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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】塔状構造物の制振構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 12/00 20060101AFI20220413BHJP
【FI】
E04H12/00 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018045498
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019157495
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221546
【氏名又は名称】東電設計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504004083
【氏名又は名称】株式会社i2S2
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】阿部 貴秀
(72)【発明者】
【氏名】高田 麻巳
(72)【発明者】
【氏名】笹嶋 健
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】宮島 洋平
【審査官】新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-209633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 12/00 - 12/34
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上又は建物上に構築された塔状構造物と、
前記塔状構造物の下部に接合され、前記下部から外側に張り出した腕部と、
前記腕部の端部と、前記地盤、前記建物及び前記塔状構造物における前記腕部よりも下側の部位のいずれかと、に連結されたダンパーと、
前記腕部の端部から斜め上方に延在し、鉄骨材、木材及び鉄筋コンクリートのいずれかで構成され前記塔状構造物に接合された第一斜材と、
を備えた塔状構造物の制振構造。
【請求項2】
地盤上又は建物上に構築された塔状構造物と、
前記塔状構造物の下部に接合され、前記下部から外側に張り出した腕部と、
前記腕部の端部と、前記塔状構造物における前記地盤に固定又は前記建物に固定された脚部と、に連結されたダンパーと、
を備えた塔状構造物の制振構造。
【請求項3】
前記腕部の端部から斜め上方に延在し、前記塔状構造物に接合された第一斜材を有する、
請求項2に記載の塔状構造物の制振構造。
【請求項4】
平面視において、前記腕部の端部から斜め内側に延在し、前記塔状構造物に接合された第二斜材を有する、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の塔状構造物の制振構造。
【請求項5】
前記塔状構造物の前記下部の外形は、平面視多角形状とされ、
平面視において、各角部から複数の前記腕部が複数の方向にそれぞれ張り出している、
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の塔状構造物の制振構造。
【請求項6】
複数の前記腕部の端部同士が、連結部材で連結されている、
請求項5に記載の塔状構造物の制振構造。
【請求項7】
前記塔状構造物の前記下部は、前記地盤又は前記建物に固定された脚部に向かって外側に広がった形状とされ、
前記ダンパーは、前記脚部又は前記脚部が固定された部位若しくはその近傍に連結されている、
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の塔状構造物の制振構造。
【請求項8】
地盤上又は建物上に構築された塔状構造物と、
前記塔状構造物の下部に接合され、前記下部から外側に張り出した腕部と、
前記腕部の端部と、前記地盤、前記建物及び前記塔状構造物における前記腕部よりも下側の部位のいずれかと、に連結されたダンパーと、
を備え、
平面視において、前記腕部の端部から斜め内側に延在し、前記塔状構造物に接合された斜材を有する、
塔状構造物の制振構造。
【請求項9】
地盤上又は建物上に構築された塔状構造物と、
前記塔状構造物の下部に接合され、前記下部から外側に張り出した腕部と、
前記腕部の端部と、前記地盤、前記建物及び前記塔状構造物における前記腕部よりも下側の部位のいずれかと、に連結されたダンパーと、
を備え、
前記塔状構造物の前記下部の外形は、平面視多角形状とされ、
平面視において、各角部から複数の前記腕部が複数の方向にそれぞれ張り出している、
