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特許7057902高純度アリルアミン(共)重合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】高純度アリルアミン(共)重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 26/02 20060101AFI20220414BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20220414BHJP
   C09D 139/00 20060101ALI20220414BHJP
   C09J 139/00 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
C08F26/02
C09D11/106
C09D139/00
C09J139/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019527612
(86)(22)【出願日】2018-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2018023209
(87)【国際公開番号】W WO2019009057
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2017131615
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 信幸
(72)【発明者】
【氏名】文屋 勝
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-281728(JP,A)
【文献】特開平11-255841(JP,A)
【文献】特開2010-222522(JP,A)
【文献】特開2010-043174(JP,A)
【文献】特開2006-265559(JP,A)
【文献】特開2005-97636(JP,A)
【文献】特開昭62-151411(JP,A)
【文献】国際公開第2000/052070(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 26/02
C09D 11/106
C09D 139/00
C09J 139/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリルアミンから導かれる構成単位を有するアリルアミン(共)重合体であって、構造中に硫酸基を含み、該アリルアミン(共)重合体全体の質量に対する該硫酸基の割合が、20000質量ppm以下である、上記アリルアミン(共)重合体。
【請求項2】
前記アリルアミン(共)重合体全体の質量に対する前記硫酸基の割合が、15000質量ppm以下である、請求項1に記載のアリルアミン(共)重合体。
【請求項3】
重量平均分子量が250~2500である、請求項1又は2に記載のアリルアミン(共)重合体。
【請求項4】
前記アリルアミン(共)重合体の濃度10質量%かつpH11に調製した水溶液について測定した、波長510nmにおける初期吸光度A510が0.5以下であり、該水溶液を70℃で2日間保持した後の波長510nmにおける吸光度A’510と初期吸光度A510との比A’510/A510が3以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載のアリルアミン(共)重合体。
【請求項5】
アリルアミンから導かれる構成単位が全構成単位に占める割合が、10モル%以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載のアリルアミン(共)重合体。
【請求項6】
a)アリルアミン単量体を重合してアリルアミン(共)重合体を得る工程、
b)得られたアリルアミン(共)重合体中の硫酸基を分解する工程、及び
c)硫酸基の分解によって生じた硫黄化合物を除去する工程、
を有し、
前記工程b)において、前記アリルアミン(共)重合体中の硫酸基の量を、該アリルアミン(共)重合体全体の質量に対して20000質量ppm以下にまで減少させる、アリルアミン(共)重合体の製造方法。
【請求項7】
前記工程b)において、前記アリルアミン(共)重合体中の硫酸基の量を、該アリルアミン(共)重合体全体の質量に対して15000質量ppm以下にまで減少させる、請求項6に記載のアリルアミン(共)重合体の製造方法。
【請求項8】
前記工程b)において、前記工程a)で得られたアリルアミン(共)重合体を、70℃以上の温度で、12時間以上加熱する、請求項6又は7に記載のアリルアミン(共)重合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項に記載のアリルアミン(共)重合体を含有する、製紙処理剤、インク、塗料又は接着剤。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか一項に記載のアリルアミン(共)重合体を含有する、電気電子材料、又はディスプレイ材料。
【請求項11】
請求項1から5のいずれか一項に記載のアリルアミン(共)重合体を含有する、光透過性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度のアリルアミン(共)重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、高純度であって着色が防止され、かつ長期間にわたって経時的な着色の増加及び不純物の発生が効果的に抑制された、アリルアミン(共)重合体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アリルアミンは破壊的連鎖移動によっては重合しにくいことが、一般的に知られており、アリルアミン系重合体の有効な製造方法が検討対象となっている。従来提案されている方法としては、アリルアミン付加塩を極性溶媒中においてアゾ系のラジカル開始剤を用いて合成する方法が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。また、多量の過酸化物系ラジカル開始剤を用いて低分子量のアリルアミン重合体を合成する方法が知られている(特許文献3参照)。
