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特許7057901切削加工補助潤滑材、切削加工補助潤滑シート、及び切削加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】切削加工補助潤滑材、切削加工補助潤滑シート、及び切削加工方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 107/34 20060101AFI20220414BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20220414BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALI20220414BHJP
   B23B 35/00 20060101ALI20220414BHJP
   B23B 47/00 20060101ALI20220414BHJP
   C10M 125/02 20060101ALN20220414BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20220414BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220414BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20220414BHJP
【FI】
C10M107/34
C10M169/04
B23Q11/10 Z
B23B35/00
B23B47/00 B
C10M125/02
C10N20:04
C10N30:00 Z
C10N40:22
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019520300
(86)(22)【出願日】2018-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2018019938
(87)【国際公開番号】W WO2018216756
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2017103798
(32)【優先日】2017-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】堀江 茂
(72)【発明者】
【氏名】松山 洋介
(72)【発明者】
【氏名】中村 和宏
(72)【発明者】
【氏名】石蔵 賢二
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/22822(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/141299(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/132837(WO,A1)
【文献】特開2003-225814(JP,A)
【文献】特開2001-347602(JP,A)
【文献】特開平10-110183(JP,A)
【文献】特開昭56-95991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
B23Q11/10
B23B35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が5.0×10以上2.0×10以下であるポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体を含む、
切削加工補助潤滑材。
【請求項2】
前記ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体におけるポリエチレンオキサイド由来の構成単位の含有量が、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体全体の80~95質量%であり、残部がポリプロピレンオキサイド由来の構成単位である、
請求項1に記載の切削加工補助潤滑材。
【請求項3】
前記ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体ではない、重量平均分子量が5.0×10以上1.0×10以下である高分子量化合物(A)と、
重量平均分子量が1.0×10以上5.0×10未満である中分子量化合物(B)と、
を更に含む、
請求項1又は2に記載の切削加工補助潤滑材。
【請求項4】
黒鉛(C)を更に含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材。
【請求項5】
前記高分子量化合物(A)は、重量平均分子量が5.0×10以上1.0×10以下である熱可塑性樹脂を含み、
前記中分子量化合物(B)は、重量平均分子量が1.0×10以上5.0×10未満である熱可塑性樹脂を含む、
請求項3又は4に記載の切削加工補助潤滑材。
【請求項6】
前記高分子量化合物(A)が、水溶性熱可塑性樹脂及び/又は非水溶性熱可塑性樹脂を含み、
前記水溶性熱可塑性樹脂が、ポリアルキレンオキサイド化合物、ポリアルキレングリコール化合物、ポリアルキレングリコールのエステル化合物、ポリアルキレングリコールのエーテル化合物、ポリアルキレングリコールのモノステアレート化合物、水溶性ウレタン、ポリエーテル系水溶性樹脂、水溶性ポリエステル、ポリ(メタ)アクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、糖類、及び変性ポリアミドからなる群より選ばれる1種以上であり、
前記非水溶性熱可塑性樹脂が、ウレタン系重合体、アクリル系重合体、酢酸ビニル系重合体、塩化ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、ポリスチレン系樹脂、及びそれらの共重合体からなる群より選ばれる1種以上である、
請求項3~5のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材。
【請求項7】
前記高分子量化合物(A)が、重量平均分子量3.0×10以上1.0×10以下であるポリエチレンオキサイドを含む、
請求項3~6のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材。
【請求項8】
前記中分子量化合物(B)が、ポリアルキレングリコール化合物、ポリアルキレンオキサイドのモノエーテル化合物、ポリアルキレンオキサイドのモノステアレート化合物、及びポリアルキレンオキサイド化合物からなる群より選ばれる1種以上である、
請求項3~7のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材。
【請求項9】
前記ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体の含有量が、該ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体、前記高分子量化合物(A)、前記中分子量化合物(B)、及び前記黒鉛(C)の合計100質量部に対して、10~30質量部である、
請求項4~8のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材を含有する、
切削加工補助潤滑シート。
【請求項11】
前記切削加工補助潤滑材を含有する層と、
前記切削加工補助潤滑材を含有する層の少なくとも片面に形成された粘着層と、
を含有する、
請求項10に記載の切削加工補助潤滑シート。
【請求項12】
前記粘着層がアクリル系樹脂を含む、
請求項11に記載の切削加工補助潤滑シート。
【請求項13】
厚さが0.1~20mmである、
