(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】ジルコニウム複合酸化物、及び、ジルコニウム複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
C01G25/00
(21)【出願番号】P 2021122960
(22)【出願日】2021-07-28
【審査請求日】2021-09-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 大志
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-115070(JP,A)
【文献】特表2011-520745(JP,A)
【文献】特表2019-518693(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110252276(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00
B01J 23/00
B01J 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5質量%以上50質量%以下の酸化イットリウムと、
酸化セリウムとを含み、
大気圧下、1250℃で10時間加熱した後の比表面積が、3.0m
2/g以上20.0m
2/g以下であることを特徴とするジルコニウム複合酸化物。
【請求項2】
前記酸化イットリウムの含有量が、40質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニウム複合酸化物。
【請求項3】
前記酸化セリウムの含有量が、5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニウム複合酸化物。
【請求項4】
セリウム、イットリウム以外の希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載のジルコニウム複合酸化物。
【請求項5】
前記酸化物は、酸化ランタン、酸化ネオジム、及び、酸化プラセオジムからなる群から選ばれる1種以上の酸化物であることを特徴とする請求項4に記載のジルコニウム複合酸化物。
【請求項6】
前記酸化ランタンの含有量が、1質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項5に記載のジルコニウム複合酸化物。
【請求項7】
前記酸化ネオジムの含有量が、1質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項5に記載のジルコニウム複合酸化物。
【請求項8】
前記酸化プラセオジムの含有量が、1質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項5に記載のジルコニウム複合酸化物。
【請求項9】
酸化イットリウムを20mol%以上30mol%以下含む安定化ジルコニアを含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか1に記載のジルコニウム複合酸化物。
【請求項10】
大気圧下、1200℃で10時間加熱した後の比表面積が、12.0m
2/g以上40.0m
2/g以下であることを特徴とする請求項1~9のいずれか1に記載のジルコニウム複合酸化物。
【請求項11】
細孔容積が0.4ml/g以上1.0ml/g以下であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1に記載のジルコニウム複合酸化物。
【請求項12】
排ガス浄化用触媒の酸素貯蔵材料であることを特徴とする請求項1~11のいずれか1に記載のジルコニウム複合酸化物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1に記載のジルコニウム複合酸化物の製造方法であって、
Zrと酸化物換算で20mol%以上30mol%以下のYとを含む複合水酸化物を得る第1工程、
硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液との混合液と、前記複合水酸化物と、を混合することにより塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を得る第2工程、及び、
前記塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に、セリウムの塩溶液、又は、化合物を添加する第3工程を有することを特徴とするジルコニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項14】
前記第3工程は、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に、さらに、セリウム、イットリウム以外の希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の金属の塩溶液、又は、化合物を添加する工程を有することを特徴とする請求項13に記載のジルコニウム複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム複合酸化物、及び、ジルコニウム複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CO2排出量削減のため、自動車の燃費改善が強く求められている。一方、自動車のエンジン制御では、触媒の浄化性能を最大限に発揮させるために、リッチスパイクと呼ばれる、燃料の過剰噴射が行われている。
【0003】
特許文献1には、酸化ジルコニウム、酸化セリウムを含む組成物であって、1200℃で10時間以上加熱した後の見かけ表面積が約1.0~約6.0m2/gであることが開示されている(特に請求項1参照)。
【0004】
特許文献2には、ジルコニウム、セリウム、ランタン、及び、希土類元素のうちのイットリウム、サマリウム又はガドリニウムのいずれか、の4つの酸化物の混合物からなる組成物であって、1200℃で10時間加熱した後の比表面積が7m2/g以上12m2/g以下であることが開示されている(特に請求項1、実施例参照)。
【0005】
特許文献3には、ジルコニウム酸化物、セリウム酸化物、及び、イットリウム酸化物に基づく組成物であって、1150℃での10時間の焼成後に少なくとも15m2/gの比表面積を有すること(特に請求項1参照)、及び、1200℃で10時間加熱した後の比表面積が12m2/g以下であること(特に実施例参照)が開示されている。
【0006】
特許文献4には、ジルコニウムと、セリウムと、ランタンとを含む組成物であって、空気中、1100℃で4時間加熱した後の比表面積が35~50m2/gであることが開示されている(特に請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2017-532278号公報
