(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】触媒成分の分離方法
(51)【国際特許分類】
C08C 19/02 20060101AFI20220414BHJP
C08F 236/12 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
C08C19/02
C08F236/12
(21)【出願番号】P 2018528512
(86)(22)【出願日】2017-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2017025409
(87)【国際公開番号】W WO2018016400
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2016142184
(32)【優先日】2016-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中井 章人
(72)【発明者】
【氏名】川喜田 英孝
(72)【発明者】
【氏名】大渡 啓介
(72)【発明者】
【氏名】森貞 真太郎
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-141694(JP,A)
【文献】特開平04-290555(JP,A)
【文献】特開2016-069642(JP,A)
【文献】特開2011-132355(JP,A)
【文献】特開2011-005365(JP,A)
【文献】特表2015-515532(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208320(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00、301/00
B01J 21/00-38/74
B01D 21/01
C02F 1/52-1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルゴムを、白金族元素含有触媒の存在下で水素化反応させることで得られた、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子の水溶液を添加する水溶性高分子添加工程と、
前記水溶性高分子の水溶液を添加した前記水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液を攪拌することで、前記水溶性高分子中に、前記白金族元素を取り込ませながら、前記水溶性高分子を析出させる水溶性高分子析出工程と、
を備える、水素化ニトリルゴムの触媒成分の分離方法
であって、
前記水溶性高分子が、アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体である、水素化ニトリルゴムの触媒成分の分離方法。
【請求項2】
前記アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体が、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の単独重合体、またはN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を含む2種以上の単量体の共重合体である
、請求項
1に記載の水素化ニトリルゴムの触媒成分の分離方法。
【請求項3】
前記水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)が、1,000~1,500,000である
、請求項1
又は2に記載の水素化ニトリルゴムの触媒成分の分離方法。
【請求項4】
前記水溶性高分子の水溶液中における、水溶性高分子の濃度が、1~40重量%である
、請求項1~
3のいずれか
一項に記載の水素化ニトリルゴムの触媒成分の分離方法。
【請求項5】
前記水素化ニトリルゴム100重量部に対する、前記水溶性高分子の添加量が0.1~50重量部である
、請求項1~
4のいずれか
一項に記載の水素化ニトリルゴムの触媒成分の分離方法。
【請求項6】
前記白金族元素が、パラジウムである
、請求項1~
5のいずれか
一項に記載の水素化ニトリルゴムの触媒成分の分離方法。
【請求項7】
水溶性有機溶媒中、白金族元素含有触媒の存在下で、ニトリルゴムを水素化することで、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液を得る水素化工程と、
前記水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子の水溶液を添加する水溶性高分子添加工程と、
前記水溶性高分子の水溶液を添加した前記水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液を攪拌することで、前記水溶性高分子中に、前記白金族元素を取り込ませながら、前記水溶性高分子を析出させる水溶性高分子析出工程と、
を備える、水素化ニトリルゴムの製造方法
であって、
前記水溶性高分子が、アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体である、水素化ニトリルゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族元素含有触媒に由来する白金族元素を、水素化ニトリルゴムから分離する触媒成分の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニトリルゴム(アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム)は、耐油性、機械的特性、耐薬品性等を活かして、ホースやチューブなどの自動車用ゴム部品の材料として使用されており、また、ニトリルゴムのポリマー主鎖中の炭素-炭素二重結合を水素化した水素化ニトリルゴム(水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム)はさらに耐熱性に優れるため、ベルト、ホース、ダイアフラム等のゴム部品に使用されている。
【0003】
このような水素化ニトリルゴムは、たとえば、次の製造プロセスにより、製造される。すなわち、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体や、共役ジエン単量体を含む単量体混合物を乳化重合し、乳化重合により得られるニトリルゴムのラテックスを凝固・乾燥し、次いで、凝固・乾燥により得られたニトリルゴムを水溶性有機溶媒に溶解することで、ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液を得て、これに水素化触媒としての白金族元素含有触媒を添加し、水素化することにより製造される(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
