IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

特許7057868油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム
<>
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図1
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図2
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図3
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図4
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図5
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図6
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図7
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図8
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図9
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図10
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図11
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図12
  • 特許-油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-12
(45)【発行日】2022-04-20
(54)【発明の名称】油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20220413BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20220413BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20220413BHJP
   G01N 27/22 20060101ALI20220413BHJP
   G01N 27/02 20060101ALI20220413BHJP
   F16N 29/00 20060101ALI20220413BHJP
   F16C 19/52 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
G01M13/04
F16C19/06
F16C33/66 Z
G01N27/22 Z
G01N27/02 Z
F16N29/00 Z
F16C19/52
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022502566
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2021035206
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2020163963
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021137564
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 駿介
(72)【発明者】
【氏名】丸山 泰右
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-002693(JP,A)
【文献】特開2005-308714(JP,A)
【文献】特開2019-082448(JP,A)
【文献】特開2019-211317(JP,A)
【文献】特開2007-310611(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0033535(US,A1)
【文献】MARUYAMA Taisuke 他1名,In Situ Quantification of Oil Film Formation and Breakdown in EHD Contacts,Tribology Transactions,2018年07月03日,1057-1066,[Online],<URL: https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/10402004.2018.1468519?needAccess=true>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/06
F16C 19/52
F16C 33/66
F16N 29/00
G01M 13/04
G01N 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部位を潤滑剤にて潤滑させる構成の装置内における前記潤滑剤による油膜の状態を検出する状態検出方法であって、
前記複数の部位から構成される電気回路に周波数を変化させながら交流電圧を印加することで前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する測定工程と、
