個々のカップラーの位置調整を整合性をもって実施することができる。本発明のこの構成において二次元蛍光スペクトルは、マイクロタイタープレートの複数のマイクロリアクターにおいて、同時に撮影することができる。
【0016】
一つのマイクロタイタープレート全体の液体培地を測定するための時間を短縮するためのさらなる可能性は、カップラーを新たに位置決めすることなく、複数のマイクロリアクターを測定するというものである。この目的のために、オービタルシェーカーの撹拌直径は、オービタルシェーカーが一回転する間に、複数のマイクロリアクターが次々と光学カップラーの上を回ってゆくように調整され、撮影された蛍光スペクトルは、光学カップラーの上を回って行くマイクロリアクターに対応付けられる。
【0017】
測定結果を向上させるために本発明の有利な一態様では、測定の時点と撹拌機位置との同期が取られる。マイクロリアクターにおける液体培地の位置は、撹拌機位置に依存している。この同期を行うために、励起光の導入がオービタルシェーカーの位置に応じて閉ざされる。この閉鎖は、特にシャッターを用いて行われる。シャッターは、励起光の光路を遮るための、光を透過せず、機械式に可動な素子である。しかしながら代替的に励起光を生じさせるための光源を、撹拌機位置に応じてクロック制御することもできる。オービタルシェーカーの位置は位置センサを用いて特定される。位置を特定するために例えば、ホールセンサおよび、オービタルシェーカーの軸に取り付けられた磁石が考えられる。代替的に光電スイッチ(Lichtschranke)を用いることができる。オービタルシェーカーの位置と同期して励起光が導入されることの主な利点は、マイクロリアクターの明瞭に画定された領域、例えば撹拌運動の間に形成される液体培地の液体鎌状部を測定できることである。
【0018】
本発明に係る測定装置を用いて二次元蛍光スペクトルを検出する際、測定ごとに必然的に、反射された励起光がセンサマトリックスにより撮影される。特に液体培地の細胞密度が高い場合、導入された励起光の後方散乱は大きくなるおそれがあり、それによりセンサマトリックスの個々のセンサは過負荷になるおそれがある。この過負荷により、マトリックスの隣接するセンサにおいて測定誤差が生じかねない。したがって本発明の有利な一態様では、放射スペクトルにおける励起波長は遮蔽される。連続的に変化する励起波長において好ましくは、光学素子の位置を意図したとおりに目標を定めて変化させることにより、放射スペクトルの領域であって、その波長が励起波長よりも小さいか、励起波長と等しい放射スペクトルの領域は、センサマトリックスを迂回させることができる。代替的に励起波長は、光学素子とセンサマトリックスとの間で移動可能な絞りを用いて遮蔽することができる。本発明により行われる励起波長の遮蔽により、励起光の強度をより大きくすることができる。励起強度がより大きくなることにより、より強い蛍光信号を有する放射スペクトルになり、最終的に測定値(二次元蛍光スペクトル)が改善する。
【0019】
励起光のエネルギー密度を高めるために、有利な一態様では、励起光は液体培地に導入される前に平行化されるか、あるいは集束される。励起光を平行化するためのレンズとして、特にコリメータが考えられる。励起光のエネルギーレベルが比較的大きいことは、オービタルシェーカーが一回転する間に、カップラーの上を回って行く複数のマイクロリアクターにおいて測定装置を用いて二次元蛍光スペクトルを撮影すべき場合に特に有利である。加えて光線ガイドシステム、特に光ファイバーに入射すべき放射スペクトルを集束させることができる。
【0020】
本発明の有利な一態様において、液体培地に入射される励起光の後方散乱は、測定装置の別個の感光センサを用いて検出される。後方散乱から、液体培地の培養液における反応中の微生物の成長挙動または形態に関する情報が得られる。光散乱は好ましくは、さらなる光ファイバーを介して感光センサに伝送される。
【0021】
励起光を導入するための光ファイバーと、後方散乱を伝送するためのさらなる光ファイバーとは、両方の光ファイバーの焦点が一点にあるように、光線ガイドシステムのカップラー内に互いに設置される。この構成は、後方散乱を測定するためにカップラーを新たに位置や姿勢を合わせる調整を行う必要がなく、それにより両方の測定をより短い時間間隔で実施できるという利点を有する。光ファイバーは代替的に、可動式の光学素子を用いてセンサマトリックスを迂回させられる散乱光、または絞りにより反射される散乱光が、光ファイバーの一端部に入射されるように設けられていてよい。
【0022】
光線ガイドシステムは、二つの別個の光ファイバー、すなわち励起光のための一つの光ファイバーおよび放射スペクトルための一つの光ファイバーにより、あるいは励起光と放射スペクトルに対して別個のファイバーを備える一つのY型光ファイバーにより構成されていてよい。光線ガイドシステムの代替的な構成において、励起光は半透明の鏡により偏向され、単独のファイバーを備える光ファイバーを介して液体培地に導入される。放射スペクトルは、光線ガイドシステムにおいて光ファイバーおよび半透明の鏡を通過して光学素子に伝送され、それにより放射スペクトルはセンサマトリックス上に展開される。励起光と放射スペクトルは、Y型光ファイバーを備える光線ガイドシステムに対して、一つだけのファイバーを介してガイドされるので、一つの光ファイバーの半径は、二つのファイバーを備えるY型光ファイバーに対して全体では低減することができ、それにより励起光線はより良好に集束することができる。隣接するマイクロリアクターとのクロストークは回避することができる。
