(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20220413BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220413BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20220413BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220413BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220413BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20220413BHJP
C09D 161/28 20060101ALI20220413BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220413BHJP
C09D 7/43 20180101ALI20220413BHJP
【FI】
B05D1/36 B
B05D7/24 302T
B05D7/24 303A
B05D3/00 D
C09D5/02
C09D5/00 D
C09D133/00
C09D161/28
C09D175/04
C09D7/43
(21)【出願番号】P 2021522232
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2020019601
(87)【国際公開番号】W WO2020241342
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-02-16
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2019108195
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】千田 晃子
(72)【発明者】
【氏名】武村 健太
(72)【発明者】
【氏名】石田 聡
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-535311(JP,A)
【文献】特開2013-000711(JP,A)
【文献】特開2014-148642(JP,A)
【文献】特開2017-170305(JP,A)
【文献】特開2018-075552(JP,A)
【文献】特開2018-183722(JP,A)
【文献】特開2013-221041(JP,A)
【文献】特表2008-543532(JP,A)
【文献】特開2003-093965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物表面に対して、水性第1塗料組成物(A)を塗装して未硬化の水性第1塗膜を形成する、水性第1塗料組成物塗装工程、
前記未硬化の水性第1塗膜上に、水性第2塗料組成物(B)を塗装して未硬化の水性第2塗膜を形成する、水性第2塗料組成物塗装工程、
前記未硬化の水性第2塗膜上に、クリヤー塗料組成物(C)を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する、クリヤー塗装工程、および、
前記工程で得られた未硬化の水性第1塗膜、未硬化の水性第2塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して、複層塗膜を形成する、硬化工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、
前記水性第1塗料組成物(A)は、水分散性ポリウレタン樹脂(a1)および粘性調整剤(a2)を含み、
前記水性第2塗料組成物(B)が、塗装粘度に希釈した状態で、固形分以外の希釈成分として、水と有機溶剤を含み、前記有機溶剤の一部として水に対する溶解度が0.1%以上7%以下である有機溶剤を塗料全量に対し0.4質量%以上5.0質量%以下で含有し、かつ水に溶解しない有機溶剤を塗料全量に対し0.05質量%以上2.5質量%以下の量で含有し、
前記水性第2塗料組成物(B)が前記未硬化の水性第1塗膜上に塗着する際の液滴質量M
B、衝突速度V
B、せん断速度10000sec
-1の条件下で測定した未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度η
Aが、下記式
M
BV
B/η
A<3.0×10
-7
を満た
し、
前記未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度η
A
は、前記水性第1塗料組成物(A)を乾燥膜厚が20μmとなる塗装条件で塗装した後3分の時点において、温度23℃およびせん断速度10000sec
-1
の条件下で測定した粘度η
A1
である、
複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記水性第2塗料組成物(B)が、アクリル樹脂エマルションおよびメラミン樹脂を含む水性塗料組成物である、
請求項1に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記水性第2塗料組成物(B)に含まれる、水に対する溶解度が0.1%以上7%以下である有機溶剤が、沸点160℃以上280℃以下の有機溶剤であり、
前記水に溶解しない有機溶剤が、沸点145℃以上200℃以下の炭化水素系有機溶剤である、
請求項1または2記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記水性第1塗料組成物(A)は、前記水分散性ポリウレタン樹脂(a1)、粘性調整剤(a2)、および、硬化剤(a3)、アクリル樹脂エマルション(a4)を含む、
請求項1~
3のいずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記粘性調整剤(a2)は、ポリアマイド系粘性調整剤、ウレタン系粘性調整剤、ポリカルボン酸系粘性調整剤、セルロース系粘性調整剤、無機層状化合物系粘性調整剤およびアミノプラスト系粘性調整剤からなる群から選択される1種またはそれ以上である、
請求項1~
4のいずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体などの塗装は、基本的には、電着塗膜、第1塗膜、第2塗膜およびクリヤー塗膜を、被塗物である鋼板の上に順次積層して行われる。このような塗装において、各塗膜を形成する毎に焼付け硬化する方法と、積層された複数の塗膜を同時に硬化する方法とがある。ここで、積層された複数の塗膜を同時に硬化する方法においては、いくつかの加熱硬化工程を省略できるため、塗装の省エネルギー化を実現することができるという利点がある。
【0003】
積層された複数の塗膜を同時に硬化する方法として、第1塗膜、第2塗膜およびクリヤー塗膜を、順次ウェットオンウェットで塗膜形成し、その後に焼き付け硬化させる3コート1ベーク塗装が実施されている。しかし、従来の3コート1ベーク塗装においては、特に水性塗料を用いる場合、水性第1塗料組成物を塗装した後、例えば60~100℃で2~20分乾燥させる、いわゆるプレヒート工程と呼ばれる予備乾燥工程が必要である。未硬化の水性第1塗膜を形成した後、すぐに水性第2塗膜を形成すると、上層である未硬化の水性第2塗膜に含まれる水分や有機溶剤が、未硬化の水性第1塗膜に移行する。これら2つの塗膜が混じり合うと、混層が形成される。混層は、得られる複層塗膜の外観を悪化させる。
【0004】
近年、省エネルギー化およびCO2排出量削減といった環境負荷の低減がさらに要請されており、未硬化の水性第1塗膜形成後のプレヒート工程をも省略することが望まれるようになった。その一方で、得られる積層塗膜に対しては、従来の塗装方法と比較して劣ることのない、良好な外観を有することが求められる。
【0005】
例えば特開2012-116879号公報(特許文献1)には、アクリル樹脂エマルション(A)、ダイマー酸誘導体水分散物(B)、および硬化剤(C)を含む水性中塗り塗料組成物(請求項1)、および、この中塗り塗料組成物、水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次ウェットオンウェットで塗装する複層塗膜形成方法(請求項3)が記載されている。さらにこの複層塗膜形成方法において、前記未硬化の中塗り塗膜を形成した後、水性ベース塗料組成物を塗装するまでの間に、プレヒートを行わないことについて記載される(請求項4)。そして特許文献1の[0014]段落には、上記水性中塗り塗料組成物を用いることによって、未硬化の中塗り塗膜とベース塗膜とが混じり合うといった不具合の発生を防ぐことができると記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載される通り、第1塗膜を形成した後にプレヒートを行うことなく第2塗膜を形成する複層塗膜形成方法について、種々の検討が行われている。本発明は、上記のような、水性第1塗膜を形成した後にプレヒートを行うことなく水性第2塗膜を形成する場合であっても、塗膜平滑性が良好である複層塗膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
被塗物表面に対して、水性第1塗料組成物(A)を塗装して未硬化の水性第1塗膜を形成する、水性第1塗料組成物塗装工程、
上記未硬化の水性第1塗膜上に、水性第2塗料組成物(B)を塗装して未硬化の水性第2塗膜を形成する、水性第2塗料組成物塗装工程、
上記未硬化の水性第2塗膜上に、クリヤー塗料組成物(C)を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する、クリヤー塗装工程、および、
上記工程で得られた未硬化の水性第1塗膜、未硬化の水性第2塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して、複層塗膜を形成する、硬化工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、
上記水性第1塗料組成物(A)は、水分散性ポリウレタン樹脂(a1)および粘性調整剤(a2)を含み、
上記水性第2塗料組成物(B)が、塗装粘度に希釈した状態で、固形分以外の希釈成分として、水と有機溶剤を含み、上記有機溶剤の一部として水に対する溶解度が0.1%以上7%以下である有機溶剤を塗料全量に対し0.4質量%以上5.0質量%以下で含有し、かつ水に溶解しない有機溶剤を塗料全量に対し0.05質量%以上2.5質量%以下の量で含有し、
上記水性第2塗料組成物(B)が上記未硬化の水性第1塗膜上に塗着する際の液滴質量MB、衝突速度VB、せん断速度10000sec-1の条件下で測定した未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度ηAが、下記式
MBVB/ηA<3.0×10-7
を満たす、
複層塗膜形成方法。
[2]
上記水性第2塗料組成物(B)が、アクリル樹脂エマルションおよびメラミン樹脂を含む水性塗料組成物である、
複層塗膜形成方法。
[3]
上記水性第2塗料組成物(B)に含まれる、水に対する溶解度が0.1%以上7%以下である有機溶剤が、沸点160℃以上280℃以下の有機溶剤であり、
上記水に溶解しない有機溶剤が、沸点145℃以上200℃以下の炭化水素系有機溶剤である、
複層塗膜形成方法。
[4]
上記未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度ηAは、水性第1塗料組成物(A)を乾燥膜厚が20μmとなる塗装条件で塗装した後3分の時点において、温度23℃およびせん断速度10000sec-1の条件下で測定した粘度ηA1である、
複層塗膜形成方法。
[5]
上記水性第1塗料組成物(A)は、上記水分散性ポリウレタン樹脂(a1)、粘性調整剤(a2)、および、アクリル樹脂エマルション(a3)、硬化剤(a4)を含む、
複層塗膜形成方法。
[6]
上記粘性調整剤(a2)は、ポリアマイド系粘性調整剤、ウレタン系粘性調整剤、ポリカルボン酸系粘性調整剤、セルロース系粘性調整剤、無機層状化合物系粘性調整剤およびアミノプラスト系粘性調整剤からなる群から選択される1種またはそれ以上である、
複層塗膜形成方法。
[7]
上記未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度ηAに関して、
乾燥膜厚が20μmとなる塗装条件で塗装した後3分の時点において、温度23℃およびせん断速度10000sec-1の条件下で測定した粘度ηA1、
乾燥膜厚が20μmとなる塗装条件で塗装した後5分の時点において、温度23℃およびせん断速度10000sec-1の条件下で測定した粘度ηA2、および
乾燥膜厚が20μmとなる塗装条件で塗装した後7分の時点において、温度23℃およびせん断速度10000sec-1の条件下で測定した粘度ηA3は、
いずれも、
MBVB/ηA1<3.0×10-7
MBVB/ηA2<3.0×10-7
MBVB/ηA3<3.0×10-7
を満たす、
複層塗膜形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、水性第1塗膜を形成した後にプレヒートを行うことなく水性第2塗膜を形成する場合であっても、塗膜平滑性が良好である複層塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】実施例1により形成した複層塗膜の水平外観表面の電子写真(観察方向1)である。
【
図1B】実施例1により形成した複層塗膜の第1塗膜および第2塗膜の境界部の断面の電子写真(観察方向2)である。
【
図2A】実施例4により形成した複層塗膜の水平外観表面の電子写真(観察方向1)である。
【
図2B】実施例4により形成した複層塗膜の第1塗膜および第2塗膜の境界部の断面の電子写真(観察方向2)である。
【
図3A】比較例1により形成した複層塗膜の水平外観表面の電子写真(観察方向1)である。
【
図3B】比較例1により形成した複層塗膜の第1塗膜および第2塗膜の境界部の断面の電子写真(観察方向2)である。
【
図4】第1塗膜および第2塗膜の観察方向を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記複層塗膜形成方法は、
