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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】心拍出支援装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/289 20210101AFI20220414BHJP
   A61M 60/191 20210101ALI20220414BHJP
   A61M 60/32 20210101ALI20220414BHJP
   A61M 60/468 20210101ALI20220414BHJP
【FI】
A61M60/289
A61M60/191
A61M60/32
A61M60/468
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020539645
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034226
(87)【国際公開番号】W WO2020045654
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2018162211
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山海 嘉之
【審査官】安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-174714(JP,A)
【文献】特開平10-174713(JP,A)
【文献】特表2012-502679(JP,A)
【文献】特開2011-152449(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0194717(US,A1)
【文献】国際公開第2016/133203(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0368246(US,A1)
【文献】特表2013-502240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/00-60/468
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の心臓下部の外形に合わせてサイズ設定され、気体圧に応ずる可撓性膜からなるダイヤフラムと、
前記心臓下部が前記ダイヤフラムによって覆い包まれた際、それぞれ心臓の心房及び心室に対向して位置決めされるように、前記ダイヤフラムの内壁面の所定位置に貼着されている複数の圧迫用バルーンと、
前記ダイヤフラムに気体を圧入するように駆動する第1駆動ユニットと、
それぞれ前記圧迫用バルーンに流体を吐出または吸引するように駆動する第2駆動ユニットと、
前記ダイヤフラム及び前記各圧迫用バルーンが一体となって、かつ、先端に付されたマークを基準として、前記ダイヤフラムを前記各圧迫用バルーンの位置関係を規定して中空部に詰め込まれた管状継手とを備え、
前記第1駆動ユニットは、心房及び心室の位置に合わせて前記管状継手の先端に付された前記マークを位置合せして、当該管状継手の先端が対象者の胸部に介挿されて心臓下部に配置された状態で、前記ダイヤフラムに気体を圧入しながら前記管状継手の先端から当該ダイヤフラムを膨張させながら排出すると同時に心臓下部を覆い包むように可撓させ始め、前記各圧迫用バルーンが心臓の心房及び心室に位置合わせされた時点で前記ダイヤフラムへの気体の圧入を停止し、
前記第2駆動ユニットは、前記各圧迫用バルーンに流体を充填して拡張させる吐出動作と当該流体を排出して収縮させる吸引動作とを交互に繰り返しながら、心臓のポンプ機能を支援する
ことを特徴とする心拍出支援装置。
【請求項2】
前記ダイヤフラムにおいて、心臓下部を覆い包んだ際に当該心臓に直接触れない外周部位は、可撓性かつ非柔軟性をもつ素材で形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の心拍出支援装置。
【請求項3】
前記各圧迫用バルーンにおいて、
前記ダイヤフラムに対する当接部位以外の露出部分の全部または一部は、可撓性かつ非柔軟性をもつ素材で形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の心拍出支援装置。
【請求項4】
前記対象者の脈拍数及び動脈酸素飽和度を測定する動脈血測定部を備え、
