(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】摺動部材及び内燃機関用部材
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20220413BHJP
F02F 5/00 20060101ALI20220413BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20220413BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20220413BHJP
F02F 3/00 20060101ALI20220413BHJP
F16C 33/12 20060101ALI20220413BHJP
F16C 9/00 20060101ALI20220413BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20220413BHJP
C22C 9/06 20060101ALN20220413BHJP
【FI】
C23C24/04
F02F5/00 E
B22F7/04 H
F02F1/24 M
F02F3/00 302Z
F16C33/12 A
F16C9/00
B22F5/00 S
C22C9/06
(21)【出願番号】P 2020534088
(86)(22)【出願日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2019023452
(87)【国際公開番号】W WO2020026604
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2018146275
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000239426
【氏名又は名称】福田金属箔粉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 佳典
(72)【発明者】
【氏名】荒井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】乙部 勝則
(72)【発明者】
【氏名】西村 信一
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-144849(JP,A)
【文献】特開2002-348677(JP,A)
【文献】特開2013-147717(JP,A)
【文献】特開2015-203150(JP,A)
【文献】国際公開第2014/065279(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/022505(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 5/00
B22F 7/04
C23C 24/04
F02F 1/24
F02F 3/00
F02F 5/00
F16C 33/12
F16C 9/00
C22C 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、上記基材上に形成された被膜層と、を備える摺動部材であって、
上記被膜層が粒子集合体からなり、
上記該粒子集合体が、組成が異なる2
種の析出硬化型銅合金粒子
から成り、
上記粒子集合体を形成する少なくとも1種の析出硬化型銅合金粒子のビッカース硬度が、150Hv~250Hvであり、
上記2種の析出硬化型銅合金粒子同士の硬さの差が200Hv以下であることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
上記2
種の析出硬化型銅合金粒子同士の硬さの差が60Hv以下であることを特徴とする請求項
1に記載の摺動部材。
【請求項3】
上記基材及び上記
被膜層の少なくとも一方が、塑性変形部を有することを特徴とする請求項1
又は2に記載の摺動部材。
【請求項4】
上記被膜層を構成する粒子同士の界面に、アモルファス及びナノ結晶の少なくともいずれか一方を有することを特徴とする請求項1~
3のいずれか1つの項に記載の摺動部材。
【請求項5】
上記基材と上記被膜層との間の少なくとも一部に中間層を備え、
上記中間層が、拡散層及び金属間化合物層の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1~
4のいずれか1つの項に記載の摺動部材。
【請求項6】
上記中間の膜厚が2μm以下であることを特徴とする請求項
5に記載の摺動部材。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1つの項に記載の摺動部材を内燃機関の摺動部位に有することを特徴とする内燃機関の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材に係り、更に詳細には、耐摩耗性を向上させた摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムやアルミニウム合金は、軽量かつ高強度な材料であるため自動車などの軽量化に好適に用いられている。しかし、アルミニウムやアルミニウム合金は耐摩耗性が低いため、摺動部位を有する内燃機関用部材に用いる場合は、アルミニウムを含む基材の表面を被覆して耐摩耗性を向上させることが行われている。