塔状構造物の制振構造。
【請求項10】
複数の前記腕部の端部同士が、連結部材で連結されている、
請求項9に記載の塔状構造物の制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塔状構造物の制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、耐震性能を向上させるために曲げ変形を抑制した曲げ変形抑制架構を有する構造物に関する技術が開示されている。この先行技術では、梁部材と柱部材とを備える主架構の外側に付属架構が設けられている。付属架構は、コア部を備えており、コア部の下層部には、鉛直部材が設けられている。鉛直部材には、制振装置としてのオイルダンパーが設けられている。
【0003】
特許文献2には、多層構造の建物の制振構造に関する技術が開示されている。この先行技術では、建物本体架構の外側に、一端を建物本体架構に繋げて水平方向外側に延設した梁部材と、梁部材の他端を繋げて上下方向に延設した柱部材とを備えてなるアウトリガー架構を一体に設けている。このアウトリガー架構の最下層に、梁部材の他端側に一端を繋げて上下方向に延びる縦型ダンパーを設置している。
【0004】
特許文献3には、ダンパーによる揺れ低減効果の高い塔状構造物に関する技術が開示されている。この先行技術では、上下方向の間隔を隔てて外側に突出する上下の複数のダンパー支持部とダンパーとを塔状構造物の側面に備えている。ダンパーの一端は上下に隣り合う一方のダンパー支持部に取付けられ、ダンパーの他端は上下に隣り合う他方のダンパー支持部に取付けられている。
【0005】
特許文献1及び特許文献2は、ビル等の多層構造の建物に適用される技術であり、建物の外側に下層から上層に渡って架構を設けている。
【0006】
また、特許文献3は、塔状構造物の側面に下部から上部に渡って上下に間隔をあけてダンパー支持部とダンパーとが設けられた塔状構造物である。
【0007】
このように先行技術は、構造物の下部(又は下層)から上部(又は上層)に渡って架構やダンパーを設け、構造物と一体化して制振する技術であり、施工や構造が複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-316112号公報
【文献】特開2011-026829号公報
【文献】特開2009-209633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事実を鑑み、簡単な構造で塔状構造物の制振を容易に行うことが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一態様は、地盤上又は建物上に構築された塔状構造物と、前記塔状構造物の下部に接合され、前記下部から外側に張り出した腕部と、前記腕部と、前記地盤、前記建物又は前記塔状構造物における前記腕部よりも下側の部位とに連結されたダンパーと、を備えた塔状構造物の制振構造である。
【0011】
第一態様の制振構造では、塔状構造物の曲げ変形に対して、腕部を設けていない場合と比較し、ダンパーの伸縮量が大きくなり効果的に制振する。また、腕部とダンパーとを塔状構造物の下部に設けたシンプルな構成で効果的に制振している。よって、簡単な構造で塔状構造物の制振を容易に行うことができる。
【0012】
第二態様は、前記腕部の端部から斜め上方に延在し、前記塔状構造物に接合された第一斜材を有する、第二態様に記載の塔状構造物の制振構造である。
【0013】
第二態様の制振構造では、腕部の端部から斜め上方に延在して塔状構造物に接合された第一斜材によって、腕部の鉛直方向の変形が効果的に抑制される。よって、腕部の変形によるダンパーの伸縮量の低下が抑制されるので、効果的に制振する。
【0014】
第三態様は、平面視において、前記腕部の端部から斜め内側に延在し、前記塔状構造物に接合された第二斜材を有する、第一態様1又は第二態様に記載の塔状構造物の制振構造である。
【0015】
第三態様の制振構造では、腕部の端部から斜め内側に延在して塔状構造物に接合された第二斜材によって、腕部の横方向の変形が効果的に抑制される。よって、腕部の変形によるダンパーの伸縮量の低下が抑制されるので、効果的に制振する。
【0016】
第四態様は、前記塔状構造物の前記下部の外形は、平面視多角形状とされ、平面視において、各角部から複数の前記腕部が複数の方向にそれぞれ張り出している、第一態様~第三態様のいずれか一態様に記載の塔状構造物の制振構造である。
【0017】
第四態様の制振構造では、塔状構造物の各角部から複数の腕部が複数の方向にそれぞれ張り出しているので、角部から一つの腕部が一方向に張り出している場合と比較し、効果的に制振する。
【0018】
第五態様は、複数の前記腕部の端部同士が、連結部材で連結されている、第四態様に記載の塔状構造物の制振構造である。
