(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】デチューニングシステムを有する無線周波数(RF)アンテナ素子
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20220413BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
A61B5/055 355
G01N24/00 570A
G01N24/00 580Y
(21)【出願番号】P 2020552774
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2019057478
(87)【国際公開番号】W WO2019185564
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-01-18
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】リップス オリヴァー
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル マルク マルティヌス ベルナルドス
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-106950(JP,A)
【文献】特表2009-519729(JP,A)
【文献】特表2007-504879(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0124838(US,A1)
【文献】特開2005-270304(JP,A)
【文献】特開2003-175013(JP,A)
【文献】特開平11-239572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00 -24/14
G01R 33/20 -33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューニング/デチューニングシステムを備える無線周波数(RF)アンテナ素子であって、
前記RFアンテナ素子は、共振導電性ループと、前記共振導電性ループをチューニング/デチューニングするように構成された感光性スイッチング素子を有するチューニング/デチューニングシステムと、を有し、
前記チューニング/デチューニングシステムは、前記感光性スイッチング素子に光学的に結合される注入光源
を有し、
前記RFアンテナ素子は、
前記感光性スイッチング素子と並列に接続される光検出器と、
前記光検出器に光学的に結合されるバイアス光源と、
を有し、
前記光検出器は、前記バイアス光源からの入射放射線に応答して、前記感光性スイッチング素子に負のバイアス電圧を生成するよう構成されている、
RFアンテナ素子。
【請求項2】
前記感光性スイッチング素子と直列に接続される少なくとも1つのインダクタンスと、前記光検出器と並列に接続される抵抗と、を有する電気的インタフェース回路を有する、請求項1に記載のRFアンテナ素子。
【請求項3】
前記感光性スイッチング素子が、バックツーバックのフォトダイオードにより形成される、請求項1に記載のRFアンテナ素子。
【請求項4】
前記注入光源及び前記バイアス光源が、光学スイッチングシステムを有する共通光源により形成されており、前記光学スイッチングシステムは、前記共通光源を、前記注入光源及び前記バイアス光源に個別に光学結合するように構成される、請求項1に記載のRFアンテナ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
磁場と核スピンの相互作用を利用して2次元又は3次元の画像を形成する磁気共鳴イメージング(MRI)法は、軟部組織のイメージングに関して多くの点で他のイメージング法に比べて優れていること、電離放射線を必要としないこと、通常は侵襲性がないことなどから、現在では特に医療診断の分野で広く利用されている。
【背景技術】
【0002】