前記潤滑剤の組成に基づいて規定される前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率、および、前記測定工程にて測定された前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記潤滑剤による油膜厚さおよび当該油膜厚さにおける電気特性を示すパラメータを導出する導出工程とを有することを特徴とする状態検出方法。
【請求項2】
前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率は、バルク状態における前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率であることを特徴とする請求項1に記載の状態検出方法。
【請求項3】
前記パラメータは、低周波極限での比誘電率、緩和強度、緩和時間、緩和時間の分布、および直流導電率の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の状態検出方法。
【請求項4】
前記装置は、転動装置であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の状態検出方法。
【請求項5】
前記装置は、軸受装置であり、
前記複数の部位は、外方部材、内方部材、および転動体を含む
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の状態検出方法。
【請求項6】
前記導出工程にて導出した前記油膜厚さおよび前記パラメータを用いて前記装置の状態を診断する診断工程を更に有することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の状態検出方法。
【請求項7】
複数の部位を潤滑剤にて潤滑させる構成の装置内における前記潤滑剤による油膜の状態を検出する状態検出装置であって、
前記複数の部位から構成される電気回路に周波数を変化させながら交流電圧を印加することで前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する測定手段と、
前記潤滑剤の組成に基づいて規定される前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率、および、前記測定手段にて測定された前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記潤滑剤による油膜厚さおよび当該油膜厚さにおける電気特性を示すパラメータを導出する導出手段とを有することを特徴とする状態検出装置。
【請求項8】
コンピュータに、
複数の部位を潤滑剤にて潤滑させる構成の装置に対し、前記複数の部位から構成される電気回路に周波数を変化させながら交流電圧を印加することで前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する測定工程と、
前記潤滑剤の組成に基づいて規定される前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率、および、前記測定工程にて測定された前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記潤滑剤による油膜厚さおよび当該油膜厚さにおける電気特性を示すパラメータを導出する導出工程とを実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、油膜の状態検出方法、状態検出装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受装置では、潤滑剤(例えば、潤滑油やグリース)を用いて、その回転を潤滑する構成が広く普及している。一方、軸受装置などの回転部品に対しては、定期的に状態診断を行うことで、損傷や摩耗を早期に検知して回転部品の故障などの発生を抑制することが行われている。
【0003】
潤滑剤を用いた軸受装置では、その動作状態を診断するために、内部の状態を適切に検知することが求められる。例えば、特許文献1では、転動装置において、潤滑油の膜の厚さ及び金属の接触割合を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2019-211317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軸受装置などの装置において潤滑剤周りの状態を把握することは、その装置の損傷などを防止する上でも非常に有用である。特許文献1の方法では、潤滑剤の膜の厚さや金属の接触割合を導出することは可能であるが、転がり軸受の電気特性に関するパラメータを導出することは行っていなかった。そもそも、回転時における転がり軸受内の潤滑剤の油膜厚さは実測することが困難であるため、その油膜厚さにおける電気特性を導出することも困難となる。
【0006】
上記課題を鑑み、本願発明は、転がり軸受などの装置における潤滑剤の膜の厚さと、膜の厚さによる電気特性に関するパラメータを導出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。すなわち、複数の部位を潤滑剤にて潤滑させる構成の装置内における前記潤滑剤による油膜の状態を検出する状態検出方法であって、
前記複数の部位から構成される電気回路に周波数を変化させながら交流電圧を印加することで前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する測定工程と、
