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特許7057668治療剤に対する抵抗性の診断に使用するためのERCC1アイソフォーム3のmRNAおよび/またはタンパク質ならびにこのmRNAおよび/またはタンパク質を使用する治療剤に対する抵抗性を診断するための方法
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  • 特許-治療剤に対する抵抗性の診断に使用するためのERCC1アイソフォーム3のmRNAおよび/またはタンパク質ならびにこのmRNAおよび/またはタンパク質を使用する治療剤に対する抵抗性を診断するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】治療剤に対する抵抗性の診断に使用するためのERCC1アイソフォーム3のmRNAおよび/またはタンパク質ならびにこのmRNAおよび/またはタンパク質を使用する治療剤に対する抵抗性を診断するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220413BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20220413BHJP
   C12Q 1/6809 20180101ALI20220413BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220413BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N9/16 Z
C12Q1/6809 Z
G01N33/53 D
G01N33/53 M
G01N33/574
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2017513004
(86)(22)【出願日】2015-09-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2017-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2015071170
(87)【国際公開番号】W WO2016042009
(87)【国際公開日】2016-03-24
【審査請求日】2018-07-11
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】14185247.5
(32)【優先日】2014-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517073306
【氏名又は名称】アドナーゲン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ハウフ, ジーグフリート
(72)【発明者】
【氏名】ボーケロー, イヴォヌ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーグナー, イエニー
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】中島 庸子
【審判官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/170659号明細書
【文献】The New England Journal of Medicine,2013年,Vol.368,No.12,p.1101-1110
【文献】Clinical Chemistry,2014年,Vol.60,No.10,p.1282-1289
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N, C12Q
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
JST7580/JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金に基づく卵巣がん治療剤に対する抵抗性の指標としての、循環腫瘍細胞(CTC)におけるERCC1アイソフォーム3タンパク質の使用。
【請求項2】
白金に基づく卵巣がん治療剤に対する抵抗性の指標としての、循環腫瘍細胞(CTC)におけるERCC1アイソフォーム3mRNAの使用。
【請求項3】
人体由来の液体試料中の循環腫瘍細胞(CTC)におけるERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAを、白金に基づく卵巣がん治療剤に対する抵抗性の指標として使用する方法であって、
a)前記液体試料に存在するERCC1アイソフォーム3タンパク質の量および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの量を測定するステップと、
b)測定された前記量を所定の値と比較するステップであって、前記所定の値を上回る量が、前記治療剤に対する抵抗性を示す、ステップと
