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特許7057852静的原子炉格納容器除熱系及び原子力プラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】静的原子炉格納容器除熱系及び原子力プラント
(51)【国際特許分類】
   G21C 15/18 20060101AFI20220413BHJP
   G21F 9/02 20060101ALI20220413BHJP
   G21C 13/00 20060101ALI20220413BHJP
   G21C 9/004 20060101ALI20220413BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
G21C15/18 M
G21F9/02 511C
G21F9/02 551A
G21F9/02 511S
G21C13/00 200
G21C9/004
G21D1/00 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021073100
(22)【出願日】2021-04-23
(62)【分割の表示】P 2017176822の分割
【原出願日】2017-09-14
(65)【公開番号】P2021119349
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松崎 隆久
(72)【発明者】
【氏名】福井 宗平
【審査官】関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-010049(JP,A)
【文献】特開2014-232033(JP,A)
【文献】特開2015-034734(JP,A)
【文献】特開2012-052823(JP,A)
【文献】特開平5-203778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 15/18
G21F 9/02
G21C 13/00
G21C 9/004
G21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器の外部に設置された熱交換器と、一端が前記熱交換器に接続され、他端が前記原子炉格納容器内のドライウェルの内部に位置し、前記ドライウェル内の蒸気を前記熱交換器に引き込む蒸気引き込み配管と、前記熱交換器から前記原子炉格納容器内のサプレッションプールに繋がる凝縮水排出管と、内部に冷却水が満たされ、前記熱交換器が収納配置されている蒸気冷却プールとを備えた静的原子炉格納容器除熱系において、
前記原子炉格納容器内のドライウェルの内部に位置する前記蒸気引き込み配管の開口部に、蒸気と非凝縮性ガスを分離する非凝縮性ガス分離フィルタが設置され
前記非凝縮性ガス分離フィルタは、その上流部にエアロゾル捕集装置を備えていることを特徴とする静的原子炉格納容器除熱系。
【請求項2】
請求項に記載の静的原子炉格納容器除熱系において、
前記エアロゾル捕集装置は、繊維状の金属フィルタ、ヘパフィルター或いは吸着材のうちの1つから成ることを特徴とする静的原子炉格納容器除熱系。
【請求項3】
原子炉格納容器の外部に設置された熱交換器と、一端が前記熱交換器に接続され、他端が前記原子炉格納容器内のドライウェルの内部に位置し、前記ドライウェル内の蒸気を前記熱交換器に引き込む蒸気引き込み配管と、前記熱交換器から前記原子炉格納容器内のサプレッションプールに繋がる凝縮水排出管と、内部に冷却水が満たされ、前記熱交換器が収納配置されている蒸気冷却プールとを備えた静的原子炉格納容器除熱系において、
前記原子炉格納容器内のドライウェルの内部に位置する前記蒸気引き込み配管の開口部に、蒸気と非凝縮性ガスを分離する非凝縮性ガス分離フィルタが設置され、
前記非凝縮性ガス分離フィルタは、その上流部によう素捕集装置を備えていることを特徴とする静的原子炉格納容器除熱系。
【請求項4】
請求項に記載の静的原子炉格納容器除熱系において、
前記よう素捕集装置は、銀が添着されたゼオライト、銀シリカゲル、銀アルミナ或いはKI添着炭のうちの1つから成ることを特徴とする静的原子炉格納容器除熱系。
【請求項5】