被塗物表面に対して、水性第1塗料組成物(A)を塗装して未硬化の水性第1塗膜を形成する、水性第1塗料組成物塗装工程、
前記未硬化の水性第1塗膜上に、水性第2塗料組成物(B)を塗装して未硬化の水性第2塗膜を形成する、水性第2塗料組成物塗装工程、
前記未硬化の水性第2塗膜上に、クリヤー塗料組成物(C)を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する、クリヤー塗装工程、および、
前記工程で得られた未硬化の水性第1塗膜、未硬化の水性第2塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して、複層塗膜を形成する、硬化工程、
を包含する方法である。以下、各工程で用いられる塗料組成物について記載する。
【0012】
本明細書中における重量平均分子量および数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法によるポリスチレン標準で測定した値である。
【0013】
水性第1塗料組成物
上記複層塗膜形成方法において、水性第1塗膜の形成には水性第1塗料組成物(A)が用いられる。水性第1塗料組成物(A)は第1塗膜形成樹脂を含む。上記水性第1塗料組成物(A)は、第1塗膜形成樹脂として水分散性ポリウレタン樹脂(a1)を含み、さらに粘性調整剤(a2)を含む。
【0014】
第1塗膜形成樹脂
第1塗膜形成樹脂は、水分散性ポリウレタン樹脂(a1)を含む。第1塗膜形成樹脂はさらに他の樹脂成分を含んでもよい。他の樹脂成分として、例えば、アクリル樹脂(アクリル樹脂エマルションなど)、硬化剤、水分散性ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0015】
水分散性ポリウレタン樹脂(a1)
水分散性ポリウレタン樹脂(a1)は、例えば、
・ジイソシアネートを必須成分とし、他のポリイソシアネートを任意成分として含んでいてもよいポリイソシアネート成分;
・重量平均分子量1,500~5,000のポリカーボネートジオールおよび/またはカルボキシル基含有ジオールを必須成分とし、他のポリオールを任意成分として含んでいてもよいポリオール成分;
・モノアミン化合物を必須成分とし、ジアミン化合物を任意成分として含んでいてもよいアミン成分;
・カルボキシル基中和成分;および
水;
を用いて調製することができる。
【0016】
水分散性ポリウレタン樹脂(a1)の形態としては、エマルション、サスペンション、コロイダル分散液、水溶液などが挙げられる。エマルション、サスペンション、コロイダル分散液中の粒子径は、特に限定されるものではない。良好な分散状態が維持され易い点で、上記粒子のメジアン径D50は、10nm以上1000nm以下が好ましく、15nm以上300nm以下がより好ましく、15nm以上100nm以下であるのがさらに好ましい。メジアン径D50は、例えば、レーザー光散乱法によって測定できる。
【0017】
上記ポリイソシアネート成分に含まれるジイソシアネートは、特に限定されない。ジイソシアネートとしては、公知のジイソシアネートを単独または二種以上を組み合わせて用いることができる。ジイソシアネートとしては、得られるポリウレタン分子およびこれから得られる塗膜の耐加水分解性の点から、脂環式ジイソシアネートが好ましい。イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートなどがより好ましい。
【0018】
上記のジイソシアネートは、カルボジイミド変性、イソシアヌレート変性、ビウレット変性などの変性物の形で用いられてもよく、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いられてもよい。ポリイソシアネート成分における、ジイソシアネートの含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0019】
上記ポリオール成分の一例として挙げられるポリカーボネートジオールの重量平均分子量は、例えば、1,500以上5,000以下である。このようなポリカーボネートジオールは、例えば、多価アルコール(例えばジオール)に炭酸ジメチルを反応させることによって、調製することができる。ポリカーボネートジオールの調製に用いることができるジオールは、特に限定されるものではない。ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの低分子ジオールが挙げられる。これらの中でも低コストで入手が容易な点で、1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
【0020】
ポリオール成分の一例として挙げられるカルボキシル基含有ジオールは、ポリウレタン分子に親水性基を導入するために用いられる。上記カルボキシル基含有ジオールとしては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸などが挙げられる。これらのカルボキシル基含有ジオールは、単独または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
ポリオール成分として任意に配合し得る他のポリオール化合物は、特に限定されない。他のポリオール化合物としては、公知のポリオールを単独または二種以上を組み合わせて用いることができる。このようなポリオール化合物として、例えば、低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリブタジエンポリオール、シリコーンポリオール、エステル結合を有するポリオールなどが挙げられる。
【0022】
上記ポリオール成分における、重量平均分子量1,500以上5,000以下のポリカーボネートジオールの組成比は、50質量%以上97質量%以下が好ましく、75質量%以上95質量%以下がより好ましい。カルボキシル基含有ジオールの組成比は、3質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましい。上記ポリカーボネートジオールとカルボキシル基含有ジオールとのモル比(=ポリカーボネートジオール:カルボキシル基含有ジオール)は、1:0.8から1:2であるのが好ましく、1:1から1:1.75であるのがより好ましく、1:1.2から1:1.5であるのがさらに好ましい。
【0023】
上記アミン成分に含まれるモノアミン化合物は、特に限定されない。モノアミン化合物としては、公知のものを単独または二種以上を組み合わせて用いることができる。上記モノアミン化合物としては、エチルアミン、プロピルアミン、2-プロピルアミン、ブチルアミン、2-ブチルアミン、第三ブチルアミン、イソブチルアミンなどのアルキルアミン;アニリン、メチルアニリン、フェニルナフチルアミン、ナフチルアミンなどの芳香族アミン;シクロヘキサンアミン、メチルシクロヘキサンアミンなどの脂環式アミン;2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2-(2-メトキシエトキシ)エチルアミンなどのエーテルアミン;エタノールアミン、プロパノールアミン、ブチルエタノールアミン、1-アミノ-2-メチル-2-プロパノール、2-アミノ-2-メチルプロパノール、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジメチルアミノプロピルエタノールアミン、ジプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミンなどのアルカノールアミンなどが挙げられる。中でもアルカノールアミンは、ポリウレタン分子の水分散安定性を向上させる点で好ましい。
【0024】
上記アミン成分として任意に配合し得るジアミン化合物は、特に限定されない。ジアミン化合物としては、公知のジアミン化合物を単独または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
上記カルボキシル基中和成分として用いられる中和剤は、塩基性化合物が好ましい。塩基性化合物は、上記カルボキシル基含有ジオールのカルボキシル基と中和反応して、親水性の塩を形成する。このような塩基性化合物は特に限定されない。塩基性化合物としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミンおよびトリブチルアミンなどのトリアルキルアミン類、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジメチルプロパノールアミン、N,N-ジプロピルエタノールアミンおよび1-ジメチルアミノ-2-メチル-2-プロパノールなどのN,N-ジアルキルアルカノールアミン類、N-アルキル-N,N-ジアルカノールアミン類、トリエタノールアミンなどのトリアルカノールアミン類などの3級アミン化合物;アンモニア;トリメチルアンモニウムヒドロキシド;水酸化ナトリウム;水酸化カリウム;水酸化リチウムなどが挙げられる。これらの中でも、分散安定性などの点から、3級アミン化合物が特に好適に用いることができる。
【0026】
水分散性ポリウレタン樹脂(a1)は、上記成分とともに、内部分岐剤および内部架橋剤を用いて調製されてもよい。内部分岐剤および内部架橋剤は、ポリウレタン分子に分岐や架橋構造を与える。
【0027】
水分散性ポリウレタン樹脂(a1)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。中でも、プレポリマーまたはポリマーを合成してから、これを水にフィードして分散させる方法が好ましい。例えば、ポリイソシアネート成分、ポリオール成分からプレポリマーを合成して、これを水中でアミン成分と反応させる方法や、ポリイソシアネート成分、ポリオール成分およびアミン成分からポリマーを合成して、これを水中にフィードして分散させる方法などが挙げられる。カルボキシル基中和成分は、予めフィードする水中に加えておいてもよく、フィードの後で加えてもよい。
【0028】
プレポリマーまたはポリマーの合成は、反応に不活性で水との親和性の大きい溶媒中で行われる。上記溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドンなどを挙げることができる。これらの溶媒は、通常、プレポリマーを製造するために用いられる上記原料の合計量に対して、3質量%以上100質量%以下の量で用いられる。
【0029】
上記の製造方法において、原料の配合比は、特に指摘しない限り限定されない。原料の配合比は、反応させる段階でのポリイソシアネート成分中のイソシアネート基と、ポリオール成分およびアミン成分中のイソシアネート反応性基とのモル比に置き換えることができる。ポリイソシアネート成分中のイソシアネート基に対する、ポリオール成分およびアミン成分中のイソシアネート反応性基のモル比(=イソシアネート反応性基/イソシアネート基)は0.5以上2.0以下が好ましい。ポリイソシアネート成分中のイソシアネート基に対するポリオール成分中のイソシアネート反応性基のモル比(=イソシアネート反応性基/イソシアネート基)は0.3以上1.0以下が好ましく、0.5以上0.9以下がより好ましい。ポリイソシアネート成分中のイソシアネート基に対するアミン成分中のイソシアネート反応性基のモル比(=イソシアネート反応性基/イソシアネート基)は0.1以上1.0以下が好ましく、0.2以上0.5以下がより好ましい。
【0030】
カルボキシル基中和成分による中和率は、得られる水分散性ポリウレタン樹脂(a1)に対し、充分な分散安定性を与える範囲に設定することができる。
【0031】
水分散性ポリウレタン樹脂(a1)は、水性第1塗料組成物(A)中で安定して分散するために、界面活性剤などの乳化剤を単独でまたは二種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0032】
上記の乳化剤としては、水性第1塗料組成物(A)中での水分散性ポリウレタン樹脂(a1)の分散性または乳化性が向上する点で、公知のアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0033】
上記乳化剤の使用量は、ポリウレタン樹脂に対する質量比(=乳化剤/ポリウレタン組成物)で0.01以上0.3以下が好ましく、0.05以上0.2以下がより好ましい。乳化剤の上記質量比がこの範囲であると、充分な分散性が得られるとともに、水性第1塗料組成物(A)から得られる塗膜の耐水性、強度、延びなどの物性が向上し易い。
【0034】
分散性と塗装作業性の観点から、水分散性ポリウレタン樹脂(a1)の固形分は、2質量%以上70質量%以下であるのが好ましく、5質量%以上60質量%以下であるのがより好ましい。
【0035】
水分散性ポリウレタン樹脂(a1)に分散した状態にあるポリウレタン樹脂の数平均分子量は、1,000以上200,000以下が好ましく、2,000以上100,000以下がより好ましい。ポリウレタン樹脂の水酸基価および酸価は特に限定されず、任意の値を選択することができる。水酸基価は、例えば0mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であるのが好ましい。酸価は、例えば1mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であるのが好ましく、3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であるのがより好ましい。水酸基価および酸価は、樹脂固形分を基準にして求められる。
【0036】
上記水性第1塗料組成物(A)中に含まれる水分散性ポリウレタン樹脂(a1)の固形分量は、水性第1塗料組成物(A)の樹脂固形分100質量部に対して3質量部以上40質量部以下であるのが好ましく、10質量部以上35質量部以下であるのがより好ましい。
【0037】
粘性調整剤(a2)
上記水性第1塗料組成物(A)は、粘性調整剤(a2)を含む。粘性調整剤としては、例えば、ポリアマイド系粘性調整剤、ウレタン系粘性調整剤、ポリカルボン酸系粘性調整剤、セルロース系粘性調整剤、無機層状化合物系粘性調整剤およびアミノプラスト系粘性調整剤などの粘性調整剤が挙げられる。
【0038】
ポリアマイド系粘性調整剤としては、例えば、脂肪酸アマイド、ポリアマイド、アクリルアマイド、長鎖ポリアミノアマイド、アミノアマイドおよびこれらの塩(例えばリン酸塩)などが挙げられる。