一方で、このような製造方法により製造される水素化ニトリルゴムには、水素化触媒としての白金族元素含有触媒に由来する白金族元素が比較的多く残存してしまうこととなり、白金族元素が、水素化ニトリルゴムを架橋しゴム架橋物とする際に、架橋反応の進行に影響を与えてしまい、これにより得られるゴム架橋物の特性が低下してしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、白金族元素含有触媒に由来する白金族元素を、水素化ニトリルゴムから好適に分離できる、触媒分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、ニトリルゴムを、白金族元素含有触媒の存在下で水素化反応させることで得られた、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子の水溶液を添加し、次いで攪拌を行うことにより、水溶性高分子中に白金族元素含有触媒を取り込ませながら、水溶性高分子を析出させることによって、水素化ニトリルゴムに含まれる白金族元素含有触媒に由来する白金族元素を、水素化ニトリルゴムから好適に分離できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、ニトリルゴムを、白金族元素含有触媒の存在下で水素化反応させることで得られた、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子の水溶液を添加する水溶性高分子添加工程と、前記水溶性高分子の水溶液を添加した前記水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液を攪拌することで、前記水溶性高分子中に、前記白金族元素を取り込ませながら、前記水溶性高分子を析出させる水溶性高分子析出工程とを備える、水素化ニトリルゴムの触媒分離方法が提供される。
【0009】
本発明の触媒分離方法において、前記アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体が、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の単独重合体、またはN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を含む2種以上の単量体の共重合体であることが好ましい。
本発明の触媒分離方法において、前記水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)が、1,000~1,500,000であることが好ましい。
本発明の触媒分離方法において、前記水溶性高分子の水溶液中における、水溶性高分子の濃度が、1~40重量%であることが好ましい。
本発明の触媒分離方法において、前記水素化ニトリルゴム100重量部に対する、前記水溶性高分子の添加量が0.1~50重量部であることが好ましい。
本発明の触媒分離方法において、前記水溶性高分子が、アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体であることが好ましい。
本発明の触媒分離方法において、前記白金族元素が、パラジウムであることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、水溶性有機溶媒中、白金族元素含有触媒の存在下で、ニトリルゴムを水素化することで、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液を得る水素化工程と、前記水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子の水溶液を添加する水溶性高分子添加工程と、前記水溶性高分子の水溶液を添加した前記水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液を攪拌することで、前記水溶性高分子中に、前記白金族元素を取り込ませながら、前記水溶性高分子を析出させる水溶性高分子析出工程と、を備える、水素化ニトリルゴムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、白金族元素含有触媒に由来する白金族元素を、水素化ニトリルゴムから好適に分離できる、触媒成分の分離方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水素化ニトリルゴムの触媒成分の分離方法は、
ニトリルゴムを、白金族元素含有触媒の存在下で水素化反応させることで得られた、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子の水溶液を添加する水溶性高分子添加工程と、
前記水溶性高分子の水溶液を添加した前記水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液を攪拌することで、前記水溶性高分子中に、前記白金族元素を取り込ませながら、前記水溶性高分子を析出させる水溶性高分子析出工程と、を備える。
【0013】
本発明で用いるニトリルゴムとしては、たとえば、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体と、共役ジエン単量体とを少なくとも含む単量体混合物を共重合することにより得られる共重合体が挙げられる。
【0014】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0015】
ニトリルゴム中における、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、5~60重量%、好ましくは10~50重量%、より好ましくは15~50重量%である。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物を、耐寒性および耐油性に優れたものとすることができる。
【0016】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4~6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3-ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0017】
ニトリルゴム中における、共役ジエン単量体単位(水素化反応により、水素化されている部分も含む)の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは40~95重量%、より好ましくは50~90重量%、さらに好ましくは50~85重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物を、耐熱性や耐化学的安定性を良好に保ちながら、ゴム弾性に優れたものとすることができる。