【0023】
ピペッティングロボットを装置に統合することにより、反応の間に個々のマイクロリアクターから、ピペッティングロボットを用いて異なる時点に自動的に液体培地の試料を取り出すことができ、これらの試料は特定のプロセスパラメータに関してオフラインで分析することができる。さらに物質添加も可能である。
【0024】
方法を較正するために、試料取り出しの異なる時点において撮影された二次元蛍光スペクトルから、わずかな時間的コストにより計量化学的モデルを作成することができる。計量化学的モデル作成に際して、オフラインで分析されたプロセスパラメータと、個々のマイクロリアクター内の液体培地の、試料取り出しの異なる時点において撮影された二次元蛍光スペクトルとの間の数学的および/または統計学的関連が導出される。続いて計量化学的モデルにより、二次元蛍光スペクトルから液体培地のプロセスパラメータを特定することができる。
【0025】
複数のマイクロリアクターにおいて一致した条件下で液体培地の反応が並行して進行する場合、これらのマイクロリアクターにおいて時間をずらして撮影された二次元蛍光スペクトルが、時間ベクトルを介して検出され評価されることにより、データ密度を高めることができる。
【0026】
方法を較正するために、個々の試料のオフライン分析を完全に省略できるように、本発明の一態様において、複数のマイクロリアクターにおいて一致した条件下で液体培地における反応が進行し、検出すべきプロセスパラメータ、例えば栄養素または(副)生成物の濃度の初期値は、複数のマイクロリアクターにおいて異なっていることが提案される。撮影された二次元蛍光スペクトルに対して異なる初期値が及ぼす影響は、計量化学的モデルを開発するために用いられる。
【0027】
液体培地の試料のオフライン分析を行わずに、計量化学的モデルを作成するためのさらなる可能性は、複数のマイクロリアクターにおいて一致した条件下で、液体培地における反応が進行し、異なる時点で上記のマイクロリアクターのそれぞれにおいて、液体培地に分析物が添加され、分析物は培地において検出すべきプロセスパラメータを規定通りに変更し、それにより例えば既知の濃度の急激な変化が生じるというものである。これにより異なるマイクロリアクターにおける反応は、もはや一致した条件下で進行しなくなる。プロセスパラメータの規定された変化が、撮影された個々の液体培地の二次元蛍光スペクトルに及ぼす影響はその後、計量化学的モデルを作成するために用いられる。
【0028】
較正のためにプロセスパラメータのオフライン分析を省略するためのさらなる可能性は、液体培地の一つにおけるプロセスパラメータの変化の基礎となる関数関係が機構的数学的モデルによって記述されることである。反応の開始時に、機構的数学的モデルのためのモデルパラメータが仮定されるが、これは間違っていても構わない。数学的モデルに基づいて算出されたプロセスパラメータは、反応の間の異なる時点において撮影された二次元蛍光スペクトルと比較され、モデルパラメータは比較に応じて継続的に修正される。これにより、二次元蛍光スペクトルが測定されるたびにプロセスはより良好に表すことができる。較正の終了時に、計量化学的モデルのほかに、プロセスを良好に説明する機構的数学的モデルが得られる。
【0029】
本発明に係る方法により、撮影された二次元蛍光スペクトルに基づき、計量化学的モデルを用いて、個々の物質の濃度だけでなく、呼吸活動、例えば酸素移動速度(OTR)も算出される。通常は呼吸活動を特定するために必要となる機器に関するコストは必要なく、呼吸活動は、較正の途上で前もって算出された計量化学的モデルを基礎として、それぞれの培地において撮影された二次元蛍光スペクトルから直接的に特定することができる。
【0030】
以下に、本発明に係る方法および方法を実施するための装置を、図に基づいてより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】撹拌されているマイクロタイタープレートの複数のマイクロリアクター内の液体培地において、二次元蛍光分光法(測定)を用いてプロセスパラメータを特定するための本発明に係る装置の概略的な構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す装置において二次元蛍光スペクトルを撮影するための光学系を概略的に表示する図である。
【
図3A】マイクロリアクター内部の測定セグメントをそれぞれ示す二つの表示である。
【
図3B】マイクロリアクター内部の測定セグメントをそれぞれ示す二つの表示である。
【
図4A】
