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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】ゴム部材およびそれを用いたダンパー
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/16 20060101AFI20220413BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20220413BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220413BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20220413BHJP
   F16F 15/126 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
C08L23/16
C08K3/011
C08K3/04
C08K5/14
F16F15/126 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018034580
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019147906
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】片貝 勇人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 輝
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-172931(JP,A)
【文献】国際公開第2015/012018(WO,A1)
【文献】特開2005-113093(JP,A)
【文献】特開平10-110070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
F16F 15/126
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分としてエチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)を主成分とするゴム組成物を過酸化物加硫したゴム部材であって、
前記エチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)100重量部に対して、1分子中に2つの酸素―酸素結合(-O-O-)を有するジアルキルパーオキサイドを含む有機過酸化物1.2重量部超4.8重量部未満であり
ヨウ素吸着量が44mg/g乃至185mg/gで、かつDBP吸油量が75ml/100g乃至115ml/100gであるカーボンブラック100重量部以上180重量部以下であり、
さらに、プロセスオイルが50重量部乃至80重量部を含み、
前記ゴム組成物全重量部に対する前記EPDM重量部の比率であるEPDMポリマー分率が前記ゴム組成物の20重量%以上40重量%以下である、
ゴム組成物の過酸化物加硫成形物であるゴム部材。
【請求項2】
前記ゴム部材の+60℃における損失係数(tanδ60℃)が0.33以上であり、
前記ゴム部材の+120℃における損失係数(tanδ120℃)と+60℃における(tanδ60℃)の比(tanδ120℃/tanδ60℃)が0.85以上であり、かつ
前記ゴム部材の圧縮永久歪率(%)が20未満である請求項1に記載のゴム部材。
【請求項3】
回転軸に取り付けられ、前記回転軸と一体的に回転するダンパーハブと、
前記ダンパーハブにダンパーゴム部材を介して装着された慣性リングと、
前記ダンパーゴム部材が前記ダンパーハブと前記慣性リングとの間に10%以上50%以下の圧縮率で圧入されているトーショナルダンパーであって、
前記ダンパーゴム部材の表面温度60℃における損失係数(tanδ60℃)が0.28以上であり、前記ダンパーゴム部材の表面温度120℃における損失係数(tanδ120℃)と、表面温度60℃における損失係数(tanδ60℃)との比((tanδ120℃)/(tanδ60℃))が0.63以上0.68以下である、請求項1または2に記載のゴム部材を有するトーショナルダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンのクランクシャフトやカムシャフトなどの回転軸に装着され、回転軸の捩じり振動を吸収するダンパーに好適なダンパーゴム部材およびそれを用いたダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンのクランクシャフトやカムシャフトなどの回転軸の回転を被駆動機器に伝達するトーショナルダンパーは、回転軸に取り付けられるハブと、ハブの径方向外方に配置される慣性リングとを有し、ハブの外周面と慣性リングの内周面との間隙部にはゴム部材が介在している。このゴム部材は、車両の走行中に発生する回転軸の捩り振動を低減させて回転軸の破損を防止し、エンジン振動の騒音や振動を低減する役割をする。
【0003】
