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特許7057607次亜塩素酸ガス発生構造、次亜塩素酸ガス発生装置、空調システム、建物および格納容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】次亜塩素酸ガス発生構造、次亜塩素酸ガス発生装置、空調システム、建物および格納容器
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20220413BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
A61L9/01 F
A61L9/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022002004
(22)【出願日】2022-01-11
【審査請求日】2022-01-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513218330
【氏名又は名称】株式会社FMI
(74)【代理人】
【識別番号】100143111
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100189876
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 将晴
(72)【発明者】
【氏名】松永 敏宏
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-312988(JP,A)
【文献】特開2000-197689(JP,A)
【文献】特開2019-154884(JP,A)
【文献】登録実用新案第3224953(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相状態の次亜塩素酸のみを発生させる次亜塩素酸ガス発生構造において、
前記次亜塩素酸ガス発生構造が、次亜塩素酸水の貯留槽と、二重の円筒壁と、気体経路と、空気加圧手段と、次亜塩素酸水のミスト化手段と、ガス放出口とを含み、
二重の円筒壁をなす外円筒壁が、前記貯留槽から起立されると共に下方部が次亜塩素酸水に浸漬され、
二重の円筒壁をなす内円筒壁が、その下方周囲と前記貯留槽の次亜塩素酸水面との間に隙間を備えるように垂下されて、内円筒壁の内部を気体経路となし、
前記貯留槽が、前記外円筒壁の内外に貫通され、
前記空気加圧手段が、気体導入口から、内円筒壁の内部を通してガス放出口まで外気を加圧誘導させ、
前記ミスト化手段が、円筒状の網体と、次亜塩素酸水の放散手段を備え、
前記網体が、二重の円筒壁と同心をなして回転され、
前記放散手段が、前記内円筒壁の内部で前記網体に、次亜塩素酸水を衝突させてミストを発生させ、
液相状態の次亜塩素酸水が、前記内円筒壁の内部で前記貯留槽に落下回収され、
気相状態となる前記ミストが、前記隙間の周囲から前記二重の円筒壁がなす隙間空間に誘導されて上昇し、
前記ミストが上昇している間に、前記隙間空間において滴となったミストが、前記隙間空間の領域で前記貯留槽に落下回収され、
前記ガス放出口が、前記外円筒壁の領域外の上部に備えられ、
前記ガス放出口から、気相状態となるミストと次亜塩素酸ガスのみが放出される、
ことを特徴とする次亜塩素酸ガス発生構造。
【請求項2】
次亜塩素酸ガス発生装置において、
気相状態の次亜塩素酸のみを発生させる次亜塩素酸ガス発生装置であって、
請求項1の記載の次亜塩素酸ガス発生構造を備えている、
ことを特徴とする次亜塩素酸ガス発生装置。
【請求項3】
前記ガス放出口には、第1の水分放出量抑制手段が装着可能とされると共に、前記気体経路の気体導入口から前記ガス放出口までが気密とされ、
第1の水分放出量抑制手段が、繊維径が1μm以上30μm以下であると共に圧力損失が20Pa以上60Pa以下である撥水性を有する不織布フィルタとされている、
ことを特徴とする請求項2に記載の次亜塩素酸ガス発生装置。
【請求項4】
前記ガス放出口には、第2の水分放出量抑制手段が装着可能とされると共に、前記気体経路の気体導入口から前記ガス放出口までが気密とされ、
第2の水分放出量抑制手段が、繊維径が70nm以上200nm以下の疎水性ナノファイバーを含むと共に圧力損失が20Pa以上60Pa以下のナノフィルタとされている、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の次亜塩素酸ガス発生装置。
【請求項5】
前記ガス放出口には、第3の水分放出量抑制手段が装着可能とされると共に、前記気体経路の気体導入口から前記ガス放出口までが気密とされ、
第3の水分放出量抑制手段が、上流側から、繊維径が1μm以上30μm以下であると共に圧力損失が20Pa以上60Pa以下である撥水性を有する不織布フィルタと、繊維径が70nm以上200nm以下の疎水性ナノファイバーを含むと共に圧力損失が20Pa以上60Pa以下のナノフィルタからなる二重のフィルタとされ、二重のフィルタの間が少なくとも5mm以上離間されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の次亜塩素酸ガス発生装置。
【請求項6】
前記ガス放出口に装着された前記水分放出量抑制手段の上流面が、傾斜面をなし、
前記上流面で滴となったミストが、前記傾斜面に沿って前記貯留槽に落下される、
ことを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか一項に記載の次亜塩素酸ガス発生装置。
【請求項7】
前記ガス放出口の外方に、気流を発生させるガス拡散手段が備えられ、
前記ガス拡散手段が、前記ガス放出口から放出された次亜塩素酸ガスを拡散させる、
ことを特徴とする請求項2乃至請求項6のいずれか一項に記載の次亜塩素酸ガス発生装置。
【請求項8】
空調システムにおいて、
気相状態の次亜塩素酸のみを発生させて室内に供給させる空調システムであって、
請求項1の記載の次亜塩素酸ガス発生構造を空調経路に備え、
気相状態となるミストと次亜塩素酸ガスのみを、室内への新鮮空気導入経路に導入させて供給する、
ことを特徴とする空調システム。
【請求項9】
空調域が複数の区画に分割された建物において、
人が滞在する区画毎に、気相状態の次亜塩素酸のみを発生させる請求項8に記載の空調システムが備えられている、
ことを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除菌対象空間の加湿を抑えて、次亜塩素酸水からウイルスを失活させる気相状態の次亜塩素酸ガスだけを放出させ、除菌対象空間に短時間で均一に薄い濃度の次亜塩素酸ガスを供給することができる次亜塩素酸ガス発生構造、次亜塩素酸ガス発生装置、空調システム、建物および次亜塩素酸ミスト発生装置の格納容器に関する。
【0002】
具体的には、次亜塩素酸ガス発生装置は、下方に次亜塩素酸水の貯留槽を備え、外円筒壁と内円筒壁の二重の円筒壁を有し、外円筒壁の下方部を次亜塩素酸水に浸漬させ、内円筒壁の下方部を次亜塩素酸水から離間させ、内円筒壁の内部で次亜塩素酸水をミスト化させ、液滴状態の次亜塩素酸水は、内円筒壁に伝わせて貯留槽に回収し、気相状態となるミストは、内円筒壁の下方と貯留槽の次亜塩素酸水面との隙間を通して、二重の円筒壁の間の隙間空間を上昇させる。
【0003】
そして、気相状態となるミストが上昇している間に、二重の円筒壁の内面に付着して滴となるミストを、下方の貯留槽に回収させ、気相状態となる次亜塩素酸のみを、次亜塩素酸水面からの飛沫の影響を受けないガス放出口から放出させる。健康被害と金属腐食が危惧されている液相状態の次亜塩素酸を放出させないで、気相状態の次亜塩素酸ガスだけを発生させる次亜塩素酸ガス発生構造、発生装置、空調システム、建物および次亜塩素酸ミスト発生装置の格納容器に関する。
【0004】
次亜塩素酸とは、水素原子と塩素原子と酸素原子とが結合されてなる分子で、常温常圧で液相状態または気相状態で存在する。本願では、次亜塩素酸が液体の水に溶解された状態を「次亜塩素酸水」と称し、次亜塩素酸が微細な液滴とされて空気中を浮遊している状態を「ミスト」と称し、気相状態の次亜塩素酸を「次亜塩素酸ガス」と称している。なお、大きさ5μm以下のミストは瞬間的に気化されるため、気相状態の次亜塩素酸ガスに含めている。
【背景技術】
【0005】