しかしながら、前記の方法で得た低分子量アリルアミン重合体は、多量の過酸化物系ラジカル開始剤と過酷な温度条件での合成によって褐色に着色し、開始剤由来の多量の灼熱残分を有する。また、該重合体は時間の経過と共にその着色が進行し易いと言う問題がある。
これを改善する方法として、前記の方法で得た低分子量アリルアミン重合体中の未反応アリルアミンを蒸留処理して除去し、更に、生じた塩を精製処理して除去する事により、着色を軽減し、灼熱残分量を低減する方法が知られている(特許文献4参照)。
【0003】
しかし、前記の方法で得た低分子量アリルアミン重合体であっても、電子材料関連などに用いられる場合、その着色及び経時的増加、特に高温での経時的増加、並びに硫酸等の不純物の経時的増加が依然として懸念される場合があり、更なる高純度であり、かつ、着色及びその増加が更に抑制されたアリルアミン(共)重合体が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭58-201811号公報
【文献】特開昭62-172007号公報
【文献】特開平5-195450号公報
【文献】国際公開第99/19372 A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、着色の防止、長期安定性、及び低不純物等についての要求水準が極めて高い、電子材料、表示材料、インク等の用途において使用された場合であっても、その様な要求水準をクリアすることができる。従来技術の限界を超えて低着色、低不純物かつ、長期安定性に優れたアリルアミン(共)重合体、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、重合体構造中に含まれる硫酸基の割合が特定値以下であるアリルアミン(共)重合体が、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明及びその各態様は、下記[1]から[12]に記載のとおりである。
[1]
アリルアミンから導かれる構成単位を有するアリルアミン(共)重合体であって、構造中に硫酸基を含み、該アリルアミン(共)重合体全体の質量に対する該硫酸基の割合が、20000質量ppm以下である、上記アリルアミン(共)重合体。
[2]
前記アリルアミン(共)重合体全体の質量に対する前記硫酸基の割合が、15000質量ppm以下である、[1]に記載のアリルアミン(共)重合体。
[3]
重量平均分子量が250~2500である、[1]又は[2]に記載のアリルアミン(共)重合体。
[4]
前記アリルアミン(共)重合体の濃度10質量%かつpH11に調製した水溶液について測定した、波長510nmにおける初期吸光度A510が0.5以下であり、該水溶液を70℃で2日間保持した後の波長510nmにおける吸光度A’510と初期吸光度A510との比A’510/A510が3以下である、[1]から[3]のいずれか一項に記載のアリルアミン(共)重合体。
[5]
アリルアミンから導かれる構成単位が全構成単位に占める割合が、10モル%以上である、[1]から[4]のいずれか一項に記載のアリルアミン(共)重合体。
[6]
a)アリルアミン単量体を重合してアリルアミン(共)重合体を得る工程、
b)得られたアリルアミン(共)重合体中の硫酸基を分解する工程、及び
c)硫酸基の分解によって生じた硫黄化合物を除去する工程、
を有する、アリルアミン(共)重合体の製造方法。
[7]
前記工程b)において、前記アリルアミン(共)重合体中の硫酸基の量を、該アリルアミン(共)重合体全体の質量に対して20000質量ppm以下にまで減少させる、[6]に記載のアリルアミン(共)重合体の製造方法。
[8]
前記工程b)において、前記アリルアミン(共)重合体中の硫酸基の量を、該アリルアミン(共)重合体全体の質量に対して15000質量ppm以下にまで減少させる、[6]に記載のアリルアミン(共)重合体の製造方法。
[9]
前記工程b)において、前記工程a)で得られたアリルアミン(共)重合体を、70℃以上の温度で、12時間以上加熱する、[6]から[8]のいずれか一項に記載のアリルアミン(共)重合体の製造方法。
[10]
[1]から[5]のいずれか一項に記載のアリルアミン(共)重合体を含有する、製紙処理剤、インク、塗料又は接着剤。
[11]
[1]から[5]のいずれか一項に記載のアリルアミン(共)重合体を含有する、電気電子材料、又はディスプレイ材料。
[12]
[1]から[5]のいずれか一項に記載のアリルアミン(共)重合体を含有する、光透過性材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアリルアミン(共)重合体は、着色及び不純物を極めて低いレベルにまで低減し、かつそれらの好ましい特性を長期間にわたって維持できるという、従来技術の限界を超えた顕著な技術的効果を実現するものであり、電気電子材料、製紙処理剤、インク、塗料、接着剤、ディスプレイ用材料、光透過性材料をはじめとする、低着色、低汚染性を要求される各用途において、好適に使用することができる。
本発明の他の一態様である製造方法によれば、上記アリルアミン(共)重合体に代表される、好ましい特性を有するアリルアミン(共)重合体を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
アリルアミン(共)重合体