【文献】欧州特許第2024084号明細書
【文献】特表2009-526729号公報
【文献】米国特許出願公開第2019/0134608号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リッチスパイクは、燃料を過剰に供給するため、燃費悪化の原因となる。そのため、今後、CO2排出低減を重視した車両開発では、リッチスパイクが少ないエンジン制御が主流になると考えられる。
【0009】
リッチスパイクが少なくなると、触媒及びその担体は、より高温に晒されることになる。つまり、触媒及びその担体に対する熱負荷が高くなる。熱負荷が高くなると、触媒の担体が焼結する。担体の焼結は、担体の比表面積低下を招く。担体の比表面積低下は、担持している貴金属(触媒)の焼結を招く。貴金属が焼結すると触媒活性が低下し、触媒の排ガス浄化性能が低下する。
【0010】
従来、リッチスパイクが導入される制御で使用する触媒は、1100℃の熱負荷に耐えることができれば充分であったが、リッチスパイクが少なくなる制御では、1200℃を超える高温に晒された後にも高い比表面積を有することが求められると考えられる。
【0011】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、1200℃を超えるより高温に晒されたとしても、高い比表面積を維持することが可能なジルコニウム複合酸化物を提供することにある。また、当該ジルコニウム複合酸化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ジルコニウム複合酸化物について鋭意研究を行った。その結果、下記構成を採用することにより、上記課題を解決することができることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るジルコニウム複合酸化物は、
5質量%以上50質量%以下の酸化イットリウムと、
酸化セリウムとを含み、
1250℃で10時間加熱した後の比表面積が、3.0m2/g以上20.0m2/g以下であることを特徴とする。
【0014】
前記構成によれば、酸化イットリウムを5質量%以上という高含有量で含むため、高温に晒されたとしても、焼結することを抑制することができる。また、酸化セリウムを含むため、高温に晒されたとしても、焼結することを抑制することができる。
また、1250℃で10時間加熱した後の比表面積が、3.0m2/g以上であるため、1200℃を超えるより高温に晒されたとしても、高い比表面積を有すると言える。
このように、前記構成によれば、酸化イットリウムを5質量%以上という高含有量で含み、且つ、焼結抑制効果を有する酸化セリウムを含み、1250℃で10時間加熱した後の比表面積が、3.0m2/g以上であるため、1200℃を超えるより高温に晒されたとしても、高い比表面積を維持することが可能である。
【0015】
なお、上述した特許文献1~4の組成物では、1100℃に晒された後の比表面積が一定以上であることや、1200℃に晒された後の比表面積が一定以上であることが開示されている。しかしながら、特許文献1~4の組成物では、1250℃で10時間加熱した後の比表面積が、3.0m2/g以上を達成することはできない。
【0016】
前記構成においては、前記酸化イットリウムの含有量が、40質量%以下であることが好ましい。
【0017】
前記酸化イットリウムの含有量が40質量%以下であると、酸素吸放出材料として必要な酸化セリウム、酸化ジルコニウムの量を好適に含有することができる。
【0018】
前記構成においては、前記酸化セリウムの含有量が、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0019】
前記酸化セリウムの含有量が5質量%以上50質量%以下であると、より高い焼結抑制効果が得られる。
【0020】
前記構成においては、セリウム、イットリウム以外の希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物を含むことが好ましい。
【0021】
セリウム、イットリウム以外の希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物を含むと、より高い焼結抑制効果が得られる。
【0022】
前記構成において、前記酸化物は、酸化ランタン、酸化ネオジム、及び、酸化プラセオジムからなる群から選ばれる1種以上の酸化物であることが好ましい。
【0023】
前記酸化物が、酸化ランタン、酸化ネオジム、及び、酸化プラセオジムからなる群から選ばれる1種以上の酸化物であると、さらに高い焼結抑制効果が得られる。
【0024】
前記構成においては、前記酸化ランタンの含有量が、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0025】
前記酸化ランタンの含有量が、1質量%以上30質量%以下であると、さらに高い焼結抑制効果が得られる。
【0026】
前記構成においては、前記酸化ネオジムの含有量が、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0027】
前記酸化ネオジムの含有量が、1質量%以上30質量%以下であると、さらに高い焼結抑制効果が得られる。
【0028】
前記構成においては、前記酸化プラセオジムの含有量が、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0029】
前記酸化プラセオジムの含有量が、1質量%以上30質量%以下であると、さらに高い焼結抑制効果が得られる。
【0030】
前記構成おいては、酸化イットリウムを20mol%以上30mol%以下含む安定化ジルコニアを含むことが好ましい。
【0031】
安定化ジルコニアは、酸化イットリウム含有量が23mol%で融点が最高となる。そこで、酸化イットリウムを20-30mol%以上含み、高い融点を有する安定化ジルコニアを含ませると、さらに高い焼結抑制効果が得られる。
【0032】
前記構成においては、1200℃で10時間加熱した後の比表面積が、12.0m2/g以上40.0m2/g以下であることが好ましい。
【0033】
1200℃で10時間加熱した後の比表面積が、12.0m2/g以上であると、1200℃に晒された場合にも、高い比表面積を維持することが可能である。
【0034】
前記構成においては、細孔容積が0.4ml/g以上1.0ml/g以下であることが好ましい。
【0035】
細孔容積が0.4ml/g以上1.0ml/g以下であると、高温に曝される前の状態において比較的高い細孔容積を有する。高温に曝される前の状態において比較的高い細孔容積を有するため、高温に晒された後の細孔容積をより高めることができる。高温に晒された後の細孔容積をより高めることができるため、高温に晒された後の比表面積をより高めることができる。