従来から、次亜塩素酸水から発生させたミストを生活空間に放出させ、浮遊ウイルスや付着ウイルスを失活させるとする多くの種類のウイルス失活装置が提供されている。新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより、生活空間におけるウイルスの失活は喫緊の課題となり、コロナ禍以前に比べて次亜塩素酸を用いるウイルス失活装置が強い関心を集めることになった。
【0006】
ところが、単なる加湿器で粒径の大きい次亜塩素酸のミストを放出させる装置が流通されたこと、スプレーで次亜塩素酸水を空間噴霧させたこと等によって、ミストを人が吸い込むことによる健康被害の発生が危惧された。WHO、厚生労働省等は、呼吸器に及ぼす健康被害を危惧して、次亜塩素酸水の空間噴霧を推奨しないとの見解を示した。特に、呼吸器疾患の持病のある者、成長過程にある幼児、児童等の健康被害が懸念され、次亜塩素酸を用いるウイルス失活装置の普及が停滞した。
【0007】
一方「一般社団法人 次亜塩素酸水普及促進会議」のホームページによれば、低濃度の次亜塩素酸水を空間噴霧した事例が開示されている。これによれば、海外を含めて多くの空間噴霧の事例があり、国内でも人の集まるイベント会場等での空間噴霧の実例が示され、目立った健康被害がないことが主張されている。
【0008】
特許文献1には、本出願人による、相対湿度30%から50%の低湿度においても、インフルエンザウイルスを失活させる装置の技術が開示されている。この技術は、真菌類の繁殖を抑制できる低い湿度において、次亜塩素酸ガスにより浮遊ウイルスを失活させるために、液滴・液体微粒子の発生による加湿を抑えている。
【0009】
具体的には、液相状態のまま次亜塩素酸溶液を旋回揺動させて、空気循環部の空気と次亜塩素酸溶液との面摩擦により次亜塩素酸ガスを発生させ、空気取入口と空気放出口との気圧差により、空気を導入させると共に次亜塩素酸ガスを含んだ空気を放出させ、水分放出量を抑制させた状態で次亜塩素酸ガスを放出させる装置とされている。
【0010】
ところが、この装置によれば、次亜塩素酸水から液滴・液体微粒子を発生させないように、飛沫が飛ばない液相状態を保つ必要があり、次亜塩素酸水の旋回揺動を高速にできず、また装置の大型化も困難であるという課題があった。そのため、次亜塩素酸ガスの発生量が限られ、小さな空間でしかウイルスを失活できないことに加えて、空間全体に短時間で次亜塩素酸ガスを放散することができないという課題があった。
【0011】
本発明者は、この装置の開発後、次亜塩素酸ガスが活性を維持する活性有効期間を確認するために、空間の相対湿度と次亜塩素酸ガスの半減周期との関係を確認試験した。また相対湿度に応じた次亜塩素酸ガスのウイルス失活効果を確認試験した。これらの試験結果から、相対湿度を60%以下に抑制させておくと、次亜塩素酸水から次亜塩素酸ガスが効果的に発生されるだけでなく、揮発させた次亜塩素酸ガスの活性を維持させやすいことを発見した。
【0012】
特許文献2には、水および空気が通過可能な回転する円筒状の網体を設け、この網体の内壁に水を衝突させて水をミスト化し、水の表面積を増大させ、処理室内を通過する被処理空気のマイナスイオンの濃度を増大させるとするマイナスイオン発生装置の技術が開示されている。
【0013】
この技術に開示された装置によれば、網体を回転させて水をミスト化させている空間の上方から水面に向けて空気を噴き付けさせ、網体によるミストを含んだ空気を水面に衝突させ、上方に反転させて放出口から空気を排出させている。この技術によれば、噴き付けられた空気によって、水面が攪乱され、水面からの飛沫が多く発生し、網体によりミスト化された空気と共に飛沫による粒径の大きなミストも外気に放出され、空間の湿度が高くなりやすいという課題があった。
【0014】
特許文献3には、マイナスイオン発生装置の装置本体を小型化させるとする技術が開示されている。この技術によれば、筒状体とされたケースの中に同心状に内筒を配し、ケースと内筒の下方部を水没させて、内筒の一部に切欠き部を設けて内筒からケースへの通気部とし、内筒内で発生させた水ミスト混合空気を、前記切欠き部からケースと内筒の間に通して、旋回運動させ上昇させて外部に放出させるとしている。
【0015】
しかしこの技術によれば、内筒の中の水面は下降流の衝突により、また、ケースと内筒との間の水面は切欠きを通して発生される旋回流により攪乱され、いずれの水面からも多くの飛沫が発生され、仮に水滴が落下回収されたとしても、マイナスイオンとともに多湿の空気が発生されるという課題があった。
【0016】
特許文献2および特許文献3に記載の技術に次亜塩素酸水を適用させたときには、除菌対象空間の相対湿度を次亜塩素酸ガスの放散には適さない60%以上まで加湿させると共に、液相状態の次亜塩素酸ミストも除菌対象空間に放散させる可能性があった。そこで本出願人は、液滴・液体微粒子の液相状態の次亜塩素酸水を発生させないで、次亜塩素酸ガスだけを発生させると共に、放出させた除菌空間の湿度をあげにくい技術の開発に鋭意務め、本願発明に想到した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
特許文献1:国際公開2021-49045号公報
特許文献2:特開平9-203540号公報
特許文献3:特開平9-264574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、除菌対象空間の加湿を抑えて、次亜塩素酸水からウイルスを失活させる気相状態の次亜塩素酸ガスだけを放出させ、対象空間に短時間で均一に薄い濃度の次亜塩素酸ガスを供給することができる次亜塩素酸ガス発生構造、次亜塩素酸ガス発生装置、空調システム、建物および次亜塩素酸ミスト発生装置の格納容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の発明は、気相状態の次亜塩素酸のみを発生させる次亜塩素酸ガス発生構造において、前記次亜塩素酸ガス発生構造が、次亜塩素酸水の貯留槽と、二重の円筒壁と、気体経路と、空気加圧手段と、次亜塩素酸水のミスト化手段と、ガス放出口とを含み、二重の円筒壁をなす外円筒壁が、前記貯留槽から起立されると共に下方部が次亜塩素酸水に浸漬され、二重の円筒壁をなす内円筒壁が、その下方周囲と前記貯留槽の次亜塩素酸水面との間に隙間を備えるように垂下されて、内円筒壁の内部を気体経路となし、前記貯留槽が、前記外円筒壁の内外に貫通され、前記空気加圧手段が、気体導入口から、内円筒壁の内部を通してガス放出口まで外気を加圧誘導させ、前記ミスト化手段が、円筒状の網体と、次亜塩素酸水の放散手段を備え、前記網体が、二重の円筒壁と同心をなして回転され、前記放散手段が、前記内円筒壁の内部で前記網体に、次亜塩素酸水を衝突させてミストを発生させ、液相状態の次亜塩素酸水が、前記内円筒壁の内部で前記貯留槽に落下回収され、気相状態となる前記ミストが、前記隙間の周囲から前記二重の円筒壁がなす隙間空間に誘導されて上昇し、前記ミストが上昇している間に、前記隙間空間において滴となったミストが、前記隙間空間の領域で前記貯留槽に落下回収され、前記ガス放出口が、前記外円筒壁の領域外の上部に備えられ、前記ガス放出口から、気相状態となるミストと次亜塩素酸ガスのみが放出されることを特徴としている。
【0020】
次亜塩素酸水は、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを水に溶解させてもよく、塩化ナトリウム水溶液を電気分解させて微酸性の次亜塩素酸水を生成させてもよく、製法は限定されない。次亜塩素酸水は、pHにより性状が異なるが、ウイルス失活効果に優れた次亜塩素酸ガスが発生されやすいpH3.0からpH7.5が好適である。
【0021】
次亜塩素酸水のミスト化手段は、円筒状の網体と次亜塩素酸水の放散手段とされる。放散手段は下端が開放された漏斗状の回転体を次亜塩素酸水に浸漬させ、遠心力により次亜塩素酸水をくみ上げて、液滴として放散させてもよく、噴付手段により噴き付けさせてもよい。網体は、腐食が抑制されるようにステンレス製が好適であるが、網体の規格は限定されない。
【0022】
放散手段により放散させた液滴を回転される網体に衝突させるため、内円筒壁の中に微細なミストを発生させることができる。空気加圧手段により、外気導入口から導入された空気は、ミストが発生されている内円筒壁の中の次亜塩素酸水面に向かって下降される。導入された空気と発生されたミストは、内円筒壁の下方と次亜塩素酸水面との周囲の隙間を通って、外円筒壁と内円筒壁との隙間空間に均等に導入されて上昇される。隙間の一部に片寄らず、隙間の周囲全体を均等に上昇されるため、外円筒壁の外の次亜塩素酸水面が撹乱されない。