【0018】
また、本発明で用いるニトリルゴムは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体および共役ジエン単量体に加えて、これらと共重合可能な他の単量体を共重合したものであってもよい。このような共重合可能な他の単量体としては、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体、α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体、エチレン、α-オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが挙げられる。
【0019】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0020】
α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などが挙げられる。また、α,β-不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。
【0021】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1~18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(「メタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル」の略記。以下同様。);アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸エトキシプロピル、アクリル酸メトキシブチル、アクリル酸エトキシドデシル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸エトキシペンチルなどの炭素数2~18のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸α-シアノエチル、メタクリル酸α-シアノエチル、メタクリル酸シアノブチルなどの炭素数2~12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどの炭素数1~12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1~12のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;などが挙げられる。
【0022】
α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn-ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn-ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn-ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn-ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0023】
α-オレフィン単量体としては、炭素数が3~12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどが挙げられる。
【0024】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0025】
フッ素含有ビニル単量体としては、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o-トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0026】
共重合性老化防止剤としては、N-(4-アニリノフェニル)アクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)メタクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)シンナムアミド、N-(4-アニリノフェニル)クロトンアミド、 N-フェニル-4-(3-ビニルベンジルオキシ)アニリン、N-フェニル-4-(4-ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0027】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体の単位の含有量は、ニトリルゴム中、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0028】
本発明で用いるニトリルゴムの製造方法は、特に限定されないが、上述した単量体を共重合し、必要に応じて、得られる共重合体中の炭素-炭素二重結合を水素化することによって製造することができる。重合方法は、特に限定されず公知の乳化重合法や溶液重合法によればよいが、工業的生産性の観点から乳化重合法が好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤に加えて、通常用いられる重合副資材を使用することができる。使用する乳化剤も特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などを使用できるが、アニオン性界面活性剤が好ましい。これらの乳化剤は、それぞれ単独で使用しても2種以上を併用してもよい。その使用量は特に限定されない。
【0029】
乳化重合により得られるニトリルゴムのラテックスの固形分濃度は特に限定されないが、通常2~70重量%、好ましくは5~60重量%である。その固形分濃度はブレンド法、希釈法、濃縮法など公知の方法により適宜調節することができる。
【0030】
ニトリルゴムの水素化反応は、乳化重合により得られるラテックスに対し、ラテックス状態のまま行ってもよいが、触媒活性等の観点より、乳化重合により得られるラテックスを、凝固・乾燥して固形状のニトリルゴムを得て、得られたニトリルゴムを、水溶性有機溶媒に溶解して、重合体溶液の状態で行うことが好ましい。水溶性有機溶媒を用いることにより、後述する水溶性高分子による、白金族元素含有触媒に由来する白金族元素の、水素化ニトリルゴムからの分離を好適に行うことができる。
【0031】
ラテックスの凝固・乾燥は、公知の方法により行えばよいが、凝固して得られるクラムと塩基性水溶液とを接触させる処理工程を設けることにより、得られるニトリルゴムをテトラヒドロフラン(THF)に溶解して測定される重合体溶液のpHが7を超えるように改質することが好ましい。THFに溶解して測定される重合体溶液のpHは、好ましくは7.2~12、より好ましくは7.5~11.5、最も好ましくは8~11の範囲である。このクラムと塩基性水溶液との接触処理により、溶液系水素化を速やかに進行させることが可能となる。