【0036】
前記構成においては、排ガス浄化用触媒の酸素貯蔵材料であることが好ましい。
【0037】
前記ジルコニウム複合酸化物が、排ガス浄化用触媒の酸素貯蔵材料であると、高い焼結抑制効果を有するため、排ガス浄化性能の低下を抑制することができる。
【0038】
また、本発明に係るジルコニウム複合酸化物の製造方法は、
Zrと酸化物換算で20mol%以上30mol%以下のYとを含む複合水酸化物を得る第1工程、
硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液との混合液と、前記複合水酸化物と、を混合することにより塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を得る第2工程、及び、
前記塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に、セリウムの塩溶液、又は、化合物を添加する第3工程を有することを特徴とする。
【0039】
前記構成によれば、硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液との混合液と、前記複合水酸化物と、を混合することにより塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を得る。従って、得られた前記塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液は、ジルコニウム硫酸塩生成により細孔が形成され、前記複合水酸化物がジルコニウム硫酸塩中に高分散されることとなる。
前記複合水酸化物は、焼成することにより安定化ジルコニア(以下、「YSZ」ともいう)となる。前記複合水酸化物は、イットリウムを多く含むため、最終的に得られるジルコニウム複合酸化物には、高い融点を有する安定化ジルコニアが高分散された状態となる。その結果、最終的に得られるジルコニウム複合酸化物は、高い焼結抑制効果が得られることになる。
また、前記塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に、セリウムの塩溶液、又は、化合物を添加するため、最終的に得られるジルコニウム複合酸化物は、焼結抑制効果を有する酸化セリウムを含むことになる。その結果、最終的に得られるジルコニウム複合酸化物は、より高い焼結抑制効果が得られることになる。
【0040】
前記構成において、前記第3工程は、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に、さらに、セリウム、イットリウム以外の希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の金属の塩溶液、又は、化合物を添加する工程を有することが好ましい。
【0041】
前記第3工程が、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に、さらに、セリウム、イットリウム以外の希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の金属の塩溶液、又は、化合物を添加する工程を有すると、最終的に得られるジルコニウム複合酸化物は、焼結抑制効果を有する、セリウム、イットリウム以外の希土類元素の酸化物をさらに含むことになる。その結果、最終的に得られるジルコニウム複合酸化物は、さらに高い焼結抑制効果が得られることになる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、1200℃を超えるより高温に晒されたとしても、高い比表面積を維持することが可能なジルコニウム複合酸化物を提供することができる。また、当該ジルコニウム複合酸化物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、ジルコニアとは一般的なものであり、ハフニアを含めた10質量%以下の不純物金属化合物を含むものである。
【0044】
[ジルコニウム複合酸化物]
本実施形態に係るジルコニウム複合酸化物は、詳しくは後述するが、ジルコニアを必須成分とし、ジルコニア以外の酸化物(他の金属酸化物)との複合酸化物である。本実施形態に係るジルコニウム複合酸化物の用途は、特に限定されないが、排ガス浄化用触媒の酸素貯蔵材料として有用である。排ガス浄化用触媒の酸素貯蔵材料として使用する場合、当該酸素貯蔵材料に担持し得る触媒としては、貴金属触媒などが挙げられる。
【0045】
<比表面積>
[1.1250℃で10時間加熱した後の比表面積]
前記ジルコニウム複合酸化物は、1250℃で10時間加熱した後の比表面積が、3.0m2/g以上20.0m2/g以下である。1250℃で10時間加熱した後の比表面積が3.0m2/g以上であるため、1200℃を超えるより高温に晒されたとしても、高い比表面積を有すると言える。
【0046】
前記1250℃で10時間加熱した後の比表面積は、好ましくは4m2/g以上、より好ましくは5m2/g以上、さらに好ましくは6m2/g以上、特に好ましくは8m2/g以上である。
前記1250℃で10時間加熱した後の比表面積は、大きいほど好ましいが、例えば、18m2/g以下、15m2/g以下、14m2/g以下等である。
【0047】
[2.1200℃で10時間加熱した後の比表面積]
前記ジルコニウム複合酸化物は、1200℃で10時間加熱した後の比表面積が、12.0m2/g以上40.0m2/g以下であることが好ましい。1200℃で10時間加熱した後の比表面積が、12.0m2/g以上であると、1200℃に晒された場合にも、高い比表面積を維持することが可能である。
【0048】
前記1200℃で10時間加熱した後の比表面積は、好ましくは12.2m2/g以上、より好ましくは12.5m2/g以上、さらに好ましくは13m2/g以上、特に好ましくは14m2/g以上である。
前記1200℃で10時間加熱した後の比表面積は、大きいほど好ましいが、例えば、35m2/g以下、30m2/g以下、25m2/g以下、20m2/g以下等である。
【0049】
[3.1200℃で3時間加熱した後の比表面積]
前記ジルコニウム複合酸化物は、1200℃で3時間加熱した後の比表面積が、14m2/g以上50m2/g以下であることが好ましい。1200℃で3時間加熱した後の比表面積が、14m2/g以上であると、触媒担体として好適に使用できる。
【0050】
前記1200℃で3時間加熱した後の比表面積は、好ましくは14.5m2/g以上、より好ましくは15m2/g以上、さらに好ましくは16m2/g以上である。
前記1200℃で3時間加熱した後の比表面積は、大きいほど好ましいが、例えば、45m2/g以下、40m2/g以下、35m2/g以下、30m2/g以下である。