前記第2駆動ユニットは、前記動脈血測定部の測定結果に応じて、前記各圧迫用バルーンに対する拍出力及び拍出周期をそれぞれ独立して調整する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の心拍出支援装置。
【請求項5】
前記対象者の心臓の疾患状態を検知する心臓状態検知部と備え、
前記第2駆動ユニットは、前記心臓状態検知部の検知状態に基づいて、前記各圧迫用バルーンを所定の拍出周期で所定の拍出力でそれぞれ独立して制御する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の心拍出支援装置。
【請求項6】
前記対象者の心臓下部の外形に合わせてサイズ設定された伸縮自在なメッシュ状素材を、X線撮像による環境下で冠動脈が隙間から露出するように当該心臓下部を覆い包んでおき、前記メッシュ状素材の表面に対してさらにダイヤフラムを覆い包むようにした
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の心拍出支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋梗塞により心拍出機能が著しく低下した患者に対して心臓を直接圧迫する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓疾患である心筋梗塞は、冠動脈の狭窄や閉塞によって心筋への血流が阻害され、心筋が壊死する疾患である。急性心筋梗塞患者は、自覚症状が生じてから約1時間で心停止することが多いため、迅速に全身への血流を再開させることが極めて重要である。
【0003】
従来、急性心筋梗塞患者への対処法としては、胸痛などの自覚症状を発見した時点救急搬送し、治療方針の決定、手術の準備、心臓血管外科専門医の手配へと順に対処していく。しかし、短時間での適切な処置は困難になる場合がある。
【0004】
全身への血流再開のための経皮的心肺補助法(PCPS:Percutaneous Cardiopulmonary Support)や開胸心マッサージによる血液循環を補助する処置がとられるケースも多い。この経皮的心肺補助法は、心臓血管外科専門医以外の装着手術可能であるが、補助流量の不足や、血栓及び下肢虚血など合併症を誘発する危険がある。また、開胸心マッサージは、高い心拍出効果があるが、力加減や拍出周期に相当の技能が必要とされる。
【0005】
このため、救急搬送直後の心筋梗塞患者の救命措置をする際に、心臓への外科的手術をすることなく心臓ポンプ機能を支援するシステムが要請されている。
【0006】
患者の心臓の実質的部分を包囲する閉じ込め構造と、心臓のポンプ周期の一部の間に、心臓の左心室に対して圧力を加える第1膨張ポケットと、心臓のポンプ周期の一部の間に、心臓の右心室に対して圧力を加える第2膨張ポケットとから成り、異なる圧力が左心室及び右心室に対して選択的に加えられるように、第1及び第2膨張ポケットにより与えられた圧力が独立して制御可能な心臓障害を治療する装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、イメージングシステムにより取得した心臓拡張期終了時の輪郭の一部に実質上形状が合致するようカスタマイズして作製された外殻の内側表面に、第1及び第2膨張式バルーンを定位置に取り付けておき、外殻が心膜空間に自然に位置決めされた状態で、第1及び第2膨張式バルーンが膨張して左心室自由壁及び右心室自由壁をそれぞれ圧迫する心臓圧迫システムが提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
さらに、ヒト患者の心臓の左心室及び右心室にそれぞれ外力を作用させるように適合された心臓接触器官について、液圧を保持するように適合された第1及び第2のチャンバの圧力制御を行うように、それぞれピストンの往復運動を動作させるようにしてポンプ機能を液圧システムを用いて働かせることにより、心臓のポンプ機能を改善する埋込み可能なデバイスが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2002-532189号公報
【文献】特表2011-500295号公報
【文献】特開2017-94157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1では、シリコン又はポリウレンタン等の生体適合性材料を用いた心臓の実質的部分を包囲する閉じ込め構造であり、可撓性はあるものの心臓に配置するためには、対象者の胸部を心臓幅以上の長さで開胸しなければならない。