ウレタン系粘性調整剤としては、例えば、ポリエーテルポリオール系ウレタンプレポリマー、ウレタン変性ポリエーテル型粘性調整剤などが挙げられる。
ポリカルボン酸系粘性調整剤としては、例えば高分子量ポリカルボン酸、高分子量不飽和酸ポリカルボン酸およびこれらの部分アミド化物などが挙げられる。
セルロース系粘性調整剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系粘性調整剤などが挙げられる。
無機層状化合物系粘性調整剤としては、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、クレーなどの層状化合物が挙げられる。
アミノプラスト系粘性調整剤としては、例えば、疎水変性エトキシレートアミノプラスト系会合型粘性調整剤などが挙げられる。
【0039】
上記粘性調整剤は1種のみを用いてもよく、2種または以上を併用してもよい。
【0040】
粘性調整剤として市販品を用いてもよい。市販される粘性調整剤として、例えば、
ポリアマイド系粘性調整剤である、ディスパロンAQ-600、AQ-607、AQ-620、AQ-630、AQH-800(楠本化成社製)、Anti-Terra-U(BYK Chemie社製)、Disperbyk-101、Disperbyk-130(BYK Chemie社製)など;
ポリカルボン酸系粘性調整剤である、Anti-Terra-203/204(BYK Chemie社製)、Disperbyk-107(BYK Chemie社製)、BYK-P104、BYK-P105(BYK Chemie社製)、プライマルASE-60、プライマルTT-615(ダウ・ケミカル社製)、ビスカレックスHV-30(BASF社製)、SNシックナー617、SNシックナー618、SNシックナー630、SNシックナー634、SNシックナー636(サンノプコ社製)など;
ウレタン系粘性調整剤である、アデカノールUH-814N、UH-752、UH-750、UH-420、UH-462(ADEKA社製)、SNシックナー621N、SNシックナー623N(サンノプコ社製)、RHEOLATE244、278(エレメンティス社製)など;
セルロース系粘性調整剤である、HECダイセルSP600N(ダイセルファインケム社製)など;
層状化合物系粘性調整剤である、BENTONE HD(エレメンティス社製)など;
アミノプラスト系粘性調整剤である、Optiflo H600VF(BYK Chemie社製)など;
が挙げられる。
【0041】
上記粘性調整剤は、ポリカルボン酸系粘性調整剤およびウレタン系粘性調整剤のうち1種またはそれ以上を含むのが好ましい。より好ましくは、ポリカルボン酸系粘性調整剤が含まれる。
【0042】
上記水性第1塗料組成物(A)に含まれる粘性調整剤(a2)の量は、水性第1塗料組成物(A)の樹脂固形分質量に対して0.01質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上10質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0043】
硬化剤(a3)
上記水性第1塗料組成物(A)は、硬化剤(a3)を含むのが好ましい。硬化剤(a3)は、第1塗膜形成樹脂の1種である。硬化剤(a3)として、例えば、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート樹脂、オキサゾリン系化合物あるいはカルボジイミド系化合物などが挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
メラミン樹脂としては特に限定されず、硬化剤として通常用いられるものを使用することができる。メラミン樹脂として、例えば、アルキルエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂が好ましく、メトキシ基および/またはブトキシ基で置換されたメラミン樹脂がより好ましい。このようなメラミン樹脂としては、メトキシ基を単独で有するものとして、サイメル325、サイメル327、サイメル370、マイコート723;メトキシ基とブトキシ基との両方を有するものとして、サイメル202、サイメル204、サイメル211、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル251、サイメル254、サイメル266、サイメル267、サイメル285(いずれも商品名、日本サイテックインダストリーズ社製);ブトキシ基を単独で有するものとして、マイコート506(商品名、三井サイテック社製)、ユーバン20N60、ユーバン20SE(いずれも商品名、三井化学社製)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、サイメル211、サイメル251、サイメル285、サイメル325、サイメル327、マイコート723がより好ましい。
【0045】
ブロックイソシアネート樹脂は、ポリイソシアネート化合物を適当なブロック剤でブロックしたものである。上記ポリイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定されない。上記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)などの脂肪族ジイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート(IPDI)などの脂環族ジイソシアネート類;キシリレンジイソシアネート(XDI)などの芳香族-脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族ジイソシアネート類;ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、水素化されたTDI(HTDI)、水素化されたXDI(H6XDI)、水素化されたMDI(H12MDI)などの水素添加ジイソシアネート類、および上記のジイソシアネート類のアダクト体およびヌレート体などを挙げることができる。これらは、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用される。
【0046】
ポリイソシアネート化合物をブロックするブロック剤は、特に限定されない。ブロック剤としては、例えば、メチルエチルケトオキシム、アセトキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;m-クレゾール、キシレノールなどのフェノール類;ブタノール、2-エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのアルコール類;ε-カプロラクタムなどのラクタム類;マロン酸ジエチル、アセト酢酸エステルなどのジケトン類;チオフェノールなどのメルカプタン類;チオ尿酸などの尿素類;イミダゾール類;カルバミン酸類などを挙げることができる。中でも、オキシム類、フェノール類、アルコール類、ラクタム類、ジケトン類が好ましい。
【0047】
オキサゾリン系化合物は、2個以上の2-オキサゾリン基を有する化合物であることが好ましい。オキサゾリン系化合物としては、例えば、下記のオキサゾリン類やオキサゾリン基含有重合体などを挙げることができる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。オキサゾリン系化合物は、アミドアルコールを触媒の存在下で加熱して脱水環化する方法、アルカノールアミンとニトリルとから合成する方法、またはアルカノールアミンとカルボン酸とから合成する方法などによって得られる。
【0048】
オキサゾリン類としては、例えば、2,2’-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-メチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-トリメチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2、2’-ヘキサメチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス-(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレン-ビス-(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、ビス-(2-オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス-(2-オキサゾリニルノルボルナン)スルフィドなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0049】
オキサゾリン基含有重合体は、付加重合性オキサゾリン、あるいは付加重合性オキサゾリンとおよび必要に応じて少なくとも1種の他の重合性単量体とを、重合することにより得られる。付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンなどを挙げることができる。これらは、1種または2種以上を適宜組み合わされて使用される。中でも、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0050】
付加重合性オキサゾリンの使用量は特に限定されない。付加重合性オキサゾリンの使用量は、オキサゾリン基含有重合体中、1質量%以上であることが好ましい。付加重合性オキサゾリンの使用量がこの範囲であると、十分に硬化されて、得られる塗膜の耐久性、耐水性などが向上し易い。
【0051】
他の重合性単量体としては、付加重合性オキサゾリンと共重合可能で、かつ、オキサゾリン基と反応しない単量体であれば特に制限はない。他の重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミドなどの不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;エチレン、プロピレンなどのα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどのハロゲン化α,β-不飽和単量体類;スチレン、α-メチルスチレンなどのα,β-不飽和芳香族単量体類などが挙げられる。これらは、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0052】
オキサゾリン基含有重合体の重合方法は特に限定されない。オキサゾリン基含有重合体は、従来公知の重合法、例えば懸濁重合、溶液重合、乳化重合などにより製造できる。上記オキサゾリン基含有化合物の供給形態は、特に限定されない。上記の供給形態としては、有機溶剤溶液、水溶液、非水ディスパーション、エマルションなどが挙げられる。
【0053】
カルボジイミド系化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができる。カルボジイミド系化合物としては、基本的には有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応により合成されたイソシアネート末端ポリカルボジイミドを挙げることができる。より具体的には、カルボジイミド系化合物は、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するカルボジイミド化合物と、分子末端に水酸基を有するポリオールとを、反応させて得られる。中でも、カルボジイミド化合物とポリオールとを、カルボジイミド化合物のイソシアネート基のモル量が上記ポリオールの水酸基のモル量を上回るような比率で反応させる工程と、上記工程で得られた反応生成物に、活性水素および親水性部分を有する親水化剤を反応させる工程と、により得られる親水化変性カルボジイミド化合物が好ましい。
【0054】
1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するカルボジイミド化合物は、特に限定されない。反応性の観点から、両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物が好ましい。両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物の製造方法は、当業者によってよく知られている。例えば、有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応を利用することができる。
【0055】
必要に応じて、硬化剤の反応を促進する硬化触媒を併用してもよい。硬化触媒として、例えば、スズ系触媒、弱酸触媒などが挙げられる。例えばスズ系触媒を用いることによって、ブロックイソシアネート樹脂などの硬化反応を促進することができる。例えば弱酸触媒を用いることによって、メラミン樹脂などの硬化反応を促進することができる。スズ系触媒として、市販のスズ系触媒を用いることができる。弱酸触媒として、例えば、pKa(H2O)が1より大きい酸触媒が挙げられる。このような弱酸触媒としては、酢酸、プロピオン酸、安息香酸等のカルボン酸;リン酸;リン酸エステル;フェノール;炭酸;ホウ酸;硫化水素等が挙げられる。
【0056】
上記水性第1塗料組成物(A)に含まれる硬化剤(a3)の固形分量は、水性第1塗料組成物(A)の樹脂固形分100質量部に対して5質量部以上50質量部以下であるのが好ましく、10質量部以上40質量部以下であるのがより好ましい。
【0057】
アクリル樹脂エマルション(a4)
上記水性第1塗料組成物(A)は、上記成分に加えてアクリル樹脂エマルション(a4)を含むのが好ましい。アクリル樹脂エマルション(a4)は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)、および水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)を含むモノマー混合物を乳化重合して得ることができる。以下に例示される化合物(i)、(ii)および(iii)は、それぞれ1種のみを用いてもよく、または2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0058】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)は、アクリル樹脂エマルションの主骨格を構成する。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。本明細書中において、例えば、「(メタ)アクリル酸メチル」とは、アクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルを表す。
