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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】コンクリートバイブレータ
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/08 20060101AFI20220414BHJP
【FI】
E04G21/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017121309
(22)【出願日】2017-06-21
(65)【公開番号】P2019007153
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】391040397
【氏名又は名称】エクセン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】上垣 義明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 敏道
(72)【発明者】
【氏名】井上 和
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】スイス国特許発明第00480880(CH,A5)
【文献】実公昭14-003544(JP,Y1)
【文献】実開昭55-085450(JP,U)
【文献】特開昭64-010875(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0131323(US,A1)
【文献】中国実用新案第206016277(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の振動体に軸心直交方向の振動を発生させる振動発生機構が内装されたコンクリートバイブレータであって、
前記振動体の先端部に、複数の側面よりなる多角錐形状もしくは多角錐台形状が形成されるとともに、
該多角錐形状もしくは多角錐台形状の側稜各々に、該側稜の延在方向に延びる帯状の突状体が備えられ、
前記側面は、前記振動体の軸心に対して50度以上70度以下の範囲で下向きに傾斜する傾斜面であり、
前記突状体は、天端が複数の前記側面と平行で、隣り合う該突状体と前記先端部の前記側面とによって囲まれた振動伝達空間内に、コンクリートを拘束可能な水膜の膜厚を超える突出長さに形成されるとともに、拘束される前記コンクリートとの接触面積が、前記先端部の前記側面を介して前記振動伝達空間内に伝達される斜め下方向の振動を、前記突状体を介して伝達される軸線直交方向の振動が主成分となって損ねることのない大きさに設定され、
前記振動伝達空間内に拘束される前記コンクリートは、伝達される斜め下方向の振動を、前記振動伝達空間より斜め下方向に位置するコンクリートに伝達することを特徴とするコンクリートバイブレータ。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリートバイブレータにおいて、
前記突状体の、前記側稜に対する突出長さが、3mm以上10mm以下であることを特徴とするコンクリートバイブレータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコンクリートバイブレータにおいて、
前記多角錐形状もしくは多角錐台形状を構成する側面の数量が、3以上8以下であることを特徴とするコンクリートバイブレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの締固めに用いるコンクリートバイブレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、型枠内に打設されたコンクリートに、コンクリートバイブレータに備えられた棒状の振動体を挿入して立設させ振動を与えると、コンクリート中の余分な気泡が除去されるとともに、コンクリートが型枠や鉄筋の隅々に充填され、高品質なコンクリート硬化物を得られることが知られている。
【0003】
このような、棒状の振動体を備えるコンクリートバイブレータとして、例えば、特許文献1には、振動体の軸心周りに回転する偏心振動子を内装した振動体に丸棒状もしくは円錐状の棒状部材を採用するとともに、その側周面に切込み溝を造形して振動体の表面に凹凸を設け、振動体の表面とコンクリートとの間に生じるスリップを抑制する点が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、振動体の軸心周りに正逆回転可能な偏心ウェイトを、丸棒状の振動体に内装するとともに、振動体の側周面に螺旋状の凹凸を設け、偏心ウェイトを正回転させた際には、振動体の側周面と接触するコンクリートに対して斜め上方向の振動伝達力を発生させ、逆回転させた際には、振動体の側周面と接触するコンクリートに対して斜め下方向の振動伝達力を発生させる点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭64-010875号公報
