(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】分離型複列アンギュラ玉軸受、外輪アッシィおよび内輪アッシィ
(51)【国際特許分類】
F16C 19/18 20060101AFI20220413BHJP
F16C 33/32 20060101ALI20220413BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20220413BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
F16C19/18
F16C33/32
F16C33/58
F16C43/04
(21)【出願番号】P 2016238511
(22)【出願日】2016-12-08
【審査請求日】2019-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 孝一
(72)【発明者】
【氏名】河合 敏宏
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-066327(JP,U)
【文献】特開2005-147372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/18
F16C 33/32
F16C 33/58-33/64
F16C 43/04-43/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪と2列の玉とを備えた分離型複列アンギュラ玉軸受において、
前記外輪は2列の軌道溝のうち一方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、
前記内輪は2列の軌道溝のうち他方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、
前記外輪と前記カウンタボアの形成されていない軌道溝に保持された玉の列とを含む外輪アッシィが形成され、
前記内輪と前記カウンタボアの形成されていない軌道溝に保持された玉の列とを含む内輪アッシィが形成されていて、
前記外輪アッシィの玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の内輪アッシィに対して所定の組幅精度になる寸法のものであり、
前記内輪アッシィの玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の外輪アッシィに対して前記所定の組幅精度になる寸法のものであって、
前記外輪アッシィは特定の前記内輪アッシィだけでなく他の前記内輪アッシィとも互換性を有し、
前記内輪アッシィは特定の前記外輪アッシィだけでなく他の前記外輪アッシィとも互換性を有することを特徴とする分離型複列アンギュラ玉軸受。
【請求項2】
所定の内輪アッシィと分離可能に組み合されて分離型複列アンギュラ玉軸受となる外輪アッシィにおいて、
外輪の2列の軌道溝のうち一方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、
前記外輪の前記カウンタボアの形成されていない軌道溝に玉の列が保持されていて、
前記玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の内輪アッシィに対して所定の組幅精度になる寸法のものであって、
前記内輪アッシィは、内輪の2列の軌道溝のうち
他方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、前記内輪の前記カウンタボアの形成されていない軌道溝に玉の列が保持されていて、前記玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の外輪アッシィに対して所定の組幅精度になる寸法のものであって、
当該外輪アッシィは、特定の前記内輪アッシィだけでなく他の前記内輪アッシィとも互換性を有することを特徴とする外輪アッシィ。
【請求項3】
所定の外輪アッシィと分離可能に組み合されて分離型複列アンギュラ玉軸受となる内輪アッシィにおいて、
内輪の2列の軌道溝のうち一方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、
前記内輪の前記カウンタボアの形成されていない軌道溝に玉の列が保持されていて、
前記玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の外輪アッシィに対して所定の組幅精度になる寸法のものであって、
前記外輪アッシィは、外輪の2列の軌道溝のうち
