(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】多シリコン原子量子ドットおよびそれを包括したデバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 29/06 20060101AFI20220413BHJP
H01L 29/16 20060101ALI20220413BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220413BHJP
【FI】
H01L29/06 601D
H01L29/16
B82Y30/00
(21)【出願番号】P 2019503476
(86)(22)【出願日】2017-07-19
(86)【国際出願番号】 IB2017001051
(87)【国際公開番号】W WO2018015809
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-07-09
(32)【優先日】2016-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519018576
【氏名又は名称】クォンタム シリコン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】ウォルコー ロバート エー.
(72)【発明者】
【氏名】アチャイ ローシャン
(72)【発明者】
【氏名】ハフ タリアナ
(72)【発明者】
【氏名】ラビディ ハーテム
(72)【発明者】
【氏名】リヴァダル ルーシャン
(72)【発明者】
【氏名】ピヴァ ポール
(72)【発明者】
【氏名】ラシディ ムハンマド
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-525050(JP,A)
【文献】Wolkow et. al.,Silicon Atomic Quantum Dots Enable Beyond-CMOS Electronics,arXiv.org, cond-mat,米国,arXiv.org,2013年12月06日,pp.1-28,https://arxiv.org/abs/1310.4148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82Y 1/00
B82Y 3/00
B82Y 20/00
H01L 33/06
B82Y 10/00
B82Y 15/00
B82Y 30/00
H01L 29/06
H01L 29/34
C09K 11/59
C01B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多原子シリコン量子ドットであって、
その他はH終端化された
結晶性シリコン基材格子のシリコン表面上の第一の複数のダングリングボンド
、
ここで、前記複数のダングリングボンドのそれぞれは、+1、0または-1の3つの電離状態の1つを有し、それぞれ、ダングリングボンド状態で0、1、または2電子に対応
し;前
記第一の複数のダングリングボンドは、共に極めて接近していて、前
記第一の複数のダングリングボンドの1つの電離状態の選択的制御によってシリコンバンドギャップ内にエネルギー的にダングリングボンド状態を有する、
前記その他はH終端化された結晶性シリコン基材格子のシリコン表面上の少なくとも1つの追加の複数のダングリングボンド;
ここで、前記ダングリングボンドのそれぞれは、+1、0、または-1の3つの電離状態の1つを有し、それぞれ、ダングリングボンド状態で0、1、または2電子に対応し;前記少なくとも1つの追加の複数のダングリングボンドは、共に極めて接近していて、前記少なくとも1つの追加の複数のダングリングボンドの1つの電離状態の選択的制御によってシリコンバンドギャップ内にエネルギー的にダングリングボンド状態を有する、
を含み、
ここで、前記第一の複数のダングリングボンドおよび前記少なくとも1つの追加の複数のダングリングボンドは、前記シリコン表面上にV形またはY形を形成し、
量子ドットは、集合的な電子エネルギーレベルを有するものとして定義されかつ人工分子であり、
前記第一の複数のダングリングボンドおよび前記少なくとも1つの追加の複数のダングリングボンドは、操作要素でありかつH原子終端化されておらず、
前記第一の複数のダングリングボンドは入力を形成し、前記少なくとも1つの追加の複数のダングリングボンドは出力を形成し、前記入力および出力はゲートを形成する、
ドット。
【請求項2】
請求項1のドットであって、
前記複数のダングリングボンドは、3個、4個、5個、6個から10個、または10個より多くのダングリングボンドである、
ドット。
【請求項3】
請求項1または2のドットであって、
前記第一の複数のダングリングボンドは、線形である、または隣接するH終端化シリコン原子上にある、または前記第一の複数のダングリングボンドの中間に、少なくとも1つのH終端化シリコン原子が存在する、
ドット。
【請求項4】
請求項
1のドットであって、
前記
少なくとも1つの追加の複数のダングリングボンドは、前記第一の複数のダングリングボンド
に対して平行に
、または垂直に配置される、
ドット。
【請求項5】
請求項
1のドットであって、
前記シリコン表面は、Si(111)、Si(110)、またはSi(100)の1つである、
ドット。
【請求項6】
請求項
1のドットであって、
入力としてのAFMチップおよび第三の複数のダングリングボンドをさらに備え、
前
記第一、
少なくとも1つの追加の、および第三の複数のダングリングボンドは、前記シリコン表面上にY形を形成する、
ドット。
【請求項7】
請求項
1のドットであって、
前記A
FMチップは、電子または水素原子を選択的に付加または除去する、
ドット。
【請求項8】
請求項
1のドットであって、
前記ゲートは、ORゲートである、
ドット。
【請求項9】
請求項
1のドットであって、
前記ドットが平衡状態に戻るのを可能にするために、前記ドットの末端に配置された静電バイ
アスをさらに備える、
ドット。
【請求項10】
請求項1
または2のドットであって、
前記ドットのドーピングレベルは、前記ドットが中性電荷を有するように調節される、
前記ドットは、カプセル化される、または、
前記の複数のダングリングボンドは、H原子終端化されたシリコン原子によって囲まれている、
ドット。
【請求項11】
請求項1
または2のドットであって、
前記の複数のダングリングボンドは、
第一の末端における摂動が第一の末端に対する逆末端と通じ
るようにワイヤを形成する、
ドット。
【請求項12】
電子デバイスであって、
請求項1
または2の多原子シリコン量子ドットの少なくとも1つ、
および;
前記の多原子シリコン量子ドットの少なくとも1つと電子通信
する少なくとも
1つの接
触、
を備える、
電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、量子ドットを形成する、その他はH終端化されたシリコン表面上の多数のダングリングボンド(DB)に関し、具体的には、そのような量子ドット上のDBの占有状態の調節に基づくデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
走査プローブ顕微鏡技術を用いて、化学反応を原子スケールで誘導および可視化することが日常的に達成可能である。いわゆる機械的化学のフレームワークにおいて(1)、機械的な力によって誘導される反応が、NCAFMを用いて研究されている(2)。最近の研究は、力によって誘導される原子スケールのスイッチ(3)、単一原子(4)および分子(5)の拡散を誘導する定量的な力の測定、ならびに、分子配座異性体(6)および互変異性化(7)の研究を報告した。他の研究は、単一原子の機械的に誘導される垂直操作の例を示している(8,9)。しかしながら、NC-AFMを用いた2つの異なる原子の機械的に誘導される共有結合の直接的な観察は不足したままである(10)。
【0003】
近年、技術的に関連のあるH-Si(100)表面上のシリコンダングリングボンド(DB)が、CMOS技術を超えた非常に有望なビルディングブロックとして確立された(11,12)。DBは、その他は不動態化されたシリコン表面からの、脱離された単一水素原子に相当する。それは、2、1、または0電子によって占有され得る、およそsp3混成軌道であり、それぞれ、負、中性、または正電荷のDBを生じる。したがって、DBは本質的に単一原子量子ドットとして挙動し、荷電状態の遷移がSTM実験において報告された(13,14)。DBは、水素終端化の手順中の欠陥の結果として表面上に元々見られ得て、または、STMチップを用いて人為的に作られ得る。異なる研究は、H-Si表面上の、制御された原子ごとの(atom-by-atom)リソグラフィ、すなわち水素脱離が、次世代の究極的に小型化された低出力ナノ電子デバイスのためのDBに基づく回路の作製を可能にすることを示した(11,12,15~17)。
【0004】
STMチップによって誘導されるH-Si(100)表面からの水素の脱離が広く研究されているが(16,18~23)、シリコンDBを不動態化するための単一水素原子の選択的な吸着の逆操作は、研究が残っている。この文脈において、AFMは、異なるチップ力学の特定を可能にすることによって(24,25)、および、原子スケールでの化学的反応性を探ることによって(26,27)、より多くの見識をもたらすことができる。
【0005】
原子スケールの計算の見込みは、Eiglerらが表面上の原子を制御可能に動かしてそれらのデザインの構造を獲得したときに最初に可能になった(1)。その後の研究において、同じ研究室が分子カスケードを作り、そこでは、ドミノ倒しと同様に、終端分子にチップが付けられて、次々に、隣接分子の上にチップを付けて、それは次の分子にチップを付けて、同様に繰り返す(2)。カスケードの離れたブランチは、二値論理関数を達成する方法で、精巧に合うように調整された(timed to come together)。これらの結果により、新たな時代が始まった。しかしながら、実用的な適用を妨げる挑戦が残されて、これらの制限は克服するのが非常に困難になっている。これらの挑戦の一部は;1)実作業の温度、理想的には室温において、パターン化された原子を強固にさせる必要である。最初の原子パターンは、非常に精巧に結合されて、約-250℃よりも上で持続しなかった(1,2)。一般に、相対的に高い操作温度に耐えるのに十分強固な構造の原子生成は、作るのがより困難である。これは、走査されたプローブからのより大きなエネルギー入力が、強く結合した原子を除去および移動させるのに必要であるからであり、そのような条件下では、プローブ自体内の共有結合は、標的結合のものに匹敵するいくらかの可能性で切断される(3)。2)パターン化原子は、基材によって変更またはショートされない伝導パスウェイを可能にするために、基材と電気的に異なる必要がある。最も一般的な選択である金属(4,5)に対して行なわれた研究は、したがって、その関連で制限された。塩層によって金属基材から分離された金属原子および分子の研究において絶縁が達成されているが、これらは、層の厚さの不均一性におけるそれらの制限および基材への荷電の自然な喪失による問題を有する(6,7)。3)原子電気回路は、電気回路が即座に再使用可能であるのを防ぐ機械的または他のリセットプロセス(全てのドミノを立て直すのと同様)を必要とするべきでない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
その他はH終端化されたシリコン表面上の多数のダングリングボンドを含む多原子シリコン量子ドットが提供されて、それぞれのダングリングボンドは、+1、0または-1の3つの電離状態の1つを有し、それぞれ、ダングリングボンド状態で0、1、または2電子に対応する。ダングリングボンドは、共に極めて接近していて、ダングリングボンドの1つの電離状態の選択的制御によってシリコンバンドギャップ内にエネルギー的にダングリングボンド状態を有する。新しいクラスのエレクトロニクス素子が、多数のダングリングボンドに対する少なくとも1つの入力および少なくとも1つの出力の包括を通して提供される。ダングリングボンドの選択的改変または作製も詳述される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】3DBチェーンを示す。(a,b)それぞれ、-1.8Vおよび1.4VでのSTM定電流画像。電流設定値は50pAであった。(c~e)H-Siダイマー上で60pmチップ引込によって-1.8V、20pAのチップ高さで得られた、dI/dVマップ。それぞれのdI/dVマップの収集中のサンプルバイアスは、マップの上側左角において標識される。dI/dVマップおよびSTM画像に関するスケールバーを(a)に示す。(f)STM画像(a)の上に重ねられた3nm点線に沿って変化するエネルギーでのdI/dVラインスキャン。
【