前記潤滑剤の組成に基づいて規定される前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率、および、前記測定工程にて測定された前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記潤滑剤による油膜厚さおよび当該油膜厚さにおける電気特性を示すパラメータを導出する導出工程とを有する。
【0008】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、複数の部位を潤滑剤にて潤滑させる構成の装置内における前記潤滑剤による油膜の状態を検出する状態検出装置であって、
前記複数の部位から構成される電気回路に周波数を変化させながら交流電圧を印加することで前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する測定手段と、
前記潤滑剤の組成に基づいて規定される前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率、および、前記測定手段にて測定された前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記潤滑剤による油膜厚さおよび当該油膜厚さにおける電気特性を示すパラメータを導出する導出手段とを有する。
【0009】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、プログラムであって、
コンピュータに、
複数の部位を潤滑剤にて潤滑させる構成の装置に対し、前記複数の部位から構成される電気回路に周波数を変化させながら交流電圧を印加することで前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する測定工程と、
前記潤滑剤の組成に基づいて規定される前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率、および、前記測定工程にて測定された前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記潤滑剤による油膜厚さおよび当該油膜厚さにおける電気特性を示すパラメータを導出する導出工程とを実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本願発明により、装置内の潤滑剤の膜の厚さと、膜の厚さによる電気特性に関するパラメータを導出する方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本願発明に係る診断時の装置構成の例を示す概略図。
図2】本願発明に係る軸受装置の物理モデルを示すグラフ図。
図3】本願発明に係る幾何学モデルを示すグラフ図。
図4】本願発明に係る軸受装置の等価回路を説明するための回路図。
図5】本願発明に係る軸受装置の等価回路を説明するための回路図。
図6】周波数と比誘電率および比誘電損率との関係を説明するための図。
図7】理論式への当てはめによるパラメータの導出を説明するための図。
図8】理論式への当てはめによるパラメータの導出の例を説明するための図。
図9】理論式への当てはめによるパラメータの導出の例を説明するための図。
図10】油膜厚さごとの比誘電率および比誘電損率を説明するための図。
図11】油膜厚さとパラメータの導出の例を説明するための図。
図12】油膜厚さとパラメータの導出の例を説明するための図。
図13】本願発明に係る測定時の処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本願発明を説明するための一実施形態であり、本願発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本願発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0013】
<第1の実施形態>
以下、本願発明の第1の実施形態について説明を行う。なお、以下の説明においては、転がり軸受として玉軸受を例に挙げて説明するが、これに限定するものではなく、本願発明は他の構成の転がり軸受にも適用可能である。例えば、本願発明が適用可能な転がり軸受の種類としては、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、円錐ころ軸受、円筒ころ軸受、自動調心ころ軸受などが挙げられる。
【0014】
[装置構成]
図1は、本実施形態に係る診断装置1にて診断を行う際の全体構成の一例を示す概略構成図である。図1には、本実施形態に係る状態検出方法が適用される軸受装置2と、状態検出および診断を行う診断装置1が設けられる。なお、図1に示す構成は一例であり、軸受装置2の構成などに応じて、異なる構成が用いられてよい。また、図1においては、軸受装置2は、1の転がり軸受を備える構成を示したが、これに限定するものではなく、1の軸受装置2に複数の転がり軸受が備えられてもよい。
【0015】