【0023】
微細な径にならなかったミストは水滴状になり、内壁に沿って貯留槽に落下され回収される。微細な径になったミストは、内円筒壁と外円筒壁との隙間全体を均等に上昇するが、その過程でも滴となるミストもある。滴となったミストは、隙間に面した内円筒壁と外円筒壁の内面に付着し、貯留槽に落下して回収される。ガス放出口が、外円筒壁の領域外の上部に備えられているため、次亜塩素酸水面の攪乱による飛沫の影響を受けず、微細なミストのみがガス放出口に至る。
【0024】
次亜塩素酸ガスとともに、滴とならなかった微細なミストは、ガス放出口に至り、除菌対象空間に放出される。滴とならなかったミストは5μm以下の大きさであれば、瞬間的にガス化されるため、ガス放出口から放出されるときには次亜塩素酸ガスとなっている。なお、「気相状態となるミストと次亜塩素酸ガスのみ」とは、液相状態のままで放出される次亜塩素酸が含まれていなければよく、外気が含まれているのは勿論のことである。
【0025】
本発明の第1の発明によれば、次亜塩素酸水をミスト化させて、内円筒壁の中でも、内円筒壁と外円筒壁の隙間の空間でも、液相状態となるミストを回収させて、気相状態となる微細なミストと次亜塩素酸ガスだけを、飛沫の影響を受けない外円筒壁の領域外に設けられたガス放出口から、ウイルスを失活させる除菌対象空間に放出させている。第1の発明によれば、加湿効果を抑制させた状態で、次亜塩素酸ガスだけを従来よりも多く放出させることができる。これにより、大きな空間に対しても、ウイルスを失活させる次亜塩素酸ガスを効果的に、短時間で発生させることができるという従来にない有利な効果を奏する。
【0026】
本発明の第2の発明は、次亜塩素酸ガス発生装置において、気相状態の次亜塩素酸のみを発生させる次亜塩素酸ガス発生装置であって、第1の発明の次亜塩素酸ガス発生構造を備えていることを特徴としている。第2の発明によれば、第1の発明の次亜塩素酸ガス発生構造が一体の装置の中に構成されているため、簡易に移動して使用できるという効果を奏する。
【0027】
本発明の第3の発明は、第2の発明の次亜塩素酸ガス発生装置であって、前記ガス放出口には、第1の水分放出量抑制手段が装着可能とされると共に、前記気体経路の気体導入口から前記ガス放出口までが気密とされ、第1の水分放出量抑制手段が、繊維径が1μm以上30μm以下であると共に圧力損失が20Pa以上60Pa以下である撥水性を有する不織布フィルタとされていることを特徴としている。
【0028】
「気体経路の気体導入口から前記ガス放出口までが気密」とは、装置の本体と蓋との間の隙間等から液相状態のミストが漏れないように気密にされていることをいう。不織布フィルタは、ガス放出口の内外いずれに装着されてもよいが、内側に装着されると、ガスにならなかったミストが微細な水滴となり、貯水槽に落下されやすいため好適である。
【0029】
2021年に制定された日本産業規格「JIS T9001(医療用および一般用マスクの性能要件および試験方法)」によれば、人が着用するマスクの圧力損失が20Pa以上60Pa未満であることが規定された。第2の発明の不織布フィルタは、撥水性を有し、繊維径が1μm以上30μm以下であり、前記JIS規格を充足する圧力損失である入手容易なフィルタとしている。
【0030】
また、一般用マスクに使用されるポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等からなり静電処理された不織布フィルタであれば、圧力損失が約30Paであり、その撥水性と繊維径とにより、粒径が2μmまでのミストであれば98%以上の割合で除去させることができ好適である。第3の発明によれば、水分放出量を更に抑制させた状態で、次亜塩素酸ガスだけを効率よく放出させることができる。
【0031】
本発明の第4の発明は、第2又は第3の発明の次亜塩素酸ガス発生装置であって、前記ガス放出口には、第2の水分放出量抑制手段が装着可能とされると共に、前記気体経路の気体導入口から前記ガス放出口までが気密とされ、第2の水分放出量抑制手段が、繊維径が70nm以上200nm以下の疎水性ナノファイバーを含むと共に圧力損失が20Pa以上60Pa以下のナノフィルタとされていることを特徴としている。
【0032】
第4の発明によれば、ガス放出口に第2の水分放出量抑制手段をなすナノフィルタが備えられる。繊維径が70nm以上200nm以下の疎水性ナノファイバーは、ファンデルワールス力により微細粒子を吸着ろ過させる。そのため、不織布フィルタでは除去できない大きさの物質、例えば粒径が100nmといった微細な水分、塩化物等の固形粒子さえも除去させることができる。
【0033】
ファンデルワールス力は、静電処理とは異なり、繊維が濡れても、ろ過性能が低下されにくいため、次亜塩素酸ガス発生装置を長時間に亘って連続運転させる場合に、ナノファイバーを含んでいると好適である。ナノフィルタはナノファイバーのみからなる場合に限定されず、ナノファイバーの両面に形状保持層をなす不織布を備えさせてもよい。
【0034】
また、ナノフィルタは単独で使用されてもよいが、第3の発明の不織布フィルタと二重にして使用されてもよい。疎水性ナノファイバーの材質は、例えばポリウレタン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が繊維径を細くしやすく、好適である。第4の発明によれば、塩化物等の固形粒子さえも除去させることができると共に、水分放出量を更に抑制させることができ、次亜塩素酸ガス発生装置から気相状態のガスだけを放出させることができる。
【0035】
本発明の第5の発明は、第2の発明の次亜塩素酸ガス発生装置であって、前記ガス放出口には、第3の水分放出量抑制手段が装着可能とされると共に、前記気体経路の気体導入口から前記ガス放出口までが気密とされ、第3の水分放出量抑制手段が、上流側から、繊維径が1μm以上30μm以下であると共に圧力損失が20Pa以上60Pa以下である撥水性を有する不織布フィルタと、繊維径が70nm以上200nm以下の疎水性ナノファイバーを含むと共に圧力損失が20Pa以上60Pa以下のナノフィルタからなる二重のフィルタとされ、二重のフィルタの間が少なくとも5mm以上離間されていることを特徴としている。
【0036】
第5の発明によれば、ガス放出口に第3の水分放出量抑制手段をなす二重のフィルタが備えられる。二重のフィルタをなす不織布フィルタは第3の発明の不織布フィルタと同様であり、ナノフィルタは第4の発明のナノフィルタと同様である。
【0037】
フィルタを二重にしても圧力損失が最大120Pa未満であり、HEPAフィルタの圧力損失の約2分の1であるため、大容量の装置にも適用可能である。圧力損失が小さいフィルタを組み合わせれば、通気性が高く、家庭用のガス発生装置に使用される通常のファンであっても、二重のフィルタを通してガスを放出させることができる。
【0038】
二重のフィルタが、少なくとも5mm以上離間されて配されるため、仮に、空気加圧手段の圧力により不織布フィルタの上流面に付着した微細水分が、二重のフィルタの間に噴き出すことがあっても、ナノフィルタに至るまでに微細水分が気化される。第5の発明によれば、ナノフィルタの隙間をミストにより詰まらせにくく、ガス発生装置を長時間に亘って連続運転させても、水分放出量を抑制させることができる。
【0039】
本発明の第6の発明は、第3から第5の発明の次亜塩素酸ガス発生装置であって、前記ガス放出口に装着された前記水分放出量抑制手段の上流面が、傾斜面をなし、前記上流面で滴となったミストが、前記傾斜面に沿って前記貯留槽に落下されることを特徴としている。水分放出量抑制手段をなすフィルタが装着されると、フィルタの上流面が加圧され、装置を長時間に亘って連続運転させる間に、微細なフィルタを通過できなかったミストが、フィルタ表面に微細な水滴となり付着されることがある。
【0040】
第6の発明によれば、水分放出量抑制手段の上流面が、傾斜面をなしているため、微細な水滴を大きな水滴とさせやすく、傾斜面に沿って自然落下させやすい。水分放出量抑制手段が二重のフィルタの場合には、上流側すなわち貯留槽側に配される不織布フィルタだけの上流面を屈曲させるようにすると好適である。第6の発明によれば、次亜塩素酸ガス発生装置が、長時間に亘って連続運転されても、ガス発生量の低下がされにくく、安定してガスを放出させ続けることができる。
【0041】
本発明の第7の発明は、第3から第6の発明の次亜塩素酸ガス発生装置であって、前記ガス放出口の外方に、気流を発生させるガス拡散手段が備えられ、前記ガス拡散手段が、前記ガス放出口から放出された次亜塩素酸ガスを拡散させることを特徴としている。