特許文献1には、油展EPDM、ムーニー粘度10以下の低粘度EPDMおよびこれらのEPDM成分100重量部当り1.5~2.4重量部のジクミルパーオキサイドまたは1.0~1.8重量部のジクミルパーオキサイド、0.1~0.5重量部のイオウを含有するEPDM組成物が、耐熱性にすぐれかつ高温度の減衰係数、強度、伸び等の低下を効果的に防止し、トーショナルダンパ成形用などに好適に用いられること、及びそのようなEPDM組成物が、規定量のジクミルパーオキサイドを単独で用いた場合には、tanδ(150℃/室温、100Hz)で表わされる値が約1.2~0.9という減衰係数を示し、またそれぞれ規定量のジクミルパーオキサイドとイオウとを併用した場合には、150℃における伸び保持率が約60%以上という値を示すことが開示されている。
【0004】
特許文献2には、ジエン系合成ゴムとEPDMをブレンドして、イオウまたはイオウ化合物および有機過酸化物の両方を併用する事により、ジエン系合成ゴムが本来有する強度や圧縮永久歪などの特性を低下させることなく、耐オゾン性を改善する方法が開示されている。各成分の配合割合としては、ジエン系合成ゴムとEPDMの合計量に対しジエン系合成ゴムは約50~80重量部、ゴム成分100重量部当りイオウの場合0.1~2重量部、イオウ化合物の場合0.1~10重量部、有機過酸化物は、有効官能基数1の場合0.2~4重量部、官能基数が2の場合は0.1~2重量部とされている。
【0005】
特許文献3には、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した第2の成分の成分分率(fnn)が0.2~0.6であって、-40~150℃における損失正接(tanδ)が0.35を超え、かつ1.0未満であることを特徴とする、低温領域から高温領域まで損失正接(tanδ)が0.35以上のゴム部材が開示されている。カーボンブラックを配合する場合には、平均粒径10~50nmのものを、エチレン・プロピレンゴム100重量部に対して10~120重量部とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-143905号公報
【文献】特開昭63-23940号公報
【文献】特開2007-9073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トーショナルダンパー用のゴム部材には、高い減衰性能のみならず、減衰性能の温度依存性が小さい事、圧縮永久歪が小さい事が求められるが、従来技術では、減衰性能の向上や温度依存性を小さくする配合手法を採用すると圧縮永久歪が悪化してしまい、全てを同時に満たすことは困難であった。
【0008】
特許文献1においては、tanδ(150℃/室温、100Hz)が1.2~0.9という減衰比を示してはいるものの、tanδの値が示されていないので、実際に高減衰を達成しているかどうかは不明である。また、架橋剤を減量してtanδの温度依存性を改善した場合には、ゴムの圧縮永久歪が悪化し、長期間に渡って製品性能を維持する事は難しいと考えられる。更に、イオウを併用する事で150℃の物性保持率は上がるが、圧縮永久歪が悪化し、長期間に渡って製品性能を維持する事は難しいと考えられる。
【0009】
特許文献2においては、ジエン系ゴムとEPDMのブレンド配合において、EPDMを効率的に共架橋させるためにイオウと過酸化物が併用されているが、100℃以上の高温において、ジエン系ゴムの持つ圧縮永久歪の悪さを解決する事はできない。
【0010】
特許文献3は、-40℃~150℃におけるtanδが0.35を超え、かつ1.0未満と、tanδが大きいダンパー用ゴム部材を提供するが、tanδの温度範囲は広く、温度依存性について示されていない。圧縮永久歪のデータはないが、過酸化物の添加量から推測して圧縮永久歪が良好とは考えにくい。
【0011】
そこで、本発明は、減衰性能が高く、減衰性能の温度依存性が小さく、しかも圧縮永久歪の小さいゴム部材およびそれを用いたダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下を包含する。
[1] ゴム成分としてエチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)を主成分とするゴム組成物を過酸化物加硫したゴム部材であって、
前記エチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)100重量部に対して、1分子中に2つの有効官能基を有するジアルキルパーオキサイドを含む有機過酸化物を1.2重量部超4.8重量部未満、ヨウ素吸着量が70mg/g乃至185mg/gであり、かつDBP吸油量が40ml/100g乃至120ml/100gであるカーボンブラックを100重量部以上180重量部以下含むゴム組成物の過酸化物加硫成形物である、ゴム部材。
[2] 前記ゴム組成物が前記エチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)100重量部に対して、プロセスオイル50重量部乃至80重量部を更に含み、前記EPDMのポリマー分率が前記ゴム組成物の20重量%以上40重量%以下である、[1]に記載のゴム部材。
