(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】位置制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20220413BHJP
H02P 21/06 20160101ALI20220413BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/06
(21)【出願番号】P 2018119061
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 悟司
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-118652(JP,A)
【文献】国際公開第2009/087813(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02P 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換機としてPWMインバータを用いる位置制御装置であって、2相(d,q軸)回転座標系により、電動機の電流を演算制御する位置制御装置であって、
q軸電流指令値からq軸電流検出値を減算してq軸電流誤差を出力する減算器と、
前記q軸電流誤差に、q軸電流の応答タイミングを補償するq軸電流補償量を加算する加算器と、
前記加算器の出力をI-P制御により増幅してq軸電圧誤差を算出するとともに、前記q軸電圧誤差に基づいてq軸電圧指令値を算出するq軸電流制御器と、
前記q軸電圧指令値に、q軸電流の時間微分値に対応するq軸電圧フィードフォワード量を加算して最終的なq軸電圧指令値を算出する第二加算器と、
を備え
、さらに、
前記q軸電流補償量と前記q軸電圧フィードフォワード量とを算出するq軸応答補償量演算部を備え、
前記q軸応答補償量演算部は、
加減速トルクフィードフォワード量からq軸電流の時間微分値を算出し、
前記q軸電流の時間微分値を増幅して前記q軸電圧フィードフォワード量を算出し、
前記I-P制御の制御パラメータと、q軸電流応答遅れ時間の補間定数と、を用いて前記q軸電流の時間微分値に比例したq軸電流誤差を任意に調整できる前記q軸電流補償量を算出する、
ことを特徴とする位置制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、電動機(例えば同期電動機や誘導電動機など)の電流を制御して送り軸や主軸の速度や回転角(位置)を制御する位置制御装置であって、電力変換器としてPWMインバータを採用した位置制御装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
NC工作機械の送り軸や主軸の速度や回転角(位置)を制御する位置制御装置では、三相の同期電動機や誘導電動機(以降、モータとの呼称を併用する)を制御して、モータに接続されたテーブルやワークなどの負荷を駆動することが多い。この構成の場合、電力変換器としては、通常、PWMインバータが採用される。
【0003】
従来、モータ制御では、2相回転座標系(一般に、磁極方向をd軸、その電気的直交方向をq軸と呼ぶ)を用いて、モータ電流を制御する2相電圧指令値(vd*,vq*)が演算され、これを3相変換して、3相制御電圧指令値(vu*,vv*,vw*)が決定される。更に、PWMインバータで電力増幅されて、モータ駆動の相電圧(vu,vv,vw)となる。
【0004】
図12は、PWMインバータの1相分の電圧出力部を示した回路図である。DC電圧Vdcの回路から、トランジスタTr1とトランジスタTr2のON/OFFを高速にスイッチング制御することで、出力される相電圧Vは、平均的に0~Vdcの間で可変できる。制御電圧指令値voは、2個のトランジスタのON/OFFを指令するもので、Tr1がONの期間中はV=Vdcになり、Tr2がONの期間中は、V=0になる。尚、ダイオードD1とダイオードD2は還流用である。
【0005】
図13は、トランジスタTr1とトランジスタTr2を、ある制御電圧指令値voでスイッチングした場合の出力相電圧Vを示している。