【0042】
フィルタにより次亜塩素酸ガスが放出されにくくなると、次亜塩素酸ガスが放出口近くに滞留されやすくなる。第7の発明によれば、ファンにより次亜塩素酸ガスを拡散させていることにより、半減周期の短い次亜塩素酸ガスをすみやかに拡散させることができ、高い濃度の次亜塩素酸ガスを片寄らせないで、気積の大きい部屋の隅々にまで薄い濃度の次亜塩素酸ガスを拡散させ、短時間でウイルスを不活化させると共に金属腐食を発生させにくい。
【0043】
本発明の第8の発明は、空調システムにおいて、気相状態の次亜塩素酸のみを発生させて室内に供給させる空調システムであって、第1の発明の次亜塩素酸ガス発生構造を空調経路に備え、気相状態となるミストと次亜塩素酸ガスのみを、室内への新鮮空気導入経路に導入させて供給することを特徴としている。
【0044】
空調システムは、外部からの取り入れた空気を空気加圧手段により加圧して、新鮮空気供給経路に導入させればよい。第8の発明によれば、低い湿度環境とし、新鮮な外気による換気と共に次亜塩素酸ガスを供給し、真菌類の発生を抑えた状態で消臭、除菌等が行われ、高齢者や医療対象室に適した空調システムとすることができるという従来にない有利な効果を奏する。
【0045】
本発明の第9の発明は、空調域が複数の区画に分割された建物において、人が滞在する区画毎に、気相状態の次亜塩素酸のみを発生させる第8の発明の空調システムが備えられていることを特徴としている。第9の発明によれば、空調域を複数の区画に分割させているため、ウイルス不活化作用を有する反面、半減周期が限られている次亜塩素酸ガスが、各区画に有効に供給される建物とすることができるという効果を奏する。
【0046】
本発明の第10の発明は、次亜塩素酸ミスト発生装置を格納させる格納容器であって、気体導入口と、ガス放出口と、水分放出量抑制手段と、加圧手段と、ガス拡散手段とを含み、前記格納容器が、前記気体導入口から前記ガス放出口までが気密とされ、次亜塩素酸ミスト発生部から前記ガス放出口までの距離が、次亜塩素酸ミストが気化される距離とされ、前記水分放出量抑制手段が、撥水性を有すると共に圧力損失が20Pa以上60Pa以下のフィルタを含み、前記加圧手段が、密閉状態の容器内部を、少なくとも20Pa以上加圧させる加圧手段とされ、前記加圧手段で容器内部が加圧され、前記ガス放出口から次亜塩素酸ガスのみが放出され、前記ガス拡散手段が、前記ガス放出口の外方に備えられ、前記次亜塩素酸ガスを拡散させることを特徴としている。
【0047】
第10の発明によれば、容器自体が加圧手段とガス拡散手段とを備えている。次亜塩素酸ミスト発生装置は、超音波振動子、噴霧器等によりミストを発生させる装置でもよく限定されない。液相状態のミストを発生させる装置であっても、フィルタにより液相状態のミストを格納容器の中に留め、外部への放出を抑制させている。フィルタによりガス放出抵抗が増加する分を加圧手段により補わせて、格納容器の中で発生された次亜塩素酸ガスを放出させ、ガスを拡散させるようにしている。加圧手段の加圧能力は、フィルタの圧力損失に応じて拡大させればよい。
【0048】
また、次亜塩素酸ミストの粒径に応じて次亜塩素酸ミスト発生部からガス放出口までの距離を離間させている。例えば、次亜塩素酸ミスト化手段が、目視できるような粒径の大きいミストを放出させる装置であるときは、ガス放出口までの距離を長くさせれば、フィルタに至るまでに大径のミストが除去されるため好適である。
【0049】
次亜塩素酸ミストが気化される距離をあけるには、次亜塩素酸ミスト発生装置の大きさに応じて容器自体の大きさを変更してもよく、次亜塩素酸ミスト化手段を載せる載置台の脚部の高さを変えてもよく、次亜塩素酸ミスト発生部からガス放出口までの経路を屈曲させてもよく、限定されない。第10の発明によれば、水分放出量を抑制できなかった装置を活用して、水分放出量を抑制させつつ、気相状態の次亜塩素酸ガスのみを放出させることができ、従来の次亜塩素酸ミスト発生装置を有効に活用することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0050】
・本発明の第1の発明によれば、加湿効果を抑制させた状態で、次亜塩素酸ガスだけを従来よりも多く放出させることができ、大きな空間に対しても、ウイルスを失活させる次亜塩素酸ガスを効果的に、短時間で発生させることができるという従来にない有利な効果を奏する。
・本発明の第2の発明によれば、第1の発明の次亜塩素酸ガス発生構造が一体の装置の中に構成されているため、簡易に移動して使用できるという効果を奏する。
・本発明の第3の発明によれば、水分放出量を更に抑制させた状態で、次亜塩素酸ガスだけを効率よく放出させることができる。
【0051】
・本発明の第4の発明によれば、塩化物等の固形粒子さえも除去させることができると共に、水分放出量を更に抑制させることができ、次亜塩素酸ガス発生装置から気相状態のガスだけを放出させることができる。
・本発明の第5の発明によれば、ナノフィルタの隙間をミストにより詰まらせにくく、ガス発生装置を長時間に亘って連続運転させても、水分放出量を抑制させることができる。
・本発明の第6の発明によれば、次亜塩素酸ガス発生装置が、長時間に亘って連続運転されても、ガス発生量の低下がされにくく、安定してガスを放出させ続けることができる。
・本発明の第7の発明によれば、ファンにより次亜塩素酸ガスを拡散させていることにより、半減周期の短い次亜塩素酸ガスをすみやかに拡散させることができ、高い濃度の次亜塩素酸ガスを片寄らせないで、気積の大きい部屋の隅々にまで薄い濃度の次亜塩素酸ガスを拡散させ、短時間でウイルスを不活化させると共に金属腐食を発生させにくい。
【0052】
・本発明の第8の発明によれば、低い湿度環境とし、新鮮な外気による換気と共に次亜塩素酸ガスを供給し、真菌類の発生を抑えた状態で消臭、除菌等が行われ、高齢者や医療対象室に適した空調システムとすることができるという従来にない有利な効果を奏する。
・本発明の第9の発明によれば、ウイルス不活化作用を有する反面、半減周期が限られている次亜塩素酸ガスが、各区画に有効に供給される建物とすることができるという効果を奏する。
・本発明の第10の発明によれば、水分放出量を抑制できなかった装置を活用して、水分放出量を抑制させつつ、気相状態の次亜塩素酸ガスのみを放出させることができ、従来の次亜塩素酸ミスト発生装置を有効に活用することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】次亜塩素酸ガス発生装置の説明図(実施例1)。
図2】次亜塩素酸ガスの半減周期確認試験。
図3】相対湿度と次亜塩素酸ガス発生量との相関関係の確認試験。
図4】フィルタ効果確認試験。
図5】次亜塩素酸ガス発生確認試験。
図6】液相ミスト不存在確認試験。
図7】ウイルス失活試験。
図8】相対湿度と次亜塩素酸ガス濃度の試験。
図9】フィルタの説明図(実施例2)。
図10】フィルタの他の態様の説明図(実施例2)。
図11】フィルタに付着した滴の図(実施例2)。
図12】次亜塩素酸ミスト発生装置の格納容器の説明図(実施例3)。
図13】空調システムおよび建物の説明図(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0054】
次亜塩素酸ガス発生装置(以下、発生装置という。)に、二重の円筒壁を備えさせ、二重の円筒壁をなす外円筒壁を貯留槽から起立させると共に、その下方部を次亜塩素酸水に浸漬させ、内円筒壁の下方周囲と次亜塩素酸水面との間に隙間を備えさせるようにした。内円筒壁の内部で、次亜塩素酸水を回転する網体に、空気加圧手段により導入した空気を衝突させてミストを発生させ、ミストを内円筒壁の中では下降させ、二重の円筒壁がなす隙間空間では上昇させるようにした。
【0055】
隙間空間で滴となったミストは、二重の円筒壁の間の壁面に付着され貯留槽に落下回収され、次亜塩素酸水の水面の攪乱を外円筒壁の内側だけに留め、次亜塩素酸水面からの飛沫が飛ばない外円筒壁の外方にガス放出口を備えさせ、気相状態となるミストと次亜塩素酸ガス(以下、ガスという。)のみを放散させるようにした。
【0056】
本発明の理解を容易にするため、ガスの性状を確認する第1の試験と、本発明に係る装置を使った第2の試験を説明してから、実施例を説明する。第1の試験として、「ガスの半減周期確認試験」、「相対湿度とガス発生量の相関関係の第1の確認試験」をした。第2の試験として、本装置を使った「放湿試験」、「フィルタ効果確認試験」、「ガス発生確認試験」、「液相ミスト不存在確認試験」、「インフルエンザウイルスの失活試験」、「相対湿度とガス発生量の相関関係の第2の確認試験」をした。