原子炉格納容器と、該原子炉格納容器内に設置され、炉心を内包する原子炉圧力容器と、該原子炉圧力容器に接続され、該原子炉圧力容器内で発生した蒸気をタービンに送る主蒸気管と、前記原子炉格納容器の外部に設置された熱交換器、一端が前記熱交換器に接続され、他端が前記原子炉格納容器内のドライウェルの内部に位置し、前記ドライウェル内の蒸気を前記熱交換器に引き込む蒸気引き込み配管、前記熱交換器から前記原子炉格納容器内のサプレッションプールに繋がる凝縮水排出管及び内部に冷却水が満たされ、前記熱交換器が収納配置されている蒸気冷却プールを備えた静的原子炉格納容器除熱系とを備え、
前記原子炉格納容器の内部は、ダイヤフラムフロアによってドライウェルとウェットウェルに区画され、前記ドライウェルと前記ウェットウェルは、ベント管によって相互に連通され、前記ベント管の排気部は、前記ウェットウェル内の前記サプレッションプールの水面下に開口している原子力プラントにおいて、
前記静的原子炉格納容器除熱系は、請求項1乃至のいずれか1項に記載の静的原子炉格納容器除熱系であることを特徴とする原子力プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静的原子炉格納容器除熱系及び原子力プラントに係り、特に、原子炉格納容器に放出された蒸気を原子炉格納容器外部で冷却、凝縮させて、凝縮した蒸気を原子炉格納容器に戻すものに好適な静的原子炉格納容器除熱系及び原子力プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、原子力発電プラントは事故が発生しても、その事故を収束させるための多様な安全系設備を備えている。例えば、沸騰水型原子炉では、炉心を内包する原子炉圧力容器をさらに取り囲むように配置された原子炉格納容器内部で主蒸気配管が破断する冷却材喪失事故が発生した場合、主蒸気配管の破断口から流出する蒸気は、原子炉格納容器内部のドライウェルと呼ばれる領域に放出される。その後、ドライウェルに貯まった蒸気を、同じく原子炉格納容器内部のウェットウェルと呼ばれる領域にあるサプレッションプールに導いて冷却、凝縮させる。
【0003】
このような構成をとることで、主蒸気配管の破断口から放出された蒸気を原子炉格納容器内部に閉じ込めると同時に、蒸気放出による原子炉格納容器の圧力上昇を抑制している。しかし、サプレッションプール水により蒸気を凝縮させると、サプレッションプール水の温度が上昇し、その温度に見合う飽和蒸気圧の分だけ原子炉格納容器の圧力は上昇する。
【0004】
そこで、さらに長期間の原子炉の安全性を確保するためには、サプレッションプール水の冷却設備も必要となる。
【0005】
従来の原子炉では、一般的に残留熱除去系の機能の一部として、サプレッションプール内の水をポンプで熱交換器に送り、この熱交換器を通して原子炉格納容器の外部に放熱させた後、サプレッションプールに戻す系統などを持っている。
【0006】
一方、近年では、安全系機器のメンテナンス性を向上させるため、ポンプなどの動的機器を用いない静的な安全系設備が提案されている。また、静的な安全系設備は、機器の動作に交流電源を必要としないため、交流電源喪失事故時にも動作が可能である。
【0007】
このような静的な安全系設備の1つとして、原子炉格納容器に放出された蒸気を原子炉格納容器外部で冷却、凝縮させて、凝縮した蒸気を原子炉格納容器に戻す静的原子炉格納容器除熱系が特許文献1等で提案されている。
【0008】
この特許文献1に記載されている静的原子炉格納容器除熱系は、ポンプなどの動的機器を用いることなく、ドライウェルとウェットウェルの圧力差により原子炉格納容器内の蒸気を抜き出し、原子炉格納容器外部にある蒸気冷却プールの中に設置した熱交換器により蒸気を冷却、凝縮させ、サプレッションプールに戻すものである。
【0009】
一般的に、原子炉格納容器外部にある蒸気冷却プールは、熱交換器と共に原子炉格納容器の上部に設置される。そして、蒸気の熱を原子炉格納容器外部の蒸気冷却プール水に放出することで、サプレッションプールの温度上昇を抑制している。
【0010】
沸騰水型原子力発電プラントの原子炉格納容器の内部は、水素発生時の水素爆発を防止するため、窒素雰囲気となっている。また、発生確率は非常に小さいが、原子炉の炉心を冷却が不十分になった場合を想定した過酷事故が発生した場合には、炉心に存在する金属(主にジルカロイ)の酸化反応によって水素が発生し、原子炉格納容器に流入する。蒸気の中に、窒素や水素のような非凝縮性ガスが存在すると、熱交換器の除熱性能が大幅に低下することが知られている。
【0011】
そのため、静的原子炉格納容器除熱系においても、窒素や水素の存在により、熱交換器での除熱性能の低下が起きるので、性能低下を考慮して蒸気冷却用の熱交換器の容量を、予め大きくしておく必要がある。
【0012】