【0011】
また特許文献2では、非干渉性サックである外殻を心臓に寄り添わせて配置するソフト固定であるが、この場合も特許文献1と同様に、対象者の胸部を心臓幅以上の長さで開胸しなければならない。
【0012】
さらに特許文献3では、心臓接触器官はセラミック材料またはカーボン材料からなり、患者の胸骨や肋骨等に固定するよう適合された固定部材とともに体内に埋め込むため、この場合も上述の特許文献1及び2と同様に、対象者の胸部を心臓幅以上の長さで開胸しなければならない。
【0013】
このように上述の特許文献1~3のいずれも、心臓ポンプ支援機能を有する装置を患者の心臓に配置する際、対象者の胸部を心臓幅以上の長さにわたって開胸しなければならず、対象者への身体的な負担が大きいという問題が残る。
【0014】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、対象者への身体的負担を格段と軽減して当該対象者の救命措置をとることができる心拍出支援装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するために本発明においては、対象者の心臓下部の外形に合わせてサイズ設定され、気体圧に応ずる可撓性膜からなるダイヤフラムと、心臓下部がダイヤフラムによって覆い包まれた際、それぞれ心臓の心房及び心室に対向して位置決めされるように、ダイヤフラムの内壁面の所定位置に貼着されている複数の圧迫用バルーンと、ダイヤフラムに気体を圧入するように駆動する第1駆動ユニットと、それぞれ圧迫用バルーンに流体を吐出または吸引するように駆動する第2駆動ユニットと、ダイヤフラム及び各圧迫用バルーンが一体となって、かつ、先端に付されたマークを基準として、ダイヤフラムを各圧迫用バルーンの位置関係を規定して中空部に詰め込まれた管状継手とを備え、第1駆動ユニットは、心房及び心室の位置に合わせて管状継手の先端に付されたマークを位置合せして、当該管状継手の先端が対象者の胸部に介挿されて心臓下部に配置された状態で、ダイヤフラムに気体を圧入しながら管状継手の先端から当該ダイヤフラムを膨張させながら排出すると同時に心臓下部を覆い包むように可撓させ始め、各圧迫用バルーンが心臓の心房及び心室に位置合わせされた時点でダイヤフラムへの気体の圧入を停止し、第2駆動ユニットは、各圧迫用バルーンに流体を充填して拡張させる吐出動作と当該流体を排出して収縮させる吸引動作とを交互に繰り返しながら、心臓のポンプ機能を支援するようにした。
【0016】
この結果、心拍出支援装置では、対象者の胸部を管状継手の直径程度の長さ分を切開しておき、当該切開部分に管状継手を挿入した状態で、外部からダイヤフラム内の気体圧を上げることにより、心臓下部をダイヤフラムで覆い包むと同時に各圧迫用バルーンを位置合わせすることができる。特に、心拍出支援装置では、医師等が対象者の胸部に管状継手を挿入する際にマークを基準にして心臓下部に位置させるだけで、ダイヤフラムへの気体充填後に各圧迫用バルーンを心臓の心房及び心室に容易に位置合わせすることができる。このように心拍出支援装置によれば、対象者の胸部を心臓幅以上の長さにわたって開胸する必要がなくて済み、対象者の身体的な負担を格段と軽減することができる。
【0017】
また本発明においては、ダイヤフラムにおいて、心臓下部を覆い包んだ際に当該心臓に直接触れない外周部位は、可撓性かつ非柔軟性をもつ素材で形成されている。この結果、心拍出支援装置では、各圧迫用バルーンに流体が充填された拡張した際に、ダイヤフラムの外周部位が心臓周辺を外方に向かって膨張するのを防いで、対象者の心臓周囲へ圧迫することを未然に回避することができる。
【0018】
さらに本発明においては、各圧迫用バルーンにおいて、ダイヤフラムに対する当接部位以外の露出部分の全部または一部は、可撓性かつ非柔軟性をもつ素材で形成されている。この結果、心拍出支援装置では、各圧迫用バルーンに流体が充填された拡張した際に、当該各圧迫用バルーン自体がダイヤフラムへの対向方向のみ膨張することにより、ダイヤフラムの外周部位が心臓周辺を外方に向かって膨張するのを防いで、対象者の心臓周囲へ圧迫することを未然に回避することができる。
【0019】
さらに本発明においては、対象者の脈拍数及び動脈酸素飽和度を測定する動脈血測定部を備え、第2駆動ユニットは、動脈血測定部の測定結果に応じて、各圧迫用バルーンに対する拍出力及び拍出周期をそれぞれ独立して調整する。この結果、心拍出支援装置では、対象者の血液の循環状態に合わせて各圧迫用バルーンを制御することができ、心臓の心房及び心室を収縮または弛緩させながら当該心臓のポンプ機能(血液を受け取る機能と血液を送り出す機能)の低下を抑えることが可能となる。
