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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】セラミック材料の溶射
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/04 20060101AFI20220413BHJP
   C23C 18/36 20060101ALI20220413BHJP
   C23C 18/18 20060101ALI20220413BHJP
   C04B 35/628 20060101ALI20220413BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
C23C4/04
C23C18/36
C23C18/18
C04B35/628 420
C04B41/87 K
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2019508869
(86)(22)【出願日】2017-08-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 EP2017070779
(87)【国際公開番号】W WO2018033577
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】1614008.9
(32)【優先日】2016-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515117958
【氏名又は名称】セラム コーティングス エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】エスパラロガス、ヌリア
(72)【発明者】
【氏名】ムバラク、ファハミー
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-141876(JP,A)
【文献】特開2012-193442(JP,A)
【文献】特開2002-097578(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0203255(US,A1)
【文献】特開平05-320923(JP,A)
【文献】国際公開第2014/068082(WO,A2)
【文献】S. DALLAIRE et al.,TECHNICAL NOTE: AGGLUTINATION PROCESS FOR COATING CERAMIC PARTICLES,Surface and Coating Technology,ELSEVIER,1989年12月,vol.39-40,p.539-548,DOI:10.1016/S0257-8972(89)80015-5
【文献】JINHUI DAI et al.,Preparation of Ni-coated Si3N4 powders via electroless plating method,CERAMICS INTERNATIONAL,ELSEVIER,2009年12月,vol.35,No.8,p.3407-3410,DOI:10.1016/J.CERAMINT.2009.06.007
【文献】PENG HE et al.,Electoless nickel-phosphorus plating on silicone carbide particles for metal matrix composit,CERAMICS INTERNATIONAL,ELSWVIER,2014年12月,vol.40,No.10,p.16653-16664,DOI:10.1016/j.ceramint.2014.08.027
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00-4/18
C23C 18/00-18/54
C04B 35/628
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属被覆粒子または金属合金被覆粒子の凝集物を含む溶射用供給材料であって、
前記粒子は、
(i)50~95重量%の炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の内側コアと、
(ii)5~50重量%の金属または金属合金の外層と
含み、
前記粒子の各内側コアは、平均直径が50~5000nmである
を含む溶射用供給材料
【請求項2】
前記金属または金属合金は、第一列遷移金属、またはBもしくはSiを必要に応じて含む第一列遷移金属合金である、請求項1に記載の溶射用供給材料
【請求項3】
前記粒子の前記外側(ii)は、Ni、NiCo、NiCr、NiSi、FeSi、CoSi、NiTiCr、NiTiCrBSi、NiB、Co、CoCr、FeおよびFeCrからなる群から選択される、請求項1または2に記載の溶射用供給材料
【請求項4】
前記金属被覆粒子または金属合金被覆粒子の凝集物は10~100μmの範囲の平均粒径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶射用供給材料
【請求項5】
前記粒子上の前記金属層の平均厚さは、50~300nmの範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶射用供給材料
【請求項6】
前記内側コアは炭化ケイ素、窒化ケイ素または炭化ホウ素である、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶射用供給材料
【請求項7】
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の粒子を金属合金層または金属層で被覆する工程、
(ii)工程(i)の粒子を凝集させて、請求項1~6のいずれか一項に記載の粒子を得る工程、
(iii)前記凝集金属被覆粒子または凝集金属合金被覆粒子を基板上に溶射して、前記基板上に皮膜を付与する工程
を含むプロセス。
【請求項8】
前記凝集は噴霧乾燥によって行われる、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載される金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を製造するためのプロセスであって、
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の粒子を処理して、前記粒子の表面に核生成サイトを付与する工程、
(ii)無電解めっきにより工程(i)の粒子上に金属または金属合金の層を付与して、金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を形成する工程、
(iii)前記金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を含む凝集粒子状物を生成する工程、および、必要に応じて
(iv)前記凝集粒子状物を熱処理する工程
を含むプロセス。
【請求項10】
工程(i)は、前記セラミック粒子を強酸を用いて処理することにより、前記セラミック粒子から酸化物層を除去する段階を含み、
前記強酸は、HF、またはベンゾトリアゾールとHFと硝酸との混合物である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
工程(i)は、前記セラミック粒子を、Sn(II)溶液およびPd(II)溶液で順次処理する段階を含む、請求項9に記載のプロセス。
【請求項12】
工程(i)は、
前記セラミック粒子を水に分散させ、帯電高分子電解質の存在下で音波処理する第1の段階(i)(a)、および
工程(i)(a)から得られる粒子をPd(II)源を用いて処理する第2の段階(i)(b)
を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記セラミック上に形成される前記金属または金属合金の層は、NiまたはNi合金である、請求項7~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
工程(iii)の後に形成される凝集粒子状物は、10~200μmの平均凝集粒径を有する、請求項7~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか一項に記載される金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を製造するためのプロセスであって、
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素のセラミック粒子を、水溶性の有機アミン、有機酸およびアミノ酸からなる群から選択される燃料と、酸化対イオンを有する少なくとも1つの金属塩との水溶液中に懸濁させて、混合物を形成する工程、
(ii)前記混合物をその点火温度未満の温度に加熱して、前記水の少なくとも一部を除去する工程、
(iii)前記混合物の少なくとも一部をその点火温度に加熱して、金属被覆セラミック粒子または金属合金被覆セラミック粒子を形成する工程、
(iv)前記金属被覆セラミック粒子または金属合金被覆セラミック粒子の凝集粒子状物を生成する工程、および
(v)前記凝集粒子状物を熱処理する工程
を含むプロセス。
【請求項16】
工程(i)の塩は硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩または酢酸塩である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
工程(i)の金属はNiである、請求項15または16に記載のプロセス。
【請求項18】
工程(i)で作成される懸濁液中に硝酸アンモニウムが存在する、請求項15~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