図1に示す装置の光線ガイドシステムのカップラーを新たに位置決めすることなく、複数のマイクロリアクター内で行われる測定を示す図である。
【
図4B】
図1に示す装置の光線ガイドシステムのカップラーを新たに位置決めすることなく、複数のマイクロリアクター内で行われる測定を示す図である。
【
図4C】
図1に示す装置の光線ガイドシステムのカップラーを新たに位置決めすることなく、複数のマイクロリアクター内で行われる測定を示す図である。
【
図5A】後方散乱を遮蔽するように構成されている
図2に示す光学系の二つの実施の形態を示す図である。
【
図5B】後方散乱を遮蔽するように構成されている
図2に示す光学系の二つの実施の形態を示す図である。
【
図6A】測定感度を向上させるために光学的に作用する部材を使用することを示す図である。
【
図6B】測定感度を向上させるために光学的に作用する部材を使用することを示す図である。
【
図7】マイクロタイタープレートの下で放射スペクトルと後方散乱を同時に検出するための光ファイバーの構成体を概略的に示す図である。
【
図8】異なる光線ガイドシステムを備える
図1に示す装置を概略的に表示する図である。
【
図9】複数のマイクロリアクター内の液体培地において、二次元蛍光分光法を用いてプロセスパラメータを同時に特定するための本発明に係る装置の概略的な構成を示す図であって、マイクロリアクターは異なるマイクロタイタープレートに設けられていることを示す図である。
【
図10A】マイクロタイタープレート上でそれぞれ単独の液体培地を測定すること(A)と、マイクロタイタープレート上で異なるマイクロリアクター内の複数の液体培地を同時に測定すること(B)を対照させて示す図である。
【
図10B】マイクロタイタープレート上でそれぞれ単独の液体培地を測定すること(A)と、マイクロタイタープレート上で異なるマイクロリアクター内の複数の液体培地を同時に測定すること(B)を対照させて示す図である。
【
図11】異なるマイクロリアクターにおける同一反応の測定のデータ密度を高めることを説明するための概略的な表示である。
【
図12】異なるマイクロリアクターにおける同一反応の測定のデータ密度を高めることを説明するためのさらなる概略的な表示であって、空のマイクロリアクターにおける測定は省略されている表示である。
【
図13】個々の撹拌タンク式発酵器において二次元蛍光スペクトルに基づいて計量化学的モデルを作成するための従来のやり方(A)と、本発明による計量化学的モデルを作成するためのやり方(B)を対照させて示す図である。
【
図14】培養の異なる時点において関与する分析物を添加することにより、連続的に撹拌されているマイクロタイタープレートにおいて、二次元蛍光スペクトルに基づいて計量化学的モデルを作成することを説明するための図である。
【
図15】マイクロタイタープレートにおいて、初期グルコース濃度が8gL
-1で初期ソルビトール濃度が1.5gL
-1である最小培地においてEscherichia coliを培養する間に撮影された二次元蛍光スペクトルを示す図である。
【
図16】
図15に示す培養のグルコース濃度、ソルビトール濃度、バイオマス濃度およびpH値の経過を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、撹拌されているマイクロタイタープレートのマイクロリアクター内の多数の異なる液体培地において、二次元蛍光分光法を用いて、例えば基質濃度、蛋白質濃度、バイオマス濃度および物質移動速度などのプロセスパラメータを特定するための本発明に係る装置の概略的な構成を示している。
【0033】
この装置は、オービタルシェーカー(5)と接続されたマイクロリアクタープラットフォーム(4)を含み、マイクロリアクタープラットフォーム上に、多数のマイクロリアクター(2a)を備える少なくとも一つのマイクロタイタープレート(2)が設けられている。マイクロタイタープレートのマイクロリアクター(2a)の少なくとも底面は、測定装置から放出され受容される電磁線に対して透過性がある。測定装置は光源(8)と、自動周波数調整式モノクロメータ(15)を有する。モノクロメータ(15)は、光源(8)の入射光から異なる波長を分光するように構成されており、それにより単色励起光を生じさせ、当該単色励起光の励起波長はステップ式に自動的に変更される。測定装置はさらに、光線ガイドシステム(3)を含み、光線ガイドシステムは、図に示す実施の形態において、Y型光ファイバー(3a)と、カップラー(3b)とによって形成される。カップラー(3b)の部分で、Y型光ファイバー(3a)の両方のファイバー束の光ファイバーが合流する。
【0034】
光線ガイドシステム(3)は、励起光をモノクロメータ(15)からマイクロタイタープレート(2)のマイクロリアクター(2a)のそれぞれにおける液体培地へと伝送し、放射スペクトルをそれぞれのマイクロリアクター(2a)内の液体培地から光学素子(13)、例えばプリズムや格子などへと伝送する。光学素子(13)は個々の励起波長について、放射スペクトル(16)を異なる波長に分解し、特にCCDセンサとして形成されているセンサマトリックス(7)上に展開(拡開)された放射スペクトルを結像させる。センサマトリックスの受信信号は、コンピュータ(6)を用いて評価される。