【0059】
酸基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)は、得られるアクリル樹脂エマルションの貯蔵安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性などの諸性能を向上させる。さらに、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)は、塗膜形成時におけるメラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応を促進する。酸基は、カルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸基などから選ばれることが好ましい。特に好ましい酸基は、上記諸安定性向上や硬化反応促進機能の観点から、カルボキシル基である。酸基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)の内、カルボキシル基含有モノマーは50質量%以上含まれるのが好ましく、80質量%以上含まれるのがより好ましい。
【0060】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびフマル酸などが挙げられる。スルホン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、p-ビニルベンゼンスルホン酸、p-アクリルアミドプロパンスルホン酸、t-ブチルアクリルアミドスルホン酸などが挙げられる。リン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸モノエステル、2-ヒドロキシプロピルメタクリレートのリン酸モノエステルのライトエステルPM(共栄社化学社製)などが挙げられる。
【0061】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)は、水酸基に基づく親水性をアクリル樹脂エマルションに付与する。水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)は、さらに、これを塗料として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性を向上させると共に、メラミン樹脂またはイソシアネート系硬化剤などとの硬化反応性をアクリル樹脂エマルションに付与する。
【0062】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N-メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、ε-カプロラクトン変性アクリルモノマーなどが挙げられる。
【0063】
ε-カプロラクトン変性アクリルモノマーの具体例としては、ダイセル化学工業社製のプラクセルFA-1、プラクセルFA-2、プラクセルFA-3、プラクセルFA-4、プラクセルFA-5、プラクセルFM-1、プラクセルFM-2、プラクセルFM-3、プラクセルFM-4およびプラクセルFM-5などが挙げられる。
【0064】
上記アクリル樹脂エマルションの調製に用いられるモノマー混合物は、上記モノマー(i)、(ii)および(iii)以外に、任意成分として、スチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリルおよび(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含んでもよい。スチレン系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0065】
上記モノマー混合物は、カルボニル基含有エチレン性不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー、種々の多官能ビニルモノマーなどの架橋性モノマーを含んでよい。これらの架橋性モノマーが含まれる場合、得られるアクリル樹脂エマルションは自己架橋性を有する。
【0066】
カルボニル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ホルミルスチロール、4個以上7個以下の炭素原子を有するアルキルビニルケトン(例えばメチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン)などのケト基を含有するモノマーが挙げられる。これらのうちジアセトン(メタ)アクリルアミドが好適である。
【0067】
加水分解重合性シリル基含有モノマーとしては、例えば、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基を含有するモノマーが挙げられる。
【0068】
多官能ビニル系モノマーは、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物である。多官能ビニル系モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレートなどのジビニル化合物;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0069】
上記アクリル樹脂エマルションは、上記(i)、(ii)および(iii)を含むモノマー混合物を乳化重合することによって調製することができる。乳化重合(乳化共重合)は、上記モノマー混合物を水溶性液中で、ラジカル重合開始剤および乳化剤と共に、攪拌しながら加熱することによって実施することができる。反応温度は、例えば30℃以上100℃以下が好ましい。反応時間は、例えば1時間以上10時間以下が好ましい。水と乳化剤を仕込んだ反応容器に、モノマー混合物またはモノマープレ乳化液を一括添加するか、あるいは暫時滴下することによって、反応温度の調節を行うことができる。
【0070】
ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤を使用することができる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、または4,4’-アゾビス-4-シアノ吉草酸などのアゾ系化合物が、水溶液の形態で使用される。あるいは、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤が、水溶液の形態で使用される。中でも、レドックス系開始剤が好ましい。
【0071】
乳化剤としては、炭化水素基と親水性部分とを同一分子中に有する、両親媒性化合物から選ばれる。アニオン系またはノニオン系の乳化剤が好ましい。炭化水素基の炭素数は、例えば、6以上である。親水性部分としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩または硫酸塩部分エステルなどが挙げられる。
このうちアニオン系の乳化剤としては、アルキルフェノール類または高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩;アルキルまたはアリルスルホナートのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩などが挙げられる。またノニオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアリルエーテルなどが挙げられる。これら公知のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系などの基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤なども適宜、単独または2種以上を組み合わせて使用される。
【0072】
乳化重合の際、分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)が、必要に応じて用いられる。これらの助剤(連鎖移動剤)を用いることは、乳化重合を進める観点から、また塗膜の円滑かつ均一な形成を促進し被塗物への接着性を向上させる観点から、好ましい場合が多い。助剤としては、例えば、メルカプタン系化合物、低級アルコールまたはα-メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
【0073】
乳化重合の方法は特に限定されない。重合法としては、例えば、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法や、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法などを利用することができる。通常の一段連続モノマー均一滴下法によれば、単層型アクリル樹脂エマルションを得ることができる。コア・シェル重合法によれば、コア・シェル型アクリル樹脂エマルションを得ることができる。
【0074】
このようにして本発明で用いられるアクリル樹脂エマルションが調製される。アクリル樹脂エマルションを構成するアクリル樹脂の重量平均分子量は、特に限定されない。アクリル樹脂の重量平均分子量は、一般的に50,000以上1,000,000以下程度であるのが好ましく、100,000以上800,000以下程度であるのがより好ましい。上記アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-20℃以上60℃以下であるのが好ましく、-10℃以上50℃以下であるのがより好ましく、0℃以上40℃以下であるのがさらに好ましい。上記アクリル樹脂エマルションのTgは、構成するモノマーまたはホモポリマーの既知のTgおよび組成比に基づいて算出することができる。
【0075】
上記アクリル樹脂の固形分酸価は、2mgKOH/g以上60mgKOH/g以下であるのが好ましく、5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であるのがより好ましい。アクリル樹脂の固形分酸価は、上記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂の固形分酸価が上記範囲となるように選択することによって調整することができる。
【0076】
上記アクリル樹脂の固形分水酸基価は、10mgKOH/g以上120mgKOH/g以下であるのが好ましく、20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であるのがより好ましい。上記アクリル樹脂の固形分酸価および固形分水酸基価は、使用したモノマー混合物の固形分酸価および固形分水酸基価に基づいて算出することができる。
【0077】
こうして得られたアクリル樹脂エマルションに塩基性化合物を添加して、カルボン酸の一部または全量を中和してもよい。これにより、アクリル樹脂エマルションの分散安定性がさらに向上する。塩基性化合物としては、アンモニア類、各種アミン類、アルカリ金属などが挙げられる。
【0078】
上記水性第1塗料組成物(A)中に含まれるアクリル樹脂エマルション(a4)の固形分量は、水性第1塗料組成物(A)の樹脂固形分100質量部に対して10質量部以上45質量部以下の範囲内であるのが好ましく、15質量部以上40質量部以下の範囲内であるのがより好ましい。
【0079】
水分散性ポリエステル樹脂
上記水性第1塗料組成物(A)は、上記成分に加えて水分散性ポリエステル樹脂を含むのが好ましい。水分散性ポリエステル樹脂は、第1塗膜形成樹脂の1種である。水分散性ポリエステル樹脂は、例えば、多価アルコール成分と多塩基酸成分とを縮合させることによって、調製することができる。上記縮合において、必要に応じて、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、桐油、サフラワー油、大豆油、アマニ油、トール油、ヤシ油など、およびそれらの脂肪酸のうち1種、または2種以上の混合物である油成分を用いてもよい。さらに、上記ポリエステル樹脂に、必要に応じてアクリル樹脂またはビニル樹脂をグラフト化させてもよい。
【0080】
上記多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチルペンタンジオール、水素化ビスフェノールA等のジオール類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の三価以上のポリオール成分;2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロールペンタン酸、2,2-ジメチロールヘキサン酸、2,2-ジメチロールオクタン酸等のヒドロキシカルボン酸成分を挙げることができる。
【0081】
上記多塩基酸成分の例としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸および酸無水物;ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、1,4-および1,3-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族多価カルボン酸および無水物;無水マレイン酸、フマル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸等の脂肪族多価カルボン酸および無水物等の多塩基酸成分およびそれらの無水物等を挙げることができる。必要に応じて、安息香酸やt-ブチル安息香酸などの一塩基酸を併用してもよい。
【0082】