【0032】
水素化反応を行う際の重合体溶液中における、ニトリルゴムの濃度は、好ましくは1~70重量%、より好ましくは1~40重量%、特に好ましくは2~20重量%である。水溶性有機溶媒としては、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチルなどのエステル類;などが挙げられる。これらの有機溶媒の中でもケトン類が好ましく用いられ、アセトンが特に好適に用いられる。
【0033】
本発明において、水素化反応を行う際には、水素化触媒として、白金族元素含有触媒を使用する。白金族元素含有触媒としては、白金族元素、すなわち、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムまたは白金を含有する触媒であればよく、特に限定されないが、触媒活性や入手容易性の観点からパラジウム化合物、ロジウム化合物が好ましく、パラジウム化合物がより好ましい。また、2種以上の白金族元素化合物を併用してもよいが、その場合もパラジウム化合物を主たる触媒成分とすることが好ましい。
【0034】
パラジウム化合物は、通常、II価またはIV価のパラジウム化合物が用いられ、その形態は塩や錯塩である。
【0035】
パラジウム化合物としては、例えば、酢酸パラジウム、シアン化パラジウム、フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酸化パラジウム、水酸化パラジウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウム、テトラシアノパラジウム酸カリウムなどが挙げられる。
【0036】
これらのパラジウム化合物の中でも、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、へキサクロロパラジウム酸アンモニウムが好ましく、酢酸パラジウム、硝酸パラジウムおよび塩化パラジウムがより好ましい。
【0037】
ロジウム化合物としては、たとえば、塩化ロジウム、臭化ロジウム、ヨウ化ロジウム、硝酸ロジウム、硫酸ロジウム、酢酸ロジウム、蟻酸ロジウム、プロピオン酸ロジウム、酪酸ロジウム、吉草酸ロジウム、ナフテン酸ロジウム、アセチルアセトン酸ロジウム、酸化ロジウム、三水酸化ロジウムなどが挙げられる。
【0038】
本発明において、白金族元素含有触媒としては、上述したパラジウム化合物やロジウム化合物をそのまま使用してもよいし、あるいは、上述したパラジウム化合物やロジウム化合物などの触媒成分を担体に担持させて、担持型触媒として使用してもよい。
【0039】
担持型触媒を形成するための担体としては、一般的に金属触媒の担体として用いられているものであればよいが、具体的には、炭素、ケイ素、アルミニウム、マグネシウムなどを含有する無機化合物が好ましく、その中でも、パラジウム化合物やロジウム化合物などの触媒成分の吸着効率がより高まるという観点より、担体の特性として、平均粒子径が1μm~200μm、比表面積が200~2000m2/gであるものを使用するのが好ましい。
【0040】
このような担体は、活性炭、活性白土、タルク、クレー、アルミナゲル、シリカ、けいそう土、合成ゼオライトなど公知の触媒用担体の中から適宜に選択する。担体への触媒成分の担持方法としては、たとえば、含浸法、コーティング法、噴霧法、沈殿法などが挙げられる。触媒成分の担持量は、触媒と担体との合計量に対する触媒成分の割合で通常0.5~80重量%、好ましくは1~50重量%、より好ましくは2~30重量%である。触媒成分を担持した担体は、反応器の種類や反応形式などに応じて、例えば球状、円柱状、多角柱状、ハニカム状などに成形することができる。
【0041】
また、パラジウム化合物やロジウム化合物などの白金族元素の塩を担体に担持させずに、白金族元素含有触媒としてそのまま使用する場合においては、これらの化合物を安定させるための安定化剤を併用することが好ましい。安定化剤を、パラジウム化合物やロジウム化合物などの白金族元素含有触媒を溶解または分散させた媒体中に存在させることにより、ニトリルゴムを高水素添加率で水素化することができる。
【0042】
このような安定化剤としては、たとえば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリアルキルビニルエーテルなどの側鎖に極性基を有するビニル化合物の重合体;ポリアクリル酸のナトリウム、ポリアクリル酸カリウムなどのポリアクリル酸の金属塩;ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体などのポリエーテル;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;ゼラチン、アルブミンなどの天然高分子;などが挙げられる。これらの中でも、側鎖に極性基を有するビニル化合物の重合体、またはポリエーテルが好ましい。側鎖に極性基を有するビニル化合物の重合体の中では、ポリビニルピロリドン、ポリアルキルビニルエーテルが好ましく、ポリメチルビニルエーテルがより好ましい。
【0043】
また、水素化反応に際しては、還元剤を併用してもよく、還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、酢酸ヒドラジン、ヒドラジン硫酸塩、ヒドラジン塩酸塩等のヒドラジン類、またはヒドラジンを遊離する化合物などが挙げられる。
【0044】
水素化反応の温度は、通常0~200℃、好ましくは5~150℃、より好ましくは10~100℃である。水素化反応の温度を上記範囲とすることにより、副反応を抑えながら、反応速度を十分なものとすることができる。
【0045】
水素化反応を行う際における、水素の圧力は、通常、0.1~20MPaであり、好ましくは0.1~15MPa、より好ましくは0.1~10MPaである。反応時間は特に限定されないが、通常30分~50時間である。なお、水素ガスは、先ず窒素などの不活性ガスで反応系を置換し、さらに水素で置換した後に加圧することが好ましい。
【0046】
水素化ニトリルゴムの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50,000~1,000,000、より好ましくは70,000~800,000、さらに好ましくは100,000~600,000である。水素化ニトリルゴムの重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法を用いて、標準ポリスチレン換算にて求めることができる。
【0047】
そして、白金族元素含有触媒として、担持型触媒を使用した場合には、濾過や遠心分離などにより担持型触媒を分離することにより、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液を得ることができる。
