(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】草履・下駄・サンダルの鼻緒
(51)【国際特許分類】
A43B 3/00 20220101AFI20220413BHJP
A43B 23/02 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
A43B3/00 103F
A43B23/02 108
A43B3/00 103E
A43B3/00 102G
A43B3/00 102H
(21)【出願番号】P 2020152385
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2020-08-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520059580
【氏名又は名称】有限会社丸越商事
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克己
【審査官】関口 知寿
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第358702(JP,Z1)
【文献】登録実用新案第3042146(JP,U)
【文献】登録実用新案第3026175(JP,U)
【文献】登録実用新案第3062729(JP,U)
【文献】特開2001-078802(JP,A)
【文献】登録実用新案第3134763(JP,U)
【文献】登録実用新案第3106131(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/0230286(US,A1)
【文献】登録実用新案第3017040(JP,U)
【文献】ワラーチ改3,2017年07月28日,https://ameblo.jp/seekr3/entry-12296325462.html
【文献】「革」でワラーチを作った [マラソン],2015年06月22日,https://chimamo.blog.ss-blog.jp/2015-06-22
【文献】ワラーチを作る、走る,2018年04月20日,http://blog.livedoor.jp/h_cal/archives/52437283.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 3/00
A43B 3/12
A43B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央の折れ曲り部を介して形成された足の甲にかかる横緒と、前記横緒の前記中央の折れ曲り部より下方側へ突き出すように固定された足の親指と人差し指の間部分にかかる前ツボとを有している草履・下駄・サンダルの台座上に取り付けられる草履・下駄・サンダルの鼻緒において、
前記鼻緒が、鼻緒表面材と鼻緒裏面材の間に、クッション材と全長及び鼻緒の両端部から突出する領域に亘
る紐芯とを有しており、
前記前ツボは、前記中央の折れ曲り部の前記鼻緒裏面材に形成した貫通孔から引き出
された前記紐芯
であって、引き出された部分の先端
が切断
された状態の2本の紐芯を撚らずに
形成されており、
前記紐芯が、ゴム糸が組糸や巻糸に包まれた状態で編んで断面が円または楕円となる丸ゴム紐であることを特徴とする草履・下駄・サンダルの鼻緒。
【請求項3】
前記中央の折れ曲り部より足の甲の両側にかかるように形成される2本の前記横緒の終端部に第1貫通孔と第2貫通孔を形成し、
かつ、前記横緒の終端部から第1貫通孔と第2貫通孔が配置されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の草履・下駄・サンダルの鼻緒。
【請求項5】