【0020】
さらに本発明においては、対象者の心臓の疾患状態を検知する心臓状態検知部と備え、第2駆動ユニットは、心臓状態検知部の検知状態に基づいて、各圧迫用バルーンを所定の拍出周期で所定の拍出力でそれぞれ独立して制御する。この結果、心拍出支援装置では、対象者の心臓の疾患状態に合わせて各圧迫用バルーンを制御することができ、心臓の心房及び心室を収縮または弛緩させながら当該心臓のポンプ機能の低下を抑えることが可能となる。
【0022】
さらに本発明においては、対象者の心臓下部の外形に合わせてサイズ設定された伸縮自在なメッシュ状素材を、X線撮像による環境下で冠動脈が隙間から露出するように当該心臓下部を覆い包んでおき、メッシュ状素材の表面に対してさらにダイヤフラムを覆い包むようにした。この結果、メッシュ状素材で覆い包まれた対象者の心臓下部に対して、ダイヤフラムを覆い包んで内部の空気圧を上げた際に、各圧迫用バルーンによる吐出動作及び吸引動作をしても、当該心臓下部の冠動脈が圧迫されることによる損傷発生を未然に回避することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように本発明によれば、対象者の身体的な負担を格段と軽減して当該対象者の救命措置をとり得る心拍出支援装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施の形態によるポンプ機能ユニットの構成図である。
図2図1のポンプ機能ユニットにおけるダイヤフラム及び各圧迫用バルーンを管状継手に詰め込む工程を示す略線図である。
図3図1のポンプ機能ユニットにおける心臓下部への装着状態の説明に供する略線図である。
図4】本実施の形態による心拍出支援装置の全体構成を示すブロック図である。
図5】本実施の形態による第2駆動ユニットの具体的構成を示す斜視図である。
図6】基礎実験における心臓モデルを駆動するシステムを示す略線的な説明図である。
図7図6に示す基礎実験の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面について、本発明の一実施の形態を詳細する。
【0026】
(1)ポンプ機能ユニットの構成
図1(A)及び(B)に示すように、ポンプ機能ユニット10は、対象者(例えば心筋梗塞により心拍出機能が著しく低下した患者等)の心臓下部の外形に合わせてサイズ設定された可撓性膜からなるダイヤフラム11と、当該ダイヤフラム11の内壁面の所定位置にそれぞれ貼着された4個の圧迫用バルーン12A~12Dと、ダイヤフラム11の端部と連通する空気供給路13と各圧迫用バルーン12A~12Dから引き出されたチューブ14A~14Dとを束ねて収容する管状継手15とから構成されている。
【0027】
管状継手15には、ダイヤフラム11及び各圧迫用バルーン12A~12Dが一体となって中空部に詰め込まれており、ダイヤフラム11内の空気圧を上げることにより、管状継手15の先端側から膨張しながら排出するようになされている。
【0028】
各圧迫用バルーン12A~12Dは、心臓下部がダイヤフラム11によって覆い包まれた際、それぞれ心臓の左右の心房及び心室に対向して位置決めされるように、ダイヤフラム11の内壁面の所定位置にそれぞれ貼着されている。
【0029】
ここでダイヤフラム11は、空気圧に応じて膜全体が可撓するが伸縮度合いが非常に低い(すなわち低弾性率)の材料を選定するようになされている。選定材料としては、生体為害性のない有機または無機の高分子繊維材料や高分子複合繊維材料が望ましい。生体為害性がなければ人造皮革や人工皮革、合成皮革などでも適用可能である。
【0030】
各圧迫用バルーン12A~12Dは、例えばシリコーンゴムから成形され、後述する第2駆動ユニット23A~23D(図4)からチューブ14A~14Dを介して吐出または吸引される水によって拡張または収縮するようになされている。
【0031】
実際にポンプ機能ユニット10では、図2(A)~(C)のように、予めダイヤフラム11及び各圧迫用バルーン12A~12Dを管状継手15の中空部に詰め込んでおく。その際、管状継手15の先端に付されたマークを基準として、当該管状継手15の中空部にダイヤフラム11を各圧迫用バルーン12A~12Dの位置関係を規定して詰め込んでおき、管状継手15の先端が心臓下部に配置される際、左右の心室の位置に合わせてマークを位置合せしておくようにする。