図2】より長い長さのDBチェーンを示す。(a)4DBチェーン、(b)5DBチェーン、(c)6DBチェーン、(d)7DBチェーン。5DB(b)および6DB(c)チェーンは、4DBチェーン(a)の上側右末端にDBを付加することによって形成された。各カラムの最初の画像は、-1.8V、50pAでのSTM定電流画像である。全ての他の画像は、H-Si領域上で60pmチップ引込によって-1.8V、20pAのチップ高さで得られたdI/dVマップである。それぞれのdI/dVマップの収集中のサンプルバイアスは、マップの上側左角において標識される。各カラムに関するdI/dVマップおよびSTM画像の両方に関するスケールバーは、各カラムのSTM画像の下に示される。
【
図3】単一DB(b)およびベアダイマー(c)による7DBチェーン(a)の制御された摂動を示す。(a~c)の上の画像は、50pAの電流設定値で-1.8Vにて撮ったSTM定電流画像である。下の画像は、(a)においてSTM画像上に重ねられた点線で示される7DBチェーンの中心軸に沿った摂動特性および7DBチェーンのdI/dVラインスキャンである。dI/dVラインスキャンの高さの設定値は、H-Siダイマー上で60pmのチップ引込によって-1.8V、20pAであった。それぞれのdI/dVラインスキャンのxスケールは、それぞれのSTM画像のxスケールと並べられる。(b)において、摂動単一DBは、ダイマー列の7DBチェーンと同じ側に位置し、DBと7DBチェーンの間に1つのH-Siダイマーが介在する。(c)において、摂動ベアダイマーは、(b)におけるオリジナルの摂動DBと同一のダイマー上のDBを除去することによって作られた。全てのdI/dVラインスキャンにおいて、7DBチェーンと関連する状態密度は、1nm~4.5nmのx位置に見られる。(b)および(c)のdI/dVラインスキャンにおいて、単一DBおよびベアダイマーの状態密度は、それぞれ、約5.5nmのx位置に見られる。
【
図4】グラフを示す。
図4の右のグラフは、プローブとサンプルの間に加えられた電圧の関数としての、原子間力顕微鏡の発振周波数における変化の色分けされた曲線を示す。顕著な遷移は、プローブの下の特定のDBの荷電状態遷移を表わす。約-.2の通常な遷移は、最も摂動されたDBに関して、ある意味で負電荷の摂動と一致して、大きくシフトする。
【
図5】2つのキュービットを示す
図4の詳細を示す。
図4の同一の摂動が適用されると-同一の結果が最も近いキュービットにおいて達成された。注目すべきことに、加えて、摂動要因(perturber)によって直接バイアスされたキュービットが、次々に第二のキュービットをバイアスしていることが観察される。最も摂動されたDBが依然として存在するが、ここではほとんど見えなくさせられていることに注意する。これらの電子的変化は、完全に可逆的である。
【
図6A-6D】NC-AFMを用いた原子シリコン量子ドットにおけるプローブ荷電状態遷移(Probing charge State Transition)を示す。
図6Aは、3×3nm充満状態STM画像(-1.7Vおよび50pA)を示し、
図6Bは、ASiQDの0Vにおける振動数シフトマップに対応する(zrel=-350p.mおよびAmp=100p.m)。
図6Cは、ASiQD(黒)および水素終端化表面(赤)のlogスケールでプロットされた電流対バイアス分光法を示す。
図6Dは、ASiQDの上で測定された電圧の関数としての振動数シフトを示す。
【
図7A-7I】多原子シリコン量子ドット構造に対する分極効果を示す。単一ASiQD(
図7A-7C)、2つのトンネル結合されたASiQD(
図7D-7F)、および、2+1構造(
図7G-7I)に関する、STM画像(-1.8Vおよび50pA)、振動数シフトマップ(zrel=-380p.mおよびAmp=100p.m)、および、振動数シフト対バイアススペクトル(Δf(V))。Δf(V)スペクトルは、AFM画像における矢印に従って色分けされる。
【
図8A-8F】原子シリコン量子ドット(ASiQD)によって構成されたバイナリーワイヤを通した情報伝達を示す。
図8Aは、充満状態STM画像を示し、
図8Bは、17 ASiQDワイヤの振動数シフトマップに対応する。色彩ガイドを
図8Bに置いて、ドットの位置を示す。
図8Cは、
図8Aの右に付加することによって作製する対称な18原子ASiQDワイヤを示す。
図8Dは、白い破線によって印が付けられた対称に分割する平面を示すドットの振動数シフトマップである。
図8Eは、左にASiQDを加えることによって対称が壊れた19原子ワイヤ。
図8Fは、右に分極化されたワイヤを示す振動数シフトマップである。全てのSTM画像は、V-1.7および50pAで撮られた。全てのAFM画像は、z=330p.mの相対的チップ上昇および0.5°Aの発振振幅で、0Vにて撮られた。
【
図9A-9O】原子シリコン量子ドット(ASiQD)を用いて構成された機能性ORゲートの例を示す。
図9A、9D、9G、9J、および9Mは、ORゲートの定電流充満状態STM画像(-1.8V、50pA)を示し、
図9B、9E、9H、9K、および9Nは、対応する振動数シフトマップ(0V、Z3.5A°)を示す。
図9Cは、ORゲートの真理値表を示し、一方で、
図9F、9I、9L、および9Oは、表示される様々なゲート状態に対応する入力および出力のスイッチに関するモデルを示す。
【
図10A-10D】単一水素原子によるチップ官能化をもたらすことのできる、チップによって誘導される操作の図解を示す。
図10Aは、H-Si(100)-2×1表面のボール・アンド・スティックモデルを示す。
図10Bは、非官能化チップを用いた典型的な欠陥のない空状態STM画像を示し、表面のダイマー構造を示す。赤いドットは、
図10Aに描かれた電子的励起が加えられた場合のSTMチップの位置を示す。
図10Cは、緑色でシリコンダングリングボンドのボール・アンド・スティックモデル、および、チップによって誘導される脱離によって生じるH-官能化チップを示す。
図10Dは、特徴的なSTMコントラスト強調を示すH-官能化チップによって得られたDBの典型的なSTM画像を示す。STM画像は両方とも、+1.3Vで50pAの設定値で、定電流モードにおいて得られた。
【
図11A-11D】HSi(100)表面上に物理吸着された単一水素原子の画像を示す。
図11Aは、DBの+1.3Vにおける(5×5)nm
2STM画像を示し、脱離された原子水素は検知されなかったが、その代わり、位置における吸着を矢印によって示した。
図11Bは、表面上に吸着された原子水素の(3×3)nm
2STM画像を示し、
図11Cは、0Vでの対応するAFM振動数シフトマップおよびz=-3.8Åの相対的なチップ上昇を示す。
図11Dは、表面上の原子水素が、V=+1.6Vでの下方遅延(slow downward)STMスキャンによって検知されることを示す。全てのSTM画像は、50pAでの定電流である。
【
図12A-12F】水素-シリコン共有結合を機械的に誘導するための手順を示す。
図12Aは、単一水素原子官能化チップを用いたH-Si(100)-2×1表面上のシリコンダングリングボンドの典型的な充満状態STM画像を示す。黄色の矢印は、参照として得られた欠陥を示す。
図12Bは、表面水素原子上の、H-官能化チップを用いたΔf(z)曲線を示す。
図12Cは、ボール・アンド・スティックモデルを示し、
図12Dは、機械的に誘導されるSi-H共有結合キャップ化イベント中の単一DB上のΔf(z)曲線を示す。橙色の矢印は、シリコンダングリングボンドおよびチップ頂点のH原子の間の共有結合の形成に起因して生じる変化のヒステリシス(挿絵において拡大)特性を示す。
図12Eは、STM画像を示し、
図12Fは、
図12Dにおける機械的に誘導された反応後のH-Si表面上のΔf(z)曲線を示す。
【
図13A-13C】H-官能化チップを用いたHSi(100)-2×1表面上の単一DBのNC-AFM特性を示す。
図13Aは、H-Si表面(青い曲線)およびシリコンDB(赤い曲線)に対して記録された、Δf(z)曲線を示す。相対的に大きい(
図13B)および小さい(
図13C)チップ-サンプル距離でのそれぞれのH-Si表面上のDBの(3×3)nm
2振動数シフトマップ。全てのデータは、1Åの発振振幅で0Vにて得られた。
【
図14A-14H】多DB構造における変化するカップリングおよび人工分子軌道を示す。
図14Aは、同一のダイマー列に沿って並べられたH-Si(100)表面上の2組の結合されたDBを示す。
図14Bは、
図14Aにおける右端DBの機械的に誘導されたキャップ化後の同一領域の画像を示す。14Cは、3つのトンネル結合DBの(3×2)nm
2STM画像を示す。
図14Bは、
図14Cにおける中央DBを消した後の同一領域を示す。定電流画像の
図14A~14Dは、-1.8Vおよび50pAで得られた。
図14E~14Fは、fFilled(-2.0V、50pA)を示し、図>14g~14Hは、それぞれ、
図14Eにおける右端DBを消す前および後の、DBワイヤの空(+1.4V、50pA)状態STM画像を示す。4個(
図14I)および3個の(
図14J)DBワイヤの3dモデル。消されたDBの位置は、破線円によって示される。
【
図15A】化学的に不活性のH-Si(100)表面上に物理吸着された単一水素原子が、低電圧(+1.3V)において充満状態で安定的に撮像され得ることを示す。しかしながら、(b)においてスキャン電圧を+1.7Vに増大させると、水素原子はチップによって引っ張られて、画像の途中のコントラストの変化によって示されて
図15Cに示されるように同一領域のその後のSTM画像によって確認されるように、STM画像中にDBのキャップ化をもたらした。
図15Bおよび15Cは、
図15Aの領域の、より大きな領域(10×10)nm
2)の画像である。原子水素の位置を矢印で示す。
【
図16A-16E】異なるチップ-サンプル上昇でのH-Si(100)表面の一連の列(3×3)nm
2 NC-AFM振動数シフトマップを示す。画像は、0Vにて1Åの発振振幅で記録された。
図16A-16Eは、H-Si表面上の原子から化学結合コントラストへの進化を示す。より小さなチップ上昇に関して、よりいっそう高い相互作用力が、表面上の他のどの場所よりもDB上に見られる。Z=0Åは、フィードバックループのスイッチを切る前のSTMイメージングの設定値(30pAおよび+1.3V)によって規定されるチップ位置に相当する。
【
図17】
図17Aは、小さなチップ-サンプル距離(-4.6Å)での単一DBのNC-AFM振動数シフトマップを示し、
図17Bは、対応する同時に得られた励起チャネルマップを示す。
図17Cは、同一DB(赤い曲線)およびH-Si表面(青い曲線)に対して記録された、重ねられた励起対チップ上昇曲線を示す。
【
図18A-18D】本発明に係る水素-不動態化チップを作製および特定する方法を示す。
図18Aは、画像の中央に明るい正方形として現れる(5×5)nm
2ベアシリコン領域を有するH-Si表面の(20×20)nm
2定電流(30pA、-2.0V)STM画像を示し、チップによって誘導される水素脱離によって得られた。チップ成形手順に続いて、STM画像は非常に鮮明になり(
図18B)、
図18Aに見られる二重チップ効果をもはや示さない。赤い矢印は、チップによって誘導されるシリコンダイマー水素終端化の位置を示す。
図18Cおよび18Dは、それぞれ、反応性および不動態化チップのチップ-サンプル距離に対する振動数シフトを示す。
【
図19A-19H】異なるチップ上昇での一連の振動数シフトマップを示す。
図19Aは、2×1再構成におけるH-Si表面の3つのシリコン層を示すボール・アンド・スティックモデルを示す。
図19Bは、不動態化チップによって得られた(2×2)nm
2定電流(30pA、+2V)STM画像を示す。
図19C-Hは、異なるチップ上昇でのH-Si表面の一連の列NC-AFM振動数シフトマップを示す。画像は0Vにおいて1Åの発振振幅で記録される。
【
図20A-20C】DFTB計算からのシミュレーションされた力のマップを示す。
図20Aは、チップ構造およびDFTB計算において考慮されるH-Siスラブを示す。
図20Bおよび20Cは、それぞれ、剛性および柔軟なチップを用いた、異なる上昇での一連のシミュレーションされた(2×2)nm
2の力のマップを示す。
【
図21A-21B】凍ったスラブに関するシミュレーションされた力のマップを示す。凍ったスラブ(上パネル)と、それらのシミュレーションされた力のマップ(下パネル)の、部分的な側面図。aでは、ダイマー水素は、それらの弛緩した位置で固定されて、一方で
図21Bでは、それらは、わずかに曲げられて固定されて、
図21Aに関してダイマー間とダイマー内の水素の逆の距離を得る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、延長された、または単に長い、量子ドットを形成するための、結晶性シリコン基材格子が許容するのと同じくらい間隔が近接している、または、H原子終端化表面シリコン原子が集合した介在空間を有する、集合である多シリコン原子量子ドット(ASiQD)として有用性がある。本発明の操作要素(operational element)であるダングリングボンドは、H原子終端化されていない。
【0009】