工程(iii)は、前記混合物の少なくとも一部を1000~2000℃の範囲の温度に加熱することを含む、請求項15~18のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項20】
請求項1~6のいずれか一項に記載の金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を製造するためのプロセスであって、
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素のセラミック粒子の表面に1つまたは複数の金属塩を沈殿させ、続いて、前記沈殿した塩を酸化させて、前記セラミック粒子上に金属酸化物皮膜を形成する工程、
(ii)前記金属酸化物被覆セラミック粒子の凝集粒子状物を生成する工程、および
(iii)前記金属酸化物皮膜を金属皮膜または金属合金皮膜に還元する工程
を含むプロセス。
【請求項21】
工程(i)は、前記セラミック粒子上に、ニッケル(II)塩を沈殿させることにより、Ni合金の場合には、ニッケル(II)塩と他の合金化元素の塩とを共沈させることにより行われる、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記粒子はSiCを含む、請求項7~21のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項23】
前記基板は金属、セラミックマトリックス複合物(CMC)または炭素マトリックスである、請求項7に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属もしくは金属合金に被覆された炭化ケイ素または金属もしくは金属合金に被覆された炭化ホウ素の粒子、あるいは金属もしくは金属合金に被覆された窒化ケイ素または金属もしくは金属合金に被覆された窒化ホウ素の粒子を基板上に溶射して、これらのセラミックスで被覆された有用な基板を提供するためのプロセスに関する。本発明は、また、溶射作業中にセラミック粒子コアを保護することができるように十分な厚さの金属層を有する、これらの金属被覆セラミックスまたは金属合金被覆セラミックスを作製するためのプロセスにも関する。上記被覆粒子それ自体が、本発明のプロセスを用いて被覆された物品と共に、本発明のさらなる側面を構成するものである。
【背景技術】
【0002】
背景
ケイ素およびホウ素の炭化物系材料および窒化物系材料は、優れた機械的、熱的および化学的性質を併せ持つため、多くの産業において幅広く用いられてきた。これらの炭化物および窒化物は、非常に良好な摩擦学的性質および耐食性を示すため、耐摩耗・耐研磨性が要求される塗装用途、例えば、腐食性環境において一般に使用される。これらは、ダイヤモンドなどの高価な材料と比べても、このような特性において遜色がない。
【0003】
例えば、炭化ケイ素は、航空宇宙用の可動部品、金属加工工具および石油化学システムなどの工業用途において防護皮膜として広く用いられている。これにより、これらのセラミックスは、科学者にとって魅力的な合成対象となっている。
【0004】
ケイ素およびホウ素の炭化物および窒化物の皮膜のほとんどは、一般に、物理蒸着法(PVD)や化学蒸着法(CVD)などの真空堆積技術によって基板上に堆積される。これらの方法は、高価で、時間がかかり、また、蒸着室に収まる小型の物品に限られている。同方法では、多くの場合、複雑な加工条件が必要であり、非常に限られた厚さ(すなわち、ナノメートルから100マイクロメートル未満の範囲)を有する皮膜となる。
【0005】
溶射プロセスおよび動的噴霧プロセスは、一般に、小型から大型にわたる部品の金属皮膜およびセラミック皮膜を製造するための最も効果的かつ経済的方法の一つとして認められてきた。加えて、溶射プロセスでは、真空室を使用する必要がなく、厚さがたった数十マイクロメートルから数ミリメートルの範囲である皮膜を生成することができる。しかし、これらの方法は、セラミックの炭化物または窒化物を堆積させるのに必ずしも適していない。なぜなら、金属種および炭化物種がこれらの溶射に必要な温度および雰囲気で分解または昇華するためである(酸素の存在下において、およそ2500℃で昇華し、およそ2500℃で分解する)。このことは、ケイ素およびホウ素の炭化物およびこれらの窒化物の場合に、特に当てはまる。
【0006】
したがって、炭化ケイ素および炭化ホウ素などの共有結合炭化物化合物は、大気圧溶射プロセス中に高温で分解する傾向があるために、一般には溶射に利用できない。窒化ケイ素、窒化ホウ素および窒化チタンなどの化学結合した窒化物ベースの皮膜もまた、炭化物と同じ理由で溶射に使用するのは困難であると考えられている。
【0007】
したがって、これらの重要な共有結合セラミック材料を溶射する方法を考案することは有益であろう。
【0008】
SiCは金属酸化物の粒子と組み合わせた場合に溶射が可能であることが知られている。1つの方法は、国際公開第2003/004718号に記載されるように、炭化ケイ素を酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムの粉末と機械的に混合することを含む。他の方法は、粒子上に金属酸化物層を有するSiC粒子を付与する。これは、例えば、国際公開第2014/068082号に記載されるように、炭化ケイ素粒子上にイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)を化学的に沈殿させ、その後、噴霧乾燥を行い、YAG層を有するSiC粒子を形成することによって行われる。
【0009】
しかし、SiCの酸化物被覆粒子は、そのセラミックの性質が脆いために限定されたものとなる。これらの皮膜は、特に高温での加圧、摺動および転動に伴う摩耗を防ぐ用途に良く適している。しかし、金属酸化物被覆SiC粒子は、基板の屈曲または塑性変形が存在する場合といった、ある特定の用途には適さない。したがって、SiC粒子に金属マトリックスを付与して、金属酸化物被覆SiC粒子が適さない用途向けの溶射皮膜を製造することは有利であろう。
【0010】
金属層を有する好適なSiC粒子および他の共有結合セラミック材料を調製するためには、これらを焼結することも必要である。金属層を確実に均質に分布させることは、さらなる溶射のための良好な粒子状物品を確実に製造するための鍵となる。
【0011】
溶射プロセス中にセラミック粒子を保全するために、本発明者らは、個々の粒子を被覆する金属膜または金属合金膜を提案し、これにより、溶射プロセス中に粒子が分解および蒸発することが回避される。これらの共有結合セラミック材料の溶射を可能とする目的での金属のこれまでの使用には、個々のSiC粒子上の皮膜として機能する層が含まれていなかった。
【0012】
炭化タングステン(WC)および炭化クロム(Cr32)などのイオン結合炭化物の溶射は、摩耗および腐食を防止するために産業において適用されてきた(M.W. Richert,The Wear resistance of thermal spray the tungsten and chromium carbides coatings,J. of Achievements in Materials and Manufacturing Engineering,Vol27(2)2011 p.177~184)および(P.Vuoristo,J.Laurila,T.Mantyla,Surface changes in thermally sprayed hard coatings by wear of different abrasive,Thermal Spray 2004:Advances in Technology and Applications,ASM International,p.1046-1051)。これらの炭化物は、通常、溶射プロセスを可能とするために金属マトリックスと混合される。
【0013】
金属マトリックスベースの炭化ケイ素を製造するために、いくつかの試みがなされてきた。最も一般的な方法は、Wielage、J.ら、International Thermal Spray Conference 2002、E.Lugscheider、eds.、デュッセルドルフ、ドイツ DVS~ASM International、(2002)、pp.1047~1051に記載されるような、金属粉末を炭化ケイ素粉末と機械的に混合することによる方法である。このプロセスの金属成分およびセラミック成分は、金属層を有するSiCの粒子ではなく、混合物内の別々の相として生成される(すなわち、金属マトリックス中のSiC粒子の分散液)ので、セラミック相を分解することなく粒子を溶射することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第2003/004718号パンフレット
【文献】国際公開第2014/068082号パンフレット
【非特許文献】
【0015】
【文献】M.W. Richert, The Wear resistance of thermal spray the tungsten and chromium carbides coatings, J. of Achievements in Materials and Manufacturing Engineering, Vol27(2)2011 p.177~184
【文献】P.Vuoristo,J.Laurila,T.Mantyla, Surface changes in thermally sprayed hard coatings by wear of different abrasive, Thermal Spray 2004: Advances in Technology and Applications,ASM International,p.1046-1051