一般的なMRI法では、被検者の身体は、測定に関連する座標系の軸(通常はz軸)を定義する強い均一な磁場B0の中に配置されている。磁場B0は、定義された周波数(いわゆるラーモア周波数、又はMR周波数)の電磁交流場(RF場)を印加することによって励起(スピン共鳴)される磁場の強さに依存して、個々の核スピンに対して異なるエネルギーレベルを引き起こす。巨視的に見ると、個々の核スピンの分布は、適切な周波数の電磁パルス(RFパルス)を印加することによって平衡状態から逸らされることができる全体的な磁化を生成するが、このRFパルスの対応する磁場B1はz軸に垂直に延びているため、磁化は、z軸を中心に歳差運動を行う。歳差運動は、その開口角がフリップ角と呼ばれる円錐の表面を表す。フリップ角の大きさは、印加された電磁パルスの強さ及び持続時間に依存する。いわゆる90°パルスの例では、磁化は、z軸方向から横平面に逸らされる(フリップ角90°)。
【0003】
RFパルスの終了後、磁化は元の平衡状態に戻り、z方向の磁化は、第1の時定数T1(スピン格子又は縦緩和時間)で再び構築され、z方向に垂直な方向の磁化は、第2の短い時定数T2(スピン-スピン又は横緩和時間)で緩和される。横磁化とその変動は、磁化の変動がz軸に垂直な方向において測定されるように磁気共鳴検査システムの検査ボリューム内に配置され方向付けられる受信RFアンテナ(コイルアレイ)によって、検出されることができる。横磁化の減衰は、RF励起後に局所的な磁場の不均一性によって起こるディフェーズを伴い、かかる局所的な磁場の不均一性は、同じ信号位相をもつ秩序状態からすべての位相角が一様に分布する状態への遷移を促す。ディフェーズは、リフォーカスRFパルス(例えば180°パルス)によって補償されることができる。これにより、受信コイルにエコー信号(スピンエコー)が発生する。
【0004】
検査対象の患者のような撮像対象の空間分解能を実現するために、3つの主軸に沿って延びる磁場勾配が一様な磁場B0に重畳され、スピン共鳴周波数の線形空間依存性をもたらす。その後、受信アンテナ(コイルアレイ)でピックアップされた信号は、体内の異なる位置に関連付けることができる異なる周波数成分を含む。受信コイルを介して取得される信号データは、磁気共鳴信号の波動ベクトルの空間周波数領域に対応しており、k空間データと呼ばれる。k空間データは、通常、異なる位相符号化が施されて取得された複数のラインを含む。各ラインは、多数のサンプルを収集することによってデジタル化される。k空間データの集合は、フーリエ変換によってMR画像に変換される。
【0005】
横磁化は、磁場勾配の存在下でもディフェーズする。このプロセスは、RF誘導(スピン)エコーの形成と同様に、いわゆるグラジエントエコーを形成する適切なグラジエント反転によって、反転されることができる。しかし、グラジエントエコーの場合、RFのリフォーカス(スピン)エコーとは異なり、主磁場の不均一性、化学シフト、その他のオフレゾナンス効果の影響は、リフォーカスされない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、(デ)チューニングシステムを備える磁気共鳴検査システム用の無線周波数(RF)アンテナ素子に関する。特に注目すべきは、(デ)チューニングシステムが、RFアンテナ素子を光学的にデチューンするように構成されることである。本発明の(デ)チューニングシステムを備えた無線周波数(RF)アンテナ素子は、磁気共鳴信号をピックアップする磁気共鳴検査システムに関して使用するためのものである。(デ)チューニングシステムは、磁気共鳴検査システムでのRF励起場の送信中はRFアンテナ素子をデチューンし、磁気共鳴信号のピックアップ中はRFアンテナ素子を共振状態にチューニングする機能をもつ。
【0007】
M. Korn他による論文"Optically detunable, inductively coupled coil for self-gating in small animal magnetic resonance imaging" MRM65(2011)882-888は、RFアンテナ素子を光学的にデチューンするように構成される(デ)チューニングシステムを有する無線周波数(RF)アンテナ素子を開示している。既知のRFアンテナ素子は、フォトダイオードに接続された2つのピンダイオードを有するシャントされたキャパシタによって動的にデチューンされることができる小型共振表面コイルの単一ループコイルによって形成される。照明下で、フォトダイオードの光電流が、ピンダイオードを導通状態に切り替え、表面コイルをデチューンする。
【0008】