【0048】
そして、本発明においては、上記のようにして得られた水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子の水溶液を添加し、次いで、これを撹拌する。本発明によれば、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子の水溶液を添加し、これを撹拌することで、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に含まれる、白金族元素に水溶性高分子が配位し、白金族元素が水溶性高分子に取り込まれ、その一方で、水溶性高分子が、水溶性有機溶媒の影響により脱水和することで、水溶性高分子を、白金族元素を取り込んだ状態で析出させることができる。これにより、水素化触媒、特に、白金族元素含有触媒に由来する白金族元素を、水素化ニトリルゴムから適切に分離させることができる。また、水溶性高分子中に白金族元素を取り込ませることにより、白金族元素の回収をも可能とすることができる。
【0049】
特に、本発明によれば、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子を添加する際に、水に溶解させた水溶液の状態で添加するものであり、これにより、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液中に、水溶性高分子を高度に分散させることができ、結果として、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液中に含まれる、白金族元素含有触媒に由来する白金族元素を、水溶性高分子中に適切に取り込ませることができる。そして、水溶性高分子は、白金族元素を取り込んだ後、水溶性有機溶媒の影響により脱水和することで、析出することとなる。このようにして析出した、白金族元素を取り込んだ水溶性高分子は、濾過などにより容易に取り除くことができる。そして、これにより、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液中に含まれる、白金族元素含有触媒に由来する白金族元素、ひいては、これを凝固させることにより得られる水素化ニトリルゴムに含まれることとなる、白金族元素含有触媒に由来する白金族元素を適切に分離することができるものである。
【0050】
本発明で用いる水溶性高分子としては、水溶性を有し、水に可溶な高分子であればよく、特に限定されない。このような水溶性高分子としては、アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体(「アミノ基含有メタクリル系重合体および/またはアミノ基含有アクリル系重合体」の意味。以下、同様。)、カルボキシキル基含有(メタ)アクリレート系重合体、スルホン酸基含有(メタ)アクリレート系重合体、リン酸基含有(メタ)アクリレート系重合体などの変性基含有(メタ)アクリレート系重合体;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロースなどのセルロース誘導体;などが挙げられるが、これらの中でも、白金族元素との親和性が高く、水素化ニトリルゴムからの白金族元素の分離効果がより高いという観点より、変性基含有(メタ)アクリレート系重合体が好ましく、アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体がより好ましい。また、水溶性高分子に白金族元素含有触媒に由来する白金族元素を取り込ませた後、水溶性高分子を適切に析出させるという観点より、水溶性高分子としては、電気的に中性な水溶性高分子(すなわち、カチオン化やアニオン化がされてない水溶性高分子)であることが好ましく、特に、電気的に中性なアミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体(すなわち、カチオン化やアニオン化がされてないアミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体)が特に好ましい。
【0051】
アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体としては、(メタ)アクリル酸エステル単位を主成分とする重合体であって、少なくとも一部にアミノ基を含有する重合体であればよく、特に限定されない。アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体は、たとえば、アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の単独重合体、二種以上のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合体、一種以上のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体と、これと共重合可能な一種以上の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0052】
アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N-t-ブチルアミノエチルアクリレート、N,N-t-ブチルアミノエチルメタクリレート、N,N-モノメチルアミノエチルアクリレート、N,N-モノメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等のN-アミノアルキル(メタ)アクリルアミド;などが挙げられる。アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらのなかでも、アミノアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)が特に好ましい。
【0053】
また、共重合可能な単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸等の不飽和カルボン酸;2-ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート等の水酸基含有ビニル;スチレン、2-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;塩化ビニル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド、クロロプレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、クロロプレン、ビニルピロリドン、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、アリルグリシジルエーテル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、アリルメタアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、アリルメルカプタン等が挙げられる。共重合可能な単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0054】