[3] 前記有機過酸化物が、
2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、
2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、又は
1,3-ジ(2-tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン
である[1]又は[2]に記載のゴム部材。
[4] 前記ゴム部材の通常使用温度における損失係数(tanδi)が0.33以上であり、前記ゴム部材の高温側使用温度における損失係数(tanδh)と使用標準温度における(tanδi)の比が0.85以上である[1]乃至[3]記載のゴム部材。
[5] 前記ゴム部材の圧縮永久歪率(%)が20未満である[1]乃至[4]記載のゴム部材。
[6] 前記ゴム部材は、JIS K6251準拠の伸びが300%以上である、[1]乃至[5]のいずれか一項に記載のゴム部材。
[7] 前記ゴム部材は、JIS K6253準拠の100%伸長時のモジュラス(MPa)が1.34乃至2.88である[1]乃至[6]のいずれか一項に記載のゴム部材。
[8] 前記ゴム部材は、50%伸長時のモジュラスと300%伸長時のモジュラスの比が6.7乃至10.3である[1]乃至[7]のいずれか一項に記載のゴム部材。
[9] 回転軸に取り付けられ、前記回転軸と一体的に回転するダンパーハブと、前記ダンパーハブにダンパーゴム部材を介して装着された慣性リングとを有するトーショナルダンパーであって、前記ダンパーゴム部材の表面温度60℃における損失係数(tanδ60℃)が0.28以上であり、前記ダンパーゴム部材の表面温度120℃における損失係数(tanδ120℃)の表面温度60℃における損失係数(tanδ60℃)に対する損失係数比(120℃/60℃tanδ比)が0.61超0.91未満である、[1]乃至[8]のいずれか一項に記載のゴム部材を有するトーショナルダンパー。
[10] 前記ダンパーゴム部材が前記ダンパーハブと前記慣性リングとの間に10%以上の圧縮率で圧入されている、[9]記載のトーショナルダンパー。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、室温から通常使用温度(例えば60℃)を経て高温側使用温度(例えば120℃)に至るまでの広い温度範囲で高い減衰特性を持ち、減衰性能の温度依存性が小さく、圧縮永久歪の小さいゴム部材を提供することができ、このようなゴム部材をダンパーに使用する事により、トーショナルダンパーに求められる長期間にわたる減衰性能とスリップトルクの維持が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施の形態であるトーショナルダンパーを示す斜視図である。
図2図1に示すトーショナルダンパーの一部破断斜視図である。
図3図1に示すトーショナルダンパーの組み立て方法を示す一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[トーショナルダンパー]
初めに、本発明に係る1つの実施例として、トーショナルダンパーについて図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態であるトーショナルダンパーを示す斜視図であり、図2は、図1に示すトーショナルダンパーの一部破断斜視図である。
【0016】
トーショナルダンパー10は、自動車のエンジンのクランクシャフトの先端に装着され、当該クランクシャフトの回転をオルタネータやパワーステアリングなどの被駆動機器に伝達するために使用されるものであり、ダンパーハブ11と、慣性リング12と、環状のダンパーゴム部材13とを備える。
【0017】
ダンパーハブ11は、径方向に伸びるディスク部11aと、その径方向中央部に一体に設けられたボス部11bとを有し、ボス部11bがクランクシャフトの先端に締結されて中心軸Cを中心に回転駆動される。ダンパーハブ11は、典型的にはFC250、FCD450などの鋳鉄からなる。
【0018】
慣性リング12は、ダンパーハブ11の径方向外方に配置されており、その外周面にベルトが掛かるプーリ溝12aが設けられて動力伝達用のプーリを構成している。慣性リング12は、典型的にはFC250などの鋳鉄からなる。
【0019】
ダンパーハブ11と慣性リング12との間に介在する環状のダンパーゴム部材13は、ダンパーハブ11の中心軸Cに同軸の外周面と、この外周面に対向する慣性リング12の内周面との間隙部に挿入され、自動車の走行中に発生するクランクシャフトの捩り振動を低減させて破損を防止し、エンジン振動の騒音や振動を低減する。
【0020】
トーショナルダンパー10は、後述するダンパーゴム組成物を加硫成形して環状のダンパーゴム部材13を作製した後、図3に示すように、ダンパーハブ11のボス部11bが鉛直方向となるようにダンパーハブ11と慣性リング12とを支持台(図示せず)上に配置した状態で、プレスなどの圧入治具を用いてダンパーハブ11の外周面と慣性リング12の内周面との間隙部14にダンパーゴム部材13を圧入することによって製造される。このようにして製造されたダンパーを圧入タイプトーショナルダンパーという。