請求項10~12のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑シート。
【請求項14】
被加工材に、請求項1~9のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材、又は、請求項10~13のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑シートを配置した状態で、前記被加工材を切削加工機により加工する、
切削加工方法。
【請求項15】
前記切削加工機として孔あけ加工機を用い、前記被加工材を該孔あけ加工機により孔あけ加工する、
請求項14記載の切削加工方法。
【請求項16】
前記被加工材が、チタン合金、アルミ合金、超耐熱合金、ステンレス鋼、炭素繊維強化プラスチック、アラミド強化プラスチック、及びこれらを含む複合材料からなる群より選ばれる1種以上からなる、
請求項14又は15に記載の切削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工補助潤滑材、切削加工補助潤滑シート、及び切削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金をはじめとする金属又は合金類、繊維強化プラスチック(FRP)、セラミックス等の高強度材は産業上必須の材料であるが、所望の形状を得るための切削加工はその強度が高いほど困難であるとともに、加工に用いる工具は高価かつ短寿命となる。例えば、航空機の構造体材料として最も汎用される高強度材としてはアルミ合金が挙げられるが、チタン合金は、アルミ合金と比較して、その密度に比して破壊強度が大きいとともに、耐腐食性が高く、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)と組み合わせることにより、更なる軽量化が可能となるため、航空機の構造体材料に占めるチタン合金の割合は増加傾向にある。チタン合金は溶接が非常に困難であり、CFRPは溶接不可のため、これらの材料を用いた部材同士の接合はリベット等の締結要素を用いるのが一般的であり、ドリル等の切削工具を用いた高品質の孔あけ加工が求められる。
【0003】
また、航空機エンジン等、特に耐熱性が必要とされる部位にはインコネル(INCONEL(登録商標))、ワスパロイ(WASPALOY(登録商標))等のニッケル基合金が用いられる。航空機エンジン部品は形状が複雑なものが多く、切削加工は不可欠である。上記のような合金類はいずれも切削加工時の発熱量が大きく、熱伝導度が一般的な金属と比較して低いことから、工具に切削熱が集中し易い。このため、被削材としての材料強度の高さと切削熱により、切削加工時における切削工具の摩耗が著しくなり、切削熱と工具摩耗により、寸法精度、切削面粗さ、及びバリの発生の面で加工品質の低下を招く。また、CFRPの切削加工時に発生する切削熱は、上記の合金類のそれと比較して小さいものの、切削工具の摩耗による切れ味の低下によって炭素繊維が切れ残ることで、切削部にケバが発生し、加工品質を低下させてしまう。
【0004】
かかる高強度材及びこれらを含む複合材料(以下まとめて「難切削材」という。)の切削加工方法としては、例えば、孔あけ加工において高品質な孔を得るための技術が既にいくつか提案されている。例えば特許文献1には、工具の形状、例えばドリルのすくい面の曲率や先端角を段階的に変更する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-210689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属やFRPに対する切削加工のうち、孔あけ加工においては、ドリルが最も一般的に用いられ、特に高品質な寸法精度や切削面粗さが求められる場合には、リーマやボーリングによる仕上げ加工が行われる。また、ドリル加工により発生した入側又は抜け側のバリやケバの除去には、面取りカッタ等のバリ取り工具による仕上げ加工が行われる。難切削材のうち金属材料においては、特にドリル抜け側のバリが高くなるとバリの除去に大きな作業負荷がかかることとなり、FRPの場合はドリル抜け側に層間剥離を生じると、その修復は非常に困難となってしまう。このような仕上げ加工の作業負荷を減らすためには、下孔あけ加工や粗加工の段階での加工品質が重要となる。
【0007】
また、難切削材の切削加工においては、切削工具の摩耗が進んで切削抵抗が大きくなるほど、切削面の品質が悪化してしまうという問題が発生し易くなる。その対策として、加工品質を維持するために工具の交換時期を早める必要が生じてしまい、その結果、加工コストに占める工具費の割合が高くなっているのが現状である。
【0008】
従来の加工方法では、難切削金属の切削加工時に切削液を用いることが一般的である。切削液は、切削部の冷却と潤滑性付与を主な目的として、加工上面又は工具に設けられたオイルホールから供給される。切削液の使用により、ドリル抜け側に発生するバリをある程度低減することができる。切削液には油性のものと水溶性のものがあり、前者は特に潤滑性能に優れ、後者は冷却性能に優れる。切削加工時に発生する切削熱が問題となることが多い難切削金属の加工には水溶性切削液が用いられることが多い。
【0009】
水溶性切削液には、水溶性の潤滑成分を水溶液としたソリュブル型、油性潤滑成分を乳化分散させたエマルジョン型等があるが、いずれも人体及び環境への負荷が大きく、作業環境の悪化や廃液の問題が生じる。また、飛散の問題があるため、切削液の性能が十分に発揮される場はマシニングセンタ等の閉鎖系で加工可能な工作機に限られる。このため、航空機部品や自動車部品の組み立て現場では活躍の場が限られる。加えて、難切削金属とFRPを組み合わせて使用する場合、FRPに切削液が付着すると好ましくないため、切削液の使用は制約される。
【0010】
かかる状況下、本発明者らは、固体潤滑材を配合した水溶性樹脂組成物をシート状に成形し、被加工材となる難切削材のドリル入側又は抜け側に配することで上記シートの成分がドリル刃先に移着し、潤滑効果及び工具の刃先保護効果が得られることを見出した。しかしながら、難切削金属の孔あけ時に発生するバリや、FRPの孔あけ時に発生するケバの抑制は不十分であった。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、難切削材の切削加工、特に、難切削金属の孔あけ加工時に発生するバリや、FRPの孔あけ加工時に発生する繊維の切れ残りによるケバ等を低減することができる切削加工補助潤滑材、切削加工補助潤滑シート、及び切削加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の重量平均分子量を有するポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体を配合した切削加工補助潤滑材を用いて、被加工材を切削することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0013】
〔1〕
重量平均分子量が5.0×10以上2.0×10以下であるポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体を含む、
切削加工補助潤滑材。
【0014】
〔2〕
前記ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体におけるポリエチレンオキサイド由来の構成単位の含有量が、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体全体の80~95質量%であり、残部がポリプロピレンオキサイド由来の構成単位である、
〔1〕に記載の切削加工補助潤滑材。
【0015】
〔3〕
前記ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体ではない、重量平均分子量が5.0×10以上1.0×10以下である高分子量化合物(A)と、