軸受装置2において、転がり軸受は、回転軸7を回転自在に支持する。回転軸7は、回転部品である転がり軸受を介して、回転軸7の外側を覆うハウジング(不図示)に支持される。転がり軸受は、ハウジングに内嵌される固定輪である外輪(外方部材)3、回転軸7に外嵌される回転輪である内輪(内方部材)4、内輪4及び外輪3との間に配置された複数の転動体5である複数の玉(ころ)、および転動体5を転動自在に保持する保持器(不図示)を備える。ここでは、外輪3を固定する構成としたが、内輪4が固定され、外輪3が回転するような構成であってもよい。また、転動体5周辺へのごみの侵入や潤滑油の漏れを防止するための周辺部材であるシール6が設けられる。転がり軸受内部において、所定の潤滑方式により、内輪4と転動体5の間、および、外輪3と転動体5の間の摩擦が軽減される。潤滑方式は特に限定するものではないが、例えば、グリース潤滑や油潤滑などが用いられ、転がり軸受内部に供給されている。潤滑剤の種類についても特に限定するものではない。
【0016】
モータ10は、駆動用のモータであり、回転軸7に対して回転による動力を供給する。回転軸7は、回転コネクタ9を介してLCRメータ8に接続される。回転コネクタ9は、例えば、カーボンブラシを用いて構成されてよく、これに限定するものではない。また、軸受装置2もLCRメータ8に電気的に接続され、このとき、LCRメータ8は、軸受装置2に対する交流電源としても機能する。
【0017】
診断装置1は、本実施形態に係る検出方法を実行可能な検出装置として動作する。診断装置1は、診断の際に、LCRメータ8に対して交流電源の角周波数ω、および交流電圧Vを入力として指示し、それに対する出力としてLCRメータ8から軸受装置2のインピーダンス|Z|(|Z|は、Zの絶対値を示す)、および位相角θを取得する。そして、診断装置1はこれらの値を用いて軸受装置2における潤滑剤の状態に関する情報の検出を行う。検出方法の詳細については、後述する。
【0018】
診断装置1は、例えば、不図示の制御装置、記憶装置、および出力装置を含んで構成される情報処理装置にて実現されてよい。制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Single Processor)、または専用回路などから構成されてよい。記憶装置は、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の揮発性および不揮発性の記憶媒体により構成され、制御装置からの指示により各種情報の入出力が可能である。出力装置は、スピーカやライト、或いは液晶ディスプレイ等の表示デバイス等から構成され、制御装置からの指示により、作業者への報知を行う。出力装置による報知方法は特に限定するものではないが、例えば、音声による聴覚的な報知であってもよいし、画面出力による視覚的な報知であってもよい。また、出力装置は、通信機能を備えたネットワークインターフェースであってもよく、ネットワーク(不図示)を介した外部装置(不図示)へのデータ送信により報知動作を行ってもよい。ここでの報知内容は、例えば、検出結果に基づいて、異常診断を行った場合、異常が検出された際の報知に限定するものではなく、軸受装置2が正常である旨の報知を含んでもよい。
【0019】
[物理モデル]
図2を用いて軸受装置2における転動体5と外輪3(または、内輪4)の接触状態について説明する。図2は、ボール片とディスク片とが接触した際の物理モデルを示すグラフである。ボール片が転動体に対応し、ディスク片が外輪3(または、内輪4)に対応する。h軸は、油膜厚さ方向を示し、y軸は油膜厚さ方向と直交する方向を示す。また、図2に示す各変数はそれぞれ以下の通りである。
:Hertzian接触面積(Hertzian接触域)
c:Hertzian接触円半径(=√(S/π))
α:油膜の破断率(金属接触割合)(0≦α<1)
:ボール片の半径
αS:実接触領域(油膜の破断領域)
h:油膜厚さ
:Hertzian接触域における油膜厚さ
【0020】
Hertzian接触域において、金属が接触している面積と接触していない面積の割合はα:(1-α)となる。また、ボール片とディスク片とが接触していない理想状態ではα=0であり、y=0の場合にh>0となる。
【0021】
図2に示す油膜厚さhは以下の式にて表される。
h=0 (-αS/2≦y≦αS/2)
h=h (-c≦y<-αS/2、または、αS/2<y≦c)
h=h+√(rb-c)-√(rb-y) (-r≦y<-c、または、c<y≦r) …(1)
【0022】
なお、実際の転がり軸受において転動体5は荷重を受ける際に弾性変形が生じるため、厳密には球体とはならないが、本実施形態では、球体であるものとして上記の式(1)を用いている。したがって、油膜厚さを求める際に用いられる式は式(1)に限定するものではなく、他の算出式を用いてもよい。
【0023】
図3は、転がり軸受における幾何学モデルを示す図である。x軸は、y軸およびh軸それぞれに直交する軸方向を示す。図3に示す各変数はそれぞれ以下の通りである。また、図2と同じ記号は対応しているものとする。
:有効半径(x軸)
:有効半径(y軸)
:Hertzian接触域における油膜厚さ
:ボール片の半径
【0024】
図3に示すように、y軸周りに転動体5が回転するものとし、y軸方向に荷重(アキシアル荷重)が加わるものとして説明する。
【0025】
[等価電気回路]
図4は、図2に示した物理モデルを電気的に等価な電気回路(等価回路)にて示した図である。等価回路E1は、抵抗R、抵抗R、コンデンサC、およびコンデンサCから構成される。抵抗Rは、破断領域(=αS)における抵抗に相当する。抵抗Rは、破断領域周辺における抵抗に相当する。コンデンサCは、Hertzian接触域における油膜により形成されるコンデンサに相当し、静電容量Cとする。コンデンサCは、Hertzian接触域の周辺(図2の-r≦y<-c、および、c<y≦r)における油膜により形成されるコンデンサに相当し、静電容量Cとする。Hertzian接触域(=S)が、図4の等価回路E1における抵抗RとコンデンサCの並列回路を形成する。また、Hertizain接触域周辺が、図4の等価回路E1における抵抗RとコンデンサCの並列回路を形成する。更に、これらの並列回路が並列に接続されることで、等価回路E1が形成される。このとき、Hertzian接触域の周辺(図2の-r≦y<-c、および、c<y≦r)では、潤滑剤が充填されているものとする。