この問題を解決するため、特許文献1では、蒸気冷却用の熱交換器を2台設置し、流れを旋回させることで生じる遠心力を利用して非凝縮性ガスを分離し、1台の熱交換器で非凝縮性ガスを含んだ蒸気を凝縮させ、残りの1台の熱交換器で非凝縮性ガスを除去した蒸気を凝縮させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2012-52823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、原子炉格納容器内の非凝縮性ガスにより、静的原子炉格納容器除熱系の除熱性能の低下が起き、その性能低下を考慮すると熱交換器を大型化する必要があるが、熱交換器の大型化はコストを増加させる。
【0015】
また、これら熱交換器は、一般的に原子炉格納容器の上部に設置されるが、このような高所に配置される機器が大型化することは、耐震設計上も好ましくない。特許文献1に記載の静的原子炉格納容器除熱系おいては、熱交換器を2台とすることで、熱交換器を全体的には小型化しているが、熱交換器を2台設置することによりコストの増加を招いてしまう。
【0016】
また、特許文献1に記載の静的原子炉格納容器除熱系は、流れを旋回させることで生じる遠心力を利用して非凝縮性ガスを分離しているが、蒸気と非凝縮性ガスを完全に分離することは難しいため、非凝縮性ガスの分離機構を通過した後の蒸気にも、かなりの量の非凝縮性ガスが残ることとなる。
【0017】
更に、静的原子炉格納容器除熱系による原子炉格納容器の冷却を実現するためには、動作に交流電源などを必要とする動的な機器を使用しないことが必要となる。
【0018】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、コストの増大を招く熱交換器の大型化や複数台設置することなしに、窒素や水素などの非凝縮性ガスが存在した場合でも静的原子炉格納容器冷却設備の除熱性能の低下を、動力などを用いず静的な力のみで抑制可能な静的原子炉格納容器除熱系及び原子力プラントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の静的原子炉格納容器除熱系は、上記目的を達成するために、原子炉格納容器の外部に設置された熱交換器と、一端が前記熱交換器に接続され、他端が前記原子炉格納容器内のドライウェルの内部に位置し、前記ドライウェル内の蒸気を前記熱交換器に引き込む蒸気引き込み配管と、前記熱交換器から前記原子炉格納容器内のサプレッションプールに繋がる凝縮水排出管と、内部に冷却水が満たされ、前記熱交換器が収納配置されている蒸気冷却プールとを備えた静的原子炉格納容器除熱系において、前記原子炉格納容器内のドライウェルの内部に位置する前記蒸気引き込み配管の開口部に、蒸気と非凝縮性ガスを分離する非凝縮性ガス分離フィルタが設置され、前記非凝縮性ガス分離フィルタは、その上流部にエアロゾル捕集装置又はよう素捕集装置を備えていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の原子力プラントは、上記目的を達成するために、原子炉格納容器と、該原子炉格納容器内に設置され、炉心を内包する原子炉圧力容器と、該原子炉圧力容器に接続され、該原子炉圧力容器内で発生した蒸気をタービンに送る主蒸気管と、前記原子炉格納容器の外部に設置された熱交換器、一端が前記熱交換器に接続され、他端が前記原子炉格納容器内のドライウェルの内部に位置し、前記ドライウェル内の蒸気を前記熱交換器に引き込む蒸気引き込み配管、前記熱交換器から前記原子炉格納容器内のサプレッションプールに繋がる凝縮水排出管及び内部に冷却水が満たされ、前記熱交換器が収納配置されている蒸気冷却プールを備えた静的原子炉格納容器除熱系とを備え、前記原子炉格納容器の内部は、ダイヤフラムフロアによってドライウェルとウェットウェルに区画され、前記ドライウェルと前記ウェットウェルは、ベント管によって相互に連通され、前記ベント管の排気部は、前記ウェットウェル内の前記サプレッションプールの水面下に開口している原子力プラントにおいて、前記静的原子炉格納容器除熱系は、上記した静的原子炉格納容器除熱系であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、コストの増大を招く熱交換器の大型化や複数台設置することなしに、窒素や水素などの非凝縮性ガスが存在した場合でも静的原子炉格納容器冷却設備の除熱性能の低下を、動力などを用いず静的な力のみで抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例1を備えた沸騰水型の原子プラントを示す構成図である。