前記紐芯を前記クッション材の前記第1貫通孔を通して、前記鼻緒表面材の前記第1貫通孔から上部に引き出し、
前記紐芯を前記鼻緒表面材の前記第2貫通孔と前記クッション材の前記第2貫通孔を通じて前記鼻緒裏面材の前記第2貫通孔から下部に引き出し、
前記紐芯を前記鼻緒裏面材の前記第1貫通孔と前記クッション材の第1貫通孔を通じて前記鼻緒表面材の前記第1貫通孔から上部に引き出すことにより、
前記紐芯と前記鼻緒を固定させることを特徴とする請求項4に記載の草履・下駄・サンダルの鼻緒。
【請求項6】
前記鼻緒表面材と前記鼻緒裏面材と前記クッション材と前記紐芯に使用される合成樹脂が、植物性由来の合成樹脂あるいは生分解性樹脂から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の草履・下駄・サンダルの鼻緒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、草履や下駄・サンダルの台座上に取り付けられる鼻緒に係り、特に鼻緒を形成する横緒の折れ曲り部より下方側に向けて、横緒の下方に突出されて形成された前ツボ(前緒)と足の親指と人差し指の間部分にかかる摩擦を低減し、かつ、鼻緒と和装草履や和装下駄・サンダルの台座との脱着を容易にした鼻緒に関する。なお、鼻緒の折れ曲り部は、足の親指と人差し指の間部分に位置する部分、すなわち、前ツボの平面上の位置を意味する。鼻緒は、折れ曲り部で折り畳み形成されてもよく、また、U字に形成されていてもよい。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の草履・下駄等の鼻緒構造としては、特許文献1に開示されているように、足の甲にかけられる横緒の略中央に折り畳み形成した折れ曲り部に前から後ろに掛けるようにして前ツボを下方に突出させているのであり、この前ツボ自体は、細帯平板状の帯紐材を巻き込んでからこれを下側で綴じて縫合させることにより、台座の前後方向に対して横向きとなるように形成されていた。
【0003】
また、中心の紐材の表面に緩衝材を巻き、さらに表面材を巻くことで太くなるために指で挟んだ時に摩擦がおきやすい。むしろ鼻緒の履物で痛みや皮剥けが起きるほとんどの場合は鼻緒本体と前ツボの結合部の鼻緒本体側の折れ曲り部位で足の親指と人差し指の付け根の足の甲部分に起きるのでほぼ解決はされていない。一方、製作するのに工程が多く、取り付けは従来と変わらず習熟した技能を持った者でなければ難しいという課題がある。
【0004】
また、例えば、特許文献2に開示されているように、略V字型に形成された足の甲にかかる幅広で平たい横緒の前部中央に、台座の前後方向に対して直交するように上下に互いに平行な横向きスリット状の差込孔を対向形成し、この差込孔に略逆U字型に折り込まれた細帯平板状の帯紐材の両端を上方から差し込み、台座の前後方向に対して横向きで且つ上下に平行となるように下方へ突き出させた前ツボを有する鼻緒も提案されている。
【0005】
しかし、足の甲にかける横緒が幅広で平たく、横緒の全方向中央に二箇所の穴から下方に足の親指と人差し指で挟む前ツボ部分を作るのは、従来より靴分野のサンダル類(ベンハー型)では広く使われている構造であり、また、横緒の後ろ側を天芯と底材の間に挟む構造も靴分野のサンダルでは通常広く使われている構造である。
【0006】
また、例えば、特許文献3に開示されているように、中央の折れ曲り部を介して折り畳み形成した足の甲にかかる横緒と、横緒の折れ曲り部より下方側へ突き出すように固定した足における親指と人差し指の間部分にかかる前ツボとを有して草履・下駄・サンダルの台座上に取り付ける構造であり、折れ曲り部を介する横緒夫々に台座の前後方向に平行な縦向きスリット状の2ケ所の差込孔を対向形成し、前記前ツボは、二股状に折り込んでからその両端を、横緒の折れ曲り部の左右部分相互間に跨がるようにして2ケ所の差込孔の上方から差し込み、横緒内の横緒通芯紐を貫挿して台座の前後方向に沿って左右平行で下方へ突き出すようにして形成する鼻緒も提案されている。
