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特許7057786光合成アンテナの減少を有する高生産性藻類突然変異体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】光合成アンテナの減少を有する高生産性藻類突然変異体
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20220413BHJP
   C12N 1/13 20060101ALI20220413BHJP
   C12N 15/01 20060101ALI20220413BHJP
   C12P 7/64 20220101ALI20220413BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
C12N1/12 Z ZNA
C12N1/13
C12N15/01 Z
C12P7/64
C12P21/00 B
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2019535916
(86)(22)【出願日】2017-12-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 US2017069073
(87)【国際公開番号】W WO2018126201
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-14
(31)【優先権主張番号】62/441,002
(32)【優先日】2016-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509262736
【氏名又は名称】シンセティック ジェノミクス インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】モエラーリング エリック アール.
(72)【発明者】
【氏名】バウマン ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ラダコビッツ ランダー アール.
(72)【発明者】
【氏名】スプレアフィコ ロバート
(72)【発明者】
【氏名】クズミノフ フェダー
(72)【発明者】
【氏名】アジャウィ イマド
(72)【発明者】
【氏名】イマム サヒード
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】クウォク キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】アクイ モエナ
(72)【発明者】
【氏名】ノミナティ ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルト ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ベイリー ショウン
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0304896(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0185030(US,A1)
【文献】国際公開第2014/089533(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:3、14、15、および16からなる群より選択されるポリペプチドに対して少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するSGI1ポリペプチドをコードする遺伝子の減衰を有する突然変異緑藻類生物であって、
突然変異緑藻類生物が、バイオマスを、じ条件下で成長または培養させた対照緑藻類生物よりも多く産生し、
該対照緑藻類生物が、該SGI1遺伝子の減衰を有さない、
突然変異緑藻類生物。
【請求項2】
じ条件下で成長または培養させた対照緑藻類生物よりも、少なくとも15%多くの脂質を産生する、請求項1に記載の突然変異緑藻類生物。
【請求項3】
対照緑藻類生物と比べて、減少したクロロフィルを有する、請求項1~2のいずれか一項に記載の突然変異緑藻類生物。
【請求項4】
対照緑藻類生物と比べて、上昇したクロロフィルa:b比を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の突然変異緑藻類生物。
【請求項5】
対照緑藻類生物と比べて、より高い14C Pmaxを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の突然変異緑藻類生物。
【請求項6】
対照緑藻類生物よりも高いFv/Fmを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の突然変異緑藻類生物。
【請求項7】
対照緑藻類生物よりも高いタンパク質含有量を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の突然変異緑藻類生物。
【請求項8】
対照緑藻類生物よりも高いrubisco活性化酵素含有量を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の突然変異緑藻類生物。
【請求項9】
対照緑藻類生物と比べて、減少した光化学系II(PSII)アンテナサイズを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の突然変異生物。
【請求項10】
PSIIアンテナサイズの断面単位サイズが、対照緑藻類生物のPSIIアンテナの断面単位サイズと比べて、少なくとも25%減少している、請求項9に記載の突然変異生物。
【請求項11】
対照生物と比べて、上昇したPmax(14C)を有する、請求項6~10のいずれか一項に記載の突然変異生物。
【請求項12】
Pmax(14C)が、対照緑藻類生物のPmax(14C)と比べて、少なくとも10%上昇している、請求項11に記載の突然変異生物。
【請求項13】
対照生物と比べて、減少した量のクロロフィルbを有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の突然変異生物。
【請求項14】
対照生物と比べて、少なくとも20%少ないクロロフィルを有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の突然変異生物。
【請求項15】
対照生物よりも高いタンパク質含有量を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の突然変異生物。
【請求項16】
対照生物よりも全有機炭素率(パーセント)で少なくとも10%多いタンパク質を有する、請求項15に記載の突然変異生物。
【請求項17】
対照生物よりも全有機炭素率(パーセント)で少なくとも20%多いタンパク質を有する、請求項16に記載の突然変異生物。
【請求項18】
対照生物と比べて、少なくとも10個のLHC遺伝子の発現の低下を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の突然変異生物。
【請求項19】
対照生物と比べて、リブロースビスホスフェートカルボキシラーゼアクチベーター(RA)ポリペプチドの存在量の増加を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の突然変異緑藻類生物。
【請求項20】
リブロースビスホスフェートカルボキシラーゼアクチベーターポリペプチドが、対照生物における存在量の少なくとも1.5倍である、請求項19に記載の突然変異緑藻類生物。
【請求項21】
クロロデンドロン藻綱またはトレボウクシア藻綱の緑藻植物である、請求項1~20のいずれか一項に記載の突然変異生物。
【請求項22】
クロロデンドロン藻綱のメンバーでる、請求項21に記載の突然変異生物。
【請求項23】
プラシノクラダス(Prasinocladus)、スケルフェリア(Scherffelia)、およびテトラセルミス(Tetraselmis)からなる群から選択される属の種である、請求項22に記載の突然変異緑藻類生物。
【請求項24】
トレボウクシア藻綱のメンバーでる、請求項21に記載の突然変異生物。
【請求項25】
ボツリオコッカス(Botryococcus)、クロレラ(Chlorella)、オキセノクロレラ(Auxenochlorella)、ヘベオクロレラ(Heveochlorella)、マリニクロレラ(Marinichlorella)、パラクロレラ(Parachlorella)、シュードクロレラ(Pseudochlorella)、テトラクロレラ(Tetrachlorella)、エレモスファエラ(Eremosphaera)、フランケイア(Franceia)、ミクラクチニウム(Micractinium)、ナンノクロリス(Nannochloris)、オオキスティス(Oocystis)、ピコクロラム(Picochlorum)、プロトテカ(Prototheca)、スチココックス(Stichococcus)、およびビリジエラ(Viridiella)からなる群から選択される属の種である、請求項24に記載の突然変異緑藻類生物。
【請求項26】
パラクロレラ、およびテトラセルミスからなる群から選択される属のメンバーである、請求項21に記載の突然変異生物。
【請求項27】
クロレラ、オキセノクロレラ、ヘベオクロレラ、マリニクロレラ、パラクロレラ、シュードクロレラ、およびテトラクロレラからなる群から選択される属のものである、請求項24に記載の突然変異生物。
【請求項28】
藻類産物の製造方法であって、該産物を産生するために請求項1~27のいずれか一項に記載の然変異緑藻類生物を培養することを含む、方法。
【請求項29】
培養物から産物を回収することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
産物がバイオマスである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
産物が、1つ以上の脂質である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
産物がトリアシルグリセリドである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
培養がバッチ式、半連続式、または連続式である、請求項2932のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
培養が、窒素欠乏条件下である、請求項2933のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2016年12月30日に出願された米国特許出願第62/250,397号に対する35 USC 119(e)に基づく優先権の恩典を主張し、その全内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表の組み込み
添付の配列表の内容は、参照により本出願に組み込まれる。ファイル名「SGI2080_1WO_Sequence_Listing.txt」の添付の配列表テキストファイルは、2017年12月28日に作成されたものである(265kb)。本ファイルは、Windows OSを使用しているコンピュータでMicrosoft Wordを使用してアクセスできる。
【0003】
発明の分野
本発明は、クロロフィルの減少、ならびにバイオマスおよび脂質生産性の増大を有する光合成生物の突然変異体に関する。本発明はまた、こうした突然変異体を作製し、選択し、かつスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
より高い生産性となるように、光合成生物を操作して、光合成効率を高めることは、植物および藻類生物学者の長年の目標である。米国特許出願公開第2014/0220638号および米国特許出願公開第2016/030489号(両方とも参照により本明細書に組み入れられる)は、弱光順化能力が損なわれている、クロロフィルの減少を有する「LIHLA」突然変異体と称される藻類突然変異体を得るための突然変異体スクリーニングについて記載している。すなわち、弱光であっても、強光適合細胞の低クロロフィル状態を保持する。米国特許出願公開第2014/0220638号には、光順化調節因子LAR1、LAR2、およびLAR3遺伝子に突然変異を有する藻類突然変異体について記載されており、米国特許第2016/0304896号では、葉緑体SRP54遺伝子に突然変異を有する藻類変異体について開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
概要
本明細書に提供されるのは、Significant Growth Improvement 1(SGI1)ポリペプチドをコードしている遺伝子の減衰を有する突然変異光合成生物である。この突然変異光合成生物は、SGI1遺伝子の減衰を有さないこと以外は実質的に同一である対照光合成生物よりも、高い生産性を有する。より高い生産性は、バイオマス蓄積速度、またはバイオ産物、例えば脂質、タンパク質、炭水化物(例えば、1つ以上の糖またはアルコール)、色素、抗酸化物質、テルペノイド、ビタミン、またはポリマーなどの産生速度として測定することができる。本明細書に開示されているSGI1突然変異体は、光独立栄養条件下で生産性の増大を呈し得る。
【0006】
本明細書に記載されるように、SGI1ポリペプチドは、レスポンスレギュレーターレシーバードメイン(RRドメイン)およびmyb様DNA結合(myb)ドメインを有するポリペプチドであり、RRドメインは、mybドメインのN末端にあり、2つのドメインは、本明細書においてリンカーと称される、いずれのドメインにも属さないアミノ酸の配列によって分離されている。様々な実施形態におけるRRドメインおよびmybドメインは、タンパク質のN末端側の半分にあり得る。
【0007】
減衰したSGI1遺伝子とは、その機能または発現が妨害されたSGI1遺伝子であり、その結果、野生型生物におけるその存在量または活性と比べて、遺伝子産物(SGI1ポリペプチド)の量または活性が低下する。すなわち、SGI1ポリペプチドの機能は、SGI1遺伝子の突然変異によって、またはSGI1遺伝子の発現に影響を及ぼすSGI1遺伝子そのものの外側の遺伝子操作によって、低下する。
【0008】
SGI1遺伝子の減衰を有する、本明細書において提供される突然変異光合成生物は、対照光合成生物と比べてより高い生産性を呈し、対照光合成生物と比べて減少したクロロフィルを有する。いくつかの例では、SGI1遺伝子の減衰を有する突然変異光合成生物は、減少した量のクロロフィルbを有し、いくつかの例では、SGI1遺伝子の減衰を有する突然変異光合成生物は、上昇したクロロフィルa:クロロフィルb比を有する。SGI1遺伝子の減衰を有する本明細書において提供される突然変異光合成生物は、光合成アンテナサイズの減少、例えば光化学系II(PSII)アンテナサイズの減少および/または光化学系I(PSI)アンテナサイズの減少を有することができる。
【0009】
高生産性SGI1突然変異体では、対照光合成生物よりも多くのバイオマス、例えば、対照光合成生物または突然変異光合成生物がそこから派生した野生型の光合成生物よりも多くのバイオマスを1日に生産することができる。バイオマスの生産性は、無灰乾燥重量(AFDW)、乾燥重量、湿潤重量、または全有機炭素(TOC)生産性であり得る。代替的には、または追加的には、SGI1突然変異体は、同じ期間にわたって実質的に同じ条件下で培養された対照生物によって産生されるものよりも、より多くのバイオ産物(これらに限定されないが、脂質、タンパク質、炭水化物、1つ以上のポリケチド、テルペノイド、色素、抗酸化物質、ビタミン、1つ以上のヌクレオチド、1つ以上の核酸、1つ以上のアミノ酸、1つ以上の炭水化物、アルコール、ホルモン、サイトカイン、ペプチド、またはポリマーなど)を産生できる。
【0010】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される突然変異光合成生物は、実質的に同じ条件下で培養(culture)または培養(cultivate)された対照光合成生物よりも、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%多くバイオマスを生産する。条件は、藻類では、バッチ、半連続、または連続培養条件であり得、また栄養素が豊富な培養条件であり得るか、または窒素欠乏条件であり得、かつ光独立栄養条件であり得る。
【0011】
高生産性SGI1突然変異体は、PSIIの機能的吸収断面積(σPSII)の減少または「PSIIアンテナサイズの減少」を有することができる。例えば、PSIIアンテナの断面単位サイズは、対照微生物のPSIIアンテナサイズと比べて、少なくとも約10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも約70%、または少なくとも約80%減少し得る。STI1突然変異体は、さらに、減少されたPSIの機能的吸収断面積(σPSI)を有し得る。例えば、PSIアンテナの断面単位サイズは、対照光合成生物のPSIアンテナサイズと比べて、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、または少なくとも60%減少させることができる。
【0012】
様々な実施形態において、本明細書に提供されるような突然変異光合成生物は、対照光合成生物と比べて増大したFv/Fmを有する。例えば、突然変異光合成生物は、Fv/Fmが、対照光合成生物と比べて少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも12%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%上昇し得る。例えば、対照光合成生物と比べて約5%~約50%、または約5%~30%上昇する。
【0013】
さらに、本明細書において提供される突然変異光合成生物は、対照または野生型細胞と比べて、光化学系IIのアクセプター側で上昇した電子伝達速度(1/τ’Qa)を有することができる。本明細書で提供されるような突然変異体は、野生型または対照生物と比べて少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、80%、または100%増加している1/τ’Qaの値を有し得る。
【0014】
さらに、本明細書において提供されるSGI1突然変異体における炭素固定率(Pmax(C))は、対照生物と比べて、上昇させることができる。例えば、Pmax(14C)は、野生型または対照生物と比べて少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、80%、または100%上昇し得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、SGI1突然変異体は、PSIおよび/またはPSIIアンテナサイズの減少を有し、対照または野生型生物よりも多量のリブロースビスホスフェートカルボキシラーゼ活性化酵素(Rubisco活性化酵素または「RA」)、例えば、対照生物の少なくとも1.2、1.4、1.6、1.8、2、2.2、または2.5倍のRA量をさらに有し得る。いくつかの実施形態では、突然変異体は、6、8、10、12、または14個のLHCP遺伝子の発現低下およびRA-αまたはRA-β遺伝子などのRA遺伝子の発現増加を示す。本明細書に開示されるのは、減少したクロロフィルおよび減少したPSIIアンテナサイズを有する突然変異光合成生物であって、対照光合成生物よりも多量のRubisco活性化酵素を有する突然変異体である。突然変異体は、SGI1遺伝子の減衰を有することができ、また対照光合成生物よりも高い生産性を有することができる。
【0016】
SGI1遺伝子は、レスポンスレシーバー(RR)ドメインおよびmybドメインを有するポリペプチドをコードし、mybドメインは、RRドメインのC末端側である。いくつかの実施形態では、遺伝子は、ドメインアーキテクチャ(N末端から始まる)RR-リンカー-mybを有するポリペプチドをコードしており、リンカーは、RRドメインまたはmybドメインの一部分ではないアミノ酸配列である。リンカーは、核局在化配列(NLS)を任意に含み得る。SGI1ポリペプチドは、mybドメインのN末端側にRRドメインを有し、いずれのドメインにも属さないリンカーによってmybドメインから分離されたポリペプチドであり得る。このポリペプチドは、実施例6に記載のように、藻類SGI1ポリペプチドのSGI1ドメインアーキテクチャを認識する隠れマルコフモデル(HMM)によりスキャンした際、少なくとも350のスコアを有する。こうしたSGIポリペプチドの例は、表3および4に提供する。様々な例では、本明細書において提供される突然変異体において減衰されている遺伝子は、(野生型生物において)、SEQ ID NO:58、SEQ ID NO:59、SEQ ID NO:60、SEQ ID NO:61、SEQ ID NO:62、SEQ ID NO:63、SEQ ID NO:64、SEQ ID NO:65、SEQ ID NO:66、SEQ ID NO:67、SEQ ID NO:68、SEQ ID NO:69、SEQ ID NO:70、SEQ ID NO:71、SEQ ID NO:72、SEQ ID NO:73、SEQ ID NO:74、またはSEQ ID NO:75などのmybドメインに対し、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するmybドメインを有し、かつ/またはSEQ ID NO:40、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:42、SEQ ID NO:43、SEQ ID NO:44、SEQ ID NO:45、SEQ ID NO:46、SEQ ID NO:47、SEQ ID NO:48、SEQ ID NO:49、SEQ ID NO:50、SEQ ID NO:51、SEQ ID NO:52、SEQ ID NO:53、SEQ ID NO:54、SEQ ID NO:55、SEQ ID NO:56、またはSEQ ID NO:57などのRRドメインに対し、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するRRドメインを含むSGI1ポリペプチドをコードし得る。代替的には、または追加的には、本明細書に提供されている突然変異体において減衰している遺伝子は、(野生型生物において)SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:36、SEQ ID NO:37、SEQ ID NO:38、またはSEQ ID NO:39などのSGI1ポリペプチドに少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードし得る。
【0017】
いくつかの実施形態において本明細書において提供されるのは、SGI1遺伝子の減衰を有する突然変異藻類微生物であり、突然変異体は、対照藻類微生物よりも高いバイオマス生産性を有するか、またはより多くのバイオ産物を産生する。藻類突然変異体は、減少したクロロフィルを有し得、減少したPSIIアンテナのサイズを有し得る。いくつかの例では、減衰されたSGI1遺伝子は、SEQ ID NO:58、SEQ ID NO:59、SEQ ID NO:60、SEQ ID NO:61、SEQ ID NO:62、SEQ ID NO:63、SEQ ID NO:64、SEQ ID NO:65、SEQ ID NO:66、SEQ ID NO:67などのmybドメインに対し、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有するmybドメインを有し、かつ/またはSEQ ID NO:40、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:42、SEQ ID NO:43、SEQ ID NO:44、SEQ ID NO:45、SEQ ID NO:46、SEQ ID NO:47、SEQ ID NO:48、SEQ ID NO:49などのRRドメインに対し、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するRRドメインを含むSGI1ポリペプチドをコードできる。代替的には、または追加的には、本明細書において提供されている突然変異体藻類において減衰している遺伝子は、(野生型藻類において)SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、またはSEQ ID NO:19などのSGI1ポリペプチドに対し、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードできる。
【0018】
本明細書でさらに提供されるのは、それらが由来する祖先藻類よりも単位バイオマス当たりの高いタンパク質含有量を有する、SGI1遺伝子の減衰を有する藻類突然変異体である。高タンパク質含有藻類は、バイオマス当たりの基準で、例えば、対照または野生型藻類よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、または少なくとも20%多いタンパク質を有し得る。いくつかの実施形態では、増加したタンパク質含有量を有する藻類SGI1突然変異体は、対照またはそれらが由来する野生型藻類株よりも高い成長速度および/または高いバイオマス生産性を示す。高タンパク質藻類バイオマスも含まれ、藻類バイオマスは、SGI1遺伝子の減衰を有する突然変異藻細胞を含み、突然変異藻細胞は、対照またはそれらが由来する野生型藻類よりも高いタンパク質含有量を有する。さらに提供されるのは、藻類SGI1突然変異細胞の溶解物である。溶解物は、野生型藻細胞の藻類溶解物よりも高いタンパク質含有量を任意で有することができる。
【0019】
SGI1遺伝子の減衰を有する突然変異藻類微生物は、実質的に同じ条件下で培養された対照生物によって産生されるよりも多くのバイオマスまたはさらに多くのバイオ産物を産生できる。バイオ産物は、例えば、バイオマス、脂質、タンパク質、または炭水化物であり得る。様々な実施形態では、SGI1突然変異体は、減衰SGI1遺伝子を有さない対照藻類によって産生されるものよりも多くの1つ以上の脂質、1つ以上のタンパク質、1つ以上のポリケチド、テルペノイド、色素、抗酸化物質、ビタミン、1つ以上のヌクレオチド、1つ以上の核酸、1つ以上のアミノ酸、1つ以上の炭水化物、アルコール、ホルモン、サイトカイン、ペプチド、またはポリマーを産生できる。いくつかの実施形態では、SGI1遺伝子の減衰を有する突然変異藻類は、実質的に同じ条件下で培養した対照藻類よりも、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%多いバイオ産物を産生し、条件は、バッチ、半連続、または連続培養条件であり得るか、栄養豊富な培養条件があり得るか、または窒素欠乏状態であり得るか、光独立栄養条件であり得る。バイオマスは、例えば、無灰乾燥重量(AFDW)または全有機炭素(TOC)として測定することができる。
【0020】
さらに、SGI1遺伝子の減衰を有し、対照または野生型藻類と比べてより高い生産性を有する藻類突然変異体は、対照または野生型藻類と比べて減少したクロロフィルを有することができる。例えば、総クロロフィルは、野生型レベルと比べて約20%~約80%、例えば野生型レベルの約30%~約70%減少し得る。
【0021】
本明細書において提供される、SGI1遺伝子の減衰を有する突然変異藻類微生物は、減少した光化学系II(PSII)アンテナサイズを有することができる。例えば、PSIIアンテナの断面単位サイズは、対照微生物のPSIIアンテナサイズと比べて、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、または少なくとも60%減少させることができる。
【0022】
SGI1遺伝子の減衰を有し、対照微生物よりも高い生産性を示す、本明細書に提供される藻類突然変異体は、さらに任意で、減少した光化学系I(PSI)アンテナを有し得る。例えば、PSIIアンテナの断面単位サイズは、対照微生物のPSIIアンテナサイズと比べて、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、または少なくとも60%減少させることができる。
【0023】
さらに、SGI1遺伝子の減衰を有する本明細書において提供される突然変異藻類は、対照藻類と比較して、増大した炭素吸収(光合成速度を示す)、例えば対照藻類と比較して上昇したPmax(C)を有することができる。Pmax(C)は、対照微生物のPmax(C)と比べて、少なくとも約10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも45%、または少なくとも50%上昇させることができる。
【0024】
SGI1遺伝子の減衰を有する、本明細書において提供される藻類突然変異体は、発現が減少しているLHC遺伝子をさらに有し得る。例えば、少なくとも6個、少なくとも8個、少なくとも10個、または少なくとも12個のLHC遺伝子を、対照細胞におけるそれらの発現レベルに関して下方制御することができる。LHC遺伝子の発現の減少は、例えば、LHC転写物のレベルの少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、または70%の減少であり得る。
【0025】
さらに、SGI1遺伝子の減衰を有する、本明細書において提供される藻類突然変異体は、Rubisco活性化酵素(RA)ポリペプチドの存在量の増加を有することができる。RAタンパク質のレベルは、例えば、対照または野生型細胞のレベルの1.5倍、2倍、2.5倍、または2.5倍超であり得る。RAアルファアイソザイムまたはRAベータアイソザイムの一方または両方は、本明細書に提供される高生産性突然変異体において増加させることができる。RA転写物のレベルはまた、本明細書に提供される藻類突然変異体において、例えば、野生型レベルの約1.2倍から10倍またはそれ以上まで上昇し得る。いくつかの実施形態において本明細書において提供されるのは、PSIIアンテナサイズの減少およびRAの発現の増大を有する低クロロフィル藻類突然変異体である。PSIIアンテナサイズの減少は、例えば野生型PSIIアンテナサイズと比べて少なくとも20%または少なくとも30%であり得、RAタンパク質レベルの増加は、野生型の少なくとも2倍であり得る。
【0026】
様々な実施形態において、SGI1遺伝子の減衰を有する本明細書に提供される高生産性藻類突然変異体は、TOCを基準として、対照藻類よりも少なくとも10%、少なくとも12%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも17%、または少なくとも20%多いタンパク質を有する。例えば、高生産性藻類突然変異体は、バッチ式、連続式、または半連続式培養系において、1日当たり、対照細胞よりも、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、または少なくとも60%以上多いタンパク質を産生できる。
【0027】
本明細書において提供される突然変異藻類微生物は、これに限定されるものではないが、緑藻植物または車軸藻類などの任意の真核微細藻類であり得る。例えば、突然変異微細藻類は、緑藻綱、クロロデンドロン藻綱、プラシノ藻綱、またはトレボウクシア藻綱の科の緑藻類であり得る。いくつかの実施形態では、突然変異微細藻類は、アルテロモナス(Asteromonas)、アンキストロデスムス(Ankistrodesmus)、カルテリア(Carteria)、クラミドモナス(Chlamydomonas)、クロロコッカム(Chlorococcum)、クロロゴニウム(Chlorogonium)、クリソスファエラ(Chrysosphaera)、ドナリエラ(Dunaliella)、ヘマトコッカス(Haematococcus)、モノラフィディウム(Monoraphidium)、ネオクロリス(Neochloris)、オエドゴニウム(Oedogonium)、ペラゴモナス(Pelagomonas)、プレウロコッカス(Pleurococcus)、ピロボツリス(Pyrobotrys)、イカダモ(Scenedesmus)、またはボルボックス(Volvox)の種などの緑藻綱のメンバーであり得る。代替的実施形態では、突然変異微細藻類は、プラシノクラダス(Prasinocladus)、スケルフェリア(Scherffelia)、またはテトラセルミス(Tetraselmis)の種などのクロロデンドロン藻綱のメンバーであり得る。さらなる代替的実施形態では、突然変異藻類は、プラシノ藻、任意でオストレオコッカス(Ostreococcus)またはミクロモナス(Micromonas)の種のメンバーであり得る。さらに、代替的には、突然変異微細藻類は、プラシノクラダス、スケルフェリア、もしくはテトラセルミスの種など、クロロデンドロン藻綱のメンバーであり得るか、任意で、ボツリオコッカス(Botryococcus)、クロレラ(Chlorella)、オキセノクロレラ(Auxenochlorella)、ヘベオクロレラ(Heveochlorella)、マリニクロレラ(Marinichlorella)、パラクロレラ(Parachlorella)、シュードクロレラ(Pseudochlorella)、テトラクロレラ(Tetrachlorella)、エレモスファエラ(Eremosphaera)、フランケイア(Franceia)、ミクラクチニウム(Micractinium)、ナンノクロリス(Nannochloris)、オオキスティス(Oocystis)、ピコクロラム(Picochlorum)、プロトテカ(Prototheca)、スチココックス(Stichococcus)、またはビリジエラ(Viridiella)からなる群から選択される属の種のトレボウクシア藻綱のメンバーであり得る。