本発明は、アリルアミンから導かれる構成単位を有するアリルアミン(共)重合体であって、構造中に硫酸基を含み、該アリルアミン(共)重合体全体の質量に対する該硫酸基の割合が、20000質量ppm以下である、上記アリルアミン(共)重合体である。
すなわち本発明のアリルアミン(共)重合体は、アリルアミン単量体から導かれる構成単位を有していればよく、併せて他の構成単位を有する共重合体(コポリマー)であってもよく、或いは他の構成単位を有しない、いわゆるホモポリマーであってもよい。
また本発明のアリルアミン(共)重合体は、その構造中に所定量以下の硫酸基を含むものである。硫酸基は、通常重合の際に使用される過酸化物系ラジカル開始剤により構造中に取り込まれるものであるが、それ以外の原因で構造中に取り込まれる場合もあり、その様な硫酸基も含め、硫酸基の合計量が所定値以下であることを要する。
【0009】
アリルアミンから導かれる構成単位
本発明のアリルアミン(共)重合体の必須構成単位であるアリルアミン単量体から導かれる構成単位は、下式(I)で表される構造を有する。
【化1】
【0010】
ここで、モノアリルアミン単量体から導かれる構成単位は、上記式(I)で表される構造を有するものであればよく、現実にモノアリルアミンを重合して得られた構造であることを要さない。例えば、モノアリルアミンの付加塩を原料モノマーとして用いてもよい。このとき用いられるモノアリルアミンの付加塩は、通常、モノアリルアミンの無機酸塩であり、そのようなものの例として、モノアリルアミンの塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、硝酸塩などを挙げることができるが、入手のしやすさなどから。塩酸塩を用いることが望ましい。また、酢酸塩などの有機酸塩を用いることもできる。
【0011】
アリルアミンから導かれる構成単位以外の構成単位
本発明のアリルアミン(共)重合体がコポリマーである場合、アリルアミンから導かれる構成単位以外の構成単位には特に制限は無く、アリルアミンと共重合可能なモノマーを適宜使用して共重合することで、その様な構成単位を導くことができる。
共重合可能なモノマーの好ましい例としては、メチルアリルアミン、ジメチルアリルアミン等のモノアリルアミン類またはその付加塩;ジアリルアミン、ジアリルメチルアミン等のジアリルアミン類またはその付加塩;ジアリルジメチルアンモニウムクロリド等のジアリルジアルキルアンモニウム塩類;アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド等のアクリルアミド類;アリルアルコール類、エチレングリコールモノアリルエーテル等のアリルエーテル類、(メタ)アクリル酸(ナトリウム)等の不飽和カルボン酸類またはその付加塩;マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸類またはその塩;二酸化硫黄;(メタ)アリルスルホン酸(ナトリウム)等のアリルスルホン酸類またはその付加塩;ビニルスルホン酸(ナトリウム)等のビニルスルホン酸類またはその付加塩;イソプレンスルホン酸ナトリウム等を挙げることができるが、これらには限定されない。
アリルアミン以外のモノマーは、1種類のみを使用することもできるし、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0012】
硫酸基
また本発明のアリルアミン(共)重合体は、その構造中に硫酸基を含むものであり、該アリルアミン(共)重合体全体の質量に対する、該硫酸基の割合は、20000質量ppm以下である。
該硫酸基は、通常、重合の際に使用される過硫酸ナトリウム等の過酸化物系ラジカル開始剤に由来して構造中に取り込まれるものであるが、それ以外の原因で構造中に取りこまれる場合もある。また、本発明のアリルアミン(共)重合体は、通常、過酸化物系ラジカル開始剤を用いて重合されたものである。
本発明のアリルアミン(共)重合体においては、その由来を問わず、その構造中に含まれる硫酸基の合計が、該アリルアミン(共)重合体全体の質量に対して、20000質量ppm以下であることを要する。
【0013】
従来から、アリルアミン(共)重合体の着色の抑制や不純物の除去のため、未反応のアリルアミンの留去や、電気透析や酸処理によるアリルアミン(共)重合体精製が行われていた。しかし、これらの処理を行ったとしても、経時的な着色の増加や、イオウを含む不純物が発生することがあり、その解決が望まれていた。本発明者らは、これら着色の増加や不純物の発生が、ポリマー鎖に共有結合した硫酸基に起因し、より具体的にはその様な硫酸基の経時的な加水分解により生ずる硫酸が、経時的な着色の増加や、イオウを含む不純物の発生をもたらすことを見出した。
上述のように、硫酸基は、通常、重合の際に使用される過硫酸ナトリウム等の過酸化物系ラジカル開始剤に由来して構造中に取り込まれる。特に、過酸化物系ラジカル開始剤はラジカル活性が強いため、アリルアミン(共)重合体のポリマー末端のみならず、ポリマー鎖にも硫酸基を結合させることがある。ポリマー鎖に共有結合した硫酸基は、蒸留、電気透析、酸処理等の精製処理によっても十分に除去できず、このため従来の技術によっては、経時的な着色の増加や、イオウを含む不純物の発生といった問題が、十分に解決できなかったものと推定される。
【0014】
本発明は、アリルアミン(共)重合体の構造に結合した硫酸基の割合を、アリルアミン(共)重合体全体の質量に対して20000質量ppm以下に制限することで、硫酸基の分解による硫酸の発生を実用上問題の無いレベルにまで抑制し、着色及び不純物の発生を、長時間にわたって効果的に抑制できるという、顕著な技術的効果を実現するものである。
【0015】
本発明のアリルアミン(共)重合体の構造に結合した硫酸基の割合は、アリルアミン(共)重合体全体の質量に対して18000質量ppm以下であることが好ましく、15000質量ppm以下であることがより好ましい。