【0007】
しかし、従来の構造より前ツボを取り付ける工程が多く鼻緒の着脱は習熟技能をもった者でないとできないのは変わりがない。鼻緒本体中央部上側二箇所、下側二箇所にそれぞれ差込孔を設け、麻紐を避けながら中の芯の中央を貫通させ縫い付けているので、複雑である。さらに鼻緒本体の中央部折り曲げ付近で貫通させるのは習熟した技能を持った者でも難しい。前ツボは従来と同じで麻紐に生地や皮などを縫い付けて作らなければならない履物の後ろの穴に入る鼻緒の後ろ部分の鼻緒本体と麻紐の固定は従来通りで習熟した技能を持った者でないと難しいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実用新案第3042146号公報
【文献】実開平5-43901号公報
【文献】特開2001-788022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながらこのような従来提案の草履・下駄・サンダルの鼻緒では、足の親指と人差し指の間部分にかかる細帯平板状の帯紐材による前ツボの幅が横向きに広いため、前ツボは足における親指と第2指との間を拡開させるように働き、長時間履用すると親指、第2指夫々に前ツボが食い込んで痛くなるという問題があった。
【0010】
また、鼻緒は従来、前ツボを鼻緒本体に縫い付けるために足の親指と人差し指の間部分に縫い目が触る場合があり、この時に痛みを伴うことや、また、本体の中に形状を保つためにボール紙を入れているので中央で折り曲げることで足の親指と人差し指の間部分にボール紙の硬さを感じ、また、痛みを伴うという問題があった。
【0011】
履きよく足が痛くならない下駄や草履と雪駄は、長年培った熟練者が厳選した作る中綿がたっぷり入った柔らかい鼻緒と、履く人の足にぴたりと合い、緩みにくい熟練の鼻緒挿げ技術が必要になる。靴のように細かいサイズが無い下駄や草履、雪駄は、鼻緒の挿げ具合を調整して様々な足の大きさ、幅、甲の高さに合わせ、鼻緒が柔らかくても、足に合わなければ歩きにくく、足に合っていても、鼻緒が硬ければ痛くなることから、鼻緒と履物本体の着脱・調整には、習熟した技能を持った者でなければできないとう問題があった。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、長時間履用しても足における親指と足の親指と人差し指の間部分に前ツボが食い込んでしまうのを防止して痛くならないようにし、また、草履・下駄・サンダルの履用時において、足の親指と人差し指の間部分に無理なくスムーズに前ツボをかけて容易に履用出来るようにすることである。また、鼻緒と履物本体の着脱・調整習熟した技能を持たない者でも、簡単に出来るようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明にあたっては、中央の折れ曲り部3Cを介して形成された足の甲にかかる横緒9と、前記横緒の前記中央の折れ曲り部3Cより下方側へ突き出すように固定された足の親指と人差し指の間部分にかかる前ツボ3Aとを有している草履・下駄・サンダルの台座上に取り付けられる草履・下駄・サンダルの鼻緒において、前記鼻緒が、鼻緒表面材2Aと鼻緒裏面材2Bの間に前記紐芯3とクッション材4を形成してなり、前記中央の折れ曲り部3Cの前記鼻緒裏面材に形成した貫通孔2Cから引き出した前記紐芯3を前記前ツボ3Aとし、前記紐芯が、ゴム糸が組糸や巻糸に包まれた状態で編んだ丸ゴム紐であることを特徴とする。
【0014】
前記中央の折れ曲り部3Cより足の甲の両側にかかるように形成される2本の前記横緒9の終端部から、前記紐芯3を引き出し、前記前ツボ3Aとともに台座に固定することを特徴とする。