本発明の目的は、改善されたノイズ特性を有する(デ)チューニングシステムを有する無線周波数(RF)アンテナ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、(デ)チューニングシステムを備える無線周波数(RF)アンテナ素子であって、RFアンテナ素子が、共振導電性ループと、前記共振導電性ループをデチューンするための感光性スイッチング素子を有する(デ)チューニングシステムと、を有し、(デ)チューニングシステムが、感光性スイッチング素子に光学的に結合される注入光源を有する、RFアンテナ素子によって達成される。
【0010】
(デ)チューニングシステムは、ラーモア周波数帯域で共振状態になるようにRFアンテナ素子をチューニングし、又はラーモア周波数帯域で非共振状態になるようにRFアンテナ素子をデチューンする、ように機能する。(デ)チューニングシステムは、チューニングとデチューニングの間で(デ)チューニングシステムを切り替えるためのスイッチング素子を有する。すなわち、スイッチング素子がその開状態又は閉状態(非導通状態又は導通状態)にあることは、RFアンテナ素子のデチューニング又はチューニング(又はその逆)に対応する。実際、例えばスピンを励起し、反転し又はリフォーカスするために、強いRF場が印加されるとき、RFアンテナ素子は、磁気共鳴信号を受信するためにデチューンされる。このようにして、RFアンテナ素子及びその感度の高い電子機器は、このような強いRF場から保護される。強いRF場が印加されない場合、RFアンテナ素子は、ラーモア周波数帯域で共振し、非常に弱い磁気共鳴信号、例えば、より早いRF励起に起因する信号を受信することに敏感である。本発明によれば、注入光源は、感光性スイッチング素子に光学的に結合される。感光性スイッチング素子は、注入光源からの光子が入射しているときは閉じており、光子が入射していないときは開いている。簡単で安価な実施形態は、感光性スイッチング素子として(ピン)フォトダイオードを採用することである。光子の(直接的な)入射により、感光性スイッチング素子は、開状態から閉状態に変えられ、光子の入射を停止することにより、感光性スイッチング素子は、閉状態から開状態に戻る。注入光源から感光性スイッチング素子に光子が注入されることで、感光性スイッチング素子に移動電荷キャリアが発生し、感光性スイッチング素子が電気的に導通するようになる。また、感光性スイッチング素子に光子が入射しないとき、例えば、注入光源がオフにされると、スイッチング素子は開状態となる。すなわち、注入光源から感光性スイッチング素子への光子の入射のオン/オフを切り替えることにより、感光性スイッチング素子が閉じられ/開かれ、その結果、RFアンテナ素子が、共振状態と非共振状態の間で切り替わる。これに対応して、注入光源のオン/オフを切り替えることにより、RFアンテナ素子は、その共振状態と非共振状態の間で切り替えられる。感光性スイッチング素子への光子の(直接的な)注入は、感光性スイッチング素子を電気的に導通させるための電荷キャリアを生成するための光起電素子を別途必要としない。
【0011】
本発明のこれらの側面及び他の側面は、従属請求項に規定された実施形態を参照して更に詳しく説明される。
【0012】
本発明の一実施形態では、(デ)チューニングシステムは、感光性スイッチング素子と並列に接続される光検出器と、光検出器に光学的に結合されるバイアス光源と、を有する。光検出器は、バイアス光源からの入射光に応答して、感光性スイッチング素子に負のバイアス電圧を生成する。注入光源からの光子が感光性スイッチング素子に入射しない場合、光検出器は、バイアス光源からの放射により照射され、負のバイアス(フォト)電圧がフォトダイオードに生成され、感光性スイッチング素子に印加される。その結果、開状態においてスイッチング素子の電気抵抗が増加し、スイッチング素子は、抵抗導体ではなく、キャパシタのように電気的に振る舞う。これにより、RFアンテナ素子に生成される(熱)ノイズが低減され、受信される磁気共鳴信号のS/Nが増加する。スイッチの閉状態では、バイアス光源からの放射が光検出器に入射しないため、負のバイアス電圧が発生せず、感光性スイッチング素子は低い抵抗を有する。これは、例えば、注入光源がスイッチオフされているときにバイアス光源がスイッチオンされ、注入光源がスイッチオンされて感光性スイッチング素子が閉じているときにバイアス光源がスイッチオフされるように、バイアス光源及び注入光源を制御することによって達成されることができる。
【0013】