任意の格子が許容する他の形状も作られ得ることが理解されよう。これらは、原子シリコン分子に関してASiMと呼ばれ得る。さらなる形状は、V形、Y形、三角形、正方形、および長方形を含む。
【0010】
本明細書において用いられる量子ドットは、集合的な電子エネルギーレベルを有するものとして定義されて、人工分子である。
【0011】
長い量子ドットは、線形配列または格子が許容する任意の他の形状であってよい。ASiQDの人工ベンゼンが作られている。2、3、4、5、6、7個のASiQDからなる単純な線形の近接して詰められた配列が形成されていて、分子の長さに及ぶ空間ラインおよび電圧の範囲をカバーするdI/dVマップによって特性化されている。分子よりも長い領域にわたる、定電流、等高およびdI/dVは、全て記録されている。これらの画像は、アンサンブルの集合的な分子状態の空間的およびエネルギー的な変動を示す。
【0012】
分子の全ての属性およびその用途、本発明のASiMは、同様の属性および用途を有する。本発明のASiMは、個別対応されていて、特有の光吸収および放射特性を有するように形成される。
【0013】
分子は、電場によって分極化されて、場が歪められた(field distorted)電子構造を示す、電子を付加または除去することによってイオン化される、および、化学反応に入る、という属性を有する。古典的なバイナリーまたはアナログの電気回路における電子部品として、または量子電気回路を備えるコヒーレント電子素子として作用するのを可能にするASiMの属性においては、以下を含む:一部の本発明の実施態様では、電場によって誘導される変更された電子構造が用いられて、少し離れて作用を伝える;ASiMの一方の末端または領域におけるシグナル入力または摂動は、ASiM上の他の場所に登録され得る;その変更の受容器または検出器は、情報の伝達を効果的に完了することができる;ASiMに沿った多数の入力は、ASiM上の1つまたは複数の他のポイントにおいて受容器によって登録され得る計算を獲得するように、多種多様にプログラムによって電子構造を変更することができる。本発明のASiM、または同等に、ギャップ?空間を有する分子の集合は、摂動に応答して電子構造の深いシフトを示し得て:そのような分子は、2状態バイナリー挙動、または、非常に大きな分極範囲を有する連続的に可変の電子挙動を示し得て;バイナリー適用では、線形ワイヤ様分子、または多くのそのような連続している線分からなるより複雑な形状は、2つの長軸方向にシフトされた電子状態を示し、これらは、バイナリー情報を表示、保管、および伝達するために用いられ得て;量子電子適用では、上記と同じ構造タイプは、J結合として知られる方法で、いずれかのサイン(sign)によって、離れたキュービットを結合することができる。典型的に、J結合は、例えばIsingモデルでの、2つのスピン間の結合を指す。そのようなJ結合は、電気回路における容量結合に似ていて、量子計算の文献においてしばしばZZ結合と呼ばれる。ASiMに基づくカプラーに対する変異は、XX結合として知られるインダクティブのような結合も可能にする。他の変異もなされ得る。結合の様々なタイプ、強度およびサインへのアクセスは、より多様でほぼ普遍的な量子計算を可能にする。
【0014】
ASiMの組み立てが、必要である場合および必要に応じて、分子電子と呼ばれているものの新規の実用的な表現を表わす。分子化学が困難であって所望の位置への誘導がほとんど成功しない以前の試みとは異なり、本発明は、必要な場合および必要に応じてワイヤおよび他のコンポーネントを作製することによって、トロリ線(wire contact)および他のコンポーネントへの配置およびインターフェイス接続を達成する。本発明の量子ドットおよび関連するインターフェイスコンポーネントは、所望の寸法、コンテンツおよび特性を有するように適応され得る。
【0015】
ASiQDの重要な特性は、その電子状態が、結晶性シリコンバンドギャップ内であることである。同様に、ASiMは、新しい集合的状態を有し、それもバンドギャップ内である。ASiQD間の結合と関連する分割は、0.1eVのオーダー(of order)であり、分子状態をギャップ領域に同様に制限する。
【0016】
重要なことに、ASiMの集合的状態は、したがって、シリコンバルク電子状態と効果的に混合せず、原子サイズのワイヤおよび他の電気古典的および量子素子が、シリコン表面上に形成されて、大きく電気的に絶縁されて、介在する絶縁体を必要とせずにバルクから分離されるのを可能にする。
【0017】
絶縁体の必要がないことは、シリコン表面の上の経路となり得る(can be routed over)導体の寸法を大いに減少させて、一方でまた、原子サイズ導体を、下にあるシリコン格子に対して完全に規則正しくさせる。
【0018】
そのようなワイヤおよび他の素子の完全な秩序および小さな全体サイズは、同一の構造が製造されるのを可能にする。同一の構造は、均質な特性を有する。均質な特性を有する素子からなる回路およびデバイスは、それら自体、様々な特性を有する素子で作られたデバイスおよび回路よりもはるかに予測可能な特性を有する。
【0019】
単電子トランジスタは、ASiQD(SEM ASiM)から作られ得る。SEM ASiMは、中央における量子ドットとして作用する1つまたは複数の原子を有する、少なくとも2つの密に詰められたワイヤユニットを備える。リソグラフィ技術によって作られるかつてのSET回路は、SET間の特性において広範な変動を有していたので、そのような可変のSETの集団(collective)で組み立てられた回路は、実際には、機能するように作られ得なかった。同一のSET ASiMで作られたSET回路は対照的に、SETのそれぞれおよび全てを調律する必要なく機能して、したがって、より単純かつより費用効果的に作製および操作される。
【0020】
また、ASiM SETは、可能な静電容量が最も小さく、したがって、中央ドット上の電子あたりの可能な帯電エネルギーが最も大きく、室温またはさらにより高い温度で容易にSETを機能させる。SETからなる非常にエネルギー効率的な回路が組み立てられ得る。
【0021】
基材に対する考慮がなされる必要がある。Si(100)表面の単一のシリコンダイマー上の2つの間隔が密であるASiQDは、2以上のASiQDが一般的にするよりも強力に相互作用する。その特定の場合において生じる分割は、バルクシリコン原子価および伝導バンドと共鳴する状態を作る。結果として、単一ダイマー上の、2つを含むASiMまたはASiQD(ASiMs containing two or ASiQDs on a single dimer)は、バンドギャップ内にASiMを有さない。これらのアンサンブルは漏電し、または、バルク状態とマージされる。
【0022】
この漏電は、例のASiMを電気的に接続するように、ASiMをバルクと意図的に接続するために展開され得る。
【0023】
ギャップ状態および+1、0、または-1電子荷電状態内である容量を有する単一原子は、Si(100)表面上の同一ダイマー上の別のASiQDと結合された場合、電荷を保有することが不可能にさせられ得る。これは、電荷中心およびピンニング中心を除外するために用いられ得る。
【0024】
Si(111)表面上で、ASiQDは、決して3.84オングストロームよりも近くなることができず、結果として、原子価および伝導バンドと共鳴する新たな電子状態を作るのに十分大きな分割エネルギーを達成することができない。
【0025】
本発明のAsiQDは、以下の属性を有する:その他はH終端化されたSi(100)表面、または、H-Si(111)表面または他はH終端化されたシリコン表面上の、多数のダングリングボンド(DB)は、量子ドットを形成することができる;単一DBは、3つの電離状態を有することのできる量子ドットであり、+1、0または-1帯電することができ、DB状態でそれぞれ0、1、または2電子に対応する;全ての荷電状態はシリコンバルクバンドギャップ内にある。本発明は、H終端化表面シリコンに関して詳述されているが、類似の発明デバイスは、ゲルマニウムおよび炭素の表面の上に形成されることが理解されよう。そのようなダングリングボンド状態の同様の発生に適切な他の基材材料は、不完全な表面不動態化を有する半導体ドメイン、プロトン化表面を含む特有の形態、半導体の局所的ドープ化およびナノ結晶性ドメイン(例示的にシリコンを含む)、様々な外来的および内因性の単原子、二元および三元半導体(シリコン、ヒ化ガリウム、リン化ガリウム、リン化インジウム、ゲルマニウム、ヒ化インジウム、アンチモン化インジウム、ヒ化ガリウムアルミニウム、硫化カドミウム、硫化亜鉛、リン化インジウムアルミニウム、ヒ化ガリウムアルミニウム、ヒ化インジウムアルミニウム、アンチモン化ガリウムアルミニウム、リン化ガリウムインジウム、鉛錫テルル、セレン化ガリウム銅、ヒ化ゲルマニウム亜鉛、および硫化鉄銅、およびこれらの有利な結晶方位を例示的に含む)を例示的に含む。
【0026】
DBの結合状態は、多数のDBを極めて接近して共に配置することによって生じ、より大きな量子ドットを形成する。多シリコン原子量子ドット、MSiAQDもまた、シリコンバンドギャップ内にその状態を有する。
【0027】
ギャップ内である状態は、決定的に重要かつ特有である。それは、バルクおよびASiQDおよびMSiAQD電子状態の分離を可能にする。それは次々に、そのような表面状態における電子が、バルクから効果的に電気的に分離されることを意味する。そしてその分離は次々に、MSiAQD体が、それら自体とバルクとの間の電気的絶縁層を必要としないことを意味する。
【0028】
シリコン基材上の原子スケールの電気回路の作製において、電気回路の活性体(active entities)へ、超微細な実に原子スケールのワイヤリングを提供することが、必要かつ好適になってくる。そのようなワイヤとシリコン基材との間の絶縁体の必要性は、ワイヤに対して空間および組成の不確実性およびアドレス活性体に対してそれらの正確な関係を、もたらし、非常に複雑化して、拡大させる。本発明は、絶縁層および再現性良く正確にワイヤを作製する能力に関する必要性を除外するので、原子的に規定された特性は、原子レベルの電気回路を作製する行為を大いに可能にさせて進行させる。特に、電気的なリード線(leads)と実体(entities)との間に公知で不変の関係があるので、それらは、回路特性においてほぼゼロの非均一性にリード線を特定する(adress)。
【0029】
したがって、本発明およびこれらの技術は、記憶素子、様々なタイプの古典的な電気回路において非常に望ましく、広い範囲のコヒーレント量子電気回路にも非常に望ましい。
【0030】
本発明のドットは、電流がデバイスを流れないという点において独特である。
【0031】
原子レベルのデバイス素子
荷電状態遷移は、サンプルとAFMチップとの間のバイアスをスイープしながらAFMシグナルを記録することによって見られる。ケルビンプローブフォース顕微鏡、KPFMとして知られるこの技術は、プローブとサンプルとの間の接触電位差を調べるため、および最近では、単一の金原子上の別々の荷電状態遷移を検出するために、広く適用されている。
【0032】
STM画像は、H終端化シリコン上のシリコンダングリングボンドアンサンブルの原子構造を明確に示す。画像が静電気力によって支配されるように集められた同一領域のAFM画像は、電荷の位置、したがってゲートの論理状態を示す。これらの画像は、原子的に分解されたイメージングに用いられるよりも多少長いチップ-サンプルの分離距離で撮られる。静電気力は、AFMイメージングに寄与する他の力よりも長い尾を有し、局在電荷の良い近似マップである画像を我々が記録するのを可能にする。
【0033】
DBのトンネル結合ペアは、合わせると、-1の電荷を有する。DB間のトンネル相互作用は指数関数的に低下するので、多少さらに除去された摂動DBは、ペアとあまりトンネル結合されず、その代わりに、固定された電子荷電として作用する。また、摂動DBは、その負電荷を失うのに十分にはクーロン力的に不安定化されない。相応して、摂動DBおよびその原子から最も遠いDBに関するKPFM遷移エネルギー(
図9におけるトレースxx1およびxx2)は、似ている。中間DBに関するKPFMトレースは、明らかにシフトした電荷遷移エネルギーを示す。このシフトは、摂動DBの反発作用に起因する。したがって、このDBの負から中性の荷電状態遷移を記録するためには、プローブとサンプルとの間の相対的に正の電圧が加えられなければならない。
【0034】
他の方法で表現すると、ゼロプローブバイアスにおける中間DBは、負の摂動DBの影響下であるが、既に中性状態であることが見られ得る。トンネル結合されたDBは、電気摂動によって分極化され得る二重井戸ポテンシャルを形成することが明らかである。この例では、二重井戸は「左」に傾けられて、共有電子がそこに局在化する傾向にさせる。
【0035】
固定電荷、または可変のバイアス電極は、2つのトンネル結合されたDBで形成された二重井戸ポテンシャルの片側に、電荷を局在化させることができる。同様に、より複雑なポテンシャルエネルギー面では、原子シリコン量子ドットのより大きなアンサンブルに起因して、適用された電位は、電子を空間的にシフトさせる。これは、情報が空間的電荷分配においてコードされることを可能にして、操作あたり最小限のエネルギー消費で、そして静止した電力消費なく、従来の電流を使用せずに情報が伝達されるのを可能にする。