【0032】
この結果、医師等が対象者の胸部にポンプ機能ユニット10を装着すべく管状継手15を挿入する際に、マークを基準にして心臓下部に位置させるだけで、ダイヤフラム11への空気充填後に各圧迫用バルーン12A~12Dを心臓の左右の心房及び心室に容易に位置合わせすることができる。
【0033】
すなわちポンプ機能ユニット10において、対象者の心臓下部にダイヤフラム11及び各圧迫用バルーン12A~12Dが詰め込まれた管状継手15(図3(A))の先端が配置されると(図3(B))、後述する第1駆動ユニット22(図4)によりダイヤフラム11に空気が圧入され始めて心臓下部がダイヤフラム11で徐々に覆い包まれる(図3(C))。続いてダイヤフラム11が心臓下部を覆い包むとともに各圧迫用バルーン12A~12Dが心臓の左右の心房及び心室に位置合わせされた時点でダイヤフラム11への空気の圧入が停止される(図3(D))。
【0034】
なお、対象者の心臓下部にて、ダイヤフラム11が心臓下部を覆い包むとともに各圧迫用バルーン12A~12Dが心臓の左右の心房及び心室に位置合わせされる際に、上述のマークを基準に位置合わせしたにもかかわらず、実際の各圧迫用バルーン12A~12Dが左右の辛抱および心室に対して位置ずれしていた場合には、X線環境下で医師等が左右の心房および心室に対応する圧迫用バルーン12A~12Dの位置を調整するようにしてもよい。
【0035】
(2)心拍出支援装置の全体構成
図4に心拍出支援装置20の全体構成を示す。心拍出支援装置20において、装置全体の制御を司る制御部21と、対象者の心臓のポンプ機能を支援するポンプ機能ユニット10と、当該ポンプ機能ユニット10におけるダイヤフラム11及び各圧迫用バルーン12A~12Dをそれぞれ拡縮駆動する第1駆動ユニット22及び第2駆動ユニット23A~23Dとを有する。
【0036】
第1駆動ユニット22は、サーボモータからなる空気圧用アクチュエータ24と空気圧縮タンク25とから構成され、チューブ26を通じてダイヤフラム11に空気を圧入するように駆動する。
【0037】
実際に、第1駆動ユニット22は、管状継手15の先端が対象者の胸部に介挿されて心臓下部に配置された状態で、制御部21の制御に応じてダイヤフラム11に空気を圧入しながら管状継手15の先端から当該ダイヤフラム11を押し出すと同時に心臓下部を覆い包むように可撓させ始め、各圧迫用バルーン12A~12Dが心臓の左右の心室に位置合わせされた時点でダイヤフラム11への空気の圧入を停止する。
【0038】
第2駆動ユニット23A~23Dは、左心房用、左心室用、右心房用および右心室用として、それぞれ圧迫用バルーン12A~12Dに対応して設けられている。この第2駆動ユニット23A~23Dは、図5に示すように、サーボモータからなるアクチュエータ(左心房用、左心室用、右心房用、右心室用)30と内部に水が充填されている往復直線運動が可能なシリンダ31とから構成され、アクチュエータ30の角度制御に応じて拍出支援量を調整しながら、圧迫用バルーン12A~12Dに水を吐出または吸引するように駆動する。
【0039】
実際に、各第2駆動ユニット23A~23Dは、制御部21の制御に応じて各圧迫用バルーン12A~12Dに水を充填して拡張させる吐出動作と当該水を排出して収縮させる吸引動作とを交互に繰り返しながら、心臓の左右の心房及び心室の圧迫または弛緩の制御タイミングを調整して心臓のポンプ機能を支援する。
【0040】
各第2駆動ユニット23A~23Dは、対応する圧迫用バルーン12A~12Dに水を吐出するにあたって、一般の成人男性における心臓の血液循環の1回拍出量70[ml]以上の血液を繰り返し拍出することができるように、制御部21は、各アクチュエータ30を心臓の拍動に同期させてサーボ制御しながら、対応するシリンダ31からの水の吐出量及び吐出タイミングを調整するようになされている。
【0041】
また心拍出支援装置20には、管状継手15を対象者の心臓下部の近傍に挿入した際、当該対象者の皮膚表面を通じて非侵襲で測定可能な光学式の動脈血測定部40が設けられ、対象者の脈拍数及び動脈酸素飽和度を測定しながら、測定結果を制御部21に送出するようになされている。
【0042】
制御部21は、動脈血測定部から得られた測定結果に基づいて、各第2駆動ユニット23A~23Dを制御し、各圧迫用バルーン12A~12Dに対する拍出力及び拍出周期をそれぞれ独立して調整する。
【0043】
