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特許7057867LDH様化合物セパレータ及び亜鉛二次電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】LDH様化合物セパレータ及び亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/434 20210101AFI20220413BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20220413BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20220413BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20220413BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20220413BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20220413BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20220413BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20220413BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20220413BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20220413BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20220413BHJP
   H01M 50/497 20210101ALI20220413BHJP
【FI】
H01M50/434
H01M8/1016
H01M10/30 Z
H01M12/08 K
H01M50/414
H01M50/417
H01M50/423
H01M50/426
H01M50/429
H01M50/451
H01M50/489
H01M50/497
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021572069
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2021031335
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2020198982
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】大河内 聡太
(72)【発明者】
【氏名】横山 昌平
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 直子
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/124213(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/255856(WO,A1)
【文献】VARGA et al.,Layered double alkoxides a novel group of layered double hydroxides without water content,Materials Research Letters,2020年,Vol.8,No.2,p.68-74,https://doi.org/10.1080/21663831.2019.1700199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/434
H01M 8/1016
H01M 10/30
H01M 12/08
H01M 50/414
H01M 50/417
H01M 50/423
H01M 50/426
H01M 50/429
H01M 50/451
H01M 50/489
H01M 50/497
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料製の多孔質基材と、前記多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)様化合物とを含む、LDH様化合物セパレータであって、
前記LDH様化合物セパレータが複数の扁平形状の残留気孔を有し、前記残留気孔の長手方向が前記LDH様化合物セパレータの厚さ方向と非平行である、LDH様化合物セパレータ。
【請求項2】
前記LDH様化合物が、
(a)Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である、又は
(b)(i)Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はMgと、(ii)In、Bi、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種である添加元素Mとを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である、又は
(c)Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、該(c)において前記LDH様化合物がIn(OH)との混合物の形態で存在する、請求項1に記載のLDH様化合物セパレータ。
【請求項3】
前記複数の残留気孔が1.5~17の平均アスペクト比を有する、請求項1又は2に記載のLDH様化合物セパレータ。
【請求項4】
前記複数の残留気孔が1.5~10の平均アスペクト比を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のLDH様化合物セパレータ。
【請求項5】
前記LDH様化合物が前記多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている、請求項1~4のいずれか一項に記載のLDH様化合物セパレータ。
【請求項6】
前記LDH様化合物セパレータの単位面積あたりのHe透過度が3.0cm/atm・min以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のLDH様化合物セパレータ。
【請求項7】
前記LDH様化合物セパレータのイオン伝導率が2.0mS/cm以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のLDH様化合物セパレータ。
【請求項8】
前記高分子材料が、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、セルロース、ナイロン、及びポリエチレンからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載のLDH様化合物セパレータ。
【請求項9】
前記多孔質基材及び前記LDH様化合物からなる、請求項1~8のいずれか一項に記載のLDH様化合物セパレータ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のLDH様化合物セパレータを備えた、亜鉛二次電池。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載のLDH様化合物セパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LDH様化合物セパレータ及び亜鉛二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。さらに、特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料(LDHセパレータ)を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。
【0004】
ところで、特許文献4(国際公開第2019/124213号)には、高分子材料製の多孔質基材と、多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)とを含む、LDHセパレータが開示されている。このLDHセパレータは複数の扁平形状の残留気孔を有し、残留気孔の長手方向がLDHセパレータの厚さ方向と非平行であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/118561号
【文献】国際公開第2016/076047号
【文献】国際公開第2016/067884号
【文献】国際公開第2019/124213号
【発明の概要】
【0006】
上述したようなLDHセパレータを用いてニッケル亜鉛電池等の亜鉛二次電池を構成した場合、亜鉛デンドライトによる短絡等をある程度防止できる。しかしながら、デンドライト短絡防止効果の更なる改善が望まれる。
【0007】
本発明者らは、今般、従来のLDHの代わりに、水酸化物イオン伝導物質として、後述するLDH様化合物を用いることにより、耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能な水酸化物イオン伝導セパレータ(LDH様化合物セパレータ)を提供できるとの知見を得た。また、高分子多孔質基材の孔をLDH様化合物で塞いで、残留気孔を扁平形状に変形させることで、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能なLDH様化合物セパレータを提供できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能な、LDHセパレータよりも優れた水酸化物イオン伝導セパレータを提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、高分子材料製の多孔質基材と、前記多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)様化合物とを含む、LDH様化合物セパレータであって、
前記LDH様化合物セパレータが複数の扁平形状の残留気孔を有し、前記残留気孔の長手方向が前記LDH様化合物セパレータの厚さ方向と非平行である、LDH様化合物セパレータが提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、前記LDH様化合物セパレータを備えた、亜鉛二次電池が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、前記LDH様化合物セパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のLDH様化合物セパレータを概念的に示す模式断面図である。
図2】例A1~A5の連続充電試験で使用された測定装置の模式断面図である。
図3A】例A1~D3で使用されたHe透過度測定系の一例を示す概念図である。
図3B図3Aに示される測定系に用いられる試料ホルダ及びその周辺構成の模式断面図である。
図4】例A1~D3で用いた電気化学測定系を示す模式断面図である。
図5】例A2において作製されたLDHセパレータの断面FE-SEM像である。図中、灰色領域が高分子多孔質基材に、白色領域がLDHに、黒色領域が残留気孔にそれぞれ相当する。
図6】例A5(比較)において作製されたLDHセパレータの断面FE-SEM像である。図中、灰色領域が高分子多孔質基材に、白色領域がLDHに、黒色領域が残留気孔にそれぞれ相当する。
図7A】例B1において作製されたLDH様化合物セパレータの表面SEM像である。
図7B】例B1において作製されたLDH様化合物セパレータのX線回折結果である。
図8A】例B2において作製されたLDH様化合物セパレータの表面SEM像である。
図8B】例B2において作製されたLDH様化合物セパレータのX線回折結果である。
図9A】例B3において作製されたLDH様化合物セパレータの表面SEM像である。
図9B】例B3において作製されたLDH様化合物セパレータのX線回折結果である。
図10A】例B4において作製されたLDH様化合物セパレータの表面SEM像である。
図10B】例B4において作製されたLDH様化合物セパレータのX線回折結果である。
図11A】例B5において作製されたLDH様化合物セパレータの表面SEM像である。
図11B】例B5において作製されたLDH様化合物セパレータのX線回折結果である。
図12A】例B6において作製されたLDH様化合物セパレータの表面SEM像である。
図12B】例B6において作製されたLDH様化合物セパレータのX線回折結果である。
図13】例B7において作製されたLDH様化合物セパレータの表面SEM像である。
図14A】例B8(比較)において作製されたLDHセパレータの表面SEM像である。
図14B】例B8(比較)において作製されたLDHセパレータのX線回折結果である。
図15】例C1において作製されたLDH様化合物セパレータの表面SEM像である。
図16】例D1において作製されたLDH様化合物セパレータの表面SEM像である。
図17】例D2において作製されたLDH様化合物セパレータの表面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
LDH様化合物セパレータ