を含むかまたはそれからなり、ここで、前記液体試料が、末梢血、腹水、リンパ液および骨髄からなる群より選択される体液を含むかまたはそれからなる、方法。
【請求項4】
白金に基づく卵巣がん治療剤に対する抵抗性を検出するためのバイオマーカーとしての、循環腫瘍細胞(CTC)におけるERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの使用。
【請求項5】
前記抵抗性が、人体由来の液体試料中のERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの量によって示されることを特徴とし、ここで、前記液体試料が、末梢血、腹水、リンパ液および骨髄からなる群より選択される体液を含むかまたはそれからなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項6】
人体由来の前記液体試料から、循環腫瘍細胞を単離するステップと、単離された前記循環腫瘍細胞におけるERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの発現のレベルを決定するステップとを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項7】
人体由来の前記液体試料から循環腫瘍細胞を単離する前記ステップが、多重抗体捕捉方法によって行われる、請求項6に記載の方法または使用。
【請求項8】
循環腫瘍細胞を単離する前記ステップが、
a)前記液体試料を、循環腫瘍細胞に対する結合親和性を有する少なくとも2種の抗体および/または抗体誘導体の所定の組み合わせと混合するステップと、
b)前記試料から、i)前記抗体および/または前記抗体誘導体とii)前記循環腫瘍細胞との間の複合体を単離するステップと
を含むかまたはそれからなることを特徴とする、請求項6または7に記載の方法または使用。
【請求項9】
前記抗体および/または前記抗体誘導体が、
a)少なくとも1種の磁性粒子もしくは常磁性粒子にカップリングされる、および/または
b)少なくとも1種の蛍光分子にカップリングされる
ことを特徴とする、請求項8に記載の方法または使用。
【請求項10】
前記抗体および/または前記抗体誘導体が、少なくとも1種の磁性粒子もしくは常磁性粒子にカップリングされ、前記複合体の単離のために磁力が使用されることを特徴とする、請求項9に記載の方法または使用。
【請求項11】
前記抗体および/または前記抗体誘導体が、少なくとも1種の蛍光分子にカップリングされ、前記複合体の単離のために蛍光活性化細胞分取が使用されることを特徴とする、請求項9または10に記載の方法または使用。
【請求項12】
2種の前記抗体および/または前記抗体誘導体のうち少なくとも1種が、GP1.4、MOC-31、Ber-EP-4、HMPV.2、HMEIV.2、8B6、E29、10E9(抗HER2)、2D3(抗EpCAM)、抗cMET、抗EGFR、抗cKIT、抗IGFRおよび131-11741を含むかまたはそれからなる群より選択されることを特徴とする、請求項8~11のうちの一項に記載の方法または使用。
【請求項13】
a)単離された前記循環腫瘍細胞を溶解するステップと、
b)溶解された単離された前記循環腫瘍細胞に存在するERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの量を測定するステップと、c)溶解された単離された前記循環腫瘍細胞に存在し、かつERCC1アイソフォーム3mRNAとは異なる少なくとも1種のmRNAの量を測定するステップであって、前記少なくとも1種のmRNAが、上皮、間葉系または幹細胞表現型の細胞のマーカーであるmRNAを含むかまたはそれからなる群より選択される、ステップと
を含み、
ステップb)およびステップc)について、その順序を変えることができる、請求項~1のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項14】
ステップb)および/またはステップc)における測定が、RT-PCR、LCR、NASBA、ハイブリダイゼーション方法、ならびに/またはPCRのステップ、制限酵素によるPCR産物の断片への消化のステップおよび得られた前記断片の解析のステップを含有する方法によって行われる、請求項13に記載の方法または使用。
【請求項15】
ERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベルを、第1の所定の値と比較するステップを含み、前記第1の所定の値を上回るERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベルが、前記治療剤に対する抵抗性を示す、請求項1~1のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項16】
a)ERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベルを、第1の所定の値と比較するステップと、