【0051】
[4.1100℃で3時間加熱した後の比表面積]
前記ジルコニウム複合酸化物は、1100℃で3時間加熱した後の比表面積が、20m2/g以上60m2/g以下であることが好ましい。1100℃で3時間加熱した後の比表面積が、20m2/g以上であると、触媒担体として好適に使用できる。
【0052】
前記1100℃で3時間加熱した後の比表面積は、好ましくは22m2/g以上、より好ましくは23m2/g以上、さらに好ましくは24m2/g以上である。
前記1100℃で3時間加熱した後の比表面積は、大きいほど好ましいが、例えば、55m2/g以下、50m2/g以下、45m2/g以下等である。
【0053】
[5.1000℃で3時間加熱した後の比表面積]
前記ジルコニウム複合酸化物は、1000℃で3時間加熱した後の比表面積が、30m2/g以上80m2/g以下であることが好ましい。1000℃で3時間加熱した後の比表面積が、30m2/g以上であると、触媒担体として好適に使用できる。
【0054】
前記1000℃で3時間加熱した後の比表面積は、好ましくは33m2/g以上、より好ましくは36m2/g以上、さらに好ましくは38m2/g以上である。
前記1000℃で3時間加熱した後の比表面積は、大きいほど好ましいが、例えば、75m2/g以下、70m2/g以下、65m2/g以下等である。
【0055】
[6.初期の比表面積]
前記ジルコニウム複合酸化物は、比表面積(初期の比表面積)が、40m2/g以上であることが好ましい。比表面積が、40m2/g以上であると、高温に曝される前の状態において比較的高い比表面積を有するといえる。高温に曝される前の状態において比較的高い比表面積を有するため、高温に晒された後の比表面積をより高めることができる。ここで、比表面積(初期の比表面積)とは、ジルコニウム複合酸化物を製造した後の、加熱処理や粉砕処理等を行っていない状態での比表面積をいう。
【0056】
前記比表面積は、好ましくは40m2/g以上、より好ましくは45m2/g以上、さらに好ましくは50m2/g以上、特に好ましくは55m2/g以上、特に好ましくは60m2/g以上、である。
前記比表面積は、大きいほど好ましいが、例えば、110m2/g以下、100m2/g以下、90m2/g以下等である。
【0057】
前記1250℃で10時間加熱した後の比表面積、前記1200℃で10時間加熱した後の比表面積、前記1200℃で3時間加熱した後の比表面積、前記1100℃で3時間加熱した後の比表面積、前記1000℃で3時間加熱した後の比表面積、及び、前記比表面積(初期の比表面積)は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。
【0058】
<細孔容積>
[1.1250℃で10時間加熱した後の細孔容積]
本実施形態に係るジルコニウム複合酸化物は、1250℃で10時間加熱した後の細孔容積が0.02ml/g以上であることが好ましい。1250℃で10時間加熱した後の細孔容積が0.02ml/g以上であると、高温に晒されたとしても細孔の収縮が少ないと言える。従って、1250℃で10時間加熱した後の比表面積をより高めることができる。
【0059】
前記1250℃で10時間加熱した後の細孔容積は、好ましくは0.03ml/g以上、より好ましくは0.04ml/g以上、さらに好ましくは0.05ml/g以上、特に好ましくは0.06ml/g、特別に好ましくは0.07ml/g、格別に好ましくは0.10ml/gである。
前記1250℃で10時間加熱した後の細孔容積は、大きいほど好ましいが、例えば、0.4ml/g以下、0.3ml/g以下、0.25ml/g以下、0.20ml/g以下等である。
【0060】
[2.初期の細孔容積]
本実施形態に係るジルコニウム複合酸化物は、細孔容積(初期の細孔容積)が0.4ml/g以上であることが好ましい。前記細孔容積が0.4ml/g以上であると、高温に曝される前の状態において比較的高い細孔容積を有する。高温に曝される前の状態において比較的高い細孔容積を有するため、高温に晒された後の細孔容積をより高めることができる。
高温に晒された後の細孔容積をより高めることができるため、高温に晒された後の比表面積をより高めることができる。
【0061】
前記細孔容積は、好ましくは0.4ml/g以上、より好ましくは0.45ml/g以上、さらに好ましくは0.5ml/g以上である。
前記細孔容積は、大きいほど好ましいが、例えば、1.0ml/g以下、0.9ml/g以下、0.8ml/g以下等である。
【0062】
前記全細孔容積の求め方の詳細は、実施例に記載の方法による。
【0063】
<粒子径>
前記ジルコニウム複合酸化物の粒子径D50は、好ましくは0.1μm以上100μm以下である。前記粒子径D50は、より好ましくは0.5μm以上、50μm以下である。
【0064】
<組成>
前記ジルコニウム複合酸化物は、ジルコニア(酸化ジルコニウム)を含有する。前記ジルコニアの含有量は、前記ジルコニウム複合酸化物全体を100質量%としたとき、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、特に好ましくは43質量%以上、特別に好ましくは45質量%以上である。前記ジルコニアの含有量の上限値は、特に制限されないが、前記ジルコニアの含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは92質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下、特別に好ましくは80質量%以下、格別に好ましくは75質量%以下である。前記ジルコニアの含有量が30質量%以上95質量%以下であると、触媒担体として好適に使用できる。
なお、前記ジルコニウム複合酸化物が安定化ジルコニアを含む場合、前記ジルコニウム複合酸化物に含まれるジルコニアの含有量は、安定化ジルコニアを構成するジルコニアと、それ以外のジルコニアとの合計量となる。
【0065】
前記ジルコニウム複合酸化物は、前記ジルコニウム複合酸化物全体に対して5質量%以上50質量%以下の酸化イットリウムを含む。酸化イットリウムを5質量%以上という高含有量で含むため、高温に晒されたとしても、焼結することを抑制することができる。また、酸化イットリウムの含有量が50質量%以下であるため、酸素吸放出材料として必要な酸化セリウム、酸化ジルコニウムの量を含有することができる。
なお、前記ジルコニウム複合酸化物が安定化ジルコニアを含む場合、前記ジルコニウム複合酸化物に含まれる酸化イットリウムの含有量には、安定化ジルコニアを構成する酸化イットリウムが含まれる。
【0066】
前記酸化イットリウムの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%である。前記酸化イットリウムの含有量は、好ましくは48質量%以下、より好ましくは45質量%以下、特に好ましくは40質量%以下、特別に好ましくは35質量%以下である。