この結果、心拍出支援装置20では、対象者の血液の循環状態に合わせて各圧迫用バルーン12A~12Dを制御することができ、心臓の左右の心房及び心室を収縮または弛緩させながら当該心臓のポンプ機能(血液を受け取る機能と血液を送り出す機能)の低下を抑えることが可能となる。
【0044】
さらに心拍出支援装置20には、各圧迫用バルーン12A~12Dにおけるダイヤフラム11との貼着面に介挿されたフレキシブル電極を有する心臓状態検知部41が設けられ、対象者の心臓の疾患状態を検知しながら、検知結果を制御部21に送出するようになされている。
【0045】
制御部21は、心臓状態検知部41から得られた測定結果に基づいて、各第2駆動ユニット23A~23Dを制御し、各圧迫用バルーン12A~12Dを所定の拍出周期で所定の拍出力でそれぞれ独立して制御する。
【0046】
この結果、心拍出支援装置20では、対象者の心臓の疾患状態に合わせて各圧迫用バルーン12A~12Dの順番及び圧迫度合いを制御することができ、心臓の左右の心房及び心室を収縮または弛緩させながら当該心臓のポンプ機能の低下を抑えることが可能となる。
【0047】
(3)基礎実験及びその結果
実際に本発明による心拍出支援装置20を用いて、成人男性の1回拍出量である70[ml]以上の血液を繰り返し拍出支援可能か否かを、下記の実験により確認する。心臓モデルとして、実際の心臓の硬度を模擬し、大動脈と肺静脈以外の左心系の血管を閉塞し、左心系に水を充填して循環系を模倣したモデル系を構築すると共に、右心室内部に水が入ったバルーンを挿入したものを用意する。この心臓モデルの弁も、心臓圧迫時に肺静脈を閉じることにより逆流を防ぐように模擬されている。
【0048】
図6に示すように、実際にこの心臓モデル50において、大動脈50Aをチューブクリップ51で閉じ、左心系に水を充填し、心臓モデル50を拡張させる。続いて肺静脈50Bをチューブクリップ52で閉じ、大動脈50Aのチューブクリップ51を開放する。この状態において、本実施形態における心拍出支援装置20を適用して、心臓モデル50に各圧迫用バルーン12A~12Dを圧迫させて、心臓モデル50内の水を排出させる。
【0049】
この心拍出支援装置20を用いた心拍出支援動作を10回試行した結果、図7に示すように、心臓モデル50から排出された水量は、全ての回において70[ml]以上であった。この実験結果によれば、本実施形態の心拍出支援装置20を用いて、心臓モデル50のポンプ機能による拍出量を十分確保することが可能な性能を有することが確認できた。
【0050】
なお、心臓内部の流体が血液の場合、粘性が高く排出されにくいことが予想されるが、各圧迫用バルーンに供給する水量を増やすことにより対応可能であることも確認済みである。
【0051】
(4)本実施の形態における動作
以上の構成において、心拍出支援装置20では、心筋梗塞により心拍出機能が著しく低下した患者である対象者に対して、心臓下部に相当する胸部の一部をわずかに開胸した後、ダイヤフラム11及び各圧迫用バルーン12A~12Dが詰め込まれた管状継手を挿入して心臓下部に配置する。
【0052】
この状態において、制御部21は、第1駆動ユニット22を制御して、ダイヤフラム11に空気を圧入しながら管状継手15の先端から当該ダイヤフラム11を押し出すと同時に心臓下部を覆い包むように可撓させ始め、各圧迫用バルーン12A~12Dが心臓の左右の心房及び心室に位置合わせされた時点でダイヤフラム11への空気の圧入を停止する。
【0053】
続いて制御部21は、第2駆動ユニット23A~23Dを制御して、各圧迫用バルーン12A~12Dに水を充填して拡張させる吐出動作と当該水を排出して収縮させる吸引動作とを交互に繰り返しながら、心臓のポンプ機能を支援する。
【0054】
この結果、心拍出支援装置20では、対象者の胸部を管状継手15の直径程度の長さ分を切開しておき、当該切開部分に管状継手15を挿入した状態で、外部からダイヤフラム11内の空気圧を上げることにより、心臓下部をダイヤフラム11で覆い包むと同時に各圧迫用バルーン12A~12Dを位置合わせすることができる。
【0055】
このように心拍出支援装置20によれば、対象者の胸部を心臓幅以上の長さにわたって開胸する必要がなくて済むことから、心臓血管外科専門医以外の医師による執刀でも心臓への十分な血液量を確保することが可能となり、かつ対象者の心臓へのダメージを最小限に抑えることができる。
【0056】
(5)他の実施の形態