【文献】特開2011-080247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述する特許文献1の発明は、振動体の側周面に設けた凹凸により、コンクリート中で立設する振動体が空転する挙動を抑制でき、コンクリートが硬練りである場合にも振動の伝達を横方向に進行させて、締固め範囲の拡大を図ることができる。一方、特許文献2の発明は、振動体の側周面に設けた螺旋状の凹凸により、コンクリートを型枠中に行き渡らせたい場合には右回転、コンクリート中の余分な気泡を排出したい場合には左回転と、作業に応じて効果的な振動を発生させることができる。
【0007】
しかし、特許文献1および2の振動体はいずれも、その先端部が滑らかな凸状の曲面に形成されている。このため、立設姿勢の振動体が横方向に振動すると、振動体の先端部に接触するコンクリートに伝搬される振動は、主に横方向の成分となる。したがって、コンクリートの締固め範囲を、振動体の先端部より下方まで十分に拡大することができない。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、コンクリートの締固め範囲を、コンクリートバイブレータに備えた振動体の挿入深さ以深まで拡大することの可能な、コンクリートバイブレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明のコンクリートバイブレータは、棒状の振動体に軸心直交方向の振動を発生させる振動発生機構が内装されたコンクリートバイブレータであって、前記振動体の先端部に、複数の側面よりなる多角錐形状もしくは多角錐台形状が形成されるとともに、該多角錐形状もしくは多角錐台形状の側稜各々に、該側稜の延在方向に延びる帯状の突状体が備えられ、前記側面は、前記振動体の軸心に対して50度以上70度以下の範囲で下向きに傾斜する傾斜面であり、前記突状体は、天端が複数の前記側面と平行で、隣り合う該突状体と前記先端部の前記側面とによって囲まれた振動伝達空間内に、コンクリートを拘束可能な水膜の膜厚を超える突出長さに形成されるとともに、拘束される前記コンクリートとの接触面積が、前記先端部の前記側面を介して前記振動伝達空間内に伝達される斜め下方向の振動を、前記突状体を介して伝達される軸線直交方向の振動が主成分となって損ねることのない大きさに設定され、前記振動伝達空間内に拘束される前記コンクリートは、伝達される斜め下方向の振動を、前記振動伝達空間より斜め下方向に位置するコンクリートに伝達することを特徴とする。
【0010】
本発明のコンクリートバイブレータは、前記多角錐形状もしくは多角錐台形状を構成する側面が、前記振動体の軸心に対して50度以上70度以下の範囲で下向きに傾斜する傾斜面であることを特徴とする。
【0011】
本発明のコンクリートバイブレータは、前記突状体の、前記側稜に対する突出長さが、3mm以上10mm以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明のコンクリートバイブレータは、前記多角錐形状もしくは多角錐台形状を構成する側面の数量が、3以上8以下であることを特徴とする
【0013】
上述する本発明のコンクリートバイブレータによれば、振動体の先端部に多角錐形状もしくは多角錐台形状を形成し、その側稜各々に突状体を設けることから、これら突状体にて区分けされた区画領域に、多角錐形状もしくは多角錐台形状を構成する側面を介して振動体の振動をコンクリートに伝達する振動伝達空間が形成される。
【0014】
これにより、振動体を立設状態にしてコンクリート中に挿入すると、振動伝達空間内に入り込んだコンクリートは、突状体によりその横方向の挙動を拘束される。また、多角錐形状もしくは多角錐台形状が振動体を構成する側面は、下向きに傾斜する傾斜面となっている。よって、これら側面は、振動体の横方向の振動を当該側面と直交する斜め下方向の振動として、振動伝達空間内のコンクリートに伝達する。
【0015】
したがって、振動体が振動すると、振動伝達空間内のコンクリートは、多角錐形状もしくは多角錐台形状の側面から斜め下方向の振動を伝達されるが、このとき、振動伝達空間内のコンクリートは横方向の挙動を拘束されている。このため、伝達された振動を横方向に分散させることなくそのまま、振動伝達空間より斜め下方向に位置するコンクリートに対して伝達し、進行させることができる。