【0028】
本発明のさらなる態様は、SGI1遺伝子の減衰を有する本明細書に提供されている突然変異体光合成突然変異体を培養して、バイオ産物を生成することを含む、バイオ産物を生成する方法である。本方法は、培養物または生物からバイオ産物を回収することをさらに含み得る。例えば、産物は、培地、収穫された藻細胞、もしくは全培養物から回収することができ、または例えば植物組織を収穫もしくは均質化することによって植物から単離することができる。バイオ産物は、例えば、バイオマス、タンパク質、脂質、または炭水化物であってもよい。さらに、産物は、1つ以上の脂質、タンパク質、ポリケチド、テルペノイド、色素、抗酸化物質、ビタミン、ヌクレオチド、核酸、アミノ酸、炭水化物、アルコール、ホルモン、サイトカイン、ペプチド、またはポリマーであり得る。いくつかの実施形態では、産物は高タンパク質バイオマスであり、タンパク質は、光合成生物またはその組織のTOCの少なくとも50%を構成する。代替的実施形態において、産物は脂質であり、例えばトリグリセリドであり得る。
【0029】
この方法は、藻類のSGI1突然変異体をバッチ培養、半連続培養、または連続培養において培養することを含むことができ、これらの培養では、培養培地は、栄養素が豊富であり得るか、または例えば窒素欠乏であり得る。培養は、無機態炭素、例えば二酸化炭素または炭酸塩が、藻類突然変異体による有機分子を産生するための培地中において、実質的に唯一の炭素源である光独立栄養条件下で行うことができる。
【0030】
本発明のさらに別の態様は、由来元の祖先藻類と比べて、より高い生産性を有する突然変異藻類を単離する方法である。この方法は、藻類株を半連続または連続光独立栄養条件下で少なくとも20世代培養すること、および培養物から少なくとも1つの突然変異系統を単離することを含み、単離系統は、祖先藻類系統よりも高い成長速度を有する。この方法は、培養の前に突然変異誘発工程を含み得る。突然変異誘発は、例えば、UV、ガンマ線照射、化学的突然変異誘発因子、ランダム挿入突然変異誘発、または標的指向性突然変異誘発によるものであり得る。様々な実施形態において、藻類は、培養中に一定の光にさらされる。様々な実施形態において、培養中に藻類がさらされる強度は、少なくとも500μE、少なくとも600μE、少なくとも700μE、少なくとも800μD、少なくとも900μE、少なくとも1000μE、少なくとも1100μE、少なくとも1200μD、少なくとも1400μE、少なくとも1600μE、少なくとも1800μE、少なくとも2000μE、少なくとも2200μE、少なくとも2500μE、または少なくとも3000μEである。
【0031】
より高い成長速度を有する単離系統は、例えばバッチ培養、半連続培養または連続培養において、祖先系統と比べてより高い生産性についてアッセイすることができる。高生産性突然変異体を単離することには、Fv/Fm、シグマ、PSII、PSI、またはPmax(C)(炭素固定のPmax)のうちの1つ以上を測定することをさらに含み得る。
【0032】
本方法は、突然変異を同定するために単離された高生産性変異体のゲノムを配列決定することをさらに含み得る。
【0033】
本発明のさらに別の態様は、高生産性の藻類突然変異体を選択する方法であって、本方法は、藻類集団の突然変異を誘発することと、蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いて低クロロフィル細胞を選択することと、選択された低クロロフィル蛍光細胞の単離系統をマルチウェルプレートに分配することと、光化学系II(PSII)アンテナサイズ、Fv/Fmについて、マルチウェルプレート中の低クロロフィル蛍光細胞をスクリーニングすることと、野生型細胞と比べて、PSIIアンテナサイズの減少、Fv/Fmの上昇有する少なくとも1つの細胞系を選択して、高生産性突然変異を選択することを含む。本方法は、Pmaxを測定することを任意でさらに含むことができる。より高い成長速度を有する単離系統は、例えばバッチ培養、半連続培養または連続培養において、祖先系統と比べてより高い生産性についてアッセイすることができる。本方法は、突然変異を同定するために、単離された高生産性突然変異体のゲノムの少なくとも一部分に対してPCRおよび/またはシーケンシングを実施することをさらに含み得る。
[本発明1001]
SGI1ポリペプチドをコードする遺伝子の減衰を有する突然変異光合成生物であって、該光合成生物が、バイオマスまたは少なくとも1つのバイオ産物を、実質的に同じ条件下で成長または培養させた対照光合成生物よりも多く産生し、かつ該対照光合成生物が、SGI1遺伝子の減衰を有さない、突然変異光合成生物。
[本発明1002]
実質的に同じ条件下で成長または培養させた対照光合成生物よりも、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも100%多くのバイオマス、または少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも100%多くの、少なくとも1つのバイオ産物を産生する、本発明1001の突然変異光合成生物。
[本発明1003]
対照光合成微生物と比べて、減少したクロロフィルを有する、本発明1001の突然変異光合成生物。
[本発明1004]
対照光合成生物と比べて、上昇したクロロフィルa:b比を有する、本発明1003の突然変異光合成生物。
[本発明1005]
対照光合成生物と比べて、減少した光化学系II(PSII)アンテナサイズを有する、本発明1001の突然変異光合成生物。
[本発明1006]
対照光合成生物と比べて、より高い 14 C Pmaxを有する、本発明1001の突然変異光合成生物。
[本発明1007]
対照生物よりも高いFv/Fmを有する、本発明1001の突然変異光合成生物。
[本発明1008]
対照生物よりも高いタンパク質含有量を有する、本発明1001の突然変異光合成生物。
[本発明1009]
対照生物よりも高いrubisco活性化酵素含有量を有する、本発明1001の突然変異光合成生物。
[本発明1010]
植物である、本発明1001~1009のいずれかの突然変異光合成生物。
[本発明1011]
藻類である、本発明1001~1009のいずれかの突然変異光合成生物。
[本発明1012]
緑藻植物または車軸藻類である、本発明1011の突然変異光合成生物。
[本発明1013]
緑藻綱、クロロデンドロン藻綱、プラシノ藻綱、またはトレボウクシア藻綱の科の緑藻植物である、本発明1012の突然変異藻類微生物。
[本発明1014]
対照微生物と比べて、減少した光化学系II(PSII)アンテナサイズを有する、本発明1011の突然変異藻類微生物。
[本発明1015]
PSIIアンテナサイズの断面単位サイズが、対照微生物のPSIIアンテナの断面単位サイズと比べて、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、または少なくとも50%減少している、本発明1014の突然変異藻類微生物。
[本発明1016]
対照藻類微生物と比べて、上昇したPmax( 14 C)を有する、本発明1011の突然変異藻類微生物。
[本発明1017]
Pmax( 14 C)が、対照微生物のPmax( 14 C)と比べて、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、または少なくとも50%上昇している、本発明1016の突然変異藻類微生物。
[本発明1018]
対照藻類微生物と比べて、減少したクロロフィル含有量を有する、本発明1011の突然変異藻類微生物。
[本発明1019]
対照藻類微生物と比べて、減少した量のクロロフィルbを有する、本発明1018の突然変異藻類微生物。
[本発明1020]
対照藻類微生物と比べて、少なくとも20%少ないクロロフィルを有する、本発明1018の突然変異藻類微生物。
[本発明1021]
対照藻類微生物と比べて、少なくとも20%少ないクロロフィルbを有する、本発明1019の突然変異藻類微生物。
[本発明1022]
対照藻類微生物よりも高いタンパク質含有量を有する、本発明1001の突然変異藻類微生物。
[本発明1023]
対照藻類微生物よりも全有機炭素率(パーセント)で少なくとも10%多いタンパク質を有する、本発明1022の突然変異藻類微生物。
[本発明1024]
対照藻類微生物よりも全有機炭素率(パーセント)で少なくとも20%多いタンパク質を有する、本発明1023の突然変異藻類微生物。
[本発明1025]
対照藻類微生物と比べて、少なくとも10個のLHC遺伝子の発現の低下を有する、本発明1001の突然変異藻類微生物。
[本発明1026]
対照藻類微生物と比べて、リブロースビスホスフェートカルボキシラーゼアクチベーター(RA)ポリペプチドの存在量の増加を有する、本発明1001の突然変異微生物。
[本発明1027]
リブロースビスホスフェートカルボキシラーゼアクチベーターポリペプチドが、対照藻類微生物における存在量の少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、または少なくとも2.5倍である、本発明1026の突然変異微生物。
[本発明1028]
緑藻植物または車軸藻類である、本発明1001の突然変異藻類微生物。
[本発明1029]
緑藻綱、クロロデンドロン藻綱、プラシノ藻綱、またはトレボウクシア藻綱の科の緑藻植物である、本発明1028の突然変異藻類微生物。
[本発明1030]
緑藻綱のメンバー、任意で、アルテロモナス(Asteromonas)、アンキストロデスムス(Ankistrodesmus)、カルテリア(Carteria)、クラミドモナス(Chlamydomonas)、クロロコッカム(Chlorococcum)、クロロゴニウム(Chlorogonium)、クリソスファエラ(Chrysosphaera)、ドナリエラ(Dunaliella)、ヘマトコッカス(Haematococcus)、モノラフィディウム(Monoraphidium)、ネオクロリス(Neochloris)、オエドゴニウム(Oedogonium)、ペラゴモナス(Pelagomonas)、プレウロコッカス(Pleurococcus)、ピロボツリス(Pyrobotrys)、イカダモ(Scenedesmus)、およびボルボックス(Volvox)からなる群から選択される属の種である、本発明1028の突然変異藻類微生物。
[本発明1031]
クロロデンドロン藻綱のメンバー、任意で、プラシノクラダス(Prasinocladus)、スケルフェリア(Scherffelia)、およびテトラセルミス(Tetraselmis)からなる群から選択される属の種である、本発明1028の突然変異藻類微生物。
[本発明1032]
プラシノ藻綱のメンバー、任意で、オストレオコッカスまたはミクロモナスの種である、本発明1028の突然変異藻類微生物。
[本発明1033]
トレボウクシア藻綱のメンバーであり、任意で、ボツリオコッカス(Botryococcus)、クロレラ(Chlorella)、オキセノクロレラ(Auxenochlorella)、ヘベオクロレラ(Heveochlorella)、マリニクロレラ(Marinichlorella)、パラクロレラ(Parachlorella)、シュードクロレラ(Pseudochlorella)、テトラクロレラ(Tetrachlorella)、エレモスファエラ(Eremosphaera)、フランケイア(Franceia)、ミクラクチニウム(Micractinium)、ナンノクロリス(Nannochloris)、オオキスティス(Oocystis)、ピコクロラム(Picochlorum)、プロトテカ(Prototheca)、スチココックス(Stichococcus)、またはビリジエラ(Viridiella)からなる群から選択される属の種である、本発明1028の突然変異藻類微生物。
[本発明1034]
クロレラ、オキセノクロレラ、ヘベオクロレラ、マリニクロレラ、パラクロレラ、シュードクロレラ、およびテトラクロレラからなる群から選択される属のものである、本発明1028の突然変異藻類微生物。
[本発明1035]
藻類産物の製造方法であって、該産物を産生するために本発明1001の藻類突然変異体を培養することを含む、方法。
[本発明1036]
培養物から産物を回収することをさらに含む、本発明1035の方法。
[本発明1037]
産物がバイオマスである、本発明1035の方法。
[本発明1038]
藻類産物が、1つ以上の脂質、タンパク質、ポリケチド、テルペノイド、色素、抗酸化物質、ビタミン、ヌクレオチド、核酸、アミノ酸、炭水化物、アルコール、ホルモン、サイトカイン、ペプチド、またはポリマーである、本発明1035の方法。
[本発明1039]
産物が、1つ以上の脂質である、本発明1038の方法。
[本発明1040]
産物がトリアシルグリセリドである、本発明1039の方法。
[本発明1041]
藻類産物が、1つ以上のタンパク質である、本発明1038の方法。
[本発明1042]
培養がバッチ式、半連続式、または連続式である、本発明1035の方法。
[本発明1043]
培養が、栄養素豊富条件下である、本発明1035の方法。
[本発明1044]
培養が、窒素欠乏条件下である、本発明1035の方法。
[本発明1045]
それが由来する祖先藻類と比べてより高い生産性を有する突然変異藻類を単離する方法であって、
光独立栄養性の半連続的条件下または連続的条件下で少なくとも30世代にわたって藻類株を培養することと、
培養物から少なくとも1つの株を単離することであって、該少なくとも1つの単離された株が、祖先藻類よりも高い成長速度を有する、単離することと、
それによって、それが由来する祖先藻類と比べてより高い生産性を有する突然変異藻類を単離することと
を含む、方法。
[本発明1046]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、少なくとも500μEの強度の光へ曝露することを含む、本発明1045の方法。
[本発明1047]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、少なくとも600μEの強度の一定の光へ曝露することを含む、本発明1046の方法。
[本発明1048]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、少なくとも800μEの強度の光へ曝露することを含む、本発明1046の方法。
[本発明1049]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、少なくとも1000μEの強度の光へ曝露することを含む、本発明1064の方法。
[本発明1050]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、少なくとも1200μEの強度の光へ曝露することを含む、本発明1046の方法。
[本発明1051]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、少なくとも1500μEの強度の光へ曝露することを含む、本発明1046の方法。
[本発明1052]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、少なくとも2000μEの強度の光へ曝露することを含む、本発明1051の方法。
[本発明1053]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、少なくとも2500μEの強度の光へ曝露することを含む、本発明1052の方法。
[本発明1054]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、5x10 6 細胞/mL未満の密度で藻類培養物を維持することを含む、本発明1045の方法。
[本発明1055]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、2.5x10 6 細胞/mL未満の密度で藻類培養物を維持することを含む、本発明1045の方法。
[本発明1056]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、約1.5x10 6 細胞/mL未満またはそれと同等の密度で藻類培養物を維持することを含む、本発明1045の方法。
[本発明1057]
光独立栄養性の半連続的条件または連続的培養条件が、約1x10 6 細胞/mL未満またはそれと同等の密度で藻類培養物を維持することを含む、本発明1045の方法。
[本発明1058]
藻類株が、光独立栄養性の半連続的条件または連続的条件下で培養する前に突然変異誘発されている、本発明1045の方法。
[本発明1059]
藻類株が、UV、化学的突然変異誘発、挿入的突然変異誘発、または標的ゲノム編集を用いて突然変異誘発されている、本発明1054の方法。
[本発明1060]
単離された突然変異藻類のSGI1遺伝子座の少なくとも一部を増幅するためにPCRを実施することをさらに含む、本発明1045の方法。
[本発明1061]
単離された突然変異藻類のSGI1遺伝子座の少なくとも一部を配列決定することをさらに含む、本発明1041の方法。
[本発明1062]
単離された突然変異藻類のゲノムを配列決定することをさらに含む、本発明1045の方法。
[本発明1063]
単離された突然変異藻類の生産性をアッセイすることをさらに含む、本発明1045の方法。
[本発明1064]
藻類株が、光独立栄養性の半連続的条件または連続的条件下で少なくとも100世代培養される、本発明1045の方法。
[本発明1065]
高生産性突然変異体を選択する方法であって、
a)藻類の集団を突然変異誘発することと、
b)蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いて、突然変異誘発された藻類の集団の低クロロフィル蛍光細胞を選択することと、
c)選択された低クロロフィル蛍光細胞の単離系統をマルチウェルプレートに分配することと、
d)選択された低クロロフィル蛍光細胞を光化学系II(PSII)アンテナサイズ、Fv/Fmについてスクリーニングすることと、
e)野生型細胞と比べて、減少したPSIIアンテナサイズ、上昇したFv/Fm、および増加したを有する、少なくとも1つの細胞系を選択することと
を含む、方法。
[本発明1066]
選択された細胞系が、少なくとも20%減少したPSIIアンテナサイズを有する、本発明1065の方法。
[本発明1067]
選択された細胞系が、少なくとも10%上昇したFv/Fmを有する、本発明1065の方法。
[本発明1068]
選択された細胞系が、少なくとも10%上昇した、本発明1065の方法。
[本発明1069]
上昇したPmax(C)についてスクリーニングすることをさらに含む、本発明1065の方法。
[本発明1070]
生産性アッセイを実施することをさらに含む、本発明1065の方法。
[本発明1071]
単離系統のゲノムの少なくとも一部を配列決定することをさらに含む、本発明1065の方法。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】連続光による半連続培養条件下(1日65%の希釈、2000μE、1%CO2)での、WT-1185と比較した、パラクロレラ古典的突然変異体A)NE-7843およびB)NE-13380のTOC生産性の向上を示すグラフである。示されているデータは、生物学的複製培養物のものである。
図2】NE-7843およびNE-13380のゲノム配列決定により検出されたSNPの場所を表すパラクロレラT-2261(SGI1)遺伝子構造の図である。Cas9媒介挿入変異誘発のためのガイドRNAによって標的とされる場所もまた示されている。
図3】Cas9によって生成されたパラクロレラT-2261(SGI1)ノックアウト突然変異体のTOC生産性を示すグラフである。データは、連続光(2000μE)による半連続培養条件下で評価された3つの生物学的複製からの平均および標準偏差を表している。
図4】藻類SGI1ポリペプチドのレスポンスレギュレーターレシーバー(RR)ドメインのアラインメントを示す図である。示す配列は、パラクロレラ種 WT-1185(SEQ ID NO:58)、コッコミクサ・スベリプソイデア(Coccomyxa subellipsoidea)(SEQ ID NO:59)、オストレオコッカス・ルミナリヌス(Ostreococcus luminarinus)(SEQ ID NO:60)、クラミドモナス・レインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)(SEQ ID NO:61)、クロモクロリス・ゾフィンジエンシス(Chromochloris zofingiensis)(SEQ ID NO:62)、ボルボックス・カルテリ(Volvox carteri)(SEQ ID NO:63)、テトラセルミス種 105(SEQ ID NO:64)、オオキスティス種(SEQ ID NO:65)、およびミクロモナス種 RCC299(SEQ ID NO:66)である。
図5】藻類SGI1ポリペプチドのmybドメインのアラインメントを示す図である。示す配列は、パラクロレラ種 WT-1185(SEQ ID NO:40)、コッコミクサ・スベリプソイデア(SEQ ID NO:41)、オストレオコッカス・ルシマリヌス(SEQ ID NO:42)、クラミドモナス・レインハルディ(SEQ ID NO:43)、クロモクロリス・ゾフィンジエンシス(SEQ ID NO:44)、ボルボックス・カルテリ(SEQ ID NO:45)、テトラセルミス種 105(SEQ ID NO:46)、オオキスティス種 (SEQ ID NO:47)、およびミクロモナス種 RCC299(SEQ ID NO:48)である。
図6】FACS-FIReスクリーニング方法を示す概略図である。突然変異誘発は示されていないが、これはFACSの前に実施することができる。この方法では、生産性試験をさらに含むことができる。
図7】Cas9媒介突然変異誘発から生じるNE-07843およびNE-13380および標的指向性突然変異GE-13371、GE13380、GE-16345、GE-16346、GE-16347、GE-16399、GE-13232、GE-13428、およびGE-16980のゲノム配列決定によって検出されたSNPの場所を示すパラクロレラSGI1遺伝子構造の図である。ガイドRNAの場所は矢印で示されている。
図8】脂質、タンパク質および炭水化物含有量を決定するためのパラクロレラ野生型株WT-1185および古典的突然変異体NE-13380のバイオマスの微小近似分析の結果を示すグラフである。サンプルは、半連続系における定常状態の40%希釈/日に適した培養物から得た。FAME、炭水化物、およびアミノ酸は、分析物の各クラスの炭素含有量によって算出された各分画に割り当てられたTOC(%)として表される。タンパク質中のC(%)内の挿入数字は、実際の百分率値を示す。
図9】パラクロレラの15のLHC遺伝子(CP26を除く)について、親の野生型株WT-1185と比較してSGI1変異体NE-7843において下方制御されているトランスクリプトームデータに基づくヒートマップを示す図である。
図10】パラクロレラ野生型(WT-1185)およびSGI1古典的突然変異体(NE-7843およびNE-13380)のPSII、PSIおよびRubisco含有量のMRM分析の結果を示すグラフである。A)野生型WT-1185および突然変異体NE-7843におけるTOC当たりのPSI、PSII、およびRubiscoタンパク質複合体の数、B)野生型WT-1185および突然変異体NE-13380におけるTOC当たりのPSI、PSII、およびRubiscoタンパク質複合体の数、ならびにC)野生型WT-1185および突然変異体NE-13380中のPSI、PSII、およびRubiscoタンパク質複合体の数(タンパク質1グラム当たり)、D)微小近似分析(図8)と比較して、MRM分析において、TOC当たりのタンパク質が少ないことは、抽出効率が理想的でないことに関連している。
図11図11A)微量分析によるパラクロレラ野生型(WT-1185)およびSGI1古典的変異体NE-7843のPSII、PSIおよびRubisco活性化酵素(RA)含有量の差を示すグラフである。11B)パラクロレラ野生型(WT-1185)およびSGI1古典的変異体NE-7843におけるPSII、PSIおよびRubisco活性化酵素(RA)の定量化に使用されたウエスタンブロットを提供する。
図12】典型的な5月4日のカリフォルニア州インペリアルバレーをモデルとした日周の光において培養したSCPA(半連続)培養下において、SGI1突然変異体NE-7843が、バイオマスの生産性の増加を呈するグラフである。データは、生物学的三連測定値を表す。
図13】N豊富バッチEPICの日周の照射量条件下における体積TOC蓄積を示すグラフである。生物学的複製データは、WT-1185およびNE-13380について個別に示す。
図14A】野生型株WT-1185と比較して、N非含有バッチAFSモード下でのNE-07843株において観察された体積TOC生産性を示すグラフである。
図14B】野生型株WT-1185と比較して、N非含有バッチAFSモード下でのNE-07843株において観察された体積FAME生産性を示すグラフである。
図15】テトラセルミスSGI1対立遺伝子ならびにガイド標的配列MA1(ガイド1)およびJC2(ガイド2)の位置の図を提供する。
図16】A)TOC基準およびB)細胞基準でのCas9標的SGI1突然変異体のクロロフィル含有量を示すグラフであり、C)は、突然変異体クローンのクロロフィルa:b比を提供する。
図17】Cas9標的テトラセルミスSGI1突然変異体の光生理学測定結果を示すグラフである。A)450nmで測定したPSII断面、B)520nmで測定したPSII断面、C)FV/FM、およびD)PSII代謝回転速度。
図18】Cas9標的テトラセルミスSGI1突然変異体の光生理学測定結果を示すグラフである。A)細胞当たり14C Pmax、B)TOC当たり14C Pmax、およびC)成長速度。
図19】半連続24時間光培養系における2つのCas9標的テトラセルミスSGI1突然変異体株STR24096およびSTR24098の面積TOC生産性を示すグラフである。
図20】A)日周の半連続的培養系における、2つのCas9標的テトラセルミスSGI1変異株STR24096およびSTR24098の面積TOC生産性を示すグラフである。B)日周の半連続的培養系における、古典的に突然変異誘発させたパラクロレラSGI1突然変異株NE-7843の面積TOC生産性を示すグラフである。
図21】A)同じ日数の間成長させた野生型アラビドプシス植物(左側の4つのセクター)およびARR2突然変異アラビドプシス植物(右側の4つのセクター)を示す写真である。B)アラビドプシスの野生型植物およびARR2突然変異植物のクロロフィルaおよびクロロフィルb含有量を湿潤重量の百分率として示すグラフである。
図22A】23日目のアラビドプシスの野生型植物およびARR2突然変異植物の乾燥重量を示すグラフである。
図22B】23日目のアラビドプシスの野生型植物およびARR2突然変異植物の湿潤重量を示すグラフである。
図22C】18日目のアラビドプシスの野生型植物およびARR2突然変異植物の乾燥重量を示すグラフである。
図22D】18日目のアラビドプシスの野生型植物およびARR2突然変異植物の湿潤重量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
本明細書において提供されるのは、対照藻類と比べて、クロロフィルの減少、およびより高い光合成効率を有する藻類突然変異体であり、藻類突然変異体は、レスポンスレシーバードメインおよびホメオドメインを有するポリペプチドをコードする遺伝子の発現の減衰を有する。細菌性CheYタンパク質は、環境シグナルに応答して転写変化をもたらす二成分系の既知のメンバーである。
【0036】
定義
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾がある場合には、定義を含め、本出願が優先するものとする。文脈上別段の要求がない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。本出願内に提供されるすべての範囲は、特に明記しない限り、範囲の上限および下限の値を含む。
【0037】
本明細書で言及されているすべての刊行物、特許および他の参考文献は、各個々の刊行物または特許出願が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが示されているかのように、あらゆる目的でその全体が参照により組み込まれる。
【0038】
本明細書で「Aおよび/またはB」などの句で使用される用語「および/または」は、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」、および「B」を含むことを意図している。
【0039】
「約」とは、表示値の10%以内、表示値の5%以内、もしくは場合によっては表示値の2.5%以内のいずれかを意味するか、または「約」は、最も近い有効数字に四捨五入されていることを意味し得る。
【0040】
用語「遺伝子」は、ポリペプチドまたは発現RNAをコードしている核酸分子(典型的にはDNAであるが、任意でRNA)の任意のセグメントを指すために広く用いられる。したがって、遺伝子は、発現RNA(ポリペプチドコード配列、例えば、リボソームRNA、tRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNA、ショートヘアピンRNA、リボザイムなど機能的RNAを挙げることができる)をコードしている配列を含む。遺伝子は、それらの発現に必要な、またはそれらの発現に影響を及ぼす調節配列、ならびにその天然状態のタンパク質またはRNAコード配列に関連する配列、例えばイントロン配列、5’または3’非翻訳配列などをさらに含み得る。いくつかの例では、「遺伝子」は、DNAまたはRNA分子のタンパク質コード部分のみを指すことがある(イントロンを含んでいても、含んでいなくてもよい)。遺伝子は、好ましくは50ヌクレオチド長、より好ましくは100ヌクレオチド長であり、例えば50ヌクレオチド~500,000ヌクレオチド長、例えば100ヌクレオチド~100,000ヌクレオチド長、または約200~約50,000ヌクレオチド長さ、または約200ヌクレオチド~約20,000ヌクレオチド長であり得る。遺伝子は、目的の供給源からのクローニング、または既知のもしくは予測される配列情報からの合成など、様々な供給源から得ることができる。
【0041】
「核酸」または「核酸分子」という用語は、DNAもしくはRNA(例えば、mRNA)の任意のセグメントを指し、また修飾骨格を有する核酸(例えば、ペプチド核酸、ロック核酸)または修飾もしくは非天然核酸塩基を含む。核酸分子は、二本鎖または一本鎖であり得る。遺伝子またはその一部分を含む一本鎖核酸分子は、コーディング(センス)鎖または非コーディング(アンチセンス)鎖であり得る。
【0042】
核酸分子またはポリペプチドは、示された供給源からの核酸セグメントまたはポリペプチドの(全体的なまたは部分的な)単離を含む、示された供給源に「由来」し得る。核酸分子はまた、例えば、直接クローニング、PCR増幅、または示されたポリヌクレオチド供給源からの人工合成によって、または示されたポリヌクレオチド供給源に関連する配列に基づいて、示された供給源に由来し得る。これらは、例えば、生物種であり得る。
【0043】
特定の供給源または種に由来する遺伝子または核酸分子としては、供給源核酸分子に対して配列修飾を有する遺伝子または核酸分子も挙げられる。すなわち、遺伝子または核酸分子の配列は、参照された供給源または種に由来する遺伝子または核酸分子の配列に由来するが、修飾を有し得る配列に由来する。例えば、ある供給源(例えば、特定の参照遺伝子)由来の遺伝子または核酸分子は、意図しない、または故意に導入された、供給源遺伝子または核酸分子に対する1つ以上の突然変異を含み得る。置換、欠失、もしくは挿入など、1つ以上の突然変異が故意に導入された場合、これらの配列の変化は、増幅もしくは他の遺伝子合成もしくは分子生物学的技術、または化学合成、またはこれらの組み合わせによって、細胞もしくは核酸の無作為突然変異もしくは標的指向性突然変異によって導入され得る。機能性RNAもしくはポリペプチドをコードする参照遺伝子もしくは核酸分子に由来する遺伝子もしくは核酸分子は、参照機能性RNAもしくはポリペプチドもしくは供給源の機能性RNAもしくはポリペプチド、またはそれらの機能的断片と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有する機能性RNAもしくはポリペプチドをコードすることができる。例えば、機能性RNAもしくはポリペプチドをコードする参照遺伝子もしくは核酸分子に由来する遺伝子もしくは核酸分子は、参照機能性RNAもしくはポリペプチドもしくは供給源の機能性RNAもしくはポリペプチド、またはそれらの機能的断片と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する機能性RNAもしくはポリペプチドをコードすることができる。
【0044】
同様に、特定の供給源または種に由来するポリペプチドまたはタンパク質としては、供給源プロペプチドに対して配列修飾を有するポリペプチドまたはタンパク質が挙げられ、すなわち、ポリペプチドは、修飾を有し得る参照供給源または種に由来するポリペプチドの配列に由来する。例えば、ある供給源に由来するポリペプチドまたはタンパク質(例えば、特定の参照タンパク質)は、意図しないまたは故意に導入された(例えば、コード核酸分子の突然変異によって)供給源ポリペプチドに対して1つ以上の突然変異(アミノ酸の差異)を含み得る。参照ポリペプチドに由来するポリペプチドは、参照ポリペプチドまたは供給源ポリペプチドと、またはその機能的断片と少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有し得る。例えば、参照ポリペプチドに由来するポリペプチドは、参照ポリペプチドまたは供給源ポリペプチドと、またはその機能的断片と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有し得る。