【文献】Wielage、J.ら、International Thermal Spray Conference 2002、E.Lugscheider、eds.、デュッセルドルフ、ドイツ DVS~ASM International、(2002)、pp.1047~1051
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
粒子上での層形成に関する1つの問題は、セラミックと金属層との接着性である。なぜなら、両者は異なる組成を有しているからである。本発明は、この問題に対する解決法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、セラミック材料の分解および昇華の問題を、金属相または金属合金相にセラミックを封入することによって回避しようとするものである。本発明者らは、金属被覆セラミック粒子を形成するためのプロセスを考案するとともに、コアセラミック粒子の分解も昇華も起こすことなくこれらを溶射することが可能であることを示した。したがって、本発明のプロセスにより、多種多様な基板上にSiC型皮膜を形成することが可能となる。
【0018】
本発明のさらなる目的は、溶射装置を用いて基板上にケイ素およびホウ素の炭化物皮膜または窒化物皮膜を形成するための方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、前処理を行うことなく無電解ニッケルめっきを行ったSiC粒子(平均サイズ0.8μm)について観察されたXRDピークを示す。
図2図2は、80℃で30分間、20重量%のKOHを用いて前処理工程を行った後に無電解ニッケルめっきを行ったSiC粒子(平均サイズ0.8μm)について観察されたXRDピークを示す。
図3図3は、前処理を行うことなく燃焼プロセスを行ったSiC粒子(平均サイズ0.8)について観察されたXRDピークを示す。
図4図4は、図3のXRD結果で示されるNiで被覆されたSiCで構成される凝集粉末粒子を示す。
図5図5は、図4に示す粉末を大気圧プラズマ噴霧塗工することによって得られた生成物である。
図6図6は、図5において調製された皮膜の詳細を示す。この詳細において、Niマトリックス(白色コントラスト)に埋め込まれたSiC粒子(黒色コントラスト)が視認される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の要旨
一態様によれば、本発明は、
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の粒子を金属合金層または金属層で被覆する工程、
(ii)工程(i)の粒子を凝集させる工程、および
(iii)凝集金属被覆粒子または凝集金属合金被覆粒子を基板上に溶射して、基板上に皮膜を付与する工程を
含むプロセスを提供する。
【0021】
別の態様によれば、本発明は、
(i)50~95重量%の炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の内側コアと、
(ii)5~50重量%の金属または金属合金の外層と
を含む複数の金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を提供する。
【0022】
別の態様によれば、本発明は、上記において定義した複数の金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を含む溶射用供給原料を提供する。
【0023】
別の態様によれば、本発明は、金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を製造するためのプロセスであって、
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の粒子を処理して、上記粒子の表面に核生成サイトを付与する工程、
(ii)工程(i)の粒子上に金属または金属合金の層を付与して、金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を形成する工程、
(iii)金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を噴霧乾燥して、金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を含む凝集粒子状物を生成する工程、および、必要に応じて
(iv)凝集粒子状物を熱処理する工程
を含むプロセスを提供する。
【0024】
別の態様によれば、本発明は、金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を製造するためのプロセスであって、
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の粒子を処理して、上記粒子の表面に核生成サイトを付与する工程、
(ii)電気めっき、例えば、無電解めっきにより、工程(i)の粒子上に金属または金属合金の層を付与して、金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を形成する工程、
(iii)金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を噴霧乾燥して、金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を含む凝集粒子状物を生成する工程、および、必要に応じて、
(iv)凝集粒子状物を熱処理する工程
を含むプロセスを提供する。
【0025】
さらなる実施形態において、本発明のプロセスは、基板上に、本発明の金属被覆粒子または金属合金被覆粒子、あるいは本発明のプロセスによって形成された金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を溶射する工程を含む。このような溶射プロセスは、上記において定義した工程(iii)または工程(iv)の後に行ってもよい。
【0026】
別の態様によれば、本発明は、金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を製造するためのプロセスであって、
(i)少なくとも1つの金属酸化物層で被覆された炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の粒子を得る工程、
(ii)金属酸化物被覆粒子を還元して、金属層または金属合金層で被覆された炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の粒子を形成する工程
を含むプロセスを提供する。
【0027】
別の態様によれば、本発明は、金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を製造するためのプロセスであって、
(i)少なくとも1つの金属酸化物層で被覆された炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の粒子を得る工程、
(ii)上記粒子を加熱によって凝集させる工程、および
(iii)凝集金属酸化物被覆粒子を還元して、金属層または金属合金層で被覆された炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の粒子を形成する工程
を含むプロセスを提供する。
【0028】
別の態様によれば、本発明は、金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を製造するためのプロセスであって、
(i)セラミック粒子を、燃料と、酸化対イオンを有する少なくとも1つの金属塩との水溶液中に懸濁させて、混合物を形成する工程、
(ii)混合物をその点火温度未満の温度に加熱して、水の少なくとも一部を除去する工程、および
(iii)混合物の少なくとも一部をその点火温度に加熱して、金属被覆セラミック粒子または金属合金被覆セラミック粒子を形成する工程、
(iv)金属被覆セラミック粒子を噴霧乾燥して、セラミック粒子の凝集粒子状物を生成する工程、および
(v)凝集粒子状物を熱処理する工程
を含むプロセスを提供する。
【0029】
別の態様によれば、本発明は、金属被覆粒子を製造するためのプロセスであって、
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の粒子の表面上に1つまたは複数の金属塩を沈殿させ、続いて、沈殿した塩を酸化して、セラミック粒子上に金属酸化物層を形成する工程、
(ii)金属酸化物被覆セラミック粒子を噴霧乾燥して、セラミック粒子の凝集粒子状物を生成する工程、および
(iii)金属酸化物層を金属層または金属合金層に還元する工程
を含むプロセスを提供する。
【0030】
別の態様によれば、本発明は、基板に炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素または窒化ホウ素の皮膜を付与するプロセスであって、基板上に本発明の金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を溶射する工程を含むプロセスを提供する。
【0031】
別の態様によれば、本発明は、本発明に係る溶射プロセスによって塗工されたセラミック・金属皮膜をその上に有する物品を提供する。
【0032】
別の態様によれば、本発明は、基板上に溶射するための、本明細書において定義した金属被覆セラミック粒子または金属合金被覆セラミック粒子の使用に関する。
【0033】
<定義>
本明細書において、「溶射」という用語は、燃焼溶射プロセス(例えば、高速酸素燃料)、デトネーション溶射プロセス(例えば、高周波数パルスデトネーション)または電気/プラズマ溶射プロセス(例えば、大気圧プラズマ噴霧)のいずれかを用いた噴霧を包含するものとして使用される。これらの技術は、新規ではなく、当該分野の技術者に良く知られている。
【0034】