重量平均分子量が1.0×10以上5.0×10未満である中分子量化合物(B)と、
を更に含む、
〔1〕又は〔2〕に記載の切削加工補助潤滑材。
【0016】
〔4〕
黒鉛(C)を更に含む、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材。
【0017】
〔5〕
前記高分子量化合物(A)は、重量平均分子量が5.0×10以上1.0×10以下である熱可塑性樹脂を含み、
前記中分子量化合物(B)は、重量平均分子量が1.0×10以上5.0×10未満である熱可塑性樹脂を含む、
〔3〕又は〔4〕に記載の切削加工補助潤滑材。
【0018】
〔6〕
前記高分子量化合物(A)が、水溶性熱可塑性樹脂及び/又は非水溶性熱可塑性樹脂を含み、
前記水溶性熱可塑性樹脂が、ポリアルキレンオキサイド化合物、ポリアルキレングリコール化合物、ポリアルキレングリコールのエステル化合物、ポリアルキレングリコールのエーテル化合物、ポリアルキレングリコールのモノステアレート化合物、水溶性ウレタン、ポリエーテル系水溶性樹脂、水溶性ポリエステル、ポリ(メタ)アクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、糖類、及び変性ポリアミドからなる群より選ばれる1種以上であり、
前記非水溶性熱可塑性樹脂が、ウレタン系重合体、アクリル系重合体、酢酸ビニル系重合体、塩化ビニル系重合体、ポリエステル系重合体、ポリスチレン系樹脂、及びそれらの共重合体からなる群より選ばれる1種以上である、
〔3〕~〔5〕のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材。
【0019】
〔7〕
前記高分子量化合物(A)が、重量平均分子量3.0×10以上1.0×10以下であるポリエチレンオキサイドを含む、
〔3〕~〔6〕のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材。
【0020】
〔8〕
前記中分子量化合物(B)が、ポリアルキレングリコール化合物、ポリアルキレンオキサイドのモノエーテル化合物、ポリアルキレンオキサイドのモノステアレート化合物、及びポリアルキレンオキサイド化合物からなる群より選ばれる1種以上である、
〔3〕~〔7〕のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材。
【0021】
〔9〕
前記ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体の含有量が、該ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体、前記高分子量化合物(A)、前記中分子量化合物(B)、及び前記黒鉛(C)の合計100質量部に対して、10~30質量部である、
〔4〕~〔8〕のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材。
【0022】
〔10〕
〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材を含有する、
切削加工補助潤滑シート。
【0023】
〔11〕
前記切削加工補助潤滑材を含有する層と、
前記切削加工補助潤滑材を含有する層の少なくとも片面に形成された少なくとも片面に形成された粘着層と、
を含有する、
〔10〕に記載の切削加工補助潤滑シート。
【0024】
〔12〕
前記粘着層がアクリル系樹脂を含む、
〔11〕に記載の切削加工補助潤滑シート。
【0025】
〔13〕
厚さが0.1~20mmである、
〔10〕~〔12〕のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑シート。
【0026】
〔14〕
被加工材に、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑材、又は、〔10〕~〔13〕のいずれか一項に記載の切削加工補助潤滑シートを配置した状態で、前記被加工材を切削加工機により加工する、
切削加工方法。
【0027】
〔15〕
前記切削加工機として孔あけ加工機を用い、前記被加工材を該孔あけ加工機により孔あけ加工する、
〔14〕の切削加工方法。
【0028】
〔16〕
前記被加工材が、チタン合金、アルミ合金、超耐熱合金、ステンレス鋼、炭素繊維強化プラスチック、アラミド強化プラスチック、及びこれらを含む複合材料からなる群より選ばれる1種以上からなる、
〔14〕又は〔15〕に記載の切削加工方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、難切削材の切削加工、特に、難切削金属の孔あけ加工時に発生するバリや、FRPの孔あけ加工時に発生する繊維の切れ残りによるケバ等を低減することができる切削加工補助潤滑材、切削加工補助潤滑シート、及び切削加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態(以下「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、本実施形態における「重量平均分子量」は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0031】
〔切削加工補助潤滑材〕
本実施形態の切削加工補助潤滑材は、所定の重量平均分子量を有するポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体を含む。
【0032】
〔ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体〕
ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体は、重量平均分子量が5.0×10以上2.0×10以下のものであり、好ましくは6.0×10以上1.8×10以下のものであり、より好ましくは7.0×10以上1.5×10以下のものである。ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体の重量平均分子量が上記範囲内であることにより、潤滑性を損なうことなく切削工具刃先への潤滑材の移着性が更に向上する傾向にある。一方で、重量平均分子量が2.0×10を超過する場合、タック性が不足し潤滑性を発揮するのに十分な工具刃先への潤滑材移着が得られない。
【0033】
ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体の重合形態は、特に限定されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等、区別なく用いることができる。また、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体の分子構造は、直鎖状のものの他、部分的に分岐や環状構造を含むものを区別なく用いることができる。さらに、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体としては、その末端官能基が水酸基であるものの他、共重合体の熱安定性を損なわず、被加工材に対して腐食その他の劣化を生じない官能基により化学修飾されたものを用いることができる。このような官能基としては、アルコキシ基、カルボン酸エステル等が挙げられるが、これに限定されない。これらのポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体は、それぞれ、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
かかるポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体を切削加工補助潤滑材に配合することにより、切削加工補助潤滑材に適度の柔軟性とタック性を付与することができ、潤滑性を損なうことなく切削工具刃先への潤滑材の移着性を向上させることができる。ここで、切削加工補助潤滑材は、その形態にかかわらず、切削工具刃先又はその周辺へ移着し、切削時に刃先と被加工材との摺動部分に介在して潤滑性を発揮することにより摩擦を低減し、摩擦熱による工具損耗及び被加工材の加工品質低下を抑制することを作用機序としている。したがって、切削加工補助潤滑材の切削工具刃先への移着性を向上することにより、切削加工時における潤滑材の供給量を有効に増大させることができ、潤滑性をより効果的に発現させることが可能となる。
【0035】
特に、エチレンオキサイド単独重合体と比較して、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体とすることにより、樹脂の結晶性が低下し、これにより柔軟でタック性のある樹脂物性となる。このようなポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体の特性が、上述の柔軟性とタック性の付与に貢献し、潤滑性のより効果的な発現に寄与する。他方で、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体のタック性は、分子量の増加とともに低下する傾向にある一方、樹脂の分子量の低下は樹脂の低粘度化につながり、潤滑性を低下させる。そのため、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体の重量平均分子量は前述の範囲内であることが必要となる。
【0036】
ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体中のエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの重合比は、特に限定されないが、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体におけるポリエチレンオキサイド由来の構成単位の含有量が、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体全体の好ましくは80~95質量%であり、より好ましくは84~94質量%であり、更に好ましくは87~93質量%であり、残部がポリプロピレンオキサイド由来の構成単位である。ポリエチレンオキサイド由来の構成単位とポリプロピレンオキサイド由来の構成単位の含有量が上記範囲内であることにより、潤滑性を損なうことなく切削工具刃先への潤滑材の移着性がより向上する傾向にある。
【0037】
ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体の含有量は、特に限定されないが、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体、後述する高分子量化合物(A)、及び後述する中分子量化合物(B)の合計量100質量部に対して、或いは、後述する黒鉛(C)が更に含まれる場合にはその黒鉛(C)をも含む合計100質量部に対して、好ましくは10~30質量部であり、より好ましくは12~25質量部であり、更に好ましくは15~20質量部である。ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体の含有量が上記範囲内であることにより、潤滑性を損なうことなく切削工具刃先への潤滑材の移着性が更に向上する傾向にある。
【0038】
また、後述する高分子量化合物(A)を用いる場合において、高分子量化合物(A)の含有量に対するポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体の含有量の比は、好ましくは0.1~3以下であり、より好ましくは0.2~1以下であり、さらに好ましくは0.3~0.75以下である。潤滑性を発揮する高分子量化合物(A)と、移着性を発揮し潤滑性をより効果的に発現させるポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体とを、上記比率で用いることにより、両者の相乗的な効果により、バリやケバ等を一層低減することができる。
【0039】
〔高分子量化合物(A)〕
本実施形態の切削加工補助潤滑材は、高分子量化合物(A)を更に含むことが好ましい。高分子量化合物(A)としては、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体ではない、重量平均分子量が5.0×10以上1.0×10以下のものであり、好ましくは6.0×10以上8.0×10以下のものでありであり、より好ましくは1.0×10以上7.0×10以下のものでありであり、更に好ましくは1.25×10以上6×10以下のものである。
【0040】
かかる高分子量化合物(A)を切削加工補助潤滑材に配合することにより、高分子量化合物(A)が潤滑材として機能し、切削加工補助潤滑材の潤滑性を向上させ、バリやケバ等を一層低減することができる。また、高分子量化合物(A)が成形剤としても機能し、切削加工補助潤滑材の成形性を向上させ、単層形成性(支持基材を用いることなく、それ自体で層(シート)を形成することができる特性)を発現させ易くなる。
【0041】
高分子量化合物(A)の種類としては、特に限定されず、水溶性若しくは非水溶性の熱可塑性樹脂又は水溶性若しくは非水溶性の熱硬化性樹脂が挙げられる。このなかでも、水溶性熱可塑性樹脂及び/又は非水溶性熱可塑性樹脂が好ましく、水溶性熱可塑性樹脂がより好ましい。なお、「水溶性」の「樹脂」とは、25℃、1気圧において、水100gに対し、1g以上溶解する高分子量化合物をいう(以下同様)。また、これらの高分子量化合物(A)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。高分子量化合物(A)を2種以上併用する場合には、それぞれの化合物が、上記重量平均分子量を満たすことが好ましい。
【0042】
水溶性熱可塑性樹脂又は水溶性熱硬化性樹脂を用いた場合、それらが有する潤滑性によって、切削加工時の切削屑の排出性が向上する傾向にある。また、水溶性熱可塑性樹脂又は水溶性熱硬化性樹脂を用いることにより、後述する切削加工補助潤滑シートの表面硬度が適度な柔らかさとなるため、切削工具への負荷を更に低減できる傾向にあり、さらに、切削加工後に切削加工箇所に付着した樹脂成分を容易に除去することが可能となる。一方、非水溶性熱可塑性樹脂又は非水溶性熱硬化性樹脂を用いた場合、水溶性熱可塑性樹脂又は水溶性熱硬化性樹脂を用いた場合に比して、後述する切削加工補助潤滑シートの表面硬度が高くなる傾向にある。これにより、例えば、切削加工時の切削工具の食い付き性が向上し、設計どおりの位置に切削部を形成することができ、さらに、後述する切削加工補助潤滑シートの剛性を高めることができるので、ハンドリング性が向上する。
【0043】
水溶性熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド化合物;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール化合物;ポリアルキレングリコールのエステル化合物;ポリアルキレングリコールのエーテル化合物;ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリプロピレングリコールモノステアレート、ポリグリセリンモノステアレート等のポリアルキレングリコールのモノステアレート化合物;水溶性ウレタン;ポリエーテル系水溶性樹脂;水溶性ポリエステル;ポリ(メタ)アクリル酸ソーダ;ポリアクリルアミド;ポリビニルピロリドン;ポリビニルアルコール;セルロース及びその誘導体等の糖類;及び変性ポリアミドからなる群より選ばれる1種以上であると好ましい。このなかでも、上述した水溶性熱可塑性樹脂が奏する作用効果をより高めることができる観点から、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、及びポリエーテル系水溶性樹脂からなる群より選ばれる1種以上がより好ましく、ポリエチレンオキサイドが更に好ましく、重量平均分子量3.0×10以上1.0×10以下であるポリエチレンオキサイドが特に好ましい。