図1に模式断面図が概念的に示されるように、本発明のLDH様化合物セパレータ10は、多孔質基材12と、層状複水酸化物(LDH)様化合物14とを含む。なお、本明細書において「LDH様化合物セパレータ」は、LDH様化合物を含むセパレータであって、専らLDH様化合物の水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。また、「LDH様化合物」とは、LDHとは呼べないが水酸化物イオン伝導性を有する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、X線回折法においてLDHに起因するピークが検出されないものとして定義される。なお、図1においてLDH様化合物セパレータ10の上面と下面の間でLDH様化合物14の領域が繋がっていないように描かれているが、これは断面として二次元的に描かれているためであり、奥行きを考慮した三次元的にはLDH様化合物セパレータ10の上面と下面の間でLDH様化合物14の領域が繋がっており、それによりLDH様化合物セパレータ10の水酸化物イオン伝導性が確保されている。多孔質基材12は高分子材料製であり、多孔質基材12の孔をLDH様化合物14が塞いでいる。もっとも、多孔質基材12の孔は完全に塞がれている訳ではなく、複数の残留気孔P(LDH様化合物で塞がれていない気孔)が存在する。そして、これらの残留気孔Pは扁平形状であり、残留気孔Pの長手方向がLDH様化合物セパレータ10の厚さ方向と非平行である。このように高分子多孔質基材12の孔をLDH様化合物14で塞いで、残留気孔Pを扁平形状に変形させることで、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能なLDH様化合物セパレータ10を提供することができる。すなわち、従来のセパレータにおける亜鉛デンドライトの貫通は、(i)セパレータに含まれる空隙又は欠陥に亜鉛デンドライトが侵入し、(ii)セパレータを押し広げながらデンドライトが成長及び進展し、(iii)最後にデンドライトがセパレータを貫通する、というメカニズムで起こるのではないかと推定される。これに対し、本発明のLDH様化合物セパレータ10は、残留気孔Pが(それらの長手方向がLDH様化合物セパレータ10の厚さ方向と非平行な)扁平形状であるため、亜鉛デンドライトの成長を扁平形状に沿って迂回させる方向に促すことができる。その結果、LDH様化合物セパレータ10の厚さ方向への亜鉛デンドライトの伸展を有意に抑制することができ、それ故、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。とりわけ、従来のLDHの代わりに、水酸化物イオン伝導物質として、後述するLDH様化合物を用いることにより、耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能な水酸化物イオン伝導セパレータ(LDH様化合物セパレータ)を提供することができる。
【0014】
また、本発明のLDH様化合物セパレータ10は、LDH様化合物の有する水酸化物イオン伝導性に基づき、セパレータとして要求される所望のイオン伝導性を備えることは勿論のこと、可撓性及び強度にも優れている。これは、LDH様化合物セパレータ10に含まれる高分子多孔質基材12自体の可撓性及び強度に起因するものである。すなわち、高分子多孔質基材12の孔がLDH様化合物で十分に塞がれた形でLDH様化合物セパレータ10が緻密化されているため、高分子多孔質基材12とLDH様化合物14とが高度に複合化された材料として渾然一体化しており、それ故、セラミックス材料であるLDH様化合物14に起因する剛性や脆さが高分子多孔質基材12の可撓性や強度によって相殺又は軽減されるといえる。
【0015】
上述のとおり、LDH様化合物セパレータ10に含まれる残留気孔Pは扁平形状である。扁平形状の残留気孔Pの向きは、それらの長手方向がLDH様化合物セパレータ10の厚さ方向と非平行であれば特に限定されず、あらゆる向きであってもよい。典型的な残留気孔Pは、LDH様化合物セパレータ10の厚さ方向にプレスされて潰れた形の扁平形状であり、そのような扁平形状の残留気孔Pはそれらの長手方向がLDH様化合物セパレータ10の厚さ方向と非平行となるのは勿論のこと、残留気孔Pの各々の長手方向がLDH様化合物セパレータ10の表面に対して好ましくは0~80°、より好ましくは0~60°、さらに好ましくは0~40°、特に好ましくは0~30°、最も好ましくは0~20°である。
【0016】
残留気孔Pの扁平形状はアスペクト比により特定することができる。具体的には、LDH様化合物セパレータ10に含まれる残留気孔Pは、1.5~17の平均アスペクト比を有するのが好ましく、より好ましくは1.5~15、さらに好ましくは1.5~10、特に好ましくは1.5~5である。上記範囲内の平均アスペクト比であると、亜鉛デンドライトの成長をより潰れた扁平形状に沿って更に迂回させる方向に促すことができる。したがって、LDH様化合物セパレータ10の厚さ方向への亜鉛デンドライトの伸展をより一層有意に抑制することができ、それ故、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。また、有意に高いイオン伝導率を実現することができ、LDH様化合物セパレータ10が水酸化物イオン伝導セパレータとしての十分な機能を呈することができる。本明細書において「平均アスペクト比」とは、LDH様化合物セパレータ10内に含まれる複数の残留気孔Pのアスペクト比の平均値である。残留気孔Pのアスペクト比は、残留気孔Pの長手方向の長さの、残留気孔Pの短手方向の長さに対する比である。平均アスペクト比の測定は、a)クロスセクションポリッシャ(CP)によりLDH様化合物セパレータを断面研磨し、b)FE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)により50,000倍の倍率で機能層の断面イメージを2視野取得し、c)取得した2視野それぞれに観察された各気孔の長手方向の長さと短手方向の長さを測定し、長手方向の長さを短手方向の長さで除することによりアスペクト比を算出し、d)得られたアスペクト比の平均値を求めることにより行うことができる。
【0017】
LDH様化合物セパレータ10はイオン伝導率が0.1mS/cm以上であるのが好ましく、より好ましくは1.0mS/cm以上、さらに好ましくは1.5mS/cm以上、特に好ましくは2.0mS/cm以上である。このような範囲内であるとLDH様化合物セパレータが水酸化物イオン伝導セパレータとしての十分な機能を呈することができる。イオン伝導率は高ければ高い方が良いため、その上限値は特に限定されないが、例えば10mS/cmである。イオン伝導率は、LDH様化合物セパレータの抵抗、並びにLDH様化合物セパレータの厚み及び面積に基づいて算出される。LDH様化合物セパレータ10の抵抗は、所定濃度(例えば5.4M)のKOH水溶液中に浸漬させたLDH様化合物セパレータ10に対して、電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタット-周波数応答アナライザ)を用いて、周波数範囲1MHz~0.1Hz及び印加電圧10mVで測定を行い、実数軸の切片をLDH様化合物セパレータの抵抗として求めることにより決定することができる。
【0018】
LDH様化合物セパレータ10は層状複水酸化物(LDH)様化合物14を含むセパレータであり、亜鉛二次電池に組み込まれた場合に、正極板と負極板とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するものである。すなわち、LDH様化合物セパレータ10は水酸化物イオン伝導セパレータとしての機能を呈する。好ましいLDH様化合物セパレータ10はガス不透過性及び/又は水不透過性を有する。換言すれば、LDH様化合物セパレータ10はガス不透過性及び/又は水不透過性を有するほどに緻密化されているのが好ましい。なお、本明細書において「ガス不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、水中で測定対象物の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。また、本明細書において「水不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、測定対象物の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。すなわち、LDH様化合物セパレータ10がガス不透過性及び/又は水不透過性を有するということは、LDH様化合物セパレータ10が気体又は水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性又はガス透過性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。こうすることで、LDH様化合物セパレータ10は、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。LDH様化合物セパレータ10は水酸化物イオン伝導性を有するため、正極板と負極板との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極板及び負極板における充放電反応を実現することができる。
【0019】
LDH様化合物セパレータ10は、単位面積あたりのHe透過度が3.0cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは2.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。He透過度が3.0cm/min・atm以下であるセパレータは、電解液中においてZnの透過(典型的には亜鉛イオン又は亜鉛酸イオンの透過)を極めて効果的に抑制することができる。このように本態様のセパレータは、Zn透過が顕著に抑制されることで、亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。He透過度は、セパレータの一方の面にHeガスを供給してセパレータにHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して水酸化物イオン伝導セパレータの緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時にセパレータに加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもHガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、セパレータが亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する実施例の評価5に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0020】
LDH様化合物セパレータ10においては、LDH様化合物14が多孔質基材12の孔を塞いでいる。好ましくは、LDH様化合物は、
(a)Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である、又は
(b)(i)Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はMgと、(ii)In、Bi、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種である添加元素Mとを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である、又は
(c)Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、該(c)において前記LDH様化合物がIn(OH)との混合物の形態で存在する。
【0021】
本発明の好ましい態様(a)によれば、LDH様化合物14は、Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物でありうる。したがって、典型的なLDH様化合物14は、Mg、Ti、所望によりY及び所望によりAlの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。LDH様化合物14の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物14はNiを含まないのが好ましい。例えば、LDH様化合物14は、Zn及び/又はKをさらに含むものであってもよい。こうすることで、LDH様化合物セパレータ10のイオン伝導率をより一層向上することができる。
【0022】
LDH様化合物14はX線回折により同定することができる。具体的には、LDH様化合物セパレータ10は、その表面に対してX線回折を行った場合、典型的には5°≦2θ≦10°の範囲に、より典型的には7°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出される。前述のとおり、LDHは積み重なった水酸化物基本層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びHOが存在する交互積層構造を有する物質である。この点、LDHをX線回折法により測定した場合、本来的には2θ=11~12°の位置にLDHの結晶構造に起因したピーク(すなわちLDHの(003)ピーク)が検出される。これに対して、LDH様化合物14をX線回折法により測定した場合、典型的にはLDHの上記ピーク位置よりも低角側にシフトした上述の範囲でピークが検出される。また、X線回折におけるLDH様化合物に由来するピークに対応する2θを用いてBraggの式により、層状結晶構造の層間距離を決定することができる。こうして決定されるLDH様化合物14を構成する層状結晶構造の層間距離は0.883~1.8nmであるのが典型的であり、より典型的には0.883~1.3nmである。
【0023】