図13の上側が制御電圧指令値voの一例になる。デッドタイムTdは、両トランジスタが同時ONして短絡破壊を招かない様にするための休止時間である。
【0006】
図13の下側は、この時のPWMインバータの出力相電圧Vになる。電流流出OUTの時は、トランジスタTr1がOFFでダイオードD2に電流が流れ、出力電圧が0に、電流流入INの時は、トランジスタTr2がOFFでダイオードD1に電流が流れ、出力電圧がVdcになる。つまり、トランジスタに対して、同じ制御電圧指令値voを与えても、出力される平均的な相電圧Vには、電流方向による差異が発生する。
【0007】
図14は、制御電圧指令値voを横軸に、出力相電圧Vを縦軸にとって、PWMインバータの1相分の入出力関係を示した図である。但し、制御電圧指令値voと出力相電圧Vは、ともに、ON/OFFデューティに応じた平均的な電圧として表現している。点線は電流流出OUTの時の入出力関係を、一点鎖線は電流流入INの時の入出力関係を示している。尚、実線は理想的な線形特性を表している。
【0008】
ここで、出力相電圧Vは、電流流入INから電流流出OUTへ電流方向が変わる時には矢印300の様に、電流流出OUTから電流流入INへ電流方向が変わる時には矢印301の様に遷移するため、出力相電圧Vが不連続となって、結果的に電流応答が遅れ、位置制御装置としては位置偏差DIFが発生することになる。
【0009】
このため、従来より、理想的な線形特性を示す実線の上に、出力相電圧Vが乗る様に、電流流入INの時には、デッドタイム補償値-vodを、電流流出OUTの時には、デッドタイム補償値+vodを、予め制御電圧指令値voに加算して、PWMインバータの入力電圧とするデッドタイム補償処理が搭載されている。
【0010】
図7は、従来の位置制御装置200の構成例を示すブロック図である。以下、本例の位置制御装置200について説明する。上位装置(図示しない)より、本例の位置制御装置200に対して、位置指令値Xが出力される。位置検出器101より出力されるモータ100の回転角θmは、モータに接続されて駆動される負荷102の位置を示す位置検出値であり、減算器50で位置指令値Xから減算され、その出力は位置偏差DIFとなる。
【0011】
位置偏差DIFは、位置偏差増幅器52で位置ループゲインKp倍に増幅される。本例では、指令応答の高速化を図るため、フィードフォワード構成をとっている。このため、位置指令値Xは、微分器51で時間微分されて、速度フィードフォワード量ωfとなる。速度フィードフォワード量ωfは、微分増幅器56で時間微分された後、負荷を含む総慣性モーメントJ倍に増幅されて、位置指令値の加速度に応じた加減速動作に必要なトルクフィードフォワード量τfになる。尚、微分器51のsは、ラプラス変換の微分演算子の意味である。
【0012】
加算器53では、位置偏差増幅器52出力と速度フィードフォワード量ωfが加算されて速度指令値ωm*が出力される。一方で、微分器54は、位置検出値θmを時間微分して速度検出値ωmを出力する。減算器55では、速度指令値ωm*から、速度検出値ωmが減算され、減算器55出力である速度偏差は、速度制御器57でPI(比例積分)増幅される。速度制御器57出力と加減速トルクフィードフォワード量τfが、加算器58で加算されて、モータのトルク指令値τc*となる。
【0013】
電流ベクトル制御演算部59は、q軸電流指令値iq*と、d軸電流指令値id*と、電源角周波数ωを演算出力する演算部である。表面磁石型(SPM),埋込磁石型(IPM),リラクタンス型などの磁石型同期電動機(PMSM)では、電流ベクトル制御演算部59は、トルク指令値τc*に対して、モータのN-τ(速度-トルク)特性と速度検出値ωmから、q軸電流指令値iq*とd軸電流指令値id*を演算する。
【0014】
誘導電動機(IM)では、電流ベクトル制御演算部59は、モータのN-τ(速度-トルク)特性と速度検出値ωmからd軸電流指令値id*を、トルク指令値τc*とd軸電流検出値idからq軸電流指令値iq*を演算する。更に、d軸電流検出値idとq軸電流検出値iqからすべり角周波数ωsを演算し、速度検出値ωmのモータ対極数倍と加算(図示しない)して、電源角周波数ωを演算する。