他方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、前記外輪の前記カウンタボアの形成されていない軌道溝に玉の列が保持されていて、前記玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の内輪アッシィに対して所定の組幅精度になる寸法のものであって、
当該内輪アッシィは、特定の前記外輪アッシィだけでなく他の前記外輪アッシィとも互換性を有することを特徴とする内輪アッシィ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離型複列アンギュラ玉軸受とその外輪アッシィおよび内輪アッシィに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンギュラ玉軸受はラジアル荷重とアキシアル荷重とを同時に支持することができるが、特に複列のものは負荷能力が大きく剛性も高い。そのため複列アンギュラ玉軸受は、例えば自動車のデファレンシャルギヤ(最終減速機)のピニオン軸など、車両や機械等のなかでも比較的大きな荷重のかかる場所に多く使用されている。
【0003】
特許文献1には、自動車用トランスファーに使用されている複列アンギュラ玉軸受が開示されている。特許文献1の複列アンギュラ形玉軸受16は、
図2に示されているように、外輪側がケーシング1に固定されていて、内輪側が傘ピニオン軸5に固定されている。
【0004】
自動車部品に使用される複列アンギュラ玉軸受は、ハウジング側に固定された外輪と、軸側に固定された内輪とで、分離可能になっているものも多い。分離型複列アンギュラ玉軸受であれば、あらかじめ外輪をハウジングに固定し、内輪を軸に固定しておくことで、ハウジングに軸を挿入する作業に並行して軸受の組付け作業も完了できる。そのため、強固に組み付けられた非分離型の軸受が存在する状態でハウジングに軸を挿入する場合に比べて、作業の労力を減らすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自動車部品等に使用される軸受の外輪や内輪、および玉(鋼球)は、金属製品として厳格な品質管理の元で加工されているものの、同じ称呼寸法(基準値)で製造された同じロットの物同士であってもわずかながら寸法差が生じる。そのため、従来の分離型複列アンギュラ玉軸受にあっては、軸受として完成した状態における寸法精度を保つために、外輪と内輪のペアを解消することなく管理する必要があった。例えば、自動車部品等の組立工程において、ある軸受の内輪と外輪のペアを分離させて、内輪に軸をはめ込み、外輪をハウジングにはめ込んだ後には、内輪と外輪が再び同じペアに戻るように軸とハウジングを組み合わせていた。換言すれば、同じ型番の軸受であっても、ある軸受の外輪(または内輪)は他の軸受の内輪(または外輪)と互換性がなかった。
【0007】
上記のように軸受の内輪と外輪を管理するためには、必然的にある工場のひとつのラインで軸受の分離から再組立てまで行うことになる。しかしながら、近年の生産工程の細分化と多様化によれば、内輪側の部品の組立てと外輪側の部品の組立てとを別々に行い得ることが望ましい。仮にある軸受の外輪(または内輪)が他の軸受の内輪(または外輪)と互換性があれば、内輪側の部品の組立てと外輪側の部品の組立てを他のライン、他の工場、さらには異なる国の生産拠点で製造することも可能となる。すると、例えば、軸に内輪をはめ込んだ上で軸に他の加工を施すことが可能になり、ハウジングに外輪をはめ込んだ上でさらに他の加工を施すことも可能になる。すなわち、軸は軸の工場、ハウジングはハウジングの工場で生産することが可能となり、軸受を設置することによる生産工程の制限がなくなるという大きな利点がある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、寸法精度が高く、さらには他の外輪アッシィおよび内輪アッシィとの互換性が確保された分離型複列アンギュラ玉軸受とその外輪アッシィおよび内輪アッシィを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる分離型複列アンギュラ玉軸受の代表的な構成は、外輪と内輪と2列の玉とを備えた分離型複列アンギュラ玉軸受において、外輪は2列の軌道溝のうち一方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、内輪は2列の軌道溝のうち他方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、外輪とカウンタボアの形成されていない軌道溝に保持された玉の列とを含む外輪アッシィが形成され、内輪とカウンタボアの形成されていない軌道溝に保持された玉の列とを含む内輪アッシィが形成されていて、外輪アッシィの玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の内輪アッシィに対して所定の組幅精度になる寸法のものであることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、玉のゲージ(ロットの平均直径と呼び直径との寸法差)を利用して、外輪の称呼寸法に対する誤差を吸収し、より称呼寸法に近い外輪アッシィが実現できる。