【0036】
図8A~8Fは、端と端をつないで並べられた多数のDBペアを示す。以前と同様に、単一の摂動電荷が一方の末端(右側)に適用されて、全てのペアが2つの利用可能な分極化状態(
図8Aおよび8B)の1つに並ぶように誘導する。
図8Eおよび8Fでは、ペアの同一線は、他方側から分極される。相応して、全てのペアは右へ分極化する。
図8Aおよび8Bにおける最初の分極DBは、単一H原子によって制御可能にキャップ化されて、それにより、そこの1つの電子を自動的に隔離して
図8Cおよび8Dについて入力として作用するギャップ状態を完全に除去した。2つの状態線が逆の意味で分極化され得ることを示すために、新たなDBが
図8Eおよび8Fに示されるように左側に作られた。
【0037】
線のリセット動作は必要でない。2つの状態線は即座に読まれて再度機能する。特定の想定される適用から除外されないが、本実施態様において、走査型プローブ機器は、デバイスのコンポーネントではなく、単に観察用ツールである。
【0038】
セルあたりの原子数は異なってよい。さらなる変動は、セル内およびセル間の異なる空間を含み、同様に、フェルミ準位の調整を通して、異なる占有レベルは、特性の調律のための非常に多くの手段を可能にする。ここに示されるケースに関して、トンネル率(ペア内の2つのDB間で、ペア間に有意なトンネリングは存在しない)は、およそ10fsであると見積もられている。課せられた分極状態は、線に沿って非常に荒く広がり、同時にそれは、トンネル時間およびセル数の産物であることが見られ得る。この伝搬モードは、通常のRC時定数に代わり、THz時計速度でのデータ伝達速度を容易に可能にする。
【0039】
セルをスイッチするのに必要なエネルギーは、だいたい、単一電子によって占有される2Dbセルに近い入力電荷を置くために必要とされる静電エネルギー;およそ0.3eVである。
【0040】
図9A~9Oは、二値論理的ORゲートを示す。2つの最も上のブランチは静電気入力であり、より下側のブランチは静電気出力である。
図9Cに示される真理値表の全ての状態を
図9A~9Dに示す。出力ブランチの末端は、「バネ」として作用する単一DBである。高度なn型ドープ化シリコンを用いて、負電荷は電流構造内に置かれ得るが、正電荷は置かれない。結果として、デバイスは、制御された電荷上で「引く」ことはできないが、静電気的に「押す」ことができる。DBペアの反対の分極状態を2つのバイナリー状態として確立するために、弱い摂動要因が出力ブランチの末端に置かれる。入力における負電荷の不存在では、線は入力に向けて分極化されて、バイナリー状態「0」とラベルされるものを作る。負の入力が所定の位置にある場合は、2つの状態線は状態「1」にフリップする。ゲートは当然、入力において負電荷反発特性であるので、前のゲートの連結された出力の正しい機能に必要とされるバネ機能が保証される。
【0041】
バイナリーワイヤが静電気入力を必要として静電気出力を提供するのと全く同様に、ゲートは全て、静電気状態を受け取って出力する。様々な実施態様において、バイナリーワイヤは、二値論理ゲートと組み合わせられ得る。バイナリーワイヤは、バイナリー入力をゲートに運び、ゲートからのバイナリー出力を、その後のゲートに、またはそのように計算されたバイナリー情報の他の受容器に運ぶ。ゲートの機能は、組み合わされた量子機械的および静電物理的な相互作用を利用する。
【0042】
本発明の実施態様によれば、0.14nm~数十nmの適切に極めて接近した2以上のASQDは、結合されたASiQDの間を電子がトンネルするのを可能にする量子機械的な関連性に入る。静電気効果は、ASiQDの核における正電荷に由来し、ASiQDに結合またはそれに近い電子に由来する。ゲート構造内の二重または多重井戸ポテンシャルに制限される電子の静電位置は、バイナリー情報を具体化する。静電気の大きさの形態でコードされる情報、および空間的整列は、ゲートに入力を提供する。入力を受け取る際に、ゲート内の静電気相互作用は、特定のゲートに関する真理値表と一致する論理出力を提供する空間的な電荷整列を自然にもたらす。入力シグナルの到達後に出力シグナルが存在するのに必要とされる時間は、ASiQD間の電子の平均トンネル時間の小さな倍数(small multiple)である。
図9に示されるORゲートに関して、その倍数は<10
-13である。代わりに、速度(rate)として表されて、それは10THzであり、10,000GHzである。
【0043】
ここで、単一荷電原子の形成における静的静電入力が、ワイヤおよびゲートの機能を説明するために示される。フェルミ準位について数十ボルトの範囲内の任意の電圧でナノボルトまたはより細かい解像度(resolution)でバイアスされ得る同様のワイヤもまた、ワイヤおよびゲートに対する入力として作用することができる。
【0044】
一方のバイナリー状態から他方に変化するのに必要なエネルギーであるビットエネルギーは、ASiQD間の量子機械的結合の強度によって決定されて、最大限に結合されたASQDに関して0.3電子ボルトと等しい。より広く空間のあいたASiQDを展開して、より小さな結合エネルギーを達成することができる。このビットエネルギーは、ikBoltzmann Tよりも大きく、この材料系内に具現化された情報の完全性が、必要とされる持続時間のあいだ、維持されることを確認する。
【0045】
様々な実施態様によれば、ゲートおよびバイナリーワイヤは時間計測(clocked)され得て、すなわち、論理演算を通した情報通過速度は、時間が変化する制御シグナルによって調節され得る。このAsiQDに基づく電気回路では、クロックシグナルはゲインを提供する。ゲインは、連動運転が行われるときにシグナルが劣化しないことを確実にするために必要とされる。出力は、入力の提示の際に自然に得られる。クロックシグナルと一体となったラッチ回路は、1つのサブ回路素子の出力が、その後の回路段の入力として作用するように維持されるのを可能にする。一部の発明の実施態様では、本発明のドットは、ファンアウトを作るように並べられ得て-すなわち、ファンアウトデバイスに対する1つの入力は、2以上の出力を提供するようにコピーされる。これは、任意のステージにおける出力が、任意の数のその後の回路素子と、sg=haredであるのを可能にさせる。
【0046】
本発明は、非常に低電力消費の電気回路を提供する。この電気回路においてトランジスタは用いられないため、および、ゲートまたは他の素子を帯電するために電流が必要とされないため、さらに、電流が地面に送られないため、この電気回路を作動するのに必要とされる電力は非常に低い。固定数の電子が、それぞれの回路素子内に留まる。情報を示して計算を生じさせるために、電子は単に空間的に再整列される。ラッチ入力は、入力からゲート出力への方向で情報の流れを強める。後に続く出力のラッチは、次の回路段への情報の通路を生じさせる。様々な実施態様によれば、非同時性ならびに同時性および周期的なクロッキングおよびラッチングが用いられ得る。
【0047】
本発明は、ゲートに関する多くの構造上の選択肢を提供する。ASiQD間の空間の大きさおよび角の方向は、結合強度、相互作用のタイプに影響を及ぼす。
【0048】
一部の実施態様によれば、本発明は、我々の全てが負である量子ドットを補う静電バイアスを提供する。全ての点がゼロ電荷または負であるので、電荷は引っ張られないが押され得る。したがって、回路素子の遠い末端に電荷を置くことは、電荷を押すことを可能にするので、バイアスの力の下で自然に平衡に戻る。
【0049】
本発明はまた、情報通路の制御およびシグナル強度またはゲインの維持の両方を含むクロッキングも提供し、局所的なフェルミ準位の調節によって達成される。様々な実施態様において、論理回路ブロックに近い電極は、多数の入力、出力およびゲートからなり、ASiQDの電子占有を変更させるように回路ブロックの近くの電位を増加または低下させる。いずれかの変化は、バイナリーワイヤに沿った、および論理ゲートを通る、情報の通路をブロックする。サブ回路のエッジにおいて所望の入力値を強制することによって、フェルミ準位が調節する電極は所望の論理関数を与える電子占有に対応するその正則値に戻されるが、サブ回路はキンクのない基底状態に到達して、正しい出力値が確立される。出力の設定時間は、10-13秒のオーダーである。
【0050】
また本発明は、正および負電荷に基づく電気回路も提供する。異なるドーピングレベルにおいて、または異なる静電気的に設定されたフェルミ準位において、回路は、負電荷量子ドットよりむしろゼロ電荷から作られる。これは、アナログでもあるがバイナリーの量子電気回路を提供する。ここで他のアンサンブルと一緒に古典的な計算に用いられる素子は、本発明の量子電気回路素子から作られ得る。
【0051】
本発明の実施態様によれば、量子ドットはカプセル化される。すなわち、本発明の量子ドットは、永続的な真空カプセル化である。別のDBに直接隣接しないDBは、N2、O2および多くの炭化水素を含む一般的なガス性分子に向かって一般に非反応性である。
【0052】
本発明の実施態様によれば、多数の垂直なアナログまたはバイナリーワイヤとASiQDを結合したトンネルの線は、シフトレジスターを形成する。レジスターは、任意の長さであってよい。同様に、リングオシレータが提供される。インバータの周期的配列は、リングオシレータを形成する。デジタル変換器およびデジタルからアナログへの変換器と似たフラッシュも作られ得る。外部または局所的に提供される電磁気場と相互作用することが可能な共鳴構造(シグナル入力/出力またはシグナル処理/伝達のため)が、同様に可能である。
【0053】
本発明を用いて、多くの形態のA/Dが作られ得る。特定の興味は、低電力を引くフラッシュA/Dである。本発明はまた、周波数分割器も提供する。すなわち、10THzまでの入力周波数による無線電話フロントエンドのための多段階バイナリー周波数分割器。
【0054】
本発明は、以下の制限されない実験的な実施例に関してさらに詳述される。
【実施例】
【0055】
実験的設定
DBは、走査型プローブ顕微鏡のプローブによって制御可能に作られる。イメージングのために用いられるものよりも大きな電圧およびまたは電流が、除去されるべきH原子に短く適用される。H原子が除去されると電流は上昇する。その変化を確認してH除去を見つけると、特異的な標的化Si-H結合を切断するように適用された電気的調整(electrical conditioned)が中止される。再イメージングは、新たに作られたDBを明らかにする。チップを所望の位置の上に置いて多数のH原子を除去することによってパターンが作られて、それによって多数のDBが作られる。
【0056】
ロックイン増幅器は、それぞれの点においてdI/dVシグナルを集めた。したがって、電圧(通常は-0.4V~-1.8V)の関数としてのDBチェーンの局所状態密度、LDOSがマップアウトされている。線またはマップが完了されるたびにチップ高さがリセットされるので、実験的技術はz-ドリフト(チップサンプル分離)に対して敏感でない。z-ドリフトは、線に沿って動くまたはマップの上をスキャンするためにかかる時間で見積もられて(最大3分)、無視してよい程度に小さい。
【0057】
実験は、超高真空(UHV)下で4.5Kにおいてオミクロン低温STMで行なわれた。ロックイン増幅器を用いて、dI/dVシグナルを測定した(760~820Hzの変調周波数および30mVの振幅)。
【0058】
ヒ素ドープ(0.002~0.003mOhm/cm)Si(100)サンプルを、オキシド脱離のために短い時間、1050Cまで直流加熱して、水素曝露下で約20秒間330Cで水素終端化して、H-Si(100)2×1表面を形成した。1050°Cへのフラッシュは、表面付近のレジーム内でドーパントをあまり除去せず、したがって、均一なドーパント特性が表面に幅広く持続することが知られる。
【0059】
多結晶性の電気化学的にエッチングされたタングステンチップを、クリーニングおよびオキシド脱離のためにUHV条件下で約2分間、約800Cまで加熱した。それらの質を電界イオン顕微鏡(FIM)によって確認して、窒素エッチングして単一原子チップを得た。-2~-3Vの電圧をかけながらベアSiのパッチとチップをわずかに接触させることにより、STM測定中に小さなチップ改変を行なった。
【0060】
原子的に正確なDBパターン化を促進するためのアルゴリズムが開発されている。チップを所望の位置上に置いて、電圧パルスのトレインを加えて水素を脱離した。それぞれのパルスを加える前後の電流設定値を比較することによって成功的な水素脱離を確認した。それぞれのパルスに関する電圧の大きさは、脱離が検出されるまで少ない増加で増大した。このようにして、格子によって許容される最も間隔が密である配列(0.35nm)でのダイマー列の同一側に沿っておよびその上に、2~7個の長いDBチェーンがパターン化された。
【0061】
実施例1
図1は、Si(100)H終端化表面上のダイマー列の片側に沿って形成された線形の3DB MSiAQDの様々な特性化を示す。