【0067】
前記ジルコニウム複合酸化物は、酸化セリウムを含む。酸化セリウムを含むため、高温に晒されたとしても、焼結することを抑制することができる。
【0068】
前記酸化セリウムの含有量は、前記ジルコニウム複合酸化物全体に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7.5質量%以上である。前記酸化セリウムの含有量は、前記ジルコニウム複合酸化物全体に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、特に好ましくは41質量%以下である。前記酸化セリウムの含有量が5質量%以上50質量%以下であると、より高い焼結抑制効果が得られる。
【0069】
前記ジルコニウム複合酸化物は、セリウム、イットリウム以外の希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物を含むことが好ましい。ただし、前記ジルコニウム複合酸化物は、Pmを含まないことが好ましい。つまり、前記ジルコニウム複合酸化物は、Ce、Y、Pm以外の希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物を含むことがより好ましい。
なお、希土類元素とは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luをいう。
【0070】
セリウム、イットリウム以外の希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物を含むと、より高い焼結抑制効果が得られる。
【0071】
セリウム、イットリウム以外の希土類元素の中では、La(ランタン)、Nd(ネオジム)、Pr(プラセオジム)が好ましい。すなわち、前記ジルコニウム複合酸化物は、酸化ランタン、酸化ネオジム、及び、酸化プラセオジムからなる群から選ばれる1種以上の酸化物を含有することが好ましい。前記ジルコニウム複合酸化物が、酸化ランタン、酸化ネオジム、及び、酸化プラセオジムからなる群から選ばれる1種以上の酸化物を含有すると、さらに高い焼結抑制効果が得られる。
【0072】
前記セリウム、イットリウム以外の希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物の含有量は、前記ジルコニウム複合酸化物全体に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上、特に好ましくは5質量%以上である。前記セリウム、イットリウム以外の希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物の含有量は、前記ジルコニウム複合酸化物全体に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下、である。前記セリウム、イットリウム以外の希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物の含有量が1質量%以上30質量%以下であると、さらに高い焼結抑制効果が得られる。
【0073】
前記ジルコニウム複合酸化物は、ジルコニア、及び、セリウム、イットリウム以外の希土類元素の酸化物以外に、
A)In、Si、Sn、Bi及びZnからなる群から選ばれる1種以上の酸化物
B)遷移金属酸化物(但し、希土類元素及び貴金属元素の酸化物を除く)、及び、
C)アルカリ土類金属酸化物
からなる群から選ばれる1種以上の元素の酸化物を含むことができる。
以下、A)~C)で示した元素を、本明細書では、「その他の元素」ということとする。前記ジルコニウム複合酸化物が前記その他の元素の酸化物を含む場合、前記その他の元素の酸化物の含有量は、前記ジルコニウム複合酸化物全体を100質量%としたとき、酸化物換算で0.1質量%以上とすることができる。前記その他の元素の酸化物の含有量は、上限に制限は特にないが、20質量%以下、10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下等とすることができる。
前記遷移金属としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、Ta、W等が挙げられる。前記アルカリ土類金属としては、Mg、Ca、Sr、Ba等が挙げられる。
【0074】
前記ジルコニウム複合酸化物は、その他、本発明の趣旨に反しない範囲(例えば、0.5質量%以下)で、不純物が含まれていても構わない。前記不純物としては特に限定されず、原料に含まれる成分、製造工程において混入する成分、製造工程において除去しきれない成分(例えば、SO4等)等が挙げられる。
【0075】
前記ジルコニウム複合酸化物は、酸化イットリウムを20mol%以上30mol%以下含む安定化ジルコニアを含むことが好ましい。つまり、前記ジルコニウム複合酸化物が安定化ジルコニアを含む場合、安定化ジルコニアに含まれる酸化イットリウムの含有量は、安定化ジルコニア全体に対して20mol%以上30mol%以下であることが好ましい。安定化ジルコニアは、酸化イットリウム含有量が23mol%で融点が最高となる。そこで、酸化イットリウムを20-30mol%以上含み、高い融点を有する安定化ジルコニアを含ませると、さらに高い焼結抑制効果が得られる。
【0076】
前記安定化ジルコニアに含まれる酸化イットリウムの含有量は、安定化ジルコニア全体に対して、より好ましくは22mol%以上、さらに好ましくは24mol%以上である。
前記安定化ジルコニアに含まれる酸化イットリウムの含有量は、安定化ジルコニア全体に対して、より好ましくは28mol%以下、さらに好ましくは26mol%以下である。
【0077】
前記ジルコニウム複合酸化物の好ましい組成比率としては、下記(1)~(4)に例示される合計100%を超えない組合せが挙げられる。
(1) 酸化ジルコニウム;30%以上95%以下
酸化イットリウム;5%以上40%以下
酸化セリウム;5%以上50%以下
酸化イットリウム、酸化セリウム以外の希土類酸化物;0%以上30%以下
その他の元素の酸化物;0%以上10%以下
(2) 酸化ジルコニウム;35%以上92%以下
酸化イットリウム;10%以上40%以下
酸化セリウム;7.5%以上47.5%以下
酸化イットリウム、酸化セリウム以外の希土類酸化物;1%以上20%以下
その他の元素の酸化物;0%以上5%以下
(3) 酸化ジルコニウム;40%以上90%以下
酸化イットリウム;15%以上37.5%以下
酸化セリウム;10%以上45%以下
酸化イットリウム、酸化セリウム以外の希土類酸化物;2.5%以上15%以下
その他の元素の酸化物;0%以上2.5%以下
(4) 酸化ジルコニウム;43%以上85%以下