b)ERCC1アイソフォーム3mRNAとは異なる少なくとも1種のmRNAの測定された発現レベルを、第2の所定の値と比較するステップであって、前記少なくとも1種のmRNAが、上皮、間葉系または幹細胞表現型の細胞のマーカーであるmRNAを含むかまたはそれからなる群より選択される、ステップと
を含み、
前記第1の所定の値を上回る前記ERCC1アイソフォーム3タンパク質および/または前記ERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベル、ならびに前記第2の所定の値を上回る、ERCC1アイソフォーム3mRNAとは異なる前記少なくとも1種のmRNAの測定された発現レベルが、前記治療剤に対する抵抗性を示すことを特徴とする、請求項1に記載の方法または使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
循環腫瘍細胞(CTC)の検出は、固形がんならびに原発性疾患および転移性疾患における独立した予後ツールとして広く受け入れられている。前記疾患の処置における治療失敗は、所与の治療の経過において消失しないCTCによって示された。しかし、治療が開始される前においては、ある特定の治療剤の治療上の成功の予測に役立たないため、かかる予後情報単独では、有用性が限られていることが判明した。
【0002】
よって、CTCに存在するマーカーであって、ある特定の治療剤による治療の成功可能性に関する有用な情報、および将来的な治療法を個別にそれに対して調整することができる推定治療標的に関する情報をもたらし得るマーカーを同定するために、CTCをさらに特徴付ける必要がある。
【0003】
免疫磁気捕捉と、続くこのようにして捕捉された細胞のmRNAプロファイリングによる分子の特徴付けを組み合わせるAdnaTest(登録商標)は、このような問題に取り組むための有用なツールである。例えば、卵巣がんにおいては、成功裏の治療の早期同定が、特に、予後が既に不良である卵巣がんにおいて最も重要である。かかる方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるEP1409727A2に開示されている。
【0004】
白金に基づく治療剤またはレジメンは、一部の形態のがん、例えば、外科手術後の卵巣がんの処置における第1の、そして最も有望な選択である。しかし、患者の約20%は、白金に基づく治療薬に対する抵抗性を既に発生している、または発生しつつある。よって、前記患者は、もはやこれらの治療薬またはこれらのレジメンの恩恵を受けない。
【0005】
ERCC1は、白金に基づく治療剤に対する抵抗性に関する予測情報を提供するための組織バイオマーカーとして長い間考慮されていた、DNA修復遺伝子である。しかし、最近、組織におけるERCC1タンパク質の免疫組織化学的検出が特異性を欠き、白金に基づく治療剤に対する抵抗性の正確な予測に不適であったことが判明した。ERCC1アイソフォーム2、3および4が、ヌクレオチド除去修復能力において非機能的であることが判明した。結果的に、これらが、バイオマーカーとしての使用に不適であることが想定された。ERCC1の4種の異なるアイソフォームのうち、ERCC1アイソフォーム1のみが、バイオマーカーとしての使用に適していることが判明した(Friboulet L.ら、Cell Cycle、12巻、3298~3306頁を参照)。しかし、ERCC1アイソフォーム1および4は、高度に類似しており、このことは、これまでのところ、アイソフォーム4発現を共検出することなくアイソフォーム1発現を特異的に検出することが不可能であることを意味する。重要なことに、ERCC1アイソフォーム1および4の発現は、時間および組織特異的であり、このことは、アイソフォーム1の検出が、大幅な組織間変動を被り、アイソフォーム4共検出の干渉のためにエラーを生じ易いことを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許出願公開第1409727号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】Friboulet L.ら、Cell Cycle、12巻、3298~3306頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、検出エラーを生じ難い、治療剤に対する抵抗性の再現性がありかつ組織非依存的な予測をもたらすバイオマーカーを提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題は、請求項1に記載の使用のためのERCC1アイソフォーム3タンパク質、請求項2に記載の使用のためのERCC1アイソフォーム3mRNA、請求項3に記載の治療剤に対する抵抗性を診断するための方法、ならびに請求項4に記載のバイオマーカーとしてのERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはmRNAの使用によって解決される。従属請求項は、その好ましい実施形態に言及する。
【0010】