上記態様(a)によるLDH様化合物セパレータ10は、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物14におけるMg/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比が0.03~0.25であるのが好ましく、より好ましくは0.05~0.2である。また、LDH様化合物14におけるTi/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0.40~0.97であるのが好ましく、より好ましくは0.47~0.94である。さらに、LDH様化合物14におけるY/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.45であるのが好ましく、より好ましくは0~0.37である。そして、LDH様化合物14におけるAl/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.03である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物14における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物14は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0024】
本発明の別の好ましい態様(b)によれば、LDH様化合物14は、(i)Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はMgと、(ii)添加元素Mとを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物でありうる。したがって、典型的なLDH様化合物14は、Ti、Y、添加元素M、所望によりAl及び所望によりMgの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。添加元素Mは、In、Bi、Ca、Sr、Ba又はそれらの組合せである。LDH様化合物14の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物14はNiを含まないのが好ましい。
【0025】
上記態様(b)によるLDH様化合物セパレータ10は、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物14におけるTi/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比が0.50~0.85であるのが好ましく、より好ましくは0.56~0.81である。LDH様化合物14におけるY/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0.03~0.20であるのが好ましく、より好ましくは0.07~0.15である。LDH様化合物14におけるM/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0.03~0.35であるのが好ましく、より好ましくは0.03~0.32である。LDH様化合物14におけるMg/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0~0.10であるのが好ましく、より好ましくは0~0.02である。そして、LDH様化合物14におけるAl/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.04である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物14における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物14は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0026】
本発明の更に別の好ましい態様(c)によれば、LDH様化合物14は、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDH様化合物14がIn(OH)との混合物の形態で存在するものでありうる。この態様のLDH様化合物は、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である。したがって、典型的なLDH様化合物は、Mg、Ti、Y、所望によりAl、及び所望によりInの、複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。なお、LDH様化合物に含まれうるInは、LDH様化合物中に意図的に添加されたもののみならず、In(OH)の形成等に由来してLDH様化合物中に不可避的に混入したものであってもよい。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。
【0027】
上記態様(c)による混合物はLDH様化合物のみならずIn(OH)をも含む(典型的にはLDH様化合物及びIn(OH)で構成される)。In(OH)の含有により、LDH様化合物セパレータ10における耐アルカリ性及びデンドライト耐性を効果的に向上することができる。混合物におけるIn(OH)の含有割合は、LDH様化合物セパレータ10の水酸化物イオン伝導性を殆ど損なわずに耐アルカリ性及びデンドライト耐性を向上できる量であるのが好ましく、特に限定されない。In(OH)はキューブ状の結晶構造を有するものであってもよく、In(OH)の結晶がLDH様化合物で取り囲まれている構成であってもよい。In(OH)はX線回折により同定することができる。X線回折測定は、後述する実施例に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0028】
前述したとおり、LDH様化合物セパレータ10はLDH様化合物14と多孔質基材12とを含み(典型的には多孔質基材12及びLDH様化合物14からなり)、LDH様化合物セパレータ10は水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するLDH様化合物セパレータとして機能するように)LDH様化合物が多孔質基材の孔を塞いでいる。LDH様化合物14は高分子多孔質基材12の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。LDH様化合物セパレータの厚さは、好ましくは3~80μmであり、より好ましくは3~60μm、さらに好ましくは3~40μmである。
【0029】
多孔質基材12は高分子材料製である。高分子多孔質基材12には、1)可撓性を有する(それ故薄くしても割れにくい)、2)気孔率を高くしやすい、3)伝導率を高くしやすい(気孔率を高めながら厚さを薄くできるため)、4)製造及びハンドリングしやすいといった利点がある。また、上記1)の可撓性に由来する利点を活かして、5)高分子材料製の多孔質基材を含むLDH様化合物セパレータを簡単に折り曲げる又は封止接合することができるとの利点もある。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せが挙げられる。より好ましくは、加熱プレスに適した熱可塑性樹脂という観点から、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せ等が挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。特に好ましい高分子材料は、耐熱水性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、しかも低コストである点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、最も好ましくはポリプロピレン又はポリエチレンである。多孔質基材が高分子材料で構成される場合、LDH様化合物が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている(例えば多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔がLDH様化合物で埋まっている)のが特に好ましい。このような高分子多孔質基材として、市販の高分子微多孔膜を好ましく用いることができる。
【0030】
製造方法
LDH様化合物セパレータ10の製造方法は特に限定されず、既に知られるLDH含有機能層及び複合材料の製造方法(例えば特許文献1~4を参照)の諸条件(特にLDH原料組成)を適宜変更することにより作製することができる。例えば、(1)多孔質基材を用意し、(2)多孔質基材に、チタニアゾル(あるいはさらにイットリウムゾル及び/又はアルミナゾル)を含む溶液を塗布して乾燥することでチタニア含有層を形成させ、(3)マグネシウムイオン(Mg2+)及び尿素(あるいはさらにイットリウムイオン(Y3+))を含む原料水溶液に多孔質基材を浸漬させ、(4)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDH様化合物含有機能層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより、LDH様化合物含有機能層及び複合材料(すなわちLDH様化合物セパレータ)を製造することができる。また、上記工程(3)において尿素が存在することで、尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物及び/又は酸化物を形成することによりLDH様化合物を得ることができるものと考えられる。
【0031】
特に、多孔質基材12が高分子材料で構成され、LDH様化合物14が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている複合材料(すなわちLDH様化合物セパレータ)を作製する場合、上記(2)における混合ゾル溶液の基材への塗布を、混合ゾル溶液を基材内部の全体又は大部分に浸透させるような手法で行うのが好ましい。こうすることで最終的に多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔をLDH様化合物で埋めることができる。好ましい塗布手法の例としては、ディップコート、ろ過コート等が挙げられ、特に好ましくはディップコートである。ディップコート等の塗布回数を調整することで、混合ゾル溶液の付着量を調整することができる。ディップコート等により混合ゾル溶液が塗布された基材は、乾燥させた後、上記(3)及び(4)の工程を実施すればよい。
【0032】
多孔質基材12が高分子材料で構成される場合、上記方法等によって得られたLDH様化合物セパレータに対してプレス処理を施すのが好ましい。こうすることで、緻密性により一層優れたLDH様化合物セパレータを得ることができる。プレス手法は、例えばロールプレス、一軸加圧プレス、CIP(冷間等方圧加圧)等であってよく、特に限定されないが、好ましくはロールプレスである。このプレスは加熱しながら行うのが高分子多孔質基材を軟化させることで、多孔質基材の孔をLDH様化合物で十分に塞ぐことができる点で好ましい。十分に軟化する温度として、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンの場合は60~200℃で加熱するのが好ましい。このような温度域でロールプレス等のプレスを行うことで、LDH様化合物セパレータの残留気孔を大幅に低減することができる。その結果、LDH様化合物セパレータを極めて高度に緻密化することができ、それ故、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。ロールプレスを行う際、ロールギャップ及びロール温度を適宜調整することで残留気孔の形態を制御することができ、それにより所望の緻密性のLDH様化合物セパレータを得ることができる。
【0033】
亜鉛二次電池
本発明のLDH様化合物セパレータは亜鉛二次電池に適用されるのが好ましい。したがって、本発明の好ましい態様によれば、LDH様化合物セパレータを備えた、亜鉛二次電池が提供される。典型的な亜鉛二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、LDH様化合物セパレータを介して正極と負極が互いに隔離されるものである。本発明の亜鉛二次電池は、亜鉛を負極として用い、かつ、電解液(典型的にはアルカリ金属水酸化物水溶液)を用いた二次電池であれば特に限定されない。したがって、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池、その他各種のアルカリ亜鉛二次電池であることができる。例えば、正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなすのが好ましい。あるいは、正極が空気極であり、それにより亜鉛二次電池が亜鉛空気二次電池をなしてもよい。
【0034】
固体アルカリ形燃料電池
本発明のLDH様化合物セパレータは固体アルカリ形燃料電池に適用することも可能である。すなわち、高分子多孔質基材の孔をLDH様化合物で塞いで、残留気孔を扁平形状に変形させたLDH様化合物セパレータを用いることで、燃料の空気極側への透過(例えばメタノールのクロスオーバー)に起因する起電力の低下を効果的に抑制可能な、固体アルカリ形燃料電池を提供できる。LDH様化合物セパレータの有する水酸化物イオン伝導性を発揮させながら、メタノール等の燃料のLDH様化合物セパレータ厚さ方向への透過を効果的に抑制できるためである。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、LDH様化合物セパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池が提供される。本態様による典型的な固体アルカリ形燃料電池は、酸素が供給される空気極と、液体燃料及び/又は気体燃料が供給される燃料極と、燃料極と空気極の間に介在されるLDH様化合物セパレータとを備える。
【0035】
その他の電池
本発明のLDH様化合物セパレータはニッケル亜鉛電池や固体アルカリ形燃料電池の他、例えばニッケル水素電池にも使用することができる。この場合、LDH様化合物セパレータは当該電池の自己放電の要因であるナイトライドシャトル(nitride shuttle)(硝酸基の電極間移動)をブロックする機能を果たす。また、本発明のLDH様化合物セパレータは、リチウム電池(リチウム金属が負極の電池)、リチウムイオン電池(負極がカーボン等の電池)あるいはリチウム空気電池等にも使用可能である。