【0016】
これにより、コンクリート中に立設された振動体の斜め下方向に、振動伝達空間による振動有効範囲が形成されることから、コンクリートバイブレータによるコンクリートの締固め範囲を、振動体の挿入深さ以深まで拡大することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コンクリートバイブレータに備える振動体の先端部に、多角錐形状もしくは多角錐台形状を形成するとともに、その側稜各々に突状体を設け、これら突状体にて区分けされた区画領域に、振動体の振動をコンクリートに伝達する振動伝達空間を設ける。これにより、振動伝達空間内に入り込んだコンクリートを介して振動体の振動を、振動伝達空間より斜め下方向に位置するコンクリートに伝達でき、コンクリートの締固め範囲を、振動体の挿入深さ以深まで拡大することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態におけるコンクリートバイブレータを示す図である。
図2】本発明の実施の形態における振動体の詳細図である。
図3】本発明の実施の形態におけるコンクリートバイブレータの締固め範囲を示す図である。
図4】本発明の実施の形態におけるコンクリートバイブレータの締固め範囲を確認する試験の様子を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における締固め範囲を確認する試験の結果を示すグラフである。
図6】本発明の実施の形態における圧縮強度試験用のコア供試体を採取するためのコンクリート硬化体を製造する様子を示す図である。
図7】本発明の実施の形態におけるコンクリート硬化体の使用材料および配合設計を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、コンクリートバイブレータに備える振動体の先端部に、多角錐形状もしくは多角錐台形状を形成するとともに、その側稜各々に突状体を設け、これら突状体にて区分けされた区画領域に、振動体の振動をコンクリートに伝達する振動伝達空間を設けることで、コンクリート中に立設される振動体の側周面からだけでなく、先端部に設けた振動伝達空間からもコンクリートに振動を伝達するものである。以下に、図1~7を参照しつつ、コンクリートバイブレータの詳細を述べる。
【0020】
図1で示すように、コンクリートバイブレータ1は、型枠等に打設されたコンクリートCに挿入されて立設される棒状の振動体2を備えている。なお、本実施の形態では、直径略50mmの振動体2を事例とするが、振動体2の軸径はこれに限定されるものではない。
【0021】
振動体2は、図2(a)の側面図で示すように、円筒状の本体部21と、本体部21の先端に同軸上に設置され、中空部を有する先端部22を備える。先端部22の中空部は、本体部21の中空部と連続しており、これら本体部21および先端部22に連続する中空部に、振動発生機構3が収納されている。なお、先端部22の詳細は後述する。
【0022】
振動発生機構3は、コンクリートC中で立設した状態の振動体2を横方向に振動させるための機構であり、例えば、振動体2の軸心に沿って設置される回転軸31と、回転軸31が貫通するようにして装着される偏心ウェイト32を備えている。
【0023】
偏心ウェイト32は、その重心位置が回転軸31に対して偏心する位置に配置されており、回転軸31に対する偏心ウェイト32の重量バランスを不均衡にしている。これにより、モーター(図示せず)を駆動して回転軸31を高速回転させると、振動発生機構3を内装する振動体2が軸心直交方向に振動するため、振動体2を立設させると横方向に振動することとなる。
【0024】
なお、振動発生機構3の構造は、上記の構成に限定されるものではなく、振動体2を軸心直交方向に振動させる構成を有していれば、いずれの構造を採用してもよい。
【0025】
このような振動発生機構3を内装した振動体2は、図1で示すように、本体部21の側周面と接触しているコンクリートCだけでなく、先端部22と接触するコンクリートCに対しても振動を伝達することができる。これは、先端部22に振動体2と同軸の5角錐状を形成し、その側稜に突状体221を設置して、コンクリートCに振動体2の振動を伝達するための振動伝達空間Pを形成したことによるものであり、この点が振動体2の大きな特徴である。
【0026】