本発明によると、ERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはmRNAが、治療剤に対する抵抗性の診断における使用のために示唆される。ERCC1のアイソフォーム3は、「ERCC1 201」としても公知であり、このタンパク質は、「Swiss-Prot」タンパク質データベース(www.uniprot.orgを参照)における識別子P07992-3を有する。ERCC1アイソフォーム3mRNAとは、「Swiss-Prot」タンパク質データベースにおける識別子P07992-3を有するERCC1アイソフォーム3タンパク質をコードする任意のmRNAのことと理解される。
【0011】
驚いたことに、細胞におけるERCC1アイソフォーム3タンパク質産生のレベルおよび細胞、特に循環腫瘍細胞におけるERCC1アイソフォーム3mRNA発現のレベルが、白金に基づく治療剤等の治療剤に対する抵抗性と相関することが判明した。ERCC1のアイソフォーム3は、治療剤に対する抵抗性の発生に関与しないことが公知であるため、この発見は驚くべきことである。ERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはmRNAの利点は、ERCC1の他のアイソフォームとは構造的に大きく異なるため、アイソフォーム1、2および/または4の共検出の問題を伴わずに決定することができることである。結果的に、ERCC1アイソフォーム3は、例えば、ERCC1アイソフォーム1と比較して、抵抗性を検出するためのより信頼できるマーカーである。
【0012】
その上、治療剤に対する抵抗性を診断するための方法が提供される。本方法は、
a)液体試料または組織試料、好ましくは、人体由来の液体試料または人体由来の組織試料に存在するERCC1アイソフォーム3タンパク質の量および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの量を測定するステップと、
b)測定された量を所定の値と比較するステップであって、所定の値を上回る測定された量が、前記治療剤に対する抵抗性を示す、ステップと
を含むかまたはそれからなる。
【0013】
治療剤は、好ましくは、白金に基づくがん治療剤、照射に基づくがん治療剤およびDNA破壊的がん治療剤を含むかまたはそれからなる群より選択されるがん治療剤であり得る。
【0014】
その上、治療剤に対する抵抗性のバイオマーカーとしてのERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの使用が示唆される。好ましくは、バイオマーカーは、がん治療剤、より好ましくは、白金に基づくがん治療剤、照射に基づくがん治療剤および/またはDNA破壊的がん治療剤に対する抵抗性の検出に使用されるバイオマーカーである。
【0015】
上に列挙されるタンパク質、mRNA、方法および/または使用に関して、次の実施形態が特に好ましい。
【0016】
診断は、人体由来の液体試料および/または人体由来の組織試料、好ましくは、人体由来の単離された液体試料および/または人体由来の組織試料において行うことができる(in-vitro方法)。試料は、体液(例えば、末梢血、痰、腹水、リンパ液、尿および/または骨髄)を含むかまたはそれからなることがある。試料は、生検材料(例えば、原発性腫瘍由来の生検材料)を含むかまたはそれからなることもある。
【0017】
がんは、固形がん、好ましくは、卵巣がん、乳がん、肺がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃がん、結腸がん、精巣がんおよび頸部がんを含むかまたはそれからなる群より選択され得る。卵巣がんが特に好ましい。最も好ましくは、診断は、外科手術後の卵巣がんを考慮する。
【0018】
抵抗性の診断は、好ましくは、多重抗体捕捉方法によって循環腫瘍細胞を単離するステップと、単離された循環腫瘍細胞におけるERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの発現のレベルを決定するステップとを含むことができる。これに関して、循環腫瘍細胞の単離は、人体由来の液体試料および/または人体由来の組織試料において行うことができる。好ましくは、循環腫瘍細胞の単離は、人体由来の単離された液体試料および/または人体由来の組織試料において行われる(in-vitro方法)。
【0019】
例えば、循環腫瘍細胞を単離するために、AdnaTest(登録商標)OvarianCancerSelect/Detectを使用することができる。
【0020】
循環腫瘍細胞を単離するステップは、
a)循環腫瘍細胞を含有する液体試料、好ましくは、人体由来の液体試料および/または人体由来の組織試料を、少なくとも2種の抗体および/または抗体誘導体の所定の組み合わせと混合するステップであって、抗体および/または抗体誘導体が、循環腫瘍細胞に対する結合親和性を有する、ステップと、
b)試料から、i)抗体および/または抗体誘導体ならびにii)循環腫瘍細胞の間の複合体を単離するステップと