【0015】
一般に、2相回転座標系では、q軸電流でトルクを制御するため、以降、状況に応じて、q軸電流をトルク電流またはトルクと呼称する。尚、磁石型同期電動機(PMSM)の場合は、すべり角周波数ωs=0で制御されるから、電流ベクトル制御演算部59から出力される電源角周波数ωは、速度検出値ωmのモータ対極数倍になる。積分器60は、電源角周波数ωを時間積分して電源位相角θを出力する。
【0016】
モータのU相電流iuとW相電流iwは、電流検出器72と73により検出される。尚、V相電流ivは、iv=-(iu+iw)で算出できる。3相→d-q変換器65は、U相電流iuとW相電流iw及び電源位相角θから、座標変換によって、d軸電流idとq軸電流iqを演算出力する。
【0017】
減算器61は、d軸電流指令値id*からd軸電流idを減算して、d軸電流誤差Δidを演算する。d軸電流制御器62は、d軸電流誤差ΔidをPI(比例積分)増幅する誤差増幅器と、q軸電流指令値iq*と電源角周波数ωから、q軸との干渉成分を補償する非干渉化補償部(図示しない)から構成される。d軸電流制御器62は、誤差増幅器出力と非干渉化補償値を加算して、d軸電圧指令値vd*を出力する。
【0018】
減算器63は、q軸電流指令値iq*からq軸電流iqを減算して、q軸電流誤差Δiqを演算する。q軸電流制御器64は、q軸電流誤差ΔiqをPI(比例積分)増幅する誤差増幅器と、d軸電流指令値id*と電源角周波数ωから、d軸との干渉成分を補償する非干渉化補償部(図示しない)、更に、モータの誘起電圧を補償する誘起電圧補償部(図示しない)から構成される。q軸電流制御器64は、誤差増幅器出力と非干渉化補償値及び誘起電圧補償値を加算して、q軸電圧指令値vq*を出力する。
【0019】
d-q→3相変換器66は、d軸電圧指令値vd*とq軸電圧指令値vq*及び電源位相角θから、座標変換によって、U相制御電圧指令値vu*、V相制御電圧指令値vv*、W相制御電圧指令値vw*を演算出力する。
【0020】
デッドタイム補償値演算部67は、d軸電流指令値id*とq軸電流指令値iq*及び電源位相角θから、座標変換によって、U相、V相、W相の各相電流指令値を演算出力するd-q→3相変換(図示しない)と、電流指令値の方向反転時において、相電圧が不連続となることを補償するため、各相毎に、前述したデッドタイム補償値(vud,vvd,vwd)の演算を行う。
【0021】
加算器68は、U相制御電圧指令値vu*にデッドタイム補償値vudを加算して、デッドタイム補償後のU相制御電圧指令値vuoを出力する。加算器69と加算器70は、同様に、相制御電圧指令値(vv*,vw*)にデッドタイム補償値(vvd,vwd)を加算して、デッドタイム補償後のV相制御電圧指令値vvoと、W相制御電圧指令値vwoを出力する。
【0022】
前述した様に、PWMインバータ71は、デッドタイム補償後の各相制御電圧指令値(vuo,vvo,vwo)を入力として、これを電力増幅して、モータ駆動の相電圧(vu,vv,vw)を出力する。各出力相電圧は、モータの各相に印加され、各相電流が発生する。
【0023】
図8は、
図7に示した位置制御装置200のd軸電流制御器62,q軸電流制御器64及び速度制御器57のPI制御系における比例ゲインや積分ゲインを好適に調整して、速度指令値ωm*から、速度検出値ωmまでの速度ループ周波数特性を示したものである。この場合、速度制御帯域(ゲインの-3dBダウン)は200Hz程度になっている。(尚、この特性は、速度フィードフォワード量ωf、トルクフィードフォワード量τf及び位置ループゲインKpを0として評価している)。
【0024】
次に、前述したデッドタイムの影響は、
図14に示した様に、出力電圧の不連続性を招くため、位置制御装置200に対する電圧外乱だと考えることができる。そこで、位置ループゲインKpを好適に設定した上で、
図7のq軸電流制御器64の出力に、電圧外乱vdis(図示しない)を加えてq軸電圧指令値vq*を構成し、電圧外乱vdisに対するq軸電流iqの応答を評価する。
【0025】