本発明のアリルアミン(共)重合体の構造に結合した硫酸基の割合は低いほど好ましく、特に下限は存在しないが、ラジカル開始剤等に起因して一定レベル以上の硫酸基が構造中にいったん導入された場合には、通常のコスト及び時間で硫酸基を低減する限りにおいて、10質量ppm以上となる場合が多い。
【0016】
アリルアミン(共)重合体の構造に結合した硫酸基の割合は、例えば以下の方法で測定することができる
【0017】
リルアミン(共)重合体の水溶液に適宜イオン交換水を加え、その濃度及びpHの測定に適切な範囲、例えば約10質量%及びpH11に調整する。この溶液を用いて燃焼装置付きイオンクロマトグラフィーによりイオウ濃度を測定する。得られたイオウ濃度と、溶液の量、及び溶液中のアリルアミン(共)重合体の濃度から、硫酸基の分子量及び硫黄の原子量等も考慮のうえ、重合体中の硫酸基の割合(質量基準)を算出する。
【0018】
アリルアミン(共)重合体の構造に結合した硫酸基の割合を適宜調整する手段の例として、構造に結合した硫酸基を加熱等により分解すること、酸化剤、触媒等により酸化分解すること、酸、塩基、電磁波、超音波等により加水分解すること等を挙げることができる。
加熱による分解を行う場合には、得られたアリルアミン(共)重合体を、好ましくは水溶液の状態で、70℃以上の温度で12時間以上加熱することが好ましいが、加熱による分解の条件は、これには限定されない。
初期の着色及び不純物を抑制するため、上記加熱処理等における硫酸基の分解で生じた硫黄化合物を除去することが望ましい。硫黄化合物を除去する方法には特に制限はないが、従来技術における精製処理に用いられる、蒸留、電気透析、酸処理等を使用することができる。
【0019】
上述のように、本発明においては、アリルアミン(共)重合体の構造に結合した硫酸基の割合を、アリルアミン(共)重合体全体の質量に対して20000質量ppm以下に制限することで、着色を長時間にわたって効果的に抑制できるという、顕著な技術的効果が実現される。
より具体的には、本発明のアリルアミン(共)重合体の濃度10質量%かつpH11に調整した水溶液について測定した、波長510nmにおける初期吸光度A510は、0.5以下であることが好ましい。また、本発明のアリルアミン(共)重合体の濃度10質量%かつpH11に調整した水溶液について測定した波長510nmにおける初期吸光度A510と、当該アリルアミン(共)重合体水溶液を70℃で2日間保持した後の波長510nmにおける吸光度A’510との比A’510/A510は、3以下であることが好ましい。更に、本発明のアリルアミン(共)重合体は、これらの条件を同時に満たしていることが好ましい。
【0020】
上記の好ましい態様のアリルアミン(共)重合体は、初期吸光度A510が0.5以下であることにより、着色が効果的に抑制されるので、製紙処理剤、インク、塗料、ディスプレイ関連材料、透過性材料等の、着色の抑制が重要である各種用途において、好適に使用することができる。
また、上記の好ましい態様のアリルアミン(共)重合体は、該アリルアミン(共)重合体の濃度10質量%かつpH11に調整した水溶液について測定した、波長510nmにおける吸光度A510と、当該アリルアミン(共)重合体水溶液を70℃で2日間保持した後の波長510nmにおける吸光度A’510との比A’510/A510が、3以下であることにより、長期間にわたって着色が効果的に抑制されるので、着色の抑制が重要である上記各用途において、長期間にわたって好適に使用することができ、その長寿命化、長期信頼性向上に大きく寄与する。
【0021】
上記の好ましい態様のアリルアミン(共)重合体の、濃度10質量%かつpH11に調整した水溶液について測定した、波長510nmにおける初期吸光度A510は、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。
上記の好ましい態様のアリルアミン(共)重合体の、波長510nmにおける初期吸光度A510と、当該アリルアミン(共)重合体水溶液を70℃で2日間保持した後の波長510nmにおける吸光度A’510との比A’510/A510は2.5以下であることがより好ましく、2以下であることが特に好ましい。
アリルアミン(共)重合体の波長510nmにおける吸光度は、例えば、アリルアミン(共)重合体の水溶液に適宜イオン交換水を加え、その濃度を約10質量%、pHを約11に調整した溶液を、光路長10mmのセルに注入し、分光光度計で測定することができる。
アリルアミン(共)重合体の、濃度10質量%かつpH11に調整した水溶液について測定した、波長510nmにおける初期吸光度A510及び、初期吸光度A510と、当該アリルアミン(共)重合体水溶液を70℃で2日間保持した後の吸光度A’510との比A’510/A510は、いずれも、アリルアミン(共)重合体の構造に結合した硫酸基の量を低減することで、低減することができる。アリルアミン(共)重合体の構造に結合した硫酸基の量を低減する方法は、上述のとおりである。
【0022】
本発明のアリルアミン(共)重合体の分子量には特に制限は無く、要求される物性や用途との関係で適宜好適な分子量の(共)重合体を重合すればよい。
電子材料や塗料等の用途に適切な粘度を有し、かつ、実用上許容可能な時間及びコストで重合を行う観点からは、重量平均分子量(Mw)が250から2500であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)は、400から2000であることがより好ましく、500から1500であることが特に好ましい。
アリルアミン(共)重合体の重量平均分子量(Mw)は、例えば、液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC法)によって測定することができる。
アリルアミン(共)重合体の分子量は、コモノマーの有無、種類及び組成、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0023】