したがって、軸受全体としても寸法精度を高め、2列の玉の同時接触性を確保し、品質を向上させることができる。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明にかかる分離型複列アンギュラ玉軸受の他の代表的な構成は、外輪と内輪と2列の玉とを備えた分離型複列アンギュラ玉軸受において、外輪は2列の軌道溝のうち一方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、内輪は2列の軌道溝のうち他方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、外輪とカウンタボアの形成されていない軌道溝に保持された玉の列とを含む外輪アッシィが形成され、内輪とカウンタボアの形成されていない軌道溝に保持された玉の列とを含む内輪アッシィが形成されていて、内輪アッシィの玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の外輪アッシィに対して所定の組幅精度になる寸法のものであることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、玉のゲージを利用して、内輪の称呼寸法に対する誤差を吸収し、より称呼寸法に近い内輪アッシィが実現できる。したがって、軸受全体としても寸法精度を高め、2列の玉の同時接触性を確保し、品質を向上させることができる。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明にかかる外輪アッシィの代表的な構成は、所定の内輪アッシィと分離可能に組み合されて分離型複列アンギュラ玉軸受となる外輪アッシィにおいて、外輪の2列の軌道溝のうち一方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、外輪のカウンタボアの形成されていない軌道溝に玉の列が保持されていて、玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の内輪アッシィに対して所定の組幅精度になる寸法のものであることを特徴とする。
【0014】
上記構成によっても、玉のゲージを利用して、外輪の称呼寸法に対する誤差を吸収し、より称呼寸法に近い外輪アッシィが実現できる。したがって、軸受全体としても寸法精度を高め、品質を向上させることができる。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明にかかる内輪アッシィの代表的な構成は、所定の外輪アッシィと分離可能に組み合されて分離型複列アンギュラ玉軸受となる内輪アッシィにおいて、内輪の2列の軌道溝のうち一方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、内輪のカウンタボアの形成されていない軌道溝に玉の列が保持されていて、玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の外輪アッシィに対して所定の組幅精度になる寸法のものであることを特徴とする。
【0016】
上記構成によっても、玉のゲージを利用して、内輪の称呼寸法に対する誤差を吸収し、より称呼寸法に近い内輪アッシィが実現できる。したがって、軸受全体としても寸法精度を高め、品質を向上させることができる。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明にかかる分離型複列アンギュラ玉軸受の他の代表的な構成は、外輪と内輪と2列の玉とを備えた分離型複列アンギュラ玉軸受において、外輪は2列の軌道溝のうち一方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、内輪は2列の軌道溝のうち他方側の軌道溝が肩を落としたカウンタボア形状であり、外輪とカウンタボアの形成されていない軌道溝に保持された玉の列とを含む外輪アッシィが形成され、内輪とカウンタボアの形成されていない軌道溝に保持された玉の列とを含む内輪アッシィが形成されていて、外輪アッシィの玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の内輪アッシィに対して所定の組幅精度になる寸法のものであり、内輪アッシィの玉は、称呼寸法からなる理想的な形状の外輪アッシィに対して所定の組幅精度になる寸法のものであることを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、玉のゲージを利用して、外輪および内輪のそれぞれの称呼寸法に対する誤差を吸収し、より称呼寸法に近い外輪アッシィおよび内輪アッシィが実現できる。