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特許7057556被服、解析装置および被検者の関節回動角を計測する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】被服、解析装置および被検者の関節回動角を計測する方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/30 20060101AFI20220413BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
G01B7/30 D
A61B5/11 230
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017249306
(22)【出願日】2017-12-26
(65)【公開番号】P2019113496
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000150774
【氏名又は名称】株式会社槌屋
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】平田 仁
(72)【発明者】
【氏名】岩月 克之
(72)【発明者】
【氏名】山田 整
(72)【発明者】
【氏名】下田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】大野 健介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 統
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-528079(JP,A)
【文献】特開2017-146242(JP,A)
【文献】特開2017-198621(JP,A)
【文献】特開2016-125931(JP,A)
【文献】特開2017-173589(JP,A)
【文献】国際公開第2014/204323(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/30
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向へ伸縮されると静電容量が変化し、伸縮方向へ縦長の形状を有する複数の繊維型センサが備えられた被服であって、
前記複数の繊維型センサは、被検者が前記被服を装着した場合に
前記被検者の関節に対応する位置に、当該肩関節から伸びる腕部のうち胸部側に長辺が沿うように組み込まれた第1センサと、
前記肩関節に対応する位置に、長辺が胸部側から背部側へ向かうように組み込まれた第2センサと、
前記肩関節に対応する位置に、当該肩関節から伸びる腕部のうち背部側に長辺が沿うように組み込まれた第3センサと、を含む
被服。
【請求項2】
前記複数の繊維型センサは、被検者が前記被服を装着した場合に、
前記関節に隣接する関節に対応する位置に、腕部に長辺が沿うように組み込まれた第4センサをさらに含む
請求項に記載の被服。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の被服と接続して用いられる解析装置であって、
前記被検者が計測対象となる前記肩関節を回動させるキャリブレーション動作を行うことによって得られる前記第1~第3センサの出力から、それぞれの軸周りの回動角を算出するための、前記第1~第3センサのそれぞれの出力に対する重み付け係数を算出する係数算出部と、
前記重み付け係数を用いて、前記被検者の任意の動作に対するそれぞれ軸周りの回動角を算出する回動角算出部と
を備える解析装置。
【請求項4】
一方向へ伸縮されると静電容量が変化し、伸縮方向へ縦長の形状を有する複数の繊維型センサが備えられた被服を、被検者装着する装着ステップと、
解析装置のコンピュータが、前記被検者が計測対象となる関節を回動させるキャリブレーション動作を行うことによって得られる前記繊維型センサの出力から、それぞれの軸周りの回動角を算出するための、前記繊維型センサのそれぞれの出力に対する重み付け係数を算出する係数算出ステップと、
前記コンピュータが、前記重み付け係数を用いて、前記被検者の任意の動作に対するそれぞれ軸周りの回動角を算出する回動角算出ステップと
を有する被検者の関節回動角を計測する方法であって、
前記複数の繊維型センサは、前記装着ステップにおいて、前記被検者が前記被服を装着した場合に、
前記肩関節に対応する位置に、当該肩関節から伸びる腕部のうち胸部側に長辺が沿うように組み込まれた第1センサと、
前記肩関節に対応する位置に、長辺が胸部側から背部側へ向かうように組み込まれた第2センサと、