【0026】
等価回路E1のインピーダンスをZにて示す。ここで、等価回路E1に印加される交流電圧V、等価回路E1を流れる電流I、および、等価回路E1全体の複素数インピーダンスZは以下の式(2)~(4)にて示される。
V=|V|exp(jωt) …(2)
I=|I|exp(jωt-jθ) …(3)
Z=V/I=|V/I|exp(jθ)=|Z|exp(jθ) …(4)
j:虚数
ω:交流電圧の角周波数
t:時間
θ:位相角(電圧と電流の位相のずれ)
【0027】
図5は、図4にて示した等価回路E1に基づいて、1の転動体5周りにおける電気的に等価な電気回路を示した図である。1の転動体5に着目すると、外輪3と転動体5の間、および、内輪4と転動体5の間において等価回路E2が形成される。ここでは、上側を外輪3と転動体5にて形成される電気回路とし、下側を内輪4と転動体5にて形成される電気回路として説明するが、逆であってもよい。1の転動体5の周りにおいて、これらの電気回路が直列に接続されて等価回路E2が形成されることとなる。
【0028】
[アキシアル荷重下における油膜誘電率]
本実施形態では、転がり軸受に対して、アキシアル荷重が回転軸7を介して加えられた状態における比誘電率および比誘電損率について説明する。図5にて示した等価回路E2によると、各抵抗およびコンデンサの値は以下の式にて定義される。
【0029】
【数1】
【0030】
【数2】
【0031】
【数3】
【0032】
【数4】
【0033】
【数5】
【0034】
【数6】
【0035】
ε:油膜(潤滑剤)の誘電率
ε’:油膜の比誘電率
ε”:油膜の比誘電損率
Z:回路全体のインピーダンス
:Hertzian接触域における抵抗
:Hertzian接触域周辺の抵抗
:Hertzian接触域における静電容量
:Hertzian接触域周辺における静電容量
S:Hertzian接触面積
k:転がり軸受数
n:全転動体数
l:1の転動体当たりの接触領域の数
ω:交流電圧の角周波数
θ:位相角
h:油膜厚さ
r:転動体の有効半径
:転動体の有効半径(x軸)
:転動体の有効半径(y軸)
π:円周率
ln:対数関数
【0036】
上記の式(5)~(10)に基づいて、比誘電率ε’および比誘電損率ε”について整理すると以下の式が求められる。
【0037】
【数7】
【0038】
【数8】
【0039】
本実施形態では、アキシアル荷重下における転がり軸受の比誘電率および比誘電損率の導出において、上記の式(11)、式(12)を用いる。
【0040】
[比誘電率および比誘電損率]
図6は、周波数の変化に応じた比誘電率や比誘電損率の変化の傾向を説明するための図である。ここでは、図1に示す構成において、以下の条件により試験を行うことで転がり軸受内の潤滑剤の比誘電率ε’および比誘電損率ε”を測定し、転がり軸受内の潤滑剤による誘電緩和現象を確認している。このとき、上述した式(11)、式(12)を用いて比誘電率ε’および比誘電損率ε”の導出を行っている。ここでは一例として、式(7)、式(8)における油膜厚さhを250nmとして設定している。
【0041】
(試験条件)
軸受:深溝玉軸受(銘番:6306)
回転速度:997[min-1
アキシアル荷重:1000[N]
ラジアル荷重:0[N]
温度:23[℃]
潤滑剤:12-OHステアリン酸系グリース
潤滑剤の基油:エステル油
交流電圧:1.0[V]
交流電源の周波数:20~1M[Hz]
【0042】
図6(a)において、横軸は周波数[Hz]の対数を示し、縦軸は比誘電率ε’を示す。図6(a)は、上記の試験結果として得られた実験値を示す。図6(a)に示すように、周波数が増加することに伴って、比誘電率ε’は低下(単調減少)する傾向を有する。
【0043】
図6(b)において、横軸は周波数[Hz]の対数を示し、縦軸は比誘電損率ε”を示す。図6(b)は、上記の試験結果として得られた実験値を示す。図6(b)に示すように、比誘電損率ε”は、周波数が増加するに伴って一旦低下した後、上昇に転じ、その後、また減少する傾向を有する。
【0044】
[理論式への当てはめ]
次に、転がり軸受内の潤滑剤による誘電緩和現象に関するパラメータの導出について説明する。転がり軸受内の潤滑剤の誘電緩和現象により、比誘電率や比誘電損率は、図6にて示したような変化傾向を有する。この変化傾向を特定するために理論式へ当てはめ(フィッティング)、各種パラメータを導出する。本実施形態では、低周波極限での比誘電率εr0、高周波極限での比誘電率εr∞、緩和強度(εr0-εr∞)、緩和時間τ、緩和時間の分布を示す定数β、および直流導電率σを導出対象のパラメータとして説明する。本実施形態では、以下の理論式を用いる。
【0045】
【数9】
【0046】
【数10】
【0047】
【数11】
【0048】
εr0:低周波極限での比誘電率
εr∞:高周波極限での比誘電率
τ:緩和時間[s]
β:緩和時間の分布を表す定数
σ:直流導電率[S/m]
ε:真空の誘電率
π:円周率
f:周波数
【0049】