これら称呼寸法に近い外輪アッシィおよび内輪アッシィであれば、分離後に他の外輪アッシィおよび内輪アッシィと再組立てした場合にも、軸受としての組幅精度および玉の同時接触を保証することができる。すなわち、上記構成であれば、寸法精度の高い軸受が実現できるだけでなく、分離後に他の外輪アッシィおよび内輪アッシィと組み替えても品質が維持できる、互換性の高い分離型複列アンギュラ玉軸受を提供することができる。
【0019】
当該分離型複列アンギュラ玉軸受は、外輪および内輪が玉と多点接触可能になっていてもよい。当該分離型複列アンギュラ玉軸受は玉の同時接触が保証されているため、さらに3点や4点等の多点接触に設定することでより負荷能力が大きく剛性も高い軸受を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、寸法精度が高く、さらには他の外輪アッシィおよび内輪アッシィとの互換性が確保された分離型複列アンギュラ玉軸受とその外輪アッシィおよび内輪アッシィを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態にかかる分離型複列アンギュラ玉軸受を用いた差動装置の図である。
【
図2】
図1の分離型複列アンギュラ玉軸受を拡大して示した図である。
【
図3】外輪アッシィの玉の選定を説明する図である。
【
図4】内輪アッシィの玉の選定を説明する図である。
【
図5】分離型複列アンギュラ玉軸受の変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0023】
(分離型複列アンギュラ玉軸受100)
図1は、本発明の実施形態にかかる分離型複列アンギュラ玉軸受100を用いた差動装置102の図である。
図1に示す差動装置102では、当該分離型複列アンギュラ玉軸受100と他のアンギュラ玉軸受104を使用して、ピニオン軸106を回転可能に支えている。
【0024】
差動装置102では、リングギヤ108とピニオンギヤ110が噛合している。ピニオンギヤ110はピニオン軸106(ギヤ軸)の一端に備えられていて、ピニオン軸106の他端にはフランジ112(コンパニオンフランジ、または接続フランジともいう)が備えられている。フランジ112は不図示のプロペラシャフトに接続される部位である。ピニオン軸106やピニオンギヤ110の外側には、ハウジング114が設けられている。
【0025】
分離型複列アンギュラ玉軸受100は、ピニオンギヤ110の近傍に設けられている。分離型複列アンギュラ玉軸受100は、外輪116がハウジング114に固定されていて、内輪118がピニオン軸106に固定されている。アンギュラ玉軸受104は、フランジ112の近傍(ピニオン軸106のうちピニオンギヤ110とは反対側)に設けられている。
【0026】
図2は、
図1の分離型複列アンギュラ玉軸受100を拡大して示した図である。
図2(a)は、分離型複列アンギュラ玉軸受100の全体の概要を示している。
図2(a)に示すように、当該分離型複列アンギュラ玉軸受100は、外輪116と、内輪118と、これら外輪116と内輪118との間に形成された2列の玉120、122を備えている。本実施形態では、玉120、122は、同じ呼び直径で、同じピッチ径に設定されている。
【0027】
分離型複列アンギュラ玉軸受100は、外輪116および玉120を含む外輪アッシィ124と、内輪118および玉122を含む内輪アッシィ126とに分離可能になっている。分離型複列アンギュラ玉軸受100は、外輪アッシィ124をハウジング114(
図1参照)に固定し、内輪アッシィ126をピニオン軸106に固定して、分離することができる。分離型複列アンギュラ玉軸受100は、分離可能になっていることで、ハウジング114およびピニオン軸106の組立て作業を行いやすくするだけでなく、そのメンテナンスや再組立てなどの作業も行いやすくする。
【0028】
図2(b)は、
図2(a)の外輪アッシィ124を単独で示した図である。外輪アッシィ124は、外輪116と一列の玉120、および保持器128から構成されている。外輪116は、内輪アッシィ126(