図9は位置制御装置200の電圧外乱抑制性能(iq/vdis)の位置ループ周波数特性を示したものである。q軸電流iqは、トルクに比例するため、q軸電流iqのリップルと、速度及び位置リップル、つまり、DIFリップルとは比例関係になる。
図10は、適当なデッドタイムとデッドタイム補償値を設定し、各相電流の電流方向反転回数の総数が1秒間に20回(20Hz)となる一定速でモータを動作させた時に発生するDIFリップルを示している。この場合、長さ換算(モータ1回転当たり20mm)で、両側振幅0.4~0.5μmのDIFリップルが発生している。
【0026】
以上説明した様に、従来の位置制御装置では、PWMインバータに採用されるトランジスタ等電力変換素子のスイッチング時に発生するデッドタイムの影響で、電流の方向反転時に電圧出力が不連続になり、位置偏差DIFに、電流方向反転回数のDIFリップルが発生してワーク加工面が乱れ、加工面品位が低下するといった問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
デッドタイムに起因したDIFリップルにより、加工面品位が低下する問題は、従来、上述した様なデッドタイム補償によって、影響低減を図ってきた。しかしながら、電流方向を厳密に検出し、デッドタイム補償値を正確に切換えることは容易ではなく、デッドタイム補償によるDIFリップル低減には限界があった。
【0028】
本明細書では、デッドタイムに起因したDIFリップルを、電圧外乱抑制性能の向上によって低減させるとともに、指令追従性能の改善と、指令応答タイミングの最適化を実現する位置制御装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
q軸電流誤差を増幅する誤差増幅器をI-P(積分-比例)制御で構成し、q軸電圧指令値には、q軸電流指令時間微分値に対応するq軸電圧フィードフォワード量を加算し、q軸電流誤差には、q軸電流の応答タイミングを最適化させるq軸電流補償量を加算する。
【発明の効果】
【0030】
q軸電流制御ループをI-P(積分-比例)制御で構成することによって、電圧外乱抑制性能を向上させ、デッドタイムに起因したDIFリップルを低減することができる。また、加々速度指令値に応じたq軸電圧フィードフォワードによって、q軸電圧誤差が補償でき、位置指令値追従性能を向上させることができる。更に、q軸電流補償量によって、q軸電流応答タイミングが調整できるため、加減速動作時のDIF発生が抑制でき、PI制御で動作する他の制御軸との位置同期関係も維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の位置制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の位置制御装置における速度ループ周波数特性(ωm/ωm
*)の一例を示すグラフである。
【
図3】本発明の位置制御装置における位置ループ周波数特性(iq/vdis)の一例を示すグラフである。
【
図4】本発明の位置制御装置におけるデッドタイムに起因したDIFリップルの一例を示すグラフである。
【
図5】本発明の位置制御装置における加減速時追従誤差の一例を示すグラフである。
【
図6】q軸電流補償量を調整した時の加減速時追従誤差の一例を示すグラフである。
【
図7】従来の位置制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図8】従来の位置制御装置における速度ループ周波数特性(ωm/ωm
*)の一例を示すグラフである。
【
図9】従来の位置制御装置における位置ループ周波数特性(iq/vdis)の一例を示すグラフである。
【
図10】従来の位置制御装置におけるデッドタイムに起因したDIFリップルの一例を示すグラフである。
【
図11】従来の位置制御装置における加減速時追従誤差の一例を示すグラフである。
【
図12】PWMインバータの1相分の電圧出力部を示した回路図である。
【
図13】PWMインバータの1相分の制御電圧指令値と出力相電圧を示したタイムチャートである。
【
図14】PWMインバータの1相分の入出力関係(制御電圧指令値-出力相電圧)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、位置制御装置について図面を参照して説明する。