【0057】
まず、第1の試験に使用した装置と実験環境を説明する。第1の試験では、容積1.2m3の試験容器内に、湿度調整用装置と特許文献1に記載のガス発生用装置を設置した。ガス発生用装置では、送風量が1分あたり約0.012m3の小型ファンを使っている。
【0058】
ガスの性状をより正確に確認するため、次亜塩素酸塩を精製水に溶解させてから塩化物を除去させ、pHを弱酸性に調整させた次亜塩素酸水からガスを発生させた。次亜塩素酸水の量は500mlであり、有効塩素濃度は約100ppmに調整した。試験環境は、20℃に温度調整された試験室で行った。
【0059】
(ガスの半減周期確認試験)
「ガスの半減周期確認試験」では、予め精製水だけを使って実験容器内の初期相対湿度を10%から70%まで10%ずつ変化させて計7回実施し、初期相対湿度とガスの半減周期との相関関係を確認した(図2のa点からg点)。
【0060】
所望の初期相対湿度、例えば10%としてから、試験容器内で発生装置を10分間駆動させた。10分経過後の試験容器内の最大有効塩素濃度を測定し、最大有効塩素濃度となってから有効塩素濃度が2分の1となるまでの時間(以下、半減周期という)と、その時点の最終相対湿度を測定した。試験結果を下記の表1と図2に示している。なお、各湿度における最大有効塩素濃度は異なっている。
【0061】
[表1]
【0062】
半減周期は、初期相対湿度を10%に調整したときが最も長く、約38分であった(表1,図2のa参照)。半減周期は、初期相対湿度が高くなるにつれて、徐々に減少し、初期相対湿度60%まで低下し、その時点の半減周期は約10分であった(表1,図2のf参照)。初期相対湿度を70%に調整したときには、半減周期は22分となった(表1,図2のg参照)。
【0063】
ガスの半減周期が長い湿度環境とすれば、除菌対象空間にガスを長時間漂わせることができるため、ガスの濃度が薄くてもウイルス失活効果が期待できる。除菌対象空間を過度な加湿としないで、ガスの活性を維持しやすい半減周期が長い除菌対象空間の相対湿度は、50%を超えないことが好適であることが確認された。
【0064】
(相対湿度とガス発生量の相関関係の第1の確認試験)
「除菌対象空間の相対湿度とガスの発生量の相関関係」は、試験容器内の相対湿度を予め10%から70%までの湿度環境として、試験容器内で特許文献1に記載の発生装置だけを駆動させ、ガスを発生させ、ガスの発生量を測定することにより確認した。試験結果を下記の表2と図3に示している。
【0065】
[表2]
【0066】
この確認試験からは、相対湿度が20%のときに試験容器内のガス濃度が12.5ppbとなり、最も高い数値を示した(表2と図3のi参照)。相対湿度の上昇に伴って相対湿度50%までは、ガス発生量は同一の勾配でゆるやかに減少した。一方、相対湿度60%を超えてからはガス発生量が減少し、相対湿度70%(表2と図3のn参照)では、相対湿度20%のときの約3分の1となり、ガス発生量が著しく減少することが確認された。
【0067】
ガス発生量が多く、半減周期が長い湿度領域でガスを発生させると、発生装置が小さくても大きなウイルス失活効果が期待できる。上記の2つの確認試験から、カビ等の真菌類の繁殖を抑制させたうえで、ガスを効率よく発生させ、有効活性期間を長くさせるには、水分放出量を抑えた、相対湿度が50%以下の湿度環境でガスを発生させることが好適であることが確認された。
【0068】
次に、第2の試験に使用した本発明に係る発生装置を説明する(図1参照)。装置の空気加圧手段は、1分あたり約1.2m3の送風能力があり、加圧能力が約147Paのシロッコファンである。第2の試験では、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを水に溶解させた次亜塩素酸水からガスを発生させた。次亜塩素酸水の一回の使用量は3Lとし、次亜塩素酸水の濃度は約100ppmとした。第2の試験は、温度調整と換気のみが可能とされた床面積が約55m2、容積が約135m3の鉄筋コンクリート造の一室を試験室とし、室温を22℃に設定し実施した。
【0069】
(放湿試験)
放湿試験では、本発明の実施例1の発生装置1を使用し、6時間の連続運転を行い、残水量から除菌対象空間に放出された水分量を確認した。放湿試験は、ガス放出口にフィルタ装着なし、ナノフィルタのみ装着、不織布フィルタのみ装着、二重フィルタ装着の4つの態様で行った。
【0070】
なお、「一般社団法人 日本電機工業会規格:JEM1426」によれば、適用床面積に応じて推奨される加湿器の定格加湿能力が規定されている。定格加湿能力とは、室温20℃、湿度30%における1時間あたりの加湿能力である。試験室の床面積が約55m2であり鉄筋コンクリート造の建物であるため、加湿器に本来求められる定格加湿能力は約1200mL/hである。以下の表3には、試験結果として6時間の水分放出量と1時間あたりの加湿能力と、前記定格加湿能力に対しての加湿比率とを示している。
【0071】
[表3]
【0072】
発生装置1は、1時間あたりの加湿能力が、水分放出量抑制手段をなすフィルタをつけなくても、215mLであり、推奨される定格加湿能力に対して僅か18%の水分放出量となった。フィルタをつけた場合には、1時間あたりの加湿能力が50mLから60mLであり、定格加湿能力に比べて4%から5%となり、極めて少量しか水分を放出しないことが確認された。
【0073】
(フィルタ効果確認試験)
放出された気体が金属腐食作用に及ぼす影響の違いを、フィルタ100の種類を変えて確認するフィルタ効果確認試験を実施した(図4(A)図参照)。発生装置1のガス放出口31を種類の異なるフィルタで覆い、細線からなる銅繊維110を置き、腐食の違いを確認した。空間に暴露した状態と、100ppmの次亜塩素酸水を使用した場合の計4回の試験を実施した。いずれの試験も試験時間は2時間とした。この試験結果を以下の表4と図4に示している。図4(A)図は試験状態を示し、図4(B)図は銅繊維の写真を示している。
【0074】
[表4]
【0075】
図4(B)図は、試験体を腐食の少ない順に並べている。銅繊維を空間に暴露させただけの場合(図4(B)図のa)には、変化がみられなかった。ガス放出口にナノフィルタを装着させ、ナノフィルタの上に銅繊維を置いた場合(図4(B)図のb)には、周縁部は変色されたが、その他の部分は金属光沢が残っていた。ガス放出口に不織布フィルタを装着させ、不織布フィルタの上に銅繊維を置いた場合(図4(B)図のc)には、全体がくすむように変色し、金属光沢も失われていた。ガス放出口にフィルタをつけないで、ガス放出口に銅繊維を吊り下げた場合には(図4(B)図のd)、全体が黒変し、金属光沢は全くない状態となった。
【0076】
この試験によれば、ナノフィルタによる場合には金属光沢が残っていたことから、次亜塩素酸水に含まれていた塩化物等の微細粒子がファンデルワールス力により取り除かれ、ナノフィルタを装着すれば微細粒子による金属の腐食が抑制できることが確認できた。また、不織布フィルタだけでは、金属腐食を抑制するこが困難であることが確認できた。
【0077】
(ガス発生確認試験)
ガスが発生していることを確認する試験として、ガス放出口31に竿体200を起立させ、ガス放出口31から直近の位置、上方に20cmずつ離間した位置2か所の計3か所に、竿体200から横方向に銅繊維210を突き出させ、各位置の金属腐食によりガスの発生状態を確認している(図5(A)図参照)。試験時間は6時間としている。試験結果を表5と図5に示している。図5(A)図は、試験状態を示し、図5(B)図は銅繊維の写真を示している。
【0078】
[表5]
【0079】
図5(B)図は、金属腐食が大きい順に並べている。ガス発生確認試験では、ガス放出口の直上に位置させた銅繊維(図5(B)図のa)は、全体が黒変し、金属光沢も失われていた。ガス放出口から20cm離間させた銅繊維(図5(B)図のb)は、周縁部に微かに変色がみられる程度で大部分の金属光沢は残っていた。ガス放出口から40cm離間させた銅繊維(図5(B)図のc)は、全く変色がなかった。
【0080】
この試験結果から、ガス放出口からはガスが発生され、ガス放出口の直上ではガスが金属に影響を及ぼすが、ガス放出口から20cmも離間されれば、ガスが拡散され金属に対する影響は薄れ、40cm以上離間されれば、ガスが広く拡散され、フィルタなしであっても金属腐食に及ぼす影響が小さいことが確認された。