本明細書において、「セラミック」という用語は、文脈上別の解釈が許されない限り、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素または窒化ホウ素を包含するものとして使用される。
【0035】
金属皮膜の文脈における「金属」という用語は、本質的に純粋な単独の金属を指す。合金は、本明細書で定義される2つまたはそれ以上の異なる金属の組み合わせから形成される。
【0036】
本明細書において、「マトリックス」という用語は、本発明の被覆セラミック粒子が分散された固体材料を指すものとして使用される。皮膜それ自体が、溶射された皮膜においてマトリックスを形成する。
【0037】
「粉末原料」という用語は、溶射に適した本発明のセラミック粒子を含む組成物を包含するものとして使用される。
【0038】
パーセントはすべて、別段の指定がない限り重量パーセントである。
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、コアであるセラミックが昇華または分解することなく溶射によって基板上に塗工が可能となるよう金属層または金属合金層で被覆された炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B4C)、窒化ケイ素(Si34)および窒化ホウ素(BN)のセラミック粒子に関する。本明細書において、本発明について、セラミック粒子という用語を用いて一般的に説明するが、これは炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素または炭化ホウ素、好ましくは、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B4C)または窒化ケイ素(Si34)のセラミック粒子を意味するものであると解釈される。セラミックにおけるSiの使用、とりわけSiCの使用が最も好ましい選択である。セラミックコアは、好ましくは、当該材料で構成される。
【0040】
本発明において個々のセラミック粒子上に塗工される金属層または金属合金層は、コアを保護することにより粒子の溶射を可能にする程度の厚さを有するが、もちろん、この層はまた、溶射プロセス中に溶融して全てのセラミック粒子を互いに保持し、機械的に一定な溶射皮膜を形成する湿潤剤としても機能する。金属層または金属合金層により、溶射前の粒子間に高い粘着力がもたらされる。また、金属層または金属合金層は、溶射後にセラミック粒子を互いに基板上で結合させるマトリックス相を提供する。従来、別個の金属粒子をセラミック相と機械的に混合することにより添加し、セラミック粒子が保持された金属マトリックスを形成することが可能である。本発明において、個々の粒子上の皮膜は、金属マトリックスとして機能する。セラミック・金属皮膜は、溶射において「サーメット」と呼ばれる。金属マトリックスに埋め込まれたセラミック粒子は皮膜となる。典型的には、金属マトリックスは、皮膜の10~25重量%である。
【0041】
<粒子>
一態様において、本発明は、金属または金属合金の層を含むセラミックコアをそれぞれが有する金属被覆セラミック粒子または金属合金被覆セラミック粒子を提供する。セラミックコアは、好ましくは上記粒子の50~95重量%、好ましくは粒子の60~95重量%、例えば粒子の65~90重量%または70~85重量%を形成する。金属皮膜または金属合金皮膜は、粒子の5~50重量%、好ましくは、粒子の5~40重量%、例えば、粒子の10~35重量%または15~30重量%を形成する。
【0042】
各粒子のセラミックコアは、50~5000nm、例えば、200~5000nm、特には、400~3500nmの平均直径を有する。皮膜が塗工される前のセラミックコアの平均直径は、当該技術で公知の従来の方法、例えば、コールターカウンターによって測定することが可能であり、被覆粒子のセラミックコアの平均粒径は、塗工前のセラミックコアの平均粒径に等しいものであると仮定する。金属層または金属合金層は、コア粒子の直径を200~300nm増加させ得る。
【0043】
後のセクションで説明するように、本発明の方法は、金属層または金属合金層がセラミックに直接結合した粒子の製造を可能とする。したがって、金属層または金属合金層とセラミックとの間にさらなる層が存在しないことが好ましい。しかし、出発セラミック粒子が部分的に酸化され、したがって、自然酸化プロセスによる酸化物被膜を含んでいる可能性がある。このような酸化物は除去することが好ましいが、残存していてもよい。
【0044】
金属層または金属合金層は最外層である、すなわち、上記粒子は、本質的に、セラミックの内側コアおよび金属または金属合金の外層のみで構成されることが好ましい。
【0045】
金属皮膜は、1つの金属を含む。すべての遷移金属、例えば、クロム、チタン、コバルト、鉄、銅、バナジウム、タングステン、モリブデン、ニオブ、銀およびタンタル、とりわけ第一列遷移金属が特に好適である。ニッケルもまた対象となる。他の対象金属としては、元素周期表の第XIII族から第XV族の金属、例えば、アルミニウムおよびスズが挙げられる。
【0046】
金属合金皮膜は、2つ以上の金属を含む。適した金属としては、すべての遷移金属、例えば、クロム、チタン、コバルト、鉄、銅、バナジウム、タングステン、モリブデン、ニオブ、銀およびタンタルが挙げられる。ニッケルもまた対象となる。他の対象金属としては、元素周期表の第XIII族から第XV族の金属、例えば、アルミニウムおよびスズが挙げられる。
【0047】
金属合金において、これらの金属のうち1つを、前述の一覧からの1つ以上の他の金属と合金化するか、あるいは、合金化元素であるホウ素、ケイ素、炭素およびリンのうち1つ以上と合金化してもよい。
【0048】
好ましい金属合金および合金は、NiCo、NiCr、NiSi、NiWP、FeSi、CoSi、NiTiCr、NiTiCrBSi、NiB、Co、CoCr、FeおよびFeCrである。金属皮膜がNiであるか、あるいは、金属合金がNiを含むことが特に好ましい。
【0049】
特に好ましい金属層は、Ni、Co、Cr、FeおよびAl、例えば、Ni、Co、FeおよびAlベースの金属層である。好ましい合金は、Ni、Co、Cr、FeおよびAlのうち1つ以上、例えば、Ni、Co、Cr、FeおよびAlのうち1つ以上を含む。
【0050】
理論上、皮膜は、2つ以上の別個の金属層を含み得る。あるいは、2つ以上の合金層、または1つ以上の合金層と1つ以上の金属層が存在し得る。単一の金属層または金属合金層を使用することが好ましい。
【0051】
金属皮膜または金属合金皮膜は、50~300nm、例えば、75~150nmの平均厚さを有する。この層の厚さは、例えば、被覆粒子を破砕し、顕微鏡を用いた方法で皮膜の厚さを測定することによって測定可能である。
【0052】
<プロセス>
本発明は、本発明のセラミック粒子を調製するためのいくつかのプロセスであって、金属または金属合金の層をセラミック粒子上に付与することを含む方法を提供する。
【0053】
本発明のプロセスは、セラミックの粒子から開始される。粒径は、典型的には、約50nm~5000nm、例えば、200nm~5000nm、好ましくは400~3500nmである。粒子は、この段階では凝集していないことが好ましい。粒子は、好ましくは、易流動性であり、したがって、粉末状であるか、あるいは安定した懸濁液(例えば、水溶液)の形態である。これらの粒子は周知であり、公開された化学品市場で購入することができる。しかし、これらの粒子は、直接的に溶射することはできない。なぜなら、当該粒子が噴霧工程中に晒されるであろう温度で分解するかあるいは昇華するからである。焼結されたSiCであっても、たいていの場合、溶射することはできない。一般に、これらの粒子に皮膜を接着させることは困難であると考えられている。
【0054】
本発明者らは、溶射の際に被覆セラミック粒子の分解および昇華を防止することができる十分な厚さの金属層または金属合金層をセラミック粒子上に付与する。この皮膜は、焼結助剤としても機能する。
【0055】
一旦被覆されると、粒子は、凝集し、熱処理され、溶射が可能な凝集および熱処理済みの粒子となる。
【0056】
<方法-無電解めっき>
第1の実施形態において、金属皮膜または金属合金皮膜が無電解めっきによってセラミック粒子上に付与される。このプロセスは直接行うことができるが、金属皮膜または金属合金皮膜を粒子に確実に接着させるために、セラミック粒子を事前に調整することが好ましい。なお、以下に説明する工程(ii)~(iv)は、前調整工程(i)が行われることを前提に番号付けされていることが理解されるであろう。この工程を省略する場合、以下に(ii)~(iv)として説明する手順は、プロセスの工程(i)~(iii)となる。
【0057】
第1の方法において、本発明の粒子は、
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素から選択されるセラミック材料の粒子を処理して、セラミック材料の表面に核生成サイトを付与する工程、
(ii)セラミック材料上に金属または金属合金の層を付与して、金属被覆セラミック粒子または金属合金被覆セラミック粒子を形成する工程、
(iii)金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を噴霧乾燥して、金属被覆粒子または金属合金被覆粒子を含む凝集粒子状物を生成する工程、および、必要に応じて、
(iv)凝集粒子状物を熱処理する工程
を含む方法によって調製することができる。
【0058】
熱処理工程により、理想的には、金属皮膜または金属合金皮膜が緻密化される。
【0059】
<工程(i)-核生成サイトを付与するための前処理>
市販のセラミック粒子は、典型的には、酸化物の薄層をその表面に含む。セラミックの表面に酸化物層が存在する場合、金属層または金属合金層をセラミック粒子に適切に接着させることは困難である。本発明者らは、セラミックの表面に、任意には酸化物のエッチングの後に、核生成サイトを付与することにより、金属皮膜または金属合金皮膜を粒子に適切に接着させることが可能であることを確認した。