【0016】
前記中央の折れ曲り部3Cより足の甲の両側に係るように形成される2本の前記横緒9の終端部に第1貫通孔4A・6A・6Cと第2貫通孔4B・6B・6Dを形成し、かつ、前記横緒9の終端部から第1貫通孔4A・6A・6Cと第2貫通孔4B・6B・6Dが配置されることを特徴とする。
【0017】
前記第1貫通孔4A・6A・6Cと前記第2貫通孔4B・6B・6Dは、前記鼻緒表面材2Aと前記クッション材4と前記鼻緒裏面材2Bを同軸状に貫通することを特徴とする。
【0018】
前記紐芯3を前記クッション材4の前記第1貫通孔4Bを通して、前記鼻緒表面材2Aの前記第1貫通孔6Aから上部に引き出し、前記紐芯3を前記鼻緒表面材2Aの前記第2貫通孔6Bと前記クッション材4の前記第2貫通孔4Bを通じて前記鼻緒裏面材2Bの前記第2貫通孔6Dから下部に引き出し、前記紐芯3を前記鼻緒裏面材2Bの前記第1貫通孔6Cと前記クッション材4の第1貫通孔4Aを通じて前記鼻緒表面材2Aの前記第1貫通孔6Aから上部に引き出すことにより、前記紐芯3と前記鼻緒1を固定させることを特徴とする。
【0019】
前記鼻緒表面材と前記鼻緒裏面材と前記クッション材と前記紐芯に使用される合成樹脂が、植物性由来の合成樹脂あるいは生分解性樹脂から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
上記構成の本発明によれば、長時間履用しても足における親指と足の親指と人差し指で挟む部分に前ツボが食い込んでしまうのを防止して痛くならないようにし、また、草履・下駄・サンダルの履用時において、足の親指と人差し指で挟む部分に無理なくスムーズに前ツボをかけて容易に履用出来るようにすることが出来る。また、鼻緒と履物本体の着脱・調整に習熟した技能を持たない者でも、簡単に出来るようにすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図4】 鼻緒裏面に前ツボを引き出すための切り込み部分表す図
【
図7】 前ツボを履物の前の貫通孔に通して結べるようにするために切り離した図
【
図11】 履物の後ろの孔に入る部分の紐芯と鼻緒本体を一体化させるための紐芯を通す手順を示した図
【
図18】 従来の鼻緒を中央の折れ曲り部で追った状態示す図
【
図21】 実施形態2の鼻緒本体を履物に取り付けた時の表面図
【
図22】 実施形態2の鼻緒本体を履物に取り付ける時の裏面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものでない。
〈実施形態1〉
【0023】
1.従来技術による鼻緒の構造
鼻緒1は、通常、足の甲にかかる横緒9と、前記横緒の前記中央の折れ曲り部より下方側へ突き出すように固定された足の親指と人差し指の間にかかる前ツボ3Aが具備される。
横緒は、鼻緒表面材と鼻緒裏面材とを合わせて縫製または接着剤などにより固定して合わせてあるもので、鼻緒表面材と鼻緒裏面材との間には、芯材となる強靭な紐芯を包むようにスポンジ、綿、不織布、皮革等の足の甲に柔らかく当たるためのクッション材や保形材を入れることで全体が筒状となる膨らみを持たせてあり、鼻緒表面材には和装に見合った絵柄・模様等を施してある。そして、鼻緒中央の折れ曲り部を介して、例えば鼻緒表面材を外側にし、鼻緒裏面材を内側にして折り込むと共に、折り込まれた横緒の後部両端側には、後部から外出する紐芯と共に縛結用の紐の一端を結び付けてある。
【0024】
図17に従来品の鼻緒の外観図を示す。鼻緒の構成は、鼻緒表面材と裏面材とを縫製し、その中に鼻緒の保形材としてのダンボ―ルや紐芯としての麻紐が配置されている。鼻緒中央の折れ曲り部を介して、鼻緒表面材を外側にし、鼻緒裏面材を内側にして折り込むと、
図18に外観図を示すように、下部方向に凸部が形成される。この凸部は、足の親指と人差し指の間に当たるので、痛みの原因となる。