【0019】
第五態様の制振構造では、二つの腕部の端部同士が連結部材で連結されているので、腕部の横方向の変形が効果的に抑制される。よって、腕部の変形によるダンパーの伸縮量の低下が抑制されるので、効果的に制振する。
【0020】
第六態様は、前記塔状構造物の前記下部は、前記地盤又は前記建物に固定された脚部に向かって外側に広がった形状とされ、前記ダンパーは、前記脚部又は前記脚部が固定された部位若しくはその近傍に連結されている、第一態様~第五態様のいずれか一態様に記載の塔状構造物の制振構造である。
【0021】
第六態様の制振構造では、塔状構造物の外側に広がった脚部又は脚部が固定された部位又はその近傍にダンパーが連結されているので、脚部から離れた場所にダンパーが連結される場合と比較し、設置範囲を狭くできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡単な構造で塔状構造物の制振を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態の制振構造が適用された鉄塔を模式的に示す正面図である。
図2図1の鉄塔の下部を模式的に示す斜視図である。
図3図1の鉄塔の下部の要部を模式的に示す拡大正面図である。
図4図1の鉄塔の下部を模式的に示す平面図である。
図5図1の鉄塔が変形した状態の下部を模式的に示す拡大正面図である。
図6】(A)は本発明が適用された制振構造の立体振動解析モデルの下部の平面図であり、(B)は下部の正面図である。
図7】(A)は第一比較例の制振構造の立体振動解析モデルの下部の平面図であり、(B)は下部の正面図である。
図8】(A)は第二比較例の制振構造の立体振動解析モデルの下部の平面図であり、(B)は下部の正面図である。
図9】立体振動解析モデルの複素固有振動解析における最適諸元を示す表である。
図10】立体振動解析モデルの複素固有振動解析における最適減衰定数を示す表である。
図11】本発明の制振構造の他の一例が適用された鉄塔の下部を模式的に示す正面図である。
図12】本発明の制振構造の他の一例が適用された鉄塔の下部を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<実施形態>
本発明の一実施形態の塔状構造物の制振構造について説明する。
【0025】
[構造]
まず、本実施形態の塔状構造物の制振構造が適用された鉄塔及び制振装置の構造について説明する。なお、水平方向の直交する二方向をX方向及びY方向とし、それぞれ矢印X及び矢印Yで示す。また、鉛直方向をZ方向とし、矢印Zで示す。
【0026】
塔状構造物の一例としての鋼管やアングル等の鉄骨材で構築された鉄塔10が、図1に示されている。なお、この図1及び以降に説明する各図は、模式的に図示しており、鋼管等の各部材は線画等で図示し、また断面を表すハッチング等を省略している。
【0027】
図2及び図4に示すように、鉄塔10は平面視において矩形状とされ、各角部に四本の鋼管等の鉄骨製の主材12が配置されている。なお、図4は、鉄塔10の下部50を平面視で各部材の配置等を模式的に表した図であり、前述したように、各部材の形状や大きさは正確でなく、また断面を表すハッチング等は省略している。
【0028】
図1に示すように、鉄塔10の主材12間には、鉄骨製の横材14が上下方向に間隔をあけて平行に設けられている。また、各横材14間には、図1に示す斜め方向の鉄骨製のブレース材16及び図4に示す水平方向の鉄骨製のブレース材18が設けられている。なお、図2では、図が煩雑になるのを避けるため、横材14及びブレース材16、18の図示は省略している。
【0029】
図1図2及び図3に示すように、鉄塔10の下部50は、脚部20に向かって外側に広がった形状となっている。鉄塔10の脚部20は、地盤15に基礎22を介して固定さている。なお、本実施形態の基礎22は、鉄筋コンクリート造であるが、これに限定されるものではない。また、本実施形態では、各基礎22同士は、図示していない基礎梁で繋がれているが、繋がれていなくてもよい。
【0030】
本実施形態の制振構造11は、鉄塔10と制振装置100とを含んで構成されている。制振装置100は、後述するようにダンパー120を鉛直方向又は略鉛直方向に沿って配置した鉛直シアリンク型の制振装置であり、鉄塔10の下部50に設けられている。本実施形態では、制振装置100は、図2及び図4に示すように、下部50の各角部52にそれぞれ二基ずつ設けられている。なお、図1及び図3では、図が煩雑になるのを避けるため、制振装置100を一基のみ図示している。
【0031】