前記肩関節に対応する位置に、当該肩関節から伸びる腕部のうち背部側に長辺が沿うように組み込まれた第3センサと、を含む
方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被服、解析装置および被検者の関節回動角を計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維に導電性の伸縮部材を編み込み、伸縮部材の伸縮によって生じる静電容量の変化を測定することで、当該繊維に加わる圧力などを計測する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-177565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、導電性の伸縮素材を埋め込んだ繊維型センサを、腕の肘の動きを計測するシステムに応用する例が示されている。肘の動きのように1軸周りに回動する動きであればその解析は比較的容易であるが、人体は2軸以上の自由度を以て回動する関節を有する。被検者の装着感が良好なこのような繊維型センサを用いて、2軸以上の自由度を有する関節のそれぞれの軸周りの回動角を解析することは、これまで非常に困難であった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、被検者の装着感を維持しつつ、2軸以上の自由度を有する関節のそれぞれの軸周りの回動角を比較的容易に解析するための、繊維型センサが備えられた被服等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様における被服は、一方向へ伸縮されると静電容量が変化する繊維型センサが備えられた被服であって、被検者が当該被服を装着した場合に被検者の少なくとも2軸周りに回動可能な関節に対応する位置に、少なくとも2つの繊維型センサが互いに平行とならないように組み込まれている。
【0007】
被検者がこのような被服を着れば、複数の繊維型センサは被検者の身体に対して自ずと好ましい位置に配置される。すなわち、補助者等が被検者に対してセンサの厳密な配置作業を行わなくても良い。そして、少なくとも2つの繊維型センサが互いに平行とならないように組み込まれていることから、同一関節の少なくとも2つの軸周りのそれぞれの回動動作を、相互に与え合う影響も考慮して解析するためのセンサ出力を提供することができる。
【0008】
また、上記の被服において、当該関節は肩関節であり、少なくとも、肩関節から伸びる腕部に沿って胸部側に1つと背部側に1つ、および胸部側から背部側へ向かって1つの繊維型センサが組み込まれていると良い。肩関節は3つの軸周りに回動できるので、それぞれの回動動作を解析するためには、このような繊維型センサの配置が好ましいとの知見を得た。
【0009】
また、上記の被服において、関節に隣接する隣接関節に対応する位置にも、繊維型センサが組み込まれていると良い。ある関節の回動動作は、その関節に隣接する関節の回動動作からも多少の影響を受けるので、隣接する関節の回動動作も計測対象にすると良い。計測対象を肩関節とする場合には、隣接関節は肘関節であり、少なくとも、腕部に沿って1つの繊維型センサが組み込まれると良い。肩関節の回動動作は、肘関節の回動動作から影響を受けることがわかったので、肩関節の回動動作を計測対象とする場合には、肘関節の回動動作も併せて監視すると良い。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様の被服と接続して用いられる解析装置であって、被検者が計測対象となる関節を回動させるキャリブレーション動作を行うことによって得られる繊維型センサの出力から、それぞれの軸周りの回動角を算出するための、繊維型センサのそれぞれの出力に対する重み付け係数を算出する係数算出部と、重み付け係数を用いて、被検者の任意の動作に対するそれぞれ軸周りの回動角を算出する回動角算出部とを備える。被服に備えられた繊維型センサは、当該被服を着る被検者の身体に対して厳密な位置調整がなされるわけではないので、まずはキャリブレーションを被検者に行わせることにより、センサの出力とそれぞれの軸周りの回動角の相関関係を把握する。具体的には、それぞれの軸周りの回動角を算出するための、繊維型センサのそれぞれの出力に対する重み付け係数を算出する。このように係数を予め算出しておくことにより、ある軸周りの回動角を算出する場合であっても、その回動動作によって敏感に反応するセンサの出力のみならず、他のセンサの出力も重み付け係数を介して取り込むことにより、より精確な回動角を算出することができる。
【0011】