【0044】
非水溶性熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ウレタン系重合体;アクリル系重合体;酢酸ビニル系重合体;塩化ビニル系重合体;ポリエステル系重合体;ポリエチレンワックス、スチレン単独重合体(GPPS)、スチレン-ブタジエン共重合体(HIPS)、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(例えばMS樹脂)等で例示されるポリスチレン系樹脂;及びそれらの共重合体からなる群より選ばれる1種以上であると好ましい。
【0045】
高分子量化合物(A)の含有量は、特に限定されないが、高分子量化合物(A)及び後述する中分子量化合物(B)の合計100質量部に対して、或いは、後述する黒鉛(C)が更に含まれる場合にはその黒鉛(C)をも含む合計100質量部に対して、好ましくは10~60質量部であり、より好ましくは20~55質量部であり、更に好ましくは25~50質量部であり、特に好ましくは30~45質量部である。高分子量化合物(A)の含有量が上記範囲内であることにより、切削加工補助潤滑材の潤滑性及び成形性がより向上して切削工具への負荷がより低減され、バリやケバ等をより一層低減することができる傾向にある。
【0046】
〔中分子量化合物(B)〕
本実施形態の切削加工補助潤滑材は、中分子量化合物(B)を更に含むことが好ましい。中分子量化合物(B)としては、重量平均分子量が1.0×10以上5.0×10未満のものであり、好ましくは1.25×10以上2.5×10以下のものでありであり、より好ましくは1.5×10以上2.0×10以下のものでありであり、更に好ましくは2.0×10以上1.0×10以下のものでありであり、より更に好ましくは2.5×10以上7.5×10以下のものでありであり、特に好ましくは3.0×10以上5.0×10以下のものである。
【0047】
かかる高分子量化合物(B)を切削加工補助潤滑材に配合することにより、中分子量化合物(B)も潤滑材として機能し、切削加工補助潤滑材の潤滑性を向上させ、バリやケバ等を更に一層低減することができる。また、高分子量化合物(B)が成形剤としても機能し、切削加工補助潤滑材の成形性を向上させ、単層形成性をより発現させ易くなる。
【0048】
また、例えば、切削加工補助潤滑材として、本実施形態のポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体に加え、かかるポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体ではない高分子量化合物(A)のみを用いると、切削加工補助潤滑材が著しく高粘度化したり、融点が著しく高くなったりすることに起因して、切削加工補助潤滑材の潤滑性や成形性が低下することがあり得る。或いは、本実施形態のポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体に加え、中分子量化合物(B)のみを用いると、切削加工補助潤滑材が著しく低粘度化したり、融点が著しく低くなったりすることに起因して、この場合にも、切削加工補助潤滑材の潤滑性や成形性が低下することがあり得る。これらに対し、重量平均分子量が互いに異なる高分子量化合物(A)と中分子量化合物(B)は、各々、溶融粘度及び融点も相違し得るので、本実施形態のポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体に加え、高分子量化合物(A)と中分子量化合物(B)を併用することにより、高分子量化合物(A)のみ、或いは、中分子量化合物(B)のみを添加したときに生じ得る切削加工補助潤滑材の潤滑性や成形性の低下を抑制することができる。その結果、切削工具への負荷がより低減され、バリやケバ等を更に一層低減することができる傾向にある。
【0049】
中分子量化合物(B)の種類としては、特に限定されず、水溶性若しくは非水溶性の熱可塑性樹脂又は水溶性若しくは非水溶性の熱硬化性樹脂が挙げられる。このなかでも、水溶性熱可塑性樹脂及び/又は非水溶性熱可塑性樹脂が好ましく、水溶性熱可塑性樹脂がより好ましい。これらの中分子量化合物(B)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中分子量化合物(B)を2種以上併用する場合には、それぞれの化合物が、上記重量平均分子量を満たすことが好ましい。
【0050】
水溶性熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、前述した高分子量化合物(A)として好適に用いることができる樹脂に加え、ポリエチレンオキサイドオレイルエーテル、ポリエチレンオキサイドセチルエーテル、ポリエチレンオキサイドステアリルエーテル、ポリエチレンオキサイドラウリルエーテル、ポリエチレンオキサイドノニルフェニルエーテル、ポリエチレンオキサイドオクチルフェニルエーテル等のポリアルキレンオキサイドのモノエーテル化合物;ポリエチレンオキサイドモノステアレート、ポリエチレンオキサイドソルビタンモノステアレート、ポリグリセリンモノステアレート等のポリアルキレンオキサイドのモノステアレート化合物からなる群より選ばれる1種以上で1種以上であると好ましい。このなかでも、切削加工補助潤滑材の潤滑性がより向上する観点から、ポリアルキレングリコール化合物、ポリアルキレンオキサイドのモノエーテル化合物、ポリアルキレンオキサイドのモノステアレート化合物、及びポリアルキレンオキサイド化合物からなる群より選ばれる1種以上がより好ましく、ポリエチレンオキサイドモノステアレートが更に好ましい。
【0051】
非水溶性熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、前述した高分子量化合物(A)として好適に用いることができる樹脂が挙げられる。
【0052】
中分子量化合物(B)の含有量は、特に限定されないが、高分子量化合物(A)及び中分子量化合物(B)の合計100質量部に対して、或いは、後述する黒鉛(C)が更に含まれる場合にはその黒鉛(C)をも含む合計100質量部に対して、好ましくは10~75質量部であり、より好ましくは20~60質量部であり、更に好ましくは30~45質量部であり、より更に好ましくは35~40質量部である。中分子量化合物(B)の含有量が上記範囲内であることにより、切削工具への負荷がより低減され、バリやケバ等を更に一層低減することができる傾向にある。
【0053】
〔黒鉛(C)〕
本実施形態の切削加工補助潤滑材は、黒鉛(C)を更に含むことが好ましい。黒鉛(C)としては、特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コロイド黒鉛、熱分解黒鉛、膨張化黒鉛、鱗片状黒鉛が挙げられる。このなかでも、鱗片状黒鉛が好ましい。これらの黒鉛(C)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0054】
かかる黒鉛(C)を切削加工補助潤滑材に配合することにより、黒鉛(C)が固体潤滑材として機能し、切削加工補助潤滑材の潤滑性を向上させ、切削工具の加工寿命を延ばす効果を発揮し得る。また、黒鉛(C)は、切削加工時の温度において、体積を有する固体状で存在するため、切削加工時の潤滑性を好適に維持することができる。さらに、黒鉛(C)が鱗片状黒鉛を含む場合には、摩耗低減性能がより向上する傾向にある。