また、鼻緒表面材と鼻緒裏面材との縫製状態と鼻緒内部の構成によっては、縫製部が、足の親指と人差し指の間に当たる場合があり、痛みの原因になる場合がある。
【0025】
2.実施形態1に係る構造
本発明の鼻緒1は、
図1、
図2、
図3に示すように、鼻緒外装部2の間にクッション材4と紐芯3を配置することにより構成される。鼻緒外装部2は、鼻緒表面材2Aと鼻緒裏面材2Bからなり、その境目は縫製、あるいは、接着剤などで固定されているのが一般的である。もちろん、鼻緒外装部2は、縫製がない中空の一体構造であっても、かまわない。
【0026】
図8に本発明の鼻緒1の断面図を示す。上から鼻緒表面材2A、クッション材4、紐芯3、鼻緒裏面材2Bが配置されている。紐芯3の配置は、クッション材の上下のどちらでも構わないが、紐芯3を鼻緒1の下方に取り出す場合は、紐芯3をクッション材4の下方面に配置するほうが好適である。
クッション材の形状は、断面が四角形、多角形、円、楕円が使用されるが、製造方法を考慮すると、四角形が好適である。また、円筒状のクッション材を使用し、中心部に紐芯を配置することにより、クッション材と紐芯のハンドリングを容易にする方法も考えられるが、クッション材の肉厚が薄くなるので、曲げ強度が強い材料が必要になる。
【0027】
図4に示すように、鼻緒1の鼻緒裏面材2Bの中央の折れ曲り部3Cに貫通孔2Cを設け、
図5に示すように、この貫通孔2Cから紐芯3を直接引き出し、これを前ツボ3Aとして使用する。これにより、
図6に示すように縫製の縫い目5が足の親指と人差し指の間部分に当たる事がなく、また、紐芯3を弾力性のある材料を使用することにより、足の親指と人差し指の間に当たり方が大幅に改善される。
また、使用するクッション材や保形材として柔軟性と弾力性のある発泡樹脂を使用することにより、鼻緒の中央折り返し部の鼻緒裏面材に発生する凸部の発生を抑制する事が出来、また、鼻緒本体の折り曲げ部分の足・指に触る感じを柔らかくすることが出来る。
【0028】
一方、
図7に示すように、鼻緒1の鼻緒裏面材2Bの中央の折れ曲り部3Cに貫通孔2Cから紐芯3を直接引き出し、その先端を切断することにより、下駄や草履の前ツボ3Aを固定するための貫通孔8Aに紐芯3を通し、下駄や草履の裏側8で簡単に結び固定することが出来る。さらに、紐芯は柔軟性と弾力性があるので、結び固定を強固にすることが出来る。
【0029】
図9と
図10に示すように、鼻緒の中央の折れ曲り部より足の甲の両側にかかるように形成された2本の横緒の終端部に第1貫通孔と第2貫通孔を形成し、かつ、横緒の終端部側から第1貫通孔と第2貫通孔が配置される。この孔は横緒の終端部から引き出された紐芯を鼻緒本体にしっかり固定し、かつ、草履や下駄の台座の貫通孔を通じて、裏面で固定するものである。
【0030】
以下に図面を使用して詳細に紐芯の鼻緒と台座に対する固定方法を説明する。横緒の終端部に形成された第1貫通孔と第2貫通孔は、上部から鼻緒表面材、クッション材、鼻緒裏面材を同軸状に貫通させた孔であり、形状は円形や多角形が考えられるが、加工方法やコストの観点から円形が好適である。直径は、紐芯の直径と同程度で良いが、紐芯が弾力性と柔軟性がある場合が好適であるので、20%から40%程度の小さい方がよい。これは、紐芯を横緒の終端部に強固に固定することが出来るためである。
【0031】
本実施形態1では紐芯は、クッション材の下部に配置させているので、先ず、紐芯をクッション材の第1貫通孔の上方に通す、さらに、鼻緒表面材の第1貫通孔を通して上方に引き出す。この状態を
図11-1に示す。
次に、紐芯を鼻緒表面材の第2貫通孔より下方に通し、クッション材の第2貫通孔を通じて、さらに鼻緒裏面材の第2貫通孔を通して、下方に引き出す。この状態を
図11-2に示す。