【0021】
ダンパーハブ11と慣性リング12との間隙部14にダンパーゴム部材13を圧入する際の圧力は、ダンパーゴム部材13の圧縮率が10%以上50%以下になるようにすることが好ましい。ダンパーゴム部材13の圧縮率が10%未満の場合は、トーショナルダンパー10のスリップトルクが所望の値とならず、ベルトに動力が伝わり難くなることがある。また、50%より大きな圧縮率では、ダンパーゴム部材13に応力集中が発生し、耐久性が劣化してしまうことがある。
【0022】
ダンパーゴム部材13の圧縮率は、10%以上30%未満がより好ましい。圧縮率がこの範囲内であれば、特に、耐久試験において、慣性リング12あるいはダンパーハブ11との摩擦によるゴム摩耗粉の発生を抑えることができ、良好な耐久性が得られやすくなる。更に、ダンパーゴム部材の圧入性が良好であり、安定した寸法精度を実現しやすくなる。
【0023】
トーショナルダンパー10の製造方法としては、上記した圧入法の他、ダンパーゴム部材13を構成するダンパーゴム組成物をダンパーハブ11と慣性リング12との間隙部14に注入して加熱する加硫接着法がある。加硫接着法により製造されたダンパーを加硫接着タイプトーショナルダンパーという。
【0024】
加硫接着法によれば、圧入法に比べてダンパーゴム部材の本来の特性を発揮しやすいが、接着不良を引き起こしやすく、ダンパーハブ11や慣性リング12との接着力を高めるための調整が必要となる。圧入法ではダンパーゴム部材13が圧縮されるので、ダンパーゴム組成物本来の特性が多少犠牲になるが、圧入という簡易な工程で接着不良を低減できる利点がある。
本発明の実施においては、圧入法、加硫接着法のいずれも利用可能である。
【0025】
[ダンパーゴム部材]
本発明に係るダンパーゴム部材は、ゴム成分としてエチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)を主成分とするゴム組成物を過酸化物加硫したゴム部材であって、前記エチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)100重量部に対して、1分子中に2つの有効官能基を有するジアルキルパーオキサイドを含む有機過酸化物を1.2重量部超4.8重量部未満、ヨウ素吸着量が70mg/g乃至185mg/gであり、かつDBP吸油量が40ml/100g乃至120ml/100gであるカーボンブラックを100重量部以上180重量部以下含むゴム組成物の過酸化物加硫成形物である。ダンパーゴム組成物の過酸化物加硫成形方法に特に制限はなく、常法により、所望の形状(例えば、円筒形)で行うことができる。
【0026】
当該ダンパーゴム部材は更に以下の特性を有することが好ましい。
(1) JIS K6253に準拠し、デュロメータAを使用して、1秒以内に読み取る方式で測定した「硬さ」:60以上80以下
(2) JIS K6251に準拠して測定した「引張強さ」:10MPa以上20MPa以下
(3) JIS K6251に準拠して測定した「伸び(%)」:300%以上550%未満
(4) JIS K6251に準拠して測定した「50%伸長時のモジュラス」:0.9MPa以上1.7MPa以下
(5) JIS K6251に準拠して測定した「100%伸長時のモジュラス」:1.3MPa以上3.0MPa以下
(6) JIS K6251に準拠して測定した「300%伸長時のモジュラス」:6.0MPa以上17.0MPa以下
(7) 「300%伸長時のモジュラス」/「50%伸長時のモジュラス」:6以上11以下
(8) JIS K6394に準拠して測定した標準使用温度における「損失係数(tanδi)」:0.33以上0.44以下
(9) JIS K6394に準拠して測定した高温側使用温度における「損失係数(tanδh)」:0.29以上0.41以下
(10) 「損失係数比(tanδh/tanδi)」:0.85以上1.0以下
(11) JIS K6262に準拠し、120℃、72時間、25%圧縮の条件で測定した圧縮永久歪率(%):20未満
【0027】
ここで、「標準使用温度」とは実使用時の標準的な温度を意味し、代表的な例としては、60℃におけるダンパーゴム部材13の測定温度、ダンパーゴム部材13をトーショナルダンパー10に装着した場合には、60℃±5℃におけるダンパーゴム部材13の表面測定温度が挙げられる。
「高温側使用温度」とは実使用時に想定される温度を意味し、代表的な例としては、120℃におけるダンパーゴム部材13の測定温度、ダンパーゴム部材13をトーショナルダンパー10に装着した場合には、120℃±5℃におけるダンパーゴム部材13の表面測定温度が挙げられる。
【0028】
「損失係数(tanδ、損失正接ともいう)」は、ダンパーゴム部材13の動的粘弾性(=損失弾性率/貯蔵弾性率)から測定される数値である。この数値が大きいほど、ダンパーゴム部材の振動低減性能が高いことを意味する。
「損失係数比」は損失係数(tanδ)の温度依存性を表す指標である。高温側使用温度における損失係数(tanδh)に対する使用標準温度における損失係数(tanδi)の比(tanδh/tanδi)が大きい(1に近い)ことは、標準使用温度から高温側使用温度までの温度範囲における損失係数(tanδ)の温度依存性が小さい、言い換えると、温度変化に伴う損失係数(tanδ)の低下が少ないことを意味する。