図1は、位置制御装置の構成例を示すブロック図である。以下、これまでに説明した従来例と異なる部分についてのみ説明する。尚、
図1は、表面磁石型同期電動機(SPM)の場合を示している。
【0033】
図1の位置制御装置10では、加算器13で、q軸電流誤差Δiqにq軸電流補償量iqc
*を加算して、q軸電流制御器11の入力としている。q軸電流補償量iqc
*は、トルク応答時間を調整するための補償入力で、後述するq軸応答補償量演算部1の演算出力である。また、q軸電流iqをq軸電流制御器11の入力に加えている。
【0034】
ここで、q軸電流制御器11の誤差増幅器は、I-P(積分-比例)制御を用いる。I-P制御は公知の制御方式であり、この場合の演算式は式(1)で示される。
【0035】
【数1】
ここで、q軸電圧誤差ΔvqがI-P制御の出力であり、Gcqi:積分ゲイン、Gcqp:比例ゲインがI-P制御を構成するゲインパラメータである。
【0036】
q軸電流制御器11は、I-P(積分-比例)増幅する誤差増幅器以外は、従来同様に、d軸電流指令値id*と電源角周波数ωから、d軸との干渉成分を補償する非干渉化補償部、更に、モータの誘起電圧を補償する誘起電圧補償部から構成される。つまり、q軸電流制御器11は、I-P制御の出力であるq軸電圧誤差Δvqに、非干渉化補償値ωL・id及び誘起電圧補償値Ke(ω/p)を加算して、q軸電圧指令値vq*を出力する。この一連の処理は式(2)で表現される。
【0037】
【数2】
(p:対極数、L:1相当たりのインダクタンス、Ke:トルク定数)
【0038】
加算器12は、q軸電流制御器11出力のq軸電圧指令値vq*に、q軸電圧フィードフォワード量vqfを加算して、d-q→3相変換器66の入力となるq軸電圧指令値を構成する。q軸電圧フィードフォワード量vqfは、加々速度指令値に応じて発生するq軸電圧誤差Δvqを補償して、Δvq=0とするq軸電圧補償値であり、後述するq軸応答補償量演算部1の演算出力である。
【0039】
図1において、q軸応答補償量演算部1は、表面磁石型同期電動機(SPM)の場合のブロック構成を示している。q軸電流iqの時間変化によって生じるq軸電圧vqは、式(3)で示される。
【0040】
【0041】
微分増幅器2は、加減速トルクフィードフォワード量τfをトルク定数Keで除して時間微分し、q軸電流の時間微分値s・iqを出力する。尚、加減速トルクフィードフォワード量τfは、加速度指令値に比例したトルク指令値だから、このq軸電流も加速度指令値に比例している。
【0042】
増幅器3は、微分増幅器2の出力を、インダクタンスL倍に増幅するから、その出力は、式(3)のq軸電流iqの時間変化によって生じるq軸電圧vqになる。ここで、q軸電流とトルク及び加速度は比例関係だから、q軸電流時間微分値s・iは、加々速度に比例する。つまり、q軸電圧vqは、加々速度指令値に応じたq軸電圧フィードフォワード量vqfになる。
【0043】
よく知られたSPMのdq座標系電圧方程式から、前述の補償処理を行うことで、式(1)のq軸電圧誤差Δvqは、加減速動作中も含めて、Δvq=0にできる。一方で、I-P制御では、PI制御に較べて、高周波帯での指令追従性能が低下するため、q軸電流応答、つまりは、トルク応答が遅れる傾向になる。
【0044】
q軸応答補償量演算部1の出力であるq軸電流補償量iqc*は、このトルク応答の遅れを補償するものである。式(1)をq軸電流誤差Δiqについて解くと、Δvq=0に加えて、加々速度一定の下では、s・iq→s・iq*とおけるから、式(4)となる。
【0045】
【0046】
そこで、q軸電流補償量iqc*を、式(5)で設定すると、q軸電流誤差Δiqは、式(6)で表現できる。
【0047】
【0048】
【0049】
式(6)は、q軸電流誤差Δiqが、q軸電流指令時間微分値s・iq*に比例する。つまり、加々速度一定下では、q軸電流応答iqはq軸電流指令値iq*に対して一定時間遅れになり、そのq軸電流応答遅れ時間は、補間定数Giqcによって、調整できることを示している。
【0050】
図1において、微分増幅器2の出力はq軸電流指令時間微分値s・iq