を含むかまたはそれからなることがある。
【0021】
抗体および/または抗体誘導体は、好ましくは、少なくとも1種の磁性粒子または常磁性粒子にカップリングされる。この場合、前記複合体の単離のために磁力を使用することができる。これに加えてまたはこれに代えて、抗体および/または抗体誘導体は、少なくとも1種の蛍光分子にカップリングすることができる。この場合、前記複合体の単離のために蛍光活性化細胞分取を使用することができる。
【0022】
2種の抗体および/または抗体誘導体のうち少なくとも1種は、GP1.4、MOC-31、Ber-EP-4、HMPV.2、HMEIV.2、8B6、E29、10E9(抗HER2)、2D3(抗EpCAM)、抗cMET、抗EGFR、抗cKIT、抗IGFRおよび131-11741を含むかまたはそれからなる群より選択され得る。
【0023】
抵抗性の診断は、
a)単離された循環腫瘍細胞を溶解するステップと、
b)溶解された単離された循環腫瘍細胞に存在するERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの量を測定するステップと、
c)溶解された単離された循環腫瘍細胞に存在し、かつERCC1アイソフォーム3mRNAとは異なる少なくとも1種のmRNAの量を測定するステップであって、少なくとも1種のmRNAが、上皮、間葉系または幹細胞表現型の細胞のマーカーであるmRNAを含むかまたはそれからなる群より選択される、ステップと
を含むことができ、ステップb)およびステップc)は、その順序を変えることができる。
【0024】
好ましくは、ステップb)および/またはステップc)における測定は、RT-PCR、LCR、NASBA、ハイブリダイゼーション方法、ならびに/またはPCRのステップ、制限酵素によるPCR産物の断片への消化のステップおよび前記得られた断片の解析のステップを含有する方法によって行われる。
【0025】
ERCC1アイソフォーム3mRNAとは異なる少なくとも1種のmRNAは、上皮、間葉系または幹細胞表現型の細胞のマーカーであるmRNAを含むかまたはそれからなる群、好ましくは、表1に列挙されているmRNAを含むかまたはそれからなる群より選択され得る。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0026】
抵抗性の診断は、好ましくは、ERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベルを、第1の所定の値と比較するステップを含み、第1の所定の値を上回るERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベルは、前記治療剤に対する抵抗性を示す。
【0027】
抵抗性の診断は、
a)ERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベルを、第1の所定の値と比較するステップと、
b)ERCC1アイソフォーム3mRNAとは異なる少なくとも1種のmRNAの測定された発現レベルを、第2の所定の値と比較するステップであって、少なくとも1種のmRNAが、上皮、間葉系または幹細胞表現型の細胞のマーカーであるmRNAを含むかまたはそれからなる群より選択される、ステップと
を含むことができ、第1の所定の値を上回るERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベル、ならびに第2の所定の値を上回る、ERCC1アイソフォーム3mRNAとは異なる前記少なくとも1種のmRNAの測定された発現レベルは、前記治療剤に対する抵抗性を示す。
【0028】
ERCC1アイソフォーム3とは異なる少なくとも1種のmRNAは、表1(上を参照)に列挙されているmRNAを含むかまたはそれからなる群より選択され得る。
【0029】
次の実施例および図面に関連して、本発明に係る主題について、前記主題を本明細書に示す特殊な実施形態に制限することは望まず、より詳細に説明することを目的としている。
例えば、本発明の実施形態において、以下が提供される。
(項目1)
治療剤に対する抵抗性の診断における使用のための、ERCC1アイソフォーム3タンパク質。
(項目2)
治療剤に対する抵抗性の診断における使用のための、ERCC1アイソフォーム3mRNA。
(項目3)
治療剤に対する抵抗性を診断するための方法であって、
a)液体試料または組織試料に存在するERCC1アイソフォーム3タンパク質の量および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの量を測定するステップと、
b)測定された前記量を所定の値と比較するステップであって、前記所定の値を上回る量が、前記治療剤に対する抵抗性を示す、ステップと
を含むかまたはそれからなる、方法。
(項目4)
治療剤に対する抵抗性のバイオマーカー、好ましくは、がん治療剤に対する抵抗性のバイオマーカー、より好ましくは、白金に基づくがん治療剤、照射に基づくがん治療剤および/またはDNA破壊的がん治療剤に対する抵抗性のバイオマーカーとしての、ERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの使用。