図1図4に示すように、制振装置100は、鉄塔10の下部50から水平方向又は略水平方向に外側に張り出した腕部110と、腕部110の端部110Aと脚部20(図1図3を参照)とに連結されたダンパー120と、を有している。なお、本実施形態では、図2及び図4に示すように、平面視において、各角部52から二本の腕部110が二方向にそれぞれ張り出している。二本の腕部110は、平面視において、横材14の延長線上に配置され、略90°の角度を持って設置されている。
【0032】
図1図3に示すように、腕部110の端部110Aには、第一斜材150が接合されている。第一斜材150は、端部110Aから斜め上方に延在し、鉄塔10の主材12に接合されている。
【0033】
図2及び図4に示すように、腕部110の端部110Aには、更に第二斜材160が接合されている。第二斜材160は、端部110Aから水平方向斜め内側に延在し、鉄塔10の横材14の中間部に接合されている。なお、第二斜材160は、横材14の中間部以外に接合されていてもよい。また、各角部52の二本の腕部110の端部110A同士は、連結部材170で連結されている。
【0034】
なお、本実施形態では、腕部110は、鉄塔10に剛接合されている。また、第一斜材150及び第二斜材160は、鉄塔10及び腕部110に、剛接合されている。同様に、連結部材170は、二本の腕部110の端部110Aに剛接合されている。
【0035】
図1図3に示すように、ダンパー120は、鉛直方向又は略鉛直方向に沿って配置され、各腕部110の端部110Aと各脚部20とにそれぞれ回転可能(図3参照)に連結されている。
【0036】
なお、ダンパー120の種類や構成は限定されない。例えば、粘性ダンパー、粘弾性体ダンパー、摩擦ダンパー、鋼材ダンパー及び回転慣性質量ダンパー等を用いることができる。
【0037】
[作用及び効果]
次に本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0038】
図5は、強風や地震等で鉄塔10が曲げ変形した状態の下部50を模式的に図示している。なお、判り易くするため、実際よりも大きく鉄塔10を変形させている。また、曲げ変形する前の状態を想像線(二点鎖線)で図示している。
【0039】
また、G1は曲げ変形していない状態の鉄塔10の中立軸であり、G2は曲げ変形した状態の鉄塔10の中立軸である。
【0040】
図5に示すように、鉄塔10が曲げ変形すると、制振装置100を構成するダンパー120が伸縮して制振する。ダンパー120は、横方向に張り出した腕部110の端部110Aに連結されているので、腕部110を有しない場合(ダンパー120の上端部が鉄塔10の主材12に直接連結されている場合)よりもダンパー120の伸縮量が大きくなる。よって、鉄塔10は、ダンパー120によって効果的に制振され、この結果、鉄塔10の頂部24(図1参照)の揺れが効果的に抑制される。
【0041】
このように、制振装置100の腕部110とダンパー120とを鉄塔10の下部50に設けたシンプルな構成で効果的に制振している。よって、簡単な構造で鉄塔10の制振(頂部24の揺れの抑制)を容易に行うことができる。
【0042】
ここで、
曲げ変形していない状態の腕部110とダンパー120との成す角αを90°、
鉄塔10の中立軸G1から腕部110の端部110Aまでの長さをL、
曲げ変形した状態の腕部110の回転角をθ、
曲げ変形した状態のダンパー120の伸縮量をδ
とすると、
【0043】
鉄塔10の曲げ変形によるダンパー120の伸縮量δは「δ=L×θ」である。つまり、腕部110を設けることによって、ダンパー120の伸縮量δが大きくなり、効果的に制振し、頂部24の揺れが小さくなる。
【0044】
ここで、図5に示す鉄塔10の曲げ変形に伴う主材12の軸方向の最大変形量とダンパー120の最大伸縮量との関係の一例について説明する。なお、ダンパー120は、粘性ダンパー(C型)の場合と回転慣性質量ダンパー(MC型)の場合で説明する。また、下記、主材12の最大変形量及びダンパー120の最大伸縮量は、それぞれ同じ条件(地震波等)で解析した結果である。
【0045】
ダンパー120が粘性ダンパー(C型)
鉄塔10の主材12の軸方向の最大変形量は5.40mmであり、C型のダンパー120の軸方向の最大伸縮量は10.25mmである。
回転慣性質量ダンパー(MC型)
鉄塔10の主材12の軸方向の最大変形量は5.66mmであり、MC型のダンパー120の軸方向の最大伸縮量は17.56mmである。
【0046】
このように本発明を適用することで、鉄塔10の主材12の軸方向の変形量よりもダンパー120の伸縮量が大きくなる。言い換えると、本発明は、鉄塔10の主材12の軸方向の変形を増幅してダンパー120に伝達する増幅機構であることが判る。
【0047】
また、腕部110の端部110Aから斜め上方に延在して鉄塔10の主材12に接合されている第一斜材150によって、腕部110の鉛直方向の変形が抑制されている。
【0048】