【0055】
またさらに、黒鉛(C)は、切削加工補助潤滑材を用いた切削加工、特に、連続切削加工において、切削工具の表面や溝、及び被加工材の切削部の内側面に付着することにより、潤滑性を示現する。その際、黒鉛(C)は、高分子量化合物(A)及び中分子量化合物(B)に比して、温度変化に伴う体積及び硬度の変化が小さいため、切削加工を行う場合、切削工具や加工箇所の温度が上昇したとしても、一定の体積及び硬度を保つことができる。すなわち、黒鉛(C)は、切削加工を行う場合、例えば、切削工具と被加工材との間に常在して潤滑性を高め、ベアリングのような効果を奏することができるので、切削工具の摩耗をより抑制することができる。さらにまた、黒鉛(C)は、他の固体潤滑材と比較して、適度に高い硬度を有することから、上記のベアリング効果の発現性と潤滑性に特に優れる。これらの結果として、切削工具への負荷が更に一層低減し、バリやケバ等の発生を殊に一層低減することができる傾向にある。
【0056】
黒鉛(C)の含有量は、特に限定されないが、高分子量化合物(A)、中分子量化合物(B)、及び黒鉛(C)の合計100質量部に対して、好ましくは5~70質量部であり、より好ましくは15~65質量部であり、更に好ましくは20~60質量部であり、より更に好ましくは25~55質量部であり、特に好ましくは30~50質量部である。黒鉛(C)の含有量が上記範囲内であることにより、切削加工補助潤滑材の潤滑性及び成形性がより向上して切削工具への負荷がより低減され、バリやケバ等をより一層低減することができる傾向にある。
【0057】
黒鉛(C)の平均粒子径としては、特に限定されないが、好ましくは50~1000μmであり、より好ましくは100~750μmであり、さらに好ましくは150~500μmであり、特に好ましくは200~300μmである。黒鉛(C)の平均粒子径が上記範囲内であることにより、切削加工補助潤滑材の潤滑性及び成形性がより向上して切削工具(特に孔あけ加工に使用するドリル等)への負荷がより低減され、切削工具の摩耗がより抑制されて切削工具寿命が更に延び、バリやケバ等を更に一層低減することができる傾向にある。
【0058】
なお、本実施形態における黒鉛(C)の平均粒子径とは、メディアン径であり、メディアン径とは、粒子径の累積分布曲線(個数基準)から得られる、その曲線で50%の高さとなる粒子直径(D50値)を示し、実施例に記載の方法により測定することができる。また、黒鉛(C)を2種以上併用する場合には、それぞれの黒鉛が、上記平均粒子径を満たすことが好ましい。
【0059】
〔その他の成分〕
本実施形態の切削加工補助潤滑材は、上記成分の他、必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、特に限定されず、例えば、潤滑性向上成分、形成性向上成分、可塑剤、柔軟剤、表面調整剤、レベリング剤、帯電防止剤、乳化剤、消泡剤、ワックス添加剤、カップリング剤、レオロジーコントロール剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、光安定剤、核剤、有機フィラー、無機フィラー、黒鉛(C)以外の固体潤滑材、熱安定化剤、着色剤等が挙げられる。
【0060】
(潤滑性向上成分)
潤滑性向上成分としては、特に限定されないが、例えば、エチレンビスステアロアミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、メチレンビスステアルアミド等で例示されるアマイド系化合物;ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等で例示される脂肪酸系化合物;ステアリン酸ブチル、オレイン酸ブチル、ラウリン酸グリコール等で例示される脂肪酸エステル系化合物;流動パラフィン等で例示される脂肪族炭化水素系化合物;オレイルアルコール等で例示される高級脂肪族アルコールが挙げられ、これらのうち少なくとも1種を選択することができる。以下、これらの一部について説明する。
【0061】
(形成性向上成分)
形成性向上成分としては、特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性ポリイミドが挙げられ、これらのうち少なくとも1種を選択することができる。
【0062】
(可塑剤・柔軟剤)
可塑剤及び/又は柔軟剤としては、特に限定されないが、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、ポリエステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化植物油、セバシン酸エステル等が挙げられる。可塑剤及び/又は柔軟剤を含むことにより、被加工材(例えばFRP)曲面に切削加工補助潤滑材を配置した際に、例えば、切削加工補助潤滑材へ印加される応力や歪みが軽減されることにより、切削加工補助潤滑材の割れを抑制することができ、曲面追従性がより向上する傾向にある。
【0063】
(黒鉛(C)以外の固体潤滑材)
黒鉛(C)以外の固体潤滑材としては、特に限定されないが、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、モリブデン化合物、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド等が挙げられる。
【0064】
〔用途〕
本実施形態の切削加工補助潤滑材は、例えば、溶融状態(液状)の切削加工補助潤滑材として用いることができる。溶融状態の切削加工補助潤滑材の形態としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体、高分子量化合物(A)、及び中分子量化合物(B)、更に必要に応じて黒鉛(C)やその他の成分を、溶媒の存在下又は溶媒の非存在下で混合して得られる樹脂組成物が挙げられる。また、本実施形態の切削加工補助潤滑材は、切削加工補助潤滑シートや、丸棒又は角棒等の形状を有する切削加工補助潤滑ブロックといった成形体として好適に用いることができる。これらの成形体は、従来公知の方法により形成することができる。以下、特に好ましい切削加工補助潤滑シートについて説明する。
【0065】
〔切削加工補助潤滑シート〕
切削加工補助潤滑シートの形成方法としては、特に制限されず、例えば、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体、高分子量化合物(A)、及び中分子量化合物(B)、更に必要に応じて、黒鉛(C)やその他の成分を、溶媒の存在下又は溶媒の非存在下で混合して樹脂組成物とし、それを支持体に塗布後、冷却及び固化させてシート状に成形し、その後、支持体を除去及び剥離して切削加工補助潤滑シート(切削加工補助潤滑材を含有する層)を得る方法;上記樹脂組成物をシート形状に押出成形し、必要に応じて延伸することにより切削加工補助潤滑シート(切削加工補助潤滑材を含有する層)を得る方法等が挙げられる。
【0066】
切削加工補助潤滑シートの厚さ(後述する粘着層や保護層を含まない切削加工補助潤滑材を含有する層の厚さ)は、被加工材を切削加工する際の切削方法、切断方法、切削加工する部分の面積や体積、切削加工する際に使用する切削工具の大きさ、FRPの構成、その厚さ等によって適宜選択されるので、特に限定されないが、例えば、好ましくは0.1~20mmであり、より好ましくは0.2~10mmであり、更に好ましくは0.5~5mmである。
【0067】