【0035】
光線ガイドシステム(3)のカップラー(3b)は、垂直線に対して例えば35°の鋭角を成してXY位置決めユニット(1)に設けられており、個々のマイクロリアクター(2a)の透過性のある底面に対して所望のとおりに(目標を定めて)位置調整される。
【0036】
さらに光源(8)と、自動周波数調整式モノクロメータ(15)との間にシャッター(14)が設けられており、シャッターは、コンピュータ(6)もしくは、センサマトリックス(7)を含むCCDカメラによって制御されて、マイクロリアクタープラットフォーム(4)の位置に応じて励起光を遮るように構成されている。マイクロリアクタープラットフォーム(4)の位置は、位置センサ(11)を用いて検出され、位置センサは図に示す実施の形態では、オービタルシェーカーの軸に設けられた磁石(11b)およびホールセンサ(11a)により形成される。撹拌機の位置を監視するために、当然ながら他の技術、特に光学式または誘導式の位置測定も考えられる。
【0037】
図2は、光ファイバー(3a)からの放射スペクトル(16)が、光学素子(13)に入射される様子を示している。光学素子(13)は放射スペクトル(16)を、放射スペクトルの個々の波長に分解し、それをセンサマトリックス(7)上に展開する。この光学的構成により、個々の波長に関してセンサマトリックス(7)上にバンド(Band)が生成され、異なる波長における放射スペクトルの強度は、センサマトリックス(7)を用いて特定することができる。
図2に示す光学素子(13)とセンサマトリックス(7)とから成る構成は、励起波長を備える励起光線によって液体培地を励起させた後、完全な放射スペクトルを同時に撮影することを可能にする。個々の放射スペクトルの異なる波長の強度を同時に検出することにより、測定の際の時間は著しく節約される。
【0038】
二次元蛍光スペクトルの撮影は、シャッター(14)を用い、コンピュータにサポートされて、マイクロリアクタープラットフォーム(4)の位置、従って各マイクロリアクター(2a)における液体培地の位置との同期が図られる。励起光の光路は、光学カップラー(3a)の位置に対する撹拌機/液体位置に応じて、所定の時間間隔の間、機械的シャッター(14)を用いて開放される。同期をとることで、測定中の所定の時点および所定の位置において、静止しているカップラー(3b)の上方で回転するマイクロリアクター(2a)に確実に励起光が入射される。放射スペクトル(16)の検出後、すなわち測定の終了後、励起光の光路は機械的シャッター(14)により再び閉鎖され、それにより励起光線はマイクロリアクター(2a)内に達することができなくなる。同期を図る主な利点は、
図3に概略的に表示されているように、マイクロリアクター(2a)の所定の測定セグメント(18)を検査することができ、それにより例えばマイクロリアクター(2a)内で回転する液体培地の液体鎌状部(17)を思い通り把握できることである。測定セグメント(18)とは、励起光が、位置制御されながら、撹拌されるマイクロタイタープレート(2)のマイクロリアクター(2a)の一つに、放射スペクトルの測定時に入射される領域である。
【0039】
図3には二つの測定セグメント(18)が表示されている。測定開始を調整可能に遅延させることにより、位置センサの情報を用いて、カップラー(3b)の上方におけるマイクロリアクター(2a)の回転中のどの位置でも狙いを定めて測定を開始することができる。センサマトリックス(7)の測定信号セグメントの積分時間を変化させることにより、個々のマイクロリアクター(2a)内で異なる長さの測定信号を検査することができる。
図3Aでは、測定セグメント(18)は、空のマイクロリアクター(2a)から液体鎌状部(17)内へと延在しており、そのために放射スペクトルは歪められる可能性がある。
図3Bでは、測定セグメント(18)は専ら液体鎌状部(17)内部だけにあり、その結果、測定時には液体培地の放射スペクトルのみが撮影されることになるが、これこそ求めているものである。
【0040】
マイクロタイタープレート(2)の全てのマイクロリアクター(2a)内の液体培地の放射スペクトル(16)を撮影するのに要する時間を減らすために、本発明の一態様では、カップラー(3b)を新たに位置決めせずに複数のマイクロリアクター(2a)を検査することができる。時間的な利点は、マイクロリアクター(2a)の下でカップラー(3b)を新たに位置決するのに要する時間が少なくなることから生まれる。この測定原理においては、励起光が個々のマイクロリアクター(2a)に垂直に入射するように、カップラー(3b)をマイクロタイタープレート(2)の下に配置すると有利である。この構成が
図4Aにおいて概略的に表示されている。また、撹拌されているマイクロタイタープレート(2)に対するカップラー(3b)の位置は、
図4Bにおいて二つのマイクロリアクターについて表示され、