図2(a)参照)と分離可能に組み合わせるために、2列の軌道溝130、132のうち、一方側の軌道溝132の肩を落とし、カウンタボア形状134が設けられているになっている。玉120は、カウンタボアの形成されていない軌道溝130に保持されている。保持器128は、玉120の列を軌道溝130に保持したまま内輪アッシィ126との分離を可能にしている。
【0029】
図2(c)は、
図2(a)の内輪アッシィ126を単独で示した図である。内輪アッシィ126は、内輪118と一列の玉122、および保持器136から構成されている。内輪118は、外輪アッシィ124(
図2(b)参照)と分離可能に組み合わせるために、2列の軌道溝138、140のうち、軌道溝132(
図2(b))に対して他方側となる軌道溝138の肩を落とし、カウンタボア形状142になっている。玉122は、カウンタボアの形成されていない軌道溝140に保持されている。保持器136は、玉122の列を軌道溝140に保持したまま外輪アッシィ124との分離を可能にしている。
【0030】
図2(a)に示した本実施形態の分離型複列アンギュラ玉軸受100は、外輪116および内輪118の製造誤差に合わせて、玉120、122のゲージ(ロットの平均直径と呼び直径との寸法差)を選定している。ここで重要なことは、外輪アッシィ124と内輪アッシィ126がそれぞれ玉の列を有していて、外輪アッシィ124においては後述する基準内輪に対して玉のゲージを選定し、内輪アッシィ126においては後述する基準外輪に対して玉のゲージを選定していることである。これにより、同一規格の他の軸受の外輪アッシィおよび内輪アッシィとの互換性を確保することができる。以下、外輪アッシィ124および内輪アッシィ126の構成について、さらに説明を行う。
【0031】
(外輪アッシィ)
図3は外輪アッシィ124の玉の選定を説明する図である。
図3(a)は玉の選定前の状態を示している。本実施形態では、外輪アッシィ124に設ける玉120を選定するために、基準内輪144を利用している。
【0032】
基準内輪144は、称呼寸法からなる理想的な形状の内輪アッシィである。例えば、基準内輪144は、内輪146の幅、軌道面148、149の径および曲率半径、玉150の直径がすべて、分離型複列アンギュラ玉軸受100(
図2(a)参照)の称呼寸法(きわめて小さい誤差)で形成されている。外輪アッシィ124は、基準内輪144を利用し、分離型複列アンギュラ玉軸受100を組み上げたときの組幅精度および2列の玉の同時接触性が所定の値になるよう、玉の寸法(ゲージ)が選定される。
【0033】
玉のゲージを選定するために、まず外輪アッシィ124を、外輪116と、任意の玉152とで組む。玉152は、分離型複列アンギュラ玉軸受100の玉の称呼寸法から選んだ任意のゲージのものである。そして、外輪アッシィ124を基準内輪144とペアにし、軸受154を形成する。
【0034】
軸受154は、測定装置で寸法等の各種項目を測定する。測定した値の成績からは、基準内輪144がきわめて小さい誤差で形成されていることから、外輪116の製造誤差が判明する。特に、二列の軌道溝130、132に対して、軌道径d1と軌道径d2とに相互差が生じているか否か、軌道径の互いの距離(ピッチPe)が称呼寸法から乖離しているか否かが判明する。
【0035】
外輪116に軌道溝130を設けるとき、破線で示す理想的な形状と比べて、実線で示す実際の形状には誤差が生じていることがある。その結果、例えば、軌道径d1と軌道径d2とに相互差Δdo(Δdo>0)が表れ、軌道径の互いの距離に称呼寸法に対する乖離値ΔPe(ΔPe>0)が表れた場合、玉152が内輪146に接触していても、玉150が外輪116に接触しないことがある。この場合、外輪116と玉150とは、軸受154に外力が加わってその分の変位が生じたときに初めて接触し、接触点も当初の設定からずれてしまう。このときの外輪116と玉150との接触遅れ量が、相互差Δdoおよび乖離値ΔPeを得ることで計算可能になる。
【0036】
外輪アッシィ124と基準内輪144との同時接触は、相互差Δdoおよび乖離値ΔPeを吸収することで達成できる。基準内輪144の玉150は称呼寸法(きわめて小さい誤差)であるため、外輪アッシィ124の接触遅れ量は玉152を交換することで吸収できる。
【0037】
図3(b)は玉の選定後の状態を示している。玉152(
図3(a)参照)を設置した場合の接触遅れ量をもとにゲージを選定し、例えば小さいサイズの玉120を選定する。選定後の玉120によれば、選定前の玉152(