本発明の別の実施形態において、電気的インタフェース回路は、感光スイッチング素子と直列に配置された1又は複数のインダクタンスと、バイアス光源のために光検出器と並列に接続される抵抗と、を有する。インダクタンスは、(デ)チューニングシステムからの無線周波数信号を減衰させ、又は阻止するためのフィルタとして機能する。抵抗は、感光性スイッチング素子のスイッチングに起因する過渡信号を低減するために追加される。このように、電気的インタフェース回路は、磁気共鳴信号の取得に関して低いRF干渉を提供し、更に、磁気共鳴信号の取得のデッドタイムを低下させる。インダクタンスの大きさは大きくなりがちなので、2つのインダクタンスを別々の位置に配置した方が便利な場合が多く、対称的に配置した方が有利な場合もある。
【0014】
例えば、感光性スイッチング素子は、バックツーバックのフォトダイオードによって形成される。バックツーバックダイオードは、阻止されるべきRF信号によってそれらが導通状態にチューニングされることはできず、すなわち、RFアンテナ素子が、非共振状態に設定されることを実現する。単一のフォトダイオードは、それが単一のフォトダイオードダイオードの必要な順方向電圧(負のバイアス電圧に加えられる)よりも大きい場合、RF信号の正の半サイクルの間にオンになりうる。
【0015】
他の実施形態において、注入光源とバイアス光源は、共通光源を光検出器及び感光性スイッチング素子に結合するために、光学スイッチングシステムと共に配置される共通光源を利用することができる。本発明のこれらの側面及び他の側面は、以下に記載された実施形態を参照して、添付の図面を参照して解明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の(デ)チューニングシステムを備える無線周波数(RF)アンテナ素子の一実施形態を示す概略図。
【
図2】本発明の(デ)チューニングシステムを備える無線周波数(RF)アンテナ素子の他の実施形態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の(デ)チューニングシステムを有する無線周波数(RF)アンテナ素子の一実施形態の概略図である。無線周波数アンテナ素子は、導電性コイルループ11として形成される。(デ)チューニングシステム12は、コイルループ11に結合される切り替え可能な共振回路111を有する。切り替え可能な共振回路は、コイルループ11に直列に接続されているキャパシタンス15と、感光性スイッチング素子14によって切り替え可能に接続されているインダクタンス16とを有し、感光性スイッチング素子14は、キャパシタンス15と並列に、かつインダクタンス16と直列に接続される。感光性スイッチング素子を開閉する(すなわち、容量性と抵抗性との間でその性質を変える)ことにより、導電性ループは、その非共振状態と共振状態との間で切り替えられる。感光性スイッチング素子を閉じるために、注入光源13からの光が、光リンク112を介して感光性スイッチング素子に注入される。注入光源からの光子が感光性スイッチング素子に入射していないときは、感光性スイッチング素子は開状態にある。注入光源17を制御するための(デ)チューンコントローラ17が設けられている。注入光源の切り替えにより、(デ)チューニングシステムは、コイルループを共振状態と非共振状態との間で切り替える。
【0018】
感光性スイッチング素子は、単純なピン(フォト)ダイオードでありえ、代わりに、バックツーバックで接続されるピン(フォト)ダイオードが使用されてもよい。
【0019】
図2は、本発明の(デ)チューニングシステムを有する無線周波数(RF)アンテナ素子の他の実施形態の概略図である。
図2の実施形態では、光検出器22が、感光性スイッチング素子14と並列に接続される。バイアス光源21が、検出器113に光学的に結合される。バイアス光源は、(デ)チューンコントローラによってオン/オフされる。バイアス光源21からの光子が光検出器22に入射するとき光検出器22は、感光性スイッチング素子に印加される負のバイアス電圧を生成する。バイアス光源は、注入光源がオフにされると活性化される。また、感光性素子が開状態にあるときには、感光性素子に負のバイアス電圧が印加される。
【0020】
注入光源及びバイアス光源のスイッチオフに代わって、光リンク112、113が遮断されることもできる。
【0021】
光検出器は、GaN系半導体レーザでありえ、最大75Vの負のバイアス電圧を生成することができるInGaN系青色LEDでありうる。