【0045】
本明細書で使用されるとき、「単離された」核酸またはタンパク質は、その天然の環境または核酸またはタンパク質が天然に存在する状況から取り出される。例えば、単離されたタンパク質または核酸分子は、それがその天然のまたは天然環境において会合している細胞または生物から取り出される。単離された核酸またはタンパク質は、場合によっては、部分的または実質的に精製されていてもよいが、単離のために特定の精製レベルは求められていない。したがって、例えば、単離された核酸分子は、それが天然に組み込まれている染色体、ゲノム、またはエピソームから切り取られた核酸配列であり得る。
【0046】
「精製された」核酸分子もしくはヌクレオチド配列、またはタンパク質もしくはポリペプチド配列は、細胞材料および細胞成分を実質的に含まない。精製された核酸分子またはタンパク質は、例えば緩衝液または溶媒以外に化学物質を実質的に含まなくてもよい。「実質的に含まない」とは、新規核酸分子以外の他の成分が検出不可能であることを意味することを意図するものではない。
【0047】
「天然に存在する」および「野生型」という用語は、天然に見られる形態を指す。例えば、天然に存在するまたは野生型の核酸分子、ヌクレオチド配列またはタンパク質は、天然の供給源に存在し、かつそこから単離されてもよく、またヒトの操作によって意図的に改変されていない。
【0048】
本明細書において使用される場合、「減衰された」とは、量、程度、強度、または強さが減少したことを意味する。減衰された遺伝子は、減衰されていない遺伝子、または野生型遺伝子と比較して、そのコードされた産物の産生がより少なく、かつ/またはより機能的でないコードされた産物を産生する遺伝子である。いくつかの例では、減衰された遺伝子はそのコードされた産物を全く産生しないか、または完全に不活性である遺伝子産物(ポリペプチド)を産生できる。減衰された遺伝子発現は、問題の遺伝子の有意に低下した量および/もしくは転写速度、またはコードされたタンパク質の翻訳、折り畳み、もしくは組み立ての有意に低下した量および/もしくは転写速度を意味し得る。非限定的な例として、減衰された遺伝子は、完全な機能的オープンリーディングフレームをコードしないか、または遺伝子調節配列の変更もしくは妨害による発現の減少を有する突然変異遺伝子または妨害遺伝子(例えば、部分的もしくは完全欠失、短縮、フレームシフト、または挿入突然変異によって妨害された遺伝子)であり得る。減衰された遺伝子はまた、コードされたポリペプチドのアミノ酸配列に影響を及ぼす1つ以上の突然変異を有する遺伝子であり得、コードされたポリペプチドは、突然変異(複数可)によって量および/または活性が低減されている。減衰された遺伝子はまた、例えばアンチセンスRNA、マイクロRNA、RNAi分子、またはリボザイムなどの、遺伝子の発現を減少させる構築物によって標的とされた遺伝子であり得る。減衰された遺伝子発現は、遺伝子発現の消失、例えば、遺伝子発現の微量または検出不可能な量までの減少であり得る。減衰された遺伝子発現はまた、完全に機能的ではないまたは非機能的なRNAまたはタンパク質をもたらす遺伝子発現であり得、例えば、減衰された遺伝子発現は、短縮型RNAおよび/またはポリペプチドをもたらす遺伝子発現であり得る。
【0049】
「外因性核酸分子」または「外因性遺伝子」は、細胞に導入された(「形質転換された」)核酸分子または遺伝子を指す。形質転換細胞は、組換え細胞と称されることがあり、内部に追加の外因性遺伝子(複数可)が導入され得る。核酸分子により形質転換された細胞の子孫は、外因性核酸分子を受け継いでいる場合には、「形質転換された」とも称される。外因性遺伝子または核酸分子は、形質転換されている細胞に関して、異なる種(したがって「異種」)または同じ種(したがって「同種」)に由来し得る。「内因性」核酸分子、遺伝子またはタンパク質は、宿主中に存在するか、または宿主によって天然に産生されるため、天然の核酸分子、遺伝子またはタンパク質である。
【0050】
用語「天然の」は、本明細書では、宿主中に天然に存在する核酸配列またはアミノ酸配列を指すために使用される。用語「非天然」は、本明細書では、宿主中に天然には存在しない核酸配列またはアミノ酸配列を指すのに使用される。したがって、「非天然」核酸分子は、宿主細胞に天然には存在しない核酸分子であり、例えば、非天然核酸分子は、導入される宿主細胞または微生物にとって外因性であり、宿主細胞または微生物に対して異種であり得る。さらに、細胞から取り出され、実験室操作に供され、宿主細胞に導入または再導入され、かつ、これにより、操作されていない生物におけるその位置に対して、ゲノム中の配列または位置が異なる(すなわち、非形質転換生物において並置されていない、または作動可能に連結されていない配列と並置されているか、または作動可能に連結されている)ようになっている核酸配列またはアミノ酸配列は、「非天然」である。非天然遺伝子としては、宿主ゲノム中に再結合された1つ以上の異種調節配列に作動可能に連結された、宿主微生物にとって内因性の遺伝子も挙げられる。
【0051】
「組換え」または「操作された」核酸分子は、ヒトの操作によって改変された核酸分子である。非限定的な例として、組換え核酸分子は、以下の任意の核酸分子が挙げられる:1)例えば、化学的または酵素的技術を用いて(例えば、化学的核酸合成を用いることによる、または核酸分子の複製、重合、消化(エキソヌクレアーゼまたはエンドヌクレアーゼ)、ライゲーション、逆転写、転写、塩基修飾(例えば、メチル化など)、組み込みまたは組換え(相同および部位特異的組換えなど)のための酵素を用いることによる)インビトロで部分的にまたは完全に合成または修飾されている;2)本来結合していない結合ヌクレオチド配列を含んでいる;3)天然に存在する核酸分子配列に対して、1つ以上のヌクレオチドを欠くように分子クローニング技術を用いて操作されている;かつ/または4)天然に存在する核酸配列に対して、1つ以上の配列変化または再配置を有するように分子クローニング技術を用いて操作されている。非限定的な例として、cDNAは、in vitroポリメラーゼ反応(複数可)によって生成された、またはリンカーが付着した、またはベクター(クローニングベクターもしくは発現ベクターなど)に組み込まれた任意の核酸分子と同様に、組換えDNA分子である。
【0052】
本明細書で使用される「組換えタンパク質」という用語は、アミノ酸が野生型タンパク質のものと異なるか否かにかかわらず、遺伝子操作によって産生されるタンパク質を指す。
【0053】
生物に適用する場合、組換え、操作された、または遺伝子操作されたという用語は、異種または外因性の組換え核酸配列(例えば、非天然核酸配列)をその生物に導入することによって操作された生物を指す。これには、遺伝子ノックアウト、標的指向性突然変異、遺伝子置換、およびプロモーター置換、欠失、妨害、または挿入、ならびに導入遺伝子または合成遺伝子または核酸配列の生物への導入が挙げられる。すなわち、組換え、操作された、または遺伝子操作されたは、ヒトの介入によって改変された生物を指す。組換え生物または遺伝子操作生物もまた、遺伝子「ノックダウン」のための構築物が導入されている生物であり得る。こうした構築物としては、これらに限定されないが、RNAi、microRNA、shRNA、siRNA、アンチセンス、およびリボザイム構築物が挙げられる。また、そのゲノムがメガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、またはcas/CRISPR系の活性によって改変されている生物も挙げられる。外因性または組換え核酸分子は、組換え/遺伝子操作された生物のゲノムに組み込まれ得るか、または他の場合には宿主ゲノムに組み込まれなくてもよい。本明細書において使用される場合、「組換え微生物」または「組換え宿主細胞」としては、本発明の組換え微生物の子孫または派生物が挙げられる。突然変異または環境の影響のいずれかにより、後続の世代においてある種の改変が起こり得るので、こうした子孫または派生物は、実際に、親細胞と同一ではない可能性もあるが、それでも本明細書で用いる用語の範囲内に含まれる。
【0054】
用語「プロモーター」は、細胞内のRNAポリメラーゼに結合し、かつ下流(3’方向)コード配列の転写を開始することができる核酸配列を指す。プロモーターは、バックグラウンドを超えて検出可能なレベルで転写を開始するのに必要な最小数の塩基またはエレメントを含む。プロモーターは、転写開始部位ならびにRNAポリメラーゼの結合を担うタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)を含み得る。真核生物プロモーターは、常にではないが、多くの場合「TATA」ボックスおよび「CAT」ボックスを含む。原核生物プロモーターは、-10および-35原核生物プロモーターコンセンサス配列を含み得る。種々の異なる供給源からの構成的、誘導性および抑制性プロモーターなど、多数のプロモーターが当該分野において周知である。代表的な供給源としては、例えば、藻類、ウイルス、哺乳動物、昆虫、植物、酵母、および細菌の細胞型が挙げられ、これらの供給源由来の好適なプロモーターは容易に入手可能であるか、または、オンラインで、もしくは、例えば、ATCCなどの寄託機関ならびに他の商業的もしくは個々の供給源から公的に利用可能な配列に基づいて、合成により作製できる。プロモーターは、一方向性(一方向に転写を開始する)または双方向性(いずれかの方向に転写を開始する)であり得る。プロモーターは、構成的プロモーター、抑制性プロモーター、または誘導性プロモーターであり得る。プロモーター領域は、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始する遺伝子近位プロモーターに加えて、遺伝子の転写開始部位の1kb、2kb、3kb、4kb、5kbまたはそれ以上の範囲内であり得る遺伝子の上流のさらなる配列を含み得る。この追加の配列は、下流遺伝子の転写速度、および任意で発生的、環境的または生化学的(例えば、代謝的)条件に対するプロモーターの応答性に影響を及ぼし得る。
【0055】
ポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチド、または酵素に関して使用される場合の「異種」という用語は、宿主生物の種以外の供給源からのものであるかそれに由来するポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチド、または酵素を指す。対照的に、「相同な」ポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチド、または酵素は、宿主生物種に由来するポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチド、または酵素を示すために本明細書で使用される。遺伝子調節配列または遺伝子配列を維持または操作するために使用される補助核酸配列(例えば、プロモーター、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域、ポリA付加配列、イントロン配列、スプライス部位、リボソーム結合部位、内部リボソーム進入配列、ゲノム相同領域、組換え部位など)を指す場合、「異種」は、構築物、ゲノム、染色体、またはエピソームにおいて、調節配列または補助配列が、調節核酸配列または補助核酸配列が並置されている遺伝子と天然では会合していないことを意味する。したがって、その天然状態において(すなわち、遺伝子操作されていない生物のゲノムにおいて)作動可能に連結されていない遺伝子に作動可能に連結されているプロモーターは、プロモーターが、連結している遺伝子と同じ種(または、場合によっては同じ生物)に由来している場合であっても、本明細書においては、「異種プロモーター」と呼ばれる。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「タンパク質」または「ポリペプチド」は、単数の「ポリペプチド」および複数の「ポリペプチド」を包含することを意図し、また、アミド結合(ペプチド結合としても公知である)によって直線状に連結されたモノマー(アミノ酸)からなる分子を指す。用語「ポリペプチド」は、2つ以上のアミノ酸の任意の鎖(複数可)を指し、特定の長さの産物を指すものではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2つ以上のアミノ酸の鎖(複数可)を指すために使用される他の任意の用語は、「ポリペプチド」の定義内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これらの用語のいずれかの代わりに、またはそれらと交換可能に使用できる。
【0057】
遺伝子およびタンパク質の受託番号は、一般に遺伝子名または種名の後に括弧で括られており、米国国立衛生研究所が管理する国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のウェブサイト(ncbi.nlm.nih.gov)で公的に入手可能である配列記録の一意の識別子である。「GenInfo Identifier」(GI)配列識別番号は、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列に特異的である。配列が何らかの形で変化した場合は、新しいGI番号が割り当てられる。配列改訂履歴ツール(Sequence Revision History tool)は、特定のGenBankレコードに現れる配列の様々なGI番号、バージョン番号、および更新日を追跡するために、利用可能である。受託番号およびGI番号に基づいて核酸または遺伝子配列またはタンパク質配列を検索し、取得することは、例えば、細胞生物学、生化学、分子生物学、および分子遺伝学の分野において周知である。
【0058】
本明細書で使用される場合、核酸またはポリペプチド配列に関する用語「同一性パーセント」または「相同性」は、最大の同一性パーセントとなるように配列を整列させ、かつ必要に応じて、最大相同性を達成するためにギャップを導入した後の、既知のポリペプチドと同一である候補配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸残基のパーセンテージ(百分率)として定義される。N末端またはC末端の挿入または欠失は、相同性に影響を及ぼすと解釈されてはならず、約30未満、約20未満、または約10未満のアミノ酸残基に対する内部欠失および/またはポリペプチド配列への挿入は、相同性に影響を及ぼすと解釈されてはならない。ヌクレオチドまたはアミノ酸配列レベルでの相同性または同一性は、プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastx(Altschul(1997年)、Nucleic Acids Res.25、3389-3402、およびKarlin(1990年)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA87、2264-2268)が用いるアルゴリズムを使用したBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)分析によって決定でき、これらは配列類似性検索用に調整されている。BLASTプログラムによって使用されるアプローチでは、最初に、クエリ配列とデータベース配列との間のギャップの有無で類似セグメントを考慮し、次に同定されたすべての一致の統計的有意性を評価し、最後に、事前に選択された重要度のしきい値を満たすそれらの一致のみを要約する。配列データベースの類似性検索における基本的な問題の議論については、Altschul(1994年)、Nature Genetics 6、119-129を参照されたい。ヒストグラム、説明、アライメント、期待値(すなわち、データベース配列に対する一致を報告するための統計的有意性のしきい値)、カットオフ、行列、およびフィルター(低複雑度)の検索パラメータは、デフォルト設定であり得る。blastp、blastx、tblastn、およびtblastxによって使用されるデフォルトのスコアリングマトリックスは、BLOSUM62マトリックスであり(Henikoff(1992年)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA89、10915-10919)、長さ85を超えるクエリ配列(ヌクレオチド塩基またはアミノ酸)に推奨される。
【0059】
ヌクレオチド配列を比較するために設計されたblastnの場合、スコアリングマトリックスは、M(すなわち、一対の一致残基に対する報酬スコア)対N(すなわち、不一致残基に対するペナルティスコア)の比によって設定される。Mのデフォルト値は+5であり、Nのデフォルト値は、-4である。4つのblastnパラメータは、次のように調整できる:Q=10(ギャップ作成ペナルティ);R=10(ギャップ延長ペナルティ);wink=1(クエリに沿ってすべてのウインク位置に単語ヒットを生成する);およびgapw=16(ギャップのあるアライメントが生成されるウィンドウ幅を設定する)。アミノ酸配列を比較するための等価のBlastpパラメータ設定は、以下であり得る:Q=9;R=2;wink=1;およびgapw=32。GCGパッケージバージョン10.0で利用可能な配列間のベストフィット比較は、DNAパラメータGAP=50(ギャップ生成ペナルティ)およびLEN=3(ギャップ伸長ペナルティ)を使用することができ、タンパク質比較における等価設定は、GAP=8およびLEN=2であり得る。
【0060】
本明細書で使用される場合、句「保存的アミノ酸置換」または「保存的突然変異」は、共通の性質を有する別のアミノ酸により、1つのアミノ酸を置換することを指す。個々のアミノ酸間の共通の性質を定義する機能的方法は、相同生物の対応するタンパク質間におけるアミノ酸変化の正規化した頻度を分析することである(Schulz(1979年)Principles of Protein Structure、Springer-Verlag)。こうした分析によれば、グループ内のアミノ酸が優先的に互いに交換するアミノ酸のグループを定義することができ、したがって、全タンパク質構造に対するそれらの影響において互いに最も類似している(Schulz(1979年)Principles of Protein Structure、Springer-Verlag)。このように定義されるアミノ酸基の例は、以下を挙げることができる:Glu、Asp、Asn、Gln、Lys、Arg、およびHisなどの「荷電/極性基」;Pro、Phe、Tyr、およびTrpなどの「芳香族または環式基」;ならびにGly、Ala、Val、Leu、Ile、Met、Ser、Thr、およびCysなどの「脂肪族基」。各グループ内で、サブグループも同定可能である。例えば、荷電/極性アミノ酸の群は、以下のものを含む小群に細分することができる:Lys、ArgおよびHisを含む「正荷電サブグループ」;GluおよびAspを含む「負荷電サブグループ」;AsnおよびGlnを含む「極性サブグループ」。別の例では、芳香族基または環式基は、以下のものを含むサブグループに細分することができる:Pro、His、およびTrpを含む「窒素環サブグループ」;およびPheおよびTyrを含む「フェニルサブグループ」。別のさらなる例では、脂肪族基は、以下を含むサブグループに細分することができる:Val、Leu、およびIleを含む「大脂肪族非極性サブグループ」;Met、Ser、Thr、およびCysを含む「脂肪族微極性サブグループ」;GlyおよびAlaを含む「小残基サブグループ」。保存的突然変異の例としては、これらに限定されるものではないが、以下など上記サブグループ内のアミノ酸のアミノ酸置換が挙げられる:正電荷を維持できるように、AspではLys、またはその逆;負電荷を維持できるように、AspではGlu、またはその逆;遊離-OHを維持できるように、ThrではSer、またはその逆;遊離-NH2を維持できるように、AsnではGln、またはその逆。「保存的変異体」は、参照ポリペプチド(例えば、その配列が刊行物もしくは配列データベースに開示されているか、または核酸シーケンシングによって決定された配列のポリペプチド)の1つ以上のアミノ酸を、例えば、上で説明したものと同じアミノ酸グループもしくはサブグループに属している共通の特性を有するアミノ酸と交換するために置換された1つ以上のアミノ酸を含むポリペプチドである。
【0061】
本明細書において使用される場合、「発現」は、少なくともRNAの産生レベルでの遺伝子の発現を含み、「発現産物」としては、結果として得られた産物、例えば、発現遺伝子のポリペプチドまたは機能性RNA(例えば、リボソームRNA、tRNA、アンチセンスRNA、microRNA、shRNA、リボザイムなど)が挙げられる。「発現の増加」という用語には、mRNA産生の増大および/またはポリペプチド発現の増加を促進するための遺伝子発現の変化を含む。「(遺伝子産物の)産生の増加」は、ポリペプチドの天然の産生もしくは酵素活性と比較して、ポリペプチドの発現量の増加、ポリペプチドの酵素活性のレベルの上昇、またはその両方の組み合わせを含む。
【0062】
本発明のいくつかの態様は、特定のポリヌクレオチド配列の発現の部分的、実質的または完全な欠失、サイレンシング、不活性化、または下方制御を含む。遺伝子は、部分的に、実質的にまたは完全に欠失、サイレンシング、不活性化されてもよいか、またはその発現は、それらがコードするポリペプチドによって行われる活性(酵素の活性など)に影響を及ぼすために下方制御されてもよい。遺伝子は、遺伝子の機能および/または発現を妨害する核酸配列の挿入(例えば、ウイルス挿入、トランスポゾン突然変異誘発、メガヌクレアーゼ操作、相同組換え、または当技術分野で公知の他の方法)によって部分的、実質的または完全に欠失、サイレンシング、不活性化、または下方制御され得る。「消失する」、「消失」、および「ノックアウト」という用語は、「欠失」、「部分的欠失」、「実質的な欠失」、または「完全欠失」という用語と同義的に使用することができる。特定の実施形態では、目的の微生物は、目的の特定の遺伝子をノックアウトするために、cas/CRISPR系を使用する部位特異的相同組換えまたは標的組込みもしくは突然変異によって操作することができる。さらに他の実施形態では、cas/CRISPR系、RNAi、またはアンチセンスDNA(asDNA)構築物を用いた遺伝子調節領域への標的指向性挿入または突然変異を用いて、部分的に、実質的にまたは完全に特定の目的遺伝子のサイレンシングを行い、不活性化し、または下方制御し得る。
【0063】
特定の核酸分子または特定のポリヌクレオチド配列のこれらの挿入、欠失、または他の修飾は、得られる微生物または宿主細胞の株が「遺伝子改変」、「遺伝子操作」または「形質転換」されていることが理解され得るように、「遺伝子修飾(複数可)」または「形質転換(複数可)」を包含するものと理解され得る。
【0064】
本明細書で使用される場合、「上方制御された」または「上方制御」は、他の点では同一であるが上方制御されていない遺伝子または酵素における発現または活性と比較して、目的遺伝子もしくは目的核酸分子の発現の増加または酵素の活性の増大、例えば、遺伝子発現の増加、または酵素活性の増大を含む。
【0065】
本明細書で使用される場合、「下方制御された」または「下方制御」は、他の点では同一であるが下方制御されていない遺伝子または酵素における発現または活性と比較して、目的遺伝子もしくは目的核酸分子の発現の減少または酵素の活性の低下、例えば、遺伝子発現の減少、または酵素活性の低下を含む。
【0066】
本明細書で使用される場合、「突然変異体」とは、例えばガンマ線照射、UV、または化学的変異原を使用する、古典的な突然変異誘発の結果である突然変異を遺伝子中に有する生物を指すか、またはこれらに限定されないが、以下の遺伝子操作の結果として遺伝子の構造または発現を変化させた組換え生物である;異なる時間的、生物学的、もしくは環境的調節下での、および/または天然に発生するものとは異なる程度までの遺伝子の発現、および/または組換え細胞において天然に発現しない遺伝子の発現を含む過剰発現;ノックアウトおよびノックインなどの相同組換え(例えば、野生型ポリペプチドおよび/またはドミナントネガティブポリペプチドよりも高いまたは低い活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子による遺伝子置換);RNAi、アンチセンスRNA、またはリボザイムなどによる遺伝子の減衰;およびメガヌクレアーゼ、TALEN、および/またはCRISPR技術などを用いたゲノム操作など。したがって、突然変異体は、天然の生物ではなく、ヒトの介入の結果である。目的の突然変異生物は、典型的には、突然変異を有さない対応する野生型または祖先株とは異なる表現型を有しており、表現型は、成長アッセイ、生成物分析、光合成特性、生化学的アッセイなどによって評価することができる。遺伝子に言及するとき、「変異体」は、その遺伝子が、天然型または野生型の遺伝子に対して少なくとも1つの塩基(ヌクレオチド)の変化、欠失、または挿入を有することを意味する。突然変異(1つ以上のヌクレオチドの変化、欠失、および/または挿入)は、遺伝子のコード領域に存在してもよく、またはイントロン、3’UTR、5’UTR、またはプロモーター領域、例えば転写開始部位の2kb以内または翻訳開始部位の3kb以内に存在してもよい。例えば、本明細書に開示されるような遺伝子の発現が減衰している突然変異体は、5’遺伝子転写開始部位領域に対する1つ以上の核酸塩基変化および/または1つ以上の核酸塩基欠失および/または1つ以上の核酸塩基挿入であり得る突然変異を有し得る。例えば、非限定的な例において、既知または推定の転写開始部位の2kb以内、1.5kb以内、1kb以内、もしくは0.5kb以内、または翻訳開始部位の3kb以内、2.5kb以内、2kb以内、1.5kb以内、1kb以内、もしくは0.5kb以内である。非限定的な例として、突然変異遺伝子は、遺伝子の発現を増加させること、または減少させることのいずれかが可能であるプロモーター領域内に突然変異、挿入もしくは欠失を有する遺伝子であり得る;または非機能的タンパク質、切断型タンパク質、ドミナントネガティブタンパク質、もしくはタンパク質を含まない産生をもたらす欠失を有する遺伝子であり得る;またはコードされたタンパク質のアミノ酸の変化をもたらすか、もしくは結果として遺伝子転写物の異常なスプライシングなどとなる1つ以上の点突然変異を有する遺伝子であり得る。
【0067】
ポリペプチドの保存ドメインとしては、「cd」(保存ドメイン)データベース、COGデータベース、SMARTデータベース、PRKデータベース、TIGRFAMデータベース、InterProデータベース(ebi.ac.uk/interpro/)または他の既知のもので同定されたものが挙げられる。米国国立衛生研究所後援の国立バイオテクノロジー情報センターのウェブサイト(ncbi.nlm.nih.gov/Structure/cdd/wrpsb.cgi)には、古いドメインおよび完全長タンパク質のための十分に注釈が付けられている多重配列アラインメントモデルの集合から構成されている「タンパク質アノテーションリソース」として記載されている保存ドメインデータベース(CDD)が含まれている。これらは、RPS-BLASTを介したタンパク質配列中の保存ドメインを迅速に同定するための位置特異的スコアマトリックス(PSSM)として利用可能である。CDDコンテンツとしては、3D構造情報を使用してドメイン境界を明示的に画定し、配列/構造/機能の関係についての洞察を提供するNCBIキュレーションドメイン、ならびに複数の外部ソースデータベース(Pfam、SMART、COG、PRK、TIGRFAM)からインポートしたドメインモデルが挙げられる。
【0068】
用語「Pfam」は、Pfamコンソーシアムにより維持されており、以下のいくつかの後援ワールドワイドウエブサイトにおいて入手可能であるタンパク質ドメインおよびタンパク質ファミリーの大規模なコレクションを指す:pfam.sanger.ac.uk/(Welcome Trust, Sanger Institute);pfam.sbc.su.se (Stockholm Bioinformatics Center);pfam.janelia.org/(Janelia Farm,Howard Hughes Medical Institute);pfam.jouy.inra.fr/ (Institut national de la Recherche Agronomique);およびpfam.ccbb.re.kr。Pfamの最新リリースはPfam 30.0(2016年5月)である。Pfamドメインおよびファミリーは、多重配列アラインメントおよび隠れマルコフモデル(HMM)を用いて同定される。Pfam-Aファミリーまたはドメインアサインメントは、タンパク質ファミリーの代表的なメンバーおよびシードアラインメントに基づくプロファイル隠れマルコフモデルを使用して精選されたシードアラインメントによって生成される高品質のアサインメントである(特に指定のない限り、照会されたタンパク質とPfamドメインまたはファミリーとの一致はPfam-Aの一致である)。次いで、そのファミリーに属するすべての同定された配列を使用して、そのファミリーの完全アラインメントを自動的に生成する(Sonnhammer(1998年)Nucleic Acids Research 26、320-322;Bateman(2000年)Nucleic Acids Research 26、263-266;Bateman(2004年)Nucleic Acids Research 32、Database Issue、D138-D141;Finn(2006年)Nucleic Acids Research Database Issue 34、D247-251;Finn(2010年)Nucleic Acids Research Database Issue 38、D211-222)。例えば上記のウェブサイトのいずれかを使用してPfamデータベースにアクセスすることによって、タンパク質配列は、HMMER相同性検索ソフトウェア(例えば、HMMER2、HMMER3、またはそれ以降のバージョン、hmmer.janelia.org/)を用いてHMMに対して照会され得る。照会されたタンパク質をpfamファミリーにある(または特定のPfamドメインを有する)と同定する有意な一致は、ビットスコアがPfamドメインの収集しきい値以上であるものである。期待値(e値)はまた、照会されたタンパク質をPfamに含めるための基準として、または照会されたタンパク質が特定のPfamドメインを有するかどうかを判断するための基準として使用することができる。低e値(1.0よりはるかに小さい、例えば、0.1未満、もしくは0.01以下)は、一致が偶然によるものである可能性が低いことを表す。
【0069】
「cDNA」は、mRNA配列中に存在するウリジン(U)の代わりにDNA分子が核酸塩基チミン(T)を置換することを除いて、mRNA分子のヌクレオチド配列の少なくとも一部分を含むDNA分子である。cDNAは二本鎖または一本鎖であり得、例えばmRNA配列の相補体であり得る。好ましい例では、cDNAには、そのcDNAが対応する天然に存在する遺伝子(すなわち、生物のゲノムに存在する遺伝子)に存在する1つ以上のイントロン配列を含まない。例えば、cDNAは、天然に存在する遺伝子のイントロンの下流の配列に並置された天然に存在する遺伝子のイントロンの上流からの配列を有することができ、上流および下流の配列は、天然のDNA分子においては並置されていない(すなわち、これらの配列は、天然に存在する遺伝子においては並置されていない)。cDNAは、mRNA分子の逆転写によって産生され得るか、または例えば化学合成によって、および/または1つ以上の制限酵素、1つ以上のリガーゼ、1つ以上のポリメラーゼ(これらに限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に使用できる高温耐性ポリメラーゼ)、1つ以上のリコンビナーゼなどを用いて、cDNA配列の知識に基づいて合成され得る。cDNA配列の知識は、任意でゲノム配列由来のコード領域の同定に基づくか、または配列から複数の部分的cDNAを編集したものであってよい。
【0070】
意図する意味をさらに説明していない「実質的に同じ」または「実質的に同一」である特性への言及は、その特性がその基準値の10%以内、好ましくは5%以内であり、2.5%以内であり得ることを意味することを意図している。特定の文脈における「実質的に」の意図された意味が記載されていない場合、その用語は、本発明の文脈において重要であると考えられる特徴にとって重要ではない軽微で無関係の逸脱を含むために用いられる。
【0071】
「対照細胞」、「対照生物」もしくは「対照微生物」は、突然変異細胞、生物、もしくは微生物(遺伝子操作されたもしくは突然変異誘発された細胞、生物、または微生物)が直接もしくは間接的に由来する野生型細胞、生物もしくは微生物のいずれかであるか、または対照細胞、生物、もしくは微生物が生産性の増加をもたらす突然変異を有さないこと、例えば、対照細胞、生物、もしくは微生物は、SGI1遺伝子を減衰するように遺伝子操作もしくは変異誘発されていないことを除いて、言及された突然変異細胞、生物、もしくは微生物と実質的に同一である細胞、生物もしくは微生物である。例えば、組換え藻類がSGI1遺伝子に突然変異を含む場合、対照藻類は、SGI1遺伝子に突然変異を含まないことを除いて組換え藻類と実質的に同一であり得る。
【0072】