なお本実施の形態においては、ポンプ機能ユニット10のダイヤフラム11に左右の心房及び心室に対応する4個の圧迫用バルーン12A~12Dを貼着しておき、それぞれ独立して心臓の拍動に同期して駆動するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、左心用(左心房及び左心室)の圧迫用バルーンまたは右心用(右心房及び右心室)の圧迫用バルーンのいずれか一方だけを駆動させるようにしてもよい。この結果、例えば患者の容態が悪い時には両心の補助を行い、患者の容態が回復してくれば左心だけの補助に切り替えるなど、左心と右心の補助をそれぞれ独立に実行または停止させることができる。
【0057】
また本実施の形態においては、ダイヤフラム11を、空気圧に応じて膜全体が可撓するが伸縮度合いが非常に低い(すなわち低弾性率)の材料を選定するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ダイヤフラム11における心臓下部を覆い包んだ際に当該心臓に直接触れない外周部位は、可撓性かつ非柔軟性をもつ素材で形成するようにしてもよい。
【0058】
この結果、心拍出支援装置20では、各圧迫用バルーン12A~12Dに流体が充填された拡張した際に、ダイヤフラム11の外周部位が心臓周辺を外方に向かって膨張するのを防いで、対象者の心臓周囲へ圧迫することを未然に回避することができる。
【0059】
さらに本実施の形態においては、各圧迫用バルーン12A~12Dをシリコーンゴムのような可撓性かつ柔軟性をもつ素材から構成した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、各圧迫用バルーン12A~12Dにおけるダイヤフラム11に対する当接部位以外の露出部分の全部または一部を、可撓性かつ非柔軟性をもつ素材で形成するようにしてもよい。
【0060】
この結果、心拍出支援装置20では、各圧迫用バルーン12A~12Dに流体が充填された拡張した際に、当該各圧迫用バルーン12A~12D自体がダイヤフラム11への対向方向のみ膨張することにより、ダイヤフラム11の外周部位が心臓周辺を外方に向かって膨張するのを防いで、対象者の心臓周囲へ圧迫することを未然に回避することができる。
【0061】
さらに本実施の形態においては、通常の手術環境下にて、対象者の心臓下部に相当する胸部の一部をわずかに開胸した後、ダイヤフラム11及び各圧迫用バルーン12A~12Dが詰め込まれた管状継手15を挿入して心臓下部に配置するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、管状継手15を挿入する前に、対象者の心臓下部の外形に合わせてサイズ設定された伸縮自在なメッシュ状素材を用いて、当該心臓下部を覆い包んでおくようにしても良い。
【0062】
その際、メッシュ状素材の隙間が対象者の心臓下部の冠動脈を露出させるように、すなわち、メッシュ状素材のメッシュ生地が冠動脈を被覆しないように、X線撮像による環境下で医師等が手先でメッシュ状素材を取り扱う必要がある。この結果、メッシュ状素材で覆い包まれた対象者の心臓下部に対して、ダイヤフラム11を覆い包んで内部の空気圧を上げた際に、各圧迫用バルーン12A~12Dによる吐出動作及び吸引動作をしても、当該心臓下部の冠動脈が圧迫されることによる損傷発生を未然に回避することができる。
【0063】
また本実施の形態においては、各圧迫用バルーン12A~12D内の流体は非圧縮性流体である水を使用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、人体への安全性が確保可能な非圧縮性の流体であれば水以外の液体等を使用するようにしても良い。
【0064】
さらに本実施の形態においては、ダイヤフラム11に圧入する気体として空気を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、人体への影響がない気体であれば空気以外もヘリウムガス等を使用するようにしても良い。
【符号の説明】
【0065】
10…ポンプ機能ユニット、11…ダイヤフラム、12A~12D…圧迫用バルーン、13…空気供給路、14A~14D…チューブ、15…管状継手、20…心拍出支援装置、21…制御部、22…第1駆動ユニット、23A~23D…第2駆動ユニット、30…サーボモータ、31…シリンダ、40…動脈血測定部、41…心臓状態検知部、50…心臓モデル。
図1
図2
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図4
図5
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図7