ポリエステル樹脂を調製する際には、他の反応成分として、さらに、1価アルコール、カージュラE(商品名:シエル化学製)などのモノエポキサイド化合物、およびラクトン類を併用してもよい。ラクトン類としては、β-プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン、ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-カプリロラクトン、クロトラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトンなどが挙げられる。特にラクトン類は、多価カルボン酸および多価アルコールのポリエステル鎖へ開環付加して、それ自身がポリエステル鎖を形成することができる。ラクトン類は、さらに、水性第1塗料組成物(A)の耐チッピング性を向上するのに役立つ。これら他の反応成分は、全反応成分の合計質量の3質量%以上30質量%以下、好ましくは5質量%以上20質量%以下、特に7質量%以上15質量%以下で含有されてよい。
【0083】
上記水分散性ポリエステル樹脂は、その酸価を調整し、カルボキシル基を塩基性物質で中和することで容易に水性化可能である。塩基性物質としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。このうち、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが好適である。また、上記中和の際のカルボキシル基の中和率は特に限定されない。カルボキシル基の中和率は、例えば、50モル%以上が好ましく、80モル%以上120モル%以下がより好ましい。
【0084】
上記水分散性ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、800以上10000以下が好ましく、1000以上8000以下がより好ましい。また、上記水分散性ポリエステル樹脂の固形分水酸基価は、10mgKOH/g以上170mgKOH/g以下が好ましく、15mgKOH/g以上150mgKOH/g以下がより好ましい。上記水分散性ポリエステル樹脂の固形分酸価は、15mgKOH/g以上100mgKOH/g以下が好ましい。
【0085】
上記水分散性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-40℃以上50℃以下が好ましい。ガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)等によって実測することができる。
【0086】
水分散性ポリエステル樹脂の量は、水性第1塗料組成物(A)の樹脂固形分100質量部に対して10質量部以上60質量部以下が好ましく、15質量部以上50質量部以下がより好ましい。
【0087】
水性第1塗料組成物(A)の調製
水性第1塗料組成物(A)は、上記成分に加えて、例えば、追加の樹脂成分、顔料分散ペースト、その他の添加剤などを含んでもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、凍結防止剤、艶消し剤、防藻剤、消泡剤、造膜助剤、防腐剤、防かび剤、反応触媒などが挙げられる。
【0088】
上記追加の樹脂成分の一例として、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオールなどの、水酸基を有する樹脂などが挙げられる。このような追加の樹脂成分は、水性第1塗料組成物(A)の機能(耐水性、耐チッピング性など)などを損なわない範囲において、任意の量で用いることができる。
【0089】
顔料分散ペーストは、顔料と顔料分散剤とを少量の水性媒体に予め分散することにより得られる。顔料分散剤は、顔料親和部分および親水性部分を含む構造を有する樹脂である。顔料親和部分および親水性部分としては、例えば、ノニオン性、カチオン性およびアニオン性の官能基を挙げることができる。顔料分散剤は、1分子中に上記官能基を2種類以上有していてもよい。
【0090】
ノニオン性官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、ポリオキシアルキレン基などが挙げられる。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基などが挙げられる。また、アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。このような顔料分散剤は、当業者にとってよく知られた方法によって製造することができる。
【0091】
顔料分散剤としては、少量で効率的に顔料を分散することができるものが好ましい。顔料分散剤としては、例えば、市販されているもの(以下、いずれも商品名)を使用することができる。具体的には、アニオン・ノニオン系分散剤であるDisperbyk 190、Disperbyk 181、Disperbyk 182、Disperbyk 184(いずれもビックケミー社製)、EFKAPOLYMER4550(EFKA社製)、ノニオン系分散剤であるソルスパース27000(アビシア社製)、アニオン系分散剤であるソルスパース41000、ソルスパース53095(いずれもアビシア社製)などを挙げることができる。顔料分散剤の数平均分子量は、1,000以上100,000以下であることが好ましく、2,000以上50,000以下であることがより好ましく、4,000以上50,000以下であることがさらに好ましい。
【0092】
上記顔料分散ペーストは、顔料分散剤と顔料とを公知の方法に従って混合、分散することにより得ることができる。顔料分散ペースト製造時の顔料分散剤の割合は、顔料分散ペーストの固形分に対して、1質量%以上20質量%以下が好ましい。顔料分散剤の上記割合は、好ましくは、5質量%以上15質量%以下である。
【0093】
顔料としては、通常の水性塗料に使用される顔料であれば特に限定されない。中でも、耐候性が向上し、かつ隠蔽性が確保され易い点から、着色顔料であることが好ましい。特に二酸化チタンは着色隠蔽性に優れ、しかも安価であることから、より好ましい。
【0094】
二酸化チタン以外の顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、金属錯体顔料などの有機系着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックなどの無機着色顔料などが挙げられる。これら顔料に、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどの体質顔料を併用してもよい。
【0095】
水性第1塗料組成物(A)中に含まれる全ての樹脂の固形分および顔料の合計質量に対する顔料の質量の比(PWC;pigment weight content)は、10質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0096】
その他の添加剤としては、上記成分の他に通常添加される添加剤、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ピンホール防止剤などが挙げられる。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0097】
水性第1塗料組成物は、上述の成分および必要に応じて他の成分などを混合することによって調製することができる。これら成分を加える順番は特に限定されない。水性第1塗料組成物は、水性である限り、その形態は特に限定されない。水性第1塗料組成物の形態としては、例えば、水溶性、水分散型、エマルションなどが挙げられる。
【0098】
水性第2塗料組成物(B)
上記複層塗膜形成方法において、水性第2塗膜の形成には水性第2塗料組成物(B)が用いられる。この水性第2塗料組成物(B)は、希釈成分である水および有機溶剤と、固形分である第2塗膜形成樹脂、硬化剤、有機系や無機系の各種着色顔料、体質顔料および必要により光輝性顔料等とを含有することができる。
【0099】
水性第2塗料組成物(B)は、塗装粘度に希釈した状態で、水に対する溶解度が0.1%以上7%以下である有機溶剤(以下、第1有機溶剤と称す場合がある。)を、0.5質量%以上5質量%以下含有する。水性第2塗料組成物(B)は、塗装粘度に希釈した状態で、さらに、水に溶解しない有機溶剤(以下、第2有機溶剤と称す場合がある。)を、0.05質量%以上2.5質量%以下含有する。上記範囲外では、ワキ(hopping)限界が低下し、形成した塗膜のフリップフロップ性が低下する。第1有機溶剤の含有量は、0.8質量%以上4質量%以下であることが好ましく、1質量%以上3.5質量%以下であることがより好ましい。第2有機溶剤の含有量は、0.1質量%以上2質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上1.8質量%以下であることがより好ましい。中でも、第1有機溶剤を0.8質量%以上4質量%以下含有し、第2有機溶剤を0.1質量%以上2質量%以下含有することが好ましい。第1有機溶剤を1質量%以上3.5質量%以下含有し、第2有機溶剤を0.5質量%以上1.8質量%以下含有することがより好ましい。水に対する溶解度は、20℃の条件下で水に対して有機溶剤を混合した場合に、均一に混ざる有機溶剤の質量をパーセント表示したものである。ワキ限界が低下するとは、膨れや微小な穴等が発生しない塗膜の最大の膜厚が小さくなることをいう。
【0100】
第1有機溶剤としては、ブタノール(沸点118℃、溶解度6.4)、酢酸イソブチル(沸点118℃、溶解度0.7%)、酢酸ブチル(沸点126℃、溶解度2.3%)、酢酸イソアミル(沸点143℃、溶解度1.2%)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(通称「ヘキシルセロソルブ」、沸点208℃、溶解度0.99%)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点259℃、溶解度1.70%)、エチレングリコール2エチルヘキシルエーテル(沸点229℃、溶解度0.20%)、ジエチレングリコール2エチルヘキシルエーテル(沸点272℃、溶解度0.30%)、エチレングリコールブチルプロピレン(沸点170℃、溶解度6.40%)、ジエチレングリコールブチルプロピレン(沸点212℃、溶解度4.80%)、プロピレングリコールブチルエーテル(沸点170℃、溶解度6%)、ジプロピレングリコールブチルエーテル(沸点229℃、溶解度5%)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(通称「ブチセルアセテート」、沸点191℃、溶解度1.1%)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(通称「酢酸ブチルカルビトール」、沸点246℃、溶解度6.5%)、メチルメトキシブチルアセテート(通称「ソルフィットアセテート」、沸点188℃、溶解度6.8%)、エチルエトキシプロピオネート(通称「EEP」、沸点169℃、溶解度1.6%)、ニトロプロパン(沸点122-199℃、溶解度1.7%)、メチルイソブチルケトン(沸点115℃、溶解度2.0%)、メチルアミルケトン(通称「MAK」、沸点153℃、溶解度0.46%)、オキソヘキシルアセテート(通称「OHA」、沸点170℃、溶解度0.27)等が挙げられる。カッコ内に記載された溶解度は、水に対する溶解度を示す(以下、同じ。)。
【0101】
第1有機溶剤の沸点は、160℃以上280℃以下が好ましい。第1有機溶剤の水に対する溶解度は、0.3%以上3%以下が好ましい。好ましい第1有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(通称「ヘキシルセロソルブ」、沸点208℃、溶解度0.99%)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点259℃、溶解度1.70%)、エチレングリコール2エチルヘキシルエーテル(沸点229℃、溶解度0.20%)、ジエチレングリコール2エチルヘキシルエーテル(沸点272℃、溶解度0.30%)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(通称「ブチセルアセテート」、沸点191℃、溶解度1.1%)、エチルエトキシプロピオネート(通称「EEP」、沸点169℃、溶解度1.6%)、ニトロプロパン(沸点122-199℃、溶解度1.7%)等が挙げられる。
【0102】
第2有機溶剤としては、n-ヘキサン(沸点67℃)、ヘプタン(沸点98℃)、シクロヘキサン(沸点81℃)、ミネラルスピリット(沸点140-180℃)、スワゾール310(エクソン社製、沸点153-177℃、商品名)、シェルゾール70(昭和シェル社製、沸点143-164℃、商品名)、シェルゾール71(昭和シェル社製、沸点165-192℃、商品名)、シェルゾールD40(昭和シェル社製、沸点151-188℃、商品名)、シェルゾールA(昭和シェル社製、沸点160-182℃、商品名)、トルエン(沸点110℃)、キシレン(沸点144℃)、S-100(エッソ社製有機溶剤、沸点158-177℃、商品名)、S-150(エッソ社製有機溶剤、沸点185-211℃、商品名)等の炭化水素系有機溶剤等が挙げられる。本発明において水に溶解しないということは、20℃の条件下で、水に有機溶剤を混合した場合に、均一に混ざる有機溶剤の質量が0.1%未満であるということを意味する。
【0103】
第2有機溶剤は、沸点145℃以上200℃以下の炭化水素系有機溶剤が好ましい。このような第2有機溶剤としては、例えば、スワゾール310(エクソン者社製、沸点153-177℃、商品名)、シェルゾール70(昭和シェル社製、沸点143-164℃、商品名)、シェルゾール71(昭和シェル社製、沸点165-192℃、商品名)、シェルゾールD40(昭和シェル社製、沸点151-188℃、商品名)、シェルゾールA(昭和シェル社製、沸点160-182℃、商品名)、S-100(エッソ社製有機溶剤、沸点158-177℃、商品名)、S-150(エッソ社製有機溶剤、沸点185-211℃、商品名)等が挙げられる。
【0104】
第1有機溶剤と第2有機溶剤との混合比(=第1/第2有機溶剤)は、1/2以上8/1以下が好ましい。希釈媒体中の有機溶剤量を上記範囲に調整することで、ワキの発生が抑制され、フリップフロップ性と外観とに優れる塗膜が得られ易くなる。混合比(=第1/第2有機溶剤)は、1/1以上4/1以下がより好ましい。
【0105】