また、腕部110の端部110Aから斜め内側に延在して鉄塔10の横材14に接合された第二斜材160によって、腕部110の横方向の変形、例えば風圧による面外方向力に対する変形等が効果的に抑制されている。更に、二つの腕部110の端部110A同士が連結部材170で連結されているので、腕部110の横方向の変形が更に効果的に抑制されている。
【0049】
このように、鉛直及び横方向の腕部110の変形が効果的に抑制されているので、腕部110の変形によるダンパー120の伸縮量の低下が抑制され、効果的に制振される。
【0050】
また、平面視において、鉄塔10の下部50の各角部52から二つの腕部110が直交する二方向にそれぞれ張り出しているので、一方向に張り出す場合と比較し、曲げ変形の変形方向によらず効果的に制振することができる。
【0051】
また、本実施形態の鉄塔10の下部50は外側に向かって広がり、脚部20にダンパー120の下端部120Aが回転可能に連結されているので、脚部20から離れた場所にダンパー120が連結される場合と比較し、制振装置100の設置範囲を狭くできる(実質的には、鉄塔10の設置範囲と略同じである)。
【0052】
(制振効果)
次に、本発明が適用された制振構造と比較例の制振構造とのコンピューターシミュレーションによる制振効果の比較について説明する。
【0053】
図6には本発明が適用された鉛直シアリンク型の制振装置100を備えた制振構造11の立体振動解析モデルが示され、図7には第一比較例の制振構造211の立体振動解析モデルが示され、図8には第二比較例の制振構造311の立体振動解析モデルが示されている。これら各図では、斜材や連結材などは省略して図示している。
【0054】
図7に示す第一比較例の制振構造211では、四本の腕部210が菱形に配置され菱形の対角線上にダンパー120が配置されたパンタグラフ型の制振装置200が設けられている。このパンタグラフ型の制振装置200の二基が、鉄塔10の下部50における各角部52の主材12を挟むように設けられている。なお、第一比較例の制振構造211の制振装置200は、特開2012-007451号公報に記載の制振装置と同様である。
【0055】
図8に示す第二比較例の制振構造311では、鉄塔10の脚部20同士を水平方向に配置したダンパー120で連結した水平シアリンク型の制振装置300である。なお、図8(A)では、判り易くするため、ダンパー120は、鉄塔10の外側に離して図示している。
【0056】
これらの立体振動解析モデルに複素固有振動解析を行う。ダンパー120は、オイルダンパー(C型)と回転慣性質量ダンパー(MC型)とでそれぞれ解析を行った。また、鉄塔10の高さは、90mとし、根開き20mとした。
【0057】
図9の表は、解析結果における最適諸元を示している。この図9の最適諸元の表における「D.M.」は、回転慣性質量ダンパー(MC型)に設ける回転慣性質量の最適値を示している。また、図9の最適諸元の表における「Cd」は、オイルダンパー(C型)及び回転慣性質量ダンパー(MC型)に設ける粘性体の粘性係数の最適値を示している。図10の表は、解析結果における最適減衰定数を示している。最適減衰定数は、制振効果を評価する指標とされ、この数値が大きいほど制振効果が大きいとされている。
【0058】
なお、ダンパー120の最適諸元及び最適減衰定数は、最適設計式に基づいて決定されている。最適設計式とは、文献「付加剛比によるD.M.同調システムの簡易設計法,日本建築学会構造系論文集 第654号,pp.1455-1464 2010.08」に記載されている下記[数1]、[数2]、[数3]、[数4]及び[数5]の各式によって求める手法である。なお、[数1]、[数2]及び[数3]は、回転慣性質量ダンパー(DM+Cd)の場合であり、[数4]及び[数5]は、オイルダンパー(Cd)の場合である。
【0059】
回転慣性質量ダンパー(DM+Cd)の場合
・付加剛比κkの式
【数1】

・最適同調式
【数2】

・最適減衰式
【数3】
【0060】
オイルダンパー(Cd)の場合
・付加剛比κkの式
【数4】

・最適減衰式
【数5】
【0061】
そして、図9及び図10から、本実施形態の制振構造11では、パンタグラフ型の制振装置200を用いた第一比較例の制振構造211よりも必要なダンパー120の容量(D.M.及びCd)は大きいが(図9参照)、制振効果の評価指数である最適減衰定数においては、両者は略同程度であり、高い制振効果を有していることが判る(図10参照)。
【0062】
一方、第二比較例の水平シアリンク型の制振構造311では、ダンパー120の伸縮量が小さいので、オイルダンパー(C型)では、殆ど制振効果がなく最適減衰定数は0であることが判る(図10参照)。また、回転慣性質量ダンパー(MC型)でも最適減衰定数は0.02である(図10参照)。
【0063】