本明細書で使用される「同じ条件」または「同じ培養条件」は、実質的に同じ条件を意味し、すなわち、存在し得る言及された条件間の差異はいずれもわずかであり、脂質産生またはバイオマス産生など本発明の実体である微生物の機能または性質に関連しない。
【0073】
本明細書で使用されるとき、「脂質(複数可)」は、脂肪、ワックス、脂肪酸、脂肪アルコールなどの脂肪酸誘導体、ワックスエステル、アルカン、およびアルケン、ステロール、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、およびグリセロ脂質を指す。「FAME脂質」または「FAME」は、脂肪酸メチルエステルに誘導体化することができるアシル部分を有する脂質、例えばモノアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、トリアシルグリセリド、ワックスエステル、および膜脂質(例えばリン脂質、ガラクト脂質など)を指す。脂質生産性は、FAME生産性(単位1リットル当たりミリグラム(mg/L))として評価することができ、藻類については、1日当たりのグラム/メートル(g/m/日)として報告され得る。本明細書において提供される半連続アッセイでは、mg/L値は、入射照度面積(1 1/2インチx33/8インチのまたは0.003145mのSCPAフラスコラック開口部)および培養物量(550ミリリットル)を考慮して、g/m/日に変換される。生産性の値(単位g/m/日)を得るために、mg/L値に1日の希釈率(30%)と換算係数0.175を掛ける。脂質またはそのサブカテゴリ(例えば、TAGまたはFAME)が百分率として言及される場合、その百分率は、他に示されない限り重量パーセントである。
【0074】
本明細書で使用されるとき、用語「脂肪酸産物」としては、遊離脂肪酸、モノ、ジまたはトリグリセリド、脂肪アルデヒド、脂肪アルコール、脂肪酸エステル(これに限定されないが、ワックスエステルなど)、およびこれらに限定されないがアルカンおよびアルケンなどの炭化水素が挙げられる。
【0075】
「バイオマス」とは、生細胞または死細胞の細胞密度を指し、当技術分野で公知の方法を用いて、例えば、湿潤重量または吸引ペレット重量、または乾燥重量(例えば、培養サンプルまたはペレット細胞の凍結乾燥物)、無灰乾燥重量(AFDW)、または全有機炭素(TOC)として査定され得る。バイオマスは、成長許容条件下での培養物の成長中に増加し、例えばバッチ培養における「バイオマス蓄積」と称され得る。定常的または規則的な希釈を受ける連続的または半連続的培養において、そうでなければ培養物中に蓄積するであろう産生バイオマスが、培養物の希釈中に除去される。したがって、これらの培養による毎日のバイオマス生産性(バイオマスの増加)はまた、「バイオマス蓄積」とも呼ばれ得る。バイオマス生産性は、TOC生産性(単位1リットル当たりのミリグラム(mg/L))として評価することができ、藻類については、1日当たりのグラム/メートル(g/m/日)として報告され得る。本明細書において提供される半連続アッセイでは、mg/L値は、入射照度面積(1 1/2インチx33/8インチのまたは0.003145mのSCPAフラスコラック開口部)および培養物量(550ミリリットル)を考慮して、g/m/日に変換される。生産性の値(単位g/m/日)を得るために、mg/L値に1日の希釈率(30%)と換算係数0.175を掛ける。バイオマスが百分率で表される場合、その百分率は、他に示されない限り重量パーセントである。
【0076】
本発明の文脈において、「窒素源」は、対象微生物によって取り込まれ代謝され、成長および増殖のために生体分子に組み込まれ得る窒素の供給源である。例えば、成長のために微生物によって取り込まれること、および/または代謝することができない窒素などの化合物(例えば、Hepes、トリスなどの、窒素含有生物学的バッファ)は、本発明の文脈において窒素源とみなされない。
【0077】
本明細書で使用される「還元窒素」は、培養されている微生物によって取り込まれ、かつ代謝されて、生体分子に取り込まれるための窒素源を提供することができる、アンモニウム、アンモニア、尿素、またはアミノ酸の化学形態の窒素であり、これにより、成長を補助する。例えば、アンモニウム/アンモニアおよび尿素に加えて、還元窒素は種々のアミノ酸を含むことができ、アミノ酸(複数可)は、対象微生物に対する窒素源として役立ち得る。アミノ酸の例としては、グルタメート、グルタミン、ヒスチジン、リジン、アルギニン、アスパラギン、アラニン、およびグリシンが挙げられるが、これらに限定されない。微生物のための培地中に存在し得る窒素源の文脈における「非還元窒素」は、微生物による有機化合物への同化の前に還元されなければならない硝酸塩または亜硝酸塩を指す。
【0078】
「(培地中)の唯一の窒素源」は「実質的に唯一の窒素源」と同義的に使用され、他の窒素源が意図的に培地に添加されていないこと、または参照培地で培養された微生物または細胞の成長を有意に増大させるのに十分な量で他の窒素源が培地中に存在していないことを示す。本出願を通して、簡潔にするために、「硝酸塩のみ」という用語は、硝酸塩が、成長を補助するために微生物に利用可能な唯一の窒素源である培地を特徴付けるために使用される。
【0079】
同様に、「(培地中の)唯一の炭素源」は、「実質的に唯一の炭素源」と同義的に使用され、他の炭素源が、参照培地中で培養される微生物または細胞の生産性、成長、または増殖を増大させるか、または微生物もしくは細胞によって産生される脂質などの生体分子に組み込まれるのに十分な量で存在していないことを示す。
【0080】
「窒素が豊富な」条件は、培地に追加の窒素を(微生物によって使用され得る形態で)添加することによって、さらなる成長または増殖の利益が付与されることのない培地条件を指す。同様に、「栄養素が豊富な」条件は、栄養素が成長または増殖を制限していない培地条件を指し、すなわち、培地の栄養素が豊富である場合、追加の栄養素(複数可)を培地に添加しても成長率または増殖率の改善がもたらされることはない。「栄養素が豊富な」の文脈において、「栄養素」としては、非限定的な例として、リン酸塩、硫黄、鉄、および任意でシリカが挙げられるが、エネルギー源として生物によって使用され得る糖または有機酸などの炭素源を除く。
【0081】
SGI1ポリペプチド
本明細書に記載されるように、SGI1または「有意な成長改善1」ポリペプチドは、レスポンスレギュレーターレシーバーまたは「RR」ドメイン(pfam PF00072)およびMyb様結合ドメイン(本明細書において単に「myb」ドメイン(pfam PF00249)と称される)を含むポリペプチドであり、RRドメインは、mybドメインに対してN末端側に位置付けられている。RRドメインおよびmybドメインを包含するSGI1ポリペプチドのアミノ酸配列は、SRG1ポリペプチドの間ではあまり保存されていないかまたは保存されていないことが判明しているRRドメインとmybドメインとの間に生じるアミノ酸の伸長を含む。RRドメインとmybドメインとの間に生じるアミノ酸配列は、本明細書において2つのドメイン間のリンカーと称され得る。リンカーは任意の長さのものであってもよく、様々な実施例において1~約300個のアミノ酸、10~約200個のアミノ酸、または20~約150個のアミノ酸の長さの範囲であり得る。リンカー領域は、核局在化配列(NLS)を任意に含み得る。
【0082】
SGI1タンパク質内のRRドメインは、pfam PF00072、または「シグナルレシーバードメイン」もしくは単に「レシーバードメイン」として特徴付けることができ、かつ/または保存ドメインデータベース(CDD)ではcd00156として、タンパク質データベースのオルソロググループのクラスターではCOG0784として、またはInterproの「CheY様スーパーファミリー」ドメインのIPR011006として分類することができる。RRドメインは、細菌の二成分調節系(CheYとして公知であるポリペプチドを含む細菌の走化性二成分系など)に見られ、その系では、センサーパートナーからシグナルを受け取る。こうした系のRRドメインは、多くの場合DNA結合ドメインのN末端側に見出され、ホスホアクセプター部位を含み得る。図4には、パラクロレラ種 WT-1185(SEQ ID NO:58)、コッコミクサ・スベリプソイデア(SEQ ID NO:59)、オストレオコッカス・ルシマリヌス(SEQ ID NO:60)、クラミドモナス・レインハルディ(SEQ ID NO:61)、クロモクロリス・ゾフィンジエンシス(SEQ ID NO:62)、ボルボックス・カルテリ(SEQ ID NO:63)、テトラセルミス種 105(SEQ ID NO:64)、オオキスティス種 WT-4183(SEQ ID NO:65)、およびミクロモナス種 RCC299(SEQ ID NO:66)のRRドメインのアライメントを提供する。
【0083】
SGI1タンパク質内のmybドメインは、例えば、pfamPF00249:「Myb様DNA結合ドメイン」として特徴付けることができ、かつ/または保存ドメインTIGR01557「myb様DNA結合ドメイン、SHAQKYFクラス」、またはInterpro Homeobox様ドメインスーパーファミリードメイン(IPR009057)および/またはInterpro Mybドメイン(IPR017930)として同定することができる。
【0084】
mybドメインのN末端にRRドメインを有することに加えて、本明細書において提供されるSGI1タンパク質は、タンパク質のアミノ酸配列が藻類中のSGI1相同体の領域の保存アミノ酸にどのぐらい一致しているか基づいて、タンパク質をスコアリングするように設計された隠れマルコフモデル(HMM)でスキャンした場合、300以上、320以上、340以上、350以上、360以上、または370以上のスコアを有することができ、約1e-10、1e50、1e-70、または1e-100未満のe値を有し得る(実施例6を参照されたい)。HMMを開発するために使用されるSGI1ポリペプチドの領域は、(N末端からC末端方向に)RRドメイン、リンカー、およびmybドメインを含むアミノ酸配列である。HMMでは、高度に保存されたアミノ酸位置は、スコアに到達するために、ポリペプチドの比較された領域内においてあまり保存されていないアミノ酸位置よりも重く重み付けされる。これらに限定されないが、パラクロレラ種 1185(SEQ ID NO:3)、コッコミクサ・スベリプソイデア(SEQ ID NO:9)、オストレオコッカス・ルシマリヌス(SEQ ID NO:10)、クラミドモナス・レインハルディ(SEQ ID NO:11)、ボルボックス・カルテリ(SEQ ID NO:13)、テトラセルミス種 105(SEQ ID NO:14、15、および16)、オオサイスティス種(SEQ ID NO:17)、ミクロモナス種 RCC299(SEQ ID NO:18)、ミクロモナス・プシラ(Micromonas pusilla)(SEQ ID NO:19)、スファグナム・ファラクス(Sphagnum fallax)(SEQ ID NO:20)、ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)(SEQ ID NO:21)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(SEQ ID NO:22)、アラビドプシス・ハレリ(Arabidopsis halleri)(SEQ ID NO:23)、アラビドプシス・リラタ(Arabidopsis lyrata)(SEQ ID NO:24)、ヒマワリ(Helianthus annuus)(SEQ ID NO:25)、ブドウ(Vitis vinifera)(SEQ ID NO:26)、アンボレラ・トリコポダ(Amborella trichopoda)(SEQ ID NO:27)、トウゴマ(Ricinus communis)(SEQ ID NO:28)、トマト(Solanum lycopersicum)(SEQ ID NO:29)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)(SEQ ID NO:30)、アプランドワタ(Gossypium hirsutum)(SEQ ID NO:31)、カカオ(Theobroma cacao)(SEQ ID NO:32)、ファエロリス・ブルガリス(Phaeolis vulgaris)(SEQ ID NO:33)、ダイズ(Glycine max)(SEQ ID NO:34)、キヌア(Chenopodium quinoa)(SEQ ID NO:35)、セイヨウリンゴ(Malus domesticus)(SEQ ID NO:36)、トウモロコシ(Zea mays)(SEQ ID NO:37)、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)(SEQ ID NO:38)、およびアジアイネ(Oryza sativa)(SEQ ID NO:39)などの藻類および植物種のポリペプチドを用いて生育したRRドメイン、リンカー、およびmybドメインを含む単一の連続配列を含む藻類SGI1ポリペプチドのタンパク質配列に基づくHMMモデルでスキャンすると、ポリペプチドは、少なくとも約300、または350以上、例えば370以上のスコアを有する。SGI1ポリペプチドとして、前述のいずれかに対して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドも含まれる。ポリペプチドは、RRドメインおよびmybドメインを有し、RRドメインは、mybドメインのN末端にあり、SGI1ポリペプチドは、天然に存在するポリペプチドまたはその変異体である。様々な実施形態において、SGI1ポリペプチドは、植物または藻類種由来であり、すなわち植物または藻類種の天然に存在するポリペプチドである。本明細書において提供されるSGI1ポリペプチドをコードする遺伝子、例えば本明細書において提供される突然変異体において妨害されているかまたはその発現が減衰されている遺伝子は、様々な実施形態において、本明細書に開示のポリペプチドをコードする植物または藻類の天然に存在する遺伝子であり得る。
【0085】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供されるSGI1ポリペプチドは、例えば、天然に存在する藻類SGI1ポリペプチドの配列を有する藻類SGI1ポリペプチドであり、藻類ポリペプチドは、RRドメインおよびmybドメインを含み、RRドメインは、mybドメインのN末端である。藻類ポリペプチドは、本明細書に開示の藻類SGI1ポリペプチドのいずれかに対して、任意で、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有することができる。いくつかの実施形態では、SGI1遺伝子は、例えば、天然に存在する藻類SGI1ポリペプチドの配列を有するポリペプチドなどの藻類SGI1ポリペプチドをコードする遺伝子であり得る。天然に存在する藻類SGIポリペプチドの配列を有するポリペプチドをコードするSGI1遺伝子は、遺伝子コード配列の天然に存在する遺伝子配列を有する遺伝子であり得るか、または天然に存在する遺伝子の配列とは異なる配列を有し得る。様々な実施形態では、本明細書に開示の突然変異光合成生物において減衰、突然変異、または妨害されたSGI1遺伝子は、例えばクエリとして本明細書に開示の1つ以上の配列を用いて、BLASTにより、および/またはHMMスキャニングにより同定される遺伝子であり得る。HMMは、例えば少なくとも6つのSGI1ポリペプチドの多重アラインメント時にアミノ酸配列から構築され、アミノ酸配列は、RRドメインおよびmybドメインを含み、RRドメインはmybドメインのN末端にあり、また、RRドメインとmybドメインの間に、いずれのドメインにも属していないリンカー配列がある。
【0086】
いくつかの実施形態では、SGI1ポリペプチドは、藻類SGI1ポリペプチドの配列を有するか、天然に存在する藻類SGI1ポリペプチドのRRドメインに対して、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の同一性を有する天然に存在する藻類SGI1ポリペプチドの変異体であるか、SEQ ID NO:40、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:42、SEQ ID NO:43、SEQ ID NO:44、SEQ ID NO:45、SEQ ID NO:46、SEQ ID NO:47、SEQ ID NO:48、SEQ ID NO:49のいずれかに対して、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する。いくつかの実施形態では、SGI1ポリペプチドは、藻類SGI1ポリペプチドの配列を有するか、天然に存在する藻類SGI1ポリペプチドのmybドメインに対して、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の同一性を有する天然に存在する藻類SGI1ポリペプチドの変異体であるか、SEQ ID NO:58、SEQ ID NO:59、SEQ ID NO:60、SEQ ID NO:61、SEQ ID NO:62、SEQ ID NO:63、SEQ ID NO:64、SEQ ID NO:65、SEQ ID NO:66、SEQ ID NO:67のいずれかに対して、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する。
【0087】
いくつかの実施形態では、SGI1ポリペプチドは、藻類SGI1ポリペプチドの配列を有するか、または天然に存在する藻類SGI1ポリペプチドに対して少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の同一性を有する天然に存在する藻類SGI1ポリペプチドの変異体であり、かつ/またはSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、またはSEQ ID NO:19のいずれかに対して、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する。
【0088】
いくつかの実施形態では、SGIポリペプチドは、植物SGI1ポリペプチドの配列を有するか、または天然に存在する藻類SGIポリペプチドに対して、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の同一性を有する天然に存在する植物SGI1ポリペプチドの変異体であり、かつ/またはSEQ ID NO:50、SEQ ID NO:51、SEQ ID NO:52、SEQ ID NO:53、SEQ ID NO:54、SEQ ID NO:55、SEQ ID NO:56、またはSEQ ID NO:57のRRドメインに対して、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する。いくつかの実施形態では、SGIポリペプチドは、植物SGI1ポリペプチドを有するか、または天然に存在する藻類SGIポリペプチドに対して、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の同一性を有する天然に存在する植物SGI1ポリペプチドの変異体であり、かつ/またはSEQ ID NO:68、SEQ ID NO:69、SEQ ID NO:70、SEQ ID NO:71、SEQ ID NO:72、SEQ ID NO:73、SEQ ID NO:74、またはSEQ ID NO:75のmybドメインに対して、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する。
【0089】
いくつかの実施形態では、SGIポリペプチドは、植物SGI1ポリペプチドの配列を有するか、天然に存在する藻類SGIポリペプチドに対して少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の同一性を有する天然に存在する植物SGI1ポリペプチドの変異体であり、かつ/またはSEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:36、SEQ ID NO:37、SEQ ID NO:38、またはSEQ ID NO:39のいずれかに対して、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する。
【0090】
突然変異株
SGI1遺伝子の減衰を有する、本明細書において提供される突然変異体としては、植物および藻類を含む、単細胞真核生物藻類(微細藻類)などの真核生物光合成生物などの光合成生物が挙げられる。
【0091】
様々な例において、SGI1遺伝子の減衰した発現を有するように遺伝子操作された株であり得る突然変異SGI1遺伝子を有する藻類株は、例えば、以下の任意の属の種などのあらゆる真核藻類株であり得る:アクナンテス属(Achnanthes)、アンフィプローラ属(Amphiprora)、アンフォラ属(Amphora)、アンキストロデスムス属、アルテロモナス属、ボエケロビア属(Boekelovia)、ボリドモナス属(Bolidomonas)、ボロジネラ属(Borodinella)、フウセンモ属(Botrydium)、ボトリオコッカス属、ブラクテオコッカス属(Bracteococcus)、カエトセロス属(Chaetoceros)、カルテリア属、クラミドモナス属、クロロコッカム属、クロロゴニウム属、クロレラ属、クロオモナス属(Chroomonas)、クリソスファエラ属、クリコスファエラ属(Cricosphaera)、クリプテコディニウム属(Crypthecodinium)、クリプトモナス属(Cryptomonas)、シクロテラ属(Cyclotella)、デスモデスムス属(Desmodesmus)、ドナリエラ属、エリプソイドン属(Elipsoidon)、エミリアニア属(Emiliania)、エレモスファエラ属、エルノデスミウス属(Ernodesmius)、ユーグレナ属(Euglena)、ユースティグマトス属(Eustigmatos)、フランケイア属、フラギラリア属(Fragilaria)、フラジラリオプシス属(Fragilaropsis)、グロエオサムニオン属(Gloeothamnion)、ヘマトコッカス属、ハンチア属(Hantzschia)、ヘテロシグマ属(Heterosigma)、ヒメノモナス属(Hymenomonas)、イソクリシス属(Isochrysis)、レポシンクリス属(Lepocinclis)、ミクラクチニウム属、モノダス属(Monodus)、モノラフィジウム属、ナノクロリス属、ナノクロロプシス属(Nannochloropsis)、ナビクラ属(Navicula)、ネオクロリス属、ネフロクロリス属(Nephrochloris)、ネフロセルミス属(Nephroselmis)、ニッチア属(Nitzschia)、オクロモナス属(Ochromonas)、オエドゴニウム属、オオサイスティス属、オストレオコッカス属、パラクロレラ属、パリエトクロリス属(Parietochloris)、パスケリア属(Pascheria)、パブロバ属(Pavlova)、ペラゴモナス属、ファエオダクチラム属(Phaeodactylum)、ファガス属(Phagus)、ピコクロラム属、プラチモナス属(Platymonas)、プレウロクリシス属(Pleurochrysis)、プレウロコッカス属、プロトテカ属、シュードクロレラ属、シュードネオクロリス属(Pseudoneochloris)、シュードスタウラストラム属(Pseudostaurastrum)、ピラミモナス属(Pyramimonas)、ピロボトリス属、イカダモ属、シゾクラミデラ属(Schizochlamydella)、スケレトネマ属(Skeletonema)、スピロギラ属(Spyrogyra)、スチココッカス属、テトラクロレラ属、テトラセルミス属、タラシオシーラ属(Thalassiosira)、トリボネマ属(Tribonema)、フシナシミドロ属(Vaucheria)、ビリジエラ属、ヴィシェリア属(Vischeria)、およびボルボックス属。
【0092】
例えば、本明細書に開示されているSGI1遺伝子に突然変異を有する藻類は、以下のいずれかに属する種であり得る:オクロ植物門(珪藻綱(bacillariophyceae)、コアミケイソウ綱(coscinodiscophyceae)、オビケイソウ綱(fragilariophyceae)、真正眼点藻綱(eustigmatophyceae)、黄緑藻綱(xanthophyceae)、ペラゴ藻綱(pelagophyceae)、黄金色藻綱(chrysophyceae)、ラフィド藻綱(raphidophyceae)、およびシヌラ藻綱(synurophyceae)のメンバーなど)、ハプト植物門(haptophyta)(コッコリツス藻綱(coccolithophyceae)およびパブロバ藻綱(pavlophyceae)のメンバーなど)、および緑藻植物門(chlorophyta)(トレボウクシア藻綱(trebouxiophyceae)、緑藻植物門(chlorophyceae)、ネフロセルミス藻綱(nephrophyceae)、ピラミモナス藻綱(pyramimonadophyceae)、アオサ藻綱(ulvophyceae)、マミエラ藻綱(mamiellophyceae),およびクロロデンドロン藻綱(chlorodendrophyceae)のメンバーなど)、ならびに車軸藻植物門(charyophyta)、ユーグレナ植物門(euglenoids)、および渦鞭毛植物(dinoflagellates)。
【0093】
本出願のいくつかの実施形態では、突然変異させ得るかまたは遺伝子操作し得る好ましい微生物としては、これらに限定されないが、以下などの緑色植物種が挙げられる:クロレラ、パラクロレラ、シュードクロレラ、テトラクロレラ、オキセノクロレラ、プロトテカ、オオキスティス、フランケイア、ミクラクチニウム(Micratinium)、ピコクロラム、ナノクロリス、シゾクラミデラ、エレモスファエラ、スチココッカス、ボツリオコッカス、ビリジエラ、パリエトクロリス、ボロジネラ、ブラクテアコックス(Bracteacoccus)、ネオクロリス、モノラフィディウム、デスモデスムス、イカダモ、アンキストロデスムス、カルテリア、クラミドモナス、クロロコッカム、クロロゴニウム、ボルボックス、プラチモナス、ドナリエラ、ヘマトコッカス、アルテロモナス、ピロボツリス、オエドゴニウム、ネフロセルミス、プレウロコッカス、ピラミモナス、シュードネオクロリス(Pseudoneochloris)、オストレオコッカス、テトラセルミス、およびスタウラスツルム(Staurastrum)。
【0094】
他の例では、突然変異体は、例えば、アンフォラ、カエトセロス、シクロテラ、フラギラリア、フラジラリオプシス、ハンチア、ナビクラ、ニッチア、フェオダクチラム、またはタラシオシーラの任意の属の種などの珪藻種などのヘテロコント藻類種を用いて操作または単離することができる。さらなる例において、本明細書に開示される突然変異体は、例えば、エリプソイジオン(Ellipsoidion)、ユースティグマトス、ヴィシェリア、モノダス、ナノクロロプシス、またはシュードスタウラストラムの種などの真正眼点藻綱(Eustigmatophyceae)の種である。考慮され得るオクロ植物門の他の属としては、これらに限定されないが、ボルジモナス(Boldimonas)、フウセンモ属、バウチェリア属(Baucheria)、トリボネマ属、モノダス属、アウレオコッカス属(Aureococcus)、ビゲロウィエラ属(Bigeloweilla)、ペラゴモナス属、クリソスファエラ属、オクロモナス属、ヘテロシグマ属、ネフロクロリス属、ボエケロビア属、クリコスファエラ属、ヒメノモナス属、イソクリシス属、プレウロクリシス属、およびパブロバ属が挙げられる。
【0095】
追加的実施形態では、突然変異または減衰されたSGI1遺伝子を含むように突然変異され得るか、または操作され得る生物としては、植物種が挙げられる。例えば、核酸構築物および当該分野で公知の様々な形質転換方法を使用して、SGI遺伝子の発現を減衰するために、多種多様な植物および植物細胞系が突然変異され得か、または操作され得る(Guerineau F.、Methods Mol Biol.(1995年)49:1-32を参照されたい)。好ましい実施形態では、標的植物および植物細胞としては、これらに限定されないが、穀物作物(例えば、コムギ、トウモロコシ、イネ、キビ、オオムギ)などの作物、果実作物(例えば、トマト、リンゴ、ナシ、イチゴ、オレンジ)、飼料作物(例えばアルファルファ)、根菜類作物(例えば、ニンジンポテト、サトウダイコン、ヤマノイモ)、葉菜類作物(例えばレタス、ホウレンソウ)などの単子葉植物および双子葉植物;開花植物(例、ペチュニア、バラ、キク)、針葉樹およびマツ(例えば、マツ、モミ、エゾマツ)、ファイトレメディエーションに使用される植物(例、重金属蓄積植物)、油料作物(例えば、ヒマワリ、アブラナ)、および実験目的に使用される植物(例えば、シロイヌナズナ)が挙げられる。このため、SGI1変異体は、例えば、以下の目に属する双子葉植物など、広範囲の植物において生成され得る:モクレン目(Magniolales)、ミシアレス(Miciales)、クスノキ目(Laurales)、コショウ目(Piperales)、ウマノスズクサ目(Aristochiales)、スイレン目(Nymphaeales)、キンポウゲ目(Ranunculales)、アワ目(Papeverales)、サラセニア科(Sarraceniaceae)、ヤマグルマ目(Trochodendrales)、マンサク目(Hamamelidales)、トチュウ目(Eucomiales)、レイトネリア目(Leitneriales)、ヤマモモ目(Myricales)、ブナ目(Fagales)、モクマオウ目(Casuarinales)、ナデシコ目(Caryophyllales)、バティス目(Batales)、タデ目(Polygonales)、イソマツ目(Plumbaginales)、ビワモドキ目(Dilleniales)、ツバキ目(Theales)、アオイ目(Malvales)、イラクサ目(Urticales)、サガリバナ目(Lecythidales)、スミレ目(Violales)、ヤナギ目(Salicales)、フウチョウソウ目(Capparales)、ツツジ目(Ericales)、イワウメ目(Diapensales)、カキノキ目(Ebenales)、サクラソウ目(Primulales)、バラ目(Rosales)、マメ目(Fabales)、カワゴケソウ目(Podostemales)、アリノトウグサ目(Haloragales)、フトモモ目(Myrtales)、ミズキ目(Cornales)、ヤマモガシ目(Proteales)、ビャクダン目(San tales)、ラフレシア目(Rafflesiales)、ニシキギ目(Celastrales)、トウダイグサ目(Euphorbiales)、クロウメモドキ目(Rhamnales)、ムクロジ目(Sapindales)、クルミ目(Juglandales)、フウロソウ目(Geraniales)、ヒメハギ目(Polygalales)、セリ目(Umbellales)、リンドウ目(Gentianales)、ハナシノブ目(Polemoniales)、シソ目(Lamiales)、オオバコ目(Plantaginales)、ゴマノハグサ目(Scrophulariales)、キキョウ目(Campanulales)、アカネ目(Rubiales)、マツムシソウ目(Dipsacales)、およびキク目(Asterales)。SGI1変異体はまた、以下の目に属するものなどの単子葉植物においても生成され得る:オモダカ目(Alismatales)、トチカガミ目(Hydrocharitales)、イバラモ目(Najadales)、ホンゴウソウ目(Triuridales)、ツユクサ目(Commelinales)、ホシクサ目(Eriocaulales)、レスティオ目(Restionales)、イネ目(Poales)、イグサ目(Juncales)、カヤツリグサ目(Cyperales)、ガマ目(Typhales)、パイナップル目(Bromeliales)、ショウガ目(Zingiberales)、ヤシ目(Arecales)、パナマソウ目(Cyclanthales)、タコノキ目(Pandanales)、サトイモ目(Arales)、ユリ目(Lilliales)、およびラン目(Orchid ales)、または裸子植物下門に属する植物、例えば、マツ目(Pinales)、イチョウ目(Ginkgoales)、ソテツ目(Cycadales)、マキ目(Araucariales)、ヒノキ目(Cupressales)およびグネツム目(Gnetales)に属するもの、または蘚類(マゴケ植物門(Bryophyta))として分類される植物、例えば、ミズゴケ目(Sphagnales)およびヒョウタンゴケ目(Funariales)。
【0096】
SGI1遺伝子の減衰を有し得る例示的かつ非限定的な植物種としては、スファグナム・ファラクス、ヒメツリガネゴケ、シロイヌナズナ、アラビドプシス・ハレリ、アラビドプシス・リラタ、ヒマワリ、ブドウ、アンボレラ・トリコポダ、トウゴマ、トマト、ジャガイモ、アプランドワタ、カカオ、ファエロリス・ブルガリス、ダイズ、キヌア、セイヨウリンゴ、トウモロコシ、ブラッシカ・ラパ、およびアジアイネが挙げられる。
【0097】
遺伝子の減衰
SGI1遺伝子の減衰を有する本明細書に提供される突然変異微生物は、ヒトの介入によって、例えば古典的突然変異誘発または遺伝子操作によって生成される突然変異体である。例えば、本明細書において提供される突然変異微生物は、実行可能な任意の突然変異誘発方法、これらに限定されないが、UV照射、ガンマ線照射、または化学的突然変異誘発、ならびにクロロフィルの減少および生産性の増加を有する突然変異体のスクリーニングなど、例えば、本明細書に開示された方法を用いて生成された突然変異体であり得る。例えば、クロロフィルの減少した突然変異体のスクリーニングでは、蛍光活性化細胞選別(FACS)、目視検査、および/またはクロロフィル吸収の抽出および測定を使用することができる。生産性の向上は、突然変異体の成長、および乾燥重量、湿潤重量、無灰乾燥重量、または全有機炭素(TOC)の測定によって評価され得る。古典的突然変異誘発および遺伝子操作を用いて光合成生物の突然変異体を生成する方法は周知である。