水性第2塗料組成物(B)は、希釈媒体として、第1有機溶剤および第2有機溶剤と共に、他の有機溶剤を含んでもよい。他の有機溶剤は特に限定されない。他の有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル(沸点77℃、溶解度7.9%)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(通称「メチセロ」、沸点145℃、溶解度∞)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(通称「セロアセ」、沸点156℃、溶解度22.9%)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(通称「PMAC」、沸点144℃、溶解度20.5%)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(通称「酢酸カルビトール」、沸点217℃、溶解度∞)等のエステル系有機溶剤が挙げられる。
【0106】
他の有機溶剤として、エーテル系有機溶剤を用いてもよい。エーテル系有機溶剤として、プロピレングリコールメチルエーテル(通称「メトキシプロパノール」、沸点119℃、溶解度∞)、プロピレングリコールエチルエーテル(通称「エトキシプロパノール」、沸点130℃、溶解度∞)、エチレングリコールモノエチルエーテル(通称「エチセロ」、沸点136℃、溶解度∞)、メチルメトキシブタノール(通称「ソルフィット」、沸点174℃、溶解度∞)、エチレングリコールモノブチルエーテル(通称「ブチセロ」、沸点171℃、溶解度∞)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(通称「エチルカルビトール」、沸点196℃、溶解度∞)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(通称「ブチルカルビトール」、「BDG(日本乳化剤社製、商品名)」、沸点230℃、溶解度∞)等が挙げられる。
【0107】
他の有機溶剤として、アルコール系有機溶剤を用いてもよい。アルコール系有機溶剤としては、例えば、メタノール(沸点65℃、溶解度∞)、エタノール(沸点78℃、溶解度∞)、プロパノール(沸点97℃、溶解度∞)等が挙げられる。他の有機溶剤として、ケトン系有機溶剤を用いてもよい。ケトン系有機溶剤としては、例えば、アセトン(沸点56℃、溶解度∞)、メチルエチルケトン(沸点80℃、溶解度22.6%)等が挙げられる。
【0108】
上記水性第2塗料組成物(B)に含有される有機溶剤の総量は、0.1質量%以上15質量%以下程度である。上記水性第2塗料組成物(B)の揮発分の総質量は、50質量%以上85質量%以下である。好ましくは、有機溶剤の総量は0.1質量%以上13質量%以下である。好ましくは、揮発分の総質量は55質量%以上80質量%以下である。
【0109】
第2塗膜形成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、およびこれらの樹脂成分に対して反応性を有する硬化剤等を好ましいものとして挙げることができる。上記水性第2塗料組成物(B)は、中でも、水分散性アクリル樹脂および硬化剤を含むことが好ましい。水分散性アクリル樹脂は、重合性不飽和モノマーの混合物を溶液重合することにより得ることができる。上記重合性不飽和モノマーとしては、上記アクリル樹脂エマルションの調製において述べた、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)、および水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)を用いることができる。上記重合によって調製されるアクリル樹脂は、例えば、塩基性化合物で中和して、水溶液の形態で用いてもよい。塩基性化合物としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンおよびジメチルエタノールアミンのような有機アミンが挙げられる。
【0110】
第2塗膜形成樹脂として、水性第1塗料組成物(A)において好適に用いることができるアクリル樹脂エマルションおよび硬化剤を用いてもよい。
【0111】
硬化剤としては、アミノ樹脂(例えばメラミン樹脂)、ブロックイソシアネート樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等が好ましいものとして挙げられる。得られた塗膜の諸性能、コストの点からメラミン樹脂および/またはブロックイソシアネート樹脂が好ましく、メラミン樹脂がさらに好ましい。このような硬化剤として、上記水性第1塗料組成物(A)で用いることができる硬化剤を好適に用いることができる。
【0112】
硬化剤の量は、水性第2塗料組成物(B)の樹脂固形分100質量部に対して15質量部以上50質量部以下が好ましい。
【0113】
着色顔料としては、例えばアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料および金属錯体顔料等の有機系顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックおよび二酸化チタン等の無機系顔料があげられる。体質顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等が用いられる。必要に応じて、さらに光輝性顔料を用いてもよい。
【0114】
上記光輝性顔料の形状は特に限定されない。光輝性顔料は、さらに着色されていてもよい。光輝性顔料の平均粒径(D50)は、例えば2μm以上50μm以下が好ましい。フレーク状の光輝性顔料の厚さは、0.1μm以上5μm以下が好ましい。中でも、平均粒径が10μm以上35μm以下の範囲の光輝性顔料は光輝感に優れるため、さらに好適に用いられる。
【0115】
上記光輝性顔料としては、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム等の金属または合金等の無着色あるいは着色された金属製光輝剤およびその混合物が挙げられる。さらに、干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料、その他の着色あるいは有色偏平顔料等を併用してもよい。
【0116】
水性第2塗料組成物(B)中に含まれる全ての樹脂の固形分および上記光輝性顔料およびその他の全ての顔料の合計質量に対する顔料の質量の比(PWC)は、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.5質量%以上40質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。
【0117】
上記水性第2塗料組成物(B)には、クリヤー塗膜との混合を防止するとともに、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤を添加することができる。粘性制御剤としては、一般にチクソトロピー性を示すものを使用できる。粘性制御剤としては、例えば、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドの燐酸塩等のポリアマイド系粘性制御剤;酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体等のポリエチレン系粘性制御剤;有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイト等の有機ベントナイト系粘性制御剤;ケイ酸アルミ、硫酸バリウム等の無機顔料;顔料の形状により粘性が発現する偏平顔料;架橋あるいは非架橋の樹脂粒子等を挙げることができる。
【0118】
水性第2塗料組成物(B)には、上記成分の他に、塗料に通常添加される添加剤、例えば、表面調整剤、酸化防止剤、消泡剤等を配合してもよい。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0119】
本発明に用いられる塗料組成物の製造方法は特に限定されず、当業者において通常用いられる方法により調製することができる。
【0120】
クリヤー塗膜
上記クリヤー塗膜の形成にはクリヤー塗料組成物が用いられる。クリヤー塗料組成物は特に限定されない。クリヤー塗料組成物は、塗膜形成性熱硬化性樹脂および硬化剤等を含有してもよく、塗膜形成性熱可塑性樹脂を含有してもよい。クリヤー塗料組成物の形態としては、例えば、溶剤型、水性型および粉体型が挙げられる。
【0121】
上記溶剤型クリヤー塗料組成物の好ましい例としては、透明性あるいは耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組合わせ、あるいはカルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0122】
上記クリヤー塗料組成物は、ウレタンクリヤー塗料組成物であってもよい。ウレタンクリヤー塗料組成物は、例えば、水酸基含有樹脂とイソシアネート化合物硬化剤とを含む。上記イソシアネート化合物硬化剤は特に限定されない。イソシアネート化合物硬化剤としては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,2-シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂肪族環式イソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチルなどの脂環族イソシアネート、これらのビュレット体およびヌレート体などの多量体、あるいはこれらの混合物などを挙げることができる。
【0123】
上記水性型クリヤー塗料組成物は、例えば、上記溶剤型クリヤー塗料組成物に含有される塗膜形成樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有することができる。この中和は重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0124】
粉体型クリヤー塗料組成物としては、熱可塑性および熱硬化性粉体塗料のような通常の粉体塗料を用い得る。良好な物性の塗膜が得られる点で、熱硬化性粉体塗料が好ましい。熱硬化性粉体塗料の具体的なものとしては、エポキシ系、アクリル系およびポリエステル系の粉体塗料を含むクリヤー塗料組成物等が挙げられる。中でも、耐候性が良好な点で、アクリル系粉体塗料を含むクリヤー塗料組成物が好ましい。
【0125】
特に、硬化時の揮散物が無く、良好な外観が得られ、そして黄変が少ないことから、エポキシ含有アクリル樹脂/多価カルボン酸の系の粉体塗料を含む粉体型クリヤー塗料組成物が好ましい。
【0126】
上記クリヤー塗料組成物には、上述の塗料組成物と同様に、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤が添加されていることが好ましい。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを使用できる。このようなものとして、例えば、上述の塗料組成物についての記載で挙げたものを使用することができる。クリヤー塗料組成物は、必要により、硬化触媒、表面調整剤等を含むことができる。
【0127】
被塗物
上記複層塗膜形成方法で用いる被塗物は、特に限定されず、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛およびこれらの金属を含む合金、並びに、これらの金属によるメッキまたは蒸着品などを挙げることができる。被塗物は、表面に硬化電着塗膜が形成されていてもよい。硬化電着塗膜は、被塗物に電着塗料を電着塗装し、加熱硬化することによって形成される。被塗物は、電着塗装が行われる前に、リン酸化成処理剤、ジルコニウム化成処理剤などの化成処理剤を用いる化成処理が施されていてもよい。
【0128】
電着塗料は、特に限定されるものではない。電着塗料としては、公知のカチオン電着塗料またはアニオン電着塗料を使用することができる。電着塗装方法および電着塗装された塗膜の加熱硬化は、例えば自動車車体および部品などを電着塗装するのに通常用いられる方法および条件で行うことができる。
【0129】
複層塗膜形成方法
上記複層塗膜形成方法は、
被塗物表面に対して、水性第1塗料組成物(A)を塗装して未硬化の水性第1塗膜を形成する、水性第1塗料組成物塗装工程、
前記未硬化の水性第1塗膜上に、水性第2塗料組成物(B)を塗装して未硬化の水性第2塗膜を形成する、水性ベース塗装工程、
前記未硬化の水性第2塗膜上に、クリヤー塗料組成物(C)を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する、クリヤー塗装工程、および、
前記工程で得られた未硬化の水性第1塗膜、未硬化の水性第2塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を、一度に加熱硬化して、複層塗膜を形成する、硬化工程、
を包含する。
そして上記方法において、
上記水性第1塗料組成物(A)は、水分散性ポリウレタン樹脂(a1)および粘性調整剤(a2)を含み、
上記水性第2塗料組成物(B)が、塗装粘度に希釈した状態で、固形分以外の希釈成分として、水と有機溶剤を含み、前記有機溶剤の一部として水に対する溶解度が0.1~7%である有機溶剤を塗料全量に対し0.4~5.0質量%で含有し、かつ水に溶解しない有機溶剤を塗料全量に対し0.05~2.5質量%の量で含有し、
上記水性第2塗料組成物(B)が前記未硬化の水性第1塗膜上に塗着する際の液滴質量MB、衝突速度VB、せん断速度10000sec-1の条件下で測定した未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度ηAが、下記式
MBVB/ηA<3.0×10-7
を満たす。これにより、良好な外観を有する複層塗膜を得ることができる。
【0130】
上記の通り、水性第2塗料組成物(B)が上記未硬化の水性第1塗膜上に塗着する際の液滴質量MB、衝突速度VB、せん断速度10000sec-1の条件下で測定した未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度ηAが、下記式
MBVB/ηA<3.0×10-7
を満たすことを条件とする。
本発明者らは、未硬化の水性第1塗膜上に水性第2塗料組成物(B)を塗装する、いわゆるウェットオンウェット塗装において、上記式を満たすように調整することによって、得られる複層塗膜の外観が良好となることを実験により見出した。