切削加工補助潤滑シートの厚さが上記範囲内であることにより、十分な切削応力低減が得られる傾向にありまた、切削加工を行う場合に切削工具への切削加工補助潤滑材の巻き付きが減少し、切削加工補助潤滑材における亀裂発生をより抑制できる傾向にある。さらに、切削加工補助潤滑シートの厚さが上記範囲内であることにより、切削加工補助潤滑材に含まれる樹脂が切削粉のバインダーとなることを抑制でき、切削粉が切削部に留まることを低減できる傾向にある。これにより、切削部内部の凹凸が拡大することを抑制できる傾向にある。つまり、切削加工補助潤滑材の組成と厚さとを適正化することにより、潤滑性を向上させることができ、切削加工を行う場合に切削工具溝を通じた切削粉の排出を最適化できる。また、本発明の効果をより一層得るためには、切削加工補助潤滑材の総厚さを上述した厚さの範囲内で適宜制御することが好ましく、薄い切削加工補助潤滑材を複数枚重ねて使用することも可能である。
【0068】
(粘着層)
本実施形態の切削加工補助潤滑シートは、切削加工補助潤滑材を含有する層の他に、例えば、被加工材との密着性を向上させるための粘着層(被加工材と切削加工補助潤滑材とを固定するために用いる粘着性を有する化合物の層)や切削加工補助潤滑材表面の擦り傷を防止するための保護層等を有していてもよい。これらの粘着層や保護層のようなもう一つの層の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、予め形成した切削加工補助潤滑材を含有する層の少なくとも片面に、もう一つの層を直接形成する方法や、予め形成した切削加工補助潤滑材を含有する層ともう一つの層を、接着樹脂や熱によるラミネート法等で貼り合わせる方法等が挙げられる。なお、切削加工補助潤滑シートにおける粘着層が形成された面が、被加工材に接する面となり、かかる粘着層を有することにより、切削加工補助潤滑シートと被加工材の密着性がより向上する傾向にある。
【0069】
粘着層の構成成分としては、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ウレタン系重合体、アクリル系重合体、酢酸ビニル系重合体、塩化ビニル系重合体、ポリエステル系重合体及びそれらの共重合体が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、シアネート樹脂などの樹脂が挙げられる。このなかでも、被加工材(例えばFRP)への糊残りがなく、常温にて容易に粘着できる特性が要求されることから、アクリル系重合体が好ましく、溶剤型アクリル粘着剤及びアクリルエマルジョン型粘着剤(水系)がより好ましい。
【0070】
粘着層は、その他必要に応じて、粘着層の成分に加えて、酸化防止剤等の劣化防止剤、炭酸カルシウム、タルク、シリカ等の無機フィラーを含んでもよい。
【0071】
粘着層を切削加工補助潤滑シートの表面層として形成する方法としては、工業的に使用される公知の方法であれば、特に限定されない。具体的には、ロール法、カーテンコート法、スプレー噴出法等で粘着層を形成する方法や、ロールやT-ダイ押出機等を使用して予め所望の厚さの粘着層を形成する方法等が例示される。
【0072】
粘着層の厚さは特に限定されるものではなく、被加工材の曲率や切削加工補助潤滑材の構成により最適な厚さを、適宜選択することができ、例えば、好ましくは0.01~5mmであり、より好ましくは0.05~2.5mmである。なお、切削加工補助潤滑シートを構成する各層の厚さは、次のようにして測定する。まず、クロスセクションポリッシャー(日本電子データム株式会社製 CROSS-SECTION POLISHER SM-09010)、又はウルトラミクロトーム(Leica社製 EM UC7)を用いて切削加工補助潤滑シートを切削加工補助潤滑シートに対して垂直方向に切断する。次に、SEM(走査型電子顕微鏡、Scanning Electron Microscope、KEYENCE社製 VE-7800)を用いて、切断面に対して垂直方向から切断面を観察し、切削加工補助潤滑シートを構成する各層の厚さを測定する。その際、1視野に対して、5箇所の厚さを測定し、その平均値を各層の厚さとする。
【0073】
また、切削加工後に被加工材から切削加工補助潤滑シートを除去した際、被加工材に付着する切削加工補助潤滑材及び/又は粘着層の成分の量は、被加工材と切削加工補助潤滑材の接触部分及び被加工部分の面積1mm当たり、好ましくは1.0×10-8g以下であり、より好ましくは5.0×10-9g以下である。被加工材に付着する切削加工補助潤滑材及び/又は粘着層の成分の量の下限は、特に限定されないが、0が好ましい。なお、ここでいう被加工部分とは、例えば、ドリルによる孔あけ加工の場合、加工孔の内部を示す。
【0074】
〔被加工材〕
被加工材としては、金属、FRP、セラミックス、又はこれらを含む複合材料であれば特に限定されない。金属としては、鉄、アルミニウム、チタン等の他、ステンレス鋼(SUS)、ジュラルミン、炭素鋼、工具鋼等の合金類が挙げられる。FRPとしては、マトリックス樹脂と強化繊維により構成される複合材であれば特に限定されない。マトリックス樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂;ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、PA(ポリアミド)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、PC(ポリカーボネート)樹脂、メチルメタアクリレート樹脂、ポリエチレン、アクリル、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。強化繊維としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等が挙げられる。また、強化繊維の形態としては、特に限定されないが、例えば、フィラメント、トウ、クロス、ブレード、チョップ、ミルドファイバー、フェルトマット、ペーパー、プリプレグ等が挙げられる。このようなFRPの具体例としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP)等が挙げられる。このなかでも、比較的に、引張り強さ、引張り弾性力が大きく、密度が小さい炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が好ましい。FRPは、その他必要に応じて、無機フィラーや有機フィラー等を含んでいてもよい。セラミックスとしては、アルミナ、石英、ジルコニア等の硬質酸化物の他、炭化ケイ素等の炭化物、窒化ケイ素、窒化ガリウム等の窒化物が挙げられる。また、セラミックスの形態としては特に限定されないが、単結晶、多結晶、粉末焼結体等が挙げられる。
【0075】
〔工具刃先への切削加工補助潤滑材の移着方法〕
本実施形態の切削加工補助潤滑材を工具刃先へ移着する方法は、特に限定されないが、粘着層が設けられた切削加工補助潤滑シートを被加工材の切削加工部へ密着させ、その切削加工補助潤滑シートごと切削加工を行う方法が最も好ましい。しかしながら、工具・切削の種類や被加工材の形状により、上述した切削加工補助潤滑ブロックを、予め加工に用いる工具で切削することで移着を行い、切削する方法、上述した溶融状態(液状)の切削加工補助潤滑材を被加工材の切削加工部へ塗布又は噴霧する方法等がより好ましい場合があり得る。
【0076】
〔切削加工〕
本実施形態の切削加工補助潤滑材がより効果を発揮する切削加工形態は、孔あけ加工であるが、切削加工補助潤滑材の作用機序に鑑み、適用範囲はこれに限定されない。ただし、本実施形態の切削加工補助潤滑材の工具刃先への移着性を向上するという特質上、工具刃先への切削加工補助潤滑材の供給が制限され、かつ、工具抜け側の加工品質不良を生じ易い傾向にある貫通深孔あけ加工に特に効果を発揮する。
【0077】