次に、紐芯を鼻緒裏面材の第1貫通孔を上方に通し、クッション材の第1貫通孔を通じて、鼻緒表面材の第1貫通孔を上方に引き出す。この状態を
図11-3に示す。さらに、紐芯を強固に引くことにより、紐芯が横緒に強固に固定手することが出来る。この時の状態を、
図11-4に示す。
【0032】
図12に完成した鼻緒の表面図を、また、
図13に鼻緒の裏面図を示す。この完成した鼻緒を下駄に取り付ける方法について説明する。下駄には、鼻緒を固定するための貫通孔を形成してあり、鼻緒の前側を固定するための貫通孔8Aと鼻緒の後ろ側を固定するための2ケ所の貫通孔8Bからなる。
鼻緒の前側を固定するための紐芯3を下駄の貫通孔8Aを通す。一方、鼻緒の後ろ側を固定するための2本の紐芯を下駄の2ケ所の貫通孔8Bを通す。この時の状態を
図14に示す。
次に、下駄の裏面8の前方の貫通孔8Aから引き出した2本の紐芯3Aを貫通孔8Aの直径より大きくなるように結ぶ。結び方は、特に指定はないが、結び目が玉状になるようにすることが好適である。この状態を
図15及び
図16に示す。
【0033】
3.実施形態1に係る材料
鼻緒に使用する表面あるいは裏面の素材は、牛・シカなどの天然皮革、人工皮革(基材にポリエステルやナイロンなどの不織布を用いたものであり、その上部にポリウレタン樹脂をコ-ティングしたもの)、合成皮革(基材に不織布以外を用いたものであり、編物や織物をベースにし、その上部にポリウレタン樹脂を厚く塗ったり、貼り合わせたりしたもの)、ベルベット・ベッチン・ベロアなどの立毛品、あるいは、網目の細かいメリヤス生地等の各種布地が使用される。また、コストの観点から、合成樹脂が使用され、特に、ポリ塩化ビニルが使用されている。実施形態1では、鼻緒表面材と鼻緒裏面材は、(株)ニッピフジタの牛革(天然皮革)を使用した。
【0034】
鼻緒のクッション材としては、合成樹脂発泡体を使用することが出来る。合成樹脂発泡体は、発泡プラスチックと呼ばれ、合成樹脂中にガスを細かく分散させ、発泡状(フォーム)または多孔質形状に成形されたものを指し、固体である合成樹脂と気体の不均一分散系とも定義出来る。本発明で使用するのは、発泡状(フォ-ム)である。これは、多孔質の場合は、水分等の液体を吸収する事から、防水性に問題があるためである。
発泡状(フォ-ム)の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンビニルアセテ-ト(EVA)、軟質ポリウレタン、硬質ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェノール、ポリイミド、シリコンゴム、ポリイミド、エチレンプロピレンジエンゴム、ユリア樹脂、アクリル樹脂等が使用される。
【0035】
鼻緒のクッション材としての要求される特性は、硬さ、柔軟性、軽さ、粘弾性、衝撃吸収性、耐久性、断熱性等がある。特に、硬さや柔軟性は重要な特性であり、デュロメ-タ(ゴム硬度計・タイプC)計測された値が、40~80の材料が使用され、特に、50~70 が好適である。この範囲は、鼻緒の横緒と足の甲の部分の肌触りが良好である。
一方、クッション材の密度は、小さい方が軽くなるが、小さ過ぎるとクッション材の強度が低下する問題がある。クッション材の強度は材料によって異なるが、鼻緒のクッション材としては、100kg/m3~250kg/m3の材料が使用され、150kg/m3~220kg/m3が好適である。
【0036】
鼻緒のクッション材の材質としては性能やコスト面から、ポリエチレンビニルアセテ-ト(EVA)が好適に使用される。また、軟質ウレタンフォ-ムはバネの様な「弾性」と粘土やゴムの様な「粘性」を併せ持つ「粘弾性フォーム」であり、中には、特殊な分子構造に設計され、「弾性」を抑え「粘性」を上げたフォームで、ヒステリシスロス率(JIS K 6400-2)の大きい衝撃吸収性フォームの特性がある素材があり、高価であるが、鼻緒のクッション材として、最適の材料もある。