図2】本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例1における蒸気引き込み管の端部の拡大図である。
図3】本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例1における非凝縮性ガス分離フィルタの一例を示す概略斜視図である。
図4】本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例1における非凝縮性ガス分離フィルタの他の例を示す概略斜視図である。
図5】本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例1における非凝縮性ガス分離フィルタの更に他の例を示す概略斜視図である。
図6】本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例2を備えた沸騰水型の原子プラントを示す構成図である。
図7】本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例3における蒸気引き込み管の端部の拡大図である。
図8】本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例4における蒸気引き込み管の端部の拡大図である。
図9】本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例5における非凝縮性ガス分離フィルタを示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の静的原子炉格納容器除熱系及び原子力プラントを説明する。なお、各実施例において、同一構成部品には同符号を使用する。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例1を備えた沸騰水型の原子プラントの概略構成を示すものである
図1に示す沸騰水型の原子プラントは、改良型沸騰水型原子炉に適用した例であり、以下のようなシステム構成を持っている。
【0025】
即ち、本実施例の沸騰水型の原子力プラントは、原子炉格納容器1と、この原子炉格納容器1内に設置され、炉心2を内包する原子炉圧力容器3と、この原子炉圧力容器3に接続され、原子炉圧力容器3で発生した蒸気をタービン(図示せず)に送る主蒸気管4と、後述する静的原子炉格納容器除熱系とから概略構成され、その一部が地面26中に埋設されている。
【0026】
原子炉格納容器1の内部は、鉄筋コンクリート製のダイヤフラムフロア12によってドライウェル5とウェットウェル7に区画されている。ウェットウェル7は、内部にプール水を貯めている領域のことを言う。このウェットウェル7内のプールのことをサプレッションプール8と呼ぶ。ドライウェル5とウェットウェル7は、ベント管11によって相互に連通されており、ベント管排気部11aは、ウェットウェル7内のサプレッションプール8の水面下に開口している。
【0027】
万が一、配管類の一部が損傷し、原子炉格納容器1内に蒸気が放出される配管破断事故(一般的にLOCAの名称で知られ、配管が通るドライウェル5で発生する)が発生した場合、ドライウェル5の圧力が配管の破断口から流出する蒸気により上昇する。
【0028】
静的原子炉格納容器除熱系を持たない原子炉では、その際、ドライウェル5内に放出された蒸気は、ドライウェル5とウェットウェル7の圧力差により、ベント管11を通ってウェットウェル7内のサプレッションプール8の水中に導かれる。
【0029】
サプレッションプール8の水で蒸気を凝縮することで、原子炉格納容器1内の圧力上昇を抑制している。この際に、蒸気内に放射性物質が含まれていた場合、サプレッションプール8のプール水のスクラビング効果により大半の放射性物質が除去される。
【0030】
サプレッションプール8で蒸気を凝縮し、サプレッションプール8内のプール水を残留熱除去系(図示せず)で冷却することで、原子炉格納容器1の温度上昇と圧力上昇を防止し、事故を収束させることができる。
【0031】
しかし、非常に低い可能性ではあるが、残留熱除去系が機能を喪失した場合、サプレッションプール8のプール水の温度が上昇する。サプレッションプール8のプール水の温度が上昇するに伴い、原子炉格納容器1内の蒸気の分圧は、プール水の温度の飽和蒸気圧まで上昇するため、原子炉格納容器1の圧力が上昇する。
【0032】