図7は、上記の理論式への当てはめにより得られる曲線と、実験により得られる値とを比較したものである。図7(a)において、横軸は周波数[Hz]を示し、縦軸は比誘電率ε’を示す。図7(b)において、横軸は周波数[Hz]を示し、縦軸は比誘電損率ε”を示す。図7(a)に示すように、比誘電率について、当てはめにより理論値は実験値の傾向を表現できている。また、図7(b)に示すように、比誘電損率についても、当てはめにより理論値は実験値の傾向を表現できている。
【0050】
上記の理論式への当てはめを行うことで、潤滑剤に関する電気特性のパラメータとして、低周波極限での比誘電率εr0、高周波極限での比誘電率εr∞、緩和強度(εr0-εr∞)、緩和時間τ、緩和時間の分布を示す定数β、および直流導電率σを導出することが可能となる。なお、上記の理論式はCole-Cole型の理論式をベースとしたものであり、一例に過ぎない。そのため、この理論式に限定するものでは無く、他の理論式を用いてもよい。
【0051】
[パラメータの導出]
(電気特性に関するパラメータ)
上述した方法にて、電気特性に関するパラメータを導出する例について説明する。図8は、上記の試験条件下にて測定した実験結果と、それを理論式に当てはめすることにより得られた理論値の曲線を示す。ここでは、転がり軸受内の潤滑剤の油膜厚さhを250nmと仮定した例を示している。図7(a)において、横軸は周波数[Hz]の対数を示し、縦軸は比誘電率ε’を示す。図7(b)において、横軸は周波数[Hz]の対数を示し、縦軸は比誘電損率ε”を示す。
【0052】
図9は、図8にて示した当てはめした結果に基づいて導出された、比誘電率、緩和強度、緩和時間、緩和時間の分布、および直流導電率を示す。
【0053】
(油膜厚さ)
図8図9の例では、油膜厚さhを250nmに設定していた。つまり、上記の式(11)、式(12)を用いる場合、比誘電率ε’や比誘電損率ε”を算出するためには、油膜厚さhを設定する必要がある。言い換えると、比誘電率ε’や比誘電損率ε”の値は、油膜厚さhの値によって変化する。
【0054】
図10は、油膜厚さを異なる値に設定した得られた実験値を示す。ここでは、油膜厚さhとして、200nm、250nm、および300nmの3つの値を用いて比較を行う。図10(a)において、横軸は周波数[Hz]の対数を示し、縦軸は比誘電率ε’を示す。図10(b)において、横軸は周波数[Hz]の対数を示し、縦軸は比誘電損率ε”を示す。
【0055】
図10に示すように、油膜厚さhが変化することで、比誘電率ε’や比誘電損率ε”の値は変化している。一方、油膜厚さhの設定を変更した場合でも、周波数を掃引して得られる実験値の変化の傾向には変動がない。例えば、比誘電率ε’は、図10(a)に示すように、油膜厚さhの変化に伴う変化量は、いずれの周波数においても一定である。同様に、比誘電損率ε”は、図10(b)に示すように、油膜厚さhの変化に伴う変化量は、いずれの周波数においても一定である。
【0056】
上記の特性を踏まえ、転がり軸受の回転時の電気特性に関するパラメータと油膜厚さを同時に導出することを考える。ここで、高周波極限の比誘電率εr∞は、潤滑剤を構成する増ちょう剤の量と基油の種類により特定することができる。そこで、まず、転がり軸受にて用いている潤滑剤における増ちょう剤の量と基油の種類から、高周波極限の比誘電率εr∞の値を特定する。ここでの高周波極限の比誘電率εr∞は、潤滑剤がバルク状態の値であってよい。そして、この高周波極限の比誘電率εr∞の値を境界条件として式(13)、式(14)に設定することで、油膜厚さhを一意に特定でき、また、実験値に対応する曲線を特定することができる。つまり、図10(a)に示す例の場合、高周波極限の比誘電率εr∞に相当する右端の位置を特定することで、各周波数における比誘電率ε’の値を特定することができる。
【0057】
図11は、高周波極限の比誘電率εr∞の値を特定することで、得られた実験値、および当てはめによる理論値を示す。図11(a)において、横軸は周波数[Hz]の対数を示し、縦軸は比誘電率ε’を示す。図11(b)において、横軸は周波数[Hz]の対数を示し、縦軸は比誘電損率ε”を示す。また、図12は、図11にて示した当てはめした結果に基づいて導出される低周波極限での比誘電率、緩和強度、緩和時間、緩和時間の分布、および直流導電率を示す。上述したように、高周波極限の比誘電率εr∞の値は、潤滑剤の組成に基づいて決定したものであり、ここではバルク状態の値を用いている。
【0058】
その結果、低周波極限での比誘電率、緩和強度、緩和時間、緩和時間の分布、直流導電率、および油膜厚さを同時に導出することができる。
【0059】
[処理フロー]
図13は、本実施形態に係る状態診断処理のフローチャートである。本処理は、診断装置1により実行され、例えば、診断装置1が備える制御装置(不図示)が本実施形態に係る処理を実現するためのプログラムを記憶装置(不図示)から読み出して実行することにより実現されてよい。
【0060】
S1301にて、診断装置1は、軸受装置2に対して、所定の荷重方向にアキシアル荷重が与えられるように制御する。なお、アキシアル荷重を与える制御は、診断装置1とは別の装置により行われてもよい。この時、静的接触状態における位相とインピーダンスを測定する。
【0061】
S1302にて、診断装置1は、モータ10により回転軸7の回転を開始させる。これにより回転軸7に接続された内輪4の回転が開始される。なお、モータ10の制御は、診断装置1とは別の装置により行われてもよい。
【0062】
S1303にて、診断装置1は、LCRメータ8に対し、LCRメータ8が備える交流電源(不図示)を用いて角周波数ωの交流電圧Vを軸受装置2に与えるように制御する。これにより、軸受装置2には、角周波数ωの交流電圧Vが印加されることとなる。