本発明の第3の態様における被検者の関節回動角を計測する方法は、一方向へ伸縮されると静電容量が変化する少なくとも2つの繊維型センサを互いに平行とならないように、被検者の少なくとも2軸周りに回動可能な関節に対応する位置に装着する装着ステップと、解析装置のコンピュータが、被検者が計測対象となる関節を回動させるキャリブレーション動作を行うことによって得られる繊維型センサの出力から、それぞれの軸周りの回動角を算出するための、繊維型センサのそれぞれの出力に対する重み付け係数を算出する係数算出ステップと、コンピュータが、重み付け係数を用いて、被検者の任意の動作に対するそれぞれ軸周りの回動角を算出する回動角算出ステップとを有する。
【0012】
少なくとも2つの繊維型センサが、予め被服に組み込まれている場合に限らず、補助者等が被検者の身体に装着する場合であっても、少なくとも2つの繊維型センサを互いに平行とならないように装着するという簡単なルールに従って装着すれば、回動動作の回動角をより精確に算出することができる。すなわち、上述のように、キャリブレーションを被検者に行わせることにより、センサの出力とそれぞれの軸周りの回動角の相関関係を把握することができ、より精確な回動角を算出することができる。また、繊維型センサを用いるので、被検者の装着感も良好である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、被検者の装着感を維持しつつ、2軸以上の自由度を有する関節のそれぞれの軸周りの回動角を比較的容易に解析するための、繊維型センサが備えられた被服等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】測定システムの全体構成を示す概略図である。
図2】繊維型センサの構成を示す図である。
図3】肩関節の第1の回動動作を説明する図である。
図4】肩関節の第2の回動動作を説明する図である。
図5】肩関節の第3の回動動作を説明する図である。
図6】肘関節の回動動作を説明する図である。
図7】キャリブレーション動作の一例を示す図である。
図8】それぞれのセンサ出力の一例を示す図である。
図9】実際の回動動作と計算された回動角とを比較する図である。
図10】一連の測定工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0016】
図1は、被検者の関節回動角を計測する計測システム100の全体構成を示す概略図である。計測システム100は、主に、被検者が装着する被服200と、被服200からの信号を取得して回動動作を解析する解析用PC300と、その結果を表示するモニタ400によって構成される。本実施形態においては、被検者の右肩と右肘の回動動作を解析するシステムとして説明する。
【0017】
被服200は、全体としては一般的な繊維で編まれた衣服であるが、所定の位置に複数の繊維型センサ210が組み込まれている。具体的には後述するが、繊維型センサ210は、一方向へ伸縮されると静電容量が変化するセンサである。繊維型センサ210は、静電容量が変化する伸縮方向へ縦長の形状を有する。被服200には、4つの繊維型センサ210が組み込まれている。
【0018】
第1センサ210aは、右肩の肩関節に対応する位置であって、当該肩関節から伸びる右腕部のうち胸部側に長辺が沿うように組み込まれている。第2センサ210bは、右肩の肩関節に対応する位置であって、長辺が胸部側から背部側へ向かうように組み込まれている。第3センサ210cは、右肩の肩関節に対応する位置であって、当該肩関節から伸びる右腕部のうち背部側に長辺が沿うように組み込まれている。第4センサ210dは、右肘の肘関節に対応する位置であって、右腕部のうち背部側に長辺が沿うように組み込まれている。なお、右肘の肘関節は、身体的に右肩の肩関節に隣接する関節であり、右肩の肩関節の回動動作が右肘の肘関節の回動動作に多少の影響を与え、同様に、右肘の肘関節の回動動作が右肩の肩関節の回動動作に多少の影響を与える関係にある。
【0019】
それぞれの繊維型センサ210(第1センサ210a~第4センサ210d)の出力は、制御ユニット220へ集約されてAD変換され、近距離無線通信によって解析用PC300へ送信される。なお、制御ユニット220と解析用PC300との通信は、直接的な近距離無線通信に限らず、クラウドサーバーを介しての通信でも構わないし、有線接続による通信でも構わない。
【0020】