【0003】
特許文献1には、チタン、ニッケル、鉄、アルミニウム、コバルト、銅などの金属粒子、又はこれらの金属を含む合金粒子を、アルミニウムを含む基材の表面に低温ガスで吹き付け、運動エネルギーによって上記粒子を塑性変形させて基材の表面に結合させ、上記粒子で基材表面を被覆することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法にあっては、基材に吹き付ける材料粒子中に吹き付けにより塑性変形が生じる軟らかい金属粒子を含んでいなければ被膜層を形成できない。
【0006】
そして、炭化タングステンや窒化ケイ素などの硬質粒子を添加した場合は、軟質粒子中に硬質粒子がめり込むだけで粒子同士の化学的な結合が弱いため、被膜層の強度が得られず耐摩耗性が十分でない。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被膜層の強度が高く、優れた耐摩耗性を有する摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、組成が異なる2種以上の析出硬化型銅合金粒子で被膜層を形成することで、上記析出硬化型銅合金粒子同士が共に塑性変形して物理的に結合するだけでなく反応層を形成して化学的にも結合することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の摺動部材は、基材と、上記基材上に形成された被膜層と、を備える。
そして、上記被膜層が粒子集合体からなり、上記該粒子集合体が、組成が異なる2種の析出硬化型銅合金粒子から成り、
上記粒子集合体を形成する少なくとも1種の析出硬化型銅合金粒子のビッカース硬度が、150Hv~250Hvであり、上記2種の析出硬化型銅合金粒子同士の硬さの差が200Hv以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の内燃機関用部材は、摺動部位を有する。
そして、上記摺動部位に上記摺動部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、組成が異なる2種の析出硬化型銅合金粒子を含有する粒子集合体で被膜層を形成することとしたため、被膜層の強度が高く優れた耐摩耗性を有する摺動部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
<摺動部材>
本発明の摺動部材について詳細に説明する。
上記摺動部材は、
図1に示すように、基材3と該基材上に形成された被膜層2とを備え、上記被膜層2が、組成が異なる2種以上の析出硬化型銅合金粒子21a、21bを含有する粒子集合体からなる。
【0014】
本発明において、「組成が異なる」とは、銅以外の添加元素が、異種金属であってもよく、また濃度が異なる同種金属であってもよい。
【0015】
上記析出硬化型銅合金粒子は、過飽和固溶体状態の粒子を、後述するコールドスプレー法により基材表面に吹き付けることで形成でき、固相状態で基材に衝突したときの衝撃による発熱や応力などによって、固溶限を越えて固溶している成分が析出し硬化して析出硬化型銅合金粒子となる。
【0016】
上記過飽和固溶体状態の粒子は軟らかく変形能が高いため、固相状態で吹き付けて基材表面に衝突させると、塑性変形して局所的な発熱により溶融し原子拡散などが生じて拡散層や金属間化合物などを含む反応層を形成し、析出硬化型銅合金粒子が強固に結合した粒子集合体を形成するため、被膜強度が向上する。
【0017】
このように、上記過飽和固溶体状態の粒子は、析出硬化により硬度が高くなると共に、析出硬化型銅合金粒子同士が強固に結合した粒子集合体の被膜層を形成するため、耐摩耗性が優れた摺動部材を形成できる。
【0018】
上記過飽和固溶体状態の粒子としては、銅を主成分とし、変形能が大きく、かつ添加元素として銅の結晶格子中に拡散できる原子半径を有する金属元素を含む合金粒子を使用できる。なお、本発明において主成分とは、80質量%以上含有する成分をいう。
【0019】
上記過飽和固溶体状態の粒子としては、例えば、Cu-Ni-Si系合金粒子、Cu-Co-Si系合金粒子、Cu-Cr合金粒子、Cu-Zr合金粒子、Cu-Ti合金粒子などを挙げることができる。
なかでも、Siを含む合金粒子は、Siが表面に拡散してSiO2の膜を形成し、この膜が不動態膜のようにふるまい被膜層の耐腐食性を向上させるため好ましく使用できる。
【0020】
上記過飽和固溶体状態の粒子の硬度は、その組成にもよるが常温で200Hv以下であることが好ましい。
上記添加元素の固溶量が小さく、予め結晶粒子が析出した硬い銅合金粒子であると、析出している結晶粒子が銅合金粒子の変形を阻害し変形能が小さくなるため、衝突時の応力を吸収できず銅合金粒子が割れてしまい被膜層の形成が困難である。
【0021】
上記過飽和固溶体状態の粒子は、水アトマイズ法により作製することができる。
具体的には、固溶限を超えた添加元素を含む溶融金属を流下させて高圧の水を吹き付け、上記溶融金属を霧化し急冷凝固させて粒子化することで作製できる。
【0022】
上記過飽和固溶体状態の粒子の平均径(D50)は、20μm~40μmであることが好ましい。