図4Cにおいて四つのマイクロリアクターについて表示されているように、マイクロタイタープレート(2)の回転運動の中心が複数のマイクロリアクター(2a)のちょうど間にあるように選択される。励起光の電磁線(19)は、
図4の構成の装置の場合、オービタルシェーカー(5)が回転する度に複数のマイクロリアクター(2a)に次々に導入されるので、カップラー(3b)を新たに位置決めせずに複数のマイクロリアクター(2a)を測定することができる。したがってマイクロタイタープレート(2)の全てのマイクロリアクター(2a)を測定するのに必要な、XY位置決めユニット(1)を用いたカップラー(3b)の移動は減り、それにより測定は大幅に加速することができる。カップラー(3b)が例えば
図4Cに表示されているように、隣接する四つのマイクロリアクター(2a)の中心に位置決めされると、96ウェルマイクロタイタープレートの全てのマイクロリアクターを測定するために、位置決めユニット(1)を用いて移動しなければならない位置は96個ではなく、24個だけである。これに伴ってマイクロタイタープレート(2)の全てのマイクロリアクター(2a)を測定する際の時間が著しく節約される。マイクロリアクタープラットフォーム(4)が一回転する間の、それぞれのマイクロリアクター(2a)からの放射スペクトルの対応付けは、位置センサ(11)を用いて行われる。位置センサ(11)は、どのマイクロリアクター(2a)が、回転のどの時点でカップラー(3b)の焦点にあるかを検出する。複数のマイクロリアクター(2a)が光学カップラー(3b)の上で回ることの他の利点は、比較的大きな撹拌直径(好ましくは6mm、9mm、12.5mmまたはそれより大きい)を用いることができることである。撹拌直径が大きくなると、マイクロリアクター(2a)において回転する液体鎌状部(17)を生じさせるためのオービタルシェーカー(5)の回転数を小さくすることができる。比較的大きな撹拌直径はまた特に、例えばバイオポリマー、または糸状体生物の培養時に生じ得るような、粘度が高められた液体培地を検査するのに適している。
【0041】
図1に示す構成により必然的に、反射された励起光(英語:scattered light)が測定のたびに撮影される。特に液体培地の細胞密度が高いと、後方散乱が大きくなり、後方散乱が大きいと、センサマトリックス(7)を用いて放射スペクトルを撮影する際の測定誤差を生じさせる可能性がある。このような測定誤差を避けるために、
図5Aに示すように、可動式光学素子(13)を用いて作業することができる。可動式光学素子(13)は、励起波長より小さいか、あるいは励起波長と等しい波長を有する放射スペクトルの電磁線の成分を、放射スペクトルの測定から除外することを可能にする。光学素子(13)の位置が可変であることにより、励起波長より小さいか、あるいは励起波長と等しい光線は、所望のとおりにセンサマトリックス(7)からそらすことができる。これにより励起光の強度およびそれとともに放射スペクトルの強度を高め、最終的に測定装置の感度を向上させることができる。光学素子(13)は、導入される励起光の励起波長に応じて動かされる。この方法では、センサマトリックス(7)上の位置(ピクセル)に対する波長の対応付けは、励起光の波長を用いて新たに計算しなければならない。
【0042】
図5Bは後方散乱を低減するための代替的な実施の形態を示している。この場合、光学素子(13)とセンサマトリックス(7)との間に絞り(20)が設けられており、この絞りが各励起波長の光を遮蔽するので、その光はセンサマトリックス(7)に当たらなくなる。絞り(20)は、好ましくはステップモータを用いて、個々の励起波長を導入する際に、励起する波長の光路が光学素子(13)とセンサマトリックス(7)との間で遮られるように移動させられる。この構成は、励起光の強度を増大させ、それにより放射スペクトルの強度を増大させることを可能にし、これが蛍光信号をいっそう強めて、最終的には測定値を向上させることにつながる。
【0043】
図6Bは、例えばコリメータ(21)のような光学的に作用する付加的な部材を使用することを示しており、コリメータは、励起光の電磁線(19)を平行化する。コリメータ(21)は、光ファイバー(3a)の端部において、カップラー(3b)の部分に取り付けられている。平行化により、励起光を比較的大きなエネルギー強度で液体培地に導入することができる。コリメータ(21)はさらに、ファイバに入射される放射スペクトル(16)を束ねるので、より多量の放射スペクトルが捕捉される。コリメータ(21)により測定セグメントを小さくすると同時に励起光の強度を高めることは特に、カップラー(3b)が
図4に応じて、オービタルシェーカー(5)が一回転する間に複数のマイクロリアクター(2a)内の液体培地の蛍光スペクトルが撮影されるように配置される場合に有利となり得る。測定セグメント(18)が比較的小さく、かつ比較的鮮明に画定されることにより、異なる撹拌直径に対する選択の幅が大きくなり、測定セグメントは周方向においてより長くなる。
【0044】
