(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】強腐食性溶液の漏えい予兆検知方法
(51)【国際特許分類】
G01M 3/00 20060101AFI20220414BHJP
【FI】
G01M3/00 Z
(21)【出願番号】P 2017243626
(22)【出願日】2017-12-20
【審査請求日】2020-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】712003270
【氏名又は名称】大日機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】特許業務法人 日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹上 弘彰
(72)【発明者】
【氏名】今 肇
(72)【発明者】
【氏名】野口 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】久保 真治
(72)【発明者】
【氏名】直井 登貴夫
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-256166(JP,A)
【文献】特開2005-321239(JP,A)
【文献】特開2008-254017(JP,A)
【文献】特公平06-029796(JP,B2)
【文献】実公昭58-013723(JP,Y2)
【文献】特開2005-233737(JP,A)
【文献】米国特許第04776705(US,A)
【文献】特開平09-304190(JP,A)
【文献】登録実用新案第3177887(JP,U)
【文献】特開2013-040936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00~3/40
G01N 17/00
G01K 1/00~11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強腐食性溶液を貯留する溶液タンクまたは強腐食性溶液を移送する配管内の前記強腐食性溶液中に挿入された、
ガラスライニング鞘管内に配置された漏えいセンサーからの信号が遮断されたことを、前記溶液タンクまたは前記配管の外部に設けられた
漏えい検出器において検出することによって、前記強腐食性溶液の漏えいを報知する強腐食性溶液の漏えい予兆検知方法であって、
前記
漏えいセンサーが互いに並列に接続された複数本の
熱電対から成り、複数本すべての前記
熱電対からの信号が遮断されたことを前記
漏えい検出器において検出することによって、前記強腐食性溶液の漏えいを事前に検知することを特徴とする強腐食性溶液の漏えい予兆検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強腐食性溶液の溶液タンクや強腐食性溶液の溶液移送配管等に取り付けられたセンサー部を通して生ずる恐れのある溶液の漏えいを事前に検知する漏えい予兆検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体移送配管に取り付けられたセンサー部からの液体の漏えいを防止するための従来の典型的方法として、例えば特許文献1の
図4に示されているように、配管側面に開けられた細孔に所望のセンサーを挿入し、配管側面とセンサーの間にできる隙間を適切な漏えい防止材で埋めて密閉する手段が取られているが、センサー部自体を通しての漏えいについて言及されたものは見当たらない。
【0003】
また、本発明のように、センサーの断線を検知することで何らかの制御装置を作動させるものとして、例えば特許文献2に示されているようなエアバッグ起動装置が知られている。ここには、車の衝突による衝撃で特許文献2の
図3のスクイブ4a,4b(センサー部)が破壊断線したことを検知して、エアバッグを作動させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-15218号公報
【文献】特開2002-106800
【文献】特開平10-81193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、特許文献1を含め、溶液タンクや溶液移送配管からの漏えい防止の手段や、溶液タンクや溶液移送配管からの漏えい検知については、例えば特許文献2のように様々な検討がなされているが、センサー自体が破損した場合ついては何ら対策が取られていない。そのため、硫酸などの強腐食性溶液を取り扱う溶液タンクや溶液移送配管において、ガラス管温度センサー等が取り付けられている場合、センサー自体が破損すると、破損したセンサー部を通して溶液が外部に漏えいし、二次被害を引き起こす恐れがあった。