一方、静的原子炉格納容器冷却系を持つ原子炉では、ドライウェル5内に放出された蒸気は、配管破断事故の直後の蒸気発生量が多い極初期はベント管11を通してウェットウェル7内のサプレッションプール8の水中で蒸気を冷却、凝縮させるが、その後は、原子炉格納容器1の外部(本実施例では原子炉格納容器1の上部)に設置した熱交換器13で蒸気を冷却、凝縮させる。
【0033】
本実施例での静的原子炉格納容器冷却系は、原子炉格納容器1の上部(外部)に設置された熱交換器13と、一端が熱交換器13に接続され、他端が原子炉格納容器1内のドライウェル5の内部に位置し、ドライウェル5内の蒸気を熱交換器13に引き込む蒸気引き込み配管16と、熱交換器13から原子炉格納容器1内のサプレッションプール8に繋がる凝縮水排出管17と、内部に蒸気冷却プール冷却水18が満たされ、熱交換器13が収納配置されている蒸気冷却プール14とから構成されている。
【0034】
そして、本実施例では、ドライウェル5の内部の空間に蒸気引き込み管16を開口させ、そのドライウェル5側の蒸気引き込み管16の端部に非凝縮性ガス分離フィルタ15を設置し、蒸気引き込み管16の逆側を熱交換器13に接続している。この非凝縮性ガス分離フィルタ15により炉内の非凝縮性ガスが分離され、熱交換器13には蒸気のみが供給される。非凝縮性ガスが熱交換器13内に無いことにより除熱性能が向上するため、熱交換器13を小型化することができる。
【0035】
また、熱交換器13は、蒸気冷却プール14に蓄えられて蒸気冷却プール冷却水18により外部から冷却されている。それにより、熱交換器13内の蒸気は、冷却され凝縮して水に戻り、重力により凝縮水排出管17を通って、ウェットウェル7内のサプレッションプール8に排出される。
【0036】
また、熱交換器13を高所となる原子炉格納容器1の上部に配置することで、ヘッド差により凝縮した水が排出されやすくなるため、蒸気引き込み管16から蒸気を引き込む力が強くなり、冷却能力が向上する。
【0037】
また、上記した戻り水は、熱交換器13により冷却されているため、サプレッションプール8や原子炉格納容器1の温度上昇を防止することができる。
【0038】
また、熱交換器13によって加熱された蒸気冷却プール冷却水18は、やがて沸騰する可能性があるが、蒸気冷却プール14を外部に開放しておく(蒸気冷却プール14の上部に開口部14aが設けられている)ことで、外部に熱を逃がすことができる。その際、蒸気冷却プール冷却水18には放射性物質は含まれていないため、外部への放射性物質の放出は起きない。
【0039】
なお、図1において、6は蒸気逃し安全弁、7aはウェットウェル気相部、9は蒸気逃し安全弁排気管、10はクエンチャである。
【0040】
本実施例における蒸気引き込み管16の端部構造を図2に示す。
【0041】
該図に示すように、本実施例の静的原子炉格納容器除熱系の熱交換器13に、ドライウェル5内の蒸気を引き込むための蒸気引き込み管16の一端が接続されているが、蒸気引き込み管16の他端に形成されている開口部22に設置された非凝縮性ガス分離フィルタ15は、原子炉格納容器上部壁面19より一定(所定)の距離(例えば0.5m)離して設置されている。
【0042】
また、本実施例では、上記した蒸気引き込み管16の開口部22は、横方向(水平方向)に向けて開口している。なぜなら、非凝縮性ガス分離フィルタ15を蒸気が透過することで、非凝縮性ガス分離フィルタ15の近辺には、非凝縮性ガス分離フィルタ15を透過しない非凝縮性ガス(水素や窒素)が滞留する恐れがある。
【0043】
非凝縮性ガス(水素や窒素)の滞留が起きた場合、非凝縮性ガス分離フィルタ15を透過する蒸気流量が低下する恐れがあるため、本実施例のように、蒸気引き込み管16の開口部22を原子炉格納容器上部壁面19から離して横方向に開口することで、非凝縮性ガスを非凝縮性ガス分離フィルタ15の近傍から密度差を利用し排除することができ、蒸気透過量を維持することができる。
【0044】
例えば、窒素は、蒸気との混合物に比べて重いため、非凝縮性ガス分離フィルタ15を蒸気が透過した後は、密度差により下方に流れることで非凝縮性ガス分離フィルタ15の近傍に滞留することがない。
【0045】
また、万が一、水素が発生した場合は、水素は蒸気との混合物に比べて軽いため、非凝縮性ガス分離フィルタ15を蒸気が透過した後は、密度差により上方に流れる。非凝縮性ガス分離フィルタ15と原子炉格納容器上部壁面19との間に一定の距離を持つことにより、水素が非凝縮性ガス分離フィルタ15の近傍に滞留することはない。
【0046】