【0029】
「圧縮永久歪率」とは、架橋ゴムのような試料に圧縮変形を起こさせる力を負荷し、その後その力を完全に除去した後に試料に残存する変形をいう。圧縮永久歪み試験は、圧縮や剪断力を受ける部分に用いられる架橋ゴム等の圧縮による残留歪みを測定するためにしばしば利用される試験である。試料を所定温度にて所定時間圧縮させた後、圧縮力を除いて所定時間(通常30分)経過後に残留している歪みを求めるものであり、以下のように定義する。
CS={(t0-t1)/(t0-t2)}×100
CS:圧縮永久歪み率(%)
t0:試験片の原厚(mm)
t1:試験片を圧縮装置から取り出し30分経過した後の厚さ(mm)
t2:圧縮歪みを加えた状態での試験片の厚さ(mm)
【0030】
[ダンパーゴム組成物]
次に、本発明に係るダンパーゴム部材の製造に使用するダンパーゴム組成物について説明する。ダンパーゴム部材の製造に使用するダンパーゴム組成物は、弾性体としてエチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)、充填材としてカーボンブラック、加硫剤として架橋剤(過酸化物)及び任意選択的に共架橋剤を含み、更に各種添加剤(プロセスオイル(鉱物油)、可塑剤、亜鉛華、ステアリン酸亜鉛、老化防止剤など)を含有するのが一般である。本発明において所望の効果を挙げるためには、特定の成分を選択して配合する必要があるので、これらについて以下に説明する。
【0031】
<EPDM>
本発明に係るダンパーゴム組成物において使用するエチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)については、特段の制限はなく、市販されている種々のEPDMの中から適切なものを選択し、本発明に使用することができる。例えば、JSR(株)製EP104E、EP35、EP65、EP33、EP98、住友化学(株)製エスプレン505、エスプレン505A、エスプレン601F、三井化学(株)製EPT X-3042Eなどを挙げる事ができる。EPDMは1種のみを単独で使用することもでき、2種以上を混合して使用することもできる。
【0032】
EPDMは更に以下の特性を有することが好ましい。
(1) ジエン量:2重量%若しくは3重量%以上、及び/又は10重量%若しくは9重量%以下
(2) 油展量:120重量部以下
【0033】
EPDMの油展量は0重量部でも良いが、油展グレードのEPDMを使用することにより、後述するプロセスオイル量を油展グレードのEPDMに含まれるオイル量を勘案して低減することができ、かつ、EPDM自体やカーボンブラックの分散性を向上させることができる。
【0034】
ダンパーゴム組成物中のEPDMの重量比率(%)は、EPDM重量部÷ダンパーゴム組成物重量部合計×100で算出されるものである。ダンパーゴム組成物中のEPDMの重量比率(ポリマー分率ともいう)は、20重量%以上40重量%以下とすることが好ましい。EPDMの重量比率が20重量%未満では、ダンパーゴム組成物の粘着性が上がり、製造上の練り加工性が悪化することがある。一方、EPDMの重量比率が40重量%より大きいと、カーボン添加量が少なくなり、損失係数が低下してしまうことがある。
【0035】
本発明に係るゴム組成物中には上記EPDM以外の汎用のゴム成分を配合しても良いが、ゴム成分の主成分は上記EPDMとする。ここで、主成分とは、全ゴム成分の中で最大量を占めることをいい、好ましくは過半を占めることをいう。
【0036】
<カーボンブラック>
本発明においては、ヨウ素吸着量が70mg/g以上185mg/g以下であり、DBP(可塑剤:フタル酸ジブチル(Dibutyl phthalate))吸油量が40ml/100g以上120ml/100g以下であるカーボンブラックを用いることが必要である。
【0037】
種々の特性を有するカーボンブラックが市販されているので、これらの中から上記条件に従って適切なものを選択し、本発明に使用することができる。例えば、東海カーボン(株)製、シースト600(ヨウ素吸着量:111mg/g、DBP吸油量:75ml/100g)、シースト9W(ヨウ素吸着量:185mg/g、DBP吸油量:112ml/100g)、シースト3(ヨウ素吸着量:80mg/g、DBP吸油量:101ml/100g)、シーストSO(ヨウ素吸着量:44mg/g、DBP吸油量:115ml/100g)などを挙げることができる。
【0038】
カーボンブラックの粒径とダンパーゴム部材の損失係数(tanδ)との間には相関関係があり、カーボンブラックの粒径が小さいほど、損失係数が大きくなる。換言すると、カーボンブラックのヨウ素吸着量が多いほど、カーボンブラックの粒径が小さく、比表面積が大きくなり、ダンパーゴム部材の損失係数が大きくなる。
また、DBP吸油量が多いほど、カーボンブラックのストラクチャーが大きくなり、導電性が向上するため、ダンパーゴム部材をトーショナルダンパーに装着したときに、トーショナルダンパーの帯電を防止し、耐久性を向上させることができる。
【0039】