【0081】
(液相ミスト不存在確認試験)
ガスの放出口から出る次亜塩素酸に液相状態となるミストの放出がないことを確認する試験をした(図6参照)。併せて、次亜塩素酸により金属腐食の状態を確認している。図6(A)図は試験状態を示し、図6(B)図は銅繊維の写真を示している。ガス放出口の外側に、上方が開放された円筒状のフード部300を装着させ、銅繊維a310をフード部の内部に吊り下げ、銅繊維b320をガス流から外れた位置に横方向に突出させると共に、風に沿って、はためくようにティッシュペーパー330をフード部に添着させた(図6(A)図参照)。次亜塩素酸水は濃度100ppmとし、容量を3Lのままとしている。銅繊維b320はフード部から約15cm離間した位置とした。
【0082】
フードに被るようにして、はためいていたティシュペーパー330には、常時、全く濡れが発生せず、液相状態となるミストが発生されていないことが確認された。なお、フード部の内部に吊り下げた銅繊維aは、2時間経過時に変色が視認され、6時間経過後には全体が黒変し、金属光沢が失われた(図6(B)図)。一方、ガス放出口から15cm離間されていた銅繊維bは、6時間後にも変色はなく、金属光沢も失われていなかった。この試験によっても、ガス放出口から離間されれば、金属腐食の影響が薄れることが確認された。
【0083】
(インフルエンザウイルスの失活試験)
本出願人は、先の特許文献1において、インフルエンザウイルスの失活試験の結果を開示している。その試験結果によれば、相対湿度が30%から50%の除菌対象空間に、7ppbといった、極めて薄い濃度のガスを充満させただけで、インフルエンザウイルスを失活させることができることを確認している。
【0084】
本出願にあたり、次亜塩素酸ガス濃度を更に薄くし、ウイルス失活試験を実施した。1.2m3の試験容器内を相対湿度30%又は50%に調整し、ガスを放散させ約2ppbとした状態で、夫々同量のインフルエンザウイルスの試験液を噴霧させ、相対湿度とガスの存在の有又は無により、どのようにウイルスが失活されるかを確認した。
【0085】
具体的には、相対湿度30%におけるガスの放散の有又は無、相対湿度50%におけるガスの放散の有又は無の4つの場合に分け、ウイルス感染価(TCID50/mL)の減少量を確認した。ウイルス感染価の測定は、スタート直後(0分)と、15分経過時、30分経過時、45分経過時に実施した。図7には、インフルエンザウイルス失活試験の結果を示している。図7(A)図は、ウイルス感染価の経時変化を対数グラフで示し、図7(B)図は、各測定時点のウイルス感染価の実数値を示している。
【0086】
ガスの放散無として、相対湿度30%と相対湿度50%の違いによるウイルスの感染価の減少率を比較すると、相対湿度を30%としただけの場合には(A線)、15分経過時点で約67%に減少し、30分経過時点で約31%に減少し、45分経過後には約10%に減少している。一方、相対湿度を50%としただけの場合には(B線)、15分経過時点で約21%に減少し、30分経過時点で約8%に減少し、45分経過後には約1%に減少している。
【0087】
湿度30%よりも湿度50%の方が、より早くウイルスが減少されることが確認された。それに加えて相対湿度が50%の場合には、実験スタート直後の時点で、相対湿度が30%の場合に比較して、ウイルス感染価の初期値が約68%であり、減少率だけでなくウイルス感染価の初期値を抑える意味でも、湿度の役割が大きいことが確認された。
【0088】
次に、ガスの放散有として、相対湿度30%と相対湿度50%の違いによるウイルスの感染価の減少率を比較すると、相対湿度を30%とした場合には(C線)、15分経過時点で約10%に減少し、30分経過時点で約1.5%に減少し、45分経過後には約0.3%に減少している。一方、相対湿度を50%とした場合には(D線)、15分経過時点で約4.6%に減少し、30分経過時点で約0.32%に減少し、45分経過後には約0.07%に減少している。
【0089】
ガスの放散有の場合でも、湿度30%よりも湿度50%の方が、より早くウイルスが減少されることが確認されると共に、減少率だけでなくウイルス感染価の初期値を抑える意味でも、湿度の役割が大きいことが確認された。この試験を通して、相対湿度を約50%としておけば、2ppbのガスを放散させただけで、相対湿度30%でガスの放散無に比較して、ウイルス感染価をスタート直後で約32%、15分経過後で約2.2%に減少でき、著しく有利であることが確認できた。
【0090】
欧州連合(EU)によれば、人が安全に生活可能な空気中の塩素ガスの環境基準は0.5ppmとされている。次亜塩素酸ガスの環境基準は定められていないため、前記の環境基準と比較すると約250分の1の濃度のガスによりウイルスを失活させることができることが確認された。
【0091】
(相対湿度とガス発生量の相関関係の第2の確認試験)
密閉した気積25m3の試験室を25℃とし、後述する実施例1の発生装置1を使ってガスを放散させて相対湿度とガス濃度の変化を確認した。この試験結果を図8に示している。図8(A)図はガスの濃度変化を示し、図8(B)図は試験室内の湿度変化と温度変化を示している。図8(B)図において、A線は相対湿度を示し、B線は温度を示している。相対湿度の増加に伴いガス濃度がピークとなり飽和状態を維持してから低下することが確認された。
【0092】
初期相対湿度は45%であった。実験スタートの湿度がガスの発生に適し、半減周期が長い湿度領域であったため、ガスは急勾配で増加し、スタート後30分で相対湿度約60%のときに最大値の約25ppbの濃度となった。「相対湿度とガス発生量の相関関係の第1の確認試験(以下、第1の確認試験という。)」で確認したように、相対湿度が50%を超えてからはガスの発生が鈍り、半減周期も短くなるため、ガス濃度は25ppbをピークとする飽和状態となり、それが約10分継続した。
【0093】
相対湿度が65%を超えた約40分後からは、第1の確認試験で確認したように、ガス濃度がやや低下傾向をみせ、約60分後にピークの約72%の18ppbとなった。この第2の確認試験によっても、第1の確認試験と同様に、低湿度であることがガスの発生に適していることが確認された。また、発生装置1によれば、25m3の気積の部屋でウイルスの失活が確認された2ppbの10倍以上の濃度が発生できると共に空間の相対湿度によりガス濃度を制御でき、安全かつ有効にウイルスを失活させることができることが確認できた。
【実施例1】
【0094】
実施例1では、水分放出量抑制手段を装着させた発生装置1を、図1を参照して説明する。図1(A)図は発生装置の垂直断面による説明図を示し、図1(B)図は、図1(A)図のA-A位置の水平断面図を示している。発生装置1は、次亜塩素酸ガス発生構造を備えた装置となっている。
【0095】
発生装置1は、本体部10と、本体部の上方に嵌合される内蓋20と、ガス放出口31を有する外蓋30とからなる(図1(A)図参照)。本体部10には、次亜塩素酸水の貯留槽11と、二重の円筒壁をなす外円筒壁12と、空気加圧手段13と、次亜塩素酸水のミスト化手段14と、気体導入口15と、気体導入口から前記内蓋までの気体経路とが備えられる。前記内蓋20からは内円筒壁21が垂下される。
【0096】
二重の円筒壁をなす外円筒壁12は、内円筒壁21とミスト化手段14とが同軸上に配置されるように、貯留槽の底板に分散して配設された4つのスペーサ16に載置されて位置決めされる(図1(B)図参照)。前記内蓋20には、二重の円筒壁をなす内円筒壁21と、内円筒壁21に外気を導入させる気体経路と、外円筒壁12よりも下流の気体経路に配置される垂れ壁24とが備えられる(図1(A)図参照)。内円筒壁21が垂下される長さは、次亜塩素酸水の水面との間に気体経路をなす隙間23があけられる長さとされる。
【0097】
内蓋が本体部の上方に嵌合されると、内蓋20から垂下された内円筒壁21と、貯留槽11から立設された外円筒壁12とが二重の円筒壁をなす。この内蓋20の上に外蓋30が被されると、気体導入口15から内円筒壁の内部、内円筒壁の下方周縁と次亜塩素酸水面との隙間23、二重の円筒壁の隙間空間26を経て、ガス放出口31に至る気体経路が形成される。ガス放出口31は、外蓋の天面に開口され、外円筒壁12の領域外に位置している(図1参照)。
【0098】