アリルアミン(共)重合体の固有粘度[η]にも特に制限は無く、要求される物性や用途との関係で適宜設定することができる。
アリルアミン(共)重合体の粘度も、コモノマーの有無、種類及び組成、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0024】
アリルアミン(共)重合体に占めるアリルアミンから導かれる構成単位の割合には特に制限は無いが、10~100モル%であることが好ましく、50~100モル%であることがより好ましい。
アリルアミンから導かれる構成単位の割合が上記範囲内にあることで、反応性、分散性等の好ましい特性を、一層容易に実現することができる。
アリルアミンから導かれる構成単位の割合をはじめとする、アリルアミン(共)重合体の組成は、重合条件、とりわけ重合にあたり供給されるモノマーの組成によって、適宜調整することができる。
【0025】
アリルアミン(共)重合体の製造方法
本発明の他の一形態であるアリルアミン(共)重合体の製造方法は、
a)アリルアミン単量体を重合してアリルアミン(共)重合体を得る工程、
b)得られたアリルアミン(共)重合体中の硫酸基を分解する工程、及び
c)硫酸基の分解によって生じた硫黄化合物を除去する工程、
を有する。
このアリルアミン(共)重合体の製造方法は、本発明のアリルアミン(共)重合体を製造するのに、特に好適に用いられる。
また、このアリルアミン(共)重合体の製造方法の工程b)においては、前記アリルアミン(共)重合体中の硫酸基の量を、該アリルアミン(共)重合体全体の質量に対して20000質量ppm以下にまで減少させることが好ましく、18000質量ppm以下にまで減少させることがより好ましく、15000質量ppm以下にまで減少させることが特に好ましい。
【0026】
a)アリルアミン単量体を重合してアリルアミン(共)重合体を得る工程
上記製造方法における工程a)アリルアミン単量体を重合してアリルアミン(共)重合体を得る工程においては、水や極性溶媒中においてアリルアミン、及び所望によりコモノマーを、重合させる。ここで、アリルアミンとは、アリルアミン及びその付加塩の両者を包含する趣旨である。
原料モノマーとして好ましく用いられるアリルアミンの付加塩は、通常、アリルアミンの無機酸塩であり、このようなものとしては、例えばアリルアミンの塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、硝酸塩などを挙げることができるが、これらには限定されない。また、酢酸塩などの有機酸塩を用いることもできる。
重合媒体として、水や極性溶媒が用いられる。極性溶媒としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸などの無機酸またはその水溶液、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸などの有機酸またはその水溶液、アルコール類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、さらには塩化亜鉛、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの無機塩の水溶液などが挙げられるが、これらには限定されない。
【0027】
アリルアミンの付加塩は、単離された結晶の形で使用するのが普通であるが、上記水や極性溶媒中にアリルアミンと酸とを加えてその系中で付加塩を生成させてもよい。酸またはその水溶液を重合媒体として使用する場合には、所定量のアリルアミンを酸またはその水溶液中に加え、そのまま重合させることができる。
重合する際の重合媒体中のアリルアミンの濃度には特に制限はなく、使用する重合開始剤の種類に応じて適宜選定されるが、例えば過酸化物系ラジカル重合開始剤を用いる場合は、モノマー濃度は、通常10~80質量%、好ましくは20~70質量%である。アリルアミン濃度が低いと低分子量のアリルアミン(共)重合体が得られやすいが、重合率が低くなりやすく、逆に、アリルアミン濃度が高すぎると重合率が高いが、アリルアミン(共)重合体の分子量が高くなりやすい。
【0028】
低重合度条件下で重合させるために用いるラジカル重合開始剤としては、公知の過酸化物系ラジカル重合開始剤や、アゾ基とカチオン性窒素をもつ基とを有するラジカル重合開始剤などを用いることができる。過酸化物系ラジカル重合開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどが挙げられ、特にアリルアミン重合体の低分子量化および重合率の向上などの点から、過酸化物系ラジカル重合開始剤が好ましい。
このラジカル重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、その使用量は、通常の重合反応に用いる量に比べて多くする必要があり、アリルアミンの付加塩に対して、通常1.5質量%以上、好ましくは5~75質量%、さらに好ましくは10~50質量%である。一般的には、ラジカル重合開始剤の使用量が少ないと重合率が低くなり、かつ分子量が高くなりやすく、好ましくない。
【0029】
アリルアミンの付加塩を、水や極性溶媒中、低重合度条件下で重合させる際は、重合系のモノマー濃度を低くし、また、重合温度を高くすることにより行うことができるが、さらに、ラジカル開始剤濃度を高くすることにより、重合収率を高くすることができる。
【0030】
b)得られたアリルアミン(共)重合体中の硫酸基を分解する工程
上記製造方法における、工程b)得られたアリルアミン(共)重合体中の硫酸基を分解する工程においては、上記工程a)で得られたアリルアミン(共)重合体の構造に結合した硫酸基を加熱等により分解すること。
加熱による分解を行う場合には、得られたアリルアミン(共)重合体を、好ましくは水溶液の状態で、70℃以上の温度で12時間以上 加熱することが好ましい。