解析用PC300は、例えばデスクトップPCであり、制御ユニット220から繊維型センサ210の出力を受信して被検者の右肩および右肘の動作に関する解析を実行する解析装置として機能する。解析用PC300は、CPUである、制御演算プログラムを実行するシステム制御部310を備える。システム制御部310は、機能演算部として、計数算出部311と回動角算出部312とを備える。係数算出部311は、被検者が計測対象となる関節を回動させるキャリブレーション動作を行うことによって得られる繊維型センサ210の出力から、それぞれの軸周りの回動角を算出するための、繊維型センサ210のそれぞれの出力に対する重み付け係数を算出する。回動角算出部は、係数算出部が算出した重み付け係数を用いて、被検者の任意の動作に対するそれぞれ軸周りの回動角を算出する。具体的な動作と算出手順については後述する。
【0021】
モニタ400は、例えば液晶モニタであり、解析用PC300と接続されている。解析用PC300で計算、解析された結果は、被検者や監督者が視認可能なように、モニタ400に表示される。
【0022】
図2は、繊維型センサ210の構成を示す図である。繊維型センサ210は、横糸として交互に配置された第1導電糸211および第2導電糸212と、これらに交叉する縦糸である絶縁糸215が互いに織り込まれた基本構造を有する。第1導電糸211および第2導電糸212は、導電線(例えばステンレス線)を芯として備え、その周囲を非導電鞘(例えばポリエステルの中空糸)が取り囲む構造を有する。絶縁糸215は、伸縮性を備え、例えばポリウレタン繊維を素材とするストレッチ糸が用いられる。これにより、繊維型センサ210は、加えられる引張力に応じて矢印方向に伸びることができ、伸びに応じて第1導電糸211と第2導電糸212の間隔が拡がる。
【0023】
第1導電糸211は、それぞれの一端部が第1電極線213に接続されている。同様に、第2導電糸212は、それぞれの一端部が第2電極線214に接続されている。第1電極線213および第2電極線214は、それぞれ導電線(例えばステンレス線)であれば良いが、非導電性素材で被覆されていても良い。なお、第1電極線213および第2電極線214は、絶縁糸215が矢印方向へ伸張する作用を妨げないだけの長さを有し、引張力を受けていない通常時には撚れて縮んでいる。
【0024】
ここで、静電容量の変化について簡単に説明する。単位長さの導電平行線の静電容量Cは、第1導電糸211と第2導電糸212の間隔をD、それぞれの導電糸の半径をa、誘電体の誘電率をεとすると、次の式(1)で表される。
【数1】
【0025】
繊維型センサ210全体の静電容量Cは、隣り合う第1導電糸211と第2導電糸212で形成されるキャパシタが並列に接続されていると見なすことができることから、このキャパシタの総数をMc,向かい合う第1導電糸211と第2導電糸212の幅をWとすると、次の式(2)で表される。
【数2】
【0026】
したがって、加えられる引張力に応じて第1導電糸211と第2導電糸212の間隔が拡がると静電容量Cが変化するので、第1電極線213および第2電極線を検出回路に接続してこの変化を観察すれば、繊維型センサ210の伸張量を計測することができる。このような繊維型センサ210を、例えば肘関節の近傍に装着すれば、肘の回動に追従して繊維型センサ210が伸張する。そして、繊維型センサ210の出力の変化を観察すれば、繊維型センサ210の伸張量と肘の回動角との相関関係を把握することができる。したがって、一度その相関関係を把握できれば、その後の肘の回動動作に対して、繊維型センサ210の出力から当該回動動作の回動角を算出することができる。なお、最初の装着状態において若干伸張した状態となるように繊維型センサ210を配置すれば、回動動作に伴って収縮する変化も観察することができる。
【0027】
このように、肘関節のような1軸周りの回動を許容する関節の回動動作であれば、1つの繊維型センサ210の出力を観察すればその回動角を比較的高い精度で算出することができる。しかし、肩関節のように2軸以上の自由度を以て回動する関節に対しては、単一の繊維型センサ210の出力の変化を観察するだけでは、それぞれの回動角を算出することができない。また、何ら考慮することなく複数の繊維型センサ210を装着するだけでは、それぞれのセンサ出力とそれぞれの軸周りの回動角との対応関係が把握できない。
【0028】
そこで、本実施形態においては、上述のように、肩関節に対応する位置に、肩関節が許容する回動軸の自由度に合わせて3つの繊維型センサ210(第1センサ210a、第2センサ210b、第3センサ210c)を配置している。具体的には、第1センサ210aと第2センサ210b、第2センサ210bと第3センサ210cが、それぞれの伸長方向が互いに平行とならないように配置している。なお、対応する2つのセンサの伸長方向が成す角は、45度以上135度以下が好ましい。このように配置すれば、それぞれのセンサ出力とそれぞれの軸周りの回動角との対応関係が把握できる。以下に具体的に説明する。