ダンパーゴム組成物中のカーボンブラック量とダンパーゴム部材の損失係数(tanδ)との間には相関関係があり、カーボンブラック量の増加に比例して損失係数(tanδ)も大きくなる。したがって、ダンパーゴム組成物にはEPDM100重量部に対してカーボンブラック100重量部以上を添加することが必要である。
【0040】
<加硫剤>
ダンパーゴム組成物には、加硫剤として、過酸化物、共架橋剤などを添加することができる。加硫剤を添加したダンパーゴム組成物を加熱して架橋反応を行うことにより、強靭なダンパーゴム部材が形成される。
【0041】
本発明に係るゴム組成物中には、1分子中に2つの有効官能基を有するジアルキルパーオキサイドを含む有機過酸化物を添加する。添加量は、EPDM100重量部に対して1.2重量部超4.8重量部未満である。1分子中に2つの有効官能基を有するジアルキルパーオキサイドを含む有機過酸化物としては、例えば、
2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、
2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、
1,3-ジ(2-tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン
などを用いることができ、これらはいずれも市販品として入手可能である。例えば、日油(株)製パーヘキサ25B、パーブチルPなどを挙げることができる。
【0042】
共架橋剤としては、例えば、
トリアリルイソシアネート、
エチレングリコールジメタクリレート、
トリメチロールプロパントリメタクリレート、
トリアリルシアヌレート、
キノンジオキシム、
1,2-ポリブタジエン、
イオウ、
ビスマレイミド、
などを用いることができ、これらはいずれも市販品として入手可能である。例えば、日本化成(株)製TAIC、三新化学工業(株)製サンエステルTMP、大内新興化学工業(株)製バルノックPMなどを挙げることができる。
【0043】
<その他の添加剤>
ダンパーゴム組成物には、上記成分以外に周知のゴム添加剤(プロセスオイル(鉱物油)、可塑剤、亜鉛華、ステアリン酸亜鉛、老化防止剤など)を配合することができる。プロセスオイルの配合量は50重量部以上が好ましい。これらはいずれも市販品として入手可能である。例えば、プロセスオイルとして出光興産製ダイアナプロセスオイルPW-380、可塑剤として大八化学工業(株)製DOS、老化防止剤として大内新興化学工業(株)製ノクラック224やノクラックCDを挙げることができる。
【0044】
ダンパーゴム組成物は、慣用の方法により各成分を混合することによって調製することができ、その後加熱等の慣用の手段により加硫することができる。具体的な方法については実施例において述べる。
【実施例
【0045】
以下に実施例等を参照して本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例等によってなんら制限を受けるものではない。
【0046】
(実施例1)
<ダンパーゴム組成物の調製>
まず、3.5リットルのバンバリーミキサーに2種類のEPDM(EPDM1(エチレンの重量比率:66重量%、ジエン含量:4.7重量%、ムーニー粘度(ML1+4、100℃):37、油展量:120重量部)50重量部(油展量60重量部を除くEPDM単独の重量部)とEPDM2(エチレンの重量比率:50重量%、ジエン含量:9.5重量%、ムーニー粘度(ML1+4、100℃):47)50重量部))を投入し、回転数40rpmで1分間素練りした後、カーボンブラック1(ISAF-LSカーボン、シースト600(東海カーボン株式会社製)、ヨウ素吸着量:111mg/g、DBP吸油量:75ml/100g)140重量部、プロセスオイル80重量部(EPDMの油展量60重量部に、プロセスオイル20重量部を加えた合計が80重量部となる様に調整)、亜鉛華5重量部、ステアリン酸亜鉛1重量部、老化防止剤2重量部を投入して2分間混練し、さらに1分間混練した後、混練物をバンバリーミキサーから排出した。続いて、排出した混練物をロール間隔5mmとした12インチロールに巻き付けてシート状に成形し、成形した生地を室温にて12時間以上放置した。
【0047】
次に、上記の生地をロール間隔4mmとして6インチロールに巻き付けて過酸化物1として、パーヘキサ25B(日油株式会社製2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン)1.8重量部、及び共架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート2重量部を練り込み、切り返しを左右3回ずつ行い、続いて丸め通しを5回行った後、シート状に成形し、ダンパーゴム組成物を得た。
【0048】
<ダンパーゴム部材の製造>
次に、上記ダンパーゴム組成物のシートを金型にセットし、180℃にて10分間のプレス加硫を行って2mm厚のゴムシートを作製し、さらに150℃の恒温槽にて6時間の加熱処理を行い、シート状のダンパーゴム部材を得た。また、ダンパーゴム組成物のシートを4枚重ねて金型にセットし、180℃にて20分間のプレス加硫を行って直径29mm、厚み12.5mmのディスク状試験片を作成し、さらに150℃の恒温槽にて6時間の加熱処理を行い、ディスク状のダンパーゴム部材を得た。