工程b)においては、アリルアミン(共)重合体中の硫酸基の量を、該アリルアミン(共)重合体全体の質量に対して20000質量ppm以下にまで減少させることが好ましく、18000質量ppm以下にまで減少させることがより好ましく、15000質量ppm以下にまで減少させることが特に好ましい。
【0031】
なお、重合終了後の重合液において、アリルアミン(共)重合体が付加塩の状態で存在する場合には、工程a)と工程b)との間、又は工程b)と工程c)との間に、上記重合液をアルカリで中和処理してもよい。この中和処理は、アリルアミン(共)重合体の付加塩を遊離の状態にする程度に、すなわち、中和後の重合液のpHが、通常9~13.5、好ましくは10~13の範囲になるように実施することができる。中和処理に用いるアルカリとしては特に制限はないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物などが好ましく挙げられる。この中和処理により、遊離した酸がアルカリと反応して塩を生成する。
【0032】
c)硫酸基の分解によって生じた硫黄化合物を除去する工程
工程b)の後の溶液は、未反応アリルアミンとともに硫酸基の分解によって生じた硫黄化合物を含有する。そこで工程c)においては、蒸留処理等によって、未反応モノアリルアミンとともに、硫黄化合物を除去する。
蒸留処理においては、蒸留は減圧下で行われるのが好ましく、その際、温度40~100℃、真空度10~300mmHgの条件で実施するのがより好ましく、温度50~80℃、真空度20~200mmHgの条件で実施するのが特に好ましい。このような条件では、アリルアミン(共)重合体は留去することなく、残留する。
【0033】
本発明の実施形態の方法においては、このようにして未反応のモノアリルアミンを留去した後の残留液を、電気透析に付してもよい。(また、蒸留処理に代えて電気透析をおこなってもよい。)未反応アリルアミンを留去する際に水などの溶媒も一部留去されるので、溶媒で希釈してから電気透析に付してもよい。この電気透析はイオン交換膜によるのが好ましい。
【0034】
本実施形態においては、このイオン交換膜による電気透析処理を、目的のアリルアミン(共)重合体がほとんど除去されずに残り、かつ、未反応モノアリルアミンとともに、硫黄化合物を除去できる条件で行うことが好ましい。
【0035】
用途
本発明のアリルアミン(共)重合体は、着色及び不純物を極めて低いレベルにまで低減し、かつそれらの好ましい特定を長期間にわたって維持できるという、従来技術の限界を超えた顕著な技術的効果を実現するものであり、電気電子材料、製紙処理剤、インク、塗料、接着剤、ディスプレイ用材料、光透過性材料をはじめとする、低着色、低汚染性を要求される各用途において、好適に使用することができる。
例えば、本発明のアリルアミン(共)重合体を用いたインク組成物は、耐水性に優れるとともに、変色や凝集などが抑制され、保存安定性にも優れている。
【実施例
【0036】
以下、本発明を実施例/比較例を参照しながらさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0037】
以下の実施例/比較例において、物性/特性の評価は下記の方法で行った。
(重合体の重量平均分子量)
重合体の重量平均分子量(Mw)は、日立ハイテクサイエンス製Chromaster(登録商標) 5450高速液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC法)によって測定した。
検出器はRI示差屈折率検出器、カラムはショーデックスアサヒパックの水系ゲル濾過タイプのGS-220HQ(排除限界分子量3,000)とGS-620HQ(排除限界分子量200万)とを直列に接続したものを用いた。サンプルは溶離液で0.5g/100mlの濃度に調製し、20μLを用いた。溶離液には、0.4mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を使用した。カラム温度は30℃で、流速は1.0ml/分で実施した。
標準物質として、分子量106、194、440、600、1470、4100、7100、10300、12600、23000などのポリエチレングリコールを用いて較正曲線を求め、その較正曲線を基に重合体の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0038】
(重合体の重合収率)
GPC法により得られたチャート中のピーク面積比により求めた。
【0039】
(重合体中の硫酸基の割合)
アリルアミン(共)重合体の水溶液に適宜イオン交換水を加え、その濃度を約10質量%、pHを約11に調整した。この溶液を用いて燃焼装置付きイオンクロマトグラフィーによりイオウ濃度を測定した。得られたイオウ濃度と、溶液の量、及び溶液中のアリルアミン(共)重合体の濃度から、重合体中の硫酸基の割合(質量基準)を算出した。
【0040】
(初期吸光度A510
アリルアミン(共)重合体の水溶液に適宜イオン交換水を加え、その濃度を約10質量%、pHを約11に調整した。この溶液を、光路長10mmのセルに注入し、(株)日立ハイテクサイエンス製分光光度計(製品名:UH5300)で、波長510nmにおける吸光度を測定し、初期吸光度A510とした。
【0041】
(経時変化後の吸光度A’510
初期吸光度A510の測定のために調整した溶液を20mlガラス製のサンプル瓶に採取し、70℃の恒温槽で2日間の加速条件で保管した。保管後の溶液について、初期吸光度A510の測定と同様にして、波長510nmにおける吸光度を測定し、経時変化後の吸光度A’510とした。
【0042】
(実施例1)