図5において説明した解決手段により、センサマトリックス(7)への励起光の後方散乱はほぼ完全に抑制される。しかしながら後方散乱からは、例えば培養中の微生物の成長挙動や形態に関する有用な情報が得られる。
図7は、マイクロリアクター(2a)の液体培地に入射した電磁線(19)が、図に表示されていない別個の感光センサを用いて検出される装置を示している。後方散乱された励起光は、さらなる光ファイバー(3c)を用いて感光センサに供給される。付加的な光ファイバー(3c)は、後方散乱を撮影するために、カップラー(3b)において、垂直線に対して例えば35度の設置角度に配向されている。蛍光測定のための光ファイバー(3a)の設置角度はこの場合、垂直線に対して0度である。光ファイバー(3a)がカップラー(3b)においてこのように配向されていると、放射スペクトルの集束と撮影が改善される。
図7からはさらに、光ファイバー(3a,3c)がカップラー(3b)において、両方の光ファイバーの焦点が一点にあるように配向されていることが看取できる。これに対応して焦点は、マイクロリアクター(2a)内のちょうど同じ位置に合わせることができる。これには、後方散乱を測定するためにマイクロタイタープレートの下でカップラー(3b)を新たに位置決めする必要がなく、それにより後方散乱の測定が測定時間の増大をもたらさないという利点がある。
【0045】
図7に示された構成により、蛍光スペクトルは、励起光の強度を高くして撮影されるとともに、後方散乱は、最適に特定される。
【0046】
図8は、方法を実施するための
図1に対応する装置を示すが、異なる構成の光線ガイドシステム(3)を備えている。光源(8)からの励起光は、半透明の鏡(22)により偏向され、たった一本のファイバーを備える光ファイバー(23)を介してマイクロリアクター(2a)の一つにおける液体培地に導入される。液体培地の放射スペクトル(16)は光ファイバー(23)および半透明の鏡(22)を通過して光学素子(13)へと、そして最終的にセンサマトリックス(7)へと伝送される。光ファイバー(23)の一本のファイバーは、
図1に示す光ファイバー(3a)のファイバー束のファイバーに比べて太い。これにより、光ファイバー(23)の半径は全体として(およびそれとともに電磁線の半径は)低減され、それにより光線はより良好に集束させることができる。集束がより良好になると、隣接するマイクロリアクターとのクロストークが防止される。
【0047】
並行して行われる培養の数をさらに増大させるために、一つのマイクロリアクタープラットフォーム(4)上に複数のマイクロタイタープレート(2)がまとめて設置されていてもよく、全てのマイクロタイタープレート(2)のマイクロリアクター(2a)は、遂次的に測定される。カップラー(3b)は、一つのマイクロタイタープレート(2)の下でマイクロリアクター(2a)からマイクロリアクター(2a)へと移動させられるだけでなく、複数のマイクロタイタープレート(2)の下方を移動させられる。例えば48ウェルマイクロタイタープレートが、マイクロリアクタープラットフォーム(4)上に4個設置されていると、全体で192個の培養を並行して実施し、測定することができる。
【0048】
しかしながら同一のマイクロリアクターにおける二つの測定間の時間は、並行して実施される培養の数と共に増大する。測定頻度を高めるために
図9は、複数のマイクロタイタープレート(2)の異なるマイクロリアクター(2a)内の液体培地の二次元蛍光スペクトルを、複数の測定装置を用いて同時に撮影できる装置を示している。蛍光測定のための光ファイバー(3a)と、後方散乱の測定のための光ファイバー(3c)は、異なるマイクロタイタープレート(2)上のマイクロリアクター(2a)を同時に測定することができるように、xy位置決めユニット(1)の走行可能なアームに設けられている。光ファイバー(3a,3c)をxy位置決めユニット(1)に固定することにより、異なるマイクロタイタープレート(2)のマイクロリアクター(2a)に同期的かつ同時に到着する。すなわち、図に示す例では個々の位置決めの後、3個のマイクロリアクター(2a)が同時に測定され、異なるマイクロタイタープレート(2)内のマイクロリアクター(2a)は対応し合う位置にある。全てのマイクロタイタープレート(2)は、一つのオービタルシェーカー(5)のマイクロリアクタープラットフォーム(4)上にあるので、測定は同時に開始することができ、一つだけの位置センサ(11)を用いて同期させることができる。
【0049】
図10は、マイクロタイタープレート(2a)において蛍光スペクトルの撮影レートを増やすための他の手段を示している。複数の測定装置の光学カップラー(3b)は、位置決めユニット(1)のアームに、マイクロリアクター(2a)の中心点の距離が同一である状態で取り付けられており、単独のマイクロタイタープレート(2)のマイクロリアクター(2a)同士の間で移動させることができる。
図10に表示された構成を用いると、カップラー(3b)および測定装置が相応の数で設けられていることを前提として、一つのマイクロタイタープレート(2)のマイクロリアクター(2a)において、全ての列または縦列を同時に測定することができる。さらにこの場合、マイクロタイタープレートを完全に測定するために、位置決めユニットはカップラー(3b)を一方向に移動させるだけでよい。