【0006】
また、特許文献3では、上位概念としては本発明と同様にセンサー自体の破壊を検知して、その検知信号を基に次に行う対策を講じている。しかし、これは溶液タンク等からの溶液の漏えいを対象にしていないため、機械的に強大な力がセンサー部に加わって、センサー本体が機械的に破壊された場合を前提にしている。このため、溶液タンクや溶液移送配管からの溶液の漏えいのように、流体の繰り返して生ずる振動等による外力程度では、外筒のガラス管は破壊されても、センサー自体が短時間に致命的な損傷を受け、断線することは考えられない。したがって、特許文献2のような技術思想を、そのまま溶液タンクや溶液移送配管からの溶液漏えい検知方法に適用することは困難である。
【0007】
従って、本発明の目的は、ガラスライニング鞘管に挿入されたセンサー部を備えた、強腐食性溶液を貯留する溶液タンクや強腐食性溶液を移送する配管において、前記センサー部を通して生ずる恐れのある前記溶液タンクや前記配管からの前記強腐食性溶液の漏えいを、溶液が外部に漏出する前に短時間に検知する漏えい予兆検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの観点に係る強腐食性溶液の漏えい予兆検知方法は、強腐食性溶液を貯留する溶液タンクまたは強腐食性溶液を移送する配管内の溶液中に挿入された、センサー部からの信号が遮断されたことを、前記溶液タンクまたは配管の外部に設けられたセンサー本体において検知することによって、前記センサー部を通して生ずる恐れのある強腐食性溶液の漏えいを溶液が外部に漏出する前に報知することを特徴とする。
【0009】
このような構成をとることにより、例えば、溶液の液体振動によってガラスライニング管が破損した際、そのガラスライニング管に挿入された熱電対等のセンサー部が、高腐食性溶液に曝されて短時間に断線するので、高腐食性溶液が外部に漏えいする前に、漏えい防止の対策が取れる。
【0010】
さらに、本発明の別な観点での強腐食性溶液の漏えい予兆検知方法は、上述のような構成を持つものにおいて、センサーを、前記センサー部と該センサー部に接続された前記センサー本体を一組とした、複数組のセンサーから成るように構成し、すべての前記センサー本体からの信号が遮断されたときのみ、前記報知を行うことを特徴とする。このようにすることで、センサー部の断線とセンサー本体の故障とを識別でき、強腐食性溶液の漏えいを、正確に予兆検知することができる。
【0011】
さらに、本発明の別な観点での強腐食性溶液の漏えい予兆検知方法は、ヒーターによって加熱される強腐食性溶液を貯留する溶液タンク内の溶液内に挿入された、腐食により断線し易い細線から成る熱電対からの信号が遮断されたことを、前記溶液タンクまたは配管の外部に設けられたセンサー本体において検知することによって、前記熱電対を通して生ずる恐れのある強腐食性溶液の漏えいを溶液が外部に漏出する前に報知すると共に、前記ヒーターの加熱を停止させることを特徴とする。報知だけでなく、ヒーター加熱も停止するのは一刻も早く溶液温度を降下させて、溶液の腐食性を弱めるためである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶液タンクや溶液移送配管という密閉された内部にある、例えば熱電対等のセンサー部の破損を検知しているため、強腐食性溶液の外部漏出を防止することができる。これまでも非破壊検査等によって、溶液タンクや配管の応力腐食割れを事前に検知する方法はあったが、本発明のようにセンサー部からの漏えいに着目したものはなく、かつセンサー部からの漏えいを、溶液タンクや溶液移送配管という密閉された内部にあるセンサー部の破損を検出することで、溶液タンクや配管から溶液の漏えいを事前に検知する方法は新規であり、強腐食性溶液の漏えいという重大事故を未然に防止できることから本発明の効果は極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】温度センサーの強腐食性溶液タンクへの取り付け方法を示す概略図。
【
図2】本発明に係る強腐食性溶液の漏えい予兆検知方法の説明図。
【
図3】制御盤において実行される本発明の方法の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照して、本発明について詳細に説明する。
【0015】
図1は、強腐食性溶液タンクに設けられる温度センサーの取り付け方法を説明するための概略図である。
図1の紙面に向かって右側に示された図は、高温の強腐食性溶液100を貯留する溶液タンク10と、その溶液タンク10の側面に取り付けられた取付ノズル20の配置構成を示している。溶液タンク10と取付ノズル20は、強度を保つために炭素鋼等の金属で構成されており、溶液タンク内に貯留された強腐食性溶液100による腐食を防止するため、その内面にガラスライニング21が被覆されている。取付ノズル20は、