【実施例
【0036】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0037】
[例A1~A8]
以下に示す例A1~A8はLDHセパレータに関する参考例又は比較例であるが、これらの例における実験手順及び結果はLDH様化合物セパレータにも概ね同様に当てはまる。なお、以下の例で作製されるLDHセパレータの評価方法は以下のとおりとした。
【0038】
評価1:LDHセパレータの同定
X線回折装置(リガク社製、RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10~70°の測定条件で、LDHセパレータの結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35-0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。
【0039】
評価2:厚さの測定
マイクロメータを用いてLDHセパレータの厚さを測定した。3箇所で厚さを測定し、それらの平均値をLDHセパレータの厚さとして採用した。
【0040】
評価3:平均アスペクト比測定
クロスセクションポリッシャ(CP)により、LDHセパレータを断面研磨し、FE-SEM(ULTRA55、カールツァイス製)により、50,000倍の倍率でLDHセパレータの断面イメージを2視野取得した。この画像データをもとに、画像検査ソフト(HDevelop、MVTecSoftware製)を用いて、2視野それぞれに観察された各気孔の長手方向の長さと短手方向の長さを測長し、長手方向の長さを短手方向の長さで除することによりアスペクト比を算出し、それらの平均値を平均アスペクト比とした。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0041】
評価4:連続充電試験
図2に示されるような測定装置210を構築して亜鉛デンドライトを連続的に成長させる加速試験を行った。具体的には、ABS樹脂の直方体型の容器212を用意して、その中に亜鉛極214a及び銅極214bを互いに0.5cm離間し且つ対向するように配置した。亜鉛極214aは金属亜鉛板であり、銅極214bは金属銅板である。一方、LDHセパレータについてはその外周に沿ってエポキシ樹脂系接着剤を塗布して、中央に開口部を有するABS樹脂製の治具に取り付けて、LDHセパレータ216を含むLDHセパレータ構造体とした。このとき、治具とLDHセパレータの接合箇所で液密性が確保されるように上記接着剤で十分に封止した。そして、容器212内にLDHセパレータ構造体として配置して、亜鉛極214aを含む第一区画215aと銅極214bを含む第二区画215bとを互いにLDHセパレータ216以外の箇所で液体連通を許容しないように隔離した。このとき、エポキシ樹脂系接着剤を用いてLDHセパレータ構造体の外縁3辺(すなわちABS樹脂製の治具の外縁3辺)を容器212の内壁に液密性を確保できるように接着させた。すなわち、LDHセパレータ216を含むセパレータ構造体と容器212の接合部分は液体連通を許容しないように封止された。第一区画215aと第二区画215bにアルカリ水溶液218として5.4mol/LのKOH水溶液を飽和溶解度相当のZnO粉末とともに入れた。亜鉛極214a及び銅極214bを定電流電源の負極と正極にそれぞれ接続するとともに、定電流電源と並列に電圧計を接続した。第一区画215a及び第二区画215bのいずれにおいてもアルカリ水溶液218の水位はLDHセパレータ216の全領域がアルカリ水溶液218に浸漬されるようにし、かつ、LDHセパレータ構造体(治具を含む)の高さを超えない程度とした。こうして構築された測定装置210において、亜鉛極214a及び銅極214bの間に20mA/cmの定電流を最大200時間にわたって継続的に流した。その間、亜鉛極214a及び銅極214b間に流れる電圧の値を電圧計でモニタリングし、亜鉛極214a及び銅極214b間における亜鉛デンドライト短絡(急激な電圧低下)の有無を確認した。このとき、100時間以上(又は200時間以上)にわたって短絡が生じなかった場合は「短絡なし」と判定し、100時間未満(又は200時間未満)で短絡が生じた場合は「短絡あり」と判定した。
【0042】
評価5:He透過測定
He透過性の観点からLDHセパレータの緻密性を評価すべく、He透過試験を以下のとおり行った。まず、図3A及び図3Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持されたLDHセパレータ318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0043】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、LDHセパレータ318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、LDHセパレータ318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管334を接続した。
【0044】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持されたLDHセパレータ318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1~30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm/min)、Heガス透過時にLDHセパレータに加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05~0.90atmの範囲内となるように供給された。
【0045】
評価6:イオン伝導率の測定
電解液中でのLDHセパレータのイオン伝導率を図4に示される電気化学測定系を用いて以下のようにして測定した。LDHセパレータ試料Sを両側から厚み1mmシリコーンパッキン440で挟み、内径6mmのPTFE製フランジ型セル442に組み込んだ。電極446として、#100メッシュのニッケル金網をセル442内に直径6mmの円筒状にして組み込み、電極間距離が2.2mmになるようにした。電解液444として、5.4MのKOH水溶液をセル442内に充填した。電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタット-周波数応答アナライザ、ソーラトロン社製1287A型及び1255B型)を用い、周波数範囲は1MHz~0.1Hz、印加電圧は10mVの条件で測定を行い、実数軸の切片をLDHセパレータ試料Sの抵抗とした。得られたLDHセパレータの抵抗と、LDHセパレータの厚み及び面積を用いて伝導率を求めた。
【0046】
例A1(参考)
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ20μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、2.0cm×2.0cmの大きさになるように切り出した。
【0047】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al-ML15、多木化学株式会社製)と酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)をTi/Al(モル比)=2となるように混合して混合ゾルを作製した。混合ゾルを、上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合ゾル100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、90℃の乾燥機中で5分間乾燥させることにより行った。
【0048】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO、関東化学株式会社製、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。0.015mol/Lとなるように、硝酸ニッケル六水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO (モル比)=16の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0049】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度120℃で24時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、多孔質基材の孔内にLDHを形成させた。こうして、LDHを含む複合材料を得た。
【0050】
(5)ロールプレス
上記LDHを含む複合材料を、1対のPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、厚さ40μm)で挟み、ロール回転速度3mm/s、ロール温度110℃、ロールギャップ60μmにてロールプレスを行い、LDHセパレータを得た。
【0051】
(6)評価結果
得られたLDHセパレータに対して評価1~6を行った。評価1の結果、本例のLDHセパレータは、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。評価2~6の結果は表1に示されるとおりであった。表1に示されるように、200時間以上の連続充電時間において亜鉛デンドライト短絡が発生しなかった。また、評価3において観察された残留気孔はそれらの長手方向がLDHセパレータの厚さ方向と非平行な扁平形状であった。
【0052】
例A2~A4(参考)
上記(5)のロールプレスにおいて、ロール温度及びロールギャップを表1に示される値に変更したこと以外は、例A1と同様にしてLDHセパレータを作製し、同様に評価した。評価1の結果、本例のLDHセパレータは、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。評価2~6の結果は表1に示されるとおりであった。表1に示されるように、例A2~A4はいずれも200時間以上の連続充電時間においても亜鉛デンドライト短絡が発生しなかった。また、図5に例A2の評価3で得られたLDHセパレータの断面FE-SEM像を示す。なお、評価3において観察された残留気孔はそれらの長手方向がLDHセパレータの厚さ方向と非平行な扁平形状であった。
【0053】
例A5(比較)
上記(5)のロールプレスを行わなかったこと以外は、例A1と同様にしてLDHセパレータの作製及び評価を行った。評価1の結果、本例のLDHセパレータは、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。評価2~6の結果は表1に示されるとおりであった。表1に示されるように、評価4は、100時間未満の連続充電時間で亜鉛デンドライト短絡が発生した。また、図6に評価3で得られたLDHセパレータの断面FE-SEM像を示す。なお、評価3において観察された残留気孔は略球状等の非扁平形状であった。
【0054】
例A6~A8(参考)
下記a)~c)以外は例A1と同様にしてLDHセパレータの作製及び評価を行った。
a)上記(3)の原料として、硝酸ニッケル六水和物の代わりに、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)を用い、0.03mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとし、得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO (モル比)=8の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得たこと。
b)上記(4)の水熱温度を90℃としたこと。
c)上記(5)のロールプレスにおいて、ロール温度及びロールギャップを表1に示される値に変更したこと。
【0055】
評価1の結果、本例のLDHセパレータは、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。評価2~6の結果は表1に示されるとおりであった。表1に示されるように、例A6~A8はいずれも200時間以上の連続充電時間においても亜鉛デンドライト短絡が発生しなかった。
【0056】
【表1】
【0057】
[例B1~B8]
以下に示す例B1~B7はLDH様化合物セパレータに関する参考例である一方、例B8はLDHセパレータに関する比較例である。LDH様化合物セパレータ及びLDHセパレータをまとめて水酸化物イオン伝導セパレータと総称する。なお、以下の例で作製される水酸化物イオン伝導セパレータの評価方法は以下のとおりとした。
【0058】
評価1:表面微構造の観察
水酸化物イオン伝導セパレータの表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-6610LV、JEOL社製)を用いて10~20kVの加速電圧で観察した。
【0059】
評価2:層状構造のSTEM解析
水酸化物イオン伝導セパレータの層状構造を走査透過電子顕微鏡(STEM)(製品名:JEM-ARM200F、JEOL社製)を用いて、200kVの加速電圧で観察した。
【0060】
評価3:元素分析評価(EDS)
水酸化物イオン伝導セパレータ表面に対してEDS分析装置(装置名:X-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて組成分析を行い、Mg:Ti:Y:Alの組成比(原子比)を算出した。この分析は、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行った。
【0061】
評価4:X線回折測定