攪拌機、温度計、及び冷却管を備えた1Lの四つ口フラスコに、濃度58.08質量%のアリルアミン塩酸塩水溶液322.18gを仕込み、50℃に昇温した。内温48℃で過硫酸ナトリウム35.24gと水65.44gからなる開始剤水溶液を滴下して重合を開始した。内温を50~55℃に保ちながら3時間かけて開始剤水溶液を滴下した。更に1時間重合を継続し、合計4時間重合させる事により、GPC収率:63.27、重量平均分子量Mw:1016の淡黄色のアリルアミン重合体の塩酸塩水溶液を得た。
更に、70℃に昇温し96時間硫酸基の加熱分解処理を行い、橙色の溶液を得た。30℃以下の冷却下で濃度25質量%の水酸化ナトリウム368gを添加、混合し中和した。得られたアリルアミン濃度:14.49質量%のアリルアミン重合体の水溶液729.69gを429.18gになるまで50℃で30mmHgの減圧下で蒸留処理して未反応アリルアミンを留去した。更に水で希釈する事により濃度9.95質量%のアリルアミン重合体水溶液を880.47g得た。この水溶液をイオン交換膜による電気透析(透析装置として日本錬水株式会社CH-0型を用いた。陽イオン交換膜として旭硝子株式会社製CMVを8枚、陰イオン交換膜として旭硝子株式会社製AMVを5枚使用した。濃縮液槽には、1質量%の塩化ナトリウム水溶液を1L入れ、極液槽には1質量%硫酸ナトリウム水溶液を1L入れた。)に付した。電極間には最大5Aまたは13.5Vの直流電圧を印加し、この条件で4時間処理した。
処理後の溶液にイオン交換水を加え、濃度:10.22質量%、pH:11.64、重量平均分子量Mw:952の黄色水溶液を、689.40g得た。この溶液を用いて硫酸基濃度を測定したところアリルアミン重合体の質量基準で13,665質量ppmであった。
その溶液について測定した波長510nmでの初期吸光度A510は、0.059であった。また、同じ溶液を70℃、2日間の加速条件で処理した後の波長510nmでの吸光度A’510は、0.075であった。すなわち、70℃の加速条件で2日間保持することによる波長510nmでの吸光度の変化A’510/A510は、1.271であった。
結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
攪拌機、温度計、及び冷却管を備えた1Lの四つ口フラスコに濃度58.79質量%のアリルアミン塩酸塩水溶液318.29gを仕込み50℃に昇温した。内温49℃で過硫酸アンモニウム33.68gと水62.55gからなる開始剤水溶液を滴下して重合を開始した。内温を50~55℃に保ちながら3時間かけて開始剤水溶液を滴下した。更に1時間重合を継続し、合計4時間重合させる事により、GPC収率:53.40%、Mw:1,143の淡黄色のアリルアミン重合体の塩酸塩水溶液を得た。
更に、70℃に昇温し48時間硫酸基の加熱分解処理を行い、橙色の溶液を得た。30℃以下の冷却下で濃度25質量%の水酸化ナトリウム416.00gを添加混合し中和した。得られたアリルアミン濃度:14.89質量%のアリルアミン重合体の水溶液798.48gを397.19gになるまで50℃で30mmHgの減圧下で蒸留処理して未反応アリルアミンを留去した。更に水で希釈する事により、濃度10.01質量%のアリルアミン重合体水溶液を841.40g得た。この水溶液をイオン交換膜による電気透析(透析装置として日本錬水株式会社CH-0型を用いた。陽イオン交換膜として旭硝子株式会社製CMVを8枚、陰イオン交換膜として旭硝子株式会社製AMVを5枚使用した。濃縮液槽には、1質量%の塩化ナトリウム水溶液を1L入れ、極液槽には1質量%硫酸ナトリウム水溶液を1L入れた。)に付した。電極間には最大5Aまたは13.5Vの直流電圧を印加し、この条件で4時間処理した。
処理後の溶液にイオン交換水を加え濃度:10.33質量%、pH:11.41、重量平均分子量Mw:872の黄色水溶液を、733.29g得た。この溶液を用いて燃焼装置付きイオンクロマトグラフィーにより水溶液中のイオウ濃度を測定したところ1,957ppmと高めであった。そこで再度電気透析処理をおこない。濃度:9.68質量%、pH:11.34、重量平均分子量Mw:957の黄色水溶液を、728.51g得た。水溶液中のイオウ濃度を測定したところ1,611ppmと依然として高めであった。そこで、この水溶液100gに対し、水洗脱水済みのイオン交換樹脂(三菱化学株式会社製、DIAION SA10AOH)30mLを投入し10分間撹拌した。続けて50分間静置してイオン交換樹脂を濾別して濃度:8.94質量%の黄色水溶液を、98.12g得た。硫酸基濃度を測定したところアリルアミン重合体の質量基準で6,456質量ppmであった。
その溶液について測定した波長510nmでの初期吸光度A510は、0.037であった。また、同じ溶液を70℃、2日間の加速条件で処理した後の波長510nmでの吸光度A’510は0.049であった。すなわち、70℃の加速条件で2日間保持することによる波長510nmでの吸光度の変化A’510/A510は、1.324であった。
結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
攪拌機、温度計、及び冷却管を備えた1Lの四つ口フラスコに濃度58.04質量%のアリルアミン塩酸塩水溶液322.40gを仕込み50℃に昇温した。内温49℃で過硫酸ナトリウム70.48gと水130.89gからなる開始剤水溶液を滴下して重合を開始した。内温を50~55℃に保ちながら3時間かけて開始剤水溶液を滴下した。更に1時間重合を継続し、合計4時間重合させる事により、GPC収率:74.19%、Mw:892の淡黄色のアリルアミン重合体の塩酸塩水溶液を得た。