【0049】
<圧入タイプトーショナルダンパーの作製>
ダンパーゴム部材と同一組成の環状のダンパーゴム部材(13)を作製し、ハブ(11)と慣性リング(12)との間隙部に圧縮率10~50%で圧入してトーショナルダンパーを得た。
【0050】
(実施例2乃至5)
過酸化物1の量をそれぞれ2.4、3、3.6、4.2重量部に変えた以外は実施例1と同様にして、ダンパーゴム組成物、ダンパーゴム部材及びトーショナルダンパーを得た。
【0051】
(実施例6乃至9)
カーボンブラック1の量をそれぞれ100、120、160、180重量部に変えた以外は実施例3と同様にして、ダンパーゴム組成物、ダンパーゴム部材及びトーショナルダンパーを得た。
【0052】
(実施例10乃至13)
カーボンブラック1をそれぞれ下記カーボンブラック2、3、4に変えた以外は実施例3と同様にして、ダンパーゴム組成物、ダンパーゴム部材及びトーショナルダンパーを得た。
カーボンブラック2(SAFカーボン、シースト9W(東海カーボン株式会社製)、ヨウ素吸着量:185mg/g、DBP吸油量:112ml/100g)
カーボンブラック3(HAFカーボン シースト3(東海カーボン株式会社製)、ヨウ素吸着量:80mg/g、DBP吸油量:101ml/100g)
カーボンブラック4(FEFカーボン シーストSO(東海カーボン株式会社製)、ヨウ素吸着量:44mg/g、DBP吸油量:115ml/100g)
【0053】
(比較例1及び2)
過酸化物1の量をそれぞれ1.2、4.8重量部に変えた以外は実施例1と同様にして、ダンパーゴム組成物、ダンパーゴム部材及びトーショナルダンパーを得た。
【0054】
(比較例3)
カーボンブラック1を下記カーボンブラック5に変えた以外は実施例3と同様にして、ダンパーゴム組成物、ダンパーゴム部材及びトーショナルダンパーを得た。
カーボンブラック5(SRFカーボン シーストS(東海カーボン株式会社製)、ヨウ素吸着量:26mg/g、DBP吸油量:68ml/100g)
【0055】
(比較例4)
過酸化物1を下記過酸化物2に変えた以外は実施例3と同様にして、ダンパーゴム組成物、ダンパーゴム部材及びトーショナルダンパーを得た。
過酸化物2 パークミルD(日油株式会社製ジクミルパーオキサイド)
【0056】
<ダンパーゴム部材の評価>
以下に記載する評価は、圧縮永久歪のみディスク状のダンパーゴム部材を用い、それ以外の評価は、シート状のダンパーゴム部材から試験片を採取して評価を行った。
【0057】
ダンパーゴム部材の硬さは、JIS K6253に準拠して、シート状のダンパーゴム部材を3枚重ねて、デュロメータAを使用し、1秒以内に読み取る方式で測定した。結果を表1に示す。
【0058】
ダンパーゴム部材の引張強さ(MPa)、伸び(%)及びモジュラス(50%、100%、300%伸長時のモジュラス(MPa)及び50%伸長時のモジュラスに対する300%伸長時のモジュラスの比)は、JIS K6251に準拠して測定した。なお、試験片形状は、JIS5号ダンベルを使用した。結果を表1に示す。
【0059】
ダンパーゴム部材の60℃における損失係数(tanδ60℃)、120℃における損失係数(tanδ120℃)及びこれらの間の比(120℃/60℃tanδ比)は、下記条件によりJIS K6394に準拠して測定した。結果を表1に示す。
測定器:上島製作所製 粘弾性アナライザYR-7130
変形方法:引張
周波数:100Hz
振幅:±1%
プレロード:480mN
試験片形状:20mm(つかみ間隔)×4mm(幅)×2mm(厚さ))の短冊形状片
【0060】
圧縮永久歪は、ディスク状のダンパーゴム部材を使用して、JIS K6262に準拠し、120℃、72時間、25%圧縮の条件で測定した。結果を表1に示す。
【0061】
<圧入タイプトーショナルダンパーの評価>
(クランク捩じれ低減効果の評価)
トーショナルダンパーに装着されたダンパーゴム部材の表面温度60℃における損失係数(tanδ60℃)、ダンパーゴム部材の表面温度120℃における損失係数(tanδ120℃)及び損失係数比(120℃/60℃tanδ比)は、高周波振動試験機((株)サム電子機械製防振ゴムねじり動特性試験機)による共振スイープ法(固有振動数測定)で測定した。結果を表1に示す。測定条件は下記のとおりである。
ゴム温度:60±5℃、120±5℃、
加振振幅:±1.7×10-3rad(±0.1°)
スイープ速度:100Hz/min
上記測定で得られた損失係数(tanδ)をもとに、クランク捩じれ低減効果(ダンパー装着後にクランク軸の捩じり角度が小さくなる効果)について数値計算により評価を行った。tanδが0.28未満のものを「△(三角)」と、tanδが0.28以上のものを「○(丸)」と、0.31以上のものを「◎(2重丸)」とした。
【0062】
(耐久性の評価)
トーショナルダンパーの耐久性の評価は、市販の捩じり振動試験機((株)サム電子機械製防振ゴムねじり動特性試験機)を用い、下記測定方法及び測定条件により行った。評価結果については、規定回数前にゴムの破損のあったものを「×(バツ)」と、規定回数後にゴム部の表面に凹凸のあったものを「△(三角)」と、規定回数後に僅かなゴム摩耗粉の付着のあったものを「○(丸)」と、規定回数後にゴム部の外観に異常のなかったものを「◎(2重丸)」とした。結果を表1に示す。