【0131】
上記式中、液滴質量MBおよび衝突速度VBの積「MB・VB」は、水性第2塗料組成物(B)が上記未硬化の水性第1塗膜上に塗着する時点における、水性第2塗料組成物(B)の液滴の運動量の大きさに相当する。
詳しくは、液滴質量MB(kg)である塗料粒子が、衝突速度VB(m/s)で未硬化の水性第1塗膜上に塗着する場合において、運動量である「塗料粒子の質量×衝突速度」は、「塗料粒子の体積(m3)×密度(kg/m3)×衝突速度VB(m/s)」となる。塗料粒子の質量は、「体積(m3)×密度(kg/m3)」によって算出されるためである。なお、液滴粒子径mB(m)である塗料粒子の体積(m3)は、「(4/3)×π×(粒子径mB/2)3」によって算出される。
水性第2塗料組成物(B)が未硬化の水性第1塗膜上に塗着する時点において、水性第2塗料組成物(B)の液滴が塗着する瞬間の質量自体を測定することは困難である。一方、その液滴の大きさ(直径)を測定することは可能である。そのため、上記運動量を算出する際、本発明では「塗料粒子の体積(m3)×密度(kg/m3)×衝突速度VB(m/s)」を用いる。
上記運動量を、せん断速度10000sec-1の条件下で測定した未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度ηA(Pa・s)で除した数値(kg・m)/(s・Pa・s)が、上記式
MBVB/ηA<3.0×10-7
を満たす場合、水性第2塗料組成物(B)の液滴の運動量が、未硬化の水性第1塗膜によって制御されることが実験により見出された。水性第2塗料組成物(B)の液滴の運動量を制御することにより、得られる複層塗膜の外観が良好となる。
【0132】
上記未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度ηAは、粘度ηA1であるのが好ましい。粘度ηA1は、水性第1塗料組成物(A)を乾燥膜厚が20μmとなる塗装条件で塗装した後3分の時点において、温度23℃およびせん断速度10000sec-1の条件下で測定される。上記粘度測定条件における「せん断速度10000sec-1」は、高せん断条件ということができる。高せん断条件で測定する未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度ηAは、特に、水性第2塗料組成物(B)の液滴が塗着する時の水性第1塗膜の表面状態に影響を与える。つまり、未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度ηAは、得られる複層塗膜の外観に大きく関与する。
【0133】
上記未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度ηAに関して、
乾燥膜厚が20μmとなる塗装条件で塗装した後3分の時点において、温度23℃およびせん断速度10000sec-1の条件下で測定した粘度ηA1、
乾燥膜厚が20μmとなる塗装条件で塗装した後5分の時点において、温度23℃およびせん断速度10000sec-1の条件下で測定した粘度ηA2、および
乾燥膜厚が20μmとなる塗装条件で塗装した後7分の時点において、温度23℃およびせん断速度10000sec-1の条件下で測定した粘度ηA3は、
いずれも、
MBVB/ηA1<3.0×10-7
MBVB/ηA2<3.0×10-7
MBVB/ηA3<3.0×10-7
を満たすのがより好ましい。上記ηA1、ηA2およびηA3全てが上記範囲を満たす場合は、より良好な塗膜外観を確保することができる利点がある。
【0134】
本発明は、未硬化の水性第1塗膜の上に水性第2塗料組成物(B)を塗装した場合に生じうる混相に着目した発明ではない。本発明は、上述の通り、水性第2塗料組成物(B)の液滴が到達する時の未硬化の水性第1塗膜の表面状態が、複層塗膜の外観に与える影響に着目した発明である。
【0135】
上記式では、水性第2塗料組成物(B)の液滴の運動量を用いている。ただし、水性第2塗料組成物(B)の液滴の運動エネルギーも、得られる複層塗膜の外観に影響を与えることが判明している。
【0136】
(1)水性第1塗料組成物塗装工程
上記複層塗膜形成方法においては、まず、被塗物表面に水性第1塗料組成物(A)を塗布して、未硬化の水性第1塗膜を形成する。水性第1塗料組成物(A)は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと言われる回転霧化式の静電塗装機などを用いて塗布することができる。
【0137】
「水性第1塗料組成物(A)または水性第2塗料組成物(B)を塗装粘度に希釈した状態」とは、各塗料組成物が塗装粘度に調整された状態を示す。塗装粘度は、上述した静電塗装機の霧化方式、あるいは温度、湿度等の塗装環境等の要因を踏まえて、経験的に求められる。希釈は、希釈媒体である水あるいは有機溶剤を用いて行われる。一般に、温度が15℃以上40℃以下、湿度が10%以上98%以下の環境下で塗装される場合、塗装粘度は20秒以上90秒以下(/20℃・No.4フォードカップ)であることが好ましい。塗装粘度がこの範囲であると、タレ、気泡あるいはピンホール等が発生し難く、良好な外観が得られ易い。塗装粘度は、25秒以上80秒以下(/20℃・No.4フォードカップ)であることがより好ましい。
【0138】
水性第1塗料組成物(A)の塗布量は、水性第1塗膜の乾燥膜厚が5μm以上40μm以下、好ましくは10μm以上30μm以下になるように、調節するのが好ましい。
【0139】
上記複層塗膜形成方法においては、未硬化の水性第1塗膜を加熱硬化させることなく、次の水性第2塗料組成物(B)を塗布して、未硬化の水性第2塗膜を形成することができる。上記複層塗膜形成方法においては、未硬化の水性第1塗膜を形成した後、水性第2塗料を塗布するまでの間に、プレヒートを行わずにウェットオンウェット塗装することができるという利点がある。
【0140】
従来のウェットオンウェット塗装においては、水性第2塗料を塗布する前に、未硬化の水性第1塗膜を予備的に加熱によって乾燥させるプレヒート工程が一般に行われていた。プレヒート工程により、複層塗膜を焼き付ける工程において、未硬化の水性第1塗膜中に残存した水が突沸を起こすことが抑制される。そのため、ワキの発生も抑制される。さらに、プレヒート工程により、未硬化の水性第1塗膜と未硬化の水性第2塗膜とが混ざりあうことが抑制されて、混層が形成され難くなる。そのため、得られる複層塗膜の外観が向上する。プレヒート工程では、例えば80℃程の温度で1分以上10分以下の乾燥が行われる。
【0141】
本発明の複層塗膜形成方法においては、上記式:MBVB/ηA<3.0×10-7で示される関係を満たすことによって、上述のようなプレヒート工程を行うことなく、いわゆるウェットオンウェット塗装によって、良好な外観を有する複層塗膜を形成することができるという利点がある。そのため、塗装工程における省エネルギー化およびCO2排出量削減を図ることができる。さらに塗装設備費用の削減および塗装ラインスペースの縮小という利点もある。ここで「プレヒート工程を行うことなく」とは、例えば、水性第1塗料組成物(A)を室温(例えば10℃以上30℃以下)で塗布した後、0分から30分以内のうちに、水性第2塗料組成物(B)を塗布する態様が含まれる。
【0142】
(2)水性第2塗料組成物塗装工程
上記により得られた未硬化の水性第1塗膜の上に、水性第2塗料組成物(B)を塗布して、未硬化の水性第2塗膜を形成する。水性第2塗料組成物(B)は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと言われる回転霧化式の静電塗装機などを用いて塗布することができる。水性第2塗料組成物(B)の塗布量は、水性第2塗膜の乾燥膜厚が5μm以上30μm以下となるように、調節するのが好ましい。
【0143】
(3)クリヤー塗装工程
次いで、得られた未硬化の水性第2塗膜の上に、クリヤー塗料組成物(C)を塗布して未硬化のクリヤー塗膜を形成する。クリヤー塗料組成物(C)は、その形態に応じた塗装方法を用いて塗布することができる。クリヤー塗料組成物(C)の塗布量は、通常、クリヤー塗膜の硬化後の膜厚が10μm以上70μm以下となるように、調節される。クリヤー塗膜の硬化後の膜厚が上記範囲内であると、複層塗膜のつや感などの外観が良好になるとともに、鮮映性が向上する。さらに、塗布時のムラ、タレなどの不具合も抑制され易い。未硬化の水性第2塗膜形成後、例えば40℃以上100℃以下で2分以上10分以下、プレヒートすることが好ましい。これにより、さらに良好な外観を得ることができる。
【0144】
(4)硬化工程
次いで、得られた未硬化の水性第1塗膜、未硬化の水性第2塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を加熱硬化させる。加熱は、通常110℃以上180℃以下、好ましくは120℃以上160℃以下で行われる。加熱する時間は、上記温度に応じて適宜設定することができる。加熱時間は、例えば、温度が120℃以上160℃以下である場合、10分以上60分以下である。
【0145】
本発明の複層塗膜形成方法によって得られる複層塗膜は、平滑性が高くかつ外観が良好であるという利点がある。
【実施例】
【0146】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0147】
製造例1
製造例1-1 アクリル樹脂エマルションの製造
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器および窒素導入管などを備えた通常のアクリル系樹脂エマルション製造用の反応容器に、水445部およびニューコール293(日本乳化剤社製)5部を仕込み、これらを攪拌しながら75℃に昇温した。メタクリル酸メチル145部、スチレン50部、アクリル酸エチル220部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル70部およびメタクリル酸15部を含むモノマー混合物、水240部およびニューコール293(日本乳化剤社製)30部の混合物を、ホモジナイザーを用いて乳化して、モノマープレ乳化液を得た。上記反応容器内を攪拌しながら、モノマープレ乳化液を3時間にわたって滴下した。モノマープレ乳化液の滴下と併行して、重合開始剤としてAPS(過硫酸アンモニウム)1部を水50部に溶解した水溶液を、上記反応容器中に上記モノマープレ乳化液の滴下終了時まで均等に滴下した。モノマープレ乳化液の滴下終了後、さらに80℃で1時間、反応を継続した。反応物を冷却した後、上記反応容器にジメチルアミノエタノール2部を水20部に溶解した水溶液を投入し、固形分濃度40.6質量%のアクリル樹脂エマルションを得た。
得られたアクリル樹脂エマルションの固形分について、酸価は20mgKOH/g、水酸基価は60mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)は30℃であった。固形分濃度は、JIS K 5601-1-2 加熱残分測定方法に従って測定した。
【0148】
製造例1-2 顔料分散ペーストの製造
分散剤であるDisperbyk 190(ビックケミー社製ノニオン・アニオン系分散剤)4.5部、消泡剤であるBYK-011(ビックケミー社製、消泡剤)0.5部、イオン交換水22.9部および二酸化チタン72.1部を予備混合した。その後、ペイントコンディショナー中で、予備混合物を、ガラスビーズ媒体を用いて室温で粒度が5μm以下になるまで混合、分散し、顔料分散ペーストを得た。
【0149】
製造例1-3 水分散性ポリエステル樹脂の製造
反応器にイソフタル酸25.6部、無水フタル酸22.8部、アジピン酸5.6部、トリメチロールプロパン19.3部、ネオペンチルグリコール26.7部、ε-カプロラクトン17.5部およびジブチルスズオキサイド0.1部を加え、これらを混合撹拌しながら170℃まで昇温した。その後3時間かけて反応物を220℃まで昇温しつつ、酸価8となるまで縮合反応により生成する水を除去した。次いで、反応器に無水トリメリット酸7.9部を加え、150℃で1時間反応させ、酸価が40のポリエステル樹脂を得た。さらに、ポリエステル樹脂を100℃まで冷却した後、ブチルセロソルブ11.2部を加え均一になるまで撹拌した。続いて、ポリエステル樹脂を60℃まで冷却し、その後、イオン交換水98.8部およびジメチルエタノールアミン5.9部を加えた。これにより、固形分50質量%の水分散性ポリエステル樹脂を得た。水分散性ポリエステル樹脂の固形分について、酸価は40mgKOH/g、水酸基価は110mgKOH/g、数平均分子量は2870、ガラス転移温度(Tg)は-3℃であった。上記ガラス転移温度(Tg)は、セイコーインスツル(SII)社製の示差走査熱量計(DSC220C)を用いて測定した。測定条件は、試料量10mg、上昇速度10℃/分、測定温度-20℃から100℃であった。
【0150】
調製例A
調製例A-1 水性第1塗料組成物(A-1)の調製
上記製造例1-2より得られた顔料分散ペーストを130.5部、上記製造例1-1より得られたアクリル樹脂エマルション樹脂を73.9部(樹脂固形分量で30部)、上記製造例1-3より得られた水分散性ポリエステル樹脂を60部(樹脂固形分量で30部)、水分散性ポリウレタン樹脂(日本ペイントオートモーティブコーティングス社製)を100部(樹脂固形分量で20部)および硬化剤としてサイメル327(日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂)22.2部を混合した。その後、混合物にイオン交換水40部を加えてさらに混合した。続いて、混合物に、粘性調整剤としてビスカレックスHV-30(BASF社製、ポリカルボン酸系粘性調整剤、不揮発分30%)3.3部(水性第1塗料組成物の樹脂固形分に対して1質量%に相当)を加えて、さらに混合、撹拌し、水性第1塗料組成物(A-1)を得た。
【0151】
調製例A-2 水性第1塗料組成物(A-2)の調製
水分散性ポリウレタン樹脂(日本ペイントオートモーティブコーティングス社製)を添加しなかったこと以外は、調製例A-1と同様にして、水性第1塗料組成物(A-2)を得た。
【0152】
調製例A-3 水性第1塗料組成物(A-3)の調製
粘性調整剤として、ビスカレックスHV-30を2.2部、ディスパロンAQ580(ポリアマイド系粘性調整剤、有効成分20%、楠本化成社製、商品名)を1.5部配合したこと以外は、調製例A-1と同様にして水性第1塗料組成物(A-3)を得た。