上記過飽和固溶体状態の粒子の平均粒径を小さくすることで密実な被膜を形成できるが、粒子径が小さすぎると吹き付けの際、上記粒子の運動エネルギーが小さくなって塑性変形し難くなり、上記粒子同士の密着性が低下して被膜層の強度が低下することがある。
【0023】
上記粒子集合体は、少なくとも1種の析出硬化型銅合金粒子のビッカース硬度が、150Hv~250Hvであることが好ましい。硬度が上記範囲の析出硬化型銅合金粒子を含むことで、該粒子が塑性変形して粒子集合体を形成できる。
また、上記比較的軟らかい析出硬化型銅合金粒子を多く含むことで、気孔率が小さくなり被膜強度が向上する。
【0024】
上記2種以上の析出硬化型銅合金粒子の硬さの差は、200Hv以下であることが好ましく、60Hv以下であることがより好ましい。
【0025】
析出硬化型銅合金粒子の硬さの差が200Hvを超えると軟らかい析出硬化型銅合金粒子のみが塑性変形し、硬い析出硬化型銅合金粒子が塑性変形しないため、硬い析出硬化型銅合金粒子の表面温度が上がらず原子拡散が起こり難くなり、粒子集合体の結合力が低下して耐摩耗性が低下することがある。
【0026】
上記析出硬化型銅合金粒子中の結晶粒子は、平均粒径が1μm未満のナノ結晶であることが好ましい。上記析出硬化型銅合金粒子中の結晶粒子が微細であることで、被膜層の強度が向上する。
【0027】
上記被膜層は、断面の気孔率が3面積%以下であることが好ましく、1面積%以下であることが好ましい。気孔が少なく密実であることで被膜層の強度が向上し、耐摩耗性が向上する。
【0028】
上記被膜層の断面における気孔率や、析出硬化型銅合金粒子の平均粒径(円相当径:粒子像の投影面積と同じ面積を持つ円の直径)は、走査型電子顕微鏡像(SEM像)を画像処理により2値化し、画像解析により算出することができる。
【0029】
上記被膜層の厚さは、摺動部材が用いられる箇所の温度や摺動環境にもよるが、例えば、0.05~5.0mmとすることが好ましく、0.1~0.5mmとすることがより好ましい。
【0030】
0.05mm未満であると、被膜層自体の強度が不足し、基材の強度が低い場合に塑性変形を起こすことがある。また、5.0mmを超えると、成膜時に発生する残留応力と界面密着力の関係により被膜層が剥離し易くなることがある。
【0031】
上記基材としては、特に制限はなく、内燃機関の摺動部材として従来から用いられている金属を使用できるがアルミ合金は熱伝導性が高く好ましく使用できる。
【0032】
上記アルミ合金としては、例えば、日本工業規格で規定されているAC2A、AC8A、ADC12などを挙げることができる。
【0033】
上記摺動部材は、耐摩耗性に優れ、例えば、ピストン、ピストンリング、ピストンピン、シリンダ、クランクシャフト、カムシャフト、及び、バルブリフタなど、摺動部位を有する内燃機関用部材に好適に使用できる。
【0034】
<摺動部材の製造方法>
上記摺動部材は、コールドスプレー法により、銅を主成分とし、組成が異なる2種以上の過飽和固溶体状態の粒子を含む原料粒子を基材表面に吹き付けることで製造できる。
【0035】
上記コールドスプレー法は、過飽和固溶体状態の粒子を溶融またはガス化させることなく不活性ガスと共に超音速流で固相状態のまま基材に衝突させて被膜層を形成する方法であり、溶射法などの材料の金属粒子を溶融させて被膜層を形成する方法とは異なり、熱による被膜層の酸化を最小限にすることができる。
【0036】
上記コールドスプレー法により、固相状態の過飽和固溶体状態の粒子が基材に衝突すると上記粒子自体や基材3が塑性変形して塑性変形部22が形成され、固溶限を超えた添加成分が析出して硬化し析出硬化型銅合金粒子21になる。
そして、運動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されて上記析出硬化型銅合金粒子21の表面が局所的な発熱により溶融して固化し、あるいは原子拡散が生じて析出硬化型銅合金粒子同士が結合して被膜層2が形成される。
【0037】
このとき、基材3及び過飽和固溶体状態の粒子の温度が該固溶体粒子の融点以下であるため、局所的に溶融した過飽和固溶体状態の粒子の表面が急冷され、過飽和固溶体状態の粒子同士の界面23にはアモルファスやナノ結晶が形成される。
そして、上記アモルファスやナノ結晶は、歪が大きく原子が動きやすいため、拡散が起こり易く結合強度が高くなる。
【0038】
このように形成された析出硬化型銅合金粒子21の粒子集合体は、析出硬化型銅合金粒子21の表面が局所的に溶融して固化し、被膜層全体の粒子集合体が結合して一体化している。しかし、上記析出硬化型銅合金粒子21同士が渾然一体とはならずに界面23を形成しており、この界面23近傍にアモルファスやナノ結晶含む塑性変形部22を有する。
この点、溶射などにより、材料の金属粒子が完全に溶融又は溶解し固化し、上記塑性変形部を形成せずに渾然一体となった被膜層と異なる。
【0039】
また、上記基材3と上記被膜層2との間には、拡散層や金属間化合物層を含む中間層4が形成されるが、溶融した過飽和固溶体状態の粒子の表面が急冷されるため、溶射法や焼結によって形成したときの中間層よりも薄く、その膜厚は2μm以下となる。
【0040】
上記析出硬化型銅合金粒子界面のアモルファスや析出硬化型銅合金粒子中の結晶粒子は、走査電子顕微鏡(SEM)による電子線後方散乱回折(EBSD)により、回折パターンを検出器面上に投影し、その投影されたパターンから結晶方位を解析することで確認できる。