【0029】
図3は、肩関節の第1の回動動作を説明する図である。第1の回動動作は、図示するように、両肩を通る水平軸を肩関節の第1軸と定めた場合の、第1軸周りの回動動作である。この第1軸周りの回動角をθw1とする。
【0030】
係数算出部311は、キャリブレーションとして、被検者が第1軸周りに腕を回動させたときの繊維型センサ210の出力を取得する。なお、このキャリブレーションにおいては、肘関節に対応して配置した第4センサ210dの出力も併せて取得する。具体的には、被検者にキャリブレーション動作として、例えば、θw1=0度(腕を垂直に下げた状態)、θw1=45度、θw1=90度(腕を前方向へ水平に保った状態)の順に腕を上げさせ、その都度それぞれのセンサ出力値を取得しサンプリングデータとして記憶する。なお、キャリブレーション動作においては、補助者等の目分量で角度を判断しても良いが、併設した他のセンサの出力や被検者を撮像した撮像データなどを用いて、より正しい角度を算出して対応付けても良い。この場合は、一定周期でサンプリングすることにより、回動角θw1と各センサ出力との組(サンプリングデータ)を連続的に生成して記憶することができる。なお、他のセンサの出力や撮像データから算出される回動角は、正確な値であるものとする。
【0031】
このような第1軸周りのキャリブレーション動作を複数回繰り返して、サンプリングデータを蓄積すれば、回動角θw1と各センサ出力の対応関係を把握することができる。具体的には、サンプリングデータを重回帰分析にかけることにより、次の式(3)の重み付け係数a11、a12、a13、a14と、定数bを算出する。なお、第1センサ210aの出力をL、第2センサ210bの出力をL、第3センサ210cの出力をL、第4センサ210dの出力をL14とする。
【数3】
【0032】
キャリブレーションにより式(3)が定まれば、その後の第1軸周りの任意の回動動作に対して、その時に得られるセンサ出力から回動角θw1を算出することができる。
【0033】
図4は、肩関節の第2の回動動作を説明する図である。第2の回動動作は、図示するように、胸部側から背部側へ向かう水平軸を第2軸と定めた場合の、第2軸周りの回動動作である。この第2軸周りの回動角をθw2とする。
【0034】
係数算出部311は、キャリブレーションとして、被検者が第2軸周りに腕を回動させたときの繊維型センサ210の出力を取得する。なお、ここでも第4センサ210dの出力も併せて取得する。具体的には、被検者にキャリブレーション動作として、例えば、θw2=0度(腕を垂直に下げた状態)、θw2=45度、θw2=90度(腕を右方向へ水平に保った状態)の順に腕を上げさせ、その都度それぞれのセンサ出力値を取得しサンプリングデータとして記憶する。この場合も、第1軸の場合と同様に撮像データ等を利用しても良い。
【0035】
このような第2軸周りのキャリブレーション動作を複数回繰り返して、サンプリングデータを蓄積すれば、回動角θw2と各センサ出力の対応関係を把握することができる。具体的には、サンプリングデータを重回帰分析にかけることにより、次の式(4)の重み付け係数a21、a22、a23、a24と、定数bを算出する。
【数4】
【0036】
キャリブレーションにより式(4)が定まれば、その後の第2軸周りの任意の回動動作に対して、その時に得られるセンサ出力から回動角θw2を算出することができる。
【0037】
図5は、肩関節の第3の回動動作を説明する図である。第3の回動動作は、図示するように、上腕の伸長方向を第3軸と定めた場合の、第3軸周りの回動動作(ねじり動作)である。この第3軸周りの回動角をθw3とする。
【0038】
係数算出部311は、キャリブレーションとして、被検者が第3軸周りに腕を回動させたときの繊維型センサ210の出力を取得する。なお、ここでも第4センサ210dの出力も併せて取得する。具体的には、被検者にキャリブレーション動作として、例えば、θw3=0度(手の平が垂直の状態)、θw3=45度、θw3=90度(手の平が水平の状態)の順に腕をねじらせ、その都度それぞれのセンサ出力値を取得しサンプリングデータとして記憶する。この場合も、第1軸の場合と同様に撮像データ等を利用しても良い。
【0039】
このような第3軸周りのキャリブレーション動作を複数回繰り返して、サンプリングデータを蓄積すれば、回動角θw3と各センサ出力の対応関係を把握することができる。具体的には、サンプリングデータを重回帰分析にかけることにより、次の式(5)の重み付け係数a31、a32、a33、a34と、定数bを算出する。
【数5】
【0040】