X線回折装置(リガク社製、RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:5~40°の測定条件で、水酸化物イオン伝導セパレータの結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。また、LDH様化合物に由来するピークに対応する2θを用いてBraggの式により、層状結晶構造の層間距離を決定した。
【0062】
評価5:He透過測定
He透過性の観点から水酸化物イオン伝導セパレータの緻密性を評価すべくHe透過試験を例A1~A8の評価5と同様の手順で行った。
【0063】
評価6:イオン伝導率の測定
電解液中での水酸化物イオン伝導セパレータの伝導率を図4に示される電気化学測定系を用いて以下のようにして測定した。水酸化物イオン伝導セパレータ試料Sを両側から厚み1mmシリコーンパッキン440で挟み、内径6mmのPTFE製フランジ型セル442に組み込んだ。電極446として、#100メッシュのニッケル金網をセル442内に直径6mmの円筒状にして組み込み、電極間距離が2.2mmになるようにした。電解液444として、5.4MのKOH水溶液をセル442内に充填した。電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタット-周波数応答アナライザ、ソーラトロン社製1287A型及び1255B型)を用い、周波数範囲は1MHz~0.1Hz、印加電圧は10mVの条件で測定を行い、実数軸の切片を水酸化物イオン伝導セパレータ試料Sの抵抗とした。上記同様の測定を水酸化物イオン伝導セパレータ試料S無しの構成で行い、ブランク抵抗も求めた。水酸化物イオン伝導セパレータ試料Sの抵抗とブランク抵抗の差を水酸化物イオン伝導セパレータの抵抗とした。得られた水酸化物イオン伝導セパレータの抵抗と、水酸化物イオン伝導セパレータの厚み及び面積を用いて伝導率を求めた。
【0064】
評価7:耐アルカリ性評価
0.4Mの濃度で酸化亜鉛を含む5.4MのKOH水溶液を用意した。用意したKOH水溶液0.5mLと、2cm四方のサイズの水酸化物イオン伝導セパレータ試料をテフロン(登録商標)製密閉容器に入れた。その後、90℃で1週間(すなわち168時間)保持した後、水酸化物イオン伝導セパレータ試料を密閉容器から取り出した。取り出した水酸化物イオン伝導セパレータ試料を室温で1晩乾燥させた。得られた試料について、評価5と同様の方法でHe透過度を算出し、アルカリ浸漬前後におけるHe透過度の変化の有無を判定した。
【0065】
評価8:デンドライト耐性の評価(サイクル試験)
水酸化物イオン伝導セパレータの亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(デンドライト耐性)を評価すべくサイクル試験を以下のとおり行った。まず、正極(水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む)と負極(亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む)の各々を不織布で包むとともに、電流取り出し端子を溶接した。こうして準備された正極及び負極を、水酸化物イオン伝導セパレータを介して対向させ、電流取り出し口が設けられたラミネートフィルムに挟んで、ラミネートフィルムの3辺を熱融着した。こうして得られた上部開放されたセル容器に電解液(5.4MのKOH水溶液中に0.4Mの酸化亜鉛を溶解させたもの)を加え、真空引き等により電解液を十分に正極及び負極に浸透させた。その後、ラミネートフィルムの残りの1辺も熱融着して、簡易密閉セルとした。充放電装置(東洋システム株式会社製、TOSCAT3100)を用いて、簡易密閉セルに対し、0.1C充電及び0.2C放電で化成を実施した。その後、1C充放電サイクルを実施した。同一条件で繰り返し充放電サイクルを実施しながら、正極及び負極間の電圧を電圧計でモニタリングし、正極及び負極間における亜鉛デンドライトに起因する短絡に伴う急激な電圧低下(具体的には直前にプロットされた電圧に対して5mV以上の電圧低下)の有無を調べ、以下の基準で評価した。
・短絡なし:300サイクル後も充電中に上記急激な電圧低下が見られなかった。
・短絡あり:300サイクル未満で充電中に上記急激な電圧低下が見られた。
【0066】
例B1(参考)
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ20μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、2.0cm×2.0cmの大きさになるように切り出した。
【0067】
(2)高分子多孔質基材へのチタニアゾルコート
酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)を上記(1)で用意された基材にディップコートにより塗布した。ディップコートは、ゾル溶液100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、室温で3時間乾燥させることにより行った。
【0068】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.015mol/Lとなるように秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO (モル比)=48の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0069】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度120℃で24時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDH様化合物の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、多孔質基材の孔内にLDH様化合物を形成させた。こうして、LDH様化合物セパレータを得た。
【0070】
(5)ロールプレスによる緻密化
上記LDH様化合物セパレータを、1対のPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、厚さ40μm)で挟み、ロール回転速度3mm/s、ローラ加熱温度70℃、ロールギャップ70μmにてロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDH様化合物セパレータを得た。
【0071】
(6)評価結果
得られたLDH様化合物セパレータに対して評価1~8を行った。結果は以下のとおりであった。
【0072】
‐評価1:例B1で得られたLDH様化合物セパレータ(ロールプレス前)の表面微構造のSEM画像は図7Aに示されるとおりであった。
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg及びTiが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg及びTiの組成比(原子比)は表2に示されるとおりであった。
‐評価4:図7Bに例B1で得られたXRDプロファイルを示す。得られたXRDプロファイルにおいて、2θ=9.4°付近にピークが観察された。通常、LDHの(003)ピーク位置は、2θ=11~12°に観察されるため、上記ピークはLDHの(003)ピークが低角側にシフトしたものであると考えられる。このため、上記ピークはLDHとは呼べないもののそれに類する化合物(すなわちLDH様化合物)に由来するピークであることを示唆するものである。なお、XRDプロファイルの20<2θ°<25に観察される2本のピークは、多孔質基材を構成するポリエチレン由来のピークである。また、LDH様化合物における層状結晶構造の層間距離は0.94nmであった。
‐評価5:表2に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表2に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度が変化しないという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表2に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0073】
例B2(参考)
上記(3)の原料水溶液の作製を以下のように行ったこと、及び上記(4)における水熱処理の温度を90℃にしたこと以外は例B1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0074】
(原料水溶液の作製)
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.03mol/Lとなるように秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとし、得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO-(モル比)=8の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0075】
‐評価1:例B2で得られたLDH様化合物セパレータ(ロールプレス前)の表面微構造のSEM画像は図8Aに示されるとおりであった。
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg及びTiが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg及びTiの組成比(原子比)は表2に示されるとおりであった。
‐評価4:図8Bに例B2で得られたXRDプロファイルを示す。得られたXRDプロファイルにおいて、2θ=7.2°付近にピークが観察された。通常、LDHの(003)ピーク位置は、2θ=11~12°に観察されるため、上記ピークはLDHの(003)ピークが低角側にシフトしたものであると考えられる。このため、上記ピークはLDHとは呼べないもののそれに類する化合物(すなわちLDH様化合物)に由来するピークであることを示唆するものである。なお、XRDプロファイルの20<2θ°<25に観察される2本のピークは、多孔質基材を構成するポリエチレン由来のピークである。また、LDH様化合物における層状結晶構造の層間距離は1.2nmであった。
‐評価5:表2に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表2に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度が変化しないという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表2に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0076】
例B3(参考)
上記(2)の代わりに高分子多孔質基材へのチタニア・イットリアゾルコートを以下のように行ったこと以外は、例B1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0077】
(高分子多孔質基材へのチタニア・イットリアゾルコート)
酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)及びイットリウムゾルをTi/Y(モル比)=4となるように混合した。得られた混合溶液を、上記(1)で用意された基材にディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合溶液100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、室温で3時間乾燥させることにより行った。
【0078】
‐評価1:例B3で得られたLDH様化合物セパレータ(ロールプレス前)の表面微構造のSEM画像は図9Aに示されるとおりであった。
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg、Ti及びYが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Ti及びYの組成比(原子比)は表2に示されるとおりであった。
‐評価4:図9Bに例B3で得られたXRDプロファイルを示す。得られたXRDプロファイルにおいて、2θ=8.0°付近にピークが観察された。通常、LDHの(003)ピーク位置は、2θ=11~12°に観察されるため、上記ピークはLDHの(003)ピークが低角側にシフトしたものであると考えられる。このため、上記ピークはLDHとは呼べないもののそれに類する化合物(すなわちLDH様化合物)に由来するピークであることを示唆するものである。なお、XRDプロファイルの20<2θ°<25に観察される2本のピークは、多孔質基材を構成するポリエチレン由来のピークである。また、LDH様化合物における層状結晶構造の層間距離は1.1nmであった。
‐評価5:表2に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表2に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atm未満であり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度が変化しないという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表2に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0079】
例B4(参考)
上記(2)の代わりに高分子多孔質基材へのチタニア・イットリア・アルミナゾルコートを以下のように行ったこと以外は、例B1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0080】
(高分子多孔質基材へのチタニア・イットリア・アルミナゾルコート)
酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)、イットリウムゾル、及び無定形アルミナ溶液(Al-ML15、多木化学株式会社製)をTi/(Y+Al)(モル比)=2、及びY/Al(モル比)=8となるように混合した。混合溶液を、上記(1)で用意された基材にディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合溶液100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、室温で3時間乾燥させることにより行った。
【0081】
‐評価1:例B4で得られたLDH様化合物セパレータ(ロールプレス前)の表面微構造のSEM画像は図10Aに示されるとおりであった。
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg、Al、Ti及びYが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Al、Ti及びYの組成比(原子比)は表2に示されるとおりであった。
‐評価4:図10Bに例B4で得られたXRDプロファイルを示す。得られたXRDプロファイルにおいて、2θ=7.8°付近にピークが観察された。通常、LDHの(003)ピーク位置は、2θ=11~12°に観察されるため、上記ピークはLDHの(003)ピークが低角側にシフトしたものであると考えられる。このため、上記ピークはLDHとは呼べないもののそれに類する化合物(すなわちLDH様化合物)に由来するピークであることを示唆するものである。なお、XRDプロファイルの20<2θ°<25に観察される2本のピークは、多孔質基材を構成するポリエチレン由来のピークである。また、LDH様化合物における層状結晶構造の層間距離は1.1nmであった。
‐評価5:表2に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表2に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度の変化が無いという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表2に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0082】
例B5(参考)
上記(2)の代わりに高分子多孔質基材へのチタニア・イットリアゾルコートを以下のように行ったこと、及び上記(3)の原料水溶液の作製を以下のように行ったこと以外は例B1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0083】
(高分子多孔質基材へのチタニア・イットリアゾルコート)
酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)及びイットリウムゾルをTi/Y(モル比)=18となるように混合した。得られた混合溶液を、上記(1)で用意された基材にディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合溶液100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、室温で3時間乾燥させることにより行った。
【0084】
(原料水溶液の作製)
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.0075mol/Lとなるように秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとし、得られた溶液を攪拌した。この溶液中に尿素/NO (モル比)=96の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0085】
‐評価1:例B5で得られたLDH様化合物セパレータ(ロールプレス前)の表面微構造のSEM画像は図11Aに示されるとおりであった。
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg、Ti及びYが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Ti及びYの組成比(原子比)は表2に示されるとおりであった。
‐評価4:図11Bに例B5で得られたXRDプロファイルを示す。得られたXRDプロファイルにおいて、2θ=8.9°付近にピークが観察された。通常、LDHの(003)ピーク位置は、2θ=11~12°に観察されるため、上記ピークはLDHの(003)ピークが低角側にシフトしたものであると考えられる。このため、上記ピークはLDHとは呼べないもののそれに類する化合物(すなわちLDH様化合物)に由来するピークであることを示唆するものである。なお、XRDプロファイルの20<2θ°<25に観察される2本のピークは、多孔質基材を構成するポリエチレン由来のピークである。また、LDH様化合物における層状結晶構造の層間距離は0.99nmであった。
‐評価5:表2に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表2に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度の変化が無いという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表2に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0086】
例B6(参考)
上記(2)の代わりに高分子多孔質基材へのチタニア・アルミナゾルコートを以下のように行ったこと、及び上記(3)の原料水溶液の作製を以下のように行ったこと以外は例B1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0087】
(高分子多孔質基材へのチタニア・アルミナゾルコート)
酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)及び無定形アルミナ溶液(Al-ML15、多木化学株式会社製)をTi/Al(モル比)=18となるように混合した。混合溶液を、上記(1)で用意された基材にディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合溶液100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、室温で3時間乾燥させることにより行った。
【0088】
(原料水溶液の作製)
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)、硝酸イットリウムn水和物(Y(NO・nHO、富士フイルム和光純薬株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.0015mol/Lとなるように秤量してビーカーに入れた。さらに、硝酸イットリウムn水和物を0.0075mol/Lとなるように秤量して上記ビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとし、得られた溶液を攪拌した。この溶液中に尿素/NO (モル比)=9.8の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0089】
‐評価1:例B6で得られたLDH様化合物セパレータ(ロールプレス前)の表面微構造のSEM画像は図12Aに示されるとおりであった。
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg、Al、Ti及びYが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Al、Ti及びYの組成比(原子比)は表2に示されるとおりであった。
‐評価4:図12Bに例B6で得られたXRDプロファイルを示す。得られたXRDプロファイルにおいて、2θ=7.2°付近にピークが観察された。通常、LDHの(003)ピーク位置は、2θ=11~12°に観察されるため、上記ピークはLDHの(003)ピークが低角側にシフトしたものであると考えられる。このため、上記ピークはLDHとは呼べないもののそれに類する化合物(すなわちLDH様化合物)に由来するピークであることを示唆するものである。なお、XRDプロファイルの20<2θ°<25に観察される2本のピークは、多孔質基材を構成するポリエチレン由来のピークである。また、LDH様化合物における層状結晶構造の層間距離は1.2nmであった。
‐評価5:表2に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表2に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度の変化が無いという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表2に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0090】
例B7(参考)
上記(3)の原料水溶液の作製を以下のように行ったこと以外は例B6と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0091】
(原料水溶液の作製)
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)、硝酸イットリウムn水和物(Y(NO・nHO、富士フイルム和光純薬株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.0075mol/Lとなるように秤量してビーカーに入れた。さらに、硝酸イットリウムn水和物を0.0075mol/Lとなるように秤量して上記ビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとし、得られた溶液を攪拌した。この溶液中に尿素/NO (モル比)=25.6の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0092】
‐評価1:例B7で得られたLDH様化合物セパレータ(ロールプレス前)の表面微構造のSEM画像は図13に示されるとおりであった。
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg、Al、Ti及びYが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Al、Ti及びYの組成比(原子比)は表2に示されるとおりであった。
‐評価5:表2に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表2に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度の変化が無いという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表2に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0093】
例B8(比較)
上記(2)の代わりにアルミナゾルコートを以下のように行ったこと以外は、例B1と同様にしてLDHセパレータの作製及び評価を行った。
【0094】
(高分子多孔質基材へのアルミナゾルコート)
無定形アルミナゾル(Al-ML15、多木化学株式会社製)を、上記(1)で用意された基材にディップコートにより塗布した。ディップコートは、無定形アルミナゾル100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、室温で3時間乾燥させることにより行った。
【0095】
‐評価1:例B8で得られたLDHセパレータ(ロールプレス前)の表面微構造のSEM画像は図14Aに示されるとおりであった。
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDHセパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDHセパレータ表面において、LDH構成元素であるMg及びAlが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDHセパレータ表面のMg及びAlの組成比(原子比)は表2に示されるとおりであった。
‐評価4:図14Bに例B8で得られたXRDプロファイルを示す。得られたXRDプロファイルにおける2θ=11.5°付近のピークから、例B8で得られたLDHセパレータは、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。この同定は、JCPDSカードNO.35-0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて行った。なお、XRDプロファイルの20<2θ°<25に観察される2本のピークは、多孔質基材を構成するポリエチレン由来のピークである。
‐評価5:表2に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表2に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬の結果、評価5で0.0cm/min・atmであったHe透過度が10cm/min・atmを超えてしまったことから、耐アルカリ性に劣ることが判明した。
‐評価8:表2に示されるとおり、300サイクル未満で亜鉛デンドライトに起因する短絡が生じたことから、デンドライト耐性に劣ることが判明した。
【0096】
【表2】
【0097】
[例C1~C9]
以下に示す例C1~C9はLDH様化合物セパレータに関する参考例である。なお、以下の例で作製されるLDH様化合物セパレータの評価方法は、評価3でMg:Al:Ti:Y:添加元素Mの組成比(原子比)を算出したこと以外は、例B1~B8と同様とした。