【0098】
減衰された遺伝子の例としては、これらに限定されるものではないが、コードされたタンパク質の活性の低下または消滅をもたらす、1つ以上のアミノ酸の配列を変化させる1つ以上のヌクレオチド置換を有する遺伝子;フレームシフトおよび/または終止コドンの導入によってタンパク質のアミノ酸配列を変化させる、遺伝子内の挿入または欠失(インデル);コードされたポリペプチドのフレームシフトもしくはトランケーションまたは遺伝子によって転写されたRNAの不安定性をもたらす、遺伝子への大きな挿入、機能的タンパク質を生じない大きい欠失;転写に影響を与えるコード領域の5’または3’の遺伝子の領域における挿入、欠失、または点突然変異;転写、スプライシング、またはRNAの安定性に影響を与え得るイントロンまたはイントロン/エクソン接合部での挿入、欠失、または点突然変異が挙げられる。減衰された遺伝子はまた、その転写物が、例えば、RNAi、アンチセンスRNA、リボザイムなどによって標的とされる遺伝子であり得る。SGI1遺伝子の減衰を有する光合成生物は、本明細書において、SGI1遺伝子の減衰のメカニズムにかかわらず、「SGI1突然変異体」と称される。SGI1突然変異体は、本明細書に開示の突然変異誘発およびスクリーニング手順などの本明細書に開示の方法、ならびに遺伝子操作によって単離することができる。
【0099】
したがって、突然変異体は、遺伝子操作された突然変異体、例えば、ノックアウト、ノックダウン、および/または遺伝子置換(例えば、野生型ポリペプチドと比べて活性が低下したポリペプチドをコードし得る、突然変異された形態の遺伝子による置換)のための相同組換えによって、SGI1遺伝子が標的とされている突然変異体であり得る。例えば、目的の光合成生物は、部位指向型相同組換えによって操作して、配列をゲノム遺伝子座に挿入し、それによって遺伝子および/またはその発現を改変し、かつ/またはプロモーターを宿主微生物の遺伝子座に挿入して、遺伝子座での遺伝子の発現に影響を与えることができる。
【0100】
例えば、遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックダウン、または相同組換えによる遺伝子置換は、改変されるゲノムの領域に相同である配列を含む核酸(例えば、DNA)断片の形質転換によるものであり得る。相同配列は、外来配列、典型的には組み込まれた構築物の選択が可能である選択マーカー遺伝子により、中断されている。外来配列または突然変異遺伝子配列のいずれかの側のゲノム相同隣接配列は、例えば、少なくとも約50、少なくとも約100、少なくとも約200、少なくとも約300、少なくとも約400、少なくとも約500、少なくとも約600、少なくとも約700、少なくとも約800、少なくとも約900、少なくとも約1,000、少なくとも約1,200、少なくとも約1,500、少なくとも約1,750、または少なくとも約2,000(例えば、少なくとも50、100、200、500、1000、1500または2000のいずれかの)ヌクレオチド長であり得る。外来配列が標的遺伝子配列に隣接している遺伝子ノックアウトまたは遺伝子「ノックイン」構築物は、任意で直線状にすることができる、例えば相同組換えを受ける領域の外側でベクターに提供することができるか、またはベクターの文脈ではない線状断片として提供され得る。例えば、ノックアウトまたはノックイン構築物は、これに限定されないが、PCR産物など、単離または合成された断片であり得る。場合によっては、分割マーカー系を用いて、相同組換えによって遺伝子ノックアウトを生成することができ、2つのDNA断片を導入して選択マーカーを再度生成し、3つの交差事象によって目的の遺伝子座を妨害することができる(Jeongら、(2007年)FEMS Microbiol Lett 273:157-163)。
【0101】
一態様では、本開示は、遺伝子組換え生物、例えば、SGI1遺伝子の発現を減衰させるための1つ以上の遺伝子改変または突然変異を有する微生物を提供する。本明細書で使用される場合、遺伝子(例えば、SGI1遺伝子)の「発現および/もしくは機能」を「減衰させる」または「変化させる」とは、通常発現する完全に機能的なタンパク質の産生、発現および/もしくは機能を低減する任意の様式で、遺伝子の発現を低減するもしくは除去することを意味する。SGI1遺伝子などの遺伝子を減衰するための手段としては、例えば相同組換え構築物;ガイドRNA、Cas9または他のcas酵素(例えば、Cpf1、Cms1、Csm1など)などのCRISPR系、および任意で標的部位へ挿入するためのドナー断片;shRNA、アンチセンスRNA構築物などのRNAi構築物;リボザイム構築物;TALENS、ジンクフィンガーヌクレアーゼ;およびメガヌクレアーゼが挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、遺伝子は、例えば相同組換えによっておよび/またはメガヌクレアーゼなどの二本鎖切断誘導剤の活性によって媒介される挿入または遺伝子置換によって妨害することができる(例えば、国際公開第2012017329号(米国特許第20130164850号および米国特許第20160272980号)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Perez-Pineraら(2012)Curr.Opin.Chem.Biol.16:268-277;国際公開第2012017329号(米国特許第20130164850号および米国特許第20120324603号)、TALEN(国際公開第2014/207043号(米国特許第20160130599号);または国際公開第2014/076571号(米国特許第20160272980号)、またはCRISPR系のcasタンパク質(例えば、Cas9タンパク質、Cpf1エフェクタータンパク質、またはCsm1エフェクタータンパク質)(例えば、米国特許第8,697,359号;米国特許第8,795,965号;米国特許第8,889,356号;米国特許第2016/0090603号;米国特許第2014/0068797号;米国特許第2016/0208243号;米国特許第207/0233756号を参照されたい)。当業者には理解されるように、他の妨害方法も当技術分野において公知であり、本明細書において好適であろう。
【0102】
いくつかの実施形態では、突然変異微生物は、SGI1遺伝子に存在する1つ以上の突然変異、またはSGI1遺伝子の発現に影響を及ぼす1つ以上の突然変異を有する。SGI1遺伝子の発現の減衰を有するように操作された組換え微生物は、完全に機能的なSGI1遺伝子が産生されないか、または妨害SGI1遺伝子を含まない対照の微生物によって産生されるよりも少ない量で産生されるように、遺伝子の発現を減少させるかまたは消滅させる少なくとも1つの挿入、突然変異または欠失を含む妨害SGI1遺伝子を有することができる。例えば、いくつかの実施形態では、1つ以上の突然変異(1つ以上のヌクレオチドの変化、欠失、および/または挿入)は、遺伝子のコード領域にあり得るか、またはイントロン、3’UTR、5’UTR、例えば、転写開始部位から約1kb以内、転写開始部位から約2kb以内、または翻訳開始部位から約3kb以内のプロモーター領域にあり得る。いくつかの実施形態では、例えば、本明細書に開示された、減衰した遺伝子発現を有する突然変異微生物は、1つ以上の突然変異を有し得る。これらの突然変異は、1つ以上の核酸塩基の変化および/または1つ以上の核酸塩基の欠失および/または転写開始部位の5’側の遺伝子領域への1つ以上の核酸塩基の挿入であり得る。非限定的な例において、既知または推定の転写開始部位の約2kb以内、約1.5kb以内、約1kb以内、または約0.5kb以内、または翻訳開始部位の約3kb以内、約2.5kb以内、約2kb以内、約1.5kb以内、約1kb以内、または約0.5kb以内である。非限定的な例として、突然変異遺伝子は、遺伝子の発現を増加させること、または減少させることのいずれかが可能であるプロモーター領域内に突然変異、挿入または欠失を有する遺伝子であり得る;または非機能的タンパク質、切断型タンパク質、ドミナントネガティブタンパク質、またはタンパク質を含まない産生をもたらす欠失を有する遺伝子であり得る;またはコードされたタンパク質のアミノ酸の変化をもたらすか、または結果として遺伝子転写物の異常なスプライシングなどとなる1つ以上の点突然変異を有する遺伝子であり得る。
【0103】
本明細書で参照され、Hsuら(Cell157:1262-1278,2014)によって概説されたCRISPR系としては、casヌクレアーゼポリペプチドまたは複合体に加えて、標的部位配列との相補性によってゲノム標的部位と相互作用する標的RNA(多くの場合「crRNA」と呼ばれる)、およびcasポリペプチドと複合体を形成し、標的crRNAに(相補性により)結合する領域も含む、トランス活性化(「tracr」)RNAが挙げられる。本開示は、ゲノム編集、または標的配列に相補的な配列ならびにcasタンパク質と相互作用する配列を含む単一ガイドRNAの使用のために、casタンパク質を発現するか、またはcasタンパク質とトランスフェクトされる宿主株に同時形質転換(または宿主株で発現)され得る2つのRNA分子(「crRNA」および「tracrRNA」)の使用を企図する。すなわち、いくつかの戦略において、本明細書においては使用されるCRISPR系は、2つの別個のRNA分子(RNAポリヌクレオチド:「tracr-RNA」および「targeter-RNA」または「crRNA」、下記参照)を含み得、本明細書においては「二分子DNA標的指向性RNA」または「二分子DNA標的指向性RNA」と称される。あるいは、実施例に示されるように、DNA標的指向性RNAは、(標的相同(「cr」)配列に加えて)casタンパク質との相互作用のためのトランス活性化配列も含み得、すなわち、DNA標的指向性RNAは、単一のRNA分子(単一のRNAポリヌクレオチド)であり得、本明細書において、「キメラガイドRNA」、「単一ガイドRNA」、または「sgRNA」と称される。用語「DNA標的指向性RNA」および「gRNA」は包括的であり、二分子DNA標的指向性RNAおよび単分子DNA標的指向性RNA(すなわち、sgRNA)の両方を指す。単一分子ガイドRNAおよび2つのRNA系の両方が、文献中に、および例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2014/0068797号に詳細に記載されている。本明細書に提示される方法および組成物のいくつかの実施形態は、SGI1遺伝子中の標的配列に対応する配列を有するガイドRNAを含む。いくつかの実施形態では、ガイドRNAはキメラガイドである。他の実施形態において、ガイドRNAは、tracr配列を含まない。いくつかの例では、遺伝子座を標的とするためのcrRNAおよびtracrRNAの両方が、cas媒介突然変異誘発において使用される。いくつかの実施形態では、casタンパク質は、標的細胞または生物において発現し、いくつかの代替的実施形態では、casタンパク質は、例えば、キメラガイドRNAまたはcrRNA、またいくつかの実施形態では、tracrRNAであり得るガイドRNAを含むリボ核タンパク質複合体として細胞に導入されてもよい。任意のcasタンパク質、例えば、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1およびCsx12としても公知である)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm1、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Cms1、Cpf1、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、C2c1、C2c2、C2c3、およびそれらの相同体、またはそれらの改変体が、本明細書の方法において使用できる。casタンパク質は、非限定的な例として、化膿性ブドウ球菌(Staphylococcus pyogenes)、サーモフィラス菌(S.thermophilus)、肺炎球菌(S.pneumonia)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、または髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)のCas9タンパク質などのCas9タンパク質であり得る。その全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2014/0068797号でSEQ ID NO:1~256および795~1346として提供されるCas9タンパク質、ならびに2つ以上のCas9タンパク質からのドメイン、ならびに同定されたCas9タンパク質の変異体および突然変異体を組み合わせ得るキメラCas9タンパク質も考慮される。RNA誘導ヌクレアーゼは、例えば、Cpf1タンパク質(例えば、米国特許出願公開第2016/0208243号参照)またはCsm1タンパク質(例えば、米国特許出願公開第2017/0233756号参照)であり得る。
【0104】
Casヌクレアーゼ活性は、標的DNAを切断して二本鎖切断を生じさせる。次いで、これらの切断は、2つの方法(非相同末端結合または相同性指向修復)のうちの1つで細胞によって修復される。非相同末端結合(NHEJ)では、切断末端を互いに直接ライゲーションすることによって、二本鎖切断が修復される。この場合、新しい核酸材料がその部位に挿入されることはないが、いくつかの核酸材料は失われる可能性があり、その結果欠失、または変化となり、多くの場合突然変異となる。相同性指向修復においては、切断された標的DNA配列に対して相同性を有し得るドナーポリヌクレオチド(「ドナーDNA」または「編集DNA」と呼ばれることもある)は、切断された標的DNA配列を修復するための鋳型として用いられ、その結果、ドナーポリヌクレオチドから標的DNAへ遺伝情報が伝達されることとなる。このようにして、新しい核酸材料をその部位に挿入/コピーすることができる。NHEJおよび/または相同性指向修復(例えばドナーDNA分子を使用する)による標的DNAの修飾は、例えば遺伝子修正、遺伝子置換、遺伝子タギング、導入遺伝子挿入、ヌクレオチド欠失、遺伝子妨害、遺伝子突然変異などをもたらし得る。
【0105】
場合によっては、部位特異的修飾ポリペプチド(例えば、casヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、またはTALEN)によるDNAの切断を用いて、標的DNA配列を切断することによって標的DNA配列から核酸物質を削除し、外因的に提供されたドナーポリヌクレオチドの非存在下で、細胞が配列を修復できるようにする。こうしたNHEJ事象は、切断された末端の再結合部位に突然変異(「誤修復」)をもたらし得、遺伝子の妨害となり得る。
【0106】
あるいは、DNA標的指向性RNAが、ドナーDNAとともにcasヌクレアーゼを発現する細胞に同時投与された場合、本方法を用いて、核酸材料を標的DNA配列に追加、すなわち挿入または置換して(例えば、挿入突然変異誘発による「ノックアウト」、またはタンパク質(例えば、選択マーカーおよび/もしくは任意の目的のタンパク質)、siRNA、miRNAなどをコードする核酸の「ノックイン」)、核酸配列を改変する(例えば、突然変異を導入する)ことができる。
【0107】
ドナーDNAは、特定の実施形態では、遺伝子調節配列(例えば、プロモーター)を含むことができる。遺伝子調節配列は、CRISPR標的化を使用して、遺伝子のコード領域の上流および遺伝子の推定される近位プロモーター領域の上流、例えば、SGI1遺伝子のコード領域の開始ATGの少なくとも約50bp、少なくとも約100bp、少なくとも約120bp、少なくとも約150bp、少なくとも約200bp、少なくとも約250bp、少なくとも約300bp、少なくとも約350bp、少なくとも約400bp、少なくとも約450bp、または少なくとも約500bp(例えば、少なくとも50、100、200、300、400、または500bp)上流に挿入することができる。ドナーDNAは、天然のプロモーターを阻害し得る配列、例えば選択マーカーまたは任意の都合のよい配列などの配列を含み得る。SGI1オープンリーディングフレームの開始ATGの上流(例えば、5’UTR内またはSGI1遺伝子の転写開始部位の上流)に挿入された追加の配列は、内因性SGI1遺伝子の発現を減少させるか、さらには消失させることができる。代替的に、または追加的に、天然のSGI1遺伝子は、より弱く、もしくは異なるように制御されているプロモーター、または非プロモーター配列によって、全体的にもしくは部分的に置換されているその内因性プロモーターを有し得る。
【0108】
いくつかの例では、高効率ゲノム編集細胞系を作製するために宿主細胞に導入された核酸分子は、対応する野生型酵素に対して突然変異したCas9酵素をコードし、その結果、突然変異Cas9酵素は、標的配列を含む標的ポリヌクレオチドの一方または両方の鎖を切断する能力を欠失するようになる。例えば、化膿性ブドウ球菌由来のCas9のRuvC I触媒ドメインにおいて、アスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)により、Cas9を両方の鎖を切断するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を切断する酵素)に変換する。Cas9をニッカーゼにする突然変異の他の例としては、これらに限定するものではないが、H840A、N854A、およびN863Aが挙げられる。いくつかの実施形態では、Cas9ニッカーゼは、ガイド配列(複数可)(例えば、DNA標的のセンス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ標的とする2つのガイド配列)と組み合わせて使用され得る。このように組み合わせることにより、両方の鎖にニックが入れられ、またNHEJを誘導するために使用できるようになる。変異原性NHEJを誘導するために、(近接しているがDNAの異なる鎖を標的とする)2つのニッカーゼ標的を使用することができる。また、互い違いの位置で相対する株を切断する酵素を用いて遺伝子座をこのように標的とすることにより、ゲノム突然変異を達成するために両方の鎖が正確にかつ特異的に切断される必要があるため、非標的切断が減少し得る。追加の例では、DNAを切断するその能力が損なわれている突然変異Cas9酵素を細胞内で発現させることができ、標的遺伝子の転写または翻訳開始部位の上流の配列を標的とする1つ以上のガイドRNAも導入される。この場合、cas酵素は、標的配列に結合し、標的遺伝子の転写を阻止し得る(Qiら、(2013年)Cell 152:1173-1183)。遺伝子発現のこのCRISPR干渉は、RNAiと称することができ、またLarsonら(2013年)Nat.Protoc.8:2180-2196に詳細に記載されている。場合によっては、Cas9ポリペプチドなどのcasポリペプチドは、例えば、以下のものを含む融合ポリペプチドである。i)Cas9ポリペプチド(任意で、上記のような多様型Cas9ポリペプチドであり得る)、およびb)共有結合した異種ポリペプチド(「融合パートナー」とも称される)。異種核酸配列は、キメラポリペプチドをコードするキメラヌクレオチド配列を生成するために、(例えば、遺伝子操作によって)別の核酸配列に連結されてもよい。いくつかの実施形態では、Cas9融合ポリペプチドは、細胞内局在(すなわち、異種配列は、細胞内局在配列、例えば、核を標的とするための核局在化シグナル(NLS)、ミトコンドリアを標的とするためのミトコンドリア局在化シグナル;葉緑体を標的とするための葉緑体局在シグナル;ER保持シグナルなど)をもたらす異種配列とCas9ポリペプチドを融合することによって生成される。いくつかの実施形態では、異種配列は、追跡および/または精製を容易にするためのタグ(すなわち、異種配列は、検出可能な標識である)(例えば、蛍光タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、YFP、RFP、CFP、mCherry、tdTomatoなど;およびヘマグルチニン(HA)タグ;FLAGタグ;Mycタグなど)を提供することができる。
【0109】
宿主細胞は、例えば、宿主細胞のSGI1遺伝子座の一部分またはそれに隣接する領域に相同である核酸配列を含む相同組換え用のベクターであり得るか、またはcasタンパク質(例えば、Cas9タンパク質)、CRISPRキメラガイドRNA、crRNA、および/またはtracrRNA、RNAi構築物(例えば、shRNA)、アンチセンスRNA、またはリボザイムのいずれかもしくはそれらの組み合わせの発現のための発現ベクターであり得るベクター構築物を用いて、遺伝子操作(例えば、形質導入または形質転換またはトランスフェクト)され得る。ベクターは、例えば、プラスミド、ウイルス粒子、ファージなどの形態であり得る。ポリペプチドの発現のためのベクターまたはゲノム編集のためのRNAはまた、例えば、相同組換えによる宿主への組込みのために設計され得る。本明細書に記載のポリヌクレオチド配列、例えば、宿主SGI1遺伝子配列に対して相同性を有する配列(SGI1ポリペプチドコード配列の上流および下流にある配列など)、ならびに任意で選択マーカーまたはレポーター遺伝子を含むベクターは、SGI1遺伝子の減衰を引き起こすために、適切な宿主を形質転換するのに使用することができる。
【0110】
いくつかの例における組換え微生物は、SGI1遺伝子の発現を減少させるが消滅させない可能性があり、組換え微生物は、例えば、約25%~約200%以上の脂質産生の増大を有することができる。例えば、脂質産生の増大は、対照微生物と比べて、約25%以上~約200%以上、約25%以上~約175%以上、約25%以上~約150%以上、約25%以上~約125%以上、約50%以上~約200%以上、約50%以上~約175%以上、約50%以上~約150%以上、約50%以上~約125%以上、約75%以上~約200%以上、または約75%以上~約175%以上、約75%以上~約150%、または約75%以上~約125%以上(例えば、25~200%以上)であり得る。本明細書に提供される遺伝子改変された光合成生物としては、いくつかの例において、SGI1遺伝子の発現を減衰させるための核酸構築物を挙げることができる。いくつかの実施形態では、本明細書に提供される遺伝子改変された微生物としては、SGI1ポリペプチドの発現を減衰させるための核酸構築物を挙げることができる。例えば、宿主微生物としては、SGI1遺伝子の発現を減少させるRNAi分子、リボザイム、またはアンチセンス分子を発現させるための構築物を挙げることができる。いくつかの例では、本明細書に提供される組換え微生物として、SGI1遺伝子の発現を減少させるための少なくとも1つの導入された(外因性または非天然)構築物を挙げることができる。
【0111】
いくつかの例では、遺伝子操作株は、例えば、RNA-Seqまたは逆転写-PCR(RT-PCR)などの当技術分野で公知の方法を使用して、SGI1遺伝子の発現を減衰させるための遺伝子改変を含まない対照細胞と比べて、減少しているが消失していないSGI1遺伝子の発現についてスクリーニングされ得る。本明細書において提供される遺伝子操作株は、SGI1ポリペプチドをコードする遺伝子のmRNAの量、安定性、または翻訳能力を低下させることによって遺伝子発現を減衰させるための構築物を含むように操作され得る。例えば、藻類または不等毛株などの微生物は、当技術分野において公知の方法を用いて、SGI1遺伝子のmRNAを標的とするアンチセンスRNA、RNAi、またはリボザイム構築物により形質転換することができる。例えば、遺伝子の転写領域の全部または一部分を含むアンチセンスRNA構築物を、微生物に導入して遺伝子発現を減少させることができる(Shrodaら、(1999年)The Plant Cell 11:1165-78;Ngiamら(2000年)Appl.Environ.Microbiol.66:775-782;Ohnumaら(2009年)Protoplasma236:107-112;Lavaudら(2012年)PLoS One 7:e36806)。代替的には、または追加的には、TPRドメインを有する遺伝子を標的とするRNAi構築物(例えば、短いヘアピンRNAをコードする構築物)を、SGI1遺伝子の発現を減少させるために、藻類または植物などの光合成生物に導入することができる(例えば、Cerrutiら(2011年)Eukaryotic Cell(2011年)10:1164-1172;Shrodaら(2006年)Curr.Genet.49:69-84)。
【0112】
リボザイムは、部位特異的方式で核酸を切断するRNA-タンパク質複合体である。リボザイムは、エンドヌクレアーゼ活性を有する特異的触媒ドメインを有する。例えば、米国特許第5,354,855号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)では、特定のリボザイムが、既知のリボヌクレアーゼよりも大きい配列特異性を有し、かつDNA制限酵素に近づくエンドヌクレアーゼとして作用し得ることが報告されている。触媒RNA構築物(リボザイム)は、mRNA標的を切断するために本明細書に提供される遺伝子をコードするmRNAと塩基対合するように設計することができる。いくつかの例では、リボザイム配列をアンチセンスRNA構築物内に組み込んで、標的の切断を媒介することができる。様々な種類のリボザイムを考慮することができ、それらの設計および使用は当技術分野において公知であり、例えば、Haseloffら(1988年)Nature334:585-591に記載されている。リボザイムは、相補的塩基対の相互作用により部位へアニーリングすることで、所与の配列を標的とする。2つの相同体の伸長がこの標的化のために必要とされる。相同配列のこれらの伸長は、上記で定義された触媒リボザイム構造に隣接している。相同配列の各伸長は、7~15のヌクレオチド長さを変えることができる。相同配列を定義するための唯一の要件は、標的RNA上で、それらが切断部位である特定の配列によって分離されていることである。ハンマーヘッド型リボザイムの場合、切断部位は、標的RNA上のジヌクレオチド配列がウラシル(U)であり、続いてアデニン、シトシンまたはウラシル(A、CまたはU)のいずれかである(Thompsonら、(1995年)Nucl Acids Res23:2250-68)。任意の所与のRNA中に存在するこのジヌクレオチドの頻度は、統計的には16中の3である。したがって、1,000塩基の所与の標的メッセンジャーRNAについて、187個のジヌクレオチド切断部位が統計的に可能である。
【0113】
リボザイム指向性RNA切断活性の一般的な設計および最適化は詳細に論じられており(HaseloffおよびGerlach(1988年)Nature 334:585-591;Symons(1992年)Ann Rev Biochem 61:641-71;Chowriraら(1994年)J Biol Chem 269:25856-64;Thompsonら(1995年)上記)、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。標的RNAを効率よく切断するためのリボザイムの設計および試験は、当業者に周知のプロセスである。リボザイムを設計および試験するための科学的方法の例は、Chowriraら(1994年、上記)およびLieberおよびStrauss(1995年)Mol Cell Biol.15:540-51に記載されており、そのそれぞれが、参照によって本明細書に組み込まれる。所与の遺伝子の下方制御に使用するための有効かつ好ましい配列を同定することは、所与の配列の調製および試験に関する問題であり、当業者に公知の日常的に実施される「スクリーニング」方法である。RNAi構築物の使用は、上記の引用文献、ならびに例えば、米国特許出願公開第2005/0166289号および国際公開第2013/016267号(両方とも参照により本明細書に組み入れられる)に記載されている。標的遺伝子と相同性を有する二本鎖RNAは、細胞に送達されるか、またはRNAi構築物、例えば、RNAi短鎖ヘアピン(sh)構築物の発現によって細胞内で産生される。構築物は、標的遺伝子と同一であるか、または、標的遺伝子の配列に対して、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一である。構築物は、標的遺伝子と相同である、少なくとも約20、少なくとも約30、少なくとも約40、少なくとも約50、少なくとも約100、少なくとも約200、少なくとも約300、少なくとも約400、少なくとも約500、少なくとも約600、少なくとも約700、少なくとも約800、少なくとも約900、または少なくとも約1kbの配列(例えば、少なくとも20、50、100、200、400、600、800、または1kbの配列)を有し得る。発現ベクターは、shRNAを産生する構築物などのRNAi構築物の連続的または誘導的発現のために選択されたプロモーターを用いて、操作することができる。
【0114】
アンチセンス、RNAi、またはリボザイム構築物において使用されるプロモーターは、宿主生物において機能的であり、かつ標的遺伝子の発現を所望の量まで減少させるのに必要とされる発現レベルに好適なあらゆるものであり得る。藻類および植物において機能的なプロモーターは、当技術分野において公知であり、本明細書に開示されている。構築物は、本明細書に開示されたあらゆるものを含む任意の実行可能な方法を用いて、藻類または植物に形質転換することができる。これらに限定されないが、アンチセンス、RNAi、またはリボザイム構築物など、SGI1遺伝子発現を減衰させるために、核酸分子で形質転換された組換え生物または微生物は、減衰された遺伝子発現をもたらす外因性核酸分子を含まない宿主生物または微生物と比べて、例えば、クロロフィルの減少、光合成効率の向上、および培養における生産性の増大など、本明細書に記載のSGI1突然変異体の特性を有することができる。
【0115】
当業者であれば、微生物の遺伝的形質転換のために複数の形質転換方法を使用することができ、したがって本発明の方法のために展開することができることを理解するであろう。「安定した形質転換」は、ある生物に導入された核酸構築物が、その生物のゲノムに組み込まれるか、または安定なエピソーム構築物の一部であり、かつその子孫によって受け継がれ得ることを意味することを意図している。「一過性の形質転換」では、ポリヌクレオチドが、生物に導入されるが、ゲノムに組み込まれていないか、さもなければ確立されて後続世代によって安定的に受け継がれることのないことを意味することを意図している。
【0116】
遺伝的形質転換は、導入遺伝子、核またはプラスチドのいずれかからの構築物の安定な挿入および/または発現をもたらし得、いくつかの場合には導入遺伝子の一過性の発現をもたらし得る。形質転換方法は、ガイドRNAまたは編集DNAの導入にも使用できる。微細藻類の遺伝的形質転換は、少なくとも約22種の緑、赤、および褐藻類、珪藻、ユーグレナ類、および渦鞭毛藻に所属する微細藻類の30超の異なる株における成功が報告されている(例えば、Radakovitsら、Eukaryotic Cell、2010年;およびGongら、J.Ind.Microbiol.Biotechnol.,2011年を参照されたい)。そのような有用な形質転換方法の非限定的な例としては、ガラスビーズまたは炭化ケイ素ウィスカーの存在下での細胞の撹拌が挙げられる。これらは、例えば、Dunahay,Biotechniques、15(3):452-460、1993年;Kindle,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1990年;MichaelおよびMiller、Plant J.,13、427-435、1998年に報告されている。エレクトロポレーション技術は、例えば、ナンノクロリス種、(例えば、Chenら、J. Phycol.、44:768-76、2008年)、クロレラ属(例えば、Chenら、Curr.Genet.,39:365-370,2001年;ChowおよびTung、Plant Cell Rep.第18巻、第9号、778-780、1999年)、クラミドモナス(Shimogawaraら、Genetics、148:1821-1828、1998年)、およびドナリエラ属(Sunら、Mol.Biotechnol.30(3):185-192、2005年)など、いくつかの微細藻類種の遺伝的形質転換に首尾よく使用されてきた。マイクロパーティクルボンバードメント、遺伝子銃形質転換、またはバイオリスティックボンバードメントとも称されるマイクロプロジェクタイルボンバードメントは、例えば、フェオダクチラム(AptらMol.Gen.Genet.、252:572-579、1996年)、シクロテラ属およびナビクラ属(Dunahayら、J.Phycol.,31:1004-1012、1995年)、キリンドロテカ属(Cylindrotheca)(Fischerら、J.Phycol.,35:113-120、1999年)、およびカエトセロス属(Miyagawa-Yamaguchiら、Phycol.Res.59:113-119、2011年)などの珪藻種、ならびにクロレラ(El-Sheekh、Biologia Plantarum、第42巻、第2号:209-216、1999年)、およびボルボックス種(Jakobiakら、Protist、155:381-93、2004年)などの緑藻など、いくつかの藻類種に首尾よく使用されている。さらに、アグロバクテリウム媒介遺伝子導入技術も、微細藻類の遺伝的形質転換に有用であり得る。これらは、例えば、Kumar、Plant Sci、166(3):731-738、2004年、およびCheneyら、J.Phycol.、第37巻、Suppl.11、2001年によって報告されている。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2016/0244770号に開示されているように、細菌種との接合も、遺伝子および構築物の藻類への転移に用いられてきた。