更に、70℃に昇温し48時間硫酸基の加熱分解処理を行い、褐色の溶液を得た。30℃以下の冷却下で濃度25質量%の水酸化ナトリウム409.40gを添加混合し中和した。得られたアリルアミン濃度:11.58質量%のアリルアミン重合体の水溶液902.73gを422.94gになるまで50℃で30mmHgの減圧下蒸留処理して未反応アリルアミンを留去した。更に水で希釈する事により、濃度9.64質量%のアリルアミン重合体水溶液を1018.75g得た。この水溶液をイオン交換膜による電気透析(透析装置として日本錬水株式会社CH-0型を用いた。陽イオン交換膜として旭硝子株式会社CMVを8枚、陰イオン交換膜として旭硝子株式会社AMVを5枚使用した。濃縮液槽には、1質量%の塩化ナトリウム水溶液を1L入れ、極液槽には1質量%硫酸ナトリウム水溶液を1L入れた。)に付した。電極間には最大5Aまたは13.5Vの直流電圧を印加した。この条件で10時間処理した。
処理後の溶液にイオン交換水を加え、濃度:10.20質量%、pH:11.08、重量平均分子量Mw:791の褐色水溶液を、789.80g得た。この溶液を用いて燃焼装置付きイオンクロマトグラフィーにより水溶液中のイオウ濃度を測定したところ3,983ppmと高めであった。そこで再度電気透析処理をおこない。濃度:9.42質量%、pH:11.13、重量平均分子量Mw:747の褐色水溶液を、773.06g得た。水溶液中のイオウ濃度を測定したところ2,997ppmと依然として高めであった。そこで、この水溶液100gに対し、水洗脱水済みのイオン交換樹脂(三菱化学株式会社製、DIAION SA10AOH)30mLを投入し10分間撹拌した。続けて50分間静置してイオン交換樹脂を濾別して濃度7.66:質量%の褐色水溶液を、98.62g得た。硫酸基濃度を測定したところアリルアミン重合体の質量基準で10,663質量ppmであった。
その溶液について測定した波長510nmでの初期吸光度A510は、0.185であった。また、同じ溶液を70℃の加速条件で処理した後の波長510nmでの吸光度A’510は0.241であった。すなわち、70℃の加速条件で2日間保持することによる波長510nmでの吸光度の変化A’510/A510は、1.303であった。
結果を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
攪拌機、温度計、及び冷却管を備えた1Lの四つ口フラスコに濃度58.5質量%のアリルアミン塩酸塩水溶液319.86gを仕込み50℃に昇温した。内温48℃で過硫酸ナトリウム35.24gと水65.44gからなる開始剤水溶液を滴下して重合を開始した。内温を50~55℃に保ちながら3時間かけて開始剤水溶液を滴下した。更に1時間重合を継続し、合計4時間重合させる事により、GPC収率:63.75、重量平均分子量Mw:1,055の淡黄色のアリルアミン重合体の塩酸塩水溶液を得た。
30℃以下の冷却下で濃度25質量%水酸化ナトリウム368gを添加混合し中和した。得られたアリルアミン濃度:12.66質量%のアリルアミン重合体の水溶液782.66gを362.89gになるまで50℃で30mmHgの減圧下で蒸留処理して未反応アリルアミンを留去した。更に水で希釈する事により濃度6.54質量%のアリルアミン重合体水溶液を879.25g得た。この水溶液をイオン交換膜による電気透析(透析装置として日本錬水株式会社CH-0型を用いた。陽イオン交換膜とし旭硝子株式会社製CMVを8枚、陰イオン交換膜として旭硝子株式会社製AMVを5枚使用した。濃縮液槽には、1質量%の塩化ナトリウム水溶液を1L入れ、極液槽には1質量%硫酸ナトリウム水溶液を1L入れた。)に付した。電極間には最大5Aまたは13.5ボルトの直流電圧を印加し、この条件で4時間処理した。
濃縮処理後の溶液にイオン交換水を加え、濃度:10.28質量%、pH:11.44、重量平均分子量Mw:1,013の淡黄色水溶液を、482.47g得た。この溶液を用いて硫酸基濃度を測定したところアリルアミン重合体の質量基準で27,466質量ppmであった。
その溶液について測定した波長510nmでの初期吸光度A510は、0.033であった。また、同じ溶液を70℃、2日間の加速条件で処理した後の波長510nmでの吸光度A’510は、0.140であった。すなわち、70℃の加速条件で2日間保持することによる波長510nmでの吸光度の変化A’510/A510は、4.242であった。
結果を表1に示す。

【0046】
(実施例4)
実施例1で調製した、濃度:10.22質量%、pH:11.64のアリルアミン重合体水溶液を、35%塩酸によりpH7に調整した条件で、波長510nmでの初期吸光度A510を測定したところ、0.081であった。また、同じ溶液を70℃、2日間の加速条件で処理した後の波長510nmでの吸光度A’510は、0.168であった。すなわち、pH7に調整した場合は、70℃の加速条件で2日間保持することによる波長510nmでの吸光度の変化A’510/A510は、2.074であった。
結果を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
比較例1で調製した、濃度:10.28質量%、pH:11.44のアリルアミン重合体水溶液を、35%塩酸によりpH7に調整した条件で、波長510nmでの初期吸光度A510は、0.055であった。また、同じ溶液を70℃、2日間の加速条件で処理した後の波長510nmでの吸光度A’510は、0.718であった。すなわち、pH7に調整した場合は、70℃の加速条件で2日間保持することによる波長510nmでの吸光度の変化A’510/A510は、13.055であった。
結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のアリルアミン(共)重合体は、従来技術の限界を超えて、着色及び不純物を極めて低いレベルにまで低減し、かつそれらの好ましい特性を長期間にわたって維持できる、という実用上高い価値を有する顕著な技術的効果を実現するものであり、化学産業、製紙産業、電気電子産業をはじめとする産業の各分野において、高い利用可能性を有する。
本発明の方法は、上記アリルアミン(共)重合体に代表される、好ましい特性を有するアリルアミン(共)重合体を効率的に製造することができるので、同様に産業の各分野において、高い利用可能性を有する。