【0062】
大きなdI/dV対位置グラフは、局所状態密度のエネルギーおよび空間的分配に関する多くの情報を伝える。換言すれば、それは、どこに電子が局在しているかを示し、プローブされたそれぞれのエネルギーにおいてではない。
【0063】
大部分のエネルギーにおいて、驚くほどに、中央原子の位置に状態密度はほとんど観察されない。単一ASiQDの結果から非常に、そして明確に逸脱している。それは、原子様の軌道の量子の機械的オーバーラップから生じるアンサンブルの出現分子様の分光学を明らかに示す。
【0064】
接近した空間のDBは、実質的な電子共有バンドを形成する。新たに現れる電子構造が、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いたイメージングの多数のモードにおいて観察される。空間的に点特有のdI/dVスペクトルは、新たな電子構造を示唆する顕著な変化を示す。特定のVで撮られたdI/dVの全体的な2D画像は、新たな多シリコン原子量子ドットの領域にわたるそのエネルギーにおける局所状態密度の変動を示す。これは、外部印加(垂直)静電気場(すなわちフェルミレベルの調律が可能である)が横方向2D電荷多重極分配を変えるのを可能にするための、適応された状態密度を有する新規の人工分子である。結果として、本発明の係る人工2D分子は、場変換器と同様に操作して、外部垂直場が(合計電荷および/または電荷の空間的占有を変化させることによって)、表面上の横方向の場の形状/鋭さ(sharpness)/方向の前代未聞のオングストロームスケールの制御を有するのを可能にする。
【0065】
分子の一方の末端から他方への線に沿って得られた様々な電圧にわたるdI/dVスペクトルは、分子の状態密度の全体的なスペクトルマップを明らかにする。
【0066】
LDOSにおける明らかに出現する構造は、DBが互いに近づき合うので注目される(および波動関数オーバーラップ)。これは、DB波動関数の混合および集合的状態の形成または等しく呼ばれる分子状態の証明である。
【0067】
図1における3DBチェーンに付言すると、
図1(a,b)は、それぞれ-1.8Vおよび1.4Vで集められたSTM定電流画像を示す。設定値電流は50pAであった。充満状態において、3DBチェーンは、2つの明るいスポットとして現れる。空状態では、3DBチェーンは、チェーンの長さにわたって広がった1つの明るいスポットとして現れる。
図1(c~e)は、3つの異なるバイアス電圧:-0.9V、-1.05V、および-1.7Vで撮られた3DBチェーンの一定高さdI/dVマップを示す。3つのdI/dVマップに関するカラースケールがそれぞれのマップに関して異なることに注意する。
図1(f)は、(a)において点線で示される3DBチェーンの軸に沿った、10mV分解能による-0.4V~-1.9VのdI/dVラインスキャンのプロットを示す。(c~f)については、チップ高さは、フィードバックループが止められた後に、60pmチップ引込で、チェーン付近のH-Siダイマーの上で、-1.8V 20pAで設定した。我々は、電圧が増大するときに、dI/dVマップおよびラインスキャンにおけるパターンの変化を観察する。我々は、dI/dVパターンがこの3DBチェーンに関して異なる特徴をとる3つの領域を特定する:-0.6V~-1.0Vでは、それらは2つの明るいスポットの外観である。-1.0V~-1.2Vでは、それらは同じ空間的位置において2つの暗いスポットの外観である。我々は、スポットを取り囲む2つの明るいリングによって、スポット内の負性微分抵抗を観察する。最後に、-1.2V~-1.9Vでは、我々は、2つの明るいスポットをもう一度観察する。
【0068】
図2は、様々な他のチェーン長に関する同様の結果を示す。全ての場合において、DB間においてSi-H体は存在しない。むしろ、DBは、シリコン格子が許容する3.84オングストロームと同じくらい互いに接近している。
【0069】
H原子がDB間に介在する場合、以前の公表された1つの例を除いて全ての場合と同様に、原子状態の強力な混合および結合は生じず、ここで説明される質は観察されない。介在するH原子がDB間に存在する場合は、そのような広く空間があけられたアンサンブルの画像は、構成部分の質-ここでは見られない-新たに出現する特性の質(その部分の特性に非線形に関連する)の単純な合計を明らかにするだけである。
【0070】
図2では、様々な電子特性が、構成原子の数の関数、ならびにエネルギーおよび位置の関数として観察されることが分かる。
【0071】
図2における4、5、6、および7の長さのDBチェーンのdI/dVマップにおいて、それぞれのカラムは、1つのDBチェーンの長さに相当する。それぞれのカラムの最初の画像は、50pAの設定値電流で-1.8Vにて撮像された、そのチェーンのSTM定電流画像である。残りの画像は、H-Siダイマー上で60pmのチップ引込で、-1.8V、20pAのチップ高さで撮られたそのチェーンのdI/dVマップである。全てのチェーンは、dI/dVマップ内のパターンが、サンプルバイアスの関数として変化することに注目される。明るいスポットは、しばしばDBの位置に対応しない。したがって、パターンは、チェーンを作り上げるDB間の相互作用から現れるはずである。大部分のSTM画像およびdI/dVマップは、DBチェーンの中心に関して対称である。(b,c)における5および6DBチェーンは、(a)における4DBチェーンを延長することによって作られた。これを知っているので、我々は、同様の特性が、示される4、5、および6DBチェーンに関して同様の電圧で現れることに注目する:-1.7V~-1.75Vのサンプルバイアスでは、dI/dVマップは、チェーン内のDBの数と同じ数の明るいスポットを示す。-1.8Vのサンプルバイアスでの5および6DBチェーンについては、dI/dVマップは、負性微分抵抗でスポットを示すように見える。
【0072】
図3は、7個の原子チェーンであるという点だけでなく、そのチェーンの電子摂動も示されるので、上記の結果とは定性的に異なる。
【0073】
図3は、7DBチェーン上の局在電荷の摂動効果を示す。非摂動チェーンのSTM画像およびdI/dVラインスキャン(
図3(a))は、出現パターン(emergent patterns)を示す。パターンは、DBチェーンの中心に関して対称である。有意なdI/dVシグナルが、約-0.6Vのサンプルバイアスにおいて始まる。
【0074】
図3(b)において、我々は、1つのH-Siダイマーが介在しているダイマー列の同じ側上の単一DBによって摂動される同一の7DBチェーンを見る。STM画像は、DBから最も遠いチェーンの末端上のより高いトポグラフィーおよび全体的なパターンが、非摂動7DBチェーンと比較して変更されることを示す。dI/dVラインスキャンは、単一DBから最も遠いチェーンの末端上のより高い状態密度を示す。それらは、非摂動7DBチェーンのものとは大きく異なるパターンを示す。-0.6V~-0.9VではかすかなdI/dVシグナルが見られるが、非摂動7DBチェーン上で同じ電圧において見られるシグナルの大きさよりも実質的に小さい。
【0075】
これらの観察は、7DBチェーンの隣にDB、または局在電荷を配置することによって、我々は、静電気的にチェーンに影響を与えて、摂動している局在電荷からその電子状態密度をシフトさせることを示す。局在電荷は、チェーン上の全ての電子のエネルギーも増大させて、非摂動7DBチェーンと比べて低電圧(-0.6V~-0.9V)で状態密度を大いに減少させる。
【0076】
単一DBは、本来、ここで用いられるような高くドープされた基材上に負電荷を獲得する。隣接MSiAQDの特性を静電気的に変化させているのは、その局在電荷である。
【0077】
驚くべきことに、第一の摂動DBに直接隣接して、特に、同一の下にあるsiダイマー上に、別のDBを作ることは、付近に局在化した負電荷を減少させる。電荷局在におけるこの減少は、1つのダイマー上の2つのDBの強力に相互作用する特質が、大きなエネルギー分割をもたらすため生じる。非常に大きいので(So much so that)、作られた新規の対称および反対称の状態(しばしばpiおよびpiスター状態と呼ばれる)は、それぞれ、バルクシリコン原子価および伝導ベンドエッジ(conduction bend edges)と共鳴する。結果として、電子は局在しないが、むしろ、これらのバンド内に分配される。
【0078】
ベアSiダイマーの2つのDBと単一の摂動DBを置き換える際に、7DBチェーンのSTM画像およびdI/dVラインスキャンは、非摂動状態に戻っていることが明らかである。
【0079】
MSiAQDに対する電子摂動効果の可逆性を示すのに加えて、この効果は、ASiQDおよびそれらのアンサンブルによって我々が作るもののようなギャップ状態を、バルク状態に接続するための方法としての、クリーンダイマーの有用性を示す。原子スケールの構造を接続および操作(operte)するために必要とされる多数のワイヤのうちの1つのワイヤは、バルクによって提供され得て、それにより、必要とされるワイヤの数を大いに減らし、そして複雑性を減らして、回路密度および単純性を増大させる。
【0080】
ペアのDBの端と端をつないだ整列は、効果的なワイヤを形成することもできる。
図4では、H-Si(100)表面上の1つのSi-Hユニットによって分離された2つのDBを示す。このペアは、電荷キュービットである。図の下側部分は、DBの同じ対が、第三の負に帯電したDBによって摂動されることを示す。ペアの分極が明らかである。これらの電荷センシング原子間力顕微鏡画像における暗い影は負電荷に相当するので、摂動要因に最も近いDBは、相対的により小さく負にされる(rendered relatively less negative)ことが分かる。
【0081】
図5では、
図4の詳細であり、上記に示された効果の極めて重要な詳細が示される。ここで、2つのキュービットが形成される。
図4と同一の摂動が適用された場合-同一の結果が、最も近いキュービットにおいて達成された。注目すべきことに、加えて、摂動要因によって直接バイアスされたキュービットが、次々に第二のキュービットにバイアスされていることに注意する。最も摂動されたDBが依然として存在するが、ここではほとんど見えなくさせられていることに注意する。これらの電子的変化は、完全に可逆的である。
【0082】
これらの結果は、以前には決して示されてなかった、ある程度の単一原子および単一電子の荷電制御を示す。一群の実体(entities)内で制御された相互作用を達成するためにこれを活用(harness)および展開する能力もまた、明確に示される。制御がシリコン上に現れること、および、我々が望む実体を用いることは、様々な有用性である。
【0083】
実施例2
この実験は、本発明のさらなる実施態様に係る多数のASiQDから、より複雑で高度な原子スケールの電子構造を形成する能力を示す。そのような構造は、二値計算または原子二値論理において有用性がある。
【0084】
図6Aは、チップによって誘導される、H-Si(100)表面からの単一水素原子の脱離によって作られたASiQDの定電流STM画像を示す。相対的に高い電圧(例えば-1.7V)において、負に帯電したASiQDは、特徴的な小さくて暗いハローによって囲まれた明るい突出として充満状態画像内に現れる(17)。0Vでの対応する振動数シフトマップにおいて、(
図6D))、シリコン原子の下を飾っている水素原子は、2×1表面再構成で並べられた明るい突出として現れる。ASiQDは、さらにより高いチップ-サンプルの引き付ける相互作用を示唆する暗い外観として現れる(19)。
【0085】
図6Cは、ASiQDおよびH-Si表面上で得られたI(V)分光曲線を示し、表面およびASiQDの両方とも、約-0.8~+0.2V由来のゼロ電流バンドギャップを示す。
図6Dは、材料のバンドギャップ内の範囲である-0.6~0Vのバイアススイープ範囲で、ASiQDの上で測定したΔf(V)スペクトルすなわちKPFM分光法を示し、そこではSTM情報が利用可能でない。興味深いことに、はっきりした段が-250mV付近に見られる。NC-AFM実験における、帯電種(6,21)、分子間の電子伝達(7)、および量子ドットにおける荷電状態の変化(25)を試験する以前の研究は、このタイプの段の特性が、動的な単一電子の荷電状態の変化に対応することを示した。したがって、以前の研究に基づき、
図6Dに見られる段は、-250mVの付近のΔf(V)曲線における段のそれぞれ右および左の、負(二重占有)から中性(一重占有)荷電状態へのASiQDの荷電状態遷移に割り当てられ得る。
【0086】
2つのASiQDの空間が約1nmまたはそれ未満以内に間隔が密である場合、クーロン力の反発がペアの外側の電子のうちの1つに生じて、伝導バンドにおいて非局在化する(14,22)。その電子損失は、ASiQDのペアにおいて非占有状態を作る。そして、原子間の低くて(0.5eV)狭いバリアは、ペアになったASiQD間のトンネリングを可能にさせる。
図7A~7Iは、これらのトンネル結合されたASiQDのペアの1つの分極を調べる。
【0087】