具体的には、振動体2の先端部22は、図2(a)で示すように、振動体2の本体部21に対して同軸上に設置された底部を有する円筒体よりなり、その底部外表面が、図1および図2(b)の平面図で示すように、5つの側面222により構成される5角錐状に形成されている。そして、図2(a)(b)で示すように、5つの側面222各々の間に形成される側稜に、帯状の突状体221が設置されている。
【0027】
突状体221は、図1で示すように、5角錐に形成された側稜の延在方向に延び、かつ側稜から垂下され、その天端が5角錐を構成する側面222と平行に形成されている。このように形成された5体の突状体221により、先端部22の底部外表面は5つの区画領域に区割りされ、これら5つの区画領域各々に振動伝達空間Pが形成されている。
【0028】
振動伝達空間Pは、平面視で振動体2の軸心を中心として放射状に配置され、また、各々の内方には5角錐を構成する側面222が配置されている。このような構成の振動伝達空間Pは、振動体2を立設状態にしてコンクリートC中に挿入した際に入り込んだコンクリートCに対して、側面222を介して振動体2の振動を伝達する空間である。
【0029】
このような振動伝達空間Pを先端部22に備えた振動体2によるコンクリートCの振動有効範囲を、コンクリートCの挙動と併せて以下に説明する。
【0030】
まず、図3(a)で示すように、振動体2を、未硬化のコンクリートCに挿入して立設させると、振動体2の本体部21および先端部22各々の側周面とコンクリートCが接触する。また、先端部22の底部外表面に形成された5つの振動伝達空間P各々にもコンクリートCが入り込み、これらコンクリートCと先端部22の側面222とが接触する。
【0031】
このとき、本体部21および先端部22各々の側周面は、振動体2の軸心と平行な略垂直面をなす一方、先端部22の側面222は、図2(a)で示すように、振動体2の軸心に対して傾斜角αをもって斜め下方向を向く傾斜面をなす。この状態で振動発生機構3を作動させて、振動体2を振動させる。
【0032】
すると、図3(b)で示すように、本体部21および先端部22各々の側周面は、振動体2における横方向(振動体2の軸心直交方向)の振動を、側周面と接触するコンクリートCに対して方向を変えることなく伝達する。そして、これら横方向の振動は、さらに周辺のコンクリートCに進行するため、コンクリートC中に立設された振動体2の横方向の広い範囲に、本体部21および先端部22各々の側周面に起因する振動有効範囲が形成される。
【0033】
一方、5つの振動伝達空間P各々に配置されている側面222は、先にも述べたように、振動体2の軸心に対して下向きに傾斜する傾斜面をなす。したがって、側面222は、振動体2における横方向(振動体2の軸心直交方向)の振動を、側面222と直交する斜め下方向の振動として、これと接触する振動伝達空間P内のコンクリートCに伝達する。
【0034】
このとき、振動伝達空間P内のコンクリートCは、突状体221によりその横方向の挙動を拘束されている。したがって、側面222から振動伝達空間P内のコンクリートCに伝達された振動は、横方向に分散されることなくそのまま、振動伝達空間Pより斜め下方向に位置するコンクリートCに伝達され、進行する。
【0035】
そして、図2(b)で示すように、振動伝達空間Pは5つ存在し、これらは平面視で振動体2の軸心を中心として放射状に配置されている。したがって、5つの振動伝達空間P各々の斜め下方向に位置するコンクリートCに振動が伝達され、進行することにより、コンクリートC中に立設された振動体2の先端部22より下方には、斜め下方向に放射状に広がる振動有効範囲が形成される。
【0036】
このように、振動体2の先端部22に振動体2と同軸の5角錐状を形成し、その側稜に突状体221を設置して振動伝達空間Pを設けることで、コンクリートC中に立設された振動体2の下方には、5つの振動伝達空間Pに起因する、斜め下方向に放射状に広がる振動有効範囲が形成される。これにより、コンクリートバイブレータ1によるコンクリートCの締固め範囲を、振動体2の挿入深さ以深まで拡大することが可能となる。
【0037】
なお、側面222の数量は、3以上8以下が好ましい。これは、側面222が3つより少なくなると、平面視で振動体2を中心とした放射方向全方位に均等に振動を伝達することができない。一方、側面222が8より大きくなると、底部外表面が凸状の曲面に近似した形状になり、振動伝達空間P内における側面222各々の面積も小さくなるため、振動伝達空間P内のコンクリートCに対して、側面222から効率よく振動を伝達することができないからである。
【0038】