【0063】
S1304にて、診断装置1は、S1303の入力に対する出力として、LCRメータ8からインピーダンス|Z|および位相角θを取得する。つまり、LCRメータ8は、入力である交流電圧Vおよび交流電圧の角周波数ωに対する軸受装置2の検出結果として、インピーダンス|Z|および位相角θを診断装置1に出力する。
【0064】
S1305にて、診断装置1は、軸受装置2にて用いられている潤滑剤の組成に基づく高周波極限での比誘電率εr∞の値を取得する。なお、高周波極限での比誘電率εr∞の値は、潤滑剤の組成に対応して予め規定されているものとする。高周波極限での比誘電率εr∞の情報は、診断装置1の記憶装置(不図示)に保持されていてもよいし、ユーザが個別に設定できるような構成であってもよい。
【0065】
S1306にて、診断装置1は、S1304にて取得したインピーダンス|Z|および位相角θ、S1303にて指示した角周波数ωの交流電圧Vの情報、および、S1305にて取得した高周波極限での比誘電率εr∞の値を用いて、油膜厚さhおよび理論値に対応する曲線を特定する。具体的には、上述した式(13)~式(15)を用いて、実験値の当てはめを行うことで、油膜厚さhと図11に示すような曲線を求める。
【0066】
S1307にて、診断装置1は、S1306の当てはめの結果として得られる曲線から各種パラメータを導出する。本実施形態では、低周波極限での比誘電率、緩和強度、緩和時間、緩和時間の分布、および直流導電率を求める。
【0067】
S1308にて、診断装置1は、S1306にて特定した油膜厚さ、およびS1307にて導出した各種パラメータに基づいて、潤滑剤の状態診断を行う。ここでの診断内容は特に限定するものでは無いが、例えば、各パラメータに対して閾値を設定しておき、その閾値との比較により正常または異常を診断するような構成であってもよい。また、異常の緊急度に応じた複数の閾値を設定しておき、それらの閾値との比較により、緊急度を診断するような構成であってもよい。
【0068】
S1309にて、診断装置1は、S1308にて得られた診断結果をユーザに対して報知する。ここでの報知方法は特に限定するものでは無いが、例えば、異常と判断したパラメータや項目を画面上で表示したり、音声にて通知したりするような構成であってよい。そして、本処理フローを終了する。
【0069】
以上、本実施形態により、転がり軸受などにおいて潤滑剤の油膜の厚さの実測が困難な場合でも、油膜の厚さを特定し、また、油膜に応じた電気特性に関するパラメータを導出することができる。そして、これらに基づき、容易に状態診断を行うことが可能となる。
【0070】
なお、上記の例では、高周波極限での比誘電率εr∞を設定することで、各種パラメータを導出していた。しかし、この構成に限定するものではない。例えば、上記の式(7)、式(8)では、油膜厚さhを含む関数であった。ここで、油膜厚さhは交流電圧の角周波数ωによっては変化しないパラメータであることから、dh/dω=0として誘電率を導出するような構成の式を用いてもよい。また、転がり軸受の運転条件や設計パラメータに基づいて、油膜厚さhを算出し、この値を用いて各種パラメータを算出するような構成であってもよい。
【0071】
<その他の実施形態>
上記の実施形態では、軸受装置を例に挙げて説明したが、これに限定するものではない。図2図5を用いて示したように幾何学モデルと等価回路を設定することで、他の装置にも本願発明は適用可能である。例えば、第1の実施形態にて述べた転がり軸受内の潤滑剤の油膜厚さはμm~nm程度のオーダーが想定される。したがって、このようなサイズにおける物質の測定を行う際に、本願発明に係る手法を適用してよい。そのほか、適用する装置として、潤滑剤を利用した転動装置などに本願発明に係る手法は適用可能である。
【0072】
また、本願発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0073】
また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array))によって実現してもよい。
【0074】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0075】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 複数の部位を潤滑剤にて潤滑させる構成の装置内における前記潤滑剤による油膜の状態を検出する状態検出方法であって、
前記複数の部位から構成される電気回路に周波数を変化させながら交流電圧を印加することで前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する測定工程と、
前記潤滑剤の組成に基づいて規定される前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率、および、前記測定工程にて測定された前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記潤滑剤による油膜厚さおよび当該油膜厚さにおける電気特性を示すパラメータを導出する導出工程とを有することを特徴とする状態検出方法。
この構成によれば、装置内の潤滑剤の膜の厚さと、膜の厚さによる電気特性に関するパラメータを同時に導出する方法を提供することが可能となる。
【0076】