【0041】
上記過飽和固溶体状態の粒子を吹き付ける速度は、300~1200m/sであることが好ましく、500~1000m/sであることが好ましい。300m/s未満では、過飽和固溶体状態の粒子を塑性変形させる応力が小さく、析出硬化が充分でないことがあり、また気孔率が大きくなることがある。
【0042】
また、上記過飽和固溶体状態の粒子を吹き付ける作動ガスの圧力は、2~5MPaであることが好ましく、3.5~5MPaであることがより好ましい。作動ガスの圧力が2MPa未満であると、上記粒子速度が得られ難くなることがある。
【0043】
また、作動ガスの温度は、過飽和固溶体状態の粒子の種類にもよるが、400~800℃であることが好ましく、500~700℃であることがより好ましい。
作動ガスの温度が400℃未満であると、過飽和固溶体状態の粒子が塑性変形し難く、気孔率が大きくなって被膜強度が低下することがある。また、作動ガスの温度が800℃を超えると、酸化により、強度が低下する恐れがある。
【0044】
上記、作動ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガスなどを挙げることができ、これらは、1種を単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
シリンダヘッドにおけるエンジンバルブの着座部の加工完了状態で、狙い被膜層厚み0.2mmを想定して、アルミニウム材(A5056BE-H112)を前加工してアルミニウム基材を用意した。
【0047】
上記アルミニウム基材を回転テーブルに装着し、回転テーブルを回転させながら、水アトマイズ法で作製した過飽和固溶体状態の粒子(組成:(質量%)Cu-3Ni-0.7Si、平均粒子径(d50):27.7μm)と、同様に水アトマイズ法で作製した過飽和固溶体状態の粒子(組成:Cu-6Ni-1.4Si、平均粒子径(d50):26.8μm)とを質量比80:20で含む原料粒子を以下の条件でコールドスプレーし、0.4~0.5mmの被膜層を形成した。
上記固溶体粒子の付着率を表1に示す。
【0048】
高圧型コールドスプレー装置 :プラズマ技研工業株式会社製、PCS-1000
作動ガス :窒素
チャンバー内ガス圧力 :4MPa
チャンバー内ガス温度 :600℃(衝突時の粒子温度は約200℃)
粒子速度 :680~720m/s
粒子供給量 :7g/min
【0049】
上記被膜層を実際のシリンダヘッドにおけるエンジンバルブの着座部の形状に仕上げ、厚み0.2mmの被膜層として摺動部材を得た。
【0050】
[実施例2]
過飽和固溶体状態の粒子(組成:Cu-3Ni-0.7Si、平均粒子径(d50):27.7μm)と、過飽和固溶体状態の粒子(組成:(質量%)Cu-14Ni-3Si-2V-2.2Cr-1.4Fe-1.2Al、平均粒子径(d50):33.2μm)とを、質量比80:20で含む原料粒子を用いる他は実施例1と同様にして摺動部材を得た。
【0051】
[比較例1]
過飽和固溶体状態の粒子(組成:(質量%)Cu-3Ni-0.7Si、平均粒子径(d50):27.7μm)を単独で用いる他は実施例1と同様にして摺動部材を得た。
【0052】
[比較例2]
過飽和固溶体状態の粒子(組成:(質量%)Cu-6Ni-1.4Si、平均粒子径(d50):26.8μm)を単独で用いる他は実施例1と同様にして摺動部材を得た。
【0053】
[比較例3]
過飽和固溶体状態の粒子(組成:(質量%)Cu-14Ni-3Si-2V-2.2Cr-1.4Fe-1.2Al、平均粒子径(d50):33.2μm)を単独で用いる他は実施例1と同様にして摺動部材を得た。
【0054】
<評価>
上記摺動部材を以下の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0055】
(被膜組織の観察)
走査電子顕微鏡(SEM)による電子線後方散乱回折(EBSD)を行い被膜層の組織を観察し、析出硬化型銅合金粒子中の析出結晶粒子の組成、気孔率、析出結晶粒子の粒径及びアモルファスの有無から塑性変形部の有無、及び中間層を確認した。
【0056】
(析出硬化型銅合金粒子の硬度測定)
上記走査電子顕微鏡(SEM)の組成像で成分の違いを確認しながら、同一視野でビッカース硬さ試験(JIS Z 2244)に準拠して測定した。
【0057】
(耐摩耗性)
高千穂精機株式会社製のバルブシート摩耗試験機を用いて、下記の条件で耐食性試験後の摺動部材の摩耗量を測定した。
具体的には、形状測定装置を用いて試験前と試験後のシリンダヘッドにおけるエンジンバルブの着座部の形状を取得し、4カ所の摩耗量を測定した平均値から比較例1に対する摩耗比を算出した。
【0058】
相手バルブ材:SUH35
試験温度 :325℃
上下速度 :3000回/min
バルブ回転数:5rpm
着座回数 :540000回
【0059】
【0060】
表1の結果から、組成が異なる2種以上の析出硬化型銅合金粒子を含有する被膜層を形成した実施例の摺動部材は、析出硬化型銅合金粒子が一種類の比較例に比して耐摩耗性が優れることがわかる。
【符号の説明】
【0061】
1 摺動部材
2 被膜層
21a 析出硬化型銅合金粒子
21b 析出硬化型銅合金粒子
22 塑性変形部
23 界面
3 基材
4 中間層