【0060】
典型的には、第1の工程(i)(a)において、セラミック粒子を前処理して、表面の酸化物層を除去し、第2の工程(i)(b)において、セラミック材料の表面に核生成サイトを付与する。
【0061】
工程(i)(a)は、HFなどの強酸の水溶液中に粒子を懸濁させることによって行うことができる。その条件は、酸化物層がエッチングによって除去されるような条件である。したがって、第1の工程として、セラミック粒子上に存在する酸化物層が任意の手段によって除去されることが好ましい。酸化物層は、強酸を用いたエッチングによって除去されることが好ましい。
【0062】
粒子懸濁液は、プロセスの継続時間の少なくとも一部の間、音波処理、好ましくは、超音波処理されることが好ましい。
【0063】
このステップのためにHFを使用することが好ましい。粒子は、5~60分、好ましくは、10~30分、酸と接触させてもよい。反応は雰囲気温度で起こり得るが、室温付近の若干の変動(例えば、約10~40℃)は許容される。次いで、粒子は濾過してもよい。
【0064】
一実施形態において、HFは、硝酸などの他の強酸と組み合わせてもよい。別の実施形態において、HFは、ベンゾトリアゾールと組み合わせるか、あるいはベンゾトリアゾールおよび硝酸と組み合わせて、処理溶液を作成してもよい。
【0065】
工程(i)(a)に続いて、セラミックの表面に核生成サイトを付与する工程(i)(b)が行われる。この工程は、好ましさの劣る実施形態においては、セラミック粒子上で直接行ってもよい。
【0066】
この工程により、セラミックと金属層または金属合金層とのその後の接着性が改善されることが判明している。
【0067】
工程(i)(b)において、セラミック粒子は、Sn(II)溶液およびPd(II)溶液を用いて順次処理するか、あるいはSn(II)イオンおよびPd(II)イオンを用いて同時に処理することが好ましい。粒子は、好ましくは、Sn(II)の水溶液にまず分散される。このような暴露は、25℃の温度で10分間継続させてもよい。Sn(II)イオンの濃度は、好ましくは、0.01~0.5M、例えば、0.01~0.1M、例えば、0.02~0.1Mの範囲である。Sn(II)の対イオンは特に重要ではないが、一実施形態においては、SnCl2が好ましい。次いで、粒子をろ過してもよい。
【0068】
Sn(II)を用いた処理の後、粒子は、Pd(II)の水溶液に分散させるのが好ましい。この暴露は、25℃の温度で10時間継続させてもよい。Pd(II)イオンの濃度は、好ましくは、0.0005~0.01M、例えば、0.0005~0.005M、例えば、0.001~0.005Mの範囲である。Pd(II)の対イオンは特に重要ではないが、一実施形態においては、PdCl2が好ましい。次いで、粒子をろ過してもよい。
【0069】
理論によって拘束されるものではないが、この方法により、核生成サイトがセラミック粒子上に形成されると思われる。核生成サイトでは、金属または金属合金原子は、必要に応じて、金属塩から還元され、成長可能な皮膜を形成する。
【0070】
上述の酸化物除去工程(i)aが行われることが好ましいが、別の実施形態においては、この酸化物エッチング工程は省略される。
【0071】
酸化物エッチング工程が省略される場合、セラミック粒子は、まず、帯電高分子電解質、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)を用いて処理することが好ましい。高分子電解質は、正に帯電していても負に帯電していてもよいが、正に帯電していることが好ましい。
【0072】
高分子電解質のMwは特に重要ではない。30~80,000の値が考えられる。Mwがほぼ58,000である市販のPAH材料(アルドリッチ)を使用することができる。この処理中、セラミック粒子を水に分散させ、高分子電解質の存在下で音波処理することができる。
【0073】
高分子電解質との接触中のpHは、およそpH6~7、好ましくはpH6.5に維持してもよい。これは、例えば、pHをモニタリングし、NaOHなどの塩基を添加して、pHを所定のレベルに維持することによって行うことができる。次いで、粒子をろ過してもよい。
【0074】
セラミック粒子の高分子電解質を用いた処理に続き、処理後の粒子を再び核生成手順に供することができる。上述のSn/Pd手順が適しているが、本実施形態においては、PdCl2やNa2PdCl4などのPd(II)の溶液を使用して、粒子の表面に核生成サイトを付与することが好ましい選択である。条件は、上述のPd接触工程と同じとしてもよい。よって、高分子電解質を使用する場合、Sn接触工程を回避することができる。
【0075】
工程(i)が行われた後、得られたセラミック粒子は、粒子の表面上に核生成サイトを導入することにより活性化されている。これらにより、金属層または金属合金層が成長可能なサイトが提供される。
【0076】
<工程(ii)-無電解めっき>
工程(ii)において、工程(i)で形成された、表面に核生成サイトを有するセラミック粒子を無電解めっきに供して、セラミック粒子の表面に金属層または金属合金層を形成する。無電解めっき技術は当該技術分野において周知であり、めっき技術の選択については特に限定されない。典型的には、めっき液は、所望の金属イオンの溶液を含む。めっきは、存在する金属イオンを還元することによって行われる。
【0077】
好適な一実施形態において、工程(ii)で形成される金属層または金属合金層は、ニッケルを含むかあるいはニッケルで構成される。めっき手順は、典型的には、めっき浴中で金属イオンの水溶液を調製することを含む。好適な実施形態において、めっき手順は、典型的には、めっき浴中でNi(ii)の水溶液を調製することを含む。0.01~0.5M、例えば、0.05~0.2Mの範囲の金属(またはNi(ii))濃度が特に適している。金属イオン源は、任意の適した可溶塩、好ましくは、硫酸ニッケル(ii)または塩化ニッケル(ii)であってもよい。
【0078】
次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2)、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、グリコール酸ナトリウムおよびホウ酸などの添加剤もめっき液に含まれていてもよい。本発明を限定するものではないが、めっき液のいくつかの例としては、以下が挙げられる。
【0079】
a.0.1M硫酸ニッケル(NiSO4・6H2O)、0.19M次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2)、0.08Mクエン酸ナトリウム(Na3657・2H2O)および0.06M酢酸ナトリウム(NaAc)、
b.0.11M硫酸ニッケル(NiSO4・6H2O)、0.38M次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2)、0.24Mクエン酸ナトリウム(Na3657・2H2O)およびホウ酸(H3BO3)、
c.0.13M塩化ニッケル、(NiCl2・6H2O)、0.10M次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2・H2O)および0.50Mグリコール酸ナトリウム(CH2OHCOONa)。
【0080】
めっき液のpHは、例えば、NaOHなどの塩基を添加することにより、pH9~12に維持されることが好ましい。セラミック粒子は、プロセスの任意の段階で添加することができるが、電解めっき液が調製された後に添加されることが好ましい。次いで、塩基性金属溶液中の粒子懸濁液を、所望の厚さの金属層または金属合金層がセラミック粒子上に堆積するまで加熱してもよい。この工程は、60~90℃の範囲の温度において行われることが好ましい。継続時間は、堆積させる金属層の所望の厚さに応じて調整してもよい。30~120分間が適し得る。めっきが完成すると、被覆粒子はろ過によって回収される。
【0081】
工程(ii)において金属合金皮膜を生成することが所望される場合、水性めっき組成は、めっき液にさらなる金属塩を含めることにより変更することができる。
【0082】
<工程(iii)-凝集>
工程(iii)において、工程(ii)中に形成される金属被覆セラミック粒子または金属合金被覆セラミック粒子を従来技術を用いて(例えば、噴霧乾燥)凝集させる。この段階で形成される被覆粒子は、凝集し易く、凝集粒子状物を形成することができる。このような凝集物は、5ミクロン以上、例えば、10ミクロン以上、例えば、10~100μmの範囲の粒径を有し得る。凝集は、球状化、破砕、混合または噴霧乾燥などの当該技術分野において公知の方法によって行うことができる。工程(ii)中に形成される粒子は、工程(iii)において噴霧乾燥によって凝集させることが最も好ましい。
【0083】
一実施形態において、本発明は、
(i)50~95重量%の炭化ケイ素、窒化ケイ素または炭化ホウ素の内側コアと、
(ii)好ましくはNi、Co、Cr、FeおよびAlを含む5~50重量%の金属または金属合金の外層とを含む複数の金属被覆粒子または金属合金被覆粒子の凝集物を提供し、
上記凝集物は、5ミクロン以上、特に、10ミクロン以上の粒径を有する。
【0084】
本発明の凝集粉末は、例えば、5~30ミクロンまたは15~45ミクロンの範囲の大きさで回収され得る。
【0085】
凝集前、例えば、噴霧乾燥前に、乾燥プロセスが確実に行われるよう、バインダ(添加剤)を当該技術分野において公知であるように添加してもよい。ポリビニルアルコール(PVA)を添加して、円形の粉末が生成されるように凝集を促進してもよい。PEGを添加して、懸濁液の流動性を高め、それにより、噴霧乾燥用ノズルの目詰まりを防止するとともに、噴霧乾燥後の粉末の移送を容易にするなどしてもよい。
【0086】
<工程(iv)-熱処理>