また、蒸気引き込み管16の開口部22が横方向(水平方向)に開口していることにより、ガスの種類によらず密度差に応じて適切にガスが滞留せずに流れるような構造となっている。
【0047】
なお、原子炉格納容器1内の非凝縮性ガスの量は、窒素が殆どを占めるため、窒素を排除できる配置とすることが最も望ましい。
【0048】
蒸気を透過させて熱交換器13に供給したい蒸気の分子は、透過させたくない非凝縮性ガスの分子に比べて小さい。そこで、非凝縮性ガス分離フィルタ15の材料としては、分子サイズの差を利用して選択的にガスを透過することができる分子ふるいの機構を持つフィルタを利用することで、蒸気を選択的に透過することができる。
【0049】
このような用途に最適な分離膜(非凝縮性ガス分離フィルタ15)として、ポリイミドを主成分とした高分子膜、窒化ケイ素を主成分としたセラミック膜、炭素を主成分とした酸化グラフェン膜等の分子ふるいにより分離が可能な膜の使用が望ましい。また、その他、蒸気を透過し、主に窒素を透過しない膜であるならば、それらの使用でも構わない。
【0050】
次に、本実施例の静的原子炉格納容器除熱系に用いられる上記した非凝縮性ガス分離フィルタ15について、図3図4及び図5を用いて説明する。
【0051】
本実施例の静的原子炉格納容器除熱系に用いられる非凝縮性ガス分離フィルタ15の形状としては、図3に示すような板状、図4及び図5に示すようなチューブ状及び中空糸状がある。
【0052】
即ち、図3に示す板状の非凝縮性ガス分離フィルタ15Aは、複数の板状部材15Aが等間隔に配置されて複数の空間部15Aを形成し、この空間部15Aを間隔を置いて非凝縮性ガスを含む蒸気が通ることで蒸気と非凝縮性ガスが分離され、分離された非凝縮性ガスがフィルタ上流側空間20を通り下方へ排出され、蒸気がフィルタ下流側空間21を通り下方へと流れ熱交換器13へ導かれるものである。
【0053】
また、図4に示すチューブ状の非凝縮性ガス分離フィルタ15Bは、縦方向に複数配置されたチューブ状部材15Bが、その上下端を支え板15B及び15Bで支持されて形成され、チューブ状部材15Bの上部開口部から流入した非凝縮性ガスを含む蒸気が、チューブ状部材15Bを通ることで蒸気と非凝縮性ガスが分離され、分離された非凝縮性ガスがフィルタ上流側空間20(チューブ状部材15B内)を通り下方へ排出され、蒸気がフィルタ下流側空間21(チューブ状部材15B間)を通り水平方向へと流れ熱交換器13へ導かれるものである。
【0054】
更に、図5に示す中空糸状の非凝縮性ガス分離フィルタ15Cは、横方向(水平方向)に複数配置された中空糸状部材15Cが、その左右端を支え板15C及び15Cで支持されて形成され、非凝縮性ガス分離フィルタ15Cの上方から流入した非凝縮性ガスを含む蒸気は、複数の中空糸状部材15C間を通ることで蒸気と非凝縮性ガスが分離され、分離された非凝縮性ガスがフィルタ上流側空間20(中空糸状部材15C間)を通り下方へ排出され、蒸気がフィルタ下流側空間21(中空糸状部材15C内)を通り水平方向へと流れ熱交換器13へ導かれるものである。
【0055】
なお、上述した非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cは、その形状に問わず、フィルタ上流側空間20とフィルタ下流側空間21を完全に仕切る構造(原子炉格納容器1内の空間と蒸気引き込み管16のラインが、非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cで仕切られている構造)となっており、静的原子炉格納容器除熱系で冷却したい蒸気量に応じて非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cの表面積の大きさを決定しても構わない。また、フィルタ上流側空間20は、原子炉格納容器1内の気体に晒されている空間であり、事故時に発生した蒸気を、非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cを介してフィルタ下流側空間21へと放出可能である。
【0056】
図3図4及び図5に示すフィルタ上流側空間20でのガスは、非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cの底部から上部への流れであっても、上部から底部への流れであっても、非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B及び15Cの分離性能に影響することはない。また、フィルタ下流側空間21は、蒸気引き込み管16と連結しており、透過した蒸気は熱交換器13へと流れる。