【0117】
本明細書に記載の形質転換ベクターまたは構築物は、典型的には標的宿主細胞、例えば、藻類細胞に選択可能またはスコア付け可能な表現型を付与するマーカー遺伝子を含むか、またはマーカーを含む構築物と同時形質転換され得る。藻類の遺伝的形質転換体を効率よく単離するために、複数の選択マーカーが首尾よく開発されてきた。一般的な選択マーカーとしては、抗生物質耐性、蛍光マーカー、および生化学的マーカーが挙げられる。以下に記載するものなど、いくつかの異なる抗生物質耐性遺伝子が、微細藻類形質転換体の選択に首尾よく使用されている:ブラストシジン、ブレオマイシン(例えば、Aptら、1996年、上記;Fischerら、1999年、上記;Fuhrmannら、Plant J.,19、353-61、1999年、Lumbrerasら、Plant J.、14(4):441-447、1998年;Zaslavskaiaら、J.Phycol.、36:379-386、2000年を参照されたい)、スペクチノマイシン(Ceruttiら、Genetics、145:97-110、1997年;Doetschら、Curr.Genet.、39、49-60、2001年;Fargo、Mol.Cell.Cell.Biol.、19:6980-90、1999年)、ストレプトマイシン(Bertholdら、Protist、153:401-412、2002年)、パロモマイシン(Jakobiakら、Protist、上記;Sizovaら、Gene、277:221-229、2001年)、ノーセオスリシン(Zaslavskaiaら、2000年、上記)、G418(Dunahayら、1995年、上記;PoulsenおよびKroger、FEBS Lett.、272:3413-3423、2005年、Zaslavskaiaら、2000年、上記)、ハイグロマイシン(Bertholdら、2002年、上記)、クロラムフェニコール(PoulsenおよびKroger、2005年、上記)、および他の多くのもの。クラミドモナスなどの微細藻類に使用するための追加の選択マーカーは、カナマイシン耐性およびアミカシン耐性(Bateman、Mol.Gen.Genet.263:404-10、2000年)、ゼオマイシンおよびフレオマイシン(例えば、ZEOCIN(商標)pheomycin D1)耐性(Stevens、Mol.Gen.Genet.251:23-30、1996年)、パロモマイシンおよびネオマイシン耐性(Sizovaら、2001年、上記)を提供するマーカーであり得る。使用されている他の蛍光または発色マーカーとしては、ルシフェラーゼ(Falciatoreら、J.Mar.Biotechnol.、1:239-251、1999年;Fuhrmannら、Plant Mol.Biol.,2004年;JarvisおよびBrown、Curr.Genet.,19:317-322、1991年)、β-グルクロニダーゼ(Chenら、2001年、上記;Cheneyら、2001年、上記;ChowおよびTung、1999年、上記;El-Sheekh、1999年、上記;Falciatoreら、1999年、上記;Kublerら、J.Mar.Biotechnol.、1:165-169、1994年)、β-ガラクトシダーゼ(Ganら、J.Appl.Phycol.、15:345-349、2003年;Jiangら、Plant Cell Rep.、21:1211-1216、2003年;QinらHigh Technol.Lett.、13:87-89、2003年)、および緑色蛍光タンパク質(GFP)(Cheneyら、2001年、上記;Enderら、Plant Cell、2002、Franklinら、Plant J.、2002年;56、148、210)が挙げられる。
【0118】
当業者であれば、様々な既知のプロモーター配列が、本発明による微細藻類種の形質転換系に有用に展開され得ることを容易に認識するであろう。例えば、一般に微細藻類において、導入遺伝子発現を駆動するために使用されるプロモーターは、渦鞭毛藻類および緑藻植物門の両方で使用されてきたカリフラワーモザイクウイルスプロモーター35S(CaMV35Sプロモーター)の様々なバージョンを含む(Chowら、Plant Cell Rep、18:778-780、1999年;JarvisおよびBrown、Curr.Genet.、317-321、1991年;LohuisおよびMiller、Plant J.、13:427-435、1998年)。サルウイルス由来のSV40プロモーターはまた、いくつかの藻類において活性であることが報告されている(Ganら、J.Appl.Phycol.、151 345-349、2003年;Qinら、Hydrobiologia 398-399、469-472、1999年)。RBCS2(リブロースビスホスフェートカルボキシラーゼ、小サブユニット)(Fuhrmannら、Plant J、19:353~361、1999年)およびクラミドモナスのPsaD(光化学系I複合体の豊富なタンパク質;FischerおよびRochax、FEBS Lett.581:5555-5560、2001年)のプロモーターも有用であり得る。HSP70A/RBCS2とHSP70A/β2TUB(チューブリン)との融合プロモーター(Schrodaら、Plant J.、21:121-131、2000年)はまた、導入遺伝子の発現の改善に有用であり得、HSP70Aプロモーターが、他のプロモーターの上流に置かれたときに、転写活性化因子として機能し得る。目的遺伝子の高レベルの発現は、また、珪藻フコキサンチン-クロロフィルa/b結合タンパク質をコードするfcp遺伝子(Falciatoreら、Mar.Biotechnol.、1:239-251、1999年;Zaslavskaiaら、J.Phycol.36:379-386、2000年)、または真正糸状菌ビオラキサンチン-クロロフィルa/b結合タンパク質をコードするvcp遺伝子(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,318,482号を参照のこと)のプロモーターの制御下で、例えば、珪藻種において達成することができる。所望であれば、誘導性プロモーターは、トランスジェニック微細藻類における迅速で、かつ厳密に制御された遺伝子の発現を提供し得る。例えば、硝酸レダクターゼをコードするNR遺伝子のプロモーター領域をそのような誘導性プロモーターとして使用することができる。NRプロモーター活性は、典型的にはアンモニウムによって抑制され、アンモニウムが硝酸塩によって置き換えられるときに誘導され(PoulsenおよびKroger、FEBS Lett272:3413-3423、2005年)、したがって、微細藻類細胞がアンモニウム/硝酸塩存在下で成長するとき、遺伝子発現はスイッチが入るか、またはスイッチが切られ得る。アンモニウム抑制性ナンノクロリスプロモーターは、「アンモニア抑制性亜硝酸塩/亜硫酸レダクターゼ」プロモーターと称され、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第2017/0073695号に開示されている。本明細書に提供される構築物および形質転換系において用途を見出すことができる追加の藻類プロモーターには、米国特許第8,835,419号、米国特許第8,883,993号、米国特許出願公開第2013/0023035号;米国特許出願公開第2013/0323780号;米国特許出願公開第2014/0363892号、米国特許出願公開第2017/0152520号、および米国特許出願公開第2017/0114107号に開示されているものが挙げられ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0119】
宿主細胞または生物は、非形質転換細胞もしくは生物のいずれかであり得るか、または少なくとも1つの外因性核酸分子で既にトランスフェクトされている細胞または生物のいずれかであり得る。例えば、SGI1遺伝子の発現が減衰するように操作されている藻類または植物宿主細胞は、これらに限定されるものではないが、1つ以上のタンパク質、色素、アルコール、または脂質などの目的の生体分子の産生の増大などの任意の望ましい形質を付与するか、または寄与し得る1つ以上の導入遺伝子をさらに含み得る。
【0120】
マイクロボンバードメントによる藻類細胞の形質転換は、例えば、米国特許第8,883,993号および米国特許出願公開第2017/0130238号に記載されており、これらの両方は、参照によりその全体が組み込まれる。BioRad Helios(登録商標)Gene Gunを使用したボンバードメントは、Helios Gene Gunシステム取扱説明書、M1652411(bio-rad.com/en-us/product/helios-gene-gun-system?tab=Documents)にも記載されている。
【0121】
様々な態様において、遺伝子減衰突然変異は、植物において生じる。方法としては、例えば、1つ以上の植物SGI1遺伝子を標的とするために本明細書に記載のCRISPR系を導入することが挙げられる。多種多様な植物および植物細胞系は、本開示の核酸構築物および当該分野で公知の種々の形質転換方法を使用して、本明細書に記載の所望の生理学的および農学的特徴について操作し得る(Guerineau F.、Methods Mol Biol.(1995年)49:1-32を参照されたい)。好ましい実施形態では、操作するための標的植物および植物細胞としては、これらに限定されないが、穀物作物(例えば、コムギ、トウモロコシ、イネ、キビ、オオムギ)などの作物、果実作物(例えば、トマト、リンゴ、ナシ、イチゴ、オレンジ)、飼料作物(例えばアルファルファ)、根菜類作物(例えば、ニンジンポテト、サトウダイコン、ヤマノイモ)、葉菜類作物(例えばレタス、ホウレンソウ)などの単子葉植物および双子葉植物;開花植物(例、ペチュニア、バラ、キク)、針葉樹およびマツ(例えば、マツ、モミ、エゾマツ)、ファイトレメディエーションに使用される植物(例、重金属蓄積植物)、油料作物(例えば、ヒマワリ、アブラナ)、および実験目的に使用される植物(例えば、シロイヌナズナ)が挙げられる。このため、SGI1変異体は、例えば、以下の目に属する双子葉植物など、広範囲の植物において生成され得る:モクレン目、Miciales、クスノキ目、コショウ目、ウマノスズクサ目、スイレン目、キンポウゲ目、アワ目、サラセニア科、ヤマグルマ目、マンサク目、トチュウ目、レイトネリア目、ヤマモモ目、ブナ目、モクマオウ目、ナデシコ目、バティス目、タデ目、イソマツ目、ビワモドキ目、ツバキ目、アオイ目、イラクサ目、サガリバナ目、スミレ目、ヤナギ目、フウチョウソウ目、ツツジ目、イワウメ目、カキノキ目、サクラソウ目、バラ目、マメ目、カワゴケソウ目、アリノトウグサ目、フトモモ目、ミズキ目、ヤマモガシ目、ビャクダン目、ラフレシア目、ニシキギ目、トウダイグサ目、クロウメモドキ目、ムクロジ目、クルミ目、フウロソウ目、ヒメハギ目、セリ目、リンドウ目、ハナシノブ目、シソ目、オオバコ目、ゴマノハグサ目、キキョウ目、アカネ目、マツムシソウ目、およびキク目。
【0122】
SGI1突然変異体は、オモダカ目、トチカガミ目、イバラモ目、ホンゴウソウ目、ツユクサ目、ホシクサ目、レスティオ目、イネ目、イグサ目、カヤツリグサ目、ガマ目、パイナップル目、ショウガ目、ヤシ目、パナマソウ目、タコノキ目、サトイモ目、ユリ目、およびラン目に属するもの、裸子植物下門に属する植物、例えば、マツ目、イチョウ目、ソテツ目、マキ目、ヒノキ目およびグネツム目に属するものなどの単子葉植物でも生成することができる。
【0123】
上記の実施形態のいずれかに代えてまたは加えて、本明細書に含まれるものは以下の実施形態である:
実施形態1は、SGI1ポリペプチドをコードする遺伝子の減衰を有する突然変異光合成生物であって、光合成生物は、バイオマスまたは少なくとも1つのバイオ産物を実質的に同じ条件下で成長または培養させた対照光合成生物よりも、より多く産生し、任意で、以下のうちの1つ、またはそれ以上を満たすものとする:
a) 突然変異光合成生物は、対照光合成微生物と比べてクロロフィルの減少を有する。
b) 突然変異光合成生物は、対照光合成生物と比べてクロロフィルa:b比の上昇を有する。
c) 突然変異光合成生物は、対照光合成生物と比べて、減少した光化学系II(PSII)アンテナサイズを有する。
d) 突然変異光合成生物は、対照光合成生物と比べて、より高い14C Pmaxを有する請求項1記載の突然変異光合成生物。
e) 突然変異光合成生物が、対照生物よりも高いFv/Fmを有する、請求項1記載の突然変異光合成生物。
f) 突然変異光合成生物が、対照生物よりも高いタンパク質含有量を有する。
g) 突然変異光合成生物が、対照生物よりも高いRubisco活性化酵素含有量を有する。
実施形態2は、突然変異光合成生物が、実質的に同じ条件下で成長または培養させた対照光合成生物よりも、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも100%以上のバイオマス、または少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは100%より多くの、少なくとも1つのバイオ産物を産生する、実施形態1の突然変異光合成生物であり、任意で、バイオ産物は、1つ以上の脂質、1つ以上の炭水化物、1つ以上のタンパク質またはペプチド、1つ以上の核酸、1つ以上の糖、1つ以上のアルコール、1つ以上のアミノ酸、1つ以上のヌクレオチド、1つ以上の抗酸化物質、1つ以上の色素もしくは着色剤、1つ以上のビタミン、1つ以上のテルペノイド、または1つ以上のポリマーである。
実施形態3は、実施形態1または実施形態2の突然変異光合成生物であって、SGI1遺伝子は、レスポンスレギュレーターレシーバードメインのC末端にmybドメインを有するSGIポリペプチドをコードしており、任意でSGI1ポリペプチドは:
a) SEQ ID NO:40、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:42、SEQ ID NO:43、SEQ ID NO:44、SEQ ID NO:45、SEQ ID NO:46、SEQ ID NO:47、SEQ ID NO:48、SEQ ID NO:49、SEQ ID NO:50、SEQ ID NO:51、SEQ ID NO:52、SEQ ID NO:53、SEQ ID NO:54、SEQ ID NO:55、SEQ ID NO:56、またはSEQ ID NO:57のいずれかに対して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の同一性を有するレスポンスレギュレーターレシーバー(RR)ドメインをコードするアミノ酸配列を含み、かつ/または
b) SEQ ID NO:58、SEQ ID NO:59、SEQ ID NO:60、SEQ ID NO:61、SEQ ID NO:62、SEQ ID NO:63、SEQ ID NO:64、SEQ ID NO:65、SEQ ID NO:66、SEQ ID NO:67、SEQ ID NO:68、SEQ ID NO:69、SEQ ID NO:70、SEQ ID NO:71、SEQ ID NO:72、SEQ ID NO:73、SEQ ID NO:74、またはSEQ ID NO:75のいずれかに対して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の同一性を有するmybドメインをコードするアミノ酸配列を含む。
実施形態4は、SGI1遺伝子が突然変異している、実施形態1~3のいずれかの突然変異光合成生物である。任意で:
a) SGI1遺伝子は、遺伝子を不活性化するインデルを含む。
b) SGI1遺伝子は、その遺伝子によってコードされるSGI1ポリペプチドの少なくとも1つのアミノ酸を変化させる突然変異を含む。
c) SGI1遺伝子は、遺伝子を不活性化する導入されたDNA断片の挿入を含む。
d) SGI1遺伝子は、遺伝子の発現を減少させる、遺伝子の5’または3’非翻訳領域へ導入されたDNA断片の挿入を含む。
e) SGI1遺伝子は、遺伝子の発現を減少させる遺伝子の5’または3’非翻訳領域にインデルを含む。
実施形態5は、突然変異光合成生物が、SGI1遺伝子転写物を標的とするRNAi構築物、アンチセンス構築物、またはリボザイム構築物を含む、実施形態1~3のいずれかの突然変異光合成生物である。
実施形態6は、突然変異光合成生物が植物、任意で単子葉植物、双子葉植物、またはコケである、実施形態1~5のいずれかの突然変異光合成生物である。
実施形態7は、突然変異光合成生物が藻類、任意で微細藻類、任意で緑藻植物または車軸藻類である、実施形態1~5のいずれかの突然変異光合成生物である。
実施形態7は、実施形態7の突然変異光合成生物であって、突然変異光合成微生物が、緑藻綱、クロロデンドロン藻綱、プラシノ藻、またはトレボウクシア藻綱の緑藻類である。
実施形態8は、上記の実施形態のいずれかの突然変異光合成生物を含むバイオマスである。
実施形態9は、実施形態1~7の突然変異光合成生物のいずれかを培養すること、およびバイオマスを単離することを含む、バイオマスまたはバイオ産物を製造する方法である。
【実施例
【0124】
培地
PM119は、以下を含む栄養豊富培地である:35pptのInstant Ocean Salt(Aquatic Eco Systems;Apopka、FL)、5xギラードF/2海洋水濃縮溶液(50Xストック、Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、カタログ番号G0154;培地中の成分の最終濃度:4.413mM硝酸ナトリウム;一塩基性0.16mMリン酸ナトリウム;0.103μMビオチン;0.240μM塩化コバルト・6HO;0.200μM硫酸銅・5HO;0.0585mM EDTA二ナトリウム・2HO;4.54μM塩化マンガン・4HO;0.124μMモリブデン酸ナトリウム・2HO;1.48μMチアミン・HCl;0.0185μMのビタミンB12;0.382μM硫酸亜鉛・7HO)。
【0125】
PM074は、1.3mlのPROLINE(登録商標)F/2藻類飼料パートA(Aquatic Eco-Systems)および1.3mlのPROLINE(登録商標)F/2藻類飼料パートB(Aquatic Eco-Systems)を最終量1リットルのInstant Ocean salt(35g/L)溶液(Aquatic Eco Systems、Apopka、FL)となるように添加することによって作製される栄養豊富培地である。プロリンAとプロリンBは、一緒に、8.8 mMのNaNO、0.361mMのNaHPOO、10xF/2微量金属、および10xF/2ビタミン類に含むようにする(Guillard(1975年)Culture of phytoplankton for feeding marine invertebrates.in「Culture of Marine Invertebrate Animals」(編:Smith WLおよびChanley M.H.))Plenum Press、New York、USA.26-60頁)。
【0126】
PM147は、PM074をベースにしているが、50%の塩を有する栄養豊富な培地である。1.3mlのPROLINE(登録商標)F/2藻類飼料パートA(Aquatic Eco-Systems)および1.3mlのPROLINE(登録商標)F/2藻類飼料パートB(Aquatic Eco-Systems)を最終量1リットルのInstant Ocean salt(17.5g/L)溶液(Aquatic Eco Systems、Apopka、FL)となるように添加することによって作製する。
【0127】
PM153は、PM074をベースにしているが、窒素源として硝酸塩の代わりに尿素を含む栄養豊富培地である。PM153は、1.3mlのPROLINE(登録商標)F/2藻類飼料パートA(Aquatic Eco-Systems)および1.3mlの「溶液C」を最終量1リットルのInstant Ocean salts(17.5g/L)(Aquatic Eco Systems、Apopka、FL)溶液となるように添加し、次いで、1.1Mの濾過滅菌尿素の場合は4mlを添加することによって作製される。溶液Cは、38.75g/LのNaHPOO、758mg/LのチアミンHCl、3.88mg/LのビタミンB12、および3.84mg/Lのビオチンである。
【0128】
実施例1 パラクロレラ株のUV突然変異誘発
葉緑素、または緑藻種から突然変異体を単離するために、パラクロレラ株WT-1185の細胞を、UVにより突然変異誘発し、弱光順化後に、低クロロフィル蛍光に基づいて選択した。突然変異誘発に使用するためのパラクロレラ株WT-1185は、海洋環境から単離させた。パラクロレラWT-1185細胞を対数増殖期中期まで成長させ、次いで成長培地PM119で1x10細胞/mLに希釈した。細胞懸濁液をピペットで100mmペトリ皿に移し、STRATALINKER(登録商標)2400 UV架橋剤(Agilent Technologies、Santa Clara、CA)内に入れ、プレートの蓋を外した。UV照射は、10,000、25,000、および50,000μJ/cmで行った。照射後、回収の間24時間にわたって光曝露を妨げるために、細胞懸濁液を箔で包み込んだ振とうフラスコにピペットにより入れた。
【0129】
実施例2 低クロロフィルパラクロレラ種 WT-1185突然変異株のスクリーニング
実施例1に記載したように突然変異誘発させ、回収した後、淡色コロニーからの細胞を選択し、弱光(光量子束密度100μmol m-2sec-1)において、1~5日の間成長させ、次いで、BD FACSAria II flow cytometer(BD Biosciences、San Jose、CA)を用いてフローサイトメトリーにより選別し、低クロロフィル蛍光を有する細胞を選択した。一般に、細胞の全集団と比較して、クロロフィル蛍光が最も少ない細胞の部分(約0.5~2%)を選択した。選別した細胞をプレーティングした後、視覚的に淡緑色または黄色のコロニーを選択することによって、フローサイトメトリーによって単離されたアンテナが減少している系統のさらなる一次スクリーニングを行った。他の色素減少突然変異体および偽陽性から推定上のアンテナ減少系統をスクリーニングするために、選択されたコロニーを中程度の処理量の二次培養スクリーニングに供し、光生理学的測定の前に分離株を弱光条件に順化させた。クロロフィル蛍光を弱光順化中にモニターして、強光順化状態の特徴である減少したクロロフィル蛍光特性を保持しているコロニーを選択した。選択されたクローンは、強光から弱光に移されたときに、クロロフィルのほんのわずかな増加(野生型細胞と比較して)を示した。
【0130】
75cmの組織培養フラスコ中の165ml培養物を用いて、一定の強光(光量子束密度約1,700μmol m-2sec-1)において半連続培養アッセイを行い、野生型祖先株WT-1185と比べて、生産性の増大を有する株(TOC蓄積として測定したバイオマス生産性の上昇)を同定した。2つの75cmフラスコに、所定の突然変異株のシード培養物を接種した。フラスコは、培養物からバブリングされたCO富化空気(1%CO)を送達するためのシリンジフィルターに接続された管を有する栓を有していた。フラスコは、LEDライトバンクに対して幅(最も狭い寸法)により整列させた。培養物の深さ(光源に最も近いフラスコの壁からフラスコの背部の壁までの距離)は約8.0cmであった。培養物は、培養体積の65%を除去し、培養物において発生する蒸発による塩分の増加を調整するために希釈した新鮮PM119培地に交換して、光周期の開始時に毎日希釈した(1L PM119培地に対して、212ml 2HO)。TOC分析用のサンプルは、希釈のために取り出した培養物から採取した。本アッセイにおいて生産性の増大を有すると同定された2つの単離株(NE-7843およびNE-13380)をさらに分析した。
【0131】
実施例3 藻類突然変異体NE-7843およびNE-13380の半連続生産性アッセイ
弱光条件下でクロロフィルの減少を有することが判明したパラクロレラ株において、生産性の増大について、2つの分離株(突然変異体NE-7843およびNE-13380)を分析した。生産性アッセイでは、突然変異体の光独立栄養培養物を、一定の光の半連続式(CL-SCPA)で数日間にわたって成長させた。培養サンプルは、バイオマス測定のために毎日取り出した。光は、1日24時間、一定の光量子束密度1900~2000μmol m-2sec-1に維持した。このアッセイでは、225cmフラスコ中のPM119培地に、所定の突然変異株のシード培養物を接種した。1株につき3つの培養を開始した。フラスコは、培養物からバブリングされたCO富化空気(1%CO)を送達するためのシリンジフィルターに接続された管を有する栓を有していた。フラスコは、LEDライトバンクに対して幅(最も狭い寸法)により整列させた。光源から背部にわたるフラスコの「深さ」寸法は、13.7cmであった。フラスコの配置を考慮に入れると、光源の表面からのフラスコ内の細胞の最も遠い距離は、約15.5cmであった。培養物は、培養体積の65%を除去し、その分を新鮮なPM119培地に交換して、培養物において発生する蒸発による塩分の増加を調整するよう希釈することで、毎日希釈した。TOC分析用のサンプルは、希釈のために取り出した培養物から採取した。培養物が定常状態に達した後、半連続生産性アッセイを12日間実施した。
【0132】
アッセイの生産性は、毎日取り出したサンプルから全有機炭素(TOC)を測定することによって評価した。全有機炭素(TOC)は、2mLの細胞培養物を脱イオン水で総量20mLに希釈することによって測定した。全炭素(TC)および全無機炭素(TIC)を決定するために、測定1回当たり3回の注入物をShimadzu TOC-Vcsj Analyzerに注入した。燃焼炉は720℃に設定し、TOCはTCからTICを差し引くことによって決定した。4点較正範囲は、2ppm~200ppmまでであり、これは、非希釈培養物の20~2000ppmに対応し、相関係数はr>0.999であった。
【0133】
小規模生産性アッセイの例示的な結果は、突然変異体NE-7843については図1Aに、突然変異体NE-13380については図1Bに提供される。12日間の培養にわたる二連の培養物の1日の平均生産性を示す。図1Aおよび図1Bは、突然変異体NE-7843およびNE-13380がそれぞれこのCLSCPAアッセイにおいてより高い生産性を有し、それぞれが、TOCにおいては、12日のアッセイの過程にわたって、野生型と比べて平均34%増大していることを実証している。
【0134】
実施例4 パラクロレラLIHLA突然変異体の遺伝子型判定
NE-13380およびNE-7843のゲノムを配列決定し、一塩基多型(SNP)または挿入/欠失突然変異(インデル)などの突然変異を同定する。これらのうちのいずれもが、この2つの株において観察される表現型の遺伝的基礎を形成し得る。SNPは、4つの異なる遺伝子のコード領域において突然変異が引き起こされたNE-13380のゲノムにおいて同定された(表1の最初の4行)。
【0135】
(表1)NE-13380ゲノムのSNP
【0136】
NE-13380突然変異のこの分析が進行中である間に、NE-7843ゲノムを分析することにより、この株が、以下の異なるSNPを有することも明らかになった(表2):T-2261遺伝子(SEQ ID NO:1として提供される遺伝子配列、SEQ ID NO:3のタンパク質配列をコードするSEQ ID NO:2として提供されるコード配列)におけるSNP、およびNE-13380においても突然変異された遺伝子(表1の列4)。これらは、T-2261遺伝子における突然変異が、これらの株の非常に望ましい高生産性表現型の原因であることの強力な証拠となる。
【0137】
(表2)NE-7843ゲノムのSNP
【0138】
図2は、レスポンスレギュレーターCheY様ドメインを有するパラクロレラT-2661遺伝子における変異の場所を示す。
【0139】
実施例5 パラクロレラT-2661「レスポンスレギュレーターCheY様タンパク質」遺伝子における標的指向性突然変異の生成
T-2261遺伝子の突然変異が結果的に高生産性表現型をもたらしたことを明確に実証するために、T-2261遺伝子が、2番目のエクソンの3’末端を標的とするガイドRNAを用いて、Cas9媒介挿入突然変異誘発によってノックアウトされた3つの株を作製した(図2)。単一ガイドRNA(sg RNA)(SEQ ID NO:5)は、SEQ ID NO:4の標的配列(すなわち、CRISPR配列またはT-2261遺伝子の標的配列に対応する配列)を含んでいた。また、in vitro転写のために、T7プロモーターの配列を組み込んで二重鎖鋳型を生成する2つの相補的DNAオリゴマーをアニーリングすることによって生成した。製造業者のプロトコールに従って、MEGAshortscript(商標)T7キット(Life Technologiesカタログ番号AM1354M;Carlsbad、CA)を使用して、in vitro転写反応を実施した。得られたRNAは、製造業者のプロトコールに従って、Zymo-Spin(商標)V-Eカラム(Zymo Research;Irvine、CA;カタログ番号C1024-25)を使用して精製した。
【0140】
精製したガイドRNAを、パラクロレラCas9発現エディター細胞系GE-15699の細胞に形質転換した。野生型パラクロレラ株WT-1185を以下を含む構築物により形質転換することによって、Cas9発現エディター系を作製した:
1)パラクロレラのために最適化され、パラクロレラ由来のイントロンを含む、操作されたCas9遺伝子コドンを含有し、N末端FLAGタグ、核局在化シグナル、およびパラクロレラRPS17プロモーター(SEQ ID NO:77)およびパラクロレラRPS17ターミネーター(SEQ ID NO:78)に作動可能に連結したペプチドリンカー(SEQ ID NO:76)を含む、Cas9発現カセット;
2)パラクロレラのために最適化されたアスペルギルス・テレウスコドン由来のブラストサイジン耐性遺伝子を含み、およびパラクロレラRPS4プロモーター(SEQ ID NO:80)に作動可能に連結されたパラクロレライントロン(SEQ ID NO:79)、およびパラクロレラRPS4ターミネーター(SEQ ID NO:81)を含む、選択マーカー発現カセット;ならびに
3)TurboGFP遺伝子(Evrogen、Moscow、Russia)(SEQ ID NO:82)を含み、パラクロレラACP1プロモーター(SEQ ID NO:83)によって駆動され、パラクロレラACP1ターミネーター(SEQ ID NO:84)によって終結される、GFPレポーター発現カセット
(例えば、同時係属中の米国特許出願公開第2016/0304896号、米国特許出願公開第2017/0073695号および米国特許出願公開第2017/0152520号(これらはすべて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0141】
ガイドRNA(SEQ ID NO:5)は、パラクロレラに対して最適化した、ブレオマイシン耐性「BleR」遺伝子コドンを含み、パラクロレラRPS4プロモーター(SEQ ID NO:7)に作動可能に連結しているパラクロレライントロン(SEQ ID NO:6)およびパラクロレラRPS4ターミネーター(SEQ ID NO:8)を含む、DNAドナー断片と共にエディター系GE-15699において形質転換した。形質転換は、本質的に米国特許出願公開第2016/0304896号に記載されているように、エレクトロポレーションによるものであった。エレクトロポレーション後、BleRカセットを組み込んだ形質転換体を選択するために、細胞を250μg/mlのゼオシンを含む寒天培地上にプレーティングした。形質転換体を、天然の標的遺伝子座で増幅するように設計されたプライマーを用いたコロニーPCRによってスクリーニングし、BleRカセットをT-2661遺伝子座に挿入したことを実証する3つの株:GE-16391、GE-16392、およびGE-16393を選択した。
【0142】
Cas9操作突然変異体GE-16391、GE-16392、およびGE-16393、ならびに古典的誘導突然変異体NE-7843を、実施例3に記載の条件下で半連続希釈生産性アッセイ(SCPA)において連続光下でアッセイした(CL2000アッセイ:光は、1日24時間、一定の光量子束密度1900~2000μmol m-2sec-1に維持し、培養物を毎日65%希釈した)。Cas9操作突然変異体は、古典的な突然変異誘発(図3)から単離された原株で観察されたものと本質的に同一の規模で、野生型株よりも、TOC生産性の増大を呈することが見出された。GE-16392では、バイオマス生産性が26%増大し、GE-16391およびGE-16393突然変異体では、バイオマス生産性が33%および34%増大したことを実証している。このことから、パラクロレラWT1185におけるT-2661の発現または機能のノックアウトまたは極度の減少は、連続的な強光条件下でバイオマス生産性の25~35%の増大となり得ると結論付けられた。この生産性への影響のために、T-2661遺伝子はSGI1、またはSignificant Growth Improvement 1(重要な成長改善1)と命名した。
【0143】
実施例6 他の光合成生物におけるパラクロレラSGI1(T-2661)遺伝子およびオルソログ