図3(a)参照)に比べて、外輪116の軌道溝130側に軸方向のすきまが得られ、軌道溝132と玉150とも当初の設定に近い状態で接触する。これによって、外輪アッシィ124と基準内輪144の同時接触が可能になる。
【0038】
上記のように、当該外輪アッシィ124は、外輪116の軌道径の相互差Δdoやピッチの乖離値ΔPeなどの誤差を、玉120のゲージを利用して吸収可能になっている。本実施形態であれば、より称呼寸法に近い外輪アッシィ124が実現できる。この外輪アッシィ124であれば、分離型複列アンギュラ玉軸受100(
図2(a)参照)の寸法精度を高め、2列の玉の同時接触性も確保してその品質を向上させることができる。また、外輪アッシィ124は寸法精度が高いため、他の外輪アッシィとも高い互換性を有し、特定の内輪アッシィ126(
図2(a)参照)だけでなく、他の内輪アッシィと組み合わせた場合にも、寸法精度の高い分離型複列アンギュラ玉軸受100を実現することができる。
【0039】
なお、
図3(a)の場合において、外輪116の製造誤差の程度によっては、基準内輪144の玉150が先に外輪アッシィ124に接触し、外輪アッシィ124側の玉が基準内輪144に接触しない場合もある。その場合は、玉120にゲージの大きい玉を選定することで、外輪アッシィ124と基準内輪144との同時接触が可能になる。このように、本実施形態の技術的思想であれば、外輪アッシィ124と基準内輪144との接触遅れ量に合わせて玉のゲージを選定することで、互換性のある外輪アッシィ124および分離型複列アンギュラ玉軸受100が実現できる。
【0040】
(内輪アッシィ)
図4は内輪アッシィ126の玉の選定を説明する図である。
図4(a)は玉の選定前の状態を示している。内輪アッシィ126も、上述した外輪アッシィ124と同様の手法で、称呼寸法からなる理想的な形状の外輪アッシィである基準外輪160を利用し、分離型複列アンギュラ玉軸受100を組み上げたときの組幅精度および2列の玉の同時接触性が所定の値になるよう、玉の寸法(ゲージ)が選定されている。
【0041】
基準外輪160も、外輪162の幅、軌道面164、166の径および曲率半径、玉168の直径がすべて、分離型複列アンギュラ玉軸受100(
図2(a)参照)の称呼寸法(きわめて小さい誤差)で形成されている。
【0042】
内輪アッシィ126もまた、内輪118と、任意のゲージの玉170とで組む。玉170は、分離型複列アンギュラ玉軸受100の玉の称呼寸法から選んだ任意のゲージのものである。そして、内輪アッシィ126と基準外輪160とをペアにし、軸受172を形成する。そして、測定装置で軸受172の寸法等を測定し、内輪118の製造誤差を判定する。
【0043】
例えば、内輪118に軌道溝140を設けるときも、破線で示す理想的な形状と比べて、実線で示す実際の形状には誤差が生じていることがある。その場合、玉170が外輪162に接触していても、玉168が内輪118に接触しないことがある。すると、軸受172に外力が加わったときに玉168と内輪118とが初めて接触し、接触点も当初の設定からずれてしまう。このような内輪118の誤差が、二列の軌道溝138、140に対して、軌道径D1と軌道径D2とに相互差が生じているか否か、軌道径の互いの距離(ピッチPi)が称呼寸法から乖離しているか否かによって判明する。
【0044】
内輪アッシィ126と基準外輪160との同時接触もまた、相互差ΔDoおよび乖離値ΔPiを吸収することで達成できる。基準外輪160の玉168は称呼寸法(きわめて小さい誤差)であるため、内輪アッシィ126の接触遅れ量は玉170を交換することで吸収できる。
【0045】
図4(b)は玉の選定後の状態を示している。玉170(
図4(a)参照)を設置した場合の接触遅れ量をもとに、例えば小さいゲージの玉122を選定する。選定後の玉122によれば、選定前の玉170(
図4(a)参照)に比べて、内輪118の軌道溝140側に軸方向のすきまが得られ、軌道溝138と玉168とも当初の設定に近い状態で接触する。これによって、内輪アッシィ126と基準外輪160の同時接触が可能になる。また、基準外輪160の玉168が先に当たってしまう場合には、玉122にゲージの大きい玉を選定することで、内輪アッシィ126と基準外輪160との同時接触が可能になる。
【0046】
上記のように、当該内輪アッシィ126は、内輪118の軌道径の相互差ΔDoやピッチの乖離値ΔPiなどの誤差を、玉122のゲージを利用して吸収可能になっている。本実施形態であれば、より称呼寸法に近い内輪アッシィ126が実現できる。この内輪アッシィ126であれば、分離型複列アンギュラ玉軸受100(
図2(a)参照)の寸法精度を高め、2列の玉の同時接触性も確保してその品質を向上させることができる。また、内輪アッシィ126は寸法精度が高いため、他の内輪アッシィとも高い互換性を有し、特定の外輪アッシィ124(