このように、本発明が適用された鉛直シアリンク型の制振装置100を用いた制振構造11では、第二比較例の水平シアリンク型の制振構造311よりも大きな制振効果を有し、第一比較例のパンタグラフ型の制振装置200を用いた制振構造211と略同等の制振効果を有している。
【0064】
そして、本発明が適用された鉛直シアリンク型の制振装置100は、腕部110とダンパー120とで構成されており、第一比較例のパンタグラフ型の制振装置200よりも構造がシンプルであり、簡単な構造で鉄塔10の制振を容易に行うことができる。
【0065】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0066】
例えば、上記実施形態では、腕部110は鉄塔10に剛接合され、第一斜材150及び第二斜材160は鉄塔10及び腕部110に剛接合され、連結部材170は二本の腕部110の端部110Aに剛接合されていたが、これらに限定されない。各接合部位は、ピン接合であってもよい。
【0067】
但し、これらの各接合部位は、ピン接合よりも剛接合の方が腕部110の変形が少なくダンパー120の伸縮量が大きくなるので、剛接合の方が望ましい。特に、腕部110は、鉄塔10に剛接合されていることが望ましい。
【0068】
例えば、上記実施形態では、制振装置100の腕部110の変形を抑制する第一斜材150、第二斜材160及び連結部材170は何れも必須ではない。第一斜材150、第二斜材160及び連結部材170は必要に応じて適宜設ければよい。腕部110の剛性が十分大きい場合は、第一斜材150、第二斜材160及び連結部材170の何れも設けられていなくもよい。
【0069】
また、例えば、上記実施形態では、鉄塔10の下部50の各角部52に、それぞれ二つの制振装置100が設けられ、腕部110が二方向(上記実施形態では略90°の角度で)に張り出していたが、これに限定されない。角部52に一つずつ制振装置100が設けられていてもよいし、各角部52に三つ以上の制振装置100が設けられていてもよい。また、角部52以外に、制振装置100が設けられていてもよい。
【0070】
また、例えば、上記実施形態では、ダンパー120は、鉛直方向又は略鉛直方向に沿って配置され、下端部120Aは、脚部20に連結されていたが、これに限定されない。基礎22における鉄塔10の脚部20が固定された部位又はその近傍に連結されていてもよい。
【0071】
また、例えば、図11の変形例の制振装置101のように、腕部110(図1図3等を参照)よりも長い腕部112を有し、ダンパー120の下端部120Aが鉄塔10の脚部20よりも外側に離れた位置に基礎122を介して地盤15に固定されていてもよい。なお、図11では、腕部112の変形を抑制する第一斜材150等は設けられていないが、設けられていてもよい。
【0072】
なお、この制振装置101の腕部112は、鉄塔10の中立軸G1(図5参照)から端部112Aまでの長さが、腕部110(図3図5参照)よりも長いので、その分ダンパー120の伸縮量が大きくなり、高い制振効果を有する。しかし、制振装置101が鉄塔10の脚部20よりも外側にはみ出しているので、その分設置範囲が大きくなる。
【0073】
また、図11の想像線(二点鎖線)で示す腕部114のように、高い位置に腕部114が設けられていてもよい。
【0074】
また、図12に示すように、腕部110が高い位置にあり、ダンパー120の下端部120Aが鉄塔10の下部50における腕部110と脚部20との間に連結されていてもよい。
【0075】
また、図示は省略するが、ダンパー120は、鉛直方向又は略鉛直方向でなく、斜めに設置されていてもよい。
【0076】
また、例えば、上記実施形態では、鉄塔10は、平面視において矩形状であったが、これに限定されない。矩形以外の多角形状の鉄塔であってもよいし、多角形以外、例えば、平面視で円形の鉄塔であってもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、鉄塔10は、地盤15上に構築されていたが、これに限定されない。ビル等の建物の屋上に鉄塔10が構築されていてもよい。
【0078】
また、鉄塔10以外の塔状構造物であってもよい。例えば、木造や鉄筋コンクリート造の塔状構造物であってもよい。
【0079】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0080】
10 鉄塔(塔状構造物の一例)
11 制振構造
15 地盤
20 脚部
50 下部
52 角部
100 制振装置
101 制振装置
110 腕部
110A 端部
112A 端部
112 腕部
120 ダンパー
150 第一斜材
160 第二斜材
170 連結部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12