また、図2(a)で示すように、振動体2の軸線に対する側面222の傾斜角αは、50度以上70度以下が好ましい。これは以下の理由による。すなわち、側面222から振動伝達空間P内のコンクリートCに伝達される振動の方向は、側面222と直交する方向となる。このため、傾斜角αが50度より小さいと、振動方向が振動体2の軸線直交方向に近づいてしまい、振動伝達空間Pによる振動有効範囲を振動体2の先端部22より下方に形成することが困難となる。
【0039】
一方、傾斜角αが70度より大きいと、振動における側面222と直交する方向の成分が小さくなり、振動伝達空間P内のコンクリートCに対して振動を伝達しても、振動伝達空間Pより斜め下方向に位置するコンクリートまで、振動の伝達が進行しない恐れが生じる。
【0040】
さらに、突状体221の側稜に対する突出高さは、3mm以上10mm以下が好ましい。これは以下の理由による。すなわち、突状体221の突出高さが3mmより低いと、突状体221がコンクリートC中の細骨材および粗骨材に接触することにより早期に摩耗しやすいだけでなく、振動伝達空間P内のコンクリートCを拘束することができず、振動伝達空間Pより斜め下方向に位置するコンクリートCに振動を伝達できない事態が生じやすい。
【0041】
つまり、コンクリートC中で振動体2を振動させると、振動体2の周囲でいわゆる液状化現象を生じることが知られている。これにより、振動体2の周囲は粗骨材および細骨材が遠ざかる一方で、セメントペーストが引き寄せられ、次第に水膜が形成される。この状態において、突状体221の高さが水膜の膜厚より小さいと、振動伝達空間P内は水で満たされ、振動体2の先端部22における底部外表面はなめらかな凸面と同様の態様となる。
【0042】
すると、振動体2が横方向に振動すると、先端部22に接触するコンクリートCに伝達される振動は、主に横方向の成分となり、振動伝達空間Pより斜め下方向に位置するコンクリートCに振動を伝達できない。このため、突状体221に、少なくとも水膜の膜厚を超える高さを確保することを考慮し、突出高さを3mm以上としている。
【0043】
一方、突状体221の突出高さが10mmより高いと、突状体221と振動伝達空間P内のコンクリートCとの接触面積が大きくなる。すると、振動伝達空間P内のコンクリートCに伝達される振動は、突状体221を介して伝達される軸線直交方向の振動が主成分となり、側面222を介して伝達される斜め下方向の振動が損なわれる。このため、振動伝達空間Pより斜め下方向に位置するコンクリートCに、振動を伝達できない事態が生じやすい。
【0044】
上記のとおり、直径略50mmの振動体2において、先端部22は、3以上8以下の角錐状に形成され、軸心に対する側面の傾斜角は50度以上70度以下、突状体221の高さは3mm以上10mm以下が好ましく、最も好ましい形態としては、5角錐台状であって軸心に対する側面の傾斜角が60度、突状体の高さがは5mmである。
【0045】
上述する構成の振動体2を用いた際のコンクリートバイブレータ1の締固め範囲を確認するべく、以下の実験を行った。
【0046】
具体的には、図4で示すように、立方体形状をなす型枠4の内方にコンクリートCを打設するとともに、型枠4の平面視中央部にコンクリートバイブレータ1の振動体2を挿入して立設させる。また、型枠4の底部中央には、鉄板5を敷設するとともにその下方に加速度センサ6を内装しておく。
【0047】
そして、振動発生機構3を作動させて振動体2を振動させつつ、振動体2の先端部22の位置を深度方向に段階的に変更しながら、加速度センサ6にて振動加速度を計測した。なお、加速度センサ6による振動加速度の計測は、先端部22の深さ位置が底部から、15mm、50mm、100mm、150mmの4つの時点で行った。
【0048】
また、上記と同様の実験を、従来型の振動体を備えた従来型コンクリートバイブレータを用いて実施し、加速度センサ6にて計測される振動加速度を比較した。
【0049】
図5(a)を見ると、従来型コンクリートバイブレータを用いた場合の振動加速度は、先端部が型枠4の底部から15mm程度の深度に位置する時に100.8m/s2、50mm程度の深度に位置する時に23.4m/s2となる。そして、それ以上先端部を型枠4の底部から離間させても振動加速度に大きな変化がみられない様子がわかる。
【0050】
一方、図5(b)で示すように、振動体2に振動伝達空間Pを設けたコンクリートバイブレータ1を用いた場合、その振動加速度は、先端部22が型枠4の底部から15mm程度の深度に位置する時に210.68m/s2と、従来型コンクリートバイブレータを用いた場合と比較して2倍以上の振動加速度を検知している。
【0051】
また、先端部22が型枠4の底部から50mm程度の深度に位置する場合に至っては、74.7m/s2と従来型コンクリートバイブレータを用いた場合と比較して、3倍以上の振動加速度を計測している。