【0057】
このような本実施例の構成とすることにより、静的原子炉格納容器除熱系において、原子炉格納容器1内に窒素や水素などの非凝縮性ガスが存在した場合でも、静的原子炉格納容器除熱系の除熱性能の低下を抑制することができる。それにより、熱交換器13を小型化することができ、コストを低減し、耐震性能を向上させることができる。
【0058】
従って、本実施例によれば、コストの増大を招く熱交換器13の大型化や複数台設置することなしに、窒素や水素などの非凝縮性ガスが存在した場合でも静的原子炉格納容器冷却設備の除熱性能の低下を、動力などを用いず静的な力のみで抑制可能となる。
【実施例2】
【0059】
本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例2について、図6を用いて説明する。
【0060】
図6に示す実施例2では、実施例1と比較し静的原子炉格納容器除熱系、即ち、熱交換器13が収納されている蒸気冷却プールの配置位置のみを変更したもので、他の構成は実施例1と同様である。ここでは、実施例1との違いのみを説明する。
【0061】
本実施例の静的原子炉格納容器除熱系は、蒸気冷却プール14及びその内部に設置される熱交換器13を、原子炉格納容器1の上方ではなく、実施例1と比較して原子炉格納容器1の下方に配置している。
【0062】
具体的には、熱交換器13が設置された蒸気冷却プール14は、原子炉格納容器1の側方で、かつ、サプレッションプール8の水面より上方の地面26上に設置されている。
【0063】
上記した本実施例の構成であっても、実施例1と同様に、非凝縮性ガス分離フィルタ15は、原子炉格納容器1の側壁や床面から離れた位置に設置することが望ましい。
【0064】
このような本実施例によれば、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、原子炉格納容器1の下方、即ち、原子炉格納容器1の側方で、かつ、サプレッションプール8の水面より上方に設置することで、熱交換器13を流れる駆動力は減少するが、機器を原子炉格納容器1の下方に配置できるため、耐震性能が向上する。
【実施例3】
【0065】
本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例3について、図7を用いて説明する。
【0066】
図7に示す実施例3においても、静的原子炉格納容器除熱系の配置構成は、実施例1若しくは実施例2と同様であり、ここでは実施例1若しくは実施例2との違いのみを説明する。
【0067】
過酷事故が万が一発生した場合は、原子炉格納容器1内の気体はエアロゾル状の放射性物質を含む可能性が有る。
【0068】
そこで、本実施例では、非凝縮性ガス分離フィルタ15の上流部にエアロゾル捕集装置23を設置し、極力大きなエアロゾル粒子を捕集する体系とするものである。
【0069】
なお、エアロゾル捕集装置23には、繊維状の金属フィルタやヘパフィルターまたは吸着材などが有効である。
【0070】
この構成により、エアロゾル粒子の非凝縮性ガス分離フィルタ15への吸着による目詰まりを防止することができ、かつ、強い放射線に晒されることによる非凝縮性ガス分離フィルタ15の劣化を防止することができる。
【0071】
また、原子炉格納容器1内の非凝縮性ガスの主成分は窒素であり、これは蒸気との混合物に比べて重いため、非凝縮性ガス分離フィルタ15に蒸気が透過された後は、密度差によって受動的に下方に流れる。
【0072】
そこで、本実施例でのエアロゾル捕集装置23は、例えば図3図4及び図5のような、非凝縮性ガスを含む蒸気が上から下へ流れる構造とする場合、非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B、15Cの上部に設置することが望ましい。
【0073】
このような本実施例によれば、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、原子炉格納容器1内の非凝縮性ガスによる静的原子炉格納容器除熱系の性能が低下しないため、静的原子炉格納容器除熱系の熱交換器13を小型化できる。また、非凝縮性ガス分離フィルタ15の劣化の可能性を低減できる。
【実施例4】
【0074】
本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例4について、図8を用いて説明する。
【0075】