工程(iii)の後、凝集粒子を熱処理に供することが好ましい。500℃までの温度、例えば、350~500℃の温度を用いてもよい。炉内の雰囲気は、副反応が最小限となるように制御することができる。例えば、熱処理は、アルゴンまたは窒素雰囲気下で行ってもよい。凝集および熱処理の際、少なくとも1.5、好ましくは、2g/cm3を超えるタップ密度を得ることを目標とすることが好ましい。
【0087】
この工程により、粒子間の粘着力が高まるともに、有機バインダ(例えば、噴霧乾燥プロセスからの)が除去され、高密度の凝集粉末原料が得られる。粒子は、先述の「粒子」セクションに記載の特性を有する。これらの粒子は球状であることが特に好ましい。
【0088】
次いで、これらの粒子を以下に定義されるように溶射してもよい。
【0089】
別の実施形態において、金属層または金属合金層は、粒子上で金属酸化物層を還元することによって、または溶液燃焼プロセスによって、調製される。
【0090】
金属酸化物層を得る手段については限定されない。金属酸化物層は、ゾルゲル法によって導入してもよく、沈殿によって導入してもよい。一実施形態において、金属酸化物層は、国際公開第2014/068082号の開示に従って導入される。
【0091】
ただし、本実施形態で要求される酸化物層は、還元された際に有用な厚さを有する金属層または金属合金層を形成するのに十分な厚さを有している必要がある。セラミック粒子に自然に生じる酸化物層の厚さは、この目的においては不十分である。
【0092】
<方法-溶液燃焼>
第2の方法において、セラミック粒子上の金属皮膜または金属合金皮膜は、溶液燃焼法によって形成される。溶液燃焼プロセスにおいては、酸化可能な対イオン(典型的には、金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩または酢酸塩、例えば、硝酸塩)を含む金属イオンの溶液に燃料が提供される。この燃料は、典型的には、水溶性の有機アミン、有機酸またはアミノ酸である。加熱時、反応が自己持続して金属粉末が生成される。この種の反応は当該技術分野において周知である。
【0093】
好適な一実施形態において、本発明の金属被覆セラミック粒子は、
(i)グリシンなどの燃料と酸化対イオンを有する少なくとも1つの金属塩との水溶液中にセラミック粒子を懸濁させて、混合物を形成する工程、
(ii)前記混合物をその点火温度未満の温度に加熱して、少なくとも一部の水、例えば、全ての水を除去する工程、
(iii)前記混合物をその点火温度に加熱して、金属被覆セラミック粒子または金属合金被覆セラミック粒子を形成する工程、
(iv)金属被覆セラミック粒子または金属合金被覆セラミック粒子を噴霧乾燥して、凝集粒子状物を生成する工程、および
(v)前記凝集粒子状物を熱処理する工程
によって調製される。
【0094】
工程(i)~(iii)は、溶液燃焼合成(SCS)を定義している。SCSは、酸化剤(典型的には、金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩または酢酸塩、例えば、硝酸塩)および燃料、例えば、水溶性の鎖状および環状有機アミン、有機酸およびアミノ酸を含む金属の溶液中での自己持続反応を含む。燃料が余剰に含まれていると、金属粉末が生成され、これがセラミック粒子上に皮膜を形成する。燃料が不足している場合、金属酸化物粉末が形成され易く、これは、その後、セラミック粒子上に皮膜を形成する。この燃焼反応は短時間で(数秒程度)完了し、反応温度は1500℃に達する。
【0095】
このプロセスで使用される金属がNi、Cu、Cr、CoもしくはFe、例えば、Ni、CuもしくはFe、またはCr、Co、Cu、FeおよびNi、例えば、Ni、CuもしくはFeなどの合金であれば好ましい。硝酸ニッケルおよび/または硝酸クロムを出発反応物として使用することが特に好ましい。燃料は、好ましくはグリシンである。
【0096】
好適なプロセスにおいて、硝酸ニッケル(例えば、六水和物(Ni(NO3)2・6H2Oとして)およびグリシン(CH2NH2COOH)が使用される。結晶質金属が確実に形成されるよう、二次燃料として硝酸アンモニウム(NH4NO3)を添加することが好ましい場合がある。
【0097】
溶液燃焼プロセスにおいては、まず、反応物を水に溶解させる。よって、金属硝酸塩(例えば、硝酸ニッケル)などの金属塩と、グリシンなどの燃料と、必要に応じて硝酸アンモニウムとを水に溶解させる。反応物の相対量は、所望の結果(例えば、所望の化学量論比、十分な燃料等)が確実に得られるように注意深く計算される。
【0098】
前述のセクションで定義したセラミック粒子を添加して懸濁液を作成する。出発懸濁液の作成には他の手段を用いてもよい。例えば、セラミック粒子を添加した後、懸濁液中に燃料を段階的に加えてもよい。よって、任意の方法を用いて出発懸濁液を作成することができる。
【0099】
金属合金が所望される場合、単一の金属塩ではなく、金属塩反応物の混合物を使用することができる。
【0100】
一実施形態において、溶解した試薬とセラミック粒子との比は、プロセス完了時に最大で30重量%の金属層または金属合金層を形成するように選択される。燃料および金属塩は、同時に添加されることが好ましい。
【0101】
セラミック粒子と金属塩反応物と燃料との水溶液を含む懸濁液を、オーブンでその点火温度未満の温度に加熱することにより乾燥して、水分の少なくとも一部、理想的には、全ての水分を除去することができる。乾燥に続いて、試料を点火させる。点火は、材料をその点火温度を超える温度に加熱することによって行われ、その結果、反応媒体に沿って自己持続的に伝播する燃焼波が生じる。反応物を点火させるためには、500℃の温度が必要となる場合がある。
【0102】
溶液燃焼プロセスは、金属(または金属合金)のナノ粒子を形成し易い。これらのナノ粒子の凝集は弱く、したがって、セラミック粒子に付着して、多孔質で緩い層を形成する。
【0103】
材料を攪拌して噴霧乾燥工程のためのスラリー(例えば、水溶液)を作成してもよい。噴霧乾燥中、ナノ粒子は、容易に分解され、炭化ケイ素粒子中に均一に分布して皮膜層を形成する。
【0104】
噴霧乾燥工程により、凝集セラミック粉末が生成され、次いで、当該粉末は、前述したように処理されて、緻密化が可能となり、粉末を含まない凝集炭化ケイ素粉末原料が形成される。
【0105】
工程(iv)は、凝集粒子状物の生成を含む。凝集は、球状化、破砕、混合または噴霧乾燥などの当該技術分野において公知の方法によって行うことができる。工程(iii)で形成される粒子は、工程(iv)において噴霧乾燥によって凝集させることが最も好ましい。
【0106】
SCSプロセス後に金属酸化物が存在する場合、すなわち、φ<1であり、酸化物を還元させる燃料が不足している場合、噴霧乾燥後のセラミック粉末を水素フロー雰囲気炉中で加熱するさらなる工程を行い、酸化物を金属または金属合金に還元してもよい。
【0107】
その後、これらの粒子を溶射に用いることができる。
【0108】
<金属酸化物皮膜の還元方法>
別の実施形態において、本発明の金属被覆セラミック粒子または金属合金被覆セラミック粒子は、粒子上で金属酸化物層を還元することによって調製することができる。酸化物層を得る手段については限定されない。金属酸化物層は、ゾルゲル法によって導入してもよく、沈殿によって導入してもよい。一実施形態において、金属酸化物層は、国際公開第2014/068082号の開示に従って導入される。
【0109】
よって、好適なプロセスにおいて、本発明は、
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の金属酸化物被覆粒子を得る工程、および
(ii)金属酸化物皮膜を金属層または金属合金層に還元する工程を提供する。
【0110】
理想的には、次いで、上記粒子を溶射することができる。
【0111】
好適なプロセスにおいて、本発明は、
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の金属酸化物被覆粒子を得る工程、
(ii)工程(i)の被覆粒子を凝集させる工程、および
(iii)金属酸化物皮膜を金属層または金属合金層に還元する工程を提供する。
【0112】
理想的には、次いで、上記粒子を溶射することができる。
【0113】
より好ましくは、上記プロセスは、
(i)炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素または窒化ホウ素の粒子の表面に1つまたは複数の金属塩を沈殿させ、続いて、沈殿した塩を酸化して、1つ以上の金属酸化物を含む層を当該粒子上に形成する工程、
(ii)必要に応じて、被覆粒子を噴霧乾燥して凝集粒子状物を生成する工程、および
(iii)金属酸化物層を金属層または金属合金層に還元する工程を提供する。
【0114】
酸化物被膜の導入には任意の方法を使用することができる。国際公開第2014/068082号に記載されるように、前駆体皮膜を焼成または焼結することによってセラミック粒子上に酸化物被膜を導入することが可能であることが知られている。したがって、第1の工程は、セラミック粒子上に金属酸化物層を生成することを含む。国際公開第2014/068082号に記載されるような方法が特に適しており、それらを本明細書において記載する。
【0115】
酸化物前駆体皮膜は、少なくとも1つの金属塩をセラミック粒子基材上に沈殿させるか、あるいは少なくとも1つの金属塩ゾルをセラミック粒子上に沈殿させることによって形成される。理想的には、2つ以上の金属塩が常に存在することになるが、1つの塩が使用されてもよい。有用な粒子は、Y23またはMgOを酸化物皮膜として用いて作成することが可能であるので、前駆体金属塩を1つだけ使用してもよい。炭化ホウ素の場合、Al23しか使用できないため、この場合もまた、金属塩を1つのみ使用すればよい。
【0116】
よって、セラミック粒子上に酸化物層を導入するには、これは非酸化物皮膜の焼成によって行うことができる。したがって、使用される金属塩は、酸化物でないことが好ましい。いくつかの実施形態において、上記粒子上の水酸化物または炭酸塩(あるいは、理想的には、水酸化物/炭酸塩の混合物)の前駆体皮膜が適し得る。前駆体皮膜を酸素の存在下で焼成すると、酸化物皮膜に変換される。