キャリブレーションにより式(5)が定まれば、その後の第3軸周りの任意の回動動作に対して、その時に得られるセンサ出力から回動角θw3を算出することができる。
【0041】
本実施形態においては、肘関節の回動動作も計測対象とする。図6は、肘関節の回動動作を説明する図である。肘関節の回動動作は、図示するように、肘関節の回動軸を第4軸と定めた場合の、第4軸周りの回動動作である。この第4軸周りの回動角をθw4とする。
【0042】
そもそも肘関節に対応する位置に第4センサ210dが装着されているので、第4センサ210dの出力のみを観察すれば、回動角θw4との対応関係を把握することができる。しかし、肘関節の回動動作は、その時の肩関節の状態から影響を受けることがわかってきた。そこで、本実施形態においては、肩関節のセンサの出力を併せて利用することにより、算出される回動角θw4の精度向上を図る。なお、肩関節の回動角θw1、θw2、θw3の算出に第4センサ210dの出力も用いるのは同様の理由であり、肩関節の回動動作は、その時の肘関節の状態から影響を受けることがわかってきたからである。すなわち、計測対象となる関節の回動動作は、隣接する関節の回動動作も考慮すれば、より精度良く回動角を算出することができる。
【0043】
係数算出部311は、キャリブレーションとして、被検者が第4軸周りに腕を回動させたときの繊維型センサ210の出力を取得する。具体的には、被検者にキャリブレーション動作として、例えば、θw4=0度(前腕を垂直に下げた状態)、θw4=45度、θw4=90度(前腕を水平にした状態)の順に腕を上げさせ、その都度それぞれのセンサ出力値を取得しサンプリングデータとして記憶する。この場合も、第1軸の場合と同様に撮像データ等を利用しても良い。
【0044】
このような第4軸周りのキャリブレーション動作を複数回繰り返して、サンプリングデータを蓄積すれば、回動角θw4と各センサ出力の対応関係を把握することができる。具体的には、サンプリングデータを重回帰分析にかけることにより、次の式(6)の重み付け係数a41、a42、a43、a44と、定数bを算出する。
【数6】
【0045】
キャリブレーションにより式(6)が定まれば、その後の第4軸周りの任意の回動動作に対して、その時に得られるセンサ出力から回動角θw4を算出することができる。
【0046】
式(3)から式(6)を纏めると、次の式(7)で表される。
【数7】
【0047】
上述においては、対象とする軸周りのキャリブレーションを実行する場合には、他の軸周りの回動角を一定に保つことを前提として説明した。しかし、式(7)からもわかるように、例えば1分程度の間に被検者に自由に腕を動かしてもらい、その間に取得される(θw1,θw2,θw3,θw4)と(L,L,L,L)の組合せであるサンプリングデータを相当数蓄積すれば、重回帰分析により式(7)の重み付け係数行列と定数ベクトルを算出することができる。
【0048】
次に実際の検証結果について説明する。図7は、検証として行ったキャリブレーション動作の一例を示す図である。横軸は、サンプリング回数であり、実質的には経過時間を表す。縦軸は、他のセンサによって計測された第1軸周りの回動角を表す。計測結果の変化からもわかるように、被検者は、第1軸周りに腕の上げ下げを3回繰り返した。
【0049】
図8は、図7に示すキャリブレーション動作を実行した時に得られた、各センサの出力値を示す図である。横軸は、図7と同様にサンプリング回数であり、実質的には経過時間を表す。縦軸は、センサ出力を表す。二点鎖線は第1センサ210aの出力Lの変化を表し、点線は第2センサ210bの出力Lの変化を表し、実線は第3センサ210cの出力Lの変化を表し、一点鎖線は第4センサ210dの出力Lの変化を表す。腕の上げ動作に応じて、第3センサ210cが大きく伸張する一方で、第2センサ210bが収縮している様子がわかる。このキャリブレーション動作から得られたサンプリングデータを重回帰分析して得られた重み付け係数は、a11=0.017、a12=-0.021、a13=0.140、a14=0.390であり、定数は、b=-55.996である。
【0050】
図9は、実際の回動動作である図7の計測値と、図8のサンプリングデータによって算出された重み付け係数および定数を式(3)に当てはめて計算した算出値とを重ねて比較した図である。横軸、縦軸は図7と同様であり、点線が計測値を示し、実線が算出値を示す。両者は比較的良好に一致しており、本実施形態における計測手法が実用に耐えることを表している。
【0051】
図10は、測定システム100を用いて回動角θw1~θw4を測定する一連の測定工程を示すフロー図である。被検者は、ステップS101において、被服200を装着する。これにより、被服200に埋め込まれた第1センサ210a~第3センサ210cは肩関節に対応する位置に配置され、第4センサ210dは肘関節に対応する位置に配置される。