パラクロレラSGI1遺伝子(SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2として提供されるコード配列)は、2つの主要な機能的ドメイン(両方とも、619個のアミノ酸タンパク質のN末端側半分において生じる)を含むポリペプチド(SEQ ID NO:3)をコードすることが見出された。レスポンスレギュレーターレシーバーまたは「RR」ドメイン(Pfam PF00072)の存在(パラクロレラSGI1ポリペプチド(SEQ ID NO:3)の約アミノ酸36からアミノ酸148まで及ぶ)は、CheY様ポリペプチドとして、SGI1のバイオインフォマティックアノテーションを担っている(表1および2参照)。このRRドメインはまた、保存ドメインデータベース(CDD)において「シグナルレシーバードメイン」cd00156としても特徴付けられ、約アミノ酸37からアミノ酸154まで及んでいる。このドメインは、タンパク質のCOG(Clusters of Orthologous Groups)データベースにおける「CheY様レシーバー(REC)ドメイン」COG0784として、およびInterproの「CheY様スーパーファミリー」ドメインIPR011006としても特徴付けられ、これらの特徴付けられたドメインは両方とも、SEQ ID NO:3のパラクロレラSGI1ポリペプチドの約アミノ酸33から約アミノ酸161まで及んでいる。RRドメイン(時に「レシーバー」または多くの場合「REC」ドメインと称される)は、細菌性二成分調節系(CheYとして公知であるポリペプチドを含む細菌性走化性二成分系など)に見られ、センサーパートナーからシグナルを受け取る。こうした系のRRドメインは、多くの場合DNA結合ドメインのN末端側に見出され、典型的にはリン酸化され得るホスホアクセプター部位を含む。リン酸化は、その活性化または不活性化の原因であり得る。
【0144】
パラクロレラSGI1遺伝子(T-2661遺伝子)は、RRドメインのC末端に位置付けられたmybドメインも有する。mybドメインは、pfam PF00249:「Myb様DNA結合ドメイン」として同定され、SEQ ID NO:3の約アミノ酸位置204から約アミノ酸位置254まで及び、また保存ドメインTIGR01557「myb様DNA-結合ドメイン、SHAQKYFクラス」として同定され、SEQ ID NO:3の約アミノ酸位置202からアミノ酸位置255まで及んでいる(パラクロレラSGI1ポリペプチド)。Interproタンパク質分析および分類データベースにSEQ ID NO:3を照会すると、SEQ ID NO:3のアミノ酸位置201からアミノ酸位置259に及ぶInterproホメオボックス様ドメインスーパーファミリードメイン(IPR009057)、およびSEQ ID NO:3のアミノ酸位置199からアミノ酸位置258に及ぶInterpro Mybドメイン(IPR017930)が同定される。
【0145】
さらに、本明細書において保存ドメイン間のリンカーと呼ばれる低アミノ酸保存の領域内で、RRドメインとMybドメインとの間に位置付けられたパラクロレラSGI1ポリペプチドにおいて核局在化シグナルを同定することができた。
【0146】
mybドメインのC末端のパラクロレラSGI1ポリペプチドの領域には、保存されたタンパク質ドメインは見ることはできなかった。対照的に、mybドメインが、RRドメインのC末端に位置する、RRドメインおよびmybドメインのSGI1アーキテクチャは、緑色植物亜界ゲノムにおいてコードされた多くのタンパク質に見ることができる。バイオインフォマティック解析を使用して、この保存されたアーキテクチャに基づいて、追加の植物および藻類種におけるパラクロレラSGI1の可能性のあるオルソログを同定した。
【0147】
追加の光合成生物におけるSGI1タンパク質のクラスを同定するために、パラクロレラSGI1ポリペプチドに見られる「RRドメイン-mybドメイン」アーキテクチャのために隠れマルコフモデル(HMM)を構築した。HMMを開発するために使用されるアミノ酸配列は、RRドメインおよびmybドメインの両方、ならびにこの2つのドメイン間のリンカー領域を含むアミノ酸配列の連続伸長を含むものであった。
【0148】
第1の工程として、パラクロレラSGI1ポリペプチド配列(SEQ ID NO:3)を用いて、植物および藻類のゲノムを含むJGI Phytozomeデータベースv.12をBLAST検索した。3つの専売藻類ゲノム(パラクロレラ、テトラセルミス、およびオオキスティス種由来)も検索されたデータベースに追加された。検索は、約2,000ヒットに達すると中止された。次いで、これらの結果をInterProScan(EMBL-EBI[European Molecular Biolgy Laboratories-European Bioinformatics Institute、例えば、ebi.ac.uk]から入手可能)により分析し、選択された結果がInterpro CheY様スーパーファミリードメイン(IPR011006)およびInterproホメオボックス様ドメインまたはMybドメイン(IPR009057またはIPR017930)の両方を有することを確認した。いずれのドメインも有さない候補は除外した。この工程では、選択されたヒット数を900~1,000の間に減らし、2つのドメインアーキテクチャ(RRドメインN末端からmybドメインまで)を有するポリペプチドが、藻類および高等植物の両方のポリペプチドにおいて明確に同定された。得られた配列を用いて、配列相同性に基づいて系統樹を組み立てた。系統樹は、藻類種由来のSGI1相同ポリペプチドの明確なグループ分けを示した。
【0149】
ある種の藻類では、SGI様遺伝子の数は少ない。典型的には、ある種の藻類においては単一の遺伝子が同定されるが、テトラセルミスでは3つの高相同性である遺伝子が同定され、これらはすべて、三倍体であると評価された株の同じ遺伝子の対立遺伝子である可能性が高い。一倍体であるパラクロレラで見つかった単一のSGI1ポリペプチドの機能、および三倍体であると考えられているテトラセルミスで同定された3つの類似性の高いSGI1ポリペプチドの機能が検証された(実施例5、7、および16~18を参照されたい)ことから、ある種の藻類においてSGI1遺伝子の数が少ないということは、その藻類の種において同定されたSGI1遺伝子(複数可)が、実際にはその種の機能的SGI1遺伝子であることを意味する(パラクロレラおよびテトラセルミスゲノムは施設内で配列が決定された)。
【0150】
他の光合成生物における可能性の高いSGI1オルソログについての基準を確立するために、SGI1ポリペプチド配列の藻類クラスターに基づいて隠れマルコフモデル(HMM)が開発された。HMMは、2つの保存ドメイン間のリンカー領域など、RRドメインおよびmybドメインの両方を包含するSGI1ポリペプチドのN末端部分に基づいて開発された。いかなる認識可能な保存構造も含まないmybドメインのC末端側のポリペプチドの配列は、モデル構築から除外した。HMMER 3.1b2を使用して、多重配列アライメント(MSA)を用いて、パラクロレラ、オオキスティス、およびテトラセルミスポリペプチドの専売配列、ならびにクラミドモナス・レインハルディ、ボルボックス・カルテリ、クロモクロリス・ゾフィンジエンシス、コッコミクサ・スベリプソイデア、ミクロモナス種 RCC299、およびオストレオコッカス・ルミナリヌスのポリペプチドの公的データベースの配列から、HMMを構築した。上記のタンパク質のN末端部分の多重配列アラインメント(MSA)は、ETE3 toolkitおよびeggnog41ワークフローを使用して生成した。このプログラムでは、内部的に、アライメントのためにプログラムMuscle、MAFFT、Clustal Omega、およびM-coffeeを、アライメントトリミングのためにtrimAlを、系統発生の干渉のためにPhyMLを使用する。これらのプログラムは、すべて一般公開されている。HMMは、例えば、相同性比較に使用される単一のタンパク質配列とは異なり、複数のタンパク質配列から情報を捕獲し、このため、ポリペプチド配列内の高度に保存された残基と高度に多様な残基とを区別し、配列の関連性を決定する際にそれらを考慮に入れることができる。HMMを使用して配列をスコア付けすると、高度に保存された残基は、非常に多様な残基よりも大きな重み付けを受け、それによってより単純なPSAよりも優れた感度および正確さがもたらされる。
【0151】
SG11 HMMを使用して、2つの保存ドメイン(RRおよびmyb)を有することも検証されたBLAST検索で同定されたポリペプチドにスコアを割り当てた。最も高いスコア(非常に高いスコアのアラビドプシス・ハレリ相同体、SEQ ID NO:23を除く)は藻類において見出され、推定オルソログのHMMスコアは、光合成生物データベースにおいて約475~200未満の範囲であった。このサンプル中での藻類相同体HMMスコアは、一般に約400~約450の範囲であった。表3に示すように、オオキスティス、テトラセルミス、パラクロレラのSGI1相同体、および照会したほぼすべての追加の藻類相同体では、約400以上のスコアが得られた。クロモクロリス・ゾフィンジエンシス ポリペプチドのスコアが異常に低いのは、欠陥のあるゲノム注釈の結果である可能性が高い。藻類SGI1ポリペプチドのRRドメインのアラインメント(図4)は、C.ゾフィンジエンシス RRドメインの配列(SEQ ID NO:44)が、このドメインのN末端領域において連続したアミノ酸伸長を欠いているように見えることを示す。図4に示す藻類SGI1相同体のRRドメインとパラクロレラSGI1 RRドメイン(SEQ ID NO:40)との配列相同性は、約55%~約80%のアミノ酸配列同一性の範囲であった。図5には、このセットの藻類相同体のうち、パラクロレラmybドメイン(SEQ ID NO:58)との配列相同性が約85%~約97%のアミノ酸配列同一性の範囲である、藻類SGI1ポリペプチドのmybドメイン配列のアラインメントを提供する。
【0152】
(表3)藻類種におけるSGI1オルソログ
【0153】
植物種は、HMMスコアが475.9(アラビドプシス・ハレリ)~200未満の範囲の相同体を有していた。370以上のHMMスコアを有する植物相同体の例を表4に提供する。これらの相同体のうちの1つをコードする遺伝子において突然変異を有する植物に対する成長効果は、HMMスコア371を有するアラビドプシス・ガディタナ「ARR2」遺伝子は、実施例19に示す。
【0154】
(表4)植物種におけるSGI1相同体
【0155】
表2および3に列挙された藻類および植物相同体のすべてにおいて、RRドメインおよびmybドメインは、JGIゲノムにおいて注釈を付けられている、ポリペプチド配列の最初の(最もN末端の)アミノ酸内にあり、これらのSGI1相同体において、mybドメインのカルボキシ末端では、いずれの保存ドメインも同定されていない。
【0156】
実施例7 SGI1突然変異体NE-7843およびNE-13380のクロロフィル含有量、アンテナサイズおよび光生理学
高生産性突然変異体のクロロフィル含有量は、細胞をメタノールで抽出し、上清を分光光度法で分析することによって決定した。簡単に説明すると、500μlアリコートの培養物を2.0mlツイストトップチューブにピペットで移し、卓上型微量遠心機を用いて15,000rpmで10分間ペレット化した。上清をペレットから吸引し、各ペレットを1.5mlの99.8%メタノール(予め炭酸マグネシウムで中和している)中に再懸濁した。0.2mlのガラスビーズ(直径0.1mm)を各バイアルに添加し、3分間ビーズビートした。1.0mlの上清を新しい1.7mlのフリップトップチューブに移し、卓上型微量遠心機で15,000rpmで10分間遠心分離した。得られたペレットは白色であり、完全な抽出が行われたことを示していた。各上清0.8mlを光学ガラスキュベットにピペットで移し、吸収波長を720nm、665nmおよび652nmの波長で直ちに読み取った。分光光度測定は、99.8%メタノールブランクを用いて二重ビームモードで行った。以下の式を用いてクロロフィル濃度を算出した:クロロフィルa[g m-3]=16.72(A665-A720)+9.16(A652-A720)およびクロロフィルb[g m-3]=34.09(A652-A720)-15.28(A665-A720)。クロロフィルaおよびbの量は、細胞ごとおよびTOCごとに標準化した。表5は、細胞当たりの総クロロフィル量は、SGI1突然変異体間で幾分変動したが、野生型細胞と比べて約30%~約65%の範囲の量だけ普遍的に減少したことを示す。これは、観察されたアンテナサイズの減少と一致している。TOCごとに、野生型細胞に対するSGI1突然変異体中の総クロロフィルの減少は、約30%~約50%の範囲であった。
【0157】
(表5)SGI1突然変異体および野生型藻類のクロロフィル含有量
【0158】
クロロフィル含有量に加えて、PSIIアンテナサイズ、PSIアンテナサイズ、1/τ’Qa(光飽和における光化学系IIのアクセプター側の電子輸送の光飽和速度、線形光合成電子輸送の効率の尺度)および炭素固定のPmaxについて、SGI1ノックアウト株NE-7843、NE-13380、GE-16391、GE-16392、およびGE-16393を分析した。野生型およびSGI1突然変異株の細胞を実施例3に記載の一定の光の半連続培養アッセイ(CL-SCPA)で培養した。パラクロレラ野生型およびSGI1古典的突然変異体(NE-7843およびNE-13380)に関するデータは、3つの標的指向性SGI1ノックアウト(GE-16491、GE-16492、GE-16493)を含むものとは別の実験で得られた。様々な光合成パラメータの分析は、光合成生物の包括的な一連の光合成的特性および生理学的特性を測定するために開発された蛍光誘導および緩和(FIRe)技術を用いて行われた(GorbunovおよびFalkowski(2005年)「Fluorescence Induction and Relaxation(FIRe)Technique and Instrumentation for Monitoring Photosynthetic Processes and Primary Production in Aquatic Ecosystems」:Photosynthesis:Fundamental Aspects to Global Perspectives, Proc.第13回国際光合成会議モントリオール、2004年8月29日~9月3日(編:A.van der Est and D.Bruce)、Allen Press、V.2、1029-1031頁)。FIRe技術は、クロロフィル「可変蛍光」プロファイルの測定および分析に依存し(Falkowskiら、2004年「Development and Application of Variable Chlorophyll Fluorescence Techniques in Marine Ecosystems」:Chlorophyll a Fluorescence:A Signature of Photosynthesis(C.PapageorgiouおよびGovingjee、編)、Springer、757-778頁に論じられている)、クロロフィル蛍光と光合成過程の効率との間の関係に依存している。この技術は、光合成集光プロセス、光化学系II(PSII)での光化学、および炭素固定までの光合成電子輸送の特徴を明らかにする一連のパラメータを提供する。本明細書で実施された測定は、mini-FIRe装置(Maxim Gorbunov aof Rutgers University、East Brunswick、NJ)を使用した。市販のFIRe装置は、Sea-Bird Scientific(Halifax,Canada,satlantic.comおよびplanet-ocean.co.uk)から入手可能である。FIRe装置の使用に関する詳細情報は、企業のマニュアルに記載されている。すべての測定は、一定の光(光量子束密度2000μmol・m-2・sec-1)の半連続培養(CL-SCPA)培養物を用いて行われた(実施例3参照)。F/FおよびσPSIIを求めるために、蛍光誘導および緩和(FIRe)動態の測定を暗所で行った。表7に示すFv/FmおよびσPSIIの値は、6回の測定値(2つの生物学的複製の各々の3回の測定値)の平均値として算出した(これらのパラメータの誤差は5%を超えない)。
【0159】
PSI断面積の測定は、特注のsingle turnover flasher(STF)を備え、520nmでエレクトロクロミックシフト(ECS)を測定するためのフィルターセットを備えた改良型JTS-10スペクトロメーターを用いて行った。サンプルチャンバ内のピーク電力密度は、約10μs以内に反応中心を完全に閉じるのに十分なほど高かった。得られた励起速度は、(光化学系の機能的吸収断面積に応じて)10μs当たり反応中心当たり約1~3ヒットであった。STFは、短い超高輝度青色光パルス(455nm、30nm半帯域幅)を生成し、パルスタイミングはJTS-10分光計からのトリガーによって制御した。パルス幅は、STF Pulse Control Boxによって制御され、フロントパネルのポテンショメータを使用して1μs~50μsの範囲で調整可能のものであった。PSI断面積を測定するために、積分球を備えたPerkin Elmer Lambda650分光光度計を使用して、細胞懸濁液の吸収スペクトルの測定に基づいて、クロロフィル最大(約440nm)で約0.2ODまで培養物を希釈した。ECSは、DCMUおよびヒドロキシルアミンの存在下で、光量子束密度4000~120,000μmol m-2-1範囲の強度で、10μsフラッシュを用いて測定した。実験曲線は、単純指数関数:
を用いてフィッテイングさせた。式中、ECSは、最大ECSシグナルであり;Itは、光子密度(単位photon/m)であり;σPSIは、PSIの機能的断面積である。野生型のパラクロレラ(WT-1185)のPSI機能的断面積の得られた値は、(4.0+/-0.5)×10-18であった。これらの値は、同じ条件下で成長させたPSIIの機能的断面積について得られたものに近接している(σPSII=(4.3+/-0.1)×10-18)。これらのパラメータの誤差は、20%を超えないと推定した。
【0160】
炭素固定速度(C14max)は、0.5gl-1(5.95mM)の重炭酸ナトリウムを含む培地において、5μg chl ml-1に正規化された培養物を用いて測定した。C14標識された重炭酸ナトリウム20.4μCiml-1を各培養物に添加し、2500μEに10分間曝露した。サンプルは、直ちに2N HClで酸性化し、一晩脱ガスした。翌日、サンプルをBeckman LS6500シンチレーションカウンターを用いて測定し、定量した。
【0161】
τ’Qa(飽和光条件下で測定されたPSIIのアクセプター側の電子輸送時間-線形光合成電子輸送の最も遅い段階によって効率よく決定される)は、FIRe光曲線および暗所誘起緩和速度論(DIRK)プロファイルから測定した。野生型に対する体積PSII濃度は、(Fv/σ530 PSII)として推定した。これらのパラメータの誤差は、15%を超えないと推定した。光吸収断面積(光源の発光スペクトルの平均)は、以下の式を用いて推定した。
式中、[Chl/TOC]は、サンプルのクロロフィル/TOCであり;OD(λ)は、波長λで測定されたサンプルの光学密度であり;ΔIは、キュベット内の測定光路長(1cm)であり;I(λ)は、波長λで藻類を成長させるために使用される光源の強度である。
【0162】
(表6)FIRe技術で測定した蛍光および光合成パラメータ
【0163】
表7は、SGI1突然変異体のすべてが、それが由来する野生型株と比較して、Fv/Fmの上昇(約10~14%)を示し、かつアンテナ断面サイズの減少を呈することを示す。SGI1変異体は、PSIIおよびPSIのアンテナサイズの減少(野生型と比べて40~50%減少)、飽和光下でのPSIIのアクセプター側での高電子輸送率(1/τ’Qa)(操作された突然変異体における野生型と比べて、約35%~約130%の間、および、少なくとも約100%で増加)、および高炭素吸収率(Pmax)(野生型と比べて、少なくとも最大30~40%)を有し、多重反応モニタリングタンパク質決定により決定されるように、TOC当たりの光化学系の数は維持された(実施例7参照)。株はまた、野生型と比較してクロロフィルa対クロロフィルbの比がより高い(約70%高い)ことを特徴とし、これは末梢集光複合体が喪失していることを示しており、PSIIの観察された機能的断面のサイズの減少と一致する(表7)。反復されたSGI1 KO変異体(GE-16491、GE-16492、およびGE-16493、CRISPR/Cas9を使用して操作されたもの)は、元の突然変異体と非常に類似した光生理学的表現型を示したが、PSIIのアンテナのさらに大きな減少(最大55%)、飽和光下でのPSIIのアクセプター側でのより速い電子輸送速度(最大130%上昇)、およびより高い炭素吸収速度(GE-16491では最大80%高い)(表7)を有していた。
【0164】
(表7)パラクロレラSGI変異体の光生理学
【0165】
実施例8 高生産性藻類突然変異体の光生理学的スクリーニング
アンテナ減少株のスクリーニングおよび生産性アッセイを使用した高生産性変異体NE-7843およびNE-13380の発見、ならびにその後のこれらの高生産性変異体が、より高い最大光合成収率(F/F)、PSIIアンテナサイズσPSII)の減少(σPSII)、およびPSII代謝回転速度(1/τ’Qa)の上昇など、表5および6に記載の特徴的な光生理学的特性を有するという発見に基づき、本明細書では「FACS-FIRE」スクリーニングと呼ばれる、高生産性藻類突然変異体のスクリーニングを考案した。このスクリーニングは、FACSを使用して、祖先藻類集団から低クロロフィル変異体を選択することを含み、実施例6に記載のFIRe装置を用いて低クロロフィル蛍光についてFACSにより選択された集団から、個々の系統のスクリーニングを行い、1つ以上の波長でのPSIIアンテナサイズ(σPSII)、F/F、およびPSIIのアクセプター側での電子輸送速度(1/τ’Qa)を決定した。PSIIアンテナのサイズの減少、F/Fの上昇、および1/τ’Qaの上昇を有する系統を拡大し、再試験し、炭素吸収速度(Pm(14C))および培養中の生産性についてアッセイした。
【0166】
予備実験では、実施例1に記載したように、野生型パラクロレラ細胞(WT-1185株)をUVによって突然変異誘発した。突然変異誘発はまた、化学的突然変異誘発因子、ランダム挿入突然変異誘発(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2014/0220638号参照)、またはCRISPR/Cas9によるなど、標的指向性突然変異誘発(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2016/0304896号)によっても達成され得る。
【0167】
実施例2に記載したように、突然変異誘発藻類細胞を弱光で回収し、次いで蛍光活性化細胞選別(FACS)に供した。低クロロフィル蛍光細胞は、細胞の全集団と比較して、最小で、約0.5~2%のクロロフィル蛍光を有する(ユーザの判断により、より厳格である、厳密でない、より広い、またはより狭い範囲のクロロフィル蛍光をFACS選択に課すことができる)。FACS選別細胞をプレーティングし、コロニーの成長後、それらを個々に拾い上げ、96ウェルプレート中の培養培地(還元炭素源を欠いている)に接種し、培養物を明所で光独立栄養により成長させた(500μE m-2s-1)。10枚の96ウェルプレートで小規模(約100~200μl)培養を開始し、その結果、低クロロフィル選択系統の約960個の個々の培養物を得た。
【0168】
高生産性突然変異体のスクリーニングの第2の段階では、細胞蛍光をプローブするための光パルスを転送し、収集された蛍光を機器検出器に転送する付属の光ファイバケーブルを備えたFIRe装置を使用した。光ファイバケーブルは、単離された細胞系からの蛍光をプローブし、測定するため、各個々のウェル上に保持され、記録し、FIRe装置により、F/F、PSIIアンテナサイズ(σPSII)、およびPSII代謝回転速度(PSIIのアクセプター側における電子輸送の速度、1/τ’Qa)を算出するために使用した。少なくとも10%のF/Fの上昇、少なくとも30%のPSIIアンテナサイズの減少、および少なくとも50%のPSII回転率の増加を呈する系統を、さらに調べるために選択した。このようなパラメータのカットオフ値は、ユーザの判断で異なる値に設定できる。例えば、目的株を選択するために、F/Fの上昇が少なくとも5%、PSIIアンテナサイズの減少が少なくとも20%、PSII代謝回転速度の上昇が少なくとも20%、またはより厳密な基準を用いることができる。
【0169】
スクリーニングプロセスの概略図を図6に示す。FACSをベースにした低クロロフィル系統の選択およびFIReをベースにした小規模培養のスクリーニングを伴うスクリーニングは、例えば、低クロロフィル細胞をマルチウェルプレートのウェルに直接向けるFACS装置および/または自動化された機械的手段によってさらに自動化され、FIRe光ファイバケーブルまたは発光LEDを、蛍光検出器システム、またはマイクロ秒の高強度の光フラッシュを提供し、マルチウェルプレートの個々のウェルに蛍光シグナルを収集することができる別のシステムを連続的に位置決めすることができる。
【0170】
低クロロフィル蛍光およびアンテナサイズの減少、F/Fの上昇、およびPSII代謝回転速度(1/τ’Qa)の上昇を示す藻類系統は、上記実施例6に提供されるように、例えば低クロロフィルb含有量、培養中、例えば半連続培養中(例えば実施例3)の炭素吸収の増加およびより高い生産性について、さらに評価され得る。
【0171】
FACS-FIREスクリーニング法を用いていくつかの突然変異株が同定され、その中でNE-16980はゲノムが配列決定され、SGI1(T-2661)遺伝子においてフレームシフト突然変異を有することが見出された(図7)。
【0172】
実施例9 SGI1突然変異体NE-7843およびNE-13380の微小近似分析
SGI1減衰突然変異体の全バイオマス組成を決定するために、毎日40%希釈を行い、半連続モードで成長させた培養物からのサンプルの定量分析を行い、半連続培養における細胞の脂質、タンパク質および炭水化物の含有量を決定した。培養物が定常状態に達した後、毎日希釈のために取り出した培養物のアリコートを脂質、タンパク質、および炭水化物を分析するために使用した。藻類培養サンプルの全有機炭素(TOC)は、2mLの細胞培養物をDI水で総量20mLに希釈することによって決定した。全炭素(TC)および全無機炭素(TIC)を決定するために、測定1回当たり3回の注入物をShimadzu TOC-Vcsj Analyzerに注入した。燃焼炉は720℃に設定し、TOCはTCからTICを差し引くことによって決定した。4点較正範囲は、2ppm~200ppmまでであり、これは、非希釈培養物の20~2000ppmに対応し、相関係数はr>0.999であった。
【0173】
脂質含有量を決定するために、HT-4X(GeneVac)を使用して乾燥させた2mLのサンプルに対してFAME分析を実施した。乾燥ペレットに以下を添加した:500mM KOHを含むメタノール500μL、0.05%ブチル化ヒドロキシルトルエンを含むテトラヒドロフラン200μL、2mg/ml C11:0遊離脂肪酸/C13:0トリグリセリド/C23:0脂肪酸メチルエステルを含む内部標準混合物40μL、およびガラスビーズ(直径425~600μm)500μL。バイアルをオープントップPTFE隔膜キャップで蓋をし、SPEX GenoGrinder中に1.65krpmで7.5分間置いた。次に、サンプルを80℃で5分間加熱し、放冷した。誘導体化のために、80℃で30分間加熱する前に、10%三フッ化ホウ素を含むメタノール500μLをサンプルに添加した。チューブは、2mLのヘプタンおよび500μLの5M NaClを添加する前に冷却させた。次にサンプルを2krpmで5分間ボルテックスし、最後に1krpmで3分間遠心分離した。ヘプタン層は、Gerstel MPS Autosamplerを用いてサンプリングした。定量には、80μgのC23:0 FAME内部標準を使用した。
【0174】
タンパク質含有量を決定するために、単離したバイオマスサンプルを加水分解し、アミノ酸をプロポキシカルボニルプロピルエステル(AAPE)に誘導体化し、GC/MSにより分析し、以下に詳述するように内部標準に対して定量した。半連続培養物からの野生型パラクロレラ(WT-1185)およびSGI1ノックアウト株GE-13380のアリコート(0.5ml)を遠心分離し、ペレットをリン酸緩衝食塩水(PBS)で2回洗浄した。最後に、細胞を最終量0.5ml(開始量)に再懸濁し、4mlガラスバイアルに移した。培養サンプルに、TGAを含む800μlの6M HClを加えた(チオグリコール酸(TGA)400μlを使用直前に6M HCl 19.6mlに加えた)。次いで、10μlのベータメルカプトエタノールをバイアルに添加し、続いて200μlの20mMノルバリンを内部標準として使用した。各バイアルを10秒間Nで覆い、その後、バイアルを2500rpmで1分間ボルテックスしてサンプルを均質化した。次にバイアルを110℃のオーブンに22時間入れた。加水分解インキュベーションの終わりに、バイアルを2500rpmで10分間ボルテックスし、次いで1000rpmまで遠心分離し、その後遠心分離機を停止した。50μlのアリコートを各バイアルから取り出し、誘導体化の前に少なくとも3時間HCl法を行った酸に対し安全なEZ-2(Genevac)に入れることによって乾燥させた。
【0175】
誘導体化のために、250μlのMilli-Q HOを乾燥酸加水分解物に添加し、続いて10μlの抗酸化物質混合物、次いで120μlの0.5M NaOHを添加した。抗酸化物質混合物は、0.25mlのn-プロパノール、50μlのチオジグリコール、および数粒のフェノールを2.20mlのMilli-Q HOに加え、ボルテックスすることによって作製した。次いで、80μlの触媒、ピリジンとn-プロパノールの4:1混合物を添加し、バイアルにキャップをし、2500rpmで1分間ボルテックスした。次いで、50μlのプロピルクロロホルメートを添加し、このバイアルにキャップをし、2500rpmで1分間ボルテックスした。1分間インキュベートした後、バイアルを再び2500rpmで1分間ボルテックスした。次に、イソオクタンとクロロホルムの4:1混合物500μlをバイアルに加え、これに再びキャップをして2500rpmで1分間ボルテックスした。次いで、サンプルバイアルのラックを別のサンプルラックで覆い、確実にサンプルの乳濁液とするために20回振とうした。次いで、遠心分離機が1000rpmに達するまでサンプルを遠心分離し、次いで遠心分離機を停止した。200μlの有機層を取り出してガラスインサート付きの新しいGCバイアルに入れ、GC/MSにより分析した。
【0176】
サンプルを、ZB-AAA 10x0.25mm IDアミノ酸分析GCカラムを使用してGC/MSにより分析し、内部ノルバリン標準を使用して定量した。ニードル洗浄1溶媒はアセトン、ニードル洗浄2溶媒はイソオクタン/クロロホルム(80/20)で、110℃、0分間保持、30℃/分で320℃まで、0.5分間保持し、15:1スプリットで4μlの注入、250℃、1.1ml/分で、300℃の移送ラインを使用するプログラムを用いた。
【0177】
GC-MSデータに0.0005Lを掛けてμmol値を得、アミノ酸の分子量を掛けた。その値を5で割って量を補正し、各アミノ酸のμg/mlを求めた。アスパラギンは、酸加水分解中にアスパラギン酸に変換され、したがってアスパラギンおよびアスパラギン酸は、これらの方法でアスパラギン酸として決定される。トリプトファンはこれらの方法では測定されないが、パラクロレラタンパク質中のアミノ酸の大部分を構成していない。
【0178】
全炭水化物定量については、バイオマスを6N塩酸中で1時間加水分解し、多糖類を単糖類に変換した。得られた単糖類を、1%トリメチルクロロシランと共にMSTFA N-メチル-N-トリエチルシリルトリフルオロアセトアミドを用いてトリメチルシリルエーテルに変換し、GC-MS分析を用いてエーテルを分解し、定量した。
【0179】
培養サンプルの酸加水分解のために、500μlのMilli-Q HOを4mlバイアル中の500μlの培養サンプルに添加した。または、培養サンプルがより濃縮されている場合(より高いTOC)、800μlのMilli-Q HOを培養サンプル200μlに加えた。内部標準として2.5mg/mlのリビトールおよびU-13C-グルコース20μlを4mlバイアル中の1ml希釈培養サンプルに添加した。次に、1mlの濃HClを各バイアルに加え、バイアルにキャップをして105℃の乾燥浴に1時間入れた。次にサンプルを室温まで冷却し、100μlを1.5mlの微量遠心分離管内のガラスインサートに移した。
【0180】
誘導体化のために、サンプルの入ったガラスインサートを含む微量遠心管を、少なくとも3時間HCl法を行った酸に対し安全なEZ-2(Genevac)に入れた。乾燥後、1mlの開封後のMFSTA-1%TMCSに加えた800μlの乾燥ピリジンからなる100μlの誘導体化試薬を各サンプルに加えた。サンプルをEppendorf Thermomixerにおいて、1000rpmで混合しながら40℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、サンプルをGC/MSによって直接分析した。
【0181】
サンプルを、DB5-MS 30mx250μmx25μm GCカラムを使用してGC/MSによって分析し、U-13C-グルコース内部標準を使用して定量した。ニードル洗浄溶媒は、ピリジンであり、1分間の平衡化、170℃で10℃/分で8分間、210℃まで0分間、次いで50℃/分で325℃まで2分間行うプログラムを用いた(総実施時間16.3分)。