【0117】
金属水酸化物および/または金属炭酸塩の皮膜、あるいは他の塩をベースとする皮膜のセラミック粒子への付与は、金属塩前駆体を粒子上へ共沈させるか、金属塩ゾルをセラミック粒子上に沈殿させるか、あるいは適当な混合物を噴霧乾燥することによって行うことができる。
【0118】
よって、セラミック粒子は、5~50重量%、好ましくは、7.5~40重量%、例えば、10~35重量%、特に、11~30重量%の金属塩または金属塩ゾルと接触していれば好ましい。いくつかの実施形態においては、10重量%を超える金属塩または金属塩ゾルが存在するのがよい。よって、1gのセラミック粒子(任意の分散媒中の固形分)が存在する場合、40重量%の金属塩は、400mgとなる。
【0119】
本方法で用いる塩または複数の塩中の金属は、上記金属のいずれかである。AlおよびYの使用が特に好ましい。
【0120】
上記対イオンは酸化物ではないことが好ましいが、本発明のプロセス中、好ましくは水酸化物または炭酸塩(必要に応じて)に変換され、その後、酸化物に変換されることが可能な対イオンであることが好ましい。したがって、好ましい対イオンは、硝酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、硫化物および亜硝酸塩である。水酸化物または炭酸塩は、そのまま使用することもできる。硝酸塩の使用が特に好ましい。
【0121】
被覆作業を確実に成功させるために、上記塩は、被覆工程中に水酸化物または炭酸塩としてセラミック粒子上に堆積するものであるか、あるいは、被覆工程中に少なくともそのような水酸化物または炭酸塩に変換されるものであることが好ましい。水酸化物または炭酸塩の前駆体皮膜の存在は、その後の酸化物皮膜の形成のための鍵となる。
【0122】
より好適な更なる実施形態において、金属塩の混合物を酸化物皮膜前駆体として使用することが好ましい。特に、2つの異なる塩を使用することが好ましい。2つの塩を使用する場合、上記金属イオンは異なることが好ましい。また、上記2つの対イオンは同じであるのが好ましい。よって、2つの異なる金属硝酸塩を使用することが特に好ましい。
【0123】
対象となる金属塩は、上記工程中に使用される溶媒に可溶である、特に、水溶性であることが好ましい。
【0124】
本発明での使用に非常に好ましい金属塩は、Al(NO33,(Al23を生成)、Y((NO33(Y23を生成)である。特に、塩は水和物であってもよい。好ましい塩は、Al(NO33・nH2O、Y(NO33・nH2O、AlCl3・nH2O、YCl3・nH2O、Y2(CO33・nH2Oである。
【0125】
理想的には、2つの金属塩が存在する場合、当該金属塩を組み合わせることにより、焼成後に金属酸化物の共晶が形成されてもよい。よって、セラミックに添加する金属塩の量は、共晶系が形成されるように注意深く計量することができる。共晶系とは、同じ成分からなる他のいかなる組成よりも低い温度で固化する一つの化学組成を有する化学化合物または化学要素の混合物である。当該分野において、当業者は、共晶を形成する金属塩の組み合わせをある程度認識している。例えば、硝酸アルミニウムと硝酸イットリウムを特定の割合で使用すると、焼成後に、イットリウム・アルミニウム・ガーネットの共晶が形成される(YAG、Y3Al512)。
【0126】
第1の実施形態において、共沈によって、金属酸化物前駆体がセラミック粒子上に導入される。金属塩前駆体の共沈は、水性懸濁液中でセラミック粒子を沈殿剤化合物、例えば、固形分を3~10重量%、好ましくは、約5重量%含むものと混合することにより行ってもよい。この懸濁液を撹拌して凝集物をバラバラにし、セラミック粒子の均質化および分散を行うことができる。
【0127】
次いで、この混合懸濁液を50~100℃、好ましくは、約90℃に加熱して、沈殿工程を促進させてもよい。共晶金属塩溶液は、混合懸濁液中に任意の順序で加えることができる。しかし、共晶塩を制御された順序で加える逆滴定法が好ましい。上記工程中に炭化ケイ素粒子上に理想的には皮膜を形成する、水酸化物または炭酸塩の沈殿を確実に活性化するために、沈殿剤化合物を使用することが好ましい。
【0128】
あるいは、特に、沈殿剤として弱酸を使用する場合は、粒子上に皮膜を導入するために、金属塩、沈殿剤および粒子を組み合わせ、噴霧乾燥してもよい。噴霧乾燥により、より多くの球状粒子を得ることができ、したがって流動性を向上させることができる。
【0129】
よって、被覆作業の成功の鍵は、セラミック粒子上への金属塩の沈殿を可能にする「沈殿剤」化合物の存在である。この化合物は、弱酸または弱塩基である。沈殿剤化合物は、存在する金属塩のモル量のおよそ1~30倍、好ましくは3~30倍、例えば、5~30倍、好ましくは6~20倍、特に、5~10倍、例えば、8~10倍のモル量で存在していてもよい。
【0130】
弱酸を使用する場合、総金属カチオンに対する沈殿剤のモル比は、好ましくは1~3である。弱塩基を使用する場合、総金属カチオンに対する沈殿剤の理想モル比は、6~8である。
【0131】
いくつかの実施形態において、存在する沈殿剤化合物の量は、混合物のpHが塩基性、例えば、pH9~11となるような量であることが好ましい。理想的には、被覆工程中、懸濁液のpHは、沈殿剤として弱塩基を用いる場合は9以上である。弱酸を使用する場合、1~2の低いpH値を用いることができる。
【0132】
対象となる沈殿剤化合物は、アルカン酸(エタン酸、メタン酸)、HFやギ酸などの弱酸およびクエン酸などの有機酸である。クエン酸の使用が特に好ましい。あるいは、好ましい化合物は水酸化アンモニウム、アルキルアミンなどの弱塩基であるが、特に、尿素、アンモニア水および炭酸水素アンモニウムなどの炭酸水素塩が好ましい。理想的には、沈殿剤化合物は水溶性である。尿素または炭酸水素アンモニウムの使用が特に好ましい。
【0133】
粒子を噴霧乾燥する場合、沈殿剤化合物はクエン酸などの弱酸であることが好ましい。なぜなら、これにより、弱塩基を使用する場合と比較して、最良の最終凝集SiC粉末が得られるからである。
【0134】
別の実施形態において、金属酸化物皮膜は、水酸化物ゾルなどの金属塩ゾルを沈殿させることにより作製される。セラミック粒子を金属塩ゾルと混合して、3~20重量%、例えば、3~10重量%のセラミック粒子、例えば、約5重量%または10重量%のセラミック粒子の総固形物負荷を含む混合懸濁液を作製する。溶媒は、好ましくは水である。ここでも、撹拌を用いて懸濁液を均質化させてもよい。次いで、沈殿剤化合物を、好ましくは滴定を用いて、制御された順序で加えてセラミック粒子上への金属塩ゾル層の沈殿を促進する。混合懸濁液の加熱およびpHの制御は、金属塩ゾルの沈殿の成功を決定する工程の一部をなす。懸濁液を、50~100℃の間、好ましくは、約90℃に加熱して工程を促進することが好ましい。pHは、弱酸を使用する場合は2未満、弱塩基を使用する場合は9以上、例えば、9~11のレベルに維持することができる。
【0135】
好ましい金属ゾル前駆体は、金属アルコキシド、ベーマイト[AlO(OH)]または塩基性炭酸イットリウム[Y(OH)CO3]などの無機金属塩または金属有機化合物である。
【0136】
堆積量は、重量パーセントに対するモル比の計算に従って添加される金属塩または金属塩ゾルの量の関数である。システム中の塩の量が多いほど、皮膜の厚みが大きくなる。
【0137】
この工程は、周囲温度で行うことができる。ただし、沈殿剤活性化の温度は、好ましくは、50℃~100℃である。炭酸水素アンモニウムの場合、約50℃の温度が好ましい。尿素およびクエン酸の場合、好ましい温度は、約90℃である。また、圧力は、周囲圧力であってもよい。
【0138】
しかし、沈殿剤の存在下でかつ金属塩の添加中に、混合懸濁液中で分散剤を使用してセラミック粒子を分散させ、凝集を回避することが必要である場合がある。従来の有機分散剤を使用することができる。したがって、分散剤は、非反応性界面活性剤型の材料である。
【0139】
理論によって拘束されるものではないが、本発明者らは、沈殿剤化合物により、硝酸塩などの出発金属塩が、例えば、対応する水酸化物および炭酸塩に対して反応すると考える。セラミック粒子の表面に堆積し、焼成中に酸化物に変換されるのは、これらの塩であり得る。
【0140】
したがって、この工程により、水酸化物または炭酸塩の皮膜などの皮膜をセラミック粒子上に形成することが可能となる。金属塩は好ましくは水溶性であるので、懸濁液において自由金属塩粒子が形成されることはないと考えられる。さらに、沈殿剤化合物は水溶性であることも好ましい。したがって、金属塩化合物または沈殿剤化合物から粒子は形成されないはずである。
【0141】
一実施形態において、ベーマイト[AlO(OH)]などの金属ゾルが上記沈殿法において使用されるか、あるいは沈殿工程中に生成される。それに応じて、炭化ケイ素粒子などの粒子を金属ゾル前駆体と混合する。次いで、滴定により、沈殿化合物を理想的には懸濁液のpHが9~11となるまで加える。
【0142】
最も好適な実施形態において、Al(NO33とY(NO33との混合物が本発明の方法において使用される。これらの金属塩のモル比は5:3であってもよい。なぜなら、これにより、共晶が形成されるとともに、焼成および焼結と同時にイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)が得られるからである。
【0143】
ひとたび皮膜が生じると、残りの懸濁液から粒子を濾出し、当該粒子を乾燥、好ましくは、従来の凍結乾燥法を用いて噴霧乾燥する。手順のこの段階で形成される被覆粒子は凝集しやすく、10ミクロン以上、例えば、15ミクロン以上、例えば、20~50ミクロンの粒径を有し得る。
【0144】
凝集粒子状物の形成は、球状化、破砕、混合または噴霧乾燥などの当該技術分野において公知の方法によっても行うことができる。噴霧乾燥によって被覆粒子を凝集させることが、最も好ましい。