<測定方法>
・雰囲気温度100℃の恒温槽中でダンパーゴム部材の温度を安定させる。
・ハブを固定した状態でトーショナルダンパーを一定荷重で左右に捩り振幅を加える。
<測定条件>
・雰囲気温度:±5℃
・加振振幅(負荷トルク):耐久初期のダンパーゴム部材の剪断歪みが30%以上となる負荷トルク
・加振周波数:10Hz
・耐久回数:1×10
【0063】
(スリップトルクの評価)
トーショナルダンパーでは、ハブ、慣性リング間にゴムを圧縮した反発力により金具とゴム間の構成力を持たせている。スリップトルクとは、ダンパー製品に円周方向に捩じり入力を与えた際に金具とゴムが滑り出す最大トルクとされている。そのため、ダンパーゴム部材の圧縮永久歪み特性が悪い(値が大きい)と反発力が小さくなるため、早期に金具とゴム間の滑り出しが起きやすく、最大トルク(スリップトルク)値が低くなる現象が起きる。
トーショナルダンパーのスリップトルク測定方法及び測定条件は以下のとおりである。
<測定方法>
トーショナルダンパーを試験機にセットし、慣性リングを固定。ハブ側から捩じり入力を与えて金具とゴムの滑り出しトルク(スリップトルク)を測定する。捩じり変位に対する発生トルクにおける最大トルク値をスリップトルクとする。
<測定条件>
雰囲気温度:120±5℃の環境下で所定時間放置した後、23±2℃で測定
ねじり速度:1.4×10-2 rad/sec (0.8°/s)
ねじり波形:三角波
スリップトルクについては、所定時間経過後の最大トルクの低下が極めて少ないものを「◎(2重丸)」、所定時間経過後の最大トルクの低下が少ないものを「○(丸)」、所定時間経過後の最大トルクの低下がやや大きいものを「△(三角)」、所定時間経過後の最大トルクの低下が大きいものを「×(バツ)」とした。
【0064】
【表1】
【0065】
(実験結果の考察)
<過酸化物の添加量>
実施例1乃至5と比較例1及び2との比較から以下の知見を得た。すなわち、過酸化物の添加量が少なすぎる(過酸化物1.2重量部を添加した比較例1)と、ゴム部材における120℃/60℃tanδ比は大きくなり、tanδの温度依存性は小さくなるが、ダンパーに組み込まれたゴム部材の圧縮永久歪が悪化して製品スリップトルクが悪化してしまう。逆に、過酸化物の添加量が多すぎる(過酸化物4.8重量部を添加した比較例2)と、圧縮永久歪は良好であるものの、120℃/60℃tanδ比が小さくなり、tanδの温度依存性が大きくなってしまう。
【0066】
<過酸化物の官能基数>
実施例3と比較例4との比較から以下の知見を得た。すなわち、1官能基の過酸化物2(例えば、ジクミルパーオキサイド)は、2官能基の過酸化物1と比べて架橋効率が低く、圧縮永久歪が悪化して、製品スリップトルクが悪化してしまう。2官能基のジアルキルパーオキサイドを使用する事により、より圧縮永久歪を小さくすることができ、製品スリップトルクを長期にわたって維持する事ができる。
【0067】
<カーボンブラック>
実施例3、10、11及び12と比較例3との比較から、カーボンブラックの比表面積を示すヨウ素吸着量の大きいカーボンブラックの方が、tanδを向上させることができることがわかる。また、tanδは、ゴム成分とカーボンブラック、カーボンブラックとカーボンブラックの相互作用による内部摩擦を大きくする必要があり、比表面積の大きいカーボンブラックの方が、相互作用が大きく、内部摩擦も大きくなるため、tanδを向上させることができる。また、実施例3、6、7、8及び9から、カーボンブラックの添加量を上げるとtanδを向上させることができることがわかる。
【0068】
以上、本発明に係るトーショナルダンパー、ダンパーゴム部材及びダンパーゴム組成物について説明したが、本発明は上記に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、本発明に係るトーショナルダンパーは、クランクシャフトのみならず、エンジンのカムシャフトなどの種々の回転軸における捩り振動を低減するために適用することができ、外周面にプーリ溝が形成されていないタイプの慣性リングを有するトーショナルダンパーや、ボス部を備えていないハブを有するトーショナルダンパーなどにも適用することができる。また、本発明に係るゴム部材は、ハンドル、車体、ブラケット、エキゾーストなどの振動する構造物に取り付けて、その構造物の特定の周波数の振動を小さく抑えるダイナミックダンパー(動的吸振器)、あるいは騒音抑制のための各種の防振ゴム部材にも適用できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係るゴム部材およびそれを用いたダンパーは、室温から高温に至るまでの広い温度範囲で高い減衰特性を持ち、減衰性能の温度依存性が小さく、圧縮永久歪が小さいため、長期間にわたって減衰性能とスリップトルクを維持することができ、産業上の利用価値が極めて高いものである。
【符号の説明】
【0070】
10 トーショナルダンパー
11 ダンパーハブ
11a ディスク部
11b ボス部
12 慣性リング
12a プーリ溝
13 ダンパーゴム部材
14 間隙部
図1
図2
図3