*とみなせるから、増幅器4の増幅率Cqrを、Cqr=Gcqp/Gcqiとすると、この出力を増幅器5の補間定数Giqcで増幅することで、式(5)のq軸電流補償量iqc
*を導出できる。
【0051】
図2は、従来例の
図8に対応するもので、
図1に示した本発明における位置制御装置10のq軸電流制御器11のI-P制御における比例ゲインGcqpと積分ゲインGcqiを好適に調整して、速度指令値ωm
*から、速度検出値ωmまでの速度ループ周波数特性を示したものである。尚、d軸電流制御器62及び速度制御器57の比例ゲインや積分ゲインは、
図8と同値に調整している。この場合、速度制御帯域は
図8と同程度になっている。
【0052】
図3は、従来例の
図9に対応するもので、
図1に示した本発明における位置制御装置10の電圧外乱抑制性能(iq/vdis)の位置ループ周波数特性を示したものである。尚、位置ループゲインKpは
図9と同値に調整している。本例でのDIFリップルを
図4に示す。
【0053】
ここで、デッドタイムとデッドタイム補償値及びモータ速度は
図10と同値に設定している。
図4では、両側振幅0.05μm程度のDIFリップルであり、従来例の
図10と比較して1/10程度に抑制できている。このことは、デッドタイムに起因して発生するDIFリップルに対しても同様である。
【0054】
次に、
図1に示した本発明における位置制御装置10に対して、S字型加減速位置指令値Xを入力した時の位置偏差DIFを考える。
図5は、補間定数Giqc=0を設定した場合を示している。I-P制御によって、q軸電流(トルク)の指令追従性能が高周波帯で低下しているため、加減速時において片側1μm程度のDIFが発生している。尚、
図5及び以降の
図11,
図6では、デッドタイムに起因して発生する周波数のDIFリップル成分は除去して示している。
【0055】
図11は、比較のために、従来の位置制御装置200に対して、同じS字型加減速位置指令値Xを入力した時の位置偏差DIFを示したものである。PI制御のため、q軸電流(トルク)の指令追従性能が高く、加減速時におけるDIFは、片側0.2μm程度に抑制できている。
【0056】
図6は、
図1に示した本発明における位置制御装置10において、加減速時DIFが小さくなる様に、補間定数Giqcを調整して、q軸電流(トルク)の応答遅れ時間を可変したものである。加減速時DIFは、片側0.1μm程度に抑制できており、PI制御下で動作する他の制御軸と同時動作させても、位置同期関係が維持できることがわかる。
【0057】
以上は、表面磁石型同期電動機(SPM)を例にとって説明しているが、埋込磁石型(IPM)やリラクタンス型及び誘導電動機(IM)においても、本発明は適用でき、同様な効果が期待できる。
【0058】
埋込磁石型(IPM)やリラクタンス型の同期電動機の場合は、q軸応答補償量演算部1において、加減速トルクフィードフォワード量τfからq軸電流の時間微分値s・iqを演算するために、微分増幅器2には、式(7)の増幅率を設定する。
【0059】
【数7】
(モータ対極数:p、鎖交磁束:Φf、d軸インダクタンス:Ld、q軸インダクタンス:lq)
更に、増幅器3の増幅率は、q軸インダクタンス:lqになる。
【0060】
誘導電動機(IM)の場合は、微分増幅器2には、式(8)の増幅率を設定する。
【0061】
【数8】
(1相の相互インダクタンス:M)
更に、増幅器3の増幅率は、1相の漏れインダクタンス:Lσになる。
【符号の説明】
【0062】
1 q軸応答補償量演算部、2,56 微分増幅器、3,4,5 増幅器、10 位置制御装置(本発明例)、11 q軸電流制御器(本発明例)、12,13,53,58,68,69,70 加算器、50,55,61,63 減算器、51,54 微分器、52 位置偏差増幅器、57 速度制御器、59 電流ベクトル制御演算部、60 積分器、62 d軸電流制御器、64 q軸電流制御器(従来例)、65 3相→d-q変換器、66 d-q→3相変換器、67 デッドタイム補償値演算部、71 PWMインバータ、72,73 電流検出器、100 モータ、101 位置検出器、102 負荷、200 位置制御装置(従来例)。