【0050】
図10に表示された後方散乱の測定のための6個の光ファイバー(3c)と、蛍光測定のための6個の光ファイバー(3a)とを用いて、マイクロタイタープレート(2)の一列全体において、蛍光および/または後方散乱を同時に測定することができる。したがって、48ウェルマイクロタイタープレート(2)の場合、光ファイバー(3a,3c)は、位置決めユニット(1)を用いて一次元内で動かすだけでよい。これに伴う時間の節約により、測定頻度およびデータ密度が増大する。
【0051】
本発明の有利な一態様において、装置は、ピペッティングロボットを含み、それにより培養中の異なる時点で、マイクロリアクター(2a)から自動的に液体培地の試料を取り出したり、例えば栄養素または(副)生成物を有する水または溶液を添加したりする。本発明に係る方法を自動的な試料取り出しと組み合わせることにより、計量化学的モデルを迅速に作成することができる。培養の進行中に、異なる時点においてオフライン分析のための試料を液体培地から自動的に取り出すことができる。オフライン分析が行われた試料のプロセスパラメータおよび試料取り出しまたは添加の異なる時点で撮影された二次元蛍光スペクトルから、計量化学的モデルが作成される。
【0052】
液体培地(複数)において対応し合う反応(複数)を観察する際、時間的なデータ密度を増大させるために、方法の手順が
図11に概略的に示されており、この方法手順では複数のマイクロリアクター(ウェル1~3)において液体培地の培養が同一条件下で進行する。ウェル1~3における上述の液体培地のそれぞれについて、二次元蛍光スペクトル(測定)が時間をずらして撮影される。マイクロリアクター(ウェル1)については例えば測定1.1~1.3まで、マイクロリアクター(ウェル2)については測定2.1~2.3まで、マイクロリアクター(ウェル3)については測定3.1~3.3までが行われる。ウェル1~3において時間をずらして撮影された二次元蛍光スペクトル1.1~3.3は統合され、それにより、異なるウェル1~3から得られる二次元蛍光スペクトルは共通の時間ベクトルにわたって検出される。これによりウェルに関する測定の解像度は失われるものの、二つの測定間の時間間隔は著しく低減させることができる。
【0053】
図11に表示された方法は、計量化学的モデルを作成する際、特に有利である。それぞれのウェル1~3について、3個の測定、すなわち、3個の二次元蛍光スペクトルの撮影が示されている。ウェル1からは第二の測定サイクルの後、すなわち3.13分後に液体培地全体が取り出され、それにより例えばこの試料を用いてオフライン分析を実施する。全体で9個の個々の測定、マイクロリアクター(ウェル1~3)一つにつきそれぞれ3個の測定は、時間軸上で一つの反応経過に統合される。計量化学的モデルの開発のために、全部で8個の反応中の測定を用いることができる。測定1.3はモデル作成のために考慮されないが、それはこの測定の際、マイクロリアクター(ウェル1)内に反応液がなくなっており、したがって有意義な測定値を特定することができないためである。
【0054】
図12は
図11に対応する方法の手順を示しており、この方法手順ではマイクロリアクター(この場合はウェル1)が反応液を取り出した後、測定されないことにより、データ密度をさらに増やすことが実現できる。この手順によれば、反応液を取り出した後にマイクロリアクター(ウェル1)において余分な測定を行わず、そのままマイクロリアクター(ウェル2)における測定を記録する。これにより5.63分内に、ウェル2においてさらなる測定(測定2.4)を実施することができる。これに対応して、計量化学的モデルを作成するために9個の有用な測定が利用可能である。
【0055】
図13Bは、個々の撹拌式発酵槽において二次元蛍光スペクトルに基づいて計量化学的モデルを作成するための従来のやり方(13A)に対し、マイクロタイタープレート(2)の複数のマイクロリアクター(2a)内の液体培地における培養が一致した条件下で進行する方法を示しており、個々のマイクロリアクターの液体培地において検出すべきプロセスパラメータ(例えば炭素源、生成物または副生成物の濃度)の初期値は異なっている。この方法手順は、従来型の単独式発酵槽を用いて二次元蛍光分光法を応用する場合、受け入れがたい実験コストおよび時間コストを伴う。しかしながら本発明によりマイクロタイタープレートのマイクロリアクターにおいて並行式培養を行うことにより、このようなアプローチは問題なく可能である。関係する分析物の濃度の相違が二次元蛍光スペクトルに及ぼす影響は、オンラインで計量化学的モデルを開発するために用いられ、計量化学的モデルは、実験をしながら開発される。この方法の変形例では、二次元蛍光分光法を用いてプロセスパラメータを特定する間に較正が行われる。
【0056】