実施形態1のクッション材として、平和(株)のEVA発泡体を使用した。硬度は、デュロメ-タ-(高分子計器(株)・アスカーゴム硬度計C型)の値が、60であった。
【0037】
紐芯の材料は、従来は、麻紐やポリプロピレンやレ-ヨンなど樹脂製の撚り紐を使用されてきた。本発明では、紐芯を前ツボとして使用する事から、弾力性と柔軟性がある素材を使用する必要がある。
適切な素材として、ゴム紐を使用することが出来る。ゴム紐は、天然ゴム糸やポリウレタン弾性糸などのキックバック力のある弾性糸を、綿糸、ポリエステル糸、ナイロン糸などの衣料用繊維の糸で織ったり、編んだり、組んだり、横巻きしたりして被覆した細幅の紐である。断面の形状は、平断面と丸断面があるが、丸断面が適している。
【0038】
ゴム紐の中の種類の一つである丸ゴム紐は本発明で好適である。丸ゴム紐は、天然ゴム糸やポリウレタン弾性糸を設定伸度まで引っ張った状態で、糸を組んだり、巻いたりするため、そのため丸ゴム紐の断面を見ると、ゴム糸(弾性糸)が組糸や巻糸に包まれた状態(袋状に編んだ状態)となっている。
製造方法はいくつかあるが、天然ゴム糸やポリウレタン糸などの弾性糸を芯にして、その周りをカバーリング機でカバード糸を横巻きしたものが好適である。実施形態1では(株)中村編織工業の丸ゴム紐を紐芯として使用した。この素材は、弾性、柔軟性があり、また肌に優しいことから、前ツボとして最適な素材である。また、強度があり、柔軟性があることから、紐芯としても好適な素材であり、また、鼻緒と紐芯の固定や草履や下駄やサンダルの台への固定も強固にすることが出来る。
【0039】
最近、世界中で合成樹脂などによる環境問題がクローズアップされている。本発明の鼻緒に使用する材料についても、今後検討して行く必要がある。
例えば、植物由来の材料の使用は石油資源の使用量削減に、生分解性材料の使用は二酸化炭素削減や海洋マイクロプラスチックの削減に繋がる。さらに、再生しやすい材料と再生した材料は主に石油資源の使用量削減や廃棄物削減がターゲットになる。
【0040】
鼻緒表面材や鼻緒裏面材に使用される人工皮革、合成皮革や合成樹脂は生分解性樹脂を使用することが望ましい。
例えば、人工皮革や合成は素材にポリエステルやナイロンなどの不織布が使用されているが、植物由来のポリエステルは、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)を、また、植物由来のポリウレタンを使用するのが望ましい。
また、生分解性の不織布としては、ポリグリコール酸樹脂(PGA)やキュプラ(コットンから製造される再生セルロース繊維)長繊維不織布が好適であるが、コストの問題がある。
一方、ポリ塩化ビニル(PVC)は、その耐久性からその耐久性能を生かし、さらに、リサイクルを行うことで経済・社会の持続性に貢献する取り組みは世界各地で行われているが、耐久性に優れる生分解性樹脂にするか、あるいは、植物由来のバイオベ-スポリ塩化ビニルを使用するのが望ましい。
【0041】
クッション材に使用する発泡状樹脂は、今後、生分解性発泡樹脂を使用するのが望ましい。
例えば、基本となる生分解性樹脂に炭酸ガス押し出し発泡法を用いると生分解性発泡樹脂を得ることができる。生分解性樹脂は、微生物産生系、天然系、化学合成系などがあるが、クッション材として好適なのは、微生物産生系ではポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)〔PHBH〕、天然系ではエステル化澱粉や澱粉/化学合成系グリーンプラ、化学合成系では(ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート系)ブロックコポリマー〔PLA-co-PBS〕、ポリカプロラクトン〔PCL〕、ポリブチレンサクシネート〔PBS〕、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)〔PBSA〕、ポリエチレンサクシネート〔PES〕、ポリウレタンなどである。