酸化イットリウム;20%以上35%以下
酸化セリウム;12.5%以上41%以下
酸化イットリウム、酸化セリウム以外の希土類酸化物;4%以上10%以下
その他の元素の酸化物;0%以上1%以下
【0078】
本実施形態に係るジルコニウム複合酸化物によれば、酸化イットリウムを5質量%以上という高含有量で含み、且つ、焼結抑制効果を有する酸化セリウムを含み、1250℃で10時間加熱した後の比表面積が、3.0m2/g以上であるため、1200℃を超えるより高温に晒されたとしても、高い比表面積を維持することが可能である。
【0079】
[ジルコニウム複合酸化物の製造方法]
以下、ジルコニウム複合酸化物の製造方法の一例について説明する。ただし、本発明のジルコニウム複合酸化物の製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0080】
本実施形態に係るジルコニウム複合酸化物の製造方法は、
Zrと酸化物換算で20mol%以上30mol%以下のYとを含む複合水酸化物を得る第1工程、
硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液との混合液と、前記複合水酸化物と、を混合することにより塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を得る第2工程、及び、
前記塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に、セリウムの塩溶液、又は、化合物を添加する第3工程を有する。
【0081】
<第1工程>
本実施形態に係るジルコニウム複合酸化物の製造方法においては、まず、Zrと酸化物換算で20mol%以上30mol%以下のYとを含む複合水酸化物を得る。
【0082】
前記複合水酸化物は、ジルコニウム塩溶液とイットリウム塩溶液とを混合することにより得ることができる。
【0083】
ジルコニウム塩としては、ジルコニウムイオンを供給するものであればよく、例えば、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等を使用できる。これらは1種又は2種以上で使用できる。この中でも、工業的規模での生産性が高い点でオキシ塩化ジルコニウムが好ましい。
【0084】
ジルコニウム塩溶液を作るための溶媒としては、ジルコニウム塩の種類に応じて選択すればよい。通常は水(純水、イオン交換水)が好ましい。
【0085】
ジルコニウム塩溶液の濃度は特に制限されないが、一般的には溶媒1000g中に酸化ジルコニウム(ZrO2)として5~250g(特に20~150g)含有されることが望ましい。
【0086】
前記イットリウム塩溶液としては、特に限定されず、例えば塩化イットリウム溶液、硝酸イットリウム溶液、酢酸イットリウム溶液等が挙げられる。
【0087】
上記イットリウム塩溶液における溶媒としては、特に限定されず、例えば水、エーテル、エタノール等が挙げられる。
【0088】
上記イットリウム塩溶液の濃度は、特に限定されないが、イットリウムの酸化物換算で10~20質量%が好ましい。
【0089】
ジルコニウム塩溶液とイットリウム塩溶液とを混合する際には、酸化物換算でZrO2とY2O3との合計の濃度が5w/v%(質量体積パーセント)以上20w/v%(質量体積パーセント)以下となるように調製することが好ましい。前記濃度を5w/v%以上とすることにより、後述するろ別処理に長時間を要しなくて済む。また、前記濃度を20w/v%以下とすることにより、特に冬季において溶液からジルコニウム、イットリウム塩が析出してしまうことを防止することができる。
【0090】
また、ジルコニウム塩溶液とイットリウム塩溶液とを混合する際には、得られる複合水酸化物に含まれるZrとYとの合計に対するYの含有量が、酸化物換算で20mol%以上30mol%以下となるように混合することが好ましい。Yの含有量が酸化物換算で20mol%以上30mol%以下となるように混合すると、最終的に得られるジルコニウム複合酸化物に含まれる安定化ジルコニアの酸化イットリウムの含有量を20mol%以上30mol%以下とすることが可能となる。
【0091】
なお、ジルコニウム塩溶液とイットリウム塩溶液とを混合した後、水酸化物を得るために、NaOH水溶液、NH3OH水溶液等のアルカリを加える。アルカリとしては限定されず、例えば、水酸化アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が使用できる。この中でも、工業的なコスト面から水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリの添加量は、混合溶液から沈殿物として水酸化物を生成させることができれば特に限定されない。通常は上記溶液のpHが11以上、好ましくは12以上となるように添加する。
【0092】
以上により、ZrとY2O3換算で20mol%以上30mol%以下のYとを含む複合水酸化物ZrとYを含む複合水酸化物(以下、「YSZ前駆体」ともいう)が得られる。その後、ろ別、洗浄を行う。
【0093】
次に、前記YSZ前駆体を120℃~180℃まで昇温させ、圧力0.2×105Pa~1.0×106Paで、30~90分間保持し、前記YSZ前駆体スラリーを得る。
【0094】
以上、第1工程について説明した。
【0095】
<第2工程>
次に、硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液との混合液と、前記複合水酸化物(YSZ前駆体)と、を混合し、加熱することにすることにより塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を得る(第2工程)。
【0096】
硫酸塩化剤としては、ジルコニウムイオンと反応して硫酸塩を生成させるもの(すなわち、硫酸塩化させる試薬)であれば限定されず、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム等が例示される。硫酸塩化剤は、粉末状、溶液状等のいずれの形態でもよいが、溶液(特に水溶液)が好ましい。溶液を用いる場合の溶液の濃度は適宜設定できる。
【0097】
硫酸塩化剤は、硫酸根(SO4
2-)/ZrO2の重量比が0.3~0.6となるように添加することが好ましい。また、混合液のフリーの酸濃度は、0.2~2.2N(規定)とすることが好ましい。フリーの酸としては、硫酸、硝酸、塩酸等が例示される。フリーの酸の種類は限定されないが、塩酸が工業的規模での生産性が高い点で好ましい。
【0098】
ジルコニウム塩溶液としては、第1工程の項で説明したジルコニウム塩溶液と同様のものを採用することができる。
【0099】
硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液とを混合し、加熱すると、塩基性硫酸ジルコニウムが生成する。つまり、前記混合液は、塩基性硫酸ジルコニウムを含有する。ジルコニウム塩溶液と硫酸塩化剤は、通常65℃以上の温度において反応し、塩基性硫酸ジルコニウムが生成する。本発明においては、オートクレーブ中で、温度100℃以上のYSZ前駆体スラリーにジルコニウム塩溶液と硫酸塩化剤の混合液を添加することによって塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる。
【0100】
前記混合液と前記複合水酸化物(YSZ前駆体)との混合比率としては、特に限定されないが、最終的に得られるジルコニウム複合酸化物に含まれる酸化イットリウムの含有量が5質量%以上40質量%以下となるような比率とすることが好ましい。
【0101】
前記混合液と前記複合水酸化物との混合時間としては、10分~60分が好ましい。混合時間を10分~60分とすることにより、生成した塩基性硫酸ジルコニウムを熟成させることができる。塩基性硫酸ジルコニウムとしては限定されないが、例えば、ZrOSO4・ZrO2、5ZrO2・3SO3、7ZrO2・3SO3等の化合物の水和物が例示される。なお、塩基性硫酸ジルコニウムは、これらの1種又は2種以上の混合物でもよい。
前記混合液と前記複合水酸化物との混合温度としては、110℃~150℃が好ましい。
【0102】
前記混合液と前記複合水酸化物とを混合した後、通常、60℃以下にまで冷却する。
【0103】
前記冷却は、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下である。前記冷却は、下限温度は特に制限はないが、反応液が凍結しない程度が好ましく、例えば、10℃以上、20℃以上等が挙げられる。前記冷却の速度は、特に制御する必要はなく、自然放冷としてよい。ただし、スケールが大きい場合には、自然冷却に時間がかかるため、熱交換器等を使用して冷却してもよい。この場合、冷却速度は、例えば、0.1℃/分以上20℃/分以下の範囲内で適宜設定すればよい。
【0104】
以上により、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液が得られる。
【0105】
得られた前記塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液は、ジルコニウム硫酸塩生成により細孔が形成され、前記複合水酸化物(YSZ前駆体)がジルコニウム硫酸塩中に高分散されることとなる。
前記複合水酸化物は、イットリウムを多く含むため、最終的に得られるジルコニウム複合酸化物には、高い融点を有する安定化ジルコニアが高分散された状態となる。その結果、最終的に得られるジルコニウム複合酸化物は、高い焼結抑制効果が得られることになる。
【0106】
以上、第2工程について説明した。
【0107】
<第3工程>
その後、前記塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に、セリウムの塩溶液、又は、化合物を添加する(第3工程)。第3工程においては、さらに、セリウム以外の希土類元素(イットリウムを含む)から選ばれる1種又は2種以上の金属の塩溶液、又は、化合物を添加してもよい。
【0108】
前記第1工程、前記第2工程は、温度、及び、圧力の管理が容易であるオートクレーブ中で行うことが好ましい。
【0109】
次に、前記塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を中和することにより水酸化ジルコニウムを生成させる。具体的には、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液をアルカリで中和することにより、水酸化ジルコニウムとする。アルカリとしては限定されず、例えば、水酸化アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が使用できる。この中でも、工業的なコスト面から水酸化ナトリウムが好ましい。
【0110】
アルカリの添加量は、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液から沈殿物として水酸化ジルコニウムを生成させることができれば特に限定されない。通常は上記溶液のpHが11以上、好ましくは12以上となるように添加する。
【0111】
中和反応後は、水酸化ジルコニウム含有溶液を35~60℃で1時間以上保持することが好ましい。これにより、生成した沈殿が熟成されるとともに、濾別が容易となる。
【0112】
次に、水酸化ジルコニウムを固液分離法により回収する。例えば、濾過、遠心分離、デカンテーション等が利用できる。
【0113】
水酸化ジルコニウムを回収後、水酸化ジルコニウムを水洗し、付着している不純物を除去することが好ましい。
【0114】
水酸化ジルコニウムは、自然乾燥又は加熱乾燥により乾燥してもよい。
【0115】
次に、前記水酸化ジルコニウムを熱処理(焼成)することによりジルコニウム複合酸化物を得る。熱処理温度は特に限定されないが、400~900℃程度で1~5時間程度が好ましい。熱処理雰囲気は、大気中又は酸化性雰囲気中が好ましい。
【0116】
得られたジルコニウム複合酸化物は、必要に応じてハンドリング性向上などの目的で、凝集を解す処理(解砕処理)をしてもよい。
【0117】
以上、本実施形態に係るジルコニウム複合酸化物の製造方法について説明した。
【実施例】
【0118】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において得られたジルコニウム複合酸化物中には、不可避不純物として酸化ハフニウムを酸化ジルコニウムに対して1.3~2.5質量%含有(下記式(X)にて算出)している。
<式(X)>
([酸化ハフニウムの質量]/([酸化ジルコニウムの質量]+[酸化ハフニウムの質量]))×100(%)
【0119】
以下の実施例で示される各成分の含有量の最大値、最小値は、他の成分の含有量に関係なく、本発明の好ましい最小値、好ましい最大値と考慮されるべきである。
また、以下の実施例で示される測定値の最大値、最小値は、各成分の含有量(組成)に関係なく、本発明の好ましい最小値、最大値であると考慮されるべきである。
【0120】
[ジルコニウム複合酸化物の作製]
(実施例1)
<第1工程>
オキシ塩化ジルコニウム・8水和物92g(ZrO2換算:35g)をイオン交換水で溶解し、塩化イットリウム溶液200g(Y2O3換算:20g)と混合し、酸化物換算でZrO2とY2O3との合計の濃度が5w/v%(質量体積パーセント)となるように調製した。
【0121】
調製した溶液(イットリウム・ジルコニウム塩混合溶液)に25質量%NaOHを加え、ZrとYを含む複合水酸化物(YSZ前駆体)を得た。ろ別、洗浄後、前記YSZ前駆体をオートクレーブで150℃まで昇温させ、圧力5×105Paで、60分間保持し、YSZ前駆体スラリーを得た。