【0145】
炭酸水素塩沈殿剤を使用する場合、粒子を噴霧乾燥するのが好ましいが、従来のオーブン型乾燥を用いることも可能である。しかし、尿素沈殿剤を使用する場合は、被覆粒子は、さらなる処理(例えば、焼成、焼結、ふるい分け等)の前にオーブン乾燥するのが好ましい。
【0146】
AHCを用いた共沈工程では、滴定工程後、濾過を行うことなく直ちに噴霧乾燥を行ってもよい。しかし、尿素沈殿剤を使用する場合は、濾過を行い、濾液を新鮮な蒸留水と組み合わせ(かつ任意にはPVAおよびPEGを添加する)のが好ましい。固形分を20~40重量%まで増加させ、乾燥にかかる費用を削減することができる。
【0147】
次いで、被覆粒子を焼成する。焼成は、従来の技術を用いて通常の温度にて行うことができる。400~800℃の温度、例えば、500~600℃が好ましい。800~1200℃の温度、例えば、900~1000℃でもよいが、好ましさに劣る。この工程は、水酸化物を酸化物皮膜へと確実に酸化させるべく、空気の存在下で行う。
【0148】
焼成(calcination)後、粒子を焼結(sinter)させる。酸化物被覆SiC粒子の焼結は、アルゴン雰囲気炉で2000℃までの温度、例えば、1750℃までの温度で行われるのが好ましい。理想的には、焼結は、1000℃~2000℃の温度、例えば、1300~1800℃で行われる。
【0149】
ここでもまた、粒径は、焼成・焼結工程の終了時において、およそ20~100ミクロンである。
【0150】
したがって、本発明の金属酸化物被覆セラミック粒子は、少なくとも5重量%、例えば、少なくとも10重量%、好ましくは、少なくとも20重量%の酸化物皮膜を含むと考えられる。酸化物皮膜は、理想的には、全体として11~40重量%または10~30重量%の被覆セラミック粒子を形成する。SiC粒子上の皮膜の重量%は、リートベルト法を用いてXRDパターンに基づいて定量的に計算することができる。
【0151】
セラミック粒子上の粒子状酸化物皮膜の厚みは、50~200nmの範囲であることが好ましい場合がある。もちろん、より大きな粒子上にはより厚い皮膜が存在する場合があることが、一般に観察される。
【0152】
本発明者らは、皮膜はセラミック粒子の周囲に完全な皮膜を形成していると考える。皮膜に破れがあると、分解が起きる可能性が生じ得る。したがって、本発明の皮膜は連続的なものであると考えられる。とは言え、酸化物皮膜がおそらくは製造プロセスまたは溶射プロセス中に破損する可能性がある場合でも、所望の結果を得ることはできる。溶射プロセス中に、皮膜は溶融する。したがって、皮膜は、皮膜の破れを覆いつつ、噴霧皮膜材料の層を互いに接合することができる。
【0153】
なお、各噴霧乾燥工程を確実に成功させるため、当業界で知られているように、噴霧乾燥後および焼成・焼結前にいくつかのバインダ(添加剤)が存在してもよい。ポリビニルアルコール(PVA)を添加して、円形の粉末が生成されるように凝集を促進してもよい。PEGを添加して、懸濁液の流動性を高め、それにより、噴霧乾燥用ノズルの目詰まりを防止するとともに、噴霧乾燥後の粉末の移送を容易にするなどしてもよい。
【0154】
本発明のプロセスにより、特に、各セラミック粒子上に被覆されたイットリウム・アルミニウム・ガーネットを含有する、凝集され焼結されたセラミック粉末が形成される。
【0155】
次いで、金属酸化物皮膜を有するセラミックの粒子を還元雰囲気に晒し、金属酸化物皮膜を金属皮膜に変換する。
【0156】
<金属酸化物の還元>
金属酸化物の還元は、粒子を炉内で黒鉛またはH2ガスの存在下で金属または金属合金の融点未満の温度にて加熱するだけで好ましく行われるが、粒子を水素ガスに晒すことによって行うことが好ましい。
【0157】
<溶射>
金属被覆セラミック粒子または金属合金被覆セラミック粒子を基板上に溶射することができる。燃焼(例えば、火炎噴霧もしくはHVOF)、デトネーション(デトネーションガンもしくは高周波数デトネーションガン)または電気/プラズマ噴霧(大気圧プラズマ噴霧、低圧プラズマ噴霧もしくは真空プラズマ噴霧)に基づく溶射技術などの様々な溶射技術を用いることができる。好ましい噴霧技術は、高周波数デトネーションガン、HVOF技術または大気圧プラズマ噴霧を含む。これらの技術は周知であり、ここで完全に概説する必要はない。
【0158】
高速オキシ燃料(HVOF)ガンの使用が好ましい。HVOF噴霧は、気体または液体燃料と燃焼室に供給される酸素との混合物を含み、これらは燃焼室において点火され連続的に燃焼する。結果として得られる1MPaに近い圧力の高温ガスは、ノズルを通じて放出され、直線部分を通過して移動する。バレル出口でのジェット速度(>1000m/s)は、音速を超える。供給原料は、ガス流内に注入され、粉末を800m/sまで加速する。高温ガス・粉末流は、被覆される表面に向けられる。粉末は、高温ガス・粉末流中で部分的に溶融し、基板上に堆積する。
【0159】
デトネーションシステムの場合、高周波パルスデトネーションガンの使用が好ましいが、これについては米国特許第6745951号に詳細に説明されている。溶射用デトネーションガンは、燃焼室およびバレルによって構成され、燃料用入口と酸化剤用入口を備える。また、燃料・酸化剤混合物を爆発させるための1つまたは複数のスパークプラグと、製品をバレルに導入するための1つまたは複数のインゼクタも備える。
【0160】
プラズマ噴霧プロセスにおいて、堆積させる材料は、プラズマジェットに導入され、プラズマトーチから放出される。温度が約10,000Kであるジェット中では、材料は溶融し、基板に向かって駆動される。そこで、溶融した液滴は平坦化され、急速に固化し、堆積物を形成する。
【0161】
被覆粒子が溶射される基板は限定されず、したがって、当業者にとって興味のある任意の基板であってもよい。本発明者らは、炭素鋼、ステンレス鋼、Ni超合金、アルミニウム等の金属基板材料上への粒子の噴霧に特に関心を有する。しかし、セラミックマトリックス複合物(CMC)や炭素マトリックス複合物のような複合材料基板もまた対象となる。セラミック基板やポリマー基板への噴霧もまた可能である。
【0162】
基板上の皮膜の厚さは、溶射パラメータおよび溶射システムによって異なり得る。10~1000ミクロン、好ましくは、100~300ミクロンの厚さが考えられる。なお、より厚い皮膜を得るためには、複数の堆積プロセスが必要となる場合もある。
【0163】
基板上に形成された皮膜は、優れた耐摩耗性および耐食性を有する。一般に、噴霧されたままの状態の皮膜は粗面である(Ra=4.2ミクロン)。耐摩耗用途向けの性能を改善するためには、噴霧されたままの状態の部品の表面を、表面が所望の表面粗さに達するまで研削、研磨、ラッピング等の方法によって加工することが必要となる場合がある。
【0164】
溶射プロセスの効率を最大化するためには、被覆のための基板表面を準備する必要があり得る。基板表面は、清浄でなければならない。また、グリット等を用いてこれをブラストして、溶射中に皮膜の接着を促進する粗面を形成してもよい。
【0165】
本発明を以下の非限定的な実施例を参照しながら更に説明する。
【0166】
[実施例1]
1.無電解Ni法
前処理:
a.表面を洗浄および活性化し、それにより、SiCを、最終的に接着し成長を開始することになるニッケル金属に接触させる。
【0167】
- 0.5Lの脱イオン水に対して0.5gのベンゾトリアゾール+20~30mlのHF(40%)および60~70mlの硝酸(65%)の混合物溶液を用いて30分間処理
b.無電解ニッケルめっきの際にニッケル金属が接着し成長を開始することが可能なSiC表面を活性化させる。
【0168】
- 20%KOH溶液を用いて80℃にて30分間処理
- 20%NaOH溶液を用いて80℃にて30分間処理
SiC粒子をこれらの溶液に分散させるが、超音波または磁気バーを用いた攪拌が利用される。30分後、溶液をろ過し、処理後のSiC粒子を回収する。
【0169】
増感および活性化:
増感は、SiC粒子を水性SnCl2(10g/L)+HCl(30ml/L)を用いて40℃にて15~30分間処理することによって行われる。
【0170】
活性化は、SiC粒子を水性PdCl2(0.25g/L)+HCl(3ml/L)を用いて40℃にて15~30分間処理することによって行われる。
【0171】
無電解ニッケルプロセス
a.式
【0172】
【表1】
【0173】
b.パラメータ
攪拌:300rpm
温度:80℃
pH:10
時間:60~120分。
【0174】
結果:
a.前処理なしで行ったSiC粒子(平均サイズ0.8μm)の無電解ニッケルめっきの結果を図1に示す。ニッケル金属が観察される。
【0175】
b.20重量%のKOH溶液を用いた80℃での30分間の前処理を経たSiC粒子(平均サイズ0.8μm)の無電解ニッケルめっきの結果を図2に示す。ニッケル金属が観察される。
【0176】
[実施例2:プラズマ噴霧塗工]
燃焼プロセス(図3および図4)によって生成された粉末を、以下のパラメータに従い、大気圧プラズマスプレーガンを用いて炭素鋼基板上にプラズマ噴霧した。
【0177】
ガス流:40slpmのArおよび12slpmのH2(SLPM=1分当たりの標準リットル)
強度:600A
基板からのトーチの距離:70mm
ThermicoCPF-2による粉体の供給には、20SLPMの窒素キャリアガスおよび回転10rpmの供給ディスクを用いる。
【0178】
基板上のトーチ走査回数:4×6秒。
【0179】
蒸着終了時点において、走査電子顕微鏡により、皮膜サンプルの特性を決定した。皮膜断面の撮影を行った結果、図5に示すような構造が得られた。これらの粉末供給原料を用いて製造された皮膜堆積物から予測されるような、金属マトリクス(明るい方の領域として示す)が炭化ケイ素(暗い方の領域として示す)を包囲している典型的な構造である。写真において大量の孔も明らかに視認されるが、これらはプラズマ噴霧法の特徴である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6