図7Aおよび7Bは、単離されたASiQDのSTM画像および対応する振動数シフトマップを示す。Δf(V)スペクトル(
図7C)は、-0.2Vにおける電荷遷移の段を示すが(さらなるASiQDが加えられる)、ASiQDの付加によってチップ変化がないことを確認することに注意し、AFMおよびKPFMに関して同一のパラメーターを用いる。
図7Dでは、
図7Bからの第一のASiQDにトンネル結合された第二のASiQDが作られる。
図7EにおけるAFM画像は、両方のASiQDの上に観察される同様のコントラストで、ペア間の1つの介在する水素原子を示す。
図7HにおけるKPFM測定はこれを確証し、2つのASiQDの上で得られたほぼ同一のAFM曲線を示し、電荷遷移の段は、より小さな負の値(a less negative value)へシフトされて、今度は-0.25V付近を生じさせる。トンネル結合されたASiQDのペアは、まとめると、-1の電荷を有し、この水平シフトの原因となる。
【0088】
第三のASiQDが
図7Gにおいて加えられて、
図7FにおけるAFM画像は、4つのH原子の分離を示す。この摂動ASiQDは、トンネリング相互作用が指数関数的に落下するのでペアにそれほどトンネル結合されず、その負電荷を失うのに十分なほどにクーロン力的に不安定化もされない。著しい対照がトンネル結合されたペアにおいて見られる。中間ASiQDは、最も遠いASiQDよりも著しく明るい。より深く掘り下げて、
図7Iにおけるこの「2+1」実験に関するKPFM曲線を見ると(色分けされた挿絵が
図7Iの下側左にある)、摂動ASiQD(黒)および最も遠い左のASiQD(青)に関するKPFM遷移エネルギーが、中間ASiQD(赤)よりも著しく負であることが分かる。中間ASiQDに関するKPFMトレースは、+200mVへ明らかにシフトした電荷遷移エネルギーを示す。このシフトは、摂動ASiQDの反発効果に起因する。このASiQDの負から中性の荷電状態遷移を記録するために、プローブとサンプルとの間に、より小さな負の電圧(less negative voltage)がかけられなければならない。他の方法で表現すると、ゼロプローブバイアスにおける中間ASiQDは、負の摂動ASiQDの影響下であるが、既に中性状態であることが見られ得る。トンネル結合されたASiQDは、電気摂動によって分極化され得る二重井戸ポテンシャルを形成することが明らかである。この例では、二重井戸は左に傾けられて、共有電子がそこに局在化する傾向にさせる。
【0089】
したがって、本発明は、2つのトンネル結合されたASiQDで形成された二重井戸ポテンシャルの片側に電荷を局在化することができる、固定電荷、または可変のバイアス電極を示す。これは、情報が空間的電荷分配においてコードされることを可能にして、操作あたり最小限のエネルギー消費で、そして静止した電力消費なく、従来の電流を使用せずに情報が伝達されるのを可能にする。
【0090】
この原理を拡張して、
図8A~8Fおよび9A~9Oは、端と端をつなげて並べられて、原子バイナリーワイヤおよび原子バイナリーゲートを作る、多数のDBペアを示す。これらの図に示されるSTM画像は、原子の位置を明らかにする。一方で、特定の高さレジームでのAFM画像は、構造内の電荷の位置を示し、したがって、原子ワイヤまたはゲートの論理状態を明らかにする。とりわけ、情報の伝達をより容易に可視化するために、静電気力が優勢である場合、AFM画像は、より大きなチップ-サンプル分離で撮られた。したがって、それらは、参考文献(26)および
図6および7に見られるように表面構造を分解しない。
【0091】
図8A~8Fは、組み立てられた17、18および19個のASiQD原子バイナリーワイヤのSTM充満状態画像を示す。それぞれの構造の下の色の付いた円は、負(青)、中性(淡い緑)および摂動要因(赤)ASiQDの位置を示すための明確性のために加えられる。
図8A~8Fは、右端において摂動要因として作用するただ1つの非結合DBおよび8個の結合したペアからなる原子バイナリーワイヤを示す。ペア内のDBは、単一のH原子分離を有し、ペアは互いから4個のH原子である(pairs are 4 H atoms from each other)。
図8AにおけるSTM画像の下は、
図8Bにおける構造の一定高さのAFM画像である。以前のように、右端の単一の摂動電荷は、対称性を壊して、全てのペアが2つの利用可能な分極状態の1つに並ぶのを誘導する(左に傾く)。
図8Cは、ワイヤの再対称化のSTM画像を示し、右端のDBは今度は結合ペアに変えられる。ワイヤは、
図8Dの振動数シフトマップにおいて中間を下へ分割することによって反応して(react)、半分は左に落ちて、半分は右に落ちる。対称な平面がAFM画像において白い破線の垂直線によって記される。最後に、
図8Eおよび8Fでは、ペアの同一線は、反対側から分極されて、19番目のDBが左に付加される。ワイヤは、仮定することによって、他の残っている分極状態に応答して(右に傾く)、
図8Aに示されたものを逆にする。
【0092】
したがって、本発明は、結合されたウェル内の電子を再整列するのと関連するエントロピーエネルギーのみを消費する可逆的な情報伝達を示し、一方で、線のリセットが必要でないことも示す。2つの状態線は、再度機能するために即座に用意される。走査型プローブ機器は、デバイスのコンポーネントではなく、単なるオブザーバーである。
【0093】
図9A~9Oは、本発明に係る二値論理的ORゲートを示す。2つの最も上のブランチは入力であり、より下側のブランチは出力である。
図9Aは、ゲートを備える「中央」構造を示し:3つのトンネル結合されたペアが鋭い角度で整列されて、中央で合う。いかなる静電気の影響からも単離されて、2Dアセンブリはペア間で静電反発作用を受けて、電子は、
図9BのAFM振動数シフトマップにおいてコントラストによって示されるようにブランチの外に局在する。
【0094】
出力ASiQDの逆分極状態を確立するために、適応(adaption)がなされて、
図9Dに示されるように、より低い出力ブランチの末端における弱い摂動要因が用いられる。この摂動要因は「弱いバネ」として作用して、中央構造からの最も下のASiQDが中性であるように分極化して、それは0状態と定義される。これは
図9Eにおいて実験的、および
図9Fにおいてグラフ的に示される。真理値表の最初の列は、1つの0出力を提供する2つの0入力で実証される。
【0095】
上側左(
図9G)、上側右(
図9J)、または両方(
図9M)のいずれかの入力ブランチの所定の位置に負の入力がある場合、弱いバネは、AFMマップ
図9H、
図9K、および
図9Nにそれぞれ見られるように、適宜再整列して出力の0状態を1状態にひっくり返す構造で、電子によって出力において克服される(is overcome at the output with electrons)。これをゲート出力モデル
図9I、9L、および9Oと関連させて、これは残りの真理値表を満たす。真理値表を完成させるために、
図9Jは、機械的不動態化を用いて
図9Gにおける左のASiQD入力を不動態化して、そして右に新たな入力を作ることによって達成される。
【0096】
かけられた電圧の関数としての局所的な力のスペクトルは、単一ダングリングボンドおよびアンサンブルの荷電状態遷移を明らかにする。単一電子によって誘導される、左から右への二重ドット体および二重ドットの長い配列のスイッチングまたはバイナリー0および1状態が示されている。その真理値表の全ての状態を含むバイナリーORゲートが示されている。ゲート出力を十分に超えたシグナルの延長ならびに他のものとの間のNOTおよびAND機能も検討される。
【0097】
ゲートおよびゲート間のバイナリーワイヤは、単一の電子レベルの静電気の作動のみを必要として、従来の電流を必要としないので、電力消費が極めて低い。結合された原子量子ドット間のトンネル速度はフェムト秒の桁なので(qubits 2010のNJP雑誌)、シグナル伝達およびゲート作用は速い。THz動作速度が予測される。ここに説明される手法は、トランジスタを除外しながら超低電力消費によってものすごい速度で行なうので、Moore技術を超える組み合わせを可能にし得る。
【0098】
実験3-ASiQDを作製するプロセス
本発明のASiQDは、本発明のプロセス(AFMセンサーのチップを用いた単一H原子の垂直操作およびナノ電子デバイスに関連するシリコンDBに基づく構造の特性化および設計におけるその適用)を用いて形成される。局在化されたチップによって誘導されるSi-H表面上の励起の後に、単一の水素原子が脱離されて、STMおよびAFMにおける安定したイメージングによって表面上に沈着され得て、またはチップ頂点に移行され得る。単一H原子によって官能化されたチップは、置換曲線に対する振動数シフト(すなわちΔf(z))における独特のシグネチャー、および、充満および空状態でのSTM画像の特徴的な増強を通して特定される。バイアスおよび電流の不存在下でH-官能化チップ頂点をDBに非常に近づけることによって、単一の水素およびシリコン原子の間に共有結合が形成される。Δf(z)曲線およびSTM画像におけるその後の変化は、この機械的に誘導される反応が、チップ頂点からの水素によってDBの不動態化をもたらすことを確認する。
【0099】
CO官能化チップは、金属表面上に吸着された分子の特性化に効果的である(24,28)。本発明のプロセスは、利用しやすくて効果的なH官能化チップを用意および特定するためのプロセスの実施態様を提供し、それは特性化を可能にして、選択的に機械的誘導された水素不動態化または「キャップ化」を通して、H-Si(100)表面上に、DBに基づく構造における変化も誘導する。重水素キャップ化チップは、同様に作られ得る。ASiQDの重水素キャップ化は、そのようなチップによって達成され得る。
【0100】
Si(100)-2×1再構成において、表面におけるシリコン原子は、ダイマーで編成される。モノヒドリド再構成において表面が水素によって不動態化される場合、表面における各シリコン原子は、
図10Aに表されるように単一水素原子と共有結合される。
図10Bは、非官能化チップを用いて得られた典型的な欠陥のない空状態STM画像を示す(インサイチュのチップの用意について詳細は、方法および参考文献(29)を参照)。
【0101】
図10Cは、H-Si(100)表面上のシリコンダングリングボンド(緑で表される)の3Dボール・アンド・スティックモデルを示す。単一DBを作るために、STMチップが水素原子の上部に配置されて(
図10Bの赤いドット)、それからフィードバックループが切られて、約2.3Vの電圧パルスが数ミリ秒間かけられる。
図10Cに示されるように、これはチップ頂点の下の水素原子の選択的脱離をもたらし、それはしばしばチップに移行される。
図10Dは、作られた単一DBの典型的なSTM画像を示す。文献における、より初期の研究と一致して、空状態におけるDBは、特徴的な暗いハローによって囲まれた明るい突出として現れる(11,14)。
【0102】
本発明のプロセスの実施態様によれば、脱離されたH原子は、ほぼ50%の場合では(apex roughly 50% of the times)、チップ頂点に移行されて、すなわちH-官能化チップを形成する。ケースの30%では、脱離されたH原子は、
図11Aに示されるように、ちょうど作られたDBに近いH-Si表面上に見られる。ケースの残りの20%では、チップ頂点は変化せず、水素原子は新たに作られたDBの付近には見られ得ず、頂点原子から離れたチップ上に吸着され、DBからより遠い表面上に沈着され、または真空へ排出されたかも知れないことを示唆する。
【0103】
図11Aは、チップによって誘導されるDBの作製の直後にH-Si表面上に沈着されるのが見られる単一の水素原子の例を示す。そのような物体は、高い正のバイアスによってそれを引っ張って、作られた付近のDBを不動態化することによって、単一水素原子であることが確認される(
図15A~15C)。興味深いことに、水素原子は、
図11Bに示されるように、暗いハローによって囲まれたわずかに明るい突出として空状態STM画像において現れる。これは、単一DBと同様に曲がる局在化されたバンドを誘導する帯電効果を示唆する(14,16)。対応する振動数シフトマップでは(
図11C)、物理吸着された水素原子は、2つの隣接するダイマーペアの格子ひずみを誘導するように見える。相対的に高い正電圧(
図2fの例では+1.6V)で撮像した場合、水素原子は、スキャンを通したSTMコントラストの途中における変化から明らかなように、チップ頂点によって検知される。
【0104】
図10A~Dおよび
図11A~Dの例では、DBを作った後の高いSTMコントラストは、脱離された単一のH原子によるチップ官能化の最初の強い示度である。コントラストは、表面からの水素脱離の前および後に、それぞれ、分解ダイマー(
図10B)から分解単一原子(
図10D)に変化する。これは、電圧パルスの後にチップ頂点によって検知された時点でSTMおよびAFMコントラストを高める、CO分子に関してよく知られるものと似ている(24,30,31)。異なるチップ力学の特定は、力曲線を調べることによって達成される(25,29,32)。単一水素およびシリコン原子の機械的に誘導される共有結合。