アミノ基含有(メタ)アクリレート系重合体中における、アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、水素化ニトリルゴムからの白金族元素の分離効果をより高めるという観点より、好ましくは30~100重量%、より好ましくは50~100重量%、特に好ましくは70~100重量%である。
【0055】
本発明で用いる水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、水素化ニトリルゴムからの白金族元素の分離効果をより高めるという観点より、好ましくは1,000~1,500,000、より好ましくは5,000~1,200,000、さらに好ましくは10,000~1,000,000、さらにより好ましくは20,000~1,000,000、さらに一層好ましくは100,000~1,000,000、特に好ましくは300,000~1,000,000、最も好ましくは600,000~1,000,000である。水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法を用いて、標準ポリスチレンあるいは標準ポリエチレングリコール換算にて求めることができる。
【0056】
水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子を水溶液の状態で添加する際における、水溶液中の水溶性高分子の濃度は、水素化ニトリルゴムからの白金族元素の分離をより効率的に行うという観点より、好ましくは1~40重量%、より好ましくは2~30重量%、さらに好ましくは5~20重量%である。
【0057】
また、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子を水溶液の状態で添加する際における、水溶性高分子の水溶液の添加量は、水素化ニトリルゴムからの白金族元素の分離をより効率的に行うという観点より、水素化ニトリルゴム100重量部に対する、水溶性高分子の添加量が0.1~50重量部となる量が好ましく、0.5~40重量部となる量がより好ましく、1~30重量部となる量がさらに好ましく、1~5重量部となる量が特に好ましい。
【0058】
水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子を水溶液の状態で添加して、撹拌を行う際における、攪拌方法としては、特に限定されないが、たとえば、攪拌機を用いた方法や振とう器を用いた方法などが挙げられる。また、撹拌を行う際における、攪拌の条件も、特に限定されず、攪拌温度は、好ましくは5~50℃、より好ましくは10~40℃であり、また、攪拌速度は、好ましくは1~500rpm、より好ましくは5~100rpmである。
【0059】
本発明によれば、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に、水溶性高分子の水溶液を添加し、次いで、これを撹拌することにより、水素化ニトリルゴムの水溶性有機溶媒溶液に含まれる、白金族元素含有触媒に由来する白金族元素を水溶性高分子に取り込ませて、水溶性高分子を析出させるものであり、これにより、得られる水素化ニトリルゴム中に含まれる白金族元素の含有量を、効果的に低減することができるものである。具体的には、水素化ニトリルゴム中に含まれる白金族元素の含有量を、好ましくは50重量ppm以下、より好ましくは40重量ppm以下、さらに好ましくは30重量ppm以下に低減することができるものである。そして、このような本発明により得られる水素化ニトリルゴムは、白金族元素の含有量が低減されたものであることから、白金族元素に起因する架橋反応の進行の阻害を有効に抑制することでき、これにより、耐熱老化性および耐圧縮永久歪み性などの各種特性を適切に向上させることができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験、評価は下記によった。
【0061】
耐熱性試験
架橋性ゴム組成物を、金型を用いて、加圧しながら170℃で20分間、10MPaの圧力でプレスして架橋した後、170℃で4時間二次架橋を行い、縦20mm、横10mm 、厚さ2mmのシート状のゴム架橋物を得た。このシートをJIS3号形ダンベルで打ち抜き、試験片を作製した。得られた試験片を用いて、JIS K6257 「加硫ゴムの老化試験方法」の4項「空気加熱老化試験(ノーマルオーブン法)」の規定に準拠して、150℃、1008時間の条件で空気加熱老化処理を行い、空気加熱老化処理前後における破断伸びを測定し、空気加熱老化処理による破断伸びの変化率(単位:%)を算出した。
【0062】
圧縮永久ひずみ試験
架橋性ゴム組成物を、内径29mm 、深さ12.5mmの円柱状金型に入れ、170℃で20分間、10M Paの圧力でプレスして架橋した後、170℃で4時間二次架橋を行い、圧縮永久ひずみ試験用試験片を得た。圧縮永久ひずみは、これらの試験片を用いて150℃ 、25% 圧縮状態で168 時間保持した後、JIS K6262に従って測定した。
【0063】
製造例1
反応器に、オレイン酸カリウム2部、イオン交換水180部、アクリロニトリル37部、およびt-ドデシルメルカプタン0.5部を、この順に仕込んだ。次いで、反応器内部を窒素で置換した後、ブタジエン63部を添加し、反応器を10℃に冷却して、クメンハイドロパーオキサイド0.01部、および硫酸第一鉄0.01部を添加した。次いで、反応器を10℃に保ったまま内容物を16時間攪拌した。その後、反応器内へ10重量%のハイドロキノン水溶液を添加して重合反応を停止させた後、重合反応液から未反応の単量体を除去することで、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体のラテックスを得た。重合転化率は90%であった。
【0064】
次いで、上記とは別の反応器に、塩化カルシウム(凝固剤)3部を溶解した凝固水300部を入れ、これを50℃で攪拌しながら、上記にて得られたラテックスを凝固水中へ滴下した。そして、ここへ水酸化カリウム水溶液を加えてpHを11.5に保ちながら重合体クラムを析出させた後、凝固水から重合体クラムを分取して水洗後、50℃で減圧乾燥した。次いで、得られた重合体クラムをアセトンに溶解することで、重合体含量が15重量%のアセトン溶液を調製した。
【0065】