空気加圧手段13により、気体導入口15から空気が加圧誘導されると、内蓋20に形成された気体経路を通じて、ミストを発生させる内円筒壁21の内部空間に空気が導入され、内部空間に沿ってミスト混じりの空気が下降される。加圧誘導されるミストと外気は降下され、内円筒壁の下方と水面との間の周囲の隙間23から、内円筒壁と外円筒壁との間の隙間空間26に均等に流れ、隙間空間26を上昇する。このときに、隙間空間26で滴となったミストが、内円筒壁と外円筒壁との間の壁面に付着され貯留槽11に落下回収される。
【0099】
気相状態をなすミストとガスは、外円筒壁12の上部まで上昇してから、内蓋の開口孔27に向かい、開口孔27から内蓋と外蓋の間の空間に導入されガス放出口31に至り、除菌対象空間に放出される。ミストが加圧空気で気体経路を誘導されている間に、液相状態をなす次亜塩素酸が貯留槽11に落下され、気相状態となる次亜塩素酸だけがガス放出口に至り、前述した放湿試験のとおり、除菌対象空間への水分放出量が抑制される(表3参照)。
【0100】
なお、気体経路を横断する垂れ壁24を内蓋に備えさせておくと、外円筒壁の領域外でも、微細なミストのうち液相状態をなすミストが垂れ壁24により滴となり、貯留槽11に落下回収される。垂れ壁24に至る時点では液相状態となるミストの大半が除去されているが、垂れ壁24を設けることによっても、水分発生量を更に抑制させることができる。
【0101】
貯留槽11の下方には、ミスト化手段14の駆動部等を備えさせると共に、次亜塩素酸水タンク22の格納場所としておけばよい。スペーサ16に外円筒壁12を載置させ、次亜塩素酸水の貯留槽11を外円筒壁の内外で連通させているため、外円筒壁の外に落下した滴も外円筒壁の内に落下した滴も貯留槽11に回収される。外円筒壁12の下方が貯留槽11に浸漬された状態とされているため、外円筒壁の内の水面の撹乱の影響が、外円筒壁の領域外には及ばない(図1(A)図参照)。
【0102】
また、外円筒壁12と内蓋20の側壁17とは、気体が流通できる隙間25が離間されている(図1(B)図参照)。二重の円筒壁の隙間空間26からガス放出口31とは反対側に誘導された次亜塩素酸ミストは、外円筒壁12と側壁17の隙間25を迂回してガス放出口31に誘導される。外円筒壁12の高さは、内蓋20を本体部10に嵌合させたときに、内蓋20と外円筒壁12とが離間され、気体経路が形成される高さとしている。
【0103】
空気加圧手段13は、ガス放出口31にフィルタを装着させた場合でも、ガスを放出することができるように、フィルタによる圧力損失に応じたファンが選択されればよく、加圧能力と形態は限定されないが、送風量が最大で1.2m3/分のシロッコファンとしている。このシロッコファンによれば、発生装置の内部を約150Paの圧力で加圧することができ、二重のフィルタを装着させても、ガスが放出可能である。
【0104】
次亜塩素酸水のミスト化手段14は、二重の円筒壁と同軸上に配され、放散手段18と円筒状の網体19と、これらを一体に回転させる駆動部とされる。放散手段18は断面積が下方に向けて小さくなる漏斗体とされ、漏斗体の下端開口部が貯留槽11に浸漬され、上端部が蓋部材で閉塞されると共に上部周縁部に液滴の放散口28が放射状に配列されている。また漏斗体の上端部には径方向に突出される鍔部29が備えられ、鍔部29の外縁から円筒状の網体19が垂下される。
【0105】
網体19は、ステンレス製の網体とされ、メッシュ径が約1mmとされる。放散手段18と網体19とは一体に回転される。放散手段18と網体19とが回転されると、放散手段をなす漏斗体の内面に沿って次亜塩素酸水がくみ上げられ、放散口28から液滴となって放散され、回転する金網19に衝突される。
【0106】
液滴が金網19に衝突されて破砕されることにより、内円筒壁21の中に次亜塩素酸ミストを発生させるため、効率よく次亜塩素酸ミストを発生させることができる。ミストにならなかった液相状態の次亜塩素酸水は、放散された勢いで内円筒壁21の壁面に付着され、壁面に沿って垂れ落ち、大部分が貯留槽11に落下して回収される。
【実施例2】
【0107】
実施例2では、発生装置のガス放出口31に水分放出量抑制手段をなすフィルタ40を装着させ、ガス放出口にガス拡散手段41を設けた発生装置2を、図9から図11を参照して説明する。図9(A)図は、その構成を示し、図9(B)図は、第1の水分放出量抑制手段をなす不織布フィルタの拡大図を示している。図9では、理解を容易にするため、フィルタ40とガス拡散手段41だけを実線で示し、発生装置の他の構成を破線で示している。
【0108】
図10はフィルタの他の態様を示している。図10(A)は、第2の水分放出量抑制手段をなすナノフィルタ50を示し、図10(B)図,図10(C)図には第3の水分放出量抑制手段をなす二重のフィルタを示している。図11(A)図は、図9(A)図の態様の不織布フィルタ40の上流面の写真を示し、図11(B)図は、図10(A)図のナノフィルタ50の上流面の拡大写真を示している。
【0109】
発生装置2には、ガス放出口に、空気加圧手段の性能等に応じて、いずれかの態様のフィルタが装着されればよい。フィルタを装着させるとガス放出口からのガスの放出速度が低下され、ガスが放出口近く又は低い位置に滞留されるため、ガス放出口のフィルタ面に沿ってガス拡散手段をなすファンを備えさせ、除菌対象空間の広い範囲に、短時間でガスを拡散させるようにしている。
【0110】
いずれの態様のフィルタも、ゴム製のパッキング42等でガス放出口に気密に装着させることにより、ガスがフィルタ部分のみを通過して除菌対象空間に放出される。フィルタを装着させると、装置内部の圧力が高まり、本体、内蓋、外蓋の境界部分から、次亜塩素酸が漏出されることがあるため、空気導入口からガス放出口までの気体経路以外は気密にさせるとよい(図9(A)図参照)。
【0111】
第1の水分放出量抑制手段(図9(B)図参照)は、人に着用される不織布マスクと同等の撥水処理がされた不織布フィルタとしている。具体的には、フィルタをなす繊維の繊維径が1μm以上6μm以下で圧力損失が約30Paである。ここでは、不織布フィルタを折り曲げずに、全体を平坦なままガス放出口31に、次亜塩素酸ミストが漏れないように装着させている。例えば、フィルタの周囲にゴム製のパッキング42等を備えさせ、ガス放出口に密着させて気密性を確保させればよい。
【0112】
フィルタをなす繊維の材質は、ポリプロピレン樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維、ポリウレタン樹脂繊維、またはこれらの混合樹脂繊維等であればよいが限定されない。不織布フィルタの製造方法は撥水処理がされていれば限定されず、例えばメルトブローン製法、スパンボンド製法等であればよい。
【0113】
発生装置に、不織布フィルタを装着させて6時間連続運転させたときには、不織布フィルタの上流面全体が濡れた状態となっていた(図11(A)図参照)。なお、不織布フィルタの下流側の面は濡れていなかった。前記放湿試験に示したように水分放出量を抑制させると共に、前記ガス発生試験に示したようにガスを発生させていた。なお、フィルタの圧力損失は20Pa以上60Pa以下であればよく、フィルタの繊維径は1μm以上30μm以下であればよく、人に着用される不織布マスクでなくてもよいことは勿論のことである。
【0114】
第2の水分放出量抑制手段(図10(A)図参照)は、フィルタをなすナノファイバーの繊維径が70nm以上200nm以下で圧力損失が20Pa以上60Pa未満の疎水性のナノフィルタであり、上流面が下方に凸の傾斜面をなすように、中央部で1回折り曲げられている(図10(A)図参照)。ナノフィルタは、ナノファイバーが密集された三次元網目層51と、両側の形状保持層をなす薄層の不織布52からなる三層構造のナノフィルタ50としている。
【0115】
長時間の連続運転により上流面で滴となったミストは、傾斜面に沿って中央部に集まり、貯留槽11に落下されて回収される。発生装置にナノフィルタを装着させて6時間連続運転させたときは、ナノフィルタの上流面に通過しなかったミストが微細な滴aとなり付着され、大きな滴は落下された状態とされ(図11(B)図参照)、前記放湿試験に示したように、水分放出量が抑制された。なお、下流側の面は湿った状態とはなっていなかった。
【0116】
第3の水分放出量抑制手段(図10(B)図、図10(C)図参照)は、不織布フィルタ61,62とナノフィルタ50からなる二重のフィルタとされ、夫々のフィルタの間が5mm以上離間された空間63としている。二重のフィルタは、不織布フィルタ61,62が傾斜されて枠体に装着されることにより、上流面を傾斜面とさせている。平坦な不織布フィルタ61を使用する場合には、不織布フィルタ全体を斜めに傾斜させればよい(図10(B)図参照)。この場合には、不織布に付着した滴が傾斜面に沿って周縁部に集まり速やかに落下される。