【0153】
調製例A-4 水性第1塗料組成物(A-4)の調製
粘性調整剤として、ビスカレックスHV-30を2.2部、アデカノールUH-420(ウレタン系粘性調整剤、有効成分30%、株式会社ADEKA社製、商品名)を0.5部配合したこと以外は、調製例A-1と同様にして水性第1塗料組成物(A-4)を得た。
【0154】
調製例A-5 水性第1塗料組成物(A-5)の調製
粘性調整剤として、ビスカレックスHV-30を2.2部、VISCALEX HV30(ポリカルボン酸系粘性調整剤、アクリルコポリマー水性エマルション、有効成分30%、株式会社KFケミカル株式会社製、商品名)を2部配合したこと以外は、調製例A-1と同様にして水性第1塗料組成物(A-5)を得た。
【0155】
調製例A-6 水性第1塗料組成物(A-6)の調製
粘性調整剤として、ビスカレックスHV-30を2.2部、レオクリスタ(セルロース系粘性調整剤、セルロースナノファイバーゲル、第一工業製薬社製、固形分2%)を0.29部配合したこと以外は、調製例A-1と同様にして水性第1塗料組成物(A-6)を得た。
【0156】
調製例A-7 水性塗料組成物(A-7)の調製
上記製造例1-2より得られた顔料分散ペースト130.5部、上記製造例1-1より得られたアクリル樹脂エマルション樹脂を73.9部(樹脂固形分量で30部)、上記製造例1-3より得られた水分散性ポリエステル樹脂を100部(樹脂固形分量で50部)および硬化剤としてサイメル327(日本サイテックインダストリーズ社製メラミン樹脂)22.2部を混合した。その後、混合物にイオン交換水100部を混合した。続いて、混合物に、粘性調整剤としてビスカレックスHV-30(BASF社製ポリカルボン酸系粘性調整剤、不揮発分30%)3.3部(水性塗料組成物の樹脂固形分に対して1質量%に相当)を加えて、さらに混合、撹拌し、水性塗料組成物(A-7)を得た。
【0157】
製造例2 水分散性アクリル樹脂の製造
窒素導入管、撹拌機、温度調節機、滴下ロートおよび冷却管を備えた2Lの反応容器にプロピレングリコールエチルエーテル450部を仕込んで、温度を107℃とした。次に、アクリルアミド100部をプロピレングリコールメチルエーテル200部に溶かし、これにスチレン50部、2-エチルヘキシルメタクリレート200部、n-ブチルアクリレート313部、メタクリル酸77部、プラクセルFM-1(ダイセル社製水酸基含有重合性単量体)260部およびt-ブチルパーオキシ-2-ヘキサノエート8部を混合した。このようにして、モノマー溶液を別途調製した。反応容器内を撹拌しながら、このモノマー溶液を3時間かけて滴下した。その後、30分間撹拌を継続した。さらにt-ブチルパーオキシ-2-ヘキサノエート5部とプロピレングリコールメチルエーテル50部との混合液を、反応容器内に15分間かけて滴下した。その後、1時間攪拌を継続した。このようにして、樹脂固形分が59%のアクリル樹脂を得た。アクリル樹脂の固形分について、数平均分子量は13000、水酸基価は60mgKOH/g、酸価は50mgKOH/gであった。
このアクリル樹脂500部を、樹脂固形分が75%になるまで脱溶剤した。その後、ジメチルエタノールアミン23.4部、イオン交換水925部を加えて、樹脂固形分が22%の水分散性アクリル樹脂を得た。
【0158】
調製例B
調製例B-1 水性第2塗料組成物(B-1)の調製
先の製造例2で得られた水分散性アクリル樹脂273部およびアルミニウム顔料ペースト「アルミペースト MH-8801」(旭化成社製)19部を均一に分散させた。さらに、メラミン樹脂「サイメル202」(日本サイテックインダストリーズ社製メラミン樹脂)50部を加えて均一に分散することにより、メタリックベース塗料組成物(水性第2塗料組成物)を得た。
【0159】
次いで、このメタリックベース塗料をディスパーで攪拌しながら、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(通称「ヘキシルセロソルブ」、沸点208℃、溶解度0.99%)、シェルゾール71(昭和シェル社製、沸点165-192℃、商品名)を徐々に添加した。その後、さらに、イオン交換水を希釈媒体として加えて、粘度が60秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)になるように希釈した。
【0160】
得られた希釈済み水性第2塗料組成物(B-1)の固形分は24%(揮発分76%)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル含有量は2%、シェルゾール71の含有量は1.5%であった。水性第2塗料組成物(B-1)の総有機溶剤含有量は11.0質量%であった。水性第2塗料組成物(B-1)は均一であった。
【0161】
調製例B-2 水性塗料組成物(B-2)の調製
エチレングリコールモノヘキシルエーテルおよびシェルゾール71を添加しなかったこと以外は、調製例B-1と同様にして水性塗料組成物(B-2)を調製した。
【0162】
実施例1 複層塗膜の形成
水性第1塗料組成物(A-1)および水性第2塗料組成物(B-1)を用いて、下記手順に従い複層塗膜を形成した。
【0163】
リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、パワーニクス110(日本ペイント社製カチオン電着塗料)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装した。その後、160℃で30分間の加熱硬化を行って、硬化電着塗膜を形成した。
【0164】
硬化電着塗膜上に水性第1塗料組成物(A-1)を塗布し、未硬化の水性第1塗膜を得た。塗布は、室温で、エアースプレー塗装にて乾燥膜厚が20μmとなる量で行った。その後、プレヒートオーブンに入れることなく、水性第2塗料組成物(B-1)を塗布した。塗布は、静電塗装機であるRB-100WSC(ABB社製)を用いて、エアースプレー塗装にて乾燥膜厚が10μmとなる量で行った。エアースピードおよび塗出量は、表1Aに記載の液滴粒子径となるように調節した。その後、80℃で3分間プレヒートを行った。さらに、その塗板に、クリヤー塗料組成物としてマックフロー O-1800W-2クリヤー(日本ペイント社製酸エポキシ硬化型クリヤー塗料)を、エアースプレー塗装にて35μm塗布した。続いて、140℃で30分間の加熱硬化を行い、複層塗膜を有する試験片を得た。
【0165】
上記水性第1塗料組成物、水性第2塗料組成物およびクリヤー塗料組成物は、下記条件で希釈し、塗布に用いた。
【0166】
・水性第1塗料組成物
希釈溶媒:イオン交換水
40秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0167】
・水性第2塗料組成物
希釈溶媒:イオン交換水
45秒/NO.4フォードカップ/20℃
希釈後の水性第2塗料組成物の密度を各成分量に基づき算出したところ、1040kg/m3であった。
【0168】
・クリヤー塗料組成物
希釈溶媒:EEP(エトキシエチルプロピオネート)/S-150(エクソン社製芳香族系炭化水素溶剤)=1/1(質量比)の混合溶剤
30秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0169】
実施例2 複層塗膜の形成
水性第1塗料組成物(A-2)および水性第2塗料組成物(B-1)を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。表1Aに記載の液滴粒子径となるように、エアースピードおよび塗出量を調節した。
【0170】
実施例3 複層塗膜の形成
水性第1塗料組成物(A-1)および水性第2塗料組成物(B-1)を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。表1Aに記載の液滴粒子径となるように、エアースピードおよび塗出量を調節した。
【0171】
実施例4 複層塗膜の形成
水性第1塗料組成物(A-3)および水性第2塗料組成物(B-1)を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。表1Aに記載の液滴粒子径となるように、エアースピードおよび塗出量を調節した。
【0172】
実施例5 複層塗膜の形成
水性第1塗料組成物(A-4)および水性第2塗料組成物(B-1)を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。表1Aに記載の液滴粒子径となるように、エアースピードおよび塗出量を調節した。
【0173】
実施例6 複層塗膜の形成
水性第1塗料組成物(A-5)および水性第2塗料組成物(B-1)を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。表1Aに記載の液滴粒子径となるように、エアースピードおよび塗出量を調節した。
【0174】
実施例7 複層塗膜の形成
水性第1塗料組成物(A-6)および水性第2塗料組成物(B-1)を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。表1Aに記載の液滴粒子径となるように、エアースピードおよび塗出量を調節した。
【0175】
比較例1 複層塗膜の形成
水性塗料組成物(A-7)および水性第2塗料組成物(B-1)を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。表1Bに記載の液滴粒子径となるように、エアースピードおよび塗出量を調節した。
【0176】
比較例2 複層塗膜の形成
水性塗料組成物(A-7)および水性塗料組成物(B-2)を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。表1Bに記載の液滴粒子径となるように、エアースピードおよび塗出量を調節した。
【0177】
比較例3 複層塗膜の形成
水性第1塗料組成物(A-1)および水性塗料組成物(B-2)を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を形成した。表1Bに記載の液滴粒子径となるように、エアースピードおよび塗出量を調節した。
【0178】
上記より得られた複層塗膜を有する試験片を用いて、下記評価を行った。評価結果を表1Aおよび表1Bに示す。
【0179】
塗膜平滑性評価(SW値)
得られた複層塗膜の表面について、ウエーブスキャン DOI(BYK Gardner社製)を用いて、SW(短波長、測定波長300~1,200μm)を測定することにより評価を行った。数値が小さい程、平滑性が良好である。
【0180】
ワキの評価
得られた複層塗膜の表面を、目視観察した。水性第2塗料組成物(B-1)あるいは水性塗料組成物(B-2)により形成された塗膜に、微小な穴が確認できない場合を「良好」、クリヤー塗膜を通して、水性第2塗料組成物(B-1)あるいは水性塗料組成物(B-2)により形成された塗膜に、微小な穴が確認できる場合を「不良」として評価した。
【0181】
塗装後5分の時点における、未硬化の水性第1塗膜のせん断粘度(Pa・s)の測定
硬化電着塗膜上に、水性第1塗料組成物を、室温23℃条件で、乾燥膜厚が20μmとなる量で塗布した。塗装後5分の時点において、水性第1塗膜の粘度を、アントン・パール(Anton Paar)社製粘度計(MCR-301)を用いて、せん断速度10000/sで、23℃における粘度を測定した。
【0182】
水性第2塗料組成物(B)が未硬化の水性第1塗膜に塗着する際のM
B
V
B
の算出
水性第2塗料組成物(B)のスプレー塗装時における液滴粒子径mB(μm)を、レーザー回折式粒度分布測定装置であるスプレーテック(malvern社製)を用いて、光散乱粒度分布(体積基準)により測定した。
求めた液滴粒子径mB(μm)および水性第2塗料組成物(B)の塗装時の密度(1040kg/m3)を用いて、液滴粒子の運動量MBVBおよび運動エネルギー(1/2)MBVB
2を算出した。
【0183】
【0184】
上記実施例1から実施例7は、MBVB/ηAの値が上記範囲を満たしている例である。これらの例は、優れた塗膜平滑性を有することが確認された。
上記比較例1は、MBVB/ηAの値が上記範囲を満たしていない例である。この例は、低い塗膜平滑性を有することが確認された。
上記比較例2および比較例3は、水性第2塗料組成物(B)が第1および第2有機溶剤を含まない例である。これらの例もまた、低い塗膜平滑性を有することが確認された。
【0185】
図1Aおよび
図1Bはそれぞれ、実施例1により形成した複層塗膜の水平外観表面の電子写真(観察方向1)、および、複層塗膜の第1塗膜および第2塗膜の境界部の断面の電子写真(観察方向2)である。
図2Aおよび
図2Bはそれぞれ、実施例4により形成した複層塗膜の水平外観表面の電子写真(観察方向1)、および、複層塗膜の第1塗膜および第2塗膜の境界部の断面の電子写真(観察方向2)である。
図3Aおよび
図3Bはそれぞれ、比較例1により形成した複層塗膜の水平外観表面の電子写真(観察方向1)、および、複層塗膜の第1塗膜および第2塗膜の境界部の断面の電子写真(観察方向2)である。
図4は、第1塗膜および第2塗膜の観察方向を示す概略説明図である。
上記
図1Aおよび
図1Bに示される通り、実施例1により形成した複層塗膜は、水平外観および断面共に均一であった。上記
図2Aおよび
図2Bに示される通り、実施例4により形成した複層塗膜は、水平外観および断面共に均一であった。一方で、比較例1により形成した複層塗膜は、水平外観が不均一な部分があり、さらに第1塗膜および第2塗膜の境界部の断面もまた乱れがあった。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明の方法によれば、水性第1塗膜を形成した後にプレヒートを行うことなく水性第2塗膜を形成する場合であっても、塗膜平滑性が良好である複層塗膜を形成することができる。そのため、塗装工程における省エネルギー化およびCO2排出量削減を図ることができるなどの産業上の利点がある。
【0187】
本願は、2019年5月30日付けでアメリカ合衆国にて仮出願された62/854,523、および、2019年6月10日付けで日本国にて出願された特願2019-108195に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。