そして、得られたアクリロニトリル-ブタジエン共重合体のアセトン溶液にシリカ担持型パラジウム(Pd)触媒(Pd量は「Pd金属/アクリロニトリル-ブタジエン共重合体」の比で1000重量ppm)を加えて、これを攪拌機付オートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流すことで溶存酸素を除去した。次いで、系内を2回水素ガスで置換後、5MPaの水素を加圧し、内容物を50℃に加温して6時間攪拌することで、水素化反応を行った。
【0066】
水素化反応終了後、反応系を室温に冷却し、系内の水素を窒素で置換した。そして、水素化反応により得られた水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液について、濾過を行うことで、シリカ担持型パラジウム触媒を回収し、濾過後の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液を得た。
【0067】
製造例2
製造例1において得られた濾過後の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液のうち一部を採取し、これを10倍量の水中に投入して、共重合体を析出させ、得られた共重合体を真空乾燥機で24時間乾燥することで、固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を得た。得られた固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体について、原子吸光測定により、共重合体中のパラジウム量を測定したところ、パラジウム量は145重量ppmであった。また、ヨウ素価は、7.4であった。
【0068】
製造例3
反応器に、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)10部、イオン交換水37部を仕込み、次いで、反応器内部を窒素で置換した後、反応器を75℃に加温して、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.35部を添加した。次いで、反応器を75℃に保ったまま内容物を1時間攪拌した。得られた高分子水溶液をアセトン中へ滴下し、重合体を析出させた後、アセトン中から重合体を分取してアセトン洗浄を行った後、50℃で減圧乾燥することにより固体状の水溶性高分子(A-1)(ポリ(N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート))を得た。得られた水溶性高分子(A-1)について、GPC測定により、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、重量平均分子量(Mw)は500,000であった。そして、得られた水溶性高分子(A-1)1部をイオン交換水10部に溶かして水溶性高分子(A-1)の水溶液(水溶性高分子(A-1)の濃度:9.1重量%)を得た。
【0069】
製造例4
N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の使用量を10部から1部に変更した以外は、製造例3と同様の操作を行うことで、固体状の水溶性高分子(A-2)(ポリ(N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート))を得た。得られた水溶性高分子(A-2)について、GPC測定により、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、重量平均分子量(Mw)は27,000であった。そして、得られた水溶性高分子(A-2)1部をイオン交換水10部に溶かして水溶性高分子(A-2)の水溶液(水溶性高分子(A-2)の濃度:9.1重量%)を得た。
【0070】
製造例5
N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の使用量を10部から20部に変更した以外は、製造例3と同様の操作を行うことで、固体状の水溶性高分子(A-3)(ポリ(N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート))を得た。得られた水溶性高分子(A-3)について、GPC測定により、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、重量平均分子量(Mw)は800,000であった。そして、得られた水溶性高分子(A-3)1部をイオン交換水10部に溶かして水溶性高分子(A-3)の水溶液(水溶性高分子(A-3)の濃度:9.1重量%)を得た。
【0071】
実施例1
製造例1で得られた濾過後の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の溶液を一部採取し、これをバイアルに移し、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の濃度が8重量%となるように、アセトンを添加して濃度調整を行った後、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体100部に対して、製造例3で得られた水溶性高分子(A-1)の水溶液25部(水溶性高分子(A-1)換算で2.275部)を添加した。次いで、振とう器(商品名「RECIPRO SHAKER SR-1」、タイテック社製)を使用して、25℃、120rpmの条件にて、24時間攪拌を行った。そして、24時間の撹拌により、水溶性高分子(A-1)は固体となって沈降した。次いで、濾過を行うことにより、水溶性高分子(A-1)を回収するとともに、濾液を10倍量の水中に投入することで、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を析出させ、得られた水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を真空乾燥機で24時間乾燥することで、固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を得た。そして、得られた固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体について、原子吸光測定により、共重合体中のパラジウム量を測定したところ、パラジウム量は12重量ppmであった。また、水素化反応に使用したパラジウムの回収率は92重量%であった。
なお、パラジウムの回収率は「パラジウムの回収率(%)=(水溶性高分子水溶液による処理をする前のパラジウムの量-水溶性高分子水溶液による処理をした後のパラジウムの量)/水溶性高分子水溶液による処理をする前のパラジウムの量×100」に従って算出した(後述する実施例2~6も同様。)。
【0072】