【0182】
図8には、野生型パラクロレラ株ならびにSGI1遺伝子減衰ノックアウト突然変異体GE-13380についてのこの分析の結果を示す。意外なことに、SGI1ノックアウト突然変異体NE-13380では、野生型と比べて、タンパク質としてその全有機炭素の割合が増加していることが観察され、野生型株(WT-1185)と比べてTOCベースでタンパク質が約20%増加したことを示した。実施例3に示されているようにSGI1突然変異体は、半連続的アッセイにおいて野生型と比較して全有機炭素の蓄積が増加し、それに対応して脂質および炭水化物の減少を示した。SGI1突然変異体のタンパク質のアミノ酸組成は、野生型細胞のものと非常に類似していることがわかった。したがって、SGI1突然変異株は、藻類および藻類バイオマスのタンパク質含有量を増加させる遺伝的手段をもたらす。培養条件に応じて、SGI1突然変異体によって実証されたタンパク質の割合の増加とバイオマス生産性の上昇とを組み合わせると、面積タンパク質生産性の約40%から約60%の増加が予測できる。
【0183】
実施例10 SGI1突然変異体NE-7843およびNE-13380のトランスクリプトームおよびプロテオーム
実施例3に記載した一定の光の半連続培養アッセイ(CL-SCPAまたは「CL2000」アッセイ)で培養した野生型およびSGI1突然変異株NE-7843およびNE-13380のmRNA抽出物についてトランスクリプトーム解析を行った。SGI1突然変異体のトランスクリプトーム解析では、野生型と比べて異なるように調節された多数の遺伝子が示された。SGI1突然変異体がクロロフィルの減少および光合成アンテナの減少を示したように、集光クロロフィル結合タンパク質(LHC)遺伝子が、野生型祖先細胞株と比べて、突然変異体においてより少ない転写産物の存在量を有していたかを確認することは興味深いものであった。パラクロレラゲノムにおいて15のLHC遺伝子が同定され、PSII反応中心に会合するLHCポリペプチドであるCP26をコードする遺伝子を除いて、野生型の発現レベルと比べて、同定されたパラクロレラLHC遺伝子のすべてが、SGI1突然変異体において著しく下方調節されることが見出された(図9)。LHC mRNAは、平均して、WT-1185と比較してSGI1の存在量において約1.7倍の減少を示した。これらのトランスクリプトームデータからの別の驚くべき観察は、Rubisco活性化酵素がSGI1突然変異体において、約6倍高い転写産物存在量を有することがわかったことである。
【0184】
実施例3に記載した一定の光の半連続培養アッセイ(CL-SCPAまたは「CL2000」アッセイ)で培養したWT-1185およびSGI1突然変異体NE-7843についても包括的なプロテオーム解析を行った。質量分析法(Michigan State University Proteomics Core Facility、East Lansing、MI)を実施して、全体的なタンパク質存在量を決定した。トランスクリプトームデータセットと一致して、SGI1突然変異体では、野生型細胞に関してLHCタンパク質存在量の減少およびRubisco活性化酵素存在量の上昇が示された。
【0185】
実施例3に記載した一定の光の半連続培養アッセイ(CL-SCPAまたは「CL2000」アッセイ)で培養した野生型およびSGI1変異株(NE-7843およびNE-13380)についても標的プロテオーム解析を行った。目的の各タンパク質についての内部標準を使用して、高い特異性および感度で、目的のタンパク質の標的定量を可能にする質量分析アプローチである多重反応モニタリング(MRM)を使用してプロテオーム解析を実施した(例えば、Quら、(2006年)Anal Chem.78:4543-4552;Domonら(2006年)Mol.Cell.Proteomics 5:1921-1926;Wolf-Yadlinら(2007年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 104:5860-5865;Stahl-Zengら、(2007年)Mol.Cell.Proteomics6:1809-1817を参照されたい)。PsaD(PSIサブユニット)、PsbB(PSIIサブユニット)およびRbcL(Rubisco大サブユニット)からの高品質ペプチドを用いて、野生型パラクロレラ(WT-1185)およびSGI1突然変異体(NE-7843およびNE-13380)におけるPSI、PSIIおよびRubisco存在量を定量した。MRMプロテオーム解析(JadeBio、La Jolla、CA)の結果は、SGI1突然変異体がPSII/TOC含有量およびPSII:PSI比のわずかな上昇を特徴とすることを示した(図10Aおよび10B)。野生型と比較してより高いRubisco/TOC含有量もまたSGI1突然変異体において観察され(図10Aおよび10B)、これは、微小近接分析(実施例6)と一致して、TOC当たりより高いタンパク質含有量を有した。しかし、PsbD(PSIIポリペプチド)、Rubisco大サブユニット、およびRubisco活性化酵素のレベルを比較した定量的ウエスタン法では、全タンパク質に対して正規化した場合、PSIIおよびRubiscoのレベルは、SGI1突然変異体が、全体としてより高いタンパク質/TOC含有量を有するため、野生型およびSGI1突然変異体において同程度であった(図10Cおよび10D)。
【0186】
トランスクリプトームおよびプロテオーム解析の両方において、Rubisco活性化酵素(RA)タンパク質の存在量の増加が観察された(図11Aおよび11B)。これらの観察結果は、定量的ウエスタン分析によって確認された。2つのRubisco活性化酵素アイソザイム(アルファおよびベータ)は、主にそれらのN末端が異なり、RA-αはRA-βと比べて、伸長されたN末端を有する。図11Bには、ウエスタンブロットを示し、Rubisco活性化酵素タンパク質のアルファアイソザイム(RA-α)がわずかに増加していることがわかり、Rubisco活性化酵素タンパク質のベータアイソザイム(RA-β)が、野生型タンパク質レベルの約2.5倍、有意に増加していることがわかった。これは、トランスクリプトーム解析によって決定されるように、突然変異体中においてRA転写物の存在量が増加していることと一致している。
【0187】
実施例11 自然照射量条件をシミュレートした半連続培養におけるSGI1突然変異体の生産性
南カリフォルニアの春における自然の昼光条件を模倣した光レジメン下で半連続系におけるSGI1突然変異体の生産性を評価するために、スケールアップ培養を用いて、225cmの長方形組織培養フラスコに接種した。そのそれぞれは、接種後に、培養液550mlの最終総量を含んでいた。典型的な接種量は、約350mlのPM119培地に添加された約200mlのスケールアップ培養物であった。培養物は、照度がピークになった日中、体積の65%を取り除き、その分を同体積のアッセイ媒体、および追加の10mlの脱イオン水と交換して、蒸発を補うことにより、毎日希釈した(補充培地に含まれる)。半連続アッセイは、典型的には10~14日間実行した。毎日の脂質およびバイオマス生産性は、定常状態に達した培養物についてのみ算出した(このアッセイでは、成長の増加は、希釈率に等しかった)。
【0188】
1株につき3つの培養を開始した。フラスコは、培養物からバブリングされたCO富化空気(1%CO、フローレート300ml/分)を送達するためのシリンジフィルターに接続された管が挿入されている栓を有していた。アッセイ期間中、575rpmに設定した撹拌プレート上でフラスコを25℃の一定温度を維持するようにプログラムされた水浴中に置いた。培養フラスコを不透明な白色プラスチックでマスキングして、培養物に到達する照射のために、31.5cmの長方形の開口部を設けた。フラスコは、明暗周期および「太陽の正午(solar noon)」まで増加させ、次いで明期間の終わりまで減少させる明プロフィールをプログラムされたLEDライトバンクに対して幅(最も狭い寸法)により整列させた。光プロファイルは、南カリフォルニアの春の日を模倣して設計した:明14時間:暗10時間。光のピークは、約2000μEとした。フラスコは、CO富化空気(1%CO、フローレート300ml/分)を送達するためのシリンジフィルターに接続された管が挿入されている栓を有していた。アッセイ期間中、575rpmに設定した撹拌プレート上で、フラスコを、25℃の一定温度を維持するようにプログラムされた水浴中に置いた。
【0189】
毎日のバイオマス(TOC)生産性は、定常状態に達した培養物から算出した。体積TOC生産性(mg/L/日)は、体積TOC量に希釈率を掛けることによって算出した。面積生産性(g/m/日)は、培養物の全生産性を、照射が入る開口の大きさで割ることによって計算した。
【0190】
図12は、日周の半連続アッセイにおけるNE-7843 SGI1突然変異体および野生型WT-1185株の三連培養物の毎日の平均TOC生産性を示しており、これらの条件下で、突然変異体が、野生型と比べて生産性の20%の増加を呈したことを示している。
【0191】
実施例12 栄養素豊富条件下でのバッチ培養の生産性
SGI1突然変異体NE-13380の生産性も、窒素豊富バッチモードで培養しながら1週間にわたって評価した。NE-13380および野生型WT-1185の培養物を、窒素豊富培養培地中で成長させたシード(スケールアップ)培養物からの初期OD730 0.5まで接種した。
【0192】
接種後、SGI1ノックアウト株NE-13380および野生型株WT-1185を、175mlのPM119培地を含有している75cm長方形組織培養フラスコ中で7日間、バッチアッセイにおいて三連培養で成長させた。フラスコをLED光源に対して最も狭い「幅」寸法で位置付けた。培養フラスコを不透明な白色プラスチックでマスキングして、培養物に照射が到達するようにするために、21.1cmの長方形の開口部を設けた。入射照度は、4時間かけて0~1200μEまでの照射量の直線的な上昇を伴う明16時間:暗8時間のサイクルでプログラムし、その後、照射量を1200μEで6時間にわたって保持し、次いで、4時間にわたって照射量を1200~0μEまで低下させた(上昇または低下は、15分間隔で行った)。蒸発損失を補うために脱イオン化HOを毎日培養物に添加した。培養物の温度は、25℃に設定した水浴で調節した。実施例3に記載したように、全有機炭素(TOC)を評価するために、サンプル(5ml)を毎日取り出した。サンプリングは、光周期が終了する30分前に行った。
【0193】
図13は、これらのバッチ、窒素豊富条件下で、NE-13380 SGI1突然変異体がバイオマス蓄積において野生型よりも優れていることを示している。
【0194】
実施例13 窒素制限下でのバッチ培養のTOCおよび脂質生産性
SGI1突然変異体も、窒素制限下においてバイオマスおよび脂質蓄積について評価した。バッチ生産性アッセイにおいて、SGI1ノックアウト株NE-7843および野生型祖先株WT-1185を、窒素欠乏培地で培養した。すなわち、培地は細胞成長のための窒素源を有していなかった。生産培養物を、8.8mMの硝酸塩を含むPM074培地で成長させたシード(スケールアップ)培養物から、初期OD730 0.5まで接種した。
【0195】
接種後、ZnCysノックアウト株NE-7843および野生型株WT-1185を、75cm長方形組織培養フラスコ中で7日間、バッチアッセイにおいて3連の175ml培養物中で成長させた。
【0196】
図14Aは、N豊富バッチ条件下における体積TOCの累積を示す。WT-1185およびNE-13380の生物学的複製データが示されており、NE-13380突然変異体は、バイオマス蓄積において野生型株より優れていた。図14Bは、SGI1突然変異体も脂質(FAME)蓄積において野生型株よりも優れており、1週間のアッセイの過程にわたって野生型よりも約50%多くFAMEを蓄積していることを示している。
【0197】
実施例14 高照射量培養
本明細書に開示されているSGI1突然変異体の成長速度の改善は、複数の培養条件において観察されている(表8)。栄養素を豊富に含む新鮮な培地を導入し、等量の培養物を排出する連続希釈システムによって、培養物を一定の強光下で高希釈度において維持した。パラクロレラSGI1突然変異体は、中程度から強光条件(500~1,400μE)において、18~20%上昇した成長速度を示し、非常に強い光(5,000μE)においては、SGI1突然変異体は、野生型祖先株の約5倍の速度で成長することが観察された(表8)。高光条件下での成長速度の劇的な差は、SGI1突然変異体を選択するために使用され得る。
【0198】
(表8)低密度、高光条件下でのパラクロレラ株の成長度
毎日の継代培養および500μE一定光による振とうフラスコでの成長速度。
T225フォトバイオリアクター(CL-SCPA)中において、低密度(OD720=0.1)、1,400μEに保たれた連続培養での成長速度。
FMT150フォトバイオリアクター中において、低密度(OD720=0.1)、5,000μEに保たれた連続培養での成長速度。
野生型パラクロレラ
SGI1突然変異を有するパラクロレラ
野生型親株と比較して、SGI1突然変異体における成長速度の上昇
【0199】
少数のNE-13380 SGI1突然変異細胞を、高光(1,400μE)、低密度条件(1x10細胞/ml)において、連続培養で成長させている400x10野生型パラクロレラWT-1185細胞を含むフォトバイオリアクターに接種した。60日の期間にわたって成長速度はゆっくり上昇し、その結果、60日後に培養物は特定の1日成長速度2.27に達した。次いで、培養物を単一コロニー用の寒天プレートにプレーティングした。個々のクローンを拾い上げ、成長速度およびSGI1突然変異の存在について分析した。注目すべきことに、プレートから単離されたクローンはすべて、SGI1突然変異を含んでおり、これは低密度、高光、連続培養を用いることにより、SGI1型突然変異体を選択できることを示唆している。例えば、UV、化学的突然変異誘発、ランダム挿入突然変異誘発、または他の突然変異誘発手順を任意で実施し、続いて、低密度、高光、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、またはそれ以上の連続培養で行って、SGI1型突然変異体などの高生産性突然変異体を選択することができる。
【0200】
図7は、印を付けた様々な突然変異体において見出される突然変異の位置と共に、SGI1遺伝子のマップを示す。株NE-7843は、実施例1~6に開示したスクリーニングにより単離し、株NE-16980は、実施例7に開示したスクリーニングにより単離した。図7でその突然変異が同定されているいくつかのさらなる突然変異は、本実施例の高光低密度の培養選択下で単離された。
【0201】
実施例15 テトラセルミスSGI1遺伝子の同定および標的化
本明細書でテトラセルミスWT-105と称される、テトラセルミス種の野生型藻類の環境単離物のゲノムは、施設内で完全にその配列が決定された(Synthetic Genomics、Inc.、La Jolla、CA、USA)。ゲノムの分析は、三倍体であるWT-105のテトラセルミス属と最も一致していた。テトラセルミスWT-105ゲノムの翻訳された配列についての照会として、パラクロレラSGIポリペプチド配列を用いた相互BLASTに基づいて、3つの遺伝子が同定された。T-5172(SEQ ID NO:85、SEQ ID NO:86のタンパク質をコードする配列(またはcDNA配列)を有する)、T-5185(SEQ ID NO:87、SEQ ID NO:88のタンパク質をコードする配列(またはcDNA配列)を有する)、およびT-5230(SEQ ID NO:89、SEQ ID NO:90のタンパク質をコードする配列(またはcDNA配列)を有する)。これらは、テトラセルミスWT-105 SGI1遺伝子の対立遺伝子とみなされる。対立遺伝子T-5185(SEQ ID NO:14)およびT-5230(SEQ ID NO:16)によってコードされるタンパク質は高度に相同性であり、BLASTにより98%のアミノ酸配列同一性が示されている。BLAST分析によれば、T-5172対立遺伝子によってコードされるタンパク質(SEQ ID NO:15)は、T-5230対立遺伝子によってコードされるタンパク質(SEQ ID NO:16)と90%同一であり、またT-5185対立遺伝子によってコードされるタンパク質(SEQ ID NO:14)と92%同一である。各対立遺伝子は、RRドメインおよびmybドメインを有すると決定された(表3参照)。表3にも提供されたとおり、テトラセルミスSGI1対立遺伝子ポリペプチドT-5172、T-5185およびT-5230は、少なくとも400、すなわち、SGI1ポリペプチドを同定するために開発されたHMMに対して、それぞれ、403.0(e値2e-118)、403.6(e値9e-119)、および402.9(e値3e-118)のスコアを有することが見出された(実施例6)。
【0202】
テトラセルミスSGIノックアウト株を作製するために、CRISPR-Cas9ガイドRNA(crRNA)およびCas9タンパク質と複合体を形成したCRISPR-Cas9 tracrRNA(trRNA)を含むCas9リボ核タンパク質複合体(RNP)を粒子ボンバードメントによりテトラセルミス藻類細胞に導入した。形質転換体を選択するための選択マーカーカセットを、金微粒子上にCas9 RNPと共に導入した。テトラセルミス形質転換用のRNPを作製するために使用されたtracr RNAは、IDT(Coralville、IA、USA)から購入された化学修飾された67ヌクレオチドのAlt-R(登録商標)CRISPR-Cas9 tracrRNAであった。RNP形質転換に使用されたcrRNAは、SGI1遺伝子の3つすべての対立遺伝子の4番目のエクソンに存在する20ヌクレオチド標的配列(MA1、SEQ ID NO:91またはJC2、SEQ ID NO:92)を含むIDT(Coralville、IA、USA)から購入した化学修飾Alt-R(登録商標)CRISPR-Cas9crRNAであった(図15参照)。crRNAはまた、tracrRNAの配列に相補的である16ヌクレオチド配列を含んでいた。
【0203】
RNP複合体を形成する前に、crRNAおよびtracrRNAをプレインキュベーションして、crRNAをtracrRNAとハイブリダイズさせた。各RNAを100μMの濃度で再懸濁し、等量のcrRNAおよびtracrRNA RNAを20μMのアリコートで別々のチューブで混合し、各RNAが、各アニーリング混合物において50μMの濃度を有するようにした。ただし、1回の実験で2つのcrRNAを使用した場合は、各crRNAは、アニーリング混合物において、25μMの濃度を有するようにした。組み合わせたRNAを95℃で5分間加熱し、次にベンチトップで冷却した(すぐに使用されなかったアニーリング済みcrisprおよびtracerRNAは-20℃で保存された)。
【0204】
Cas9タンパク質とアニーリング済みcrisprおよびtracrRNA混合物(アニーリング混合物10μl)をリン酸緩衝食塩水(PBS)中で作製した。Cas9タンパク質の最終濃度は100μg/mLであり、RNAの最終濃度は10μMであった。アニーリング済みcrRNA(複数可)とtrRNA、およびCas9タンパク質を室温で15分間インキュベートし、RNPを形成した。
【0205】
金微粒子を調製するために、プロタミン(1mg/mlのPBS溶液100μl、55℃~65℃に加熱し、使用前に室温まで冷却することによって作製)を5mgの金粒子(0.6μm、BioRad)に加えて、金粒子/プロタミン混合物をボルテックスし、次いで超音波処理した。DNA断片(SEQ ID NO:93)には、テトラセルミスRB40プロモーター(SEQ ID NO:94)に作動可能に連結した選択マーカー遺伝子が含まれ、テトラセルミスRB40ターミネーター(SEQ ID NO:95)をプロタミン/金懸濁液に添加し、混合物をボルテックスした。選択マーカーDNA断片は、RB40プロモーターおよびターミネーターに作動可能に連結されたテトラセルミス(SEQ ID NO:96)のために最適化されたヌーセオスリシン耐性遺伝子コドンを含むPCR産物であった。プラスミド鋳型を用いたPCRによって選択マーカーカセットを作製するために使用された各プライマーの5つの5末端ヌクレオチド(プライマーMCA1818、SEQ ID NO:97およびプライマーMCA1819、SEQ ID NO:98)は、ホスホロチオエート基を含み、これにより、形質転換に使用した最終選択マーカーカセット断片が、各末端でホスホロチオエート修飾されるようにした。
【0206】
選択マーカーDNA断片を金粒子に添加した直後に、Cas9 RNP調製物(アニーリング済みRNA/Cas9タンパク質)を金粒子および選択マーカーDNA断片の入ったプロタミン溶液に添加し、混合物をボルテックスし、次いで氷上に2~4時間置いた。氷上でのインキュベーション後、金微粒子調製物を微量遠心管中で短時間スピンダウンし、その上清を除去し、1.5mg/mlのPVPの入ったPBS400μLを各微粒子サンプルに添加した。サンプルをボルテックスし、5~10秒間超音波処理し、再びボルテックスした。その後、PVP懸濁粒子をTefzel(商標)チューブの予備乾燥セグメントに引き込んだ。シリンジは、Tefzel(商標)チューブに接続された可撓性チューブに取り付け、シリンジによる吸引を行うことにより、粒子混合物をTefzel(商標)チューブの反対の端に引き込んだ。金粒子調製物の入ったTefzel(商標)チューブは、金粒子が沈降するまで5分間下に置き、その後、シリンジを介して、穏やかにチューブからPVP溶液を押し出した。次にチューブを回転させてチューブの内周に金粒子を分散させ、約5分間風乾させた(その間にチューブをさらに1回以上回転させて粒子を分散させた)。その後、Tefzel(商標)チューブを窒素ガス源に取り付け、窒素ガスを0.1L/分で1分間、次に約0.3L/分~約0.4L/分で5~10分間チューブの中に流して、乾燥を完了させた。次いで、内面を金粒子で被覆し、選択マーカーDNAおよびRNPを付着させたTefzel(商標)チューブを0.5インチのセグメントに切断し、これをBioRad Helios(登録商標)Gene Gunのカートリッジとして使用した。
【0207】
マイクロボンバードメント形質転換のために、テトラセルミス株WT-105は、OD730 0.2で接種された体積100mlのPM074培地で約3日間培養した。スターター培養物を使用して1リットルの培養物を3x10細胞/mlで接種し、1リットルの培養物をさらに3日間成長させた。各ボンバートメントについて、2%寒天PM074培地プレートの直径4cmの円内に約10個の細胞(100μl)をプレーティングして、細胞を1ml当たり10個の濃度に再懸濁した。プレーティングした細胞をフード内で乾燥させ、次いで調製したカートリッジを600psiに設定したヘリウムを用いて、約5cmの距離から打ち込んだ。翌日、プレートをPM147培地で浸し、200μg/mlのノルセオトリシンを含むPM147プレートに再度プレーティングした。
【0208】
選択プレート上で10~14日間成長させた後、数十個のコロニーを200μg/mlのノルセオトリシンを含む選択的PM147プレートに再パッチした。SGI1遺伝子座の突然変異について、生存パッチのPCRスクリーニングを行った。選択マーカー遺伝子カセット(SEQ ID NO:93)は、形質転換テトラセルミス細胞のCas9妨害遺伝子座に挿入されなかったこと、したがって、SGI1標的指向性突然変異は、SGI1標的部位において、ほとんどが小さい挿入または欠失(インデル)であることが見出された。これらの突然変異事象を検出するために、クローンから生成されたPCR断片に対して、Sanger配列決定を実施した。形質転換体の多くは、標的部位に突然変異を有することが判明した。これらのうちの10個を、各対立遺伝子を配列決定するために、大腸菌におけるゲノムDNAのクローニングのために選択した。表8中のクローンのすべては、突然変異対立遺伝子についてヘテロ接合性であったクローン8を除いて、配列決定によりトリプルノックアウト(すなわち、突然変異についてホモ接合性)であると決定した。
【0209】
(表9)SGI標的指向性ガイドRNAを用いたRNP形質転換後の単離テトラセルミスクローンにおける突然変異対立遺伝子
【0210】
実施例16 標的テトラセルミスSGI1突然変異体の光生理学
これらのクローンの特徴を明らかにするために、表8に列挙された10個のクローンのうちの5個(クローン2、6、7、8、および10)を、24時間/日、弱光(光量子束密度140mol m-2-1)下で、還元炭素源を含まず、窒素源として硝酸塩を含む豊富PM074培地において、光独立栄養により培養した。培養物は、毎日希釈して、固定細胞数を維持した。クロロフィルを抽出し、実施例7に記載したようにFIReおよび14C Pmax測定を行った。この結果を図16A、B、およびC;図17A、B、C、およびD、ならびに図18A、B、およびCに示す。これらの弱光条件下では、変異体のすべてについて、野生型株と比較してクロロフィルa:b比が増加し(図16C)、クローン2、7および10は、総クロロフィル、特に、TOC(図16A)およびセル(図16B)を基準にした両方においてクロロフィルbが減少したことを示した。クローンはすべて、450nmおよび520nmの両方の励起で測定されたPSII断面サイズの減少を示し、クローン2、7、および10は、野生型と比較してPSII断面サイズの最大の減少を示す(図17Aおよび17B)。クローン2、7および10もまたFv/Fmの最大の上昇を示し(図17C)、すべてのクローンが、光合成代謝回転時間PSIIの短縮を示した(図17D)。14C Pmaxは、細胞およびTOCの両方を基準として、すべてのクローンにおいて上昇し(図18Aおよび図18B)、すべてのクローンは、野生型よりも高い成長速度を有した(図18C)。
【0211】
それぞれ株名STR24094およびSTR24096を付与されたクローン2および7は、南カリフォルニアの春の日光照度をシミュレートし、太陽正午に光量子束密度約2,000mol m-2-1の照度をピークとした14時間の明期間を有する日周の光プログラムを用いて、半連続的アッセイにおいて試験が行われた。各株の3つの生物学的複製物を同時に培養し、その3つの培養物の結果を平均した。最初に吸収されなかった光を培養物に反射して戻すために、培養瓶を部分的に箔で包んだ。培地は、窒素源として尿素を含み、還元炭素源を含まない(すなわち、株を光独立栄養により培養した)PM153であり、培養物を毎日60%まで希釈し直した。表10に要約されるように、これらの条件下で、SGI1突然変異株STR24094およびSTR24096は、上昇したFv/Fm、減少したPSIIアンテナサイズ(520nm励起で測定)、およびTOCを基準として増加したPSIIを有する。テトラセルミスSGI1突然変異体において、TOC率としてクロロフィルが減少し、クロロフィルbに対するクロロフィルaの比は上昇する。14Cの取り込みを測定した光合成速度は、これらの突然変異体において約15~20%上昇する。1日当たり1メートル当たりに生産されるTOCのグラム数として報告される生産性は、STR24094では約6.5%、STR24096では約10%増加する。
【0212】
(表10)毎日の半連続培養におけるテトラセルミスSGI1突然変異体の光生理学
【0213】
実施例17 一定の光の半連続培養系におけるテトラセルミスSGI1突然変異体の生産性
CL-SCUBA(一定の光の半連続尿素系アッセイ)において、テトラセルミスSGI1突然変異体の光独立栄養培養物を、一定の光半連続モードで数日間にわたって成長させた。培養サンプルは、バイオマスを決定するために、各日、同じ時に取り出した。光は、光量子束密度2000μmol m-2sec-1にプログラムされた。このアッセイでは、500mlの四角フラスコ中の420mlのPM153培地(窒素源として尿素を含む)に所定の株のシード培養物を接種した。1株につき3つの培養を開始した。フラスコは、培養物からバブリングされたCO富化空気(1%CO)を送達するためのシリンジフィルターに接続された管を有する栓を有していた。0.0875mの開口部を有するフラスコを光に向けて整列させ、光源から背部にわたるフラスコの「深さ」寸法は8cmであった。培養物は、培養体積の40%を取り出し、その分を新鮮なPM153培地と交換して、培養物に生じる蒸発による塩分の増加を調整することにより、毎日希釈した。TOC分析用のサンプルは、培養物が定常状態に達した後に、希釈のために取り出した培養物から採取した。
【0214】
図19は、これらの一定の光の半連続培養条件下で、テトラセルミスSGI1突然変異体STR24096およびSTR24096が、野生型細胞(株STR00013)と比べて、それぞれ13%および18%のバイオマスの増加を示すことを示したものである。
【0215】
実施例18 日周の半連続培養系におけるテトラセルミスおよびパラクロレラSGI1突然変異体の生産性
日周のSCUBA(半連続尿素系アッセイ)では、突然変異体の光独立栄養培養物を数日にわたって毎日、光半連続モードで成長させた。光は、暗所から正午の光量子束密度2000μmol m-2sec-1まで及ぶように、カリフォルニアのインペリアルバレーの平均的な春の日を模倣するようにプログラムされた。サンプルは毎日「夕暮れ」に採取した。このアッセイでは、500mlの四角フラスコに入った尿素ベースのPM153培地420mlに、所定の突然変異株のシード培養物を接種した。1株につき3つの培養を開始した。フラスコは、培養物からバブリングされたCO富化空気(1%CO)を送達するためのシリンジフィルターに接続された管を有する栓を有していた。フラスコを光に向かって0.0875mの開口部と整列させ、光源から背部にわたるフラスコの「深さ」寸法は8cmであった。培養物は、培養体積の40%を除去し、その分を新鮮なPM153培地と交換して、培養物中で生じる蒸発による塩分の増加を調整することによって、毎日希釈した。培養物が定常状態に達した後に、培養サンプルをバイオマス測定のために毎日取り出した。TOC分析用のサンプルは、希釈のために取り出した培養物から採取した。
【0216】
図20Aは、これらの条件下において、野生型細胞と比べてテトラセルミスSGI1突然変異体ではバイオマスが12%~16%の間で増大していることを示す。
【0217】
同じプロトコールに従って行われた日周の並行SCUBAアッセイにおいて、古典的に誘導されたパラクロレラSGI変異体NE-7843を、パラクロレラ野生型株WT-1185の三連培養物と共に、三連培養物で試験した。図20Bは、この培養レジメンにおいて、パラクロレラSGI1突然変異体NE-7843が、野生型株と比べて18%の生産性の増大を示していることを示す。
【0218】
実施例19 アラビドプシスSGI1突然変異株の解析
高等植物におけるSGI1突然変異の影響を決定するために、最初にシロイヌナズナ内のパラクロレラSGI1遺伝子の最も近い関連種を同定した。実施例6に開示されたバイオインフォマティック解析を用いて、パラクロレラSGI1に最も近いシロイヌナズナ相同体はARR2(SEQ ID NO:22)であると決定された。
【0219】
ARR1およびARR2における突然変異を有するシロイヌナズナ植物からの種子ならびに野生型対照をアラビドプシスリソースセンター(ABRC)から得た。種子を土壌(50% MiracleGro播種育苗ポットミックス、25%パーライト、25%バーミキュライト)に植えた。植えられた種子は、成長のためにconvironに移す前に、5日間4℃で春化された。植物を25℃に設定したconviron内で、4つの異なる状況で、並べて成長させた。植物は、12時間にわたる暗期に約70μEの光を受けた。ARR1突然変異体の成長は、野生型植物およびARR2植物の両方よりも実質的に遅く、このため、野生型とARR2/SGI1突然変異植物(以後SGI1植物と呼ぶ)との比較に焦点を合わせた。最初の2つの成長実験の間に、SGI1突然変異植物の成長における視覚的改善を観察した(図21A)。パラクロレラSGI1突然変異体は、クロロフィルの減少を有し、このため、アラビドプシスの野生型とSGI1の葉のクロロフィル含有量を決定した。クロロフィルは、3つの野生型および3つのARR2突然変異植物(各植物から2枚の葉)からのアセトンおよびメタノールの両方を用いて抽出した。SGI1突然変異植物におけるクロロフィル量の有意な減少を観察した(図21B)。最後の2つの成長実験では、23日目および18日目に植物を収穫して、植物苗条の湿潤重量および乾燥重量を求めた。個々の植物の高い変動、および野生型とSGI1植物との高い重なりが観察されたが、SGI1植物では、一貫して、23日目に約10%(図22AおよびB)および18日目に約40%(図22CおよびD)高い平均苗条重量を有していた。SGI1突然変異を有する緑藻(パラクロレラおよびテトラセルミス)に見られるように、シロイヌナズナSGI1突然変異体における植物性の成長中のクロロフィルの減少および平均バイオマスの増加を観察し、SGI突然変異が他の高等植物における生産性の増加とも関連し得ることを示している。
【0220】
本発明を上記の実施例を参照して記載したが、修正および変更が本発明の主旨および範囲に含まれることは理解されよう。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
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図7
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図14A
図14B
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図22B
図22C
図22D
【配列表】
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