【0098】
例C1(参考)
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ20μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、2.0cm×2.0cmの大きさになるように切り出した。
【0099】
(2)高分子多孔質基材へのチタニア・イットリア・アルミナゾルコート
酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)、イットリウムゾル、及び無定形アルミナ溶液(Al-ML15、多木化学株式会社製)をTi/(Y+Al)(モル比)=2、及びY/Al(モル比)=8となるように混合した。混合溶液を、上記(1)で用意された基材にディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合溶液100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、室温で3時間乾燥させることにより行った。
【0100】
(3)原料水溶液(I)の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.015mol/Lとなるように秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO (モル比)=48の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液(I)を得た。
【0101】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液(I)とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度120℃で22時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDH様化合物の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、多孔質基材の孔内にLDH様化合物を形成させた。
【0102】
(5)原料水溶液(II)の作製
原料として、硫酸インジウムn水和物(In(SO・nHO、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用意した。硫酸インジウムn水和物を0.0075mol/Lとなるように秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌して原料水溶液(II)を得た。
【0103】
(6)浸漬処理によるインジウム添加
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液(II)と上記(4)で得たLDH様化合物セパレータを共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、30℃で1時間浸漬処理を施すことによりインジウム添加を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、インジウムが添加されたLDH様化合物セパレータを得た。
【0104】
(7)ロールプレスによる緻密化
上記LDH様化合物セパレータを、1対のPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、厚さ40μm)で挟み、ロール回転速度3mm/s、ローラ加熱温度70℃、ロールギャップ70μmにてロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDH様化合物セパレータを得た。
【0105】
(8)評価結果
得られたLDH様化合物セパレータに対して各種評価を行った。結果は以下のとおりであった。
【0106】
‐評価1:例C1で得られたLDH様化合物セパレータ(ロールプレス前)の表面微構造のSEM画像は図15に示されるとおりであった。
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるAl、Ti、Y及びInが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のAl、Ti、Y及びInの組成比(原子比)は表3に示されるとおりであった。
‐評価5:表3に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表3に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度が変化しないという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表3に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0107】
例C2(参考)
上記(6)の浸漬処理によるインジウム添加において、浸漬処理の時間を24時間に変更したこと以外は、例C1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0108】
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるAl、Ti、Y及びInが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のAl、Ti、Y及びInの組成比(原子比)は表3に示されるとおりであった。
‐評価5:表3に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表3に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度が変化しないという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表3に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0109】
例C3(参考)
上記(2)の代わりにチタニア・イットリアゾルコートを以下のように行ったこと以外は、例C1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0110】
(高分子多孔質基材へのチタニア・イットリアゾルコート)
酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)及びイットリウムゾルをTi/Y(モル比)=2となるように混合した。得られた混合溶液を、上記(1)で用意された基材にディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合溶液100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、室温で3時間乾燥させることにより行った。
【0111】
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるTi、Y及びInが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のTi、Y及びInの組成比(原子比)は表3に示されるとおりであった。
‐評価5:表3に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表3に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atm未満であり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度が変化しないという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表3に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0112】
例C4(参考)
上記(5)の原料水溶液(II)の作製を以下のように行ったこと、及び上記(6)の代わりに浸漬処理によるビスマス添加を以下のように行ったこと以外は、例C1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0113】
(原料水溶液(II)の作製)
原料として、硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO・5HO)を用意した。硝酸ビスマス五水和物を0.00075mol/Lとなるように秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌して原料水溶液(II)を得た。
【0114】
(浸漬処理によるビスマス添加)
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液(II)と上記(4)で得たLDH様化合物セパレータを共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、30℃で1時間浸漬処理を施すことによりビスマス添加を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、ビスマスが添加されたLDH様化合物セパレータを得た。
【0115】
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg、Al、Ti、Y及びBiが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Al、Ti、Y及びBiの組成比(原子比)は表3に示されるとおりであった。
‐評価5:表3に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表3に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度の変化が無いという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表3に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0116】
例C5(参考)
上記浸漬処理によるビスマス添加において、浸漬処理の時間を12時間に変更したこと以外は、例C4と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0117】
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg、Al、Ti、Y及びBiが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Al、Ti、Y及びBiの組成比(原子比)は表3に示されるとおりであった。
‐評価5:表3に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表3に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度の変化が無いという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表3に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0118】
例C6(参考)
上記浸漬処理によるビスマス添加において、浸漬処理の時間を24時間に変更したこと以外は、例C4と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0119】
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg、Al、Ti、Y及びBiが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Al、Ti、Y及びBiの組成比(原子比)は表3に示されるとおりであった。
‐評価5:表3に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表3に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度の変化が無いという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表3に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0120】
例C7(参考)
上記(5)の原料水溶液(II)の作製を以下のように行ったこと、及び上記(6)の代わりに浸漬処理によるカルシウム添加を以下のように行ったこと以外は、例C1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0121】
(原料水溶液(II)の作製)
原料として、硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO・4HO)を用意した。硝酸カルシウム四水和物を0.015mol/Lとなるように秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌して原料水溶液(II)を得た。
【0122】
(浸漬処理によるカルシウム添加)
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液(II)と上記(4)で得たLDH様化合物セパレータを共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、30℃で6時間浸漬処理を施すことによりカルシウム添加を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、カルシウムが添加されたLDH様化合物セパレータを得た。
【0123】