図2(a)参照)だけでなく、他の外輪アッシィと組み合わせた場合にも、寸法精度の高い分離型複列アンギュラ玉軸受100を実現することができる。
【0047】
以上のように、
図2(a)の分離型複列アンギュラ玉軸受100は、玉120、122のゲージを利用して、外輪116および内輪118のそれぞれの称呼寸法に対する誤差を吸収し、より称呼寸法に近い外輪アッシィ124および内輪アッシィ126を実現している。これら称呼寸法に近い外輪アッシィ124および内輪アッシィ126であれば、分離後に他の外輪アッシィおよび内輪アッシィと再組立てした場合にも、軸受としての組幅精度および玉の同時接触を保証することができる。このように、当該分離型複列アンギュラ玉軸受100は、高い寸法精度を実現しているだけでなく、分離後に他の外輪アッシィおよび内輪アッシィと組み替えても品質が維持できる、互換性の高い構造を実現している。
【0048】
(変形例)
図5は分離型複列アンギュラ玉軸受100の変形例を示した図である。
図5に示す各変形例は、玉の接触点の数において、
図2(a)の分離型複列アンギュラ玉軸受100と構成が異なっている。なお、以降の記載において、既に説明した構成要素については、同じ符号を付することによって、その説明を省略する。また、異なる符号が付された構成要素であっても、既に説明した構成要素と同じ名称のものは、同じ構成および機能を有するものとする。
【0049】
図5(a)に示す第1変形例の分離型複列アンギュラ玉軸受200では、外輪202および内輪204が、玉120、122と3点接触する構成になっている。上述したように、外輪アッシィ124および内輪アッシィ126は、玉120、122の同時接触が保証されている。そのため、玉120、122と3点接触する外輪202および内輪204を採用することによって、より負荷能力が大きく剛性も高い分離型アンギュラ玉軸受200を実現することができる。
【0050】
図5(b)に示す第2変形例の分離型複列アンギュラ玉軸受220では、外輪222および内輪224が、玉120、122と4点接触する構成になっている。玉120、122と4点接触する外輪222および内輪224を採用することによっても、より負荷能力が大きく剛性も高い分離型アンギュラ玉軸受220を実現することができる。
【0051】
図5(c)に示す第3変形例の分離型複列アンギュラ玉軸受240では、外輪242および内輪244は、玉120と2点で接触し、玉122と3点で接触する構成になっている。このように、玉120、122それぞれに応じて接触点の数が異なる外輪242および内輪244を採用することによっても、より負荷能力が大きく剛性も高い分離型アンギュラ玉軸受240を実現することができる。
【0052】
以上のように、分離型複列アンギュラ玉軸受100のもつ技術的思想は、多点接触の軸受としても実現可能である。これによって、負荷能力や剛性を向上させ、目的に応じた性能の軸受を提供することが可能になる。
【0053】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、分離型複列アンギュラ玉軸受とその外輪アッシィおよび内輪アッシィに利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
D1…内輪の左側の軌道径、D2…内輪の右側の軌道径、d1…外輪輪の左側の軌道径、d2…外輪の右側の軌道径、Pe…外輪の軌道径のピッチ、Pi…内輪の軌道径のピッチ、100…分離型複列アンギュラ玉軸受、102…差動装置、104…アンギュラ玉軸受、106…ピニオン軸、108…リングギヤ、110…ピニオンギヤ、112…フランジ、114…ハウジング、116…外輪、118…内輪、120…外輪アッシィの玉、122…内輪アッシィの玉、124…外輪アッシィ、126…内輪アッシィ、128…外輪アッシィの保持器、130…外輪の左側の軌道溝、132…外輪の右側の軌道溝、134…外輪のカウンタボア形状、136…内輪アッシィの保持器、138…内輪の左側の軌道溝、140…内輪の右側の軌道溝、142…内輪のカウンタボア形状、144…基準内輪、146…内輪、148…左側の軌道面、149…右側の軌道面、150…基準内輪の玉、152…任意の玉、154…軸受、160…基準外輪、162…外輪、164…左側の軌道面、166…右側の軌道面、168…基準外輪の玉、170…任意の玉、172…軸受、200…第1変形例の分離型複列アンギュラ玉軸受、202…外輪、204…内輪、220…第2変形例の分離型複列アンギュラ玉軸受、222…外輪、224…内輪、240…第2変形例の分離型複列アンギュラ玉軸受、242…外輪、244…内輪、Pi…ピッチ