【0117】
蛇腹状に屈曲させた不織布フィルタ62を使用する場合には、上流面に筋状の谷折り部ができ、不織布に付着した滴は、谷折り部に集まり落下される(図10(C)図)。いずれの場合も、不織布フィルタの内部まで濡れにくい。なお、不織布フィルタを通過する粒径のミストや、不織布フィルタの上流側が濡れたときに、通気により下流側に水分微粒子が吹き込んだとしても、不織布フィルタとナノフィルタとの空間63で気化されやすいため、ナノフィルタは乾燥状態に維持される。
【実施例3】
【0118】
実施例3では、既存の次亜塩素酸ミスト発生装置を格納させる格納容器3を、図12を参照して説明する。図12(A)図は、格納容器3の垂直断面による説明図を示し、図12(B)図は、フィルタの拡大図を示している。
【0119】
格納容器は、側面に気体導入口70と、ガス放出口71を備え、内部が次亜塩素酸ミスト発生装置の格納部72とされている。ガス放出口71には水分放出量抑制手段をなす撥水性を有するフィルタ73が装着され、ガス放出口にはガス拡散手段をなすファン74が備えられる(図12(A)図)。フィルタ73は、上流面に付着した滴をフィルタ面に沿って垂下させるように、フィルタ面を縦方向に装着させている(図12(B)図参照)。フィルタの仕様は、実施例2と同様であるため説明を省略している。
【0120】
気体導入口70に備えられる加圧手段は、ガス放出口からガスを放出できるように、フィルタ73の圧力損失よりも大きな加圧性能を有している。例えば、フィルタの圧力損失が20Paのフィルタであれば、加圧手段は20Pa以上の加圧性能があればよい。また格納容器は、着脱可能な遮蔽板75,76を有している。遮蔽板を設けることにより、容器内部で発生される次亜塩素酸ミストの粒径に応じて、次亜塩素酸ミスト発生部からガス放出口までの距離を調整可能とされる。例えば、超音波加湿器のように、目視できる粒径の次亜塩素酸ミストを放出させる場合には、次亜塩素酸ミスト発生部からガス放出口までの距離を長く離間させればよい。
【0121】
例えば、第1の遮蔽板75を格納容器の底板から起立させ、第2の遮蔽板を第1の遮蔽板76とガス放出口71の間に天板から垂下させ、気体導入口70からガス放出口71の間において、加圧空気が下降してから上昇する気体経路とするとよい。発生されたミストは、加圧空気によって誘導され、放出されるまでに屈曲されて、ガス放出口に至ったときには、液相状態をなす次亜塩素酸は除去される。そして、フィルタを湿潤させにくい気相状態に近い粒径のミストとガスだけが、フィルタに至り、フィルタ73が濡れにくい。次亜塩素酸ミスト発生装置から放出される次亜塩素酸ミストの粒径が小さく、装置が大きい場合には、遮蔽板75,76を取り外して使用すればよい。
【実施例4】
【0122】
実施例4では、各階の空調経路に、次亜塩素酸ガス発生構造を備えた空調システム4を配設した建物5を、図13を参照して説明する。図13(A)図は、空調システム4の構成を説明する説明図を示し、図13(B)図は建物5の説明図を示している。次亜塩素酸ガス発生構造の構成は、実施例1の次亜塩素酸ガス発生装置と同様であるため、図13(A)では、次亜塩素酸ガス発生装置1と同一の機能を有する構成については同一の符合を付して簡単に説明する。
【0123】
空調システム4は、外気を導入し居室に配給する空調経路80に備えられる。図13(A)図に一点破線で囲った範囲の空調システム4とすればよいが、貯留槽11への供給経路81を設けて、塩化ナトリウム水溶液を供給し生成装置82により電気分解して次亜塩素酸水としてもよく、次亜塩素酸水を直接供給させてもよいことは勿論のことである。
【0124】
空調システム4は、主たる空調経路80から一部を分岐させ空気を導入し、空気加圧手段13により加圧した空気を内円筒壁21の中に導入し、内円筒壁21の中において、回転される円筒状の網体と次亜塩素酸水の放散手段とからなるミスト化手段14により、微細な次亜塩素酸ミストを発生させて、空気をミストと共に内円筒壁21の中の空間を一旦下降させてから、内円筒壁と外円筒壁12の間の隙間空間26を気相状態となる次亜塩素酸を上昇させる。
【0125】
内円筒壁21の中の空間で滴となるミストを回収させてから、次亜塩素酸水の貯留槽11の水面から飛沫が発生しない外円筒壁12の領域外の上部に設けられたガス放出口83から、気相状態となる次亜塩素酸水のミストと次亜塩素酸ガスを主たる空調経路80に供給させる。主たる空調経路に供給された次亜塩素酸ガスは、予め温度・湿度が調整された空気と合流されて居室に供給される。
【0126】
次亜塩素酸ガスは、湿度によって半減周期が異なるため、次亜塩素酸ガスの発生量が多く半減周期が長い相対湿度30%~50%に調整した空気を導入して、次亜塩素酸ガスを発生させて供給するのが好適であるが限定されない。ウイルス失活効果が活用できる濃度の次亜塩素酸ガスを、湿度に応じた半減周期の期間に応じて供給できる範囲を一つの区画として、建物5の人が滞在する空間を分割して、空調システム4を備えさせればよい。
【0127】
建物5においては、理解を容易にするため、各階毎に空調システム4を備えさせている(図13(B)図参照)。一つの階の空調面積が大きい場合には、一つの階に複数の空調システムを備えさせるとよい。空調システム4により、相対湿度30%~60%の湿度環境として、次亜塩素酸ガスを供給することにより、真菌類の黴の発生が抑えられ、ウイルス失活効果、消臭、除菌効果も期待できる。空調システム4は、大きな事務室だけでなく、高齢者用の居室を数多く有する建物に適用でき、建物利用者に快適・安心できる空間を提供することができる。
【0128】
(その他)
・気体についての「ppm」は体積百万分率の単位であり、液体についての「ppm」は質量百万分率の単位であり、気体についての「ppb」は体積十億分率の単位である。
・発生装置では、予め生成させた次亜塩素酸水を使用する例を説明したが、電気分解手段を備えさせ、塩化ナトリウム水溶液を電気分解させて、次亜塩素酸水を生成させてもよいことは勿論のことである。
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記した説明に限らず、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0129】
1,2…次亜塩素酸ガス発生装置、3…格納容器、4…空調システム、5…建物、
100…フィルタ、110…銅繊維、200…竿体、210…銅繊維、
300…フード部、310…銅繊維a、320…銅繊維b、
330…ティッシュペーパー、
10…本体部、11…貯留槽、12…外円筒壁、13…空気加圧手段、
14…ミスト化手段、15…気体導入口、16…スペーサ、17…側壁、
18…放散手段、19…網体、
20…内蓋、21…内円筒壁、22…次亜塩素酸水タンク、23…隙間、
24…垂れ壁、25…隙間、26…隙間空間、27…開口孔、28…放散口、
29…鍔部、30…外蓋、31…ガス放出口、
40…フィルタ、41…ガス拡散手段、42…パッキング、
50…ナノフィルタ、51…三次元網目層、52…不織布、
61…不織布フィルタ,62…不織布フィルタ、63…空間、
70…気体導入口、71…ガス放出口、72…格納部、
73…フィルタ、74…ファン、75…遮蔽板、76…遮蔽板、
80…空調経路、81…供給経路、82…次亜塩素酸生成装置、83…ガス放出口
【要約】
【課題】除菌対象空間の加湿を抑えて、ウイルスを失活させる気相状態の次亜塩素酸ガスだけを放出させることができる次亜塩素酸ガス発生構造等を提供する。
【解決手段】次亜塩素酸水の貯留槽と、二重の円筒壁とを備えさせ、外円筒壁の下方部を次亜塩素酸水に浸漬させ、内円筒壁の下方部を次亜塩素酸水から離間させ、内円筒壁の内部で次亜塩素酸水をミスト化させ、液滴状態の次亜塩素酸水は、内円筒壁に伝わせて貯留槽に回収し、気相状態となるミストは、内円筒壁の下方と貯留槽の次亜塩素酸水面との隙間を通して、二重の円筒壁の間の隙間空間に均等に導入させ、気相状態となるミストが上昇している間に、二重の円筒壁の内面に付着して滴となるミストを回収し、気相状態となる次亜塩素酸のみを、次亜塩素酸水面からの飛沫の影響を受けないガス放出口から放出させるようにした。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13