【0122】
なお、前記YSZ前駆体は、仕込み比率からの算出により、イットリウムを23mol%含有している。
【0123】
<第2工程>
その後、オキシ塩化ジルコニウム・8水和物45g(ZrO2換算:17g)をイオン交換水に溶解したジルコニウム塩溶液(ZrO2濃度25w/v%)と25質量%硫酸ナトリウム50gとを混合した混合溶液を、120℃で前記YSZ前駆体スラリーに滴下し、15分間保持し、その後冷却し、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を得た。
【0124】
<第3工程>
次に、前記塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に硝酸セリウム溶液200g(CeO2換算:20g)、硝酸ネオジム溶液50g(Nd2O3換算:5g)、硝酸プラセオジム溶液50g(Pr6O11換算:5g)を添加し、25質量%水酸化ナトリウムをpHが13以上になるまで添加し、水酸化物沈殿(水酸化ジルコニウム含有スラリー)を生成させた。
【0125】
得られた水酸化物沈殿をろ過し、十分水洗し、得られた水酸化物を105℃で24時間乾燥させた。乾燥させた水酸化物を大気中700℃で5時間熱処理(焼成)し、酸化物とした。得られた酸化物を乳鉢で解砕し、実施例1に係るジルコニウム複合酸化物を得た。表1には、仕込み比率から算出されるジルコニウム複合酸化物の組成を示した。
【0126】
(実施例2~実施例7)
表1に記載の組成比率となるように、第1工程、第2工程、第3工程で添加する材料の比率を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例7に係るジルコニウム複合酸化物を得た。なお、実施例2、実施例7においては、表1に記載の組成比率となるように、第3工程において、さらに、硝酸ランタン溶液を添加した。
【0127】
(比較例1)
オキシ塩化ジルコニウム・8水和物182g(ZrO2換算:70g)をイオン交換水に溶解し、次に35%塩酸及びイオン交換水により酸濃度が0.67N、ZrO2濃度が4w/v%となるように調整した。得られた溶液をオートクレーブに入れて圧力を2×105Paとし、120℃まで昇温させて同温度で5質量%硫酸ナトリウム1035gを添加し、更に15分間保持した。硫酸塩化後、室温になるまで放冷し、塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーを得た。塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーに硝酸セリウム溶液199g(CeO2換算:20g)、硝酸ネオジム溶液75g(Nd2O3換算:7.5g)及び硝酸プラセオジム溶液25g(Pr6O11換算:2.5g)を添加した。次に、25質量%水酸化ナトリウム500gを60分間かけて添加した。この中和により、水酸化ジルコニウムを生成させた。次に、水酸化ジルコニウム含有スラリーを濾過・水洗した後、700℃で5時間焼成して酸化物を得た。
【0128】
(比較例2)
表1に記載の組成比率となるように材料の比率を調整したこと以外は、比較例1と同様にしてジルコニウム複合酸化物を得た。なお、表1に記載の組成比率となるように、さらに、硝酸ネオジム溶液の代わりに硝酸イットリウム溶液を添加した。
【0129】
[加熱前の比表面積の測定]
実施例、比較例のジルコニウム複合酸化物の比表面積を、比表面積計(「マックソーブ」マウンテック製)を用いてBET法にて測定した。結果を表1に示す。
【0130】
[1000℃で3時間加熱した後の比表面積の測定]
実施例、比較例のジルコニウム複合酸化物について、大気圧(0.1013MPa)下、1000℃で3時間加熱した。1000℃で3時間加熱した後のジルコニウム複合酸化物の比表面積を、「加熱処理前の比表面積の測定」と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0131】
[1100℃で3時間加熱した後の比表面積の測定]
実施例、比較例のジルコニウム複合酸化物について、大気圧(0.1013MPa)下、1100℃で3時間加熱した。1100℃で3時間加熱した後のジルコニウム複合酸化物の比表面積を、「加熱処理前の比表面積の測定」と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0132】
[1200℃で3時間加熱した後の比表面積の測定]
実施例、比較例のジルコニウム複合酸化物について、大気圧(0.1013MPa)下、1200℃で3時間加熱した。1200℃で3時間加熱した後のジルコニウム複合酸化物の比表面積を、「加熱処理前の比表面積の測定」と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0133】
[1200℃で10時間加熱した後の比表面積の測定]
実施例、比較例のジルコニウム複合酸化物について、大気圧(0.1013MPa)下、1200℃で10時間加熱した。1200℃で10時間加熱した後のジルコニウム複合酸化物の比表面積を、「加熱処理前の比表面積の測定」と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0134】
[1250℃で10時間加熱した後の比表面積の測定]
実施例、比較例のジルコニウム複合酸化物について、大気圧(0.1013MPa)下、1250℃で10時間加熱した。1250℃で10時間加熱した後のジルコニウム複合酸化物の比表面積を、「加熱処理前の比表面積の測定」と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0135】
[加熱前の細孔容積の測定]
細孔容量及び細孔径は、測定装置「Belsorp mini II(MicrotracBEL社製)」を用い、BJH法により測定した。
【0136】
得られた細孔分布を用い、全細孔容積を求めた。結果を表1に示す。
【0137】
[1250℃で10時間加熱した後の細孔容積の測定]
実施例、比較例のジルコニウム複合酸化物について、大気圧(0.1013MPa)下、1250℃で10時間加熱した。1250℃で10時間加熱した後のジルコニウム複合酸化物の比表面積を、「加熱処理前の比表面積の測定」と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0138】
【要約】
【課題】 1200℃を超えるより高温に晒されたとしても、高い比表面積を維持することが可能なジルコニウム複合酸化物を提供すること。
【解決手段】 5質量%以上50質量%以下の酸化イットリウムと、酸化セリウムとを含み、1250℃で10時間加熱した後の比表面積が、3.0m2/g以上20.0m2/g以下であるジルコニウム複合酸化物。
【選択図】 なし