(項目5)
前記診断が、人体由来の液体試料および/または人体由来の組織試料、好ましくは、人体由来の単離された液体試料および/または人体由来の単離された組織試料において行われることを特徴とする、先行する項目のうちの一項に記載のERCC1アイソフォーム3タンパク質、ERCC1アイソフォーム3mRNA、方法または使用。
(項目6)
前記試料が、体液、例えば、末梢血、痰、腹水、リンパ液、尿および/もしくは骨髄、ならびに/または例えば原発性腫瘍由来の生検材料を含むかまたはそれからなることを特徴とする、先行する項目に記載のERCC1アイソフォーム3タンパク質、ERCC1アイソフォーム3mRNA、方法または使用。
(項目7)
前記治療剤が、好ましくは、白金に基づくがん治療剤、照射に基づくがん治療剤およびDNA破壊的がん治療剤を含むかまたはそれからなる群より選択されるがん治療剤であることを特徴とする、先行する項目のうちの一項に記載のERCC1アイソフォーム3タンパク質、ERCC1アイソフォーム3mRNA、方法または使用。
(項目8)
前記がんが、固形がん、好ましくは、卵巣がん、乳がん、肺がん、前立腺がん、膵がん、膀胱がん、胃がん、結腸がん、精巣がんおよび頸部がんを含むかまたはそれからなる群より選択されることを特徴とする、先行する項目に記載のERCC1アイソフォーム3タンパク質、ERCC1アイソフォーム3mRNA、方法または使用。
(項目9)
前記抵抗性の診断が、人体由来の液体試料において、好ましくは、多重抗体捕捉方法によって循環腫瘍細胞を単離するステップと、単離された前記循環腫瘍細胞におけるERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの発現のレベルを決定するステップとを含むことを特徴とする、先行する項目のうちの一項に記載のERCC1アイソフォーム3タンパク質、ERCC1アイソフォーム3mRNA、方法または使用。
(項目10)
循環腫瘍細胞を単離する前記ステップが、
a)液体試料を、循環腫瘍細胞に対する結合親和性を有する少なくとも2種の抗体および/または抗体誘導体の所定の組み合わせと混合するステップと、
b)前記試料から、i)前記抗体および/または前記抗体誘導体とii)前記循環腫瘍細胞との間の複合体を単離するステップと
を含むかまたはそれからなることを特徴とする、先行する項目に記載のERCC1アイソフォーム3タンパク質、ERCC1アイソフォーム3mRNA、方法または使用。
(項目11)
前記抗体および/または前記抗体誘導体が、
a)少なくとも1種の磁性粒子もしくは常磁性粒子にカップリングされ、好ましくは、前記複合体の単離のために磁力が使用される、および/または
b)少なくとも1種の蛍光分子にカップリングされ、好ましくは、前記複合体の単離のために蛍光活性化細胞分取が使用される
ことを特徴とする、先行する項目に記載のERCC1アイソフォーム3タンパク質、ERCC1アイソフォーム3mRNA、方法または使用。
(項目12)
2種の前記抗体および/または前記抗体誘導体のうち少なくとも1種が、GP1.4、MOC-31、Ber-EP-4、HMPV.2、HMEIV.2、8B6、E29、10E9(抗HER2)、2D3(抗EpCAM)、抗cMET、抗EGFR、抗cKIT、抗IGFRおよび131-11741を含むかまたはそれからなる群より選択されることを特徴とする、項目10および11のうちの一項に記載のERCC1アイソフォーム3タンパク質、ERCC1アイソフォーム3mRNA、方法または使用。
(項目13)
前記抵抗性の診断が、
a)単離された前記循環腫瘍細胞を溶解するステップと、
b)溶解された単離された前記循環腫瘍細胞に存在するERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの量を測定するステップと、c)溶解された単離された前記循環腫瘍細胞に存在し、かつERCC1アイソフォーム3mRNAとは異なる少なくとも1種のmRNAの量を測定するステップであって、前記少なくとも1種のmRNAが、上皮、間葉系または幹細胞表現型の細胞のマーカーであるmRNAを含むかまたはそれからなる群より選択される、ステップと
を含み、
ステップb)およびステップc)について、その順序を変えることができ、
ステップb)および/またはステップc)における測定が、好ましくは、RT-PCR、LCR、NASBA、ハイブリダイゼーション方法、ならびに/またはPCRのステップ、制限酵素によるPCR産物の断片への消化のステップおよび得られた前記断片の解析のステップを含有する方法によって行われることを特徴とする、項目9~12のうちの一項に記載のERCC1アイソフォーム3タンパク質、ERCC1アイソフォーム3mRNA、方法または使用。
(項目14)