そして、得られた水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を用いて、次の方法によって、架橋性ゴム組成物を得た。すなわち、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体100部に、亜鉛華5部、ステアリン酸1部、SRFカーボンブラック(商品名「旭#50」、旭カーボン社製)70部、可塑剤(商品名「アデカサイザー C-8」、ADEKA社製)5部、置換ジフェニルアミン(商品名「ナウガード445」、ユニロイヤル社製、老化防止剤)1.5部、2 - メルカプトベンゾイミダゾール亜鉛塩(商品名「ノクラックMBZ」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)1.5部および、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(有機過酸化物)40%品(商品名「バルカップ40KE」、ハーキュレス社製)7部を配合し、混練することにより、架橋性ゴム組成物を得た。
【0073】
そして、得られた架橋性ゴム組成物を用いて、上記方法にしたがって、耐熱性試験、圧縮永久ひずみ試験の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
実施例2
水溶性高分子(A-1)の水溶液の使用量を25部から15部(水溶性高分子(A-1)換算で1.365部)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行うことで、固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を得た。得られた固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体について、原子吸光測定により、共重合体中のパラジウム量を測定したところ、パラジウム量は25重量ppmであった。また、水素化反応に使用したパラジウムの回収率は83重量%であった。そして、得られた水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を用いて、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
実施例3
水溶性高分子(A-1)の水溶液25部の代わりに、製造例4で得られた水溶性高分子(A-2)の水溶液25部(水溶性高分子(A-2)換算で2.275部)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行うことで、固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を得た。得られた固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体について、原子吸光測定により、共重合体中のパラジウム量を測定したところ、パラジウム量は8重量ppmであった。また、水素化反応に使用したパラジウムの回収率は95重量%であった。そして、得られた水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を用いて、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
実施例4
水溶性高分子(A-2)の水溶液の使用量を25部から15部(水溶性高分子(A-2)換算で1.365部)に変更した以外は、実施例3と同様の操作を行うことで、固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を得た。得られた固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体について、原子吸光測定により、共重合体中のパラジウム量を測定したところ、パラジウム量は15重量ppmであった。また、水素化反応に使用したパラジウムの回収率は90重量%であった。そして、得られた水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を用いて、実施例3と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
実施例5
水溶性高分子(A-1)の水溶液25部の代わりに、製造例5で得られた水溶性高分子(A-3)の水溶液25部(水溶性高分子(A-3)換算で2.275部)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行うことで、固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を得た。得られた固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体について、原子吸光測定により、共重合体中のパラジウム量を測定したところ、パラジウム量は4重量ppmであった。また、水素化反応に使用したパラジウムの回収率は97重量%であった。そして、得られた水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を用いて、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
実施例6
水溶性高分子(A-3)の水溶液の使用量を25部から15部(水溶性高分子(A-3)換算で1.365部)に変更した以外は、実施例5と同様の操作を行うことで、固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を得た。得られた固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体について、原子吸光測定により、共重合体中のパラジウム量を測定したところ、パラジウム量は7重量ppmであった。また、水素化反応に使用したパラジウムの回収率は95重量%であった。そして、得られた水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を用いて、実施例5と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
比較例1
製造例2で得られた固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体をそのまま使用した(すなわち、水溶性高分子の水溶液の添加を行わずに、固形状の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を得た)以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
表1に示すように、実施例1~6の結果より、水溶性高分子の水溶液を添加し、攪拌することにより、水素化ニトリルゴムから好適にパラジウムを分離することができることが確認できる。また、これにより得られる実施例1~6のゴム架橋物は、パラジウムを分離していない比較例1のゴム架橋物と比較して、耐熱老化性および耐圧縮永久歪み性が向上されたものであった。