図14は、二次元蛍光スペクトルに基づいて計量化学的モデルを作成するための代替的な方法を示している。開始条件が一致する複数の培養が、攪拌されるマイクロタイタープレートのマイクロリアクター(複数)内で並行して実施され、二次元蛍光スペクトルを撮影することにより監視される。異なる時点において、
図14に示す例では3時間、5時間および8時間後に、選択されたマイクロリアクターに分析物が添加され、それにより既知の濃度の急激な変化が生じる。これにより、選択されたマイクロリアクターにおける反応は、もはや同じ条件下で進行しなくなる。これらの変化は、マイクロタイタープレートのマイクロリアクターにおいて二次元蛍光スペクトルを連続的に撮影することにより検出される。所定の変化が、撮影される二次元蛍光スペクトルに対して及ぼす影響は、計量化学的モデルを開発するために用いられるが、水の添加によって生じる希釈効果も計量化学的モデルを開発するのに用いることができる。培養液に水を添加することにより、既知の濃度降下が生じ、この濃度降下は二次元蛍光スペクトルを用いて検出される。
【0057】
液体培地の個々の物質の濃度のほか、例えばOTRも撮影された二次元蛍光スペクトルに基づき、計量化学的モデルを用いて算出することができる。したがって本発明に係る方法および方法を実施するための装置は、二次元蛍光スペクトルに基づいて、マイクロタイタープレートの個々のマイクロリアクターに応じて分解された状態で酸素移動速度を測定することを初めて可能にする。さらにpHは、計量化学的モデルと組み合わせることで、二次元蛍光スペクトルを用いて特定することができる。pHを特定するための従来技術は、マイクロタイタープレートにおいてオプトードまたは色素を用いる。本発明を用いてpH値を特定するために、オプトードまたは色素は不要である。
【実施例1】
【0058】
図15には初期グルコース濃度が8gL
-1で、初期ソルビトール濃度が1.5gL
-1である最小培地における大腸菌(Escherichia coli)の培養の二次元蛍光スペクトルが示されている。
【0059】
時間の経過とともに、生物起源の蛍光の増大(励起:350-500nm/放出:500-600nm)と並んで、トリプトファンおよびチロシンのような芳香族アミノ酸の領域における増大(励起:270-320nm/放出:300-370nm)が明らかに認められる。これらの二次元蛍光スペクトルに基づき、計量化学的モデルを用いて、異なるプロセスパラメータの推移が特定される。本来、蛍光スペクトルにおいては、多数の波長ペアが同じような推移を有するので、ここでは特に“部分的最小二乗(partial Least Squares)”回帰(PLSR)または主成分分析(PCA)に基づく回帰が有意義である。両方法は、多数の波長ペア(蛍光スペクトルごとに、30の励起波長・1024の放射波長=30720の波長ペア)を、意味のある線形結合をはるかに少ない数に減少させることを可能にする。例として培養中のグルコース濃度、ソルビトール濃度、バイオマス濃度の推移を特定するため、およびpHの推移のためのPLSRが
図16に示されている。塗りつぶされた黒い記号はそれぞれ、オフラインで算出された濃度もしくはpH値を示している。実線は二次元蛍光スペクトルに基づき、計量化学的モデルを用いて特定された。
【0060】
培養は15個のウェルにおいて並行して同じ条件で開始された。試料を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて検査するために、一のウェルから液体培地全体が一時間ごとに取り出された。すなわち、一時間後に一のウェルから液体培地が完全に取り出され、それにより14個の培養が並行してさらに実施された。二時間後に次のウェルから液体培地が完全に取り出され、それによりなおも13個のウェルにおいて影響を受けることなく、さらに培養が続けられた。この過程は10回繰り返され、それにより最終的にまだ5個のオンライン信号が残っている。
【0061】
表示された例から、連続的に撹拌されているマイクロタイタープレートにおいて二次元蛍光スペクトルを用いて培養を監視することが可能であることが分かる。大腸菌(E.coli)は最も早く成長する微生物の一つで、バイオテクノロジーにおいて応用される。このように成長速度が大きい場合でも、提示されたシステムを用いて十分に大きなデータ密度を生じさせることができ、それによりプロセスに関連する異なる濃度およびpH値の推移を追求することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 位置決めユニット
2 マイクロタイタープレート
2a マイクロリアクター
3 光線ガイドシステム
3a 光ファイバー(蛍光測定)
3b カップラー
3c 光ファイバー(後方散乱)
4 マイクロリアクタープラットフォーム
5 オービタルシェーカー
6 コンピュータ
7 センサマトリックス
8 光源
11 位置センサ
11a ホールセンサ
11b 磁石
12 ホールセンサ
13 光学素子
14 機械的シャッター
15 モノクロメータ
16 放射スペクトル
17 液体鎌状部
18 測定セグメント
19 電磁線(励起光)
20 絞り
21 コリメータ
22 半透明の鏡
23 光ファイバー