図1の紙面に向かって左側に示された鞘管30が挿入できるように円筒管形状になっている。鞘管30は、上記円筒管形状部に挿入され、溶液タンク10内の腐食性溶液100の温度を測定する。
【0016】
本実施例においては、
図1の紙面に向かって左側に示されるように、鞘管30の内部には、腐食性溶液100の温度を測定するための、少なくとも1本の熱電対31が設けられている。鞘管30は、温度を測定する熱電対31を備えた鞘部と溶液タンク10と接続するための取付フランジ部32から構成され、腐食防止のためガラスライニング33により被覆されている。熱電対の外部への取出口には、熱電対31を通して腐食性溶液100が漏えいする場合を想定し、長時間の腐食に耐えるだけの厚みを有するステンレス等の金属製キャップ40が設けられている。
【0017】
少なくとも1本の熱電対が挿入されているガラスライニングの鞘管30は、高温の強腐食性溶液100に繰り返して発生する液体振動又は腐食によって、破損する恐れがある。そして、万一、鞘管30が破損した場合には、温度センサー50のセンサーである熱電対31を通して、高温の腐食性溶液100が溶液タンク10の外部に漏れ出す恐れがある。
【0018】
漏れ出そうとする高温の腐食性溶液100は、厚みのあるステンレス製キャップ40によって一定時間は遮断することができるが、適切な処置をしない限りステンレス製キャップ40の腐食が進行し、いずれは溶液タンク外部へ漏出してしまう。そこで、鞘管30が破損したとき、その破損を短時間で検出し、溶液タンク10外部への漏えいを溶液が外部に漏出する前に検知することが非常に重要である。
【0019】
次に、
図2及び
図3を用いて、本発明に係る強腐食性溶液の漏えい予兆検知方法の手順について、詳細に説明する。
図2は、本方法を実施するためのシステム構成を示し、
図3は、
図2の制御盤において実行される鞘管破損を溶液が外部に漏出する前に検知する手順を説明するためのフローチャートを示している。
【0020】
図2において、符号60は漏えい検出器であり、61は漏えいセンサーである。また、符号70は、溶液タンク10内の強腐食性溶液100を加熱沸騰させるためのヒーターであって、71は、溶液タンク10自体を外部から加熱するための外部ヒーターである。また、符号80は、漏えい検出器60から入力信号や、熱電対51やヒーター70、71への制御信号を処理するためのコンピュータシステムを含む制御盤である。次に、制御盤80で行われる処理内容について、
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0021】
なお、
図2の実施例で言う漏えいセンサー61は、上述の少なくとも1本の熱電対であって、言わば漏えい検知機能付き耐食温度センサーである。換言すれば、漏えいセンサー61が1本の熱電対から成る場合には、その熱電対からの信号が遮断された時点で漏えいが起こることを予測し、漏えいセンサー61が複数本の熱電対から成る場合には、それらすべての熱電対からの信号が遮断された時点で漏えいが起こることを予測できるようになっている。
【0022】
図3のフローチャートは、漏えいセンサー61が複数本の熱電対から構成されている場合の動作フローを示している。熱電対31の断線が検知されると、鞘管30が破損している可能性があるため、内部ヒーター70、外部ヒーター71を停止させる。その後、同一鞘管30の中に複数入れている他の熱電対も同様に断線すれば、鞘管30が破損していると判断でき、溶液タンク10内の溶液を抜き出すことにより腐食性溶液100が外部に漏出することを防ぐ。しかし、他の熱電対が破損しない場合、熱電対の故障の可能性があるため、点検等により鞘管破損でないことを確認し、内部ヒーター70、外部ヒーター71を起動させる。
【0023】
漏えいセンサー61が1本の熱電対から構成されている場合の動作フローは、
図3のように故障あるいは鞘管破損の判定を行わず、熱電対断線後、ヒーターを停止し、即座に溶液の抜き出しを行う。
【0024】
以上の実施例では、ガラスライニング鞘管に挿入された熱電対型温度センサーを例に取って説明したが、光センサーや磁気センサー等であっても、センサーとその出力信号線がガラスライニング鞘管に挿入され、かつその出力信号線が強腐食性溶液に接触した際に極めて短時間に腐食断線するような材質の線の場合には、本発明の方法を適用できる。
【符号の説明】
【0025】
10…溶液タンク
20…取付ノズル
21…ガラスライニング
30…鞘管(ガラスライニング管)
31…熱電対
32…取付フランジ
33…ガラスライニング
40…金属キャップ
60…漏えい検出器
61…漏えいセンサー
70…内部ヒーター
71…外部ヒーター
80…制御盤
100…強腐食性溶液