前記抵抗性の診断が、ERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベルを、第1の所定の値と比較するステップを含み、前記第1の所定の値を上回るERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベルが、前記治療剤に対する抵抗性を示すことを特徴とする、先行する項目のうちの一項に記載のERCC1アイソフォーム3タンパク質、ERCC1アイソフォーム3mRNA、方法または使用。
(項目15)
前記抵抗性の診断が、
a)ERCC1アイソフォーム3タンパク質および/またはERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベルを、第1の所定の値と比較するステップと、
b)ERCC1アイソフォーム3mRNAとは異なる少なくとも1種のmRNAの測定された発現レベルを、第2の所定の値と比較するステップであって、前記少なくとも1種のmRNAが、上皮、間葉系または幹細胞表現型の細胞のマーカーであるmRNAを含むかまたはそれからなる群より選択される、ステップと
を含み、
前記第1の所定の値を上回る前記ERCC1アイソフォーム3タンパク質および/または前記ERCC1アイソフォーム3mRNAの測定された発現レベル、ならびに前記第2の所定の値を上回る、ERCC1アイソフォーム3mRNAとは異なる前記少なくとも1種のmRNAの測定された発現レベルが、前記治療剤に対する抵抗性を示すことを特徴とする、先行する項目に記載のERCC1アイソフォーム3タンパク質、ERCC1アイソフォーム3mRNA、方法または使用。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】図は、ROC曲線解析によるPCRアッセイ検証の結果を示す。全ERCC1アイソフォームの中からERCC1アイソフォーム3を検出する特異性に対する感度がプロットされている。90%を超える特異性(50%感度における)が、およそ0.2ng/μlの断片濃度において得られる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施例1-ROC曲線解析によるPCRアッセイ検証)
ROC曲線解析において、半定量的PCRによるERCC1アイソフォーム3の検出の特異性に相当するカットオフ値を決定した。
【0032】
AdnaTest OvarianCancerSelect/Detectアッセイキットを使用して、99名の卵巣がん患者および21名の健康な患者の血液試料からcDNAを抽出した。前記cDNAは、ERCC1の全4種のアイソフォームを潜在的に含む。その後、Agilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)を使用して、ERCC1アイソフォーム3のレベルに関する断片濃度解析を行った。
【0033】
およそ0.2ng/μlの断片濃度において、全ERCC1アイソフォームの中からERCC1アイソフォーム3を検出する特異性が90%を超えた(図を参照)。
【0034】
結論として、PCR(例えば、半定量的PCR)は、全ERCC1アイソフォームの中からERCC1アイソフォーム3を特異的に検出するのにとりわけ適した方法である。
【0035】
(実施例2-ERCC1アイソフォーム3による白金抵抗性の予測)
臨床治験において、AdnaTest OvarianCancerSelect/Detectアッセイキットを使用して、循環腫瘍細胞(CTC)の存在に関して143名の外科手術前の卵巣がん患者の血液試料を解析した。その後、全143名の患者は、外科手術に続いて白金に基づく化学療法を受けた。
【0036】
上皮細胞接着分子(EPCAM)(GA733-2としても公知)およびムチン1、細胞表面関連(MUC1)のエピトープを標的とする免疫磁気CTC濃縮によりCTCの解析を行い、その後、マルチプレックス逆転写PCRを行って、別々のアプローチにおいてERCC1アイソフォーム3転写物を含む、転写物EPCAM、MUC1およびムチン16、細胞表面関連(MUC16)(CA125としても公知)を検出した。
【0037】
患者試料の14%においてCTCの存在が観察された。前記14%のCTC陽性患者試料において、ERCC1アイソフォーム3発現は、解析された試料の57%において陽性であることが判明した。よって、143種の解析された患者試料の全てに関して(すなわち、全143名の患者に関して)、試料の8%(すなわち、全143名の患者の8%)においてERCC1アイソフォーム3陽性CTC(CTC ERCC1+)が観察された。
【0038】
143名の患者が、白金に基づく化学療法を受けた後に、多変量ロジスティック(log)回帰解析を行った。ERCC1アイソフォーム3陽性CTC(CTC ERCC1+)を、白金抵抗性の独立予測因子および無病生存期間(DFS)の独立予後因子として同定した(それぞれP=0.012およびP=0.007)。解析の結果を下の表2に示す。
【表2】
【0039】
結論として、卵巣がんの一次診断において、CTCにおけるERCC1アイソフォーム3の存在は、白金抵抗性を予測するためおよび無病生存期間の予後を提供するための血液に基づく診断バイオマーカーとして機能することができる。
図1