(2) 前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率は、バルク状態における前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率であることを特徴とする(1)に記載の状態検出方法。
この構成によれば、バルク状態の潤滑剤の高周波極限における比誘電率を用いることで、容易に装置内の潤滑剤の膜の厚さと、膜の厚さによる電気特性に関するパラメータを同時に導出することが可能となる。
【0077】
(3) 前記パラメータは、低周波極限での比誘電率、緩和強度、緩和時間、緩和時間の分布、および直流導電率の少なくともいずれかを含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の状態検出方法。
この構成によれば、装置内の潤滑剤の状態に応じたパラメータとして、低周波極限での比誘電率、緩和強度、緩和時間、緩和時間の分布、および直流導電率を導出することができる。
【0078】
(4) 前記装置は、転動装置であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の状態検出方法。
この構成によれば、転動装置を対象として、転動装置内の潤滑剤の膜の厚さおよび膜の厚さによる電気特性に関するパラメータを同時に導出することができる。
【0079】
(5) 前記装置は、軸受装置であり、
前記複数の部位は、外方部材、内方部材、および転動体を含む
ことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の状態検出方法。
この構成によれば、転がり軸受を対象として、転がり軸受内の潤滑剤の膜の厚さおよび膜の厚さによる電気特性に関するパラメータを同時に導出することができる。
【0080】
(6) 前記導出工程にて導出した前記油膜厚さおよび前記パラメータを用いて前記装置の状態を診断する診断工程を更に有することを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の状態検出方法。
この構成によれば、導出した潤滑剤の油膜厚さおよびパラメータに基づいて、装置の状態診断を行うことが可能となる。
【0081】
(7) 複数の部位を潤滑剤にて潤滑させる構成の装置内における前記潤滑剤による油膜の状態を検出する状態検出装置であって、
前記複数の部位から構成される電気回路に周波数を変化させながら交流電圧を印加することで前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する測定手段と、
前記潤滑剤の組成に基づいて規定される前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率、および、前記測定手段にて測定された前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記潤滑剤による油膜厚さおよび当該油膜厚さにおける電気特性を示すパラメータを導出する導出手段とを有することを特徴とする状態検出装置。
この構成によれば、装置内の潤滑剤の膜の厚さと、膜の厚さによる電気特性に関するパラメータを同時に導出する方法を提供することが可能となる。
【0082】
(8) コンピュータに、
複数の部位を潤滑剤にて潤滑させる構成の装置に対し、前記複数の部位から構成される電気回路に周波数を変化させながら交流電圧を印加することで前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する測定工程と、
前記潤滑剤の組成に基づいて規定される前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率、および、前記測定工程にて測定された前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記潤滑剤による油膜厚さおよび当該油膜厚さにおける電気特性を示すパラメータを導出する導出工程とを実行させるためのプログラム。
この構成によれば、装置内の潤滑剤の膜の厚さと、膜の厚さによる電気特性に関するパラメータを同時に導出する方法を提供することが可能となる。
【0083】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0084】
なお、本出願は、2020年9月29日出願の日本特許出願(特願2020-163963)、および、2021年8月25日出願の日本特許出願(特願2021-137564)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0085】
1…診断装置
2…軸受装置
3…外輪(外方部材)
4…内輪(内方部材)
5…転動体
6…シール
7…回転軸
8…LCRメータ
9…回転コネクタ
10…モータ
【要約】
複数の部位を潤滑剤にて潤滑させる構成の装置内における前記潤滑剤による油膜の状態を検出する状態検出方法であって、前記複数の部位から構成される電気回路に周波数を変化させながら交流電圧を印加することで前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定する測定工程と、前記潤滑剤の高周波極限における比誘電率、および、前記測定された前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記潤滑剤による油膜厚さおよび当該油膜厚さにおける電気特性を示すパラメータを導出する導出工程とを有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13