図8に示す実施例4においても、静的原子炉格納容器除熱系の配置構成は、実施例1若しくは実施例2と同様であり、ここでは実施例1若しくは実施例2との違いのみを説明する。
【0076】
過酷事故が万が一発生した場合は、原子炉格納容器1内の気体はガス状のよう素を含む可能性が有る。
【0077】
そこで、非凝縮性ガス分離フィルタ15の上流部によう素捕集装置24を設置し、極力ガス状よう素を捕集する体系とするものである。
【0078】
なお、よう素捕集装置24には銀が添着されたゼオライトや銀シリカゲル、銀アルミナ、KI添着炭などが有効である。
【0079】
この構成により、反応性の高いガス状よう素が、よう素捕集装置24での物理吸着および化学吸着が可能となり、非凝縮性ガス分離フィルタ15の劣化を防止することができる。
【0080】
また、実施例3と同様に、よう素捕集装置24は、非凝縮性ガス分離フィルタ15A、15B、15Cの上部に設置することが望ましい。
【0081】
このような本実施例によれば、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、原子炉格納容器1内の非凝縮性ガスによる静的原子炉格納容器除熱系の性能が低下しないため、静的原子炉格納容器除熱系の熱交換器13を小型化できる。また、非凝縮性ガス分離フィルタ15の劣化の可能性を低減できる。
【実施例5】
【0082】
本発明の静的原子炉格納容器除熱系の実施例5について、図9を用いて説明する。
【0083】
図9に示す本実施例は、図3に示した板状の非凝縮性ガス分離フィルタ15Aの変形例である。
【0084】
図9に示す実施例5においても、静的原子炉格納容器除熱系の配置構成は、実施例1若しくは実施例2と同様であり、ここでは、図3に示す板状の非凝縮性ガス分離フィルタ15Aとの違いのみを説明する。
【0085】
該図に示す本実施例では、非凝縮性ガス分離フィルタ15Aによって蒸気が透過された後の非凝縮性ガスが流れる流路を、チムニ25によって下方に延長するものである。即ち、本実施例での非凝縮性ガス分離フィルタ15Aは、その下流部に、非凝縮性ガス分離フィルタ15Aを蒸気が透過した後の非凝縮性ガスが流れる流路となるチムニ25を備えている。
【0086】
非凝縮性ガスの主成分は窒素であるため、非凝縮性ガスを含む蒸気よりも重いため、密度差により下方に流れる。本実施例のチムニ25により流路を限定することにより、周囲との密度差で下降気流を生じる駆動力が強まることから、非凝縮性ガス分離フィルタ15Aにより多くの蒸気を供給できるようになる。
【0087】
なお、本実施例のチムニ25は、実施例1の図3の変形例として記載したが、図4図5のような形の非凝縮性ガス分離フィルタ15Bや15Cにおいても、下方に向かう流路にチムニ25を設置した場合と同様の機能が期待できる。
【0088】
また、実施例3や実施例4と同様に、非凝縮性ガス分離フィルタ15の上部に、エアロゾル捕集装置23やよう素捕集装置24を設置してもよい。
【0089】
このような本実施例によれば、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、原子炉格納容器1内の非凝縮性ガスによる静的原子炉格納容器除熱系の性能が低下しないため、静的原子炉格納容器除熱系の熱交換器13を小型化できる。また、熱交換器13に供給できる蒸気流量が増加するため、より除熱性能が向上する。
【0090】
なお、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1…原子炉格納容器、2…炉心、3…原子炉圧力容器、4…主蒸気管、5…ドライウェル、6…蒸気逃し安全弁、7…ウェットウェル、7a…ウェットウェル気相部、8…サプレッションプール、9…蒸気逃し安全弁排気管、10…クエンチャ、11…ベント管、11a…ベント管排気部、12…ダイヤフラムフロア、13…熱交換器、14…蒸気冷却プール、14a…蒸気冷却プールの開口部、15、15A、15B、15C…非凝縮性ガス分離フィルタ、15A…板状部材、15A…空間部、15B…チューブ状部材、15B、15B…支え板、15C…中空糸状部材、15C、15C…支え板、16…蒸気引き込み管、17…凝縮水排出管、18…蒸気冷却プール冷却水、19…原子炉格納容器上部壁面、20…フィルタ上流側空間、21…フィルタ下流側空間、22…蒸気引き込み管の開口部、23…エアロゾル捕集装置、24…よう素捕集装置、25…チムニ、26…地面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9