【0042】
紐芯に使用する材料も生分解性樹脂を使用することが望ましい。しかし、紐芯に使用する材料は、弾性の糸(繊維)が必要になるが、商品化されているものは少ない。従って、植物由来の弾性の糸を使用するのが望ましい。例えば、スパンデックス(ポリウレタン弾性繊維)が好適である。
〈実施形態2〉
【0043】
実施形態2の形状は、サンダル形状の本発明の鼻緒を示したものである。基本構造は実施形態1と基本的に同じであるが、鼻緒の外形はU字状に形成されており、また、断面構造が少し異なる。鼻緒外装部2の間にクッション材4と紐芯3を配置することにより構成される。鼻緒外装部2は、鼻緒表面材2Aと鼻緒裏面材2Bからなり、その境目は縫製されている。
上から鼻緒表面材2A、紐芯3、クッション材4、鼻緒裏面材2Bが配置されている。サンダル形状の場合、横緒9が足の甲に接する部分の面積が大きくなるため、鼻緒裏面材2Bを介してクッション材4でこの面積を受ける構造とした。
図19にサンダル形状の鼻緒の裏面から見た図を示す。紐芯3は、クッション材4に形成した貫通孔(図示せず)を通し、鼻緒裏面材の折れ曲り部3Cに形成された貫通孔部分2Cから直接引き出し、前ツボ3Aとする。
【0044】
図20に示すように、鼻緒裏面材の折れ曲り部3Cに形成された貫通孔部分2Cの周辺部には、鼻緒表面材と鼻緒裏面材の縫い目5が存在せず、また、鼻緒の折り畳みが形成されていないため凸部が発生していない。従って、足の親指と人差し指の間部分に縫い目や凸部が食い込むことが無いので、痛みの発生が軽減され、長時間履用することが出来る。
【0045】
鼻緒裏面材の折れ曲り部3Cに形成された貫通孔部分2Cから直接引き出された紐芯3Aの先端部を切断した後に、履物の台7に形成された貫通孔8Aを通じて履物の台の裏面に引き出し、貫通孔の直径より大きい結び目で固定することにより、紐芯を履物の台に固定できしっかり固定することが出来る。
一方、2箇所ある横緒9の終端部から紐芯をそれぞれ引き出した後に、終端部の鼻緒表面材と鼻緒裏面材を縫製する。履物の台7に形成された貫通孔8Bは、横緒終端部の断面形状を通すことができ、かつ断面形状より0.1~0.5mm程度小さく形成する。そして、2箇所の横緒終端部を履物の台の貫通孔を通した後、履物の台の裏面で紐芯を結ぶことより、強固に固定することが出来る。
図21と
図22に実施形態2の鼻緒を履物の台に固定した状態を示す。
【0046】
実施形態2で使用した鼻緒表面材、鼻緒裏面材、クッション材、紐芯は、実施形態1で使用した材料と同じ材料を使用した。
従来、鼻緒と履物本体の着脱・調整には、日本伝統の習熟した技能が必要であったが、上記構成の本発明によれば、習熟した技能を持たない者でも、簡単に調整出来る。
【符号の説明】
【0047】
1 鼻緒
2 鼻緒外装部
2A 鼻緒表面材
2B 鼻緒裏面材
2C 緒裏面の前ツボ部分を引き出す貫通孔部分
3 紐芯
3A 前ツボ(足の親指と人差し指で挟む部分)
3B 履物の後ろの孔に入り結ぶ紐部分
3C 中央の折れ曲り部
4 クッション材
4A クッション材の紐芯を通すための鼻緒本体終端部側の第1貫通孔
4B クッション材の紐芯を通すための鼻緒本体終端部側の第2貫通孔
5 鼻緒表面材と鼻緒裏面材縫い目
6A 鼻緒表面の紐芯を通すための鼻緒本体終端部側の第1貫通孔
6B 鼻緒表面の紐芯を通すための鼻緒本体終端部側の第2貫通孔
6C 鼻緒裏面の紐芯を通すための鼻緒本体終端部側の第1貫通孔
6D 鼻緒表面の紐芯を通すための鼻緒本体終端部側の第2貫通孔
7 履物の台(表面)
8 履物の台(裏面)
8A 前ツボ用の貫通孔
8B 履物の後ろの貫通孔
9 横緒