【0052】
上記のとおり、振動体2に設けた振動伝達空間Pによる振動有効範囲は、先端部22の直下近傍のコンクリートCにとどまらず、先端部22から50mm程度離間した位置にまで拡大されている。したがって、振動体2に振動伝達空間Pを設けたコンクリートバイブレータ1は、コンクリートCの締固め範囲を振動体2の挿入深さ以深まで拡大しているといえる。
【0053】
これにより、例えば、コンクリートCを高さ方向に打ち重ねる場合、一般的には、先行して打設された下層のコンクリートに対してコンクリートバイブレータ1の振動体2を、10cm程度貫入した状態となるように挿入する。このとき、振動体2に振動伝達空間Pを設けたコンクリートバイブレータ1を採用すると、その締固め範囲は、下層のコンクリートCに貫入された振動体2の深度位置からより深い位置まで拡大できる。したがって、打ち重ねられたコンクリートCの打ち継ぎ目に生じやすいコールドジョイントを抑制することが可能となる。
【0054】
上記の締固め範囲に係る確認実験と併せて、振動締固めを行ったコンクリートCの硬化体からコア供試体Bを採取し、圧縮強度試験を実施した。コア供試体Bを採取したコンクリート硬化体は、以下の手順により製造した。
【0055】
図6で示すように、立方体形状をなす型枠4の内方にコンクリートCを打設し、型枠4の平面視中央部にコンクリートバイブレータ1の振動体2を、挿入して立設させる。振動体2の挿入深さは、型枠4の底面から約150mmの深さ位置とし、振動締固めを行った後、材齢7日まで20℃で養生し、コンクリート硬化体を得た。
【0056】
上記のコンクリート硬化体から直径100mmで長さ約200mmの円柱体を、中心が型枠4の底面から約100mmの深さとなる位置より採取し、これをコア供試体Bとした。採取したコア供試体Bは、材齢28日まで標準養生を行った後、圧縮強度試験を行った。
【0057】
なお、コンクリート硬化体を製造するための使用材料およびコンクリートCの配合設計は、図7(a)(b)に示すとおりであり、圧縮強度試験は、JIS A 1107「コンクリートからのコア供試体の採取方法および圧縮強度試験方法」に準拠している。
【0058】
圧縮強度試験の結果、振動体2に振動伝達空間Pを設けたコンクリートバイブレータ1を用いて製造したコンクリート硬化体から得たコア供試体Bの圧縮強度は、39.0N/mm2であった。同様の試験を、従来型コンクリートバイブレータを用いて実施したところ、圧縮強度は37.1N/mm2であった。
【0059】
つまり、振動体2に振動伝達空間Pを設けたコンクリートバイブレータ1を用いると、振動伝達空間Pによる振動有効範囲が振動体2の下方に形成される。これにより、振動体2の挿入深さ以深に位置するコンクリートCは、十分締め固められた状態となるため、硬化後には、従来型コンクリートバイブレータを用いる場合と比較して、圧縮強度を5%程度向上できるものである。
【0060】
本発明のコンクリートバイブレータ1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0061】
例えば、本実施の形態では、振動体2の先端部22における底部外表面に、振動体2と同軸の多角錐形状を形成したが、必ずしもこれに限定されるものではない。側面222および突状体221が設置される側稜を備えていれば、例えば多角錐台形状に形成してもよい。また、これら多角錐形状および多角錐台形状は、振動体2を立設状態とした際に、側面222が下向きに傾斜する傾斜面となれば、振動体2と同軸に配置したものでなくてもよい。
【0062】
また、本実施の形態では、多角錐形状もしくは多角錐台形状を構成する側面222各々を平滑な平面に形成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、凹状の曲面やコンクリートCとの接触面に凹凸が形成された平面等、いずれに形成されたものであってもよい。
【0063】
さらに、本実施の形態では、突状体221の天端を側面222と平行にとしたが、例えば、振動体2の軸心から側周面に向けて、突状体221の高さを徐々に高くしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 コンクリートバイブレ―タ
2 振動体
21 本体部
22 先端部
221 突状体
222 側面
3 振動発生機構
31 回転軸
32 偏心ウェイト
4 型枠
5 鉄板
6 加速度センサ
B コア供試体
C コンクリート
P 振動伝達空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7