図12Aは、本発明のプロセスを用いて作られたシリコンDBによるH-Si表面の充満状態STM画像を示す。空状態の場合と同様に、高いSTMコントラストが目立つ。実際に、H-Si表面の典型的な充満状態STM画像は、通常、ダイマー列のみを示すが(14)、
図12Aでは、ダイマー列のダイマーが明らかに解像される(resolved)。
【0105】
AFMスキャニングモードにおいて
図12Aの単一DBをスキャンして、
図12Bは、表面上の水素原子の上に水素官能化チップを用いて記録された置換曲線に対する振動数シフトを示す。以前に説明された手順に続いて官能化チップが用意された場合、-3Å付近の最小が常に見られる。そのような特性は、チップ頂点における官能化原子の弛緩に帰せられる(7,28,33)。
【0106】
同一の官能化チップを用いてDB上に記録された場合、Δf(z)曲線は、
図12Cおよび12Dに示されるようにチップがDBに非常に近づけられた場合、前方および後方のスイープ間のヒステリシスを示し、AFM接合における変化を示す(10,33,34)。その後のSTM画像を得ると、DBが水素原子によってキャップ化されていることが分かる。黄色の矢印によって示される欠陥は、
図12Eが12Aとまさに同じ領域であることを示すマーカーとして用いられる。加えて、
図12Fに示されるように表面の水素原子の上部に記録されたΔf(z)曲線は、水素官能化チップの最小の特徴をもはや示さない。これは、力曲線において最小を生じるチップは、単一水素原子によって実際に官能化されることを示す。
【0107】
高いSTMを生じるチップもまた、浅い最小の(shallow minima)特徴的な力曲線を体系的に生じる。したがって、
図10D、11A、および12Aに示されるようなSTMコントラストにおける変化は、単一水素原子によるチップ頂点の官能化の成功を示す。H-官能化チップを検出するためのSTMコントラストにおける変化は、時間を消費するΔf(z)曲線の獲得よりもずっと早い指標なので、これは、キャップ化を通してDB改変構造を変更するのに関連した技術適用に重要である。実際に、通常の体系的な、チップを損傷しない、信頼性の高いキャップ化は、指標としてSTMコントラストのみを用いて生産される。
【0108】
全てのΔf(z)曲線は、トンネル電流の完全な不存在下で0Vにおいて記録された。DBの水素キャップ化は、相互作用に十分に近い距離にチップが置かれた場合にのみ生じる。したがって、シリコン-水素の共有結合は、機械的に誘導される。とりわけ、機械的に誘導される脱離もまた観察されるが、穏やかで正確なチップによって誘導される脱離とは異なり、チップ構造の変化または多数の脱離された水素をしばしばもたらす。チップ頂点上に水素原子を受け取る前の最初のチップ頂点構造は、決して正確に同一ではない。したがって、H-チップ結合は、COチップの場合と同様に、全てのH-官能化チップにおいて必ずしも同一ではない。これは、キャップ化を誘導するためのチップ上昇に対して変動をもたらす。センサー発振振幅またはΔf(z)獲得パラメータのような他の因子もまた役割を果たす。
【0109】
高解像度AFMイメージングに加えて、H-官能化チップは、シリコンDBに基づくナノ電子素子を作製および改変するための、原子ごとのリソグラフィにおいて実施され得る。
【0110】
AFMは、DBの化学反応度の特性化を可能にするので、STM研究に対して重要な補完視野を提供する。さらに、STMとは異なり、AFMは、チップからの最小限の摂動、例えば最小限のチップによって誘導されるバンドの曲げおよび電子/ホール注入によって、バンドギャップ内のDB構造およびDBの電子特性をプローブすることを可能にする(14,15)。
【0111】
図13Aは、表面水素原子(青い曲線)および単一シリコンDB(赤い曲線)の上でH-官能化チップを用いて得られた力曲線を示す。これらの力曲線は、その後に、フィードバックループを切る前に、STMイメージングの設定点(30pAおよび+1.3V)によって規定されるチップ位置に対応するZ=0Åによって記録された。それ故に、2つの曲線を重ね合せることは、チップ表面とチップDBとの間の相互作用の力の直接的な比較を可能にする。相対的に大きなチップ-サンプルの距離については、2つの曲線はほぼ同一であることが分かる。小さなチップ上昇(この実施例では-3.5Å付近)のみが見られる違いであり、DBは、チップとの引き付ける相互作用においてさらにより大きな増大を示す。これは、近距離力が、相互作用力に対する主な貢献であることを示す(35)。これはまた、DBは、沈着分子が選択的に吸着することのできる化学的に不活性なH-Si表面上の反応性の化学センサーであることとも一致する(36,37)。Cu(111)上のNaCl上に吸着した金原子の場合に以前に報告されたものと同様に(38,39)、DB上の局在化された負電荷に起因する短距離静電気力(11,13,14)は、DB上の大きなチップ-サンプルの相互作用に対する主な貢献であることが最も考えられる。
【0112】
図13Bおよび13Cは、H-官能化チップを用いて異なるチップ上昇において得られた振動数シフトマップを示す。相対的に大きなチップ-サンプル距離では(
図13B)、シリコン原子を飾っている各水素原子が明らかに現れて2×1再構成のダイマー構造に従う。表面上の脱離された水素原子から生じるDBは、暗い原子サイズの突出として現れて、DB上に局在化されるさらにより高いチップ-サンプル相互作用力を導く。表面に近ければ近いほど(
図16A~16E)、参考文献(29)に詳述されるように原子から結合コントラストへの上昇がH-Si表面上に見られる。
図13Cでは、より大きな引き付ける力の結果として、DBは、拡大された特徴として現れる。内側で見られる摂動は、フィードバックループが一定の発振振幅を維持することが不可能であることに起因して、励起チャネル内のアーチファクトである(
図17A~17C)。
【0113】
高解像度の結合コントラストイメージングは、チップ頂点の水素原子による不動態化のおかげで可能になる(24,29)。後者は引き付けられてシリコンDBと共有結合を形成することができるが、非常に小さなチップ-サンプル上昇においてのみである。これは、H-官能化チップが強固であり、反応性の吸着物または表面欠陥を撮像するために用いられ得ることを示す。
【0114】
STMチップによる原子ごとのリソグラフィを用いて、DB間の結合は、QCA回路、バイナリーワイヤおよび論理ゲートのような機能性のDB構造を作製するために利用され得る(11,12,17)。大きな多くの原子回路に関して、これは脱離の正確な制御を必要として、それは達成が困難であり、数個を超えるDBについてこれまで報告がされていない。それ故に、多DB構造を補正または変更する技術が非常に望ましい。加えて、DBをキャップ化することは、結合されたDBから改変された量子状態を調節することを可能にする(16)。
【0115】
図14Aは、同一ダイマー列に沿った、結合されたDBの2つの別個のペアの充満状態STM画像を示す。とりわけ、H-官能化チップは、高いSTMコントラスト特性を有する。
図14Bでは、右側のDBは、以前のセクションにおいて説明した機械的に誘導されるH-Si共有結合を用いて選択的にキャップ化された。
図14Bは、
図11および12において以前に示したようにSTMコントラストにおける変化を示す。加えて、ここでは画像の右側の単一DBは小さな暗いハローによって囲まれた明るい突出として現れて、一方で、2つの他の結合されたDBの見た目は変化を示さない(11)。
【0116】
同様の実験が
図14Cに示されて、3つのトンネル結合されたDBは、H-官能化チップを用いて撮像される。それから、中央のDBは消されて、別の水素原子を受け取ることによってチップは再官能化されて、残っている2つのDBは
図14Dにおいて再度撮像される。同等の水素チップを前後の画像に用いることは、明るさにおける変化は結合変化の結果であり、終端原子の単なる変化ではないことを強調する。
【0117】
図14Eは、同一ダイマー列に沿った4つのDBの充満状態画像を示し、それぞれのDBは、
図14Fの3Dモデルにおいて説明されるように単一H原子によって分離される。対応する空状態画像(
図14G)では、目に見える末端原子の間の4つのさらなる明るい突出とともに、より複雑な構造が見られる。追加の突出は、多DBシステムの波動関数オーバーラップからの、励起状態の分子軌道として。我々はここで、チップ頂点上の水素原子とSi原子(DB)の制御された機械的共有結合を通したこれらの人工的な分子軌道の能動的改変が、節(node)を消すことを示す。
図14Fおよび14Hは、それぞれ、
図14Eにおける右端のDBを消すことによる、変更された充満および空状態の分子軌道を示す。充満状態画像は、3つのDBに対応する3つの明るい突出として現れ、一方で、空状態画像は、ここでは、以前の4つの代わりに2つの明るい突出のみ有するように変更されている。
図14E~14Hに示されるように、DB構造は、変更の前と後の両方に非官能化チップを用いて撮像される。これは、現れる/消える異なる追加の節から見ることのできるDB間の結合における変化は、チップの変化のせいではなく、むしろ、チップ頂点上の水素によってDBを消した結果であることをさらに強調する。
【0118】
図14A~14Hの例を通して、制御された機械的に誘導されるHおよびSiの共有結合が、DB構造の非破壊的な編集をどのようにして可能にするのか分かる。この技術は、より複雑なDBに基づくパターンおよび素子の作動にも同様にさらに適用され得て、DBの消去はスイッチのタイプとして作用する。
【0119】
実施例4-AFM画像における化学結合コントラストの示度
観察される化学結合コントラストは、通常、分子間結合または分子の分子内構造のいずれかとして解釈される。このコントラストは、小さなチップ-サンプルの距離で優勢になるPauli反発力から生じることが示唆されている(1,18)。あるいは、それは古典的な力場モデルに基づき(9,19)、チップの柔軟性は、AFM画像において化学結合コントラストをもたらす主要な効果であることが主張され得ている。
【0120】
化学結合コントラストは、撮像すると、H終端化Si(100)表面が2×1再構成のシリコン共有結合構造と一致する。この平坦でない表面は、表面にほぼ垂直なH原子と異なる方位で様々なSi-SiおよびSi-H結合を示す。第一に、Si-Siダイマーは表面に平行であり、バンドを撮像するAFMの能力を試験するための第一の非吸着分子対象を提供する。結合は異常に長くもあり、現在までに研究された炭素質種に関する1.5Å未満と比較して約2.4Åであり、共有結合された原子の間の空間に、プローブがより良好にアクセスするのを可能にする。H原子によるダイマーの終端化は、構成シリコン原子がsp3様の性質を保持するのを強制して、それにより、ダイマーが表面の外で実質的に歪む(buckle)のを防止する(24)。AFM研究のための試料としてのダイマーの別の独特な特質は、その純粋なσ結合の性質である。現在までに研究されたπ結合とは異なり、σ結合は、表面に垂直な方向でより鋭く(sharply)崩壊して、したがって、共有結合した原子の間に我々が模式的に描く「スティック結合」をより近く接近させる。最後に、端と端をつなげて並べられた2つのH終端化ダイマー(すなわち隣接ダイマー列における2つのダイマー)上の2つのH原子の、固定されて正確に知られた近接は、H含有分子が近くに並置された場合の、結合の誤示に関する最近の推測を試験する素晴らしい機会を提供する。
【0121】
イービーム(ebeam)および電界イオン顕微鏡(FIM)を用いたエクスサイチュの浄化の後に、タングステンチップを備えるqPlusセンサーを水素終端化シリコン表面とともにインサイチュで用意して、反応性または不動態化チップのいずれかを得ることができ、両方とも、それらが生産する典型的な力曲線から特定される。密度関数の強力な結合(DFTB)に基づく手法の使用は、DFTと同等の精度でAFM画像を効率的にシミュレートする。
【0122】
イービームおよびFIMを用いたエクスサイチュのチップ浄化手順の実施は、その手法の直後に、表面の走査トンネル顕微鏡(STM)原子解像度をもたらす。しかしながら、画像はしばしば、
図18Aに見られる二重/多重のチップのようなアーチファクトを示し、データ解釈を不正確にさせる。したがって、単一原子のチップ頂点を得るためにインサイチュ技術によってチップをさらに処理する必要がある。金属表面を研究する場合、これは通常、大きな電圧パルスおよびチップのざらざらした刻み目を表面へ加えることによってなされて、その後にCO
1のような分子を用いてチップを官能化する。試験される表面領域を破壊させずに安定したチップを与える穏やかな手順が用いられる。
【0123】
その方法は、シリコン表面とチップを制御して接触させることにより開始して、シリコンチップ頂点を生産する(26)。その結果、ベアシリコン領域が、チップによって誘導される水素脱離によってH-Si(100)表面上に作られる(27~29)。
図18Aの例では、(5×5)nm