【0052】
ステップS102において、被検者は第1軸から第4軸までそれぞれに応じたキャリブレーション動作を行う。被検者がキャリブレーション動作を試行している期間に、制御ユニット220は、第1センサ210a~第4センサ210dの出力であるL~Lを逐次収集して解析用PC300へ送信する。係数算出部311は、制御ユニット220から受信したL~Lを、その時点で別センサの出力等から算出された計測値である回動角θw1~θw4と組み合わせてサンプリングデータとして蓄積する。
【0053】
キャリブレーション動作の試行が終了したら、ステップS103へ進み、係数算出部311は、蓄積したサンプリングデータを重回帰分析にかけることにより、重み付け係数行列と定数ベクトルを算出する。重み付け係数行列と定数ベクトルを算出に成功したら、その旨をモニタ400に表示しても良い。また、本試行が可能となった旨を表示しても良い。
【0054】
被検者は、ステップS104で、肩関節および肘関節を任意に動作させる本試行を行う。被検者が本試行を行っている期間に、制御ユニット220は、第1センサ210a~第4センサ210dの出力であるL~Lを逐次収集して解析用PC300へ送信する。回動角算出部312は、制御ユニット220から受信したL~Lを式(7)に当てはめ、回動角θw1~θw4を算出する(ステップS105)。回動角θw1~θw4を算出したら、システム制御部310は、その結果を逐次モニタ400に表示する(ステップS106)。計測が終了するまではステップS104、S105を繰り返す。計測が終了し、例えば電源オフの操作がなされた場合には、一連の処理を終了する。
【0055】
以上説明した本実施形態においては、キャリブレーションとして(θw1,θw2,θw3,θw4)と(L,L,L,L)の組合せであるサンプリングデータを相当数蓄積し、このサンプリングデータを重回帰分析にかけることにより、式(7)を完成させた。しかし、任意の回動動作に対するそれぞれの回動角を求める手法は、これに限らない。例えば、入力値を(L,L,L,L)、出力値を(θw1,θw2,θw3,θw4)とするニューラルネットワークを構築しても良い。この場合、キャリブレーションを通じてサンプリングデータとしてまず(θw1,θw2,θw3,θw4)と(L,L,L,L)の組合せを蓄積し、これらを教師データとして学習済みニューラルネットワークを構築すれば良い。
【0056】
また、以上説明した本実施形態においては、肩関節の3軸周りのそれぞれの回動角を計測するにあたり、精度を高めるために隣接する肘関節のセンサ出力も参照したが、肩関節に対応して配置された3つのセンサの出力に限って参照するように構成しても良い。また、本実施形態においては、少なくとも2軸周りに回動可能な関節の例として肩関節を示したが、もちろん他の関節でも同様に適用できる。例えば、股関節を計測対象とすることもできる。このとき、股関節の各軸周りの回動角を計測するにあたり、股関節に隣接する膝関節近傍に装着したセンサの出力も利用して計測精度を高めても良い。
【0057】
また、上記の測定システム100は、繊維型センサ210が埋め込まれた被服200を含む構成であった。被服200を採用することにより、繊維型センサ210は被検者の身体に対して自ずと好ましい位置に配置されるので、センサ配置に関する作業が大幅に軽減される。しかし、繊維型センサ210が単体として例えば伸縮性のある基材に設けられており、そのような繊維型センサをそれぞれ直接的に被検者の対象箇所に装着する構成であっても構わない。その場合には、少なくとも2つの繊維型センサが互いに平行とならないように、計測対象となる関節の対応する位置に装着する。あるいは、被検者の身体に対して位置すべき箇所に単体の繊維型センサ210を装着する装着部が被服に設けられていても良い。装着部は、例えば伸縮性を損なわない収容ポケットを採用し得る。このような被服であっても、単体の繊維型センサ210を所定箇所に容易に配置することができる。すなわち、繊維型センサ210が被服に埋め込まれた形式であっても、装着する形式であっても、使用時において被服が繊維型センサ210を備えるものであれば良い。
【符号の説明】
【0058】
100 計測システム、200 被服、210 繊維型センサ、211 第1導電糸、212 第2導電糸、213 第1電極線、214 第2電極線、215 絶縁糸、220 制御ユニット、300 解析用PC、310 システム制御部、311 係数算出部、312 回動角算出部、400 モニタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10