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg、Al、Ti、Y及びCaが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Al、Ti、Y及びCaの組成比(原子比)は表3に示されるとおりであった。
‐評価5:表3に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表3に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度の変化が無いという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表3に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0124】
例C8(参考)
上記(5)の原料水溶液(II)の作製を以下のように行ったこと、及び上記(6)の代わりに浸漬処理によるストロンチウム添加を以下のように行ったこと以外は、例C1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0125】
(原料水溶液(II)の作製)
原料として、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)を用意した。硝酸ストロンチウムを0.015mol/Lとなるように秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌して原料水溶液(II)を得た。
【0126】
(浸漬処理によるストロンチウム添加)
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液(II)と上記(4)で得たLDH様化合物セパレータを共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、30℃で6時間浸漬処理を施すことによりストロンチウム添加を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、ストロンチウムが添加されたLDH様化合物セパレータを得た。
【0127】
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるMg、Al、Ti、Y及びSrが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Al、Ti、Y及びSrの組成比(原子比)は表3に示されるとおりであった。
‐評価5:表3に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表3に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度の変化が無いという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表3に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0128】
例C9(参考)
上記(5)の原料水溶液(II)の作製を以下のように行ったこと、及び上記(6)の代わりに浸漬処理によるバリウム添加を以下のように行ったこと以外は、例C1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0129】
(原料水溶液(II)の作製)
原料として、硝酸バリウム(Ba(NO)を用意した。硝酸バリウムを0.015mol/Lとなるように秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌して原料水溶液(II)を得た。
【0130】
(浸漬処理によるバリウム添加)
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液(II)と上記(4)で得たLDH様化合物セパレータを共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、30℃で6時間浸漬処理を施すことによりバリウム添加を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、バリウムが添加されたLDH様化合物セパレータを得た。
【0131】
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータの多孔質基材以外の部分が層状結晶構造の化合物であることが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物の構成元素であるAl、Ti、Y及びBaが検出された。また、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のAl、Ti、Y及びBaの組成比(原子比)は表3に示されるとおりであった。
‐評価5:表3に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表3に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度の変化が無いという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表3に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0132】
【表3】
【0133】
[例D1及びD2]
以下に示す例D1及びD2はLDH様化合物セパレータに関する参考例である。なお、以下の例で作製されるLDH様化合物セパレータの評価方法は、評価3でMg:Al:Ti:Y:Inの組成比(原子比)を算出したこと以外は、例B1~B8と同様とした。
【0134】
例D1(参考)
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ20μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、2.0cm×2.0cmの大きさになるように切り出した。
【0135】
(2)高分子多孔質基材へのチタニア・イットリア・アルミナゾルコート
酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)、イットリウムゾル、及び無定形アルミナ溶液(Al-ML15、多木化学株式会社製)をTi/(Y+Al)(モル比)=2、及びY/Al(モル比)=8となるように混合した。混合溶液を、上記(1)で用意された基材にディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合溶液100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、室温で3時間乾燥させることにより行った。
【0136】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)、硫酸インジウムn水和物(In(SO・nHO、富士フイルム和光純薬株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物及び硫酸インジウムn水和物をそれぞれ0.0075mol/L、尿素を1.44mol/Lとなるように秤量してビーカーへ入れた後に、イオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌して原料水溶液を得た。
【0137】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度120℃で22時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDH様化合物の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、多孔質基材の孔内にLDH様化合物及びIn(OH)含有機能層を形成させた。こうして、LDH様化合物セパレータを得た。
【0138】
(5)ロールプレスによる緻密化
上記LDH様化合物セパレータを、1対のPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、厚さ40μm)で挟み、ロール回転速度3mm/s、ローラ加熱温度70℃、ロールギャップ70μmにてロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDH様化合物セパレータを得た。
【0139】
(6)評価結果
得られたLDH様化合物セパレータに対して評価1~8を行った。結果は以下のとおりであった。
【0140】
‐評価1:例D1で得られたLDH様化合物セパレータ(ロールプレス前)の表面微構造のSEM画像は図16に示されるとおりであった。図16に示されるように、LDH様化合物セパレータ表面には、キューブ状の結晶が存在することが確認された。後述するEDS元素分析及びX線回折測定の結果から、このキューブ状の結晶はIn(OH)であると推定される。
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータが層状結晶構造の化合物を含むことが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物ないしIn(OH)の構成元素であるMg、Al、Ti、Y及びInが検出された。また、LDH様化合物セパレータ表面に存在するキューブ状の結晶中において、In(OH)の構成元素であるInが検出された。なお、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Al、Ti、Y及びInの組成比(原子比)は表4に示されるとおりであった。
‐評価4:得られたXRDプロファイルのピークから、In(OH)がLDH様化合物セパレータ中に存在することが同定された。この同定は、JCPDSカードNo.01-085-1338に記載されるIn(OH)の回折ピークを用いて行った。
‐評価5:表4に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表4に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度が変化しないという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表4に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0141】
例D2(参考)
上記(2)の代わりにチタニア・イットリアゾルコートを以下のように行ったこと以外は、例D1と同様にしてLDH様化合物セパレータの作製及び評価を行った。
【0142】
(高分子多孔質基材へのチタニア・イットリアゾルコート)
酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)及びイットリウムゾルをTi/Y(モル比)=2となるように混合した。得られた混合溶液を、上記(1)で用意された基材にディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合溶液100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、室温で3時間乾燥させることにより行った。
【0143】
‐評価1:例D2で得られたLDH様化合物セパレータ(ロールプレス前)の表面微構造のSEM画像は図17に示されるとおりであった。図17に示されるように、LDH様化合物セパレータ表面には、キューブ状の結晶が存在することが確認された。後述するEDS元素分析及びX線回折測定の結果から、このキューブ状の結晶はIn(OH)であると推定される。
‐評価2:層状の格子縞が確認できるという結果からLDH様化合物セパレータが層状結晶構造の化合物を含むことが確認された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDH様化合物セパレータ表面において、LDH様化合物ないしIn(OH)の構成元素であるMg、Ti、Y及びInが検出された。また、LDH様化合物セパレータ表面に存在するキューブ状の結晶中において、In(OH)の構成元素であるInが検出された。なお、EDS元素分析により算出された、LDH様化合物セパレータ表面のMg、Ti、Y及びInの組成比(原子比)は表4に示されるとおりであった。
‐評価4:得られたXRDプロファイルのピークから、In(OH)がLDH様化合物セパレータ中に存在することが同定された。この同定は、JCPDSカードNo.01-085-1338に記載されるIn(OH)の回折ピークを用いて行った。
‐評価5:表4に示されるとおり、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価6:表4に示されるとおり、高いイオン伝導率が確認された。
‐評価7:アルカリ浸漬後におけるHe透過度は評価5と同様、0.0cm/min・atmであり、90℃もの高温で1週間にわたるアルカリ浸漬によってもHe透過度が変化しないという優れた耐アルカリ性が確認された。
‐評価8:表4に示されるとおり、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたデンドライト耐性が確認された。
【0144】
【表4】
【要約】
耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能な、LDHセパレータよりも優れた水酸化物イオン伝導セパレータが提供される。このLDH様化合物セパレータは、高分子材料製の多孔質基材と、多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)様化合物とを含む。LDHセパレータ様化合物は複数の扁平形状の残留気孔を有し、残留気孔の長手方向がLDH様化合物セパレータの厚さ方向と非平行である。

図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17