2の正方形の領域が、4Vおよび150pAで約6分間スキャンすることによって作られて、水素によってシリコンチップ頂点をコーティングする。それから、新たなSTM画像が得られる前にチップがベアシリコン領域に近づけられて、可能性のあるチップ変化を確認する。この手順は、
図18Bに示されるように、表面の、鮮明でアーチファクトのないSTM画像が得られるまで繰り返される。
図18Bにおいて赤い矢印によって示される小さな暗い特徴は、上記のチップ調製およびH終端化処理が完了した後に作られたH終端化シリコンダイマーである。チップを水素フリーのダイマーの上に配置して、それから、表面へ約6Å、より近づけた。再撮像は、新たなH終端化ダイマーを明らかにした。同様に、調製されたH終端化ダイマーが以前に説明されている(30)。シリコンダイマーのH原子によるこのキャップ化がなされて、H脱離の調製プロセスの結果としてチップ上に多数のH原子の存在を示した。
【0124】
チップの不動態化特性は、力分光法を用いてさらに確認される。水素脱離手順の前に得られたH-Si表面の典型的な力曲線は、
図18Cの例のように、非常に反応性の特性を明らかに示す。一方で、その後に得られた力曲線は、
図18Dのように、不動態化特性を示す。これは、反応性の金属チップとCO不動態化チップとの間に観察された違いを連想させる(23,31)。H-不動態化チップを表面に非常に近づけることは、チップを再び反応性に変化させ得る。したがって、反応性および不動態化チップの間を切り替えることが可能である。
【0125】
図19Aは、H-Si(100)-2×1表面構造のボール・アンド・スティックモデルを示し、シリコン原子間の異なるσ結合、特に、表面に平行なダイマー結合およびシリコンのバック結合(back bond)も見られ得る。上述の方法に従って得られる安定した不動態化チップを用いて、
図19Bのように、小さくて欠陥のない領域がSTMにおいて撮像され得る。それから、フィードバックループが切られて、バイアスが0Vに設定されて、スキャナがAFMスキャンモードに切り替えられる。フィードバックループを切る前にSTMイメージング設定点によって規定されるチップ位置は、参照として、すなわち、Z=Åとして得られる。
図2c~hは、異なる上昇での一連のAFM振動数シフトマップを示す。これらの画像は一定の高さモードで撮られるので、より反発するチップ-サンプル相互作用は、より明るく現れる。この実施例では、実質的なコントラストがZ=-3.0Åにおいて見え始めて(
図19C)、ここで我々は、単一原子が明るい突出として現れて明白な2×1再構成で編成されるのを明らかに見る。
図19Cにおいてチップが表面へ0.2Å、より近付けられると、シグナル対ノイズが改善されて、原子コントラストが、よりはっきりする。表面モデルをAFM画像に重ね合せることは、このチップ-サンプル距離では、水素化シリコン原子のみ見ることができることを我々がさらに強調するのを可能にする。
【0126】
しかしながら、チップ-サンプル距離が低減すると、明るくてはっきりした結合様の特性が、Z=-3.4Åで
図19Eにおいて明らかに見られるように、ダイマーの原子間に現れる。これらの特性は、シリコンダイマー結合に起因すると考えられる。加えて、
図19Aにおける表面モデルによれば、ダイマーおよび第二層シリコン原子の間のバック結合と一致する特性に気付く。この表面は、NC-AFMを用いて、実験(32,33)および理論(34,35)の両方で以前に研究されたが、ここに報告されるような公知の結合構造と一致する画像への進化は先例がない。
【0127】
興味深いことに、
図19Fにおいてチップ上昇をZ=-3.6Åに低減した場合、シリコン内のコントラスト増強に加えて、新たなはっきりした特性が、2つの水素原子間のシリコンダイマー列間の領域(inter-silicon dimer row region)に現れることが分かる。これらは、
図19Gおよび19Hにおいてより顕著に現れる。シリコンダイマー結合に対応する結合コントラストであると考えられるものとは異なり、ダイマー間領域における特性は、シリコン表面のボール・アンド・スティックモデルから理解され得るように、現実の化学結合に対応しない(
図19H)。さらに、モデルは、このAFM特性が、第三層シリコン原子の位置にも対応しないことを示す。
【0128】
とりわけ、チップおよび基材の形状は、特に、非常に小さなチップ高さにおいて、撮像中に変更される。非摂動の基材構造を決定するために、候補構造を作製して、それを様々なチップ高さにおけるシミュレーションされた撮像プロセスに供することが必要である。この方法でなされるシミュレーションは、力によって誘導される構造変化をとらえて、それによって、実験と比較され得るモデル化された画像をもたらす。
【0129】
AFM画像をシミュレーションするために、計算を扱いやすく維持しながら、必ず経験する物理学および化学を適切に考慮するために、正しいレベルの理論を選択することが重要である。加えて、チップおよび基材の原子論的定義は、多くの場合において必要条件である。第一原理のフレームワークのうち、DFTは、特に、大きなチップ-サンプルの分離において小さな遠距離力を分散補正が含むと考えられている場合に、最初の選択である。残念なことに、DFTは、多くのシステムに関して、特に、分子だけでなくバルク構造のために撮像がされなければならない場合に関して、計算的に高価である。ここではDFTBが用いられて、それは、シリコンに基づくシステムに関する伝統的な半局所関数を用いて、より低い計算コストで、DFTと同程度の結果を提供することができる(36)。
【0130】
モデル化されたシステムを
図20Aに示す。ピラミッドのような再構成された構造を、頂点が水素原子であるように傾いた不動態化シリコンダイマーを有するチップ末端に関して考慮する。このチップは、この研究において用いられる不動態化AFMチップに対する近似として、水素原子およびシリコンからなる。「ダイマーチップ」と呼ばれる同様のモデルチップが、文献において以前に研究されていて、満足な結果が報告されている(13,37,38)。ここで我々は、チップのベースにさらなるバルク構造を置き、それは、シリコンダングリングボンドの水素不動態化と一緒に、より高い安定性をもたらす。この構造は、ベースの原子を凍らす必要なしに様々な第一原理(ab initio)方法によって幾何学的に最適化され得て、チップ原子上に読まれる力の忠実性を増大させる緩んだ構造をもたらす
【0131】
基材については、列あたり6個のダイマーを有する3つのダイマー列を含むH-Si(100)-2×1シリコンスラブからなるスーパー-セルが用いられる。スラブは、10個のシリコン層からなり、底の1つは水素原子によって終端化される。スラブの最も下の2つのシリコン層およびチップの最も上のシリコン原子は、それらの不動態化水素と一緒に固定されてAFMの一定の高さ基準を可能にする。残りの原子は、0.02eV/Åの力閾値に緩められる。
【0132】
はじめに、チップは、基材に対して異なる上昇で置かれている。高さは、最も上の基材原子と最も下のチップ原子との間の距離として測定される。チップ原子上の力は、緩められた後に読まれて、それからチップは、次の点の計算のためにx-またはy-方向に0.1Åシフトされる。それぞれのチップ上昇におけるスキャンは、1つの水素原子から次の同等の水素原子まで、ダイマー列に沿って横切って行なわれる。それぞれの上昇において、
図20Bに示される結果で、約3,000の形状最適化計算が存在した。
【0133】
実験結果とよく一致して、より高いチップ上昇では、ダイマー原子は、明るい突出として現れることが見られる。チップが表面に近づくにつれて、原子の特徴は薄暗くなり始めて、一方で、シリコンダイマーの結合領域における特徴が現れ始める。最後に、非常に低い上昇では(0.5Å)、明らかなダイマー結合およびその構成原子は識別できない。加えて、実験結果と同様に、より低いチップ上昇画像において、ダイマー内領域における偽の結合特徴が現れることが分かる。
【0134】
次に、この表面の撮像における、および、異なるダイマー列内の隣接するダイマー間に登録されるAFMの地形的特徴の上昇における、チップ柔軟性の効果が議論されて、ここで、水素結合または共有結合は存在しないことが確実に知られている。原子論的なモデル化は、この点について有用な見識を提供することができる。シミュレーションにおいて、チップ柔軟性は重大な役割を果たす。その役割は、一部の構造上の弛緩を制限することによって解明される。シミュレーションのさらなるセットは、基材の表面原子を以前のように緩めさせながら、チップ原子の全てを固定することによって行なわれる。結果は
図20Cに示されて、低いチップ上昇でさえも、明るい原子突出およびダイマー結合領域のより太い特徴が見えて、それは実験とは異なる。これは、剛性のチップに関する動作のより低い自由度のせいであり、より強い力が読まれるのを引き起こす。結果として、結合コントラストは多少低くなる。それにもかかわらず、それは、Si-Si結合があると我々が知っている位置に、結合コントラストであると考えられるものを示す。これは、チップ柔軟性は、ダイマーの上に化学結合様コントラストを観察することは必要ではないが、そのようなコントラストを確実に高めることを示す。加えて、チップ柔軟性は、ダイマー間コントラストをより見やすくさせる。これは、分子内および分子間の結合に起因してCO分子の柔軟性がコントラストを構成する役割に関する文献における議論を連想させる(9,10,16,17,22)。
【0135】
シリコンのダイマー間領域に現れるもの、および、実際の化学結合に対応する特徴の間の高解像度AFM画像における違いを強調するために、さらなる計算結果が、2つの異なるシステムを用いて提供される。計算は、非常に低いチップ上昇で行なわれる。これらの場合、チップは柔軟であるが、基材は凍らされる。第一のシステムでは、基材は、以前と同様であり、原子は緩められた位置で凍らされる。第二のシステムでは、ダイマー水素は、それらの結合の長さを平衡値(すなわち、1.5Å)で維持しながらわずかに曲げられて、したがって、ダイマーおよびダイマー間水素の間の距離は、
図21Aおよび21Bに示されるように、平衡の場合に関して逆転される。これは、AFM化学結合コントラストがSi-Si結合に起因して優勢であるか、または、それはむしろ、間隔が密であるH原子の上をスキャンする柔軟なチップの結果であるかどうか、調べる機会を我々に与える。
【0136】
第一のシステムでは、ダイマー結合であると考えられるものは、以前のように見ることができるが、一部のコントラストは基材の剛性のせいで損なわれる(compromised)。興味深いことに、第二のシステムでは、H-H距離がダイマーの上よりもダイマー間領域において短いにもかかわらず、画像コントラストは、Si-Siダイマー結合よりもさらにいっそう鮮明である。ダイマー結合領域に見られる特徴が、ダイマーに付着したH原子と柔軟なチップの回旋に起因するアーチファクトであったとしても、ダイマー結合様の特徴は、H原子を元通りに分離すると減退することが分かる。さらに、より強い特徴が、ダイマーの上よりも列の間の領域に見られて、それは事実とは明らかに異なる。これは、H-H軌道のオーバーラップは、実験において見られるダイマー内結合の特徴に対する主な貢献でないことを提供し示す。この時点で我々は、現在までに撮像された表面と平行に結合された他の原子とは異なり、σ結合された原子が存在し、π結合された原子は存在しないことに再度気付く。
【0137】
さらに、
図21Bによる結果は、より低い上昇で実験および理論AFM画像に見られるバック結合の特徴の起源を説明するのを助ける。この図に示されるように、ダイマー内の水素間の距離は3.5Åであり、それは、異なるダイマー列上の隣接H原子間の3.9Å未満である。さらに、シリコンのバック結合が予想される場合(
図19A)、さらにより顕著な画像の特徴を見ることが依然として可能である。計算において、シリコン原子および場合によりSi-Siのσ結合は、バック結合に対応する結合特徴コントラストに関する主な貢献であること、および、H-Hオーバーラップがここでは大したことない役割をしていることが分かる。
【0138】
要約すると、本発明は、水素-不動態化チップが信頼度高く調製されて、特定され得ることを確立する。この不動態化チップは、H-Si(100)-2×1表面を撮像するために用いられる。AFMシミュレーションに対してDFTBに基づく手法を用いて、異なるチップ上昇でのAFM画像の進化がうまく再現される。チップ柔軟性は、真の共有結合であると知られるもののAFM画像における見た目を増強して、鮮明にすることが示される。さらに、極めて接近した非結合原子は結合しているように見られ得ること、および、誤った印象がチップ柔軟性によって高められることが示される。
【0139】
本明細書において引用される参考文献は、あたかもそれぞれの参考文献が参照により個々および明確に援用されるのと同程度まで、参照によって援用される。
【0140】
当業者は、以前の詳細な説明および図面および特許請求の範囲から、改変および変更が、以下の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲を逸脱せずに、本発明の好ましい実施態様になされ得ることを認識する。