なお、本実施形態における孔あけ加工は、ドリルによる貫通孔あけ加工の他、エンドミルによる止まり孔(有底孔)加工、長孔加工を含む繰り広げ孔加工、座付き孔加工、タップによるねじ切り加工、及びこれらを組み合わせた加工を含むが、これらに限定されず、工具回転方向に対し垂直に被加工材へ切り込む加工を意味する。本実施形態の切削加工補助潤滑材は、下孔あけ等の粗加工、リーマやボーリング等の仕上げ加工の区別なく用いることができ、小径工具による孔あけ後に大径工具による孔あけを行う、ガイド孔あけ加工後に深孔あけ加工を行うといった、多段階孔あけ加工に用いることもできる。また、加工時には切り屑の排出を促すステップ加工、センタースルーエアーやミスト加工、エアブロー等公知の加工オプションを組み合わせることにより、より高い加工品質を得られる場合がある。工作機としては被加工材の材質及び形状、加工孔形状に応じて、ハンドドリル、ボール盤、フライス盤、NC旋盤、マシニングセンタ、五軸加工機等から適宜選択し、或いは組み合わせて使用することができる。
【0078】
また、孔あけ加工以外の切削加工は、切削工具を用いるものであれば特に限定されず、エンドミル、ルーター等によるミーリング加工、正面フライス、平フライス、エンドミル等による平面フライス加工、丸鋸、砥石、エンドミル等を用いた切断加工、研削砥石を用いた研削加工、ラジアスエンドミル、ボールエンドミル等を用いた曲面加工、バイトによる旋削等が挙げられる。本実施形態の切削加工補助潤滑材は、孔あけ加工以外の切削加工においても、粗加工、仕上げ加工、多段階加工の区別なく用いることができる。また、加工時には切り屑の排出を促すステップ加工、センタースルーエアーや、ミスト加工、エアブロー等公知の加工オプションを組み合わせることでより高い加工品質を得られる場合がある。工作機としては被加工材の材質、形状、加工孔形状に応じて、ハンドドリル、ボール盤、フライス盤、NC旋盤、マシニングセンタ、五軸加工機、丸鋸、砥石、研削盤等から適宜選択し、或いは組み合わせて使用することができる。
【0079】
〔切削工具〕
切削工具は特に限定されるものではないが、被加工材の材質及び形状、加工形状、工作機の種類に応じて適宜選択する。工具の母材質は高速度鋼、超硬合金、多結晶窒化ホウ素焼結体等が用いられる。また、切削工具としては、ノンコート工具の他に種々のコーテッド工具を用いることができ、いずれの場合にも、本実施形態の切削加工補助潤滑材が奏する効果を得ることができる。工具のコーティング種としては、ダイヤモンドコート、チタンナイトライドコート、ダイヤモンドライクカーボンコート、セラミックコート等が挙げられる。
【実施例
【0080】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の実施例は本発明の実施形態の一例を示したものに過ぎず、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0081】
〔実施例1〕
(切削加工補助潤滑シートの作製)
ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体(アルコックスEP-1010N、明成化学工業株式会社製、重量平均分子量=1.0×10)2500質量部、高分子量化合物(A)であるポリエチレンオキサイド(アルコックスE-45、明成化学工業株式会社製、重量平均分子量=5.6×10)1500質量部、中分子量化合物(B)であるポリエチレンオキサイドモノステアレート(ノニオンS-40、日油株式会社製、重量平均分子量=3.5×10)2500質量部、及び黒鉛(C)(XD100、伊藤黒鉛工業株式会社、平均粒子径=250μm、鱗片状)3500質量部を、1軸押出機を使用して、温度140℃で押出成形することにより、厚さ1.0mmの切削加工補助潤滑材を含有する層を作製した。そして、この切削加工補助潤滑材を含有する層の片面に、厚さ0.12mmの両面テープ(No.535A、日東電工株式会社製)の強粘着面を貼り付けて、切削加工補助潤滑シートを得た。
【0082】
なお、黒鉛(C)の平均粒子径(メディアン径)は、その粒子をヘキサメタりん酸溶液とトリトン数滴からなる溶液に分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、投影した粒子それぞれの最大長さを測定する。そして、粒子径の累積分布曲線(個数基準)を算出する。そして、その累積分布曲線(個数基準)において50%の高さとなる粒子直径を平均粒子径とした。
【0083】
また、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体、高分子量化合物(A)、及び中分子量化合物(B)の重量平均分子量は、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体、高分子量化合物(A)、及び中分子量化合物(B)を0.05%の食塩水に溶解、分散させ、GPC(Gel Permeation Chromatography)カラムを備えた液体クロマトグラフィーを用いて、ポリエチレングリコールを標準物質として測定し、相対平均分子量として算出した。
【0084】
(チタン合金孔あけ加工)
作製した切削加工補助潤滑シートを、被加工材である幅280mm×奥行80mm、厚さ20mmのチタン合金板(Ti-6Al-4V)の片面に貼り付けた。続いて、そのチタン合金板を、切削加工補助潤滑シートが貼られた面を上側にして、マシニングセンタ(ヤマザキマザック株式会社製、立型マシニングセンタ「VCN-535C」)に備え付けたマシンバイスにチタン合金板の下側(ドリル抜け側)がフリーになるように前後から把持して固定した。次に、刃径6mmφのコーテッド超硬ドリル(オーエスジー株式会社製、超硬SUSドリル「ADO-SUS 3D 6」)をツールホルダに把持し、周速20m/min、回転あたり送り0.10mm/rev(孔深さ18~20mmの範囲では回転あたり送り0.020mm/rev)の切削条件で、斜め45°上方より切削点に向けてエアブローしながら25孔連続で貫通孔あけ加工を行った。
【0085】
(チタン合金板の裏バリ高さ測定)
孔あけ後のチタン合金板のドリル抜け側バリ高さ測定を以下の方法で行った。まず、光学顕微鏡にてチタン合金板のドリル抜け側の加工端部を倍率40倍で撮影した。続いて、画像処理によりチタン合金板表面の平均高さと加工端部の凸部(裏バリの頂点)の高さを求め、その差分を裏バリ高さとして算出した。裏バリ高さの測定点は、各孔の、ドリル抜け側端部を円近似した、近似円の円周上において隣接する2点と、近似円の中心をそれぞれ結ぶ直線のなす角が45°となる、互いに異なる8点とし、それら8点の裏バリ高さの平均値を各孔の平均裏バリ高さとした。また、1、5、10、15、20及び25孔目の平均裏バリ高さの平均値を6孔平均裏バリ高さとした。その結果、実施例1における6孔平均裏バリ高さは97μmであった。切削加工補助潤滑材の組成や6孔平均裏バリ高さ等の結果を表1に示す。
【0086】
〔実施例2及び3並びに比較例1乃至4〕
切削加工補助潤滑材を表1に記載の組成としたこと以外は実施例1と同様に切削加工補助潤滑シートを作製し、チタン合金板の孔あけ加工を行い、6孔平均裏バリ高さを測定した(比較例4は切削加工補助潤滑材を用いずに孔あけ加工を行った。)。切削加工補助潤滑材の組成や6孔平均裏バリ高さ等の結果を表1にまとめて示す。
【0087】
【表1】
【0088】
以上の結果から、被加工材、特に難切削材の切削加工時に、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体を配合した切削加工補助潤滑材を含む切削加工補助潤滑シートを用いることにより、バリの発生が低減される高い切削品質の切削加工を行うことができることが確認された。
【0089】
本出願は、2017年5月25日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2017-103798)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明による切削加工補助潤滑材、切削加工補助潤滑シート、及び切削加工方法は、被加工材、特に難切削材の切削加工において、その加工品質を向上させ、加工コストを低下させるものとして、産業上の利用可能性を有する。